説明

インレイ、及びカバー付インレイ並びに冊子体

【課題】ICモジュールの破損を防止して所望の耐久性を確保しつつ、冊子体等に好適に採用可能なインレイを提供する。
【解決手段】絶縁性の基材と、基材上に形成されたアンテナコイル4と、アンテナコイル4に接続されたICモジュール20とを有するインレット30と、開口部43からICモジュール20の上面の少なくとも一部を露出させた状態でインレット30に貼り合わされる基材42とを備えたインレイ40は、開口部43の内壁とICモジュール20の側壁との距離が所定値以下であり、基材42が所定の圧力で押されたときの基材42の上面とICモジュール20の上面との段差が所定範囲以内となるように設定されていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、外部の読取機と非接触でデータのやり取りが可能なインレイ、及び当該インレイを備えたカバー付インレイ並びに冊子体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、基板上に巻線アンテナコイルを敷設しICモジュールと接続して外部の読み書き装置とデータ通信を行う非接触型通信ユニット(インレット)を形成する技術が知られている(例えば、特許文献1参照)。
そして、このようなインレットを絶縁性の基材で挟んでインレイ(非接触型情報媒体)とし、パスポートや預貯金通帳との各種冊子体に適用することで、より高いセキュリティ性を付与することが提案されている。
【0003】
巻線アンテナコイルとICモジュールとが接続されたインレットは、ICモジュールの部分だけ厚みが大きいため、特許文献1には、インレットを挟む基材に凹部を設け、当該凹部にICモジュールのチップを含む突出部分を収容するようにして厚みの差が吸収することが記載されている。通常凹部は位置合わせの際に生じるずれ等を考慮して突出部分よりも大きく形成されているため、凹部内において、突出部分の周囲には間隙が形成される。
【特許文献1】特許第3721520号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上述の各種冊子体は長期間使用されることも多いため、適用されるインレイには高い耐久性が要求される。したがって、多くの場合、候補となるインレイに対しては各種の耐久性試験が行われ、そのすべてに合格したものでなければ各種冊子体には採用されない。
【0005】
代表的な耐久性試験の一つとして、ボールペン筆記試験がある(日本工業規格 JIS K 5600−5―5を準用)。これは、ボールペン(日本工業規格 JIS S 6039)に筆圧を想定した所定の荷重をかけて、冊子体に取り付けられたインレイのICモジュール上を所定回数往復動作させ、インレイの通信機能が保持されているかを確認するというものである。
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載のような方法でインレイを形成すると、ボールペン筆記試験の際に、ボールペンの先端が基材と突出部分との間隙に落ち込むことがある。落ち込んだボールペンの先端は、突出部分の側面に強い力で衝突するため、当該衝突による衝撃でICモジュールの通信機能が損なわれ、ボールペン筆記試験に合格できなくなることがあるという問題がある。
【0007】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、ICモジュールの破損を防止して所望の耐久性を確保しつつ、冊子体等に好適に採用可能なインレイを提供することを目的とする。
本発明の他の目的は、耐久性が高いインレイを備えて、非接触情報通信可能なカバー付インレイ及び冊子体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の第1の態様であるインレイは、絶縁性のシートと、前記シート上に形成されたアンテナコイルと、前記アンテナコイルに接続されたICモジュールとを有するインレットと、開口部を有し、前記開口部から前記ICモジュールの上面の少なくとも一部を露出させた状態で前記インレットに貼り合わされる多孔質性基材とを備えたインレイであって、前記開口部の内壁と前記ICモジュールの側壁との距離が所定値以下であり、前記多孔質性基材が所定の圧力で押されたときの前記多孔質性基材の上面と前記ICモジュールの上面との段差が所定範囲以内となるように設定されていることを特徴とする。
【0009】
本発明のインレイによれば、多孔質性基材が所定の圧力で押されたときの多孔質性基材の上面とICモジュールの上面との段差が所定範囲以内となるので、ボールペン等がICモジュールの上面を通過する際に落下やせん断応力等によってICモジュールが破損されることが好適に防止される。
【0010】
本発明のインレイは、前記ICモジュールよりも低い硬度を有し、前記ICモジュールの前記上面を被覆するように前記ICモジュールと前記多孔質性基材との間に設けられた保護層をさらに備えてもよい。この場合、保護層がICモジュールに対する衝撃を分散させるので、より好適にICモジュールの破損を防止することができる。
【0011】
前記保護層は、シート状の支持基材と、前記支持基材の一方の面に設けられた粘着層とを有してもよい。この場合、保護層を容易に形成することができる。
【0012】
前記開口部の面積は前記ICモジュールの前記上面の面積よりも小さく、前記ICモジュールの前記上面は、その周縁が前記多孔質性基材に被覆された状態で露出されてもよい。この場合、ICモジュールと開口部との間に間隙がなく、多孔質性基材とICモジュールの側壁とが密着した状態となるので、ICモジュールに作用する衝撃の発生をより少なくすることができる。
【0013】
本発明の第2の態様であるカバー付インレイは、本発明のインレイと、前記インレイの一方の面に貼り合わされたカバー部材とを備えることを特徴とする。
また、本発明の第3の態様である冊子体は、本発明のインレイを備えることを特徴とする。
【0014】
本発明のカバー付インレイ及び冊子体によれば、耐久性が高いインレイを備えることによって、長期間安定した状態で非接触情報通信可能なカバー付インレイ及び冊子体とすることができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明のインレイによれば、ICモジュールの破損を防止して所望の耐久性を確保しつつ、冊子体等に好適に採用可能なインレイを提供することができる。
また、本発明のカバー付インレイ及び冊子体によれば、耐久性が高いインレイを備えて、非接触情報通信可能なカバー付インレイ及び冊子体を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の第1実施形態のインレイについて、図1から図8を参照して説明する。本実施形態のインレイは、アンテナシートとICモジュールとからなるインレットの両面を、シート状の基材で挟みこんで形成されている。以下、インレイを構成する各部について説明する。
【0017】
(アンテナシート)
図1(a)は本実施形態のインレイに取り付けられるアンテナシート1の平面図であり、図1(b)は底面図である。図1(a)に示すように、アンテナシート1は、例えば、PEN(ポリエチレンナフタレート)またはPET(ポリエチレンテレフタレート)により形成された可撓性を有する基板(シート)2を備えている。基板2の厚さは、例えば、約0.02ミリメートル(mm)〜約0.10mmの範囲から適宜選択される。基板2の表面には、アンテナ回路3が形成されている。
【0018】
アンテナ回路3は、基板2の形状に対応する略矩形のらせん状に形成されたアンテナコイル4を備えている。アンテナコイル4は、例えば、基板2の表面に形成されたアルミニウムの薄膜をエッチング等によりパターニングすることで、厚さが約0.02mm〜0.05mm程度の薄膜状に形成されている。アンテナコイル4の内側の端部は略円形状に面積が拡大され、端子部5が形成されている。また、アンテナコイル4が屈曲される部分(矩形の角部)は、略円弧状に形成されている。
なお、アンテナコイル4は、上述のエッチングのほか、印刷や巻き線コイル等によって形成されてもよい。
【0019】
アンテナコイル4の外側の端部6は、基板2の一角に向けて引き出されている。基板2の一角のややアンテナコイル4側には、略矩形の開口部7が形成されている。開口部7は後述するICモジュールの一部を収容して露出することができるように設けられている。
基板2の一角に向けて引き出されたアンテナコイル4の外側の端部6は、開口部7の一辺7aに向けて引き回され、その一辺7aに沿って形成されたアンテナ接続ランド8(接続部)に接続されている。アンテナ接続ランド8は、アンテナコイル4の幅W1が拡大されて形成された略矩形の端子部である。
【0020】
アンテナ接続ランド8が形成された開口部7の一辺7aに対向する一辺7bには、アンテナ接続ランド9(接続部)が形成されている。アンテナ接続ランド8に対向して形成されたアンテナ接続ランド9には、アンテナコイル4の一部である配線10が接続されている。アンテナ接続ランド9は、この配線10の幅W2が拡大されることにより、対向するアンテナ接続ランド8と同様に開口部7の一辺7bに沿って略矩形に形成されている。一端がアンテナ接続ランド9に接続された配線10の他端側は略円形状に面積が拡大され、端子部11が形成されている。
【0021】
また、基板2のアンテナ回路3が形成された面の反対側の面には、図1(b)に示すように、各アンテナ接続ランド8、9の形成領域に対応して、アンテナ接続ランド8、9を補強する補強用パターン12、13(補強部)が形成されている。補強用パターン12、13は、例えば、アンテナ回路3と同様に金属薄膜のエッチング等または同様の方法で形成され、平面視でアンテナ接続ランド8、9の外形線に沿って、アンテナ接続ランド8、9の形状に対応した矩形状に形成されている。
【0022】
また、基板2のアンテナ回路3が形成された面の反対側の面には、アンテナコイル4の端子部5と端子部11とを接続するジャンパー配線14が形成されている。ジャンパー配線14は、例えば、アンテナ回路3と同様の方法で形成されている。ジャンパー配線14の両端は、略円形状に面積が拡大されて端子部15、16が設けられている。ジャンパー配線14の各端子部15、16は、それぞれアンテナコイル4の端子部5と端子部11の形成領域に対応して設けられている。ジャンパー配線14の各端子部15、16と、アンテナコイル4の各端子部5、11とは、各端子部15、16の形成領域に複数の点状に形成された導通部17において電気的に接続されている。
【0023】
導通部17は、例えば、図2(a)に示すように、ジャンパー配線14の端子部15(端子部16)と、アンテナコイル4の端子部5(端子部11)とを両側から挟むように圧力を加えてかしめるクリンピング加工により、基板2を破って端子部5と15(端子部11と16)とを物理的に接触させて形成されている。
また、導通部17は、上記のクリンピング加工による接続以外の方法で形成されてもよい。例えば、図2(b)に示すように、端子部5、15(端子部11、16)の形成領域に基板2を貫通するスルーホール19Aを形成する。そして、スルーホール19Aに銀ペースト等の導電ペースト19を充填し、ジャンパー配線14の端子部15(端子部16)とアンテナコイル4の端子部5(端子部11)とを電気的に接続することによって導通部17が形成されてもよい。
【0024】
(ICモジュール)
次に、上述のアンテナシート1のアンテナ回路3に接続されるICモジュール20について説明する。
図3(a)はICモジュール20の平面図であり、図3(b)は図3(a)のA−A’線に沿う断面図である。
図3(a)および図3(b)に示すように、ICモジュール20は、リードフレーム21と、リードフレーム21上に実装されたICチップ22と、ICチップ22を封止する封止樹脂部23とにより形成されている。
【0025】
リードフレーム21は、平面視で角部が円弧状に丸められた略長方形に形成されている。リードフレーム21は、例えば、銅糸を編んでフィルム状に形成し、銀メッキを施した銅糸金属フィルム等により形成されている。
リードフレーム21は、ICチップ22を支持固定するダイパッド24と、ICチップ22の入出力パッドに接続されるアンテナランド25、25(端子部)とを備えている。
【0026】
ダイパッド24は、ICチップ22の外形よりも一回り大きく形成され、ICチップ22の底部に固定されている。ダイパッド24とアンテナランド25との間には間隙Sが形成され、電気的に絶縁されている。
アンテナランド25は、例えば、金(Au)等のボンディングワイヤ26を介してICチップ22の入出力パッドに接続されている。アンテナランド25は、外部の回路に接続されるICモジュール20の端子部として用いるために、ICモジュール20の長手方向(長さL方向)に延伸して形成されている。
【0027】
封止樹脂部23は平面視で角部が円弧状に丸められた略正方形に形成されている。封止樹脂部23は、例えば、エポキシ樹脂等の樹脂材料により形成され、ICチップ22、ICチップ22の入出力パッド、ボンディングワイヤ26、および、アンテナランド25とボンディングワイヤ26の接続部等を覆うように形成されている。また、封止樹脂部23はダイパッド24とアンテナランド25との間隙Sに充填されると共に、両者に跨って形成されている。ここで、ICモジュール20の厚さT1は、例えば、約0.3mm程度に形成されている。
【0028】
(インレット)
図4(a)および図4(b)に示すように、ICモジュール20のアンテナランド25、25と、アンテナシート1のアンテナ接続ランド8、9とを電気的に接続して、ICモジュール20をアンテナシート1に固定することで、アンテナシート1とICモジュール20とを備えたインレット30が形成される。
ここで、アンテナシート1の開口部7は、略正方形に形成されたICモジュール20の封止樹脂部23を収容して露出させることができるように、封止樹脂部23に対応する略正方形に開口され、封止樹脂部23の外形よりも一回り大きく開口されている。
【0029】
また、アンテナシート1の開口部7の両側に対向して設けられた一対のアンテナ接続ランド8、9の幅W3は、ICモジュール20のアンテナランド25、25の幅W4と略同等か、またはやや小さくなるように形成されている。
また、アンテナシート1のアンテナ接続ランド8、9の長さL3は、ICモジュール20のアンテナランド25、25とアンテナ接続ランド8、9が重なる部分の長さL4よりも大きく形成されている。本実施形態では、アンテナ接続ランド8、9の長さL3は、アンテナランド25、25とアンテナ接続ランド8、9とが重なった部分の長さL4の略二倍に形成されている。
【0030】
(インレイ)
次に、上述のインレット30を備えたインレイ40について、図5(a)および図5(b)を用いて説明する。
図5(a)および図5(b)に示すように、インレイ40は、インレット30と、インレット30を挟持する基材41および基材(第二の基材)42を備えている。インレイ40は、一対の基材41、42の間にインレット30を挟みこみ、基材41、42とインレット30をラミネート接合して一体化することで、後述する冊子体に適用可能な程度の柔軟性を有する所望の厚さに形成されている。
【0031】
具体的には、基材41、42の厚さは、例えば、約100μm〜約1000μm程度のものを用いることができる。この中でも、冊子体に適用する場合は、約100μm〜約500μmの範囲内がより好ましい。
また、ICモジュール20の一部が露出する基材42の厚さは、ボールペン筆記試験時のボールペン先端の挙動を考慮して設定されているが、この点については後述する。
【0032】
基材41、42の材料としては、例えば、絶縁性のプラスティックフィルム(PET-G:非結晶コポリエステル、PVC:塩化ビニル樹脂等)や絶縁性の合成紙(PPG社製のポリオレフィン系合成紙 商品名「Teslin」(登録商標)、あるいはユポ・コーポレーション製のポリプロピレン系合成紙 商品名「YUPO」(登録商標))等の多孔質性基材等を採用可能である。この中でも、冊子体を構成する紙の部材等と良好に接着可能である等の理由から、多孔質性基材がより好ましい。本実施形態では、基材41、42のいずれも多孔質性基材が用いられている。
【0033】
図5(b)に示すように、基材42には、封止樹脂部23を収容してICモジュール20の一部を露出させる開口部43が形成されている。開口部43の外形は、ICモジュール20の封止樹脂部23の外形よりも僅かに小さく形成されており、基材42をインレット30に貼り合わせたときに、開口部43の周縁のごく一部がインレイ40の厚さ方向において封止樹脂部23と重畳するように、すなわち、多孔質性の基材42がICモジュール20の上面の周縁部を被覆するように乗り上げている。
【0034】
基材42の厚さは、ボールペン筆記試験時にICモジュール20を好適に保護してその通信性能を保持し、インレイ40がボールペン筆記試験において良好な合格率を確保できる程度の耐久性が確保されるように設定されている。以下、詳細に説明する。
【0035】
ボールペン筆記試験時には、規定により、ボールの直径が1mmのボールペンが使用され、これに500グラム重(gf)の荷重が負荷される。したがって、ボールペン筆記試験において、基材42には概ね所定の大きさの圧力が加えられることになり、当該圧力によって基材42の上面が圧縮される。それに伴い、基材42のうち、ボールペンが通過した部位は圧縮されて厚さが減少する。
【0036】
図6に示すように、ICモジュール20のうち、開口部43から露出される部位の表面(以下、この面をICモジュール20の上面と称する。)20Aと、基材42のうち、ICモジュール20と貼り合わされる面と反対側の面(以下、この面を基材42の上面と称する。)との段差(インレイ40の厚さ方向における距離)が所定値h1以上となる程度に、上面42Aが圧縮されて低い位置となると、ボールペン100の先端がICモジュール20の側壁に強く衝突し、さらにボールペン100がICモジュール20に乗り上げる際にせん断応力が発生する。これらの力によって、ICモジュール20が破損し、通信機能に支障が生じると、ボールペン筆記試験をクリアできない事態が発生することがある。
【0037】
一方、図7に示すように、ICモジュール20の上面20Aとの段差が所定値h2以上となる程度に基材42の上面42Aが高い位置となると、ボールペン100の先端が基材42の上面42AからICモジュール基材42の上面42Aに落下する際の撃力の影響が大きくなる。したがって、図6の場合と同様に、ICモジュール20が破損してボールペン筆記試験をクリアできない事態が発生することがある。
【0038】
上述の所定値h1及びh2を検討するために、以下に示す実験1を行った。
(実験1)
基材42として、様々な厚みの多孔質性のポリオレフィン系合成紙を使用し、ボールペンによる加圧前の基材の上面42AとICモジュール20の上面20Aとの段差が、1グループ:17.0〜23.0um、2グループ:42.0〜48.0um、3グループ:57.0〜63.0um、4グループ:82.0〜88.0um、5グループ:102.0〜108.0umの各グループに該当するように、それぞれインレイのサンプルを3つずつ作成した。なお、段差の値が正の時は、図7に示すように、基材42の上面42Aの上面の方がICモジュール20の上面20Aよりも高い位置にあることを意味する。
【0039】
各サンプルにおける段差の実測値は以下の通りであった。
1グループ:21.3um、19.4um、20.4um
2グループ:43.1um、45.1um、46.7um
3グループ:59.1um、60.2um、61.6um
4グループ:83.4um、84.9um、86.9um
5グループ:93.3um、104.6um、106.4um
【0040】
上述の各サンプルにおいて、市販のボール直径が1mmのボールペンを用い、アンテナコイル4の長辺方向に沿って、基材42の上面42A及びICモジュール20の上面20A上を通過するようにボールペンを走行させた。荷重500gf、速度25mm/secにてボールペンを走行させ、25往復後にICモジュール20の基本動作を確認し、インレイの通信応答を測定した。
【0041】
以下にボールペンによる負荷後におけるインレイの通信応答の測定結果を以下に示す。(○)は通信応答が良好であったことを、(×)は通信応答不良が発生したことをそれぞれ示している。
1グループ:21.3um(×)、19.4um(×)、20.4um(×)
2グループ:43.1um(○)、45.1um(○)、46.7um(○)
3グループ:59.1um(○)、60.2um(○)、61.6um(○)
4グループ:83.4um(×)、84.9um(×)、86.9um(×)
5グループ:93.3um(×)、104.6um(×)、106.4um(×)
【0042】
1、4、及び5グループにおいては、3つのサンプルすべてに通信応答不良が生じた。一方、2及び3グループについては、3つのサンプルすべてが良好な通信応答を示した。通信不良を生じたサンプルの不良解析を行った結果、ICモジュール内部のICチップの破断が原因であった。
【0043】
一般的な多孔質性合成紙は、ボールペン筆記試験時に生じる圧力によって、約50μm厚さが減少することが実験的にわかっている。したがって、2グループ及び3グループにおけるボールペン筆記試験による圧縮後の段差は、マイナス6.9μmからプラス11.6μmの範囲内にあると推測され、実測でも確認された。段差の値がマイナスの場合、ボールペンの先端はICモジュール20の上面よりも低い位置にあるが、段差が小さいために、大きな衝撃を発生せずにICモジュール上に乗り上げるので、ICモジュールの破損が起こらなかったと考えられた。
【0044】
以上より、ボールペン筆記試験による圧縮後の基材42の上面42AとICモジュール20の上面20Aとの段差の好適範囲は、マイナス10μm以上プラス20μm以下、より好ましくはマイナス6μm以上プラス11μm以下であると考えられた。すなわち、上述のh1は10μm、より好ましくは6μmとなり、h2は20μm、より好ましくは11μmとなる。
したがって、所定値h1にもとづいて決定される、基材42の上面42AがICモジュール20の上面20Aよりも低い場合の好適段差は10μm以下、より好ましくは6μm以下となり、所定値h2にもとづいて決定される、基材42の上面42AがICモジュール20の上面20Aよりも高い場合の好適段差は20μm以下、より好ましくは11μm以下となり、両者は必ずしも同一でないことが確認された。
【0045】
ボールペン筆記試験によって生じる圧力で厚さがどの程度減少するかは、基材42の材質によって異なるため、基材42として使用する材料が上述の所定の圧力でどの程度厚さが減少するかを予め測定し、当該測定結果に基づいて初期(インレイの完成時)の基材42の厚さを決定すれば、ボールペン筆記試験による圧縮後の段差を好適範囲内に制御して、ボールペン筆記試験に十分耐えうる耐久性を確保することができる。
【0046】
圧力による厚さの減少の度合いを推測する指標の一つとして、ビッカース硬さ(日本工業規格 JIS Z 2244)を挙げることができる。一般的な多孔質性合成紙のビッカース硬さは、1.5〜3.0であるので、同程度のビッカース硬さを有する材料であれば、ボールペン筆記試験によって生じる圧力で同様に50μm程度厚さが減少すると推測される。
【0047】
以上説明したように、本実施形態のインレイ40によれば、ボールペン筆記試験時に作用する所定の圧力が上面に作用した際の基材42の上面42AとICモジュール20の上面20Aとの段差が、上述の所定値h1及びh2によって決定される所定の範囲内となるように基材42の厚みが設定されているので、ボールペン筆記試験時のICモジュール、特にICチップの破損が好適に防止される。その結果、耐久性の高いインレイを提供することができる。
【0048】
本実施形態のインレイ40は、図8に示すように、様々な外観のカバー部材110を一方の面に貼り合わせることによってカバー付インレイ111とすることができる。そして、さらに本文用紙112を綴じ込む等によって非接触情報通信が可能な冊子体113を構成することが可能である。このような冊子体113を電子パスポートや預貯金通帳に利用することで、高いセキュリティ性を有し、かつ長期間安定して使用することができる冊子体とすることができる。
【0049】
続いて、本発明の第2実施形態について図9から図11を参照して説明する。本実施形態のインレイ50と上述のインレイ40との異なるところは、ICモジュールの上面に保護層が設けられている点である、
なお、上述の第1実施形態と共通する構成については、同一の符号を付して重複する説明を省略する。
【0050】
インレイ50の基本形状は、図5(a)に示すインレイ40とほぼ同様である。そして図9が、図5(b)に対応する位置におけるインレイ50の断面図である。図9に示すように、インレイ50のインレット30には、ICモジュール20を被覆するように保護層51が形成されている。
【0051】
保護層51は、ICモジュール20の上面20Aを構成する封止樹脂層23よりも低い硬度を有する。保護層51は封止樹脂層23よりの低い硬度を有するものであればその材質に特に制限はないが、本実施形態では、PET等の樹脂からなるシート(支持基材)51Aとシート51Aの一方の面に設けられた粘着層51Bからなる樹脂テープを、封止樹脂層23を覆うように貼り付けることによって保護層51が形成されている。シート51A及び粘着層51Bの厚みは、いずれも25μmに設定されている。
【0052】
インレイ50においても、基材42の厚さはボールペン筆記試験時にICモジュール20を好適に保護できる程度に設定されている。ただし、インレイ50に形成された保護層51は封止樹脂層23よりも硬度が低いため、ボールペン筆記試験時にボールペンの先端によってICモジュール20に作用する衝撃は、保護層51により弾性エネルギーとして分散されて弱められる。
【0053】
したがって、インレイ50においては、図10及び図11に示す所定値h3及びh4で決定される、ICモジュール20を好適に保護可能な基材42の上面42AとICモジュール20の上面20Aとの段差の範囲は、上述のインレイ40におけるものよりも広くなる。この所定値h3及びh4を検討するために、下記要領で実験2を行った。
【0054】
(実験2)
基材42として、様々な厚みの多孔質性のポリオレフィン系合成紙を使用し、ボールペンによる加圧前の基材の上面42AとICモジュール20の上面20Aとの段差が、6グループ:-13.0〜-7.0um、7グループ:7.0〜13.0um、8グループ:42.0〜48.0um、9グループ:82.0〜88.0um、10グループ:102.0〜108.0um、11グループ:122.0〜128.0umの各グループに該当するように、それぞれインレイのサンプルを3つずつ作成した。なお、段差の値が正の時は、実験1同様、基材42の上面42Aの上面の方がICモジュール20の上面20Aよりも高い位置にあることを意味する。
【0055】
各サンプルにおける段差の実測値は以下の通りであった。
6グループ:-11.3um、-9.8um、-7.8um
7グループ:8.1um、9.2um、11.7um
8グループ:43.1um、45.2um、47.6um
9グループ:82.4um、84.9um、86.9um
10グループ:102.3um、104.6um、106.4um
11グループ:122.3um、124.6um、127.4um
【0056】
上述の各サンプルにおいて、実験1と同様にボールペン走行による負荷をインレイの表面に加え、その後ICモジュール20の基本動作を確認し、インレイの通信応答を測定した。
【0057】
以下に各サンプルの通信応答の測定結果を以下に示す。(○)は通信応答が良好であったことを、(×)は通信応答不良が発生したことをそれぞれ示している。
6グループ:-11.3um(×)、-9.8um(×)、-7.8um(×)
7グループ:8.1um(○)、9.2um(○)、11.7um(○)
8グループ:43.1um(○)、45.2um(○)、47.6um(○)
9グループ:82.4um(○)、84.9um(○)、86.9um(○)
10グループ:102.3um(○)、104.6um(○)、106.4um(○)
11グループ:122.3um(×)、124.6um(○)、127.4um(×)
【0058】
6グループでは3つのサンプルすべてに、11グループでは3つのうち2つのサンプルが通信応答不良となった。一方、7ないし10グループのサンプルはすべて良好な通信応答を示した。通信不良を生じたサンプルの解析を行ったところ、ICモジュール20のICチップの破断が原因と確認された。
【0059】
一般的な多孔質性合成紙は、上述のようにボールペン筆記試験時に生じる圧力によって、約50μm厚さが減少するので、7ないし10グループのサンプルにおけるボールペン負荷による圧縮後の段差は、マイナス41.9μmからプラス56.4μmの範囲内にあると推測され、実測でも確認された。
【0060】
以上より、保護層51を設けた第2実施形態のインレイ50における段差の好適範囲は、マイナス45μm以上プラス60μm以下、より好ましくはマイナス41μm以上プラス56μm以下であると考えられた。すなわち、上述のh3は45μm、より好ましくは41μmとなり、h4は60μm、より好ましくは56μmとなる。
したがって、所定値h3にもとづいて決定される、基材42の上面42AがICモジュール20の上面20Aよりも低い場合の好適段差は45μm以下、より好ましくは41μm以下となり、所定値h4にもとづいて決定される、基材42の上面42AがICモジュール20の上面20Aよりも高い場合の好適段差は60μm以下、より好ましくは56μm以下となる。保護層51を設けたことで、いずれの好適段差も第1実施形態に比べて範囲がより広くなったことが確認された。
【0061】
保護層51の緩衝効果の大きさは、使用される材質や厚みによって変化する。また、保護層が複数の異なる材質の層から形成されている場合は、それぞれの層の材質や厚みによって変化する。したがって、実際に保護層を設けた状態で上述の実験2のような実験を行い、当該保護層における所定値h3及びh4を特定すればよい。
【0062】
保護層の緩衝効果を推定する際も、上述のビッカース硬さが一つの指標となる。ただし、保護層を構成するものの中に粘着層51Bのような非常にやわらかい材質が含まれる場合、圧力が加わることによって当該材質は弾塑性変形するため、保護層全体の厚みの減少の程度によってビッカース硬さの測定値は変化する。そのため、実際に所定の圧力が作用した際の厚さにおける保護層のビッカース硬さを測定し、その値を指標とするのが好ましい。
【0063】
具体的には、所定の圧力(例えば、ボールペン筆記試験時と同等の圧力)を保護層に作用させて作用後の厚みを計測し、これと同等の厚みとなるようにビッカース圧子で保護層を押圧してビッカース硬さを計測すると、所定圧力作用時における保護層のビッカース硬さを計測することができる。
上述のようにして計測された本実施形態の保護層51のビッカース硬さは2.5〜4.0であり、概ね基材42のビッカース硬さの3倍以内で、基材42とほぼ同程度かやや低い硬度であった。
【0064】
本実施形態のインレイ50によれば、ICモジュール20の上面を覆うように保護層51が設けられているので、ICモジュール20を好適に保護可能な段差の好適範囲をより広く確保することができる。したがって、基材42の材質や厚みの選択の幅が広がり、よりインレイの構成の自由度を向上させつつ、耐久性を確保することができる。
【0065】
また、保護層51がシート51A及び粘着層51Bから形成されているので、ICモジュール20の上面に貼り付けることによって容易に保護層を形成することができ、製造の容易なインレイとすることができる。
【0066】
以上、本発明の実施形態について説明してきたが、本発明の技術範囲は上記実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
【0067】
例えば、上述の各実施形態においては、基材42の開口部43の面積がICモジュール20の上面よりも小さく、図5(b)に示すように封止樹脂部23の側面に密着している例を説明したが、これに代えて、開口部43をICモジュール20の上面よりも僅かに大きく形成し、基材42と封止樹脂部23との間に所定値以内の幅の間隙を有するようにインレイが形成されてもよい。
この場合、間隙の幅の所定値は、インレイに要求される耐久性に基づいて決定される。例えば、ボールペン筆記試験に対する耐久性を考慮した場合、間隙の幅がボールペンのボールが落ち込める程度の大きさであると、段差を好適範囲に設定する意義が損なわれるので、間隙の幅の所定値は、当該ボールの直径に基づいて決定されるのが好ましい。より具体的には、基材42と封止樹脂部23との間に間隙を備える場合は、間隙の幅は5μm以内が好ましい。
【0068】
また、本実施形態では、所定の圧力が、ボールペン筆記試験を考慮して設定された例を説明したが、本発明のインレイの構造設定の適用範囲はこれには限定されない。すなわち、個々のインレイに要求される耐久性に基づいて、実験等を通じて上述のh1、h2等の所定値を見出すことによって好適な段差範囲を特定し、これに基づいて基材の材質や厚さあるいは保護層の構成を適宜設定することによって、あらゆる範囲の所望の耐久性を満足し、かつ冊子体等に好適に採用することができるインレイを構成することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1】(a)は本発明の第1実施形態のインレイにおけるアンテナシートの平面図であり、(b)は底面図である。
【図2】(a)および(b)は、同アンテナシートのアンテナ回路とジャンパー配線の接続部を示す断面図である。
【図3】(a)は同インレイにおけるICモジュールの平面図であり、(b)は(a)のA−A’線に沿う断面図である。
【図4】(a)は同インレイにおけるインレットの拡大平面図であり、(b)は(a)のB−B’線に沿う断面図である。
【図5】(a)は同インレイの平面図であり、(b)は(a)のC−C’線に沿う部分断面図である。
【図6】同インレイにおける基材とICモジュールとの段差の一例を示す図である。
【図7】同インレイにおける基材とICモジュールとの段差の一例を示す図である。
【図8】同実施形態のインレイを備える冊子体を示す斜視図である。
【図9】本発明の第2実施形態のインレイの図5(b)に対応する部分断面図である。
【図10】同インレイにおける基材とICモジュールとの段差の一例を示す図である。
【図11】同インレイにおける基材とICモジュールとの段差の一例を示す図である。
【符号の説明】
【0070】
1、1A 冊子体
10、10A 非接触型情報媒体
2 基材(シート)
4 アンテナコイル
20 ICモジュール
20A 上面
30 インレット
40、50 インレイ
42 基材(多孔質性基材)
42A 上面
43 開口部
51 保護層
51A シート(支持基材)
51B 粘着層
110 カバー部材
111 カバー付インレイ
113 冊子体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁性のシートと、前記シート上に形成されたアンテナコイルと、前記アンテナコイルに接続されたICモジュールとを有するインレットと、
開口部を有し、前記開口部から前記ICモジュールの上面の少なくとも一部を露出させた状態で前記インレットに貼り合わされる多孔質性基材と、
を備えたインレイであって、
前記開口部の内壁と前記ICモジュールの側壁との距離が所定値以下であり、
前記多孔質性基材が所定の圧力で押されたときの前記多孔質性基材の上面と前記ICモジュールの上面との段差が所定範囲以内となるように設定されていることを特徴とするインレイ。
【請求項2】
前記ICモジュールよりも低い硬度を有し、前記ICモジュールの前記上面を被覆するように前記ICモジュールと前記多孔質性基材との間に設けられた保護層をさらに備えることを特徴とする請求項1に記載のインレイ。
【請求項3】
前記保護層は、シート状の支持基材と、前記支持基材の一方の面に設けられた粘着層とを有することを特徴とする請求項2に記載のインレイ。
【請求項4】
前記開口部の面積は前記ICモジュールの前記上面の面積よりも小さく、前記ICチップは、その周縁が前記多孔質性基材に被覆された状態で露出されていることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載のインレイ。
【請求項5】
請求項1から3のいずれか1項に記載のインレイと、
前記インレイの一方の面に貼り合わされたカバー部材と、
を備えることを特徴とするカバー付インレイ。
【請求項6】
請求項1から3のいずれか1項に記載のインレイを備えることを特徴とする冊子体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2010−61269(P2010−61269A)
【公開日】平成22年3月18日(2010.3.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−224689(P2008−224689)
【出願日】平成20年9月2日(2008.9.2)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】