説明

インホイールモータ駆動装置

【課題】ホイールの中心軸とインホイールモータ駆動装置の出力軸との軸心合せを高精度にし、もって振動発生の防止、騒音発生の防止、耐久性の向上を図ることを可能とするインホイールモータ駆動装置を提供する。
【解決手段】インホイールモータ駆動装置1は、サスペンション装置90の支持部95に支持されたハブベアリング52を介して回転自在に支持された車輪200のホイール100の内側に取付けられ、ケース2に収納されたモータ3によって該車輪200を駆動する。このケース2において、出力軸50の回転中心と同心円状に形成され、ハブベアリング52の軸受ケース52Aの外周面に形成された芯出し面52Abにインロー嵌合するサスペンション装置90の支持部95の嵌合孔95aに、該芯出し面52Abと軸方向に並設されてインロー嵌合するインロー嵌合面2Acを形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばハイブリッド車両、電気車両等に搭載されるインホイールモータ駆動装置に係り、詳しくは、サスペンション装置の支持部に支持されたハブベアリングを介して回転自在に支持された車輪のホイールの内側に取付けられるインホイールモータ駆動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、車両の燃費向上や環境性能の向上を図るために、例えばハイブリッド車両や電気車両等のモータ・ジェネレータ(以下、単に「モータ」という)を搭載した車両が種々提案されており、このようなモータを搭載する車両にあって、車内空間の確保を図るため、駆動・回生効率の向上を図るため、或いはアスクルシャフトやディファレンシャル装置を省略して軽量化を図るために、車輪のホイール内に配設するインホイールモータ駆動装置の開発が進められている(特許文献1参照)。
【0003】
上記特許文献1のものは、アッパーアーム(210)及びロアアーム(220)に対してボールジョイント(160,170)を介して取付けられたナックル(180)によりハブベアリング(11,12)を回転自在に支持することで、ホイール(車輪)を車体に対して支持すると共に、上記ボールジョイント(160,170)に対してダンパー(140,150)を介してインホイールモータ駆動装置(IWM)のケースを支持することで、該インホイールモータ駆動装置を車体に対して支持しており、つまりサスペンション装置(車輪支持装置200)によって、ホイールとインホイールモータ駆動装置とをそれぞれ別々に支持する構造を採用している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−126037号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献1のものは、インホイールモータ駆動装置とホイールとが別々に支持されているため、互いに相対移動し得る状態で接続されており、特にインホイールモータ駆動装置の出力軸とホイールの中心軸との相対角度が変動し得るため、インホイールモータ駆動装置の出力軸とホイールとの間に等速ジョイントを設ける必要があり、部品点数の増加やコンパクト化の妨げなどの問題がある。更に、サスペンション装置によって、ホイールだけでなく、インホイールモータ駆動装置も別途に支持する構造であるので、サスペンション装置自体が高価で複雑な構造となるという問題もある。
【0006】
このような問題を解決するため、サスペンション装置に支持されたホイールに対して、インホイールモータ駆動装置を固定してしまうことが考えられる。ホイールとインホイールモータ駆動装置との相対移動が無ければ、等速ジョイント等を設けることを不要とすることができ、かつサスペンション装置は従前通りホイールを支持する構造で足りるので、インホイールモータ駆動装置を搭載していない車両のサスペンション装置を大幅に設計変更することなく、インホイールモータ駆動装置の搭載を簡易に達成でき、コストアップ等を防ぐことができる。
【0007】
しかしながら、このようにホイールに対してインホイールモータ駆動装置を相対移動不能に固定する場合に、ホイールの中心軸とインホイールモータ駆動装置の出力軸との軸心合せの精度が低いと、微振動の発生や騒音の発生を招いたり、インホイールモータ駆動装置の耐久性向上の妨げになったりする虞がある。
【0008】
そこで本発明は、ホイールの中心軸とインホイールモータ駆動装置の出力軸との軸心合せを高精度にし、もって振動発生の防止、騒音発生の防止、耐久性の向上を図ることを可能とするインホイールモータ駆動装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は(例えば図1乃至図4参照)、サスペンション装置(90)の支持部(95)に支持されたハブベアリング(52)を介して回転自在に支持された車輪(200)のホイール(100)の内側に取付けられ、ケース部材(2)に収納された回転電機(3)によって該車輪(200)を駆動し得るインホイールモータ駆動装置(1)において、
前記ケース部材(2)は、前記回転電機(3)の駆動力を出力する出力軸(50)の回転中心(AX1)と同心円状に形成され、前記ハブベアリング(52)の外周部材(52A)の外周面に形成された芯出し面(52Ab)にインロー嵌合する前記サスペンション装置(90)の支持部(95)の嵌合孔(95a)に、該芯出し面(52Ab)と軸方向に並設されてインロー嵌合するインロー嵌合面(2Ac)を有することを特徴とする。
【0010】
また、本発明は(例えば図1参照)、前記ケース部材(2)は、前記インロー嵌合面(2Ac)の外周側に、前記サスペンション装置(90)の支持部(95)に固定される固定部(2Aa)を有することを特徴とする。
【0011】
なお、上記カッコ内の符号は、図面と対照するためのものであるが、これは、発明の理解を容易にするための便宜的なものであり、特許請求の範囲の構成に何等影響を及ぼすものではない。
【発明の効果】
【0012】
請求項1に係る本発明によると、インホイールモータ駆動装置のケース部材のインロー嵌合面が、出力軸の回転中心と同心円状に形成されていると共に、ハブベアリングの芯出し面にインロー嵌合するサスペンション装置の支持部の嵌合孔に、該芯出し面と軸方向に並設されてインロー嵌合するので、ホイールの中心軸とインホイールモータ駆動装置の出力軸との軸心合せを高精度に位置決めすることができ、振動発生の防止、騒音発生の防止、耐久性の向上などを図ることができる。
【0013】
また、サスペンション装置の支持部の嵌合孔は、インホイールモータ駆動装置を搭載しない車両にあっても、ハブベアリングの芯出し面にインロー嵌合するように構成されており、その嵌合孔を利用してインホイールモータ駆動装置のケース部材をインロー嵌合させることができるので、新たなインロー嵌合部分を構成するような設計変更を行うことなく、ホイールの中心軸とインホイールモータ駆動装置の出力軸との軸心合せを高精度に位置決めすることを可能とすることができる。
【0014】
請求項2に係る本発明によると、ケース部材が、インロー嵌合面の外周側にサスペンション装置の支持部に固定される固定部を有しているので、インホイールモータ駆動装置をサスペンション装置の支持部を介してホイールに強固に固定することができると共に、サスペンション装置が、インホイールモータ駆動装置のケース部材を介してホイールを支持する構造ではないので、インホイールモータ駆動装置のケース部材に車両荷重が掛らず、例えばケース部材の肉厚を厚くして強化することを不要とすることができ、インホイールモータ駆動装置のコンパクト化や軽量化を可能とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】インホイールモータ駆動装置を備えた車輪を示す断面図。
【図2】インホイールモータ駆動装置を備えた車輪を示す側面図。
【図3】車輪をサスペンション装置に取付けた状態を示す側面図。
【図4】車輪をサスペンション装置に取付けた状態を示す上方視図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明に係る実施の形態を図1乃至図4に沿って説明する。まず、本発明に係るインホイールモータ駆動装置及びそれを備えた車輪の構造について、図1及び図2に沿って説明する。なお、本実施の形態におけるインホイールモータ駆動装置1は、前輪駆動のハイブリッド車両における後輪のホイール内に取付けて四輪駆動車両に変更するための駆動装置として用いられるものであるが、それ以外にも、例えば電気車両の駆動装置、シリーズ式のハイブリッド車両の駆動装置、後輪駆動のハイブリッド車両における前輪のホイール内に取付けて四輪駆動車両に変更するための駆動装置、等として用いることができる。
【0017】
本インホイールモータ駆動装置1は、図1に示すように、ケース(ケース部材)2内に、大まかに、モータ・ジェネレータ(回転電機)3、減速ギヤ機構20、減速プラネタリギヤ40、ホイールハブ51が固定された出力軸50等を収納して備えている。このうちの出力軸50及び減速プラネタリギヤ40が、詳しくは後述するホイール100の回転中心と同軸の第1軸AX1上に配置され、減速ギヤ機構20が、伝達経路が軸方向と垂直な方向に延びるように配置され、更に、モータ・ジェネレータ3(以下、単に「モータ3」という)が、第1軸AX1と平行な第2軸AX2上に配置されている。これにより、モータ3、減速ギヤ機構20、減速プラネタリギヤ40、出力軸50により形成される伝達経路は、断面視でコの字状となるように構成されている。
【0018】
即ち、第1軸AX1及び第2軸AX2と直交する径方向断面上にモータ3と減速プラネタリギヤ40とが位置されるように配置されており、つまりモータ3と減速プラネタリギヤ40とを通過すると共に第1軸AX1及び第2軸AX2と直交する径方向断面が少なくとも1つあることになる。言い換えると、モータ3の少なくとも一部と減速プラネタリギヤ40の少なくとも一部とが径方向から視て軸方向に重なる位置に配置されており、好ましくは図1に示すように、減速プラネタリギヤ40の全体がモータ3と径方向から視て軸方向に重なる位置に配置されているとよい。
【0019】
上記ケース2は、主要部品の大部分を収容すると共に、出力軸50の軸方向の反対側が開口したメインケース2Aと、該メインケース2Aの開口を閉塞するケースカバー2Bと、を有して構成されている。該メインケース2Aとケースカバー2Bとは、メインケース2Aの孔2Ahとケースカバー2Bの孔2Bhとに螺合されるボルト11によって締結されている。
【0020】
また、上記ケース2は、図2に示すように、大まかに、第1軸AX1を中心とした円筒状からなり、後述する減速ギヤ軸25、減速プラネタリギヤ40、及び出力軸50の一部を収納する第1円筒部2CYと、第2軸AX2を中心とした円筒状からなり、モータ3を収納する第2円筒部2CYと、に部分的に分けた見方をすることができる。該第1円筒部2CYと該第2円筒部2CYとは、外壁の一部が重なって、側面視で8の字状を形成しており、その外壁が重なった部分は、図1に示すように、モータ3と出力軸50との間における隔壁部分を構成している形となる。
【0021】
図2に示すように、第1軸AX1、つまりケース2の第1円筒部2CYの中心は、ホイール100の中心と同軸上にあり、第2軸AX2、つまりケース2の第2円筒部2CYの中心は、車輌搭載状態において第1軸AX1よりも上方側に配置され、即ちモータ3は、インホイールモータ駆動装置1のうちの上方側に配置されている。また、第2軸AX2(ケース2の第2円筒部2CY)は、第1軸AX1を通る水平線Hと該第1軸AX1で直交する垂直線Vに対して周方向一方側(例えば車両進行方向の前側)にオフセットされて配置されており、垂直線Vに対して周方向他方側(例えば車両進行方向の後側)には、詳しくは後述するようにディスクブレーキ装置70のキャリパ72が配置されている。従って、モータ3は、キャリパ72に対し、第1軸AX1を中心として周方向の異なる位置に配置されていることになる。
【0022】
なお、ケース2は、詳しくは後述する出力軸50の外周側がシールリング55によりシールされることで、オイルが封入される密封構造を構成している。即ち、該ケース2は、モータ3、減速ギヤ機構20、減速プラネタリギヤ40、出力軸50の一部等を収容すると共にオイルを封入して、ケース2の内部の下方側にオイル溜りを形成している。該オイル溜りは、下方側となる第1円筒部2CY内部の、第1軸AX1よりも下方部分に形成されており、減速プラネタリギヤ40及び後述する減速ギヤ軸25の大径ギヤ25aの一部が浸かっている状態となり、モータ3はオイル溜りに浸からずに、減速プラネタリギヤ40や大径ギヤ25aの回転によって掻き上げられたオイルによって潤滑・冷却される。従って、通常、モータ3はオイル溜りに浸かることがなく、モータ3にオイルの攪拌ロスが生じることはない。
【0023】
ついで、本インホイールモータ駆動装置1の内部構造について、図1に沿って詳細に説明する。なお図1に示すインホイールモータ駆動装置1の断面図は、図2に示すA−A矢視断面図である。
【0024】
上述したように、メインケース2Aの上方部分には、モータ3が配設されている。モータ3は、ケース2に固定されるステータ4と、第2軸AX2上にあってケース2に回転自在に支持されるロータ軸7上に固定されたロータ5とを有して構成されており、該ロータ5に永久磁石が埋設されていない、いわゆる誘導モータからなる。ステータ4は、多数の鋼板が積層されて構成され、ステータ巻線が埋設されるステータ鋼板4aを有しており、該ステータ鋼板4aは、図示を省略した固定部がボルト等によってケース2に締結されている。なお、ステータ巻線に接続される配線は、第2円筒部2CYの前方側の側面に配設されたコネクタ部15(図2参照)を介して不図示のインバータ回路に接続される。
【0025】
一方、上記ロータ5は、ステータ鋼板4aと同様に鋼板が積層され、例えば誘導電流を生じるように構成された円筒状のロータコア5aを有している。ロータコア5aの軸方向の両側には、環状のエンドプレート6A,6Bが配設されており、そのうちのエンドプレート6Aは、ロータ軸7に形成されたフランジ部7aに当接されている。また、エンドプレート6Bは、ロータ軸7に螺合するナット8により上記フランジ部7aに対して締め付けられ、これにより、ロータコア5aがロータ軸7上に一体的に固着されている。
【0026】
上記ロータ軸7は、メインケース2Aの内側面の環状部分に嵌合されたボールベアリングb1と、ケースカバー2Bの内側面の環状部分に嵌合されたボールベアリングb2とによって、いわゆる両持ち構造となるように回転自在に支持されている。また、上記ロータ軸7上には、ロータコア5aと軸方向に並設された形で、減速ギヤ機構20としての小径ギヤ21が、ロータ軸7にスプライン嵌合して相対回転不能にされていると共に、該小径ギヤ21は、ボールベアリングb2と共にナット9によってロータ軸7の段差部分7bに締め付けられている。
【0027】
上記減速ギヤ機構20は、上述したロータ軸7に固着された上記小径ギヤ21と、該小径ギヤ21に噛合するアイドラギヤ22と、該アイドラギヤ22に噛合する減速ギヤ軸25の大径ギヤ25aとを有して構成されている。アイドラギヤ22は、上記第1軸AX1及び第2軸AX2と平行な第3軸AX3上に配置されており、アイドラ軸23に対してニードルベアリングb3を介して回転自在に支持されている。該アイドラ軸23は、ケースカバー2Bに形成された穴部分と、該ケースカバー2Bに固定支持された支持板24の孔部とによって、いわゆる両持ち構造となるように構成されている。
【0028】
上記減速ギヤ軸25の大径ギヤ25aは、減速プラネタリギヤ40及び出力軸50と共に第1軸AX1上に並列配置されており、減速ギヤ軸25からフランジ状に形成された部分の外周面が上記アイドラギヤ22に噛合する歯面として形成されることで、ギヤとして構成されている。該第1軸AX1上にある減速ギヤ軸25は、上記第2軸AX2上にあるロータ軸7と平行かつ下方側の軸上にあり、一端がボールベアリングb4によりケース2に対して回転自在に支持されていると共に、他端がボールベアリングb5により詳しくは後述する出力軸50及びハブベアリング52を介してケース2に対して回転自在に支持されている。該大径ギヤ25aは、上記アイドラギヤ22及び小径ギヤ21を介してモータ3の回転を伝達することになる。そして、該減速ギヤ軸25の軸方向の出力軸50側の外周面には、減速プラネタリギヤ40のサンギヤ25bの歯面が形成されている。
【0029】
なお、減速ギヤ機構20は、側面視で、小径ギヤ21、アイドラギヤ22、大径ギヤ25aのそれぞれの中心(つまり第1軸AX1、第2軸AX2、第3軸AX3の軸心)が一直線上となるように配置されており、かつ図1に示すように、軸方向においても(正面視で)、モータ3及び減速プラネタリギヤ40とケースカバー2Bの側面とに沿って一直線上となるように配置されている。
【0030】
上記減速プラネタリギヤ40は、上述のサンギヤ25bと、該サンギヤ25bに噛合するピニオンギヤ43と、該ピニオンギヤ43に噛合するリングギヤ41とを有しており、該ピニオンギヤ43は、側板42と出力軸50のフランジ部50dとに架け渡されたピニオンシャフト44に回転自在に支持され、これらピニオンギヤ43、ピニオンシャフト44、側板42、及びフランジ部50dによって一体的なキャリヤ46を構成している。上記リングギヤ41は、メインケース2Aにおいて、第1円筒部2CYの内周面に沿って構成される円筒部分に、スナップリング45によってメインケース2Aとの間に挟持されつつスプライン嵌合して回転不能に固定されている。
【0031】
上記出力軸50は、上述したように、軸方向の減速プラネタリギヤ40側の端部に、キャリヤ46の一部を構成するフランジ状のフランジ部50dが形成されており、該フランジ部50dの減速プラネタリギヤ40とは軸方向反対側が大径な大径部50cとして形成され、中間部分が大径部50cよりも小径となる小径部50bとして形成され、更に、先端部分に小径部50bよりも小径な先端部50aが形成されている。上記大径部50cの内周側には減速ギヤ軸25との間に上記ボールベアリングb5が嵌挿されている。
【0032】
上記出力軸50の大径部50cの外周面にはスリーブ54が嵌合されており、該スリーブ54と第1円筒部2CYの内周面との間には、シールリング55が配設され、上記オイル溜りの密封性の確保、及び外部からの遺物侵入の防止が図られている。また、スリーブ54の軸方向の減速プラネタリギヤ40側の外周面には、歯面54aが形成されており、その歯面54aに対向して該歯面54aの歯の通過を検出する回転数センサ59が配設されている。なお、該回転数センサ59は、出力軸50を介して、ディスクブレーキ装置70のブレーキディスク71が固定されるホイール100の回転を検出するので、速度センサやABSの回転数センサ等として用いることができる。また、回転数センサ59の配線は、第1円筒部2CYのケースカバー2B側の側面に設けられたコネクタ端子部16(図2参照)を介して、不図示の制御部に接続される。
【0033】
一方、上記出力軸50の小径部50bの外周面には、ホイールハブ51がスプライン嵌合すると共に、上記出力軸50の小径部50bにおける軸方向の減速プラネタリギヤ40側の根元部分50eが該ホイールハブ51の孔部の内周面51dにインロー嵌合している。また、該ホイールハブ51は、出力軸50の先端部50aにナット53が螺合されることにより抜け止め固定されている。
【0034】
上記ホイールハブ51の軸方向の端部には、円板状に形成されたハブ部51bが備えられており、該ハブ部51bに形成された複数のボルト孔51cに、詳しくは後述するハブボルト101が嵌挿され、該ハブボルト101にホイール100がナット102により締結されて、車輪200として構成される。
【0035】
上記ホイールハブ51の中空状に形成されたスリーブ部51aの外周側には、軸受ケース(外周部材)52Aとの間に、ハブベアリング52が配設されている。ハブベアリング52は、該軸受ケース52Aの内周側にハブベアリング52のボール機構を直接支持しており、これらハブベアリング52とホイールハブ51とによって、出力軸50及び該ホイールハブ51を回転自在に支持するハブユニットベアリング60を構成している。図4に示すように、軸受ケース52Aの外周側には、フランジ状に一体形成されたフランジ部52Aaが備えられており、該フランジ部52Aaは、詳しくは後述するサスペンション装置90のハブアーム92の先端に固定された支持部95の当接面95bに当接されると共に、該支持部95に複数のボルト61によって接合・固定されている。
【0036】
なお、ハブベアリング52は、上記スリーブ54の側面に当接して、該スリーブ54の反対側の先端が上記フランジ部50dに当接することで、出力軸50の軸方向の位置決め支持精度を良好に確保している。
【0037】
上記軸受ケース52Aは、フランジ部52Aaよりも軸方向のインホイールモータ駆動装置1側の外周面に、詳しくは後述するサスペンション装置90の支持部95に穿設された嵌合孔95aにインロー嵌合する芯出し面52Abが形成されている。該軸受ケース52Aの芯出し面52Abは、出力軸50やホイール100の回転中心と同心円状に形成されている。
【0038】
上記サスペンション装置90の支持部95には、複数のボルト孔95cが形成されており、一方のメインケース2Aの出力軸50を突出させる開口部分の外周側(詳しくは後述するインロー嵌合面2Acの外周側)には、肉厚を厚くした形のサスペンション固定部2Aaが形成されると共に複数のボルト孔2Adが形成されており、これらボルト孔95c及びボルト孔2Adにボルト12が螺合されることによって、サスペンション装置90の支持部95とインホイールモータ駆動装置1のケース2とが固定支持される。
【0039】
そして、メインケース2Aのサスペンション固定部2Aaの内周側であって、出力軸50を突出させる開口部分の外縁を成す外縁部2Abの外周側には、出力軸50やホイール100の回転中心と同心円状となるインロー嵌合面2Acが形成されており、該インロー嵌合面2Acは、上記軸受ケース52Aの芯出し面52Abと軸方向に並設されて上記支持部95の嵌合孔95aにインロー嵌合するように構成されている。
【0040】
以上のように構成されたインホイールモータ駆動装置1にあって、例えば不図示の制御部が運転者のアクセル操作等に基づきモータ3の力行制御を開始すると、電源(バッテリ)及びインバータ回路等から該モータ3のステータ4に電力が供給され、ロータ5が回転駆動される。すると、ロータ軸7が回転駆動され、小径ギヤ21からアイドラギヤ22を介して減速ギヤ軸25の大径ギヤ25aに、該ロータ軸7の回転が減速されて伝達される。更に、減速ギヤ軸25のサンギヤ25bが回転駆動されることで、減速プラネタリギヤ40において、回転が固定されたリングギヤ41を介してキャリヤ46が更に減速回転とされ、そのキャリヤ46の減速回転が、出力軸50及びホイールハブ51に伝達され、駆動回転として車輪200が回転駆動されることになる。
【0041】
反対に、例えば不図示の制御部が運転者のアクセル操作やブレーキ操作等に基づき回生制御を開始した場合は、出力軸50及びホイールハブ51が車両の慣性力等により回転駆動され、減速プラネタリギヤ40のキャリヤ46に逆入力される形で、回転が固定されたリングギヤ41を介して減速ギヤ軸25のサンギヤ25bが増速回転される。更に、減速ギヤ軸25の回転は、大径ギヤ25a、アイドラギヤ22を介して小径ギヤ21に増速回転として伝達され、ロータ軸7が回転駆動され、ステータ4を負電圧とすることでロータ5の回転が該ステータ4に逆起電力が作用し、インバータ回路等を介して電源に電力として供給されて、電源の充電がなされる。
【0042】
なお、本インホイールモータ駆動装置1のモータ3は、上述したように誘導モータからなるので、例えばハイブリッド駆動装置(不図示)によって他の車輪(例えば前輪)が駆動された走行状態にあって、モータ3を力行制御せずに空転させる場合であっても、逆起電力が発生することはなく、特にモータ3が高回転となる高速走行にあって、逆起電力によって発生するトルクを打ち消す、いわゆる弱め磁界制御を行う必要がなく、これにより、車両の燃費向上を図ることができる。
【0043】
ついで、本インホイールモータ駆動装置1を備えた車輪200の構造、並びに車輪200の車両(サスペンション装置90)への取付状態を図1乃至図4に沿って説明する。
【0044】
車輪200は、大まかに、ホイール100と、ディスクブレーキ装置70と、上述したインホイールモータ駆動装置1とによって構成されており、サスペンション装置90に取付けられることで、車両に対して本車輪200の所定範囲の移動が許容され、かつ本車輪200の振動が吸収されるように構成されている。
【0045】
上記ホイール100は、一般的な汎用製品からなり、図1に示すように、不図示のタイヤが取付けられるドラム状のリム部100aと、該リム部100aの端部を繋いで該リム部100aを支持するディスク状のディスク部100bとを有しており、該ディスク部100bの内周部分にあって上記ホイールハブ51の複数のボルト孔51cに対応する位置には、同数のボルト孔100cが形成されている。
【0046】
従って、ホイール100を上記ホイールハブ51に取付ける際は、該ホイールハブ51のボルト孔51cに螺合されたハブボルト101に対してホイール100のボルト孔100cを位置合せし、該ハブボルト101が該ボルト孔100cを貫通するようにホイール100を設置して、更に、ナット102により締結することにより、ホイール100がホイールハブ51に対して取付けられる。なお、ホイール100をホイールハブ51に取付けた状態では、ディスクブレーキ装置70のブレーキディスク71が共締めされて、それらホイール100及びホイールハブ51(即ち出力軸50)に対して相対回転不能に締結される。
【0047】
上記ディスクブレーキ装置70は、大まかに、上記ブレーキディスク71と、該ブレーキディスク71をブレーキパッド75,75で挟み込んで摺擦させるキャリパ72とを有して構成されている。該ブレーキディスク71は、上記ブレーキパッド75,75が摺擦する環状の摺擦部71aと、該摺擦部71aを支持するフランジ状のフランジ部71bとを有している。また、該フランジ部71bには、上記ホイールハブ51のボルト孔51c及びホイール100のボルト孔100cに対応する位置に同数の貫通孔71cが形成されており、貫通孔71cに上記ハブボルト101が貫通するように組付けられることで、上述したようにホイール100がホイールハブ51に締結される際に該ブレーキディスク71が共締めされる。
【0048】
上記キャリパ72は、図1に示すように、大まかに、ピストン部73と、シリンダ部74と、ブレーキパッド75,75と有して構成されている。ブレーキパッド75,75は、それぞれパッドホルダー76,76に支持されると共に、上記ブレーキディスク71の摺擦部71aの両側面に対向して配置されている。シリンダ部74は、断面視でコの字状に形成され、軸方向一方側(図1中左方側)のブレーキパッド75を支持する支持部74aを有すると共に、トルクメンバー77に固定されている。
【0049】
上記ピストン部73は、不図示の油路から供給されるブレーキオイルにより駆動自在なピストン(不図示)を内蔵しており、ブレーキオイルが供給された際に、軸方向他方側(図1中右方側)のブレーキパッド75をブレーキディスク71の摺擦部71aに向けてピストン(不図示)を押圧駆動し、シリンダ部74の支持部74aにより反力を受けることで、ブレーキパッド75,75によりブレーキディスク71の摺擦部71aを挟み込んで摺擦させる。なお、ピストン部73の側面には、サイドブレーキ機構80のレバー類が配設されている。
【0050】
なお、キャリパ72は、後述するサスペンション装置90の支持部95にボルト79(図2参照)を介して上記トルクメンバー77が固定されることで上記シリンダ部74が固定され、つまりサスペンション装置90に対してキャリパ72が固定されている。
【0051】
続いて、車輪200のサスペンション装置90に対する取付状態を説明する。サスペンション装置90は、図3及び図4に示すように、車両の左右方向に架け渡される断面視Vの字状のクロスビーム91と、該クロスビーム91の端部から車両前方側に延びたトレーリングアーム93と、該トレーリングアーム93を車両に係着させるリンク94と、クロスビーム91とトレーリングアーム93との交差部分から車輪200に向けて延びるハブアーム92と、ハブアーム92の先端に固着された板状の支持部95と、を備えて構成されている。なお、クロスビーム91の端部上方には、不図示のショックアブソーバやダンパ装置等が配置され、車体に対する上下方向の位置規制並びに上下移動の振動吸収が行われる。
【0052】
上記メインケース2Aの第1円筒部2CYの前方部分から下方部分にかけては、ホイール100のリム部100aとの間に空間を有しており、図3及び図4に示すように、ハブアーム92がメインケース2Aの第1円筒部2CYの前方側から下方側を通っている。このハブアーム92の先端に固着された支持部95は、上述したように、ハブベアリング52の軸受ケース52Aの芯出し面52Abとケース2のインロー嵌合面2Acとにインロー嵌合すると共に、ボルト12によりケース2に締結され、かつボルト61によりハブベアリング52の軸受ケース52Aに締結される。これにより、サスペンション装置90によってハブベアリング52を介してホイール100を支持すると共に、インホイールモータ駆動装置1を支持する構造とされる。
【0053】
即ち、このようにサスペンション装置90のハブアーム92をハブベアリング52の外周部分まで延ばした構成は、インホイールモータ駆動装置を備えていない車輪の一般的な構成と略々同じ構成を採ることができ、つまりサスペンション装置90やディスクブレーキ装置70に略々変更を加えずに、本インホイールモータ駆動装置1を取付けることができる。
【0054】
以上のように本インホイールモータ駆動装置1によると、ケース2のインロー嵌合面2Acが、出力軸50の回転中心(つまり第1軸AX1)と同心円状に形成されていると共に、ハブベアリング52の芯出し面52Abにインロー嵌合するサスペンション装置90の支持部95の嵌合孔95aに、該芯出し面52Abと軸方向に並設されてインロー嵌合するので、ホイール100の中心軸とインホイールモータ駆動装置1の出力軸50との軸心合せを高精度に位置決めすることができ、振動発生の防止、騒音発生の防止、耐久性の向上などを図ることができる。
【0055】
また、サスペンション装置90の支持部95の嵌合孔95aは、インホイールモータ駆動装置1を搭載しない車両にあっても、ハブベアリング52の芯出し面52Abにインロー嵌合するように構成されており、その嵌合孔95aを利用してインホイールモータ駆動装置1のケース2をインロー嵌合させることができるので、新たなインロー嵌合部分を構成するような設計変更を行うことなく、ホイール100の中心軸とインホイールモータ駆動装置1の出力軸50との軸心合せを高精度に位置決めすることを可能とすることができる。
【0056】
さらに、ケース2が、インロー嵌合面2Acの外周側にサスペンション装置90の支持部95に固定されるサスペンション固定部2Aaを有しているので、インホイールモータ駆動装置1をサスペンション装置90の支持部95を介してホイール100に強固に固定することができると共に、サスペンション装置90が、インホイールモータ駆動装置1のケース2を介してホイール100を支持する構造ではないので、インホイールモータ駆動装置1のケース2に車両荷重が掛らず、例えばケース2の肉厚を厚くして強化することを不要とすることができ、インホイールモータ駆動装置1のコンパクト化や軽量化を可能とすることができる。
【0057】
なお、以上説明した本実施の形態のインホイールモータ駆動装置1においては、モータ3の駆動力を、減速ギヤ機構20を介してコの字状に折り返し、減速プラネタリギヤ40を介して出力軸50に伝達する構造のものを説明したが、例えば出力軸、減速機構、モータを1軸上に構成したものや、モータ3を減速ギヤ機構20よりも車体側に突出させるように構成したもの等、種々変更されたものでも本発明を適用し得る。
【0058】
また、本実施の形態においては、回転電機として誘導モータを用いたものを説明したが、例えばIPMモータ(永久磁石内臓モータ)であってもよく、これらに限らず、力行・回生できる回転電機であれば、どのようなものであってもよい。
【0059】
また、本実施の形態においては、減速機構として減速プラネタリギヤ40を一例として説明したが、減速機構はどのようなものであってもよい。減速機構としては、例えばサイクロイド減速機(特開2009−58005号公報)やローラ減速機(特開2006−103521号公報)等が考えられる。
【0060】
また、本実施の形態においては、減速ギヤ機構20は、小径ギヤ21、アイドラギヤ22、大径ギヤ25aで構成したものを説明したが、例えばロータ軸7の回転をベルトやチェーンを介して減速プラネタリギヤ40に伝達するような構成であっても構わない。
【0061】
また、本実施の形態に係るインホイールモータ駆動装置1は、基本的に車両進行方向に対する右側の車輪に搭載されるものとなるが、当然に左右車輪にそれぞれ搭載されるべきものであり、左側の車輪に搭載されるインホイールモータ駆動装置1は、図1乃至図4では前後方向が逆(鏡面に写した形)になるものである。
【符号の説明】
【0062】
1 インホイールモータ駆動装置
2 ケース部材
2Aa 固定部(サスペンション固定部)
2Ac インロー嵌合面
3 回転電機
50 出力軸
52 ハブベアリング
52A 外周部材(軸受ケース)
52Ab 芯出し面
90 サスペンション装置
95 支持部
95a 嵌合孔
100 ホイール
200 車輪
AX1 回転中心(第1軸)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
サスペンション装置の支持部に支持されたハブベアリングを介して回転自在に支持された車輪のホイールの内側に取付けられ、ケース部材に収納された回転電機によって該車輪を駆動し得るインホイールモータ駆動装置において、
前記ケース部材は、前記回転電機の駆動力を出力する出力軸の回転中心と同心円状に形成され、前記ハブベアリングの外周部材の外周面に形成された芯出し面にインロー嵌合する前記サスペンション装置の支持部の嵌合孔に、該芯出し面と軸方向に並設されてインロー嵌合するインロー嵌合面を有する、
ことを特徴とするインホイールモータ駆動装置。
【請求項2】
前記ケース部材は、前記インロー嵌合面の外周側に、前記サスペンション装置の支持部に固定される固定部を有する、
ことを特徴とする請求項1記載のインホイールモータ駆動装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−214203(P2012−214203A)
【公開日】平成24年11月8日(2012.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−165779(P2011−165779)
【出願日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【出願人】(000100768)アイシン・エィ・ダブリュ株式会社 (3,717)
【Fターム(参考)】