説明

ウィルス感染細胞抑制剤

【課題】本発明は、ウィルス感染細胞抑制剤を提供する。
【解決手段】フェノキサジン誘導体又はその医薬的に許容される塩若しくはエステルを有効成分として含有するウィルス感染細胞抑制剤を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ウィルス感染細胞抑制剤に関する。
【背景技術】
【0002】
ウィルス感染細胞が原因である腫瘍が大きな問題となっている。当該腫瘍として、バーキットリンパ腫、肝細胞癌、子宮頸癌及び成人ヒトT細胞白血病(以下、ATLという)等が挙げられる。このうち、成人ヒトT細胞白血病は、ヒトT細胞白血病ウィルスI型(以下、HTLV−1という)の感染が原因となって起こる疾患である。HTLV−1キャリア(HTLV−1に感染した者で、上記のHTLV−1が引き起こす疾患を発症していない者)は日本国内で120万人と推定されている。そして、HTLV−1キャリアの1000人に1人が、感染から平均50年後にATLを発症すると言われている。HTLV−1感染は、発症率は非常に低いがひとたび発症するときわめて短期間で重篤な結果もたらすといわれている。HTLV−I感染によるATLは、一旦発症すると、病状は急激に悪化し、その治療は困難を極めているのが現状である。従来の治療法としては、悪性リンパ腫に準じた化学療法或いは放射線療法などがある。しかし、それらの療法は、一時的な対症療法に過ぎず、残念ながら本質的な治療法とはなっていない。さらに、ATLの発症を予防する手立てはない。
【0003】
また、HTLV−1関連脊髄症及びHTLV−1ぶどう膜炎も、HTLV−1による疾患として挙げられる。これらについても、本質的な治療法はない。また、その発症を予防する手立てもない。
【0004】
下記特許文献1は、フェノキサジン誘導体の抗腫瘍効果を記載する。
【0005】
下記特許文献2は、フェノキサジン誘導体の抗ウィルス効果を記載する。
【0006】
下記特許文献3は、ホンダワラ由来のフコキサンチンまたはフコキサンチノールを有効成分とするウィルス関連悪性腫瘍治療剤を記載する。
【0007】
下記特許文献4は、ローズマリー加工処理物を有効成分とする成人T細胞性白血病治療剤を記載する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平02−193984号公報
【特許文献2】特許第3957188号公報
【特許文献3】特開2008−19174号公報
【特許文献4】特開2008−247797号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、ウィルス感染細胞抑制剤を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、下記式1で表されるフェノキサジン誘導体又はその医薬的に許容される塩若しくはエステルを有効成分として含有するウィルス感染細胞抑制剤を提供する。ここで、式1中、
は、水素原子、炭素原子数1〜4の低級アルキル基、炭素原子数1〜4のアシル基及び炭素原子数1〜4のアシルオキシ基から成る群から任意に選択され、
は、水素原子、炭素原子数1〜4の低級アルキル基、炭素原子数1〜4のアシル基及び炭素原子数1〜4のアシルオキシ基から成る群から任意に選択され、
は、水素原子、炭素原子数1〜4の低級アルキル基、炭素原子数1〜4のアシル基及び炭素原子数1〜4のアシルオキシ基から成る群から任意に選択され、
は、アミノ基又はオキソ基であり、及び
は、アミノ基又はオキソ基である。
【0011】
式1
【化1】

【発明の効果】
【0012】
本発明の剤は、ウィルス感染細胞を抑制する効果を有する。その抑制効果は、ウィルス感染細胞の増殖抑制及び/又は生存抑制、該細胞に対するアポトーシス誘導、該細胞の細胞周期停止及び/又は該細胞のシンシチウム形成抑制を含む。さらに、本発明のウィルス感染細胞抑制剤は、ウィルスに感染した細胞に対して選択的にその効果を発揮するので、正常細胞に対する副作用が少ない。
上記効果によって、ウィルス感染細胞に起因する疾病に対して本質的な治療又は予防が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1A】MT−1細胞に対するフェノキサジン誘導体の増殖抑制効果及び生存抑制効果を示す図である。
【図1B】HUT−102細胞に対するフェノキサジン誘導体の増殖抑制効果及び生存抑制効果を示す図である。
【図1C】MT−2細胞に対するフェノキサジン誘導体の増殖抑制効果及び生存抑制効果を示す図である。
【図1D】XC細胞に対するフェノキサジン誘導体の増殖抑制効果及び生存抑制効果を示す図である。
【図1E】PBMCに対するフェノキサジン誘導体の増殖抑制効果及び生存抑制効果を示す図である。
【図2】MT−1細胞のアポトーシスを検出するためのフローサイトメトリーの結果を示す図である。
【図3】MT−1細胞におけるカスパーゼファミリー及びApaf−1のmRNAレベルに対するフェノキサジン誘導体の効果を示す図である。
【図4】MT−1細胞におけるカスパーゼ3活性に対するフェノキサジン誘導体の効果を示す図である。
【図5】Phx−3により処理されたMT−1細胞の細胞周期分析結果を示す図である。
【図6】MT−2細胞とXC細胞との間のシンシチウム形成細胞の確認結果を示す図である。
【図7】MT−2細胞とXC細胞との間のシンシチウム形成の数を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明のウィルス感染細胞抑制剤は、下記式1で表されるフェノキサジン誘導体又はその医薬的に許容される塩若しくはエステルを有効成分として含む。
【0015】
【化2】

【0016】
式1において、R、R及びRは互いに独立に、水素原子、炭素原子数1〜4の低級アルキル基、炭素原子数1〜4のアシル基及び炭素原子数1〜4のアシルオキシ基から成る群から任意に選択される。好ましくは、R、R及びRは互いに独立に、水素原子、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ヒドロキシメチル基、ヒドロキシエチル基、メトキシ基、エトキシ基、メトキシメチル基、エトキシメチル基から選択される。さらに好ましくは、R、R及びRは互いに独立に、水素原子又はメチル基である。
式IにおいてR及びRは互いに独立に、アミノ基又はオキソ基から選ばれる。
【0017】
好ましい実施態様において、式Iにおいて、Rが水素原子であり、Rがメチル基であり、Rがメチル基であり、Rがアミノ基であり且つRがオキソ基である(以下、Phx−1という)。本実施態様における化学式は以下のとおりである。
【0018】
【化3】

【0019】
他の好ましい実施態様において、式Iにおいて、Rがメチル基であり、Rが水素原子であり、Rがメチル基であり、Rがオキソ基であり且つRがアミノ基である(以下、Phx−2という)。本実施態様における化学式は以下のとおりである。
【0020】
【化4】

【0021】
他の好ましい実施態様において、式Iにおいて、Rが水素原子であり、Rが水素原子であり、Rがアミノ基であり且つRがオキソ基である(以下、Phx−3という)。本実施態様における化学式は以下のとおりである。
【0022】
【化5】

【0023】
好ましい実施態様において、該ウィルスはレトロウィルス科のウィルスであり、より好ましくはオンコウィルス亜科のウィルスであり、さらにより好ましくはHTLV−1である。
【0024】
本発明において「ウィルス感染細胞」とは、ウィルスに感染した細胞をいう。好ましい実施態様において、該ウィルス感染細胞はHTLV−1に感染したヒト細胞であり、特にはHTLV−1に感染したヒトT細胞である。本発明において「ウィルス感染細胞」は、ウィルス、ウィルスDNA、ウィルスRNA、ウィルス構成成分を含む細胞を包含する。本発明において「ウィルス感染細胞」は、プロウィルスを有するが疾患を発症していない細胞も包含する。
【0025】
本発明のウィルス感染細胞抑制剤により治療及び/又は予防される疾患として、ウィルス感染に起因するがんが挙げられ、特にはバーキットリンパ腫、肝細胞癌、子宮頸癌及び成人ヒトT細胞白血病が挙げられる。また、当該疾患の例として、HTLV−1関連脊髄症及びHTLV−1ぶどう膜炎も挙げられるがこれらに限定されない。
【0026】
本発明におけるウィルスは以下を包含するが、これらに限定されない。以下、本発明におけるウィルスについて説明する。
【0027】
ウィルスは、核酸がRNAかDNAかにより分けられる。夫々、RNAウィルス及びDNAウィルスと呼ばれる。
1)RNAウィルスには1本鎖RNAウィルス及びRNA−DNAウィルスが含まれる。このうち、1本鎖RNAウィルスにはプラス鎖RNAウィルス及びマイナス鎖RNAウィルスに分けられる。プラス鎖RNAウィルスには、ポリオウィルス(Polio virus)、シンドビスウィルス(Sindbis virus)、風疹ウィルス(Rubella virus)などを含むトガウィルス科(Togaviridae)、日本脳炎ウィルス(Japanese encephalitis virus)、黄熱ウィルス(Yellowfever virus)、C型肝炎ウィルス(Hepatitis C virus)などを含むピコルナウィルス科(Picornaviridae)、フラビウィルス科(Flaviviridae)、及びコロナウィルス科(Coronaviridae)などが含まれる。マイナス鎖RNAウィルスには、狂犬病ウィルス(Rabiesvirus)、水疱性口内炎ウィルス(Vesicular stomatitis virus)などを含むラブドウィルス科(Rhabdoviridae)、エボラウィルス(Ebola virus)、マルブルグウィルス(Marburg virus)などを含むフィロウィルス科(Filoviridae)、センダイウィルス(Hemagglutinating virus of Japan)、はしかウィルス(Measlesvirus)、RSウィルス(RS virus)、おたふくかぜウィルス(Mumpus virus)などを含むパラミキソウィルス科(Paramyxoviridae)、インフルエンザウィルス(Human influenza virus) などを含むオルソミキソウィルス科(Orthomyxoviridae)、腎症候性出血熱ウィルス(Hantaan virus)などを含むブニヤウィルス科(Bunyaviridae)、及びリンパ性脈絡髄膜炎ウィルス(Lymphocytic choriomeningitis virus)などを含むアレナウィルス科(Arenaviridae)などが含まれる。RNA−DNAウィルスには、ヒトT細胞白血病ウィルスI型(Human T-cell leukemia virus type I、HTLV−1)、ヒト後天性免疫不全ウィルス(Human immunodeficiency syndrome virus、HIV)などを含むレトロウィルス科(Retroviridae)などが含まれる。レトロウィルス科は、オンコウィルス亜科及びレンチウィルス亜科並びにその他のウィルス亜科に分類される。HTLV−1はオンコウィルス亜科に含まれる。また、HIVはレンチウィルス亜科に含まれる。
2)DNAウィルスではDNAが2本鎖として存在する。DNAウィルスには、単純ヘルペスウィルス1型(Herpes simplex virus 1)、単純ヘルペスウィルス2型(Herpes simplex virus 2)、水痘帯状疱疹ウィルス(varicella-zoster virus)を含むαヘルペスウィルス亜科、サイトメガロウィルス(cytomegalo virus)、ヒトヘルペスウィルス6(human herpesvirus 6)、ヒトヘルペスウィルス7(human herpes virus 7)を含むβヘルペスウィルス亜科、EBウィルス(Epstein-Barr virus)、ヒトヘルペスウィルス8(human herpes virus 8)などを含むγヘルペスウィルス亜科などから構成されるヘルペスウィルス科(Herpesviridae)、ワクチニアウィルス(vaccinia virus)、伝染性軟属腫ウィルス(Molluscum contagiosum virus)などを含むポックスウィルス科(Poxviridae)、及びイリドウィルス科(Iridoviridae)などが含まれる。
【0028】
本発明において「ウィルス感染細胞抑制」とは、ウィルス感染細胞を抑制することをいい、ウィルス感染細胞の生存を抑制すること、ウィルス感染細胞の増殖を抑制すること、ウィルス感染細胞のアポトーシスを誘導すること及び/又はウィルス感染細胞の細胞周期を停止することを含む。また、「ウィルス感染細胞の抑制」は、ウィルス感染細胞が増える為のシンシチウム形成を抑制することも含む。当該シンシチウム形成により、上記ウィルス(又はその構成成分、例えばウィルスDNA及び/ウィルスRNA)がウィルス感染細胞から、ウィルスに感染していない細胞に移動し、その結果としてウィルスに感染していない細胞がウィルス感染細胞になる。なお、ウィルス感染細胞の生存及び/又は増殖の抑制は、アポトーシス誘導、細胞周期停止及び/又はシンシチウム形成抑制に基づくこともあり、またその逆もありうる。
【0029】
本発明のウィルス感染細胞抑制剤の作用機構は明らかではないが、下記の実施例から、ウィルス感染細胞の選択的なアポトーシス誘導、ウィルス感染細胞の選択的な細胞周期停止、ウィルス感染細胞の選択的な増殖抑制、ウィルス感染細胞の選択的な生存抑制、並びにウィルス感染細胞の選択的なシンシチウム形成抑制が作用機構の一部として考えられる。
【0030】
本発明のウィルス感染細胞抑制剤は、ウィルス感染細胞の腫瘍化を予防する為、ウィルス感染細胞の増大を防ぐ為、ウィルス感染細胞による疾患の発症を予防する為、ウィルス感染細胞の体内での増殖及び/若しくは生存を抑制する為、ウィルス感染細胞のアポトーシスを誘発する為、並びに/又はウィルス感染細胞のシンシチウム形成を抑制する為の剤として用いることもできる。例えば、ウィルス感染細胞の悪性腫瘍化を予防する為、ウィルス感染細胞の増大を防ぐ為、ウィルス感染細胞にアポトーシスを誘導する為、腫瘍を治療する為、腫瘍の拡大を防ぐ為、腫瘍細胞を殺す為及び/若しくは腫瘍を縮小する為等の剤としても使用されうるが、生物個体にとって好ましい目的であれば、これらに限定されない。また、本発明のウィルス感染細胞抑制剤は、ウィルス感染の故に異常である細胞を抑制する剤として用いることもできる。「異常」とは、生物個体にとって好ましくない挙動を示す細胞をいう。当該異常細胞は、ウィルス感染細胞及び腫瘍細胞を含む。
【0031】
更に、本発明のウィルス感染細胞抑制剤は、他の薬剤とのセットで用いられる。該薬剤としては、本発明のウィルス感染細胞抑制剤以外のウィルス感染細胞抑制剤、抗ウィルス剤、免疫抑制剤、抗がん剤、抗HIV薬、抗生物質、抗真菌薬、酵素剤、酵素阻害剤、抗酸化剤、脂質取り込み阻害剤、ホルモン剤、抗炎症剤、免疫賦活剤、プロテアーゼ阻害剤、逆転写酵素阻害剤、ヒト成長ホルモン、ステロイド剤、血管拡張剤、アンジオテンシン変換酵素阻害剤、アンジオテンシン受容体拮抗剤、平滑筋細胞の増殖・遊走阻害剤、血小板凝集阻害剤、抗凝固剤、ケミカルメデイエーターの遊離抑制剤、血管内皮細胞の増殖または抑制剤、アルドース還元酵素阻害剤、メサンギウム細胞増殖阻害剤、リポキシゲナーゼ阻害剤、メイラード反応抑制剤、アミロイドーシス阻害剤、NOS阻害剤、AGEs阻害剤あるいはラジカルスカベンジャーなどが挙げられる。
【0032】
本発明のウィルス感染細胞抑制剤で使用しうる塩は、例えば無機塩として、ナトリウム塩、カリウム塩などのアルカリ金属塩;マグネシウム塩などのアルカリ土類金属塩;銅塩、亜鉛塩などの金属塩類;有機塩として、ジエタノールアミン塩、2−アミノ−2−エチル−1,3−プロパンジオール塩、トリエタノールアミン塩などのアルカノールアミン塩;モルホリン塩、ピペラジン塩、ピペリジン塩などのヘテロ環アミン塩;アンモニウム塩、アルギニン塩、リジン塩、ヒスチジン塩などの塩基性アミノ酸塩を挙げることができる。ここで、塩基性アミノ酸は、D−体、L−体或いはこれらの混合物であってもよい。
【0033】
本発明のウィルス感染細胞抑制剤で使用しうるエステルとしては例えば、蟻酸エステル、酢酸エステル、プロピオン酸エステルを挙げることができる。
【0034】
式Iで表される化合物は、好ましくは特許第3290172号公報、特開平02−193984号公報に記載の方法に従い製造されるが、これらに限定されない。
【0035】
本発明のウィルス感染細胞抑制剤は、一般的な医薬製剤の形態として用いられうる。該製剤には、通常使用される充填剤、増量剤、結合剤、付湿剤、崩壊剤、表面活性剤、滑沢剤などの希釈剤、或いは賦形剤を配合することができる。本発明のウィルス感染細胞抑制剤は、各種の形態が治療目的に応じて選択でき、その代表的なものとして、錠剤、丸剤、散剤、液剤、懸濁剤、乳剤、顆粒剤、カプセル剤、坐剤、液剤、懸濁剤などの注射剤、点眼剤、または軟膏剤が挙げられる。
【0036】
錠剤の形態に成形する担体としては、慣用されている各種の担体を使用することができる。例えば、乳糖、白糖、ブドウ糖、塩化ナトリウム、尿素、デンプン、炭酸カルシウム、カオリン、結晶セルロース、ケイ酸などの賦形剤;水、エタノール、プロパノール、単シロップ、ブドウ糖液、デンプン液、ゼラチン溶液、カルボキシメチルセルロース、セラック、メチルセルロース、リン酸カリウム、ポリビニルピロリドンなどの結合剤;乾燥デンプン、アルギン酸ナトリウム、カンテン末、ラミナラン末、炭酸水素ナトリウム、炭酸カルシウム、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル類、ラウリル硫酸ナトリウム、ステアリン酸モノグリセリド、デンプン、乳糖などの崩壊剤;白糖、ステアリン、カカオバター、水素添加油などの崩壊抑制剤;第4級アンモニウム塩基、ラウリル硫酸ナトリウムなどの吸収促進剤、グリセリン、デンプンなどの保湿剤;デンプン、乳糖、カオリン、ベントナイト、コロイド状ケイ酸などの吸着剤;精製タルク、ステアリン酸塩、ホウ酸末、ポリエチレングリコールなどの滑沢剤を使用できる。さらに錠剤は必要に応じ通常の剤皮を施した錠剤、例えば糖衣錠、ゼラチン被包錠、腸溶被錠、フィルムコーティング錠或いは二重錠、多層錠とすることができる。
【0037】
丸剤の形態に成形するに際しては、担体としてこの分野で従来公知のものを広く使用できる。その例としては、ブドウ糖、乳糖、デンプン、カカオ脂、硬化植物油、カオリン、タルクなどの賦形剤;アラビアゴム末、トラガント末、ゼラチン、エタノールなどの結合剤;ラミナラン、カンテンなどの崩壊剤を使用できる。
【0038】
カプセル剤は、常法に従い、通常有効成分化合物を上記で例示した各種の担体と混合して硬質ゼラチンカプセル、軟質カプセルなどに充填して調製される。
【0039】
坐剤の形態に成形するに際しては、担体として従来公知のものを広く使用できる。その例としては、ポリエチレングリコール、カカオ脂、高級アルコール、高級アルコールのエステル類、ゼラチン、半合成グリセライドなどを挙げることができる。
【0040】
注射剤として調製される場合、液剤、乳剤及び懸濁剤は殺菌され、かつ血液となど張であるのが好ましい。これらの形態に成形するに際しては、希釈剤としてこの分野において慣用されているものをすべて使用できる。例えば、水、エタノール、マクロゴール、プロピレングリコール、エトキシ化イソステアリルアルコール、ポリオキシ化イソステアリルアルコール、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル類などを使用できる。なお、この場合など張性の溶液を調製するに充分な量の食塩、ブドウ糖またはグリセリンを医薬製剤中に含有せしめてもよく、また通常の溶解補助剤、緩衝剤、無痛化剤などを添加してもよい。
【0041】
軟膏剤として調製される場合には、この分野で従来公知の油性基剤を広く使用することができる。例えば、ラッカセイ油、ゴマ油、ダイズ油、サフラワー油、アボカド油、ヒマワリ油、トウモロコシ油、ナタネ油、メンジツ油、ヒマシ油、ツバキ油、ヤシ油、オリーブ油、ケシ油、カカオ油、牛脂、豚脂、羊毛油などの油脂類;ワセリン、パラフィン、シリコン油、スクワランなどの鉱物油;イソプロピルミリステート、n−ブチルミリステート、イソプロピルリノレート、アセチルリシノレート、ステアリルリシノレート、ジエチルセバケート、ジイソプロピルアジペート、セチルアルコール、ステアリルアルコール、サラシミツロウ、鯨ロウ、木ロウなどの高級脂肪酸エステル、高級脂肪族アルコール及びワックス類、ステアリン酸、オレイン酸、パルミチン酸などの高級脂肪酸;炭素原子数12〜18の飽和又は不飽和脂肪酸のモノ−、ジ−、トリグリセライド混合物である。本発明のウィルス感染細胞抑制剤では、これら基剤を1種単独で或いは2種以上混合して使用してもよい。
【0042】
本発明のウィルス感染細胞抑制剤には、慣用の添加剤、例えば金属石鹸、動物・植物抽出物、ビタミン剤、ホルモン剤、アミノ酸などの薬効剤、界面活性剤、色素、染料、顔料、香料、紫外線吸収剤、保湿剤、増粘剤、酸化防止剤、金属イオン封鎖剤、pH調整剤を必要に応じて適宜配合することができる。
【0043】
本発明のウィルス感染細胞抑制剤の配合量は、その効能効果を有する限り特に限定されないが、通常、本発明のウィルス感染細胞抑制剤を含む組成物中に0.0001〜100重量%程度、好ましくは0.001〜50重量%程度配合させるのがよい。配合量は、処置すべき対象に応じて適宜調節される。
【0044】
本発明のウィルス感染細胞抑制剤の使用方法は、特に制限はなく、各種製剤形態、患者又は使用者の年齢、性別その他の条件、疾患の程度などに応じた方法で使用される。例えば錠剤、丸剤、液剤、懸濁剤、乳剤、顆粒剤及びカプセル剤の場合には、経口投与される。また注射剤の場合には単独で又はブドウ糖、アミノ酸などの通常の補液と混合して静脈内投与され、更に必要に応じて単独で筋肉内、皮内、皮下もしくは腹腔内投与される。坐剤の場合には直腸内投与される。
【0045】
本発明のウィルス感染細胞抑制剤の使用量は、用法、対象となる患者又は動物或いは、使用者或いは動物の年齢、性別その他の条件、疾患の程度などにより適宜選択されるが通常、有効成分化合物の量が、一日当たり体重1kg当たり、約1〜20mg程度となるようにするのがよく、1日に1〜3回程度に分けて使用されるのがよい。
【0046】
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【0047】
実施例で使用した化合物、細胞株の製造法並びに細胞培養について以下に示す。
【0048】
Phx−1、Phx−2及びPhx−3の製造
Phx−1、Phx−2及びPhx−3が、ウシヘモグロビンを用いて既出の方法により製造された(特許第3957188号公報、Shimizu S, Suzuki M, Tomoda A, Arai S, Taguchi H, Hanawa T, Kamiya S. Phenoxazine compounds produced by the reactions with bovine hemoglobin show antimicrobial activity against non-tuberculosis mycobacteria. Tohoku J Exp Med.2004; 203: 47-52.、Tomoda A, Arai S, Ishida R, Shimamoto T, Ohyashiki K. An improved method for the rapid preparation of 2-amino-4,4α-dihydro-4α,7-dimethyl-3H-phenoxazine-3-one,a novel anti-tumor agent. Biorg Med Chem Lett. 2002; 11: 1057-1058)。Phx−1、Phx−2及びPhx−3の構造は夫々、上記に示されたとおり、式2、式3及び式4で表される。
【0049】
上記により製造されたPhx−1、Phx−2及びPhx−3が夫々、ジメチルスルホキシド(DMSO)及びエチルアルコールの3:1(体積比)混合物を溶媒として、5mg/mlになるように溶解された。これらの溶液は培養培地中において終濃度0.1、1及び10μg/mlとなるように、培養培地に添加された。培養培地中における該溶媒の最終的な体積割合は、Phx−1、Phx−2又はPhx−3フリーの細胞並びにPhx−1、Phx−2又はPhx−3処理された細胞の間で等しかった(0.2%(v/v))。
【0050】
細胞株及び細胞培養
MT−1は、ATL患者から樹立された白血病細胞由来のT細胞株である。
MT−2は、HTLV−1により形質転換されたT細胞株であり、且つ、Taxを含むウィルス遺伝子を恒常的に発現する。
HUT−102は、ATLの患者から樹立されたT細胞株であり、且つ、ウィルス遺伝子を恒常的に発現する。
XCは、ラット肉腫細胞株である。
すなわち、MT−1、MT−2及びHUT−102は、HTLV−1に感染したT細胞株であり、他方、XCは、HTLV−1に感染していない細胞株である。
5%のCO及び95%の空気を有する加湿されたインキュベーター中、37℃で、10%(w/v)の熱不活性化ウシ胎仔血清(FBS)(Sigma Aldrich Co.)、2mMのL−グルタミン及び80mg/lの硫酸カナマイシン(和光純薬工業株式会社)を追加されたRPMI 1640培地(和光純薬工業株式会社)(以下、PRMI培地に上記のFBS、L−グルタミン及び硫酸カナマイシンが追加されたものを「RPMI−1640培地」という)中において、これら4種の細胞株が培養された。
末梢血単核球細胞(以下、PBMCという)は、健康成人からの採血により得られた血について密度勾配遠心を行うことにより単離された。該細胞は、10U/mlのインターロイキン(以下、IL−2という)(塩野義製薬株式会社)及び5μg/mlのフィトヘマグルチニン(以下、PHAという)(生化学工業株式会社)と一緒に、10%のウシ胎仔血清、2mMのL−グルタミン及び80mg/lの硫酸カナマイシンを補われたRPMI 1640培地中で、予め1週間、5%のCO及び95%の空気を有する加湿されたインキュベーター中、37℃で、培養された。
上記細胞株(MT−1、MT−2、HUT−102、XC及びPBMC)は、いずれも千葉工業大学工学部生命環境科学科遺伝子治療学・生態防御学研究室より提供された。また、MT−1、MT−2及びHUT−102については夫々、Miyoshi I, Kubonishi I, Sumida M, Hiraki S, Tsubota T, Kimura I, Miyamoto K, Sato J. A novel T-cell linederived from adult T-cell leukemia. Gann 1980;71:155−156、Miyoshi I, Kubonishi I, Yoshimoto S,Akagi T, Ohtsuki Y, shiraishi Y, Natata K, Hinuma Y. Type C virus particles in a cord T-cell line derived by co-cultivating normal human cord leukocytes and human leukaemic T cells. Nature. 1981;294:770−771、及び、Poiesz BJ, Ruscetti FW, Gazdar AF, BunnPA, Minna JD, Gallo RC. Detection and isolation of type C retrovirus particles from fresh and cultured lymphocytes of a patient with cutaneous T-cell lymphoma. Proc Natl Acad Sci USA. 1980;77: 7415−7419も参照されたい。
【実施例1】
【0051】
細胞増殖アッセイ及び細胞生存率アッセイ
RPMI−1640培地中のMT−1細胞、HUT−102細胞及びMT−2細胞(いずれも5×10細胞/2ml)、並びにXC細胞(3×10細胞/2ml)、並びにPBMC(1×10細胞/2ml)が、24ウェルプレートの夫々のウェルに撒かれ、5%COと95%の空気を含む加湿されたインキュベーター中、37℃で72時間培養された。当該培養は、種々の濃度(0、0.1、1、10μg/ml)のPhx−1、Phx−2及びPhx−3の存在下で行われた。試料が、24、48及び72時間で回収され、そして細胞増殖及び生存率の測定の為に用いられた。
【0052】
細胞増殖は、血球計(パーキンエルマー社)を用いて、倒立方位相差顕微鏡下で細胞の数を数えることにより測定された。細胞生存率は、トリパンブルーにより処理された生存細胞の数を顕微鏡下で数えることにより測定された。簡潔に言うと、0、24、48及び72時間での細胞の回収後、夫々のウェルの培地が、100μlのトリパンブルーを含む1mlの新鮮なRPMI−1640培地により交換された。次に、生存細胞の数が顕微鏡下で計数された。実験は3回行われた。
【0053】
結果
図1Aは、MT−1細胞の増殖及び生存率に対する、Phx−1、Phx−2及びPhx−3それぞれの種々の濃度の効果を示す。結果は、3回の平均値である。これらのフェノキサジンは、MT−1細胞の増殖及び生存率を時間依存的及び用量依存的に抑制した。特に10μg/mlでの72時間における生存率が、Phx−1については約60%抑制され、Phx−2については約80%抑制され、Phx−3については約70%抑制された。1μg/ml以下では、Phx−1、Phx−2又はPhx−3により処理されたMT−1細胞の生存率は、全く影響されなかった。他方、細胞の増殖は、72時間の間で、時間依存的に及び用量依存的に有意に抑制された。
図1Bは、HUT−102細胞の増殖及び生存率に対する、Phx−1、Phx−2又はPhx−3の種々の濃度の効果を示す。結果は、3回の平均値である。HUT−102は、10μg/mlのこれらのフェノキサジンに対して感受性であり、すなわち細胞増殖及び細胞生存率が時間依存的及び用量依存的に広範に抑制された。
図1Cは、MT−2細胞の増殖及び生存率に対する、Phx−1、Phx−2又はPhx−3の種々の濃度の効果を示す。結果は、3回の平均値である。10μg/mlの用量のPhx−3により、生存率が完全に抑制されたが、Phx−1及びPhx−2によっては、この用量では抑制されなかった。細胞増殖は、Phx−1、Phx−2及びPhx−3により抑制された。これらのフェノキサジンのなかで、Phx−3が10μg/mlの用量で、MT−2細胞の細胞増殖及び生存率を最も強力に抑制した。
図1Dは、XC細胞の増殖及び生存率に対する、Phx−1、Phx−2又はPhx−3の種々の濃度の効果を示す。結果は、3回の平均値である。XC細胞は、細胞増殖が10μg/mlのPhx−1、Phx−2又はPhx−3により、72時間で、非常に抑制されたが、細胞生存率はこれらのフェノキサジンによっては影響されなかった。
図1Eは、PBMCの増殖及び生存率に対する、Phx−1、Phx−2又はPhx−3の種々の濃度の効果を示す。結果は、3回の平均値である。10μg/mlのPhx−1及びPhx−2により、PHA活性化PBMCの生存率は抑制されなかったが、10μg/mlのPhx−3に対しては中程度に感受性であった。他方、PBMCの増殖は、これらのフェノキサジンにより、時間依存的及び用量依存的に有意に抑制された。これは、細胞生存率の点において、PBMCが、ATL細胞株よりも、これらのフェノキサジンに対してはるかに耐性であることを示す。
【0054】
考察
上記の結果は、HTLV−1陽性T細胞が、細胞増殖及び細胞生存率の点において、Phx−1、Phx−2及び特にはPhx−3に対して感受性であることを示す。
他方、XC細胞株は、細胞生存率の点において、フェノキサジン処理に対して感受性でないが、細胞増殖の点において、10μg/mlの用量で、Phx−1、Phx−2又はPhx−3によって非常に抑制された。この結果は、XC細胞が、HTLV−1陽性細胞(宿主細胞)及びHTLV−1陰性細胞(標的細胞)の間でのシンシチウム形成を研究する為に適当な細胞であることを示唆する。
PHAにより活性化されたPBMCの生存率は、Phx−1又はPhx−2によって影響されなかったが、10μg/mlのPhx−3によって中程度に(約40%)減少した。これは、正常T細胞を含むPBMCが、これらのフェノキサジンに対して比較的耐性であることを示す。
この事実は、非常に重要である。なぜならば、HTLV−1に冒されたATL細胞の選択的なアポトーシス誘導が、Phx−1、Phx−2及びPhx−3の投与によって可能であるからである。さらに、該投与によって正常細胞に対する有害な作用(副作用)は何ら引き起こされないからである。
PBMCの細胞増殖は、Phx−1、Phx−2又はPhx−3により時間依存的に及び用量依存的に非常に抑制された。
【実施例2】
【0055】
アポトーシス及びネクローシスの検出
アネキシンV−FITCアポトーシス検出キット(Merck Ltc.、Calbiochem(商標))を用いて、フローサイトメトリーにより、アポトーシス及びネクローシスの検出が実施された。MT−1細胞(5×10細胞/2ml)が、0、0.1、1及び10μg/mlのPhx−1、Phx−2又はPhx−3により、6ウェルの平底プレートのウェル内で処理された。該処理の24、48、及び72時間後に、細胞が回収され、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)(pH 7.4)により該回収した細胞が1回洗浄され、そして500μlの結合バッファー中に再懸濁された。なお、該バッファー中には、1.25μlのフルオレセインイソチオシアネート(FITC)標識化アネキシンV(アネキシンV−FITC)及び10μlのヨウ化プロピジウム(PI)が予め添加されている。これらの試料が、暗所で、5分間、室温でインキュベートされた。次に、フローサイトメーター(Becton,Dickinson Co.)により、該試料が分析された。アネキシンV−FITC結合及びPI染色が、FITCシグナル検出器(FL1、518nm)及びフィコエリトリン発光シグナル検出器(FL2、620nm)を用いて夫々モニターされた。
【0056】
RNA精製及びRT−PCR
MT−1細胞(5×10細胞/2ml)が、0、0.1、1、10μg/mlのPhx−1、Phx−2又はPhx−3により処理された。24時間後、細胞が回収され、そして該回収した細胞から、全細胞RNAが、GenElute(商標)哺乳動物用total RNAキット(Sigma Aldrich Co.)により抽出された。次に、逆転写(RT)−PCR分析が、PrimeScript(商標)RT reagent kit(タカラバイオ株式会社)を用いて実施された。カスパーゼファミリー(カスパーゼ−3、−5、−8及び−9、Apaf−1)のmRNAレベルが、アポトーシス遺伝子セット−5についてのMPCRキット(Maxim Biotech,Inc.)により分析された。細胞内でのRNA発現の程度を分析する為に、RT−PCRにより増幅されたRNA由来の産物が、TAEバッファー中で、非変性2%アガロースゲルによって電気泳動され、そしてエチジウムブロマイド(Merck Ltd.、ダルムシュタット、ドイツ)により染色された。カスパーゼ−3、−5、−8及び−9、Apaf−1について結果が、グリセルアルデヒド3−リン酸デヒドロゲナーゼ(GAPDH)により定量され、そして正規化された。
【0057】
カスパーゼ3活性のアッセイ
MT−1細胞中のカスパーゼ3の活性が、CaspGLOW(商標)Fluorescein Active Caspase−3 Staining Kit(BioVision Research Products)による反応によって測定された。簡潔に言うと、MT−1細胞(5×10細胞/2ml)が、培地中に懸濁され、そして、10μg/mlのPhx−1、Phx−2又はPhx−3の存在下又は不在下において、5%CO及び95%空気を有する加湿されたインキュベーター中で、37℃で、6ウェル平底プレートのウェル内でインキュベートされた。次に、該細胞が回収され、PBS(pH7.4)により1回洗浄され、1μlアリコットのFITC−DEVD−FMKにより処理され、そして、暗所で37℃で1時間インキュベートされた。次に、該細胞は、洗浄バッファーにより2回洗浄され、そして96ウェル平底プレートのウェルへと移された。これらの試料は、マルチディテクションマイクロプレートリーダー(Spectra Max Gemine XS;Molecular Device Co.)を用いて、485nm励起/535nm発光の波長で分析された。カスパーゼ3の活性は3回評価され、そしてタンパク質含有量に基づき補正された。
【0058】
細胞周期分析
RPMI−1640培地中のMT−1細胞(1.5×10細胞/ml)が、12ウェル平底プレートのウェル内で、37℃で24時間、5%CO及び95%の空気を有する加湿されたインキュベーター中で、37℃で、インキュベートされた。上清が、2mlの新鮮培地により交換され、そして終濃度10μg/mlのPhx−1、Phx−2又はPhx−3が夫々のウェルに添加された。指示された時間(24時間、48時間及び72時間)で細胞を回収する2時間前に、細胞はブロモデオキシウリジン(BrdU)により標識化され、そしてさらに2時間インキュベートされた。BrdUにより標識化された細胞が、該指示された時間で集められ、BD Cytofix/Cytoperm(商標)バッファー(Becton,Dickinson Co.)により固定化されそして浸透処理された。次に、該細胞は、DNaseにより37℃で1時間処理され、そしてFITC標識化抗BrdU抗体により染色された。細胞は室温で20分間暗所に置かれ、Perm/Wash(商標)バッファーにより洗浄され、そしてアクチノマイシンDにより処理された。細胞の細胞周期は、FITC BrdU Flow Kit(Becton,Dickinson Co.)を用いてフローサイトメーターにより分析された。
【0059】
結果:アポトーシスの検出
MT−1の増殖と生存率は、Phx−1、Phx−2又はPhx−3により有意に影響されたので(図1A)、アネキシンV−FITC結合及びPI染色方法を用いたフローサイトメトリーにより、MT−1細胞のアポトーシスがこれらのフェノキサジンにより引き起こされうるのかどうかを調査した(図2)。結果として、アネキシンV陰性且つPI陰性の細胞(生存細胞:左下象限にプロットされる)の数は、24〜72時間の間で、溶媒だけにより処理された対照細胞において、主に観察された(図2)。アネキシンV陽性且つPI陰性の細胞(早期段階アポトーシス細胞:右下象限にプロットされる)の数、及びアネキシンV陽性且つPI陽性細胞(後期段階アポトーシス/ネクローシス細胞(アポトーシス細胞とネクローシス細胞とが混合したものである、以下同じ)、実際は培養ウェル中の浮遊性死細胞として検出される:右上象限にプロットされる)の数は10μg/mlのPhx−1、Phx−2又はPhx−3により処理されたMT−1細胞において増加した(図2)。後期段階アポトーシス/ネクローシス細胞の増加の速度は、Phx−1、Phx−2又はPhx−3による夫々の試料において時間依存的であった。これらの結果は、Phx−1、Phx−2及びPhx−3が、MT−1細胞のアポトーシスを誘導することを示唆する。
【0060】
結果:カスパーゼ3活性
24時間での、MT−1細胞におけるカスパーゼファミリー及びApaf−1の転写レベルに対するPhx−3の影響を調査した(図3)。カスパーゼ−3、−5、−8及び−9、Apaf−1のmRNAレベルは10μg/mlのphx−3の存在下で24時間後においてさえ、変化しなかった。この結果にもかかわらず、細胞が、10μg/mlのPhx−1、Phx−2又はPhx−3と一緒に16時間インキュベートされたときに、MT−1細胞におけるカスパーゼ3の活性は、非常に増強された(図4)。なお、図4の結果は、3回のアッセイ結果の平均値である。これらの結果は、フェノキサジンにより引き起こされたMT−1細胞内のカスパーゼ3の活性化が、図2において示されたとおりMT−1細胞におけるアポトーシスの結果と矛盾しないことを示唆する。さらには、カスパーゼ3の活性化を含む翻訳後の現象が、アポトーシス誘発にとって必須であることを示唆する。
【0061】
結果:細胞周期分析
抗がん剤によるがん細胞のアポトーシス細胞死は細胞周期停止を伴うことが示唆されたので、Phx−1、Phx−2又はPhx−3の存在下におけるMT−1細胞の細胞周期停止の誘発を研究した。図5に示されるとおり、細胞がこれらのフェノキサジンと一緒に72時間インキュベートされたときに、MT−1細胞の細胞周期停止が示された。細胞周期停止における大きな変化は、Phx−1、Phx−2又はPhx−3が添加されたMT−1細胞において、72時間後に示された。すなわち、72時間後で、sub G0/G1期停止の割合が、Phx−1、Phx−2及びPhx−3と一緒の夫々のMT−1細胞について、80%、50%及び70%であったが、他方で、これらのフェノキサジンが添加されていないMT−1細胞(対照)についてのsub G0/G1期停止の割合は、わずか20%であった。この結果は、Phx−1、Phx−2及びPhx−3が、MT−1のアポトーシスを引き起こすことを実証する。また、この結果は図2における結果と一致する。しかしながら、S期の割合における違いは、対照のMT−1及びフェノキサジンが添加されたMT−1の間でほとんどなかった。
【0062】
考察
HTLV−1のプロウィルスは、ATL細胞のゲノムDNA中に組み込まれている。上記の結果に記載されたとおりの、細胞周期停止及びアポトーシス誘導は、HTLV−1のプロウィルスの伝播を防ぎうる。これは、HTLV−1プロウィルスの複製を抑制することにより及び/又はHTLV−1陽性ATL細胞を選択的に排除することによりなされると考えられる。
【実施例3】
【0063】
シンシチウム形成アッセイ
シンシチウム形成アッセイは、HTLV−1を有するMT―2細胞と指標細胞XC細胞との共培養により行った。XC細胞は、1mMのEDTA中の0.25%(w/v)トリプシンによる処理後に集められ、次にPBSにより3回洗浄され、そして抗生物質を有するRPMIー1640培地中に再懸濁された。細胞(3×10細胞/ml)は、24ウェル平底プレートのウェル内で、24時間、5%CO及び95%空気を有する加湿されたインキュベーター中、37℃で、インキュベートされた。次に、該培地が除去され、そして3×10細胞/mlのMT−2細胞が夫々のウェルに添加された。Phx−1、Phx−2又はPhx−3が、別個のウェルに、終濃度0.1、1.0及び10μg/mlで、XC細胞とMC−2細胞との共培養の開始で、添加された。24、48及び72時間後に、細胞がPBSにより1回洗浄され、そして、メタノール中の0.5%メチレンブルー及び0.125%クリスタルバイオレット(和光純薬工業株式会社)による染色を伴う又は伴わない顕微鏡分析に付された。シンシチウムが、位相差倒立顕微鏡(倍率:×100)により、無作為に、5箇所の視野において数えられた。5超の核を有するシンシチウムが、倒立顕微鏡下で数えられた。なお、このアッセイ系において、HTLV−1を有する細胞株MT−2は通常、10の指標XC細胞当たり、500〜800のシンシチウムを通常に形成する。全ての実験は3回行われた。
【0064】
結果:Phx−3のHTLV−1の細胞間伝達に対する抑制
HTLV−1が細胞から細胞へという様式でATLの患者において伝播すること、及び、HTLV−1感染細胞とHTLV−1非感染細胞とのシンシチウム形成がウィルス伝播の特徴であることが実証されている。図6A−Hは、フェノキサジン無しの対照実験(図6A及びB)、Phx−1による実験(図6C及びD)、Phx−2による実験(図6E及びF)又はPhx−3による実験(図6G及びH)における、HTLV−1陽性MT−2細胞とHTLV−1陰性XC細胞との間のシンシチウム形成の顕微鏡分析を示す。図6Aにおいて示されるとおり、染色無しの試料において(倍率:100倍)、これらの細胞の間で5つのシンシチウム形成が観察された。試料が、メチレンブルー及びクリスタルバイオレットにより染色されたときに、これらのシンシチウム形成は、より明白に示された(図6B)。XC細胞及びMT−2細胞が、Phx−1(図6C及びD)、Phx−2(図6E及びF)又はPhx−3(図6G及びH)と一緒に共培養されたときに、シンシチウム形成は非常に減少された。これらの結果は、図7において示されるヒストグラムとして示される。なお、図7の結果は、3回の実験結果の平均値である。Phx−1、Phx−2及びPhx−3の存在下において、MT−2細胞及びXC細胞の間のシンシチウム形成は、非常に抑制されそして用量依存的に抑制された。これは、細胞から細胞へのHTLV−1伝達が、これらのフェノキサジンにより抑制されたことを示す。
【0065】
考察
HTLV−1は、HTLV−1を有する細胞と標的細胞との間の細胞間相互作用を通じて伝達される。上記細胞間相互作用が、シンシチウムの形成を引き起こす。上記シンシチウム形成では、HTLV−1を有する細胞上に発現されるエンベロープ糖タンパク質gp46−197と標的細胞表面に発現される71kDa熱ショック同族(HSC)タンパク質とが相互作用する。それ故に、シンシチウム形成についての試験は、HTLV−1伝達の抑制因子を評価する為に重要である。上記の結果は、HTLV−1陽性MT−2細胞とHTLV−1陰性XC細胞との間でシンシチウム形成が観察されたこと、及び、Phx−1、Phx−2又はPhx−3の添加により、時間依存的に且つ用量依存的に、シンシチウム形成が有意に抑制されたことを示す。これは特に、これらのフェノキサジンが10μg/mlで添加されたときに顕著であった。これらの結果は、HTLV−1の、宿主細胞から標的細胞への伝達が、Phx−1、Phx−2又はPhx−3により、抑制されうることを示唆する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式1
【化1】

(ここで式1中、
は、水素原子、炭素原子数1〜4の低級アルキル基、炭素原子数1〜4のアシル基及び炭素原子数1〜4のアシルオキシ基から成る群から任意に選択され、
は、水素原子、炭素原子数1〜4の低級アルキル基、炭素原子数1〜4のアシル基及び炭素原子数1〜4のアシルオキシ基から成る群から任意に選択され、
は、水素原子、炭素原子数1〜4の低級アルキル基、炭素原子数1〜4のアシル基及び炭素原子数1〜4のアシルオキシ基から成る群から任意に選択され、
は、アミノ基又はオキソ基であり、及び
は、アミノ基又はオキソ基である)の化合物又はその医薬的に許容される塩若しくはエステルを有効成分として含むウィルス感染細胞抑制剤。
【請求項2】
が、R及びRが互いに独立に、水素原子、メチル基、エチル基及びアセチル基から成る群から任意に選択される、請求項1に記載のウィルス感染細胞抑制剤。
【請求項3】
が水素原子であり、Rがメチル基であり、Rがメチル基であり、Rがアミノ基であり及びRがオキソ基である、請求項1に記載のウィルス感染細胞抑制剤。
【請求項4】
がメチル基であり、Rが水素原子であり、Rがメチル基であり、Rがオキソ基であり及びRがアミノ基である、請求項1に記載のウィルス感染細胞抑制剤。
【請求項5】
が水素原子であり、Rが水素原子であり、Rがアミノ基であり及びRがオキソ基である、請求項1に記載のウィルス感染細胞抑制剤。
【請求項6】
該ウィルスがレトロウィルス科のウィルスである、請求項1〜5のいずれか1項に記載のウィルス感染細胞抑制剤。
【請求項7】
該ウィルスがオンコウィルス亜科のウィルスである、請求項1〜5のいずれか1項に記載のウィルス感染細胞抑制剤。
【請求項8】
該ウィルスがHTLV−1である、請求項1〜5のいずれか1項に記載のウィルス感染細胞抑制剤。
【請求項9】
該ウィルス感染細胞が、HTLV−1に感染したヒト細胞である、請求項1〜5のいずれか1項に記載のウィルス感染細胞抑制剤。
【請求項10】
該ウィルス感染細胞が、HTLV−1に感染したヒトT細胞である、請求項1〜5のいずれか1項に記載のウィルス感染細胞抑制剤。

【図1A】
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【図1B】
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【図1C】
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【図1D】
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【図1E】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−168315(P2010−168315A)
【公開日】平成22年8月5日(2010.8.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−12878(P2009−12878)
【出願日】平成21年1月23日(2009.1.23)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成20年11月20日 BMB2008(第31回日本分子生物学会年会・第81回日本生化学会大会合同大会)発行の「第81回日本生化学会大会第31回日本分子生物学会年会合同大会プログラム・講演要旨集」(CD−ROM)に発表
【出願人】(509025061)
【出願人】(509025072)
【出願人】(597032985)
【Fターム(参考)】