説明

インフレータ

【課題】ハウジング、ボトル栓、オリフィス部材など従来からあった部材以外に新たに部材を設けることなく屈曲流路を形成しフィルタレス構造にできるインフレータの提供。
【解決手段】ハウジング20内にガス発生部30を有し、ハウジングの一端部にガス通路孔52を有するインフレータ10であって、ハウジング20内でガス発生部30とガス通路孔52との間に、燃焼残渣分離・堆積ガス流路50が配置されている。燃焼残渣分離・堆積ガス流路50は、ガスの流れに変化をもたせ燃焼ガス70と燃焼残渣71の遠心力の差を利用して燃焼残渣71を燃焼ガス70から分離させる流路屈曲部72および/または流路断面絞り部58、52と、燃焼残渣71を堆積させるガス流れ淀み部73とを有する。燃焼残渣分離・堆積ガス流路50は、ボトル栓51、および/または、ガス発生部30とハウジング20の一端部の内部との間のオリフィス部材53に形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両に取り付けられ、車両の衝突時にエアバッグに供給するガスを発生するインフレータ(ガス発生装置)に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、ガス発生剤が燃焼した際にガス噴出孔から噴出したガスの流れを、燃焼室外部において、3回以上変更するよう、燃焼室中心から外側に向かってジグザグ形状に流路を形成したインフレータを開示している。該インフレータでは、フィルタ部材が設けられておらず、フィルタレス構造となっている。フィルタレス構造であっても、燃焼残渣が壁に付着して冷却、固化されるので、燃焼残渣はほとんど外部に放出されない。
特許文献2は、特許文献1に開示の構造に、さらに、ガス流れ変更位置に波形形状部を形成したインフレータを開示している。波形形状部により燃焼残渣の捕獲量が増加する。
【特許文献1】実用新案登録第3122258号
【特許文献2】実用新案登録第3122259号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、特許文献1、2のインフレータには、つぎの課題がある。
フィルタレス構造であっても、燃焼残渣が流路壁に付着するので、燃焼残渣(ミスト)低減が可能であるが、インフレータのハウジング外に、ジグザグ状の屈曲ガス流路を形成するための部材を新たに追加する必要があり、更なる部品点数の削減、生産性向上、コスト低減、重量削減、など改善の余地がある。
【0004】
本発明の目的は、フィルタレス構造を維持し、かつ、屈曲ガス流路を得るのに、ハウジング、ボトル栓、オリフィス部材など従来からあった部材を利用して形成することにより、新たに部材を設ける必要性がないインフレータを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決する、または上記目的を達成する本発明のインフレータは、つぎのとおりである。
(1) 筒状のハウジング内にガス発生部を有し、前記ハウジングの一端部のハウジング壁にガス発生部で発生したガスをハウジングから流出させるガス通路孔を有するインフレータであって、
前記ハウジング内で前記ガス発生部と前記ガス通路孔との間に燃焼残渣分離・堆積ガス流路が配置されており、
該燃焼残渣分離・堆積ガス流路は、燃焼ガスの流れに変化をもたせ燃焼ガスと燃焼残渣の遠心力の差を利用して燃焼ガスから燃焼残渣を分離させる流路屈曲部および/または流路断面絞り部と、燃焼ガスから分離された燃焼残渣を堆積させる燃焼ガス流れから外れたガス流れ淀み部とを有しており、
前記燃焼残渣分離・堆積ガス流路の流路壁は、前記ハウジング壁と、前記ハウジングの一端部を閉塞するボトル栓および/または前記ガス発生部と前記ハウジングの一端部の内部との間に配置されたオリフィス部材に一体に形成された筒状部とを含んでいるインフレータ。
(2) 前記オリフィス部材が小径筒状部をさらに有しており、該小径筒状部は、前記オリフィス部材の開口と同心状でかつ前記筒状部より小径であり、さらに前記筒状部に形成されたガス流路孔よりも前記オリフィス部材から前記ボトル栓方向に突出している(1)記載のインフレータ。
【発明の効果】
【0006】
上記(1)の本発明のインフレータによれば、ハウジング内で前記ガス発生部と前記ガス通路孔との間に、燃焼残渣分離・堆積ガス流路が設けられ、該燃焼残渣分離・堆積ガス流路がガスの流れに変化をもたせガスと燃焼残渣の遠心力の差を利用して燃焼残渣をガスから分離させる流路屈曲部および/または流路断面絞り部と、ガスから分離された燃焼残渣を堆積させるガス流れから外れたガス流れ淀み部とを有しているので、フィルタ部材を設けなくても燃焼残渣分離・堆積ガス流路で燃焼残渣を分離、堆積でき、フィルタレス構造が維持されている。
【0007】
また、燃焼残渣分離・堆積ガス流路が、ハウジング壁と、ハウジングの一端部を閉塞するボトル栓および/またはガス発生部とハウジングの一端部の内部との間に配置されたオリフィス部材に一体に形成された筒状部とを含んでいるので、燃焼残渣分離・堆積ガス流路を作製するのに、従来からあった部材を利用して作製でき、新たに部材を設ける必要がなく、また、ハウジング端部を大型化していない。
【0008】
また、フィルタレス構造によりハウジング長が短縮できるので、燃焼残渣分離・堆積ガス流路がオリフィス部材に形成される場合は、ハウジングの形成に深絞り成形を用いることが可能となり、ハウジング自体に端板を形成できる。これによって、ボトル栓が不要となり、ボトル栓のハウジングへのかしめ構造部も削除でき、ハウジングの端部の構造を単純化でき、製作コストを低減できる。
【0009】
上記(2)の本発明のインフレータによれば、オリフィス部材が小径筒状部をさらに有しているので、上記(1)の本発明のインフレータの効果がさらに効果的に得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下に、本発明のインフレータ(ガス発生装置)を、図1〜図10を参照して説明する。図中、図1〜図3は本発明の実施例1を示し、図4〜図8は本発明の実施例2を示し、図9は本発明の実施例3を示す。図10は、実施例1〜3の何れにも適用可能である。本発明の全実施例に共通する部分には、本発明の全実施例にわたって同じ符号を付してある。
【0011】
〔実施例1〕
まず、本発明の実施例1を図1〜図3を参照して説明する。
本発明の実施例1のインフレータ10は、車両の衝突時に衝突信号または衝突予知信号を受信して点火され、ガス発生剤が燃焼され、エアバッグへの膨張用ガスを発生する装置である。発生した燃焼ガスは、インフレータ10からエアバッグに供給され、エアバッグを展開、膨張し、乗員を拘束して乗員を保護する。
【0012】
図1〜図10に示すように、本発明のインフレータ10は、ハウジング20と、ハウジング20の長手方向中央部内に設けられたガス発生部30と、ガス発生部30のハウジング長手方向一側のハウジング部分内に設けられたスクイブ(点火器)40と、ガス発生部30のハウジング長手方向他側のハウジング部分内に形成された燃焼残渣分離・堆積ガス流路50を備えている。本発明は、とくに、ガス発生部30のハウジング長手方向他側のハウジング部分内に形成された燃焼残渣分離・堆積ガス流路50の構造に関する。
【0013】
ハウジング20は筒状部材からなり、金属製、たとえば、鉄製、ステンレス製、アルミ製等である。ハウジング20の一端(燃焼残渣分離・堆積ガス流路50が設けられている側の端部と反対側の端部)の開口端は、該開口端に固定されたホルダ41とホルダ41で支持されたスクイブ40とで閉塞される。ホルダ41は、樹脂製または金属製で、ハウジング20の開口端部に、たとえば、かしめやネジ結合などにより、固定される。
【0014】
ハウジング20の他端は、該他端が開口端の場合はボトル栓51で閉塞され、あるいは、図9に示すようにハウジングが深絞り成形で形成されている場合は、ハウジング端板21によって閉塞される。ハウジング20の他端(燃焼残渣分離・堆積ガス流路50が設けられている側の端部)のハウジング壁には、エアバッグへの燃焼ガス噴出口となるガス通路孔52が、周方向に互いに間隔をもたせて複数、設けられている。
【0015】
スクイブ40は、ホルダ41を貫通して延びており、一端にハウジングホルダ外に露出する電極ピン42を備え、他端はスクイブ容器43となっている。スクイブ容器43は、エンハンサ剤封入容器33に入れられたエンハンサ剤(伝火剤)32に接している。スクイブ容器43内には、電極ピン41を通して電流が供給されたときに発熱する回路44が組み込まれているととともに、点火薬45が封入されている。スクイブ40は、衝突センサまたは衝突予知センサからの信号に基づいて、電極ピン42からの電流で、スクイブ40の先端部内の回路44が発熱し、封入されている点火薬45に着火し、火炎を発生する。発生した火炎は、スクイブ容器43のエンハンサ剤32側の壁を破って、エンハンサ剤32内に噴出し、エンハンサ剤32に伝火し、エンハンサ剤32を燃焼させる。
【0016】
ガス発生部30には、ハウジング20内に、ガス発生剤31が設けられる。エンハンサ剤32はガス発生剤31とスクイブ40との間に配置される。エンハンサ剤32はエンハンサ剤封入容器33に入れられてガス発生剤31と仕切られていてもよい。ガス発生剤31と、エンハンサ剤32を入れたエンハンサ剤封入容器33との間には、クッション材34が設けられる。クッション材34は、ガス発生剤31のペレットが車両の振動などによって互いにこすれあって磨耗し粉体となることがないように、ガス発生剤31に押し力をかけている。
【0017】
燃焼残渣分離・堆積ガス流路50は、ハウジング20内でガス発生部30とハウジング20のガス通路孔52との間に形成され、配置される。燃焼残渣分離・堆積ガス流路50は、燃焼ガスの流れに変化をもたせ燃焼ガス70と燃焼残渣(燃焼残滓、ミストともいう)71の遠心力(燃焼ガス流が曲げられる場合に燃焼ガス70と燃焼残渣71に働く遠心力)の差を利用して燃焼残渣71を燃焼ガスから分離させる流路屈曲部72A、72B、72Cおよび/または流路断面絞り部(ガス通路孔)52、58と、燃焼ガスから分離された燃焼残渣を滞留させ、堆積させる、燃焼ガス流れから外れたガス流れ淀み部73A、73B、73Cとを有する。
【0018】
燃焼残渣分離・堆積ガス流路50とガス発生部30(ガス発生剤31が収容されている部分)との間には、オリフィス部材53が設けられている。オリフィス部材53は環状部材で、中央部に開口54を有する。ガス発生剤31が燃焼して発生した燃焼ガスはオリフィス部材53の開口54を通過して燃焼残渣分離・堆積ガス流路50へと流れる。ガス発生剤31が発生した燃焼ガス70は、高温、高圧であり、高温の燃焼残渣(ミスト)71を含む。燃焼残渣(ミスト)71は液状またはガス状であるが、燃焼残渣分離・堆積ガス流路50を通過中に燃焼ガスとともに冷却、固化されて、粉末状となる。
【0019】
燃焼残渣分離・堆積ガス流路50を形成する流路壁は、インフレータ10の従来からある部材、たとえば、ボトル栓51、オリフィス部材53、およびそれ(51、53)に一体に形成された部分(後述する、筒状部)55、56と、ハウジング20の壁(ハウジング端板21を含む)とを含む。ボトル栓51、オリフィス部材53、およびそれ(51、53)に一体に形成された筒状部55、56と、ハウジング20の壁、それらに形成されたガス通路孔52、58は、燃焼残渣分離・堆積ガス流路50を形成する。
【0020】
オリフィス部材53のボトル栓51側に開口54と同心状に延びる小径筒状部(堤部)54aが形成されており、小径筒状部(堤部)54aの先端は筒状部55、56に形成したガス流路孔58よりもボトル栓51側に位置している。
小径筒状部(堤部)54aを設ける理由はつぎのとおりである。インフレータ着火直後は噴出するガスの勢いでガスの流れはボトル栓51の壁に衝突する。そのため、小径筒状部(堤部)54aを設けない場合は、内圧の上昇に伴ってすぐにガスがガス流路孔58へバイパスするおそれがある。しかし、小径筒状部(堤部)54aを設けることにより、ガスがボトル栓51の壁に衝突しないでガス流路孔58へバイパスするおそれがなくなる。
以上の構成は、本発明の全実施例に適用可能である。
【0021】
つぎに、本発明の実施例1に特有な構成を説明する。
本発明の実施例1では、図1〜図3に示すように、燃焼残渣分離・堆積ガス流路50は、ボトル栓(ハウジング20がパイプからなる場合における、ハウジング20の、ホルダ41と反対側の端部を閉塞する栓)51と、ボトル栓51に一体に形成された部分(筒状部)55と、ハウジング20によって形成されている。
ハウジング20の端部内にボトル栓51が挿入されてかしめ57などによりハウジング20の端部に固定されている。図2は図1の構造を拡大して示したものであり、図3は図2の変形例を示す。図3の構造では、図2のボトル栓51の外周部が内周部に比べて厚く形成されており、ハウジング20の軸方向端部をボトル栓51の外周部にかしめやすくしてある。
【0022】
図1〜図3の実施例1において、ボトル栓51に一体に形成された部分55は、ハウジング20の内周面より小径でオリフィス部材53の端面に当接する位置まで軸方向に延びる筒状部からなる。この筒状部55(ボトル栓51に一体に形成された部分55と同じ部分であるため筒状部の符号も55とする)には、オリフィス部材53の端面(ボトル栓51に対向する側の端面)から第1の所定距離d1(孔の中心での距離)だけ離れた位置にガス通路孔58が周方向に互いに間隔をもたせて複数設けられている。筒状部55は、ハウジング20の軸線と同心状に形成されている。
【0023】
ハウジング20の筒状壁に形成された、複数の、燃焼ガス噴出口となるガス通路孔52は、ボトル栓51の端板の外周部の軸方向内側面からオリフィス部材53側に第2の所定距離d2(孔の中心での距離)だけ離れている。
【0024】
燃焼ガスの流れはつぎのようになる。ガス発生部30からオリフィス部材53の中央の孔54を通ってボトル栓51の筒状部55内に燃焼ガス70が噴出する。燃焼ガス70は、オリフィス部材53における中央の孔54の周囲に設けた小径筒状部(堤部)54aを通過した後、折り返し(第1の流路屈曲部72A)、筒状部55のガス通路孔58部位で外周側に折れ曲がって(第2の流路屈曲部72B)、ガス通路孔58を通って筒状部55内から筒状部55とハウジング20との間の環状ガス通路に流れ、該環状ガス通路を軸方向に流れてハウジング20のガス通路孔52部位で折れ曲がって(第3の流路屈曲部72C)、ガス通路孔52を通ってハウジング20外に噴出する。第1〜第3の流路屈曲部72A、72B、72C、およびガス通路孔58、52部位での流路断面積の変化(絞りおよび拡大)によって、ガスの流れに曲がりと流速の変化が付与され、燃焼残渣(ミスト)71と燃焼ガスとの質量差により生じる遠心力および/または慣性力の差によって、燃焼残渣71が燃焼ガスから分離される。また、燃焼残渣(ミスト)71は、流れている間に燃焼ガスおよび接触する壁面によって熱を奪われて固化し粒状となる。
【0025】
一方、ボトル栓51の端板の軸方向内側面と筒状部55の内周面とのコーナ部には第1のガス流れ淀み部73Aが形成され、オリフィス部材53の軸方向外側面(ボトル栓51に対向する側の面)と筒状部55の上記d1の部分の内周面とのコーナ部には第2のガス流れ淀み部73Bが形成され、ボトル栓51の端板の軸方向内側面とハウジング20の上記d2の部分の内周面とのコーナ部には第3のガス流れ淀み部73Cが形成される。第1〜第3のガス流れ淀み部73A、73B、73Cは、ガスの流れの流線から外れており、上記のガスの流れから分離された燃焼残渣71を堆積する。
【0026】
つぎに、本発明の実施例1の作用、効果を説明する。
車両の衝突時に衝突信号を受けまたは衝突の予知信号を受けると、スクイブ40は、衝突センサまたは衝突予知センサからの信号に基づいて、電極ピン42からの電流で、スクイブ40の先端部内の回路44が発熱し、封入されている点火薬45に着火し、火炎を発生する。発生した火炎は、スクイブ40のエンハンサ剤32側の壁を破って、エンハンサ剤32内に噴出し、エンハンサ剤32に伝火する。
【0027】
エンハンサ剤32は、燃焼を助長させつつガス発生剤31に伝火し、燃焼ガスを発生する。伝火されたガス発生剤31は、燃焼域の先端がエンハンサ剤32側からオリフィス部材53側に移動しつつ、燃焼し、高温高圧の燃焼ガスを発生する。エンハンサ剤32とガス発生剤31で発生した高温高圧の燃焼ガスは、燃焼残渣分離・堆積ガス流路50で燃焼残渣71等を捕捉され、かつ、冷却されて、ガス放出孔52を通って放出され、エアバッグ(図示略)に供給されてエアバッグを展開、膨張させる。展開、膨張したエアバッグは、乗員を拘束して乗員を保護する。
【0028】
燃焼残渣分離・堆積ガス流路50の作用、効果はつぎのとおりである。
燃焼残渣分離・堆積ガス流路50がハウジング20内でガス発生部30とガス通路孔52との間に設けられており、燃焼残渣分離・堆積ガス流路50が燃焼残渣71を燃焼ガス70から分離し捕獲するので、燃焼ガス70の燃焼残渣71をとるのに特別にフィルタ部材を設ける必要がなく、フィルタレス構造となっている。フィルタを設けない分、部品点数が削減され、製造が容易化される。フィルタはその性能を得るためには、相当量の長さを必要としたが、本発明のように、燃焼残渣分離・堆積ガス流路50を利用する場合には、流路曲がり、流路断面の拡縮構造でフィルタと同等かそれ以上の燃焼残渣71捕獲性能が得られるため、フィルタを設ける場合に比べてハウジング20長さを短縮できる。その結果、製作コストの低減、車両への設置スペースの低減などの効果も得られる。フィルタは針金などを潰して形成するため、均質に作るのが難しく、粗の部位ができると燃焼ガスを通しやすい部位となって燃焼残渣除去性能が安定しなくなるおそれがある。しかし、本発明では、燃焼残渣分離・堆積ガス流路50の壁部材が金属製板材のため、フィルタにおけるような粗の部位ができず、燃焼残渣除去性能が安定する。
【0029】
燃焼残渣分離・堆積ガス流路50が、燃焼ガス70の流れに変化をもたせ燃焼ガス70と燃焼残渣71の遠心力の差を利用して燃焼残渣71をガスから分離させる流路屈曲部72A、72B、72Cおよび/または流路断面絞り部(ガス通路孔58、52)と、ガスから分離された燃焼残渣71を堆積させるガス流れから外れたガス流れ淀み部73A、73B、73Cとを有するので、ガス発生部30で発生した燃焼ガスは燃焼残渣分離・堆積ガス流路50を通過する間に燃焼残渣71が分離され、ガス流れ淀み部73A、73B、73Cに堆積され、ガス通路孔52から流出するときには、燃焼残渣量、ガス温度がエアバッグを損傷させない程度に低減されている。
【0030】
また、燃焼残渣分離・堆積ガス流路50が、ハウジング20の一端部を閉塞するボトル栓51、および/または、ガス発生部30とハウジング20の一端部の内部との間に配置されたオリフィス部材53に形成されるので、燃焼残渣分離・堆積ガス流路50を作製するのに、新たに部材を設ける必要がなく、部品点数増を伴わない。その分、構造が単純化され、製造コストが低減されている。
以上の作用、効果は本発明の全実施例に適用可能である。
【0031】
本発明の実施例1に特有な作用、効果はつぎのとおりである。
本発明の実施例1では、筒状部材55がボトル栓51に一体に形成されるので、フィルタを設ける必要がなく、部品点数を削減できる。また、ハウジング20にパイプ素材を用いることができ、製造コストを低減でき、ハウジング20のボトル栓51へのかしめも容易である。
また、図3に示す実施例1の変形例においては、ボトル栓51の外周部の厚さを大きくとれるため、かしめの形状をV字状とすることができ、ボトル栓51をV字の左右の両方向に対して固定できる。
【0032】
〔実施例2〕
本発明の実施例2のインフレータでは、図4〜図8に示すように、燃焼残渣分離・堆積ガス流路50に、ボトル栓51に一体に設けた仕切壁59と、仕切壁59に設けたガス通路孔60を追加した点を除き、実施例1に準じる。以下、実施例2に特有な構成を説明する。図4と図5は、図6において、互いにたとえば90°異なる断面を示す。また、図7、図8は図4、図5の拡大断面を示す。図7と図8は互いにたとえば90°異なる断面を示す。
【0033】
本発明の実施例2のインフレータの燃焼残渣分離・堆積ガス流路50は、実施例1に、さらに、筒状部55とハウジング20との間の環状ガス通路に該環状ガス通路を軸方向に仕切る仕切壁59を設け、該仕切壁59にガス通路孔60を追加、形成したものから構成されている。すなわち、筒状部55とハウジング20との間の環状ガス通路に該環状ガス通路を軸方向に仕切る仕切壁59が設けられ、仕切壁59に複数のガス通路孔60が周方向に間隔をおいて等間隔に形成されている。仕切壁59の軸方向間隔と数、およびガス通路孔60の周方向間隔と数は、適宜に決められてよい。
実施例2では、筒状部55に、オリフィス部材53の端面(ボトル栓51に対向する側の端面)に接するように、ガス通路孔58が周方向に互いに間隔をもたせて複数設けられている。
【0034】
実施例2における燃焼ガスの流れはつぎのようになる。ガス発生部30からオリフィス部材53の中央の孔54を通ってボトル栓51の筒状部55内に噴出する燃焼ガス70は、ボトル栓51の端板にあたって折り返し(第1の流路屈曲部72A)、筒状部55のガス通路孔58部位で外周側に折れ曲がって(第2の流路屈曲部72B)ガス通路孔58を通って筒状部55内から筒状部55とハウジング20との間の環状ガス通路に流れ、該環状ガス通路を軸方向に流れる。燃焼ガス70は軸方向に流れて仕切壁59によって遮られ、周方向に流れの方向を変えて、ガス通路孔60の部位で軸方向に折れ曲がって(第4の流路屈曲部72D)ガス通路孔60を通って軸方向に流れ、ハウジング20のガス通路孔52部位で半径方向に折れ曲がって(第3の流路屈曲部72C)ガス通路孔52を通ってハウジング20外に噴出する。第1〜第4の流路屈曲部72A、72B、72C、72D、およびガス通路孔58、52部位での流路断面積の変化(絞りおよび拡大)によって、ガスの流れに曲がりと流速の変化が付与され、燃焼残渣(ミスト)71と燃焼ガスとの質量差により生じる遠心力および/または慣性力の差によって、燃焼残渣71が燃焼ガスから分離される。また、燃焼残渣(ミスト)71は、流れている間に燃焼ガスおよび接触する壁面によって熱を奪われて固化し粒状となる。
【0035】
一方、ボトル栓51の端板の軸方向内側面と筒状部55の内周面とのコーナ部には第1のガス流れ淀み部73Aが形成され、オリフィス部材53の軸方向外側面(ボトル栓51に対向する側の面)と筒状部55の内周面とのコーナ部には第2のガス流れ淀み部73Bが形成され、仕切壁59のガス流れ方向上流側の壁面近傍には第4のガス流れ淀み部73Dが形成され、ボトル栓51の端板の軸方向内側面とハウジング20の上記d2の部分の内周面とのコーナ部には第3のガス流れ淀み部73Cが形成される。第1〜第4のガス流れ淀み部73A、73B、73C、73Dは、燃焼ガスの流れの流線から外れており、上記の燃焼ガスの流れから分離された燃焼残渣71を堆積する。
【0036】
本発明の実施例2の作用、効果は、実施例1の作用、効果に加えてつぎの作用、効果を有する。
実施例2では、仕切壁59が設けられているが、この仕切壁59は筒状部55を介してボトル栓51と一体のため、フィルタを設ける場合に比べて部品点数が削減される。
また、第4の流路屈曲部72Dと第4のガス流れ淀み部73Dが設けられている分、燃焼残渣71がより一層ガスの流れから分離される。
【0037】
〔実施例3〕
本発明の実施例3のインフレータでは、図9に示すように、燃焼残渣分離・堆積ガス流路50を除き実施例1に準じる。以下、本発明の実施例3に特有な構成を説明する。
実施例3の燃焼残渣分離・堆積ガス流路50は、図9に示すように、オリフィス部材53と、オリフィス部材53に一体に形成された部分(筒状部)56と、ハウジング20によって形成されている。すなわち、筒状部56がオリフィス部材53側に一体に形成される。
【0038】
実施例3では、ハウジング20の端板21はハウジング素材の平板を有底円筒状にしぼり成形した時の底の部分から構成され、ボトル栓51は設けられない。オリフィス部材53に一体に形成された部分(筒状部)56は、ハウジング20の内周面より小径でオリフィス部材53からハウジング端板21の軸方向内側端面に当接する位置まで軸方向に延びる筒状部からなる。この筒状部56(オリフィス部材53に一体に形成された部分56と同じ部分であるため筒状部の符号も56とする)には、オリフィス部材53の端面(ハウジング20の端板に対向する側の端面)から所定距離d1だけ離れた位置(孔58の中心での距離)に、ガス通路孔58が周方向に互いに間隔をもたせて複数設けられている。
【0039】
ハウジング20の筒状壁に形成される、複数の、燃焼ガス噴出口となるガス通路孔52は、ハウジング端板21の外周部の軸方向内側面からオリフィス部材53側に第2の所定距離d2だけ離れている。
【0040】
燃焼ガスの流れはつぎのようになる。ガス発生部30からオリフィス部材53の中央の孔54を通って筒状部56内に噴出する燃焼ガス70は、中央の孔54の周囲に設けた小径筒状部(堤部)54aを通過した後折り返し(第1の流路屈曲部72A)、筒状部56のガス通路孔58部位で外周側に折れ曲がって(第2の流路屈曲部72B)ガス通路孔58を通って筒状部56内から筒状部56とハウジング20との間の環状ガス通路に流れ、該環状ガス通路を軸方向に流れてハウジング20のガス通路孔52部位で折れ曲がって(第3の流路屈曲部72C)ガス通路孔52を通ってハウジング20外に噴出する。第1〜第3の流路屈曲部72A、72B、72C、およびガス通路孔58、52部位での流路断面積の変化(絞りおよび拡大)によって、ガスの流れに曲がりと流速の変化が付与され、燃焼残渣(ミスト)71と燃焼ガスとの質量差により生じる遠心力および/または慣性力の差によって、燃焼残渣71が燃焼ガスから分離される。また、燃焼残渣(ミスト)71は、流れている間に燃焼ガスおよび接触する壁面によって熱を奪われて固化し粒状となる。
なお、実施例3においても、実施例2の仕切壁59とガス通路孔60が筒状部56の外周側に設けられてもよい。
【0041】
一方、ハウジング20の端板21の軸方向内側面と筒状部56の内周面とのコーナ部には第1のガス流れ淀み部73Aが形成され、オリフィス部材53の軸方向外側面(ハウジング20の端板に対向する側の面)と筒状部56の内周面とのコーナ部には第2のガス流れ淀み部73が形成され、ハウジング20の端板の軸方向内側面とハウジング20の上記d2の部分の内周面とのコーナ部には第3のガス流れ淀み部73Cが形成される。第1〜第3のガス流れ淀み部73A、73B、73Cは、燃焼ガスの流れの流線から外れており、上記の燃焼ガスの流れから分離された燃焼残渣71を堆積する。実施例2の仕切壁59が設けられる場合は第4のガス流れ淀み部73Dも存在する。
【0042】
本発明の実施例3の特有な作用、効果はつぎのとおりである。
燃焼残渣分離・堆積ガス流路50がオリフィス部材53に形成されるので、ハウジング20の形成に深絞り成形を用いることが可能となり、燃焼残渣分離・堆積ガス流路50がボトル栓51に形成される場合に必要なボトル栓51が不要となり、インフレータ10の製造コストを低減することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】本発明の実施例1の燃焼残渣分離・堆積ガス流路を有するインフレータのガス発生部から燃焼残渣分離・堆積ガス流路側の端部までの部分の断面図である。
【図2】図1(本発明の実施例1)のインフレータの燃焼残渣分離・堆積ガス流路部分の拡大断面図である。
【図3】図1、図2(本発明の実施例1)の変形例に係るインフレータの燃焼残渣分離・堆積ガス流路部分の拡大断面図である。
【図4】本発明の実施例2の燃焼残渣分離・堆積ガス流路を有するインフレータのガス発生部から燃焼残渣分離・堆積ガス流路側の端部までの部分の断面図である。
【図5】本発明の実施例2のインフレータの、図4とたとえば90°異なる断面での、断面図である。
【図6】図4と図5の、断面A−Aと断面B−Bの位置関係を示す図である。
【図7】図4のインフレータの燃焼残渣分離・堆積ガス流路部分の拡大断面図である。
【図8】図5のインフレータの燃焼残渣分離・堆積ガス流路部分の拡大断面図である。
【図9】本発明の構造例3の燃焼残渣分離・堆積ガス流路(実施例3)を有するインフレータのガス発生部から燃焼残渣分離・堆積ガス流路側の端部までの部分の断面図である。
【図10】本発明の実施例1〜実施例3のインフレータに適用できる、インフレータのスクイブ側の端部の断面図である。
【符号の説明】
【0044】
10 インフレータ
20 ハウジング
21 ハウジング端板
30 ガス発生部
31 ガス発生剤
32 エンハンサ剤
33 エンハンサ剤封入容器
34 クッション材
40 スクイブ
41 ホルダ
42 電極ピン
43 スクイブ容器
44 発熱回路
45 点火薬
50 燃焼残渣分離・堆積ガス流路
51 ボトル栓
52 ガス通路孔
53 オリフィス部材
54 開口
54a 小径筒状部(堤部)
55 ボトル栓に一体に形成された部分(筒状部)
56 オリフィス部材に一体に形成された部分(筒状部)
57 かしめ
58 ガス通路孔
59 仕切壁
60 ガス通路孔
70 燃焼ガス
71 燃焼残渣(燃焼残滓、ミスト)
72A、72B、72C、72D (それぞれ)第1、第2、第3、第4の流路屈曲部
73A、73B、73C、73D (それぞれ)第1、第2、第3、第4のガス流れ淀み部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
筒状のハウジング内にガス発生部を有し、前記ハウジングの一端部のハウジング壁にガス発生部で発生したガスをハウジングから流出させるガス通路孔を有するインフレータであって、
前記ハウジング内で前記ガス発生部と前記ガス通路孔との間に燃焼残渣分離・堆積ガス流路が配置されており、
該燃焼残渣分離・堆積ガス流路は、燃焼ガスの流れに変化をもたせ燃焼ガスと燃焼残渣の遠心力の差を利用して燃焼ガスから燃焼残渣を分離させる流路屈曲部および/または流路断面絞り部と、燃焼ガスから分離された燃焼残渣を堆積させる燃焼ガス流れから外れたガス流れ淀み部とを有しており、
前記燃焼残渣分離・堆積ガス流路の流路壁は、前記ハウジング壁と、前記ハウジングの一端部を閉塞するボトル栓および/または前記ガス発生部と前記ハウジングの一端部の内部との間に配置されたオリフィス部材に一体に形成された筒状部とを含んでいるインフレータ。
【請求項2】
前記オリフィス部材が小径筒状部をさらに有しており、該小径筒状部は、前記オリフィス部材の開口と同心状でかつ前記筒状部より小径であり、さらに前記筒状部に形成されたガス流路孔よりも前記オリフィス部材から前記ボトル栓方向に突出している請求項1記載のインフレータ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2009−220732(P2009−220732A)
【公開日】平成21年10月1日(2009.10.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−68448(P2008−68448)
【出願日】平成20年3月17日(2008.3.17)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】