説明

ウォータポンプ

【課題】メカニカルシールを超えてポンプハウジング内部へと侵入した冷却水が軸受に作用してしまう不都合を抑制し得るウォータポンプを提供する。
【解決手段】プーリ4の筒状基部4aにおける軸受6と対向する側壁部4eにポンプハウジング2の内外を連通する排出孔17が設けられると共に、該排出孔17がカバー部材5により覆われてなるウォータポンプ1において、カバー部材5の弾接部5cをプーリ4の第2側壁4fに弾接させて相互間を密接状態に保持することで、排出孔17を通じた気流を遮断させることが可能となる。これにより、メカニカルシール10を超えてポンプハウジング2内に侵入した冷却水を、軸受6側に及ばせることなく、ポンプハウジング2の径方向(鉛直方向)に貫通形成された連通孔15を通じて外部へと排出させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば自動車のエンジン冷却装置等に適用され、当該冷却装置内における冷却水の循環に供されるウォータポンプに関する。
【背景技術】
【0002】
従来のウォータポンプとしては、例えば以下の特許文献1に記載されたものが知られている。
【0003】
すなわち、このウォータポンプは、その一端部がエンジンブロックの側端部に取付固定されるほぼ円筒状のポンプハウジングと、該ポンプハウジングの他端部外周に軸受を介して回転自在に支持されるプーリと該プーリの中心部からポンプハウジング内周を貫通するように軸線方向に沿って延設された回転軸とからなる動力伝達部材と、該回転軸の先端部に固定され、エンジンブロックの内部に収容されるインペラと、前記駆動軸の中間部外周側にポンプハウジング内周面との間に介装され、インペラ側からポンプハウジング内に流入した冷却水を堰き止めるメカニカルシールと、を備えている。
【0004】
ここで、前記ウォータポンプでは、メカニカルシールによりインペラ側からの冷却水の侵入の抑制が図られているが、該メカニカルシールによっても前記冷却水の侵入を完全には遮断できないことから、前記軸受に対向するプーリの側壁に複数の貫通孔を設けることで、メカニカルシールを超えてポンプハウジング内に侵入してしまった冷却水を、前記各貫通孔を介して外部へ排出可能とし、これによって、前記ポンプハウジング内に侵入した冷却水が軸受に及んでしまう不具合の抑制が図られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
特許第4547976号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、前記従来のウォータポンプでは、前記各貫通孔を介して前記メカニカルシールを超えて侵入した冷却水(水蒸気)を排出する構成となっていることから、当該各貫通孔により軸方向に沿った空気の流れ(気流)が形成されることとなる。
【0007】
すると、前記各貫通孔は軸受近傍に隣接配置されていることから、前記冷却水の排出時に当該冷却水が軸受に作用することとなって、この結果、当該軸受の耐久性を低下させてしまうおそれがあった。
【0008】
本発明は、前記従来のウォータポンプの実情に鑑みて案出されたものであり、軸受と対向するプーリの側壁に貫通孔を設けながらも、インペラ側からメカニカルシールを超えてポンプハウジング内へと侵入した冷却水が前記貫通孔を通じて発生する気流によって軸受へと及んでしまう不都合を抑制し得るウォータポンプを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、筒状基部外周に配設された軸受と対向するプーリの側壁にポンプハウジング内外を連通する貫通孔が設けられると共に、該貫通孔がカバー部材により覆われたウォータポンプにおいて、とりわけ、プーリにおける貫通孔の外周域とカバー部材とを密接状態に保持して貫通孔の外部との連通を阻害するように構成したことを特徴としている。
【0010】
なお、この貫通孔の外部との連通の阻害は、当該貫通孔を直接閉塞することによって行うことが望ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、貫通孔の外部との連通を阻害したことにより、当該貫通孔を通じた冷却水(水蒸気)の排出は勿論、当該貫通孔を通じて発生する気流の抑止が可能となる。これにより、冷却水がインペラ側からメカニカルシールを超えてポンプハウジング内に侵入した場合でも、当該冷却水は、貫通孔側へと移動することなく、水蒸気排出孔を通じて外部へ良好に排出されることとなる。この結果、冷却水が軸受に作用してしまう不都合が抑制され、当該軸受の耐久性を向上させることができる。
【0012】
なお、貫通孔を直接閉塞することによって当該貫通孔の外部との連通の阻害した場合には、当該貫通孔を通じた気流をより効果的に遮断することが可能となるため、前記不都合をより効果的に抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明に係るウォータポンプの分解斜視図である。
【図2】図1に示すウォータポンプの正面図である。
【図3】図2のA−A線断面図である。
【図4】図3に示す排出用孔を正面から見た図である。
【図5】図3の要部拡大図である。
【図6】本発明に係るウォータポンプの第2実施形態を示す図3に相当する断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明に係るウォータポンプの各実施形態を図面に基づいて説明する。なお、下記各実施形態では、本発明に係るウォータポンプを従来と同様の自動車用エンジンの冷却装置に適用したものであって、このウォータポンプは、エンジンブロックの側面に配置され、エンジンのクランクシャフトの回転駆動力を動力源として、冷却水をエンジンブロック内において循環させるものである。
【0015】
図1は、本発明に係るウォータポンプの分解斜視図であり、図2は、図1に示すウォータポンプをエンジンブロックとの対向面側から見た図である。
【0016】
すなわち、このウォータポンプ1は、その軸方向一端側に段差縮径状に形成された円筒部11を有し、その他端部に有するフランジ部2aを介して図外のエンジンブロック側面に固定されることにより当該エンジンブロックとの間にいわゆるボリュート室であるポンプ室Pを画成するほぼ円筒状のポンプハウジング2と、該ポンプハウジング2の内周側に軸線方向へ沿って挿通配置される駆動軸3と、ポンプハウジング2の一端側から外部へと臨む駆動軸3の一端部外周に固定され、図外のベルトを介してクランクシャフトの回転駆動力を駆動軸3へと伝達するプーリ4と、該プーリ4の外側端部に固定配置され、プーリ4の外側面のほぼ全体を覆うカバー部材5と、ポンプハウジング2の一端部とプーリ4との間に介装され、プーリ4を回転自在に支持する軸受6と、外部に露出する軸受6の内側面と対向するように隣設配置され、該軸受6の内部への雨水等の異物の侵入を遮蔽する遮蔽板7と、ポンプハウジング2の他端側からポンプ室Pへと臨む駆動軸3の他端部外周に固定され、ポンプ室P内において回転自在に収容配置されるインペラ8と、を備えている。
【0017】
図3は、図2のA−A線に沿う縦断面図であって、前記ウォータポンプ1の構成の詳細を表した図である。また、図4は、図3に表した後述する排出用孔14をプーリ4側から見た拡大矢視図であって、当該排出用孔14の構成の詳細を表した図である。さらに、図5は、図3に表した後述する連通阻害手段の要部拡大図であって、該連通阻害手段の構成の詳細を表した図である。
【0018】
図3に示すように、前記ポンプハウジング2は、アルミダイキャストにより一体に形成されており、前記円筒部11は、前記フランジ部2aに隣設された大径部11aと、該大径部11aに接続され、当該円筒部11の軸方向中間部に形成された中径部11bと、該中径部11bに段部11dを介して接続され、当該円筒部11の先端側に向かって内径が漸次縮小するように構成された小径部11cとを有し、中径部11bの下部には、その下端が栓部材9によって封止されることにより画成されて後記のドレン孔13を介して当該中径部11b内と連通するドレン室12が設けられている。
【0019】
そして、前記中径部11bには、大径部11a側の端部内周面とこれに対向する駆動軸3の外周面との間に、周知のメカニカルシール10が介装され、該メカニカルシール10によってポンプ室P側からの冷却水(水蒸気)の侵入が抑制されている。しかしながら、このメカニカルシール10のみではポンプ室P側からの冷却水の侵入を完全には抑止できないため、中径部11bの周壁の鉛直最下方となる位置には、当該中径部11bの内部空間Sとドレン室12とを連通するドレン孔13が、図3中のY軸方向に沿って貫通形成されていて、該ドレン孔13によって、前記メカニカルシール10では抑止できず中径部11b内へと流入してしまった冷却水をドレン室12へと導き、当該冷却水を小径部11c側へ流出させないようになっている。
【0020】
なお、図4に示すように、このドレン室12のプーリ4側の側部には、外部とドレン室12とを連通する排出用孔14が貫通形成されていて、この排出用孔14によって当該ドレン室12内に貯まった冷却水を外部へと排出することが可能となっている。これによって、当該ドレン室12にて飽和した冷却水が再び中径部11bの内部空間Sに戻って小径部11c側へと流出してしまうといった不都合が抑制されている。そして、この排出用孔14は、ドレン孔13に対し偏倚した状態で、ドレン室12のみと直接連通するように設けられると共に、その鉛直下側部分のみがドレン室12の側部に開口するように設けられている。かかる構成から、この排出用孔14は、ドレン室12内において飽和した冷却水を当該ドレン室12から直接排出することのみに供され、当該排出用孔14を介して発生する気流がドレン孔13を通じて連通孔15側へと上昇する冷却水(水蒸気)の移動を妨げることがないような構成となっている。
【0021】
また、前記中径部11bの周壁には、ドレン孔13と対向する位置に、当該中径部11b(ポンプハウジング2)の内外を連通する連通孔15(本発明に係る水蒸気排出孔に相当)が、図3中のY軸方向に沿って貫通形成されていて、該連通孔15によって、中径部11b内部空間やドレン室12内にて蒸発した冷却水を外部へと排出することが可能となっている。なお、ポンプハウジング2の大径部11a端面における前記連通孔15が設けられる周方向位置には、当該連通孔15を覆うようなかたちで鍔状の遮蔽部16が軸方向に沿って延設されていて、該遮蔽部16によって連通孔15を覆うことで、該連通孔15を介して外部からポンプハウジング2内に異物等が侵入してしまう不都合が抑制されている。
【0022】
前記駆動軸3は、その一端部がポンプハウジング2の一端から外部へ臨むと共に、その他端部がポンプハウジング2の他端から外部へ臨むように構成されている。また、この駆動軸3には、前記メカニカルシール10の嵌着位置よりも一端側であってドレン孔13や連通孔15に対応する軸方向位置から一端側に向かって、所定の軸方向幅を有する環状の切欠溝3aが周方向に沿って設けられている。このようにして切欠溝3aを設けることにより、前記メカニカルシール10を超えて中径部11b内に流入した冷却水のうち駆動軸3の外周面を伝い流れるものについては、当該切欠溝3a(特に後述する段部3b,3c)により、その流れが遮断されるようになっている。すなわち、ポンプ室P側から駆動軸3の外周面を伝い流れてきた冷却水は、その一部が切欠溝3aの一端側段部3bにより断ち切られ、また、この一端側段部3bにより断ち切れなかった冷却水については当該切欠溝3aの他端側段部3bにより堰き止められることとなって、当該切欠溝3aをもって、冷却水のプーリ4側への流動が抑制されると共に、ドレン孔13を通じてドレン室12へ滴下し貯留されるようになっている。
【0023】
また、とりわけ、本実施形態では、前記切欠溝3aの一端側段部3bが鉛直方向にてドレン孔13及び連通孔15とほぼ一直線上に並ぶかたちで構成されている。換言すれば、切欠溝3aの一端側段部3b及びドレン孔13の各鉛直方向上側に連通孔15が配置されるような構成となっている。より具体的には、切欠溝3aの一端側段部3bとドレン孔13及び連通孔15とが並んでなる直線はY軸に対してプーリ4側へ僅かに傾くかたちで構成されていて、ドレン孔13に対し連通孔15の方がX軸方向において若干プーリ4寄りに配置されている。
【0024】
前記プーリ4は、金属板をプレス加工することによってほぼ円筒状に一体に成型されており、ポンプハウジング2の小径部11cを囲繞するように有底円筒状に構成された筒状基部4aと、該筒状基部4aの外周側に延設され、その外周に前記ベルトが巻回されることによって前記クランクシャフトとの連係に供するベルト巻回部4bと、前記筒状基部4aの中心部にポンプハウジング2側から外方へと軸線方向に沿って窪み形成され、駆動軸3との固定に供する軸固定部4cとを有し、前記軸固定部4cが駆動軸3の一端部外周に圧入されることによって、当該駆動軸3に固定されている。ここで、前記筒状基部4aは、軸受6の外周に嵌挿され当該軸受6による回転支持に供する軸受支持部4dと、該軸受支持部4dの外端縁から径方向内側に向かって延設されることによって軸受6の外側面と対向配置され、この軸受支持部4dと軸固定部4cとを連結する側壁部4e(本発明に係る側壁に相当)とから構成され、軸受支持部4dの内周に軸受6(後記の外輪6b)を圧入した後に、当該軸受6(後記の内輪6a)がポンプハウジング2の小径部11cの外周に圧入されることにより、ポンプハウジング2に組み付けられることとなる。
【0025】
また、前記プーリ4の側壁部4eには、前述のようなポンプ室P側からメカニカルシール10等を超えて小径部11c内に流入した冷却水の排出に供する複数の排出孔17(本発明に係る貫通孔に相当)が、周方向ほぼ等間隔に図3中のX軸方向に沿って貫通形成されている。これら各排出孔17は、とりわけ、その内周側が後述する第1シール部材6dよりも内周側において開口するように構成されることで、小径部11c内に流入した蒸気状の冷却水が第1シール部材6dに及ぶ前に当該各排出孔17を通じて外部へ排出されるようになっている。しかも、これら各排出孔17は、複数設けられることで、前記ポンプ1内の冷却水の排出を効率よく行うことが可能となっている。
【0026】
前記カバー部材5は、アルミニウムやステンレス等、耐食性を有する所定の金属材によってほぼ筒状にプレス成型されてなるもので、図3に示すように、プーリ4の筒状基部4aを外側から覆う被覆部5aと、該被覆部5aの中心部に軸線方向へ沿って円筒状に突設され、プーリ4との固定に供する固定部5bと、被覆部5aの外周域に設けられ、プーリ4の後述する第2側壁4fと弾接するほぼ平面状の弾接部5cと、から構成され、前記固定部5bがプーリ4の軸固定部4cの外周に圧入されることにより、当該プーリ4に固定されている。そして、このカバー部材5は、その内周端部がプーリ4の軸固定部4cの外周面に圧接する一方、その外周端部がプーリ4のベルト巻回部4bの内周面に近接する位置まで延出して弾接部5cの内側面がプーリ4の外周側部分の側壁を構成する第2側壁4fの外側面にシール部材18を介して弾接することにより(図5参照)、当該カバー部材5の内外の連通が阻止され、当該各排出孔17を通じた空気の流れ(気流)が抑制されるようになっている。すなわち、弾接部5cの内側面とシール部材18と第2側壁4fの外側面とによって、本発明に係る連通阻止手段が構成されている。
【0027】
なお、前記シール部材18は、液状のガスケットによって構成され、かかる液状のものを採用することで、弾接部5cや第2側壁4fの表面粗さ等の精度によらずに良好なシール性を確保することが可能となっている。換言すれば、弾接部5cや第2側壁4fについて低い精度で足りるため、プーリ4やカバー部材5の生産性の低下を招来することもない。また、当該シール部材18には、前記液状のもののほか、板状のガスケットやリング状のガスケットを採用することも可能であって、板状のガスケットを採用した場合には、当該シール部材18を弾接部5cと第2側壁4fとの間に単に挟むだけでよいことから、良好な組み付け性を得ることができ、また、リング状のガスケットを採用した場合には、前記板状のガスケットよりも小さい取付面積で足りることから、該板状のガスケットよりもさらに良好な組み付け性を得ることができる。
【0028】
前記軸受6は、いわゆるシール付きの玉軸受であって、小径部11cの外周面と軸受支持部4dの内周面との間に介装されていて、小径部11cの外周面に圧入固定される内輪6aと、軸受支持部4dの内周面に圧入固定される外輪6bと、内外輪6a,6b間に相互に対向して設けられる一対の保持溝に保持される複数の転動体であるボール6cと、外輪6bの両端部内周縁にそれぞれカシメ固定され、内外輪6a,6bの径方向間に画成される筒状空間部と外部との連通を遮断する円環状の第1、第2軸受シール6d,6eとから構成されている。そして、かかる軸受6では、その一端部に配設された第1軸受シール6dによって、中径部11bから小径部11c内に流入した水分の当該軸受6内部への侵入が抑制されている一方、その他端側では、第2軸受シール6eとこれに直列配置された遮蔽板7とによって、外部から当該軸受6内部への雨水等の異物の侵入が抑制されている。
【0029】
前記遮蔽板7は、アルミニウムやステンレス等、耐食性を有する所定の金属材によってほぼ円環状に形成されたものであり、前記小径部11cの先端側からポンプハウジング2に嵌挿され、その後、小径部11cに軸受6(内輪6a)が圧入されることにより、該軸受6の他端側部において、内輪6aと前記段部11dとの間に挟持固定されている。そして、この遮蔽板7は、その内周縁が小径部11cに当接する一方、外周縁がプーリ4の軸受支持部4dの内周面に近接する位置まで延出することにより、外部から雨水等の異物が軸受6に直接及んでしまう不具合が抑制されるようになっている。
【0030】
前記インペラ8は、金属板をプレス加工することによって一体に成形されており、ほぼ円板状に形成された基部8aと、該基部8aの周方向の所定箇所において外周側がそれぞれ切り起こされて軸方向へ折曲形成された複数の羽根部8bと、基部8aの中心部にポンプハウジング2側から前記エンジンブロック側へ軸線方向に沿って窪み形成された筒状の軸部8cとを有し、前記軸部8cが駆動軸3の他端部外周に圧入されることによって、該駆動軸3に固定されている。
【0031】
以下、本実施形態に係るウォータポンプ1の特徴的な作用につき、特に図3に基づいて説明する。
【0032】
前記ウォータポンプ1では、ポンプハウジング2の軸方向中間部(中径部11b)の鉛直上方に開口形成された連通孔15によってポンプ室P側からメカニカルシール10を超えてポンプハウジング2内に侵入した冷却水(水蒸気)を直接排出することが可能に構成されると共に、前記中径部11bの鉛直下部に設けられたドレン室12に前記水蒸気を一時的に貯留して排出用孔14又は連通孔15を介して外部へと間接的に排出することが可能に構成されている。
【0033】
しかしながら、このウォータポンプ1には、前記従来技術と同様、プーリ4の側壁部4eにポンプハウジング2の内外を連通する前記各排出孔17が設けられているため、ポンプハウジング2内部にはインペラ8側から軸受4側へとX軸負方向側に流れる気流が生じることとなり、少なからずこの気流によってポンプハウジング2内に侵入した水蒸気が小径部11c内周を通じ前記各排出孔17より排出されることとなる。これにより、当該各排出孔17からの排出時に水蒸気が軸受6に作用することとなり、その結果、当該軸受6内に水分が侵入してしまうおそれがある。
【0034】
そこで、本実施形態では、前記カバー部材5の内周側端部(固定部5b)をプーリ4の内周側端部(軸固定部4c)に圧接させると共に、当該カバー部材5の外周側端部(弾接部5c)を、シール部材18を介してプーリ4の外周側端部(第2側壁4f)に弾接させるように構成し、当該カバー部材5によって前記各排出孔17を液密に閉塞することで、ポンプハウジング2内に侵入した冷却水を、前記各排出孔17ではなく中径部11bの周壁に設けた前記排出用孔14や連通孔15等を介して外部へと排出するようにした。
【0035】
このように構成することで、本実施形態に係るウォータポンプ1によれば、前記ポンプハウジング2内に侵入した水蒸気は、連通孔15を介して直接外部に排出されるか、あるいは、一度ドレン室12に貯留された後に排出用孔14又は連通孔15を介して外部へと排出されることとなって、前記各排出孔17が設けられる軸受4近傍へと及ぶおそれがなくなる。この結果、軸受6内部に水分が侵入することによる当該軸受6の故障等を回避することに供され、当該軸受6の耐久性の向上が図れる。
【0036】
しかも、この際、前記連通孔15については、駆動軸3の段部3bやドレン孔13のほぼ真上であって当該段部3bやドレン孔13とほぼ一直線上となるように配置したことから、ポンプハウジング2内に侵入した後に駆動軸3上で蒸発した水蒸気やドレン室12からドレン孔13を通じて上昇する水蒸気を、ポンプハウジング2周壁(特に中径部11bの周壁等)に干渉させることなく、当該連通孔15を介して外部へスムーズに排出させることが可能となる。これにより、ポンプハウジング2内に侵入した冷却水が小径部11cを通じ軸受6へと及んでしまうといった前記不都合の抑制の実効を図ることができる。
【0037】
さらには、この連通孔15を、ドレン孔13よりもプーリ4側へと若干偏倚させ、当該プーリ4側へと斜めに指向するように設けたことから、前記ドレン室12から上昇した冷却水など、内部空間S内における冷却水のよりスムーズな排出が可能となる。これにより、ポンプハウジング2内に侵入した冷却水が軸受6へと及んでしまう前記不都合の効果的な抑制に供されることとなる。
【0038】
図6は本発明に係るウォータポンプの第2実施形態を示したものであって、前記各排出孔17の閉塞手段を変更したものである。なお、かかる構成以外の基本的構成については前記第1実施形態と同様であるため、当該第1実施形態と同一の構成及び作用については、当該第1実施形態と同一の符号を付すことによってその説明を省略する。
【0039】
すなわち、本実施形態では、前記第1実施形態に係るカバー部材5を廃止し、前記各排出孔17を、それぞれ栓部材20をもって直接閉塞する構成となっている。この栓部材20は、例えばゴム材料により一体成形されてなり、前記各排出孔17に挿入されて当該各排出孔17を閉塞する閉塞部21と、該閉塞部21の挿入量の規制に供する規制部22と、を有している。ここで、前記閉塞部22は、その外径が前記各排出孔17の内径よりも僅かに大きく設定されていて、外周面が前記各排出孔17の内周面に弾接することによって、これら各排出孔17が栓部材20により液密に閉塞されるようになっている。
【0040】
したがって、本実施形態によれば、前記各栓部材20によって前記各排出孔17を直接閉塞することで、当該各排出孔17をより効果的に閉塞することが可能となる。これにより、前記各排出孔17を通じた気流の遮断性が向上し、ポンプハウジング2内に侵入した冷却水が軸受6へと及んでしまう前記不都合をより効果的に抑制することができる。
【0041】
本発明は、前記各実施形態の構成に限定されるものではなく、例えばカバー部材5や栓部材20の形状、並びに連通孔15やドレン孔13、排出用孔14等の位置及び開口方向については、ポンプ1の適用対象や使用環境等に応じて自由に変更することができる。
【0042】
また、前記第1実施形態において、カバー部材5を用いて本発明に係る連通阻害手段を構成する場合、シール部材18は補助的な部材であって必須の構成ではない。換言すれば、必要なシール性が得られる場合には、カバー部材5の弾接部5cを第2側壁4fに直接弾接させることによって当該連通阻害手段を構成することも勿論可能である。なお、かかる場合には、構成部品点数を削減できることから、生産性向上やコスト低減に供される。
【0043】
以下、前記各実施形態から把握される特許請求の範囲に記載した以外の技術的思想について説明する。
【0044】
(a)請求項1又は2に記載のウォータポンプにおいて、
前記駆動軸における前記メカニカルシールが配設された位置と前記プーリが配設された位置との軸方向間に設けられ、前記メカニカルシールが配設された位置よりも小さい外径となるように切欠形成された切欠溝と、該切欠溝の少なくとも一端部に設けられた段部とを有すると共に、
前記ポンプハウジングにおける前記段部の鉛直方向下側に、所定量の冷却水を貯留し得るドレン室と、前記段部から滴下した冷却水を前記ドレン室へ導くドレン孔と、を有することを特徴とするウォータポンプ。
【0045】
このように構成することで、メカニカルシールを超えてポンプハウジング内に侵入した冷却水が切欠溝や段部により堰き止められてドレン孔を通じドレン室内へと貯留されることになるため、当該冷却水が駆動軸一端側へと流動して軸受に作用してしまう不都合を回避することができる。
【0046】
(b)請求項3に記載のウォータポンプにおいて、
前記水蒸気排出孔は、前記ドレン孔のほぼ鉛直方向上側に設けられていることを特徴とするウォータポンプ。
【0047】
このように構成することで、ドレン室からドレン孔を通じ上昇する水蒸気を、ポンプハウジング内周面に干渉させることなく、外部へと効率よく排出させることができる。
【0048】
(c)請求項3に記載のウォータポンプにおいて、
前記水蒸気排出孔は、前記段部のほぼ鉛直方向上側に設けられていることを特徴とするウォータポンプ。
【0049】
このように構成することで、駆動軸に付着した冷却水が蒸発する際のポンプハウジング内周面との干渉を抑制することが可能となって、当該冷却水を効率よく排出させることができる。
【0050】
(d)請求項1に記載のウォータポンプにおいて、
前記連通阻害手段は、前記カバー部材と前記プーリとの接触により構成されていることを特徴とするウォータポンプ。
【0051】
このように構成することで、当該連通阻害手段をカバー部材のみにより容易に構成することができるため、比較的安価で済み、製造コストの高騰化の抑制に供される。
【0052】
(e)請求項1に記載のウォータポンプにおいて、
前記連通阻害手段は、前記カバー部材と前記プーリとの間に介装された液状のガスケットによって構成されていることを特徴とするウォータポンプ。
【0053】
このように構成することで、カバー部材の形状や表面粗さ等に依らずシールすることができるため、加工精度を含めた当該カバー部材の設計自由度の向上が図れ、生産性の向上や製造コストの高騰化の抑制に供される。
【0054】
(f)請求項1に記載のウォータポンプにおいて、
前記連通阻害手段は、前記カバー部材と前記プーリとの間に介装された板状のガスケットによって構成されていることを特徴とするウォータポンプ。
【0055】
このように構成することで、当該板状のガスケットを挟むのみでシールすることができるため、液状のガスケットを採用する場合に比べて良好な組み付け性が得られる。
【0056】
(g)請求項1に記載のウォータポンプにおいて、
前記連通阻害手段は、前記カバー部材と前記プーリとの間に介装されたリング状のガスケットによって構成されていることを特徴とするウォータポンプ。
【0057】
このように構成することで、当該リング状のガスケットを挟むのみでシールすることができるため、液状のガスケットを採用する場合に比べて良好な組み付け性が得られる。さらには、取付範囲が狭くて済むという点で、板状のガスケットよりもさらに良好な組み付け性を得ることができる。
【0058】
(h)請求項2に記載のウォータポンプにおいて、
前記連通阻害手段は、前記貫通孔毎にそれぞれ設けられることを特徴とするウォータポンプ。
【符号の説明】
【0059】
1…ウォータポンプ
2…ポンプハウジング
3…駆動軸
4…プーリ
4a…筒状基部
4e…側壁部(側壁)
4f…第2側壁(連通阻害手段)
5…カバー部材
5c…弾接部(連通阻害手段)
6…軸受
8…インペラ
10…メカニカルシール
15…連通孔(水蒸気排出孔)
17…排出孔(貫通孔)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸方向一端側に円筒部を有するポンプハウジングと、
前記円筒部を囲繞するように構成された筒状基部をもって前記円筒部の外周に回転自在に支持され、外部から動力が伝達されて回転するプーリと、
前記円筒部の外周に固定される内輪と前記筒状基部の内周に固定される外輪と前記内外輪の間に介装された転動体とから構成された軸受と、
その一端部が前記プーリと一体回転可能に設けられ、前記ポンプハウジングの内周側に軸線方向に沿って挿通配置された駆動軸と、
前記駆動軸の他端部に当該駆動軸と一体回転可能に設けられたインペラと、
前記円筒部の内周面と前記駆動軸の外周面との間に介装されたメカニカルシールと、
前記筒状基部における前記軸受と対向する側壁に少なくとも1つ設けられ、前記ポンプハウジングの内外を連通する貫通孔と、
前記ポンプハウジングの内周面に前記メカニカルシールよりも前記駆動軸の一端側に設けられ、水蒸気を外部へ排出する水蒸気排出孔と、
前記プーリの外端部に前記貫通孔を覆うように設けられたカバー部材と、
前記プーリにおける前記貫通孔の外周域と前記カバー部材とを密接状態に保持し、前記貫通孔の外部との連通を阻害する連通阻害手段と、を備えたことを特徴とするウォータポンプ。
【請求項2】
軸方向一端側に円筒部を有するポンプハウジングと、
前記円筒部を囲繞するように構成された筒状基部をもって前記円筒部の外周に回転自在に支持され、外部から動力が伝達されて回転するプーリと、
前記円筒部の外周に固定される内輪と前記筒状基部の内周に固定される外輪と前記内外輪の間に介装された転動体とから構成された軸受と、
その一端部が前記プーリに固定され、前記ポンプハウジングの内周側に軸線方向に沿って挿通配置された駆動軸と、
前記駆動軸の他端部に当該駆動軸と一体回転可能に設けられたインペラと、
前記円筒部の内周面と前記駆動軸の外周面との間に介装されたメカニカルシールと、
前記筒状基部における前記軸受と対向する側壁に少なくとも1つ設けられ、前記ポンプハウジングの内外を連通する貫通孔と、
前記ポンプハウジングの内周面に前記メカニカルシールよりも前記駆動軸の一端側に設けられ、水蒸気を外部へ排出する水蒸気排出孔と、
前記貫通孔に設けられ、該貫通孔の外部との連通を阻害する連通阻害手段と、を備えたことを特徴とするウォータポンプ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−36425(P2013−36425A)
【公開日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−174475(P2011−174475)
【出願日】平成23年8月10日(2011.8.10)
【出願人】(509186579)日立オートモティブシステムズ株式会社 (2,205)
【Fターム(参考)】