説明

インボルクリン発現促進剤

【課題】インボルクリンの産生を促進し、角層細胞の角化を促進するインボルクリン発現促進剤及び角層形成促進剤の提供。
【解決手段】次式(1):R−OPO32 (1)
〔Rは炭素数12〜24のアルキル又はアルコキシアルキル基〕で表わされる化合物又はその塩を有効成分とするインボルクリン発現促進剤、角層形成促進剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インボルクリン発現促進剤及び角層形成促進剤に関する。
【背景技術】
【0002】
皮膚の水分保持能改善、肌荒れの防止及び改善、並びにしわの形成やきめ模様の減少等の皮膚老化の予防改善には、皮膚の表皮細胞に作用し、表皮細胞の角化を促進し、健全な角層の形成を促して、外界からの刺激や生体を防御するための角層バリア機能を健全にすることがよいとされている。
この角層バリア機能の健全には、角層の水分量を保持して角層の柔軟性を維持することが重要であるといわれている。角層バリア機能が低下する原因としては、加齢、乾燥、紫外線等の影響によりターンオーバーが乱れ角層細胞の形成や細胞間脂質の構造に異常が生じることが考えられる。そして、様々な皮膚疾患や肌荒れ等の皮膚トラブルを生じることが知られている。
【0003】
ここで、ターンオーバーとは、基底層におけるケラチノサイト(表皮角化細胞)の増殖と、角化の過程、角層の剥離の間断ない繰り返しのことをいう。このケラチノサイトは、基底細胞、有棘細胞、顆粒細胞、角層細胞と順次外部に向かって角化しながら、各層を形成している。そして、有棘層上層から顆粒層にかけてコーニファイドエンベロープ(CE)を構成する蛋白質が合成されている。さらに角層に至る過程で酵素トランスグルタミナーゼによってケラチノサイトの細胞膜にインボルクリン、ロリクリン等の基質蛋白質が結合し、不溶化したCEが形成される。さらに不溶化したCEにはセラミド等が共有結合し、角層バリア機能の基礎を形成することが知られている。
上記基質蛋白質のうちのインボルクリンは、上記のとおりコーニファイドエンベロープの最外層に位置する構成蛋白質であり(非特許文献1)、他のコーニファイドエンベロープの蛋白質、ロリクリン等と架橋されるだけでなく、セラミドと共有結合し、細胞間脂質ラメラ構造の形成に関与していることが知られている(非特許文献2)。また、インボルクリンは表皮細胞の分化過程で特異的に細胞膜の近傍に、コーニファイドエンベロープ形成の前段階に産出され(非特許文献3)、表皮細胞分化マーカーとして着目されている。
【0004】
従来は、角層バリア機能の低下に起因する肌荒れ等の皮膚トラブルに対してセラミド等を含有したクリーム等で角層バリア機能を補うことにより解決してきた。しかし、角層細胞のCEの改善は十分でなく、健全なCEの形成を促進する成分の開発が望まれ、特にインボルクリンの発現を促進する成分の開発が望まれている。
CEを形成しているインボルクリンの発現促進効果が認められるものとして、例えば、オトギリソウ科(Guttiferrae)のセイロンテツボク(Mesua Ferrea L.)(特許文献1)やアンズタケ属のクロラッパタケ(Craterellus cornucopioides)(特許文献2)が挙げられている。
【0005】
一方、アルキル(炭素数10〜14)リン酸エステル又はその塩は低刺激性の洗浄活性成分として知られており(特許文献3)、また、直鎖アルキル(炭素数12〜22)リン酸エステルとβ分岐アルキル(炭素数12〜22)リン酸エステルの混合物又はそれらの塩の混合物は界面活性成分や水性エマルション成分として知られているが(特許文献4)、これらアルキルリン酸エステル又はその塩にインボルクリン発現促進作用や角層形成促進作用があることは知られていない。
【0006】
【特許文献1】特開2005−213187号公報
【特許文献2】特開2005−89389号公報
【特許文献3】特開昭53−26806号公報
【特許文献4】特開平11−152292号公報
【非特許文献1】Steinert, PM. Et al., J. Biol. Chem., 270(30), p17702-17711 (1995)
【非特許文献2】Nemes, Z., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 96(15), p8402-8407 (1999)
【非特許文献3】Steinert, PM. Et al., J. Biol. Chem., 272(3), p2021-2030 (1997)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、インボルクリンの発現を促進し、角層細胞の角化を促進することができるインボルクリン発現促進剤及び角層形成促進剤に関する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、インボルクリンの発現促進について検討してきたところ、下記式(1)で表されるアルキル若しくはアルコキシアルキルリン酸又はそれらの塩が優れたインボルクリン発現促進作用や角層形成促進作用を有し、インボルクリン発現促進剤及び角層形成促進剤として有用であることを見出し、本発明を完成した。
【0009】
すなわち、本発明は、下記の1)〜4)に係るものである。
【0010】
1)次式(1):
R−OPO32 (1)
〔Rは炭素数12〜24のアルキル基又はアルコキシアルキル基〕
で表わされる化合物又はその塩を有効成分とするインボルクリン発現促進剤。
【0011】
2)次式(1):
R−OPO32 (1)
〔Rは炭素数12〜24のアルキル基又はアルコキシアルキル基〕
で表わされる化合物又はその塩を有効成分とする角層形成促進剤。
【0012】
3)式(1)で表される化合物が、16−メチルオクタデシルリン酸、17−メチルオクタデシルリン酸、11-(2−メチルブトキシ)ウンデシルリン酸、オクタデシルリン酸、ヘキサデシルリン酸、テトラデシルリン酸又はドデシルリン酸である上記1)のインボルクリン発現促進剤又は上記2)の角層形成促進剤。
【0013】
4)16−メチルオクタデシルリン酸、17−メチルオクタデシルリン酸、11-(2−メチルブトキシ)ウンデシルリン酸又はこれらの塩。
【発明の効果】
【0014】
本発明のインボルクリン発現促進剤及び角層形成促進剤によれば、優れたインボルクリンの産生促進能力を有し、角層細胞の角化を促進することにより健全な角層の形成を促すことで、皮膚バリア機能を健全にすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
式(1)中、Rで示される炭素数12〜24のアルキル基としては、炭素数12〜20のものが好ましい。
また、当該アルキル基の炭素鎖は、直鎖又は分岐の何れでもよい。
【0016】
当該Rで示されるアルキル基の好適な具体例としては、例えば、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基、ノナデシル基、イコシル基、ヘンイコシル基、ドコシル基、トリコシル基、テトラコシル基、2−ヘキシルデシル基、2−ヘプチルウンデシル基、2−オクチルドデシル基、3,7,11−トリメチルドデシル基、3,7,11,15−テトラメチルヘキサデシル基、イソステアリル、16-メチルステアリル基、17-メチルステアリル基等が挙げられ、このうち16-メチルステアリル基、17-メチルステアリル基、ドデシル基、テトラデシル基、ヘキサデシル基、オクタデシル基が好ましい。
【0017】
一方、式(1)中、Rで示される総炭素数12〜24のアルコキシアルキル基としては、炭素数14〜20のものが好ましく、炭素数16〜18のものがより好ましい。
また、含有エーテル酸素原子を1つ含むものが好ましい。
より好適なアルコキシアルキル基としては、R1−O−R2−(ここで、R1は炭素数2〜10のアルキル基を示し、R2は炭素数10〜21のアルキレン基を示す)で示されるものが挙げられる。
【0018】
ここで、R1の炭素数2〜10のアルキル基としては、直鎖又は分岐の何れでもよいが、分岐鎖が好ましい。
当該R1で示されるアルキル基の好適な具体例としては、例えば、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、2−メチルブチル基、4−メチルブチル基、sec−アミル基、tert−アミル基、イソアミル基、アンテイソアミル基、n−ヘキシル基、4-メチルヘキシル基、5−メチルヘキシル基、5−メチルヘプチル基、6−メチルヘプチル基、6−メチルオクチル基、7−メチルオクチル基、7-メチルノニル基、8−メチルノニル基等が挙げられる。
【0019】
また、R2の炭素数10〜21のアルキレン基としては、直鎖又は分岐の何れでもよいが、直鎖が好ましい。また、R2のアルキレン基としては、炭素数10〜13のものが好ましい。
当該R2で示されるアルキレン基の好適な具体例としては、例えば、デシレン基、ウンデシレン基、ドデシレン基、トリデシレン基、テトラデシレン基、ペンタデシレン基、ヘキサデシレン基、ヘプタデシレン基、オクタデシレン基、ノナデシレン基、エイコシレン基、ヘンエイコシレン基等が挙げられる。
【0020】
より好適なアルコキシアルキル基としては、例えば、11-(2−メチルブトキシ)ウンデシル基が挙げられる。
【0021】
また、式(1)で表わされる化合物の塩は、薬学上許容しうる塩であればよく、例えば、リチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩、カルシウム塩、マグネシウム塩等のアルカリ土類金属塩、トリメチルアミン、トリエチルアミン等のアルキルアミン塩及び4級アンモニウム塩、トリエタノールアミン、ジエタノールアミン、モノエタノールアミン等のアルカノールアミン塩又は、リジン、ヒスチジン、アルギニン等アミノ酸塩が挙げられる。
【0022】
本発明における式(1)で表わされる化合物は、Rが、16−メチルオクタデシル基、17−メチルオクタデシル基、11-(2−メチルブトキシ)ウンデシル基は新規化合物である。これら化合物は、公知のリン酸エステル化法に準じて製造することができ、例えば目的化合物に対応するアルコール(R−OH)をリン酸エステル化し、必要に応じて適宜上記の塩を形成するようなアルカリで中和することにより得ることができる。リン酸エステル化試薬としては、例えばオキシ塩化リン、三塩化リン、五塩化リン、ポリリン酸、水と無水リン酸、リン酸と無水リン酸等を用いることができる(実験化学講座1,有機化合物の合成I,p206−210,化学同人社)。得られた化合物は、適宜公知の方法により分離精製を行ってもよい。
【0023】
後記実施例で示すとおり、本発明の式(1)で表される化合物又はその塩は、インボルクリン遺伝子の発現を促進する作用を示すことから、インボルクリンの発現を促進し、さらに角層形成を促進して皮膚バリア機能を健全にすることができる。このため、当該式(1)で表される化合物又はその塩は、皮膚の水分保持能を改善し、肌荒れ防止効果やしわの形成、きめ模様減少、毛穴目立ち等の皮膚老化の予防改善が期待できる。
【0024】
従って、本発明の式(1)で表される化合物又はその塩は、インボルクリンの発現促進作用及び角層形成促進作用が認められたことから、インボルクリン発現促進剤又は角層形成促進剤として使用することができ、インボルクリン発現促進剤又は角層形成促進剤を製造するために使用することができる。そして、インボルクリン発現促進剤又は角層形成促進剤は、化粧品、医薬部外品及び医薬品等として用いることができる。
【0025】
本発明のインボルクリン発現促進剤又は角層形成促進剤を化粧品、医薬部外品又は医薬品等として使用する場合は、皮膚外用剤の形態で、具体的には、軟膏、乳化化粧料、クリーム、乳液、ローション、ジェル等の種々の形態で用いることがとりわけ好ましい。当該皮膚外用剤は、通常の皮膚表面に使用する他に、脱毛処理後、さらには角層除去後の皮膚表面に使用してもよい。
斯かる上記製剤は、それぞれ一般的な製造法により、直接又は製剤上許容し得る担体とともに混合、分散した後、所望の形態に加工することによって得ることができる。このような種々の剤型の化粧品、医薬部外品や医薬品等は、本発明の式(1)で表される化合物又はその塩を単独で、又はこれら化粧品等に配合される、植物抽出物、植物油や動物油等の油性基剤、鎮痛消炎剤、鎮痛剤、殺菌消毒剤、収斂剤、皮膚軟化剤、ホルモン剤、ビタミン類、保湿剤、紫外線吸収剤、アルコール類、キレート剤、pH調整剤、防腐剤、増粘剤、色素、香料等を本発明の効果を妨害しない範囲で適宜配合することにより調製することができる。
【0026】
当該化粧品、医薬部外品又は医薬品等中の本発明の式(1)で表わされる化合物又はその塩の含有量は、一般的に0.001〜20質量%とするのが好ましく、0.01〜5質量%とするのがより好ましい
【実施例】
【0027】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明する。
【0028】
製造例1:16-メチルオクタデシルリン酸二ナトリウム塩(化合物1)の製造
15-ペンタデカノリド14.3g(59.5mmol)、32%臭化水素/酢酸溶液24.8g(98.0mmol)を、テフロン(登録商標)で保護された100mLオートクレーブに入れ、窒素置換した後、密閉し、120℃のオイルバスにつけて、16時間、撹拌した。冷却後、イオン交換水14mLを加え、熱ヘキサン200mLを用い、分液ロートに移送した。イオン交換水で洗浄後、硫酸マグネシウムで乾燥し、ろ過、n-ヘキサンで晶析することで、15-ブロモペンタデカン酸17.1g(収率90%)を得た。
【0029】
次に、前述の合成した15-ブロモペンタデカン酸8.0g(24.90mmol)とトリフェニルホスフィン(関東化学)39.2mg(0.15mmol)を入れ、減圧乾燥した。アルゴン雰囲気下、臭化銅(I)(アルドリッチ社)107.2mg(0.75mmol)、無水テトラヒドロフラン10mLを加え、原料を溶解した。室温下、sec-ブチルマグネシウムブロミド54.9mL(74.70mmol、1.36Nテトラヒドロフラン溶液)を、1時間で滴下した。1時間撹拌した後、1N塩酸水溶液100mLを加え、ヘキサン200mLで2回抽出した。イオン交換水100mLで2回洗浄した後、硫酸マグネシウムで乾燥した。ろ過、減圧濃縮して、16-メチルオクタデカン酸6.91g(収率93%)を得た。
【0030】
次に、無水ジエチルエーテル100mLに16-メチルオクタデカン酸3.21g(10.75mmol)を溶解し、窒素雰囲気下、10℃以下に冷却した後、LiAlH40.6650g(17.52mmol)を徐々に加えた。10℃以下にて1時間15分撹拌後、1N塩酸水溶液100mL及びヘキサン100mLを加えた。水層除去後、イオン交換水100mLで2回洗浄した後、硫酸マグネシウムで乾燥した。ろ過、減圧濃縮してシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン-酢酸エチル)で精製し、16-メチルオクタデカノール2.18g(収率71%)を得た。
【0031】
次に、無水テトラヒドロフラン2mLにオキシ塩化リン1.90g(12.39mmol)を溶解し、窒素雰囲気下、10℃以下に冷却したのち、16-メチルオクタデカノール2.18g(8.77mmol)及び無水テトラヒドロフラン5mLの混合溶液を滴下し、更に、トルエチルアミン1.10g(10.53mmol)を滴下した。10℃以下にて2時間撹拌後、白色沈殿を濾別し、濾液に48%水酸化ナトリウム水溶液0.73g(8.77mmol)及びイオン交換水50gを徐々に投入し、50℃にて1時間撹拌した。ジエチルエーテル100mL投入後、飽和食塩水50mL、イオン交換水50mLで順次洗浄し、冷アセトン中150mLに投入し、析出した結晶をろ過・洗浄後、減圧乾燥して16-メチルオクタデシルリン酸(C19-a-P)ナトリウム塩2.63g(収率78%)を得た。そのうち、508.8mg(1.31mmol)をイオン交換水50gに溶解し、48%水酸化ナトリウム109.2mg(1.31mmol)を滴下し、50℃にて30分間撹拌した後、24時間凍結乾燥して、16-メチルオクタデシルリン酸二ナトリウム塩530.1mg(収率99%)を得た。
【0032】
IR(cm-1,ATR法): 2922,2853,1470, 1126,1105,996
1H-NMR(D2O,ppm):0.87-0.90(m,6H),1.14-1.21(m,2H),1.33(m,26H),1.64(m,2H),3.80(m,2H)
【0033】
製造例2:11-(2−メチルブトキシ)ウンデシルリン酸ナトリウム塩(化合物2)の製造
2-メチル-1-ブタノール16.70g(189.45mmol)、水酸化カリウム8.50g(151.49mmol)を80℃で1時間撹拌し、溶解した。さらに、溶解させた11-ブロモウンデカン酸10.05g(37.90mmol)を徐々に滴下した。100℃で6時撹拌後、室温で冷却した。水層除去後、イオン交換水100mLで2回洗浄した後、硫酸マグネシウムで乾燥した。ろ過、減圧濃縮してシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン-酢酸エチル)で精製し、11-(2−メチルブトキシ)ウンデカン酸7.61g(収率74%)を得た。
【0034】
次に、16-メチルオクタデカン酸に代えて11-(2−メチルブトキシ)ウンデカン酸2.46g(9.03mmol)を用いて製造例1と同様に製造を行い、11-(2−メチルブトキシ)ウンデカノール2.16g(収率93%)を得た。次に、16-メチルオクタデカノールに代えて11-(2−メチルブトキシ)ウンデカノール1.0g(3.87mmol)を用いて製造例1と同様に製造を行い、11-(2−メチルブトキシ)ウンデシルリン酸ナトリウム塩1.0g(収率71%)を得た。
【0035】
IR(cm-1,ATR法): 2920,2850,1462,1112,1051,948
1H-NMR(D2O,ppm):0.72-0.75(m,6H),0.98(m,1H),1.11-1.28(m,16H),1.28(m,1H),1.41-1.49(m,4H),3.08(t,J=8Hz,2H),3.15(dd,J=8Hz,2Hz,1H),3.24(dd,J=8Hz,2Hz,1H),3.28(t,J=8Hz,2H),3.68-3.70 (m,2H)
【0036】
製造例3:17-メチルオクタデシルリン酸アルギニン塩(化合物3)の製造
15-ブロモペンタデカン酸3.01g(9.37mmol)とiso-プロピルブロミド2.88g(23.43mmol)とから、製造例1と同様に製造を行い、17-メチルオクタデカン酸2.28g(収率86%)を得た。次に、16-メチルオクタデカン酸に代えて、17-メチルオクタデカン酸3.00g(10.05mmol)を用いて製造例1と同様に製造を行い、17-メチルオクタデカノール2.62g(収率92%)を得、17-メチルオクタデカノール1.0g(3.51mmol)から17-メチルオクタデシルリン酸アルギニン塩1.56g(収率83%)を得た。
【0037】
IR(cm-1,ATR法): 2918,2849,1641,1058,1038
1H-NMR(D2O,ppm):0.71(d,J=6Hz,6H),0.99-1.20(m,26H),1.35-1.75(m,4H),3.07(t,J=6Hz,2H),3.50(t,J=6Hz,1H),3.66(m,2H)
【0038】
比較例1:3-メチルブチルリン酸アルギニン塩(比較化合物1)の製造
16-メチルオクタデカノールに代えて3-メチルブタノール1.0g(3.51mmol)を用いて製造例1と同様に製造を行い、3-メチルブチルリン酸アルギニン塩1.56g(収率83%)を得た。
【0039】
IR(cm-1,ATR法): 2918,2849,1641,1058,1038
1H-NMR(D2O,ppm):0.71(d,J=6Hz,6H),0.99-1.20(m,26H),1.35-1.75(m,4H),3.07(t,J=6Hz,2H),3.50(t,J=6Hz,1H),3.66(m,2H)
【0040】
比較例2:6-メチルオクチルリン酸アルギニン塩(比較化合物2)の製造
16-メチルオクタデカノールに代えて6-メチルオクタノール1.0g(3.51mmol)を用いて製造例1と同様に製造を行い、3-メチルオクチルリン酸アルギニン塩1.56g(収率83%)を得た。
【0041】
IR(cm-1,ATR法): 2918,2849,1641,1058,1038
1H-NMR(D2O,ppm):0.71(d,J=6Hz,6H),0.99-1.20(m,26H),1.35-1.75(m,4H),3.07(t,J=6Hz,2H),3.50(t,J=6Hz,1H),3.66(m,2H)
【0042】
実施例1:ケラチノサイト角化亢進作用
単層培養正常ヒト表皮細胞(凍結NHEK(F) Cascade Biologics)をEpiLife-KG2培地 (KURABO)で培養した。12ウェルプレートに表皮細胞を1×104個/cm2で播種し、37℃,5%CO2下で24時間培養後に上皮成長因子、牛脳下垂体抽出物を除いた同培地に交換し、各被検物質を終濃度1μM,10μMになるように添加した。添加24時間後に細胞をISOGEN(R)(株式会社ニッポンジーン)に溶解させて回収し、添付プロトコルに従ってRNAを調製した。得られたRNAからTaqMan(R) High Capacity cDNA Transcription Kit (Applied Biosystems Cat.No.4374966)を用いてcDNAを合成した。得られたcDNAをテンプレートに、定量的リアルタイムPCRでインボルクリン遺伝子の発現量を定量した。内部標準遺伝子として化合物添加により発現に変動が見られないRibosomal Protein LargePOの発現量を定量し、インボルクリン遺伝子の発現量を標準化した。PCR反応にはTaqMan(R) Universal PCR Master Mix(Applied Biosystems Cat.No. 4304437)および各遺伝子増幅・検出用のプライマー・プローブとしてTaqMan(R) Gene Expression Assays(Applied Biosystems Cat.No. )を用いた。なおそれぞれの遺伝子に対応するTaqMan(R) Gene Expression AssaysのAssay IDはインボルクリン:Hs00846307_s1、Ribosomal Protein LargePO: Hs99999902_m1である。
【0043】
なお、被検物質として、上記化合物1〜3、ドデシルリン酸(MAP-20H:花王(株))を2当量の水酸化ナトリウムで中和して得られたドデシルリン酸二ナトリウム塩(化合物4)、テトラデシルリン酸(MAP-40H:花王(株))を2当量の水酸化ナトリウムで中和して得られたテトラデシルリン酸二ナトリウム塩(化合物5)、ヘキサデシルリン酸(MAP-60H:花王(株))を2当量の水酸化ナトリウムで中和して得られたヘキサデシルリン酸二ナトリウム塩(化合物6)、オクタデシルリン酸(MAP-80H:花王(株))を2当量の水酸化ナトリウムで中和して得られたオクタデシルリン酸二ナトリウム塩(化合物7)、比較対照として上記比較化合物1〜2を用いた。
【0044】
未処理のコントロールを100%とした時の発現量を求めた。結果を表1に示す。
【0045】
【表1】

【0046】
表1から明らかなように化合物1〜7は優れたインボリクリン発現促進作用を有し、優れた角層形成促進作用を有していると考えられる。
【0047】
式(1)で表わされる化合物のうち化合物1を用いて常法により調製した処方例1を下記に示す。
【0048】
処方例1
化合物1 2.0%
グリセリン 5.0%
ジプロピレングリコール 4.0%
ポリオキシエチレンイソセチルエーテル
(20EO) 1.0%
チョウジエキス 1.0%
エタノール 8.0%
防腐剤 適量
香料 適量
緩衝剤 適量
精製水 バランス

【特許請求の範囲】
【請求項1】
次式(1):
R−OPO32 (1)
〔Rは炭素数12〜24のアルキル基又はアルコキシアルキル基〕
で表わされる化合物又はその塩を有効成分とするインボルクリン発現促進剤。
【請求項2】
次式(1):
R−OPO32 (1)
〔Rは炭素数12〜24のアルキル基又はアルコキシアルキル基〕
で表わされる化合物又はその塩を有効成分とする角層形成促進剤。
【請求項3】
式(1)で表される化合物が、16−メチルオクタデシルリン酸、17−メチルオクタデシルリン酸、11-(2−メチルブトキシ)ウンデシルリン酸、オクタデシルリン酸、ヘキサデシルリン酸、テトラデシルリン酸又はドデシルリン酸である請求項1記載のインボルクリン発現促進剤又は請求項2記載の角層形成促進剤。
【請求項4】
16−メチルオクタデシルリン酸、17−メチルオクタデシルリン酸、11-(2−メチルブトキシ)ウンデシルリン酸又はそれらの塩。

【公開番号】特開2010−111619(P2010−111619A)
【公開日】平成22年5月20日(2010.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−285264(P2008−285264)
【出願日】平成20年11月6日(2008.11.6)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】