説明

ウラシルDNAグリコシラーゼ酵素阻害剤および応用

本発明は、ウラシルDNAグリコシラーゼ酵素阻害剤およびその使用に関する。より詳細には、ウイルス性ウラシルDNAグリコシラーゼ(UDG)酵素に結合またはそれを阻害し得るタンパク質、およびその治療薬としての、特に抗ウイルス剤としての使用に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ウイルス性ウラシルDNAグリコシラーゼ(UDG)酵素を阻害するタンパク質、およびその治療薬としての、特に、抗ウイルス剤としての使用に関する。
【背景技術】
【0002】
ヒトおよび動物、特にヒトのウイルス感染は、広範囲に広がり、医療従事者に多くの問題を課している。ウイルスと効果的に特異的に戦うことのできる医薬品は、数が非常に限られており、しかも一般に望ましくない副次的効果を引き起こす。ウイルス感染は宿主細胞を破壊するだけでなく、様々なタンパク質および酵素の機能に影響を及ぼす。ウイルスによる侵入は、他の病原因子(他のウイルス、細菌、真菌など)による感染を助ける。したがって、例えば、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)は、それが引きこした免疫の喪失により、他のウイルス(単純ヘルペス、サイトメガロウイルス、B型肝炎ウイルス)およびヒト身体に侵攻する他の病原因子に扉を開け、危険な状況を作り出す。
【0003】
懸命の努力にも関わらず、これまでのところ、ウイルス性因子により引き起こされる病気の発症を、その起源でまたは症状に関してのいずれかで、邪魔するのに成功したと本質的に承認し得る化学療法薬を見出すことに成功していない。したがって、化学療法薬によるウイルス性疾患の治療は依然として不完全である。
【0004】
複合型またはハイブリッドモノクローナル抗体と毒素により形成される抗体複合体が、標的細胞の特定のコロニーを根絶するのに用いられてきた。これらにより表面標的抗原を保有する「望ましくない」標的細胞を狙ってそれらを破壊するのである。様々な研究者が用いてきた様々な毒素は、大きく2つのグループに分けることができる。第一のグループは、未変化の毒素(未変化のリシンなど)からなる。こうした毒素はその致死毒性のため、in vivoでは安全に用いることができない恐れがある。第二のグループの毒素は、ヘミトキシン(hemitoxin)と呼ばれる。ヘミトキシンは、一本鎖リボソーム不活性化タンパク質で、真核生物リボソームに触媒的に作用して60Sサブユニットを不活性化することで、ペプチド伸長レベルで細胞タンパク質合成を用量に依存して阻害する。
【0005】
目的のヘミトキシンは、フィトラッカ・アメリカナ(Phytolacca americana)から単離されるヤマゴボウ抗ウイルス性タンパク質(PAP)である。長年の間、PAPが抗ウイルス活性を有することは認識されていた。PAPが植物でRNA含有ウイルスの伝染を遮断することが実証されている。PAPがRNA含有動物ウイルス2種(ポリオウイルスおよびインフルエンザウイルス)の複製を阻害すること、およびPAPが単純ヘルペスウイルスI型およびII型の分裂増殖を阻害することも報告されている(米国特許第4,672,053号)。PAPモノクローナル抗体複合体G3.7/CD7、F13/CD14、およびB43/CD19がHIV-1の複製を阻害することが報告されているものの、これらの複合体のウイルスの複製を阻害する能力に一貫性がないことが判明している。
【0006】
上記を踏まえて、新規抗ウイルス性化合物または薬を提供する必要が依然としてある。有利なように、こうした新規抗ウイルス性剤は、当該分野で開示される抗ウイルス性剤の有効性と等しいかそれより大きい有効性を示すべきであり、望ましくない副次的効果を引き起こすべきではない。
【0007】
大部分の原核細胞および真核細胞は、ウラシルDNAグリコシラーゼ(UDG)酵素をコードする。この酵素の機能は、シトシン脱アミノ化により、または複製プロセス中のdUMPの不正確な取り込みによりDNAに出現したウラシル残基を取り除くことである。例えば、シトシン脱アミノ化が生じてそれが修復されなかった場合、この脱アミノ化が起こってしまったDNA鎖ではC-to-T移行変異が生じ、その結果、次の複製段階後、相補鎖でG-to-A移行変異が起こるだろう。いったんUDG酵素によりこのウラシルが取り除かれると、アプリン部位のない、またはアピリミジン部位(AP部位)が作られる。こうしたAP部位の修復に取りかかる機構は、塩基スプライシング修復経路である。
【0008】
ヒト細胞では、UDG活性を有する異なる酵素が5種類まで同定されている。おかしなことに、これらの酵素のうちの1つ、UNG2と呼ばれるものは、1型ヒト免疫不全ウイルス(HIV-1)の粒子にも存在する。そのうえ、DNAウイルス(ヘルペスウイルスおよびポックスウイルスなど)の中には、それら自身のUDG活性をコードするものもいる。異なるヘルペスウイルスのウイルス複製に影響を及ぼすUDG酵素の能力の結果として、前記酵素は宿主細胞におけるウイルス複製機構と関係してきた。上記のウイルスにおいて、UDG酵素は感染プロセスに不可欠であることが既知である。ウイルス複製プロセスにおけるこの酵素の機能はそれらウイルスの非分裂細胞で複製する能力に関係し、ここで細胞UDG酵素のレベルは低いと見なされることが提案されており(Priet et al.(2005)Mol.Cell 17:479−490)、したがって、その阻害は治療上興味が持たれる。これまでのところ、単純ヘルペスウイルス1型(SHV-1)によりコードされるUDG酵素の阻害剤がいくつか設計されている。これらの非タンパク質合成化合物は、in vitro系で試験されている。一方で、PBS2バクテリオファージがコードするUGIタンパク質はSHV-1ウイルスのUDG酵素を阻害することが既知である。しかしながら、この阻害剤の短所の1つは、これがヒトUNG2酵素のUDG活性も遮断することである。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、UDG酵素を阻害する能力を有するタンパク質の発見に基づく。いくつかのウイルスのUDG活性は感染プロセスに不可欠であるため、前記タンパク質は抗ウイルス性化合物を設計するのに有用な道具となり得る。
【0010】
したがって、本発明の1つの態様は、配列番号1のアミノ酸配列、またはUDG酵素を阻害する能力を有するその変異体もしくは断片を含むタンパク質に関する。
【0011】
別の態様において、本発明は、前記タンパク質をコードする、単離されたポリヌクレオチドに関する。
【0012】
別の態様において、本発明は、前記ポリヌクレオチドを含む遺伝子構築物に関する。
【0013】
別の態様において、本発明は、前記ポリヌクレオチドまたは前記遺伝子構築物を含むベクターに関する。
【0014】
別の態様において、本発明は、前記ポリヌクレオチド、または前記遺伝子構築物、または前記ベクターを含む細胞に関する。
【0015】
別の態様において、本発明は、前記タンパク質を得る方法に関し、この方法は、前記タンパク質を産生させ、そうすることが望ましい場合には、前記タンパク質を培養液から回収する条件下、前記細胞を培養することを含む。
【0016】
別の態様において、本発明は、前記タンパク質を含む組成物に関する。
【0017】
別の態様において、本発明は、前記タンパク質を1種または複数の薬学的に許容可能な賦形剤と一緒に含む薬学的組成物に関する。
【0018】
別の態様において、本発明は、抗ウイルス性薬学的組成物の調製における前記タンパク質の使用に関する。
【0019】
本発明は、概して、配列番号1のアミノ酸配列を含む、ウラシルDNAグリコシラーゼ(UDG)酵素を阻害する能力を持つタンパク質、またはUDG酵素を阻害する前記能力を維持する変異体もしくは断片、および治療薬としての、特に抗ウイルス剤としてのその使用に関する。
【0020】
1つの態様において、本発明は、配列番号1のアミノ酸配列を含むタンパク質、またはウラシルDNAグリコシラーゼ(UDG)酵素を阻害する能力を持つその変異体もしくは断片に関する。
【課題を解決するための手段】
【0021】
簡単のため、「本発明のタンパク質」という表現は、配列番号1のアミノ酸配列を含むこのタンパク質、またはUDG酵素を阻害する能力を持つその変異体もしくは断片を含む。「タンパク質」という用語は、本明細書中使用される場合、翻訳後修飾の全ての形(例えば、グリコシル化、リン酸化、またはアセチル化)を含む。
【0022】
特定の実施形態において、本発明のタンパク質は、配列番号1で示されるアミノ酸配列を含むか、それで構成され、そして、少なくとも、このUDG酵素に結合してその活性を阻害する能力を示す。このため本発明のタンパク質は、抗ウイルス剤として用いることができる。具体的な実施形態において、本発明のタンパク質は、いわゆるファイ29(φ29)バクテリオファージのタンパク質p56である。
【0023】
本明細書中用いられる意味において、「変異体」という用語は、配列番号1のアミノ酸配列を含むタンパク質と実質的に相同であり機能的に等価であるペプチドを示す。本明細書中使用される場合、ペプチドは、そのアミノ酸配列が前記タンパク質のアミノ酸配列に関して、少なくとも60%、有利には少なくとも70%、好ましくは少なくとも85%、そしてより好ましくは少なくとも95%の相同性を有する場合、前記タンパク質と「実質的に相同」である。同様に、「機能的に等価」という表現は、本明細書中使用される場合、問題のペプチドがUDG酵素活性を阻害する能力を維持していることを意味する。UDG酵素活性を阻害する能力は、実施例1に記載されるアッセイ(材料および方法の第1.6節を参照)で求めることができる。同様に、ペプチドまたはタンパク質のUDG酵素に結合する能力は、実施例1に記載されるアッセイ(材料および方法の第1.6節を参照)で求めることができる。
【0024】
特定の実施形態において、前記変異体は、配列番号1のアミノ酸配列を含むタンパク質の、UDG酵素活性を阻害する能力を維持した突然変異形である。この突然変異形は、配列番号1を含むタンパク質に関して1つまたは複数のアミノ酸の挿入、欠失、または修飾があってもよいが、ただしUDG酵素活性を阻害する能力を保持する。
【0025】
本発明の範囲内に含まれる変異体の非制限的な例示としての例として、本記載においてタンパク質p56FLAGとして同定されるタンパク質が挙げられ、このタンパク質は、遺伝子56(これはφ29のタンパク質p56をコードする)が、実施例1に記載されるように、C-末端に結合したアミノ酸配列DYKDDDDK(FLAGペプチド)[配列番号9]を含有するp56タンパク質をコードするように修飾されることにより得られる(材料および方法の第1.3節を参照)。アフィニティークロマトグラフィーにより、前記タンパク質p56FLAGがUDG酵素と相互作用することが示されている(実施例1を参照)。
【0026】
同様に、本明細書中用いられる意味において、「断片」という用語は、配列番号1のアミノ酸配列を含む前記タンパク質の一部分、すなわち、前記配列番号1に含まれる隣接しあうアミノ酸の配列を含むペプチドを示す。本発明で用いられるために、前記断片はUDG酵素活性を阻害する能力を有さなければならない。
【0027】
本発明のタンパク質は、それを産生する生物から得ることができ、前記タンパク質を発現するのに適した条件下で前記生物を培養することおよびそれを回収することからなる方法を用いる。本発明の特定の実施形態において、産生生物はφ29バクテリオファージである。実施例1は、配列番号1のアミノ酸配列を含むタンパク質、具体的には、φ29のタンパク質p56、ならびにUDG酵素に結合してその酵素活性を阻害する能力を有するその変異体(p56FLAG)の、産生、単離、および精製を開示する。
【0028】
さらに、本発明のタンパク質は融合タンパク質の一部であってもよい。これに関して、制限ではなく例示の目的で、前記融合タンパク質は、本発明のタンパク質を含む第一のペプチドからなる領域Aとこれが結合した第二のペプチドを含む領域Bを含有してもよい。前記第二のペプチドは、任意の適したペプチド(例えば、抗ウイルス活性を持つペプチド)であってもよい。特定の実施形態において、前記第二のペプチドは、本発明のタンパク質であってもよい。前記領域Bは前記領域Aのアミノ末端領域に結合してもよく、あるいは、前記領域Bは、前記領域Aのカルボキシル末端領域に結合してもよい。領域Aおよび領域Bの両方が、直接、または前記領域Aおよび領域Bの間にあるスペーサーペプチド(リンカー)を通して結合してもよい。融合タンパク質は、当業者に既知の従来法、例えば、適切な宿主細胞で前記融合タンパク質をコードするヌクレオチド配列の遺伝子発現により、得ることができる。
【0029】
本発明のタンパク質は、それが望ましければ、本発明の前記タンパク質と不活性ビヒクルを含む組成物に見ることができる。前記組成物は、本発明のさらなる態様を構成する。
【0030】
事実上、任意の不活性ビヒクル、すなわち、本発明のタンパク質に害を及ぼさないものを、前記組成物の調製に用いることができる。特定の実施形態において、制限ではなく例示の目的で、前記組成物は、本発明のタンパク質と、精製した本発明のタンパク質を-70℃に維持するのに適した、50mMのTris-HCl(pH7.5)、1mMのEDTA、7mMのβ-メルカプトエタノール、および50%のグリセロールからなる緩衝液とを含む。
【0031】
本発明のタンパク質により得られる情報から、前記タンパク質をコードする核酸配列は、当業者に既知の従来技法;例えば、前記タンパク質を産生する生物からゲノムDNA(gDNA)またはコピーDNA(cDNA)のゲノムライブラリーを作り;前記ゲノムライブラリーを調べるように設計されたプローブを得るのに用いることができる、前記タンパク質を産生する生物のゲノムクローンの領域を、ポリメラーゼ連鎖反応法(PCR)で増幅するのに適したオリゴヌクレオチドを設計し;そして陽性クローンを分析および選択することにより、同定および単離することができる。
【0032】
したがって、別の態様において、本発明は、本発明の前記タンパク質をコードする単離されたポリヌクレオチド(本明細書中以下、本発明のポリヌクレオチド)に関する。
【0033】
特定の実施形態において、本発明のポリヌクレオチドは、配列番号2で示されるヌクレオチド配列を含むか、またはこれからなるものである。具体的な実施形態において、本発明のポリヌクレオチドは、φ29のタンパク質p56をコードする。あるいは、本発明のポリヌクレオチドは、配列番号2のヌクレオチド配列に関して、その配列に変異を示してもよい:例えば、1つまたは複数のヌクレオチドの置換、挿入および/または欠失であるが、ただし得られるポリヌクレオチドは本発明のタンパク質をコードする。したがって、本発明の範囲は、配列番号2のポリヌクレオチドと実質的に相同であり本発明のタンパク質をコードするポリヌクレオチドを含む。
【0034】
本明細書中用いられる意味において、ポリヌクレオチドは、そのヌクレオチド配列が、配列番号2のヌクレオチド配列に関して、少なくとも60%、有利には少なくとも70%、好ましくは少なくとも85%、そしてより好ましくは少なくとも、95%の相同性を有する場合、配列番号2のポリヌクレオチドと「実質的に相同」である。代表的には、配列番号2のポリヌクレオチドと実質的に相同であるポリヌクレオチドは、前記配列番号2に含まれる情報に基づいて本発明のタンパク質を産生するか、配列番号2に示されるDNA配列に基づいて構築された生物から単離することができる;例えば、保存的または非保存的置換を導入することによる。可能な修飾の他の例として、配列に1つまたは複数のヌクレオチドを挿入すること、配列の末端いずれかに1つまたは複数のヌクレオチドを加えること、または配列の末端いずれかもしくは配列内において1つまたは複数のヌクレオチドを取り去ることが挙げられる。
【0035】
別の態様において、本発明は、本発明の前記ポリヌクレオチドを含む遺伝子構築物(本明細書中以下、本発明の遺伝子構築物)に関する。
【0036】
本発明の遺伝子構築物は、操作可能なように結合した本発明のポリヌクレオチドの発現を調節する配列を組み込み、そして発現カセットを形成することができる。本明細書中用いる場合、「操作可能なように結合した」という表現は、本発明のポリヌクレオチドによりコードされる本発明のタンパク質が、発現制御もしくは調節配列の制御下、正しい読み枠内で発現されることを意味する。
【0037】
制御配列は、本発明のタンパク質の転写、および適切ならば、翻訳を制御調節する配列で、プロモーター配列、転写調節コード配列、リボソーム結合配列(RBS)および/または転写終結配列を含む。特定の実施形態において、前記発現制御配列は、原核細胞および原核生物(例えば、細菌など)で機能する。一方、別の特定の実施形態において、前記発現制御配列は真核細胞および真核生物(例えば、昆虫細胞、野菜細胞、哺乳類細胞など)で機能する。有利には、本発明の構築物はさらに、前記構築物により形質転換した宿主細胞の選択を可能にするモチーフまたは表現形をコードするマーカーまたは遺伝子を含む。
【0038】
本発明の遺伝子構築物は、当該分野で広く既知である技法を用いて得ることができる(Sambrook et al.,”Molecular cloning,a Laboratory Manual”,2nd ed.,Cold Spring Harbor Laboratory Press,N.Y,1989 Vol.1−3)。
【0039】
本発明の遺伝子構築物は、適切なベクターに挿入されてもよい。したがって、別の態様において、本発明は、本発明のポリヌクレオチドまたは本発明の遺伝子構築物を含む組換えベクター(本明細書中以下、本発明のベクター)に関する。ベクターの選択は、それがその後導入されるであろう宿主細胞に依存する。特定の実施形態において、本発明のベクターは発現ベクターである。
【0040】
例示を目的として、前記核酸配列が導入されたベクターはプラスミドであってもよく、このプラスミドは宿主細胞に導入された場合、前記細胞のゲノムに組み込まれるか組み込まれない。本発明のポリヌクレオチドまたは本発明の遺伝子構築物を挿入することができるベクターの、非制限的な例示としての例として、インビトロジェンから市販されているプラスミドpCR2.1-TOPO(E.コリの発現ベクター)、またはプラスミドpPR53(バチルス・サブチリス(Bacillus subtilis)の発現ベクター)(Bravo and Salas(1997)J.Mol.Biol.269:102−112)が挙げられる。
【0041】
本発明のベクターは、当業者に既知の従来法により得ることができる(Sambrook et al.,”Molecular cloning,a Laboratory Manual”,2nd ed.,Cold Spring Harbor Laboratory Press,N.Y,1989 Vol.1−3)。特定の実施形態において、前記ベクターは動物細胞を形質転換するのに有用なベクターである。
【0042】
本発明のベクターは、前記ベクターにより形質転換、形質移入、または感染しやすいと思われる細胞を形質転換、形質移入、または感染するのに用いることができる。こうした細胞は原核細胞であっても真核細胞であってもよい。本発明のベクターは、酵母菌細胞(例えば、サッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae))などの真核細胞、または細菌(例えば、エシェリキア・コリ(Escherichia coli)またはバチルス・サブチリスなど)などの原核細胞を形質転換するのに用いることができる。本発明のベクターにより形質転換、形質移入、または感染しやすいと思われる細胞の非制限的な例示としての例として、E.コリTOP10(インビトロジェン)、E.コリBL21(DE3)(Studier and Moffatt(1986)J,Mol.Biol.189:113−130).サブチリス110NA(Moreno et al.(1974)Vitrology 62:1−16)、およびB.サブチリスYB886(Yasbin et al.(1980)Gene 12:155−159)が挙げられる。
【0043】
したがって、別の態様において、本発明は、本発明により提供されるベクターで形質転換、形質移入、または感染する宿主細胞(本明細書中以下、本発明の細胞)に関する。したがって、本発明の細胞は、本発明のポリヌクレオチド、本発明の遺伝子構築物、本発明により提供される発現カセット、または本発明のベクターを含み、本発明のタンパク質を発現することができる。
【0044】
本発明の細胞は、酵母菌細胞(例えば、S.セレビシエ)などの真核細胞であっても、微生物(例えば、E.コリまたはB.サブチリス)などの原核細胞であってもよい。本発明の細胞を得るのに用いることができる細胞の非制限的な例示としての例として、E.コリTOP10(インビトロジェン)、E.コリBL21(DE3)(Studier and Moffatt(1986)J,Mol.Biol.189:113−130)、B.サブチリス110NA(Moreno et al.(1974)Vitrology 62:1−16)、およびB.サブチリスYB886(Yasbin et al.(1980)Gene 12:155−159)が挙げられる。
【0045】
本発明の細胞は、当業者に既知の従来法により得ることができる[Sambook et al.,1989,前出]。
【0046】
別の態様において、本発明は本発明のタンパク質を得る方法に関し、この方法は、本発明のタンパク質を産生させ、そうすることが望ましければ、前記タンパク質を培養培地から回収することを可能にする条件下で前記細胞を培養することを含む。前記細胞の培養を最適にする条件は、用いる細胞に依存するだろう。本発明のタンパク質を産生する方法は、随意に、この本発明のタンパク質を単離精製することを含む。
【0047】
上記に記載のとおり、本発明のタンパク質はUDG酵素を阻害する能力を有し、このため、治療薬として、特に抗ウイルス剤として用いることができる。
【0048】
したがって、別の態様において、本発明は、治療薬としての本発明のタンパク質に関する。特定の実施形態において、本発明は、抗ウイルス剤としての本発明のタンパク質に関する。
【0049】
一般に、被検体に投与する目的で、本発明のタンパク質は薬学的組成物に配合されるだろう。したがって、別の態様において、本発明は、本発明のタンパク質を、1種または複数の薬学的に許容可能な賦形剤とともに含む薬学的組成物(本明細書中以下、本発明の薬学的組成物)に関する。
【0050】
「被検体」という用語は、本明細書中使用される場合、哺乳類の一員を示し、ペット、霊長類、およびヒトが挙げられるが、これらに限定されない。好ましくは、被検体はヒトであり、任意の年齢または人種の男性または女性である。
【0051】
より詳細には、被検体に投与する目的で、本発明のタンパク質は、任意の投与経路で被検体に投与するのに適した薬学的形態に配合されるだろう。そのために、本発明の薬学的組成物は、選択された投与用の薬学的形態を調製するのに必要な薬学的に許容可能なビヒクルおよび賦形剤を含むだろう。
【0052】
本発明の薬学的組成物は、少なくとも、本発明のタンパク質を治療上有効な量で含む。本明細書中用いられる意味において、「治療上有効な量」という表現は、所望の効果をもたらすように計算された本発明のタンパク質の量を示し、一般に、他の原因よりも、タンパク質の特性および達成されるべき治療効果によって決定されるだろう。
【0053】
例示を目的として、被検体に投与されるべき本発明のタンパク質の用量は、治療上有効な量であり、広い範囲で変化するだろう。本発明の薬学的組成物は、予防目的または治療目的で1日に1回または複数回投与されてもよい。投与されるべき本発明のタンパク質の用量は、多数の要因に依存し、要因として、用いる本発明のタンパク質の特性(例えば、その活性および生物学的半減期など)、本発明のタンパク質の薬学的組成物中の濃度、被検体の臨床状態、感染または病状の重篤度、選択した投与用の薬学的形態などが挙げられる。このため、本発明で記載される用量は、当業者への案内に過ぎず、当業者は上記の変数に基づいて用量を調節しなければならないことが理解されるはずである。
【0054】
本発明の薬学的組成物は、任意の適した投与経路で投与されるために、固体の薬学的形態(例えば、錠剤、カプセル剤、丸剤、顆粒、坐剤など)、または液体の形態(溶液、懸濁液、乳濁液など)に配合することができる。特定の実施形態において、本発明の薬学的組成物は、経口、直腸、局所的、または非経口経路(例えば、筋肉内、皮下、静脈内など)で投与される。それぞれの場合において、選択された薬学的形態および投与経路に適した薬学的に許容可能な賦形剤が選択されるだろう。
【0055】
特定の実施形態において、本発明のタンパク質は、局所的投与に適した薬学的形態に配合されるだろう。前記薬学的形態の非制限的な例示としての例として、エアロゾル、溶液、懸濁液、乳濁液、ゲル、軟膏、クリーム、包帯、パッチ、洗口液などが挙げられる。そのために、本発明の薬学的組成物は、その薬学的形態を調製するために必要な薬学的に許容可能なビヒクルおよび賦形剤を含むだろう。前記ビヒクルおよび賦形剤について、ならびに本発明のタンパク質を投与するためのこの薬学的形態についての情報は、製剤学論文に見つけることができる。一般に、薬について、その投与の様々な薬学的形態およびその調製法の総説は、「Tratado de Farmacia Galenica」(C.Fauli i Trillo,1st Edition,1993,Luzan 5,S.A.de Ediciones)という本に見つけることができる。
【0056】
別の特定の実施形態において、本発明のタンパク質は、経口投与に適した薬学的形態に配合されるだろう。特定の実施形態において、本発明のタンパク質の経口投与用の前記薬学的形態は固体であっても液体であってもよい。経口経路で本発明のタンパク質を投与するのに適した薬学的形態の非制限的な例示としての例として、錠剤、カプセル剤、シロップおよび溶液が挙げられ、結合剤(例えば、シロップ、アカシア、ゼラチン、ソルビトール、トラガカント、ポリビニルピロリドンなど);増量剤(loads)(例えば、ラクトース、糖、コーンスターチ、リン酸カルシウム、ソルビトール、グリシンなど);錠剤を調製するための潤滑剤(例えば、ステアリン酸マグネシウムなど);離解剤(例えば、デンプン、ポリビニルピロリドン、デンプングリコール酸ナトリウム、微結晶性セルロースなど);薬学的に許容可能な湿潤剤(ラウリル硫酸ナトリウムなど)の、当該分野で既知の従来賦形剤を含んでもよい。前記ビヒクルまたは賦形剤について、ならびに本発明のタンパク質を投与するための前記薬学的形態についての情報は、「Tratado de Farmacia Galenica」(C.Fauli i Trillo,1st Edition,1993,Luzan 5,S.A.de Ediciones、前出)という本に見つけることができる。
【0057】
別の特定の実施形態において、本発明のタンパク質は、非経口投与(例えば、筋肉内、皮下、静脈内など)に適した薬学的形態、例えば、適した単位薬学的形態の、滅菌溶液、懸濁液、または凍結乾燥生成物の形に配合されるだろう。適した賦形剤(緩衝剤、界面活性剤、保存料など)を用いることができる。前記ビヒクルまたは賦形剤について、ならびに本発明のタンパク質を投与するための前記薬学的形態についての情報は、「Tratado de Farmacia Galenica」(C.Fauli i Trillo,1st Edition,1993,Luzan 5,S.A.de Ediciones、前出)という本に見つけることができる。
【0058】
選択した経路のいずれかにより本発明のタンパク質を投与するための前記薬学的形態の製造は、当業者に既知の従来法(スペインおよび米国薬局方に、および同様な参照文献に記載または記述のある習慣的方法など)により行うことができる。例示を目的として、本発明のタンパク質を投与するための前記薬学的形態の製造法についての情報は、「Tratado de Farmacia Galenica」(C.Fauli i Trillo,1st Edition,1993,Luzan 5,S.A.de Ediciones、前出)という本に見つけることができる。
【0059】
特定の実施形態において、本発明の薬学的組成物は、抗ウイルス剤として、すなわち、ウイルス感染(ヘルペスウイルスおよびポックスウイルスに引き起こされる感染など)の治療および/または予防に用いられる。
【0060】
本発明の薬学的組成物は、他の薬と一緒に用いて併用療法を提供することができる。他の薬は、同じ組成物の一部であってもよく、本発明の薬学的組成物と同時に(同時投与)または別々に(逐次投与)される別々の薬学的組成物として供給されてもよい。特定の実施形態において、併用療法に用いられる前記薬として抗ウイルス剤が挙げられる。
【0061】
別の態様において、本発明は、抗ウイルス薬学的組成物の調製、すなわち、ウイルス感染の治療および/または予防用薬学的組成物の調製における本発明のタンパク質の使用に関する。
【0062】
本発明の薬学的組成物である前記抗ウイルス薬学的組成物は、少なくとも1種の本発明のタンパク質を、1種または複数の薬学的に許容可能なビヒクルまたは賦形剤とともに含む。
【0063】
特定の実施形態において、前記抗ウイルス薬学的組成物は、本発明のタンパク質の抗ウイルス剤としての有効性を増加させ、それにより併用療法をもたらす目的で、本発明のタンパク質の他に、タンパク質起源またはそれ以外の1種または複数のさらなる抗ウイルス性化合物または薬を含んでもよい。前記さらなる薬は、同じ薬学的組成物の一部であってもよく、あるいは、本発明の薬学的組成物の投与に関して同時または連続して(時系列で)投与される別々の組成物の形で供給されてもよい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0064】
以下の例は、本発明を例示するが、その範囲を限定すると理解されるべきではない。
【実施例1】
【0065】
タンパク質p56はUDG酵素活性を阻害し、そのうえUDG酵素に結合する
1.材料および方法
1.1 プラスミドpCR2.1-TOPO.p56の構築
インビトロジェンが開発したTOPO TAクローニングシステムを用いた。簡単には、以下のオリゴヌクレオチドをプライマーとして用いて、φ29の遺伝子56を含むDNA領域を、ポリメラーゼ連鎖反応法(PCR)により増幅した:
5’-CGCATTGTATGAGCTTTCTAGGATGG-3’[配列番号3]
5’-GCAGGGAATTCTGCAGTCAAAGGACTTTATC-3’[配列番号4]
【0066】
この増幅では、TaqDNAポリメラーゼを用いたが、これは、増幅した断片(267pb)の3’末端にデオキシアデノシン残基を付加して、それにより突出末端を生成する特性を有する。誘導性発現ベクターとして、インビトロジェンが販売する直線形のプラスミドpCR2.1-TOPOを用いた。その突出3’末端は、デオキシチミジン残基を有し、ワクシニアウイルスのDNAトポイソメラーゼI酵素に共有結合している。このクローニングシステムを用いると、制限酵素での消化およびDNAリガーゼの使用は必要ない。なぜならDNAトポイソメラーゼIが核酸連結反応を担うからである。続いて、核酸連結混合物を用いてE.コリ株TOP10(インビトロジェン)を形質転換した。カナマイシン(50μg/ml)耐性の形質転換体を選択して、制限酵素で消化することによりプラスミド含量を分析した。組換えプラスミドは、pCR2.1-TOPO.p56と呼ぶことにした。遺伝子56の完全性は、配列決定で確認した。
【0067】
1.2 プラスミドpPR53.p56の構築
遺伝子56を保有するプラスミドpCR2.1-TOPO.p56の272-pb PstI断片を、発現ベクターpPR53(Bravo and Salas(1997)J.Mol.Biol.269:102−112)のPstI部位でクローニングした。クローニングのため、B.サブチリスYB886株(Yasbin et al.(1980)Gene 12:151−159)を用いた。フレオマイシン(0.8μg/ml)耐性の形質転換体を選択した。組換えプラスミドは、pPR53.p56と呼ぶことにした。YB886[pPR53.p56]株は、構成的にタンパク質p56を産生する。
【0068】
1.3.プラスミドpPR53.p56FLAGの構築
C末端に融合したDYKDDDDKペプチドを保有するp56タンパク質(タンパク質p56FLAG)を遺伝子56がコードできるように、遺伝子56の配列を定方向突然変異誘発で修飾した。この突然変異誘発は2工程で行った。最初に、遺伝子56を、テンプレートとしてのプラスミドpPR53.p56およびプライマーとして以下のオリゴヌクレオチドを用いてPCRで増幅した:
5’-CCTCTAGAGTCGACCTGCAG-3’[配列番号5]
5’-GTCATCGTCATCCTTATAGTCAGGACTTTATCCAACCTTAG-3’[配列番号6]
【0069】
第二の工程では、298pbの増幅した断片をテンプレートとして用い、配列番号5および配列番号7[5’-CCCTCAGGGCTGCAGTTATTACTTGTCATCGTCATCCTTATAGTC-3’]として同定されるオリゴヌクレオチドをプライマーとして用いた。
【0070】
配列番号5および配列番号7のプライマーオリゴヌクレオチドは、PstI酵素の認識配列を保有する。続いて、増幅した断片(322pb)をPstI酵素で消化し、293-pbの消化産物を、発現ベクターpPR53(Bravo and Salas(1997)J.Mol.Biol.269:102−112)のPstI部位にクローニングした。核酸連結混合物を用いて、B.サブチリスYB886株(Yasbin et al.(1980)Gene 12:151−159)を形質転換した。フレオマイシン(0.8μg/ml)耐性の形質転換体を選択した。組換えプラスミドは、pPR53.p56FLAGと呼ぶことにした。YB886[pPR53.p56FLAG]株は、構成的にタンパク質p56FLAGを産生する。続いて、in vivoタンパク質タンパク質相互作用研究を行う目的で、プラスミドpPR53.p56FLAGをB.サブチリス110NA株(Moreno et al.(1974)Vitrology 62:1−16)に導入した。
【0071】
1.4タンパク質p56の精製
プラスミドpCR2.1-TOPO.p56を、電気穿孔技法によりE.コリBL21(DE3)株に導入した。BL21(DE3)[pCR2.1-TOPO.p56]株を、34℃で、カナマイシン含有LB培地(50μg/ml)で増殖させた。培養物の光学密度が560nm(OD560)で0.9に達したところで、IPTGを最終濃度0.5mMで加えた。30分後、リファンピシンを加え(120μg/ml)、培養物のインキュベートを75分間続けた。細胞ペレットは、使用するまで-70℃に保った。p56を精製する目的で、0.65MのNaClを含有する緩衝液A(50mMのTris-HCI(pH7.5)、1mMのエチレンジアミン四酢酸(EDTA)、7mMのβ-メルカプトエタノール、5%のグリセロール)中、アルミナで細胞を溶解した。アルミナおよび細胞残渣を遠心分離で除去した後、溶菌液をポリエチレンイミン(0.3%)と一緒に20分間インキュベートし、続いてこれをSorvall-GSAローター中12,000rpmで10分間遠心分離した。ペレットを、0.7MのNaClを含有する緩衝液Aで洗浄した。遠心分離(Sorvall-SS34ローター中12,000rpmで20分間)に続いて、硫酸アンモニウムでの逐次沈殿工程を行った(それぞれ、65%飽和、45%飽和、および30%飽和)。最後の沈殿の上清を最終濃度50%にした。遠心分離に続いて、ペレットを、塩濃度が55mM(伝導率から見積もって)である緩衝液Aに再懸濁させた。タンパク質調製物を、55mMのNaClを含有する緩衝液Aで平衡化したMono Qカラムにロードした。タンパク質p56は、0.3MのNaClでカラムから溶出した。最後に、タンパク質調製物を、グリセロール勾配(15%〜30%)中にロードして、Beckman-SW.65ローター中62,000rpmで20時間遠心分離した。タンパク質p56を含有する画分を収集して70%硫酸アンモニウムで沈殿させた。タンパク質p56を50%グリセロール含有緩衝液Aに再懸濁させて-70℃で貯蔵した。
【0072】
1.5 タンパク質p56により媒介されるUDG活性の阻害
B.サブチリス抽出物中のUDG活性の検出
細胞抽出物を調製する目的で、B.サブチリス110NA株(Moreno et al.(1974)Vitrology 62:1−16)を、LB培地中30℃で、培養1mlあたり10の生細胞数に等しいOD560まで増殖させた。次いで、培養物を、ロシェ・アプライド・サイエンスから得たプロテアーゼ阻害剤混合物(「コンプリート、ミニ、EDTAフリー」の10ml用の錠剤)を含有する緩衝液U(50mMのTris-HCl(pH8.0)、200mMのNaCl、12mMのβ-メルカプトエタノール、1mMのEDTA)中、10倍に濃縮した。培養物を、フレンチプレス(20,000psi)を用いて溶解させ、続いて溶菌液を、Sorvall-SS.34ローター中7,000rpmおよび4℃で10分間遠心分離した。上清(細胞抽出物)を、最大で2週間、4℃に維持した。抽出物中の合計タンパク質濃度(1.35mg/ml)は、Lowry法で計算した。
【0073】
Family-1に属するUDG活性を持つ酵素は、単鎖DNAおよび二重鎖DNAの両方からウラシル残基を除去する。ウラシル残基の除去は、DNAに無塩基部位(AP部位)を作り出し、これは、B.サブチリスでは、タンパク質ExoAにより認識されてプロセシングされる。APエンドヌクレアーゼ活性がない場合、NaOHと熱で処理することにより、AP部位でDNA鎖スプライシングを行うことが可能である。細胞抽出物中のUDG活性を測定する目的で、16位にウラシル残基を保有する単鎖DNA(34ヌクレオチド)(ssDNA-U16基質)を用いた。ssDNA-U16ポリヌクレオチドのヌクレオチド配列は以下のとおりである:5’-CTGCAGGTGATGCGCUGTACCGATCCCCGGGTAG-3’[配列番号8]。[γ-32P]ATP(3,000Ci/mmol)(Amersham Pharmacia)を用いて、このDNAの5’末端に放射活性標識を付けた。反応混合物(20μl)は、0.55ngのssDNA-U16基質および記載される量の細胞抽出物(0.05μg〜3.2μg)を緩衝液U中に含むものであった。混合物を37℃で10分間インキュベートした。続いて、これをNaOH(0.2M)で処理して、90℃で30分間インキュベートした。試料を、尿素含有(8M)ポリアクリルアミドゲル(20%)中で電気泳動して分析した。得られた結果を図1Aに示す。
【0074】
タンパク質p56がUDG活性の阻害剤であるかどうかを分析する目的で、ssDNA-U16基質(0.55ng)を、1.6μgの細胞抽出物(基質の全スプライシングを得るのに充分な量)と一緒に、および様々な量のタンパク質p56(0.5ng〜16ngの間)と一緒にインキュベートした。上記のように、反応混合物を37℃で10分間インキュベートして、NaOH(0.2M)で処理して、90℃で30分間インキュベートした。
【0075】
1.6 タンパク質p56とUDG酵素との相互作用
UDG酵素がタンパク質p56の細胞標的であるかどうかを分析する目的で、アフィニティークロマトグラフィーアッセイを行った。簡単には、B.サブチリス110NA[pPR53.p56FLAG]株を、フレオマイシン(0.8μg/ml)を含むLB培地で、30℃で、1mlあたり10の生細胞数に等しいOD560まで増殖させた。培養物を、TBS緩衝液(50mMのTris-HCl(pH7.5)、150mMのNaCl)中10倍に濃縮して、フレンチプレス(20,000psi)を用いて溶解させた。溶菌液を、Sorvall-SS.34ローター中7,000rpmおよび4℃で10分間遠心分離した。上清を抗FLAG M2カラム(Sigma)にロードした。カラムに結合したタンパク質を、FLAGペプチド(500μg/ml)含有TBS緩衝液(Sigma)で溶出させた。溶出したタンパク質をアセトンで沈殿させ、ロード緩衝液(60mMのTris-HCl(pH6.8)、2%のSDS、5%のβ-メルカプトエタノール、30%のグリセロール)中に再懸濁させ、ポリアクリルアミド/トリシン/SDSゲル(Shagger and von Jagow(1987)Anal.Biochem.166:368−379)中電気泳動して分離した。ゲルをSyproRuby(Molecular Probes)で染色した。陰性対照として、110NA[pPR53]株の抽出物を用いた。第二の実験では、タンパク質p56(2μg)をE.コリのUDG酵素(0.2μg、New England Biolabs)とともにインキュベートした。周辺温度で15分後、反応物を自然のポリアクリルアミドゲル(16%)中電気泳動して分析した。ゲルをSpyroRubyで染色した。
【0076】
II.結果
2.1 タンパク質p56はUDG酵素と相互作用する
基質(ssDNA-U16)を0.2μgのB.サブチリス細胞抽出物とともにインキュベートすると、スプライシング産物が産生された。そのうえ、実験結果は、1.6μgの細胞抽出物を用いた場合、この基質が完全にスプライシングされたことを示す(図1A)。基質をE.コリのUDG酵素(New England Biolabs)とともにインキュベートした場合、同じスプライシング産物が検出された。したがって、この結果は、B.サブチリス抽出物が、ウラシル残基を基質から除去してAP部位を作り出すことができた、すなわち前記抽出物がUDG活性を有することを示す。しかしながら、反応混合物をNaOHで処理しなかった場合、基質のスプライシングは検出されなかった(図1A)ことから、アッセイを行った条件下(Mg2+の不在)、B.サブチリス抽出物はAPエンドヌクレアーゼ活性を欠いていた。
【0077】
2.2.タンパク質p56はUDG活性を阻害する
タンパク質p56がUDG活性の阻害剤であることを証明する目的で、ssDNA-U16基質(0.55ng)を1.6μgの細胞抽出物(基質の全スプライシングを得るのに充分な量)とともに、および様々な量のタンパク質p56(0.5ng〜16ngの間)とともにインキュベートした。材料および方法の第1.5節ですでに記載したとおり、反応混合物を37℃で10分間インキュベートし、NaOH(0.2M)で処理して、90℃で30分間インキュベートした。図1Bは得られた結果を示す。2ngのタンパク質p56の存在下、スプライシング産物量の減少が検出された。さらに、8ngのタンパク質p56を加えた場合、基質は無傷のままだった。すなわち、この結果は、タンパク質p56がUDG活性を阻害することを示す。
【0078】
図2Aに示すとおり、5種のタンパク質(A〜E)がp56FLAGと同時溶出した。ペプチドマスフィンガープリンティング法とMASCOTプログラム(Perkins et al.(1999)Electrophoresis 20:3551−3567)を用いて、タンパク質DがUDG酵素(26kDa)であると同定した。遊離UDGよりも速く移動したバンドが検出された(図2B)。ウエスタンブロット法およびペプチドマスフィンガープリンティング法を用いて、前記バンドがp56およびUDGを含有することが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0079】
【図1】B.サブチリス抽出物でのUDG活性を示す。放射活性な標識を付けたssDNA-U16基質(S)(0.55ng)をMg2+なしで、記載される量の抽出物とともにインキュベートした。内部標準として、基質をE.コリのUDG酵素とともにインキュベートした。反応混合物をNaOHありまたはなしで処理した。スプライシング産物(P)の形成を、ポリアクリルアミド-尿素ゲルで分析した。
【図2】タンパク質p56によるB.サブチリスのUDG活性の阻害を示す。記載される量のp56を1.6μgの抽出物に加えた。反応物をNaOHで処理した。
【図3】抗FLAGM2カラム(Sigma)を用いた、B.サブチリスのUDGとタンパク質p56FLAGとの同時溶出を示す。用いたマーカーの分子質量(kDa)は、右側に示す。
【図4】未変性ポリアクリルアミドゲルで分析した、タンパク質p56とE.コリのUDG酵素との相互作用を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号1のアミノ酸配列を含むタンパク質、あるいはウラシルDNAグリコシラーゼ(UDG)酵素を阻害する能力を有するその変異体または断片。
【請求項2】
請求項1に記載のタンパク質をコードする、単離されたポリヌクレオチド。
【請求項3】
配列番号2のヌクレオチド配列を含む、請求項2に記載のポリヌクレオチド。
【請求項4】
請求項2または3に記載のポリヌクレオチドを含む遺伝子構築物。
【請求項5】
請求項2に記載のポリヌクレオチドまたは請求項3に記載の遺伝子構築物を含むベクター。
【請求項6】
請求項2または3に記載のポリヌクレオチド、請求項4に記載の遺伝子構築物、または請求項5に記載のベクターを含む細胞。
【請求項7】
請求項1に記載のタンパク質を産生させる条件下、請求項6に記載の細胞を培養し、そうすることが望ましい場合には、前記タンパク質を培養液から回収することを含む、請求項1に記載のタンパク質を得る方法
【請求項8】
請求項1に記載のタンパク質および不活性ビヒクルを含む組成物。
【請求項9】
請求項1に記載のタンパク質を、1種または複数の薬学的に許容可能な賦形剤と一緒に含む薬学的組成物。
【請求項10】
抗ウイルス性薬学的組成物の調製における、請求項1に記載のタンパク質の使用。

【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図1】
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【公表番号】特表2009−520487(P2009−520487A)
【公表日】平成21年5月28日(2009.5.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−546497(P2008−546497)
【出願日】平成18年12月1日(2006.12.1)
【国際出願番号】PCT/ES2006/070187
【国際公開番号】WO2007/074200
【国際公開日】平成19年7月5日(2007.7.5)
【出願人】(508157886)コンセジョ スペリオール デ インベスティガショネス シエンティフィカス (21)
【Fターム(参考)】