説明

ウイルス感染阻害薬のスクリーニング法及びビスフォスフォネートを含む感染阻害薬

【課題】ウイルス感染阻害薬の効率的なスクリーニング法、及びビスフォスフォネートを有効成分とするウイルス感染阻害薬を提供すること。
【解決手段】被検体存在下に細胞にウイルスを接触させるステップ、及び前記細胞中の、GTP結合タンパク質であるダイナミン-2に結合して、当該ダイナミン-2のエンドサイトーシス機能を阻害する被検体を選択するステップを含む、ウイルス感染阻害薬のスクリーニング法;並びに、ビスフォスフォネートを有効成分とするウイルス感染症阻害。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、GTP結合タンパク質であるダイナミン-2と被検体との結合を指標とするウイルス感染阻害薬のスクリーニング法、及びビスフォスフォネートを含むウイルス感染阻害薬に関する。
【背景技術】
【0002】
アデノウイルスは、咽頭炎、扁桃炎、肺炎等の急性呼吸器疾患、咽頭結膜炎及び乳幼児下痢症や出血性膀胱炎等の多彩な感染症を引き起こす病原体として知られている。特に最近では、眼科領域での院内感染の原因となり非常に大きな問題となっている。これは、主に、アデノウイルスにワクチンが効かないことに因る。従って、数多くのウイルスの中でも、特に開発の遅れているアデノウイルスについて、有効且つ毒性の低い抗アデノウイルス剤の開発が求められている。
【0003】
抗アデノウイルス剤を含む従来の抗ウイルス剤は、培養細胞(Vero細胞等)にウイルスを感染させ、ここに被検体を添加し、ウイルスの増殖を阻害し又は感染細胞を破壊する候補化合物をスクリーニングすることにより得られる(例えば、特許文献1参照)。しかし、数百万以上の候補化合物ライブラリーから、特定の被検体をスクリーニングするには時間も費用も膨大にかかる。その上、ウイルス感染の詳細な作用機構が解明されていないことにより、ウイルス感染の原因となるタンパク質に作用しつつも、開発途中でドロップアウトし、臨床に進めない化合物も多数存在する。
【0004】
一方、数百万以上の候補化合物ライブラリーから、ウイルスタンパク質の活性部位と候補化合物との結合をコンピュータ上でシミュレーションして、候補化合物を探索するin silicoスクリーニング法が知られている(例えば、特許文献2参照)。しかし、タンパク質は生体内でその構造をドラマチックに変化させるため、当該スクリーニング法で得られる結果が、実際に生体内での現象と同一とは限らない。しかも、この方法により、全ての候補化合物の構造解析がなされているわけではない。
【0005】
ところで、ビスフォスフォネートは、これまで悪性腫瘍骨転移抑制剤及び骨粗鬆症の治療薬として実用されてきた。最近になって、ホスホネート化合物が、ヒトサイトメガロウイルス、ポックスウイルス等のウイルス感染症の治療に有用であることが報告されている(例えば、特許文献3参照)。
【0006】
【特許文献1】Prometech Journal Vol.1, No.2, pp.11-13
【特許文献2】理化学研究所 プレスリリース 2004年9月8日
【特許文献3】特表2004-500352号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、ビスフォスフォネートは骨粗鬆症の治療薬としては多数の化合物が知られ、豊富な臨床データも存在するが、ウイルス感染症に対する効果は詳細には研究されていない。
従って、本発明の目的は、ビスフォスフォネートの宿主細胞内での作用機構を解明し、当該作用機構に基づいた、ウイルス感染阻害薬の効率的なスクリーニング法、及びビスフォスフォネートを有効成分とするウイルス感染阻害薬を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、かかる現状に鑑み、ビスフォスフォネートの宿主細胞内での作用機構について鋭意検討したところ、ビスフォスフォネートの標的タンパク質が宿主細胞内のGTP結合タンパク質であるダイナミン-2であることを初めて同定した。また、ダイナミン-2に被検体を存在させ、当該被検体のダイナミン-2への結合量を測定すれば、ダイナミン-2依存的エンドサイトーシスを阻害するウイルス感染阻害薬を簡便にスクリーニングできることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、(1)本発明は、被検体存在下に細胞にウイルスを接触させるステップ、及び前記細胞中の、GTP結合タンパク質であるダイナミン-2に結合して、当該ダイナミン-2のエンドサイトーシス機能を阻害する被検体を選択するステップを含む、ウイルス感染阻害薬のスクリーニング法を提供する。
【0010】
(2)本発明はまた、前記ダイナミン-2が蛍光物質で標識されており、その蛍光強度を測定するステップを更に含む、(1)記載のスクリーニング法を提供する。
【0011】
(3)本発明はまた、前記蛍光物質が、蛍光能を有するタンパク質、又は蛍光能を有する低分子有機化合物である、(1)又は(2)記載のスクリーニング法を提供する。
【0012】
(4)本発明はまた、前記被検体又はダイナミン-2が担体に結合されている、(1)〜(3)のいずれか1記載のスクリーニング法を提供する。
【0013】
(5)本発明はまた、前記担体が、有機ポリマーで被覆した粒子である、(4)記載のスクリーニング法を提供する。
【0014】
(6)本発明はまた、前記ウイルスが、アデノウイルスである、(1)〜(5)のいずれか1記載のスクリーニング法を提供する。
【0015】
(7)本発明はまた、前記ダイナミン-2のエンドサイトーシス機能の阻害を、前記細胞中に産生したアデノウイルスE1Aタンパク質量によって評価する、(6)記載のスクリーニング法を提供する。
【0016】
(8)本発明は更に、ビスフォスフォネートを有効成分とするウイルス感染症阻害薬を提供する。
【発明の効果】
【0017】
本発明のウイルス感染阻害薬のスクリーニング法によれば、作用機構が明らかで、安全かつ強力なウイルス感染阻害薬を、短時間にかつ微量の被検体の使用により探索することができる。また、本発明のウイルス感染阻害薬は、病原性ウイルス、特にアデノウイルスの感染を極めて有効に阻害し、院内感染の予防・治療などに有効である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明を詳細に説明する。
図1に、最もよく知られているエンドサイトーシスのメカニズムを示す。エンドサイトーシスは、タンパク質のような大きな細胞外物質(リガンド)が細胞膜上のレセプターに結合することにより始まる。このレセプターは、多くの場合、細胞膜表面のクラスリンタンパク質に関連づけられる。このクラスリンは細胞膜表面を覆い、窪みを形成する。リセプターがリガンドと結合するとクラスリンに覆われた穴は深くなり、細胞質の中に陥入し、被覆小胞となる。一方、ダイナミン-2は、脂質と親和性の高いPHドメインを介して細胞膜に結合し、細胞膜結合時には、PHドメインと隣り合うミドルドメインを介して螺旋状に多量体化する。ダイナミン-2は、この多量体化の際に、GTPアーゼの活性を向上させ、GTPの加水分解に伴うエネルギーにより、リガンド・レセプター結合体を輸送する細胞内小胞を形成する。この小胞が細胞内に入り込むことにより、リガンドが細胞内に取り込まれ、エンドサイトーシスが成立する。一方、上記小胞形成が阻害されればエンドサイトーシスは抑制される。
【0019】
本発明のスクリーニング法は、このダイナミン-2に結合して小胞形成を阻害する被検体が探索できれば、この被検体が有効なウイルス感染阻害薬になり得ることに着眼したものである。
【0020】
本発明のスクリーニング法としては、ダイナミン-2と被検体との結合量を測定できる方法であれば特に制限されない。例えば、ダイナミン-2を固定した担体に被検体を接触させ、又は被検体を固体した担体にダイナミン-2を接触させ、ダイナミン-2と被検体との結合量を測定する方法が挙げられる。
【0021】
あるいは、担体と、担体に結合する生理活性物質と、ダイナミン-2とからなる複合体、及び被検体を溶媒中に共存させるステップ、この溶媒から当該複合体を分離するステップ、並びに当該溶媒中の被検体とダイナミン-2との結合量を測定するステップ、を含む方法でもよい。あるいは、生理活性物質が結合した担体と、ダイナミン-2と、被検体とを溶媒中に共存させるステップ、この溶媒から担体を分離するステップ、並びに当該溶媒中の被検体とダイナミン-2との結合量を測定するステップ、を含む方法でもよい。上記の例で、生理活性物質は、ダイナミン-2と親和性を有する化合物であればよく、例えば、ダイナミン-2がそのレセプターとなる化合物である。これらの方法では、ダイナミン-2に対してより特異的な化合物の探索が可能になる。
【0022】
担体は、ダイナミン-2又は被検体と結合し得るものであれば特に制限されないが、通常、粒子状のものを使用する。担体は、磁性を有するものが好ましく、例えば本発明者らによって開発された有機ポリマー被膜を有するフェライト粒子が挙げられる(特開2006-88131号明細書)。有機ポリマー被膜を有するフェライト粒子は、例えば、水溶液プロセスによって合成されるフェライト粒子表面を二重膜により被覆することによって製造できる。表面を界面活性剤で被覆することにより、フェライト粒子表面での疎水性高分子の導入を容易にすることができる。
【0023】
有機ポリマー被覆を有するフェライト粒子の粒径は特に制限されないが、5〜300 nmであることが好ましい。有機ポリマーとしては、スチレン型ビニル共重合体や、ポリアクリル酸、ポリビニルアルコール等の親水性高分子が挙げられる。また、有機ポリマーは、PEG、デキストラン、リン脂質、核酸、タンパク質等でもよい。
【0024】
上記結合量を簡便に測定できる点から、被検体又はダイナミン-2は、予め、蛍光物質、発光物質、放射性同位体等で標識しておくことが好ましい。
標識に用いる蛍光物質としては特に限定されず、FITC、TRITC、TAMRA、Cy3、Cy5等の蛍光能を有する低分子有機化合物、蛍光能を有する蛍光タンパク質である緑色蛍光タンパク質(GFP)などが挙げられる。標識には発光物質を用いてもよい。例えば、発光生物由来のカルシウム結合型発光タンパク質のイクオリン、ルシフェラーゼ等の発光能を有するタンパク質、アルカリフォスファターゼ、西洋ワサビペルオキシターゼ等を利用した化学発光反応系を触媒するタンパク質などが挙げられる。
【0025】
本発明の方法において使用する溶媒は特に限定されず、例えば適当な緩衝剤を含む水を挙げることができる。共存させる時間も特に制限されないが、通常、1時間程度である。
【0026】
溶媒から、上記複合体を分離する方法は特に限定されず、溶媒から担体を除去してもよく、溶媒中の特定の場所に担体を集めてもよい。溶媒中の特定の場所に担体を集めるには、例えば、担体に磁性を持たせる方法がある。磁性を持つ担体及びそれを用いる複合体の分離方法については、特願2006-125348号明細書に詳細に記載されている。
【0027】
本発明のスクリーニング法は、具体的には、上皮系細胞、例えばHeLa細胞にウイルス細胞株の培養上清を重層して当該ウイルスを感染させた後、被検体存在下で一定期間培養して、発現する細胞膜の変性を顕微鏡観察すればよい。あるいは、発現するウイルス関連抗原を蛍光抗体、ELISA等の免疫学的方法により検出すればよい。あるいは、PCR等によりウイルス遺伝子を検出することによりウイルス増殖を定量化し、上皮系細胞におけるウイルスの増殖を抑制する被検体を選択してもよい。
【0028】
後記実施例に示すように、予め細胞を被検体で処理した場合には、アデノウイルスに感染後初期に発現するタンパク質であるE1Aが検出されず、本発明のスクリーニング法によれば、ウイルスによる感染を有効に阻害できることが判明した。特に被検体としてビスフォスフォネートを選択した場合には明らかな阻害活性が認められ、中でもアレンドロネート、エチドロネート、ゾレドロネートでは顕著な阻害活性を示した。但し、クロドロネートでは阻害活性がほとんど認められなかった。
【0029】
次に、優れた阻害作用を示したビスフォスフォネートが、実際にダイナミン-2に結合して、ダイナミン-2依存的エンドサイトーシスを阻害することを明らかにするために、ビスフォスフォネートがダイナミン-2を標的タンパク質とすることを確認した。
具体的には、タンパク質の固定に通常用いられる固相支持体を用いて、マクロファージ様細胞株の細胞質抽出液からビスフォスフォネート結合タンパク質を精製することにより行った。このビスフォスフォネート結合タンパク質の精製は、ビスフォスフォネートを固定した支持体を上記の細胞質抽出液と混合した後、当該支持体に結合した細胞質抽出液中のタンパク質を溶出することによって行うことができる。この溶出されたタンパク質は、後記実施例に示すようにダイナミン-2であり、またビスフォスフォネートはダイナミン-2に直接、結合することが明らかとなった。
【0030】
以上により、骨粗鬆治療薬として実用されてきたビスフォスフォネートがウイルス感染阻害薬となり得ることが判明した。
【0031】
ここで、本発明のウイルス感染阻害薬で用いるビスフォスフォネートは、好ましくは、下記一般式(I):
【0032】
【化1】

【0033】
[式中、
R1及びR2は各々独立して、水素原子、ヒドロキシ基、ハロゲン原子、アミノ基、炭素数1〜6のアルキル基、炭素数1〜6のアルキルアミノ基、炭素数2〜12のジアルキルアミノ基、炭素数3〜7のシクロアルキルアミノ基、並びにアミノ基、炭素数1〜6のアルキルアミノ基及び炭素数2〜12のジアルキルアミノ基から選ばれる置換基で置換された炭素数1〜6のアルキル基、ハロゲン原子で置換された炭素数6〜12のアリール−S−、炭素数1〜6のアルキルイミダゾリル基、炭素数1〜6のアルキルピリジル基、炭素数1〜6のアルキルピロリジニル基、からなる群より選ばれる置換基を表す。但し、R1及びR2の少なくとも1つはハロゲン原子でない。]
で表されるビスフォスフォネートである。
【0034】
本明細書で用いられる炭素数1〜6のアルキルとは、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル、sec-ブチル、tert-ブチル、n-ヘキシル等を意味する。炭素数1〜6のアルキルアミノ基とは、上記炭素数1〜6のアルキルで置換されたアミノ基を意味し、例えばメチルアミノ、エチルアミノ、n-プロピルアミノ、n-ペンチルアミノ等が挙げられる。炭素数2〜12のジアルキルアミノ基とは、上記炭素数1〜6のアルキルによる二置換アミノ基を意味し、例えば、N,N-ジメチルアミノ、N,N-ジエチルアミノ、N,N-メチルエチルアミノ、N,N-メチルプロピルアミノ、N,N-メチルペンチルアミノ等が挙げられる。炭素数3〜7のシクロアルキルアミノ基とは、シクロプロピル、シクロペンチル、シクロへキシル、シクロヘプチル等の炭素数3〜7のシクロアルキルで置換されたアミノ基を意味し、例えば、シクロへキシルアミノ、シクロヘプチルアミノ等が挙げられる。アミノ基、炭素数1〜6のアルキルアミノ基及び炭素数2〜12のジアルキルアミノ基から選ばれる置換基で置換された炭素数1〜6のアルキル基とは、アミノ基、上記炭素数1〜6のアルキルアミノ基又は上記炭素数2〜12のジアルキルアミノ基で置換された上記炭素数1〜6のアルキル基を意味し、例えば、2-アミノエチル、N,N-ジメチルアミノメチル、N,N-メチルペンチルアミノメチル、N,N-ジメチルアミノエチル等が挙げられる。ハロゲン原子で置換された炭素数6〜12のアリールとは、フッ素原子、塩素原子、臭素原子等で置換されたフェニル基等を意味する。ハロゲン原子で置換された炭素数6〜12のアリール-S-としては、例えば、p-クロロフェニル-S-が挙げられる。炭素数1〜6のアルキルイミダゾリル基、炭素数1〜6のアルキルピリジル基、及び炭素数1〜6のアルキルピロリジニル基とは、それぞれ、上記炭素数1〜6のアルキル基で置換されたイミダゾリル基、ピリジル基、ピロリジニル基を意味し、例えば、1-イミダゾリルメチル、3-ピリジルメチル、1-ピロリジニルエチルが挙げられる。
【0035】
本発明のビスフォスフォネートは、より好ましくは、アレンドロネート、イバンドロネート、インカドロネート、エチドロネート、オルパドロネート、ゾレドロネート、チルドロネート、ネリドロネート、パミドロネート又はリセドロネートであり、特に好ましくは、アレンドロネート、パミドロネート又はゾレドロネートである。
【0036】
また、ビスフォスフォネートはその薬学的に許容される塩の形態でもよい。塩しては、塩酸、臭化水素酸、硫酸、硝酸等の無機酸の塩;メタンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸、フマル酸、トリフルオロ酢酸等の有機酸の塩;ナトリウム、カリウム、カルシウム等のアルカリ金属又はアルカリ土類金属のイオンとの塩が挙げられる。
【0037】
本発明のビスフォスフォネート又はその薬学的に許容される塩は、溶媒和物の形態でもよい。溶媒和物としては、結晶の晶出等に用いた溶媒が付加した溶媒和物の他に、空気中の水分を吸収して形成されるものも含む。溶媒の例としては、例えば、水、メタノール、エタノール等の低級アルコール、アセトン、アセトニトリル等の有機溶媒等が挙げられる。
【0038】
本発明のビスフォスフォネート又はその薬学的に許容される塩は、例えば特表2004−500352号に記載の方法に準じて簡便に製造できる。
【0039】
本発明のウイルス感染阻害薬を医薬として用いるに際し、ビスフォスフォネート又はその薬学的に許容される塩の投与量は、患者の年齢、性別、症状等により異なるが、成人1人当たりの1日量は、0.1 mg〜1gが好ましく、特に0.5 mg〜500 mgが好ましい。この場合、1日量を数回に分けて投与することも可能であり、必要な場合には上記の1日量を超えて投与することも可能である。
【0040】
本発明のウイルス感染阻害薬は、必要に応じた投与法及び剤形により使用可能であり、その製剤は通常用いられている各種製剤の調製法にて必要に応じて薬学的に許容される担体を配合して、投与法に合致した剤形を選択すればよく、投与法及び剤形は特に限定されるものではない。
経口用製剤としては、例えば、錠剤、散剤、顆粒剤、丸剤、カプセル剤等の固形製剤の他に、液剤、シロップ剤、エリキシル剤、懸濁剤、乳剤等の液体製剤を挙げることができる。
注射剤としては、ビスフォスフォネートもしくはその薬学的に許容される塩又はそれらの溶媒和物を溶解して容器に充填してもよく、またそれを凍結乾燥等によって固形として用時調製の製剤としてもよい。
これらの製剤を調製する場合には、製剤学上許容される添加物、例えば、結合剤、崩壊剤、溶解促進剤、滑沢剤、充填剤、賦形剤等を必要に応じて選択して用いることができる。
【0041】
本発明のウイルス感染阻害薬に適した適応症としては、アデノウイルス、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)、単純ヘルペスウイルス(HSV)、ヒトヘルペスウイルス6、サイトメガロウイルス(CMV)、B型肝炎ウイルス、エプスタイン−バーウイルス(EBV)、水痘帯状疱疹ヘルペスウイルス等が挙げられるが、特にアデノウイルス感染症である。
【実施例】
【0042】
次に実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に何ら限定されるものではない。
【0043】
[参考例1]
(1)アレンドロネート固定化ラテックスビーズの作製
エポキシ基を提示しているラテックスビーズ5 mgに100 mM アレンドロネート溶液、1N NaOH溶液を表1に示すように混合することでpHを10に調整し、70℃で24時間撹拌、アレンドロネート固定化ラテックスビーズ(+)及び非固定化ラテックスビーズ(-)を作製した。
【0044】
【表1】

【0045】
遠心分離によって上清を除去し、500μlの水を加えてビーズを再分散させた。この操作を5回繰り返し、ビーズを洗浄した。
【0046】
(2)アレンドロネート相互作用因子の同定
マウスのマクロファージ由来のセルラインRAW264.7をDMEM培地中で大量培養をし、ディグナム法(Dignam, J. D., Methods Enzymol 182, 194-203, 1990)により、細胞質中のタンパク質を抽出した。得られた細胞質抽出液を0.1 HGKEDN溶液(10 mM HEPES(pH 7.9)、10 % グリセロール、100 mM KCl、0.2 mM EDTA、1 mM DTT、1mM PMSF、0.1 % NP-40)中で透析した。
【0047】
最終タンパク質濃度を1 mg/mlになるように調整し、0.5 mgのアレンドロネート固定化/非固定化ビーズを懸濁させた。4℃で4時間回転させ、反応させた。遠心分離によって上清を除去し、300μlの0.05 HGKEDN溶液(10 mM HEPES(pH 7.9)、10 % グリセロール、50 mM KCl、0.2 mM EDTA、1 mM DTT、1 mM PMSF、0.1 % NP-40)を加えてビーズを再分散させた。この操作を5回繰り返し、ビーズを洗浄した。その後、0.3 HGKEDN(10 mM HEPES(pH 7.9)、10 %グリセロール、300 mM KCl、0.2 mM EDTA、1 mM DTT、1mM PMSF、0.1 % NP-40)でビーズを再分散させ、ビーズに結合しているタンパク質を溶出させた。
【0048】
得られた溶出液をSDS-PAGEにより分離し、CBB染色により染色した結果、アレンドロネート固定化ビーズの溶出液にのみ2種類のタンパク質が確認された。このタンパク質をゲルから切り出し、マススペクトロメトリーを用いて、分子量の大きいものから「ダイナミン-2」と「SNX9」と同定した(図2)。
【0049】
[参考例2]
(1)組み換えHisタグ融合ダイナミン-2(re-His-Dyn2)の発現
Bac-to-Bac(登録商標)Baculovirus Expression System(Invitrogen)を用いて、re-His-Dyn2の発現バキュロウイルスを作成した。2 LのSf9細胞にMOI(multiplicity of infection)=0.5となるようにウイルスを感染させre-His-Dyn2を発現させた。
【0050】
(2)Hisタグによる精製
re-His-Dyn2を発現したSf9細胞を回収し、PBSで洗浄した。200 mlの溶解溶液(20 mM Tris-HCl (pH 7.9)、500 mM KCl、5 mM イミダゾール、0.1 % NP-40)に懸濁し、超音波破砕することにより細胞膜を破壊した。遠心により不溶性画分を分離し、可溶性画分をポアサイズ0.22μmのフィルター(Millipore)を用いて濾過した。可溶性画分にベッドボリューム10 mlのニッケルアガロースゲル(Ni-NTA Agarose; QIAGEN)を分散させた。4℃で1時間回し、re-His-Dyn2をニッケルアガロースゲルに結合させた。その後、オープンカラムに反応液を移し、100 mlの溶解溶液でゲルを洗浄した。次いで、20 ml の0.2x洗浄溶液(4 mM Tris-HCl(pH 7.9)、100 mM KCl、12 mM イミダゾール、0.1 % NP-40)で洗浄し、さらに20 mlの0.5x洗浄溶液で洗浄した。その後、5 mlの溶出溶液(2 mM Tris-HCl (pH 7.9)、50 mM KCl、100 mM イミダゾール、0.1 % NP-40)を加え、ゲルのバッファー置換を行い、10 mlの溶出溶液で結合タンパク質を溶出した。溶出したタンパク質は0.1 HGKEDN中で透析を行った。
【0051】
(3)組み換えGSTタグ融合SNX9(re-GST-SNX9)の発現
re-GST-SNX9の発現ベクター(pGEX-6P1-SNX9)を組み込んだ大腸菌BL21を37℃で吸光度660 nm=0.7まで1 L培養した。最終濃度2 mMになるようにIPTGを加え、30℃で6時間培養し、re-GST-SNX9を発現させた。
【0052】
(4)GSTタグによる精製
re-GST-SNX9を発現した大腸菌を遠心により回収し、PBSで洗浄した。大腸菌を30 mlの溶解溶液(PBS、0.2 % Triton-X)に懸濁し、超音波破砕することにより細胞膜を破砕した。その後、遠心により不溶性画分を分離し、可溶性画分をポアサイズ0.22μmのフィルターを用いて濾過した。可溶性画分にベッドボリューム1.8 mlのグルタチオンビーズ(Glutathione Sepharrose 4B; GE ヘルスケア)を分散させた。4℃で1時間回し、re-GST-SNX9をグルタチオンビーズに結合させた。その後、オープンカラムに反応液を移し、18 mlの溶解溶液でゲルを2回洗浄した。次いで、1.8 mlの溶出溶液(50 mM Tris-HCl (pH 7.9)、150 mM NaCl、1mM EDTA、1mM DTT)で2回、バッファー交換を行った。その後、ゲルを1.8 mlの溶出溶液に懸濁し、80μlのPreScission Protease(GE ヘルスケア)を加え、4℃で16時間回して反応させ、GSTタグを切断しグルタチンビーズに結合したタンパク質を溶出した。PreScission Protease自身がGST融合タンパク質であるためグルタチオンビーズに結合し、切断後はプロテアーゼを含まない精製された目的タンパク質のみが回収できる。溶出したタンパク質は0.1HGKEDN中で透析を行った。
【0053】
[実施例1]
(1)結合様式の確認
参考例1より、アレンドロネートと相互作用する因子として、ダイナミン-2とSNX9との2つが確認された。それぞれが独立にアレンドロネートと相互作用しているのか、又はいずれかがもう一方を介して相互作用しているのかを解析した。参考例2で精製した組み換えタンパク質をそれぞれ、表2の濃度になるように調整した。
【0054】
【表2】

【0055】
参考例1(2)と同様の結合・精製条件下において、アレンドロネート固定化/非固定化ビーズを懸濁させた溶液に、アレンドロネート(ALN)、ゾレドロネート(ZOL)、エチドロネート(ETI)、クロドロネート又はパミドロネートを終濃度がそれぞれ100μM、300μM、1 mMになるように混合し、精製を行った。クロドロネート及びパミドロネートについてはデータ非表示。その結果、各サンプルにおいて、溶出液中のダイナミン-2及びSNX9のタンパク質量が減少した(図4)。図4において、レーン1はアレンドロネート非固定化;レーン2はアレンドロネート固定化;レーン3〜5は精製時にそれぞれ終濃度100μM、300μM、1 mMのアレンンドロネートを混合;レーン6〜8は精製時にそれぞれ終濃度100μM、300μM、1 mMのゾレドロネートを混合;レーン9〜11は精製時にそれぞれ終濃度100μM、300μM、1 mMのエチドロネートを混合したことを示す。
【0056】
[実施例2]
(1)アレンドロネートによるダイナミン-2のエンドサイトーシス機能への影響についてのFACSによる解析
ダイナミン-2はエンドサイトーシスにおいて重要な役割を果たすタンパク質であり、その機能を失ったダイナミン-2を発現する細胞では、エンドサイトーシスが阻害される。そこで、アレンドロネートがダイナミン-2のエンドサイトーシス機能に影響を与えるかどうかを、ダイナミン-2依存的なエンドサイトーシスによって細胞内に取り込まれる蛍光物質で標識したリガンドを用いて解析した。
【0057】
105 個のMEM1-HeLa細胞を12ウェルプレートに撒き、MEM1培地(10 % FBS)中で37℃で12時間培養した。その後、0.2 %の血清含有培地に交換し、さらに18時間培養した。その後、最終濃度30μM クロルプロマジン(Chlorpromazin)の条件で15分間培養、又は最終濃度100μM アレンドロネートの条件で4時間培養した。その後、Alexa-Fluor-546で蛍光標識されたトランスフェリン(Transferrin Conjugates Alexa Fluor 546; Molecular Probes)又はBODIPY FLで蛍光標識されたLDL(BODIPY FL LDL; Molecular Probes)を5μg/mlとなるように添加し、37℃で15分間培養した。次に、培地を除去し、氷冷した酸処理溶液(0.2 M酢酸、0.5 M NaCl)により細胞表面を洗浄し、細胞表面のレセプターに結合しただけのリガンドを除去した。さらに、氷冷PBSにより細胞表面を3回洗浄し、500μlのトリプシン/EDTA(0.025 % トリプシン、0.02 % EDTA)により細胞を分散させ、FACSのサンプルとした。サンプルをFACS Calibur(Becton Dicknson)によって解析した。ここで、クロルプロマジンはエンドサイトーシスの阻害剤であり、本実験の陽性コントロールとして用いた。
【0058】
その結果、クロルプロマジン処理したサンプル及びアレンドロネート処理したサンプルではいずれも、非処理サンプルに比べて蛍光強度が低下し、アレンドロネートはダイナミン-2の機能を阻害することによりエンドサイトーシスを阻害することが示唆された。
【0059】
(2)他のビスフォスフォネートによるダイナミン-2のエンドサイトーシス機能への影響についてのFACSによる解析
実施例2(1)と同様にして、エチドロネート、パミドロネート、ゾレドロネート又はクロドロネートによるダイナミン-2のエンドサイトーシス機能への影響ついて検討した。
【0060】
その結果、トランスフェリンの場合はクロドロネート以外のビスフォスフォネートにおいて、LDLの場合はエチドロネート及びクロドロネート以外のビスフォスフォネートにおいて、アレンドロネートと同様に蛍光強度の低下が確認された。
【0061】
このことから、アレンドロネート、エチドロネート、パミドロネート及びゾレドロネートはいずれも、ダイナミン-2と相互作用することによりエンドサイトーシスを阻害していることが示唆された。
【0062】
上記のFACSによる解析結果から、トランスフェリン吸収阻害のIC50値を求めた(表3)。IC50値は、非処理細胞の蛍光強度の値を「1」として、処理後の各サンプルの蛍光強度の増分を、シグモイド用量反応曲線(可変勾配)用ソフトウェアを用いて算出した。
【0063】
【表3】

【0064】
(3)アレンドロネート等によるダイナミン-2のエンドサイトーシス機能への影響についての蛍光顕微鏡による観察
実施例2(1)、(2)のように細胞を調製し、酸処理を行った後、4 % ホルマリンを室温で15分間処理することにより細胞を固定した。氷冷PBSにより2回、細胞表面を洗浄し、カバーグラス上にサンプルを載せ、蛍光顕微鏡(OLYMPUS IX70)により観察した(図5)。その結果、FACSとほぼ同様の阻害結果が確認された。図5において各パネルa〜hは以下を示す。
【0065】
【表4】

【0066】
[実施例3]
ダイナミン-2によるリポソームの切断反応に対するビスフォスフォネートの効果
リポソームはその性質が生体膜に非常に似ており、ダイナミン-2が細胞膜の被覆ピット(endocytic pit)を切断する過程の試験管モデルとしてよく用いられる。すなわち、ダイナミン-2は、そのPHドメインを介してリポソーム上に螺旋状に多量体化し、GTPを加水分解するときのエネルギーによってその構造を変化させ、螺旋の直径を小さくすることによりリポソームを小胞へと切断するモデルである(図6)。本発明者らは、本モデルが、ビスフォスフォネートによるエンドサイトーシスの阻害メカニズムの解析をするうえで非常に有効であると考え、この実験系にビスフォスフォネートを作用させることにした。
【0067】
文献(K Takei, Methods Enzymol 329, 478-486, 2001)のプロトコールに従い、1.0 mg/mlのリポソーム溶液を作製した。次に、リポソーム溶液100μlを遠心によりリポソームのみ沈殿させ、表5に示す組成の反応溶液で再分散させた。
【0068】
【表5】

【0069】
37℃で10分間反応させた後、遠心してリポソームを沈殿させ、20μlのCytosolic bufferで再分散させた。得られたリポソームを正電荷を与えた電子顕微鏡用グリッド(コロジオン膜貼付メッシュ;日新EM株式会社)に吸着させ、2 % 酢酸ウランにて染色し、電子顕微鏡(HITACHI H-7650)で観察した。
【0070】
その結果、ダイナミン-2非存在下では直径が1〜10μmのリポソームが観察され(図6のa、図7のa)、ダイナミン-2を添加したサンプルではダイナミン-2がリポソーム上に多量体化し、直径約120〜150 nmのチューブ状に引き伸ばされたリポソームが観察された(図6のb、図7のb)。さらにこのサンプルにGTPを加えると、リポソームはダイナミン-2によって切断され、直径約40〜60 nmの小胞が観察された(図6の、図7のc)。
次に、ビスフォスフォネートを添加した各サンプルでは、クロドロネート(図7のh)を除き、リポソームの切断が阻害され、直径約50〜60 nmのチューブが確認された(図7のd〜g)。
【0071】
これらのことから、クロドロネートを除くビスフォスフォネートは、被覆ピットの付け根を切断するステップを阻害することにより、エンドサイトーシスの阻害を引き起こすことが示唆された。
【0072】
[実施例4]
(1)アデノウイルス感染阻害の免疫染色による解析−1
これまでの結果から、アレンドロネートをはじめとするビスフォスフォネートはダイナミン-2の機能を阻害することにより、アデノウイルスの感染を阻害することが示唆された。そこで、アデノウイルスが感染後初期に発現する遺伝子であるE1Aの発現を確認することにより、アデノウイルスの感染の有無を確認した。
【0073】
105 個のMEM1-HeLa細胞を12ウェルプレートに撒き、MEM1培地(10 % FBS)中で37℃で24時間培養した。その後、表6のような濃度で各ビスフォスフォネートを処理し、37℃で4時間培養した。
【0074】
【表6】

【0075】
その後、MOI=15でアデノウイルスを感染させ、37℃で18時間培養した。培地を除去し、氷冷PBSで2回、細胞表面を洗浄した。10 % ホルマリンを室温で10分間処理し、細胞を固定した後、0.1 % Triton-X100 PBSを室温で15分間処理し、細胞膜の透過処理を行った。5 %ミルク TBSを室温で30分間処理しブロッキングを行い、抗E1A抗体(Adenovirus Type2 E1A Ab-2(Clone M73); NEO MARKERS)を室温で1時間処理した。5 %ミルクによる洗浄を5分間続け、それを2回繰り返した。その後、Alexa Fluor 488融合抗マウス抗体(Alexa Fluor 488 ヤギ抗マウスIgG (H+L); Molecular Probes)を室温で1時間処理し、氷冷したPBSによる洗浄を5分間続け、それを2回繰り返した。その後、スライドグラス上に退光防止剤(VectorShield with DAPI; Vctor Laboratories Inc.)を載せ、サンプルを固定した。そのサンプルを蛍光顕微鏡により観察した。結果を図8に示す。
【0076】
図8から明らかなように、クロドロネートではE1Aの発現が観察されたが、アレンドロネート及びエチドロネートでは観察されなかった。この結果から、クロドロネートを除くビスフォスフォネートでは、アデノウイルスの感染が阻害されたことが示唆された。
【0077】
(2)アデノウイルスの感染阻害のウェスタンブロッティングによる解析−1
側鎖に窒素原子を含むビスフォスフォネート(アミノビスフォスフォネート)は、ファルネシルピロリン酸シンターゼ(FPPシンターゼ)の機能を阻害することが知られている。FPPシンターゼは、コレステロールの生合成回路でファルネシルピロリン酸を合成する酵素であり、タンパク質のファルネシル化やコレステロールの生合成に重要な役割を果たす。エンドサイトーシスには種々のsmall G-proteinが関わることが知られており、これらのタンパク質はファルネシル基等のアルキル基を介して細胞膜にアンカリングし、その機能を果たす。そのため、small G-proteinのファルネシル化が阻害された際、エンドサイトーシスが阻害されることがある。
【0078】
本研究で明らかになった、アミノビスフォスフォネートのエンドサイトーシス阻害能が、ダイナミン-2の機能の直接的な阻害に因るものであって、small G-proteinの機能の阻害に因るものではないことを確認するために、Rap1Aのファルネシル化を確認した。
【0079】
Rap1Aはエンドサイトーシスに関わるsmall G-proteinの一つである。ファルネシル基が付加されたアミノ酸残基をRap1Aが認識する抗体が市販されている。ファルネシル化されたアミノ酸残基はこのような抗体では認識されず、一方、脱ファルネシル化されたアミノ酸残基はこのような抗体で認識されるので、ファルネシル化の有無をウェスタンブロッティングにより確認することができる。
【0080】
105 個のMEM1-HeLa細胞を12ウェルプレートに撒き、MEM1培地(10 % FBS)中で37℃で24時間培養した。その後、表7のような濃度で各ビスフォスフォネートを処理し、37℃で4時間培養した。
【0081】
【表7】

【0082】
その後、MOI=15でアデノウイルスを感染させ、37℃で18時間培養した。氷冷PBSで細胞表面を洗浄し、RIPAバッファー(50 mM Tris-HCl、150 mM NaCl、1.0 % NP-40、0.5 % DOC、0.1 % SDS)で細胞を溶解し、抗E1A抗体、抗Rap 1A抗体(Rap 1A(C-17): sc-1482; Santa Cruz Biotechnology, Inc)、抗アクチン抗体(Actin(I-19): sc-1616; Santa Cruz Biotechnology, Inc)を用いてウェスタンブロッティングを行った。
【0083】
その結果を図9Aに示す。アレンドロネート、エチドロネート共に濃度依存的にE1Aの発現量が低下し(レーン3〜9)、一方、クロドロネートでは細胞毒性を示す濃度でもE1Aの発現量は低下しなかった(レーン10)。
【0084】
ここで、アデノウイルスの感染阻害がFPPシンターゼの阻害(small G-proteinの脱ファルネシル化)に因るものではないことをRap1Aの認識の有無により確認した。ビスフォスフォネート処理細胞では、Rap1Aが抗体により認識された。このことから、FPPシンターゼの機能が阻害されたことが分かる。一方、エチドロネートではRap1Aが認識されず、FPPシンターゼの機能は阻害されていないにも関わらず、E1Aの発現は抑制された。
【0085】
更に、タンパク質のファルネシル基の枯渇化はコレステロール生合成経路の中間産物であるゲラニルゲラニオール(GGOH)を添加することによりレスキューされることが知られている。そこで、アレンドロネートを処理した細胞にGGOHを処理し、アデノウイルスの感染が回復されるか確認した。しかし、Rap1Aのファルネシル化は回復したが、E1Aの発現は回復しなかった(図9Cのレーン12)。このことからも、FPPシンターゼの機能阻害がアデノウイルスの取り込み阻害には関係していないことが示唆された。
【0086】
(3)アデノウイルスの感染阻害のウェスタンブロッティングによる解析−2
上記(2)と同様にしてゾレドロネートについて感染実験を行った(図9B)。各レーンは以下のとおりである。
【0087】
【表8】

【0088】
その結果、ゾレドロネートにおいても濃度依存的にE1A発現が減少することが分かった。
【0089】
(4)アデノウイルスの感染阻害のウェスタンブロッティングによる解析−3
高脂血症薬であるロバスタチンはHMG-CoAレダクターゼの機能を阻害することが知られている。HMG-CoAレダクターゼはコレステロール生合成の経路の最上流で働く酵素であり、HMG-CoAをメバロン酸に変換する酵素である。その機能が阻害されるとファルネシルピロリン酸をはじめとしたコレステロールの前駆体は合成されなくなり、タンパク質のファルネシル化等は全て阻害される。そこで、ロバスタチンについて、上記(1)と同様に感染実験を行った(図9C)。
【0090】
その結果、ロバスタチンを処理した細胞(レーン3)では、Rap1Aは脱ファルネシル化されているにも関わらず、E1Aの発現は抑制されなかった。このことから、FPPシンターゼの機能阻害がアデノウイルスの取り込み阻害には関係していないことが示唆された。図9Cにおいて各レーンは以下のとおりである。
【0091】
【表9】

【0092】
このことから、アデノウイルスの感染阻害は、FPPシンターゼの機能阻害によるものではなく、ダイナミン-2を介した取り込み阻害に因るものであると考えられる。
【0093】
以上より、ビスフォスフォネートによるアデノウイルスの感染阻害はダイナミン-2のエンドサイトーシスにおける機能を阻害することに起因するものであると考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0094】
【図1】図1は、エンドサイトーシスの一般的なメカニズムを示す図である。
【図2】図2A及びBは、アレンドロネート固定化ラテックス粒子に特異的にダイナミン-2及びSNX-9が検出されたことを示すSDS-PAGE像である。
【図3】図3は、ダイナミン-2がアレンドロネートに直接結合することを示すSDS-PAGE像である。
【図4】図4は、ゾレドロネー又はエチドロネートとダイナミン-との結合を示すSDS-PAGE像である。
【図5】図5のa〜hは、蛍光標識リガンドの取り込み阻害結果の蛍光顕微鏡写真像である。
【図6】図6は、ダイナミン-2によるリポソームの小胞化を示す電子顕微鏡写真像(上段)、及びモデル図(下段)である。
【図7】図7のa〜cは、ビスフォスフォネート非存在下でのダイナミン-2によるリポソームの小胞化を示す電子顕微鏡写真像である。図7のd〜hは、ビスフォスフォネート存在下での、ダイナミン-2によるリポソームの小胞化阻害を示す電子顕微鏡写真像である。
【図8】図8は、アデノウイルス感染後初期に発現するE1Aタンパク質の蛍光顕微鏡写真像である。
【図9】図9A〜Cは、アデノウイルス感染後初期に発現するE1Aタンパク質のウェスタンブロッティング像である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検体存在下に細胞にウイルスを接触させるステップ、及び
前記細胞中の、GTP結合タンパク質であるダイナミン-2に結合して、当該ダイナミン-2のエンドサイトーシス機能を阻害する被検体を選択するステップ
を含む、ウイルス感染阻害薬のスクリーニング法。
【請求項2】
前記ダイナミン-2が蛍光物質で標識されており、その蛍光強度を測定するステップを更に含む、請求項1記載のスクリーニング法。
【請求項3】
前記蛍光物質が、蛍光能を有するタンパク質、又は蛍光能を有する低分子有機化合物である、請求項1又は2記載のスクリーニング法。
【請求項4】
前記被検体又はダイナミン-2が担体に結合されている、請求項1〜3のいずれか1項記載のスクリーニング法。
【請求項5】
前記担体が、有機ポリマーで被覆した粒子である、請求項4記載のスクリーニング法。
【請求項6】
前記ウイルスが、アデノウイルスである、請求項1〜5のいずれか1項記載のスクリーニング法。
【請求項7】
前記ダイナミン-2のエンドサイトーシス機能の阻害を、前記細胞中に産生したアデノウイルスE1Aタンパク質量によって評価する、請求項6記載のスクリーニング法。
【請求項8】
ビスフォスフォネートを有効成分とするウイルス感染症阻害薬。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2008−125391(P2008−125391A)
【公開日】平成20年6月5日(2008.6.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−311865(P2006−311865)
【出願日】平成18年11月17日(2006.11.17)
【出願人】(304021417)国立大学法人東京工業大学 (1,821)
【Fターム(参考)】