説明

ウイルスタンパク質の免疫抑制作用のモデュレーションに関与するポリペプチド配列

本発明は、7〜20アミノ酸残基の配列を有するポリペプチドでウイルスタンパク質または断片の相同的配列が置き換えられるとそれが発現される宿主に対する、ウイルスタンパク質またはその断片の免疫抑制特性をモデュレーションすることができる、7〜20アミノ酸残基の配列を有するポリペプチド(免疫抑制モデュレートリー配列)に関し、該ポリペプチドは、以下の最小共通アミノ酸配列:X1011CY12(ここで、XおよびXは、該免疫抑制特性に影響を及ぼすように選択され、Y〜Y12は可変アミノ酸残基を示す)を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、タンパク質、特に抗原性タンパク質の免疫抑制特性をモデュレーションする(modulate)ことができるアミノ酸配列に関する。本発明はまた、抗原性特性は実質的に保持しつつ、このポリペプチドの由来のタンパク質に対して、獲得されモデュレーションされた免疫抑制特性を有する、抗原性で免疫抑制性のタンパク質から得られたポリペプチドを提供する。
【0002】
本発明は、特に、ウイルスまたはレトロウイルス感染の分野(内因性レトロウイルスの分野を含む)に関し、このようなウイルスまたはレトロウイルスに感受性の宿主(動物またはヒト宿主を含む)の予防および/または処置のための物質を設計するための手段を提供する。
【0003】
本発明のポリペプチドは、特に、ウイルス感染もしくはその有害な結果の予防および/または処置、あるいは、内因性レトロウイルス(ERV)発現誘導の有害な結果の予防および/または処置の方法に使用するための、免疫原性組成物の作成、並びに、弱毒ウイルスの産生に使用できる。
【0004】
発明の背景
ウイルスなどの感染性物質は、その宿主に侵入し、その免疫応答を回避するための機序および戦略を進化させている。様々な刊行物により、ウイルス:エプスタイン・バーヒトヘルペスウイルス4型(Suzukiら、1995、Exp.Med.182、477-486;Qinら、1996、J.Immunol.156、2316-2323)、Mason-Pfizerサルウイルス(Blaiseら、2001、J.Gen.Virol.、82、1597-1600)、モロニーネズミ白血病ウイルス(MangeneyおよびHeidmann、1998、Proc.Natl.Sci.USA、95、14920-14925)およびその他(Alcamiら、2002 EMBO reports、3(10)、927-932の論評を参照)によりコードされるタンパク質の免疫抑制特性が実証されている。これは、レトロウイルス感染が、宿主の免疫系の機能不全を伴うことが多いという事実により確認され得る。
【0005】
これらの免疫抑制作用には、インターロイキン−2依存性リンパ球増殖の阻害、ヒトナチュラルキラー細胞の細胞溶解活性の阻害、および、単球により仲介される腫瘍細胞殺滅の阻害、並びに、サイトカイン合成のモデュレーション(modulation)が挙げられる。
【0006】
インビボでの試験により、不活性化ウイルス、並びに、レトロウイルスエンベロープタンパク質に類似した合成ペプチドが、免疫抑制特性を有することが実証された(Oostendorpら、1993、Crit.Rev.Oncol.Hematol.14、189-206;Haraguchiら、1997、J.Leukocyte Biol.61、654-666)。より最近では、Mangeneyら(1998、Proc.Natl.Sci.USA.95、14920-14925)により、レトロウイルスエンベロープタンパク質を発現しているC57BL/6株由来のネズミ腫瘍細胞は、Balb/cマウス(同種移植片)に注入されると、腫瘍を形成し、一方、レトロウイルスエンベロープタンパク質を発現していない同じ細胞は拒絶されることが示された。エンベロープタンパク質中で様々な箇所を欠失させることにより、ISU(「免疫抑制(immunosuppressive)」)ドメインと呼ばれる免疫抑制機能に関与するドメインが同定された。
【0007】
ISUドメインは、初めて、エンベロープ糖タンパク質の膜貫通部分において同定された。レトロウイルスのenv(エンベロープ(envelope))遺伝子は、前駆体ポリペプチドをコードしており、これはその後、2つのタンパク質(表面糖タンパク質(SU)および膜貫通サブユニット(TM))へと切断される。SUタンパク質は、認識およびウイルスの細胞受容体への結合に関与している。TM部分は、エンベロープ複合体(SUおよびTM)を標的細胞膜にアンカーするのに関与し、細胞膜融合およびウイルス侵入に直接的に関与する。
【0008】
多くのウイルス、特に、モロニーネズミ白血病ウイルス(Mo−MuLV)、ヒト免疫不全ウイルス1型(HIV−1)およびヒトT細胞白血病ウイルス1型(HTLV−1)のTMサブユニット構造が解明されている。エンベロープタンパク質中の高度に保存されている組織はまた、非レトロウイルスタンパク質、例えばインフルエンザウイルスおよびエボラウイルスにも見出されている。
【0009】
免疫抑制作用はまた、ERV、特にHERV(ヒト内因性レトロウイルス)で特徴づけられている別のクラスのタンパク質にも発見されている。HERVは、ヒトゲノムに広がっているレトロウイルス起源の配列であるエレメントを含み、祖先の感染のプロウイルス残遺物を示す。それ故、HERVとレトロウイルスの間には強い類似性があると推論できる。これらの中のいくつかのHERVエレメントは依然として機能し、活性タンパク質、すなわち、ウイルス様タンパク質をコードする可能性があるが、それらの大半は、蓄積された変異、欠失および/または切断短縮(truncation)を有する。
【0010】
これらの機能的なHERVの役割が提唱されており、これには、レトロウイルス感染に対する防御(Bestら、1997 Trends Microbiol.5、313-318)または免疫抑制作用を介した母体免疫系からの胎児の防御(Ciancioloら、1985、Science 230、453-455;MangeneyおよびHeidmann 1998 Proc.Natl.Sci.USA.95、14920-14925)が挙げられる。免疫抑制特性を有するエンベロープタンパク質をコードするHERVは、Mangeneyら(2001 J.Gen.Virology 82、2515-2518)により同定された。この刊行物には、HERV−Hによりコードされるタンパク質は、エンベロープを発現する細胞が免疫応答を回避し増殖することを可能としたが、空ベクターでトランスフェクトされた同細胞は移植マウスにより普通に拒絶されたと報告されている。
【0011】
融合性特性を有する、すなわち、インビトロで合胞体(多核細胞)を形成できる、機能的エンベロープタンパク質をコードする他のERV、特にHERVが同定された:それらには、HERV−FRDおよびHERV−Wが挙げられる(Blondら、2000、J.Virol.74、3321-3329;Blaiseら、2003、Proc.Natl.Acad.Sci.22、13013-13018)。さらに、インビボでの実験により、HERV−Wエンベロープタンパク質を、それ自体のエンベロープタンパク質の産生が欠損しているMoMLVウイルス粒子と同時発現させると、機能的ウイルス粒子を形成でき、ヒト細胞を感染させることができることが示された(Patienceら、1998、J.Virol.72、2671-2676)。結論としては、HERV−Wには、その融合性特性および感染性特性が保存されている。類似の融合性特性および感染性特性が、HERV−FRDに関しても観察されている。
【0012】
観察された免疫抑制作用は、内容に応じて、哺乳動物、特にヒトにおいて、一方では病原性ウイルス感染に、他方では腫瘍細胞の活発な増殖に関連している可能性がある。腫瘍細胞の活発な増殖は、特に、ERVウイルス様タンパク質の発現の結果である。しかし、免疫抑制の機序を完全に解明するにはより深い洞察が必要とされ、これらの免疫抑制タンパク質の同定は、ウイルス感染に対する、または内因性レトロウイルス発現誘導に対する、または宿主におけるその有害な結果に対する、治療戦略(ワクチン戦略を含む)の新しい展望を開拓する。
【0013】
現在使用されているワクチンは、特に、以下のように分類できる:
−弱毒化または衰弱化した改変病原体に存する弱毒生ワクチン(細菌性またはウイルス性ワクチン)。宿主への投与後、改変された病原性生物は、宿主内で複製し、免疫応答を刺激する。このタイプのワクチンは、一般的に、1回量の投与により長期に持続する免疫をもたらすが、副作用、すなわち、該病原体により引き起こされる軽度の病気の症例を引き起こす可能性があり、したがって、免疫系の弱まったヒトには投与すべきではない。
−特に熱処理および/または化学的処理の結果として死滅または不活性化された病原体に存する、不活性化または死菌ワクチン(生物完全体)。このように処理された病原体は複製できず、通常引き起こす疾病を引き起こすことはできない。それ故、それらは安全であり、免疫系が弱まった宿主にさえ投与できる。しかし、それらは、通常、生ワクチンほど効果的ではなく、それ故、複数回の用量の投与が必要である。
−抗原をコードする遺伝子の発現の結果として組換え技術により特に得られた、タンパク質全体またはその抗原性決定基を含む、病原体微生物の抗原性画分に存するワクチン。発現されたタンパク質を患者に投与しても、または、タンパク質をコードする核酸を発現ベクターに挿入し、これを宿主に投与してもよい。しかし、このようなワクチンは、通常、生ワクチンほど効果的ではなく、それ故、複数回量が必要である。
【0014】
ウイルス、細菌、またはその他を含む病原体に起因する感染から宿主を防御するために、宿主において免疫応答を誘起できるワクチン調製物に適した化合物の設計に適用される原理は、免疫療法による、確立された感染の処置に適した化合物の設計に置き換えられる。しかし、このような化合物の効力は、特に抗ウイルスまたは抗ウイルス様の予防または免疫療法の分野では十分ではないことが判明している。さらに、該化合物の使用には、安全性に関する多くの問題が依然として生じる。
【0015】
ワクチン成分としての免疫化のためのまたは免疫療法のための、いくつかのレトロウイルスエンベロープタンパク質の使用に観察される1つの欠点は、宿主の免疫応答の有効性を妨害または影響を及ぼす可能性のある、その免疫抑制特性に存する。結果として、これらのタンパク質は、免疫応答を阻害する可能性があるため、その天然形態では患者に投与できない。したがって、偉大なる挑戦とは、これらのタンパク質の抗原性特性および/または宿主細胞感染に関連するその特性を変化させることなく、これらのタンパク質の免疫抑制特性を抑制またはモデュレーションすることである。しかし、エンベロープタンパク質複合体を変異させる試みは、その融合機能および感染機能を非常に変化させ、それ故、免疫応答を発生させる活性本質としてのその対象も非常に変化した(Delamarreら、1997 J.Virol.71(1)、259-266;Rosenbergら、1999、J.Cell.Biol.145、57-68)。
【0016】
本発明の目的は、該タンパク質の免疫抑制特性の決定基を同定することであり、これには、該免疫抑制タンパク質のその抗原性特性を実質的に保持している、タンパク質、特にウイルスまたはウイルス様タンパク質の免疫抑制特性のモデュレーションに関与するポリペプチド配列およびアミノ酸残基を同定することが含まれる。
【0017】
本発明のさらなる目的は、該タンパク質の免疫抑制特性のこのような決定基を同定し、そして、改変された、すなわち、モデュレーションされた免疫抑制特性を有するポリペプチドの設計のためにそれを使用することである。
【0018】
本発明の別の目的は、抗原性で免疫抑制性のタンパク質から得られたこのようなポリペプチドを提供することであり、該ポリペプチドは、元来のタンパク質の抗原性特性を保持しつつモデュレーションされた免疫抑制特性を特徴としている。
【0019】
病原生物に対する、特にウイルスに対する効果的な免疫応答、すなわち、細胞性および/または体液性免疫応答を促進するための手段を提供することも本発明の目的であり、これは、免疫系を変化させるリスクが低く、病原生物、特にウイルスによる感染に対して防御的、または、宿主におけるその有害な作用に対して防御的、または、宿主における内因性レトロウイルス発現の有害な結果に対して防御的であるだろう。本発明はまた、ウイルスを含む病原生物に感染した患者の免疫療法による処置に、または、悪性作用を含むその有害な作用の処置に、または、宿主においては通常沈黙している内因性ウイルス発現誘導に関連した病態に罹患した患者の処置に適した手段を提供する。
【0020】
発明の概要
1つの態様において、本発明は、ポリペプチドでウイルスタンパク質または断片の相同的配列が置き換えられると該ポリペプチドが発現される宿主に対する、ウイルスタンパク質またはその断片の免疫抑制特性をモデュレーションすることができる該ポリペプチドを提供し、該ポリペプチドは、以下の最小共通アミノ酸配列:
【表19】


(式中、
X1およびX2は、該免疫抑制特性に影響を及ぼすように選択され、Yは、可変アミノ酸残基を示し、3および1は、X1とCの間およびCとX2の間の可変アミノ酸残基の数をそれぞれ示す)
を有する。
【0021】
該最小共通配列は、「免疫抑制モデュレートリー配列(immunosupprssion-modulatory sequence)」と呼ばれる。
【0022】
1つの実施形態において、免疫抑制モデュレートリー配列を含む、先の定義に該当するペプチドは、ウイルスから得られ、これには、ウイルス様タンパク質から、特にレトロウイルスタンパク質から、特にウイルスもしくはレトロウイルスエンベロープタンパク質から、または、内因性レトロウイルス由来のエンベロープタンパク質から、特にヒト内因性レトロウイルス(HERV)から得られることも含まれる。
【0023】
ウイルス(ERVを含む)の数個のエンベロープタンパク質のアミノ酸配列は、Benitら(J Virol.2001年12月、p.11707-11719)の図3に開示されている。
【0024】
所定のタンパク質に関する免疫抑制特性に影響を及ぼす特定のアミノ酸残基対が特徴づけられ、これにより、所望の「免疫抑制モデュレートリー」特性を有する配列が同定され、これは、
a)タンパク質(この中に以下の配列が存在する)の免疫抑制特性の発生に関与する配列は:
【表20】


を含む
および、b)その中に存在すると免疫抑制タンパク質の免疫抑制特性を変化、例えば低下または抑制する配列は
【表21】


を含む
からなる群より選択できる。
【0025】
別の態様において、本発明は、所定の抗原性で免疫抑制性のタンパク質から得られたポリペプチドを提供し、該ポリペプチドは、X1−(Y)−C−(Y)−X2により示されるアミノ酸配列(いわゆる、免疫抑制モデュレートリー配列)を含み、ここで該ポリペプチドにおいて、Yは、可変アミノ酸残基を示し、3および1は、X1とCの間およびCとX2の間の可変アミノ酸残基Yの数をそれぞれ示し、X1およびX2は、該ポリペプチドに、所定の該タンパク質の免疫抑制特性に対して変化した免疫抑制特性を付与するように選択される。
【0026】
特定の実施形態において、抗原性で免疫抑制性の特性を有するタンパク質は、ウイルス由来の遺伝子、特にレトロウイルス由来のenv遺伝子によりコードされている。
【0027】
このようなタンパク質は、以下の共通配列:E/Q−G−G−L/T/I−C−A/K/L/M/V/I−Aを有する免疫抑制配列決定基を含む。X1(E/Q)および場合によりX2(A)残基が置き換えられている同じタンパク質は、免疫抑制特性は欠失している可能性があるが、その抗原性特性は保持している。改変された免疫抑制モデュレートリー配列の一例は、R−G−G−L/T/I−C−A/K/L/M/V/I−Fであり、これは免疫抑制特性を変化させ、特に、該配列を含む非免疫抑制ポリペプチドを生じることができる。具体的な改変された免疫抑制モデュレートリー配列は、
【表22】


の群より選択される。
【0028】
特定の実施形態において、該タンパク質はさらに、感染性特性および/または融合性特性を有する。免疫抑制モデュレートリー配列の、例えば、X1および場合によりX2アミノ酸残基の置換による改変は、有利には、これらの一方または両方の補助特性に影響を及ぼさない方法で行なってもよい。
【0029】
別の態様において、本発明は、このようなポリペプチドまたはこれらのポリペプチドを発現している組換えウイルス粒子を含む組成物に関する。このような組成物または粒子は、それらを注入した宿主における免疫応答の誘出による、ウイルス感染の予防または処置、例えば、その有害作用の予防または処置、あるいは、宿主における内因性ウイルス、特にHERVの発現の結果の予防または処置に使用できる。
【0030】
別の態様において、本発明は、免疫抑制モデュレートリー配列のアミノ酸組成を改変することにより、該タンパク質の免疫抑制特性をモデュレーションする方法に関する。
【0031】
詳細な説明
本発明は、7〜20アミノ酸残基の配列を有するポリペプチドでウイルスタンパク質またはその断片の相同的配列が置き換えられると該ポリペプチドが発現される宿主に対する、該ウイルスタンパク質またはその断片の免疫抑制特性をモデュレーションすることができる、該ポリペプチドを提供し、該ポリペプチドは、以下の最小共通アミノ酸配列:
【表23】


(式中、
X1およびX2は、該免疫抑制特性に対して影響を及ぼすように選択され、Yは、可変アミノ酸残基を示し、3および1は、それぞれ、X1とCおよびCとX2の間の可変アミノ酸残基Yの数を示す)
を含む。
【0032】
本発明の全ての配列において、1文字アミノ酸コードが使用される。XおよびYは、可変アミノ酸残基を示すために使用され、Xは、所定のタンパク質の免疫抑制特性に影響を及ぼすように決定された。
【0033】
Yは、様々なポリペプチドに応じて、1つの所定のポリペプチド内で変化し得るアミノ酸残基を示す。「(Y)」は、3個のアミノ酸残基が、X1残基とシステイン残基(C)の間に存在することを示す。3個のアミノ酸残基は異なっていても同じでもよく、互いに独立して選択できる。先の配列中のシステインのような、配列中の特定のアミノ酸残基の指定は、このアミノ酸残基が不変であること、すなわち、該配列中に一定の位置を有することを意味する。
【0034】
場合により、共通配列はまた、以下:
【表24】


(式中、
はX1を示し、XはX2を示し、Y〜Y12は、任意のアミノ酸を示す)
のように記載することもできる。本明細書に示したアミノ酸Y〜Y12は同一または異なる。
【0035】
本発明において、「ウイルス」または「ウイルス性」なる表現は、特に断りない限り、外来性もしくは内因性ウイルスの両方またはその成分に適用される。それ故、「ウイルス性タンパク質」は、「ウイルス様タンパク質」も包含し、これはまた、内因性ウイルスの発現産物を記載する場合には、特にERV、特にHERVとも呼ばれてもよい。
【0036】
本発明に記載のポリペプチドの先の共通配列は、「免疫抑制モデュレートリー配列」と呼ばれ、これが、7〜20アミノ酸残基を有するポリペプチドに存在する場合には、このような免疫抑制特性を有するとして、または、配列X1−(Y)−C−(Y)−X2を有するペプチドモチーフを含むという事実にも関わらずこのような特性が欠失しているとして、同定されたタンパク質の免疫抑制特性をモデュレーションするために該ポリペプチドを使用できることを意味する。
【0037】
より特定すると、Xは、先の共通配列を含むタンパク質の免疫抑制特性のモデュレーションにおいて、個々にまたは一緒に直接的に関与している、両方のアミノ酸残基(X1およびX2)を示す。それらは、7アミノ酸残基を有する最小ポリペプチドのN末端およびC末端にそれぞれ位置する。
【0038】
タンパク質は、宿主により通常は拒絶されるであろう宿主に移植された腫瘍細胞において発現されるこのタンパク質が、それとは反対に、これらの腫瘍細胞の増殖および宿主による免疫拒絶の回避を可能とする場合に、免疫抑制特性を有すると言われる。
【0039】
タンパク質の免疫抑制活性をアッセイするインビボでの手順は、Mangeney M.およびHeidmann T.、1998 PNASあるいは図5に示されるBlaiseら、2001により使用されているものである。試験すべきタンパク質を発現している野生型または改変核酸を、既知のトランスフェクション法により、MCA205またはCl8.1細胞株などの腫瘍細胞株にトランスフェクトする。その後、試験すべきタンパク質を発現している腫瘍細胞を、宿主、一般的にはマウスに注入、特に皮下注入する。該注入の後、腫瘍の確立またはその反対のその拒絶を判定し、腫瘍面積を測定する。インビトロでのアッセイも、高用量の合成ペプチドを使用して行なうことができるが、間接的で信頼性が低い。なぜなら、完全な免疫系を有する動物に適用する場合に「免疫抑制」なる表現が妥当であるが、細胞株に適用する場合には妥当ではないからである。
【0040】
本明細書で使用した「改変核酸」なる表現は、コードされたポリペプチドまたはタンパク質のアミノ酸組成を変化させる、ヌクレオチドの置換、欠失、または挿入などの任意の遺伝子変化を意味する。したがって、アミノ酸配列は、元来のタンパク質に存在する相同的配列を置き換える、すなわち置換することができる。
【0041】
免疫抑制特性のモデュレーションに関して試験されるタンパク質中の「相同的配列」なる語句は、アッセイのためにそれを置換(すなわち置き換え)した配列とX1およびX2残基を除いて同じアミノ酸配列を有する配列、すなわちX1−(Y)−C−(Y)−Xを意味し;そのX1およびX2残基の少なくとも一方およびおそらく両方が、元来の配列中のその対応するアミノ酸残基とは異なるように選択される。したがって、Yアミノ酸残基は、改変すべきタンパク質の相同的配列と、先に定義された7〜20アミノ酸残基を有するポリペプチド配列との間に保存されている。
【0042】
様々なウイルスに関するこのような相同的配列が、図9に開示されており、Benit L.ら(J.Virol.Vol.75、No.23、2001年12月、p.11709-11719)の図3にいくつかのウイルスの様々なエンベロープのTMサブユニットの内容が示されている。
【0043】
X1およびX2アミノ酸残基は、元来のウイルスタンパク質の免疫抑制特性をモデュレーションするように選択される。本明細書に使用した「モデュレーションする」なる語句は、同条件で試験した場合の、元来の(すなわち非改変)タンパク質の免疫抑制活性に対して、改変タンパク質の免疫抑制活性の上昇または低下を意味する。
【0044】
本発明は、特に、元来の免疫抑制タンパク質に対して、改変タンパク質の免疫抑制特性を低下させることのできる「免疫抑制モデュレートリー配列」に関する。モデュレーションは、好ましくは有意であり、これは、宿主の免疫応答が検出可能となり、有利には、病原体物質を排除するに十分となるか、あるいは、宿主における該病原体による感染の有害な結果、または、宿主における内因性ウイルス、特に正常なサイレントERV、特にHERVの発現の有害な結果を停止、安定化、もしくは逆転させるに十分となることを意味する。
【0045】
特定の実施形態において、モデュレーションにより、元来のタンパク質の免疫抑制特性が低下する。
【0046】
特定の実施形態において、それは、改変タンパク質、すなわち得られたタンパク質の免疫抑制特性は、元来タンパク質の免疫抑制特性に対して少なくとも2倍低下することに相当する。
【0047】
7〜20アミノ酸残基を有し、配列X1−(Y)−C−(Y)−X2を含む本発明の先に定義されたポリペプチドは、X1および/またはX2が、タンパク質の免疫抑制特性をモデュレーションするように選択されたものであり、したがって:
本発明の特定の実施形態において、X1は、アルカリ性アミノ酸残基であり、X2は芳香族残基であるか、あるいはその逆である。
【0048】
本明細書で示した「アルカリ性」は、塩基性アミノ酸に関する。
【0049】
本発明の別の特定の実施形態において、X1は、アルカリ性残基であるか、またはX2は芳香族残基であり、あるいはその逆である。
【0050】
本発明者らは、免疫抑制タンパク質に対するX1およびX2のモデュレーション効果は、元来の免疫抑制タンパク質中のX1またはX2残基の一方のみが改変された場合には、より低いことを観察した。
【0051】
それ故、免疫抑制モデュレートリー配列中のX1およびX2の両方の改変が有利と捉えられることができる。
【0052】
本発明の別の特定の実施形態において、X1−(Y)−C−(Y)−X2として示されるアミノ酸配列中に位置するX1またはX2残基は、以下のように選択される:
ここで、X1は、R、H、およびKから選択され、X2は、F、W、Y、およびHから選択されるか、あるいは、X1は、F、W、Y、およびHから選択され、X2は、R、H、およびKから選択される。
【0053】
本発明のさらなる実施形態において、X1は、R、H、またはKであり、X2は、Fであるか、あるいはその逆である。
【0054】
本発明のさらなる実施形態において、X1はRであり、X2は、F、W、Y、またはHである。
【0055】
本発明の別のさらなる実施形態において、X1およびX2は、以下からなる群より選択される:
a.X1は、E、K、またはQであり、X2はAである
b.X1はWであり、X2はIまたはVである
c.X1はRであり、X2はFである
d.X1はKであり、X2はFである。
【0056】
本発明者らは、ウイルスエンベロープタンパク質の免疫抑制特性のモデュレーションに対する、免疫抑制モデュレートリー配列中の、特定のX1およびX2残基の効果を同定した。
【0057】
本発明者らの観察により、X1がグルタミン酸(E)またはグルタミン(Q)であり、X2がアラニン(A)である可能性がある場合、本発明の共通配列を含む得られるウイルスエンベロープタンパク質は、免疫抑制特性を有すると考えることができる。逆に、X1がアルギニン(R)であり、X2がフェニルアラニン(F)である場合、本発明の共通配列を含む得られるウイルスエンベロープタンパク質は、免疫抑制特性が低いか、または全く有さない。興味深いことに、ファンデルワールス相互作用がE/A対で疑われる場合、アルギニンの正に荷電した側鎖とフェニルアラニンのパイ電子(陰極)の間のR/F対に静電気相互作用が起こる可能性がある。
【0058】
したがって、本発明の特定の実施形態において、7〜20アミノ酸残基を有するポリペプチドは、タンパク質に低い免疫抑制特性を付与するかまたは全く付与しないに適した免疫抑制モデュレートリー配列X1−(Y)−C−(Y)−X2を有し、ここでのX1はRであり、および/またはX2はFである。
【0059】
別の実施形態において、タンパク質に低い免疫抑制特性を付与するかまたは全く付与しないようにするために、X1はKであり、X2はFである。特に、このようなタンパク質は、低い免疫抑制特性を有する。
【0060】
免疫抑制特性は、先に定義され実施例に示される試験でアッセイされることが想起される。
【0061】
共通配列X1−(Y)−C−(Y)−X2は、ウイルスタンパク質、特にウイルスエンベロープタンパク質において同定することができる。具体的なエンベロープタンパク質は、2個のサブユニット(SUおよびTMサブユニット)を含むレトロウイルスのものである。このような共通配列は、MoMLV、フレンドレトロウイルス、FeLV、HTVLV−1、HTLV−2、STLV−1、GLV−X、ポックスウイルス、MPMV、またはSSAV、またはエボラもしくはマールブルグウイルス、または内因性レトロウイルス、例えばFRD、PyERV、PERV、もしくはHERV−Tに見出される。
【0062】
様々なタンパク質においてこのように同定されたYアミノ酸残基は、E/Q−G−G−L/T/I−C−A/K/L/M/V/I−AまたはR−G−G−L/T/I−C−A/K/L/M/V/I−Fなどの本発明の特定の配列を決定することを可能とする。「/」は、この配列の位置が、提供される指示にしたがって、いくつかの種類のアミノ酸残基を受け入れることを示す。
【0063】
それ故、本発明の先に定義されたポリペプチドは、特定の実施形態において、
【表25】


(ここで、これらの免疫抑制モデュレートリー配列は、それらを含むタンパク質に、免疫抑制特性を与える)、あるいは
【表26】


(ここで、これらの免疫抑制モデュレートリー配列は、それらを含むタンパク質に、低い免疫抑制特性を与えるか、または全く与えない)
からなる群より選択できる最小配列を含む。
【0064】
より特定すると、本発明の先に定義されたポリペプチドは、別の実施形態において、
【表27】


(ここで、これらの免疫抑制モデュレートリー配列は、それらを含むタンパク質に、免疫抑制特性を与える)、あるいは
【表28】


(ここで、これらの免疫抑制モデュレートリー配列は、それらを含むタンパク質に、低い免疫抑制特性を与える)、あるいは
【表29】


(ここで、これらの免疫抑制モデュレートリー配列は、それらを含むタンパク質に、実質的に全く免疫抑制特性を与えない)
からなる群より選択できる最小配列を含む。
【0065】
本明細書で意図する「低い免疫抑制特性」は、それを含むタンパク質に、配列番号17〜22により示されるポリペプチドよりも低い免疫抑制特性を与えるが、それを含むタンパク質に、配列番号23〜27〜32により示されるポリペプチドよりも高い免疫抑制特性を与えるポリペプチドに関する。特に、低い免疫抑制特性を与えるポリペプチドを含むタンパク質は、例えば配列番号118により示されるようなHERV−W ENV R393Q F399A二重変異体よりも免疫抑制の程度が低い。より特定すると、低い免疫抑制特性を与えるポリペプチドを含むタンパク質の免疫抑制指数は正であるが、該HERV−W ENV R393Q F399A二重変異体の免疫抑制指数よりも低く、好ましくは、該HERV−W ENV R393Q F399A二重変異体の免疫抑制指数の50%未満である。
【0066】
本発明の全てのポリペプチドが、宿主細胞、特に原核細胞または真核細胞において該ポリペプチドの発現を可能とするあらゆる既知の方法により得ることのできる核酸によりコードされている。例として、核酸は、適切なプローブおよび増幅技術を使用して、ウイルスを発現している試料から単離できる。それらはまた、化学合成しても、既存のプラスミドまたは本発明のプラスミドから酵素による消化により得てもよい。
【0067】
さらに、本発明のポリペプチドはまた、十分に確立された手順にしたがって、化学合成しても、または、半合成してもよい。
【0068】
特定の20アミノ酸ポリペプチドは、以下の共通配列:
【表30】


を有する。
【0069】
先に説明したように、X1およびX2は、該ポリペプチドが挿入されている、試験される、すなわち元来のウイルス免疫抑制タンパク質の免疫抑制特性に影響を及ぼすように選択され(先に定義された相同配列中のX1およびX2残基の置換を含む)、ここで、Yは、可変アミノ酸残基を示し、3および1は、それぞれ、X1とCおよびCとX2の間の可変アミノ酸Y残基の数を示し、13は、該ポリペプチドのN末端部分のアミノ酸残基の数を示す。配列中のY残基は、独立して、同じであっても異なっていてもよい。
【0070】
様々なタンパク質配列中の不変アミノ酸残基の同定により、特定の配列:(Y)−N−(Y)−L−(Y)−L−(Y)−X1−(Y)−C−(Y)−X2、すなわち、N末端からC末端の順に、2個の可変アミノ酸残基、アスパラギン(N)、3個の可変アミノ酸残基、ロイシン(L)、2個の可変アミノ酸残基、ロイシン(L)、3個の可変アミノ酸残基、X1残基、3個の可変アミノ酸残基、システイン(C)、1個の可変アミノ酸残基、およびX2残基の画定が可能となる。
【0071】
場合により、先の共通配列は、以下:
1314NYLYLY1011CY12
(式中、
およびXは、それぞれ、X1およびX2に同一であり、Y〜Y14は、任意のアミノ酸を示す)
のように記載できる。本明細書で示されるアミノ酸Y〜Y14は、同じであっても異なっていてもよい。
【0072】
先に開示された試験において、ウイルス免疫抑制タンパク質の免疫抑制特性をモデュレーションする能力を呈する特定のアミノ酸配列は、
【表31】


(ここで、これらの免疫抑制モデュレートリー配列は、それらを含むタンパク質に、免疫抑制特性を与える)、あるいは
【表32】


(ここで、これらの免疫抑制モデュレートリー配列は、それらを含むタンパク質に、低い免疫抑制特性を与えるか、または全く与えない)
からなる群より選択できる。
【0073】
好ましい実施形態によれば、先に開示された試験において、ウイルス免疫抑制タンパク質の免疫抑制特性をモデュレーションする能力を呈する特定のアミノ酸配列は、
【表33】


(ここで、これらの免疫抑制モデュレートリー配列は、それらを含むタンパク質に、免疫抑制特性を与える)、あるいは
【表34】


(ここで、これらの免疫抑制モデュレートリー配列は、それらを含むタンパク質に、低い免疫抑制特性を与える)、あるいは
【表35】


(ここで、これらの免疫抑制モデュレートリー配列は、それらを含むタンパク質に、実質的に全く免疫抑制特性を与えない)
からなる群より選択できる。
【0074】
本発明はまた、野生型ENVタンパク質に対して、改変された免疫抑制活性を有する変異ENVタンパク質を製造するための、以下の配列:
【表36】


(ここで、
変異すべき第一アミノ酸はXであり、変異すべき第二アミノ酸はXであり、Y〜Y12は、任意のアミノ酸を示す)
を実質的に含む、野生型ウイルスエンベロープ(ENV)タンパク質における、第一アミノ酸の第一変異および場合により第二アミノ酸の第二変異の使用に関する。
【0075】
「野生型ウイルスエンベロープタンパク質」なる表現は、アミノ酸Xが変異していないエンベロープタンパク質に関する。特に、他の変異または改変がエンベロープタンパク質になされたものも除外されない。
【0076】
「実質的に含む」なる表現は、先の配列中の4個の一定のアミノ酸(太文字で示される)の少なくとも2個が、該野生型ウイルスエンベロープに存在することを意味する。エンベロープ配列中のXおよびXの位置を明確に決定するには、2個のアミノ酸で十分である。有利には、先の配列は、通常、膜貫通(TM)サブユニット、より特定するとTMサブユニットのエクトドメインに局在する。
【0077】
本明細書で意図するアミノ酸Y〜Y12は、互いに独立して、異なるかまたは同じである。
【0078】
本明細書で意図する変異ENVタンパク質は、実質的に、以下の配列:
【表37】


(式中、X’は、変異Xに相当し、X’は変異Xに相当する)
を有する。
【0079】
「改変された免疫抑制活性」なる表現は、変異ENVタンパク質が、対応する野生型ENVタンパク質に対して、低下または上昇した免疫抑制活性を有することを意味する。特に、変異ENVタンパク質は、実質的に、あらゆる残留の免疫抑制活性がなくなっていてもよい。別の場合において、変異ENVタンパク質は免疫抑制活性を有する可能性があるが、一方、対応する野生型ENVタンパク質は、実質的に免疫抑制活性がない。免疫抑制活性は、例えば、免疫抑制指数法を使用することにより、前記および実施例に記載のように測定することができる。
【0080】
有利には、改変された免疫抑制活性を有する変異ENVタンパク質は、多くの適用、特に治療適用を有し、これは本明細書で以後に記載されている。
【0081】
先に定義した使用の好ましい実施形態において、変異ENVタンパク質の抗原性に関与する構造は、実質的に保存されている。
【0082】
本明細書で意図する「抗原性に関与する構造」なる表現は、抗体、または免疫細胞、特にT細胞の膜受容体などの免疫系の成分と相互作用しやすいタンパク質の構造に関する。
【0083】
本発明によれば、変異ENVタンパク質におけるこれらの構造の少なくとも1個以上が、対応する野生型ENVタンパク質と同じコンフォメーションを提示する。有利には、これは、変異ENVタンパク質に対して誘起される免疫反応はまた、対応する野生型ENVタンパク質に対しても指向されるであろうことを意味する。
【0084】
好ましい実施形態によれば、本発明はまた、野生型ENVタンパク質に対して低下した免疫抑制活性を有する変異ENVタンパク質を製造するための、以下の配列:
【表38】


(式中、
変異すべき第一アミノ酸はXであり、変異すべき第二アミノ酸はXであり、Y〜Y12は、任意のアミノ酸を示す)
を実質的に含む野生型ウイルスエンベロープ(ENV)タンパク質における、第一アミノ酸の第一の変異および場合により第二アミノ酸の第二の変異の先に定義した使用にも関する。
【0085】
最も好ましい実施形態において、免疫抑制活性の低下は、変異ENVタンパク質において殆ど残留活性が認められない程度である。
【0086】
好ましい実施形態によれば、本発明はまた、野生型ENVタンパク質に対して低下した免疫抑制活性を有する変異ENVタンパク質を製造するための、以下の配列:
【表39】


(式中、
変異すべき第一アミノ酸はXであり、変異すべき第二アミノ酸はXであり、Y〜Y12は、任意のアミノ酸を示す)
を実質的に含む野生型ウイルスエンベロープ(ENV)タンパク質における、第一アミノ酸の第一の変異および第二のアミノ酸の第二の変異の先に定義した使用に関する。
【0087】
対応する野生型ENVに対して変異ENVタンパク質の免疫抑制活性を改変するのに、Xのみの変異で十分である。しかし、変異ENVタンパク質の構造は、実質的に、対応する野生型ENVタンパク質に対して確実に保存されているので、Xも変異させることが有利である。
【0088】
先に定義した使用の好ましい実施形態において、該変異は置換である。
【0089】
先に定義した使用の別の好ましい実施形態において、Xは、RまたはHにより置換されている。
【0090】
先に定義した使用の別の好ましい実施形態において、Xは、F、M、Y、またはWにより置換されている。
【0091】
先に定義した使用のさらなる好ましい実施形態において、Xは、E、K、またはQであり、RまたはHにより置換されている。
【0092】
先に定義した使用のさらなる好ましい実施形態において、該ENVタンパク質は、HERV−H ENVであり、XはKである。
【0093】
先の定義した使用のさらなる好ましい実施形態において、Xは、A、V、L、I、またはKであり、F、M、Y、またはWにより置換されている。
【0094】
先に定義した使用の特に好ましい実施形態において、該ENVタンパク質は、HERV ENVであり、特に、
HERV−FRD ENV(配列番号82)(ここで、XはQ427であり、XはA433である)、または
HERV−T ENV(配列番号84)(ここで、XはQ516であり、XはA522である)、または
HERV−R ENV(配列番号86)(ここで、XはE561であり、XはK567である)、または
HERV−V ENV(配列番号88)(ここで、XはQ381であり、XはV387である)、または
HERV−R(b)ENV(配列番号90)(ここで、XはE391であり、XはL397である)
から選択される。
【0095】
HERVは、以前に記載されたヒト内因性レトロウイルスに関する。HERV ENVタンパク質は、癌細胞において発現されることが判明している。先に列挙したHERV ENVは免疫抑制活性を提示し、それらを有する癌細胞が、免疫応答を回避するのを手助けする可能性がある。これらのHERVは当業者には公知であり、特に、Benitら、J.Virol.2001、75:11709-11719に考察されている。以後に明らかとなるように、免疫抑制活性の低下したHERV ENVタンパク質は、癌細胞により発現される野生型ENVタンパク質の活性を阻害するワクチンの調製に有利である。
【0096】
先に定義した使用の有利な実施形態において、該ENVタンパク質はHERV−FRD ENVであり、該変異ENVタンパク質の配列は、
配列番号120、
配列番号122
から選択される。配列番号120は、変異Q427Rを有する。配列番号122は、変異Q427R+A433Fを有する。配列番号120または122により示される変異HERV−FRE ENVは、対応する野生型HERV−FRD ENVに対して、低下した免疫抑制活性を提示する。
【0097】
先に定義した使用の別の有利な実施形態において、該ENVタンパク質はHERV−V ENVであり、該変異ENVタンパク質の配列は、
配列番号124、
配列番号126
から選択される。配列番号124は、変異Q381Rを有する。配列番号126は、変異Q381R+V387Fを有する。
【0098】
配列番号124または126により示される変異HERV−V ENVは、対応する野生型HERV−V ENVに対して、低下した免疫抑制活性を提示する。
【0099】
先に定義した使用の別の有利な実施形態において、該ENVタンパク質はHERV−T ENVであり、該変異ENVタンパク質の配列は、
配列番号128、
配列番号130
から選択される。配列番号128は、変異Q516Rを有する。配列番号130は、変異Q516R+A522Fを有する。
【0100】
配列番号128または130により示される変異HERV−T ENVは、対応する野生型HERV−T ENVに対して、低下した免疫抑制活性を提示する。
【0101】
先に定義した使用の別の有利な実施形態において、該ENVタンパク質はHERV−R ENVであり、該変異ENVタンパク質の配列は、
配列番号146、
配列番号148
から選択される。配列番号146は、変異E561Rを有する。配列番号148は、変異E561R+K567Fを有する。
【0102】
配列番号128または130により示される変異HERV−R ENVは、対応する野生型HERV−R ENVに対して、低下した免疫抑制活性を提示する。
【0103】
先に定義した使用の別の特に好ましい実施形態において、該ENVタンパク質は、
HTLV−1ENV(配列番号92)(ここで、XはQ389であり、XはA395である)、または
HTLV−2ENV(配列番号94)(ここで、XはQ385であり、XはA391である)、または
FeLV ENV(配列番号96)(ここで、XはE527であり、XはA533である)、または
PERV ENV(配列番号98)(ここで、XはE545であり、XはA551である)、または
STLV−1ENV(配列番号100)(ここで、XはQ389であり、XはA395である)、または
MoMLV ENV(配列番号70)(ここで、XはE551であり、XはA557である)、または
MPMV ENV(配列番号72)(ここで、XはQ471であり、XはA477である)、または
FV ENV(配列番号102)(ここで、XはE561であり、XはA567である)
から選択される。
【0104】
HTLV−1および2は、ヒトT細胞白血病ウイルス1型および2型に関する。
FeLVは、ネコ白血病ウイルスに関する。
PERVは、ブタ内因性レトロウイルスに関する。
STLV−1は、サルT細胞白血病ウイルス1型に関する。
MoMLVは、モロニーネズミ白血病ウイルスに関する。
MPMVは、Mason-Pfizerサルウイルスに関する。
FVは、マウスフレンドウイルスに関する。
【0105】
これらのウイルスは、当業者には公知であり、Benitら、J.Virol.2001、75:11709-11719に特に記載されている。これらのウイルスの増殖は、ウイルスが免疫応答を回避するのを手助けする免疫抑制ENVタンパク質の存在により特に促進される。以後に明らかとなるように、免疫抑制活性の低下したウイルスENVタンパク質は、ウイルスにより発現される野生型ENVタンパク質の活性を阻害するのに有利である。
【0106】
先に定義した使用の有利な実施形態において、該ENVタンパク質はFeLV ENVであり、該変異ENVタンパク質の配列は、
配列番号104、
配列番号106
から選択される。配列番号104は、変異E527Rを有する。配列番号106は、変異E527R+A533Fを有する。
【0107】
配列番号104または106により示される変異FeLV ENVは、対応する野生型FeLV ENVに対して低下した免疫抑制活性を提示する。
【0108】
先に定義した使用の別の有利な実施形態において、該ENVタンパク質はHTLV−1ENVであり、該変異ENVタンパク質の配列は、
配列番号108、
配列番号110
から選択される。配列番号108は、変異Q389Rを有する。配列番号110は、変異Q389R+A395Fを有する。
【0109】
配列番号108または110により示される変異HTLV−1ENVは、対応する野生型HTLV−1ENVに対して低下した免疫抑制活性を提示する。
【0110】
先に定義した使用の別の有利な実施形態において、該ENVタンパク質はHTLV−2ENVであり、該変異ENVタンパク質の配列は、
配列番号112、
配列番号114
から選択される。配列番号112は、変異Q385Rを有する。配列番号114は、Q385R+A391Fを有する。
【0111】
配列番号112または114により示される変異HTLV−2ENVは、対応する野生型HTLV−2ENVに対して低下した免疫抑制活性を提示する。
【0112】
先に定義した使用の別の有利な実施形態において、該ENVタンパク質はPERV ENVであり、該変異ENVタンパク質の配列は、
配列番号150、
配列番号152
から選択される。配列番号150は、変異E545Rを有する。配列番号152は、変異E545R+A551Fを有する。
【0113】
配列番号150または152により示される変異PERV ENVは、対応する野生型PERVに対して低下した免疫抑制活性を提示する。
【0114】
本発明はまた、野生型ENVタンパク質に対して上昇した免疫抑制活性を有する変異ENVタンパク質を製造するための、以下の配列:
【表40】


(式中、
変異すべき第一アミノ酸はXであり、変異すべき第二アミノ酸はXであり、Y〜Y12は任意のアミノ酸を示す)
を実質的に含む野生型ウイルスエンベロープ(ENV)タンパク質における第一アミノ酸の第一の変異および場合により第二アミノ酸の第二の変異の先の使用に関する。
【0115】
対応する野生型ENVに対して変異ENVタンパク質の免疫抑制活性を上昇させるのに、Xのみの変異で十分である。しかし、変異ENVタンパク質の構造は、対応する野生型ENVタンパク質に対して実質的に確実に保存されているので、Xも変異させることが有利である。
【0116】
有利には、本発明によれば、免疫抑制活性を有する変異ENVタンパク質(対応する野生型ENVタンパク質は実質的にそのような活性はない)を得ることが可能である。このような免疫抑制活性の上昇した変異ENVタンパク質は、例えば移植片拒絶または自己免疫疾患などにおいて、免疫系を阻害するのに有用である。
【0117】
免疫抑制活性の上昇した変異ENVタンパク質の製造のための先に述べた使用の好ましい実施形態において、該変異は置換である。
【0118】
免疫抑制活性の上昇した変異ENVタンパク質を製造するための先に述べた使用の別の好ましい実施形態において、Xは、E、K、またはQにより置換され、XはAにより置換されている。
【0119】
免疫抑制活性の上昇した変異ENVタンパク質を製造するための先に述べた使用の別の好ましい実施形態において、該ENVタンパク質は、配列番号74により示されるようなHERV−W ENVであり、該変異HERV−W ENVの配列は、好ましくは、
配列番号116、
配列番号118
から選択される。配列番号116は、変異R393E/Qを有する。配列番号118は、変異R393E/Q+F399Aを有する。
【0120】
配列番号116または118により示される変異HERV−W ENVは、免疫抑制活性が実質的にない対応する野生型HERV−Wに対して上昇した免疫抑制活性を提示する。
【0121】
本発明はまた、所定の抗原性で免疫抑制性のタンパク質から得られるポリペプチドを提供し、該ポリペプチドは、X1−(Y)−C−(Y)−X2により示されるアミノ酸配列(いわゆる「免疫抑制モデュレートリー配列」)を含み、ここで該ポリペプチド中のYは、可変アミノ酸残基を示し、3および1は、それぞれX1とCおよびCとX2の間の可変アミノ酸Y残基の数を示し、X1およびX2は、該ポリペプチドに、所定の該ポリペプチドの免疫抑制特性に対して変化した免疫抑制特性を付与するように選択される。
【0122】
本明細書で使用した「得られた」なる語句は、ポリペプチド中のアミノ酸配列、特に免疫抑制モデュレートリー配列が、所定のタンパク質の配列に対して改変されていることを示す。したがって、「所定の」該タンパク質は、その免疫抑制特性をモデュレーションするために改変が必要とされる元来のタンパク質である。本発明に記載のポリペプチドは、1個または数個のアミノ酸残基または配列の置換、欠失、付加、組換え、または挿入により所定のタンパク質から生物学的または化学的に得ることができ、ただし、本発明の共通配列は、X1およびX2が出発点の所定のタンパク質の免疫抑制特性をモデュレーションするように選択されたものであり、それ故、X1および/またはX2は、所定の該免疫抑制タンパク質中のその元来の対応する残基に対して置換により変異している。配列の挿入の場合、免疫抑制モデュレートリー配列は、所定のタンパク質に存在する相同配列を置き換えても、あるいは、挿入配列と同じ免疫抑制特性のモデュレーション機能に関与していることが知られているかまたは関与していそうである配列を置き換えても、あるいは、出発点のアミノ酸配列内に挿入されてもよい。全ての場合において、挿入部位(ポリペプチドのC末端部分)後のアミノ酸配列のオープンリーディングフレームは保存されている。
【0123】
明らかに、本発明は、本発明のポリペプチドを得るために、所定の該タンパク質を実際に出発点としてもまたは出発点とせずに行なってもよい。したがって、所定の該タンパク質は、生物学的または化学的観点から必要な出発物質ではなく、得られるポリペプチドの設計のための参照物質である。
【0124】
本発明の特定の実施形態において、得られたポリペプチドは、所定の出発点の該ポリペプチドよりも低い免疫抑制特性を有し、有利には、実質的に該免疫抑制特性を欠失しており、例えば、免疫抑制特性を全く有していない。
【0125】
本発明を通じて「ポリペプチド」および「タンパク質」なる表現は、アミノ酸配列を含む任意の長さ(本記載において特に断りない限り)の分子を定義する。
【0126】
特定の実施形態において、該ポリペプチドまたはタンパク質は、多量体、特に三量体である。
【0127】
本明細書で使用した「所定の」は、出発点のタンパク質(これから本発明のポリペプチドが設計される、すなわち、モデュレーションされた免疫抑制特性を有するように誘導される)を意味する。このタンパク質は、野生型タンパク質(例えば、ウイルス、特にレトロウイルス株から単離)でも、または以前に改変されたタンパク質(例えば宿主においてベクターから発現)であってもよい。このようなタンパク質は、抗原性および免疫抑制特性を有するものの中から選択される。
【0128】
所定のタンパク質は、先に定義された免疫抑制特性を有し:この所定のタンパク質が、移植宿主により通常は拒絶される腫瘍細胞において発現されると、これらの腫瘍細胞の増殖が可能となり、免疫拒絶を回避することが可能となる。
【0129】
第二に、それは抗原性タンパク質であり、すなわち、それが投与された宿主において形成される抗体により認識されることができる。有利には、適切な既知の条件でそれが投与された宿主において免疫応答を誘導することができ、したがって、該抗原性タンパク質は、有利には、免疫原性タンパク質である。これは、該宿主が、該タンパク質のエピトープに対する抗体を産生することに関与する。
【0130】
該タンパク質のこれらの所望の特性が抗原性、特に免疫原性であるという点から、そして、得られるポリペプチドに必要とされる特性が、これらの抗原性、特に免疫原性特性を実質的に保持しているということである点から、本発明のポリペプチドを得るために使用される所定のタンパク質は、天然もしくは天然に存在するタンパク質または抗原性、特に免疫原性のその断片を包含し、ただし、該断片は、さらに、免疫抑制特性を有する。それはまた、天然または天然に存在するタンパク質に対して改変されたタンパク質を包含し、ただし、改変されたタンパク質は、抗原性および免疫抑制特性を有する。
【0131】
本発明のポリペプチドを得るために参照として使用される所定のタンパク質は、ウイルスタンパク質、すなわち、ウイルスのような感染性物質の核酸によりコードされるウイルスタンパク質であっても、または内因性レトロウイルス、特にHERVのウイルス起源の核酸によりコードされるタンパク質であってもよい。特定のタンパク質は、ウイルスの亜クラスであるレトロウイルスを起源とするタンパク質である。特定の実施形態において、所定のタンパク質は、エンベロープタンパク質、すなわちenv遺伝子の発現産物である。
【0132】
本明細書で使用した「核酸」は、ゲノムDNAコード配列、相補的DNAコード配列などの細胞性核酸を含む、DNAまたはRNA形態のウイルス核酸を意味する。本出願に引用される全ての核酸は、一本鎖でも二本鎖でもよい。
【0133】
X1−(Y)−C−(Y)−X2モチーフのX1およびX2アミノ酸残基は、先に記載したように選択される。
【0134】
抗原性および免疫原性タンパク質から得られ、配列X1−(Y)−C−(Y)−X2を含む、本発明の先に定義されたポリペプチドは、以下のように定義できる:
本発明の特定の実施形態において、X1はアルカリ性アミノ酸残基であり、X2は、芳香族残基であり、あるいはその逆である。
【0135】
本発明の別の特定の実施形態において、X1はアルカリ性残基であるか、またはX2は芳香族残基であるか、あるいはその逆である。
【0136】
本発明者らは、タンパク質の免疫抑制特性に対するX1およびX2のモデュレーション効果は、通常、元来の免疫抑制タンパク質中のX1またはX2残基の一方のみを改変した場合、より低いことを観察した。
【0137】
それ故、免疫抑制モデュレートリー配列中のX1およびX2の両方の改変を有利と捉えることができる。
【0138】
本発明の別の特定の実施形態において、X1−(Y)−C−(Y)−X2として示されるアミノ酸配列中に位置するX1またはX2残基は、以下のように選択される:
ここで、X1は、R、H、またはKから選択され、X2は、F、W、Y、およびHから選択されるか、あるいは、X1は、F、W、Y、およびHから選択され、X2は、R、H、およびKから選択される。
【0139】
本発明のさらなる実施形態において、X1は、R、H、またはKであり、X2は、Fであるか、あるいはその逆である。
【0140】
本発明のさらなる実施形態において、X1はRであり、X2は、F、W、Y、またはHである。
【0141】
本発明者らは、特に、抗原性で免疫抑制性のタンパク質から得られるポリペプチドが、特定の興味深いX1およびX2残基がそれぞれRとFまたはKとFである場合、該ポリペプチドが由来するタンパク質の免疫抑制特性に対して変化した免疫抑制特性を有することを同定した。
【0142】
所定のタンパク質は、有利には、抗原性および免疫抑制特性を有する、ウイルスタンパク質、特にレトロウイルスタンパク質またはウイルス起源のタンパク質(例えばHERVの1つ)であってもよい。
【0143】
したがって、既知の天然に存在する免疫抑制特性の低いまたは全くないHERV−W、H1、F(c)1、またはF(c)2のエンベロープタンパク質は、本発明の目的ではない。
【0144】
本発明の特定の実施形態において、抗原性タンパク質から得られたポリペプチドは、その抗原性特性を保持しつつ、変化した免疫抑制特性、特に低下した免疫抑制特性を有する。
【0145】
別の特定の実施形態において、これらのタンパク質は、さらに、抗原性および免疫抑制特性、感染性特性および/または融合性特性を有する。
【0146】
所定の出発点のタンパク質がさらに、ウイルスエンベロープタンパク質で同定された特性のような、融合性特性および感染性特性を有する場合、これらの一方または両方の特性を、得られたポリペプチドにおいて保持できるが、必要ではない。
【0147】
元来の所定のタンパク質のこれらの特性が、本発明の得られたポリペプチドにおいて維持されているかどうかを判定するための、融合性特性および/または感染性特性の評価または測定は、得られたポリペプチドが、実質的に、元来の所定のタンパク質の構造、特に抗原性構造、例えば免疫原性決定基を保持しているかどうかに関する有用な指標を提供できる。
【0148】
タンパク質は、該タンパク質をコードする核酸でトランスフェクトされた細胞が、同じタンパク質をおそらく発現していない他の細胞と合胞体(多核細胞)を形成できる場合、融合性特性を有していると言われる。実際に、融合性特性を有するタンパク質の強力な発現は、融合事象に関与する該タンパク質の受容体の発現を遮断することが疑われる。それ故、融合能は、融合性特性を有する該タンパク質を発現している細胞と、その受容体を発現している細胞との間の合胞体の形成により画定できる。細胞は、リン酸カルシウム沈降法またはリポフェクタミン(登録商標)などのリポソームを用いるなどの、様々な既知の方法によりトランスフェクトすることができる。
【0149】
タンパク質は、このタンパク質で覆膜された偽型が細胞を感染できる場合、感染性特性を有すると言われる。本明細書で使用した「偽型」は、異なる株のENVタンパク質が取り込まれているウイルス粒子を意味する。MLVコア粒子が現在使用されている。偽型は、感染性タンパク質をコードするベクターを、別のウイルス株のGAGおよびPOLタンパク質をコードする1種または数種のベクターを用いて同時トランスフェクトされた、細胞株(例えば293T細胞)で産生される。
【0150】
記載の特性を有する特定のポリペプチドは、ウイルスエンベロープタンパク質(ENV)、特にレトロウイルスエンベロープタンパク質から得られる。このようなレトロウイルスENVは、MoMLV、フレンドレトロウイルス、FeLV、HTLV−1、STLV−1およびMPMVからなるレトロウイルス群より選択できる。他の興味深いポリペプチドは、HERVなどのウイルス起源の核酸によりコードされるものである。ウイルスが関与する限り、エボラおよびマールブルグウイルスは、本発明のポリペプチドを得ることができるENVタンパク質を有する。
【0151】
該エンベロープタンパク質は、抗原性、特に免疫原性特性、および免疫抑制特性が関与する限り、天然もしくは天然に存在するタンパク質の全てまたは一部であってもよく、あるいは、その抗原性、特に免疫原性の変種(その断片を含む)、すなわち、天然に存在するウイルスエンベロープタンパク質の類似体に由来してもよい。
【0152】
先に記載の所定のタンパク質のアミノ酸配列内で、本発明者らは、免疫抑制の調節に関与する特定の残基を同定した。免疫抑制特性をタンパク質に付与する免疫抑制モデュレートリー配列と呼ばれるこのような配列は、以下:E/Q−G−G−L/T/I−C−A/K/L/M/V/I−Aであり、ここで、「/」は、この配列位置が、数種類のアミノ酸残基を受け入れることを示す。したがって、
【表41】


からなる群より選択される免疫抑制モデュレートリー配列を含むタンパク質は、免疫抑制特性を有する特に所定のタンパク質であり、これから、本発明の共通配列のX1およびX2位置を表す末端E/QおよびまたはA残基を改変することにより本発明のポリペプチドを得ることができる。
【0153】
先に記載したように、本明細書で使用した「得られた」なる語句は、該ポリペプチドのアミノ酸配列、特に免疫抑制モデュレートリー配列が、免疫抑制特性に影響を及ぼすように、特に該特性を低下させるように、所定のタンパク質の配列に対して改変されていることを示す。これらの変化した免疫抑制特性は、先に記載したアミノ酸特徴による、X1およびX2残基の置換の結果であり得る。
【0154】
これらの変化した免疫抑制特性はまた、選択されたタンパク質の許容部位への、X1−(Y)−C−(Y)−X2配列を含むポリペプチドの挿入の結果であり得、ここで、X1およびX2は、免疫抑制特性を変化させるように選択される。
【0155】
本明細書で使用した「許容部位」は、タンパク質の抗原性特性を実質的に変化させない部位を意味する。
【0156】
挿入により、免疫抑制に関与する相同的配列または配列を置き換えることができる。本発明に記載の7〜20アミノ酸残基のポリペプチドもまた、所定のタンパク質からアミノ酸残基を欠失させることなく、挿入することができる。
【0157】
先に記載の所定のタンパク質から得られ、変化した免疫抑制特性を有するポリペプチドは、以下の配列R−G−G−L/T/I−C−A/K/L/M/V/I−Fを有する配列、特に、
【表42】


からなる群より選択される配列を含む。
【0158】
先に示した配列は、同定された天然に存在するレトロウイルスENVタンパク質における該X1およびX2残基の変異により得られた。
【0159】
同じ戦略を、X1−(Y)−C−(Y)−X2に類似した配列を提示するタンパク質を発現するウイルスに適用できる。特に、Y残基は、先に記載(Benitら、2001)したものとは異なるアミノ酸残基であってもよい。
【0160】
さらに、本出願の所定のENVタンパク質の構造、例えばその3次元構造は、アミノ酸配列が異なるにも関わらず、他のウイルス、特に他のレトロウイルスと類似した構造特徴を共有することが示された。したがって、高度に保存されたTM構造の組織は、融合過程およびウイルス進入を引き起こす一般的な機序に関連している可能性が最も高い、エボラもしくはマールブルグウイルスのタンパク質に見出されている。結果的に、同じアプローチを適用して、このようなウイルスの免疫抑制モデュレーションに関与する特定の配列を同定することができる。
【0161】
本発明はまた、以下の配列:
【表43】


(ここで、アミノ酸Xおよび場合によりアミノ酸Xは変異しており、Y〜Y12は、任意のアミノ酸を示す)
を実質的に有する、野生型ENVタンパク質の変異から得られる変異ENVタンパク質(ここで、該変異ENVタンパク質は、野生型ENVタンパク質に対して改変された免疫抑制活性を有する)、
あるいは、その断片(ただし、該断片は、変異アミノ酸Xおよび場合によりXを有し、該変異ENVタンパク質と類似した免疫抑制活性を有し、場合により、その抗原性構造は、該変異ENVタンパク質で採用されている構造と実質的に類似している)、
あるいは、少なくとも1アミノ酸の挿入、欠失、または置換により、該変異ENVタンパク質から得られるタンパク質またはその断片(ただし、得られた該タンパク質は、変異アミノ酸XおよびXを有し、該変異ENVタンパク質の免疫抑制活性に類似した免疫抑制活性を有し、場合により、その抗原性構造は、該変異ENVタンパク質またはその断片と実質的に類似している)
に関する。
【0162】
本明細書で意図する変異ENVタンパク質は、以下の配列:
【表44】


(式中、X’は変異Xに対応し、X’は変異Xに対応する)
を実質的に有する。
【0163】
本明細書で意図する本発明に記載の変異ENVタンパク質の断片は、特に、少なくとも7アミノ酸長であり、変異アミノ酸Xを含む。場合により、該断片は、少なくとも7アミノ酸長であり、XおよびXの両方を含む。本発明に記載の好ましい変異ENVタンパク質断片は、特に、TMサブユニットまたはTMサブユニットのエクトドメインから構成される。
【0164】
本発明の好ましい実施形態において、変異ENVタンパク質から得られた先に述べたタンパク質は、該変異ENVタンパク質と少なくとも80%の配列同一性、特に少なくとも90%の配列同一性を提示する。
【0165】
先の定義した変異ENVタンパク質またはその断片の好ましい実施形態において、該変異ENVタンパク質またはその断片の抗原性に関与する構造は、野生型ENVタンパク質に対して実質的に保存されている。
【0166】
好ましい実施形態によれば、本発明は、以下の配列:
【表45】


(式中、
アミノ酸Xおよび場合によりアミノ酸Xは変異しており、Y〜Y12は、任意のアミノ酸を示す)
を実質的に含む、野生型ENVタンパク質の変異から得られた先に定義した変異ENVタンパク質(ここで、該変異ENVタンパク質は、野生型ENVタンパク質に対して低下した免疫抑制活性を有する)、
あるいは、その断片(ただし、該断片は、変異アミノ酸Xおよび場合によりXを有し、該変異ENVタンパク質と類似した免疫抑制活性を有し、場合により、その抗原性構造は、該変異ENVタンパク質に採用されている構造と実質的に類似している)、
あるいは、少なくとも1アミノ酸の挿入、欠失、または置換により、該変異ENVタンパク質またはその断片から得られたタンパク質(ただし、得られた該タンパク質は、変異アミノ酸XおよびXを有し、該変異ENVタンパク質と類似した免疫抑制活性を有し、場合により、その抗原性構造は、該変異ENVタンパク質またはその断片と実質的に類似している)
に関する。
【0167】
好ましい実施形態によれば、本発明は、以下の配列:
【表46】


(式中、
アミノ酸Xおよびアミノ酸Xは変異しており、Y〜Y12は、任意のアミノ酸を示す)
を実質的に含む、野生型ENVタンパク質の変異から得られた先に定義した変異ENVタンパク質(ここで、該変異ENVタンパク質は、野生型ENVタンパク質に対して低下した免疫抑制活性を有する)、
あるいは、その断片(ただし、該断片は、変異アミノ酸XおよびXを有し、該変異ENVタンパク質と類似した免疫抑制活性を有し、場合により、その抗原性構造は、該変異ENVタンパク質に採用されている構造と実質的に類似している)、
あるいは、少なくとも1アミノ酸の挿入、欠失、または置換により、該変異ENVタンパク質またはその断片から得られたタンパク質(ただし、得られた該タンパク質は、変異アミノ酸XおよびXを有し、該変異ENVタンパク質と類似した免疫抑制活性を有し、場合により、その抗原性構造は、該変異ENVタンパク質またはその断片と実質的に類似している)
に関する。
【0168】
先に定義した該変異ENVタンパク質またはその断片の好ましい実施形態において、該変異は置換である。
【0169】
先に定義した該変異ENVタンパク質またはその断片の別の好ましい実施形態において、Xは、RまたはHにより置換されている。
【0170】
先に定義した該変異ENVタンパク質またはその断片の別の好ましい実施形態において、Xは、F、M、Y、またはWにより置換されている。
【0171】
先に定義した該変異ENVタンパク質またはその断片の別の好ましい実施形態において、Xは、E、K、またはQであり、RまたはHにより置換されている。
【0172】
好ましい実施形態において、先に定義した該変異ENVタンパク質またはその断片は、HERV−H ENV(ここで、XはKである)である。
【0173】
先に定義した該変異ENVタンパク質またはその断片の別の好ましい実施形態において、Xは、A、V、L、I、またはKであり、F、M、Y、またはWにより置換されている。
【0174】
先に定義した該変異ENVタンパク質またはその断片の特に好ましい実施形態において、該ENVタンパク質は、HERV ENV、特に:
HERV−FRD ENV(配列番号82)(ここで、XはQ427であり、XはA433である)、または
HERV−T ENV(配列番号84)(ここで、XはQ516であり、XはA522である)、または
HERV−R ENV(配列番号86)(ここで、XはE561であり、XはK567である)、または
HERV−V ENV(配列番号88)(ここで、XはQ381であり、XはV387である)、または
HERV−R(b)ENV(配列番号90)(ここで、XはE391であり、XはL397である)
から選択される。
【0175】
先に定義した該変異ENVタンパク質またはその断片の有利な実施形態において、該ENVタンパク質は、HERV−FRD ENVであり、該変異ENVタンパク質の配列は、
配列番号120、
配列番号122
から選択される。
【0176】
先に定義した該変異ENVタンパク質またはその断片の有利な実施形態において、該ENVタンパク質は、HERV−V ENVであり、該変異ENVタンパク質の配列は、
配列番号124、
配列番号126
から選択される。
【0177】
先に定義した該変異ENVタンパク質またはその断片の有利な実施形態において、該ENVタンパク質は、HERV−T ENVであり、該変異ENVタンパク質の配列は:
配列番号128、
配列番号130
から選択される。
【0178】
先に定義した該変異ENVタンパク質またはその断片の有利な実施形態において、該ENVタンパク質は、HERV−R ENVであり、該変異ENVタンパク質の配列は:
配列番号146、
配列番号148
から選択される。
【0179】
先に定義した該変異ENVタンパク質またはその断片の特に好ましい実施形態において、該ENVタンパク質は、
HTLV−1ENV(配列番号92)(ここで、XはQ389であり、XはA395である)、または
HTLV−2ENV(配列番号94)(ここで、XはQ385であり、XはA391である)、または
FeLV ENV(配列番号96)(ここで、XはE527であり、XはA533である)、または
PERV ENV(配列番号98)(ここで、XはE545であり、XはA551である)、または
STLV−1ENV(配列番号100)(ここで、XはQ389であり、XはA395である)、または
MoMLV ENV(配列番号70)(ここで、XはE551であり、XはA557である)、または
MPMV ENV(配列番号72)(ここで、XはQ471であり、XはA477である)、または
FV ENV(配列番号102)(ここで、XはQ561であり、XはA567である)
から選択される。
【0180】
先に定義した該ENVタンパク質またはその断片の有利な実施形態において、該ENVタンパク質は、FeLV ENVであり、該変異ENVタンパク質の配列は、
配列番号104、
配列番号106
から選択される。
【0181】
先に定義した該変異ENVタンパク質またはその断片の有利な実施形態において、該ENVタンパク質は、HTLV−1ENVであり、該変異ENVタンパク質の配列は、
配列番号108、
配列番号110
から選択される。
【0182】
先に定義した該変異ENVタンパク質またはその断片の有利な実施形態において、該ENVタンパク質は、HTLV−2ENVであり、該変異ENVタンパク質の配列は、
配列番号112、
配列番号114
から選択される。
【0183】
先に定義した該変異ENVタンパク質またはその断片の有利な実施形態において、該ENVタンパク質は、PERV ENVであり、該変異ENVタンパク質の配列は、
配列番号150、
配列番号152
から選択される。
【0184】
好ましい実施形態によれば、本発明は、以下の配列:
【表47】


(式中、
アミノ酸Xおよび場合によりXは変異しており、Y〜Y12は、任意のアミノ酸を示す)
を実質的に含む、野生型ENVタンパク質の変異から得られた先に定義した該変異ENVタンパク質(ここで、該変異ENVタンパク質は、野生型ENVタンパク質に対して上昇した免疫抑制活性を有する)、
あるいは、その断片(ただし、該断片は、変異アミノ酸XおよびXを有し、該変異ENVタンパク質と類似した免疫抑制活性を有し、場合により、その抗原性構造は、該変異ENVタンパク質で採用されている構造と実質的に類似している)、
あるいは、少なくとも1アミノ酸の挿入、欠失、または置換により、該変異ENVタンパク質またはその断片から得られたタンパク質(ただし、得られた該タンパク質は、変異アミノ酸XおよびXを有し、該変異ENVタンパク質と類似した免疫抑制活性を有し、場合により、その抗原性構造は、該変異ENVタンパク質またはその断片と実質的に類似している)
に関する。
【0185】
免疫抑制活性の上昇した先に定義した該変異ENVタンパク質またはその断片の好ましい実施形態において、該変異は置換である。
【0186】
免疫抑制活性の上昇した先に定義した該変異ENVタンパク質またはその断片の好ましい実施形態において、Xは、E、K、またはQにより置換され、Xは、Aにより置換されている。
【0187】
免疫抑制活性の上昇した先に定義した該変異ENVタンパク質またはその断片の好ましい実施形態において、該ENVタンパク質は、配列番号74により示されるような、HERV−W ENVであり、該変異HERV−W ENVの配列は、
配列番号116、
配列番号118
から選択される。
【0188】
本発明はまた、先に定義した少なくとも1個のポリペプチド、または先に定義した少なくとも1個の変異ENVタンパク質もしくはその断片を含むことを特徴とするタンパク質に関し、ただし、該ポリペプチドが、野生型ENVタンパク質を起源とする場合、該ポリペプチドを含む該タンパク質は、野生型ENVタンパク質とは異なる。
【0189】
本発明はまた、本発明のポリペプチドをコードする、核酸、特にポリヌクレオチドに関する。特定の実施形態において、これらの核酸はベクターに挿入される。組換えベクターは、プラスミド、細菌導入のためのファージ、酵母を形質転換できるYAC、または任意の発現ベクターであってもよい。
【0190】
さらに、該組換えベクターは、制御下での核酸の誘導性発現または条件的発現、あるいは適宜、構成的発現を可能とする転写調節領域(プロモーターを含む)を含む。また、組織特異的転写領域も使用できる。さらに、該組換えベクターは、複製起点および/またはマーカー遺伝子を含む。
【0191】
本発明の特定の実施形態において、該ベクターはまた、ウイルスGAGおよび/またはPOLタンパク質または機能的ウイルスタンパク質を発現するに十分なその断片をコードする核酸を含む。場合により、該ベクターは、NEF、TATのようなウイルス補助タンパク質またはその断片をコードする核酸を含んでいてもよい。
【0192】
または、GAGおよびPOLコード配列は、ENV発現ベクターとは異なるベクターを含む、別々のベクターに挿入してもよい。
【0193】
本発明の特定の実施形態において、プロウイルスゲノムは、抗原性特性を有するが、所定のタンパク質に対して変化した免疫抑制特性を有する本発明のポリペプチドをコードする核酸、あるいは、感染性、融合性、および抗原性特性を有するが、所定のタンパク質に対して変化した免疫抑制特性を有する本発明のポリペプチドをコードする核酸を用いて改変されている。
【0194】
本発明はまた、本発明のポリペプチドをコードする核酸を含む細胞に関する。
【0195】
特定の実施形態において、相同的細胞配列を用いての組換えまたは細胞ゲノムへの挿入により、ポリヌクレオチドが細胞ゲノムに取り込まれるように、細胞を本発明のポリヌクレオチドで形質転換する。細胞はまた、本発明のベクターを用いて、当業者の公知の方法によりトランスフェクトさせてもよい。トランスフェクションまたは感染は、生体外で、すなわち、生きた生物の体外の人工的環境において行なうことができる。
【0196】
別の実施形態において、本発明に記載のポリペプチドをコードする核酸を含むベクターは、他のベクターに含まれている、特にウイルスGAGタンパク質および/またはPOLタンパク質をコードする他の核酸の導入により補完される。
【0197】
これらの細胞株は、組換えウイルス粒子の産生に有用である。特定の実施形態において、GAGおよびPOLポリペプチドは、ENVタンパク質と同じウイルス株を起源とする。別の実施形態において、GAGおよびPOLポリペプチドは、ENVタンパク質とは異なる株を起源とする。
【0198】
産生される組換えウイルス粒子は、機能的POLタンパク質をコードする核酸、機能的GAGタンパク質をコードする核酸、および本発明のポリペプチドをコードする核酸を含む。
【0199】
さらに、ENVタンパク質は、宿主に応じた両種指向性ウイルスENVタンパク質(すなわち、ウイルスの起源ではない種の細胞を感染できる)または宿主に応じた同種指向性ウイルスENVタンパク質(すなわち、ウイルスの起源である種の細胞のみにおいてしか複製できない)から選択できる。
【0200】
組換えウイルス粒子が感染性であり複製性であることを確実にするために、該ベクターは、転写、発現、およびキャプシド形成シグナル、例えばLTR、cPPT、PPT3’、CTS、SA、SD、psi配列、およびRREから選択された様々な核酸配列を含む。しかし、このようなエレメントを欠失させて、非複製ウイルス粒子を産生することもできる。さらに、プロウイルスゲノムは、補助タンパク質をコードする核酸を含む。
【0201】
場合により、該粒子を調製して、宿主に医学適用するに有用なさらに他の化合物を発現させることもできる。
【0202】
本発明はまた、先に定義した該ポリペプチド、先に定義した該変異ENVタンパク質、または先に定義した該タンパク質をコードする核酸に関する。
【0203】
好ましい実施形態において、先に定義した該核酸は、
配列番号103、
配列番号105、
配列番号107、
配列番号109、
配列番号111、
配列番号113、
配列番号115、
配列番号117、
配列番号119、
配列番号121、
配列番号123、
配列番号125、
配列番号127、
配列番号129、
配列番号145、
配列番号147、
配列番号149、および
配列番号151
を含むリストから選択される配列により示されることを特徴とする。
【0204】
先に述べた配列番号103〜129および配列番号147〜151(奇数)は、それぞれ、配列番号104〜130および配列番号146〜152(偶数)をコードする。
【0205】
本発明はまた、先に定義した該核酸並びに該核酸の発現に必要なエレメントを含むことを特徴とする、真核または原核発現ベクターに関する。
【0206】
好ましい実施形態において、先に定義した該真核または原核発現ベクターは、ウイルスベクター、特にポックスベクター、例えば鶏痘、カナリア痘、もしくはMVA(改変されたワクシニアウイルスアンカラ)ベクター、アデノウイルスベクター、麻疹ベクター、またはCMV(サイトメガロウイルス)ベクターである。
【0207】
さらに好ましい実施形態において、先に定義した該真核または原核発現ベクターは、先に定義した該変異ENVタンパク質またはその断片、特に変異FeLV ENV、例えば配列番号103または配列番号105により示される配列をコードする核酸配列、並びに、場合により、該変異ENVと同じウイルスを起源とするGAGタンパク質をコードする核酸を含む、ウイルスベクター、特にカナリア痘ベクターである。
【0208】
本発明はまた、先に定義した該核酸、または先に定義した該真核もしくは原核発現ベクターを含むことを特徴とする、組換え細胞に関する。
【0209】
本発明はまた、所定のタンパク質に対して変化した免疫抑制特性を有する本発明のポリペプチド、特に、該ポリペプチドの由来するタンパク質の抗原性特性、特に免疫原性特性を実質的に保持しているポリペプチドを含む組成物に関する。
【0210】
本発明の特定の組成物は、出発点の所定のタンパク質に対して低い免疫抑制特性を有するか、またはさらには、実質的に全く免疫抑制特性を有さない。
【0211】
他の組成物は、ポリヌクレオチド、または、本発明のポリペプチドをコードする核酸を含むベクターを含む。この場合、組織特異的プロモーターは、該組成物が投与(例えば注射)される器官に応じて、必要とされる発現強度に応じて選択できる。
【0212】
本発明の他の組成物は本発明のポリペプチドを有し、場合により、宿主において医学的関心の高いさらに他の化合物を発現する組換えウイルス粒子またはウイルスも含む。
【0213】
本発明のポリペプチドおよび組成物は、薬物の活性成分の設計に有用であり、したがって、感染、特にウイルス感染の予防およびまたは処置のための、あるいは、ウイルス感染から生じた有害な結果、特に、悪性状態(腫瘍を含む)の処置のための、あるいは、宿主において通常は沈黙している内因性ウイルス、特にHERVの発現に関連した腫瘍を含む有害な結果、特に悪性状態の予防および/または処置のための、興味深い特性を有する。「処置」なる表現は、本発明のポリペプチドおよび組成物を用いて達成される治癒効果、並びにまた、患者において観察される症状の寛解、あるいは、患者の容態の改善を包含する。
【0214】
特定の実施形態において、本発明の組成物はさらに、感染、特にウイルス感染、特にレトロウイルス感染の予防または処置に有用な(サイトカインを含む)、あるいは、通常は沈黙しているERVの発現から生じる結果の処置に有用な、追加の活性化合物を含む。
【0215】
特に注射による全身または局所投与の投与に使用する場合、該組成物は、さらに、薬学的に適した賦形剤または担体および/またはビヒクルを含む。
【0216】
数種類の組成物を使用して、本発明の抗原性ポリペプチドに対する免疫応答を誘起することができる。
【0217】
第一に、核酸を含む組成物を宿主に投与、例えば注射し(DNAワクチン接種として知られる)、該核酸は、インビボにおいて、本発明に記載のポリペプチドを発現する。DNAワクチンは、通常、真核プロモーター、クローニングサイト、ポリアデニル化配列、選択マーカー、および細菌複製起点を含む、プラスミドベクターからなる。これらの全てのエレメントは、当業者に公知である。裸DNAの送達は有効性が低いことが示されており、細胞へのDNAの送達を向上するためにはいくつかの担体が必要とされる。2種類の担体が開発されている:ウイルス担体(アデノウイルス、レンチウイルス)もしくは非ウイルス担体、例えばポリマー(および特にカチオン性ポリマー)、封入されたDNA(リポソーム)または金ミクロ粒子に連結させたDNA。
【0218】
別の種類の組成物は、所定のタンパク質に対して変化した免疫抑制特性を有し、抗原性特性を有する、本発明のポリペプチドを含む。このような組成物は免疫原性である可能性があり、すなわち、該組成物はそれが投与された宿主において免疫応答を誘起できる。しかし、該タンパク質は時に非免疫原性であるか、または免疫原性が低いことがあるので、免疫応答を誘起または向上するために、該ポリペプチドと共にアジュバントを投与してもよい。アジュバントは、該アジュバントと混合された抗原の免疫原性を増強する任意の物質として定義される。水酸化アルミニウムゲル、水中油滴型エマルション、または免疫刺激複合体(ISCOM)などのいくつかのアジュバントは、可溶性抗原を、小粒子へと変換する。別のクラスのアジュバントには、細菌の滅菌構成成分、例えば細胞壁または多糖、フロイントアジュバントなどが挙げられる。
【0219】
それ故、抗原性特性を有するが、所定のタンパク質に対して変化した免疫抑制特性を有するポリペプチドを含む組成物は、それが投与された宿主における免疫応答の誘起に、および、体液性および/または細胞性免疫応答の発生において興味深い。
【0220】
実際に、宿主の免疫系は完全に機能しているので、非免疫抑制特性を有するポリペプチドの投与(例えば注射)は、所定のタンパク質(免疫抑制特性を有する)の投与よりも効果的な免疫反応を与える。
【0221】
特定の実施形態において、本発明に記載のポリペプチドは、抗原性特性、融合性特性、および感染性特性を有するが、所定の免疫抑制タンパク質に対して変化した免疫抑制特性を有する。
【0222】
本発明に記載の変化した免疫抑制特性は、有利には、元来の出発点のタンパク質に対して低下した免疫抑制特性に相当する。
【0223】
先に記載した該特性を有するポリペプチドで覆膜されたウイルス粒子は、gag−polベクター、および、該ポリペプチドをコードする核酸を含むベクターでトランスフェクトされた組換え細胞株において作成できる。
【0224】
場合により、これらのウイルス粒子はまた、治療または予防目的の他の化合物も発現する。
【0225】
興味深いことに、このようなウイルス粒子は、宿主の細胞を感染し融合させることができ、非免疫抑制エンベロープタンパク質を取り込むことができる。このようなウイルス粒子を含む組成物は、免疫抑制特性を有する所定のタンパク質を取り込んだウイルス粒子よりも良好な効果的な免疫反応を誘起する。実際に、該エンベロープタンパク質は、その宿主を免疫抑制できず、その結果、最適な免疫反応が得られる。別の結果は、ENV遺伝子の関与しない組換え事象に因り複製能を有するウイルス粒子は、組換えウイルス粒子は免疫応答を避けることができないので、限られた宿主においてその増殖を行なうというものである。
【0226】
融合性特性および感染性特性を有する抗原性エンベロープタンパク質で覆膜されたウイルス粒子を含む組成物は、効果的で安全なワクチンのようである。
【0227】
興味深いことに、このようなウイルス粒子は、複製性(機能的)でも、または非複製性であってもよい。これは、一旦宿主に投与された粒子の滞留時間に対して、および、免疫応答の品質に対して結果を及ぼす可能性がある。
【0228】
先に引用した全ての組成物は、皮下(s.c.)、皮内(i.d.)、筋肉内(i.m.)、または静脈内(i.v.)注射、経口投与、および鼻腔投与、または吸入などの様々な経路を介して、宿主に注射できる。
【0229】
本発明はまた、活性物質として、
先に定義した少なくとも1種類のポリペプチド、または
先に定義した少なくとも1種類の変異ENVタンパク質またはその断片、または
先に定義した少なくとも1種類の核酸、または
先に定義した少なくとも1種類の原核もしくは真核発現ベクター、または
先に定義した少なくとも1種類の組換え細胞、を薬学的に許容されうる担体と共に含む、医薬またはワクチン組成物に関する。
【0230】
本明細書において以後に記載したように、これらの医薬組成物は、特に、癌、免疫疾患、またはウイルス疾患の処置に有用である。
【0231】
本発明はまた、ウイルス疾患、例えばHTLVまたはFeLV感染などの予防および/または処置を目的とした医薬またはワクチンの製造のための、先に定義した免疫抑制活性の低下した変異ENVタンパク質もしくはその断片を含むもしくはから構成される少なくとも1種類のタンパク質、または、該タンパク質をコードする核酸の使用に関する。
【0232】
個体への免疫抑制活性の低下した変異ENVタンパク質の投与は、該個体を、対応するウイルスによる感染から防御しやすい。実際に、該変異ENVタンパク質に対して誘起される免疫応答はまた、対応する野生型ENVタンパク質に対しても指向される。本明細書で実証されているように、この免疫応答は、効果的に、野生型ENVタンパク質の免疫抑制活性を遮断し、ウイルスの免疫回避を妨げる。
【0233】
さらに、該変異ENVタンパク質はまた、ウイルスの野生型ENVとその天然受容体に関して競合し、これにより、該野生型ENVの活性を阻害する、分子デコイとしても作用しやすい。
【0234】
本発明はまた、癌の予防および/または処置を目的とした医薬またはワクチンの製造のための、先に定義した変異HERV ENVタンパク質もしくはその断片を含むもしくはから構成される少なくとも1種類のタンパク質、または、該タンパク質をコードする核酸の使用に関する。
【0235】
本明細書で実証されているように、癌細胞により発現されるHERV ENVタンパク質の活性を遮断することにより、これらの細胞の免疫回避は妨げられる。したがって、免疫抑制活性の低下した変異HERV ENVタンパク質に対して効果的に誘起される免疫応答は、癌細胞により発現される野生型HERV ENVに対しても指向され、したがって、これらの癌細胞は免疫回避できなくなる。
【0236】
さらに、変異ENVタンパク質は、癌細胞により発現される野生型ENVと、その天然受容体への結合に関して競合し、したがって、該野生型ENVの活性を阻害する、分子デコイとしても作用しやすい。
【0237】
本発明はまた、免疫系の阻害を必要とする病態、例えば自己免疫疾患、アレルギー、または移植片拒絶などの予防および/または処置を目的とした医薬またはワクチンの製造のための、先に定義した免疫抑制活性の上昇した変異ENVタンパク質もしくはその断片を含むもしくはから構成される少なくとも1種類のタンパク質、または、該タンパク質をコードする核酸の使用に関する。
【0238】
本明細書で意図する移植片拒絶は、移植片対宿主疾患(GVHD)も包含する。
【0239】
本発明はまた、癌、ウイルス疾患、または免疫系の阻害を必要とする疾患、例えば自己免疫疾患、アレルギー、もしくは移植片拒絶の予防および/または処置を目的とした医薬の製造のための、先に定義した少なくとも1種類のポリペプチド、または、先に定義した該ポリペプチドを含むタンパク質、または、該ポリペプチドもしくは該タンパク質をコードする核酸の使用に関する。
【0240】
先に定義したポリペプチドおよびそれらを含むタンパク質は、いくつかの適用を有する可能性がある。野生型免疫抑制ENVタンパク質を起源とする場合、それらを直接使用して、免疫系を阻害できる。さもなければ、免疫抑制ENVタンパク質を起源とする場合であれ非免疫抑制ENVタンパク質を起源とする場合であれ、それらは、野生型ENVタンパク質の活性を妨げる、癌細胞またはウイルスにより発現される対応する野生型ENVタンパク質の天然受容体に結合させるためのデコイとして使用できる。
【0241】
本発明はまた、癌、ウイルス疾患、または免疫系の阻害を必要とする病態、例えば自己免疫疾患、アレルギー、もしくは移植片拒絶の予防および/または処置を目的とした医薬またはワクチンの製造のための、少なくとも1種類のタンパク質または該タンパク質をコードする核酸の使用に関し、該タンパク質は、
−以下の配列:
【表48】


(式中、
アミノ酸Y〜Y12は、任意のアミノ酸を示し、アミノ酸Xは、E、K、またはQを示し、場合によりアミノ酸XはAを示す)
を実質的に含む免疫抑制ENVタンパク質、
−あるいは、その断片(ただし、該断片は、アミノ酸Xおよび場合によりXを有し、該ENVタンパク質と類似した免疫抑制活性を有する)、
−あるいは、少なくとも1アミノ酸の挿入、欠失、または置換により、該ENVタンパク質またはその断片から得られるタンパク質(ただし、得られた該タンパク質は、アミノ酸Xおよび場合によりXを有し、該変異ENVタンパク質と類似した免疫抑制活性を有する)
を含むまたはから構成される。
【0242】
癌、ウイルス疾患、または免疫系の阻害を必要とする病態、例えば自己免疫疾患、アレルギー、もしくは移植片拒絶の予防および/または処置を目的とした医薬またはワクチンの製造のための、以下の配列:
【表49】


を実質的に含む免疫抑制ENVタンパク質を含むまたはから構成される少なくとも1種類のタンパク質の先に定義した使用の好ましい実施形態において、該ENVタンパク質は、
HERV−T ENV、例えば配列番号84により示される配列、または
HERV−R ENV、例えば配列番号86により示される配列、または
HERV−V ENV、例えば配列番号88により示される配列、または
HERV−R(b)ENV、例えば配列番号90により示される配列、または
HTLV−1ENV、例えば配列番号92により示される配列、または
HTLV−2ENV、例えば配列番号94により示される配列、または
FeLV ENV、例えば配列番号96により示される配列、または
PERV ENV、例えば配列番号98により示される配列、または
STLV−1ENV、例えば配列番号100により示される配列、または
FV ENV、例えば配列番号102により示される配列
から選択される。
【0243】
先に述べたポリペプチドと同様に、これらのタンパク質およびその断片もいくつかの適用を有する可能性がある。それらは、免疫系を直接阻害するために使用しても、または、癌細胞もしくはウイルスにより発現され対応する野生型ENVタンパク質の天然受容体に結合させるためのデコイとして使用してもよい。
【0244】
本発明はまた、
a.免疫抑制効果はモデュレーションするが、融合性特性、感染性特性、および免疫抑制特性は保持するように、ヌクレオチド免疫抑制モデュレートリー配列を改変すること、
b.改変遺伝子を発現させること、
c.改変ポリペプチドを精製すること、
d.改変ポリペプチドを動物に注射し、免疫応答を誘導すること、
e.改変ポリペプチドに対して産生された抗体を精製すること
を含む、抗体の産生法に関する。
【0245】
本発明はまた、
a.該抗原性および免疫抑制特性をコードする核酸配列中の、先に定義した共通アミノ酸配列をコードする免疫抑制モデュレートリー配列をコードする核酸配列を同定すること、
b.先に定義した配列X1−(Y)−C(Y)−X2中の、免疫抑制特性に影響を及ぼすアミノ酸X1およびX2をコードするコドンを同定すること、
c.得られるタンパク質が、その抗原性特性は保持するが、改変された免疫抑制特性を有するように、両方の該アミノ酸をコードするコドンを改変すること、
d.改変された免疫抑制特性を有する該抗原性タンパク質をコードする得られた改変核酸配列を発現させること
を含む、抗原性で免疫抑制性のタンパク質の抗原性特性は保持しつつ、その免疫抑制特性をモデュレーションする方法も提供する。
【0246】
その融合性特性、感染性特性および抗原性特性は保持しつつ、さらなる感染性特性および融合性特性を有する抗原性で免疫抑制性のタンパク質の免疫抑制特性をモデュレーションする具体的な方法は、
a.先に定義したものと類似したアミノ酸配列をコードするenv遺伝子の免疫抑制モデュレートリー配列を同定すること、
b.得られたタンパク質が、その融合性特性、感染性特性および抗原性特性は保持するが、その免疫抑制特性が改変されているような、免疫抑制特性に影響を及ぼすアミノ酸をコードするコドンを改変すること
を含む。
【0247】
本発明はまた、
a.抗原性で免疫抑制性のタンパク質の免疫抑制特性はモデュレーションするが、その抗原性特性は保持するように、抗原性で免疫抑制性のタンパク質をコードする遺伝子を改変すること、
b.組換え細胞株において改変遺伝子を発現させ、改変プロウイルスゲノムを取り込んだ弱毒組換えウイルス粒子を産生すること
を含む、弱毒ウイルスの調製法を提供する。
【0248】
本発明はまた、
a.抗原性で免疫抑制性のENVタンパク質の免疫抑制特性はモデュレーションするが、その融合性特性、感染性特性および抗原性特性は保持するように、さらなる融合性特性および感染性特性を有するウイルスの抗原性で免疫抑制性のENVタンパク質をコードする遺伝子を改変すること、
b.組換え細胞株において改変遺伝子を発現させ、改変プロウイルスゲノムを取り込んだ弱毒組換えウイルス粒子を産生すること
を含む、弱毒ウイルスの調製法に関する。
【0249】
本発明はまた、より一般的には、ウイルス疾患または悪性状態または腫瘍疾患の予防または処置に適した免疫原性組成物の調製のための、非免疫抑制性または低免疫抑制性のポリペプチドの使用に関する。したがって、免疫抑制特性を全く有さないかまたは免疫抑制特性の低い天然に存在するタンパク質を使用でき;それらは、HERV−WまたはHERV−Hを包含する。
【0250】
本発明はまた、
−ポリクローナルもしくはモノクローナル抗体、またはその断片、例えばFabもしくはF(ab)’断片、
−scFvポリペプチド、
−アプタマー、
−結合ペプチド
から選択される、ENVタンパク質のリガンドの調製のための、先に定義したポリペプチドまたは先に定義した変異タンパク質もしくはタンパク質の使用に関する。
【0251】
このようなリガンドおよびそれらの調製法は、当業者には公知である。
【0252】
本発明はまた、先に定義した変異ENVタンパク質または先に定義したそれらを含むタンパク質もしくはポリペプチドに対して指向される、抗体もしくはその断片、scFvポリペプチド、アプタマー、または結合ペプチドに関し、ただし、該抗体もしくはその断片、scFvポリペプチド、アプタマー、または結合ペプチドは、対応する野生型ENVタンパク質には結合しない。
【0253】
本発明はまた、ウイルスまたは腫瘍細胞の免疫抑制活性をモデュレーションしやすい化合物をスクリーニングするための、先に定義したポリペプチド、または先に定義したタンパク質の使用に関する。
【0254】
本発明はまた、ウイルスまたは腫瘍細胞の免疫抑制活性をモデュレーションしやすい化合物をスクリーニングするための、先に定義した抗体もしくはその断片、scFvポリペプチド、アプタマー、または結合ペプチドの使用に関する。
【0255】
先に定義したポリペプチド、先に定義したタンパク質、あるいは先に定義した抗体もしくはその断片、scFvポリペプチド、アプタマー、または結合ペプチドの先に定義した使用の好ましい実施形態において、スクリーニングすべき化合物は、ペプチド、特に、5〜30アミノ酸を含むペプチド、例えばコンビナトリアルペプチドライブラリーを起源とするペプチドである。
【0256】
実施例
実施例1
方法:
マウスおよび細胞株
これらの試験で使用される細胞株は:
−293T、胚腎細胞(ATCC CRL11268)、
−HeLa、ヒト類上皮癌細胞(ATCC CCL2)、
−MCA205、メチルコラントレンにより誘導されたネズミ線維肉腫細胞(ShuおよびRosenberg、1985)、
−NIH 3T3、マウス線維芽細胞であった。細胞を、10%ウシ胎児血清、ストレプトマイシン(100μg/ml)、およびペニシリン(100単位/ml)の補充されたDMEM中で培養した。
【0257】
改変タンパク質の免疫抑制効果を試験するために、Janvier(Laval、フランス)から入手した8〜12週令のC57BL/6およびBALB/cマウスを使用した。
【0258】
作製
HERV−WおよびHERV−Tのエンベロープを発現しているベクター(phCMV−envWおよびphCMV−envT)は以前に記載されている(Blaiseら、2003)。簡潔に言うと、それらは、プロモーター(ヒトサイトメガロウイルス初期プロモーター)、ウサギβ−グロビンイントロン、およびポリアデニル化配列を含む。HERV−W envのcDNAを、ベクターのEcoRI部位間に挿入した(図3A)。
【0259】
MPMVのエンベロープ遺伝子は、XhoIおよびMluI(下線)で消化した以下のプライマー:
【表50】


を使用してPCRによりpTMOベクターから回収し、同じ酵素で消化したphCMV−envTにクローニングした。MPMVのエンベロープ遺伝子を含み発現しているphCMV−envMPMV発現ベクターが得られた(図2A)。これらのベクターは、細胞間融合アッセイに、および、偽型の産生に使用された。
【0260】
以下の構造物の記載の中のアミノ酸位置は、鋳型としてのスイスモデルソフトウェアにより作成したHERV−WのTMサブユニットのモデル構造(図8)(http://swissmodel.expasy.org/)、および、モロニーネズミ白血病ウイルスTMサブユニットの構造(プロテインデータバンクID:1MOF(1)、http://www.resb.org/pdf/)にしたがって番号を付した。それ故、NCBI配列アクセッション番号に開示された対応するエンベロープのSU−TM前駆体で同定された場合、このナンバリングスキームに従う位置44および50は以下の位置を示す:
【表51】

【0261】
NCBI URL:http://www.ncbi.nlm.nih.gov:80/entrez/
(1)Fass D、Harrison SC、Kim PS、Nat Struct Biol.1996年5月;3(5):465-9。
(2)Blond,J.L.、Beseme,F.、Duret,L、Bouton,O.、Bedin,F.、Perron,H.、Mandrand,B.、およびMallet,F.J.、Virol.73(2)、1175-1185(1999)。
(3)Petropoulos,C.J.、付録2:レトロウイルス分類学、タンパク質構造、配列、および遺伝子マップ、PETROVIRUSES:757、Coffin,J.M.(編);コールドスプリングハーバーラボラトリープレス、コールドスプリングハーバー、ニューヨーク、NY州、米国(1997)。
【0262】
phCMV−envWの部位特異的変異誘発は、鋳型としての一本鎖ウラシル付加DNAおよび変異原性オリゴヌクレオチド(変異は太字)を使用して、以前に記載(Kunkelら、1987)された通りに行ない、該変異原性オリゴヌクレオチドには、スクリーニングをより容易にするために制限酵素部位(下線)も沈黙的に導入された:
【表52】

【0263】
phCMV−envMPMVの部位特異的変異誘発は、合成オリゴヌクレオチドの代わりに、沈黙的にXhoIを導入するアンチセンスプライマー
【表53】


を、変異原性プライマーサイレント:
【表54】


に連結させたPCR断片を使用することを除き同じ方法により行なった。
【0264】
pDFG−envWの変異誘導体を、pDFG−envWのBstBI−BsrGIおよびBsrGI−BstEII断片と、phCMV−envWのBstEII−BstBI断片との3重ライゲーションにより作成した。
【0265】
pDFG−envMPMVおよびその変異誘導体(図2B)は、phCMV−envMPMVのAgeI−MluI断片を、同酵素で消化されたpDFG−MoTMTagベクターにライゲーションすることにより作成した。pDFGプラスミドは、LTR、スプライス部位(SDおよびSA)、psi配列、およびIRES(内部リボソーム進入部位)エレメント、並びに選択遺伝子(抗生物質耐性遺伝子)を含む、エンベロープ発現ベクターである。これらのベクター(図1B、2Bおよび3B)は、エンベロープ発現腫瘍細胞およびインビボアッセイにおいて使用された。
【0266】
融合性特性:細胞間融合アッセイ
HeLa細胞を、リポフェクタミン(インビトロジェン製、5×10個の細胞あたり2μgのDNA)を使用してトランスフェクトした。エンベロープ糖タンパク質の融合活性を、対応する発現ベクターによるトランスフェクションの24時間後に測定した(図1A、2A、および3A)。合胞体を可視化するために、細胞をメタノール中で固定し、製造業者の指示にしたがって、メイグリュンワルドおよびギームザ溶液(シグマ製)を添加することにより染色した。細胞個体群中の融合事象の比率を示す融合指数は、[(N−S)/T]×100(ここで、Nは、合胞体中の核の数であり、Sは、合胞体の数であり、Tは、計測された核の総数である)として定義された(図4)。エンベロープタンパク質を発現していないphCMVベクターを、陰性対照として使用した。
【0267】
感染性特性:感染性アッセイ
エンベロープ糖タンパク質(野生型または変異型)を発現している7.5×10個の293T細胞を、リン酸カルシウム法を使用して、1.75μgのCMV−gag−pol−MoMLV、1.75μgのMFG−nls−lacZ、および0.55μgのphCMVベクターと共に同時トランスフェクトした。MFG−nls−lacZベクターは、MoMLV LTR、psi配列、NLS(核内移行シグナル)、およびLacZ遺伝子を含んでいた。偽型(別のウイルス株由来のエンベロープタンパク質を有するMoMLVのウイルス体)を含む上清を2日後に回収し、ろ過し、培養培地中に連続希釈し、4μg/mLのポリブレンの存在下で96ウェル培養プレート中の4×10個のHeLa細胞の感染に使用した。プレートを2日後に固定し、X−galで1時間着色させ、β−ガラクトシダーゼを発現する感染細胞の斑点を計測して、偽型力価を判定した(上清1mlあたりの感染性粒子の数)。エンベロープタンパク質を発現していないphCMVベクターを、陰性対照として使用した。
【0268】
免疫抑制特性:エンベロープ発現腫瘍細胞の確立およびインビボアッセイ
リン酸カルシウム法を使用して、1.75μgのCMV−gag−pol−MoMLVおよび0.55μgのCMV−envAmphoと共に、7.5×10個の293T細胞に一過性に同時トランスフェクトすることにより、pDFGレトロウイルス発現ベクター(1.75μg)をパッケージングした。上清を2日後に回収し、ろ過し、Mangeney & Heidmann、1998に記載されているように、4μg/mlのポリブレンの存在下で、5×10個のMCA205腫瘍細胞の感染に使用した。細胞を、選択培地(400単位/mLのヒグロマイシン)中で2週間維持した。インビボアッセイのために、腫瘍細胞をトリプシン処理し、遠心分離にかけ、1×10個の細胞/mLの濃度でPBS中に再懸濁した。100μLの各懸濁液を、3匹のC57/BL6および8〜10匹のBALB/cマウスの剃った右側腹部に皮下注射した。腫瘍確立は、触診により判定し、腫瘍面積(mm)は、垂直の腫瘍直径の測定により判定した(図5)。免疫抑制指数は、i=(Senv−Sなし)/Sなし(ここで、Senvは、エンベロープタンパク質を発現している腫瘍により到達される最大面積であり、Sなしは、エンベロープタンパク質を発現していない腫瘍(陰性対照)により到達される最大面積である)として定義される。
【0269】
結果
1.様々な野生型エンベロープタンパク質の感染性特性の判定
エンベロープタンパク質の感染性を、NIH3T3細胞(MoMLV)またはHeLa細胞(HERV−WおよびMPMV)において試験した。図6は、3種の野生型エンベロープタンパク質(1、5、および9列)が感染を持続できたことを示す。
【0270】
様々な野生型エンベロープタンパク質の免疫抑制作用の判定
MPMVレトロウイルスおよびHERV−Wの免疫抑制作用を、同種balb/cまたは同系C57BI/6マウスに注射されたMCA2005細胞で試験した。図7は、MPMVを発現している腫瘍(黒棒)は、HERV−Wを発現している腫瘍(白棒)に対して大きかったことを示す。本発明者らは、MPMVエンベロープの免疫抑制作用を確認する一方で、HERV−Wは、同種宿主を免疫抑制できなかったことを示した。
【0271】
結論すると、MPMVおよびHERV−Wのエンベロープタンパク質は、融合性および感染性の点で同じ特性を有しているが、その免疫抑制特性に関しては異なっていた。
【0272】
3.免疫抑制特性の変化したエンベロープタンパク質を同定するための戦略
HERV−WおよびMPMVの異なる特性に基づいて、本発明者らは、免疫抑制のモデュレーションに関与している可能性のある、アミノ酸配列中のドメインを同定することを試みた。
【0273】
MoMLVの結晶化サブドメインであるTMドメインのアミノ酸30からアミノ酸47の間の推定17アミノ酸免疫抑制ドメイン(ISU)、それぞれの2個のロイシン(L)が、以前に、いくつかの刊行物において特徴づけられた(Blaiseら、2001 J Virol.82、1597-1600)。
【0274】
2ステップの戦略を適用した:最初のステップは、得られるタンパク質(すなわち改変タンパク質)が、対応する非改変タンパク質の融合性特性および感染性特性を保持するように、エンベロープタンパク質を改変することであった。一旦このような改変エンベロープタンパク質が同定されると、その免疫抑制作用を試験し、非改変タンパク質の免疫抑制作用と比較した。
【0275】
4.改変HERV−Wの研究
1つ難しい点は、TMサブユニットのアミノ酸組成を改変する以前の試みにより、SU−TMが会合しなくなり、感染性が変化したという事実である。例えば、MPMV免疫抑制ドメインのロイシン30からトレオニン40までの欠失により、エンベロープタンパク質の感染性は完全に抑止された(Brodyら、1992 J.Virol 66、3466-3475;Brodyら、1994、Virology 202、673-683)。
【0276】
これらの不成功な試みにも関わらず、本発明者らは、ISUドメインのアミノ酸組成、および、ドメイン構造に対する該組成の可能性ある影響を研究し、インビボで観察される免疫抑制特性に関与する該ISUドメインの新しい定義に到達した。本発明者らはさらに、タンパク質のアミノ酸配列中のいくつかの位置は、これらの位置におけるアミノ酸残基の性質と共に、免疫抑制作用にとって重要であると判断した。
【0277】
本発明者らは特に、例えばMPMVの対応する残基による所定の残基の置換を使用して、免疫抑制とさせる、非免疫抑制性エンベロープタンパク質、すなわちHERV−WEnvタンパク質のアミノ酸配列中のいくつかの改変を設計した。
【0278】
a.感染性特性
HERV−WエンベロープのA36GおよびT47I置換は、エンベロープタンパク質の感染性、融合性および免疫抑制作用を改変しなかった(表1)。これらの2個のアミノ酸は、これらの機能に関する決定基ではないようであった。逆に、R44QまたはF50A置換は、エンベロープタンパク質の感染性特性および融合性特性の両方を強く変化させた(表1、図6の2および3列)。
【0279】
R44QおよびF50A置換の両方を含む二重変異体を作成した。驚くべきことに、二重変異体は、野生型ポリペプチドと類似した融合性特性および感染性特性を保持していた(表1および図6の4列)。
【0280】
この結果およびMoMLVのエンベロープに見られるいくつかの相同的位置(図8)を使用したこの改変エンベロープタンパク質の設計により、これらの2個のアミノ酸は、該エンベロープタンパク質のTM単位構造におけるそのそれぞれの位置およびその性質の両方のために、共に相互作用する可能性があることが示唆された。この相互作用の可能性は、この変異対の補完的な挙動を説明し得る。これは、以前の試みではこのようなアミノ酸を同定できなかったので意外であった。
【0281】
b.免疫抑制特性
先に述べたのと同じくらい驚くべき別の結果が、免疫抑制作用の研究から得られた。実際に、野生型HERV−Wエンベロープタンパク質は、腫瘍のサイズから見て免疫抑制性ではなかったが、HERV−W二重変異体は、野生型MPMVエンベロープタンパク質よりも免疫抑制性の程度が高かった(表1および図7、白棒)。
【0282】
さらに、本発明者らは、配列中の2個のアミノ酸の位置を同定し、その一方は、以前には、ISUドメインの一部を形成するとは報告されておらず(位置50)、これらは共に、HERV−Wエンベロープタンパク質の免疫抑制作用のモデュレーションに関与していることが判明した。
【0283】
【表55】

【0284】
5.改変レトロウイルスエンベロープタンパク質の研究
これらのアミノ酸残基は、免疫抑制決定基に属するという事実を確認するために、位置44(EまたはQ)および50(F)に類似のアミノ酸を含む他のレトロウイルスをスクリーニングした。これらの中のいくつかのレトロウイルスが同定され、図9に開示された:モロニーネズミ白血病ウイルス(MoMLV)、フレンドウイルス、ネコ白血病ウイルス(FeLV)、ヒトT細胞リンパ向性ウイルス1型(HTLV−1)およびサルT細胞リンパ向性ウイルス1型(STLV−1)。
【0285】
それらの中の2個のMPMVおよびMoMLVウイルスにおいて、アミノ酸残基44および50を、HERV−Wに見られる対応するアミノ酸により置き換えた。以下の構造物を作成した:E44R、A50F、およびE44R/A50F(MoMLV)、並びに、Q44R、A50F、およびQ44R/A50F(MPMV)。
【0286】
a.感染性特性
興味深いことに、MoMLVでは、一重変異体はその感染性特性を失い(表2および図6の6および7列)、一方、二重変異体は、野生型タンパク質と同じ特性を有していた(表2および図6の8列)。
【0287】
MPMVでは、変異体と野生型の間に僅かな差異が観察されたが、二重変異体のみが、野生型タンパク質と厳密に同一である特性を提示した(表3および図6の10〜12列)。
【0288】
b.免疫抑制特性
MoMLVでは、インビボにおいて、E44R置換または二重変異体(E44R+A50F)を有するタンパク質の両方の、その免疫抑制特性が低下していた(表2)。
【0289】
MPMVでは、インビボにおいて、Q44R置換または二重変異体(Q44R+A50F)を有するタンパク質の両方の、その免疫抑制特性が低下していた(表3)。
【0290】
【表56】

【0291】
【表57】

【0292】
合わせて考えると、これらの全ての結果により、以下の結論を引き出すことができた:
【0293】
第一に、レトロウイルス免疫抑制エンベロープタンパク質の免疫抑制特性を改変するには単一変異で十分であるようであった。実際に、44位のグルタミンまたはグルタミン酸を、アルギニンで置き換えると、変異体の免疫抑制挙動は低下した。しかし、融合性特性および感染性特性も、消失しないまでも、強く低下した(MPMV)。
【0294】
第二に、二重変異体(44および50位)は、対応する野生型エンベロープタンパク質に対して免疫抑制特性が低下していた。興味深いことに、MPMV二重変異体は、野生型タンパク質と同程度効率的な融合性特性、および、高い感染性特性を有していた。ウイルス粒子および生ワクチンの製造におけるこのようなタンパク質に対する関心は有望であった。
【0295】
実施例2
方法
マウスおよび細胞株:10週令のスイスマウス(FV許容)を、Janvier(Laval、フランス)から入手した。細胞株293T(ATCC CRL11268)、HeLa(ATCC CCL2)、NIH/3T3(ATCC CRL−1658)およびMCA205(REF)を、10%ウシ胎児血清、ストレプトマイシン(100μg/ml)およびペニシリン(100単位/ml)の補充されたDMEM中で培養した。
【0296】
作成:プラスミドp57(Oliffら、J.Virol 33、475-86(1980))およびpET28(+)b(ノバゲン製)を使用した。
phCMV−envFVを、PCR鋳型としてのp57並びにプライマー16および17を使用して、phCMV−envMPMV(実施例1)と同様に作成した。ClaI/AvrII開裂ベクターに、2種のPCR産物(第一のものはClaIで消化、第二のものはAvrIIで消化)を挿入することにより、変異誘導体を作成した。これらの断片を、E14R変異(これは、全長ENVのE561変異に相当する)に関してはリン酸化プライマー対1−2および3−4、A20F変異(これは全長ENVのA567F変異に相当する)に関しては1−5および3−6、並びにE14R+A20F変異に関しては1−2および4−6を用いて作成した。pDFG−envFVおよびその変異誘導体は、phCMV−envFVのAgeI/MluI断片を、同酵素で消化されたpDFG−MoTMTagに挿入することにより作成した。二重変異体p57は、二重変異体phCMV−envFVのBstZ11I/BsmI断片を、同酵素で消化されたp57に挿入することにより作成した。
【0297】
FVエンベロープタンパク質のSUサブユニットのための細菌発現ベクターは、鋳型としてのphCMV−envFVおよびプライマー対7−8を用いて作成され、NcoIおよびXhoIで消化されたPCR断片を、同酵素で消化されたpET28(+)bに挿入することにより作成した。
【0298】
FVエンベロープタンパク質のSUおよびTMサブユニットのための細菌発現ベクターは、鋳型としての野生型もしくは二重変異体phCMV−envFVおよびプライマー対7−8もしくは9−10を用いて作成され、NcoIおよびXhoIで消化されたPCR断片を、同酵素で消化されたpET28(+)bに挿入することにより作成した。
【0299】
【表58】

【0300】
ウイルスの産生、定量、および不活性化:7.5×10個の293T細胞を、リン酸カルシウムトランスフェクションキット(インビトロジェン製)を使用して、4μgのp57DNAを用いてトランスフェクトした。48時間後、細胞懸濁液を使用して、4μg/mLのポリブレンの存在下で5×10個のNIH/3T3細胞を感染させ、感染細胞を、さらに4日間培養した。ウイルス粒子を細胞上清から回収し、超遠心分離により濃縮し、PBS中に再懸濁し、凍結させた。PBS中のウイルス懸濁液を、0.5mW/cmでUV光に30分間さらすことにより不活性化した。
【0301】
免疫抑制アッセイ:MCA205細胞を、エンベロープ遺伝子発現ベクターまたは空ベクターを用いて形質導入し、同種マウスに移植し、そこで実施例1に記載のように、一過性腫瘍を確立した。免疫抑制指数は、(Aenv−Aなし)/Aなし(ここで、AenvおよびAなしは、エンベロープ遺伝子および空カセットをそれぞれ発現している細胞を用いて得られた平均腫瘍面積である)として計算された。
【0302】
細胞間融合および感染性アッセイを、実施例1に記載したように、エンベロープ発現ベクターとしてphCMV−envFVおよびその変異誘導体を用いて行なった。
【0303】
ウイルス負荷アッセイ:2μlの濃縮ウイルスまたは20μlの細胞上清もしくは血清から、RNAを、RNAイージーミクロキット(キアゲン製)を使用して抽出し、MoMuLV逆転写キット(アプライド製)およびプライマーとしてのランダムヘキサマーを使用して逆転写し、プラチナSYBRグリーンqPCRキット(インビトロジェン製)およびプライマー
【表59】


を使用して、リアルタイムPCRによりcDNAを定量した。
【0304】
組換えタンパク質:組換えタンパク質を、発現ベクターとしてpET28(+)b(ノバゲン製)を使用して、BL21(DE3)E.coli細胞(ストラタジーン)において産生した。SUサブユニットは封入体として産生され、野生型および変異型TMサブユニットは可溶性物質として産生された。それらを、製造業者の指示にしたがって、ハイトラップキレーティングHPカラム(アマシャム製)で精製した。TMサブユニットを、スーパーデックス75HR10/30カラム(アマシャム製)でさらに精製し、主要な三量体形態を単離し、そのLPS含量を、LAL QCL−1000キット(カンブレックス製)を使用して定量し、E.coliLPS(0111:B4株、シグマ製)の添加により5μg/mgに調整した。
【0305】
マウス免疫化:マウスに、100μgの組換えTMサブユニットまたは1.5×1010個のRNAコピーの無傷もしくはUVで不活性化されたFVウイルス粒子を1週間間隔で3回注射した。100μgのCpG(ホスホロチオエートオリゴヌクレオチド TCCATGACGTTCCTGACGTT(配列番号144))が、アジュバントとして系統的に添加された。血清を最後の免疫化から4日後に回収した。不活性化ウイルス粒子で免疫化されたマウスに、10個のRNAコピーの野生型FVで攻撃し、攻撃後の血清を5日後に回収した。
【0306】
免疫学的FV検出:組換えSUサブユニットが、発現ベクターとしてpET28(+)b(ノバゲン製)を使用して、BL21(DE3)E.coli細胞(ストラタジーン製)において封入体として産生され、製造業者の指示にしたがってハイトラップキレーティングHPカラム(アマシャム製)で精製され、これを使用して2μg/mlの濃度でMaxiSorpマイクロプレート(Nunc製)を覆った。連続希釈血清中のIgG水準を、HRP(アマシャム製)にコンジュゲートさせた抗マウスIgG抗体、および、色素生産性試薬としてのOPD(シグマ製)を使用して定量した。
【0307】
結果
1.エンベロープタンパク質により誘導される免疫抑制の消失により、感染性レトロウイルスの完全な免疫拒絶がなされた:実施例1で例証された免疫抑制と感染性の間の遺伝子的な二重変異により生じる分離により、そのエンベロープタンパク質の免疫抑制活性は欠いているが、依然として複製性であり感染性である完全なレトロウイルスを作成する可能性が開拓された。
【0308】
フレンドネズミ白血病ウイルス(FV)がモデルとして選択された。なぜなら、このマウスゲノムは、インビボでの検出を損なう関連する内因性レトロウイルスを含まないからである。
【0309】
FVエンベロープの重要な残基を、シンシチン−1(HERV−W ENV)の残基と置き換え、そして、MPMVエンベロープと同様に、二重変異E14R+A20F(これは、全長ENVのE561R+A567F変異に相当する)が、感染性を変化させることなく、免疫抑制を復帰させることを確認した(図11Aおよび11B)。FV分子クローン57において、野生型エンベロープ遺伝子を、その非免疫抑制変異体に置き換え、各種類のレトロウイルス粒子がインビトロで産生された。ウイルス収量は、細胞上清中のウイルスRNAの定量的RT−PCRアッセイにより測定したところ類似していた。
【0310】
期待されたとおり、両方のウイルスタイプが、NIH/3T3細胞でのインビトロ感染アッセイにおいて同じ増殖反応速度を示し(図11C)、インビボで5グレイで照射された免疫低下マウスに注射した場合も同様に示した(図12A)。
【0311】
正常なマウスでは、野生型FVは、最初に、感染前期中に全てのマウスにおいて高度なウイルス血症を確立した(ウイルス注射の7日後、図12A〜12B)。この期間の後に持続的な感染が確立され、マウスは、非類遺伝子性の非近交系マウスで期待された通りに、様々な程度でウイルス複製を制御できた。4ヵ月後、感染マウスの80%が、赤白血病症候群を呈し、ヘマトクリット水準は35%未満であった。
【0312】
これに対し、変異非免疫抑制FVは、非常に高用量のウイルスコピー(10個のRNAコピー、10のID50)の注射から14日後という早い時期においても検出不可能であり、病態の根拠は認められなかった。特筆すべきことには、FVエンベロープタンパク質に対して指向されるIgGは、野生型FVに感染させたマウスにおいては持続的に検出されたが、二重変異体FVに感染させたマウスにおいては一過性にしか検出されず(図13)、このことは、変異ウイルスが完全に排除されたことを示す。
【0313】
結論すると、本実験は、エンベロープにより駆動される免疫抑制が存在しないことにより、進入ウイルスの完全な免疫拒絶がもたらされたので、エンベロープにより駆動される免疫抑制は、FV感染に不可欠であることを実証した。
【0314】
2.免疫抑制陰性組換えエンベロープタンパク質および不活性化ウイルス粒子の免疫原性の上昇:標的細胞へのウイルスの進入において重要な要素として、レトロウイルスエンベロープタンパク質は、組換えタンパク質として、その断片として、または欠陥ウイルスベクターの有する遺伝子として、あらゆるワクチン製剤に系統的に含まれる。エンベロープタンパク質により仲介される免疫抑制は、ISUを含む免疫原に対して高まる応答を阻害する可能性があり、したがって、そのワクチン効力は低下する可能性があったと疑われる。
【0315】
この仮説を試験するために、2種類のISU含有免疫原を作成した:1)精製時に同一の挙動を示す可溶性(したがって正しく折りたたまれている)で三量体の形態として、E.coliにおいて産生される、野生型もしくは変異型FVエンベロープタンパク質のTMサブユニットのエクトドメインに相当する組換えタンパク質;2)そのエンベロープタンパク質の天然構造を保存するために、無傷であるかまたはUV光にさらされることにより不活性化された、野生型および変異型FV粒子。
【0316】
図14Aに示されるように、変異非免疫抑制エンベロープタンパク質のみが、IgG水準の高いこのような応答を生じた。どの場合においても、野生型または変異型TMサブユニットで覆膜されたプレートで得られたシグナルは、定量的に同じであり、このことは、マウス血清中の抗TM抗体は、優先的に、ISUそれ自体に指向されるのではなく、むしろ、TMサブユニット内の他のエピトープに対して指向されることが示された。
【0317】
したがって、FVエンベロープタンパク質に導入された二重変異体は、そのISUを高度に効果的なエピトープへと変換させなかった。さらに、野生型エンベロープタンパク質により生じたIgM水準は、その非免疫抑制変異体対応物により生じたその水準よりもはるかに高かった。これらの結果により、FVエンベロープタンパク質の免疫抑制ドメインは、免疫系を直接阻害し、この作用は、標的細胞におけるウイルスの進入および複製も必要とせず、またさらには、TMサブユニットのみ以外の他のウイルス成分さえも必要としないことが示唆された。
【0318】
図14Bは、MoMLV ENVおよびHERV−W ENVを用いてこれらの結果を確認した。MoMLV ENVの野生型組換えTMサブユニットに対してほぼ全くIgG応答は誘起されず、一方、非免疫抑制二重変異体(実施例1参照)は、強いIgG応答を示した。さらに、期待された通り、免疫抑制活性が天然的に欠けているHERV−W ENVのTMサブユニットに対するIgG応答は見られたが、一方、免疫抑制二重変異体(実施例1参照)は、ほんの僅かなIgG応答しか誘起しなかった。
【0319】
3.エンベロープタンパク質により誘導される免疫抑制の消失は、不活性化ウイルス粒子のワクチン効力を向上させた:このISUの抗原性を阻害する作用は、免疫抑制エンベロープタンパク質を含むあらゆるワクチン製剤の効力を低下させる可能性があるのではないか、そしてこれにより、二重変異により誘導されるこの作用の特異的破壊は、ワクチン効力を向上させる可能性があるのではないかと疑われる。
【0320】
この仮説を試験するために、野生型および二重変異不活性化ウイルス粒子で、または、無傷二重変異ウイルス粒子で免疫化されたマウスに、無傷野生型FVで攻撃した。その後、血清ウイルス負荷量を、攻撃の5日後の極大ウイルス血症時にアッセイした(図15)。
【0321】
ウイルスは、野生型不活性化FVで免疫化された全てのマウスにおいて検出可能であったが、幾何学的平均ウイルス負荷量は、アジュバントのみで免疫化された対照マウスよりも50倍低く、このことから、野生型粒子での免疫化により有意ではあるが不完全な防御が付与されたことが示された。これに対し、非免疫抑制不活性化二重変異体FVで免疫化された14中6匹のマウスのウイルス負荷量は、アッセイの検出閾値未満であり、幾何学的平均ウイルス負荷量は、アジュバントのみで免疫化されたマウスに対して7500倍低かった。さらに、無傷非免疫抑制二重変異体FVで免疫化された14中12匹のマウスのウイルス負荷量は、検出閾値未満であり、幾何学的平均ウイルス負荷量も、検出閾値未満であった。
【0322】
これらの結果により、エンベロープタンパク質の正統的な機能(したがって構造)を保存している変異による免疫抑制の破壊は、このようなタンパク質に基づいたワクチン製剤の効力を向上させることが示された。
【0323】
実施例3
方法
マウスおよび細胞株:8〜12週令のC57BL/6およびSCIDマウスを、Janvier(フランス)から入手した。B16(C57BL/6起源のネズミメラノーマ細胞株、EACC 94042254)および293T(ヒト胚腎細胞、ATCC CRL11268)を、熱で不活性化された10%ウシ胎児血清および抗生物質の補充されたDMEM中で維持した。
【0324】
作成:plncx由来のplncxH1発現ベクター(MillerおよびRosman Biotechniques 1989;7:989-90)およびpSUPER(Brummelkampら、Science 2002;296:550-3)ベクターを作成し、MelARV(開始コドンから1220〜1238のnt位置のgag配列内のゲノム転写物に標的化)に対して、または対照としての緑色蛍光タンパク質転写物(開始コドンから215〜233のnt位置)に対して指向される短い転写物を作成した。それらは、最初に、アニーリングした64merのオリゴヌクレオチド(図1Bの配列)を、BglIIおよびHindIII部位で開裂したpSUPERに挿入し、その後、これらの構造物に由来するBamHI−HindIII断片を、対応する部位で開裂したplncxに導入することにより得られた。MelARVウイルスRNAから作成したRT−PCR産物を、エンベロープ5’末端においてAgeI含有プライマーおよびエンベロープ3’末端においてXhoI含有プライマーを使用して、同部位で開裂したヒグロマイシン含有pDFGベクター(MangeneyおよびHeidmann Proc Natl Acad Sci USA 1998:95:14920-14925)に導入する(または導入しない)ことにより、MelARVエンベロープ(pDFG MelARVenv)および対照(pDFG なし)用の発現ベクターを作成した。
【0325】
ERVKDB16腫瘍細胞の確立:7.5×10個の293T細胞を、plncxH1ベクター(1.75μg)およびMLVタンパク質用の発現ベクター(両種指向性MLVエンベロープベクターに関しては0.55μg、MLV gagおよびpolベクターに関しては1.75μg、Blaiseら、J Virol 2004;78:1050-1054参照)を用いて同時トランスフェクトした。トランスフェクションから36時間後、ウイルス上清を、B16腫瘍細胞の感染のために回収した(5×10個の細胞あたり2.5mlの上清、8μg/mlのポリブレンを含む)。細胞を、選択培地(1mg/mlのネオマイシン)に3週間維持した。いくつかの実験において、pDFG MelARVenv発現ベクター(または対照pDFG なし)を、同じプロトコルを使用して細胞に追加的に導入し、感染細胞を、300単位/mlのヒグロマイシンで選択した。
【0326】
MelARVタンパク質の発現:MelARV発現の解析は、ウェスタンブロット解析により行なった。10個の細胞の上清を回収し、100×gで10分間かけて遠心分離にかけ、ろ過し、SW41ベックマンローター(150,000×g、1時間、4℃)での超遠心分離により濃縮した。ペレットを、溶解緩衝液に再懸濁し、SDS−PAGEにかけ、ブロットし、抗Env mAb(Ciancoloら、J Exp Med 1984;159:964-969)および抗Gagヤギ血清(Viromed Biosafety Labs)を用いて判別した。
【0327】
インビトロでの形質転換アッセイ:対照B16細胞およびERVKD−B16細胞の両方を、軟寒天に蒔き、足場依存的増殖の効率を判定した。細胞(2×10または2×10)を、10%ウシ胎児血清の補充されたDMEM中0.5%寒天の固層上に重層された、10%ウシ胎児血清を含むDMEM中0.33%の寒天5mlに蒔いた。培養を、4週間維持し、コロニーをINT溶液(シグマ・アルドリッチ製)で染色し、その後、計測した。
【0328】
インビボでの腫瘍進行:インビボでのアッセイのために、腫瘍細胞を、3回PBSで洗浄し、トリプシン処理をせずに剥がし、マウスの右側腹部の剃られた領域に皮下接種した。腫瘍確立は、触診により判定し、垂直の腫瘍直径を測定することにより腫瘍面積を判定した。
【0329】
CD4CD25T細胞の精製および同系C57BL/6マウスへの養子移入:CD4CD25細胞を、17日前に2×10個のB16細胞の移植されたC57BL/6マウスの脾臓から新しく単離した。細胞を、MACS磁気ビーズ(マウス調節T細胞単離キット、Miltenyi Biotech)を使用して、製造業者の指示にしたがって、陰性および陽性選択の2ステップ手順により精製した。5万個の精製リンパ球を、未処置C57BL/6マウスの静脈内に導入した。レシピエントマウスの右側腹部に、同じ日に、2×10個の対照B16細胞またはERVKDB16細胞で攻撃した。
【0330】
結果
1.ERVのノックダウンにより、B16メラノーマ細胞の形質転換された表現型は改変されなかった。
MelARVエレメントのウイルスゲノムおよび対照としての関係ないgfp遺伝子に対して指向される短い二本鎖RNA(dsRNA)を産生する安定なベクターに基づく、RNA干渉アプローチを使用した。使用されたプラスミドの手順および構造の原理は、図16A〜16Bに示した。図16Cにより、ERV特異的dsRNAベクターは、形質導入B16細胞(ERVKDB16細胞)におけるERV発現をほぼ完全に消失させ、対照の形質導入細胞(対照B16細胞)に対して、EnvおよびGagウイルスタンパク質の両方の量の10倍を超える低下をもたらしたことが明確に示された。次のステップとして、ERVKDB16細胞および対照B16細胞の形質転換表現型を、インビトロおよびインビボの両方でアッセイした。インビトロでの足場依存的増殖速度を、半固体培地に撒いた後に測定した(軟寒天アッセイ)。図17Aに示されているように、ERVKDB16細胞株は、対照B16細胞と類似したコロニー数を生じた。インビボでの2個の細胞個体群の増殖速度を、X線照射マウスまたはSCIDマウスに移植した後に解析した。図17Bに示されているように、両方の細胞個体群が、類似の増殖速度を有する形質転換表現型を有していた。共に、これらの結果により、MelARV内因性レトロウイルスのノックダウンは、メラノーマ細胞の形質転換状態に対して全く効果を及ぼさないことが示された。
【0331】
2.ERVのノックダウンは、インビボでB16腫瘍細胞の増殖を阻害し、免疫応答性を有する宿主の生存率を高めた。
腫瘍細胞が、インビボで、ERV依存的機序を通じた抗腫瘍応答を圧倒する可能性があるかどうかについて調べるために、本発明者らは、C57BL/6免疫応答性マウスに対照B16細胞およびERVKDB16細胞を注射することにより、腫瘍進行に対する、MelARVのノックダウンの影響を探索した。図18Aに示されているように、期待された通り、対照B16細胞の増殖により、大半の動物において大きな腫瘍がもたらされ、一方、ERVKDB16細胞により、小さなサイズの腫瘍が、少数の移植マウスだけに生じた。腫瘍細胞の増殖の差異はまた、動物生存率の程度によっても明確に実証され(図18B):早くも70日後に、対照B16細胞の移植されたマウスの90%がその腫瘍により死滅し、一方、ERVKDB16細胞の移植されたマウスの80%が生存し腫瘍を有していなかった(依然として130日後までそうであった)。観察された効果に関与するMelARV遺伝子を同定する試みにおいて、MelARVenv遺伝子のみのための発現ベクター(dsRNA標的化配列を欠失)を、ERVKDB16細胞に戻して導入した。その後、得られた二重形質導入ERVKD+env(または対照)B16細胞を、C57BL/6マウスに移植した。図18Cに示されているように、これによりノックダウン効果は部分的に復帰し、Env発現細胞の移植されたマウスの50%がすでに70日後に死滅していた。この復帰により、env遺伝子が、少なくとも部分的に、腫瘍免疫回避に関与していることが示された。復帰の一部の効果は、外因性ベクターにより発現された場合のEnvタンパク質の発現の低さにより説明される可能性が最も高かった(図19)。
【0332】
この方向に沿って、MelARVに標的化され、免疫応答性を有するマウスにB16細胞が移植された12日後に腹腔内注射された、合成siRNAを使用した最初のシリーズの実験により、実際に、対照siRNAを注射されたマウスに対して、腫瘍増殖が1/3阻害され(図20A)、補足図20Bで示されているように、再現的に生存延命率が増加したことは興味深い。
【0333】
本データにより、腫瘍は、ERVのエンベロープを発現することにより免疫系を圧倒し、ERV発現を遮断することにより腫瘍拒絶が増強されることが実証された。
【0334】
ヒトにおいて、主に胎盤および精巣の正常組織に限定されるERVenv遺伝子の発現は、精上皮腫およびメラノーマなどの数種類の腫瘍においても観察できることが特筆される。このようなHERV ENVタンパク質は、免疫抑制性であることが示されている。それ故、これらのENVタンパク質の発現または活性を阻害することは、ENV発現腫瘍に対する免疫応答を増強するための見込みあるアプローチである。このような腫瘍ENVタンパク質活性の阻害は、例えば、本発明に記載の免疫抑制活性の欠失した変異ENVタンパク質を用いた予防的もしくは治療的ワクチン接種により誘起される免疫応答により、または、腫瘍ENVタンパク質に直接結合する化合物により行なうことができる。
【図面の簡単な説明】
【0335】
【図1A】MoMLVのenv核酸を含むベクターまたはそれから得られるポリペプチドの図。これらのベクターに含まれる核酸は、MoMLVの野生型エンベロープタンパク質(envMoMLV)またはX1および/またはX2をコードするコドンの置換によりそれから得られた本発明のポリペプチドをコードしている。図1Aは、phCMV−envMOMLVベクターを示す。図1Bは、pDFG−envMoMLV−iresHygroベクターを示す。
【図1B】MoMLVのenv核酸を含むベクターまたはそれから得られるポリペプチドの図。これらのベクターに含まれる核酸は、MoMLVの野生型エンベロープタンパク質(envMoMLV)またはX1および/またはX2をコードするコドンの置換によりそれから得られた本発明のポリペプチドをコードしている。図1Aは、phCMV−envMOMLVベクターを示す。図1Bは、pDFG−envMoMLV−iresHygroベクターを示す。
【図2A】MPMVのenv核酸を含むベクターまたはそれから得られるポリペプチドの図。これらのベクターに含まれる核酸は、MPMVの野生型エンベロープタンパク質(envMPMV)またはX1および/またはX2をコードするコドンの置換によりそれから得られた本発明のポリペプチドをコードしている。図2Aは、phCMV−envMPMVベクターを示す。図2Bは、pDFG−envMPMG−iresHygroベクターを示す。
【図2B】MPMVのenv核酸を含むベクターまたはそれから得られるポリペプチドの図。これらのベクターに含まれる核酸は、MPMVの野生型エンベロープタンパク質(envMPMV)またはX1および/またはX2をコードするコドンの置換によりそれから得られた本発明のポリペプチドをコードしている。図2Aは、phCMV−envMPMVベクターを示す。図2Bは、pDFG−envMPMG−iresHygroベクターを示す。
【図3A】HERV−WのHERV−W核酸を含むベクターまたはそれから得られたポリペプチドの図。これらのベクターに含まれる核酸は、野生型エンベロープタンパク質W(envW)またはX1および/またはX2をコードするコドンの置換によりそれから得られる本発明のポリペプチドをコードしている。図3Aは、phCMV−envWベクターを示す。図3Bは、pDFG−envW−iresHygroベクターを示す。
【図3B】HERV−WのHERV−W核酸を含むベクターまたはそれから得られたポリペプチドの図。これらのベクターに含まれる核酸は、野生型エンベロープタンパク質W(envW)またはX1および/またはX2をコードするコドンの置換によりそれから得られる本発明のポリペプチドをコードしている。図3Aは、phCMV−envWベクターを示す。図3Bは、pDFG−envW−iresHygroベクターを示す。
【図4】細胞間融合アッセイの図。使用されるベクターは、対象のエンベロープタンパク質(SUおよびTMサブユニット)をコードする核酸、CMVプロモーター、およびポリAヌクレオチドエレメント(pA)を含む。
【図5】エンベロープを発現する腫瘍細胞の確立およびインビボアッセイの図。使用されるベクターは、対象のエンベロープタンパク質をコードする核酸(env)、ヒグロマイシン遺伝子(hygro)、およびIRES(内部リボソーム進入部位)を含む。白いボックスは、LTRを示し、矢印は、転写開始を示す。
【図6】感染性特性アッセイの結果1〜12の数字は、本明細書に使用される株を意味する。この図は、野生型(wt)または本発明に記載の変異エンベロープタンパク質の感染の結果を示す。
【図7】免疫抑制特性アッセイの結果この図は、同種balb/cマウスに注入された場合の、エンベロープを発現しているMCA205細胞の免疫抑制特性アッセイの結果を示す。挿入図には、同系C57Bl/6マウスに注入された、エンベロープタンパク質を発現しているMCA205細胞の結果が示されている。黒棒は、HERV−Wエンベロープタンパク質を示し、一方、白棒は、MPMVエンベロープタンパク質を示し、陰影のついた棒は、二重変異体(R44Q+F50A)HERV−Wエンベロープタンパク質を示す。
【図8】HERV−W ENVタンパク質のTMサブユニットの構造設計図この構造設計図は、免疫抑制モデュレートリー配列のアルギニン(X1)およびフェニルアラニン(X2)アミノ酸残基、並びに、このような特性に関与していない2個のアミノ酸残基(アラニンおよびトレオニン)の位置を示す。
【図9】様々なウイルスおよびHERVの免疫抑制モデュレートリー配列の例最初の列は、ウイルスまたはHERVの一般名を示し、第二列は、ウイルスまたはHERVの起源を示し、第三列は、同定された免疫抑制モデュレートリー配列のヌクレオチド配列(1文字アミノ酸を使用)を示し、最後の列は、エンベロープタンパク質のアクセッション番号を示す。X1およびX2アミノ酸残基は、太文字で示されている。
【図10】野生型エンベロープタンパク質のヌクレオチドおよびアミノ酸配列。アミノ酸配列中の、X1およびX2の位置に下線を付けている。AおよびBは、MoMLVのエンベロープタンパク質のヌクレオチドおよびタンパク質配列を示し、CおよびDは、MPMVのエンベロープタンパク質のヌクレオチドおよびタンパク質配列を示し、EおよびFは、HERV−Wのエンベロープタンパク質(envW)のヌクレオチドおよびタンパク質配列を示す。ヌクレオチド配列(A、C、およびE)は、エンベロープタンパク質のコード配列であり、最初のコドン(ATG)は、転写の最初のコドンであり、最後のコドン(TAG)は終止コドンである。タンパク質配列(B、D、およびF)では、最初のアミノ酸文字コードが使用されている。最初のMは、タンパク質の最初のメチオニンを示し、記号「*」は、終止コドンを示す。
【図11A】図11A、図11B、および図11C:免疫抑制欠陥FVエンベロープタンパク質のインビトロでの特性。図11A、標的としてNIH3T3細胞を使用した、MLVウイルス偽型の表面上に発現された、FV野生型(wt)エンベロープタンパク質、E14R変異エンベロープタンパク質、A20F変異エンベロープタンパク質、およびE14R+A20F二重変異(DM)エンベロープタンパク質の感染性。縦軸は、感染性を示す(ffu/ml)。図11B、野生型(wt)および二重変異(DM)FVエンベロープタンパク質のインビボでの免疫抑制活性(横軸、免疫抑制指数)。図11C、インビトロでの、標的としてNIH 3T3細胞を使用した、野生型(黒丸)FVビリオンと免疫抑制欠陥(灰色の丸)FVビリオンの増殖速度の比較。細胞上清のウイルス負荷量(縦軸、RNAコピー数/mL)が、定量的RT−PCRによりアッセイされている。横軸は、感染後の日数を示す。白丸は、対照を示す。
【図11B】図11A、図11B、および図11C:免疫抑制欠陥FVエンベロープタンパク質のインビトロでの特性。図11A、標的としてNIH3T3細胞を使用した、MLVウイルス偽型の表面上に発現された、FV野生型(wt)エンベロープタンパク質、E14R変異エンベロープタンパク質、A20F変異エンベロープタンパク質、およびE14R+A20F二重変異(DM)エンベロープタンパク質の感染性。縦軸は、感染性を示す(ffu/ml)。図11B、野生型(wt)および二重変異(DM)FVエンベロープタンパク質のインビボでの免疫抑制活性(横軸、免疫抑制指数)。図11C、インビトロでの、標的としてNIH 3T3細胞を使用した、野生型(黒丸)FVビリオンと免疫抑制欠陥(灰色の丸)FVビリオンの増殖速度の比較。細胞上清のウイルス負荷量(縦軸、RNAコピー数/mL)が、定量的RT−PCRによりアッセイされている。横軸は、感染後の日数を示す。白丸は、対照を示す。
【図11C】図11A、図11B、および図11C:免疫抑制欠陥FVエンベロープタンパク質のインビトロでの特性。図11A、標的としてNIH3T3細胞を使用した、MLVウイルス偽型の表面上に発現された、FV野生型(wt)エンベロープタンパク質、E14R変異エンベロープタンパク質、A20F変異エンベロープタンパク質、およびE14R+A20F二重変異(DM)エンベロープタンパク質の感染性。縦軸は、感染性を示す(ffu/ml)。図11B、野生型(wt)および二重変異(DM)FVエンベロープタンパク質のインビボでの免疫抑制活性(横軸、免疫抑制指数)。図11C、インビトロでの、標的としてNIH 3T3細胞を使用した、野生型(黒丸)FVビリオンと免疫抑制欠陥(灰色の丸)FVビリオンの増殖速度の比較。細胞上清のウイルス負荷量(縦軸、RNAコピー数/mL)が、定量的RT−PCRによりアッセイされている。横軸は、感染後の日数を示す。白丸は、対照を示す。
【図12A】図12Aおよび図12B:インビボでのFV感染時におけるエンベロープにより駆動される免疫抑制の消失の効果。野生型FV(黒丸)または非免疫抑制変異体FV(灰色の丸)の注入後の照射(図12A)および非照射(図12B)スイスマウスの血清ウイルス負荷量(縦軸、RNAコピー数/mL)。PBS注入マウスのシグナルは、検出閾値より低かった(白丸)。横軸は、注入後の日数を示す。
【図12B】図12Aおよび図12B:インビボでのFV感染時におけるエンベロープにより駆動される免疫抑制の消失の効果。野生型FV(黒丸)または非免疫抑制変異体FV(灰色の丸)の注入後の照射(図12A)および非照射(図12B)スイスマウスの血清ウイルス負荷量(縦軸、RNAコピー数/mL)。PBS注入マウスのシグナルは、検出閾値より低かった(白丸)。横軸は、注入後の日数を示す。
【図13】感染マウスにおけるFVの免疫学的検出。野生型FV(黒丸および黒線)、非免疫抑制変異体FV(灰色の丸および灰色の線)またはPBS(白丸および点線)の注入されたマウスの血清中の、FVエンベロープタンパク質のSUサブユニットに対して指向されるIgGを定量した(縦軸、任意の単位)。線は、IgG水準の幾何学的平均を示す。横軸は、注入後の日数を示す。
【図14A】図14Aおよび図14B:野生型および非免疫抑制変異体FVエンベロープタンパク質の抗原性。図14A、FVエンベロープタンパク質の組換えTMサブユニット(左)またはUVで不活性化されたFVウイルス粒子(右)を注入されたマウスの血清中の、FVエンベロープタンパク質のTMサブユニットに指向されるIgMおよびIgGを定量した。黒:野生型FV;灰色:非免疫抑制変異体FV;白:アジュバントのみ。5(左)または14(右)匹のスイスマウスの平均±標準偏差。縦軸は、任意の単位(a.u.)の抗TM ELISAシグナルを示す。図14B、実施例1に記載のようなMoMLV(左)およびHERV−W ENV(右)の野生型(wt)または二重変異体(dm)組換えTMサブユニットを注入されたマウスを用いて図14Aと同様。縦軸は、IgG水準(ng/mL)を示す。
【図14B】図14Aおよび図14B:野生型および非免疫抑制変異体FVエンベロープタンパク質の抗原性。図14A、FVエンベロープタンパク質の組換えTMサブユニット(左)またはUVで不活性化されたFVウイルス粒子(右)を注入されたマウスの血清中の、FVエンベロープタンパク質のTMサブユニットに指向されるIgMおよびIgGを定量した。黒:野生型FV;灰色:非免疫抑制変異体FV;白:アジュバントのみ。5(左)または14(右)匹のスイスマウスの平均±標準偏差。縦軸は、任意の単位(a.u.)の抗TM ELISAシグナルを示す。図14B、実施例1に記載のようなMoMLV(左)およびHERV−W ENV(右)の野生型(wt)または二重変異体(dm)組換えTMサブユニットを注入されたマウスを用いて図14Aと同様。縦軸は、IgG水準(ng/mL)を示す。
【図15】ワクチン接種アッセイ。図15は、UVで不活性化された野生型または非免疫抑制二重変異体フレンドウイルス(FV)を、あるいは、無傷の非免疫抑制二重変異体フレンドウイルス(FV)を、あるいは、CpGアジュバントのみを用いて免疫化され、野生型FVで攻撃されたマウスのウイルス負荷量(縦軸、血清1mLあたりのRNAコピー数)を示す。免疫化は、攻撃の、1日前、7日前、14日前、および21日前に行ない、対応するウイルス負荷量は、灰色の点で示される。攻撃5日後のウイルス負荷量は、黒い点として示される。検出閾値は、2×10個のRNAコピー/mLの横線として示される。グラフの上には、攻撃5日後の検出水準未満のウイルス負荷量を有するマウスの数および比率が示されている。横棒は、ウイルス負荷量の幾何学的平均を示す。
【図16A】図16A、図16B、および図16C:アッセイのノックダウン手順および理論。図16Aは、ERV発現をノックダウンする手順を示し、pSUPERベクターを使用してplncvに由来するベクターを作成し、H1−RNAプロモーターの制御下で、RNA干渉のための短い二本鎖転写物を産生した。B16細胞を、これらの発現ベクターを用いて形質導入し、G418選択にかけ、得られたERVKDおよび対照B16細胞を、マウスの側腹部に皮下注射し、その腫瘍増殖をモニタリングした。図16B、ERVおよび対照(gfp)ベクターにより生じるdsRNAの予測される構造;数字は、それぞれの標的化配列内のnt位置を意味する(方法を参照)。図16C、ERVノックダウン(ERVKD)および対照細胞の上清中のGag(抗Gag)およびEnv(抗Env)発現のウェスタンブロット解析。分子量が、図の両側に示されている。
【図16B】図16A、図16B、および図16C:アッセイのノックダウン手順および理論。図16Aは、ERV発現をノックダウンする手順を示し、pSUPERベクターを使用してplncvに由来するベクターを作成し、H1−RNAプロモーターの制御下で、RNA干渉のための短い二本鎖転写物を産生した。B16細胞を、これらの発現ベクターを用いて形質導入し、G418選択にかけ、得られたERVKDおよび対照B16細胞を、マウスの側腹部に皮下注射し、その腫瘍増殖をモニタリングした。図16B、ERVおよび対照(gfp)ベクターにより生じるdsRNAの予測される構造;数字は、それぞれの標的化配列内のnt位置を意味する(方法を参照)。図16C、ERVノックダウン(ERVKD)および対照細胞の上清中のGag(抗Gag)およびEnv(抗Env)発現のウェスタンブロット解析。分子量が、図の両側に示されている。
【図16C】図16A、図16B、および図16C:アッセイのノックダウン手順および理論。図16Aは、ERV発現をノックダウンする手順を示し、pSUPERベクターを使用してplncvに由来するベクターを作成し、H1−RNAプロモーターの制御下で、RNA干渉のための短い二本鎖転写物を産生した。B16細胞を、これらの発現ベクターを用いて形質導入し、G418選択にかけ、得られたERVKDおよび対照B16細胞を、マウスの側腹部に皮下注射し、その腫瘍増殖をモニタリングした。図16B、ERVおよび対照(gfp)ベクターにより生じるdsRNAの予測される構造;数字は、それぞれの標的化配列内のnt位置を意味する(方法を参照)。図16C、ERVノックダウン(ERVKD)および対照細胞の上清中のGag(抗Gag)およびEnv(抗Env)発現のウェスタンブロット解析。分子量が、図の両側に示されている。
【図17A】図17Aおよび図17B:ノックダウン細胞は、形質転換された表現型を保存している。図17A、軟寒天アッセイを使用した形質転換された表現型のインビトロでの解析。左パネル、ERVKD(右のプレート)および対照B16(左のプレート)細胞(2×10または2×10)を、4週間、半固体層に蒔き、その後、コロニーの数を計測した(右パネル)。図17B、インビボでの、免疫不適格マウスを使用した、形質転換された表現型のアッセイ。ERVKDおよび対照B16細胞(2×10)を、X線照射(5Gy)C57Bl/6(左パネル)またはSCIDマウス(右パネル)の側腹部に皮下注射し(1群あたり5匹のマウスを用いて2〜5回の独立した実験)、腫瘍増殖を、腫瘍面積を測定することにより時間(横軸、注射後の日数)の関数として判定した。
【図17B】図17Aおよび図17B:ノックダウン細胞は、形質転換された表現型を保存している。図17A、軟寒天アッセイを使用した形質転換された表現型のインビトロでの解析。左パネル、ERVKD(右のプレート)および対照B16(左のプレート)細胞(2×10または2×10)を、4週間、半固体層に蒔き、その後、コロニーの数を計測した(右パネル)。図17B、インビボでの、免疫不適格マウスを使用した、形質転換された表現型のアッセイ。ERVKDおよび対照B16細胞(2×10)を、X線照射(5Gy)C57Bl/6(左パネル)またはSCIDマウス(右パネル)の側腹部に皮下注射し(1群あたり5匹のマウスを用いて2〜5回の独立した実験)、腫瘍増殖を、腫瘍面積を測定することにより時間(横軸、注射後の日数)の関数として判定した。
【図18A】図18A、図18B、および図18C:ERVノックダウン時の腫瘍細胞増殖の阻害およびマウス生存率の上昇。図18A、免疫適格性C57Bl/6マウスに移植された、対照B16細胞(黒点)およびERVKDB16細胞(白点)の腫瘍細胞増殖(1群あたり22匹のマウス;図17Bと同じ実験条件)。腫瘍面積(縦軸、mm)は、時間の関数(横軸、注射後の日数)として測定される。図18B、時間(横軸、注射後の日数)の関数としての、対照(黒点)およびERVKDB16細胞(白点)を移植されたマウス(1群あたり10匹)の中の生存動物の比率(縦軸)。図18C、時間(横軸、注射後の日数)の関数としての、MelARV env形質導入ERVKDB16細胞(灰色の点)およびERVKDB16細胞(白点)を移植されたマウス間の生存動物(1群あたり10匹)の比率(縦軸)。
【図18B】図18A、図18B、および図18C:ERVノックダウン時の腫瘍細胞増殖の阻害およびマウス生存率の上昇。図18A、免疫適格性C57Bl/6マウスに移植された、対照B16細胞(黒点)およびERVKDB16細胞(白点)の腫瘍細胞増殖(1群あたり22匹のマウス;図17Bと同じ実験条件)。腫瘍面積(縦軸、mm)は、時間の関数(横軸、注射後の日数)として測定される。図18B、時間(横軸、注射後の日数)の関数としての、対照(黒点)およびERVKDB16細胞(白点)を移植されたマウス(1群あたり10匹)の中の生存動物の比率(縦軸)。図18C、時間(横軸、注射後の日数)の関数としての、MelARV env形質導入ERVKDB16細胞(灰色の点)およびERVKDB16細胞(白点)を移植されたマウス間の生存動物(1群あたり10匹)の比率(縦軸)。
【図18C】図18A、図18B、および図18C:ERVノックダウン時の腫瘍細胞増殖の阻害およびマウス生存率の上昇。図18A、免疫適格性C57Bl/6マウスに移植された、対照B16細胞(黒点)およびERVKDB16細胞(白点)の腫瘍細胞増殖(1群あたり22匹のマウス;図17Bと同じ実験条件)。腫瘍面積(縦軸、mm)は、時間の関数(横軸、注射後の日数)として測定される。図18B、時間(横軸、注射後の日数)の関数としての、対照(黒点)およびERVKDB16細胞(白点)を移植されたマウス(1群あたり10匹)の中の生存動物の比率(縦軸)。図18C、時間(横軸、注射後の日数)の関数としての、MelARV env形質導入ERVKDB16細胞(灰色の点)およびERVKDB16細胞(白点)を移植されたマウス間の生存動物(1群あたり10匹)の比率(縦軸)。
【図19】ERVエンベロープタンパク質検出のための免疫染色。対照、ERVKD、およびERVKD+envB16細胞を、ヤギ抗マウスFITC抗体により明らかとなる9B6抗体(MelARVエンベロープタンパク質に対して指向;E.Gorelikより贈呈、Cancer Res 1988;48;4954-4958)で標識した(Caltag、Burlingame、米国)。フローサイトメトリー解析を、Facscalibur血球計数器を使用して行なった。計数(縦軸)が、ERVエンベロープ発現(横軸)の関数として示されている。
【図20A】図20Aおよび図20B:インビボでのsiRNAの全身投与は、腫瘍細胞の進行を低下させる。図16Bで言及されている、19ntERV(白点)および対照(gfp)(黒点)配列に標的化された合成siRNAは、MWG Biotechから購入した。それらを、2×10個のB16細胞の移植された12日後にマウスの右側腹部に腹腔内注射した(50μlのPBS中に3μgのsiRNA)。図20A、腫瘍面積(縦軸、mm)は、時間の関数(横軸、腫瘍注入後の日数)として測定され、siRNA注入は矢印として示される。図20B、生存動物の比率(縦軸)は、時間の関数(横軸、腫瘍注入後の日数)としてモニタリングした(2回の独立した実験において1群あたり5匹のマウス)。
【図20B】図20Aおよび図20B:インビボでのsiRNAの全身投与は、腫瘍細胞の進行を低下させる。図16Bで言及されている、19ntERV(白点)および対照(gfp)(黒点)配列に標的化された合成siRNAは、MWG Biotechから購入した。それらを、2×10個のB16細胞の移植された12日後にマウスの右側腹部に腹腔内注射した(50μlのPBS中に3μgのsiRNA)。図20A、腫瘍面積(縦軸、mm)は、時間の関数(横軸、腫瘍注入後の日数)として測定され、siRNA注入は矢印として示される。図20B、生存動物の比率(縦軸)は、時間の関数(横軸、腫瘍注入後の日数)としてモニタリングした(2回の独立した実験において1群あたり5匹のマウス)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
7〜20アミノ酸残基の配列を有するポリペプチドで、ウイルスタンパク質または断片の相同的な配列が置き換えられるとそれが発現される宿主に対する、ウイルスタンパク質またはその断片の免疫抑制特性をモデュレーションすることができる、7〜20アミノ酸残基の配列を有するポリペプチド(免疫抑制モデュレートリー配列)であって、前記ポリペプチドは、
以下の最小共通アミノ酸配列:
【表1】


(式中、
およびXは、前記の免疫抑制特性に影響を及ぼすように選択され、Y〜Y12は、可変アミノ酸残基を示す)
を含む、前記ポリペプチド。
【請求項2】
およびXが、
a.Xは、E、K、またはQであり、XはAである
b.XはRであり、XはFである
からなる群より選択される、請求項1に記載のポリペプチド。
【請求項3】
ウイルス遺伝子に由来する核酸によりコードされている、請求項1または2に記載のポリペプチド。
【請求項4】
ウイルスenv遺伝子に由来する核酸によりコードされている、請求項1〜3のいずれか1項に記載のポリペプチド。
【請求項5】
レトロウイルスenv遺伝子に由来する核酸によりコードされている、請求項1〜4のいずれか1項に記載のポリペプチド。
【請求項6】
前記レトロウイルスが、MoMLV、フレンドレトロウイルス、FeLV、HTLV−1、HTLV−2、STLV−1、およびMPMVからなる群より選択される、請求項5に記載のポリペプチド。
【請求項7】
【表2】


からなる群より選択される配列を含む、請求項1〜6のいずれか1項に記載のポリペプチド。
【請求項8】
【表3】


(式中、これらの免疫抑制モデュレートリー配列は、それらを含むタンパク質に、免疫抑制特性を与える)
あるいは
【表4】


(式中、これらの免疫抑制モデュレートリー配列は、それらを含むタンパク質に、低い免疫抑制特性を与える)
あるいは
【表5】


(式中、これらの免疫抑制モデュレートリー配列は、それらを含むタンパク質に、実質的に全く免疫抑制特性を与えない)
からなる群より選択される以上の配列を含む、請求項1〜7のいずれか1項に記載のポリペプチド。
【請求項9】
以下の共通配列:
【表6】


(式中、
およびXは、請求項1に定義された通りであり、Y〜Y14は、任意のアミノ酸を示す)
を有する、請求項1〜8のいずれか1項に記載のポリペプチド。
【請求項10】
【表7】


(式中、これらの免疫抑制モデュレートリー配列は、それらを含むタンパク質に、免疫抑制特性を与える)
あるいは
【表8】


(式中、これらの免疫抑制モデュレートリー配列は、それらを含むタンパク質に、低い免疫抑制特性を与える)
あるいは
【表9】


(式中、これらの免疫抑制モデュレートリー配列は、それらを含むタンパク質に、実質的に全く免疫抑制特性を与えない)
からなる群より選択される配列を有する、請求項1〜9のいずれか1項に記載のポリペプチド。
【請求項11】
野生型ENVタンパク質に対して改変された免疫抑制活性を有する変異ENVタンパク質を製造するための、以下の配列:
【表10】


(式中、
変異されるべき第一のアミノ酸はXであり、変異されるべき第二のアミノ酸はXであり、Y〜Y12は任意のアミノ酸を示す)
を実質的に含む野生型ウイルスエンベロープ(ENV)タンパク質における、第一のアミノ酸の第一の変異および場合により第二のアミノ酸の第二の変異の使用。
【請求項12】
前記変異ENVタンパク質の抗原性に関与する構造が、実質的に保存されている、請求項11に記載の使用。
【請求項13】
野生型ENVタンパク質に対して低下した免疫抑制活性を有する変異ENVタンパク質を製造するための、以下の配列:
【表11】


(式中、
変異されるべき第一のアミノ酸はXであり、変異されるべき第二のアミノ酸はXであり、Y〜Y12は任意のアミノ酸を示す)
を実質的に含む、野生型ウイルスエンベロープ(ENV)タンパク質における、第一のアミノ酸の第一の変異および場合により第二のアミノ酸の第二の変異の、請求項11または12に記載の使用。
【請求項14】
野生型ENVタンパク質に対して低下した免疫抑制活性を有する変異ENVタンパク質を製造するための、以下の配列:
【表12】


(式中、
変異されるべき第一のアミノ酸はXであり、変異されるべき第二のアミノ酸はXであり、Y〜Y12は任意のアミノ酸を示す)
を実質的に含む、野生型ウイルスエンベロープ(ENV)タンパク質における、第一のアミノ酸の第一の変異および第二のアミノ酸の第二の変異の、請求項11〜13のいずれか1項に記載の使用。
【請求項15】
野生型ENVタンパク質に対して上昇した免疫抑制活性を有する変異ENVタンパク質を製造するための、以下の配列:
【表13】


(式中、
変異されるべき第一のアミノ酸はXであり、変異されるべき第二のアミノ酸はXであり、Y〜Y12は任意のアミノ酸を示す)
を実質的に含む、野生型ウイルスエンベロープ(ENV)タンパク質における、第一のアミノ酸の第一の変異および場合により第二のアミノ酸の第二の変異の、請求項11または12に記載の使用。
【請求項16】
以下の配列
【表14】


(式中、
アミノ酸Xおよび場合によりアミノ酸Xは変異しており、Y〜Y12は、任意のアミノ酸を示す)
を実質的に有する、野生型ENVタンパク質の変異から得られた変異ENVタンパク質(ただし、前記変異ENVタンパク質は、野生型ENVタンパク質に対して改変された免疫抑制活性を有する)、
あるいは、その断片(ただし、前記断片は、変異アミノ酸Xおよび場合によりXを有し、前記変異ENVタンパク質と類似した免疫抑制活性を有し、場合により、その抗原性構造は、前記変異ENVタンパク質において採用されている構造と実質的に類似している)、
あるいは、少なくとも1アミノ酸の挿入、欠失、または置換により、前記変異ENVタンパク質またはその断片から得られたタンパク質(ただし、前記の得られたタンパク質は、変異アミノ酸XおよびXを有し、前記変異ENVタンパク質と類似した免疫抑制活性を有し、場合により、その抗原性構造は、前記変異ENVタンパク質またはその断片の構造と実質的に類似している)。
【請求項17】
前記の変異ENVタンパク質またはその断片の抗原性に関与する構造が、野生型ENVタンパク質に対して実質的に保存されている、請求項16に記載の変異ENVタンパク質またはその断片。
【請求項18】
請求項16または17に記載の以下の配列:
【表15】


(式中、
アミノ酸Xおよび場合によりアミノ酸Xは変異しており、Y〜Y12は、任意のアミノ酸を示す)
を実質的に含む、野生型ENVタンパク質の変異から得られた変異ENVタンパク質(ただし、前記変異ENVタンパク質は、野生型ENVタンパク質に対して低下した免疫抑制活性を有する)、
あるいは、その断片(ただし、前記断片は、変異アミノ酸Xおよび場合によりXを有し、前記変異ENVタンパク質と類似した免疫抑制活性を有し、場合により、その抗原性構造は、前記変異ENVタンパク質において採用されている構造と実質的に類似している)、
あるいは、少なくとも1アミノ酸の挿入、欠失、または置換により、前記変異ENVタンパク質またはその断片から得られたタンパク質(ただし、前記の得られたタンパク質は、変異アミノ酸XおよびXを有し、前記変異ENVタンパク質と類似した免疫抑制活性を有し、場合により、その抗原性構造は、前記変異ENVタンパク質またはその断片の構造と実質的に類似している)。
【請求項19】
請求項16または17に記載の以下の配列:
【表16】


(式中、
アミノ酸Xおよび場合によりアミノ酸Xは変異しており、Y〜Y12は、任意のアミノ酸を示す)
を実質的に含む、野生型ENVタンパク質の変異から得られた変異ENVタンパク質(ただし、前記変異ENVタンパク質は、野生型ENVタンパク質に対して低下した免疫抑制活性を有する)、
あるいは、その断片(ただし、前記断片は、変異アミノ酸XおよびXを有し、前記変異ENVタンパク質と類似した免疫抑制活性を有し、場合により、その抗原性構造は、前記変異ENVタンパク質において採用されている構造と実質的に類似している)、
あるいは、少なくとも1アミノ酸の挿入、欠失、または置換により、前記変異ENVタンパク質またはその断片から得られたタンパク質(ただし、前記の得られたタンパク質は、変異アミノ酸XおよびXを有し、前記変異ENVタンパク質と類似した免疫抑制活性を有し、場合により、その抗原性構造は、前記変異ENVタンパク質またはその断片の構造と実質的に類似している)。
【請求項20】
前記変異が置換である、請求項16〜19のいずれか1項に記載の変異ENVタンパク質またはその断片。
【請求項21】
がRまたはHにより置換されている、請求項16〜20のいずれか1項に記載の変異ENVタンパク質またはその断片。
【請求項22】
が、F、M、Y、またはWにより置換されている、請求項16〜21のいずれか1項に記載の変異ENVタンパク質またはその断片。
【請求項23】
が、E、K、またはQであり、RまたはHにより置換されている、請求項16〜22のいずれか1項に記載の変異ENVタンパク質またはその断片。
【請求項24】
が、A、V、L、I、またはKであり、F、M、Y、またはWにより置換されている、請求項16〜23のいずれか1項に記載の変異ENVタンパク質またはその断片。
【請求項25】
前記ENVタンパク質が、HERV ENV、特に
HERV−FRD ENV(配列番号82)(ここで、XはQ427であり、XはA433である)、または
HERV−T ENV(配列番号84)(ここで、XはQ516であり、XはA522である)、または
HERV−R ENV(配列番号86)(ここで、XはE561であり、XはK567である)、または
HERV−V ENV(配列番号88)(ここで、XはQ381であり、XはV387である)、または
HERV−R(b)ENV(配列番号90)(ここで、XはE391であり、XはL397である)
から選択される、請求項16〜24のいずれか1項に記載の変異ENVタンパク質またはその断片。
【請求項26】
前記ENVタンパク質がHERV−FRD ENVであり、前記変異ENVタンパク質の配列が、
配列番号120、
配列番号122
から選択される、請求項25に記載の変異ENVタンパク質またはその断片。
【請求項27】
前記ENVタンパク質がHERV−V ENVであり、前記変異ENVタンパク質の配列が、
配列番号124、
配列番号126
から選択される、請求項25に記載の変異ENVタンパク質またはその断片。
【請求項28】
前記ENVタンパク質がHERV−T ENVであり、前記変異ENVタンパク質の配列が、
配列番号128、
配列番号130
から選択される、請求項25に記載の変異ENVタンパク質またはその断片。
【請求項29】
前記ENVタンパク質がHERV−R ENVであり、前記変異ENVタンパク質の配列が、
配列番号146、
配列番号148
から選択される、請求項25に記載の変異ENVタンパク質またはその断片。
【請求項30】
前記ENVタンパク質が、
HTLV−1ENV(配列番号92)(ここで、XはQ389であり、XはA395である)、または
HTLV−2ENV(配列番号94)(ここで、XはQ385であり、XはA391である)、または
FeLV ENV(配列番号96)(ここで、XはE527であり、XはA533である)、または
PERV ENV(配列番号98)(ここで、XはE545であり、XはA551である)、または
STLV−1ENV(配列番号100)(ここで、XはQ389であり、XはA395である)、または
MoMLV ENV(配列番号70)(ここで、XはE551であり、XはA557である)、または
MPMV ENV(配列番号72)(ここで、XはQ471であり、XはA477である)、または
FV ENV(配列番号102)(ここで、XはE561であり、XはA567である)
から選択される、請求項16〜24のいずれか1項に記載の変異ENVタンパク質またはその断片。
【請求項31】
前記ENVタンパク質がFeLV ENVであり、前記変異ENVタンパク質の配列が、
配列番号104、
配列番号106
から選択される、請求項30に記載の変異ENVタンパク質またはその断片。
【請求項32】
前記ENVタンパク質がHTLV−1ENVであり、前記変異ENVタンパク質の配列が、
配列番号108、
配列番号110
から選択される、請求項30に記載の変異ENVタンパク質またはその断片。
【請求項33】
前記ENVタンパク質がHTLV−2ENVであり、前記変異ENVタンパク質の配列が、
配列番号112、
配列番号114
から選択される、請求項30に記載の変異ENVタンパク質またはその断片。
【請求項34】
前記ENVタンパク質がPERV ENVであり、前記変異ENVタンパク質の配列が、
配列番号150、
配列番号152
から選択される、請求項30に記載の変異ENVタンパク質またはその断片。
【請求項35】
請求項16または17に記載の以下の配列:
【表17】


(式中、
アミノ酸Xおよび場合によりアミノ酸Xは変異しており、Y〜Y12は、任意のアミノ酸を示す)
を実質的に含む、野生型ENVタンパク質の変異から得られた変異ENVタンパク質(ただし、前記変異ENVタンパク質は、野生型ENVタンパク質に対して上昇した免疫抑制活性を有する)、
あるいは、その断片(ただし、前記断片は、変異アミノ酸XおよびXを有し、前記変異ENVタンパク質と類似した免疫抑制活性を有し、場合により、その抗原性構造は、前記変異ENVタンパク質において採用されている構造と実質的に類似している)、
あるいは、少なくとも1アミノ酸の挿入、欠失、または置換により、前記変異ENVタンパク質またはその断片から得られたタンパク質(ただし、前記の得られたタンパク質は、変異アミノ酸XおよびXを有し、前記変異ENVタンパク質と類似した免疫抑制活性を有し、場合により、その抗原性構造は、前記変異ENVタンパク質またはその断片の構造と実質的に類似している)。
【請求項36】
前記変異が置換である、請求項35に記載の変異ENVタンパク質またはその断片。
【請求項37】
が、EまたはQにより置換され、XがAにより置換されている、請求項35または22に記載の変異ENVタンパク質またはその断片。
【請求項38】
前記ENVタンパク質が、HERV−W ENV、例えば配列番号74により示される配列であり、変異HERV−W ENVの配列が、
配列番号116、
配列番号118
から選択される、請求項35〜37のいずれか1項に記載の変異ENVタンパク質またはその断片。
【請求項39】
請求項1〜10のいずれか1項に記載の少なくとも1種類のポリペプチドまたは請求項16〜38のいずれか1項に記載の少なくとも1種類の変異ENVタンパク質もしくはその断片を含むことを特徴とするタンパク質であって、ただし、前記ポリペプチドが野生型ENVタンパク質に由来する場合、前記ポリペプチドを含む前記タンパク質は、前記の野生型ENVタンパク質とは異なっている、前記タンパク質。
【請求項40】
請求項1〜10のいずれか1項に記載のポリペプチド、請求項16〜38のいずれか1項に記載の変異ENVタンパク質または請求項39に記載のタンパク質をコードする核酸。
【請求項41】
配列番号103、
配列番号105、
配列番号107、
配列番号109、
配列番号111、
配列番号113、
配列番号115、
配列番号117、
配列番号119、
配列番号121、
配列番号123、
配列番号125、
配列番号127、
配列番号129、
配列番号145、
配列番号147、
配列番号149、および
配列番号151
を含むリストから選択される配列により示されることを特徴とする、請求項40に記載の核酸。
【請求項42】
請求項40または41に記載の核酸並びに前記核酸の発現に必要なエレメントを含むことを特徴とする、真核または原核発現ベクター。
【請求項43】
前記ベクターが、ウイルスベクター、特にポックスベクター、例えば鶏痘、カナリア痘、もしくはMVA(改変されたワクシニアウイルスアンカラ)ベクター、アデノウイルスベクター、麻疹ベクター、またはCMV(サイトメガロウイルス)ベクターである、請求項42に記載の真核または原核発現ベクター。
【請求項44】
前記ベクターが、請求項40または41に記載の変異ENVタンパク質またはその断片をコードする核酸配列、特に、変異FeLV ENV、例えば配列番号103または配列番号105により示される配列、並びに、場合により、前記の変異ENVと同じウイルスを起源とするGAGタンパク質をコードする核酸を含む、ウイルスベクター、特にカナリア痘ベクターである、請求項42または43に記載の真核または原核発現ベクター。
【請求項45】
請求項40もしくは41に記載の核酸、または、請求項42〜44のいずれか1項に記載の真核もしくは原核発現ベクターを含むことを特徴とする、組換え細胞。
【請求項46】
活性物質として、
請求項1〜10のいずれか1項に記載の少なくとも1種類のポリペプチド、または
請求項16〜39のいずれか1項に記載の少なくとも1種類の変異ENVタンパク質もしくはその断片、または
請求項40もしくは41に記載の少なくとも1種類の核酸、または
請求項42〜44のいずれか1項に記載の少なくとも1種類の原核もしくは真核発現ベクター、または
請求項45に記載の少なくとも1種類の組換え細胞を、
薬学的に許容されうる担体と共に含む、医薬またはワクチン組成物。
【請求項47】
HTLVまたはFeLV感染などのウイルス疾患の予防および/または処置を目的とした医薬またはワクチンの製造のための、請求項16〜34のいずれか1項に記載の変異ENVタンパク質もしくはその断片を含むもしくはから構成される少なくとも1種類のタンパク質、または、前記タンパク質をコードする核酸の使用。
【請求項48】
癌の予防および/または処置を目的とした医薬またはワクチンの製造のための、請求項25〜29のいずれか1項に記載の変異ENVタンパク質もしくはその断片を含むもしくはから構成される少なくとも1種類のタンパク質、または、前記タンパク質をコードする核酸の使用。
【請求項49】
自己免疫疾患、アレルギー、または移植片拒絶などの免疫系の阻害を必要とする病態の予防および/または処置を目的とした医薬またはワクチンの製造のための、請求項35〜38のいずれか1項に記載の変異ENVタンパク質もしくはその断片を含むもしくはから構成される少なくとも1種類のタンパク質、または、前記タンパク質をコードする核酸の使用。
【請求項50】
癌、ウイルス疾患、または自己免疫疾患、アレルギー、もしくは移植片拒絶などの免疫系の阻害を必要とする病態の予防および/または処置を目的とした医薬の製造のための、請求項1〜10のいずれか1項に記載の少なくとも1種類のポリペプチド、または請求項39に記載の前記ポリペプチドを含むタンパク質、または前記ポリペプチドもしくは前記タンパク質をコードする核酸の使用。
【請求項51】
癌、ウイルス疾患、または自己免疫疾患、アレルギー、もしくは移植片拒絶などの免疫系の阻害を必要とする病態の予防および/または処置を目的とした医薬またはワクチンの製造のための、少なくとも1種類のタンパク質または前記タンパク質をコードする核酸の使用であって、前記タンパク質は、
−以下の配列:
【表18】


(式中、
アミノ酸Y〜Y12は、任意のアミノ酸を示し、アミノ酸Xは、E、K、またはQを示し、場合によりアミノ酸XはAを示す)
を実質的に含む免疫抑制性ENVタンパク質、
−あるいは、その断片(ただし、前記断片は、アミノ酸Xおよび場合によりXを有し、前記ENVタンパク質と類似した免疫抑制活性を有する)、
−あるいは、少なくとも1アミノ酸の挿入、欠失、または置換により、前記ENVタンパク質またはその断片から得られたタンパク質(ただし、前記の得られたタンパク質は、アミノ酸Xおよび場合によりXを有し、前記変異ENVタンパク質と類似した免疫抑制活性を有する)
を含むまたはから構成される、前記使用。
【請求項52】
前記ENVタンパク質は、
HERV−T ENV、例えば配列番号84により示される配列、または
HERV−R ENV、例えば配列番号86により示される配列、または
HERV−V ENV、例えば配列番号88により示される配列、または
HERV−R(b)ENV、例えば配列番号90により示される配列、または
HTLV−1ENV、例えば配列番号92により示される配列、または
HTLV−2ENV、例えば配列番号94により示される配列、または
FeLV ENV、例えば配列番号96により示される配列、または
PERV ENV、例えば配列番号98により示される配列、または
STLV−1ENV、例えば配列番号100により示される配列、または
FV ENV、例えば配列番号102により示される配列
から選択される、請求項51に記載の使用。
【請求項53】
−ポリクローナルもしくはモノクローナル抗体、またはそれらの断片、例えばFabもしくはF(ab)’断片、
−scFvポリペプチド、
−アプタマー、
−結合ペプチド
から選択される、ENVタンパク質のリガンドの調製のための、請求項1〜10のいずれか1項に記載のポリペプチドまたは請求項16〜39のいずれか1項に記載のタンパク質の使用。
【請求項54】
請求項16〜38のいずれか1項に記載の変異ENVタンパク質、または、請求項39に記載のそれらを含むタンパク質もしくはポリペプチドに指向された、抗体もしくはその断片、scFvポリペプチド、アプタマー、または結合ペプチドであって、ただし、前記抗体もしくはその断片、scFvポリペプチド、アプタマー、または結合ペプチドは、対応する野生型ENVタンパク質には結合しない、前記抗体もしくはその断片、scFvポリペプチド、アプタマー、または結合ペプチド。
【請求項55】
ウイルスまたは腫瘍細胞の免疫抑制活性をモデュレーションしやすい化合物をスクリーニングするための、請求項1〜10のいずれか1項に記載のポリペプチドまたは請求項16〜39のいずれか1項に記載のタンパク質の使用。
【請求項56】
ウイルスまたは腫瘍細胞の免疫抑制活性をモデュレーションしやすい化合物をスクリーニングするための、請求項53または54に記載の抗体もしくはその断片、scFvポリペプチド、アプタマー、または結合ペプチドの使用。
【請求項57】
スクリーニングすべき化合物が、ペプチド、特に5〜30アミノ酸を含むペプチド、例えば、コンビナトリアルペプチドライブラリーを起源とするペプチドである、請求項55または56に記載の使用。

【図1A】
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【図1B】
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【図2A】
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【図2B】
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【図3A】
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【図3B】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10−1】
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【図10−2】
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【図10−3】
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【図10−4】
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【図11A】
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【図11B】
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【図11C】
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【図12A】
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【図12B】
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【図13】
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【図14A】
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【図14B】
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【図15】
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【図16A】
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【図16B】
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【図16C】
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【図17A】
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【図17B】
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【図18A】
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【図18B】
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【図18C】
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【図19】
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【図20A】
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【図20B】
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【公表番号】特表2008−506357(P2008−506357A)
【公表日】平成20年3月6日(2008.3.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−505491(P2007−505491)
【出願日】平成17年3月30日(2005.3.30)
【国際出願番号】PCT/EP2005/003339
【国際公開番号】WO2005/095442
【国際公開日】平成17年10月13日(2005.10.13)
【出願人】(599029545)
【氏名又は名称原語表記】INSTITUT GUSTAVE ROUSSY
【出願人】(595040744)サントル・ナショナル・ドゥ・ラ・ルシェルシュ・シャンティフィク (88)
【氏名又は名称原語表記】CENTRE NATIONAL DE LA RECHERCHE SCIENTIFIQUE
【出願人】(506333358)ユニヴェルシテ・パリ・シュド・オーンズ (7)
【氏名又は名称原語表記】UNIVERSITE PARIS SUD XI
【Fターム(参考)】