説明

ウェットエッチング装置およびウェットエッチング方法

【課題】本発明は、シリコン基板のエッチング量のばらつきを低減することができるウェットエッチング装置を提供する。
【解決手段】本発明のウェットエッチング装置は、シリコン基板を収容できかつアルカリ性のエッチング液を溜めるエッチング槽と、二酸化炭素濃度低減部とを備え、前記エッチング槽は、シリコン基板をエッチング液に浸漬するため、およびシリコン基板をエッチング液から引き上げるための上部開口を有し、前記二酸化炭素濃度低減部は、前記上部開口の近傍の気体に含まれる空気由来の二酸化炭素の濃度を低減させることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリコン基板をウェットエッチングするウェットエッチング装置およびウェットエッチング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
シリコン基板の製造方法では、まず、シリコンインゴットを、ワイヤーソーなどの機械加工によりスライスすることによりシリコン基板を切り出す。この切り出したシリコン基板は、第1の表層部を除去する1次エッチング工程により処理され、機械加工の際に付いた傷などの基板ダメージや機械加工の際に付着した汚染物が取り除かれる。また、シリコン基板を太陽電池のようにその表面に光を入射させて用いる場合、シリコン基板は、第2表層部を除去する2次エッチング工程により処理され、その表面に入射する光を効率良く吸収するための凹凸構造を形成する。
これらのエッチング工程は、ほとんどの場合エッチング液にフッ化水素酸と硝酸の混合液(酸性水溶液)を用いた酸エッチングや、エッチング液に水酸化ナトリウムや水酸化カリウムの水溶液(アルカリ性水溶液)を用いたアルカリエッチングにより行われる。特にアルカリエッチングは、酸エッチングに比べ発熱量が小さくエッチング量の精密な制御が可能である。
【0003】
シリコン基板のアルカリエッチングは一般的に以下の2つの反応式で記述される。
(式1) Si + 4OH-→ Si(OH)4 + 4e-
(式2) 4H2O + 4e-→ 4OH-+2H2
このような反応が生じることにより、シリコン基板の一部がSi(OH)4としてアルカリ性水溶液中に溶解し、シリコン基板がエッチングされる。なお、生成したSi(OH)4(ケイ酸)は、アルカリ化合物と反応して、ケイ酸塩としてアルカリ性水溶液中に溶解する。つまり、シリコン基板のエッチングが進行すると同時にケイ酸の中和も進行し、アルカリ性水溶液中のOH-濃度の低下が進行する。
【0004】
半導体製造工程においてシリコン基板をアルカリエッチングする場合、所定の枚数のシリコン基板(シリコン基板の第1組)を、エッチング槽に溜めたアルカリ性水溶液に所定時間浸漬することによりアルカリエッチングし、アルカリエッチングしたシリコン基板をエッチング槽から引き上げた後、次の所定の枚数のシリコン基板(シリコン基板の第2組)をエッチング槽に溜めたアルカリ性水溶液に所定時間浸漬することによりアルカリエッチングする。このような工程を繰り返すことにより、大量のシリコン基板をウェットエッチングすることができる。
【0005】
しかし、このようなエッチング工程を繰り返すと、エッチング槽に溜めたアルカリ性水溶液中のOH-濃度の低下が進行しエッチング速度が低下するため、シリコン基板の各組について同じ処理時間でウェットエッチングすると、シリコン基板の各組によりエッチング量のばらつき、加工後のシリコン基板の表面状態にばらつきが生じる。
このようなエッチング量のばらつきを抑制するために、例えば、エッチング工程は、エッチング槽に新液を投入してからの処理回数に応じて、処理時間を長くすることによりエッチング量を制御している(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−220980号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、従来のアルカリエッチングでは、シリコン基板の処理回数に応じて、処理時間を変化させてもシリコン基板のエッチング量にばらつきが生じる場合がある。
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、シリコン基板のエッチング量のばらつきを低減することができるウェットエッチング装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、シリコン基板を収容できかつアルカリ性のエッチング液を溜めるエッチング槽と、二酸化炭素濃度低減部とを備え、前記エッチング槽は、シリコン基板をエッチング液に浸漬するため、およびシリコン基板をエッチング液から引き上げるための上部開口を有し、前記二酸化炭素濃度低減部は、前記上部開口の近傍の気体に含まれる空気由来の二酸化炭素の濃度を低減させることを特徴とするウェットエッチング装置を提供する。
【発明の効果】
【0009】
本発明の発明者らは、実験を繰り返した結果、従来のシリコン基板のアルカリエッチングにおいてシリコン基板のエッチング量にばらつきが生じる主な原因が、大気中の二酸化炭素がエッチング液に溶け込むことにより生じる中和反応にあることを見出し本発明に至った。
本発明によれば、シリコン基板を収容でき、かつ、アルカリ性のエッチング液を溜めるエッチング槽が、シリコン基板をエッチング液に浸漬するため、およびシリコン基板をエッチング液から引き上げるための上部開口を有するため、上部開口によりシリコン基板をエッチング液に所定時間浸漬することができ、シリコン基板のエッチング量を制御することができる。また、シリコン基板を次々とアルカリエッチングすることができ、大量のシリコン基板をウェットエッチングすることができる。
【0010】
本発明によれば、二酸化炭素濃度低減部が、前記上部開口の近傍の気体に含まれる空気由来の二酸化炭素の濃度を低減するため、上部開口の近傍の気体に含まれる空気由来の二酸化炭素がエッチング槽に溜めたアルカリ性のエッチング液に溶け込み中和反応が生じることによる、エッチング液中のOH-濃度の低下を抑制することができる。このことにより、エッチング工程を繰り返すことよるエッチング液中のOH-濃度の低下が小さくなり、シリコン基板の加工安定性を向上させることができる。また、同じエッチング液中でより多くのシリコン基板をエッチング処理することができ、製造コストを低減することができる。
また、このことにより、二酸化炭素がエッチング液に溶け込むことによるエッチング速度への影響を小さくすることができ、エッチング液によるエッチング量に応じてシリコン基板の処理時間を変化させることにより、シリコン基板のエッチング量を一定にすることができる。また、エッチング量のばらつきが小さいシリコン基板を安定して生産することができる。さらに、生産したシリコン基板は、エッチング量のばらつきが小さいため、シリコン基板の表面状態のばらつきが低減されており、シリコンエッチ面の厚みや鏡面状態のばらつきも低減されている。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の一実施形態のウェットエッチング装置の構成を示す概略断面図である。
【図2】本発明の一実施形態のウェットエッチング装置に含まれる制御部による二酸化炭素濃度を制御するフローチャートである。
【図3】比較例1、2のウェットエッチング実験で用いたウェットエッチング装置の構成を示す概略断面図である。
【図4】ウェットエッチング実験の結果を示すグラフである。
【図5】ウェットエッチング実験の結果を示すグラフである。
【図6】ウェットエッチング実験でウェットエッチングしたシリコン基板の表面の反射率のばらつきを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明のウェットエッチング装置は、シリコン基板を収容できかつアルカリ性のエッチング液を溜めるエッチング槽と、二酸化炭素濃度低減部とを備え、前記エッチング槽は、シリコン基板をエッチング液に浸漬するため、およびシリコン基板をエッチング液から引き上げるための上部開口を有し、前記二酸化炭素濃度低減部は、前記上部開口の近傍の気体に含まれる空気由来の二酸化炭素の濃度を低減させることを特徴とする。
【0013】
本発明において、二酸化炭素濃度低減部とは、一定の空間の二酸化炭素濃度を低減するための部分である。
本発明のウェットエッチング装置において、前記二酸化炭素濃度低減部は、前記エッチング槽の上部開口の近傍に不活性ガスを供給する不活性ガス供給部を有することが好ましい。
このような構成によれば、エッチング槽の上部開口の近傍の気体に含まれる二酸化炭素濃度を低減することができ、空気由来の二酸化炭素がエッチング液に溶け込むことを抑制することができる。
本発明のウェットエッチング装置において、前記不活性ガスは、窒素ガスであることが好ましい。
このような構成によれば、比較的な安価な窒素ガスを用いることができ、製造コストを低減することができる。
本発明のウェットエッチング装置において、前記二酸化炭素濃度低減部は、前記エッチング槽の上部開口を覆うように設けられたカバーを有し、前記カバーは、前記エッチング槽の上部開口の近傍に空気由来の二酸化炭素が流入することを抑制することが好ましい。
このような構成によれば、エッチング槽の上部開口の近傍に空気由来の二酸化炭素が流入することを抑制することができる。また、不活性ガス供給部によりエッチング槽の上部開口の近傍に窒素ガスを供給した場合、窒素ガスをエッチング槽の上部開口の近傍に溜めることができ、エッチング槽の上部開口の近傍の二酸化炭素濃度を安定して低減することができる。
【0014】
本発明のウェットエッチング装置において、前記エッチング槽の上部開口の近傍の気体に含まれる二酸化炭素の濃度を測定する二酸化炭素濃度測定器をさらに備えることが好ましい。
このような構成によれば、二酸化炭素濃度測定器の測定値に基づき、不活性ガス供給部により不活性ガスをエッチング槽の上部開口の近傍に効率的に供給できる。
本発明のウェットエッチング装置において、制御部をさらに備え、前記不活性ガス供給部は、前記制御部からの信号により前記エッチング槽の上部開口の近傍に供給する不活性ガスの量を変化させることができるように設けられたことが好ましい。
このような構成によれば、エッチング槽の上部開口の近傍へ供給する不活性ガスの量を制御することができる。
【0015】
本発明のウェットエッチング装置において、前記制御部は、前記二酸化炭素濃度測定器が測定する二酸化炭素の濃度が規定値以上になった場合、前記不活性ガス供給部が供給する不活性ガスの量を増加させる信号を前記不活性ガス供給部に出力する手段を備えることが好ましい。
このような構成によれば、二酸化炭素濃度測定器の測定値に基づき、エッチング槽の上部開口の近傍へ供給する不活性ガスの量を制御することができる。
本発明のウェットエッチング装置において、前記制御部は、前記二酸化炭素濃度測定器が測定する二酸化炭素の濃度が100ppm以下で維持されるように前記不活性ガス供給部が供給する不活性ガスの量を変化させる信号を前記不活性ガス供給部に出力する手段を備えることが好ましい。
このような構成によれば、エッチング槽に溜めたエッチング液に二酸化炭素が溶け込むことを抑制することができる。
【0016】
また、本発明は、上部開口からシリコン基板を収容できるエッチング槽に溜めたアルカリ性のエッチング液によるシリコン基板のウェットエッチング方法であって、シリコン基板を前記エッチング槽に溜めたエッチング液に浸漬し、所定時間経過後前記シリコン基板をエッチング液から引き上げるエッチング工程を含み、前記エッチング工程は、少なくとも一定時間、前記上部開口の近傍の気体に含まれる空気由来の二酸化炭素の濃度が100ppm以下の状態で行われるウェットエッチング方法も提供する。
本発明のウェットエッチング方法によれば、エッチング量のばらつきが少ないシリコン基板を量産することができる。また、表面反射率のばらつきの少ないシリコン基板も量産することができる。
本発明のウェットエッチング方法において、前記エッチング工程は、前記エッチング槽の上部開口の近傍へ不活性ガスを供給しながら行われることが好ましい。
このような構成によれば、エッチング量のばらつきが少ないシリコン基板を量産することができる。
以下、本発明の実施形態を図面を用いて説明する。図面や以下の記述中で示す構成は、例示であって、本発明の範囲は、図面や以下の記述中で示すものに限定されない。
【0017】
ウェットエッチング装置の構成およびウェットエッチング方法
図1は本発明の一実施形態のウェットエッチング装置の構成を示す概略断面図である。
本実施形態のウェットエッチング装置30は、シリコン基板18を収容できかつアルカリ性のエッチング液17を溜めるエッチング槽1と、二酸化炭素濃度低減部5とを備え、エッチング槽1は、シリコン基板18をエッチング液17に浸漬するため、およびシリコン基板18をエッチング液17から引き上げるための上部開口4を有し、二酸化炭素濃度低減部5は、上部開口4の近傍の気体に含まれる空気由来の二酸化炭素の濃度を低減させることを特徴とする。
本実施形態のウェットエッチング方法は、上部開口4からシリコン基板18を収容できるエッチング槽1に溜めたアルカリ性のエッチング液によるシリコン基板18のウェットエッチング方法であって、シリコン基板18をエッチング槽1に溜めたエッチング液に浸漬し、所定時間経過後、シリコン基板18をエッチング液17から引き上げるエッチング工程を含み、エッチング工程は、少なくとも一定時間、上部開口4の近傍の気体に含まれる空気由来の二酸化炭素の濃度が100ppm以下の状態で行われる。
また、本実施形態のウェットエッチング方法は、上述のウェットエッチング装置を用いて行うことができる。
以下、本実施形態のウェットエッチング装置およびウェットエッチング方法について説明する。
【0018】
1.エッチング槽およびエッチング液
エッチング槽1は、シリコン基板18を収容でき、アルカリ性のエッチング液17を溜めることができる。また、エッチング槽1は、シリコン基板18をエッチング液17に浸漬するため、およびシリコン基板18をエッチング液17から引き上げるための上部開口4を有する。このことにより、エッチング槽1に溜めたエッチング液にシリコン基板18を所定の時間浸漬することができ、シリコン基板18をウェットエッチングすることができる。
エッチング槽1は耐アルカリ性の材質のものを用いることができる。
【0019】
また、エッチング槽1の上部開口4の周りにオーバーフロー槽3を設けることができる。オーバーフロー槽3は、エッチング槽1に溜めたエッチング液がエッチング槽1の上部開口4から溢れたとき、エッチング液がオーバーフロー槽3に流れ込むように設けることができる。また、エッチング槽1およびオーバーフロー槽3は下部開口を有することができ、エッチング槽1の下部開口とオーバーフロー槽3の下部開口は流路21により導通することができる。また、流路21中にポンプ22を設けることができる。このことにより、オーバーフロー槽3に溜めたエッチング液を流路21を流通させてエッチング槽1の下部開口からエッチング槽1に供給することができる。
これらの構成によりエッチング槽1とオーバーフロー槽3との間でエッチング液を循環させることが可能となり、エッチング槽1に溜めたエッチング液のアルカリ化合物の濃度を均一にすることができる。
【0020】
エッチング槽1に溜めるエッチング液は、アルカリ性であり、シリコン基板をウェットエッチングすることができるものであれば特に限定されないが、例えば、水酸化ナトリウム水溶液、水酸化カリウム水溶液である。また、水酸化ナトリウム水溶液または水酸化カリウム水溶液にイソプロピルアルコールなどのプロパノール系アルコールを加えたものでもよい。なお、シリコン基板がエッチングされSi(OH)4がエッチング液中に溶解すると、エッチング液中の水酸化ナトリウムや水酸化カリウムなどのアルカリ化合物の濃度は減少する。従って、エッチング槽1に溜めたエッチング液により、所定の枚数のシリコン基板(一組のシリコン基板)のエッチングを繰り返すと、アルカリ化合物の濃度が低下する。このため、エッチング液による総エッチング量が所定の量に達すると、アルカリ化合物の濃度が低下したエッチング液をエッチング槽1から排出し、新しいエッチング液をエッチング槽1に導入することができる。
【0021】
エッチング槽1に溜めたエッチング液17にシリコン基板18を浸漬し、シリコン基板18をエッチング液17から引き上げる方法としては、例えば、複数のシリコン基板を収容することができるシリコン基板キャリア19に所定の枚数のシリコン基板を収容し、このシリコン基板キャリア19をエッチング槽1の上部開口4からエッチング液17に浸漬させ、所定の時間が経過した後、シリコン基板キャリア19をエッチング液17から引き上げる工程により行うことができる。この工程により、シリコン基板キャリア19に収容した複数のシリコン基板18を同時にウェットエッチングすることができる。
シリコン基板キャリア19は、シリコン基板18を収容することができ、耐アルカリ性を有するものであれば特に限定されないが、例えば、テフロン(登録商標)などの材質のキャリアとすることができる。
【0022】
2.二酸化炭素濃度低減部
二酸化炭素濃度低減部5は、エッチング槽1の上部開口4の近傍の気体に含まれる空気由来の二酸化炭素の濃度を低減させる部分である。二酸化炭素濃度低減部5により上部開口4の近傍の気体に含まれる空気由来の二酸化炭素濃度が低減されることにより、エッチング槽1に溜めたエッチング液に空気由来の二酸化炭素が溶け込むことを抑制することができる。このことによりエッチング液に二酸化炭素が溶け込むことにより生じる中和反応を抑制することができ、エッチング液に含まれるアルカリ化合物の濃度の低下を抑制することができる。
【0023】
二酸化炭素濃度低減部5は、エッチング槽1の上部開口4の近傍に不活性ガスを供給する不活性ガス供給部6を有してもよい。不活性ガス供給部6は、例えば、図1のように高圧の不活性ガスを収容したガスボンベ13、ガスボンベ13中の不活性ガスをエッチング槽1の上部開口4の近傍に供給する配管11、および配管11を流れる不活性ガスの流量を調節および測定する流量計12からなってもよい。このような不活性ガス供給部6によりエッチング槽1の上部開口4の近傍に不活性ガスを供給することにより、エッチング槽1の上部開口4の近傍の気体に含まれる空気由来の二酸化炭素の濃度を低減することができる。例えば、不活性ガスを常時エッチング槽1の上部開口4の近傍に供給することにより、エッチング液に二酸化炭素が溶け込むことを抑制することができる。この場合、後述するカバー7は必要ではない。
不活性ガス供給部6は、例えば窒素ガスまたはアルゴンガスを上部開口4の近傍に供給することができるように設けられるが、製造コスト低減のため、安価な窒素ガスを供給できるように設けられることが好ましい。また、窒素ガスは、常温では化学反応を起こさず、大気に大量に含まれる酸素ガスに比べはるかに化学反応を起こしにくいことからより適している。
また、不活性ガス供給部6は、エッチング槽1の上部開口4の近傍に不活性ガスを供給する不活性ガスの供給量を調節できるように設けることができる。例えば、流量計12により供給量を調節することができる。また、不活性ガス供給部6は、制御部15からの信号によりエッチング槽1の上部開口4の近傍に供給する不活性ガスの量を変化させることができるように設けることができる。このことにより、不活性ガス供給部6が効率的に上部開口4の近傍に不活性ガスを供給することができる。
【0024】
また、二酸化炭素濃度低減部5は、エッチング槽1の上部開口9の近傍に空気由来の二酸化炭素が流入することを抑制するカバー7を有することができる。このことにより、不活性ガス供給部6などにより、エッチング槽1の上部開口9の近傍の気体に含まれる空気由来の二酸化炭素濃度が低減した後、空気由来の二酸化炭素が上部開口9の近傍に流入し二酸化炭素の濃度が再び上昇することを抑制することができる。また、不活性ガス供給部6が供給する不活性ガスの量を少なくすることができ、製造コストを低減することができる。
カバー7は、例えば、図1のようにエッチング槽1の上部開口4およびオーバーフロー槽3の上部開口を覆うように設けることができる。このことにより、エッチング槽1、エッチング槽1に溜めたエッチング液の液面、オーバーフロー槽3、オーバーフロー槽3に溜めたエッチング槽の液面およびカバー7で囲まれた空間を形成することができ、この空間内に不活性ガス供給部6により不活性ガスを供給することにより、この空間を二酸化炭素濃度低減空間28とすることができる。このことにより、エッチング液への空気由来の二酸化炭素の溶け込みをより少なくすることができる。
【0025】
また、カバー7は、開閉できるように設けることができる。このことにより、カバー7を開けた状態で、シリコン基板キャリア19をエッチング槽1に溜めたエッチング液に浸漬することができ、その後、カバー7を閉め不活性ガス供給部6からエッチング槽1の上部開口4の近傍に不活性ガスを供給することにより二酸化炭素濃度低減空間28を形成することができる。
カバー7は、エッチング槽1の上部開口9の近傍に空気由来の二酸化炭素が流入することを抑制することができれば、その材質は特に限定されない。また、カバー7を開閉可能なように設ける方法としては、例えば、図1のようにカバー7を蝶番などの可動部3によりオーバーフロー槽3と結合させ、カバー7を開閉可能に設けることができる。
【0026】
3.二酸化炭素濃度測定器、制御部
二酸化炭素濃度測定器9は、エッチング槽1の上部開口4の近傍の気体に含まれる二酸化炭素濃度を測定するように設けられる。このことにより、二酸化炭素濃度測定器9の測定結果に応じて不活性ガス供給部6により不活性ガスをエッチング槽1の上部開口4の近傍に供給することができ、不活性ガスを効率的に供給することができる。例えば、二酸化炭素濃度測定器9の測定値が規定値以上になると警報が発生するように設定し、警報が発生すると不活性ガス供給部6から供給する不活性ガスの量を増加させることにより、不活性ガスを効率的に供給することができる。二酸化炭素濃度測定器9は、固体電解質を有するものであってもよく、赤外線吸収式のものであってもよい。また、二酸化炭素濃度測定器9は、測定した信号を制御部に出力するものであってもよく、二酸化炭素濃度を表示部に表示するものであってもよく、二酸化炭素濃度が規定値に達したときに警報を発生させるものであってもよい。
【0027】
制御部15は、エッチング槽1の上部開口4の近傍に供給する不活性ガスの量を変化させる信号を不活性ガス供給部6に出力することができる。このことにより、不活性ガス供給部6が上部開口4の近傍に供給する不活性ガスの量を制御部15により制御することができる。また、制御部15は、二酸化炭素濃度測定器9が測定した信号を入力することができる。このことにより、制御部15は、二酸化炭素濃度測定器9が測定した信号に基づき、エッチング槽1の上部開口4の近傍に供給する不活性ガスの量を変化させる信号を不活性ガス供給部6に出力することができる。例えば、制御部15は、二酸化炭素濃度測定器9が測定した二酸化炭素の濃度が規定値以上になった場合、エッチング槽1の上部開口4の近傍に供給する不活性ガスの量を増加させる信号を不活性ガス供給部6に出力する手段を備えてもよい。例えば、制御部15は、図2に示したフローチャートに従い、上部開口4の近傍に不活性ガスを供給する信号を不活性ガス供給部6に出力することができる。
【0028】
図2を用いて具体的に説明すると、シリコン基板18をエッチング槽1に浸漬させた後、制御部15は、上部開口4の近傍に不活性ガスを一定量供給する信号を不活性ガス供給部6に出力する。その後、制御部15は、二酸化炭素濃度測定器9が測定した信号を入力し、上部開口4の近傍の気体の二酸化炭素濃度が規定値以上か否かの判断を行う。制御部15が、二酸化炭素濃度が規定値以上であると判断した場合には、制御部は、再び、上部開口4の近傍に不活性ガスを一定量供給する信号を不活性ガス供給部6に出力する。また、制御部が、二酸化炭素濃度が規定値より小さいと判断した場合には、一定時間待機状態となり、その後、制御部15は、再び二酸化炭素濃度測定器9が測定した信号を入力し、上部開口4の近傍の気体の二酸化炭素濃度が規定値以上か否かの判断を行う。制御部15がこのように不活性ガス供給部6が供給する不活性ガスの量を制御することにより、エッチング液17に溶け込む空気由来の二酸化炭素の量を抑制することができ、かつ、不活性ガス供給部6が効率よく不活性ガスを供給することができる。
【0029】
また、制御部15は、二酸化炭素濃度測定器9が測定した二酸化炭素濃度が100ppm以下で維持されるようにエッチング槽1の上部開口4の近傍に供給する不活性ガスの量を変化させる信号を不活性ガス供給部6に出力する手段を備えてもよい。これらのことにより、効率よく上部開口4の近傍に不活性ガスを供給することができ、またエッチング液への空気由来の二酸化炭素の溶け込みを抑制することができる。
【0030】
4.シリコン基板のウェットエッチング方法
本実施形態のウェットエッチング方法では、シリコンインゴットを、ワイヤーソーなどの機械加工によりスライスしたシリコン基板をウェットエッチングすることができる。本実施形態のウェットエッチング方法は、例えば、機械加工の際に付いた傷などの基板ダメージや機械加工の際に付着した汚染物を取り除くために行われてもよく、シリコン基板の表面に入射する光をシリコン基板が効率良く吸収するための凹凸構造を形成するために行われてもよい。また、半導体製造工程において行われてもよい。
【0031】
シリコン基板18のウェットエッチングは、エッチング槽1に溜めたエッチング液17をオーバーフローさせることによりオーバーフロー槽3に流入させ、オーバーフロー槽3の下部開口からエッチング槽1の下部開口にエッチング液を供給することにより、エッチング液17を循環させながら行うことができる。このことにより、エッチング槽1中のエッチング液17のアルカリ化合物濃度を均一にすることができ、シリコン基板内でエッチング量のばらつきが生じることを抑制することができる。また、複数のシリコン基板を同時にウェットエッチングする場合には、それぞれのシリコン基板18でエッチング量のばらつきが生じることを抑制することができる。
【0032】
シリコン基板のウェットエッチングは、所定の枚数のシリコン基板18をシリコン基板キャリア19に収容して、このシリコン基板キャリア19ごと、所定の時間、エッチング液17に浸漬させることにより行うことができる。図1を用いてより具体的に説明すると、まず、シリコン基板キャリア19に所定の枚数のシリコン基板(一組のシリコン基板)を収容した後、開閉できるように設けられたカバー5を開け、シリコン基板キャリア19ごとシリコン基板18をエッチング槽1に溜めたエッチング液17に浸漬させる。その後、カバー7を閉め、不活性ガス供給部6により不活性ガスをエッチング槽1の上部開口4の近傍に供給し、二酸化炭素濃度低減空間28の二酸化炭素濃度を低減させる。このとき、エッチング槽1の上部開口4の近傍に設置した二酸化炭素濃度測定器9の測定結果に基づき、不活性ガスを上部開口4の近傍に供給することができる。このことにより、不活性ガスを効率よく供給することができる。例えば、二酸化炭素濃度が100ppm以下で維持されるように不活性ガスを供給することができる。
【0033】
シリコン基板18をエッチング液17に浸漬させて所定の時間が経過した後、カバー7を開け、エッチング液からシリコン基板キャリア19ごとシリコン基板18を引き上げる。その後、カバー7を閉める。このことにより、シリコン基板キャリア19に収容したシリコン基板18をエッチング処理時間だけウェットエッチングすることができる。
なお、シリコン基板キャリア19に収容したシリコン基板をエッチング液に浸漬させ、引き上げるまでをエッチング処理といい、その時間をエッチング処理時間という。
また、不活性ガス供給部6は、カバー7の開閉を行い、シリコン基板キャリア19をエッチング液に浸漬させるときまたは引き上げるときにおいても、不活性ガスを供給し続けることができる。このことにより、カバー7の開閉などにより上部開口4の近傍に流入する空気由来の二酸化炭素がエッチング液17に溶け込むことを抑制することができる。
【0034】
その後、シリコン基板キャリア19に収容したエッチング処理済みのシリコン基板を回収し、エッチング処理を行っていない所定の枚数のシリコン基板(一組のシリコン基板)をシリコン基板キャリア19に収容する。または、他のシリコン基板キャリア19にエッチング処理を行っていない所定の枚数のシリコン基板(一組のシリコン基板)を収容する。このシリコン基板キャリア19に収容したエッチング処理を行っていないシリコン基板を上記と同様の方法でエッチング処理することができる。
このようにエッチング槽1に溜めたエッチング液により、次々とシリコン基板の各組のエッチング処理を行うことにより、大量のシリコン基板をエッチング処理することができる。また、不活性ガス供給部6とカバー7によりエッチング液に空気由来の二酸化炭素が溶け込むことを抑制することができ、二酸化炭素が溶け込むことによるエッチング液に含まれるアルカリ化合物濃度の減少を抑制することができる。
【0035】
このようなエッチング処理を繰り返すことにより、エッチング液に含まれるアルカリ化合物の濃度は低下しシリコン基板18のエッチング速度は低下していく。このため、同じエッチング液でエッチング処理するシリコン基板の各組のうち、より後でエッチング処理する一組のシリコン基板についてのエッチング処理時間は、より前でエッチング処理した一組のシリコン基板についてのエッチング処理時間に比べてより長くする。このことにより、各組のシリコン基板のエッチング量のばらつきを少なくすることができる。また、本実施形態のウェットエッチング方法では、二酸化炭素濃度低減部5によりエッチング液に含まれるアルカリ化合物の濃度が空気由来の二酸化炭素により減少するのを抑制することができるため、各組のシリコン基板のエッチング量のばらつきをより少なくすることができる。
シリコン基板の所定の組数だけ同じエッチング液を用いてエッチング処理を行った後、エッチング液をエッチング槽1から排出し、新しいエッチング液をエッチング槽1に導入する。このエッチング液を用いて再び一組のシリコン基板のエッチング処理を行うことにより、シリコン基板のエッチング速度の大幅な低下を防止することができる。
【0036】
ウェットエッチング実験
本発明の効果を実証するために実施例、比較例1および比較例2についてウェットエッチング実験を行った。これらのウェットエッチング実験により、シリコン基板の表面に入射する光を効率良く吸収するための凹凸構造がその表面に形成されたシリコン基板を製造した。
実施例のウェットエッチング実験について説明する。
まず、12リットルの水に対して3リットルのイソプロピルアルコール(IPA)および300gの水酸化ナトリウムを添加し、混合することによりエッチング液17を調製した。
ウェットエッチング装置は、図1のような、エッチング槽1、オーバーフロー槽3、二酸化炭素濃度低減部5を有する装置を用いた。このような装置のエッチング槽1およびオーバーフロー槽3に調製したエッチング液を流入させ、エッチング液を約85℃に調節した。また、ポンプ22によりオーバーフロー槽3が貯留したエッチング液をエッチング槽1に供給し、エッチング槽1が貯留したエッチング液を上部開口4からオーバーフローさせオーバーフロー層3に流入させることによりエッチング液を循環させた。このような状態でシリコン基板のウェットエッチングを行った。
【0037】
シリコン基板キャリア19には、テフロン(登録商標)製のものを用い、直径6インチのシリコン基板を5枚収容した。その後、カバー7をあけた後、搬送アームを用いてこのシリコン基板キャリア19をエッチング槽1に溜めたエッチング液に浸漬させ、シリコン基板キャリア19に収容したシリコン基板をエッチング液に浸漬させた。
その後、搬送アームをシリコン基板キャリア19から取り外してカバー7を閉めた。そして、不活性ガス供給部6により、二酸化炭素濃度低減空間28に窒素ガスを0.5L/min〜5L/minの流量で供給し、二酸化炭素濃度低減空間28の空気由来の二酸化炭素濃度を低減させた。このとき、不活性ガス供給部6は、二酸化炭素濃度低減空間28の二酸化炭素濃度が速やかに100ppm以下となるように窒素ガスを供給し、その後、二酸化炭素濃度低減空間28の二酸化炭素濃度が約50ppmで維持されるように窒素ガスを供給した。
【0038】
シリコン基板をエッチング液に浸漬して所定の時間が経過した後、カバー7を開け、搬送アームを用いてシリコン基板キャリア19をエッチング液から引き上げ、その後カバーを閉めた。エッチング液から引き上げたシリコン基板キャリア19に収容したシリコン基板を回収することにより、入射する光を効率良く吸収するための凹凸構造がその表面に形成された一組のシリコン基板を得た(第1回目のエッチング処理)。その後、一組のシリコン基板のうち任意の一枚のシリコン基板の重量を測定し、エッチング処理前のシリコン基板の重量との差を計算し、第1回目のエッチング処理のエッチング量とした。また、このエッチング量をエッチング処理時間で割ることにより、第1回目のエッチング処理のエッチング速度を計算した。
なお、シリコン基板キャリア19に収容したシリコン基板をエッチング液に浸漬させ、引き上げるまでをエッチング処理といい、その時間をエッチング処理時間という。
【0039】
次に、シリコン基板キャリア19に再び直径6インチのシリコン基板を5枚収容し、上述と同様の方法で一組のシリコン基板のウェットエッチング処理を行った。その後、シリコン基板キャリア19に収容したシリコン基板を回収することにより、入射する光を効率良く吸収するための凹凸構造が表面に形成された一組のシリコン基板を得た(第2回目のエッチング処理)。このようなエッチング処理を40回繰り返し、入射する光を効率良く吸収するための凹凸構造がその表面に形成された40組のシリコン基板を得た。
【0040】
なお、各回のエッチング処理は、できるだけ間隔を空けずに行い、また、各回のエッチング処理の間は、カバー7を閉め、不活性ガス供給部6により二酸化炭素濃度低減空間に窒素ガスを供給し、エッチング液に空気由来の二酸化炭素が溶け込むことを抑制した。
また、二酸化炭素濃度低減空間の二酸化炭素濃度は100ppm以下で維持されるように不活性ガス供給部6により窒素ガスを供給し、カバー7を開閉し、二酸化炭素濃度低減空間に空気由来の二酸化炭素ガスが流入したときは不活性ガス供給部6に窒素ガスの供給量を多くし、速やかに二酸化炭素濃度が100ppm以下となるようにした。なお、二酸化炭素濃度低減空間の二酸化炭素濃度を約50ppmで維持するために、二酸化炭素濃度測定器9および制御部15を用いて図2に示したようなフローチャートにより窒素ガスの供給量を制御した。
また、各回のエッチング処理時間は、回数を重ねるごとに少しずつ長くし、各回のエッチング処理をしたシリコン基板のエッチング量がほぼ同じになるように調節した。
【0041】
次に、比較例1、2のウェットエッチング実験について説明する。
比較例1、2のウェットエッチング実験は、図3に示したような二酸化炭素濃度低減部5などを有さないウェットエッチング装置を用いて行った。実験方法は、二酸化炭素濃度低減部5(カバー5、不活性ガス供給部6)、二酸化炭素濃度測定器9および制御部15についての操作がないこと以外は、上述の実施例のウェットエッチング実験と同様の方法で行った。また、比較例1のウェットエッチング実験では、実施例のウェットエッチング実験と同様に、各回のエッチング処理は、できるだけ間隔を空けずに行ったが、比較例2のウェットエッチング実験では、各回のエッチング処理は、約1時間の間隔をおいて行った。なお比較例1、2におけるエッチング槽1の上部開口の近傍の二酸化炭素濃度は共に380ppmであった。
【0042】
図4は、実施例、比較例1、2のウェットエッチング実験におけるエッチング処理の回数とそのエッチング処理でのエッチング速度との関係を示したグラフである。図4から比較例1に比べ比較例2のほうがエッチング速度の低下が速いことがわかる。より具体的に説明すると、比較例1では、5回目のエッチング処理でのエッチング速度が約31mg/minであり、40回目のエッチング処理でのエッチング速度が約19mg/minであり、5回目のエッチング処理と40回目のエッチング処理との間のエッチング速度の変化率は38.7%であった。これに対し、比較例2では、5回目のエッチング処理でのエッチング速度が約30mg/minであり、40回目のエッチング処理でのエッチング速度が約18mg/minであり、5回目のエッチング処理と40回目のエッチング処理との間のエッチング速度の変化率は40%であった。これは、比較例2では各エッチング処理を約1時間の間隔をおいて行っているため、比較例1に比べ、比較例2のほうがエッチング液に溶け込む空気由来の二酸化炭素の量が多いためと考えられる。このため、空気由来の二酸化炭素はエッチング液が空気にさらされた時間に応じてエッチング液に溶け込む量が増えると考えられる。
【0043】
また、図4からわかるように比較例1、2に比べ実施例のほうが、エッチング速度の低下が遅いことがわかる。より具体的に説明すると、実施例では、5回目のエッチング処理でのエッチング速度が約31mg/minであり、40回目のエッチング処理でのエッチング速度が約21.5mg/minであり、エッチング速度の変化が約11%に抑えられ、5回目のエッチング処理と40回目のエッチング処理との間のエッチング速度の変化率は30.6%であった。これは、比較例1、2では、二酸化炭素濃度低減部5により、エッチング槽1の上部開口4の近傍における空気由来の二酸化炭素濃度の低減を行っていないため、空気中の二酸化炭素が実施例1と比べより多くエッチング液に溶け込み、エッチング液中のアルカリ化合物と反応し、エッチング液中のアルカリ化合物濃度の低下するためと考えられる。これに対し、実施例では、二酸化炭素濃度低減部5により、空気中の二酸化炭素がエッチング液に溶け込むことを抑制するため、エッチング速度の変化率が小さくなると考えられる。
これらのことにより、実施例のウェットエッチング実験は、比較例1、2のウェットエッチング実験に比べシリコン基板の加工安定性が向上していると考えられる。
【0044】
図5は、実施例および比較例1のウェットエッチング実験における各エッチング処理を行ったシリコン基板のエッチング量のばらつきの範囲と、各エッチング処理を行ったシリコン基板のエッチング量の平均値を示したグラフである。図5からわかるように、比較例1に比べ実施例のほうがエッチング量のばらつきの範囲が狭いことがわかる。より具体的に説明すると、比較例1では、ばらつきの範囲が約±100mgであったのに対し、実施例では、ばらつきの範囲が約±20mgであった。実施例では、二酸化炭素濃度低減部により、エッチング液に溶け込む空気由来の二酸化炭素の量が抑制されている。このため、エッチング処理を重ねることに伴うエッチング液に含まれるアルカリ化合物の濃度の低下が、エッチング液による総エッチング量に主に依存すると考えられ、ほぼ規則的に低下していくため、各エッチング処理を行ったシリコン基板のエッチング量のばらつきの範囲が狭くなったと考えられる。
これに対し、比較例1では、エッチング処理を重ねることに伴うエッチング液に含まれるアルカリ化合物の濃度の低下が、エッチング液による総エッチング量とエッチング液に溶け込む二酸化炭素の量とに主に依存すると考えられる。また、エッチング液に溶け込む二酸化炭素の量は、大気中の二酸化炭素濃度、大気とエッチング液との接触時間、大気とエッチング液との接触面積、エッチング液中のアルカリ化合物濃度などに依存すると考えられる。このため、エッチング処理を重ねることに伴うエッチング液に含まれるアルカリ化合物の濃度の低下が、不規則になり、各エッチング処理を行ったシリコン基板のエッチング量のばらつきの範囲が広くなったと考えられる。
【0045】
図6は、ウェットエッチング実験でウェットエッチングしたシリコン基板の表面の反射率のばらつきを示すグラフである。図6には、実施例のウェットエッチング実験における各エッチング処理を行ったシリコン基板のエッチング量のばらつきの範囲をyで示しており、これらのシリコン基板の表面の反射率のばらつきの範囲をy’で示している。また、図6には、比較例1のウェットエッチング実験における各エッチング処理を行ったシリコン基板のエッチング量のばらつきの範囲をxで示しており、これらのシリコン基板の表面の反射率のばらつきの範囲をx’で示している。
図6からわかるように、比較例1のウェットエッチング実験における各エッチング処理を行ったシリコン基板の表面の反射率は、約11%〜約17%の範囲でばらつき、ばらつきの範囲が広いことがわかる。これに対し、実施例のウェットエッチング実験における各エッチング処理を行ったシリコン基板の表面の反射率は、10.3%〜10.6%の範囲であり、実施例では、約10%で安定した反射率を有するシリコン基板を量産することができた。これらのことにより、実施例のウェットエッチング実験により表面の反射率のばらつきの少ないシリコン基板が製造することができることがわかった。
【符号の説明】
【0046】
1: エッチング槽 3:オーバーフロー槽 4:上部開口 5:二酸化炭素濃度低減部 6:不活性ガス供給部 7:カバー 9:二酸化炭素濃度測定器 11:配管 12:流量計 13:ガスボンベ 15:制御部 17:エッチング液 18:シリコン基板 19:シリコン基板キャリア 21:流路 22:ポンプ 23:流量計 24:インバーター 26:信号線 28:二酸化炭素濃度低減空間 29:可動部 30:ウェットエッチング装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリコン基板を収容できかつアルカリ性のエッチング液を溜めるエッチング槽と、二酸化炭素濃度低減部とを備え、
前記エッチング槽は、シリコン基板をエッチング液に浸漬するため、およびシリコン基板をエッチング液から引き上げるための上部開口を有し、
前記二酸化炭素濃度低減部は、前記上部開口の近傍の気体に含まれる空気由来の二酸化炭素の濃度を低減させることを特徴とするウェットエッチング装置。
【請求項2】
前記二酸化炭素濃度低減部は、前記エッチング槽の上部開口の近傍に不活性ガスを供給する不活性ガス供給部を有する請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記不活性ガスは、窒素ガスである請求項2に記載の装置。
【請求項4】
前記二酸化炭素濃度低減部は、前記エッチング槽の上部開口を覆うように設けられたカバーを有し、
前記カバーは、前記エッチング槽の上部開口の近傍に空気由来の二酸化炭素が流入することを抑制する請求項2または3に記載の装置。
【請求項5】
前記エッチング槽の上部開口の近傍の気体に含まれる二酸化炭素の濃度を測定する二酸化炭素濃度測定器をさらに備える請求項2〜4のいずれか1つに記載の装置。
【請求項6】
制御部をさらに備え、
前記不活性ガス供給部は、前記制御部からの信号により前記エッチング槽の上部開口の近傍に供給する不活性ガスの量を変化させることができるように設けられた請求項5に記載の装置。
【請求項7】
前記制御部は、前記二酸化炭素濃度測定器が測定する二酸化炭素の濃度が規定値以上になった場合、前記不活性ガス供給部が供給する不活性ガスの量を増加させる信号を前記不活性ガス供給部に出力する手段を備える請求項6に記載の装置。
【請求項8】
前記制御部は、前記二酸化炭素濃度測定器が測定する二酸化炭素の濃度が100ppm以下で維持されるように前記不活性ガス供給部が供給する不活性ガスの量を変化させる信号を前記不活性ガス供給部に出力する手段を備える請求項6に記載の装置。
【請求項9】
上部開口からシリコン基板を収容できるエッチング槽に溜めたアルカリ性のエッチング液によるシリコン基板のウェットエッチング方法であって、
シリコン基板を前記エッチング槽に溜めたエッチング液に浸漬し、所定時間経過後前記シリコン基板をエッチング液から引き上げるエッチング工程を含み、
前記エッチング工程は、少なくとも一定時間、前記上部開口の近傍の気体に含まれる空気由来の二酸化炭素の濃度が100ppm以下の状態で行われるウェットエッチング方法。
【請求項10】
前記エッチング工程は、前記エッチング槽の上部開口の近傍へ不活性ガスを供給しながら行われる請求項9に記載のウェットエッチング方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−55302(P2013−55302A)
【公開日】平成25年3月21日(2013.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−194244(P2011−194244)
【出願日】平成23年9月6日(2011.9.6)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【Fターム(参考)】