説明

ウェットオンウェット型積層塗膜及びその形成方法

【課題】下塗り塗装と上塗り塗装のウエットオンウエット塗装時に混層が発生せず、優れた耐チッピング性を有するウェットオンウェット型積層塗膜、形成方法を提供する。
【解決手段】下塗り塗膜と上塗り塗膜をこの順にウェットオンウェットで形成して成る積層塗膜において、下塗り塗膜10が親水性ポリロタキサンから成る硬化型水系塗料用材料を含有し、上塗り塗膜が、ベースコート層20とクリヤーコート層30をこの順で積層した積層コート層、又はエナメル層から成る構成とする。ウェットオンウェット型積層塗膜の形成方法では、被塗物上に、硬化型水系塗料用材料を含有する硬化型水系下塗り塗料を塗布し、次いで、この硬化型水系下塗り塗料が完全には硬化しない状態で、ベース塗料とクリヤー塗料この順で塗布するか、又はエナメル塗料を塗布する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主として、自動車のボディ、屋内・屋外において使用される樹脂成型品、階段、床、家具等の木工製品、メッキ、蒸着、スパッタリング等の処理が施されたアルミホイール、ドアミラー等の製品などに好適に用いられるウェットオンウェット型の積層塗膜に係り、更に詳細には、親水性ポリロタキサンを含有する下塗り塗膜を備え、塗膜平滑性や耐擦傷性に優れたウェットオンウェット型積層塗膜、及びその形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、塗装効率の向上などの観点から、下塗り塗装と上塗り塗装をいわゆるウエットオンウエットで行うことが知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【特許文献1】特開平6−30727号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、かかるウェットオンウェット塗装を行う際、下塗り塗膜と上塗り塗膜との混層により、得られる積層塗膜の鮮映性が低下することが多い。
平滑な下塗り塗膜を形成するためには、下塗り塗膜と上塗り塗膜の混層を防ぐことが重要なポイントとなるが、下塗り塗膜に分子量の大きい樹脂を混合することにより混層を回避しようとすると、耐チッピング性が低下する。
【0004】
本発明は、このような従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、下塗り塗装と上塗り塗装のウエットオンウエット塗装時に混層が発生せず、優れた耐チッピング性を有するウェットオンウェット型積層塗膜及びその形成方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を繰り返した結果、ポリロタキサンの滑車効果に基づく優れた伸縮性や粘弾性、機械的強度に着目し、ポリロタキサンの環状分子が有する水酸基の全部又は一部を親水基で修飾することなどにより親水性を付与して、水に溶解する硬化型のポリロタキサンに変性することができることを知見し、かかる親水性ポリロタキサンを下塗り塗膜に用いることによって、上記課題が解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0006】
即ち、本発明のウェットオンウェット型積層塗膜は、下塗り塗膜と上塗り塗膜をこの順にウェットオンウェットで形成して成る積層塗膜において、
上記下塗り塗膜が、親水性ポリロタキサンから成る硬化型水系塗料用材料を含有し、
上記上塗り塗膜が、ベースコート層とクリヤーコート層をこの順で積層した積層コート層、又はエナメル層から成る、ことを特徴とする。
【0007】
また、本発明のウェットオンウェット型積層塗膜の好適形態は、上記親水性ポリロタキサンが、環状分子と、この環状分子を串刺し状に包接する直鎖状分子と、この直鎖状分子の両末端に配置され上記環状分子の脱離を防止する封鎖基とを有し、上記直鎖状分子及び環状分子の少なくとも一方が親水性の修飾基を有する化合物であることを特徴とする。
【0008】
また、本発明のウェットオンウェット型積層塗膜の形成方法は、上述の如きウェットオンウェット型積層塗膜を形成するに当たり、
被塗物上に、上記硬化型水系塗料用材料を含有する硬化型水系下塗り塗料を塗布し、
次いで、この硬化型水系下塗り塗料が完全には硬化しない状態で、ベース塗料とクリヤー塗料この順で塗布するか、又はエナメル塗料を塗布することを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、所定の親水性ポリロタキサンを下塗り塗膜に用いることとしたため、下塗り塗装と上塗り塗装のウエットオンウエット塗装時に混層が発生せず、優れた耐チッピング性を有するウェットオンウェット型積層塗膜及びその形成方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明のウェットオンウェット型積層塗膜について詳細に説明する。なお、本明細書において、「%」は特記しない限り質量百分率を意味するものとする。
【0011】
上述の如く、本発明のウェットオンウェット型積層塗膜は、下塗り塗膜の上に上塗り塗膜をウェットオンウェットで形成して成る積層塗膜である。
上記下塗り塗膜は、親水性ポリロタキサンから成る硬化型水系塗料用材料を含有し、上記上塗り塗膜は、ベースコート層の上にクリヤーコート層をコートした積層コート層、又はエナメル層から成る。
【0012】
ここで、上塗り塗膜を構成するベースコート層、クリヤーコート層及びエナメルコート層としては、それぞれ従来公知のベース塗料、クリヤー塗料及びエナメル塗料を用いることができる。
具体的には、ベース塗料として、アクリル系塗料、メラミン系塗料、ウレタン系塗料及びポリエステル系塗料を挙げることができ、また、クリヤー塗料、エナメル塗料としてもベース塗料と同様の塗料を挙げることができる。
【0013】
なお、ベースコート層又はエナメル層は、顔料及び光輝材の少なくとも一方を含有してもよく、クリヤーコート層は透明クリヤー層又はカラークリヤー層とすることができる。
また、顔料としては、アゾ系顔料やペリレン系顔料等の有機系着色顔料、カーボンブラックや二酸化チタン等の無機系着色顔料、光輝材としては、アルミ顔料やマイカ顔料などを用いることができる。
【0014】
次に、下塗り塗膜の形成に用いられる硬化型水系下塗り塗料に含まれる硬化型水系塗料用材料である親水性ポリロタキサンについて説明する。
この親水性ポリロタキサンは、その直鎖状分子及び環状分子のいずれか一方又は双方が親水性の修飾基を有し、水に溶解する硬化型に変性されたポリロタキサンから成るものである。
【0015】
図1は、ポリロタキサンの基本構造を概念的に示す模式図であって、当該ポリロタキサン1は、複数の環状分子2の開口部を直鎖状分子3が串刺し状に貫通すると共に、この直鎖状分子3の両末端に封鎖基4が結合して、環状分子2の直鎖状分子3からの脱離を防止する構造を備え、上述のように、外力が加わった場合に、上記環状分子2が直鎖状分子3に沿って自由に移動する(滑車効果)ことから、伸縮性や粘弾性に優れ、クラックや傷が生じ難いという優れた特性を備えている。
【0016】
本発明においては、上記環状分子2及び直鎖状分子3のいずれか一方又は双方が親水性の修飾基(環状分子では親水性修飾基2a)を有し、これによって当該ポリロタキサンは、水や後述する水系溶剤に可溶なものとなり、水系塗料の成分として配合することができるようになる。
このような水や水系溶剤への可溶性の発現は、従来は水や水系溶剤や難溶性ないしは不溶性であったポリロタキサンに対し、水や水系溶剤という反応場、典型的には架橋場を提供するものである。すなわち、本発明に用いる親水性ポリロタキサンは、水や水系溶剤の存在下で他のポリマーとの架橋や修飾基による修飾が容易に行える反応性を向上させたものである。
【0017】
上記修飾基は、親水基又は親水基と疎水基を有し、全体として親水性であればよい。
このような親水基としては、例えば、カルボキシル基、スルホン酸基、硫酸エステル基、リン酸エステル基、第1〜第3アミノ基、第四級アンモニウム塩基、ヒドロキシアルキル基などがある。
【0018】
また、疎水基としては、例えば、アルキル基、ベンジル基(ベンゼン環)及びベンゼン誘導体含有基、アシル基、シリル基、トリチル基、硝酸エステル基、トシル基などがある。
【0019】
上記親水性ポリロタキサンにおける環状分子としては、上述の如き直鎖状分子に包接されて滑車効果を奏するものである限り、特に限定されるものではなく、種々の環状物質を挙げることができる。なお、環状分子としては、水酸基を有しているものが多い。
また、環状分子は実質的に環状であれば十分であって、「C」字状のように、必ずしも完全な閉環である必要はない。
【0020】
さらに、環状分子としては、官能基を有するものが好ましく、これによって上記した親水性修飾基などとの結合が行い易くなる。環状分子1個当たり1個の官能基を有することが好ましい。
このような官能基としては、例えば水酸基、カルボキシル基、アミノ基、エポキシ基、イソシアネート基、チオール基、アルデヒド基などを挙げることができるが、これらに限定されるものではない。なお、官能基としては、後述する封鎖基を形成する(ブロック化反応)際に、この封鎖基と反応しない基が好ましい。
【0021】
また、本発明に用いる上記親水性ポリロタキサンにおける上記環状分子の親水性修飾基による修飾度については、環状分子の有する水酸基が修飾され得る最大数を1とするとき、0.1以上であることが好ましく、0.3以上であることがより好ましく、0.5以上であることがさらに好ましい。
すなわち、上記修飾度が0.1未満であると、水や水系溶剤への溶解性が十分なものとならず、不溶性ブツが生成することがある。
【0022】
なお、環状分子の水酸基が修飾され得る最大数とは、修飾する前に環状分子が有していた全水酸基数を意味する。また、修飾度とは、換言すれば、修飾された水酸基数の全水酸基数に対する比のことである。
さらに、上記ポリロタキサンが多数の環状分子を有する場合、これら環状分子それぞれの水酸基の全部又は一部が親水基によって修飾されている必要はない。言い換えると、ポリロタキサン全体として親水性を示す限り、親水基によって修飾されていない水酸基を有する環状分子が部分的に存在したとしても何ら差し支えない。
【0023】
ここで、親水基は少なくとも1つでよいが、環状分子、例えばシクロデキストリン環1つに対して1つの親水基を有するのが望ましい。
また、官能基を有している親水基を導入することにより、他のポリマーとの反応性を向上させることが可能になる。
【0024】
なお、ポリロタキサンの環状分子への親水性修飾基の導入方法としては、例えば、上記環状分子としてシクロデキストリンを用いた場合には、該シクロデキストリンの水酸基をプロピレンオキシドを用いてヒドロキシプロピル化することが例示でき、このときプロピレンオキシドの添加量を変更することによって、上記ヒドロキシアルキル基による修飾度を制御することができる。
【0025】
上記親水性ポリロタキサンにおいて、直鎖状分子に包接される環状分子の個数(包接量)については、直鎖状分子が環状分子を包接し得る最大包接量を1とするとき、0.06〜0.61が好ましく、0.11〜0.22がさらに好ましい。
すなわち、この比が0.06未満では滑車効果が不十分となって塗膜の伸び率が低下することがあり、0.61を超えると、環状分子が密に配置され過ぎて環状分子の可動性が低下し、同様に塗膜の伸び率が不十分となって耐擦傷性が劣化する傾向があることによる。
【0026】
なお、環状分子の包接量は、例えば、DMF(ジメチルホルムアミド)に、BOP試薬(ベンゾトリアゾール−1−イル−オキシ−トリス(ジメチルアミノ)ホスホニウム・ヘキサフルオロフォスフェート)、HOBt(1−ヒドロキシベンゾトリアゾール)、アダマンタンアミン、ジイソプロピルエチルアミンをこの順番に溶解させた溶液に、ジメチルホルムアミドとジメチルスルホキシド(DMSO)の混合溶媒に、環状分子が直鎖状分子に串刺し状態となった包接錯体をあらかじめ分散させた分散液を添加することによってポリロタキサンを合成する際に、上記混合溶液の混合比率を変更することによって制御することができ、DMF/DMSO比を高くするほど環状分子の包接量を大きくすることができる。
【0027】
上記環状分子の具体例としては、種々のシクロデキストリン類、例えばα−シクロデキストリン(グルコース数:6個)、β−シクロデキストリン(グルコース数:7個)、γ−シクロデキストリン(グルコース数:8個)、ジメチルシクロデキストリン、グルコシルシクロデキストリン及びこれらの誘導体又は変性体、並びにクラウンエーテル類、ベンゾクラウン類、ジベンゾクラウン類、ジシクロヘキサノクラウン類及びこれらの誘導体又は変性体を挙げることができる。
【0028】
上述のシクロデキストリン等の環状分子は、その1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
なお、上記した種々の環状分子の中では、特にα−シクロデキストリン、β−シクロデキストリン、γ−シクロデキストリンが良好であり、とりわけ、被包接性の観点からはα−シクロデキストリンを使用することが好ましい。
【0029】
一方、直鎖状分子としては、実質的に直鎖であればよく、回転子である環状分子が回動可能で滑車効果を発揮できるように包接できる限り、分岐鎖を有していてもよい。
また、環状分子の大きさにも影響を受けるが、その長さについても、環状分子が滑車効果を発揮できる限り特に限定されない。
【0030】
なお、直鎖状分子としては、その両末端に反応基を有するものが好ましく、これにより、上記封鎖基と容易に反応させることができるようになる。
かかる反応基としては、採用する封鎖基の種類などに応じて適宜変更することができるが、水酸基、アミノ基、カルボキシル基及びチオール基などを例示することができる。
【0031】
このような直鎖状分子としては、特に限定されるものではなく、ポリアルキレン類、ポリカプロラクトンなどのポリエステル類、ポリエチレングリコールなどのポリエーテル類、ポリアミド類、ポリアクリル類及びベンゼン環を有する直鎖状分子を挙げることができる。
これら直鎖状分子のうち、特にポリエチレングリコール、ポリカプロラクトンが良好であり、水や水系溶剤への溶解性の観点からはポリエチレングリコールを用いることが好ましい。
【0032】
また、上記直鎖状分子の分子量としては、15,000〜60,000とすることが望ましく、15,000〜30,000が好ましい。
すなわち、直鎖状分子の分子量が15,000未満では、溶解性が高くなりすぎて下塗り塗膜と上塗り塗膜との間で混層が発生することがある。一方、分子量が60,000を超えると、塗料への溶解性が低下し、また、表面の膜形成が迅速化し過ぎてクリヤー塗膜の平滑性などのが低下することがある。
【0033】
次に、封鎖基は、上記のような直鎖状分子の両末端に配置されて、環状分子が直鎖状分子によって串刺し状に貫通された状態を保持できる基でさえあれば、どのような基であっても差し支えない。
このような基としては、「嵩高さ」を有する基又は「イオン性」を有する基などを挙げることができる。なお、ここで「基」とは、分子基及び高分子基を含む種々の基を意味する。
【0034】
「嵩高さ」を有する基としては、球形をなすものや、側壁状の基を例示することができる。
また、「イオン性」を有する基のイオン性と、環状分子の有するイオン性とが相互に影響を及ぼし合い、例えば反発し合うことにより、環状分子が直鎖状分子に串刺しにされた状態を保持することができる。
【0035】
このような封鎖基の具体例としては、2,4−ジニトロフェニル基、3,5−ジニトロフェニル基などのジニトロフェニル基類、シクロデキストリン類、アダマンタン基類、トリチル基類、フルオレセイン類及びピレン類、並びにこれらの誘導体又は変性体を挙げることができる。
【0036】
次に、本発明に用いる上記親水性ポリロタキサンの製造方法について説明する。
上述の如き、親水性ポリロタキサンは、
(1)環状分子と直鎖状分子とを混合し、環状分子の開口部を直鎖状分子で串刺し状に貫通して直鎖状分子に環状分子を包接させる工程と、
(2)得られた擬ポリロタキサンの両末端(直鎖状分子の両末端)を封鎖基で封鎖して、環状分子が串刺し状態から脱離しないように調整する工程と、
(3)得られたポリロタキサンの環状分子が有する水酸基を親水性修飾基で修飾する工程、
によって処理することにより得られる。
【0037】
なお、上記(1)工程において、環状分子が有する水酸基をあらかじめ親水性修飾基で修飾したものを用いることによっても、親水性ポリロタキサンを得ることができ、その場合には、上記(3)工程を省略することができる。
【0038】
以上のような製造方法によって、上述の如く水や水系溶剤への溶解性に優れた親水性ポリロタキサンが得られ、硬化型水系下塗り塗料の構成成分として用いることができる。
【0039】
本発明において、水系溶剤とは、水との間で相互作用し合い、水との親和力が強い性質をもつ溶剤のことを意味し、具体的には、例えば、イソプロピルアルコール、ブチルアルコール、エチレングリコールなどのようなアルコール類、セロソルブアセテート、ブチルセロソロブアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルなどのようなエーテルエステル類、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルなどのようなグリコールエーテル類などを挙げることができ、本発明に用いる親水性ポリロタキサンは、これらの2種以上を混合した溶剤についても良好な溶解性を示す。
これらのうち、より好適なものとしてアルコール類、更に好適なものとしてグリコールエーテル類を挙げることができる。なお、トルエンのような有機溶剤が若干含まれていても、全体として水との親和力が強い性質を有すれば、水系溶剤としてよい。
【0040】
上述の如く、本発明で用いる硬化型水系下塗り塗料は、硬化型水系塗料用材料、すなわち以上に説明した硬化性親水性ポリロタキサンを含有するものであって、本発明のウェットオンウェット型積層塗膜において、下塗り塗膜は、当該硬化型水系下塗り塗料を固化して成るものである。
【0041】
すなわち、塗膜形成時には、硬化型水系塗料用材料が有する親水性の修飾基や他の官能基が、塗膜形成成分と反応し、架橋ポリロタキサンを形成することによって、耐擦傷性、耐チッピング性に優れた塗膜となる。また、クラックなども発生し難く、耐候性、耐汚染性、密着性等にも優れたものとなる。
【0042】
なお、架橋ポリロタキサンは、上記塗料用材料を構成する硬化性親水性ポリロタキサンが、ポリマーなどの塗膜形成成分と架橋して成るものであって、この塗膜形成成分は、ポリロタキサンの環状分子を介してポリロタキサンと結合している。
【0043】
図2は、このような架橋ポリロタキサンを概念的に示す模式図であって、図において架橋ポリロタキサン6は、前述の親水性ポリロタキサン1とポリマー7とを有しており、このポリロタキサン1は、環状分子2を介して架橋点8によってポリマー7及びポリマー7’と結合している。
【0044】
このような構成を有する架橋ポリロタキサン6に対し、図2(A)の矢印X−X´方向の変形応力が負荷されると、架橋ポリロタキサン6は、図2(B)に示すように変形してこの応力を吸収することができる。
すなわち、図2(B)に示すように、環状分子2は滑車効果によって直鎖状分子3に沿って移動可能であるため、容易に変形することができ、上記応力の内部吸収が可能となる。
【0045】
このように、架橋ポリロタキサンは、図示したような滑車効果を有するものであり、従来のゲル状物などに比し優れた伸縮性や粘弾性、機械的強度を有するものである。
また、この架橋ポリロタキサンの前駆体である親水性ポリロタキサンは、上述の如く水や水系溶剤への溶解性が改善されており、水や水系溶剤中での架橋などが容易である。
【0046】
したがって、架橋ポリロタキサンは、水や水系溶剤が存在する条件下で容易に得ることができ、特に、親水性ポリロタキサンと水溶性の塗膜形成成分とを架橋させることにより、容易に得ることができる。
よって、かかる硬化型水系塗料用材料は、その適用範囲が拡大されており、例えば、水溶性の塗膜ポリマーを用いる塗料や接着剤、特に耐洗車性、耐引っ掻き性、耐チッピング性、耐衝撃性及び耐候性の要求される自動車用の塗料、樹脂基材及び接着剤、並びに家電用の塗料や樹脂基材等についても適用可能であり、これらの用途においても優れた滑車効果を発現できるものである。
【0047】
また別の観点からは、上記架橋ポリロタキサンは、親水性ポリロタキサンの架橋対象である塗膜形成成分の物性を損なうことなく、当該塗膜形成成分と当該ポリロタキサンとを複合体化したものと言うことができる。
したがって、以下に説明するように、塗膜中に架橋ポリロタキサンを形成させることによって、上記塗膜形成成分の物性と親水性ポリロタキサン自体の物性を兼ね備えた塗膜が得られ、ポリマー種などを選択することにより、所望の機械的強度などを有する塗膜とすることができる。
【0048】
ここで、本発明に用いる親水性ポリロタキサンの架橋について説明する。
架橋ポリロタキサンは、代表的には、
(a)硬化型水系塗料用材料である硬化型親水性ポリロタキサンを他の塗膜形成成分と混合し、
(b)当該塗膜形成成分の少なくとも一部を物理的及び/又は化学的に架橋させ、
(c)当該塗膜形成成分の少なくとも一部と親水性ポリロタキサンとを環状分子を介して結合させる(硬化反応)ことにより形成できる。
なお、親水性ポリロタキサンは、水や水系溶剤に可溶であるため、(a)〜(c)工程を水、水系溶剤、及びこれらの混合溶媒中で円滑に行うことができる。また、これらの工程は硬化剤を用いることでより円滑に行うことができる。
【0049】
(b)、(c)工程においては、化学架橋することが好ましく、例えば、これは上述の如き親水性ポリロタキサンの環状分子が有する水酸基と、塗料形成成分の一例であるメラミン樹脂とが、ウレタン結合を繰返し形成することによって、架橋ポリロタキサンが得られる。また、(b)工程と(c)工程はほぼ同時に実施してもよい。
【0050】
(a)工程の混合工程は、用いる塗膜形成成分に依存するが、水や水系溶剤などの溶媒中で、又はこれら溶媒なしで行なうことができる。また、溶媒は塗膜形成時に加熱処理などで除去できる。
【0051】
上記の硬化型水系下塗り塗料における上記親水性ポリロタキサンの含有量としては、塗膜形成成分(固形分)に対して1〜50%とすることができ、10〜30%の範囲、さらに20〜30%の範囲とすることがいっそう好ましい。
すなわち、親水性ポリロタキサンの塗膜形成成分に対する含有量が1%に満たない場合には、ポリロタキサンの滑車効果が十分に得られず、塗膜の伸び率が低下して所望の耐擦傷性が得られなくなることがあり、50%を超えると、表面の膜形成のためにクリヤー塗膜形成後の平滑性が損なわれ、外観が劣化する可能性がある。
【0052】
かかる硬化型水系下塗り塗料は、上記の親水性ポリロタキサンを既存の硬化型水系塗料、例えばポリエステルメラミン系塗料や、2液型ウレタン樹脂塗料などに、望ましくは上記含有量となるように配合することによって得られる。
言い換えれば、この硬化型水系下塗り塗料は、硬化型水系塗料用材料、すなわち上記親水性ポリロタキサンに、樹脂成分、硬化剤、添加剤、顔料、光輝剤及び溶媒から成る群より選ばれる1種以上を常法に基づいて配合し、混合することによって得ることができる。
【0053】
上記樹脂成分としては、特に限定されるものではないが、主鎖又は側鎖に水酸基、アミノ基、カルボキシル基、エポキシ基、ビニル基、チオール基又は光架橋基、及びこれらの任意の組合せに係る基を有するものが好ましい。
なお、光架橋基としては、ケイ皮酸、クマリン、カルコン、アントラセン、スチリルピリジン、スチリルピリジニウム塩及びスチリルキノリン塩などを例示できる。
【0054】
また、2種以上の樹脂成分を混合使用してもよいが、この場合、少なくとも1種の樹脂成分が環状分子を介してポリロタキサンと結合していることがよい。
さらに、かかる樹脂成分は、ホモポリマーでもコポリマーでもよい。コポリマーの場合、2種以上のモノマーから構成されるものでもよく、ブロックコポリマー、交互コポリマー、ランダムコポリマー又はグラフトコポリマーのいずれであってもよい。
【0055】
具体例としては、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリ(メタ)アクリル酸、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース等のセルロース系樹脂、ポリアクリルアミド、ポリエチレンオキサイド、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリビニルアセタール系樹脂、ポリビニルメチルエーテル、ポリアミン、ポリエチレンイミン、カゼイン、ゼラチン、澱粉及びこれらの共重合体、ポリエチレン、ポリプロピレン及び他のオレフィン系単量体との共重合樹脂などのポリオレフィン系樹脂、ポリエステル樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリスチレンやアクリロニトリル−スチレン共重合樹脂などのポリスチレン系樹脂、ポリメチルメタクリレートや(メタ)アクリル酸エステル共重合体、アクリロニトリル−メチルアクリレート共重合体などのアクリル系樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリウレタン樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合樹脂、ポリビニルブチラール樹脂及びこれらの誘導体又は変性体、ポリイソブチレン、ポリテトラヒドロフラン、ポリアニリン、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体(ABS樹脂)、ナイロン(登録商標)などのポリアミド類、ポリイミド類、ポリイソプレン、ポリブタジエンなどのポリジエン類、ポリジメチルシロキサンなどのポリシロキサン類、ポリスルホン類、ポリイミン類、ポリ無水酢酸類、ポリ尿素類、ポリスルフィド類、ポリフォスファゼン類、ポリケトン類、ポリフェニレン類、ポリハロオレフィン類、及びこれらの誘導体を挙げることができる。
【0056】
誘導体としては、上述した水酸基、アミノ基、カルボキシル基、エポキシ基、ビニル基、チオール基又は光架橋基及びこれらの組合せに係る基を有するものが好ましい。
【0057】
上記硬化剤の具体例としては、メラミン樹脂、ポリイソシアネート化合物、ブロックイソシアネート化合物、塩化シアヌル、トリメソイルクロリド、テレフタロイルクロリド、エピクロロヒドリン、ジブロモベンゼン、グルタールアルデヒド、フェニレンジイソシアネート、ジイソシアン酸トリレイン、ジビニルスルホン、1,1’−カルボニルジイミダゾール又はアルコキシシラン類を挙げることができ、本発明では、これらを1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
また、上記硬化剤は、分子量が2000未満、好ましくは1000未満、更に好ましくは600未満、いっそう好ましくは400未満のものを用いることができる。
【0058】
また、硬化型水系下塗り塗料において、上記添加剤としては、例えば、な紫外線吸収剤、光安定化剤、表面調整剤、沸き防止剤などを挙げることができる。
【0059】
また、顔料としては、アゾ系顔料、フタロシアン系顔料、ペリレン系顔料などの有機系着色顔料や、カーボンブラック、二酸化チタン、ベンガラなどの無機系着色顔料を用いることができる。
そして、光輝剤としては、アルミ顔料やマイカ顔料を挙げることができ、さらに溶媒としては、水と共に、上記した水系溶媒、例えばアルコール類やグリコールエーテル類を挙げることができる。
【0060】
なお、上記した各種塗料原料に、親水性ポリロタキサンを混合するに際しては、親水性を付与した状態のポリロタキサンをそのまま配合しても良いが、当該親水性ポリロタキサンをあらかじめ水や水性溶剤などの溶媒に溶解させて希釈した状態で配合することが望ましい。このようなポリロタキサン溶液は、塗料製造時に調製しても、塗料製造に先立って、調製しておいてもよい。
【0061】
この硬化型水系下塗り塗料としては、透明又は着色塗料とすることができる。また、透明性を失わない程度に顔料を添加することによって、着色透明とすることも可能である。
これにより、下塗り塗膜を、透明、顔料及び/又は光輝材配合の塗膜とすることができる。
【0062】
なお、この硬化型水系下塗り塗料を着色にするには、上記成分に加えて光輝材及び/又は有機・無機顔料を添加すればよく、有機・無機顔料、染料を添加することによって着色透明とすることができ、シリカ、樹脂ビーズなどのマット剤を添加することによって艶消し塗料とすることができる。
【0063】
この硬化型水系下塗り塗料は、スプレーガンを始めとする各種の塗装装置によって、従来の塗料と同等の作業性の下に、鉄や鋼、アルミニウムなどの金属材料、樹脂材料、木質材料、石材やレンガ、ブロックなどの石質材料、皮革材料などから成る各種の被塗装物に塗装することができ、常温で、あるいは焼付け処理によって固化し、塗膜を形成することができる。
【0064】
次に、本発明のウェットオンウェット型積層塗膜の形成方法について説明する。
この形成方法は、以上に説明した本発明のウェットオンウェット型積層塗膜を形成する方法であり、被塗物上に、上記の硬化型水系塗料用材料を含有する硬化型水系下塗り塗料を塗布し、次いで、この硬化型水系下塗り塗料が完全には硬化しない状態で、ベース塗料とクリヤー塗料この順で塗布するか、又はエナメル塗料を塗布することにより行われる。
【0065】
なお、硬化型水系下塗り塗料を塗布した後、短時間のフラッショオフ、即ち加熱による水分の蒸発を行うことができる。
また、上塗り塗膜の形成は常法に従って行うことができる。
【0066】
図3は、本発明のウェットオンウェット型積層塗膜の一例を示す断面図である。
同図に示す例では、ウェットオンウェット型積層塗膜は、下塗り塗膜10、ベースコート層20及びクリヤーコート層30をこの順で積層して構成されており、ベースコート層20とクリヤーコート層30で上塗り塗膜が構成されている。
なお、下塗り塗膜10には上述の親水性ポリロタキサンが含まれており、ベースコート層20の積層時において、下塗り塗膜10に焼き付けを施す必要はない。
【実施例】
【0067】
以下、本発明を実施例に基づいてさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0068】
(実施例1)
[修飾したポリロタキサンの合成]
(1)PEGのTEMPO酸化によるPEG‐カルボン酸の調製
直鎖状分子として、PEG(ポリエチレングリコール、分子量:1,000)10g、TEMPO(2,2,6,6−テトラメチル−ピペリジニルオキシラジカル)100mg、臭化ナトリウム1gを水100mLに溶解させ、これに市販の次亜塩素酸ナトリウム水溶液(有効塩素濃度5%)5mLを添加し、室温で10分間攪拌した。次いで、余った次亜塩素酸ナトリウムを分解させるために、エタノールを最大5mLまでの範囲で添加して反応を終了させた。
そして、50mLの塩化メチレンを用いた抽出を3回繰返して、無機塩以外の成分を抽出したのち、エバポレータで塩化メチレンを留去し、250mLの温エタノールに溶解させてから、冷凍庫(−4℃)に一晩おいて、PEG−カルボン酸のみを析出させ、回収、乾燥した。
【0069】
(2)PEG−カルボン酸とα−CDを用いた包接錯体の調製
上記(1)により調製したPEG−カルボン酸3g及びα−CD(シクロデキストリン)12gをそれぞれ別々に用意した70℃の温水50mLに溶解させたのち混合し、よく振り混ぜた後、冷蔵庫(4℃)中で一晩静置し、クリーム状に析出した包接錯体を凍結乾燥して回収した。
【0070】
(3)α−CDの減量、及びアダマンタンアミンとBOP試薬反応系を用いた包接錯体の封鎖
上記(2)により調製した包接錯体14gをジメチルホルムアミド/ジメチルスルホキシド(DMF/DMSO)混合溶媒(体積比90/10)20mLに分散させた。
一方、室温でDMF(ジメチルホルムアミド)10mLに、BOP試薬(ベンゾトリアゾール−1−イル−オキシ−トリス(ジメチルアミノ)ホスホニウム・ヘキサフルオロフォスフェート)3g、HOBt(1−ヒドロキシベンゾトリアゾール)1g、アダマンタンアミン1.4g、ジイソプロピルエチルアミン1.25mLをこの順番に溶解させておき、この溶液を上記により調製した分散液に添加し、すみやかによく振り混ぜ、スラリー状になった試料を冷蔵庫(4℃)中に一晩静置した。
一晩静置した後、DMF/メタノール混合溶媒(体積比1/1)50mLを添加し、混合し、遠心分離して、上澄みを捨てた。上記のDMF/メタノール混合溶液による洗浄を2回繰り返した後、更にメタノール100mLを用いた洗浄を同様の遠心分離により2回繰り返した。
得られた沈殿を真空乾燥で乾燥させた後、50mLのDMSO(ジメチルスルホキシド)に溶解させ、得られた透明な溶液を700mLの水中に滴下してポリロタキサンを析出させ、析出したポリロタキサンを遠心分離で回収し、真空乾燥又は凍結乾燥させた。このDMSOに溶解−水中で析出−回収−乾燥のサイクルを2回繰り返し、最終的に精製ポリロタキサンを得た。
【0071】
(4)シクロデキストリンの水酸基のヒドロキシプロピル化
上記によって調製したポリロタキサン500mgを1mol/LのNaOH水溶液50mLに溶解し、プロピレンオキシド21.1g(330mmol)を添加し、アルゴン雰囲気下、室温で一晩撹拌した。そして、1mol/LのHCl水溶液で中和し、透析チューブにて透析した後、凍結乾燥して回収し、親水性ポリロタキサンを得た。
得られた親水性ポリロタキサンは、H−NMR及びGPCで同定し、所望のポリロタキサンであることを確認した。なお、α−CDの包接量は0.35であり、親水性修飾基による修飾度は0.5であった。
【0072】
[修飾基を含有する下塗り塗料の調製]
修飾基を含有するポリロタキサンを蒸留水で10%になるように溶解した。日本油脂社製のグレーの中塗り(商品名:アクアGXシーラー)に溶解したポリロタキサンを撹拌しながら添加した。
【0073】
[ウェットオンウェット型積層塗膜の形成]
リン酸亜鉛処理した厚み0.8mm、70mm×150mmのダル鋼板に、カチオン電着塗料(商品名「パワートップU600M」、日本ペイント社製カチオン型電着塗料)を、乾燥膜厚が20μmとなるように電着塗装した後、160℃で30分間焼き付けた。その後、修飾基を有するポリロタキサンを含有する下塗りを30μm塗装し、80℃で3分間フラッショオフを行った。
次に、日本油脂株式会社製のブラックベースコート(アクアBC3)を塗装し、ウエットオンウエットで日本油脂株式会社製のクリヤー(ベルコートNo7300)を30μm塗装し、140℃で30分間焼き付けた。
【0074】
(実施例2〜8)
表1に示す仕様とした以外は、実施例1と同様の操作を繰返して、各例の積層塗膜を形成した。
【0075】
(比較例1)
ポリロタキサンを用いなかった以外は、実施例1と同様の操作を繰り返し、本例の積層塗膜を形成した。
【0076】
[性能評価]
以上のようにして得られた実施例1〜8及び比較例1の積層塗膜について、溶解性、平滑性及び滑車効果を以下のようにして評価した。得られた結果を物性などとともに表1に示す。
【0077】
(滑車効果)
伸び率を測定すること事により評価した。なお、表1中の記号は下記の意味を示している。
○:20%以上
△:7〜20%
×:7%以下
【0078】
(溶解性)
ポリロタキサンと樹脂を混合し、ガラス板に塗布した時の白濁度で目視評価した。なお、表1中の記号は下記の意味を示している。
〇:透明
△:若干の白濁
×:白濁および分離
【0079】
(平滑性)
クリヤー塗装後の平滑度合いを目視評価した。なお、表1中の記号は下記の意味を示している。
〇:かなり平滑
△:若干、凹凸
×:凹凸
【0080】
(顔料沈降性)
塗料を40℃の恒温槽に1ヶ月放置し、沈降物がハードケーキ(固形になり、撹拌しても回復しない状態)になっているか否かを判定した。なお、表1中の記号は下記の意味を示している。
〇:回復する
△:時間は要するが回復する
×:回復しない
【0081】
(上層との付着性)
100個の碁盤目を作製し、セロハンテープで剥離し、塗膜として残存している数により判定した。なお、表1中の記号は下記の意味を示している。
〇:100/100
△:90/100以上
×:90/100未満
【0082】
(反応性)
官能基を有する修飾基をもつポリロタキサンとヘキサメチレンジイソシアネートを当量比で混合し、140℃で30分間焼付け乾燥した。その塗膜の赤外線吸収スペクトルによりウレタン結合の有無により判定した。なお、表1中の記号は下記の意味を示している。
〇:ウレタン結合有り
×:ウレタン結合が無い
【0083】
【表1】

【0084】
表1の結果から明らかなように、本発明の範囲に含まれる実施例1〜8のウェットオンウェット型積層塗膜の下塗り塗膜は、ポリロタキサンが有する滑車効果による伸び率向上が認められ、良好な外観及び良好な粘着性を示している。
また、実施例1〜8のウェットオンウェット型積層塗膜は、特に規定された狭い塗装条件に限定されることなく、通常の塗装と同様の作業性で所望の外観が得られ、下塗り塗膜の伸び率が向上したものである。
【図面の簡単な説明】
【0085】
【図1】ポリロタキサンの基本構造を概念的に示す模式図である。
【図2】架橋ポリロタキサンの架橋構造を概念的に示す部分概念図である。
【図3】本発明のウェットオンウェット型積層塗膜の一例を示す断面図である。
【符号の説明】
【0086】
1 ポリロタキサン
2 環状分子
2a 親水性修飾基
3 直鎖状分子
4 封鎖基
5 ポリロタキサン
6 架橋ポリロタキサン
7 ポリマー
8 架橋点
10 下塗り塗膜
20 ベースコート層
30 クリヤーコート層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下塗り塗膜と上塗り塗膜をこの順にウェットオンウェットで形成して成る積層塗膜において、
上記下塗り塗膜が、親水性ポリロタキサンから成る硬化型水系塗料用材料を含有し、
上記上塗り塗膜が、ベースコート層とクリヤーコート層をこの順で積層した積層コート層、又はエナメル層から成る、ことを特徴とするウェットオンウェット型積層塗膜。
【請求項2】
上記ベースコート層又はエナメル層が顔料及び/又は光輝材を含有し、上記クリヤーコート層が透明クリヤー層又はカラークリヤー層であることを特徴とする請求項1に記載のウェットオンウェット型積層塗膜。
【請求項3】
上記親水性ポリロタキサンが、環状分子と、この環状分子を串刺し状に包接する直鎖状分子と、この直鎖状分子の両末端に配置され上記環状分子の脱離を防止する封鎖基とを有し、上記直鎖状分子及び環状分子の少なくとも一方が親水性の修飾基を有する化合物であることを特徴とする請求項1又は2に記載のウェットオンウェット型積層塗膜。
【請求項4】
上記親水性ポリロタキサンの親水性修飾基が親水基又は親水基と疎水基を有し、当該ポリロタキサン全体として親水性であることを特徴とする請求項3に記載のウェットオンウェット型積層塗膜。
【請求項5】
上記親水性ポリロタキサンの環状分子が官能基を有することを特徴とする請求項3又は4に記載のウェットオンウェット型積層塗膜。
【請求項6】
上記親水性ポリロタキサンの環状分子が水酸基を有し、該水酸基の全部又は一部が親水基で修飾されていることを特徴とする請求項3又は4に記載のウェットオンウェット型積層塗膜。
【請求項7】
上記環状分子の水酸基が修飾され得る最大数を1とするとき、環状分子の親水基による修飾度が0.1以上であること特徴とする請求項6に記載のウェットオンウェット型積層塗膜。
【請求項8】
上記親水性ポリロタキサンの直鎖状分子が環状分子を包接し得る最大包接量を1とするとき、上記環状分子の包接量が0.06〜0.61であることを特徴とする請求項3〜7のいずれか1つの項に記載のウェットオンウェット型積層塗膜。
【請求項9】
上記親水性ポリロタキサンの直鎖状分子の分子量が15,000〜30,000であることを特徴とする請求項3〜8のいずれか1つの項に記載のウェットオンウェット型積層塗膜。
【請求項10】
上記環状分子がα−シクロデキストリン、β−シクロデキストリン及びγ−シクロデキストリンから成る群より選ばれた少なくとも1種のシクロデキストリンであることを特徴とする請求項3〜9のいずれか1つの項に記載のウェットオンウェット型積層塗膜。
【請求項11】
上記下塗り塗膜が硬化型水系下塗り塗料から形成され、この硬化型水系下塗り塗料は、塗膜形成成分に対して上記親水性ポリロタキサンを1〜50%の割合で含むことを特徴とする請求項1〜10のいずれか1つの項に記載のウェットオンウェット型積層塗膜。
【請求項12】
上記下塗り塗膜が、透明であるか、又は顔料及び光輝材の少なくとも一方を含有することを特徴とする請求項1〜10のいずれか1つの項に記載のウェットオンウェット型積層塗膜。
【請求項13】
請求項1〜12のいずれか1つの項に記載のウェットオンウェット型積層塗膜を形成するに当たり、
被塗物上に、上記硬化型水系塗料用材料を含有する硬化型水系下塗り塗料を塗布し、
次いで、この硬化型水系下塗り塗料が完全には硬化しない状態で、ベース塗料とクリヤー塗料この順で塗布するか、又はエナメル塗料を塗布することを特徴とするウェットオンウェット型積層塗膜の形成方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−106869(P2007−106869A)
【公開日】平成19年4月26日(2007.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−298576(P2005−298576)
【出願日】平成17年10月13日(2005.10.13)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【出願人】(504137912)国立大学法人 東京大学 (1,942)
【Fターム(参考)】