説明

インフルエンザワクチン組成物を生成する方法

インフルエンザワクチンとして適したインフルエンザウイルスの生産を最適化する方法および組成物を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インフルエンザワクチン組成物を生成する方法に関する。
【0002】
関連出願との相互参照
本出願は、「インフルエンザワクチン組成物を生成する方法」と題された、2003年2月25日出願の米国特許仮出願第60/450,181号に基づく利益を要求する。この先行出願を、あらゆる目的に対して、参照により全体として組み込む。
【背景技術】
【0003】
発明の背景
毎年、多数の個体が、異なる株及び型のインフルエンザウイルスに感染しているので、多様で、しかも進化しつつあるインフルエンザ株に対するワクチンは、地域医療の見地からだけでなく、商業的にも重要なものである。乳児、高齢者、適切な医療を受けていない人々、および免疫無防備状態の人々は、そのような感染によって死亡する危険が特に高い。インフルエンザ感染症の問題を難しくしているのは、新規のインフルエンザ株が容易に進化し、そのため、新規ワクチンの生産が恒常的に必要とされているということである。
【0004】
そのような様々なインフルエンザウイルスに特異的な防御的免疫反応を生み出すことのできる多数のワクチンが、50年を超える期間にわたって産生されており、それらには、例えば、全ウイルスワクチン、ウイルス成分ワクチン、表面抗原ワクチン、および弱毒生ウイルスワクチンが含まれる。しかし、これらのワクチンタイプの適切な製剤は、いずれも全身性免疫反応を引き起こすことができるが、弱毒生ウイルスワクチンは、気道での局所粘膜免疫も刺激できるという利点を有する。したがって、弱毒生ウイルスを含むワクチンであって、しかも、迅速かつ経済的に生産することもでき、さらに、容易に貯蔵/輸送できるワクチンは、非常に望ましいものである。
【0005】
これまでのところ、市販されているすべてのインフルエンザワクチンが、孵化鶏卵中で増殖されている。鶏卵中で、インフルエンザウイルスは良く増殖するが、ワクチン生産がそのような卵の利用可能性に依存している。卵の供給を組織化しなければならず、そして、ワクチン生産用の株を、次の流感時期の何ヶ月も前に選択しなければならないので、このアプローチでは、柔軟性が制限されることがあり、しばしば生産および配給に遅れと不足とがもたらされる。したがって、鶏卵中におけるワクチン生産の時間内処理量を増大させ、かつ/またはその生産量を増大させるいかなる方法も、非常に望ましいものである。
【0006】
細胞培養中でインフルエンザウイルスを生産するシステムも近年に開発されている(例えば、Nicholsonら(編集)、「Textbook of Influenza」中、324〜332頁、Furminger、「Vaccine Production」;Cohen&Shafferman(編集)、「Novel Strategies in Design and Production of Vaccines」中、141〜151頁、Mertenら(1996)、「Production of influenza virus in cell cultures for vaccine preparation」を参照)。鶏卵中でのワクチン生産に関する多くの困難を除去するものではあるが、細胞培養中で、すべての病原性のインフルエンザ株が良好に増殖するわけではなく、また、確立されている組織培養法で生産できるわけでもない。さらに、望ましい特性、例えば、弱毒性、温度感受性、および寒冷適応性を備え、かつ弱毒生ワクチンの生産に適した多数の株に関して、確立されている方法を用いて組織培養中で増殖させるのに未だに成功していない。したがって、細胞培養中におけるワクチン生産の時間内処理量を増大させ、かつ/またはその生産量を増大させるいかなる方法も、非常に望ましいものである。
【発明の開示】
【0007】
本発明者ら、およびその共同研究者らによって、ワクチン生産用のインフルエンザウイルス産生に関して、かなりの研究がなされており、例えば、「Multi-Plasmid System for the Production of Influenza Virus」、2002年4月26日出願の米国特許出願第60/375,675号、2003年4月25日出願のPCT出願第PCT/US03/12728号、および2003年4月25日出願の米国特許出願第10/423,828号などを参照されたい。本発明は、ワクチン組成物生産用のそのようなウイルス、および他のインフルエンザウイルスの生産を増強/最適化(量/品質および速度の両方に関して)する方法を提供する。本発明の諸態様は、伝統的な鶏卵ワクチン生産様式、および新規の細胞培養ワクチン生産様式(および、併用システム)に適用でき、以下を総覧することによって明らかになるであろう多くの他の利益を含むものである。
【0008】
発明の概要
本発明は、インフルエンザウイルス(例えば、A型ウイルス株またはB型ウイルス株など)を、卵を介して継代させるステップと、ウイルスを加熱するステップと、膜を通してウイルスを濾過するステップとによって1つまたは複数のインフルエンザウイルス組成物を生成する方法の実施形態を提供する。そのような実施形態の一部では、組成物に、孔径が0.2マイクロメーターから約0.45マイクロメーターまでの範囲にあるマイクロフィルターを通過させることが濾過に含まれる。さらに、様々な実施形態で、そのような実施形態における加熱温度が、任意選択で約28℃〜約40℃以上を含み、一方、一部の実施形態では、この温度が31℃、または約30℃〜約32℃を含む。そのような実施形態における加熱は、濾過の前もしくは濾過中に、または濾過の前および濾過中に行われてもよく、約50分間から約100分間まで、約60分間から約90分間まで、または約60分間を含んでもよい。本発明は、そのような方法で生成されたインフルエンザウイルス組成物(上記組成物がワクチン組成物である場合も含む)も提供する。
【0009】
他の態様では、本発明は、卵を介してインフルエンザウイルスを継代させるステップと、ウイルスを加熱するステップと、ウイルスを精製するステップとによって、1つまたは複数のインフルエンザウイルス組成物を生成する方法を含む。そのような実施形態は、膜を通して組成物を濾過することを含んでもよく、上記組成物には、ワクチン組成物が含まれ、そのような実施形態によって生産された実際のワクチン組成物も含まれる。
【0010】
関連した態様では、本発明は、継代中に揺動されている卵を介してインフルエンザウイルスを継代させることによって、1つまたは複数のインフルエンザウイルス組成物を生成する方法を含む。場合によっては、揺動させることには、卵を1分間に約1サイクル、任意選択で約12時間傾斜させることが含まれるそのような実施形態は、A型インフルエンザウイルス株、および/またはB型インフルエンザウイルス株を用いてもよく、かつ、任意選択で、そのような揺動された卵のTCID50が、揺動されかかった卵を介して継代された同じインフルエンザウイルスのTCID50より、少なくとも0.4log大きいことを含む。そのような実施形態によって生成されるウイルス組成物も、本発明の特徴であり、これには上記組成物がワクチン組成物であるものも含まれる。
【0011】
本発明は、インフルエンザウイルスのゲノムを含む複数のベクターを(ウイルスの複製を補助することができる)宿主卵の集団に導入するステップと、卵の集団を35℃以下の温度で培養するステップと、複数のインフルエンザウイルスを回収するステップとによって、1つまたは複数のインフルエンザウイルス組成物を生成する(例えば、そのようなものの再集合に偏向を与える)方法も含む。そのようなウイルスは、例えば、弱毒化ウイルス、寒冷適応ウイルス、温度感受性ウイルス、または弱毒寒冷適応温度感受性ウイルスを含んでもよく、例えば、B型インフルエンザウイルスも含んでもよい。そのような実施形態によって生成されたウイルス組成物も、本発明の特徴である(ワクチン組成物も含まれる)。そのような態様は、任意選択で、野生型のHAおよびNA遺伝子を含有するインフルエンザウイルスを得るためにさらに選別することを含む(例えば、複数のウイルスを、非野生型のHAおよびNA遺伝子に特異的な1つまたは複数の抗体とインキュベートすることによって(例えば、1つまたは複数の卵の中でこれを行う))。このようにして生成された、ワクチン組成物を含めたウイルス組成物も、本発明の特徴である。
【0012】
本発明の他の態様は、インフルエンザウイルスのゲノムを含む複数のベクターを、(インフルエンザウイルスの複製を補助することができる)宿主卵の集団に導入するステップと、宿主卵の集団を35℃以下の温度で培養するステップと、複数のインフルエンザウイルスを回収するステップと、複数のウイルスを、非野生型のHAおよびNA遺伝子に特異的な1つまたは複数の抗体とインキュベートするステップと、(揺動されている)卵を介してウイルスを継代させるステップと、ウイルスを加熱し、膜を通してウイルスを濾過するステップとによって、1つまたは複数のインフルエンザウイルス組成物を生成することを含む。そのような方法で生成されるウイルスも、本発明の特徴である(ワクチン組成物も含まれる)。
【0013】
本明細書に具体化された様々な方法では、インフルエンザウイルス組成物を、蛍光焦点アッセイを用いてアッセイしてもよい。そのようなウイルス組成物は、任意選択で、約10%から約60%の未分画の正常な尿膜腔液(および、任意選択で、約1%から約5%のアルギニン)を含む。正常な尿膜腔液を実質的に含まない緩衝液を用いて、これらの組成物を希釈してもよい。これらの組成物は、本発明において、場合によって、ゼラチンを実質的に含まないものである。これらの組成物は、約2℃〜約8℃までの間で安定であるか、または4℃で安定なものである。本明細書における一部の組成物および方法では、ウイルスがインフルエンザウイルスであり、一方、本明細書におけるさらに他の組成物および方法(例えば、マイクロフィルター濾過、および/または限外濾過、および/または加熱、および/または揺動を行うもの)では、任意選択で、ウイルスが、例えば非インフルエンザウイルス(例えば、卵における培養で生成されるウイルス、例えば、ミクソウイルス、パラミクソウイルス、RSV、ムンプスウイルス、麻疹ウイルス、センダイウイルス、黄熱病ウイルス、pIVなど)を含む。したがって、また、本発明の方法と組成物もそのような他のウイルスおよび/または非インフルエンザウイルスに適切である。
【0014】
さらに他の態様では、本発明は、卵を介してインフルエンザウイルス継代させるステップと、ウイルスを加熱するステップと、膜を通してウイルスを濾過するステップとによって生成されるインフルエンザウイルス組成物であって、上記組成物が第1のTCID50を有し、上記第1のTCID50が、第2のTCID50より大きく、第2のTCID50が卵を介してウイルスを継代させるステップと、ウイルスを加熱するステップと、膜を通してウイルスを濾過するステップとによって生成されたものではないインフルエンザウイルスによるものである、インフルエンザウイルス組成物を含む。
【0015】
本発明の他の態様は、卵を介してインフルエンザウイルスを継代させるステップによって生成されたインフルエンザウイルス組成物であって、上記継代中に上記卵が揺動され、上記組成物は、第1のTCID50を有し、上記第1のTCID50が第2のTCID50より大きく、上記第2のTCID50は、継代中に揺動される卵を介してインフルエンザウイルスを継代させるステップによって生成されたものではないインフルエンザウイルスによるものである、インフルエンザウイルス組成物を含む。
【0016】
本発明のさらに他の実施形態は、インフルエンザウイルスのゲノムを含む複数のベクターを、インフルエンザウイルスの複製を補助できる宿主卵の集団に導入すること、宿主卵の集団を35℃以下の温度で培養するステップと、複数のインフルエンザウイルスを回収するステップとによって生成されるインフルエンザウイルス組成物であって、上記組成物は、第1のTCID50を有し、上記第1のTCID50が第2のTCID50より大きく、上記第2のTCID50がインフルエンザウイルスのゲノムを含む複数のベクターを、インフルエンザウイルスの複製を補助できる宿主卵の集団に導入するステップと、宿主卵の集団を35℃以下の温度で培養するステップと、複数のインフルエンザウイルスを回収するステップとによって生成されたものではないインフルエンザウイルスによるものである、インフルエンザウイルス組成物を含む。
【0017】
本発明のこれらおよび他の目的および特徴は、添付図と併せて、以下の詳細な説明を読めば、より完全に明らかになるであろう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
詳細な説明
本発明は、ワクチン生産/使用に適したウイルスおよびウイルス組成物生産の時間内処理量および産出量を増大させる方法および組成物を含む。例えば、本明細書により詳細に記載する通り、ウイルス産生における所望の再集合体の選別、温度調整/濾過、揺動、抗体選択、力価アッセイ、および多くの別の特性に関する方法および組成物が含まれる。
【0019】
本明細書に記載の様々なステップをすべて行う必要も、また、それらが同一の生産系列に存在している必要もないことが当業者には理解されよう。したがって、一部の好ましい実施形態では、表1に概要を示すように、本明細書に記載のすべてのステップおよび/または組成物が実施されるか、または存在するが、他の実施形態では、任意選択で、1つまたは複数のステップが、例えば、省略されるか、(範囲、順序、配置などが)変更されるか、または同様の処置がされる。
【0020】
本明細書に記載のウイルス産生の方法および組成物の基本的な概要を、表1に示す。全体を通して強調されるべきであるが、ここでも、表1に記載のものなど、本発明の個々のステップは、必ずしも相互に依存しない。例えば、一部の実施形態では、適当な再集合ウイルス溶液を含有する卵をインキュベーション中に揺動させる(下記参照)が、他の実施形態では揺らさないこと;ステップ10における加熱および濾過は、ステップ13における汎用試薬の使用とは独立したものであることなどが挙げられる。本発明におけるステップ/方法/組成物のいずれの一つの存在も、本発明におけるいずれの他のステップ/方法/組成物の必要な存在に依存するものではない。したがって、本発明の様々な実施形態は、これらのステップの1つのみを含むことも、全ステップを含むことも、また、これらのステップの様々な組合せすべてのいかなるものを含むこともある。
【0021】
典型的な実施形態が、当技術分野で公知のステップ/方法/組成物、例えば、ウイルスを含有している卵の検卵、ウイルスによる卵の接種などを含むことも当業者には理解されよう。したがって、当業者ならば、適当なウイルス、ウイルス溶液、組成物などを生成する、そのような公知のステップに適切な条件、サブステップ、ステップの詳細などを容易に決定することができる。個々のステップについて、以下により詳細に記述する。例示的実施形態で用いられる主要ステップの一覧として、表1を参照されたい。
【0022】
論考および記述を容易にするために、本発明の様々なステップ、例えば、様々な方法および組成物は、4つのおおまかなグループを含むもの、またはそれらに分類されるものと考えることができる。第1のグループは、同時感染、再集合、再集合体の選別、および再集合体のクローニングなどの態様を含む(例えば、それによって、おおよそ表1のステップ1から3までと対応している)。第2のグループは、再集合体の精製および増殖などの態様を含み、おおよそ表1のステップ4から6までに対応すると考えることができる。第3のグループは、卵における再集合体のさらなる増殖と、そのようなウイルス溶液の収集、および収集されたウイルス溶液の精製とを含む(例えば、おおよそ表1のステップ7から11までに対応している)。第4のグループは、収集されたウイルス溶液の安定化およびウイルス溶液の力価/無菌性アッセイを含む(例えば、おおよそ表1のステップ12から15に対応している)。しかし、本発明の態様を上記の4つの一般的範疇に分類するのは、もっぱら、説明および組織化を行うことが目的であって、ステップの相互依存性のいかなる推論も行うべきではないことを理解されたい。
【0023】
ステップの詳細な説明
論考および記述を容易にするため、本発明の様々なステップを、上述の通り、4つの広いグループを含むものとして考えることができる。第1のグループは、同時感染、再集合、再集合体の選択、および再集合体のクローニングなどの態様を含む(例えば、それによって、表1におけるステップ1から3に対応している)。第2のグループは、再集合体の精製および増殖などの態様を含み、表1におけるステップ4から6にほぼ対応すると考えることができる。第3のグループは、卵で再集合体をさらに増殖させること、採取すること、およびそのような採取されたウイルス溶液を精製することを含む(例えば、表1におけるステップ7から11にほぼ対応している)。第4のグループは、採取されたウイルス溶液の安定化と、ウイルス溶液の効力/無菌性アッセイを含む(例えば、表1におけるステップ12から15にほぼ対応している)。しかし、本発明の態様を上述した4つの一般的カテゴリーに分類したのは、もっぱら説明/組織化を目的したものであって、ステップの相互依存などの推論を行うべきではないことを強調しておく必要がある。
【0024】
グループ1
本明細書でグループ1に属するものとしておおまかに分類された、本発明の態様は、特に望ましい再集合ウイルスを生成するために、例えば、マスタードナーウイルスおよび1つまたは複数の野生型のウイルスを細胞培養系に同時感染させる上での最適化に関する方法および組成物;適切な再集合ウイルスの選択;および選択された再集合ウイルスのクローニングを含む。インフルエンザウイルス株の再集合は当業者に周知である。再集合ウイルス株を生成するのに、A型インフルエンザウイルスおよびB型インフルエンザウイルスの両者の再集合が、細胞培養および卵の双方で用いられている。例えば、Tannockら、「Preparation and characterisation of attenuated cold-adapted influenza A reassortants derived from the A/Leningrad/134/17/57 donor strain」、Vaccine(2002)、第20巻、2082〜2090頁を参照。インフルエンザ株の再集合は、プラスミドコンストラクトでも示されている。上記に引用した「Multi-Plasmid System for the Production of Influenza Virus」を参照されたい。
【0025】
再集合は、簡潔には、異なったウイルスに由来する遺伝子セグメントの混合(例えば、卵または細胞培養で)を、通常含む。例えば、B型インフルエンザウイルス株の典型的な8つのセグメントを、例えば、注目しているエピトープを有する野生型株と、例えば、寒冷適応株を含む「ドナー」株との間で混合することができる。2つのウイルスタイプ間で再集合を行うことによって、とりわけ、1つのセグメントに野生型エピトープ株を含み、他のセグメントに寒冷適応株を含むウイルスを生成することができる。残念ながら、所望の再集合体を生成するには、時に、多数の再集合を行う必要がある。ウイルスは、再集合の後に、選別することができる(例えば、所望の再集合体を見つけるために)。その後、所望の再集合体を、クローニングすることができる(例えば、数を増やして)。したがって、再集合体の構築に必要な時間を短縮するステップ、および所望の再集合体の生成を促進するステップは、極めて望ましいものである。
【0026】
B型インフルエンザウイルスでは、所望の再集合体の、伝統的な最適化、選択、およびクローニングは、通常、細胞培養(例えば、CEK細胞)に対するウイルス株の同時感染によって、そして、それに続く、例えば、親ウイルスの1株に由来する物質に対する適当な抗体を用いた選別(通常、卵で行われる)、および、通常は細胞培養で行われる、ウイルスのクローニングまたは増殖などによって行われる。しかし、そのような伝統的な再集合は、所望のセグメント混合物を生成するのに何千もの再集合を必要とする点に欠点がある。そのような再集合を行ったとしても、最終産物が真に無作為な再集合でないことが明らかである。言い換えれば、この過程に偏向を与える圧力がシステム中に存在するのである。しかしA型インフルエンザ株では、そのような過程に、そのような偏向が生じてはいないようである。A株では、ウイルス株の同時感染(通常、CEK細胞などの細胞培養を感染させる)の後で、選別およびクローニングを同時に行うが、これも、通常は細胞培養中で行う。
【0027】
したがって、本明細書で詳述するように、本発明の様々な実施形態は、再集合における偏向を減少させるステップを含む。すなわち、再集合体のクローニングを、細胞系で行う代わりに卵(例えば、33℃)で行うか、または細胞系で行うが、例えば、25℃で行う。
【0028】
再集合の最適化
本発明は、必要となる再集合の数を減少させる(それによって、ワクチン生産過程の時間内処理量を増大させる)ために、グループ1のステップを用いて再集合の過程を最適化する。そのような最適化技法を用いたステップは、通常、B型インフルエンザ株の再集合によって実現され、通常、細胞培養、例えば、CEK細胞で行われる。
【0029】
インフルエンザウイルスの再集合を行う他の方法では、マスタードナーウイルス(MDV)および野生型ウイルスの希釈液、例えば、各溶液の濃度に関わらずそれぞれ1:5希釈したものを、混合し、それらを次に25℃および33℃で、24および48時間インキュベートする。しかし、そのようなアプローチは、A型インフルエンザ株には許容できる場合が多いのにもかかわらず、通常、B型インフルエンザ株では、そのようなプロトコールで陽性の結果が得られない。例えば、適切な6:2再集合(すなわち、MDVから6遺伝子、そして、野生型ウイルスから2遺伝子、NAおよびHA)を実現するのに、しばしば、何千もの再集合を行わなければならない。
【0030】
したがって、本発明のグループ1に含まれるステップの典型的な実施形態は、MDV株および野生型株(特に、用いられたB型インフルエンザ株の野生型株)のMOI(感染多重度)の測定と、それに続く、表2で例示されたものを含む再集合とを含む。そのような最適化された再集合混合物のインキュベーションは、卵内、33℃で24時間行われる。最適化されていないシステムで何千もの再集合混和物が必要なのとは対照的に、このような実施形態では、通常、数百の再集合混和物をスクリーニングすることによって、適切な6:2再集合が実現される。
【0031】
再集合体の選別およびクローニング
グループ1のステップは、再重合されたインフルエンザウイルスの選別も含む。本発明の方法および組成物は、適切に再集合されたB型インフルエンザウイルスを選別するのに特に有用である(そして、通常、そのように用いられる)。再集合されたA型インフルエンザ株は、細胞培養(例えば、CEK細胞)または卵で選別できる。しかし、細胞培養で再集合された場合(例えば、CEK細胞で選別される場合)、再集合されたB型インフルエンザ株には、問題が存在する。CEK細胞は、B型インフルエンザ株でM遺伝子を妨害し、したがって、生成全体を抑制すると考えられている。下記参照。本発明は、そのような抑制に留意し、一部の実施形態では、B型インフルエンザの再集合の選別を、卵(卵はB型インフルエンザ株におけるM遺伝子に対する淘汰圧に関して中立的である)で33℃において、または別法として、CEK細胞で25℃において行う。図52を参照。
【0032】
グループ1における本発明の他の実施形態には、選別過程で抗HA(MDVの)抗血清および抗NA(MDVの)抗血清を使用し、それによって、より強い選別を実現することが含まれる。
【0033】
グループ1における本発明のさらに他の実施形態には、生成された再集合体のクローニングが含まれる。これまでの論考から明らかであろうが、CEK細胞培養でのB型インフルエンザ再集合体のクローニングは、負の選択圧のため、問題があることが判明している。したがって、本明細書に記載のいくつかの実施形態では、B株の再集合体を、卵で、33℃においてクローニングする。他方、A株の再集合体は、場合によっては、CEK細胞培養でクローニングし、同時に選別を行う。
【0034】
本明細書に記載の一部の実施形態は、再集合における卵の無偏向性または非抑制性を利用する(上記参照)が、本明細書に記載の他の実施形態は、細胞培養での再集合体の選択/クローニングを含み、ただしこれを25℃で行う。したがって、本発明の一部の態様は、MDVB(マスタードナーウイルスB)M遺伝子および野生型BウイルスM遺伝子の異なった特性を利用する実施形態を含む。例えば、望ましい再集合体を生成するため、任意選択で6:2および5:3の同時感染を行う。したがって、例えば、B/HongKong/330/01 MVSの生成過程では、33℃におけるCEK細胞の限界希釈による、野生型および寒冷適応型のMウイルスRNAからのクローニングの結果として、野生型MウイルスRNAの成長が優勢となる。野生型のM vRNAを得る確率は、卵の方がより高いが、33℃で6:2を5:3(野生型のM遺伝子を含有している)と同時感染させた場合、卵およびCEK細胞の両方で、MDV由来のM vRNAより、野生型のM vRNAが優性である。対照的に、MDVに由来する野生型のM vRNAは、6:2および5:3を25℃でCEK細胞に同時感染させた場合、相互に匹敵する量で存在する。したがって、本明細書に記載の一部の実施形態では、MVS過程おけるCEK細胞での6:2クローニングに25℃が用いられる。図1から8を参照。これらの図から、プラークアッセイによって、MOIが低い場合、33℃におけるBウイルス6:2の力価が5:3より少なくとも2log10低く、一方、25℃では6:2は5:3と同じレベルにまで増殖することが示されていると見て取ることができる。33℃における6:2の増殖欠損は、MVS CEKクローニングの6:2に対する選別が原因かもしれない。MDVBと6:2とで増殖特性が異なることは、M遺伝子優性にHAおよびNAが関与していることを示唆する。MDVBと、野生型Bウイルスとの間には、2個の保存的アミノ酸が相違しているのみである。6:2 M1の遺伝子上のバリンから、野生型で保存されているメチオニンへの単一変異によって、33℃におけるCEK細胞での6:2の増殖欠損を逆転することができる。
【0035】
再集合の特性分析
本発明のさらに他の実施形態は、本発明で使用されるインフルエンザウイルスの遺伝子群(gene constellation)を決定するのに、ハイスループット一本鎖高次構造多型/キャピラリー電気泳動(SSCP/CE)アッセイの適用を利用する。そのような特性分析の局面は、本明細書に記載の他の「グループ」に分類することもできるが、構成上の目的から、ここで論ずるものと理解するべきである。インフルエンザウイルスは、上述のように、8つの遺伝子セグメントを含有しており、単一の細胞を2つの異なったインフルエンザ株で同時感染させることにより、いずれの親からも異なる新規な遺伝子群を備えた再集合体ウイルスを生成することができる。したがって、本明細書に記載のいくつかの実施形態では、多数のインフルエンザウイルス試料の遺伝子セグメント群を迅速に決定するのに、SSCP/CEアッセイを用いる。インフルエンザウイルスの遺伝子セグメントは、任意選択で、8つのセグメントのそれぞれに特異的な蛍光標識プライマーを用いて、RT−PCRによって増幅する。あらゆる目的に関して、参照により本明細書に組み込まれている、Arvinら(2000)、J.Clin.Micro.、第38(2)巻、839〜845頁も参照のこと。
【0036】
インフルエンザゲノムの8つのセグメントすべての遺伝子型決定をするのに必要なRT−PCR反応の数を減少させるために、任意選択で、複数のセグメントを同一反応中で同時に増幅する多重反応を実施する。各セグメントに対応するRT−PCR産物は、サイズ、移動パターン、および蛍光色によって区別する。非変性マトリクス中での一本鎖DNAフラグメントの移動は、サイズのみではなく、その配列内容によっても決定される。
【0037】
細胞は、任意選択で、寒冷適応したB/Ann Arbor/1/66(MDV−B)または同様のものと、いくつかの野生型B型インフルエンザ株の1つとで同時感染させる。この同時感染の子孫は、限界希釈法によってクローニングし、多重反応で核酸を増幅する。プライマーを選択し、産物を18℃でSSCP/CEによって分離する。SSCP/CEは、MDV Bおよび野生型株の8つの遺伝子セグメント間の解像度を高める。
【0038】
例として、SSCP/CEアッセイの正確さを実証にするために、約50の異なった再集合体ウイルスからの400の遺伝子セグメントを分析し、SSCP/CEによる結果を、制限断片長多型(RFLP)によって得られたものと比較した。これら2セットのデータ相互には、高い一致(約98%)が見出され、それによってSSCP/CEアッセイの確証がなされた。さらに、SSCP/CEアッセイによって、B型インフルエンザウイルスのM遺伝子セグメント内にある単一ヌクレオチド置換を検出できることが示された。
【0039】
細菌汚染の防止
本発明の一部の実施形態は、インフルエンザウイルスが生成される卵の微生物汚染を検出、および/または、防止/検出するステップを含む。そのようなステップは、表1に概要を示すいくつかの領域で有用であり、グループ1、2、および3に含めることができるが、構成上の目的からグループ1のステップと共に提示する。本発明の微生物検出ストラテジーは、迅速/ハイスループットの微生物検出に有用であり、したがって、本明細書の多数の他のステップでもそうであるように、ウイルス/ワクチン生産の時間内処理量を増大させるのに有用である。
【0040】
本明細書に記載の本発明の一部の実施形態も含めて、現在のインフルエンザワクチン生産ストラテジーの多くは、その構成要素として、特定の病原体を含まない稔性の鶏卵でインフルエンザウイルスを増殖させる伝統的方法を用いる。卵でのウイルス産生では、いくつかの時点で、潜在的な微生物汚染が起こりうる。例えば、図9を参照のこと。図9は、ウイルス産生フローチャートの可能な一例と、その中で汚染が起こりうる領域の概要とを示す。残念ながら、鶏卵は、その天然生物相の一部として、殻の外に何種類かの微生物を有することがある。ニワトリ胚の発生中に卵の殻の中に封じこめられた微生物を有することも起こりうる。受精された鶏卵は、胚を発生させるために、高湿度、37℃でインキュベーションを行うが、これは、多くのタイプの微生物夾雑物にとっても最良のインキュベーション条件を構成する。微生物汚染が起こりうる別の時点は、卵に接種するために、殻に穴があけられるときである。ウイルス接種の前には、しばしば卵にアルコールを噴霧するが、微生物が卵の中に進入する機会が依然として存在する。
【0041】
ウイルスを卵の中で2から3日間増殖させた後、通常、卵中の、ウイルスを含有する尿膜腔液を手作業で収集するために、卵殻の頭頂を除去する。この収集が、微生物汚染が起こりうるもう1つの時点である。残念ながら、そのような混入している生物汚染を有する卵は検出を逃れることがあり、そのため、ロット全体がMPA試験で不合格になって拒絶されることを最小にするために、複数のボトルにプールする必要がある。通常、3つのインフルエンザ株がワクチン生産に用いられるため、最終原体には、3つの株を混合する必要である。産物が微生物を含まないことを確実にするために、過程中MPA(微生物学的純度アッセイ)試験を、例えば、混合および充填に使用する前のウイルス採取の際に行う(図9を参照)。
【0042】
インキュベーションの後で、検卵(candling)の「伝統的な」方法を用いて、無精卵および死亡卵の同定を行う。卵は、天然の要因または微生物汚染によって死亡している可能性がある(すなわち、死亡卵は、ウイルスの感染力、および/または、微生物の増殖によって生じうるものであり、これらは両方とも検出して、そのような卵を排除する必要がある)。検卵は、例えば、暗くした部屋の光源の前に卵を保持して、発生中の胚の明視化を可能にする過程を含む。死亡卵は、ウイルス接種から排除する。
【0043】
上記の点から明らかであるように、微生物汚染の検出は、インフルエンザワクチンの製造中、複数のステップで必要となりうる。トリ由来および環境由来の微生物を排除または低減させる必要、ならびに、環境由来およびヒト由来の微生物の導入を排除または抑制する必要がある。したがって、不稔性であるか、死亡しているか、または微生物に汚染されている卵を同定して、除去するための、非侵襲的で迅速な卵のスクリーニング方法が必要とされている。そのような方法は、好ましくは、非侵襲的かつ迅速なものであるべきである。混入している微生物を検出する現行の方法には、例えば、公定書記載の方法(compendial method)(MPAおよび生物汚染)が含まれる。現行の方法は、例えば、卵の接種前/後の検卵(これは、通常、約500卵/時間/人の速度で手動で行われる);通常、手動であり、MPA試験には約14日間、そして生物汚染試験には約3日(これは、ウイルス収集中に行われる)かかるMPA試験および生物汚染試験;通常、手動であり、約28日間(これは、ウイルス収集中に行われる)かかるマイコプラズマ試験;ならびに、通常、手動であり、約56日間かかる(これは、ウイルス収集中に行われる)ミコバクテリア試験を含むことができる。これらから、伝統的方法には、回転時間の有意な短縮を行う余地のあることが理解されよう。新規の方法は、例えば、結果が出るまでの時間が何日もかかっていたものを24時間以下に(そして過程中試行試験では、好ましくは、4時間以下に)、そして放出試験(Release Testing)では何週間もかかっていたものを数日間にまで短縮するものが望ましい。他の優先事項には、例えば、中間体/在庫保持時間の短縮、潜在的な製品発売/承認の迅速化、および費用/労力/間接費の削減が含まれる。概して、微生物汚染を検出するために選択されるいかなる方法も、例えば、意図している用途、結果がでるまでの時間、機器の性能などの科学的要件;FDAのガイドライン(例えば、FDAによって要請されているように、生物汚染は生存している全生物の尺度でなければならない)、レビュー、希望/許容などの規制要件;業者監査、業者サポート(機器IOPQすなわち機器測定された見込み品質(instrumentally observed perspectival quality))、ソフトウェア検証、および文書完備などの順守要件;ならびに、業界動向、実施費用、試験あたりの費用などの業務要件を考慮するべきである。
【0044】
本発明の様々な実施形態に存在する微生物汚染を検出するのに利用可能な別法のいくつかを表3に記載する。したがって、例えば、検卵の別法、そして本発明の一実施形態は、ウイルスの接種前/後における熱イメージングを含む。そのような実施形態では、インキュベートされている卵から放出される赤外線を赤外線カメラで捕捉する。補足されたイメージは、ソフトウェアを用いて、卵の温度測定値に変換する。このようなカメラは、0.01℃以下の温度相違を捕捉することができる。代謝活性が高い発生中の胚は、無精卵または死亡している胚より熱の喪失が遅く、したがって、その結果、温度較差がより大きくなっている。例えば、ウイルス接種前/後の熱イメージングを検卵の別法として用いるには、卵をトレーごとに熱イメージングすることができる(例えば、卵のトレー(例えば、底が開いた隔室に置かれたトレー)の下に赤外線カメラは設置することができる)。そして、卵それぞれの底部(または、側部、頭頂部など)温度を測定するように、ソフトウェアを設定することができる。個々の卵それぞれの温度減衰速度を評価することができ、それによって、問題の卵における最大温度較差を示す時間の同定が可能となる。そのような熱イメージングによって、生存している胚と、無精卵および死亡卵との間にある温度較差を同定することができる。図10および11を参照。
【0045】
本明細書に記載の他の実施形態では、本発明は、ウイルス収集の際の生物汚染試験の別法の1つ、すなわち、MPNすなわち最確数を用いる。これは、Bacteriological Analytical Manual Online、2001年1月、付属2、「Most Probable Number from Serial Dilutions.」、FDA/CFSA−BAMに基づくものである。例えば、MPN試験では、複製3つの96ウェル試験を含むことができ、その試験では、1:10の系列希釈(例えば、1:10、1:100、1:1K、1:10K、1:100K、および1:1000K希釈)を、96ウェルマイクロタイタープレートで、陰性対照と共に、3種類の異なる試料について、三重で検査することができる。TSBをすべてのウェルに、最初に希釈剤として添加することができ、そして微生物の増殖を補助する濃縮培地として添加することができる。プレートは、目視によって、または600nmで読み取ることできる。MPN生物汚染試験は、汚染を検出するための膜濾過試験に比べてかなり有用である。膜濾過試験は、(3種類の試料に対して)15枚のTSAプレート、大きな試料容積、集約的な量の時間および労働を必要とし、自動化が困難な場合があり、試料は1:10および1:100希釈のみであるが、96ウェルMPG試験は、(3種類の試料に対して)1枚の96ウェルマイクロタイタープレート(対照も含む)、小さな試料容積、いくつかの簡単な使い捨て用品および試薬のみを必要とし、1:10から1:100000までの希釈範囲があり、さらに、目視で読み取ることも、96ウェルプレートリーダーで自動的に読み取ることもできる。70の試料を、従来の生物汚染試験を用いて試験した結果と、96ウェルプレートMPN試験を用いて試験した結果は、相互に完全に一致することが判明した。とりわけ、意図した目的に関しては、96ウェルプレートMPNは、同等の結果を、よりハイスループットで提供した。
【0046】
ウイルス収集における伝統的な公定書ミコプラズマ試験の別法として、本発明は、一部の実施形態で、核酸増幅に基づいた、標準化され、汎用性のある迅速な市販キット(例えば、PCR)の使用を含む。現行の公定書記載の方法は、(直接的および間接的に)すべての株の汚染(トリM.synoviaeおよびM.gallisepticum、ならびにヒトM.pneumoniae、すなわち、すべてのトリおよびヒトミコバクテリア株が含まれる)を検出する。代替となるPCR検出法には、研究者によって開発された、リアルタイムPCR用のプライマー/プローブセットが含まれるが、これらは、あるマイコプラズマパネルを特異的に検出し、標的遺伝子(例えば、16sおよび/または23sリボソームRNAの属特異的および/または種特異的な配列)の配列相同性に基づいて、場合によっては、結核菌および非結核性マイコバクテリア(例えば、M.abscessusおよびM.avium)など、40を超える種を検出する。本明細書に記載の一部の実施形態は、結核菌および非結核性マイコバクテリアなどを迅速に検出する、標準化され、核酸増幅に基づいたキットを利用する。
【0047】
グループ2
グループ2に該当する本発明の態様には、表1のステップ4からステップ6までに対応するものが含まれる。正しい再集合過程、および再集合体(すなわち、6:2ウイルス)のクローニングの後、そのような再集合ウイルス粒子を、孵化鶏卵中でさらに精製し、正しいクローンを量的に増大させて(再度、鶏卵中での増殖を介して)、マスターウイルス株(MVS)またはマスターウイルス種子を生成させる。マスターウイルス株(MVS)またはマスターウイルス種子は、次に、マスター作業ウイルス株(MWVS)または製造会社の作業ウイルス種子を生成させるためにさらに増殖させる。卵からウイルス粒子を精製する多くの態様、および、ウイルス粒子の量を増大させる目的で、さらに多くの卵に接種するための、そのような精製ウイルスの使用は、当業者に周知のものである。多数のそのよう技法は、ウイルス粒子の現行の生産に共通であり、少なくとも40年間用いられている。例えば、Reimerら、「Influenza virus purification with the zonal ultracentrifuge」、Science、1966年、第152巻、1379〜81頁、参照。例えば、共通の精製プロトコールでは、例えば、ショ糖勾配(例えば、10〜40%ショ糖)中での超遠心分離などを含むことができる。また、本明細書に記述したように、例えば微生物汚染の防止など、他のグループに記載された他の操作なども、任意選択でグループ2の範疇に含まれる。
【0048】
グループ3
グループ3という標題の下に分類される、本発明の態様は、表1のステップ7からステップ11までが含まれる。これらのステップは、主として、孵化卵の調整(ウイルスに感染した卵のインキュベーションに関する特定の取り扱いおよび環境条件)と、卵の尿膜腔液からのインフルエンザウイルスの収集および清澄化とを行う。
【0049】
例えば、本発明は、ワクチンで用いられる再集合ウイルスを含有する卵の調整、洗浄、検卵、およびインキュベーション;そのような卵の接種、密閉など;そのような卵の検卵;卵からのウイルス溶液(例えば、尿膜腔液)の収集;ならびにウイルス溶液の清澄化を含む。ここでも、グループ2のステップに適用できるいくつかの技法が、グループ3のステップにも等しく適用できることに留意するべきである(例えば、検卵など)。グループ3を含む本発明のいくつかの態様は、当業者に周知のものである。ウイルス産生における卵の検卵の様々な態様は、卵へのウイルスの接種、そのような卵の洗浄およびインキュベーションと共に、卵におけるウイルス/ワクチンの生産において周知の技法である。当然ながら、そのような周知の技法は、本発明の独特かつ革新的態様とともに用いられるものと理解されよう。
【0050】
揺動
一部のタイプのインフルエンザ株(例えば、とりわけ、Victoria/504/2000などのB型インフルエンザ株)を培養することの欠点の1つは、卵で増殖させた場合に、他の株ほど高い力価を生じないことである。例えば、第1の株(例えば、A型インフルエンザ株)が10または10logの力価(すなわち、ミリリットルあたり10または10のウイルス粒子)を生み、第2の株(例えば、B型インフルエンザ株)がミリリットルあたり10のウイルス粒子しか生み出さない場合、第2の株は、例えば、より大量の卵で増殖させなければならず、さもなくば、第2の株が第2の生産などで増殖するまで、第1の株を保持しなければならない。
【0051】
したがって、本発明の一態様は、ウイルス株のインキュベーションが行われている卵(すなわち、卵がウイルスで接種をされた後)を、揺動させるか、または穏やかに振動させることである。そのような揺動を実現するのに用いられる正確な機構は、限定されないことに留意するべきである。例えば、卵は、振盪プラットホームまたはロッキングプラットホームで揺動させてもよい(例えば、細菌培養フラスコのインキュベーションに使用されているように、卵のインキュベーターで使用されるようになど)。一部の実施形態では、1分間あたり約1サイクル以下から、毎分約2サイクル以上で卵を揺動させる。この文脈において、「サイクル」とは、動作の全範囲にわたる卵の移動を意味すると理解するべきである。さらに他の実施形態では、毎分約0.5サイクル以下から、毎分約5サイクル以上で卵を揺動させる。一部の実施形態では、卵を1分間あたり約1サイクルで揺動させる。グループ3のインキュベーションステップ(すなわち、接種の後)に揺動させることを加えた場合、B−Victoriaインフルエンザ株の力価が、揺動されなかった対照群の卵より0.4log増大した。
【0052】
濾過および加温
グループ3に分類される本発明のさらに別の態様は、無菌濾過(通常0.2μmのフィルターを通す)中における、ウイルスの力価(potency)の減失に対する、ウイルス尿膜腔液(VAP)の温度の影響に関与するものである。本発明の様々な実施形態では、ウイルス粒子を尿膜腔液から収集し、その後、この体液の加温と、その後の濾過とを含む過程を通して行う。例えば、表1のステップ10および11を参照。そのようなステップが望ましいのには、いくつかの理由がある。例えば、本明細書に指摘したように、ワクチン調製物中の尿膜腔液および破片の存在は、アレルギー反応を導くことがある。また、かなり重要なこととして、濾過によって、生物汚染(細菌)が溶液から除去される。生物汚染を含有するすべてのVH(ウイルス収集)溶液を廃棄しなければならない。これは、弱毒生ウイルスワクチンの鼻腔内投与でもあてはまる。したがって、そのような生物汚染などの存在を除去および/または減少させるための弱毒生ウイルスの濾過および清澄化を可能にする本発明の態様は、かなり望ましいものである。
【0053】
ここでは、一例として、寒冷適応(ca)ウイルス株(例えば、A/Sydney/05/97、H3N2型)を滅菌グレードのフィルターを通して、許容範囲の力価減失で濾過するのに必要なウイルス尿膜腔液(VAF)の温度および加温時間の影響を用いる。許容できる状態でA/Sydney/05/97を濾過する条件、および同様の条件で濾過された、さらに5株の寒冷適応インフルエンザ株(すなわち、2× H1N1、1× H3N2、2× B)の結果について論じる。
【0054】
濾過過程全体を通したウイルス尿膜腔液の特徴付けを行うのに、3通りの独立したアッセイ(TCID50、ノイラミニダーゼ、および赤血球凝集素)を用いた。これらのデータによって、A/Sydney/05/97では、濾過過程に加温ステップ(例えば、濾過の前に、31±3℃の温度に最大60分間曝露する)を追加することによって、加温ステップ無しで行った滅菌グレードの濾過と比較して、力価の減失が許容できるレベル(0〜0.3 log10 TCID50)まで低減したことが実証された。他の実施形態では、任意選択で、加温温度が28℃超または28から36℃で、少なくとも30分間、あるいは、他の実施形態では、約60から240分間である。加温過程は、実際、長時間継続することができるが、さらに長時間行った後には、そのような高い温度におけるウイルス安定性の減失による力価の減失が測定可能かつ有害なものとなることが理解されよう。追加した加温ステップは、試験した他の株では、試験した時間内の力価のさらなる減失に寄与しなかった。これは、加温ステップが、寒冷適応しているインフルエンザウイルス(CAIV)の滅菌グレードでの濾過において許容できる操作ステップであることを示す。
【0055】
本明細書に記載の通り、現行のFluMist(登録商標)製造プロセスは、孵化鶏卵を用いてマスターウイルス種子(MVS)、製造会社の作業ウイルス種子(MWVS)、およびウイルス収集物(VH)を生成するものである。表1のステップ6を参照。種子およびウイルス収集物は、生物汚染(通常、細菌汚染)を含有する可能性があり、その場合には、それによって、種子または原体ウイルス産物ロットがワクチン生産工程で拒絶されることになる。ウイルス含有尿膜腔液の濾過の使用を評価するための以前の研究を通して、この過程に濾過ステップを導入することによって生物汚染が低減できることが示された。しかし、以前の研究に基づくと、そのような濾過は、特定のウイルス株(例えば、A/Sydney/05/97)で問題を有する。そのような研究に基づいて、様々な関連供給ライン、分配ライン、および試料収集ラインを併せ持ち、プレフィルターおよび0.2ミリメートル滅菌グレードフィルターに連結された無菌プラスチック培地バッグを含む濾過装置の設計案が提案された(下記参照)。当然ながら、使用された特定の産物タイプ、サイズなどの特定の列挙または記載は、そうであると明確に述べられない限り、本発明を制限するものと見なされるべきではないことが理解されよう。
【0056】
そのような研究から判るように、試験された寒冷適応(ca)ウイルス株の大部分は、Sartorius SartocleanCAプレフィルターを通して、それに続いて、滅菌グレードフィルターとしてSartorius Sartopore2を通すことによって最小限の力価減失で濾過することができる。しかし、A/Sydney/05/97を用いた他の濾過研究では、力価減失が0.7〜1.4 log10 TCID50/mLの間であるという結果が得られた。さらに研究を行ったところ、この減失は、Sartorius Sartopore2滅菌グレードフィルターを通すことによって生じることが明らかになった。ここでも、任意選択で、他のフィルターブランドおよび/またはフィルタータイプが、そのようなステップで使用され、特定のフィルター名/タイプの言及は、限定として解釈するべきではないことに留意するべきである。
【0057】
以下に示す第1セットの実験の目的は、濾過中におけるウイルス力価の減失に対するVAP温度の影響を試験することであった。この研究の第2部は、濾過前におけるVAFの適切な加温時間を決定するように設計されていた。加温条件を決定するモデル株として、寒冷適応(ca)A/Sydney/05/97ウイルス株(H3N2型)を用いたが、これは、前述のように、この株で濾過中の力価の大きな減失が観測されていたためである。
【0058】
この実施例の第3部では、いくつかの他の一価ウイルス株について、濾過によって引き起こされる力価の減失に対する、ウイルス尿膜腔液(VAF)を暖めることの影響を評価した。5株のCAIV株(2× H1N1、1× H3N2、および2× B)をこれらの検査に用いた。すべての実験は、ショ糖リン酸グルタミン酸(SPG)で安定化したVAF 1.0〜3.0Lと、試験試料を取り出す前に、適切にスケーリングされたフィルター、すなわち、予測される最大VH過程規模の約1:30から1:10のフィルターを用いたCAIV種子スケール(MVSおよびMWVS)で行った。典型的な過程規模は、濾過装置あたり安定化VH約33Lまでである。そのような容積は、通常、濾過装置用に選択された50Lバッグを用いて良好に濾過され、標準的な10インチのフィルターカプセルを用いて濾過できる容積にも、妥当な安全域を有する。しかし、開発/例示的な研究には、そのような容積は大きすぎることが多く、そのため、1/10の規模(すなわち、約3L)の濾過を行った。
【0059】
そのような温度/濾過ステップ用に、当技術分野で周知の方法に従って、かつ/または、表4に要約される寒冷適応(ca)インフルエンザ株を用いた本発明(上記および下記参照)の他の態様を用いて、ウイルス伝播を行うことができる。
【0060】
実験における全段階からの試料の力価を、組織培養感染量(TCID50)を手動アッセイで測定することによってアッセイした(TCID50測定の他の側面については下記参照)。ノイラミニダーゼ活性(NA)および赤血球凝集素活性(HA)も測定した。
【0061】
力価(TCID50/mL)、ノイラミニダーゼ(NA)活性、および赤血球凝集素(HA)活性の損失に対するVAF温度の影響を評価するため、Sartorius SartocleanCAとSartorius Sartopore2フィルターの組合せを通して一連の濾過を行った。
【0062】
ウイルス収集中に、VAFを1L PETGボトルにプールした。必要な容積の非安定化VAFが収集され、プールされたときに、濾過を行った。この段階での非安定化VAFの温度(始動温度)は、15±3℃であった。全加温時間は、VAFが33±1℃の水浴中にあった時間として定義し、昇温時間(15℃±3℃〜28±3℃)および温熱保持時間(例えば、設定点において28℃以上である時間)からなった。
【0063】
第1部のVAF温度影響研究(下記参照)は、寒冷適応している(ca)A/Sydney/05/97ウイルス株(H3N2型)で行った。実施例の第2部は、任意選択の温熱保持時間(「その温度にある時間」)の決定に焦点をしぼった。第3部では、事前に決定した温熱保持時間の影響を、他の5株(表5)で試験した。この実施例のすべての部で、1.0〜3.0Lのショ糖リン酸グルタミン酸(SPG)で安定化されたVAF、通常のウイルス種子スケール、および予測されるmVH過程規模の約1:30〜1:10を、装置を通して濾過した。
【0064】
収集後における現行の典型的な製造プロセスでは、さらに輸送するため、VHの遠心、安定化、および冷凍を行う。これらの実施例では、非安定化プールから取り出したVAF試料を、現行の製造プロセスと同様に、遠心し、SPGで安定化し、これが、この実施例すべての部における濾過されたVAFに対する対照として機能した。
【0065】
第1部:濾過中におけるA/Sydney/05/97ウイルス力価変化に対する温度の影響
力価の減失に対する温度の影響を測定するため、様々な温度における2セットの濾過実験を行った。各セットは、同じバッチの卵から収集したVAFを用いて、同じ日に行った3つの平行実験からなった。これらの実験では、収集後、VAPをSPGで安定化し、3つのプールに分離し、濾過の前に60分間、5±3℃(冷蔵庫)、20±3℃(卓上)、または31±3℃(水浴)に曝露した。この間、ボトル中のVAFは、10分毎に反転によって混合した。温度処理の後に、それをSartoclean CAおよびSartopore2フィルターを通して濾過した。対照実験では、VAPを遠心し、安定化させた。異なった条件下での濾過におけるTCID50の結果を相互に、そして対照と比較した。
【0066】
力価の減失に対するVAF温度の影響を測定するため、濾過の前に、VAFを60分間、5±3℃、20±3℃、または31±3℃に曝露した。遠心および安定化された物質と、異なった温度処理受けた濾過後の物質との間での、力価の変化、ノイラミニダーゼおよび赤血球凝集素活性の相違を表5〜10に要約する。それらから判るように、低温(5±3℃)および室温(20±3℃)でのVAFの濾過によって、0.7から1.0 log10 TCID50/mLの力価減失がもたらされた(表5および8を参照)。しかし、VAPを31±3℃に60分間(30分間の昇温時間+設定点温度での30分間の温暖保持時間)暖めた場合には、濾過の後では、(遠心および安定化されたVAFと比較して)力価の減失がなかった。表5および8を参照。さらに、濾過後のノイラミニダーゼ活性レベルは、VAFを31±3℃まで暖めた後に濾過を行った場合、低温および室温での濾過で観測されたレベルより高かった。表6および9を参照。昇温ステップの追加は、赤血球凝集素活性の損失も低減させた。表7および10を参照。
【0067】
第2部:A/Sydney/05/97の、濾過における力価の減失が許容範囲となるのに必要な加温時間の決定
必要な加温時間を決定するために、水浴中で濾過の前に31±3℃に暖められたVAFを用いて、一連の実験を行った。対照実験では、SPGで安定化した後、直ちにVAFの濾過を行った。すべての実験で、加温時間は、VAFが水浴中(すなわち、31±3℃)にあった合計時間(昇温時間および温暖保持時間)として定義した。ボトルの中のVAFは、10分毎に反転によって混合した。温度処理の後に、それをSartoclean CAおよびSartopore2フィルターを通して濾過した。対照実験では、現行の製造プロセスを代表して、VAFを遠心し、安定化させた。異なった条件下での濾過におけるTCID50の結果を相互に、そして対照と比較した。
【0068】
ca A/Sydney/05/97を濾過するのに必要な、濾過前の加温時間を決定するため一連の実験が行った。その際、1セットの実験では、濾過の前にVAFを31±3℃に、30、90または180分間暖め、もう1セットの実験では、30、60、または90分間暖めた。対照実験では、SPGで安定化した後、暖めずに、直ちにVAFを濾過した。濾過されたVAFと対照との間のウイルス力価、ノイラミニダーゼレベル、および赤血球凝集素レベルを表11〜16に要約する。
【0069】
データは、VAFを31±3℃に曝露することによって、濾過後のウイルス力価の減失が低減され、ノイラミニダーゼおよび赤血球凝集素の活性の部分的な回復を可能にしたことを実証する。表11〜13を参照。実験開始当初(収集後かつ加温前)の非安定化VAFの温度は15±2℃であった。1〜1.5LのVAFを31±3℃に達するのに必要な昇温時間は約20〜30分間であった。したがって、VAFの全加温時間が30分間である場合、31±3℃でのVAP温暖保持時間が0〜10分間となる。
【0070】
濾過による力価の減失を最小にするのに必要な最小の加温時間を、第2のシリーズの実験で測定した。表14〜16(第1セット)および表17〜19(反復セット)を参照。濾過後の力価、HA、およびNAの減失を、全加温時間が0および30分間の実験で観測した。全加温時間が60および90分(31±3℃での温暖保持が30〜40分、および60〜70分)の実験では、濾過後のウイルス力価、HA、NAレベルが対照(遠心および安定化されたVAF)試料と同程度であった。表14〜19を参照。
【0071】
第3部:他株に対する加温の影響
A/Sydney/05/97以外のインフルエンザウイルス株の濾過に対する昇温ステップ影響を評価するために、A/Sydney/05/97以外の5株、すなわち、2× H1N1、1× H3N2、および2× Bを用いて一連の実験を行った。各株の試験を2回行った。濾過の前に、VAFを31±3℃で60分間(30分間の昇温時間+この温度で30分間)暖めた。温度処理の後に、それをSartoclean CAおよびSartopore2フィルターを通して濾過した。対照実験では、VAFを、室温でSPGによって安定化した後、直ちに濾過した。異なった条件下での濾過におけるTCID50の結果を相互に、そして対照と比較した。
【0072】
追加して試験した5株の寒冷適応インフルエンザウイルス株では、31±3℃(設定点温度での温暖保持時間は30〜40分間)に短時間曝露(全加温時間は60分間)した場合に、A/Sydney/05/97およびB/Victoria/504/2000の、温度処理なしの実験と比較して、濾過後の力価減失の低減に寄与し、他の株では力価に影響がなかった。これらの実験における力価(TCID50/mL)、ノイラミニダーゼレベル、および赤血球凝集素レベルを、下記の表20〜25に要約する。
【0073】
表から読み取ることができるように、A/Sydney/05/97では、安定化されたウイルス収集物を、Sartoclean CAプレフィルターおよびSartopore2の滅菌グレードフィルターを通す濾過の前に、31±3℃、または任意選択で最大36℃(ボトル中の1〜1.5LのVAFでは、温暖保持時間が60〜90分間)にさえ暖めることを含む本発明の態様では、ウイルス力価の減少が許容できる範囲(0〜0.3 log10 TCID50/ml)となった。対照実験では、A/Sydney/05/97の安定化されたウイルス収集物を加温せずに濾過した場合、力価の減失が最大1.0 log10 TCID50/mlであった。
【0074】
そのような表からも判るように、試験した6株の寒冷適応インフルエンザウイルス株すべてで、31±3℃(31±3℃での温暖保持時間30〜40分間)に短時間曝露する(昇温時間および温暖保持時間60分間)ことは、力価の減失を低減するか、さもなくば、濾過中における力価のさらなる減失に寄与しないものであった。すべての実験で、濾過後の力価の減失が、0.3 log TCID50/mlより高くなることはなかった。加温されて濾過されたVAFのウイルス表面タンパク質(ノイラミニダーゼおよび赤血球凝集素)活性の損失が、加温されていないものと比較して低減したことは、TCID50アッセイによって示された、力価減失の低減データを支持する。
【0075】
したがって、これらのデータは、CAIV(MVS、MWVSまたはVH)を濾過するのに必要な60分間(VAFを31±3℃に暖める時間、および少なくとも30分間の温暖保持(設定点温度での時間))の加温時間を含む、本発明の一部の実施形態では、力価の減失が許容できる範囲にある。このような加温による耐性は、とりわけ他の濾過の試みからみて、新規かつ予想外の結果である。上記参照。理解されるように、ここでも、加熱/濾過ステップを含む本発明の実施形態は、上記の実施例によって限定されるものではない。言い換えれば、任意選択で、例えば、他のフィルターおよびフィルタータイプなども、本発明から逸脱せずに使用される。
【0076】
グループ4
本発明のグループ4の態様は、例えば、表1のステップ12〜15を含む。そのようなステップは、主としてウイルス含有溶液の安定化(例えば、成分の添加、緩衝液/NAF比の変更などを介した)、および力価/無菌アッセイに関する。一部の実施形態では、生ウイルスを含む最終ウイルス溶液/ワクチンが、インフルエンザワクチン接種シーズン(例えば、北半球では、通常、ほぼ9月から3月まで)を通して、「フィールド中」での貯蔵(例えば、4℃で冷蔵されている際の販売および商業化)を可能にするのに十分な期間、液体形態、4℃で安定である。したがって、ウイルス/ワクチン組成物は、保存期間の間、それらの力価を保持するか、さもなくば力価の喪失速度が許容範囲であることが望ましい。例えば、0.3logの力価減失が許容でき、保存期間が9カ月であるならば、力価の0.05log/月の低減が許容できよう。さらに、FFAを使用することによって、許容できる減失の範囲がさらに大きくなるであろう。例えば、最大0.75logまでの減失が許容される場合、0.09log/月以下の速度は、冷蔵庫温度(例えば、4℃)に継続的に保存されている物質の安定性を保持するのに十分であろう。他の実施形態では、そのような溶液/ワクチンが、液体形態で、約2℃〜約8℃で安定である。さらに他の実施形態では、溶液/ワクチンが室温で安定である。本明細書に記載の典型的な実施形態は、NAFを希釈することによって、免疫原性の低減を示さない(または、小さな低減を示す)(下記参照)。
【0077】
ウイルス収集物の濃縮/ダイアフィルトレーション
本明細書に記載の一部の実施形態では、適切なカラムを用いて、任意選択で、ウイルス収集物を濃縮する。インフルエンザウイルス溶液は、ウイルスの力価/活性の目に見える減失を伴わずに濃縮することができる。以前の文献などが、濃縮によるウイルス活性の減失を示しているので、力価の減失のないこのような濃縮は、極めて驚くべき結果である。ウイルス粒子を増強して、他のタンパク質、RNAなどを除去するために、例えば、表1に例示するような、精製/生産工程中の多くの時点でウイルスを濃縮することができる。例えば、濃縮は、力価アッセイの前、または力価アッセイの後などでさえ行うことができるが、多くの実施形態において、グループ4に分類されるステップの中/間に行われる。ウイルス粒子の濃縮は、精製、ワクチン調製、および特性分析に有用である場合がある。例えば、「Methods and Techniques in Virology」、Pierre PaymentおよびMichel Trudel、Marcel Dekker社(1993)を参照。一部のVAF試料では、ウイルス量が少ないため、ウイルス粒子を直接分析するのに、分析超遠心法(AUC)、ディスク遠心分離、マトリックス支援レーザー脱離イオン化(MALDI)、および粒子計数法などの一部の分析技法が利用できない。
【0078】
卵NAFなどからのウイルスの濃縮は、以前には伝統的に、勾配精製遠心法で行った。例えば、「Concentration and Purification of Influenza Virus from Allantoic Fluid」、Aroraら、Analytical Biochemistry、第144巻、189〜192頁(1985)を参照。しかし、本明細書に記載の実施形態は、サイズ排除カラムを利用する。濃縮は、ウイルスの産生が、卵産生を介して、細胞培養生産(例えば、Vero細胞)を介して、プラスミドレスキュー生産などを介して行われるかに関係なく、用いることができる。また、濃縮ステップは、例えば、製品品質を確実にするために、多数の異なったウイルスおよび/またはウイルス株(例え、A型インフルエンザ株およびB型インフルエンザ株の両方がそのような操作を受け入れる)、そして、1つの株の異なったロットでも行うことができる。さらに、サイズ排除カラムによる濃縮は、1つの収集の中、例えば、1つの卵の中などにおけるウイルス粒子の量の追跡用にしばしば用いることができる。すなわち、例えば、そのような溶液のTCID50測定の代わりに、またはそれに加えてピーク面積(すなわち、カラムから溶出されたウイルスの面積)を用いることができる。そのような追跡は、卵で生成されたウイルスに対して特に有用である。さらに、濃縮および精製されたウイルス性物質は、任意選択で、その後の研究用に純粋なHA、NA、および他のウイルス成分を生成するための出発物質にすることができる。さらに、SECで精製されたウイルスは、ウイルス構造および宿主細胞との結合機構に関するより深い洞察を提供することができる。ほとんどのVAF(ウイルス/ウイルス尿膜腔液)物質の中では、ウイルス粒子がUVの検出限界未満であるため、ウイルス粒子の濃縮は、それらをさらに特徴づけるのにかなり有用である。
【0079】
ウイルス収集物の濃縮を行う際に、不純物および/または、好ましくない緩衝液/体液を除去するのに、サイズ排除カラム、例えば、圧力下にある中空繊維フィルターを備えたMidGeeまたはQuixStand(Amersham社)を用いることができる。したがって、濃縮されたウイルスは、特定の緩衝液/安定化剤により簡単に懸濁または保存される。下記参照。
【0080】
ウイルス収集物試料の濃縮の例示を行うため、A/New Caledoniaインフルエンザ収集物を濃縮して、クロスフロー濾過によってVAFから分析した。当然のことであるが、ここでも、この節に記載の技法は、ウイルスの特定の株/タイプに限定されないことを改めて強調する。そのような濃縮によって、ウイルス粒子が濃縮され、大部分の不純物が除去され、そして、ウイルスの感染性が保持された。例示したように、ウイルスの感染性はCELISA(TCID50)によって検査した。HAアッセイによる赤血球凝集、ノイラミニダーゼ活性、SEC分析、RHPLCによるNAF、およびRTPCRによるRNA分析も行った。
【0081】
以下の実施例におけるウイルスの濃縮は、Amersham社製クロスフロー濾過ユニットMidGeeを用いて行った。MidGeeは、2〜3時間の間に100または200mlを10mlに濃縮することができる。同様に、QuixStandは、4から6時間の間に、ウイルス粒子を2リットルから100mlに濃縮するのに用いることができる。ウイルスの濃縮は、ウイルスの粒子数を増加させるだけではなく、卵タンパク質、RNA、および、尿酸などの小分子など、大部分の他の不純物を除去する。
【0082】
以下の実施例で用いたウイルスは、A/New Caledonia/20/99であった。NAFは、寒冷適合インフルエンザウイルスを含んでいた。ニワトリ血液は、Colorado Serum Company社(Denver、CO)から入手した。濃縮に用いた装置は、Amersham Biosciences社(A/G Technology Corporation社)から入手したものであって、ぜん動ポンプ(Watson Marlowe社)を備えたMidJetシステムであった。濃縮に用いたカラムは、Amersham Biosciences社(A/G Technology Corporation社)から入手したものであって、名目上の分子量カットオフが750,000であるMidGee Hoopクロスフローフィルターであった。しかし、さらにここでも、装置の特定のモデル、製造業者などの使用または言及は、本発明に対する制限として理解するべきではないことを強調する必要がある。この実施例で洗浄に用いた緩衝液は1X−SPGであった。
【0083】
SECに用いた機器はHeweltt Packard社製HP1100HPLCシステムであり、カラムは、Waters社から入手した、大きさが7.8×300mmのUltrahydrogel1000であった。SECで用いた緩衝液は、Hyclone Solvent社から入手したダルベッコリン酸緩衝生理食塩水であった。SECでは、この方法は、流速0.5ml/分の定組成条件を含み、210および280nmでモニターされた。RHPLCには、機器がWaters社から入手したもの、そして、カラムはYMC C4(逆相)、2.1×250mm、5μm、300Aであった。RHPLCの方法は:移動相−A:0.1%TFA水溶液、B:95%CAN 0.09%TFA;溶出条件−可変勾配、13〜100%、B;流速:0.2ml/分;カラム温度−45℃;注射容積−50μl;および検出−214nmであった。
【0084】
図12に示すように、ステップ1、150mlのA/New Caledonia/20/99を低温室でMidJet装置によって濃縮した。入り口と出口との間の圧力は、5〜10psiの間に維持した。クロスフィルターの中を2時間循環させた後に、150mlの1X試料を15mlの10X濃縮試料に濃縮した(ステップ2)。透過液は、別々に収集し、後の分析用に保存した。特性分析用に、4mlの10X試料を取り出した(ステップ3)。10X試料の残った11mlを、1X−SPGで110mlに希釈し、透過液として1XSPGを除去することによって、さらに11mlまで濃縮した。保持液(retentate)からの不純物の大部分は、透過液中に保持される。ステップ4およびステップ5に示すように、このステップを、1X−SPGで5回反復した。洗浄透過液は、後の分析用に保存した。第1および第2洗浄液は黄色を示した。これは、卵タンパク質および他の小分子不純物の除去によるためだと考えられる。透過液の黄色は、3回目および4回目の洗浄の後に見えなくなった。5回目の洗浄の後、試料を1X−SPGで110mlに希釈して、濃度を1Xに戻した。ステップ6では、10mlの1X−Wをアッセイ用に保存した。残っていた100mlの1X−Wを、さらに10X−Wまで濃縮した(ステップ7)。この濃縮試料は、後の分析用に1mlアリコートに分注した。
【0085】
すべての試料をSECクロマトグラフィーで分析した。Ultrahydrogel100カラムは、DPBSを溶剤とした分析用に用いた。データは、考察用に220、260、および280nmで収集したが、比較は220nmのピーク面積で行った。クロマトグラムピークは、ウイルス(保持時間が約10.6分)に1グループ、不純物グループ−1(保持時間が18から21分)に1グループ、そして、不純物グループ−2(保持時間が21から27分)に1グループの3つの大きなグループに分類した。3種類のNAFタンパク質、オボアルブミン、コンアルブミン、およびオボムコイドは、保持時間が18から21分程度で溶出する。図13を参照。リゾチームは約27.0分で溶出する。グループ−2の不純物は、尿酸および特徴付けされていない他の物質などの小分子からなると考えられている。すべての洗浄液を、ウイルスの分析と同じ条件で、分析用SECクロマトグラムで検査した。CELISA、HAアッセイ、NAアッセイ、およびRTPCRを、異なるグループで実行した。
【0086】
SEC分析およびCELISA
未処理の試料である1Xは、ウイルスピークを、11.1分間に、ピーク面積1,221で示した。図14を参照。しかし、濃縮された10X試料は、ピーク面積11,192を示した。図15を参照。そして、ピーク増分は、1Xと比較して約9.16倍であった。表26を参照する、11,192/1221。これは、ピーク面積と注入ウイルス試料の量との間の線形性を示した以前の実験に基づいている。濃縮中、いかなる洗浄もなしで、一部の不純物が除去されたが、顕著には除去されなかった。表26、図16a〜bを参照。不純物グループ−1およびグループ−2は、1Xと10X(表26)との間でピークサイズの増大を示した。対応するTCID50は、log9.1から、log10.0に増大した(表27)。このステップ中、感染力の95.9%が保持されていた。このデータは、1X試料を10X試料に濃縮する間、感染力が極めて良好に保持されたことを示す。
【0087】
1X−SPGで5回目の洗浄を行った後の試料1X−Wのウイルスピーク面積は1005であり、洗浄前の1221と比較して保持されている(表26)。ピーク面積によると、1Xと1X−Wとの間での回収率は約82%(1005/1221)であった。1Xおよび1X−Wのクロマトグラム(図17を参照)を比較すると、これは、不純物グループ1およびグループ−2が有意に減少したことを示している(表26)。1X−Wは、わずかなTCID50値の低減を示した(表27、1X:9.1、1X−W:log8.9)。1Xと1X−Wとの間での感染力の回収は約98.99%であった(log8.9/log9.1)。洗浄ステップは、NAFタンパク質および他の成分を除去することによって、ウイルス物質の品質を改善した。
【0088】
同様に、10Xおよび10X−Wを比較することによって、不純物グループ−1およびグループ−2が大幅に除去された(表26、図18)。5回の洗浄を通して行うことによって、ウイルスピーク面積が10X:11,192であったのが、10X−W:10,282にまで減少した(表26、ピーク面積によると91.86%)。TCID50は、log10.0(10X)からlog9.9(10X−W)に変わって、回収率は99.56%であった(表27)。
【0089】
1X−Wと10X−Wのクロマトグラムを比較すると、ピーク面積が10倍に増大していた。表26を参照、1X−W:ピーク面積:1005、そして10X−W:10,282。TCID50値も1log増大した(表27、1X−W:log8.9、そして10X−W:log9.9)。10X−Wは1X−Wから1ステップで濃縮されたものなので、活性にも、ピーク面積にも減失がなかった(10X−W:ピーク面積10282、そして1X−Wピーク面積1005)。
【0090】
透過液は、10.4分にピーク面積25のウイルスピークを示した。これはごくわずかな量のウイルス粒子の減失によるもの、または、1Xの試料中のウイルスと共に溶出されるなんらかの他のタンパク質によるものかもしれない。不純物の大部分は、グループ−1およびグループ−2で溶出していた。表26を参照。CELISA値は、感染力が検出限界未満であったことを示した。これは、濃縮操作法中に膜を通って溶出されるウイルス粒子が多くないことを示す。
【0091】
5回の洗浄によって、グループ−1およびグループ−2の不純物の大部分が除去されることで、ウイルスの品質が改善された。これを、表26および図19に例示する。グループ−1およびグループ−2の不純物は、2回目の洗浄の後には相当量除去されていた。5回目の洗浄の後には、曲線がプラトーに達した。5回目の洗浄の後でさえ、1X−Wおよび10X−Wの試料は、不純物グループ−1およびグループ−2をごく少量示した。図20を参照。19.208分のピークのアイデンティティは、10X−W試料から単離することによって、オボアルブミンであると確認された。SDS−PAGEもこの結果を確認した。
【0092】
HAアッセイ
試料1Xおよび1X−Wは、HAU1024を示した。図21を参照。濃縮されているが洗浄されていない10Xは、HAU8192を示した。しかし、10X−WはHAU2および4で偽陰性を示した。これは、ニワトリRBCと比較して、ウイルスが大量であるためかもしれない。多量のノイラミニダーゼは、赤血球凝集過程を逆行させる。「Virus cultivation, Detection, and Genetics」、S.J.Flint、L.W.Enquist、R.M.Krug、V.R.RacanielloおよびA.M.,Skalks、「Principles of Virology」、ASM Press社、Washington、34頁(2000)を参照。透過液中にHAUが存在しなかったことは、ステップ1で溶出されるウイルスが多くないことを示す。図12を参照。
【0093】
NAアッセイ
ノイラミニダーゼアッセイは、希釈されて1Xに戻された10Xが、1Xと比較して、ある程度の活性の低下を示すことを例示した。図22を参照。これは、遊離NAタンパク質がVAF物質から減失することによると考えられた。これは透過液中にある少量のNAによって支持された。試料1X−W、および希釈されて1X−Wに戻された10X−Wは、同じレベルの活性を保持した。これは、試料10X−Wが、1X−Wから直接濃縮されたものだからである。すべての洗浄液の活性が検出レベル未満であった。
【0094】
RHPLC
卵タンパク質の分析は、以前にRHPLCによって最適化されている。したがって、この実施例における存在する物質すべてを、同一条件下、例えば、0.1%TFA/アセトニトリル勾配を有し、214nmでモニターされるC4カラムで分析した。オボムコイド、リゾチーム、コンアルブミン、およびオボアルブミンの溶出パターンを図23に示す。いかなる洗浄も行われる前の10X試料は、すべての卵タンパク質を示した。これは、対照試料の保持時間と一致した。10Xは、U1、U2、およびU3と標識された未同定のウイルスタンパク質ピークも示した。完全に洗浄された試料である10X−Wおよび1X−Wは、ウイルスタンパク質U1、U2、およびU3を保持していた。10Xおよび10X−W試料は、U1、U2、およびU3タンパク質を同量、含有していた。これらのタンパク質の比率が同じであったため、これらのタンパク質はアセトニトリルに曝露されている間にウイルス粒子から生成されるものかもしれない。しかし、オボムコイド、リゾチーム、およびコンアルブミンは、1X−SPGで5回洗浄することによって、10Xから完全に除去された。顕著にも、これらとは対照的に、最も明白なタンパク質ピークがオボアルブミンであり、オボアルブミンは、10X−Wおよび1X−W試料でも、なおこれらと共に溶出する。10X−Wおよび1X−Wは、6回および5回の洗浄を経ているが、それでもなお、オボアルブミンはウイルスに結合しているのである。これは、HAタンパク質とオボアルブミンとの間の強固な相互作用によるものかもしれない。このデータも、棒グラフの形態で、図24に提示する。
【0095】
透過液およびすべての洗浄液をRHPLCで検査した。図25を参照。透過液は、すべてのNAFタンパク質と、他の未同定のピークとを含有する。オボムコイドは2回の洗浄によって(図26を参照);リゾチームも2回の洗浄によって(図27を参照);コンアルブミンも2回の洗浄によって(図28を参照)除去され;オボアルブミンは、徐々に枯渇していき、6回目の洗浄の後でさえ約5%が残っていた。図29を参照。
【0096】
Agilentバイオアナライザー
同時に、図30に示すように、Agilentバイオアナライザー(Bioanalyzer)によってオボアルブミンの測定を行った。濃縮を行っただけで、洗浄ステップが全くなくても、10Xまでに、1Xから相当量のオボアルブミンが除去された。大部分のオボアルブミンが、第1の透過液に保持されていた。RHPLCは、すべての洗浄液でオボアルブミンの存在を示したが、バイオアナライザー分析では、それは検出限界未満に達していた。10X−W試料を10倍に希釈して、1X−W試料に近い濃度に達するようにしたところ、それは少量のオボアルブミンを示した。このデータに基づいて、卵タンパク質の95%が、濃縮ステップおよび洗浄ステップによって除去されたことになる。
【0097】
SDS−PAGEおよびウエスタンブロット
1X(レーン2)と比較すると、10X(レーン9)は、強度がより高い銀染色バンドを多数含有している。図31を参照。10Xと比較して、10X−W(レーン10)は、より少ない数のバンドを示した。これは、NAFタンパク質および他の不純物が除去されていたためであった。同様に、1X−W(レーン8)も、1Xよりきれいに見える。試料1X、1Xまで希釈された10X(第3レーン)、および1X−Wまで希釈された10XW(第4レーン)は、同量のウイルスを含有するが、不純物の除去において異なった程度の改善を示す。明らかに、1X−Wまで希釈された10X−Wが、より明確なウイルスタンパク質バンドを示している。しかし、この試料は、依然としてオボアルブミンバンドを含有していた。これを、レーン6のNAFタンパク質と比較する。10X−W試料を分析用SECカラムでさらに精製し、その画分を収集した。図32を参照。19.1分に集められた画分をSDS−PAGEで検査したところ、この画分は主としてオボアルブミンタンパク質(レーン5)を含有している。これは、抗NAFに対するウエスタンブロットで照らし出された。これはオボアルブミンが6回の洗浄の後でさえウイルスに強固に結合することを示す追加証拠である。抗NAFゲルのストリッピングを行って、そして、ニワトリ抗A/New Caledoniaでプロービングした。ウイルスタンパク質である、HA、およびHAまたはMタンパク質を示す明確なバンドが観測された。図31を参照。
【0098】
RTPCR
RTPCRは、1Xと10Xとの間で、RNAがほぼ1log高いことを示した。図33を参照。同様に、1X−Wと10X−Wとの間で、ウイルスRNAに約10倍の増大があった。これは、ウイルスの大部分が濃縮ステップ中で保持されたことを示した。透過液は、いかなる検出可能なウイルスRNAも有しないが、1X−SPG洗浄液は、ごく少量のRNAを示した。これは、循環中に少量のウイルスの剪断が行われたことによるか、または、ウイルスRNAの一部が濾液に結合して、後になって洗浄サイクル中にゆっくりと放出されたことによるかもしれない。
【0099】
要約すると、A/New Caledonia/20/99の濃縮は、クロスフロー濾過装置を用いることによって行った。ウイルス粒子の感染力は、この操作法中保持され、これはCELISAアッセイによって確認された。1X−SPGでの濃縮物質の洗浄は、他の不純物を除去することによって、ウイルスの品質は改善した。5回目の洗浄の後でさえ、少量のオボアルブミンが強固にウイルスに結合していた。これは、オボアルブミンと、HAまたはNAタンパク質との間の強固な相互作用によるものかもしれない。このタンパク質−タンパク質の考えは、RHPLC、SDS−PAGE、およびウエスタンブロットによって支持されている。未処理の試料と、濃縮試料との間でRNA量が増大していることは、この操作法によってウイルスの大部分が回収されていることを示す。
【0100】
細胞培養からのウイルス試料、例えばVero細胞などの細胞で増殖されたインフルエンザ試料の使用にも、同様の技法が適用できる。そのことを例示するため、3株のウイルス、すなわち、そのまま使用されたA/Beijing(A/H1N1);2Lから100mlまで、すなわち20X濃縮されたA/Panama(A/H3N2);および2Lから10mlまで、すなわち200X濃縮されたB/Hong Kongを、Vero細胞培養で増殖させた。Vero細胞からのウイルスの収率は通常低いため、この節の実施形態を、任意選択で、ウイルス試料を濃縮するのに用いることができるのが理解されよう。上記の例示と同様に、Amersham社のMidGeeおよびQuixStand機器をウイルス濃縮に用いた。
【0101】
図34〜35は、SEC(図34)によるA/Beijing細胞培養伝播のモニタリングと、A/BeijingVero細胞培養の収集(図35)とを示す。これらから明らかであるように、SECは、ウイルス伝播を短時間にモニタリングするための効率的な技法である。そのようなモニタリングに必要な量も、通常少量である(例えば、100μl)。図36は、A/Panama細胞培養試料の2リットル試料の濃縮を例示する。2リットルのウイルス収集物を、QuixStandによって100mlにまで濃縮した。上記参照。1X混合物のTCID50は検出不可能であったが、20X混合物のTCID50は4.4であった。20X対1Xのピーク面積比があった。Panama細胞培養試料の濃縮は、クロスフロー濾過の利点、例えば、ウイルス粒子を効率的に増強できること、溶液から低分子量不純物を除去できること、および、溶液をさらに「クリーンアップ」するのにダイアフィルトレーションを行うことができることなどを例示する。図37は、Vero細胞で増殖しているB/Hong Kongの培養物の2リットルから10mlまでの濃縮を示す。1Xでは、log10 TCED50/mlが4.7であったが、18.8Xでは、それが5.8(理論上はそれが5.95)で、200Xでは、6.95であった(理論上は、それが7.00)。
【0102】
上記の図から、SECが、細胞培養試料で増殖しているウイルスをモニターするのに有用な技法であること;ウイルス試料を濃縮した後には、力価が非常に低いウイルスもアッセイできること;そして、濃縮の後には、力価が低いウイルスもアッセイできることを読み取ることができる。
【0103】
安定化剤/緩衝液
本発明はウイルス溶液の組成物、およびこれを生成する方法を含む。そのような組成物は、任意選択で、関心あるウイルスと、本明細書に詳細に記載する、例えば、ショ糖、アルギニン、ゼラチン、EDTAなどの組合せとを含むNAF(通常未分画のNAF)の様々な希釈を含む。後述するように、本明細書に記載の様々な組成物は、10%から60%までのNAFを含む。NAFは、ヌクレアーゼリゾチームなどの様々な酵素を含有する場合があり、それらによって、ウイルス組成物の安定性が有害な影響を受けることがある。そのような方法および組成物は、所望の温度(例えば、通常、4℃、5℃、8℃、約2℃〜約8℃、または2℃超など)で、選択された期間(通常、少なくとも6カ月、少なくとも9カ月、少なくとも12カ月、少なくとも15カ月、少なくとも18カ月、少なくとも24カ月など)にわたって安定である(すなわち、容認できない力価の減失を示さない)ことが好ましい。好ましい実施形態は、所望の保存期間の間、力価の減少を全く示さない。他の実施形態は、10%未満の低減、5%未満、4%未満、3%未満、2%未満、または1%未満の低減を示す。本明細書に記載のウイルス組成物の力価は、FFUすなわち蛍光焦点単位(fluorescent focus unit)(下記のFFAアッセイの記述を参照)で測定した。標的FFU値は、通常、時間ゼロにおけるウイルス濃度(例えば、NAFの希釈などによる)に基づいて設定する。したがって、好ましい実施形態は、開始値からの減少をほとんど示さないか、または全く示さない。本明細書に記載の様々な組成物では、ウイルス溶液がショ糖約5%〜約10%、アルギニン約1%〜約4%、およびゼラチン約1%〜約4%を含む。一部の好ましい実施形態は、ショ糖約7〜10%、アルギニン約2%、およびゼラチン約2%を含む。一部の実施形態では、ウイルス製剤を所望の温度で貯蔵した後に、安定性をFluMist(登録商標)塗布器/アキュスプレイ装置または他の同様の装置で測定する。
【0104】
一部の実施形態では、本発明は、ゼラチンまたはゼラチン関連および/もしくは由来の生成物(例えば、ゼラチン加水分解物)と併用して、あるいはその代わりに、例えば、アルギニン(pHが約7.0から約7.2までの)の安定化剤を含む組成物を含む。表1のステップ12および15を参照。しかし、現行の規制における、動物、およびゼラチン、コラーゲンなどの動物由来の生成物からの思いがけない汚染の可能性に関する危惧(例えば、プリオン、マイコプラズマ、または宿主由来のウイルスなどの問題による)、また、動物由来の生成物が有するアレルゲン性の可能性に関する危惧から、非動物ベースの安定化剤が必要となっている。アルギニンの単独使用、あるいは金属イオンキレート剤(例えば、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)および/もしくはその塩)または他のアミノ酸(例えば、ヒスチジンおよび/もしくはその塩)などの追加の賦形剤との併用は、寒冷適応インフルエンザウイルス調製物を、非動物由来の賦形剤を用いて安定化する可能性を提供する。
【0105】
様々な実施形態で、アルギニンは、任意選択で、無機酸との塩または有機酸との塩のいずれかを含む。当然ながら、そのような塩は、ワクチン成分として用いられるので、通常、薬学的に許容される塩を含む。典型的な望ましい塩は、例えば、塩酸塩、クエン酸塩、および硫酸塩を含む。用いられるそのような安定剤の量は、特別の特定範囲に限定されないが、用いられる典型的な量は、ウイルス溶液1mLあたりの約5mg〜約60mgまでの範囲にある。用いられた量は、好ましくは、ウイルス溶液1mLあたり約10mg〜約50mgまで、より好ましくは、約10mg〜約25mgまででありうる。他の実施形態では、用いられる量が約1%から、約1.5%から、約2%から、約3%から、または約4%から約5%までの範囲にあるウイルス溶液のアルギニン溶液でありうる。用いられる量は、本発明の様々な実施形態で異なることがある。本発明のさらに他の実施形態では、ウイルス溶液/ワクチン溶液が、任意選択でリン酸カリウムを含む。ある実施形態では、溶液が約11mMのリン酸カリウムを含む。他の実施形態では、溶液が約10mMから約12mMのリン酸カリウムを含む。製剤組成物は、任意選択で、大量の卵の尿膜腔液成分(例えば、タンパク質および代謝産物)、および/または緩衝希釈剤を含有することができる。さらに、許容されるワクチン組成物は、例えば、濃度が例えば5から200ミリモルまでの、リン酸の一塩基および二塩基ナトリウム塩もしくはカリウム塩の混合物、または、濃度が例えば25から100ミリモルまでのヒスチジンおよび/もしくはその塩など、緩衝塩を含有することもできる。好ましい実施形態では、ショ糖が約100ミリモルから350ミリモルまでの濃度で存在する。
【0106】
多くのウイルス溶液/ワクチン溶液において、任意選択で、SPG(ショ糖、リン酸カリウム、およびグルタミン酸一ナトリウム)基礎液が用いられる。しかし、本発明の一部の実施形態では、MSGがウイルス/ワクチン溶液の一部ではない。さらに他の実施形態では、MSGのレベルが低減されている。本明細書に記載の実施形態で使用可能なショ糖の量は、広範囲にわたって可変的である。典型的な実施形態では、約0.2Mのショ糖(7% w/v)が利用されるが、約20%までのショ糖を含む組成物も、ウイルス活性/力価に有害影響を示さないことがある。組成物の様々な実施形態における界面活性剤は、濃度がおおよそ0.01から0.1%(w/v%)までの範囲にある例えば、ポロキサマー188(ポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレンブロック共重合体、例えば、プルロニック(登録商標)F68)およびTween20(ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート)を含むことができる。一部の実施形態では、ポロキサマー、ゼラチン加水分解物、およびアルギニンの組合せが、これらの成分の1つのみを含有するいかなる溶液よりも優れており、各溶液は、次に、これらの添加成分のいずれも含有しない溶液よりは安定である。
【0107】
さらに他の実施形態では、グループ4(例えば、表1のステップ15)のステップが、ウイルスがその中に懸濁されている正常な尿膜腔液(NAF)のすべてまたは一部を、ショ糖、リン酸カリウム、およびグルタミン酸一ナトリウム(SPG)の緩衝液、または他の単純な溶液、例えば、MSGを減少させたものなどで置換することを含む。一部またはすべてのNAF希釈液の代わりにSPGを使用することによって、溶液中のウイルスの安定性のより増大が得られる。そのような安定性は、本発明の実施形態の新規かつ予想外の恩恵である。上述した製剤特性の一部またはすべてを具体化する代表的な製剤を調製して、その構成成分である寒冷適応ウイルスの安定性を評価した。代表的製剤の組成を表28に示す。5℃における製剤の安定性を表29に示す。
【0108】
本発明の様々な製剤を、それらの安定性について、様々な月および温度にわたって試験した。例えば、表30は、12の異なる製剤を例示する。製剤10および11は、乾燥ウイルス調製物用に使用された製剤に基づいた。そのような表にある製剤は、例えば、ショ糖およびゼラチンなど、ある範囲の様々な成分を網羅したものである。表31〜34は、4つの異なったウイルス株を含むそのような調製物の安定性を、6カ月(各々2回の試料採取点)以上にわたって示すものである。図38は、B/Hong Kong株を用いた、4つの例示的製剤の結果をグラフで表す。表35は、追加の製剤の組成を示す。表35における組成物は、リゾチームなど、NAFに存在する有害な成分の潜在的な阻害を補助するために、基本的組成(すなわち、通常、10/2/2は、ショ糖約10%、アルギニン約2%、およびゼラチン約2%を意味する)に様々な化合物を追加して、試験する。表35の製剤の安定性に関する結果は、表36〜39ならびに図39および40に示されている。表40および41、ならびに図41a〜cでは、製剤中における異なった濃度のシトレートに注目している(ここでは、基礎組成が、ショ糖約10%、ゼラチン約1%、およびアルギニン約2%である)。シトレートを含む製剤は、約7〜8カ月の貯蔵で沈殿を示した。表42および43、ならびに、図42a〜cも、同様の分析を示すが、EDTAの濃度が異なっている。上記実施例からの例示的製剤の試験をさらに行った。それらを表44および45a〜dに示す。様々な濃度のショ糖、ゼラチン、アルギニン、およびEDTAなどを含む追加の製剤を、表46から48に示す。
【0109】
本明細書に記載のいくつかの一価製剤の安定性を例示するため、60%の尿膜腔液を含む組成物の安定性を試験した。試料を5℃で保存して、FFA分析で検査した。最初の2カ月は隔週で試料採取を行い、その後、毎月、9ヶ月間試料採取を行った。AFの濃度を60%とすることによって、力価が低い株でさえ、何年にもわたって必要な力価を有するVHを高い確率で生成することが可能となるだろう。未精製のVHを使用した一部の製剤は、全株試験で十分な安定性を示し、5℃、7カ月で0.5logの減失という評価基準を、ほとんど一貫して満たした。安定性を試験した株の中では、インフルエンザ株B/Hong Kong/330/01が、最も多くの問題を有していたように見えた。表30を参照のこと。この表は、ショ糖、アルギニン、ゼラチン、および13の異なった製剤用の他の成分の組成をパーセントで示す。図43は、そのような製剤中の4つのウイルス株の、9ヶ月後の安定性を例示する。未精製のウイルス組成物製剤の例示的製剤は、例えば、VH、ショ糖10%、アルギニン2%、ゼラチン2%;VH、ショ糖10%、アルギニン2%;VH、ショ糖10%、アルギニン2%、デキストラン1%;VH、ショ糖10%、アルギニン2%、PVP 0.5%;VH、ショ糖10%、アルギニン2%、ゼラチン2%、EDTA 2.5mM;VH、ショ糖10%、アルギニン2%、ゼラチン2%、クエン酸緩衝液;および、VH、ショ糖10%、アルギニン2%、ゼラチン2%、ヒスチジン緩衝液を含むものでありうる。
【0110】
ウイルス/ワクチン溶液を精製する(例えば、安定化などのために)他の方法には、溶液に安定性を与えるために、(安定化剤の添加と伴に)分画化を介してすべてのNAFの排除する技法が含まれる。しかし、本発明の様々な実施形態には、例えば、ウイルス/ワクチンがその中に存在するNAFの希釈を行うことが含まれる。例えば、本明細書に記載の様々な実施形態では、NAFの濃度が、任意選択で、溶液の約10%〜約60%を含む。他の実施形態では、NAFが、任意選択で、溶液の約20%〜約50%、または約30%〜約40%を含みうる。そのようにNAF濃度を希釈することによって、ウイルス/ワクチン溶液の安定性を、液体形態で、とりわけ所望の温度(例えば、4℃、約2℃〜約8℃など)でより高めることが可能となる。さらに、本発明の一部の実施形態では、アルギニンの使用と併せて、NAF濃度の低減を含む(上記参照)。本発明の様々な製剤の安定性を、NAFを含まない精製製剤、または、NAFを減少させた(ただし、依然としてNAF精製の)製剤であるウイルス組成物と比較した。表49は、本発明のいくつかの組成物の製剤、および様々な方法でVHがNAFから精製されているいくつかの製剤を例示する。表49に示す基礎製剤も、通常、アルギニン約2%、ゼラチン約2%、PVP約1%、デキストラン約1%、EDTA 約2.7mM、およびヒスチジン約100mMを含むことが理解されよう。表49中の数字は、図44〜46に示した製剤に対応している。
【0111】
本発明の希釈NAF実施形態を、代替的な安定化手法と比較する。そのような代替的手法では、例えばそれらの最終製剤に含まれるNAFが、最終的には10〜25%の分画されたNAFとなり、ときには、5%以下の分画されたNAFとなることもある。しかし、当業者ならば、現行の一部の実施形態に存在するNAFが、そのような分画されたNAFを含まず、その代わりに未分画のNAFからなることを理解するだろう。本発明の製剤を、安定性の点について精製されたNAF(例えば、分画されたNAFなど)から調製された他の現行のウイルス溶液と比較した。この比較での目標は、2℃〜8℃の間、例えば4℃で保存した際の力価の減失を12カ月で1.0log以下、または、力価の減失を0.080log/月以下にすることであった。本発明の製剤と比較した他の現行のウイルス製剤は、分留、ダイアフィルトレーションなどによって精製されていた。異なった製剤を、3つの異なったインフルエンザ株、H1N1株(A/New Caledonia/20/99またはA/NC)、H3N2株(A/Panama/2007/99、またはA/PAN、またはA/PA)、およびB株(B/HongKong/330/01またはB/HK)で試験し、アキュスプレイ装置(すなわち、FluMist(登録商標)用送達装置)に充填した。可能性の高い製造プロセスを模擬するため、初期ステップとして、試料を−25℃で少なくとも6日間冷凍した。
【0112】
最初の比較では、NAF精製された寒冷適応三価製剤の安定性を、本発明の非精製NAF製剤と比較した。これらの製剤は、ショ糖7%、ゼラチン1%、アルギニン1%(これらは、三価製剤との比較における標準物質である)、および、本発明の製剤用には、AF(尿膜腔液)60%を含んでいた。本発明の製剤は、6カ月後に、A/NCが−0.035±0.016、A/Panが−0.079±0.035、そしてB/HKが−0.151±0.018を示した。精製組成物の測定値は、A/NCが−0.020±0.027、A/Panが−0.011±0.020、そして、B/HKが−0.138±0.022であった。上記での単位は、logFFU/月である。表50を参照。表51は、本発明の製剤が10/2/2組成(上記参照)を用いた際の、精製製剤と、本発明の製剤との間の比較を示す。観察される初期における力価の大きな減失は、凍結融解および/または混合損失の結果と考えられる。表52も、同様の比較を示すが、FluMist(登録商標)製剤中にヒスチジンを用いており、その結果、より良好な安定性が得られて、初期の力価減失も観測されなかった。
【0113】
図44は、上で観測された初期の力価減失(凍結および/または混合損失)が、もっぱらリン酸緩衝製剤に関連したものであることを図示する。ヒスチジン緩衝液は、安定性に良い影響を与え、いかなる初期力価減失も観測されなかった。図44に示す製剤は、表49に記載のものである。図45は、6カ月後における、表49の製剤の安定性勾配の「全体」像を図示する。これから判るように、ヒスチジン緩衝の10/2/2製剤が、安定性および目標達成における最良の組合せを示した。上記参照。図46は、同様のデータの異なった視点(すなわち、月ではなく週)を与える。図47は、ゼラチン(L106)またはPVP/EDTA(L104)のいずれかを含む10/2/2+ヒスチジン製剤の安定性を例示する結果を与えた2次研究を図示する。図から見て取ることができるように、PVP/EDTAでゼラチンを置換した場合も、ゼラチンを含めた場合とほぼ同じくらい効率的に安定性が得られた。図48は、本発明のヒスチジンベース10/2/2製剤の最適pHを検査する。これから判るように、pH7.0が好ましい実施形態を構成する。pHが約6.8〜約7.2の範囲にある、ヒスチジン100mMの10/2/2製剤も本発明の実施形態に含まれる。図49は、本発明の実施形態における、ショ糖濃度の好ましい実施形態の検査を示す。一部の好ましい実施形態は、ショ糖約10%を含み、一方、他では約7%含む。図49の基本製剤は、上記の10/2/2を含み、これにショ糖ヒスチジンが添加されている。本明細書に例示した様々な実施形態で、一部の実施形態は、ヒスチジンを緩衝添加物として、かつ/または、アルギニンを安定化剤として、かつ/またはデキストランおよび/もしくはPVPをゼラチンの代わりに含む。
【0114】
本発明の他の実施形態は、任意選択で、ウイルス/ワクチン溶液の限外濾過/濃縮を用いて安定化される。そのような限外濾過は、通常、NAFの低減/希釈に対する、溶液安定性を実現するための代替手段である。例えば、なんらかの状況で、特定の株/溶液の力価(titer)または力価(potency)が低い場合、NAF希釈(これは、溶液の力価(titer/potency)をさらに低下させるように作用するかもしれない)に代わりに任意選択で限外濾過を用いることができる。グループ4のステップにおける限外濾過は、上述のマイクロフィルター濾過とはわずかに異なっている。以前のグループでは、濾過は、例えば無菌性を目的としており、それに対して、このグループでは、濾過は、安定性などに関するものである。また、ウイルスは濾過中にも保持される。上記参照。
【0115】
力価アッセイ
本明細書に記載の一部の実施形態では、ウイルス/ワクチンの力価測定を細胞ベースELISA(すなわち、細胞ベースELISA、またはCELISA、弱毒生インフルエンザウイルスワクチンであるFluMistまたは他のそのようなワクチンの力価測定に用いる)によって行う。そのような方法は、生ウイルスの力価測定に用いる、より伝統的な中央値組織培養感染量(TCID50)アッセイの、より単純で迅速な代替手段である。簡潔には、96ウェルマイクロタイタープレート中のマディンダービーイヌ腎(MDCK)細胞の集密的単層培養を、生ウイルスを含有する試料で感染させ、感染後16〜18時間でホルマリン固定し、インフルエンザウイルス特異的なモノクローナル抗体(Mab)と反応させる。次いでウイルス抗原に結合したMabの検出を、抗マウスIgGペルオキシダーゼと、可溶性の着色産物を発生するペルオキシダーゼ基質とを用いて、その光学濃度(OD)を分光光学的に測定することで行う。当業者ならば、インフルエンザ株の様々なサブタイプに共有されているエピトープ/抗原を熟知しているであろう(例えば、様々なHAなど)。試料中にある生ウイルスの力価は、確証済みのTCID50力価アッセイで得られた既知のlog10 TCID50値を有する生インフルエンザウイルス較正株を用いて作成された標準曲線から計算する。CELISAは、log10 TCID50が4.9〜6.7の範囲で線形(rが9.95以上)であることが示されている。試験日間、分析者間、プレート間、プレート内(残留)変動(log10 TCID50の標準的偏差)は、それぞれ0.06、0.02、0.05、および0.03であった。CELISAで測定した、いくつかのワクチン、ならびに野生型インフルエンザA/H1N1、A/H3N2、およびB株の力価は、平行して行った、確証済みTCID50力価アッセイで測定した力価と同程度のものであった(±0.3 log10 TCID50)。CELISAは、2日間の間に最大10試料/プレートの力価を測定できるが、それとは対照的に、確証済みTCID50力価アッセイでは、6日間に2試料/プレートである。CELISAは、任意選択で、力価アッセイの他の方法(例えば、FFAおよびTCID50、下記参照)の代わりに、またはそれらに加えて用いる。
【0116】
中央値組織培養感染量50%(TCID50)アッセイ(より詳細には下記参照)は、生ウイルスおよび生ウイルスワクチンの力価測定に広く用いられている方法である。しかし、本明細書に記載の一部の実施形態では、弱毒生ワクチンであるFluMist(または他の同様のワクチン)に含まれるインフルエンザウイルスの力価を測定するのに、細胞ベースELISA(CELISA)を、時間と労力とを必要とする伝統的なTCIDアッセイに代わるより簡単でより迅速な代替手段として使用してもよい。
【0117】
他の典型的な実施形態では、ウイルス溶液の力価アッセイが、当技術分野で用いられている一般的なTCID50アッセイではなく、蛍光焦点アッセイ(FFA)を含んでもよい。そのようなFFAは、自動化がより容易であるという追加の恩恵を有しており、そのため、時間内処理量がより大きいワクチン生産を可能にする。通常、TCID50アッセイは、特定の細胞培養の50%を感染させるであろうウイルス懸濁液または溶液の量を測定する。この測定は、正確な結果を与えるが、FFAより遅く、そのため、ワクチン生産における貴重な時間を使い果たしてしまう可能性もある。FFAアッセイは、感染細胞中のウイルス抗原を検出するのに、通常、タイプ特異的かつ/またはサブタイプ特異的(または、普遍抗原特異的)抗インフルエンザ抗体(通常、抗HA抗体)を用いる。抗体がインフルエンザの異なったタイプ/サブタイプで交差反応しない場合の使用では、多ウイルス調製物(例えば、三価ワクチン製剤)中の別々のウイルス型を定量するのにそれらを用いられることもできる。FFAアッセイは、特定の株に関する同定試験として用いることもできる。当業者ならば、FFAおよびウイルス/ワクチン試験におけるそれらの使用にかなり熟知しているであろう。
【0118】
蛍光焦点アッセイは、他方で、細胞死(感染細胞または指標細胞)の誘導に依存しない。代わりに、それらは、単層細胞培養における感染細胞の中のウイルス抗原を検出する抗体染色法を用いる。次に、これらの感染細胞は、ウイルス特異抗体上の蛍光標識を用いて可視化され、定量される。本発明の典型的なFFAは、感染細胞中のウイルス抗原を可視化するのに、例えば、タイプ特異的およびサブタイプ特異的な抗インフルエンザHA抗体を用いる。
【0119】
他の実施形態では、FFA(および、任意選択で、本明細書に記載の他のアッセイ)は、任意選択で、汎用試薬(または、普遍的抗原)を用いる。この場合、汎用試薬は、特定のタイプ/サブタイプのインフルエンザ抗原に特異的ではなく、代わりに、汎用インフルエンザ抗原に特異的なものである。したがって、汎用試薬は、FFAで多数の異なったスクリーニングを行う際に、場合によっては有用であり、異なったウイルスをアッセイする度にタイプ/サブタイプ特異的抗体を、開発して、産生する必要がない。
【0120】
本明細書に記載の他の実施形態は、細胞ベース蛍光分析アッセイ(CFA)を用いたウイルスの力価測定を含む。FFAアッセイは、多くの実施形態でかなり有用であるが、他の実施形態では、CFAアッセイが優先的に用いられる。FFAアッセイの画像処理および出力は、約20プレート/人/日(または、約5プレート/時間の画像処理)にまで達しうるが、CPAアッセイからの画像処理および出力は、さらにその約4倍の速さにまで達しうる。また、FFA力価は、B型インフルエンザ株で、TCID50力価と異なることがあるが、CFA力価は、アッセイ標準物質または較正物質の使用のため、TCID50(または、FFA)力価からの有意差を示していない。簡潔には、CFAアッセイは、96ウェルプレートで増殖しているMDCK細胞中の感染性インフルエンザウイルスを測定する。FFAと同様、CFAは、最初の感染サイクル中に、MDCK細胞のウイルス感染の結果として生じるウイルスタンパク質の発現を検出する。CFAアッセイは、力価計算に較正物質またはアッセイ標準物質を利用する。CFA試薬として、典型的抗体試薬は、HA、またはA株およびB株(インフルエンザの場合)に特異的な一次抗体と、二次抗体、例えば、アレクシア488に結合したヤギ抗マウスIgGとを含むことができる。CFA用のアッセイ標準物質は、試験される試料と同じ株で、FFAまたはTCID力価が既知のウイルス収集物を含むことができる。CFA用のアッセイ参照は、既知のFFAまたはTCID力価、および既知の線形勾配を有するウイルス収集物(必ずしも試験される試料と同じ株である必要はない)を含むことができる。試料一次抗体は、例えば、作業希釈率1:2000の、例えば、A/H1N1またはA/H2N2株に特異的なもの(例えば、Takara社から購入)、例えば、作業希釈率1:1000の、A/H3N2株に特異的なもの(例えば、Takara社から購入)、および、例えば、作業希釈率1:1000の、B株に特異的なもの(例えば、Chemicon社から購入)を含むことができる。典型的なCFAアッセイ操作は、ウイルス接種、それに続く、33℃で18時間のインキュベーション、それに続く、固定、および室温で15分間のインキュベーションを含むことができる。その後、37℃で60分間の一次抗体インキュベーションに続いて、37℃で60分間の二次抗体インキュベーションが行われる。その後、蛍光計でプレートを読み取り、データを分析する。CFAの一部の実施形態では、ウェルの感染レベルなどを、タンパク質発現を介して測定する(感染した細胞の数を測定する典型的なFFAアッセイとは対照的に)。当業者ならば、通常のFFAアッセイおよび蛍光分析を知っているだろう。そして、同様の注意点がCFAアッセイにもあてはまる。
【0121】
準自動TCID50アッセイ
上述のように、本発明のいくつかの実施形態は、TCID50アッセイ、およびその様々な改変などを含む。例えば、一部の実施形態は、以下の記述によって例示されるように、準自動化された変形形態を含む。
【0122】
この節では、弱毒生インフルエンザウイルスワクチン、例えば、FluMist(登録商標)または他の同様のワクチンの力価を測定するための手動および準自動の中央値組織培養感染量(TCID50)アッセイの比較を提供する。TCID50力価アッセイは、任意選択で、FluMistまたは他の同様のワクチンの力価測定に用いられる。準自動TCID50力価アッセイについて記載されているが、そこでは、確証済み手動力価アッセイの労力要求的な2つのステップに改善がなされている。これらは、(i)試料希釈およびMDCK単層感染に、ステップ中、何度も手動で希釈を反復していた代わりに、自動ピペットステーションを使用すること、および、(ii)MDCK細胞におけるインフルエンザウイルス誘発性の細胞変性効果(CPE)の存在を評価するために、全アッセイプレートの96ウェルそれぞれを手動で光学顕微鏡観測していた代わりに、細胞健康/生存率の指標として広く用いられている生体染色剤であるMTT(3−(4,5ジメチルチアゾール−2−イル)−2,5−ジフェニルテトラゾリウムブロマイド)の産物を、感染後の6日間、96ウェルプレートリーダーを使用して分光光度的に測定することである。
【0123】
本明細書に記載の一部の実施形態で用いられた準自動TCID50力価アッセイの開発および検証を行って、精度(反復性:<0.25 log10 TCID50;中間精度:SD(日)<0.3 log10 TCID50;SD(分析者)およびSD(機器)<0.4 log10 TCID50;90%信頼区間での再現精度 ±0.3 log10 TCID50)、線形性、精度、および範囲(勾配1±0.1)を実証した。自動ピペットステーションおよびMTT色素を用いた準自動TCID50力価アッセイは、確証済みの手動TCID50力価アッセイと同等の結果を提供することが示された(90%信頼区間で±0.3 log10 TCID50)。簡潔には、ここに記載した結果は、例えば、FluMist(登録商標)生成におけるインフルエンザウイルスの力価の測定で、ピペットステーションおよびMTT色素を使用することを支持するものである。これらの改良は、試験の時間内処理量も増大させる。
【0124】
感染力/力価(一価)アッセイの検証
一価インフルエンザ株の力価を測定する現行の手動法の準自動変形形態は、FluMist(商標)ワクチンおよび他の同様のワクチンの製造にも任意選択で使用される。準自動力価アッセイは、プレートの洗浄、および系列希釈ステップの自動化を組み込み、手動での顕微鏡検出に代わって、色素をベースにした、ウイルス誘発性細胞変性効果(CPE)の自動検出を行う。プレート洗浄および系列希釈ステップの自動化は、アッセイの時間内処理量の増強を可能にし、このアッセイを行う品質管理分析者に対する反復性運動外傷の危険を低下させる。ウイルス誘発性CPEの色素ベースによる自動検出は、顕微鏡検出を排除することによってアッセイの一貫性および時間内処理量を増強する。
【0125】
準自動アッセイの一部のステップ/態様は、より伝統的なTCID50アッセイと同様であるが、他のステップ/態様は全く異なっている。アッセイステップには、マディンダービーイヌ腎(MDCK)単層を含有しているアッセイプレートの調製、インキュベーション、および洗浄、アッセイプレートの感染および感染後インキュベーション、ならびに、CPE陽性ウェルの数および両アッセイにおける試料試験配置に基づいた力価の計算が含まれる。準自動の力価アッセイが検証され、このアッセイの成績は、発明者らおよびその同僚による現行の手動アッセイと同等のものであることを実証した。この準自動アッセイは、任意選択で、拡張された野生型インフルエンザ(eWT)、マスターウイルス種子(MVS)、製造会社の作業ウイルス種子(MWVS)、および、ウイルス収集物(VH)試料の感染力/力価を測定する主要な方法として用いられる。手動アッセイは、任意選択で、準自動アッセイを行うことができない状況、すなわち、長期の設備休止がある場合のバックアップとして用いられる。
【0126】
伝統的な中央値組織培養感染量(TCDID50)アッセイは、感染性の細胞破壊性ビリオンを測定する細胞ベースの方法である。MDCK細胞を96ウェルプレートで培養し、集密状態の単層にウイルス試料の系列希釈を接種する。MDCK細胞中でのウイルスの複製によって細胞死がもたらされる。子孫ウイルスが他の細胞に感染し、最終的には単層の破壊がもたらされる。感染から生じたCPEは、6日間のインキュベーション期間中に発達が許される。各ウェルにおけるCPEの存在を判定するために、個々のウェルが、微視的に読み取られる。この操作によって、毎日4回の個別の測定が3日間行われ、全12回の力価測定の結果が平均され、1つの試験結果が生じる。試料に加えて、各分析者は、一価の対照1つを分析し、これも3日間、毎日、4複製の測定を行う。
【0127】
手動のアッセイは、労力要求的であり、サンプル時間内処理量が限られている。個々の測定それぞれが、頻繁な細胞洗浄と、系列希釈ステップとを含み、それらは、手動のピペッターを用いて行われる。96ウェルアッセイプレートの各ウェルについて、検鏡によってCPEの存在または不在を記録しなければならない。多数のプレート洗浄および希釈ステップは、分析者に反復性運動外傷のリスクを与えるものである。加えて、96ウェルプレートの個々のウェルをそれぞれ顕微鏡で読み取っていくのは、ひどく疲れさせる作業であり、これによって、各分析者が1日に行うことのできる分析数が1日当たり約20プレートに制限される。1つの試験結果は、3日間の試験期間にわたる12回の測定の平均として得られ、各分析者は、試料に加えて、1回の一価アッセイ対照を行う。これは、アッセイ時間内処理量を、3日間の試験期間あたりに1人の分析者あたり9試料(平均して1分析者、1日あたり3試料)に制限する。一価インフルエンザワクチン収集物の個々のサブロット(1ロットあたり約40から50サブロット)がこのアッセイによって試験されるため、このような時間内処理量の制限は、ワクチン(例えば、FluMist(商標)ワクチンなど)を本格的な規模で商業化するための容量に制限を与えうるものである。
【0128】
伝統的なアッセイ、とりわけプレート洗浄およびピペット操作ステップ、ならびに、MTT(3−[4,5−ジメチルチアゾール−2−イル]−2,5−ジフェニル−テトラゾリウムブロマイド)色素ベースのCPE検出を自動化することによって、一価インフルエンザウイルスの準自動TCID50力価アッセイが開発される。準自動アッセイは、洗浄ステップにSkatron(商標)細胞洗浄機を用いるが、その際には、砕片および使用済みの培地が細胞培養プレートから除去され、新しい培地で置換される。ウイルスの逐次10倍希釈を行ったり、希釈された試料を、96ウェルアッセイプレート中の単層細胞培養に移したりするには、Matrix社製SerialMate(登録商標)多チャンネルピペットステーションを用いる。当然ながら、同様の機能を行う他の装置も、ここで、任意選択で、代用され、装置の特定のブランド/タイプの特異的な言及も、そうであると明確に示されない限り、限定として理解されるべきではない。6日のインキュベーション期間の後、96ウェルアッセイプレートを、MTT色素と共に6時間インキュベートする。MTT色素は、細胞代謝および生存率の広く受け入れられた指標である。インキュベーション期間中、無傷で健康な細胞単層は色素を処理して、不溶性、紫色のホルマザン生成物を形成する(生成物は細胞内に蓄積する)。細胞単層が破壊されているウェルでは、色素生成物が形成されない。その後、界面活性剤ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)20%を含有する0.01N塩酸の可溶化溶液を添加し、プレートを終夜インキュベートして、不溶性の色素生成物を溶解させる。570nmの吸光度を測定し、紫色のホルマザン色素生成物を定量する。吸光度の読取りは、Microsoft社製Excel(商標)のマクロプログラム(または、他の同様のプログラム)を用いて処理して、CPE陽性ウェルまたは陰性ウェルの同定および計数を行い、TCID50力価を計算する。無傷の細胞単層を含有するウェルは、予め決められたカットオフ値と比較して、さらに高い吸光度を示し、CPE陰性として同定され、一方、CPEの陽性ウェルは、カットオフ値より低い吸光度読取り値を示す(図50を参照)。次に、各希釈でCPEを示すウェルの数を用いて、Reed−Muench法のKarber修正に基づいて力価(log10 TClD50/mL)を計算する。細胞洗浄、系列希釈、およびウイルス接種ステップ、ならびに、MTT色素ベースのCPE検出の自動化について、以下に詳細に説明する。
【0129】
Skatron(商標)細胞洗浄機を用いた細胞洗浄ステップの自動化
手動のアッセイでは、96ウェルプレート中のMDCK細胞単層を含有するプレートは、希釈されたウイルス試料の接種の前に2回洗浄する。4日の細胞インキュベーションから生じた廃棄物およびウシ胎児血清(FBS)を含有する使用済み培地を除去し、FBSを含まない新たなウイルス増殖培地(VGM)で置換する。次に、細胞を、33±で1℃、5±1%COで、少なくとも10分間インキュベートし、その後、VGMを除去し、再度、新たなVGMで置換する。各洗浄ステップでは、個々のプレートを清潔なペーパータオル上に逆にし、穏やかに吸い取りウェルから培地を除去し、その後、携帯用多チャンネルピペッターを用いて、各ウェルに200μlの新たなVGMを再充填する。処理するプレートの数が多いときには、この過程は、労働集約的で、時間もかかる。
【0130】
Skatron(商標)Skanwasher(シリーズ300、モデル12010)は、マイクロプロセッサー制御の96チャネル細胞洗浄機であり、これらの洗浄ステップを自動的に行う。Skanwasherは、十分に小さく、6フィートの層流バイオセーフティフードに入れることができる。Skatron(商標)Skanwasherを用いた、細胞プレートの洗浄ステップの自動化には、使用済み培地をプレートから吸引して、その後、新たなVGMを空のウェルに分注する洗浄プログラムが含まれる。個々のプレートがSkanwasherに搭載され、その後、洗浄サイクルが終わったときに、33±1℃、5±1%COのインキュベーターに移される。プレートを最低10分間インキュベートし、その後、第2の洗浄のため、Skanwasherに搭載し、その後、それらをインキュベーターに戻す。これらの洗浄ステップにおける、Skatron(商標)Skanwasherの作業性能は、細胞洗浄ステップでの使用に許容できることが示されている。200μl容積における分注精度のCVは、<10%であり、分注の正確さは10%以内である。吸引ステップでの残気量は1%未満である。したがって、Skatron(商標)Skanwasherは許容できる性能を提供し、一方で、使いやすさと、細胞洗浄ステップにおける時間内処理効率とを改善する。ここでも、同じ標準で機能できる同様の装置が、任意選択で使用されることが理解されよう。
【0131】
Matrix社製SerialMate(登録商標)多重チャネルピペットステーションを用いて自動化された系列希釈およびウイルス接種
伝統的な手動TCID50アッセイの系列希釈およびウイルス接種ステップは、携帯用多重チャンネルマイクロピペットによって行う。系列希釈は、2ステップで行う。最初のセットの5回の系列希釈は、0.5mLの希釈ブロックで行い、その後、第1ブロックからの適切な希釈を、最終5回の系列希釈用に、2mLの希釈ブロックに移す。いずれの1つの希釈でピペットの誤操作があっても、それが伝播され、後続のシリーズを通して拡大される可能性があるため、これらの系列希釈を慎重に実行することが重要である。後続のウイルス接種ステップには、希釈されたウイルスを、集密状態の細胞単層を含有しているアッセイプレートの複数の行または列に繰り返しピペット注入することが含まれる。長時間の使用によって、これらのタスクに必要な精度が得られたが、携帯用多チャンネルマイクロピペットを長時間使用すると、重度の筋肉疲労および腱炎を引き起こす可能性があり、それによって、各分析者が1日に行うことのできるプレートの数が制限され、したがって、全過程の時間内処理量も制限される。
【0132】
系列希釈およびウイルス接種ステップでMatrix SerialMate(登録商標)ピペットステーションを使用することによって、使いやすさと、アッセイの時間内処理量とが改善され、操作者傷害の発生が抑制され、一方で、これらのタスクに必要な精度および正確さも提供される。Matrix SerialMate(登録商標)ピペットステーションは、5μ〜225μlの範囲の容積を吸引および分注できる、12チャネルの筒先を備えた卓上液体操作ステーションである。この装置は、標準の4または6フィートバイオセイフティキャビネットに入れるのに十分に小さく、さらに使いやすい。Matrix SerialMate(登録商標)は、5μlから225μlの送達容積において、0.5μlより高い精度と、1.0μlより優れた正確さとを提供する。これは、系列希釈ステップで用いられる30μlの送達容積に対して、±1.7%より優れた正確さと、±3.3%より高い精度とに対応している。自動化アッセイと、現行の手動アッセイとを用いて得られたアッセイ結果が相互に比較しうるものであるかどうかは、以下の記載の通りに確認される。ここでも、同じ標準で機能できる同様の装置が、任意選択で使用されることが理解されよう。
【0133】
MTT色素ベースの検出に関する記述
TCID50アッセイにおける最終ステップは、CPEの検出およびウイルスの定量化である。現行(手動)のTCID50アッセイでは、各ウェルにおけるCPEの徴候を探すために、個々のウェルを顕微鏡によって読み込む。これらの徴候には、フォーカス領域、細胞単層の部分的または完全な崩壊、および破壊された細胞単層上の丸くて暗色の細胞の存在が含まれる。分析者が多数のプレートを数えることによって、かなりの眼精疲労が引き起こされることが観測されており、それによって、1人の操作者が数えることのできるプレート数の実際的な限界が、約20プレートに設定されている。このステップは、手動アッセイの時間内処理量に対して律速となっている。
【0134】
テトラゾリウム色素は、細胞生存率の指標として広く用いられている。最も一般的に使用されている色素は、黄色のMTT色素である。活性のミトコンドリアを保持している生存細胞は、MTT色素を還元して不溶性、紫色のホルマザン生成物に変換し、可溶化ステップの後に、これを570nmで検出することができる。CPEの陽性ウェルでは、大多数の細胞が破壊されており、色素生成物がほとんど形成されず、はるかに低い吸光度が観測される。
【0135】
準自動TCID50アッセイでは、感染、および6日間のプレートのインキュベーションの後、使用済みの培地を除去し、新しいウイルス増殖培地に0.5mg/mLのMTT色素を含む溶液100μlを、96ウェルプレートの各ウェルに添加し、細胞を、37±1℃、5±1%COで、6時間インキュベートする。色素生成物は、可溶化試薬(0.01N HCl中20% SDS)100μlを添加した後、37±1℃で、夜通しインキュベートして可溶化し、その後、紫色のホルマザン色素生成物による570nmの吸光度をプレートリーダーで測定する。吸光度データは、予め設定したカットオフ値に基づいて、吸光度測定値をCPEカウントに変換する確証済みのMicrosoft社製Excel(商標)マクロ(または、他の同様のプログラム)に移す。無傷の細胞単層を含有するウェルは、予め決められたカットオフ値と比較して、さらに高い吸光度を示し、CPE陰性として同定される。CPEの陽性ウェルは、カットオフ値より低い吸光度読取り値を示す。次に、各希釈でCPEを示すウェルの数を用いて、Reed−Muench法のKarber修正に基づいて力価(log10 TClD50/mL)を計算する。
【0136】
自動化された色素ベースの検出は、CPE判定の一貫性と、アッセイの時間内処理量の増大を促進する。色素ベースの検出が、顕微鏡による手動のCPE検出と比較できるものであるかどうかは、大規模な研究によって確証される。この研究では、様々なワクチンと、野生型ウイルス株と、様々な細胞継代数および播種密度で調製されたプレートとを用いてアッセイを行った。これらの研究では、最初にプレートを手動で検鏡し、その後、色素ベースの吸光度検出で読み込んだ。これらの研究で得た結果を分析して、両方の検出法で同等のCPEカウントを提供した、汎用吸光度カットオフ値を決定した。570nmの吸光度で0.5254である、この汎用カットオフ値は、9人の異なった分析者が、3台の異なった機器において、合計573枚のアッセイプレートを用いて、6日間のアッセイ日にわたってアッセイを行った詳細な研究によって確認した(下記参照)。各ウェル(1プレートあたり80ウェル、合計で45840ウェルにウイルスが接種された)でのCPEの存在または不在を、まず手動の検鏡によって、その後、色素ベースの吸光度検出で読み取った。
【0137】
図50は、ウェルの吸光度読取り値に対して、その値の頻度(その吸光度値が読まれたウェルの数)をプロットすることによって得られたヒストグラムを示す。頻度測定によって、A570=0.5254の吸光度カットオフ値は、CPE陰性ウェルの分布における最も左のテール(確率=0.007%)に位置し、かつ、CPE陽性ウェルの分布における最も右のテール(確率=0.02%)に位置することが示された。このカットオフ値を用いた両方の方法による、各ウェルのCPE検出を比較したところ、ほとんどのウェル(45840のうち45279、98.78%)が、色素ベースの検出と、検鏡との両方によってCPE陽性またはCPE陰性として同定される1対1対応を示した。
【0138】
準自動力価アッセイの検証
一価インフルエンザワクチンウイルスを分析するための準自動中央値組織培養感染量(TCID50)力価アッセイは、拡張された野生型インフルエンザ(eWT)、マスターウイルス種子(MVS)、製造会社の作業ウイルス種子(MWVS)、および、ウイルス収集物(VH)試料の感染力/力価の測定に意図される。このアッセイの検証を行い、準自動TCID50アッセイの精度(再現精度(repeatability)、中間的精度、および再現精度(reproducibility))、線形性、正確さ、および範囲を実証し、それが手動のTCID50アッセイと同等の結果を提供することを示す。検証試験は、A/H1N1型の1株、A/H3N2型の1株、およびB型の1株を含むように選択された、3株の異なった一価ワクチン株で行った。アッセイ検証は、実験室相互での再現性を実証するため、異なった実験室で、2つの別々のグループによって行った。準自動アッセイの精度(試験間変動)、線形性、正確さ、および範囲を、手動アッセイで観測されたそれらと、表53で比較する。
【0139】
準自動アッセイの試験間標準偏差(SD)を、3株のワクチン株のそれぞれに関して、同じ分析者グループが、同じピペットステーションで実施した6回の試験から評価した(3日間に得られた12の測定を平均することによって、各試験結果を得る)。準自動アッセイの試験間変動に関する合格基準は、0.25 log10 TCID50/mlであった。これは、手動アッセイで観測された最大の変動性(0.11 log10 TCID50単位)に基づく、単一試験結果の95%信頼区間の半値幅である。3つの株の準自動アッセイで得られた実際のSD値は、0.06〜0.09 log10TCID50/mlの範囲であった。これらの値は、SD<0.25 log10 TCID50単位という合格基準内にあり、3株のそれぞれの3つの独立したロットで行った9回の繰返し試験で得られた、手動TCID50アッセイで観測された試験間変動(0.07〜0.11 log10 TCID50単位)と同程度である。
【0140】
このアッセイが、10倍の希釈範囲(4.2〜9.3 log10TCID50/mLの力価範囲)で線形であることの立証を、計算されたTCID50力価と、測定されたTCID50力価との相関が、1%有意レベルでの線形モデルへの適合性の欠如に関する試験に合格したことを示すことによって行った。このアッセイは正確であった。すなわち、3つの株で、1.00〜1.02の勾配を有し、それらはすべて、合格基準である勾配1±0.1の範囲内にあった。準自動アッセイの線形性、正確さ、および範囲は、手動アッセイと同程度である。表53を参照。
【0141】
準自動アッセイの中間的精度を、変量効果モデルを、A型1株およびB型1株のワクチンウイルス株に関して、2つ分析者グループによって9つの様々なアッセイ日にわたって得られた18試験のセットに適合させることによって実証した。試験日間変動(SD(日))、分析者グループ間変動(SD(分析者))、機器間変動(SD(機器))の測定された標準偏差の範囲は、それぞれ0.04〜0.08、0.14〜0.16、および0.000〜0.03であったが、それらは、SD(日)<0.3、SD(分析者)<0.4、およびSD(機器)<0.4の合格基準を満たした。
【0142】
アッセイの実験室間再現性を、A/H1N1型1株、A/H3N2型1株、およびB型1株に関して、2箇所の異なった実験室でアッセイを実行することによって実証した。実験室間の合格基準は、2つの実験室で得た結果の平均の相違における90%両側信頼区間が±0.3 log10 TCID50/mlの範囲にあることを必要とした。この合格基準は満たされた。すなわち、90%の信頼区間の下限および上限が、それぞれ、3株すべてで、−0.05超および+0.15未満であった。
【0143】
手動アッセイと、準自動アッセイとが比較できるものであることを実証するため、詳細な統計的比較を行った。2つのワクチン株、A/H1N1型1株(A/New Caledonia/20/99)およびB型1株(B/Yamanashi/166/98)を手動でアッセイして、各株について18試験の結果を得た。各株について手動で得た全18試験の結果のデータをプールし、準自動試験に関して行った精度および中間精度研究から得て、プールされている試験結果(1株あたり18試験結果)と比較した。方法間平均差およびその90%信頼区間(CI)を推定するため、SASのProc Mixed法を用いた。合格基準は、90%CIが±0.3 log10 TCID50/mlの範囲内になければならないこと、すなわち、90%CIの下限(LB)が−0.3より大きくなくてはならず、かつ、上限(UB)が0.3未満でなければならないことである。結果は、アッセイ検証報告に提示されており、また下記表54に要約されている。結果から判るかもしれないが、90%の両側信頼区間は、両方の株に関して、合格基準の±0.3 log10 TCID50/mLの範囲にあった。すなわち、下限および上限の実際の推定値が−0.05から0.10 log10 TClD50/mlの範囲にあった。
【0144】
したがって、要約すると、一価インフルエンザウイルスの手動TCID50力価アッセイは、拡張された野生型インフルエンザ(eWT)、マスターウイルス種子(MVS)、製造会社の作業ウイルス種子(MWVS)、および、ウイルス収集物(VH)試料の1価インフルエンザワクチン株の感染力/力価を測定する伝統的な確証済みアッセイであるが、それは、頻繁な手動ピペットステップを含む労働集約的な方法であり、分析者に反復性運動外傷の危険を引き起こす。さらに、それは手動の顕微鏡のCPE判定を用い、それによって、アッセイ時間内処理量が、1分析者、試験日1日あたり3試験に制限されている。プレート洗浄および手動ピペット操作ステップの自動化、ならびに手動の顕微鏡判定のかわりにMTT色素ベースのCPE検出を行うことによって、一価インフルエンザウイルスの準自動TCID50力価アッセイが発展しうる。一価物質を試験するための準自動アッセイを実現することによって、場合によっては、アッセイ時間内処理量が2〜3倍増強され、FluMist(商標)ワクチンなど、市場に予期されるレベルの用量で、ワクチンを実際的に商業化することが可能となる。別の恩恵は、品質管理分析者が反復性運動外傷になる危険が低下することである。
【0145】
準自動アッセイは、検証されて、4.2〜9.3 log10 TCID50/mLの範囲の力価のウイルス物質のアッセイで再現性、中間的精度、線形性、および正確さがあることが、あるグループで実証されている。また、このアッセイは、別のグループでも検証されて、実験室間再現性があることも実証された。
【0146】
準自動アッセイおよび手動アッセイの両方を用いることによって得られた、A型1株およびB型1株のインフルエンザの反復された力価測定値に関する結果の詳細な統計的比較も、2種類のアッセイが同等の結果を産することを示した。したがって、準自動アッセイは、拡張された野生型インフルエンザ、FluMist(商標)マスターウイルス種子(MVS)、製造会社の作業ウイルス種子(MWVS)、および、ウイルス収集物(VH)試料の力価の測定における使用に関して、手動アッセイに匹敵するものであると実証されている。
【0147】
準自動TCID50アッセイにおけるCPEの汎用カットオフ値
本明細書に記載のさらに他の実施形態では、TCID50アッセイの他の変形および修正が、ワクチン/ウイルスの力価を測定するのに利用される。そのような改変の1つは、一価インフルエンザウイルスのTCID50準自動力価アッセイのための、CPE評価用の汎用カットオフ値の確認である。「一価インフルエンザウイルスの準自動TCID50力価アッセイ」(上記参照)は、感染されたMDCK細胞の単層における細胞変性効果(CPE)を記録するために、生存細胞色素MTT(3−(4,5ジメチルチアゾール−2−イル)−2,5−ジフェニルテトラゾリウムブロマイド)を用いる。CPE陽性ウェルの数を検出するために、MTT比色分析終点を用いてウイルス力価を確実に測定するためには、CPE陽性ウェルと、CPE陰性のウェルとを再現性を持って識別する吸光度カットオフ値を確立すると有用である。発明者らの他の研究に記載されているように、「汎用カットオフ」吸光度(A570)値、0.5254が決定されている。「一価インフルエンザウイルスの準自動TCID50力価アッセイ」では、吸光度値がA570<0.5254である場合に、ウェルがCPE陽性であるとみなされ、CPE陰性ウェルは、A570>0.5254の吸光度値を有する。
【0148】
この節に要約されているデータは、以前に決定された汎用カットオフ値を検証する。寒冷適応インフルエンザ株、A/New Caledonia/20/99(A/H1N1型)、A/Sydney/05/97(A/H3N2型)、およびB/Yamanashi/166/98(B型)の大規模な試験は、汎用カットオフ指定の補強データを生み出すだけはなく、分析者相互および機器相互の比較も可能にする。本明細書に提示したデータは、準自動TCID50アッセイの堅牢性、再現性、および信頼性を実証し、確証済みの手動力価アッセイと比較できるものであることも実証する。したがって、実施形態の力を例示することには、これらの測定も含まれる。
【0149】
上記に説明したように、中央値組織培養感染量(TCID50)アッセイは、感染性の細胞破壊性ビリオンの力価を測定する細胞ベースのアッセイである。ウイルス試料の系列希釈を、96ウェルプレートで増殖しているマディンダービーイヌ腎(MDCK)細胞の集密的な単層に添加する。MDCK細胞中でのウイルスの複製が細胞代謝に影響を与え、最終的には、子孫ウイルスの培養上清への放出と、細胞死とをもたらす。子孫ウイルスが次に他の細胞に感染し、最終的には単層の破壊がもたらされる。感染から生じた細胞変性効果(CPE)は、6日間のインキュベーション期間中に発達が許される。この期間の後、MTTは、細胞単層にCPEが存在するか、存在しないかを検出するのに用いられる。MTFのような生体染色剤は、細胞ベースのバイオアッセイで、細胞健康および生存率の指標として広範に使用されている(例えば、Denizotら、J.Immun.Methods(1986)、第89巻、271〜277頁;Gerlierら(1986)、J.Immuno.Methods、第94巻、57〜63頁;Heegら、J.Immuno Methods(1985)、第77巻、237〜246頁;Mooseman、J.Immuno.Methods(1983)、第65巻、55〜63頁;Tadaら、J.Immuno.Methods(1986)、第93巻、147〜165頁、Vistica、Cancer Research(1991)、第51巻、2515〜2520頁参照)。生存細胞(CPE陰性)の無傷の単層を含有するウェルは、色素を処理して、紫色のホルマザン色素生成物にし、570nm(A570)で高い吸光度値を産する。対照的に、CPE陽性のウェルは、ウイルスによって引き起こされた部分的または完全な単層破壊のため、より低い吸光度値によって特徴付けられる。CPE陽性ウェルの数を検出するために、比色分析終点を用いてウイルス力価値を確実に測定するためには、CPE陽性ウェルと、CPE陰性のウェルとを再現性を持って識別する吸光度カットオフ値を確立すると有用である。汎用カットオフ値と併せて使用され、ウイルス試験試料からの吸光度値はCPE陽性またはCPE陰性として記録される。CPE陽性ウェルの数は、ウイルス力価(log10 TCID50/mL)を計算するのに用いられる。
【0150】
発明者らとその同僚とによる仕事は、3株のインフルエンザウイルスを用いて、数日間にわたって、複数の分析者によって行われた2つの研究に基づいて、汎用カットオフ値の初期推奨値を提供する。記載されているように、吸光度値がA570<0.5254である場合に、ウェルがCPE陽性であるとみなされ、CPE陰性ウェルは、A5700.5254の吸光度値を有した。この節は、以前に決定された吸光度カットオフ値を検証するために設計された追加実験について説明する。2つの独立したアッセイグループからの複数の分析者が、3株の参照ウイルス株の力価を、準自動TCID50アッセイを用いて測定した。記載されているように、検鏡による確証済みの手動方法で評価されたCPEは、「金標準」であるとみなされ、MTTで判定したCPEと比較された。A/New Caledonia/20/99(A/H1N1型)、A/Sydney/05/97(A/H3N2型)、およびB/Yamanashi/166/98(B型)の大規模な試験は、汎用カットオフ指定の補強データを生み出しただけはなく、分析者相互および機器相互の比較も可能にした。本明細書に提示したデータは、準自動TCID50アッセイの堅牢性、再現性、および信頼性を実証し、確証済みの手動力価アッセイと比較できるものであることも実証する。
【0151】
準自動力価アッセイの開発は、確証済みの手動力価アッセイを用いて事前に測定された既知の力価値を有する参照ウイルス株の使用を必要とした。参照寒冷適応ウイルス株は以下の通り、A/New Caledonia/20/99、A/H1N1型ウイルス;A/Sydney/05/97、A/H3N2型ウイルス;およびB/Yamanashi/166/98、B型ウイルスであった。寒冷適応対照ウイルス株A/Sydney/05/97を、システム適性を確認するのに使用した。
【0152】
一価インフルエンザの準自動TCID50力価アッセイ方法、半プレート複製用の全体的アッセイ配置、および視覚的なCPEスコアリング方法は、発明者らおよびその同僚が開発した。上記参照。簡潔には、96ウェルプレート中のMDCK細胞の集密的な単層を、Skatron(商標)細胞洗浄機を用いて、ウイルス増殖培地(VGM)で2回洗浄する。ウイルス試料の連続10倍希釈を、TPCK−トリプシンを含有するVGM中に、Matrix(商標)SerialMateピペットステーションおよび96ウェル希釈ブロックを用いて調製する。最終の5つの系列希釈(10−5から10−9)を、MDCK細胞プレートに移し、初期の開始力価と比較して、10−6から10−10までの範囲の最終ウイルス濃度を実現する。このフォーマットは、各プレートから得た2つの力価データポイントに由来する。各試料は2枚のプレート上で検査されるので、4複製の力価値が得られる。16の対照ウェル(プレート列6および7)には、ウイルスを含まないVGMを入れ、細胞対照として用いる。6日間のインキュベーション(5±1% CO、33±1℃)の後、全ウェルを、顕微鏡を用いて検査し、CPEの存在または不在を記録した。したがって、ウイルス破壊のいかなる証跡でも、単層が含有する場合、ウェルがCPE陽性と記録する。逆に、CPE陰性のウェルにある単層は完全に無傷であった。
【0153】
プレート上の単層を目視によりCPEを記録した後、培地を廃棄し、リン酸緩衝生理食塩水で調製されたMTT(0.5mg/mL)(US Biochemical Corporation社、Cleveland、OH)を各ウェルに分注する(100μl/ウェル)。単層を、MTTと共に、5±1% CO、37±1℃で、6±0.5時間インキュベートする。可溶化緩衝液(0.01N HCl中20% SDSを100μl)を各ウェルに添加し、プレートを、5±1% COの環境、37+1℃で16〜20時間インキュベートする。570nmの吸光度値を、PerkinElmer−Wallac 1420 Multilabel Counter分光光度計を用いて測定し、Microsoft(商標)Excelマクロにエクスポートした。このプログラムは、CPE陽性ウェルの数からウイルス力価(log10 TCID50/mL)を計算するのに使用したものである。
【0154】
合格基準はこの節中の実施形態に適用される。したがって、各プレートの16箇所の細胞対照ウェルのうち1を超えない数のウェルが、CPEの視覚的な証拠、細胞毒性、または微生物汚染を示した場合、プレートは有効であるとみなされた。さらに、各半プレートが有効であるには、5以上36以下のウェルがCPE陽性と記録されなければならなかった。最後に、一価ウイルス対照試料(A/Sydney/05/97)に関して得た4複製のTCID50力価値の平均および標準偏差(SD)の両方が資格のある対照証明書に報告されている合格範囲内になければならなかった。
【0155】
感受性および特異性の推定は、下記に示す、「金標準」CPEと、MTTによって評価されたCPEとの間の関係に基づいて計算した。TPは「真陽性」、FPは「偽陽性」、FNは「偽陰性」、そして、TNは「真陰性」を示す。したがって、「全陽性」はTP+FNの合計であろう。また、「全陰性」はFP+TNの合計であろう。表55を参照のこと。計算は次の通りである。すなわち、各複製の感受性=(TP)/(全CPE陽性)そして、各複製の特異性=(TN)/(全CPE陰性)である。
【0156】
機器間比較を行うため、3つの参照ウイルス試料の力価値を、準自動TCID50アッセイを用いて、第1グループの6人の分析者によって測定した。2セットの実験室機器AZ−039およびAZ−040を3日間にわたって使用した。第2グループの試験者は1つの機器システム、AZ−036を用いた。このグループの3人の分析者が、3つの参照ウイルス試料を用いて、3日間、準自動TCID50アッセイを行った。
【0157】
分析者間比較を行うため、グループ1で試験を行っている各分析者(分析者#1〜6)が準自動TCID50力価アッセイを、3つの参照株に関して、機器AZ−039を用いて、3日間にわたって行った。第2のグループでは、3人の分析者(分析者#7〜9)それぞれが、準自動TCID50力価アッセイを、同じ3つの参照ウイルス株に関して、機器AZ−036を用いて、3日間にわたって行った。
【0158】
準自動TCID50力価アッセイで、CPE陽性ウェルと、CPE陰性ウェルとを、MTTを用いて確実に識別するため、汎用カットオフ値を統計的に測定した。このカットオフ値の使用を検証する目的において、2つのグループによる一層の独立した評価によって、45840の吸光度値がさらに測定された。結果を以下に示す。
【0159】
感受性および特異性の測定は、参照標準として手動の顕微鏡法を用いることで計算した。2つのグループ(n=45840)からの総合データを表56に示す。推奨されたカットオフ値0.5254を用いた結果、感受性が98.45%、特異性が99.12%となった。さらに、感受性および特異性決定に関する第2グループからのデータは、それぞれが99.15%、および99.99%であった。同様に、感受性および特異性に関する第1グループからのデータは、それぞれが98.13%、および98.71%であった。上記の全データ(>95%感受性および>95%特異性)が、測定されたデータと相関していた。測定データでは、感受性が99.05%、特異性が99.99%と計算された。
【0160】
図51は、吸光度読取り値に対して、その値の頻度をプロットすることで得たヒストグラムを示す(N=45,840)。前の情報と一致して、2つのグループからの総合データは、汎用カットオフ値0.5254は、CPE陽性ウェルおよびCPE陰性ウェルの分布の間の中点近くにあることを示している。度数分布は、推奨されたカットオフ値が、対照ウェル分布の最も左のテールの中にあり、左に向かって伸長しているテール中で、確率0.007%に対応していることを示している。カットオフ値0.5254は、全CPE陽性ウェルから吸光度値を用いてカットオフ値を推定した場合、確率0.02%のテールにも対応する。さらに、図51から明らかな分布プロファイルは、CPE陽性ウェルの吸光度値は、CPE陰性ウェルの吸光度値から遠く切り離されていることを強調する。
【0161】
6720の対照ウェルからの吸光度値に基づいてカットオフ値0.5254を推定した、生成されたCPE陰性対照ウェルに関して得られた平均吸光度値の比較が以前に行われた。対照ウェルの平均吸光度値1.261が、標準偏差0.15と共に得られた。表57に示すように、この研究は、9168の対照ウェルを追加に生成し、そのうち2880が第2グループから得られ、6288が第1のグループから得た。平均吸光度値は、1.226および1.235が、それぞれ第2グループおよび第1グループから得られ、総合平均吸光度値は、1.231であった。総合平均吸光度値と、以前に報告されていたものとの相違は0.03の吸光度値にすぎなかった(表57を参照)。これは、データが6カ月間にわたって生成されたことを考慮すると、非常に小さい相違である。以前に記載された研究は、連続した2カ月間に行われたが、本明細書に記載の研究が第2のグループで行われたのは、第1のグループが行う4カ月前のことである。
【0162】
表58は、機器間比較を実施するために、3株の参照ウイルス株に関して、2つのグループで異なった機器を用いて得られた力価値を要約する。第1グループからの6人の分析者が、2セットの機器(AZ−039およびAZ−040と呼ばれる)を用いて、準自動TCID50アッセイを行った。A/New Caledonia/20/99に関して、全体的平均が9.2から9.3 log10 TCID50/mLの範囲にあり、AZ039とAZ−040との間で、力価には0.09 log10 TCID50/mL以上相違しなかった(表58を参照)。A/Sydney/05/97に関して、全体的平均が8.5から8.6 log10 TCID50/mLの範囲にあり、AZ039とAZ−040との間で、力価には0.02 log10 TCID50/mL以上相違しなかった。B/Yamanashi/166/98に関して、全体的平均が8.3から8.4 log10 TCID50/mLの範囲にあり、AZ039とAZ−040との間で、力価には0.12 log10 TCID50/mL以上相違しなかった。第2のグループは、1つの機器システム(AZ−036)を用いて結果を生み出した。3人の分析者が、3つの参照ウイルス試料を用いて、3日間、準自動TCID50アッセイを行った。第2グループの機器と、Quality Control Laboratoryの機器との間における、結果の平均差は、A/New Caledonia/20/99で0.09 log10 TCID50/mL以下、A/Sydney/05/97で0.08 log10 TCID50/mL以下、そして、B/Yamanashi/166/98で0.12 log10TCID50/mL以下であった。平均差データを、第1のグループの2台の機器(AZ−039およびAZ−040)相互で、そして、第1グループおよび第2グループ(AZ−036)の間で計算した。
【0163】
分析者間比較を行うため、第1のグループでは、各分析者(分析者1〜6)がA/New Caledonia/20/99、A/New Sydney/05/97、およびB/Yamanashi/166/98に関して、機器AZ−039で、3日間にわたって準自動TCID50力価アッセイを行った。第2グループでは、3人の分析者(分析者7〜9)が、それぞれ同じウイルス株で、機器AZ−036で、3日間にわたって準自動TCID50力価アッセイを行った。各ウイルスに関して力価値を計算し、表59に示す。第1グループの結果の間にある変動は、試験された3つのウイルス試料に関して、0.3 log10 TCID50/mL以下であった。同様に、第2のグループの力価値の間にある変動も0.2 log10 TCID50/mL以下であった。2つのグループの分析者間の全体的比較は、3つの参照ウイルス試料に関して、±0.3 log10 TCID50/mL未満であった。試験結果(3日間にわたって4複製が試験された)の標準偏差(SD)は0.11から0.27までの範囲にあった。SD値が合格基準値の0.50未満であったので、すべてが有効であった。
【0164】
この節に提示する結果は、「汎用カットオフ」吸光度値(0.5254)を検証する。これらの研究によって生成されるデータは、独立したアッセイグループの複数の分析者によって、比較的長い時間枠で生成されているにも関わらず、一貫性が高いため、汎用カットオフ値に対しては、高レベルの信用がある。まとめると、2つのグループによって測定された対照(CPE陰性)の吸光度値は、相互に一致するだけではなく、以前に報告された平均値と事実上等しかった(表57を参照)。感受性および特異性の値は、2つのグループで相互に強く類似しており、また、以前の研究とも一致していた(図51および表57を参照)。MTTを用いてCPEを評価する、準自動TCID50力価アッセイ用の「汎用カットオフ」は、2つのグループで、相互に、そして、確証済みの手動TCID50力価アッセイによって得られたものと、比較できる力価値を生成した。最後に、準自動システムは、手動方法を上回る、いくつかの操作上の利点を有する。手動ピペット操作による労働集約的なステップ、およびアッセイプレートの顕微鏡検査の代わりに機器を使用することによって、容量を増大させ、より高い時間内処理量を可能にする。さらに、分光光度法によるCPE判定、およびその後の自動力価計算は、結果のプリントアウトおよび/または電子記録を提供する。
【0165】
定義
別段の定義がない限り、すべての科学用語および専門用語は、それらが関係する技術分野で一般的に用いられている意味と同じ意味を有すると理解される。本発明の目的において、以下の用語を下記に定義する。
【0166】
用語「核酸」、「ポリヌクレオチド」、「ポリヌクレオチド配列」、および「核酸配列」は、一本鎖または二本鎖のデオキシリボヌクレオチドもしくはリボヌクレオチド重合体、またはそのキメラもしくは類似体を指す。本明細書で使用する場合、この用語には、それらが一本鎖の核酸と、天然に存在するヌクレオチドと同様の方法でハイブリダイズするという点で天然ヌクレオチドの本質的性質を有する、天然に存在するヌクレオチドの類似体の重合体も含んでもよい(例えば、ペプチド核酸)。別段の指示がない限り、特定の核酸配列は、任意選択で、明示された配列に加えて、相補配列も包含する。
【0167】
用語「遺伝子」は、生物学的機能に関連しているいかなる核酸も意味するように広範に使用される。したがって、遺伝子には、コード配列および/またはそれらの発現に必要な調節配列が含まれる。用語「遺伝子」は、特定のゲノム配列、および、そのゲノム配列によってコードされたcDNAまたはmRNAにもあてはまる。
【0168】
遺伝子には、例えば、他のタンパク質のための認識配列を形成する、発現されない核酸セグメントも含まれる。発現されない調節配列には、「プロモーター」および「エンハンサー」が含まれ、それらには、転写因子などの調節タンパク質が結合して、その結果、隣接の、または近傍の配列の転写が引き起こされる。「組織特異的な」プロモーターまたはエンハンサーは、特定の組織型もしくは細胞型、または複数のタイプで、転写を調節するものである。
【0169】
用語「ベクター」は、それによって核酸を、生物、細胞、または細胞構成要素の間を伝播および/または転移させることができる手段を意味する。ベクターには、自律的に複製を行うか、または、宿主細胞の染色体と統合することができる、プラスミド、ウイルス、バクテリオファージ、プロウイルス、ファージミド、トランスポゾン、人工染色体、および同様のものが含まれる。ベクターは、自律的に複製しない裸のRNAポリヌクレオチド、裸のDNAポリヌクレオチド、同一鎖中のDNAおよびRNAの両方で構成されたポリヌクレオチド、ポリリジンが結合したDNAもしくはRNA、ペプチドが結合したDNAまたはRNA、リポソームが結合したDNA、または同様のものである場合もある。最も一般的には、ベクターは、本明細書において、プラスミドを意味する。
【0170】
「発現ベクター」は、複製だけでなく、そこに組み込まれた核酸の発現を促進できるプラスミドなどのベクターである。通常、発現される核酸は、プロモーターおよび/またはエンハンサーに「作用可能に連結され」、そのようなプロモーターおよび/またはエンハンサーによる転写制御調節を受ける。
【0171】
「双方向発現ベクター」は、2つのプロモーターの間に位置した核酸と関連して逆方向に向けられた2つの選択的プロモーターによって特徴付けられ、それによって、両方向に発現を開始することができ、結果として、例えば、プラス(+)鎖またはセンス鎖と、マイナス(−)鎖またはアンチセンス鎖との両方のRNAの転写が起こる。
【0172】
本発明の文脈において、用語「単離」は、それが天然に存在する環境で、通常、それに付随しているか、またはそれと相互作用する成分を実質的に含まない、核酸またはタンパク質などの生物学的物質のことをいう。単離された物質は、任意選択で、その天然の環境、例えば細胞では見出されない物質を含む。例えば、細胞など、その天然の環境に、その物質がある場合、その物質は、細胞中の、その環境で見出された物質にとって自然でない位置(例えば、ゲノムまたは遺伝要素)に配置されている。例えば、天然に存在する核酸(例えば、コード配列、プロモーター、エンハンサーなど)は、天然に存在しない方法(例えば、プラスミド、ウイルスベクター、またはアンプリコンなどのベクター)で、その核酸にとって自然でない、ゲノムの遺伝子座に導入される場合、単離される。また、そのような核酸を「異種」核酸と呼ぶ。
【0173】
用語「組換え」は、物質(例えば、核酸またはタンパク質)が人工的にまたは合成的に(自然ではない)改変されていることを意味する。物質の改変は、その天然の環境もしくは状態の中で、またはそれから取り出して行うことができる。詳細には、ウイルスについて言及する場合、例えば、インフルエンザウイルスが組換え核酸の発現によって生成された場合には、それは組換え体である。
【0174】
用語「再集合体」は、ウイルスについて言及する場合、そのウイルスが、複数の親ウイルス株または供給源から得られた遺伝子および/またはポリペプチド成分を含んでいることを示す。例えば、7:1再集合体は、第1の親ウイルスに由来する7つのウイルスゲノムセグメント(または、遺伝子セグメント)を含み、第2の親のウイルスからは、単一の相補的ウイルスゲノムセグメント、例えば、赤血球凝集素またはノイラミニダーゼをコードするものを含む。6:2再集合体は、第1の親のウイルスから6つのゲノムセグメント、最も一般的には6つの内部遺伝子を含み、別の親のウイルスからは、2つの相補的なセグメント、例えば、赤血球凝集素およびノイラミニダーゼを含む。
【0175】
用語「導入」は、異種核酸または単離核酸について言及する場合、真核細胞または原核細胞の中に核酸を取り込ませることを意味する。この場合、核酸は、細胞のゲノム中(例えば、染色体、プラスミド、色素体、またはミトコンドリアDNA)に組み込まれるか、自律的レプリコンに転換するか、または一時的発現される(例えば、トランスフェクトされたmRNA)。この用語には、「感染」、「トランスフェクション」、「形質転換」、および「形質導入」などの方法も含まれる。本発明の文脈では、原核細胞に核酸を導入するのに、電気穿孔法、リン酸カルシウム沈殿、脂質媒介トランスフェクション(リポフェクション)などを含めた様々な方法は利用することができる。
【0176】
用語「宿主細胞」は、ベクターなどの異種核酸を含有し、かつ、核酸の複製および/または発現を補助する細胞を意味する。宿主細胞は、大腸菌(E.coli)などの原核細胞、または酵母、昆虫、両生類、鳥類、もしくは、ヒト細胞を含めた哺乳類細胞などの真核細胞でありうる。本発明の文脈における例示的宿主細胞には、Vero(アフリカミドリザル腎臓)細胞、BHK(ベビーハムスター腎臓)細胞、一次ニワトリ腎臓(PCK)細胞、マディンダービイヌ腎(MDCK)細胞、マディンダービウシ腎(MDBK)細胞、293細胞(例えば、293T細胞)、およびCOS細胞(例えば、COS1、COS7細胞)が含まれる。
【0177】
インフルエンザウイルス
本明細書に記載の組成物および方法は、主として、ワクチン用インフルエンザウイルスの生産に関する。インフルエンザウイルスは、分節された一本鎖RNAゲノムを含有する内部リボ核タンパク質コアと、マトリックスタンパク質によって裏打ちされた外側リポタンパクエンベロープとからなる。A型インフルエンザおよびB型インフルエンザウイルスは、それぞれ8セグメントの一本鎖マイナスセンスRNAを含有している。A型インフルエンザゲノムは11のポリペプチドをコードする。セグメント1〜3は、3つのポリペプチドをコードし、RNA依存性RNAポリメラーゼを作りあげる。セグメント1は、ポリメラーゼ複合体タンパク質PB2をコードする。残りのポリメラーゼタンパク質PB1およびPAは、セグメント2およびセグメント3によってそれぞれコードされている。さらに、一部のインフルエンザ株のセグメント1は、PB1コード領域中の別のリーディングフレームから生成される小タンパク質、PB1−F2をコードする。セグメント4は、感染中の細胞付着および進入に関与する表面糖タンパク質である赤血球凝集素(HA)をコードする。セグメント5は、ウイルスRNAに結合する主要な構造成分であるヌクレオキャプシド核タンパク質(NP)ポリペプチドをコードする。セグメント6は、ノイラミニダーゼ(NA)エンベロープ糖タンパク質をコードする。セグメント7は、M1およびM2と呼ばれる2つのマトリックスタンパク質をコードする。これらは、異なってスプライシングされたmRNAから翻訳される。セグメント8は、2つの非構造タンパク質、NS1およびNS2をコードする。これらは、選択スプライシングされたmRNA変異体から翻訳される。
【0178】
B型インフルエンザの8つのゲノムセグメントは、11タンパク質をコードしている。3つの最も大きい遺伝子は、RNAポリメラーゼの構成要素、PB1、PB2、およびPAをコードする。セグメント4は、HAタンパク質をコードする。セグメント5は、NPをコードする。セグメント6は、NAタンパク質およびNBタンパク質をコードする。NBおよびNAの両タンパク質が、バイシストロニックmRNAの重複したリーディングフレームから翻訳される。B型インフルエンザのセグメント7は、2つタンパク質、M1およびBM2もコードする。最も小さいセグメントは2つの産物をコードする。すなわち、完全長RNAから翻訳されるNS1、および、スプライシングされたmRNA変異体から翻訳されるNS2である。
【0179】
インフルエンザウイルスワクチン
これまで、インフルエンザウイルスワクチンは、主として孵化鶏卵で、適切な株の実証的な予測に基づいて選択されたウイルス株を用いて、生成されてきた。より最近になって、選択された赤血球凝集素およびノイラミニダーゼ抗原を、承認されている弱毒、温度感受性のマスター株のコンテクストに組み込む再集合体ウイルスが生成された。鶏卵中でウイルスを複数回継代させて培養した後、インフルエンザウイルスを回収し、任意選択で、例えば、ホルムアルデヒドおよび/またはβ−プロピオラクトンを用いて不活性化させる(または、代わりに弱毒化生ワクチンとして用いる)。
【0180】
しかし、この方法でのインフルエンザワクチンの生産には、いくつかのの重大の懸念がある。例えば、鶏卵から残留する夾雑物は、強い抗原性および/または発熱性である可能性がある。また、投与の際に重大な副作用を頻繁にもたらす可能性もある。したがって、本明細書に記載したように、本発明の一態様は、何らかの割合の卵成分を、動物を含まない培地で置換することを含む。通常、さらに重要なことに、ワクチン生産のために指定されるウイルス株は、次のインフルエンザシーズンの何カ月も前に、選択および分配して、インフルエンザワクチンの生産および不活性化のための時間を残しておかなければならない。重ねて、例えば、本発明の方法および組成物を使用することで、生産時間のいかなる改良が得られても、それは非常に望ましいことである。
【0181】
組換え型および再集合体ワクチンを細胞培養で生産しようとする試みは、ワクチン生産のために承認されているいくつかの株が、標準的な細胞培養条件下で効率的に増殖できないということによって妨げられている。したがって、発明者らおよび彼らの同僚による以前の研究は、組換え型および再集合体ウイルスを培養で生成するベクターシステムおよび方法を提供し、それによって、1つまたは多数の選択された抗原性ウイルス株に対応するワクチンを迅速に生成するのを可能にした。上記に引用された、「Multi-Plasmid System for the production of Influenza virus」を参照のこと。当然ながら、そのような再集合体は、任意選択で、鶏卵中で、さらに増幅される。通常、培養は、細胞培養インキュベーターなどのシステムで、湿度およびCOを制御し、サーモスタットなどの温度調整器を用いて定温に維持し、温度が35℃を超えないことを確実にする。そのような先導的研究、および他のワクチン生産は、本発明の全体または一部の使用によってさらに最適化および合理化することができる。
【0182】
再集合体インフルエンザウイルスは、関心のある株(例えば、関心のある抗原変異体)に由来する相補的なセグメントと組み合わせて、マスターインフルエンザウイルスのゲノムセグメントに対応するベクターサブセットを導入することによって、容易に得ることができる。通常、マスター株は、ワクチン投与に関係のある望ましい特性に基づいて選択される。例えば、ワクチン生産、例えば、弱毒生ワクチンの生産のために、マスタードナーウイルス株を、弱毒表現型、寒冷適応性および/または温度感受性で選別してもよい。
【0183】
FluMist(商標)
前述の通り、インフルエンザワクチンには多数の例とタイプとが存在する。例示的インフルエンザワクチンの一例がFluMist(商標)であり、これは、インフルエンザ疾患から子供と成体とを保護する弱毒生ワクチンである(Belsheら(1998)、「The efficacy of live attenuated cold-adapted trivalent, intranasal influenza virus vaccine in children」、N.Engl.J.Med.、第338巻、1405〜12頁;Nicholら(1999)、「Effectiveness of live, attenuated intrarasal influenza virus vaccine in healthy, working adults: a randomized controlled trial」、JAMA、第282巻、137〜44頁)。典型的な実施形態では、本発明の方法および組成物を、FluMist(商標)ワクチン生産に適合させるか、またはこれと共に使用することが好ましい。しかし、当業者ならば、本明細書に記載のステップ/組成物は、同様のウイルスワクチンの生産、または異なったウイルスワクチンの生産にさえ適合性があることが理解されよう。
【0184】
FluMist(商標)ワクチン株は、例えば、野生型株由来のHAおよびNA遺伝子セグメントを含有し、これと、通常のマスタードナーウイルス(MDV)由来の6つの遺伝子セグメント、PB1、PB2、PA、NP、M、およびNSとで、このワクチンが記述される。FluMistのA型インフルエンザ用MDV(MDV−A)は、野生型A/Ann Arbor/6/60(A/AA/6/60)株を、ニワトリ腎臓一次組織培養で、連続的に温度を低下させながら連続継代することによって生成された(Maassab(1967)、「Adaptation and growth characteristics of influenza virus at 25 degrees C」、Nature、第213巻、612〜4頁)。MDV−Aは、25℃で効率的に複製するが(ca、寒冷適応)、その増殖は38および39℃(ts、温度感受性)で制限される。さらに、このウイルスは、感染したフェレットの肺では複製しない(att、弱毒)。ts表現型は、気管の最低温の領域以外のすべてで複製を制限することによって、ヒトにおけるワクチンの弱毒化に寄与すると考えられている。この特性の安定性は動物モデルおよび臨床試験で実証されている。化学突然変異誘発で生成されたインフルエンザ株のts表現型とは対照的に、感染したハムスターでの継代の後、または小児からの脱落単離株で、MDV−Aのts特性が戻ることはない(最近の概観に関しては、Murphy&Coelingh(2002)、「Principles underlying the development and use of live attenuated cold adapted influenza A and B virus vaccines」、Viral Immunol.、第15巻、295〜323頁参照)。
【0185】
12株の別々の6:2再集合体株を含む、20,000人以上の成人および子供の臨床試験によって、これらのワクチンが弱毒化されており、安全で、かつ有効であることが示された。(Belsheら(1998)、「The efficacy of live attenuated cold-adapted, trivalent, intranasal influenza virus vaccine in children」、N.Engl.J.Med.、第338巻、1405〜12頁;Boyceら(2000)、「Safety and immunogenicity of adjuvanted and unadjuvanted subunit influenza vaccines administered intranasally to healthy adults」、Vaccine、第19巻、217〜26頁;Edwardsら(1994)、「A randomized controlled trial of cold adapted and inactivated vaccines for the prevention of influenza A disease」、J.Infect.Dis.、第169巻、68〜76頁;Nicholら(1999)、「Effectivenese of live, attenuated intranasal influenza virus vaccine in healthy, working adults: a randomized controlled trial」、JAMA、第282巻、137〜44頁)。MDV−Aの6つの内部遺伝子と、野生株ウイルスの2つのHAおよびNA遺伝子セグメントとを保持する再集合体(すなわち、6:2再集合体)は、一貫してca、ts、およびatt表現型を維持する。(Maassabら(1982)、「Evaluation of a cold-recombinant influenza virus vaccine in ferrets.」、J.Infect.Dis.、第146巻、780〜900頁)。しかし、B型インフルエンザ株を用いたそのような再集合ウイルスの生産はより困難である。
【0186】
最近の研究は、クローン化されたcDNAから完全なB型インフルエンザウイルスを生成する8プラスミドシステムと、鼻腔内投与に有用な生ウイルスワクチン製剤などのワクチン製剤に適した弱毒生AおよびB型インフルエンザウイルスを生産する方法とを示した。上記に引用した、「Multi-Plasmid System for the Production of Influenza Virus」を参照のこと。
【0187】
以前に記載されたシステムおよび方法は、FluMist(登録商標)などの鼻腔内投与に適したワクチンなどの弱毒生ワクチンを含めた、ワクチンとしての使用に適したウイルスを含めた、組換え型および再集合体AおよびB型インフルエンザウイルスを、細胞培養で迅速に生成するのに有用である。本明細書に記載の本発明の方法は、ワクチン用のウイルスを、より安定に、一貫して、生産的な方法で生成するために、任意選択で、例えば、ワクチン生産用の再集合インフルエンザウイルスを含む、そのような以前の研究と共同して、または併用して用いられる。
【0188】
細胞培養
前述のように、インフルエンザウイルスは、任意選択で細胞培養で増殖させることができる。通常、ウイルスの伝播は、宿主細胞が一般的に培養されている培地組成物中で行われる。インフルエンザウイルスの複製に適した宿主細胞には、例えば、293T細胞、COS7細胞を含めた、Vero細胞、BHK細胞、MDCK細胞、293細胞、およびCOS細胞が含まれる。一般的に、共培養は上記細胞系のうち2つを含み、例えば、複製効率を改善するために、MDCK細胞と、293TまたはCOS細胞とが、例えば、1:1の比率で利用される。通常、細胞は、血清(例えば、10%ウシ胎仔血清)を補充したダルベッコ改変イーグル培地、または無血清培地などの標準的な市販培地中で、制御された湿度、中性の緩衝pH(例えば、7.0から7.2までのpH)を維持するのに適したCO濃度の下で培養される。培地は、任意選択で、細菌増殖を予防するために、例えば、ペニシリン、ストレプトマイシンなどの抗生物質、および/またはL−グルタミン、ピルビン酸ナトリウム、非必須アミノ酸などの追加の栄養物、好ましい増殖特性を促進する追加のサプリメント、例えば、トリプシン、β−メルカプトエタノール、および同様のものを含有している。
【0189】
培養されている哺乳類細胞を維持する操作法は、広範に報告されており、当業者には周知である。全般的プロトコールは、例えば、Freshney(1983)、「Culture of Animal Cells: Manual of Basic Technique」、Alan R.Liss社、New York;Paul(1975)、「Cell and Tissue Culture」、第5版、Livingston、Edinburgh;Adams(1980)、「Laboratory Techniques in Biochemistry and Molecular Biology-Cell Culture for Biochemists」、WorkおよびBunion(編集)、Elsevier、Amsterdamに提供されている。インフルエンザウイルスのin vitro生産において特に興味深い組織培養操作に関するさらなる詳細には、例えば、すべての目的のために本明細書に全体として組み込まれている、Mertenら(1996)、「Production of influenza virus in cell cultures for vaccine preparation」、CohenおよびShafferman(編集)、「Novel Strategies in Design and Production of Vaccines」が含まれる。さらに、本発明に適合させたそのような操作法の変形は、通常の実験で容易に決定されるものであり、当業者ならば熟知していよう。
【0190】
インフルエンザウイルス産生用の細胞は血清含有培地でも、無血清培地でも培養することができる。場合によって、例えば、精製ウイルスを調製するには、通常、宿主細胞を無血清条件で増殖させるのが望ましい。細胞の培養は、小規模で、例えば、25ml未満の培地で、培養試験管またはフラスコで、または、大きいフラスコで撹拌させながら、回転板ボトル中で、または、マイクロキャリアビーズ(例えば、Dormacell、Pfeifer&LangenなどのDEAE−デキストランマイクロキャリアビーズ;Superbead、Flow Laboratories;Hillex、SoloHill、Ann Arborなどの、スチレン共重合体トリメチルアミンビーズ)上で、フラスコ、ボトル、または反応器培養中で行うことができる。マイクロキャリアビーズは、小球(直径100〜200ミクロンの範囲)であって、接着細胞の増殖用に、細胞培養容積あたり、広大な表面積を提供する。例えば、1リットルの培地は2000万個以上のマイクロキャリアビーズを含有でき、それによって、8000平方センチメートル以上の増殖面積を提供する。ウイルスの商業生産、例えば、ワクチン生産のためには、多くの場合、バイオリアクターまたは発酵槽で細胞を培養するのが望ましい。バイオリアクターは、1リットル未満の容積から、100リットル以上のものまで、例えば、Cyto3バイオリアクター(Osmonics社、Minnetonka、MN);NBSバイオリアクター(New Brunswick Scientific社、Edison、N.J.);B.Braun Biotech International社(B.Braun Biotech社、Melsungen、ドイツ)の実験室および商業規模バイオリアクターが利用可能である。
【0191】
温度依存性の多プラスミドシステム(例えば、上記に引用した「Multi-Plasmid System for the Production of Influenza Virus」を参照)を用い、濾過などのためにウイルス溶液を加熱して、組換え型および/または再集合体インフルエンザウイルスの効率的回収を保障するために、本発明の多くの望ましい態様では、培養容積にかかわらず、培養が適切な温度に維持されていることが重要である。通常、細胞培養システムおよび/または他の溶液の温度を検知して、維持するための調整器、例えば、サーモスタットまたは他の装置を利用して適正な期間(例えば、ウイルス複製など)中温度が正しいレベルにあることを保証する。
【0192】
本明細書に記載の一部の実施形態(例えば、再集合ウイルスがベクター上のセグメントから生成される場合)では、インフルエンザゲノムセグメントを含むベクターを、例えば、リン酸カルシウム共沈、エレクトロポレーション、マイクロインジェクション法、リポフェクション、およびポリアミントランスフェクション試薬を利用するトランスフェクションを含めた、当技術分野で周知の、真核細胞に異種核酸を導入する方法に従って、宿主細胞に導入する(例えば、トランスフェクトする)。例えば、再集合ウイルスなどを生成するため、ベクター、例えば、プラスミドを、メーカーの指示に従ってポリアミントランスフェクション試薬TransIT−LT1(Mirus社)を用いて、COS細胞、293T細胞、または、COS細胞もしくは293T細胞と、MDCK細胞との組合せなどの宿主細胞にトランスフェクトすることができる。各約1μgのベクターを、160μlの培地、好ましくは全容積で200μlの無血清培地で希釈された約2μlのTransIT−LTIで、宿主細胞の集団に導入するべきである。DNA:トランスフェクション試薬混合物を室温で45分間インキュベートし、その後、800μlの培地を添加する。トランスフェクション混合物を宿主細胞に添加し、細胞を上述の通りに、あるいは、当業者に周知の他の方法で培養する。従って、細胞培養で組換え型または再集合体ウイルスを生産するためには、8つのゲノムセグメント(PB2、PB1、PA NP、M、NS、HAおよびNA)のそれぞれを取り入れたベクターを、約20μlのTransIT−LT1と混合し、宿主細胞の中にトランスフェクトする。任意選択で、血清添加培地を、トランスフェクション前に無血清培地、例えば、Opti−MEM Iで置換し4〜6時間、インキュベートする。
【0193】
別法として、そのようなインフルエンザゲノムセグメントを取り込んだベクターを宿主細胞に導入するのに、エレクトロポレーションを利用することができる。例えば、A型インフルエンザまたはB型インフルエンザウイルスを組み込んだプラスミドベクターは、以下の操作法に従って、エレクトロポレーションを用いてVero細胞に導入するのが好都合である。簡潔には、例えば、10%ウシ胎仔血清(FBS)を補充した改変イーグル培地(MEM)で育成された約5×10のVero細胞を0.4ml OptiMEMに再懸濁し、エレクトロポレーションキュベットに入れる。最大25μlの容積中のDNA 20μgをキュベット中の細胞に添加し、タッピングによって穏やかに混和させる。エレクトロポレーションは、メーカー(例えば、Capacitance Extender Plusを接続したBioRad Gene PulserII)の指示に従って、300ボルト、950マイクロファラッド、時定数28〜33msecで行う。穏やかなタッピングによって細胞を再混合し、エレクトロポレーションの約1〜2分後に、10%FBSを含有するMEM 0.7mlを、キュベットに直接添加する。細胞は、その後、2ml MEM、10%PBSを含有する6ウェル組織培養皿の2つのウェルに移す。残留したいかなる細胞も回収するため、キュベットを洗浄し、洗浄懸濁液を2つのウェルに分割する。最終容積は約3.5mlである。その後、ウイルスの増殖を許容する条件下、例えば、寒冷適応株には約33℃で細胞をインキュベートする。
【0194】
キット
本発明の方法および組成物の使用を促進するため、例えば、尿膜腔液中の再集合ウイルス、および様々な製剤など、任意のワクチン成分および/または組成物、ならびに、緩衝液、細胞、培養液など、実験上または治療上のワクチン用途におけるインフルエンザウイルスのパッケージングおよび感染に有用である追加の構成要素を、キットの形態で包装することができる。通常、キットは、上記の構成要素に加えて、追加の物質を含有しており、それには、例えば、本発明の方法を行うための説明書、包装材料、および容器を含めることができる。
【0195】
明快さと理解とを目的として、以上の発明を、ある程度詳細に説明したが、この開示を読めば、本発明の真の範囲から逸脱することなく、形式および詳細に様々な改変を加えられることが、当業者には明らかであろう。例えば、上述した技法および装置は、すべて様々な組合せで用いることができる。本出願で引用されたすべての刊行物、特許、特許出願、または他の文書は、それぞれの個々の刊行物、特許、特許出願、または他の文書が、すべての目的のために引用によって組み込まれるように個別に示されている程度に、すべての目的において引用によって全体として組み込まれる。
【0196】

【表1】

【0197】
【表2】

【0198】
【表3】

【0199】
【表4】

【0200】
【表5】

【0201】
【表6】

【0202】
【表7】

【0203】
【表8】

【0204】
【表9】

【0205】
【表10】

【0206】
【表11】

【0207】
【表12】

【0208】
【表13】

【0209】
【表14】

【0210】
【表15】

【0211】
【表16】

【0212】
【表17】

【0213】
【表18】

【0214】
【表19】

【0215】
【表20】

【0216】
【表21】

【0217】
【表22】

【0218】
【表23】

【0219】
【表24】

【0220】
【表25】

【0221】
【表26】

【0222】
【表27】

【0223】
【表28】

【0224】
【表29】

【0225】
【表30】

【0226】
【表31】

【0227】
【表32】

【0228】
【表33】

【0229】
【表34】

【0230】
【表35】

【0231】

【0232】
【表36】

【0233】
【表37】

【0234】
【表38】

【0235】
【表39】

【0236】
【表40】

【0237】
【表41】

【0238】
【表42】

【0239】
【表43】

【0240】
【表44】

【0241】
【表45】

【0242】
【表46】

【0243】
【表47】

【0244】
【表48】

【0245】
【表49】

【0246】
【表50】

【0247】
【表51】

【0248】
【表52】

【0249】
【表53】

【0250】
【表54】

【0251】
【表55】

【0252】
【表56】

【0253】
【表57】

【0254】
【表58】

【0255】
【表59】

【図面の簡単な説明】
【0256】
【図1】DEK TC−24における33℃および25℃での感染後のM遺伝子型決定を示す図である。
【図2】33℃で5:3および6:2の力価が異なることを示すプラークアッセイおよびデータを示す図である。
【図3】6:2対5:3再集合体の増殖曲線を示す図である。
【図4】MDV−Bおよび野生型B型ウイルスのM1配列を示す図である。
【図5】MDV−Bおよび野生型B型ウイルスのM2配列を示す図である。
【図6】MDV B−M1で保存されている2箇所の部位における突然変異を示す図である。
【図7】B/HK 6:2 M1突然変異の増殖曲線を示す図である。
【図8】様々なMOIでの様々なCEK細胞の感染を示す図である。
【図9】ワクチン生産工程中の潜在的微生物汚染を示すフローチャートである。
【図10】赤外線イメージングによる個々の卵の温度崩壊率を示す図である。
【図11】生存卵、無精卵、および死亡卵の熱イメージングを示す図である。
【図12】ウイルス収集物濃縮の模式的フローチャートである。
【図13】第5洗浄液とNAFタンパク質の比較を示す図である。
【図14】濃縮前のN/New Caledonia/20/99 1−X−未処理試料のアッセイを示す図である。
【図15】A/New Caledonia/20/99 10X濃縮試料のアッセイ示す図である。
【図16】A/New Caledonia/20/99の1Xおよび10Xの比較と5回の洗浄後の1X−W試料とを示す図である(パネルA−B)。
【図17】A/New Caledonia/20/99の1Xおよび1X−W試料の比較を示す図である。
【図18A】A/New Caledonia/20/99の10Xおよび10X−Wの比較を示す図である。
【図18B−C】A/New Caledonia/20/99の透過液と;A/New Caledonia/20/99の5回の洗浄とを示す図である。
【図19】洗浄の回数および除去された不純物を比較するSEC分析を示す図である。
【図20】A/New Caledonia/20/99の1XWおよび10X−Wの比較を示す図である。
【図21】A/New Caledonia/20/99の96ウェルプレートアッセイを示す図である。
【図22】保持液および透過液におけるノイラミニダーゼ活性/ウイルス精製のグラフを示す図である。
【図23】対照、10X、10X−W、および1X−WのRHPLCを示す図である。
【図24】対照、10X、1X−W、および10X−W試料のグラフを示す図である。
【図25】透過液および洗浄液1〜6のRHPLCを示す図である。
【図26】RHPLCオボムコイド除去(ピーク面積)のグラフを示す図である。
【図27】リゾチーム除去(ピーク面積)のRHPLCグラフを示す図である。
【図28】コンアルブミン除去(ピーク面積)のRHPLCグラフを示す図である。
【図29】オボアルブミン除去(ピーク面積による)のRHPLCグラフを示す図である。
【図30】Agilent2100によるオボアルブミン分析のグラフを示す図である。
【図31】抗A/New CaledoniaのウエスタンブロットSDS−PAGEゲルを示す図である。
【図32】A/New Caledonia/20/99の5回の洗浄後の10X−W試料のアッセイを示す図である。
【図33】RTPCRによるRNA分析のグラフを示す図である。
【図34】SECによるA/Beijing−細胞培養増殖のモニタリングを示す図である。
【図35】Vero細胞におけるA/Beijingの細胞培養収集物を示す図である。
【図36】2リットルのA/Panama細胞培養の濃縮を示す図である。
【図37】2リットルのB/Hong Kong細胞培養を10mlに濃縮することを示す図である。
【図38】例示的なウイルス貯蔵製剤の安定性に関する4つのグラフを示す図である。
【図39】様々なウイルス株を用いた例示的ウイルス貯蔵製剤の安定性に関するグラフを示す図である。
【図40】様々なウイルス株を用いた例示的ウイルス貯蔵製剤の安定性に関するグラフを示す図である。
【図41】様々なシトレート濃度を有する例示的ウイルス貯蔵製剤の安定性を示す図である(パネルA−C)。
【図42】様々なEDTA濃度を有する例示的ウイルス貯蔵製剤の安定性を示す図である(パネルA−C)。
【図43】様々なウイルス株を用いた未精製ウイルス収集物製剤の9カ月にわたる安定性を示す図である。
【図44】リン酸緩衝液に関連した、製剤の初期力価減失を示す図である。
【図45】6カ月目における様々な製剤の安定性勾配の全体像を提供する図である。
【図46】6カ月目における様々な製剤の安定性勾配の全体像を提供する図である。
【図47】ゼラチンおよびPVP/EDTAを含む様々な製剤の安定性を示す図である。
【図48】様々なpHにおけるヒスチジンを含む様々な製剤の安定性を示す図である。
【図49】様々な量のショ糖を含む様々な製剤の安定性を示す図である。
【図50】ウェルの吸光度読取り値に対して、その値の頻度(その吸光度値を与えるウェルの数)をプロットすることによって得られたヒストグラムである。
【図51】吸光度読取り値に対して値の頻度をプロットすることによって得られたヒストグラムである。
【図52】6:2インフルエンザ再集合体を生成する一般的過程を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1つまたは複数のインフルエンザウイルス組成物を生成する方法であって、
a.卵を介してインフルエンザウイルスを継代させるステップと、
b.前記インフルエンザウイルスを暖めるステップと、
c.膜を通して前記インフルエンザウイルスを濾過するステップと、
を含む方法。
【請求項2】
前記インフルエンザウイルスが、1株もしくは複数のA型インフルエンザウイルス株、および/または1株もしくは複数のB型インフルエンザウイルス株を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
濾過するステップが、前記インフルエンザウイルス組成物にマイクロフィルターを通過させるステップを含み、前記マイクロフィルターが、約0.2マイクロメーターから約0.45マイクロメーターまでの孔径を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
暖めるステップが、前記ウイルスを約31℃でインキュベートすることを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
暖めるステップが、前記ウイルスを28℃以上でインキュベートすることを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
暖めるステップが、前記ウイルスを28℃〜約40℃でインキュベートすることを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
暖めるステップが、前記ウイルスを約28℃〜約36℃でインキュベートすることを含む、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
暖めるステップが、前記ウイルスを約28℃〜約34℃でインキュベートすることを含む、請求項6に記載の方法。
【請求項9】
暖めるステップが、前記ウイルスを約30℃〜約32℃でインキュベートすることを含む、請求項6に記載の方法。
【請求項10】
前記ウイルスを濾過するステップの前に、暖めるステップを行う、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記ウイルスを濾過するステップの間に、暖めるステップを行う、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記ウイルスを濾過するステップの前、および前記ウイルスを濾過するステップの間の両方で、暖めるステップを行う、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
暖めるステップが約1時間行われる、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
暖めるステップが約30分間〜約240分間行われる、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
暖めるステップが約45分間〜約200分間行われる、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
加熱が約60分間〜約90分間行われる、請求項14に記載の方法。
【請求項17】
請求項1に記載の方法で生成されたインフルエンザウイルス組成物。
【請求項18】
前記ウイルス組成物がインフルエンザワクチン組成物を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項19】
請求項18に記載の方法で生成されたインフルエンザワクチン組成物。
【請求項24】
1つまたは複数のインフルエンザウイルス組成物を生成する方法であって、卵を介してインフルエンザウイルスを継代させるステップを含み、接種後、前記継代中に前記卵を揺動させる方法。
【請求項25】
揺動させるステップが、1分間に約1サイクル以下の速度で、1分間に約5サイクル以下の速度で、または1分間に約10サイクル以下の速度で、前記卵を傾斜させることを含む、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
前記卵を約12時間揺動させる、請求項24に記載の方法。
【請求項27】
前記卵を約24〜48時間揺動させる、請求項24に記載の方法。
【請求項28】
二次インキュベーションをさらに含む、請求項24に記載の方法。
【請求項29】
前記二次インキュベーションの間に前記卵を揺動させる、請求項28に記載の方法。
【請求項30】
前記インフルエンザウイルスが、A型インフルエンザウイルス、および/またはB型インフルエンザウイルスを含む、請求項24に記載の方法。
【請求項31】
前記揺動させた卵のTCID50が、揺動させなかった卵を介して継代された同一のインフルエンザウイルスのTCID50より、少なくとも0.4 log大きい、請求項24に記載の方法。
【請求項32】
請求項24に記載の方法で生成されたインフルエンザウイルス組成物。
【請求項33】
前記ウイルス組成物がインフルエンザワクチン組成物を含む、請求項24に記載の方法。
【請求項34】
請求項33に記載の方法で生成されたインフルエンザワクチン組成物。
【請求項35】
1つまたは複数のインフルエンザウイルス組成物を生成する方法であって、
a.インフルエンザウイルスのゲノムを含む複数のベクターを、インフルエンザウイルスの複製を補助できる宿主卵の集団に導入するステップと、
b.前記宿主卵の集団を35℃以下の温度で培養するステップと、
c.複数のインフルエンザウイルスを回収するステップと、
を含む方法。
【請求項36】
前記インフルエンザウイルスが、弱毒インフルエンザウイルス、寒冷適応インフルエンザウイルス、温度感受性インフルエンザウイルス、または、弱毒寒冷適応温度感受性インフルエンザウイルスのうちの1つまたは複数を含む、請求項35に記載の方法。
【請求項37】
前記複数のベクターが、1つまたは複数のB型インフルエンザウイルスを含む、請求項35に記載の方法。
【請求項38】
請求項35に記載の方法で生成されたインフルエンザウイルス組成物。
【請求項39】
前記ウイルス組成物がインフルエンザワクチン組成物を含む、請求項35に記載の方法。
【請求項40】
請求項39に記載の方法で生成されたインフルエンザワクチン組成物。
【請求項41】
野生型のHAおよびNA遺伝子を含有するインフルエンザウイルスを得るために選別することをさらに含む、請求項35に記載の方法。
【請求項42】
選別するステップが、前記複数のインフルエンザウイルスを、非野生型のHAおよびNA遺伝子に特異的な1つまたは複数の抗体とインキュベートすることを含む、請求項41に記載の方法。
【請求項43】
インキュベーションが、1個または複数の卵の中で行われる、請求項42に記載の方法。
【請求項44】
請求項42に記載の方法で生成されたインフルエンザウイルス組成物。
【請求項45】
前記ウイルス組成物がインフルエンザワクチン組成物を含む、請求項42に記載の方法。
【請求項46】
請求項45に記載の方法で生成されたインフルエンザワクチン組成物。
【請求項47】
1つまたは複数のインフルエンザウイルス組成物を生成する方法であって、
a.i.インフルエンザウイルスのゲノムを含む複数のベクターを、インフルエンザウイルスの複製を補助できる宿主卵の集団に導入するステップと、
ii.前記宿主卵の集団を35℃以下の温度で培養するステップと、
iii.複数のインフルエンザウイルスを回収するステップと、
b.前記複数のインフルエンザウイルスを、非野生型のHAおよびNA遺伝子に特異的な1つまたは複数の抗体とインキュベートするステップと、
c.揺動させている卵を介して前記インフルエンザウイルスを継代させるステップと、
d.前記インフルエンザウイルスを加熱し、膜を通して前記インフルエンザウイルスを濾過するステップと、
を含む方法。
【請求項48】
請求項47に記載の方法で生成されたインフルエンザウイルス組成物。
【請求項49】
前記ウイルス組成物がインフルエンザワクチン組成物を含む、請求項47に記載の方法。
【請求項50】
請求項49に記載の方法で生成されたインフルエンザワクチン組成物。
【請求項51】
前記インフルエンザウイルス組成物が、蛍光焦点アッセイを用いてアッセイされる、請求項1に記載の方法。
【請求項52】
1つまたは複数のインフルエンザウイルス組成物を生成する方法であって、前記組成物が、約10%〜約60%の未分画の正常な尿膜腔液を含む方法。
【請求項53】
前記組成物が約1%〜約5%のアルギニンを含む、請求項52に記載の方法。
【請求項54】
前記インフルエンザウイルス組成物が、正常な尿膜腔液を実質的に含まない緩衝液で希釈されている、請求項1に記載の方法。
【請求項55】
前記インフルエンザウイルス組成物が、約1%〜約4%のゼラチンを含む、請求項52に記載の方法。
【請求項56】
前記インフルエンザウイルス組成物が、約2%のゼラチンを含む、請求項55に記載の方法。
【請求項57】
前記インフルエンザウイルス組成物が、約5%〜約10%のショ糖を含む、請求項52に記載の方法。
【請求項58】
前記組成物が約7%または約10%のショ糖を含む、請求項57に記載の方法。
【請求項59】
前記組成物が、約2%のアルギニンを含む、請求項53に記載の方法。
【請求項60】
前記組成物が、約80〜約150mMのヒスチジンを含む、請求項52に記載の方法。
【請求項61】
前記組成物が、約100mMのヒスチジンを含む、請求項60に記載の方法。
【請求項62】
前記インフルエンザウイルス組成物が、約2℃〜約8℃で、少なくとも6カ月、少なくとも9カ月、少なくとも18カ月、または少なくとも24カ月実質的に安定である、請求項52に記載の方法。
【請求項63】
前記組成物が、約4℃で実質的に安定である、請求項62に記載の方法。
【請求項65】
卵を介してインフルエンザウイルスを継代させるステップと、前記ウイルスを加熱するステップと、膜を通して前記ウイルスを濾過するステップとによって生成されるインフルエンザウイルス組成物であって、前記組成物が第1のTCID50を有し、前記第1のTCID50が第2のTCID50より大きく、前記第2のTCID50が卵を介してウイルスを継代させるステップと、前記ウイルスを加熱するステップと、膜を通して前記ウイルスを濾過するステップとによって生成されたものではないインフルエンザウイルスによるものである、インフルエンザウイルス組成物。
【請求項66】
卵を介してインフルエンザウイルスを継代させるステップによって生成されたインフルエンザウイルス組成物であって、前記継代中に前記卵が揺動され、前記組成物が第1のTCID50を有し、前記第1のTCID50が第2のTCID50より大きく、前記第2のTCID50が前記継代中に揺動される卵を介してインフルエンザウイルスを継代させるステップによって生成されたものではないインフルエンザウイルスによるものである、インフルエンザウイルス組成物。
【請求項67】
インフルエンザウイルスのゲノムを含む複数のベクターを、インフルエンザウイルスの複製を補助できる宿主卵の集団に導入するステップと、宿主卵の集団を35℃以下の温度で培養するステップと、複数のインフルエンザウイルスを回収するステップとによって生成されるインフルエンザウイルス組成物であって、前記組成物は、第1のTCID50を有し、前記第1のTCID50が第2のTCID50より大きく、前記第2のTCID50が、インフルエンザウイルスのゲノムを含む複数のベクターを、インフルエンザウイルスの複製を補助できる宿主卵の集団に導入するステップと、前記宿主卵の集団を35℃以下の温度で培養するステップと、複数のインフルエンザウイルスを回収するステップとによって生成されたものではないインフルエンザウイルスによるものである、インフルエンザウイルス組成物。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
1つまたは複数のインフルエンザウイルス組成物を生成する方法であって、
a.卵を介してインフルエンザウイルスを継代させるステップと、
b.前記インフルエンザウイルスを暖めるステップと、
c.膜を通して前記インフルエンザウイルスを濾過するステップと、
を含む方法。
【請求項2】
前記インフルエンザウイルスが、1株もしくは複数のA型インフルエンザウイルス株、および/または1株もしくは複数のB型インフルエンザウイルス株を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
濾過するステップが、前記インフルエンザウイルス組成物にマイクロフィルターを通過させるステップを含み、前記マイクロフィルターが、約0.2マイクロメーターから約0.45マイクロメーターまでの孔径を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
暖めるステップが、前記ウイルスを約31℃でインキュベートすることを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
暖めるステップが、前記ウイルスを28℃以上でインキュベートすることを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
暖めるステップが、前記ウイルスを28℃〜約40℃でインキュベートすることを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
暖めるステップが、前記ウイルスを約28℃〜約36℃でインキュベートすることを含む、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
暖めるステップが、前記ウイルスを約28℃〜約34℃でインキュベートすることを含む、請求項6に記載の方法。
【請求項9】
暖めるステップが、前記ウイルスを約30℃〜約32℃でインキュベートすることを含む、請求項6に記載の方法。
【請求項10】
前記ウイルスを濾過するステップの前に、暖めるステップを行う、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記ウイルスを濾過するステップの間に、暖めるステップを行う、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記ウイルスを濾過するステップの前、および前記ウイルスを濾過するステップの間の両方で、暖めるステップを行う、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
暖めるステップが約1時間行われる、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
暖めるステップが約30分間〜約240分間行われる、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
暖めるステップが約45分間〜約200分間行われる、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
加熱が約60分間〜約90分間行われる、請求項14に記載の方法。
【請求項17】
請求項1に記載の方法で生成されたインフルエンザウイルス組成物。
【請求項18】
前記ウイルス組成物がインフルエンザワクチン組成物を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項19】
請求項18に記載の方法で生成されたインフルエンザワクチン組成物。
【請求項20】
1つまたは複数のインフルエンザウイルス組成物を生成する方法であって、卵を介してインフルエンザウイルスを継代させるステップを含み、接種後、前記継代中に前記卵を揺動させる方法。
【請求項21】
揺動させるステップが、1分間に約1サイクル以下の速度で、1分間に約5サイクル以下の速度で、または1分間に約10サイクル以下の速度で、前記卵を傾斜させることを含む、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記卵を約12時間揺動させる、請求項20に記載の方法。
【請求項23】
前記卵を約24〜48時間揺動させる、請求項20に記載の方法。
【請求項24】
二次インキュベーションをさらに含む、請求項20に記載の方法。
【請求項25】
前記二次インキュベーションの間に前記卵を揺動させる、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
前記インフルエンザウイルスが、A型インフルエンザウイルス、および/またはB型インフルエンザウイルスを含む、請求項20に記載の方法。
【請求項27】
前記揺動させた卵のTCID50が、揺動させなかった卵を介して継代された同一のインフルエンザウイルスのTCID50より、少なくとも0.4 log大きい、請求項20に記載の方法。
【請求項28】
請求項20に記載の方法で生成されたインフルエンザウイルス組成物。
【請求項29】
前記ウイルス組成物がインフルエンザワクチン組成物を含む、請求項20に記載の方法。
【請求項30】
請求項29に記載の方法で生成されたインフルエンザワクチン組成物。
【請求項31】
1つまたは複数のインフルエンザウイルス組成物を生成する方法であって、
a.インフルエンザウイルスのゲノムを含む複数のベクターを、インフルエンザウイルスの複製を補助できる宿主卵の集団に導入するステップと、
b.前記宿主卵の集団を35℃以下の温度で培養するステップと、
c.複数のインフルエンザウイルスを回収するステップと、
を含む方法。
【請求項32】
前記インフルエンザウイルスが、弱毒インフルエンザウイルス、寒冷適応インフルエンザウイルス、温度感受性インフルエンザウイルス、または、弱毒寒冷適応温度感受性インフルエンザウイルスのうちの1つまたは複数を含む、請求項31に記載の方法。
【請求項33】
前記複数のベクターが、1つまたは複数のB型インフルエンザウイルスを含む、請求項31に記載の方法。
【請求項34】
請求項31に記載の方法で生成されたインフルエンザウイルス組成物。
【請求項35】
前記ウイルス組成物がインフルエンザワクチン組成物を含む、請求項31に記載の方法。
【請求項36】
請求項35に記載の方法で生成されたインフルエンザワクチン組成物。
【請求項37】
野生型のHAおよびNA遺伝子を含有するインフルエンザウイルスを得るために選別することをさらに含む、請求項31に記載の方法。
【請求項38】
選別するステップが、前記複数のインフルエンザウイルスを、非野生型のHAおよびNA遺伝子に特異的な1つまたは複数の抗体とインキュベートすることを含む、請求項37に記載の方法。
【請求項39】
インキュベーションが、1個または複数の卵の中で行われる、請求項38に記載の方法。
【請求項40】
請求項38に記載の方法で生成されたインフルエンザウイルス組成物。
【請求項41】
前記ウイルス組成物がインフルエンザワクチン組成物を含む、請求項38に記載の方法。
【請求項42】
請求項41に記載の方法で生成されたインフルエンザワクチン組成物。
【請求項43】
1つまたは複数のインフルエンザウイルス組成物を生成する方法であって、
a.i.インフルエンザウイルスのゲノムを含む複数のベクターを、インフルエンザウイルスの複製を補助できる宿主卵の集団に導入するステップと、
ii.前記宿主卵の集団を35℃以下の温度で培養するステップと、
iii.複数のインフルエンザウイルスを回収するステップと、
b.前記複数のインフルエンザウイルスを、非野生型のHAおよびNA遺伝子に特異的な1つまたは複数の抗体とインキュベートするステップと、
c.揺動させている卵を介して前記インフルエンザウイルスを継代させるステップと、
d.前記インフルエンザウイルスを加熱し、膜を通して前記インフルエンザウイルスを濾過するステップと、
を含む方法。
【請求項44】
請求項43に記載の方法で生成されたインフルエンザウイルス組成物。
【請求項45】
前記ウイルス組成物がインフルエンザワクチン組成物を含む、請求項43に記載の方法。
【請求項46】
請求項45に記載の方法で生成されたインフルエンザワクチン組成物。
【請求項47】
前記インフルエンザウイルス組成物が、蛍光焦点アッセイを用いてアッセイされる、請求項1に記載の方法。
【請求項48】
1つまたは複数のインフルエンザウイルス組成物を生成する方法であって、前記組成物が、約10%〜約60%の未分画の正常な尿膜腔液を含む方法。
【請求項49】
前記組成物が約1%〜約5%のアルギニンを含む、請求項48に記載の方法。
【請求項50】
前記インフルエンザウイルス組成物が、正常な尿膜腔液を実質的に含まない緩衝液で希釈されている、請求項48に記載の方法。
【請求項51】
前記インフルエンザウイルス組成物が、約1%〜約4%のゼラチンを含む、請求項48に記載の方法。
【請求項52】
前記インフルエンザウイルス組成物が、約2%のゼラチンを含む、請求項51に記載の方法。
【請求項53】
前記インフルエンザウイルス組成物が、約5%〜約10%のショ糖を含む、請求項48に記載の方法。
【請求項54】
前記組成物が約7%または約10%のショ糖を含む、請求項53に記載の方法。
【請求項55】
前記組成物が、約2%のアルギニンを含む、請求項49に記載の方法。
【請求項56】
前記組成物が、約80〜約150mMのヒスチジンを含む、請求項48に記載の方法。
【請求項57】
前記組成物が、約100mMのヒスチジンを含む、請求項56に記載の方法。
【請求項58】
前記インフルエンザウイルス組成物が、約2℃〜約8℃で、少なくとも6カ月、少なくとも9カ月、少なくとも18カ月、または少なくとも24カ月実質的に安定である、請求項48に記載の方法。
【請求項59】
前記組成物が、約4℃で実質的に安定である、請求項58に記載の方法。
【請求項60】
卵を介してインフルエンザウイルスを継代させるステップと、前記ウイルスを加熱するステップと、膜を通して前記ウイルスを濾過するステップとによって生成されるインフルエンザウイルス組成物であって、前記組成物が第1のTCID50を有し、前記第1のTCID50が第2のTCID50より大きく、前記第2のTCID50が卵を介してウイルスを継代させるステップと、前記ウイルスを加熱するステップと、膜を通して前記ウイルスを濾過するステップとによって生成されたものではないインフルエンザウイルスによるものである、インフルエンザウイルス組成物。
【請求項61】
卵を介してインフルエンザウイルスを継代させるステップによって生成されたインフルエンザウイルス組成物であって、前記継代中に前記卵が揺動され、前記組成物が第1のTCID50を有し、前記第1のTCID50が第2のTCID50より大きく、前記第2のTCID50が前記継代中に揺動される卵を介してインフルエンザウイルスを継代させるステップによって生成されたものではないインフルエンザウイルスによるものである、インフルエンザウイルス組成物。
【請求項62】
インフルエンザウイルスのゲノムを含む複数のベクターを、インフルエンザウイルスの複製を補助できる宿主卵の集団に導入するステップと、宿主卵の集団を35℃以下の温度で培養するステップと、複数のインフルエンザウイルスを回収するステップとによって生成されるインフルエンザウイルス組成物であって、前記組成物は、第1のTCID50を有し、前記第1のTCID50が第2のTCID50より大きく、前記第2のTCID50が、インフルエンザウイルスのゲノムを含む複数のベクターを、インフルエンザウイルスの複製を補助できる宿主卵の集団に導入するステップと、前記宿主卵の集団を35℃以下の温度で培養するステップと、複数のインフルエンザウイルスを回収するステップとによって生成されたものではないインフルエンザウイルスによるものである、インフルエンザウイルス組成物。
【請求項63】
インフルエンザウイルス、アルギニン、ショ糖、NAFおよびゼラチンを含んでなる安定したインフルエンザウイルスワクチン組成物。
【請求項64】
約1%〜約4%濃度のアルギニンを含む、請求項63に記載の組成物。
【請求項65】
約5%〜約10%濃度のショ糖を含む、請求項63に記載の組成物。
【請求項66】
約10%〜約60%濃度のNAFを含む、請求項63に記載の組成物。
【請求項67】
約1%〜約4%濃度のゼラチンを含む、請求項63に記載の組成物。
【請求項68】
約2℃〜約8℃で安定している、請求項63に記載の組成物。
【請求項69】
インフルエンザウイルス、約1%〜約4%のアルギニン、約5%〜約10%のショ糖、約10%〜約60%のNAFおよび約1%〜約4%のゼラチンを含んでなる、約2℃〜約8℃で安定しているインフルエンザウイルスワクチン組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18A】
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【図18B−C】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【図31】
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【図32】
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【図33】
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【図34】
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【図35】
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【図36】
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【図37】
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【図38】
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【図39】
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【図40】
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【図41】
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【図42】
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【図43】
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【図44】
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【図45】
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【図46】
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【図47】
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【図48】
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【図49】
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【図50】
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【図51】
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【図52】
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【公表番号】特表2006−519028(P2006−519028A)
【公表日】平成18年8月24日(2006.8.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−508841(P2006−508841)
【出願日】平成16年2月25日(2004.2.25)
【国際出願番号】PCT/US2004/005697
【国際公開番号】WO2005/014862
【国際公開日】平成17年2月17日(2005.2.17)
【出願人】(503036553)メッドイミューン バクシーンズ、インコーポレイティド (2)
【Fターム(参考)】