説明

ウォッシャブル性及び撥水性を有する獣毛含有繊維材料の製造方法

【課題】獣毛含有繊維材料が持つ独特な風合いを維持しつつ、洗濯耐久性に優れた撥水性と形態安定性とを兼ね備えた実用性に優れた画期的なウォッシャブル性及び撥水性を有する獣毛含有繊維材料の製造方法を提供する。
【解決手段】繊維材料に羊毛などの獣毛を含有した獣毛含有繊維材料に、第一処理工程として、ジクロロトリジン系架橋剤及びポリハロゲノピリミジン系架橋剤のいずれか若しくは双方を用いて架橋処理を施し、この架橋処理を施した前記繊維材料に、第二処理工程として、ポリウレタン系樹脂加工剤を用いて形状安定性付与処理を施し、この形状安定性付与処理を施した前記繊維材料に、第三処理工程として、フッ素系撥水加工剤を用いて撥水加工処理を施すウォッシャブル性及び撥水性を有する獣毛含有繊維材料の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、洗濯耐久性能に優れたウォッシャブル性を有するとともに、超撥水性・防汚性をも兼ね備えた風合いの良好なウォッシャブル性及び撥水性を有する獣毛含有繊維材料の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば羊毛を含む布帛や糸などの羊毛繊維材料の防縮加工法としては、水溶性ポリイソシアネート初期重合体が多く用いられており、また、撥水加工法としては、フッ素系撥水・撥油剤で処理する加工法がよく知られているが、これらは撥水性の洗濯耐久性が不十分であり、更に、初期撥水性も不十分であった。
【0003】
そこで、上記問題を解決するために、イソシアネート基が重亜硫酸塩でブロックされた水溶性ポリイソシアネート初期重合体と、自己分散性ポリウレタン樹脂により水性媒体中に分散されたフッ素樹脂水性分散液を併用することにより、防縮性と洗濯耐久性に優れた撥水性が同時に付与できる薬剤の製法並びに加工法(特許文献1)が提案されている。
【0004】
また、上記以外にも、羊毛布帛を低温プラズマ処理した後、フッ素系撥水・撥油剤とアミノ基、シラノール基を有するポリジメチルシロキサン等から成る樹脂液をパッド・ドライ・キュアする耐久性撥水撥油加工法(特許文献2)や、羊毛繊維にスルホン化ビスフェノールSのホルマリン縮合物を付与した後、フッ素系撥水加工剤、メラミン樹脂及び多官能ブロックドイソシアネート基含有ウレタン樹脂を混合した処理液を付与して熱処理することで、風合いと洗濯耐久性に優れた撥水加工法(特許文献3)が提案されている。
【0005】
また更に、ジハロゲノトリアジン化合物と共にパーフルオロアクリレート、メラミン尿素誘導体及びウレタンの内から選ばれた少なくとも一種を繊維に含浸させスチーミングしたあと、60℃以上で実質的に乾燥するまで乾熱処理する加工法(特許文献4)なども提案されている。
【0006】
また、これら加工方法によって加工される羊毛やカシミア毛などを含む獣毛含有繊維材料は、スーツ、フォーマルウェア、セーター、オーバーコートなどに用いられることが多く、これらは風雨に晒される機会が多いことから、風雨に晒されても風合いを損ねないための優れた撥水性や、ウォッシャブル性を兼ね備えた風合いの良い撥水加工法が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平09−31852号公報
【特許文献2】特公平07−26335号公報
【特許文献3】特許第3307148号公報
【特許文献4】特許第4213182号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上述した従来の製法・加工方法には、洗濯耐性に優れた形態安定性、優れた撥水性、良好な風合いといったこれら全てを兼ね備えた優れた品質の獣毛含有繊維材料に加工する方法はなく、それどころか、例えば、風合い、撥水性の洗濯耐久性、形状安定性の耐久性などの品質に問題を抱えることによって用途が限定されたり、排水負荷などの環境問題、高価な設備、複雑な工程など加工工程上の諸問題があったり、また更に、加工コストなど経済的な問題もあったりするなど様々な問題を抱えることで、これら従来の加工方法に対して改良が望まれているのが現状である。
【0009】
そこで、本発明は、上術した獣毛含有繊維材料の品質やコストに掛かる様々な問題を解決し、獣毛含有繊維材料が持つ独特な風合いを維持しつつ、洗濯耐久性に優れた撥水性と形態安定性とを兼ね備えた実用性に優れたウォッシャブル性及び撥水性を有する獣毛含有繊維材料の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の要旨を説明する。
【0011】
織物、編物、不織布、糸などの繊維材料に羊毛、カシミア毛、ラクダ毛、アルパカ毛などの獣毛を含有した獣毛含有繊維材料に、第一処理工程として、ジクロロトリジン系架橋剤及びポリハロゲノピリミジン系架橋剤のいずれか若しくは双方を用いて架橋処理を施し、この架橋処理を施した前記繊維材料に、第二処理工程として、ポリウレタン系樹脂加工剤を用いて形状安定性付与処理を施し、この形状安定性付与処理を施した前記繊維材料に、第三処理工程として、フッ素系撥水加工剤を用いて撥水加工処理を施すことを特徴とするウォッシャブル性及び撥水性を有する獣毛含有繊維材料の製造方法に係るものである。
【0012】
また、前記第一処理工程は、前記ジクロロトリアジン系架橋剤として、塩化シアヌルを加水分解若しくはアミン類と反応させて得た水溶性のジクロルトリアジン系化合物の単体若しくは混合物を用いることを特徴とする請求項1記載のウォッシャブル性及び撥水性を有する獣毛含有繊維材料の製造方法に係るものである。
【0013】
また、前記第一処理工程は、前記ポリハロゲノピリミジン系架橋剤として、2,4,6−トリクロロピリミジン、4,5,6−トリクロロピリミジン、2,6−ジクロロピリミジン、4,6−ジクロロピリミジン、2,4−ジクロロピリミジン、5−シアノ−2,4,6−トリクロロピリミジン、2−アミノ−4,6−ジクロロピリミジン、2,4−ジクロロ−5−メトキシピリミジン、6−メチル−2,4−ジクロロピリミジン、4,6−ジクロロ−2−メチルチオピリミジン、2−エトキシ−4,6−ジクロロピリミジン及びジフルオロモノクロロピリミジンからなる群の中の少なくとも一つを用いることを特徴とする請求項1,2のいずれか1項に記載のウォッシャブル性及び撥水性を有する獣毛含有繊維材料の製造方法に係るものである。
【0014】
また、前記第二処理工程は、前記ポリウレタン系樹脂加工剤として、水性熱反応型ウレタン系樹脂、水分散型ポリウレタン系樹脂、ポリイソシアネート・ポリウレタン系樹脂、ポリエーテル・ポリウレタン系樹脂、ポリエステル・ポリウレタン系樹脂、ポリカーボネイト・ポリウレタン系樹脂からなる群より選ばれる単体若しくは混合物を用いることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のウォッシャブル性及び撥水性を有する獣毛含有繊維材料の製造方法に係るものである。
【0015】
また、前記第三処理工程は、前記フッ素系撥水加工剤及びブロックイソシアネート系架橋剤を用いて撥水加工処理を施すことを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のウォッシャブル性及び撥水性を有する獣毛含有繊維材料の製造方法に係るものである。
【0016】
また、前記第三処理工程は、前記フッ素系撥水加工剤として、フルオロアルキル基を有するアクリレート若しくはメタクリレートからなるフルオロアルキル(メタ)アクリレートと、このフルオロアルキル(メタ)アクリレートと共重合可能なフッ素を含まない単量体とを併用することを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載のウォッシャブル性及び撥水性を有する獣毛含有繊維材料の製造方法に係るものである。
【0017】
また、前記織物、編物、布帛、糸、不織布などの繊維材料は、前記羊毛、カシミア毛、ラクダ毛、アルパカ毛などの獣毛を単独或いは混紡で30%以上含有することを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載のウォッシャブル性及び撥水性を有する獣毛含有繊維材料の製造方法に係るものである。
【発明の効果】
【0018】
本発明は上述のようにしたから、獣毛含有繊維材料が有する風合いを維持しつつ、この獣毛含有繊維材料に洗濯耐久性のある形態安定性と撥水性を付与することができる実用性に優れたウォッシャブル性及び撥水性を有する獣毛含有繊維材料の製造方法となる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
好適と考える本発明の実施形態を、本発明の作用を示して簡単に説明する。
【0020】
本発明は、第一処理工程としてのジクロロトリジン系架橋剤及びポリハロゲノピリミジン系架橋剤のいずれか若しくは双方を用いた架橋処理によって、獣毛含有繊維材料に風合いを維持・改良する形態安定加工が付与され、第二処理工程としてのポリウレタン系樹脂加工剤を用いた形状安定性付与処理によって、第一処理工程にてウォッシャブル性を付与された獣毛含有繊維材料を、より一層ウォッシャブル性と風合いのレベルを高めるための形態安定加工が付与され、第三処理工程としてのフッ素系撥水加工剤を用いた撥水加工処理によって、超撥水加工と呼ぶに相応しい撥水加工が付与され、この三つの処理工程で付与された加工効果の複合的相乗効果によって、良好な風合いと、洗濯耐久性の優れた形態安定性並びに撥水性・防汚性を兼ね備えた高品質な獣毛含有繊維材料を製造・加工することができる実用性に優れた画期的なウォッシャブル性及び撥水性を有する獣毛含有繊維材料の製造方法となる。
【実施例1】
【0021】
本発明の具体的な実施例1について説明する。
【0022】
本実施例は、獣毛含有繊維材料、具体的には羊毛含有繊維材料に、第一処理工程として、特定の架橋剤で架橋処理して風合いを維持若しくは改良する形態安定加工を行うと共に、次処理の第二処理工程以降の加工効果を複合的相乗効果として付与するための架橋及び置換基付与反応を行い、次いで、第二処理工程として、この架橋剤によってウォッシャブル性を付与された羊毛含有繊維材料に対して特定のウレタン系樹脂の単独若しくは混合物で、第一処理工程で付与したウォッシャブル性を、より一層ウォッシャブル性と風合いを向上させるための形態安定加工処理を行い、次いで、第三処理工程として、フッ素系撥水加工剤で優れた撥水性能を発揮する超撥水加工処理を行うことで、獣毛含有繊維材料が有する風合いを維持しつつ、この羊毛含有繊維材料に洗濯耐久性のある形態安定性と撥水性を付与するウォッシャブル性及び撥水性を有する羊毛含有繊維材料の製造方法である。
【0023】
尚、本実施例でいうウォッシャブル性とは、洗濯を繰り返すことによって収縮やピリングが殆ど起こらない洗濯耐久性の優れた形態安定性を意味するものである。
【0024】
本実施例について具体的に説明すると、第一処理工程は、第一次ウォッシャブル加工を付与する工程であり、架橋剤としてジクロロトリジン系架橋剤及びポリハロゲノピリミジン系架橋剤のいずれか若しくは双方を用い、パッド・ドライ・スチーミング法(ドライ工程は省略可能)を用いた架橋処理を行う工程である。
【0025】
より具体的には、上記架橋剤を1%owf〜20%owf使用し、重炭酸ソーダ(炭酸水素ナトリウム)、ソーダ灰(無水炭酸ナトリウム)、炭酸カリウム、ケイ酸ソーダ(ケイ酸ナトリウム)などの酸結合剤を、架橋反応と共に発生する塩酸のモル数を20%〜100%上回る量を加えて、40℃〜120℃で20分〜120分程度、保温・循環することで架橋反応及び新置換基導入反応を生じさせる架橋処理を行っている。
【0026】
この第一処理工程において、羊毛含有繊維材料が糸の形態の場合は、上記架橋処理の際、チーズ染色機やビーム染色機を用いることが好ましく、また、羊毛含有繊維材料が布帛の形態の場合は、液流染色機やジッカー染色機、ビーム染色機を用いることが好ましい。
【0027】
この架橋処理によって、羊毛含有繊維材料にウォッシャブル性を付与すると共に、トリアジン環に結合した水酸基やスルホン基、若しくはピリミジン環が導入されることとなり、この羊毛含有繊維材料に新たに導入された水酸基やスルホン基、或いはピリミジン環は、この羊毛含有繊維材料上の新たな置換基として第二処理工程以降における加工効果に複合的相乗効果をもたらす働きをするものとなる。
【0028】
また、この第一処理工程で用いるジクロルトリアジン系架橋剤は、塩化シアヌルを原料として、これを加水分解若しくはアミン類と反応させて得た水溶性のジクロルトリアジン系化合物の単体若しくは混合物であり、具体的には以下に示す化合物の単体或いは混合物を例として挙げることができる。
【0029】
2,6−ジクロル−4−ヒドロキシ−S−トリアジン及びそのNa塩,K塩,Li塩,Mg塩,Ca塩などの塩類、2,6−ジクロル−4−(6,8−ジスルホナフタレン−2−イルアミノ)−S−トリアジン、2,6−ジクロル−4−(5,7−ジスルホナフタレン−2−イルアミノ)−S−トリアジン、2,6−ジクロル−4−(3,6,8−トリスルホナフタレン−1−イルアミノ)−S−トリアジン、2,6−ジクロル−4−(8−オキシ−6−スルホナフタレン−2−イルアミノ)−S−トリアジン、2,6−ジクロル−4−(5−ヒドロキシ−7−スルホナフタレン−2−イルアミノ)−S−トリアジン、2,6−ジクロル−4−(2,4−ジスルホアニリノ)−S−トリアジン、2,6−ジクロル−4−(2−スルホアニリノ)−S−トリアジン、2,6−ジクロル−4−(2,5−ジスルホアニリノ)−S−トリアジン、2,6−ジクロル−4−(3,5−ジスルホアニリノ)−S−トリアジン、2,6−ジクロル−4−(3−スルホ−4−オキシ−5−カルボキシアニリノ)−S−トリアジン、2,6−ジクロル−4−(3,6−ジスルホ−8−オキシナフタレン−1−イルアミノ)−S−トリアジン、2,6−ジクロル−4−(4,8−ジスルホナフタレン−2−イルアミノ)−S−トリアジン、2,6−ジクロル−4−(2−スルホニルエチルアミノ)−S−トリアジン
【0030】
尚、ジクロルトリアジン系化合物は、上記したジクロルトリアジン系化合物以外にも数多くの有効な化合物が考えられ、本実施例はこれらの具体例に制約されるものではなく、上記ジクロルトリアジン系化合物と同等の効果を発揮するものであれば適宜採用し得るものとする。
【0031】
また、ポリハロゲノピリミジン系架橋剤としては、具体的には、2,4,6−トリクロロピリミジン、4,5,6−トリクロロピリミジン、2,6−ジクロロピリミジン、4,6−ジクロロピリミジン、2,4−ジクロロピリミジン、5−シアノ−2,4,6−トリクロロピリミジン、2−アミノ−4,6−ジクロロピリミジン、2,4−ジクロロ−5−メトキシピリミジン、6−メチル−2,4−ジクロロピリミジン、4,6−ジクロロ−2−メチルチオピリミジン、2−エトキシ−4,6−ジクロロピリミジン、ジフルオロモノクロロピリミジンが例として挙げられ、これらのポリハロゲノピリミジン系架橋剤は、これらの中から1つだけ選択し使用しても良く、また、これらの中から複数選択し混合して使用しても良い。
【0032】
また、上記したジクロルトリアジン系架橋剤、ポリハロゲノピリミジン系架橋剤には、それぞれ長所、短所があり、ジクロルトリアジン系架橋剤は、水溶性のため化合物の安定性に若干の問題があり、5℃以上で保管すると加水分解を起こしてしまうので、保管においては温度管理が必須であり、特に長期保存をする場合には、冷凍保存が必要となる。
【0033】
また、ポリハロゲノピリミジン系架橋剤は、室温で安定な油性の化合物であり架橋効果が強いが、皮膚に付着すると皮膚障害を起こす危険性を有するものであるため、使用時の取り扱いに十分な注意が必要であり、保護具の着用は必須である。勿論、このポリハロゲノピリミジン系架橋剤は、架橋反応処理中に羊毛と架橋反応するか、或いは加水分解を起こして水溶性となって無害化し、更に、ソーピングによって完全に洗浄除去されるので、羊毛含有繊維材料自体に架橋剤が残存することはなく、安全性に関しては全く問題ないものである。
【0034】
また、第二処理工程は、特定のポリウレタン系樹脂加工剤を用いて羊毛含有繊維材料に形状安定性付与処理を行う工程である。
【0035】
具体的には、羊毛含有繊維材料表面のスケール(キューティクルまたはクチクルともいう)と呼ばれるウロコ状の突起を埋めて、この羊毛含有繊維材料表面を平坦化することによって羊毛特有の摩擦係数の異方向性を減少させ、上述した第一処理工程の分子内架橋反応だけでは成し得なかった、より高度に安定したウォッシャブル性を付与すると同時に、柔軟な風合いを付与する樹脂加工処理を行う工程である。
【0036】
より具体的には、親水性ウレタン系樹脂を通常0.5%〜5%濃度としたものに、必要に応じて促進剤としての少量のウレタン系樹脂(例えば、EDOLAN HF(タナテックスケミカルジャパン社製))、若しくはアクリレート樹脂(例えば、EDOLAN UH(タナテックスケミカルジャパン社製))を加え、更に、0.1%〜0.6%程度の重炭酸ソーダ若しくは炭酸ソーダを加え、更に必要に応じて羊毛用柔軟材を少量加えたパッディング液を作り、ピックアップ70%〜120%でパッドして絞り、100℃〜130℃で2分〜5分、中間乾燥を行っている。
【0037】
尚、この中間乾燥した後に、130℃〜180℃で30秒〜5分、キュアリングするか、若しくは100℃で2分〜8分、スチーミングしても良い。
【0038】
また、この第二処理工程で使用する特定のポリウレタン系樹脂加工剤は、具体的には、水性熱反応型ウレタン系樹脂(例えば、パラレジンU−51,U−300,SSW−28,UT−70(大原パラヂウム化学社製)、エラストロンBAP,MF−25(第一工業製薬社製))、ポリイソシアネート・ポリウレタン系樹脂(例えば、SYNTHAPPRET BAP 01(タナテックスケミカルジャパン社製))、ポリエーテル・ポリウレタン系樹脂(例えば、BAYPRET USV(タナテックスケミカルジャパン社製))、水分散型ポリウレタン系樹脂(例えば、ボンディック1840(DIC社製))、アイオノマー型水性ウレタン樹脂(例えば、ハイドランHW−140(DIC社製))、ポリエステル・ポリウレタン系樹脂、(例えば、DIC社製のボンディック系やハイドラン系)、ポリカーボネイト・ポリウレタン系樹脂(例えば、DIC社製のハイドラン系)のいずれかを単体若しくは混合物として用いたものである。
【0039】
また、この第二処理工程は、上述したように、スケールと呼ばれるウロコ状の突起を埋めて、この羊毛含有繊維材料表面を平坦化することによって羊毛特有の摩擦係数の異方向性を減少させているが、一般的に、羊毛含有繊維材料は、スケールによって一方向に収縮が起こるとされており、オフスケールした羊毛含有繊維材料は、その点が若干改善されるものの、オフスケールに使用される薬剤は塩素系が主流であり、排水などにより環境負荷の増大という問題が指摘されている。
【0040】
この点、本実施例は、環境問題、更にはコストアップなどの経済性も考慮し、非塩素系の酸化剤を用いた酸化法や酵素法によって、マイルドにオフスケールしたものにも採用できることを特徴としている。即ち、強酸化剤処理やプラズマ処理によって100%オフスケールしようとする場合は、厳密に加工条件を制御しないと羊毛のコルテックス部にまで影響が及び、羊毛含有繊維材料に致命的なダメージ(脆化)をもたらす危険性が大きくリスクがあるが、キューティクル部の60%〜90%を除去する程度のマイルドなオフスケールであれば、リスクも小さくオフスケールが容易に可能となる。
【0041】
このようなマイルドなオフスケールにすることによって、オフスケールの不足が生じるが、本実施例では、このオフスケールの不足を、第一処理工程の架橋剤加工、第二処理工程のウレタン樹脂加工によってもたらされる相乗効果によって補うことができる。
【0042】
また、第三処理工程は、フッ素系撥水加工剤を用いて撥水加工処理を行う工程である。
【0043】
具体的には、この第三処理工程は、フッ素系撥水加工剤の単独若しくは混合剤を2wt%〜8wt%濃度のエマルジョンとし、これに1wt%〜3wt%のブロックイソシアネートを触媒的に加えてパッディング液を作成し、このパッディング液に羊毛含有繊維材料をパッドして70%〜120%でピックアップし、100℃〜120℃で2分〜5分、中間乾燥処理を行い、この中間乾燥処理した羊毛含有繊維材料を140℃〜180℃で1分〜5分、キュアリングして撥水剤を強固に固着させ、羊毛含有繊維材料に洗濯耐久性と超撥水性を付与する工程である。
【0044】
また、この第三処理工程で用いるフッ素系撥水加工剤には、フルオロアルキル基を有するアクリレート若しくはメタクリレートからなるフルオロアルキル(メタ)アクリレートと、このフルオロアルキル(メタ)アクリレートと共重合可能なフッ素を含まない単量体とを併用している。
【0045】
また、このフルオロアルキル(メタ)アクリレートは、例えば、炭素数が2〜20のパーフルオロアルキル基を有するもので、より好ましくは、炭素数6〜16のものを用いると良く、具体的には、以下に示す化合物の単量体が挙げられる。
【0046】
CF(CFCHCHOCOCH=CH (n=5〜11)
CF(CFCHCHOCOC(CH)=CH
CF(CFCHCHOCOC(CH)=CH
(CFCF(CF(CHOCOCH=CH
(CFCF(CF10(CHOCOCH=CH
CF(CFSON(C)CHCHOCOCH=CH
CF(CFSON(CH)CHCHOCOC(CH)=CH
CF(CFSON(CH)CHCHOCOCH=CH
CF(CF(CHOCOCH=CH
CF(CFOCOCH=CH
CF(CFSON(C)(CHOCOCH=CH
CF(CFCHCH(OH)CHOCOCH=CH
CF(CFCON(C)CHCHOCOC(CH)=CH
CF(CFCON(C)CHCHOCOCH=CH
【0047】
また、このパーフルオロアルキルアクリレートの具体例としては、アサヒガードGS−10(明成化学工業社製)、AG−7005(明成化学工業社製)、AG−E081(明成化学工業社製)、AG−1100(明成化学工業社製)などが挙げられる。
【0048】
また、洗濯耐久性を高める効果を発揮するブロックイソシアネートの具体例としては、メイカネートFM−1(明成化学工業社製)、メイカネートMF(明成化学工業社製)、メイカネートWEB(明成化学工業社製)などが挙げられる。
【0049】
尚、上述した第二処理工程及び第三処理工程は、いずれも熱処理にパッド・ドライ・キュア法を採用することができ、熱処理条件も略同等であることから、上述した夫々の工程で使用する各種薬剤を所定量ずつ混合したパッディング液を作成することで、この第二処理工程と第三処理工程を同時に行う工程合理化が可能である。
【0050】
以下に、上述した本実施例をより具体的な条件を示して詳細に説明する。
【0051】
本具体例は、獣毛含有繊維材料として、メリノウール100%平織の紳士服用生地を用いており、この生地は、一般的な手法で精錬し、更に非塩素系の薬剤を用いた一般的な酸化法によってマイルドな条件でオフスケールされたものを用いている。
【0052】
先ず、第一処理工程として、このメリノウール100%平織の生地を液流染色機にセットし、水を浴比1:20で加え、ソーダ灰(無水炭酸ナトリウム)を0.3wt%濃度、芒硝(硫酸ナトリウム・10水和物)を1.5wt%濃度、重炭酸ソーダ(炭酸水素ナトリウム)を1.5wt%濃度、エレガノールMK(ノニオン系柔軟剤、明成化学工業社製)を3%owf、2,6−ジクロル−4−ヒドロキシ−S−トリアジンNa塩10wt%水溶液を20%owf(純度換算で2%owf)となるように加えた染浴の中で、循環させながら2℃/分で昇温して処理槽の温度を90℃にし、この処理槽の温度を90℃に保ったまま45分間循環し、この循環処理が終わったら、水を加えて処理槽の温度を40℃まで下げ、酢酸を加えてPhを5.5〜6.0に中和して10分間循環させ、この循環処理が終わったら排水、脱水し乾燥する。
【0053】
次いで、第二処理工程として、この第一処理工程を施した生地を、ポリイソシアネート・ポリウレタン系樹脂としてSYNTHAPPRET BAP 01(タナテックスケミカルジャパン社製)を0.7wt%加えた水溶液中に浸漬し、マングルで絞り率80%で絞り、120℃で2分間、中間乾燥する。
【0054】
次いで、第三処理工程として、この第二処理工程を施した生地を、フッ素系撥水加工剤としてアサヒガードGS−10(明成化学工業社製)を5wt%、ブロックイソシアネート架橋剤としてメイカネートFM−1(明成化学工業社製)を1wt%、イソプロパノールを2wt%加えて混合したパッド浴中に浸漬し、絞り率80%で絞り、120℃で2分間、予備乾燥した後、170℃で2分間、キュアリングして仕上げる。
【0055】
上記に示した具体的な条件で製造した羊毛含有繊維材料の優れた実用性、即ち、洗濯耐久性の優れた高レベルの超撥水性と、洗濯耐久性に優れた防縮性、抗ピリング性、並びに風合いの良好なハイブリッド加工と呼ぶに相応しい品質を備えていることを実証するために、本実施例に示す製造方法で製造した羊毛含有繊維材料の収縮率、ピリング性、風合い、及び撥水性の耐久性を評価する試験を行った。結果を以下に示す。
【0056】
本実施例に示す製造方法で製造した羊毛含有繊維材料の生地の合計寸法変化率(収縮率)は、Wool Mark Test Method 31(WM TM31、5A×5回)によれば、フラット部分は、経:0.5%、緯:−0.4%、エッジ差は、経:0.0%、緯:0.1%、ピリング性は4〜5級と優れたウォッシャブル性を示した。
【0057】
また、風合いは、IWS TM281(布地のなめらかさ評価)によれば、SA基準2級以上が合格点のところ4級であり、風合いに関しても良好な結果が得られた。
【0058】
更に、撥水性の耐久性評価も、Wool Mark Test Method 31(WM TM31、5A×5回)によれば、初期撥水度5級で、ドライクリーニング5回後の撥水度は5級、洗濯5回後の撥水度は4〜5級であり、これも良好な結果となり、全ての評価項目において合格点を得ることができた。
【0059】
また、本具体例よる効果が良好な結果をもたらすことを証明するため、本具体例で示した第二処理工程を省き、第一処理工程と第三処理工程だけを施した生地を作製し、上記と同様の評価を行ったところ、寸法変化率は、フラット部分は、経:−1.2%、緯:−1.6%、エッジ差は、経:−1.1%、緯:1.3%となり変化率が大きく不合格となる結果であった。
【0060】
また、第一処理工程を省き、第二処理工程と第三処理工程だけを施した生地を作製し、同様に評価を行ったが、やはり収縮率で不合格となる結果であった。
【0061】
このように、本実施例に示す羊毛含有繊維材料の製造方法を採用することで、洗濯耐久性の優れた高レベルの超撥水性と、洗濯耐久性に優れた防縮性、抗ピリング性、並びに風合いの良好なハイブリッド加工と呼ぶに相応しい品質を備えた羊毛含有繊維材料を製造することができる画期的なウォッシャブル性及び撥水性を有する獣毛含有繊維材料の製造方法となる。
【実施例2】
【0062】
本発明の具体的な実施例2について説明する。
【0063】
本実施例は、実施例1における第一処理工程で用いる架橋剤として、2,6−ジクロル−4−ヒドロキシ−S−トリアジンNa塩10wt%水溶液の代わりに、2,4,6−トリクロロピリミジンの50wt%乳化液を用い、これを10%owf加えた浴液としたこと以外は全て実施例1と同じ処理条件で処理し、また、同様の評価試験を行った。
【0064】
評価結果は、実施例1とほぼ同様の結果を得ることができ、ウォッシャブル性、風合い、撥水性の洗濯耐久性は非常に良好な結果が得られ、また、実施例1同様に第一処理工若しくは第二処理工程を省いた場合は、同様に収縮率で不合格となる結果となった。
【0065】
尚、実施例1,2では、獣毛含有繊維材料として羊毛含有繊維材料を用いているが、実施例1及び実施例2は、羊毛含有繊維材料に限った製造方法ではなく、羊毛含有繊維材料以外に、カシミア毛、ラクダ毛、アルパカ毛などを含有する獣毛含有繊維材料を用いた場合も、同様の効果を発揮し得るものである。
【0066】
また、本発明は、実施例1,2に限られるものではなく、各構成要件の具体的構成は適宜設計し得るものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
織物、編物、不織布、糸などの繊維材料に羊毛、カシミア毛、ラクダ毛、アルパカ毛などの獣毛を含有した獣毛含有繊維材料に、第一処理工程として、ジクロロトリジン系架橋剤及びポリハロゲノピリミジン系架橋剤のいずれか若しくは双方を用いて架橋処理を施し、この架橋処理を施した前記繊維材料に、第二処理工程として、ポリウレタン系樹脂加工剤を用いて形状安定性付与処理を施し、この形状安定性付与処理を施した前記繊維材料に、第三処理工程として、フッ素系撥水加工剤を用いて撥水加工処理を施すことを特徴とするウォッシャブル性及び撥水性を有する獣毛含有繊維材料の製造方法。
【請求項2】
前記第一処理工程は、前記ジクロロトリアジン系架橋剤として、塩化シアヌルを加水分解若しくはアミン類と反応させて得た水溶性のジクロルトリアジン系化合物の単体若しくは混合物を用いることを特徴とする請求項1記載のウォッシャブル性及び撥水性を有する獣毛含有繊維材料の製造方法。
【請求項3】
前記第一処理工程は、前記ポリハロゲノピリミジン系架橋剤として、2,4,6−トリクロロピリミジン、4,5,6−トリクロロピリミジン、2,6−ジクロロピリミジン、4,6−ジクロロピリミジン、2,4−ジクロロピリミジン、5−シアノ−2,4,6−トリクロロピリミジン、2−アミノ−4,6−ジクロロピリミジン、2,4−ジクロロ−5−メトキシピリミジン、6−メチル−2,4−ジクロロピリミジン、4,6−ジクロロ−2−メチルチオピリミジン、2−エトキシ−4,6−ジクロロピリミジン及びジフルオロモノクロロピリミジンからなる群の中の少なくとも一つを用いることを特徴とする請求項1,2のいずれか1項に記載のウォッシャブル性及び撥水性を有する獣毛含有繊維材料の製造方法。
【請求項4】
前記第二処理工程は、前記ポリウレタン系樹脂加工剤として、水性熱反応型ウレタン系樹脂、水分散型ポリウレタン系樹脂、ポリイソシアネート・ポリウレタン系樹脂、ポリエーテル・ポリウレタン系樹脂、ポリエステル・ポリウレタン系樹脂、ポリカーボネイト・ポリウレタン系樹脂からなる群より選ばれる単体若しくは混合物を用いることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のウォッシャブル性及び撥水性を有する獣毛含有繊維材料の製造方法。
【請求項5】
前記第三処理工程は、前記フッ素系撥水加工剤及びブロックイソシアネート系架橋剤を用いて撥水加工処理を施すことを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のウォッシャブル性及び撥水性を有する獣毛含有繊維材料の製造方法。
【請求項6】
前記第三処理工程は、前記フッ素系撥水加工剤として、フルオロアルキル基を有するアクリレート若しくはメタクリレートからなるフルオロアルキル(メタ)アクリレートと、このフルオロアルキル(メタ)アクリレートと共重合可能なフッ素を含まない単量体とを併用することを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載のウォッシャブル性及び撥水性を有する獣毛含有繊維材料の製造方法。
【請求項7】
前記織物、編物、布帛、糸、不織布などの繊維材料は、前記羊毛、カシミア毛、ラクダ毛、アルパカ毛などの獣毛を単独或いは混紡で30%以上含有することを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載のウォッシャブル性及び撥水性を有する獣毛含有繊維材料の製造方法。

【公開番号】特開2012−153997(P2012−153997A)
【公開日】平成24年8月16日(2012.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−13240(P2011−13240)
【出願日】平成23年1月25日(2011.1.25)
【出願人】(500147805)株式会社 きものブレイン (13)
【Fターム(参考)】