説明

ウリジンまたはシチジンのアシル誘導体を含有する医薬組成物

【課題】心不全、心筋梗塞、肝傷害、糖尿病、脳血管傷害またはパーキンソン病の処置のための組成物を提供する。
【解決手段】下記式(I)を有するウリジンまたはシチジンのアシル誘導体またはその医薬として許容される塩を含有する医薬組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、1987年10月28日の出願に係わる係属中の米国特許出願第115,929号の一部継続出願であり、その開示を参考として本明細書に導入する。
【0002】
本発明は一般的に、シチジンおよびウリジンのアシル誘導体、およびそれらの誘導体の、外因性リボヌクレオシドを動物組織に送達させるための使用に関する。さらに詳しくは、本発明は、シチジンおよびウリジンのアシル誘導体、ならびにこれらのリボヌクレオシドを動物組織に送達させ細胞代謝機能を支持するための上記新規誘導体の使用に関する。さらに特定すれば、本発明は、肝疾患または肝傷害、脳血管障害、呼吸窮迫症候群、心障害、および他の臨床状態の処置を含む各種の生理学的および病理学的状態の治療または予防のための新規アシル誘導体の使用に関する。
【背景技術】
【0003】
(発明の背景)
外因性リボヌクレオシドの供給が有用な治療的応用になる動物組織の生理学的および病理的状態は多い。多くの生理学的および病理学的状態において、動物へのRNA、ヌクレオチドまたは各ヌクレオシドもしくはその混合物の投与は、冒された細胞の自然の修復過程を改善することが知られている。
【0004】
通常は機能的に飽和していて、基質または補因子の利用性によって限定されている多くの重要な代謝反応がある。このような律速的化合物は栄養的に必須であるか、または生体内で新たに合成される。
【0005】
組織外傷、感染または生理学的要求に対する適応状態下には、とくに細胞の修復または再生過程が活性化されているときは、このような修復を促進するために至適な栄養的、生化学的またホルモン的環境は、正常な細胞または組織機能の要求とは著しく異なっている。このような場合に、適当な条件必須栄養素、たとえばリボヌクレオシドまたは代謝物を供給することによって治療的利益が引き出される。これらは通常の食餌から得られない量が要求される。傷害または罹患組織の代謝機能を直接支持するこの戦略の治療的可能性は現代の医学実務では認識されていなかった。
【0006】
生物体の細胞レベルにおいて、外傷に対する特異的な代謝応答があり、それらには各種の組織、組織の修復、再生または変化した機能的要求に対する適応が関与する。組織の傷害および修復の大部分の過程は、グルコース代謝のヘキソース−リン酸経路の活性の増大を伴っている。
【0007】
ヘキソース−リン酸経路はペントース糖たとえばリボースの生成経路であって、これらはヌクレオチドおよび核酸合成に必要である。リボースの利用性は、大部分の生理学的または病理学的状態にあって、ヌクレオチド合成の律速段階である。核酸およびヌクレオチド誘導補因子〔たとえばシチジンジホスホコリン(CDPコリン)またはウリジンジホスホグルコース(UDPG)の合成のためのヌクレオチドの急速な合成は、組織修復および細胞増殖の過程に必須である。ヌクレオチドはより単純な栄養素から新たに合成されるとしても、直接のヌクレオチド前駆体に対する絶対的な食餌要求性がないために、多くの組織はとくに組織修復または細胞増殖時にはヌクレオチド合成の至適な能力をもっていない。
【0008】
予め生成したリボヌクレオシドを組織に直接提供することにより限られたヘキソース−リン酸経路の能力を副側路を設けることは可能である。組織でリボヌクレオシドは、ヌクレオチド合成の「サルベージ」経路を介してヌクレオチドプール中に導入される。ピリミジンリボヌクレオシドは、ヌクレオチド合成の支持には無関係な機構を介して治療的効力を発揮することも可能である。
【0009】
ピリミジンヌクレオシド、とくにウリジンおよびシチジン投与の、実験動物における各種生理学的および病理学的状態、単離組織、およびある程度、ヒトに対する効果は、広範囲に研究されてきた。これらを以下にまとめる。
【0010】
(1) 心臓
低血流虚血に付した単離ラット心臓において、ウリジンによる再還流は、心筋ATPレベル、総アデニンヌクレオチド含量、ウリジンヌクレオチドレベル、およびグリコーゲン含量の回復を誘発した。虚血は、クレアチニンリン酸、ATP、ウリジンヌクレオチドおよびグリコーゲンの分解を生じることが報告された(Aussedat、J.:Cardiovasc.Res.、17:145〜151、1983)
関連した研究では、単離ラット心臓をウリジンで還流すると、心筋ウラシルヌクレオチド含量が濃度依存性に上昇した。低血流虚血後に、ウリジンの導入の速度は2倍に上昇した(Aussedat、J.ら:Mol.Physiol.、6:247〜256、1984)
別の研究では、心グリコーゲン貯蔵を枯渇させ、心筋UTPおよびUDP−グルコースレベルを低下させるイソプロテレノールをラットに投与した。心筋UTPレベルは自然に回復したにもかかわらず、UDP−グルコースの濃度はウリジンまたはリボースを投与しない限り低下したままであった。リボースまたはウリジンを長時間静脈内に注入すると心筋グリコーゲンの回復を生じた。したがって、心臓には、ピリミジン合成のサルベージまたは新たな経路により別個に供給されるプールをもつウリジンヌクレオチドの区画形成性があるものと考えられる(Aussedat、J.ら:Physiol.、78:331〜336、1982)
単離イヌ心臓の急性左室不全に対するヌクレオチドの効果はBuckley、N.M.らによって研究された(Circ.Res.、7:847〜867、1959)。左室不全は単離イヌ心臓において大動脈圧を上昇させることによって誘発した。このモデルでは、グアノシン、イノシン、ウリジンおよびチミジンが陽性変力剤であり、一方、シチジンおよびアデノシンは陰性変力剤であることが明らかにされた。
【0011】
ウリジン一リン酸ナトリウム(UMP)およびオロト酸カリウムは、その酸のアドレナリン誘発心筋壊死に対する動物の抵抗性を増大することが見出された。これらの化合物は、ECGの解釈、生化学的所見および心臓重量比によって評価した心筋機能の改善し、死亡率を低下させた。UMPの静脈内投与はオロト酸カリウムよりも著明な予防効果を発揮した(Kuznetsova、L.V.ら:Farmakol.−Toksikol.、2:170〜173、1981)。
【0012】
単離ウサギ心臓における低酸素の影響に関する研究では、心筋能率が低下し、一方、グルコースの取り込みとともに解糖、グリコーゲン分解、およびアデノシンヌクレオチドの分解の増大が報告されている。ウリジンの投与は、心筋能率、グルコースの取り込みと解糖を上昇させ、また低酸素心臓からのグリコーゲンおよびアデノシンヌクレオチドの消失を減弱した。ウリジンはまた、グルコースの取り込み、解糖、ATPとグリコーゲンのレベルおよび心筋能率を、プロプラノロール処置心臓で上昇させた(Kypson、J.ら:J.Mol.Cell.Cardiol.、10:545〜565、1978)。
【0013】
単離ラット心臓における外因性シチジンからのピリミジンヌクレオチドの合成の研究では、シチジンの30分間供給で心筋シトシンヌクレオチドレベルは有意に上昇した。大部分のシチジンはシトシンヌクレオチドおよびウラシルヌクレオチドの部分として回収された。取り込まれたシチジンのウリジンヌクレオチドへの変換はほとんどなかった。これらの結果は、シチジンの取り込みが心筋シトシンヌクレオチド代謝に重要な役割を果たすことを示唆している(Lortet、S.ら:Basic Res.Cardiol.、81:303〜310、1986)。
【0014】
他の研究では、下行大動脈の反復、短時間結紮によって心筋疲労が生じた。このような結紮を5回行ったのちにウリジンとイノシンの混合物を静脈内に投与すると、心筋における疲労の発現は一過性に停止した。量は公表されていないがウリジンの前処置により、大動脈狭窄2時間後に認められる大動脈結紮に際しての最高血圧の低下は防止された(Meerson、F.C.:Tr.Vseross.S’ezda Ter.、Myasnikov、A.L.編、Meditsina社刊、Moscow、PP27〜32、1966)。
【0015】
他の研究では、心筋梗塞後の心臓の非虚血部分における収縮性と伸張性の障害のコントロールのために、グルコースおよびウリジンの使用が検討された。収縮性と伸張性の欠陥は持続的な交感神経活動によると報告されている。invitroにおけるグルコースまたはウリジンの添加は、単離動脈組織の収縮性と伸張性を回復させた(Meerson、F.Z.ら:Kardiologiya、25:91〜93、1985)。
【0016】
単離心臓またはin situ臓器プレパレーションで認められた上述の結果にもかかわらず、無傷動物(すなわち、生存した自由に活動している動物)にウリジンを投与しても効力は認められなかった。また一方、Eliseev、V.V.ら(Khim−Farm.Zh.、19:694〜696、1985;CA、103:82603k)は、ウリジン−5’−一リン酸がアドレナリン誘発心筋ジストロフィーラットに保護効果を示すが、ウリジンは比較的に無効であることを明らかにした。さらにwilliams、J.F.ら(Aust.N.Z.J.Med.、6:Supp.2、60−71、1976)は心臓肥大を発症したラットで、ウリジン処置したラットと対照の間には差がなかったことを報告している。すなわち、ウリジンの連続注入を受けたラット(Aussedatら:前出)を除いて、ウリジン投与の心臓に関連した病状に対する有利な影響は認められていない。
【0017】
(2) 筋肉
単離骨格筋および心筋において、ウリジンへの暴露はグルコースの取り込みとグリコーゲンの合成を増大させることも見出された(Kypson、J.ら:Biochem.Pharmacol.、26:1585〜1591、1977)。ウリジンとイノシンは単離ラット横隔膜筋肉においてグルコースの取り込みを刺激することが明らかにされた。しかしながら、ウリジンのみがグリコーゲン合成を増大させた。両ヌクレオシドが脂肪組織での脂肪分解を阻害した(Kypson、J.ら:J.Pharm.Exp.Ther.、199:565〜574、1976)。
【0018】
(3) 肝臓
シチジンおよびウリジンの投与が、四塩化炭素急性中毒のラット肝臓の再生の増進に有効であることも報告されている(Bushma、M.I.ら:Bull.Exp.Biol.Med.、88:1480〜1483、1980)。ヌクレオチドおよびRNAの治療的投与に関しては多くの報告がある。RNAまたはヌクレオチドの有益な効果は多分、個々のヌクレオシドへのホスファターゼによる分解に起因するものと思われる。たとえば、ラット肝臓からの細胞質内RNAを、CCl4による慢性中毒時のマウスに注射すると動物の死亡率を低下させた。さらに壊死巣の数が低下し、肝の小葉間結合織線維が増加した。肝細胞の分裂活性の上昇も認められた(Chernukh、A.M.ら:Bull.Exp.Biol.Med.、70:1112〜1114、1970)。
【0019】
RNA、混合ヌクレオチドまたはヒドロコーチゾンそれぞれの単独または様々な組合せでの投与では、ラット肝のチロシン−α−ケトグルタレート活性の上昇がみられた。RNAまたはヌクレオチドの投与では、ヒドロコーチゾン単独投与後に得られたよりも酵素活性が高いレベルに上昇した。この著者は、RNAまたはヌクレオチドは2つの機構、すなわち副腎ステロイドの放出の刺激による第一の非特異的ストレス効果、または第二にRNA合成の制限基質の供給を介して作用するものと推論している(Diamondstone、T.I.ら:Biochim.Biophys.Acta、57:583〜587、1962)。肝硬変のヒト患者での研究は、シチジンおよびウリジンの投与は肝硬変患者のインシュリン感受性を改善するが、肝疾患をもたない患者のインシュリン感受性には影響しなかった(Ehrlich、H.ら:Metabolism、11:46〜45、1962)。
【0020】
肝の機械的外傷後の修復の研究では、実験的に誘発した外傷の境界で、細胞のRNA含量の急速かつ持続的な上昇が認められた。外傷領域でのDNA濃度は傷害後3日目に上昇を開始し、この上昇は11日目まで続いた。これに対し、糖尿病ラットの肝でのRNAおよびDNA含量は低かった。外傷部位周辺の組織中のRNAおよびDNAの上昇は、非糖尿病ラットの肝臓に比べて遅く、著しく低かった。糖尿病肝臓での創傷治癒の劣化を生じるRNA合成の不全は、糖尿病に認められるグルコース代謝のヘキソース−リン酸経路の活性低下によるものであった(Shah、R.V.らJ.Anim.Morphol.Physiol.、21:132〜139、1974)。
【0021】
他の研究では、ある種の状態での肝グリコーゲン合成には、UDPGの利用性が律速因子であることが見出された。腎養肝細胞をウリジンとインキュベートすると、グルコースのグリコーゲンへの導入が増大し、組織ウリジンヌクレオチドプールが拡大した。インキュベーション混合物からウリジンを除くと、1時間のインキュベーションの間にUTPおよびUDPGのレベルは著明に低下した(Songu、E.ら:Metabolism、30:119〜122、1981)。アルコール性肝炎の患者での研究においては、ウリジン−ジホスホグルコースを筋肉内または静脈内に投与すると、生化学的指数ならびに生理学的および精神的症状に有益な効果が見出された。すなわち、ピリミジンヌクレオシドはある形の肝病態の治療に有効であった。
【0022】
(4) 糖尿病
ヌクレオシドは糖尿病の治療にも有用である。実験的糖尿病では、多くの組織でRNAの合成が低下する。リボ核酸ナトリウムの経口投与は、糖尿病ラットの組織においてRNA生合成速度を増大させることが明らかにされた(Germanyuk、Y.L.ら:Farmakol.Toksikol.、5〜52、1979)。この効果は多分、投与されたRNAが加水分解され、個々のリボヌクレオチドおよび/またはリボヌクレオシドを支えた結果と思われる。糖尿病ラット肝でのRNA合成不全は、糖尿病におけるグルコース代謝のヘキソース−リン酸経路の活性の低下に帰せられた(Shah、R.V.ら:J.Anim.Morphol.Physiol.、25:193〜200、1978)。
【0023】
(5) リン脂質の生合成
シチジンヌクレオチドはリン脂質の生合成に関連づけられてきた。たとえばTrovarelli、G.ら(Neuro Chem.Res.、9:73〜79、1984)は、ラット脳へのシチジンの脳室内投与はすべてのヌクレオチド、CDP−コリン、CDP−エタノールアミンおよびCMPの濃度に見るべき上昇をもたらすことを明らかにしている。著者らは、神経組織における遊離シチジンヌクレオチドの低濃度がリン脂質生合成の速度を限定するように思われると述べている。
【0024】
(6) 脳
シチジンおよびウリジンの投与が動物の各種神経学的状態の治療に有効なことも報告されている。たとえば、Dwivediら(Toxicol.Appl.Pharmacol.、31:452、1978)は、マウスに腹腔内注射によって投与されたウリジンが抗けいれん剤として有効で、実験的に誘発されるけいれんに対して強力な保護効果を示すことを報告している。
【0025】
Geigerら(J.Neurochem.、1:93、1956)は、生理食塩水中に懸濁した洗浄ウシ赤血球で還流した循環−摘出ネコ脳の機能状態は約1時間しか正常に維持されないことを開示している。還流回路に動物の肝臓を包含させるかまたは還流液にシチジンもしくはウリジンを添加した場合には、脳の機能状態は少なくとも4〜5時間、良好に維持された。シチジンおよびウリジンは脳の炭水化物およびリン脂質代謝を正常化する傾向を示した。著者らは、シチジンとウリジンの一定した供給に依存し、これらが多分肝臓によって正常に供給されることを示唆している。
【0026】
Sepe(Minerva Medica、61:5934、1970)は、大部分、脳血管障害を有する神経疾患患者に毎日、シチジンおよびウリジンを筋肉注射した場合の効果を開示している。とくに、運動機能の回復、および頭部外傷後の回復の改善に有益な結果が得られた。望ましくない副作用は認められなかった。
【0027】
Jannら(Minerva Medica、60:2092、1969)は各種の神経疾患を有する患者に、毎日シチジンおよびウリジンを筋肉注射した研究を報告している。とくに、運動機能と知的能率が関与する脳血管障害に有益な効果が認められた。望ましくない副作用はみられなかった。
【0028】
Monticoneら(Minerva Medica、57:4348、1966)は、各種の脳症を有する患者に、毎日シチジンおよびウリジンを筋肉内注射した研究を報告している。大部分の患者、とくに脳血管障害または多発性硬化症の患者に有益な効果が認められた。望ましくない副作用はみられなかった。
【0029】
患者にシチジン均等物を導入するために実際にこれまで用いられてきた一方法は、シチジン−ジホスホコリン(CDP−コリン)の投与である。シチジン−ジホスホコリンはホスファチジルコリン(レシチン)生合成の中間体で、ヨーロッパおよび日本では(Somazina、NicholinおよびCiticholineといった名称で)、各種疾患に治療的に使用されている。中枢神経系の病態で治療効果が示されてきたものには、脳浮腫、頭部外傷、脳虚血、慢性脳血管障害およびパーキンソン病がある。この化合物の薬理作用の基底にある機構には、リン脂質合成の維持、脳の生化学的「エネルギー充電」の回復、または神経伝達物質(とくにドーパミン)機能に対する効果の可能が考えられている。
【0030】
CDP−コリンの動物またはヒトへの投与後の運命の試験では、この化合物は極めて急速に分解し、シチジン、コリンおよびリン酸を生成することが示されている。経口投与では完全なCDP−コリンは循環に入らないが、血漿シチジンおよびコリン濃度は上昇する。静脈内注射では、シチジンとコリンへの分解は約30分以内に起こる。したがって、外因性CDP−コリンの治療効果をこの化合物が直接、細胞内代謝に入ることに帰することは困難である。
【0031】
CDP−コリンで得られるのと類似の脳病態への治療効果が、ヒトおよび実験動物へのシチジンおよびウリジン投与後にも得られている。したがって、CDP−コリンはシチジンの単なる、不完全な、高価な「プロドラッグ」として働くにすぎないように思われる。その使用は、シチジン自体の投与に比べて、標的臓器へのシチジンの輸送を増強しているというよりも妨害していると思われる。コリン単独の投与では、シチジンまたはCDP−コリンのいずれかの投与後に得られる治療効果は生じない。したがって、CDP−コリンまたはシチジン自体の投与に比べてより安価におよび/またはより効果的に脳へシチジンを送達させる方法を開発することが有利と考えられる。
【0032】
ウリジン−ジホスホグルコース、ウリジン−ジホスホグルクロン酸およびウリジン二リン酸も肝疾患のある局面を改善することが明らかにされている。このようなリン酸化化合物ならびにCDP−コリンは一般に細胞内に入る前に脱リン酸化されねばならないから、ウリジンまたはウリジン誘導体の投与は、有効性と経済性の意味で、リン酸化ピリミジン誘導体の使用に対して実質的な改善が求められねばならない。
【0033】
(7) 免疫系
シチジンおよびウリジンは免疫系の機能にも重要な影響を与える。Kocherginaら(Immunologiya O(5):34〜37、1986)は、シチジン−5’−一リン酸またはウリジン−5’−一リン酸を抗原(ヒツジ赤血球)と同時にマウスに投与すると、以後のその抗原によるチャレンジに対する体液性免疫が著しく増強されること(抗原のみで処置した動物の応答に比べて)を開示している。この現象の基底にはT−ヘルパーリンパ球の応答の増強が報告されている。
【0034】
すなわち、シチジンまたはウリジンは、ワクチンの効果の改善、免疫妥協患者における免疫系の応答の改善、または実験動物における免疫応答の修飾のためのアジュバントとして有用である。Van Burenら(Trans plantation、40:694〜697、1985)は、正常なTリンパ球機能には食餌からのヌクレオチドが必須であることを報告している。しかしながら、正常を越える量の食餌中または非経口的に投与されるヌクレオチドまたはヌクレオシドの影響については評価していない。
【0035】
in vivoでは、外因性のウリジン自体は、大部分異化され、取り込まれ、ヌクレオチドの合成に利用される部分は少ない。Gasser、T.ら(Science、213:777〜778、1981)は、摘出、灌流ラット肝は、灌流されたウリジンを1回の通過で90%以上分解してしまうことを開示している。肝臓によって門脈に放出されるウリジンの多くは肝ヌクレオチドの分解によって新たに合成されたもので、動脈から入ってきたウリジンは少ない。これは投与されたウリジンの末梢組織での利用性は低いことを説明するものである。
【0036】
たとえば、Klubes、P.ら(Cancer Chemother.、Pharmacol.、17:236〜250、1986)は350mg/kgのウリジンをマウスに経口投与したが、ウリジンの血漿濃度は変動しなかったと報告している。これに対し、ウリジンの異化物、ウラシルの血漿レベルは50マイクロのピークに達し、以後低下して4時間後に正常に復した。血漿ウリジンレベルの上昇は高用量(3500mg/kg)のウリジンの経口投与後にのみ観察された。しかしながら、この用量は、ヒト成人では1回約200gに相当し、著しく高すぎる。
【0037】
経口または非経口投与後のシチジンまたはウリジンの生物学的利用性を改善するための新しい戦略は、これらのヌクレオシドの薬動力学的または他の医薬的性質(たとえば生体膜の透過性)を改善する特殊な置換基を含有するシチジンまたはウリジンの誘導体を投与することである。適当に選択された置換基は(その中でアシル置換基が最善である)、投与後に酵素的または化学的に変換され、シチジンまたはウリジンに戻る。
【0038】
ある種のアシル化ウリジンおよびシチジン誘導体はそれ自体公知である。Honjoら(英国特許第1,297,398号)は、N4、O2'、O3'、O5'−テトラアシルシチジンおよびその製造方法を記載している。アシル置換基は3〜18個の炭素原子を有する脂肪酸から誘導される置換基である。Beranekら(Collection Czechslovak Chem.Commun.、42:366〜369、1977)は、シチジンから酢酸中でのアセチルクロリドとの反応による2’,3’,5’−トリ−O−アセチルシチジン塩酸塩の製造を報告している。
【0039】
Sasakiら(Chem.Pharm.Bull、15:1967)は、シチジンの無水酢酸でのアセチル化によるN4−アセチルシチジン、5’−O−アセチルシチジンおよびN4,5’−O−ジアセチルシチジンおよび他の化合物の生成を報告している。
【0040】
米国特許第4,022,963号(Deutsch)には、ウリジンを含めた一部のヌクレオシドの糖部分における全ヒドロキシル基を、過剰の無水酢酸の添加を含めた過程によってアシル化する方法が記載されている。
【0041】
Samoilevaら(Bull.Acad.Sci.USSR Div.Chem.Sci.30:1306〜1310、1981)は不溶性重合N−ヒドロキシスクシンイミドを用いるシチジンまたはシチジン一リン酸アミノアシルまたはペプチジル誘導体の合成方法を開示している。N4−Boc−アラニルシチジンが製造された。シチジンのアミノアシル誘導体はヌクレアーゼの機能を研究するためのプローブとして合成された。
【0042】
日本特許出願公告第51019779号および81035196号(Asahi Chemical Ind KK)には、シチジンを5〜46個の炭素原子を含有する脂肪酸から誘導される酸無水物と反応させるN4−アシル−シチジンの製造方法が記載されている。この生成物は、親油性の紫外線吸収剤と述べられ、また抗癌剤の製造の出発化合物としても有用であるという。
【0043】
Watanabeら(Angew.Chem.、78:589、1986)は、溶媒としてメタノール、アシル化剤として酸無水物を用いるシチジンのN4−アミノ基の選択的アシル化方法を記載している。製造された化合物は、N4−アセチル、N4−ベンゾイルおよびN4−ブチリル−シチジンである。
【0044】
Reesら(Tetrahedron Letters、29:2459〜2465、1965)により、リボヌクレオシドのリボース残基上の2’位の選択的アシル化方法が開示されている。2’−O−アセチルウリジン、2’−O−ベンジルウリジンおよび2’,5’−ジ−O−アセチルウリジンを含めたウリジン誘導体ならびに他の誘導体が製造された。これらの化合物はオリゴ−リボヌクレオシド合成の中間体として製造された。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0045】
ウリジンおよびシチジンのある種のアシル誘導体は公知であり、一方、上に要約した研究は、ウリジンおよびシチジンの存在が様々の生理学的および病理学的状態の緩和に重要であること、またウリジンおよびシチジンの動物組織への供給を増大させる方法がこれらのヌクレオシドの重要な供給源を与えると考えられることを示しているが、動物の組織に、高度な信頼できる治療効果を生じるのに十分なウリジンおよびシチジンを導入する方法の提供にはこれまで成功した例がない。
【課題を解決するための手段】
【0046】
したがって本発明の第一の目的は、医薬的に有効な量のウリジンおよび/もしくはシチジンまたはそれらの各誘導体を動物組織に送達させるために効果的に使用できる医薬的に許容される化合物を確認することである。
【0047】
本発明のさらに他の目的は、経口的または非経口的に効果的な投与が可能で、毒性は低い一群のウリジンおよびシチジン誘導体を提供することである。
【0048】
本発明のさらに他の関連する目的は、ウリジンおよびシチジンの一群の誘導体であって、動物、好ましくはヒトに投与した場合に、それらのヌクレオシドの胃腸管、血液脳関門および他の生体膜の透過性を増大させることによってシチジンおよびウリジンの生物学的利用性を実質的に改善し、これらのヌクレオシドの動物組織への高レベルの持続的送達を可能にする誘導体を提供することにある。
【0049】
本発明のさらに他の、さらに特定的な目的は、心臓、筋肉、血漿、肝臓、骨、糖尿病性および神経学的状態を含む様々な障害の治療のための一群のシチジンおよびウリジン誘導体を提供することにある。
【0050】
本発明のこれらの目的および他の目的は、ウリジンおよびシチジンの新規なアシル誘導体の投与によって達成される。
【0051】
広義には、ウリジンのアシル誘導体は、式(I)
【0052】
【化3】

【0053】
(式中、R1、R2、R3およびR4は同種または異種であってそれぞれ水素または代謝物のアシル基である。ただし、上記R置換基の少なくとも1つは水素ではない)を有する化合物からなる。
【0054】
一態様においては、ウリジンのアシル誘導体は、式(II)
【0055】
【化4】

【0056】
(式中、R1、R2およびR3は同種または異種であり、それぞれ水素または(a)炭素原子5〜22個を有する直鎖脂肪酸、(b)グリシンならびにL型のアラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、チロシン、プロリン、ヒドロキシプロリン、セリン、スレオニン、シスチン、システイン、アスパラギン酸、グルタミン酸、アルギニン、リジン、ヒスチジン、カルニチンおよびオルニチンからなる群より選ばれるアミノ酸、(c)炭素原子3〜22個を有するジカルボン酸、もしくは(d)グリコール酸、ピルビン酸、乳酸、エノールピルビン酸、リポ酸、パントテン酸、アセト酢酸、p−アミノ安息香酸、β−ヒドロキシ酪酸、オロト酸およびクレアチンからなる群の1種もしくは2種以上から選ばれるカルボン酸のアシル基である。
【0057】
ただし、上記R1、R2およびR3の少なくとも1つは水素ではなく、また上記置換基R1、R2およびR3のどれかが水素であり他の置換基が直鎖脂肪酸である場合にはその直鎖脂肪酸は8〜22個の炭素原子を有する)を有する誘導体、またはその医薬的に許容される塩である。とくに好ましいジカルボン酸にはコハク酸、フマール酸およびアジピン酸が包含される。他の態様においては、本発明の目的は、上記式(I)においてR4が水素ではない化合物であるウリジンのアシル誘導体によっても達成される。
【0058】
本発明の目的はまた、式(III)
【0059】
【化5】

【0060】
(式中、R1、R2、R3およびR4は同種または異種であって、それぞれ水素または代謝物のアシル基である。ただし、上記R置換基の少なくとも1つは水素ではない)を有する化合物からなるシチジンのアシル誘導体の投与によって達成される。
【0061】
シチジン誘導体は式(III)において、R置換基が同種または異種であってそれぞれ水素またはグリコール酸、ピルビン酸、乳酸、エノールピルビン酸、アミノ酸、炭素原子2〜22個を有する脂肪酸、ジカルボン酸、リポ酸、パントテン酸、アセト酢酸、p−アミノ安息香酸、β−ヒドロキシ酪酸、オロト酸およびクレアチンからなる群の1種または2種以上から選択されるカルボン酸から誘導されるアシル基である誘導体、またはその医薬的に許容される塩であることが好ましい。好ましいジカルボン酸にはコハク酸、フマール酸およびアジピン酸が包含される。
【0062】
本発明はまた、上述の新規なアシル化リボヌクレオシドの1種または2種以上を医薬的に許容される担体とからなる医薬組成物も包含する。これらの組成物は、錠剤、糖衣錠、注射用溶液または他の剤型とすることができる。
【0063】
本発明の新規な医薬組成物中には、ウリジンのある種の公知アシル誘導体と医薬的に許容される担体とからなる組成物も包含される。この種の組成物は、式(I)または(II)において置換基R1、R2、R3およびR4が先に定義したとおりであるウリジンのアシル誘導体、またはその医薬的に許容される塩を包含する。
【0064】
本発明の1つの局面において、
活性成分として、式(I)中、R1、R2、R3およびR4は、同一または異なり、それぞれ水素であるか、または代謝物のアシル基である、ただしR1、R2、R3およびR4の少なくとも1個は水素ではない(該代謝物のアシル基は、グリコール酸、ピルビン酸、乳酸、エノールピルビン酸、アミノ酸、炭素原子2−22個を有する脂肪酸、リポ酸、パントテン酸、コハク酸、フマール酸、アジピン酸、アセト酢酸、p−アミノ安息香酸、β−ヒドロキシ酪酸、オロト酸、およびクレアチンからなる群の1種または2種以上から選択されるカルボン酸のアシル基である)、
を有するウリジンのアシル誘導体またはその医薬として許容される塩を含有する、
心不全の処置、心筋梗塞の処置、糖尿病の処置、脳血管障害の処置、パーキンソン病の処置、筋肉能力の増進、または免疫応答の改善のための組成物が提供される。
【0065】
ウリジンの好ましいアシル誘導体には、2’,3’,5’−トリ−O−アセチルウリジン、2’,3’,5’−トリ−O−プロピオニルウリジンまたは2’,3’,5’−トリ−O−ブチリルウリジンが包含される。
【0066】
本発明はまた、ある種のシチジンのアシル誘導体と医薬的に許容される担体とを一緒に含有する医薬組成物を包含する。このようなアシル誘導体は、式(III)においてR1、R2、R3およびR4が上述の定義のとおりである誘導体またはその医薬的に許容される塩を包含する。
【0067】
本発明の別の局面において、
活性成分として、式(III)中、R1、R2、R3およびR4は、同一または異なり、それぞれ水素であるか、または代謝物のアシル基である、ただしR1、R2、R3およびR4の少なくとも1個は水素ではない(該代謝物のアシル基は、グリコール酸、ピルビン酸、乳酸、エノールピルビン酸、アミノ酸、炭素原子2−22個を有する脂肪酸、リポ酸、パントテン酸、コハク酸、フマール酸、アジピン酸、アセト酢酸、p−アミノ安息香酸、β−ヒドロキシ酪酸、オロト酸、およびクレアチンからなる群の1種または2種以上から選択されるカルボン酸のアシル基である)、
を有するシチジンのアシル誘導体またはその医薬として許容される塩を含有する、
心不全の処置、心筋梗塞の処置、糖尿病の処置、脳血管障害の処置、パーキンソン病の処置、乳児呼吸窮迫症候群の処置、筋肉能力の増進、または免疫応答の改善のための組成物が提供される。
【0068】
シチジンの好ましいアシル誘導体には、2’,3’,5’−トリ−O−アセチルシチジン、2’,3’,5’−トリ−O−プロピオニルシチジンまたは2’,3’,5’−トリ−O−ブチリルシチジンが包含される。
【0069】
外因性ウリジンまたはシチジンの動物組織への送達は、上述のアシル誘導体の1種または2種以上の有効量を動物に投与することによって有利に達成された。さらに、動物組織の生理学的または病理学的状態は、上述のアシル誘導体の有効量を動物に投与することによりその組織へのウリジンまたはシチジンの生物学的利用性を上昇させ、その代謝機能を支持することによって有利に治療できることが明らかにされた。
【0070】
本発明は、これらのアシル誘導体の、心機能不全および心筋梗塞の治療、肝疾患または傷害の治療、筋能率、肺疾患、糖尿病、中枢神経系疾患たとえば脳血管障害、パーキンソン病および老人痴呆の治療を含めた生理学的および病理学的な各種状態の処置に対する使用を意図する。本発明の化合物は、シチジンおよびウリジンの胃腸管および他の生体膜の透過性を増強し、その早期分解を防止することにより、上述のヌクレオシドの生物学的利用性を改善する。
【0071】
本発明のアシル誘導体の有利な使用は、これらのアシル誘導体1種または2種以上の有効量と医薬的に許容される担体からなる上述の組成物を投与することによって行われる。
【0072】
シチジンおよびウリジンのアシル誘導体の投与は、非誘導化合物の投与に比し、ある種の利点を提供する。アシル置換基は、ヌクレオシドの新油性を増大させるように選択することが可能で、その胃腸管からの血流中への輸送を改善する。このアシル化誘導体は経口的に投与して有効である。これらのアシル誘導体は、腸、肝臓、他の臓器および血流中のヌクレオシドデアミナーゼおよびヌクレオシドホスホリラーゼによる異化に抵抗性を示す。したがって、本発明のアシル化誘導体の経口的または非経口的投与は、これらのリボヌクレオシドの動物組織への高レベルでの持続的送達を可能にする。
【0073】
(図面の説明)
図1:この図は、非傷害(食塩水のみ投与)ラット、実験心筋傷害、非処置(食塩水のみ投与)ラットおよびトリアセチルウリジン(TAU)とトリアセチルシチジン(TAC)を実験的心筋傷害後に投与されたラットの基礎心臓作業拍出量を示す。
【0074】
図2:この図は、対照ラット、非処置ラットおよび実験的心筋傷害後にTAUおよびTACを投与されたラットの基礎左室収縮期圧を示す。
【0075】
図3:この図は、対照ラット、非処置ラットおよび実験的心筋傷害後にTAUおよびTACを投与されたラットの基礎左室最大収縮率を示す。
【0076】
図4:この図は、対照ラット、非処置ラットおよび実験的心筋傷害後にTAUおよびTACを投与されたラットの基礎左室最大拡張率を示す。
【0077】
図5:この図は、対照ラット、非処置ラットおよび実験的心筋傷害後にTAUおよびTACを投与されたラットの基礎心拍数を示す。
【0078】
図6:この図は、対照ラット、非処置ラットおよび実験的心筋傷害後にTAUおよびTACならびにノルエピネフリンを投与されたラットの最大心臓作業拍出量を示す。
【0079】
図7:この図は、対照ラット、非処置ラットおよび実験的心筋傷害後にTAUおよびTACならびにノルエピネフリンを投与されたラットの最大左室収縮期圧を示す。
【0080】
図8:この図は、対照ラット、非処置ラットおよび実験的心筋傷害後にTAUおよびTACならびにノルエピネフリンを投与されたラットの最大左室収縮率(最大)を示す。
【0081】
図9:この図は、対照ラット、非処置ラットおよび実験的心筋傷害後にTAUおよびTACならびにノルエピネフリンを投与されたラットの最大左室拡張率(最大)を示す。
【0082】
図10:この図は、対照ラット、非処置ラットおよび実験的心筋傷害後にTAUおよびTACならびにノルエピネフリンを投与されたラットの心拍数(最大)を示す。
【0083】
図11:この図は、肝傷害ラットにTAUおよびTACまたは水(対照)を投与した場合の血漿BSPクリアランスを示す。
【発明を実施するための最良の形態】
【0084】
(用語の定義)
「代謝物」の語は、代謝反応によって生成するかまたはそれに関与する化合物を意味する。本出願との関係では、代謝物は、ヒト体内で合成されることが知られているカルボン酸のみでなく、他の動物または植物源に由来する天然のカルボン酸(ただし、抽出されるよりも合成される場合の方が多い)をも包含する。
【0085】
限定基準は、その化合物が実質的に非毒性、生物適合性でなければならないこと、in vivoにおいて容易に代謝経路内に入って、提案される用量での長期間の使用時にも実質的に毒性を生じないことである。この化合物は、カルボン酸の腎内濃度が望ましくない著しい酸性を招来しないように、そのまま(または解毒反応によって抱合されて)排泄されるよりも、代謝されるものであることが好ましい。したがって、通常または容易に、中間的、異化的または同化的代謝系に参画するカルボン酸が好ましい置換基である。これらのカルボン酸は分子量1000ダルトン未満が好ましい。
【0086】
「医薬的に許容される塩」の語は、本発明のヌクレオシド誘導体の医薬的に許容される酸の付加塩を意味する。許容される酸には、硫酸、塩酸またはリン酸が包含されるが、これらに限定されるものではない。
【0087】
「共投与」の語は、アシルヌクレオチド誘導体の少なくとも2種類が、それぞれ薬理活性発現期が重複するような時間内に投与されることを意味する。
【0088】
「アシル誘導体」は、シチジンまたはウリジンのリボース残基の1個もしくは2個以上の遊離ヒドロキル基にカルボン酸から誘導される実質的に非毒性の有機アシル置換基がエステル結合でおよび/またはシチジンもしくはウリジンのピリミジン環の一級もしくは二級アミンに上述のような置換基がアミド結合で結合したシチジンまたはウリジンの誘導体を意味する。このようなアシル置換基は酢酸、脂肪酸、アミノ酸、リポ酸、グリコール酸、乳酸、エノールピルビン酸、ピルビン酸、オロト酸、アセト酢酸、β−ヒドロキシ酪酸、クレアチン酸、コハク酸、酒石酸、フマール酸、アジピン酸およびp−アミノ安息香酸から誘導される置換基があるが、これらに限定されるものではない。好ましいアシル置換基は通常、生体内に食餌成分または中間的代謝物として存在するカルボン酸に由来し、in vivoでリボヌクレオシドから切断されても非毒性である基が好ましい。
【0089】
「脂肪酸」は炭素原子2〜22個を有する脂肪族カルボン酸である。このような脂肪酸は飽和、部分飽和または多不飽和脂肪酸であってもよい。
【0090】
「アミノ酸」には、グリシン、ならびにL型のアラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、フェニルアラニン、チロシン、プロリン、ヒドロキシプロリン、セリン、スレオニン、システィン、シスチン、メチオニン、トリプトファン、アスパラギン酸、グルタミン酸、アルギニン、リジン、ヒスチジン、オルニチン、およびヒドロキシリジンが包含されるがこれらに限定されるものではない。本発明はこれによって限定されるものではなく、本発明の他の天然のアミノ酸を包含することを意図するものである。
【0091】
ウリジンおよびシチジンの親油性アシル誘導体は、ヌクレオシドの動物胃腸管の透過性を増強させるのに有用である。この場合の動物としてはヒトが最も重要である。しかしながら、本発明はヒトに限定されるものではなく、本発明のアシル誘導体による処置で利益ある効果が得られるすべての動物を包含することを意図している。
【0092】
本発明は作用機構によって拘束されるものではないが、本発明の化合物は、シチジンおよびウリジンの生物学的利用性を増大させることにより、組織の再生、修復、機能性、傷害に対する抵抗性および生理学的要求に対する適応性が改善され、有益な効果を発揮するものと考えられる。本発明の化合物には同時に、ヌクレオシド同化体たとえばヌクレオチドまたはヌクレオチド誘導補因子の生物学的利用性を増大させる働きも考えられる。
【0093】
ヌクレオシド自体の投与もその生物学的利用性を上昇させるが、急速な異化により、ヌクレオチドレベルの有意な上昇は生じ得ない。すなわち、必ずしも血漿レベルの増大を達成する必要はない。何故なら、ヌクレオシドレベルは低くても細胞によって急速に取り込まれ、一方高レベルでは飽和して、過剰分は分解されてしまう。本発明は低レベルのヌクレオシドを持続的に供給することにより有効であるものと考えられる。
【0094】
生体膜透過性を増大させるシチジンまたはウリジンの好ましいアシル誘導体は、母体のヌクレオシドよりも親油性の高い誘導体である。一般に、親油性アシル誘導体は、非極性の(カルボキシレート基は除いて)アシル置換基を有する。このようなアシル置換基は酢酸、リポ酸および脂肪酸を含む酸から誘導されるが、これらに限定されるものではない。本発明の技術分野の熟練者であれば、特定のアシル誘導体が非誘導ヌクレオシドよりも親油性であるか否かを、標準的技術、すなわち水−オクタノール混合物中で測定される分配係数の比較によって測定することができる。アシル化ヌクレオシド誘導体は胃腸管を透過して血流に入ったのちまたは他の生体膜を通過したのち、アシル置換基が血漿および組織エステラーゼ(またはアミダーゼ)で切断されて遊離のヌクレオシドを与える。
【0095】
in vivoにおけるアシル置換基の除去速度は、血漿および組織の脱アシル化酵素(最初はエステラーゼまたはアミダーゼ)の特異性の函数である。シチジンまたはウリジンのピリミジン環のアミノ基にアミド結合によって結合したアシル置換基はリボースのヒドロキシル基にエステル結合で結合したアシル基よりも徐々に切断される。
【0096】
極性および非極性の両アシル基を含有するアシルヌクレオシド誘導体を製造することも可能である。極性アシル置換基は胃腸管からのヌクレオシド誘導体の通過を遅延させ、1回投与後の化合物の血流中へのさらに持続的な送達を可能にする。極性基は腸管内に存在するエステラーゼ、アミダーゼまたはぺプチダーゼによって切断され、非極性アシル基をもつヌクレオシドを与え、これがついで効率的に循環内に入る。非極性アシル置換基より速やかに切断される極性アシル置換基は、本技術分野の熟練者によれば、繁雑な実験を行わないでも容易に選択できるものである。
【0097】
アシル誘導体はまた、血漿および非標的組織内の酵素によるヌクレオシド残基の分解を受けにくく、腎臓を介する血流からの消失も受けにくい。非経口投与のためには、極性アシル置換体をもつアシル誘導体、したがって水溶性であるが初期の分解または消失に抵抗性である誘導の使用が有利である。このような適応に好ましいアシル誘導体にはグリコレートおよびラクテートならびに極性側鎖を有するアミノ酸から誘導される誘導体が好ましい。
【0098】
(治療的使用)
シチジンのアシル誘導体の投与は、小児呼吸窮迫性症候群(IRDS)を含めた肺疾患、および肺機能に影響する代謝性疾患の治療に有用である。アシル誘導体は肺においてリン脂質の生合成および界面活性剤生成を支持しまた増強するように思われる。界面活性剤の主成分、ホスファチジルコリンはシチジンジホスホコリンから誘導される。したがって、シチジンのアシル化型の投与は、肺細胞のリン脂質の合成および界面活性剤生成能を支持し増強するのであろう。シチジンアシル誘導体の有益な効果は、ウリジンアシル誘導体の共投与で増大する。
【0099】
さらに、シチジンのアシル誘導体の投与は神経障害の治療に有用である。このアシル誘導体は、脳低酸素または卒中時またはその後に、脳のリン脂質組成を回復させまたは維持することによりその活性を発揮する。シチジンのアシル誘導体の投与はまた、変性疾患の発症または進行を遅延させるのに有用である。脳血管障害、パーキンソン病、および脳失調のような障害はリン脂質レベルと関連づけられてきた。ウリジンのアシル誘導体は、シチジンのアシル誘導体と共投与してその効果を増強し有利である。
【0100】
シチジンおよびウリジンのアシル誘導体の投与は、脳血管性痴呆およびパーキンソン病の治療に有効である。脳血管性痴呆およびパーキンソン病は、徐々に、一般的に対称性の、仮借なく進行するニューロンの脱落を生じる。小脳失調は主としてプルキンエ細胞の影響する神経細胞の欠落によって特徴づけられている。
【0101】
したがって、シチジンおよびウリジンのアシル誘導体の投与は、リン脂質の生合成を増大させ、脳血管性障害、パーキンソン病および小脳失調の進行を緩和して、その活性を発揮する。
【0102】
本発明はまた、生体の核酸合成能力が最適以下の生理学的また病理学的状態の治療に関する。これらの状態には、糖尿病、老化、および副腎不全が包含される。シチジンおよびウリジンのアシル誘導体の投与は、高レベルのシチジンおよびウリジンの持続的送達を与えることにより、細胞の自己再生に重要な酵素の生合成に必要なヌクレオチドの十分なプールを与える。
【0103】
本発明は何らかの作用様式によって限定されるものではないが、本発明の組成物はそれ自体でまたはそれによって、新たな合成がヌクレオチドおよび核酸の合成の至適速度の維持に不十分な状態において、ヌクレオチドおよび核酸合成ならびにタンパク合成を増大することによって作用するものと考えられる。すなわち、本発明の化合物は、心不全、心筋梗塞、肝硬変を含めた肝疾患の治療に、また核酸合成したがってタンパク合成を促進することにより糖尿病の病態を改善することにより、有用性が見出される。
【0104】
ウリジンおよびシチジンのアシル誘導体は心筋梗塞後の心室機能の改善に、また心不全治療または予防のために投与することができる。本発明はアシルヌクレオシド誘導体は、カルシウム封鎖に関与する細胞機構を支持し、それによって細胞のATP再生を維持もしくは支持し、心筋傷害のある種の有害な作用を防止し、治療するのに重要な治療的価値を有する。
【0105】
本発明の組成物は、心不全の治療に使用される薬剤、たとえばジギタリス、利尿剤およびカテコールアミンと共投与することができる。
【0106】
カルシウム封鎖およびRNA生合成に関与する生化学的過程を支持する物質を心臓に提供することにより、負荷誘発心筋傷害の緩和および安定な機能亢進を促進することが可能である。ウリジンおよびシチジンはこの関係で有用な化合物である。ウリジンは心筋機能亢進の支持にin vivoでは比較的に無効と報告されてきたが、これはウリジンが血漿および組織酵素によって急速に分解され、その結果、心臓による利用が妨げられるためである。本発明は一部、徐々に長時間にわたって血流中に遊離のウリジンを放出するアシル誘導体の投与により、心臓へのウリジンの送達を改善できることの発見に基づくものである。
【0107】
ウリジンのアシル誘導体は低酸素または無酸素の処置のために投与することができる。これらのアシル誘導体は、グリコーゲン合成に必要な中間体、ウリジンジホスホグルコースの生合成を増大することによって作用し、組織の低酸素または無酸素に対する抵抗性を改善し、組織とくに心臓の機能に保持するものと考えられる。ウリジンアシル誘導体は、低酸素、無酸素、虚血、過剰のカテコールアミン作動性刺激、およびジゴキシン中毒の処置に使用できる。
【0108】
本発明の化合物はまた、糖尿病のある種の持続する合併症の阻止のための有用性が見出されている。この合併症には、神経障害、動脈障害、冠動脈硬化症および心筋梗塞の両者の危険の増大、失明等が包含される。糖尿病では新たなヌクレオチド合成が抑制されているので、外因性のヌクレオチドのアシル誘導体は糖尿病の処置に治療的価値を有する。さらに誘導型のヌクレオシドは、細胞の自己再生に重要な酵素の生合成に必要なヌクレオシドの十分なプールを与えるために投与できる。したがって、本発明はまた、たとえば糖尿病性肝または血管疾患の、本発明のアシルヌクレオシド誘導体の投与による治療に関する。アシルヌクレオシド誘導体はまた、要求の増大に応じた筋過栄養または機能亢進の支持または増大に有用である。このような要求は持続的な活動の後に生じる。
【0109】
好ましいアシル置換基にはアセチル、プロピオニルおよびブチリル基が包含される。好ましいアシルヌクレオシド誘導体には、2’,3’,5’−トリ−O−アセチルシチジン、2’,3’,5’−トリ−O−アセチルウリジン、2’,3’,5’−トリ−O−プロピオニルウリジン、2’,3’,5’−トリ−O−プロピオニルシチジン、2’,3’,5’−トリ−O−ブチリルシチジンおよび2’,3’,5’−トリ−O−ブチリルウリジンが包含される。シチジンおよびウリジンの両アシル誘導体を共投与することも有利である。
【0110】
代表的な投与剤型は、シチジンおよび/またはウリジン10〜3000mg相当量をそのアシル誘導体またはその医薬的に許容される塩の形で含有し、1日に1〜3回投与される。これは、たとえば2’,3’,5’−トリ−O−アセチルシチジンおよび2’,3’,5’−トリ−O−アセチルウリジン15〜4500mgに相当する。
【0111】
心不全、心筋梗塞およびその結果としての高血圧の治療に際しては、ウリジンのアシル誘導体25〜100モル%をシチジンのアシル誘導体75〜0モル%と共投与できる。ただし、シチジンとウリジンのアシル誘導体の量は100モル%を越えない。たとえば、2’,3’,5’−トリ−O−アセチルウリジン1125〜4500mgを2’,3’,5’−トリ−O−アセチルシチジン0〜3475mgとともに投与する。
【0112】
脳血管障害、糖尿病、肝傷害および肝疾患の治療には、また筋の機能性を増大させるためには、ウリジンのアシル誘導体25〜75モル%をシチジンのアシル誘導体75〜25モル%と共投与できる。ただしウリジンとシチジンのアシル誘導体の量は100モル%を越えない。たとえば、2’,3’,5’−トリ−O−アセチルウリジン1125〜3375mgが2’,3’,5’−トリ−O−アセチルシチジン1125〜3375mgと共投与される。
【0113】
呼吸窮迫症候群の治療のためには、シチジンのアシル誘導体25〜100モル%をウリジンのアシル誘導体75〜0モル%と共投与できる。ただし、ウリジンとシチジンのアシル誘導体の量は100モル%を越えない。たとえば2’,3’,5’−トリ−O−アセチルシチジン1125〜4500mgを2’,3’,5’−トリ−O−アセチルウリジン0〜3375mgと共投与される。
【0114】
(治療的投与例)
(心不全)
シチジンおよびウリジンのアシル誘導体は数種の心不全の治療に有用である。これらの誘導体は、高血圧による心臓への負荷の増大の場合の持続性の補償的機能亢進の維持に、またたとえばとくに心筋梗塞後の心臓の生存部分の機能の支持に有効である。後者の場合は、梗塞の発症後できるだけ速やかにシチジンとウリジンのアシル誘導体の混合物を与え、以後、これらのヌクレオシドのアシル誘導体の適当な処方を、それぞれ1日約0.5〜3.0gの用量で慢性的に経口投与する。
【0115】
これらの化合物は、心筋梗塞の慣用の治療と併用して有利に使用できる。ヌクレオシド誘導体は、負荷、低酸素またはカテコールアミンに対する二次的な傷害に対し、心臓の機能を低下させないで心臓を保護するという独特な利点を有する。それはこれらの化合物が心筋の代謝的統合性を増大させ、とくにカルシウム処理を改善させることによって作用するからである。ヌクレオシド誘導体は心筋梗塞または心不全の危険がある患者に予防的に投与することもできる。
【0116】
うつ血性心不全を招く慢性的心不全症の治療には、シチジンおよびウリジンのアシル誘導体を、各ヌクレオシド1日0.5〜3gの範囲の用量で経口投与する。ヌクレオシドは他の薬剤たとえばジギタリス誘導体または利尿剤と併用して使用することができる。心筋機能の直接的な改善に加えて、ヌクレオシド誘導体はジギタリス中毒をその臨床効果を損うことなく軽減させる。
【0117】
(糖尿病)
糖尿病患者の多くの組織で、細胞のピリミジンヌクレオチドレベルは低下している。これは、動脈病、神経障害、および心筋の機械的または生化学的ストレスに対する抵抗性の低下を含めた持続する糖尿病合併症の一部によるものである。これらの合併症は、ピリミジンヌクレオチドが重要な役割を果たしている組織カルシウム処理の機能異常が関係している。毎日シチジンおよびウリジンを筋肉内注射すると糖尿病患者の末梢神経伝導速度の低下が回復するとの報告がある(C.Serra:Rif.Med.、85:1544、1971)。シチジンおよびウリジンのアシル誘導体を適当な剤型で経口的に投与することが好ましい。シチジンおよびウリジン0.5〜3gに相当する用量を毎日、慣用の抗糖尿病治療と併用する。ヌクレオシド誘導体はとくに非インシュリン依存型糖尿病に有用である。
【0118】
(神経障害)
脳血管障害の帰結、たとえば卒中および慢性または急性の脳血管不全症には、シチジンおよびウリジンのアシル誘導体、とくに経口投与後に血液脳関門を通過するように処方された誘導体を、1日に各ヌクレオシド0.5〜3.0gの範囲の経口的用量で、少なくとも数カ月間投与する。
【0119】
パーキンソン病では、アシルシチジン誘導体がとくに有用で、慣用の第一選択剤L−ドーパと併用投与する。1日に0.5〜3.0gの経口的用量のシチジン誘導体の投与は満足できる臨床的維持を可能にし、またL−ドーパの投与量を減量できる。これはL−ドーパが望ましくない副作用をもつことから有利である。
【0120】
(化合物の製造方法)
本発明のアシル誘導体は以下の一般的方法で製造できる。アシル置換基がアシル化反応を妨害する基たとえばヒドロキシルまたはアミノ基を有する場合には、これらの基を保護基たとえばそれぞれt−ブチルジメチルシリルエステルまたはt−BOC基で遮断してから無水物を製造する。たとえば、乳酸はt−ブチルジメチルクロロシランで2−(t−ブチルジメチルシロキシ)プロピオン酸に変換し、ついで塩基水溶液で生成したシリルエステルを加水分解する。無水物は、保護された酸をDCCと反応させて生成させる。
【0121】
アミノ酸の場合は、標準方法を用いてN−t−BOC誘導体を製造し、ついでDCCで無水物に変換する。
【0122】
2個以上のカルボキシレート基を有するアシル置換基(たとえばコハク酸、フマール酸またはアジピン酸)を含む誘導体は、所望のジカルボン酸の無水物をピリジン中で2’−デオキシリボヌクレオシドと反応させることによって製造される。
【0123】
たとえば、ウリジンの2’,3’,5’−トリ−O−アシル誘導体は、Nishizawaら(Biochem.Pharmacol.14:1605、1965)によって開示された方法の改良法によって製造できる。ピリジン中1当量のウリジンに3.1当量の酸無水物(無水酢酸、無水酪酸等)を加え、混合物を80〜85℃に加熱する。ついで標準方法を用いてトリアシル誘導体を単離する。別法としてウリジンをピリジン中室温で3.1当量の所望の酸クロリド(アセチルクロリド、パルミトイルクロリド等)と処理してもよい(例V参照)。
【0124】
ウリジンの5’−アシル誘導体は、Nishizawaらに従い、ウリジンをピリジン中室温で所望のアシル化合物の酸無水物1当量と反応させることによって製造できる。ついで反応混合物を2時間80〜85℃に加熱し、冷却し、標準方法によって5’−アシル誘導体を単離し、クロマトグラフィーで精製する。別法として、ウリジンの5’−アシル誘導体は、ウリジンをピリジンおよびDMF中0℃で、所望のアシル化合物から誘導された酸クロリド1当量で処理することによっても製造できる。ウリジンの5’−アシル誘導体はついで標準方法によって単離し、クロマトグラフィーで精製する(例VI参照)。
【0125】
ウリジンの2’,3’─ジアシル誘導体はBakerら(J.Med.Chem.、22:273、1979)から適用した操作によって製造できる。5’−ヒドロキシル基は、イミダゾールを含有するDMF中室温で1.2当量のt−ブチルジメチルシリルクロリドを用いて選択的に保護する。ウリジンの5’−t−ブチルジメチルシリル誘導体は標準方法によって単離し、ついでピリジン中0〜5℃で所望のアシル化合物の酸無水物2.1当量によって処理する。生成した5’−t−ブチルジメチルシロキシ−2’,3’─ジアシルウリジンをついでテトラブチルアンモニウムフルオリドで処理し、ウリジンの2’,3’−ジアシル誘導体を標準方法によって単離する(例VII参照)。
【0126】
2’,3’,5’−トリ−O−アシルウリジンの二級アミンをついでFujiら(米国特許第4,425,335号)に従ってアシル化できる。この場合には1〜5当量の有機塩基たとえば、ピリジンのような芳香族アミン、トリアルキルアミンまたはN,N−ジアルキルアニリンを含有する非プロトン性溶媒中、1.1当量の酸クロリドで処理する。この操作を用いて、2’、3’および5’のヒドロキシ基のアシル置換基とは異なる、アミノ基上のアシル置換基を有するウリジンのテトラアシル誘導体を製造できる(例VIII参照)。
【0127】
シチジンの2’,3’,5’−トリ−O−アシル誘導体はGishら(J.Med.Chem.、14:1159、1971)の方法に従って製造した。たとえば、シチジン塩酸塩をDMF中、所望の酸クロリド3.1当量で処理する。2’,3’,5’−トリ−O−アシル誘導体はついで標準方法によって単離される(例IX参照)。
【0128】
シチジンの5’−アシル誘導体はGishら(前出)に従って、シチジン塩酸塩をDMF中で酸クロリド1.1当量と反応させ、ついで標準方法によって5’−アシルシチジンを単離する(例X参照)。
【0129】
シチジンのN4−アミンの選択的アシル化はSasakiら(Chem.Pharm.Bull.、15:894、1967)によって開示された操作に従って行った。これはシチジンをピリジンおよびDMF中、酸無水物1.5当量で処理するものである。ついでシチジンのN4−アシル誘導体を標準方法で単離する(例XI参照)。
【0130】
別法として、シチジンのN4−アシル誘導体は、シチジンをピリジンまたはピリジンとDMFの混合物中でアシル無水物と処理して製造される。N4−アシルシチジンの選択的製造の別法には、Akiyamaら(Chem.Pharm.Bull.、26:981、1978)に従って水−水混和性溶媒中で酸無水物により選択的にアシル化する方法がある。
【0131】
アシル基がすべて同種のテトラアシルシチジン誘導体は、ピリジン中室温で少なくとも4モル当量の酸無水物でシチジンを処理することによって製造できる。ついで、テトラアシルシチジンを標準方法によって単離する(例XII参照)。
【0132】
4アミノ基のアシル置換基がリボース環のヒドロキシル基上のアシル置換基とは異なる化合物(たとえばN4−パルミトイル−2’,3’,5’−トリ−O−アセチルシチジン)の製造には、上述のようにしてN4−アミノ基に選択的に所望のアシル基を結合させ、ついでヒドロキシル基を所望の置換基でアシル化する。別法として、リボース残基上の置換基をN4アミノ基の置換基の結合前に結合させ、ついで再び上述の方法を使用することもできる。
【0133】
本発明の範囲に含まれる組成物は、その各成分が所期の目的を達成するのに有効な量含まれているすべての組成物を包含する。すなわち、本発明の組成物はウリジンまたはシチジンのアシルヌクレオシド誘導体1種または2種以上を、投与した場合、血漿また組織のシチジンまたはウリジンおよびそのアシル誘導体のレベルを所望の効果を生じるように上昇させるのに十分な量、含有するものである。
【0134】
薬理学的に活性な化合物に加えて、新規な医薬製剤には、医薬的に使用される製剤中への活性化合物の処理を容易にするための賦形剤および補助剤からなる適当な医薬的に許容される担体を含有する。この製剤はとくに経口的に投与できるものが好ましく、好ましい投与形態たとえば錠剤、糖衣錠およびカプセルとして使用できる。これらの製剤は坐剤のような経直腸的に投与できる製剤また、注射でまたは経口的に投与できる適当な溶液であってもよい。これらの製剤は活性化合物約0.1〜99%好ましくは約10〜90%を賦形剤とともに含有する。
【0135】
本発明の医薬製剤は、それ自体公知の方法により、たとえば慣用の混合、顆粒化、糖衣がけ、溶解または凍結乾燥工程によって製造される。すなわち、経口的に使用される医薬製剤は、活性化合物を固体賦形剤と混合し、所望により得られた混合物を粉砕し、混合物を顆粒に加工し、適当な補助剤を所望によりまたは必要に応じて添加して、錠剤または糖衣錠中心錠を得ることができる。
【0136】
適当な賦形剤はとくに、糖たとえば乳糖もしくは庶糖、マニトールもしくはソルビトール、セルロース製品および/またはリン酸カルシウムのような充填剤、ならびにたとえばトーモロコシデンプン、小麦デンプン、米デンプン、馬鈴薯デンプンを用いたデンプンペースト、ゼラチン、トラガントゴム、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ナトリウムカルボキシメチルセルロースおよび/またはポリビニルピロリドンのような結合剤である。所望により、崩壊剤たとえば上述のデンプン、またカルボキシメチルデンプン、架橋ポリビニルピロリドン、アガール、またはアルギン酸もしくはその塩たとえばアルギン酸ナトリウムを添加することもできる。
【0137】
補助剤としてはとくに、流動性調節剤および滑沢剤、たとえばシリカ、タルク、ステアリン酸もしくはその塩たとえばステアリン酸マグネシウムもしくはステアリン酸カルシウム、および/またはポリエチレングリコールがある。糖衣錠中心錠には適当なコーティング、所望により胃液に抵抗性のコーティングを施すことができる。この目的では、所望により、アラビアゴム、タルク、ポリビニルピロリドン、ポリエチレングリコールおよび/または二酸化チタン、ラッカー溶液ならびに適当な有機溶媒または溶媒混合物を含有する濃厚溶液を使用できる。胃液に抵抗性を示すコーティングを生成させるためには、適当なセルロース製品たとえばアセチルセルロースフタレートまたはヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレートの溶液が使用できる。錠剤または糖衣錠のコーティングには染料または色素を、たとえば識別または化合物の用量の異なる組合せを表すために添加することもできる。
【0138】
経口的に使用できる他の医薬製剤には、ゼラチンで作られた押し込み式カプセル、ならびにゼラチンとグリセロールまたはソルビトールのような可塑剤で作られた軟質シールカプセルがある。押し込み式カプセルは、1種または2種以上の活性化合物を、乳糖のような充填剤、デンプンのような結合剤および/またはタルクもしくはステアリン酸マグネシウムのような滑沢剤、また所望により安定剤との混合物であってもよい顆粒の剤型として含有する。軟カプセルでは、活性化合物は、脂肪油、液体パラフィンまたはポリエチレングリコールのような適当な液体中に好ましくは溶解または懸濁されている。さらに安定剤を添加してもよい。
【0139】
経直腸的に使用できる医薬製剤には、たとえば、活性化合物と坐薬基剤との混合物からなる坐剤が包含される。適当な坐薬基剤は、たとえば、天然または合成のトリグリセライド、パラフィン炭化水素、ポリエチレングリコールまたは高級アルカノールがある。さらに、活性化合物と基剤の混合物からなるゼラチン直腸カプセルの使用も可能である。使用可能な基剤原料にはたとえば、液体トリグリセライド、ポリエチレングリコールまたはパラフィン炭化水素が包含される。
【0140】
非経口投与に適当な組成物は、水溶性型の活性化合物たとえば水溶性塩の水性溶液が包含される。さらに、適当な油状注射用懸濁液とした活性化合物の懸濁液を投与することもできる。適当な親油性溶媒またはビークルには、脂肪油たとえば胡麻油、または合成脂肪酸エステルたとえばオレイン酸エチルもしくはトリグリセライドが包含される。水性注射用懸濁液には、懸濁液の粘度を上昇させる物質を添加することができる。これらの物質としては、たとえばナトリウムカルボキシメチルセルロース、ソルビトールおよび/またはデキストランがある。所望により、懸濁液には安定剤を加えることができる。
【実施例】
【0141】
以下の実施例は本発明の方法および組成物を例示するものであって、本発明を限定するものではない。本技術分野の熟練者には自明の他の適当な修飾ならびに通常、臨床的治療に際して遭遇する様々の状態およびパラメーターへの適応は、本発明の精神および範囲に包含されるものである。
【0142】
(例)
【0143】
(例I:ウリジンとアシルウリジンのラットにおける生物学的利用性の比較)
麻酔した雄性F344ラット(Retired Breeders、450〜500g)の右頸動脈にシリコン製のカテーテルを植え込んだ。3日後からは、動物を妨げることなく血液サンプルが採取された。基礎血液サンプルを採取したのち、動物を各4匹のラットからなる4群に分けた。各群には、以下の化合物、ウリジン、2’,3’,5’−トリ−O−アセチルウリジン、シチジンまたは2’,3’,5’−トリ−O−アセチルシチジンのそれぞれの異なる1種を投与した。
【0144】
化合物は等モル用量(0.28モル/kg)を挿管法により胃内に投与した。投与0.5、1、2、3および4時間後に、血液サンプル(0.3ml)を採取し、処理し、ついでシチジンまたはウリジン含量をHPLCで検定した。ラットでは、血漿ウリジンレベルはトリ−O−アセチルウリジンの摂取後少なくとも4時間までは、等モル量のウリジンの摂取後に比べ、有意に高かった(5〜10倍)。
【0145】
(例II:ウリジンおよびアシルウリジンのヒトにおける生物学的利用性の比較)
ヒト被験者を一夜絶食させたのち、基礎静脈血サンプルを採取し、ついで0.76モル/kg(28mg/kg、70kgの被験者で2g)のトリ−O−アセチルウリジンを100mlの水とともに摂取された。化合物の摂取後1、2、3および4時間目に血液サンプル(0.5ml)を採取し、処理して、血漿ウリジン含量をHPLCで測定した。別の日に、等モル用量のウリジン(18mg/kg、70kgの被験者で1.3g)をアシル誘導体に代えて摂取させたほかは、全く同じ実験を行った。
【0146】
ウリジンの血漿レベルは、トリ−O−アセチルウリジンを摂取した場合の方がウリジンの等モル用量を摂取した場合より実質的に高かった。トリ−O−アセチルウリジンの経口投与後少なくとも4時間は、ウリジンレベルは有用な治療範囲(10マイクロモル以上)に維持された。経口的にウリジンを投与した後には、ヌクレオシドの血漿レベルはわずか1点で(2時間後)10マイクロモルを越えたのみであった。
【0147】
(例III:アシル化ピリミジンリボヌクレオシドによる心筋機能低下の回復)
本例に記載した実験は、外因性にトリアセチルウリジンおよびトリアセチルシチジンを与えると、実験的に心室機能を低下させたのちの心室心筋のポンプ機能の回復を補助できるか否かを決定するために設計されたものである。
【0148】
実験的心筋傷害は、麻酔した(ネンブタール、50mg/kg i.p.)雄性F344ラット(250g)の腹部大動脈を内径0.67mmに収縮させ、ついで、イソプロテレノール塩酸塩(5mg、s.c.)を1回注射して誘発した。動脈収縮およびイソプロテレノール投与後、および1時後と20時間に再度、トリアセチルシチジンとトリアセチルウリジンの混合物(各590mg/kg)を投与した。一部の動物にはアセチル化ヌクレオシドの代わりに食塩水を注射し(非処置)、1群の動物には同じく食塩水を投与したが、大動脈収縮もイソプロテレノール投与も行わなかった(対照)。心室機能は大動脈収縮24時間後に測定した。
【0149】
動物をナトリウムペントバルビタール(50mg/kg、i.p.)で麻酔し、カテーテルをノルエピネフリン投与用に右頸静脈に植え込んだ。第二のカテーテルは右頸動脈を経て心臓の左室内に挿入した(Intramedic PE−50)。左室収縮期圧(LVSP)、左室収縮および拡張の細大速度(それぞれ+dP/dTおよび−dP/dT)および心拍数(HR)を直接カテーテルを介し、Stoelting Physioscribe II ポリグラフに接続したStatham型圧トランスジューサーを用いて測定した。これらのパラメーターの値は0.1mlのノルエピネフリン重酒石酸塩の濃度10-6、10-5および10-4でのi.v.投与の前後に記録した。この装置により、前肢の皮下に挿入したステンレス針電極を用いて心電図も記録した。心臓作業拍出量は左室収縮期圧と心拍数の積として計算した。
【0150】
大動脈収縮とイソプロテレノールの同時投与により、心筋機能は無傷動物に比べ明らかに低下した。左室収縮期圧、+dP/dT、−dP/dTおよび心臓作業拍出量はすべて有意に低下した(第1表、図1〜図4)。大動脈収縮およびイソプロテレノール投与後にアセチル化ピリミジンヌクレオシドを投与された動物では、イソプロテレノールのみを投与された動物に比べ、すべてのパラメーターが正常方向に有意に回復した(図1〜図4)。実験的心筋傷害後には心拍数も低下した(図5)。
【0151】
【表1】

【0152】
【表2】

【0153】
心筋機能のパラメーターは0.1mlの10-4Mノルエピネフリン重酒石酸塩の投与後にも測定した。これらの値は心臓の最大機能を示す。測定値は第2表および図6〜図10に示す。
【0154】
(考察)
本発明のアシルヌクレオシド誘導体を投与して心筋に外因性ヌクレオシドを供給すると、通常は心臓の過機能および過栄養を伴い、ついで心臓に対する負荷が持続的に増大する心臓機能の障害が防止されまた緩和される。
【0155】
このような作業負荷の増大は重篤な心筋梗塞後の心臓の生存部分に起こる。したがって、ピリミジンヌクレオシドまたはアシル化誘導体は、心筋梗塞後の心不全の治療また予防用の薬剤として有用である。現在のところ、心筋のエネルギー代謝の基になる生化学的機構と持続的な仕事負荷の増大への適合能を支持することによって働く、臨床的な実際に同時に適合した薬剤はない。これらの結果は本発明のアプローチが重要な機能的利益をもたらすことを示している。
【0156】
(例IV:アシル化ピリミジンヌクレオシドによる肝傷害治療)
化学的に誘発された肝傷害に対するトリアセチルシチジチンおよびトリアセチルウリジンの経口投与の効果を評価した。四塩化炭素によるネズミの慢性的処置は、最終的には肝硬変に至る肝障害を誘発する標準モデルとなっている。
【0157】
20匹の雄性F344ラット(200g)に四塩化炭素(コーン油中50%CCl4 0.2mg/kg)を1週に2回、8週間注射した。四塩化炭素による最初の2週間の処置後に、半数の動物には残りの6週間、トリアセチルウリジン(TAU)とトリアセチルシチジン(TAC)の混合物(各50mg/kgを1mlの水に加えて投与、1日2回)を経口的に投与した(摂食)。
【0158】
他の半数の動物(対照)には等容の水を摂取させた。四塩化炭素処置の8週が終了したのち、循環から、ブロモスルフタレイン(BSP)を除去する能力によって肝機能を評価した(肝機能の標準試験法)。ラットを麻酔し(ケタミン80mg/kgおよびキシラジン13mg/kg)、BSPの投与と血液採取のために頸動脈にカテーテルを挿入した。BSP(50mg/kg、0.5ml食塩水中)は一度に投与した。周期的に血液サンプル(0.2ml)を採取し、20μlの血漿に0.1M NaOH 1mlを添加して575nmのUV吸収を記録して血漿BSP濃度を測定した。
【0159】
図11に示すように、四塩化炭素処置時にTACおよびTAUを投与された動物は、対照動物に比べて、循環からの有意に良好なBSP除去能を示した。これはTACおよびTAUが四塩化炭素による傷害から肝を有意に保護することを示している。
【0160】
(例V:2’,3’,5’−トリ−O−アシルウリジンの製造)
酸無水物から
1gのウリジンを無水ピリジン(予め水酸化カリウム上で乾燥)20mlに溶かし、これに室温で、所望のアシル化合物の酸無水物(たとえば無水酢酸、無水乳酸、無水酪酸等)3.1モル当量を加える。反応混合物をついで2時間80〜85℃に加熱し、冷却し、氷水中に注ぎ、等容量のクロロホルムで3回抽出してエステルを回収する。クロロホルムをついで氷冷0.01N硫酸、1%炭酸水素ナトリウム水溶液、および最後に水で洗浄する。硫酸ナトリウムで乾燥したのちクロロホルムを蒸発させ、残った油状物または結晶をクロマトグラフィーに付す(Nishizawaら:Biochem.Pharmacol.、14:1605、1965から適用)。
【0161】
酸クロリドから
ウリジン1gを20mlの無水ピリジンに取り、これに5℃で所望のアシル化合物の酸クロリド(たとえばパルミトイルクロリド、アセチルクロリド等)3.1モル当量を加える。混合物を室温に一夜保持したのち、氷水に加え、上述の場合と同様に後処理する(Nishizawaら:Biochem.Pharmacol.、14:1604、1965から適用)。
【0162】
(例VI:5−アシルウリジンの製造)
無水ピリジン20mlにウリジン1gを溶解し、これに室温で所望のアシル化合物の酸無水物1.0モル当量を加える。反応混合物をついで80〜85℃に2時間加熱し、冷却し、氷水中に注ぎ、等容のクロロホルムで3回抽出してエステルを回収する。次にクロロホルムを0.01N硫酸、1%炭酸水素ナトリウム、最後に水で洗浄する。硫酸ナトリウムで乾燥したのち、クロロホルムを蒸発させ、残った油状物または結晶をクロマトグラフィーに付す。クロマトグラフィーで単離される主生成物は5’−置換エステルである(Nishizawaら:Biochem.Pharmacol.、14:1605、1965から適用)。
【0163】
別法として、ウリジンの選択的5’−アシル化は、1gのウリジンを氷浴中で0℃に冷却した1:1ピリジン:N,N−ジメチルホルムアミド30mlに懸濁して実施する。所望のアシル化合物の酸クロリド1.0モル当量を混合物に滴加し、0℃で12〜24時間攪拌する。水3mlを加え、ついで溶媒を真空中、50℃で蒸発させる。残留物をメタノールに溶解し、約3gのシリカゲル上に吸着させ、過剰の溶媒を留去する。トルエンを固体塊から3回蒸発させ、すべてを、クロロホルム中シリカゲルの3×15cmスラリー充填カラム上に負荷し、クロロホルム(200ml)から20:80メタノール:クロロホルム(200ml)の直線勾配で溶出させる。適当な分画をTLCで確認して集め、溶媒を蒸発させると所望の生成物が得られ、これを再結晶するかまたは真空中でガラス状に乾燥する(Bakerら:J.Med.Chem.、21:1218、1978から適用)。
【0164】
(例VII:2’,3’−ジアシルウリジンの製造)
ウリジン1gを乾燥N,N−ジメチルホルムアミド20mlに懸濁し、攪拌しながら、これに2.4モル当量のイミダゾール、ついで1.2モル当量のt−ブチルジメチルクロロシランを加える。混合物を、湿気から保護して室温で20時間攪拌し、ついで真空中50℃で溶媒を除去する。残留物を酢酸エチル15mlに溶解し、この溶液を水10mlで洗浄し、抽出液を硫酸マグネシウムで乾燥し、蒸発させるとシロップが得られる。10mlの熱クロロホルム溶液に白濁点までヘキサンを加え、ついで徐々に室温まで冷却させると、5’−(t−ブチルジメチルシリル)ウリジンが得られる。
【0165】
5’−(t−ブチルジメチルシリル)ウリジン1gを0℃に冷却した乾燥ピリジン15mlに懸濁し、攪拌しながら所望のアシル化合物の適当な酸無水物2.1モル当量を加え、混合物を湿気からの保護下に0〜5℃で20時間攪拌する。ついで数mlの水を加えて反応を終結させる。溶媒を蒸発させ、残留物をクロロホルム15mlに溶解し、2×15mlの飽和炭酸水素ナトリウム、ついで水で洗浄し、乾燥し(硫酸マグネシウム)、蒸発させると濃厚、澄明なシロップが得られる。これを真空中、25℃で乾燥する。
【0166】
上記アシル化生成物の乾燥テトラヒドロフラン30ml中溶液を攪拌しながら、これに氷酢酸2ml、ついでテトラブチルアンモニウムフルオリド1.5〜2.3gを加え、反応はTLCでモニターする(9:1クロロホルム:メタノール)。アシル化ウリジン誘導体の5’ヒドロキシル基からt−ブチルジメチルシリル基が完全に除去されたらば、混合物を30gのシリカゲル層を通して濾過してフルオリドを除き、生成物はテトラヒドロフランで溶出する。溶媒を蒸発させて得られた粗生成物をアセトンから再結晶すると、所望の2’,3’−ジアシルウリジン誘導体が得られる(Bakerら:J.Med.Chem.、22:273、1979から適用)。
【0167】
(例VIII:N3,2’,3’,5’−テトラアシルウリジンの製造)
ピリミジン環の3位置の2級アミンのアシル化は、2’,3’,5’−トリ−O−アシルウリジンを、非プロトン性溶媒(たとえばエーテル、ジオキサン、クロロホルム、酢酸エチル、アセトニトリル、ピリジン、ジメチルホルムアミド等)中、1〜5モル当量の有機塩基(とくにピリジンのような芳香族アミン、トリアルキルアミン、またはN,N−ジアルキルアニリン)の存在下、所望のアシル置換基の酸クロリド1.1モル当量と反応させることによって達成される(Fujiiら:米国特許第4,425,335号から適用)。二級アミン上のアシル置換基はリボース残基のヒドロキシル基上の置換基と同種でも異種でもよい。
【0168】
(例IX:2’,3’,5’−トリ−O−アシルシチジンの製造)
シチジン塩酸塩1gをN,N−ジメチルホルムアミド10mlに溶解する。酸クロリド3.1モル当量を加え、混合物を室温で一夜攪拌する。反応混合物を真空中で油状に濃縮し、1:1酢酸エチル:ジエチルエーテルと磨砕する。ついで油状物を1N炭酸水素ナトリウムと磨砕する。結晶性の固体を集め、水洗し、乾燥し、再結晶する(Gishら:J.Med.Chem.、14:1159、1971から適用)。
【0169】
(例X:5’−アシルシチジンの製造)
シチジン塩酸塩1gをN,N−ジメチルホルムアミド10mlに溶解する。所望のアシル置換基の酸クロリド1.1モル当量を加え、混合物を室温で一夜攪拌する。反応混合物を真空中で油状に濃縮し、1:1酢酸エチル:ジエチルエーテルと磨砕する。ついで油状物を1N炭酸水素ナトリウムと磨砕する。結晶性の固体を集め、水洗し、乾燥し、再結晶する(Gishら:J.Med.Chem.,14:1159,1971から適用)。
【0170】
(例XI:N4−アシルシチジンの製造)
シチジンのN4−アミノ基は、シチジンのアミノおよびヒドロキシル官能基中で最も求核性である。選択的なN4−アシル化は、シチジンをピリジンまたはピリジンとN,N−ジメチルホルムアミド中適当な酸無水物で処理することによって達成できる。たとえば、シチジン1gを80mlの乾燥ピリジンに懸濁し、所望の酸無水物1.5モル当量を加え、混合物を2時間還流する。溶媒を真空中で除去し、得られた白色の固体をエタノールから再結晶する。
【0171】
別法として、シチジン(1g)を7:30のピリジン:N,N−ジメチルホルムアミドの混合物に溶解し、所望のアシル置換基の酸無水物1.5モル当量を加え、混合物を室温で一夜攪拌し、ついで氷水中に注ぎ、攪拌する。溶媒を真空中で蒸発させると白色の固体が残り、これをジエチルエーテルで抽出する。残留物をエタノールから再結晶する(Sasakiら:Chem.Pharm.Bull.、15:894、1967から適用)。
【0172】
別の操作では、シチジンを水と水混和性溶媒(たとえば、ジオキサン、アセトン、アセトニトリル、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、テトラヒドロフラン等)の混合物に溶解し、この溶液を約2倍過剰の適当な酸無水物で処理する。たとえば、シチジン1gを水5mlに溶解し、ジオキサン15〜100mlと混合する(親油性置換基ほど多量のジオキサンが必要)。そして所望のアシル置換基の酸無水物2モル当量を加える。混合物を80℃で5時間(または室温で48時間)攪拌し、ついで溶媒を真空中で除去する残留物をヘキサンまたはベンゼンで洗浄し、エタノールまたは酢酸エチルから再結晶する(Akiyamaら:Chem.Pharm.Bull.、26:981、1978から適用)。
【0173】
(例XII:N4,2’,3’,5’−テトラアシルシチジンの製造)
シチジンのN4アミノ基およびリボース環のヒドロキシル基のアシル置換基が同一の化合物(たとえばテトラアセチルシチジン)は、シチジンを乾燥ピリジンに溶解または懸濁し、所望の置換基の酸クロリドまたは酸無水物少なくとも4モル当量を加え、混合物を一夜室温で攪拌する。溶媒を真空中で除去し、残留物を洗浄し、再結晶する。
【0174】
以上、本発明を詳細に説明したが、本技術分野の熟練者によれば、本発明またはその任意の実施態様から逸脱することなく、本発明を、組成物、状態、投与方法について広範囲の均等なパラメーターの中で実施できるものである。
【図面の簡単な説明】
【0175】
【図1】非傷害(食塩水のみ投与)ラット、実験心筋傷害、非処置(食塩水のみ投与)ラットおよびトリアセチルウリジン(TAU)とトリアセチルシチジン(TAC)を実験的心筋傷害後に投与されたラットの基礎心臓作業拍出量を示すグラフ。
【図2】対照ラット、非処置ラットおよび実験的心筋傷害後にTAUおよびTACを投与されたラットの基礎左室収縮期圧を示すグラフ。
【図3】対照ラット、非処置ラットおよび実験的心筋傷害後にTAUおよびTACを投与されたラットの基礎左室最大収縮率を示すグラフ。
【図4】対照ラット、非処置ラットおよび実験的心筋傷害後にTAUおよびTACを投与されたラットの基礎左室最大拡張率を示すグラフ。
【図5】対照ラット、非処置ラットおよび実験的心筋傷害後にTAUおよびTACを投与されたラットの基礎心拍数を示すグラフ。
【図6】対照ラット、非処置ラットおよび実験的心筋傷害後にTAUおよびTACならびにノルエピネフリンを投与されたラットの最大心臓作業拍出量を示すグラフ。
【図7】対照ラット、非処置ラットおよび実験的心筋傷害後にTAUおよびTACならびにノルエピネフリンを投与されたラットの最大左室収縮期圧を示すグラフ。
【図8】対照ラット、非処置ラットおよび実験的心筋傷害後にTAUおよびTACならびにノルエピネフリンを投与されたラットの最大左室収縮率(最大)を示すグラフ。
【図9】対照ラット、非処置ラットおよび実験的心筋傷害後にTAUおよびTACならびにノルエピネフリンを投与されたラットの最大左室拡張率(最大)を示すグラフ。
【図10】対照ラット、非処置ラットおよび実験的心筋傷害後にTAUおよびTACならびにノルエピネフリンを投与されたラットの心拍数(最大)を示すグラフ。
【図11】肝傷害ラットにTAUおよびTACまたは水(対照)を投与した場合の血漿BSPクリアランスを示すグラフ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
活性成分として、式(I):
【化1】

式中、R1、R2、R3およびR4は、同一または異なり、それぞれ水素であるか、または代謝物のアシル基である、ただしR1、R2、R3およびR4の少なくとも1個は水素ではない(該代謝物のアシル基は、グリコール酸、ピルビン酸、乳酸、エノールピルビン酸、アミノ酸、炭素原子2−22個を有する脂肪酸、リポ酸、パントテン酸、コハク酸、フマール酸、アジピン酸、アセト酢酸、p−アミノ安息香酸、β−ヒドロキシ酪酸、オロト酸、およびクレアチンからなる群の1種または2種以上から選択されるカルボン酸のアシル基である)、
を有するウリジンのアシル誘導体またはその医薬として許容される塩を含有する、
心不全の処置、心筋梗塞の処置、糖尿病の処置、脳血管障害の処置、パーキンソン病の処置、筋肉能力の増進、または免疫応答の改善のための組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2006−137772(P2006−137772A)
【公開日】平成18年6月1日(2006.6.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−380457(P2005−380457)
【出願日】平成17年12月28日(2005.12.28)
【分割の表示】特願2000−379524(P2000−379524)の分割
【原出願日】昭和63年10月27日(1988.10.27)
【出願人】(594197621)プロ ー ニューロン, インコーポレーテッド (4)
【Fターム(参考)】