説明

ウォータージェットピーニング施工面の残留応力評価方法

【課題】ウォータージェットピーニング施工面の残留応力を、非破壊かつ炉内環境下で評価できる残留応力評価方法を提供する。
【解決手段】ウォータージェットピーニング施工面を撮影した画像からピーニング痕を抽出し、単位面積あたりのピーニング痕の総面積あるいは数を計測し、あらかじめ作成した残留応力とピーニング痕総面積または数の関係式に代入して残留応力を評価する。あるいは、ピーニング施工前後での表面積増加率を算出し、あらかじめ作成した残留応力と表面積増加率の関係式に代入して残留応力を評価する。原子炉炉内環境下で、非破壊でピーニング施工面の残留応力を評価できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属材料表面に存在する引張残留応力を圧縮残留応力に転換するウォータージェットピーニングの施工面の残留応力評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金属材料の疲労強度や耐腐食性を向上させることを目的に、材料表面の残留応力を圧縮化する方法が採られる場合がある。その残留応力改善方法の一つにキャビテーション噴流を利用するウォータージェットピーニングがある。ウォータージェットピーニングは水中で高圧水を噴射させることで微細な無数の気泡を含んだキャビテーション噴流を生成し、この気泡が崩壊する際に生じる大きな衝撃力あるいはマイクロジェットにより材料表面を微小に塑性変形させる加工法であり、この塑性変形部が周囲から弾性的に拘束されることにより、押圧部に圧縮残留応力を生じさせるという技術である。このような残留応力改善を施した材料表面の応力測定には、材料表面にひずみゲージを貼付して、材料を細かく切断することによって、解放するひずみ量から残留応力を算出する方法やX線回折を用いて結晶格子面間隔を測定し、それをもとに格子面間に生じるひずみから材料表面層に存在する残留応力を算出するX線応力測定法が知られている(例えば、非特許文献1参照)。
【0003】
【非特許文献1】SOCIETY FOR EXPERIMENTAL MECHANICS,INC.:HANDBOOK OF MEASUREMENT OF RESIDUAL STRESSES:pp.49-pp.70、pp.71-84(1996)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記の従来技術は精度良く残留応力を評価できるが、前者のひずみ量から残留応力を算出する技術は材料を切断する必要のある破壊検査であるため、製品への適用は不向きである。また、後者のX線応力測定技術は非破壊で残留応力測定が可能であるが、比較的高価な専用測定装置を必要とし、また、測定結果を得るまでにある一定の時間を必要とする。さらに、水中での測定においては測定領域の水を排除する手段を講じる必要がある。
【0005】
ウォータージェットピーニングは主に原子力発電プラントの炉内構造物に適用されており、炉水を満たした状態で施工される。そのため、炉水を排除せずに、ウォータージェットピーニングの施工効果すなわち残留応力改善効果を簡易かつ炉内環境下(放射線環境下)で評価する方法が求められている。
【0006】
そこで、本発明は、残留応力を評価する指標として、ウォータージェットピーニング施工により材料表面に複数のピーニング痕(微小な凹み)が形成される点に着目し、このウォータージェットピーニング施工により形成されるピーニング痕を利用した応力評価を行うことにより、材料を破壊することなく、炉内環境下で簡易に残留応力を評価する方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明のウォータージェットピーニング施工面の残留応力評価方法は、ウォータージェットピーニング施工面に生成されたピーニング痕の単位面積当たりの総面積あるいは数を計測し、これらをあらかじめ用意した残留応力とピーニング痕総面積の関係式あるいは残留応力とピーニング痕数の関係式に代入することで、ウォータージェットピーニング施工面の残留応力を評価することを特徴とする。
【0008】
また、上記目的を達成するために、本発明のウォータージェットピーニング施工面の残留応力評価方法は、残留応力評価対象部のウォータージェットピーニング施工前後の三次元形状測定を行い、三次元形状の測定結果からウォータージェットピーニング施工前後での表面積増加率を算出し、算出した表面積増加率をあらかじめ用意した残留応力と表面積増加率の関係式に代入することで、ウォータージェットピーニング施工面の残留応力を評価することを特徴とする。
【0009】
材料表面の残留応力改善方法の一つに、鋼球を高圧空気で噴射して、材料表面に投射するショットピーニングがあるが、この方法では、鋼球の衝突による圧痕の大きさが比較的揃っている。それに対して、ウォータージェットピーニングは、気泡が崩壊する際に生じる大きな衝撃力あるいはマイクロジェットを利用するため、ピーニング痕の大きさは不規則になり、目視確認できるものとそうでないものが材料表面に生成される。
【0010】
このことから、本発明では、ウォータージェットピーニング施工面を目視検査用カメラ等で撮影し、撮影した画像を二値化画像に変換し、二値化画像内に存在するウォータージェットピーニング施工によって生成されたピーニング痕の面積あるいは数を画像処理により計測して、あらかじめ作成した残留応力とピーニング痕総面積の関係式、または、残留応力とピーニング痕数の関係式に代入することを提案する。
【0011】
また、高さを含む三次元情報の得られる画像取得システムでウォータージェットピーニング施工面から三次元情報を得、三次元情報から表面積増加率を算出し、あらかじめ作成した残留応力と表面積増加率の関係式に代入することを提案する。
【0012】
前述の画像処理においては、施工対象部が施工前に持つ表面粗さの影響を除外する目的で平滑化処理(輪郭をぼかす処理)、二値化処理(濃淡画像をしきい値により白黒の画像に変換する処理)、孤立点処理(画像上で孤立した点の処理)を行った二値化画像を用いることが望ましい。
【0013】
また、前述の三次元情報においては、施工対象部が施工前に持つ表面粗さの影響を除外する目的で平滑化処理を行った三次元情報を用いることが望ましい。
【0014】
残留応力評価対象部を転写したレプリカ等を用いて、ピーニング痕の面積、数、三次元情報を得るようにしても良い。
【0015】
残留応力とピーニング痕の総面積の関係式、あるいは残留応力とピーニング痕数の関係式は、ウォータージェットピーニング施工面と同様の硬度と面粗さを有する材料を用いてピーニング施工を行ったものを用いて作成することが望ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、ウォータージェットピーニング施工面に生成されるピーニング痕の面積、数あるいはウォータージェットピーニング施工前後の表面積増加率を把握することで、ウォータージェットピーニングを施工した材料表面、特に原子力発電プラントの炉内構造物表面の残留応力を非破壊で、しかも炉内環境下で簡易に評価できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明は、ウォータージェットピーニング施工面のピーニング痕の総面積あるいは数あるいはピーニング施工前後での表面積増加率と残留応力とが相関を有しており、関係式で表すことができるとの知見に基づいている。
【0018】
本発明の実施例を図1から図8を用いて説明する。但し、本発明は以下の実施例に限定されない。
【実施例】
【0019】
図1は、ウォータージェットピーニング施工面の一部(10mm×10mm)を撮影したウォータージェットピーニング施工面撮影画像1であり、図2は図1の撮影画像を画像処理し二値化画像を得ることによってピーニング痕3を認識できるようにした二値化変換画像2である。本発明では、図2に示すようにウォータージェットピーニング施工面を画像処理することによって、ピーニング痕3を抽出し、画像内におけるピーニング痕3の面積あるいは数を計測し、あらかじめ作成した残留応力とピーニング痕総面積の関係式、あるいは残留応力とピーニング痕数の関係式に代入することでウォータージェットピーニング施工面の残留応力を評価する。
【0020】
図3は、本発明において残留応力評価の指標となる、ウォータージェットピーニング施工面を撮影した画像を二値化画像に変換し、二値化画像において確認できるピーニング痕の総面積と撮影した部位の残留応力の関係を示したものである。
【0021】
残留応力とピーニング痕の総面積は、反比例の関係にあり、残留応力が圧縮になるほどピーニング痕の総面積は増加する関係にある。直線Aはこれらのデータを近似したものであり、この直線Aを表す式が本発明で使用する残留応力とピーニング痕総面積の関係式となる。
【0022】
図4は、本発明のウォータージェットピーニング施工後の残留応力評価対象部を撮影し、撮影画像を二値化処理した二値化画像からピーニング痕の総面積を計測して、ウォータージェットピーニング施工面の残留応力を評価する方法の手順を示したものである。
【0023】
まず、あらかじめ、実験結果から作成した残留応力Mとピーニング痕総面積Sの関係式M=f(S)を設定する。次にウォータージェットピーニング施工後の残留応力評価面を撮影し、撮影した画像を二値化画像に変換する。変換した二値化画像中の各ピーニング痕の面積を計測し、その和をピーニング痕総面積Sとする。得られたピーニング痕総面積Sを前述の残留応力Mとピーニング痕総面積Sの関係式M=f(S)に代入し、残留応力Mを算出する。
【0024】
図5は、本発明において残留応力評価の指標となる、ウォータージェットピーニング施工面を撮影した画像を二値化画像に変換し、二値化画像において確認できるピーニング痕の数と撮影した部位の残留応力の関係を示したものである。
【0025】
残留応力とピーニング痕の数は、反比例の関係にあり、残留応力が圧縮になるほどピーニング痕の数は増加する関係にある。直線Bはこれらのデータを近似したものであり、この直線Bを表す式が本発明で使用する残留応力とピーニング痕数の関係式となる。
【0026】
図6は、本発明のウォータージェットピーニング施工後の残留応力評価対象部を撮影し、撮影画像を二値化処理した二値化画像からピーニング痕の数を計測して、ウォータージェットピーニング施工面の残留応力を評価する方法の手順を示したものである。
【0027】
まず、あらかじめ、実験結果から作成した残留応力Mとピーニング痕数Kの関係式M=f(K)を設定する。次にウォータージェットピーニング施工後の残留応力評価面を撮影し、撮影した画像を二値化画像に変換する。変換した二値化画像中の各ピーニング痕の数を計測し、その和をピーニング痕数Kとする。得られたピーニング痕数Kを前述の残留応力Mとピーニング痕数Kの関係式M=f(K)に代入し、残留応力Mを算出する。
【0028】
図7は、本発明において残留応力評価の指標となる、残留応力評価対象部のウォータージェットピーニング施工前後の三次元形状測定を行い、三次元形状測定結果からウォータージェットピーニング施工前後での表面積増加率を算出し、算出した表面積増加率と残留応力評価対象部の残留応力の関係を示したものである。
【0029】
残留応力と表面積増加率は、反比例の関係にあり、残留応力が圧縮になるほど表面積増加率の値は大きくなる関係にある。直線Cはこれらのデータを近似したものであり、この直線Cを表す式が本発明で使用する残留応力と表面積増加率の関係式となる。
【0030】
図8は、残留応力評価対象部のウォータージェットピーニング施工前後の三次元形状測定を行い、三次元形状測定結果からウォータージェットピーニング施工前後での表面積増加率を算出して、ウォータージェットピーニング施工面の残留応力を評価する方法の手順を示したものである。
【0031】
まず、あらかじめ、実験結果から作成した残留応力Mと表面積増加率Pの関係式M=f(P)を設定する。次にウォータージェットピーニング施工前の残留応力評価対象部の三次元測定を行い、ウォータージェットピーニング施工前の表面積を算出する。次にウォータージェットピーニング施工後の残留応力評価対象部の三次元測定を行い、ウォータージェットピーニング施工後の表面積を算出する。算出したウォータージェットピーニング施工前後の表面積から表面積増加率Pを算出し、得られた表面積増加率を前述の残留応力Mと表面積増加率Pの関係式M=f(P)に代入し、残留応力Mを算出する。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】ウォータージェットピーニング施工面の撮影画像である。
【図2】ウォータージェットピーニング施工面の撮影画像を二値化変換した画像である。
【図3】ウォータージェットピーニング施工面の残留応力とピーニング痕総面積の関係を示した相関図である。
【図4】ウォータージェットピーニング施工面のピーニング痕の総面積から残留応力評価する方法の手順を示したフローチャートである。
【図5】ウォータージェットピーニング施工面の残留応力とピーニング痕数の関係を示した相関図である。
【図6】ウォータージェットピーニング施工面のピーニング痕の数から残留応力評価する方法の手順を示したフローチャートである。
【図7】ウォータージェットピーニング施工面の残留応力と表面積増加率の関係を示した相関図である。
【図8】ウォータージェットピーニング施工前後の三次元形状測定結果から表面積増加率を算出し、残留応力評価する方法の手順を示したフローチャートである。
【符号の説明】
【0033】
1…ウォータージェットピーニング施工面撮影画像、2…二値化変換画像、3…ピーニング痕。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ウォータージェットピーニング施工面の残留応力評価方法において、ウォータージェットピーニング施工面に生成されたピーニング痕の単位面積当たりの総面積を計測し、ピーニング痕総面積をあらかじめ用意した残留応力とピーニング痕総面積の関係式に代入することで、ウォータージェットピーニング施工面の残留応力を評価することを特徴とするウォータージェットピーニング施工面の残留応力評価方法。
【請求項2】
請求項1記載のウォータージェットピーニング施工面の残留応力評価方法において、ウォータージェットピーニング施工後の残留応力評価対象部を撮影し、撮影画像を二値化画像に変換し、前記二値化画像内に存在するウォータージェットピーニング施工によって生成されたピーニング痕の総面積を計測することを特徴とするウォータージェットピーニング施工面の残留応力評価方法。
【請求項3】
請求項2記載のウォータージェットピーニング施工面の残留応力評価方法において、前記撮影画像を平滑化処理、二値化処理、孤立点処理を行った二値化画像を用いることを特徴とするウォータージェットピーニング施工面の残留応力評価方法。
【請求項4】
請求項1記載のウォータージェットピーニング施工面の残留応力評価方法において、ウォータージェットピーニング施工後の残留応力評価対象部を転写したレプリカを計測対象とすることを特徴とするウォータージェットピーニング施工面の残留応力評価方法。
【請求項5】
請求項1記載のウォータージェットピーニング施工面の残留応力評価方法において、ウォータージェットピーニング施工面の残留応力とピーニング痕総面積の関係式を、前記ウォータージェットピーニング施工面と同様の硬度と面粗さを有する材料を用いて作成したことを特徴とするウォータージェットピーニング施工面の残留応力評価方法。
【請求項6】
ウォータージェットピーニング施工面の残留応力評価方法において、ウォータージェットピーニング施工面に生成されたピーニング痕の単位面積当たりの数を計測し、ピーニング痕数をあらかじめ用意した残留応力とピーニング痕数の関係式に代入することで、ウォータージェットピーニング施工面の残留応力を評価することを特徴とするウォータージェットピーニング施工面の残留応力評価方法。
【請求項7】
請求項6記載のウォータージェットピーニング施工面の残留応力評価方法において、ウォータージェットピーニング施工後の残留応力評価対象部を撮影し、撮影画像を二値化画像に変換し、前記二値化画像内に存在するウォータージェットピーニング施工によって生成されたピーニング痕の数を計測することを特徴とするウォータージェットピーニング施工面の残留応力評価方法。
【請求項8】
請求項7記載のウォータージェットピーニング施工面の残留応力評価方法において、前記撮影画像を平滑化処理、二値化処理、孤立点処理を行った二値化画像を用いることを特徴とするウォータージェットピーニング施工面の残留応力評価方法。
【請求項9】
請求項6記載のウォータージェットピーニング施工面の残留応力評価方法において、ウォータージェットピーニング施工後の残留応力評価対象部を転写したレプリカを計測対象とすることを特徴とするウォータージェットピーニング施工面の残留応力評価方法。
【請求項10】
請求項6記載のウォータージェットピーニング施工面の残留応力評価方法において、ウォータージェットピーニング施工面の残留応力とピーニング痕数の関係式を、前記ウォータージェットピーニング施工面と同様の硬度と面粗さを有する材料を用いて作成したことを特徴とするウォータージェットピーニング施工面の残留応力評価方法。
【請求項11】
ウォータージェットピーニング施工面の残留応力評価方法において、残留応力評価対象部のウォータージェットピーニング施工前後の三次元形状測定を行い、前記三次元形状測定の結果からウォータージェットピーニング施工前後での表面積増加率を算出し、算出した前記表面積増加率をあらかじめ用意した残留応力と表面積増加率の関係式に代入することで、ウォータージェットピーニング施工面の残留応力を評価することを特徴とするウォータージェットピーニング施工面の残留応力評価方法。
【請求項12】
請求項11記載のウォータージェットピーニング施工面の残留応力評価方法において、三次元情報の得られる画像取得システムで得た三次元情報を平滑化処理した結果からウォータージェットピーニング施工前後での表面積増加率を算出し、算出した表面積増加率をあらかじめ作成した残留応力と表面積増加率の関係式に代入することで、ウォータージェットピーニング施工面の残留応力を評価することを特徴とするウォータージェットピーニング施工面の残留応力評価方法。
【請求項13】
請求項11記載のウォータージェットピーニング施工面の残留応力評価方法において、ウォータージェットピーニング施工後の残留応力評価面を転写したレプリカを三次元測定の対象とすることを特徴とするウォータージェットピーニング施工面の残留応力評価方法。
【請求項14】
請求項11記載のウォータージェットピーニング施工面の残留応力評価方法において、ウォータージェットピーニング施工面の残留応力と表面積増加率の関係式を、前記ウォータージェットピーニング施工面と同様の硬度と面粗さを有する材料を用いて作成したことを特徴とするウォータージェットピーニング施工面の残留応力評価方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2008−155345(P2008−155345A)
【公開日】平成20年7月10日(2008.7.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−349448(P2006−349448)
【出願日】平成18年12月26日(2006.12.26)
【出願人】(507250427)日立GEニュークリア・エナジー株式会社 (858)
【出願人】(391018639)バブ日立工業株式会社 (38)
【Fターム(参考)】