説明

エアバッグ及びエアバッグ装置

【課題】縫合工程の外周縫合工程を不要とすることで製造コストを大幅に低減する。
【解決手段】乗員の身体を拘束するエアバッグ14であって、所定形状の1枚のウエブ14Aに対し、その全周の端部(斜線部)を集めるように折り畳む。そして、インフレータ15に連結する雄ネジ18aにナット17を締結することでウエブ14Aの全周の端部が綴じられ、ウエブ14Aは、ほぼ密閉する空間を内部に形成した袋体としてのエアバッグ14を構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車等の車両に装備されるエアバッグ及びこれを備えたエアバッグ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、エアバッグ装置は、乗員の身体を受け止めるエアバッグと、このエアバッグ内に収納されガスを噴出してエアバッグを膨張させるガス発生器等を有している。このようなエアバッグ装置に用いるエアバッグの製造方法の一つとして、1枚の基布から折り畳みと縫合を組み合わせて袋体としてのエアバッグを作成する方法がある(例えば特許文献1等参照)。
【特許文献1】特表平8−506296号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上述した従来のエアバッグは、所定の形状に裁断した1枚の基布(裁断片)を所定の折り目で折り畳み、最後に自由縁部を相互に縫合することで袋体として構成されている。そしてこのように自由縁部を相互に縫合するといった外周縫合については、特にエアバッグの気密性や強度に関わる加工であり、つまりエアバッグの膨張展開性能や拘束性能に大きく影響を与える重要な工程となっている。このため、補強布など取り付けるといった他の補助的な縫合工程と比較して、自由縁部の外周縫合の工程では長い縫合経路を縫合する工程となっており、エアバッグの製造コストのうちの比較的大きな割合を占めている。今後は、製造コストを低減できるエアバッグが望まれていた。
【0004】
本発明の目的は、外周縫合工程を不要とすることで製造コストを大幅に低減することができるエアバッグ及びこれを備えたエアバッグ装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記目的を達成するために、第1の発明は、乗員の身体を拘束するエアバッグであって、所定形状の1枚の基布に対し、その全周の端部を集めるように折り畳んで綴じることによりほぼ密閉する空間を内部に形成したことを特徴とする。
【0006】
1枚の基布で袋体を構成する場合、その内部空間の気密を確保するためには、基布の端部どうし、又は端部と中央部とを重ね合わせてできる開放辺を綴じればよい。このとき、本願第1発明では、この基布の全周の端部を集めるように折り畳み、そして気密性を確保するようにその全周の端部をまとめて綴じることで、内部に密閉した空間を有する袋体として形成することができる。このように1枚の基布に対して折り畳み工程と綴じ工程だけで袋体を構成するエアバッグを作成できるため、比較的長い縫合経路を縫合する必要のある外周縫合工程が不要となり、その結果製造コストを大幅に低減することができる。
【0007】
第2の発明は、略一箇所に集めた前記全周の端部を重ね合わせて綴じる綴じ部材を有していることを特徴とする。
【0008】
これにより、溶着や縫合と比較して容易かつ安定的に基布の全周の端部を綴じることができる。
【0009】
第3の発明は、前記全周の端部は当該エアバッグの取り付け固定部分の近傍位置に集められていることを特徴とする。
【0010】
これにより、何重にも重ねられて綴じられた全周の端部がエアバッグの取り付け固定部の付近で静的にも動的にも安定して固定されるため、エアバッグを円滑に膨張展開させることができる。
【0011】
第4の発明は、前記綴じ部材は、当該エアバッグを取り付ける先の部材と前記全周の端部とを密着させて2つの部材で挟み込むことで当該エアバッグの取り付け固定と前記全周の端部の綴じとを併せて行うことを特徴とする。
【0012】
これにより、一つ(一組)の綴じ部材により、全周の端部の安定した綴じとエアバッグの取り付け固定の両方が可能となるためエアバッグ全体の小型化が可能となる。
【0013】
第5の発明は、前記基布を一回折り曲げて閉状態の第1折り曲げ辺を形成し、さらにこの第1の折り曲げ辺に対して交差するように折り曲げて閉状態の第2折り曲げ辺を少なくとも一つ形成していることを特徴とする。
【0014】
これにより、第1折り曲げ辺を形成した際の全周の端部が、第2折り曲げ辺を形成することによってより狭い範囲に集められるようにして折り畳まれることになる。この結果、全周の端部が略一箇所に集中することになり、より気密性の高い綴じが可能となる。
【0015】
第6の発明は、最小の大きさに折り畳まれた当該エアバッグを包む保護カバーを有していることを特徴とする。
【0016】
これにより、エアバッグが最小に折り畳まれた状態が維持され、取り扱いが容易となる。
【0017】
前記目的を達成するために、第7の発明は、前記第1乃至第6の発明のいずれかのエアバッグと、ガスを噴出して前記エアバッグを膨張させるガス発生器とを有することを特徴とする。
【0018】
これにより、エアバッグ製造時に外周縫合工程が不要となり、その結果製造コストを大幅に低減することができる。
【0019】
第8の発明は、前記ガス発生器が前記綴じ部材に固定されていることを特徴とする。
【0020】
これにより、ガス発生器の安定した取り付け固定が可能となるとともに、エアバッグ全体の小型化が可能となる。
【0021】
第9の発明は、前記全周の端部の重ね合わせ位置に前記ガス発生器を固定する前記綴じ部材の挿通部を挿通させるための挿通孔を設け、この挿通孔に前記綴じ部材の前記挿通部を挿通することにより前記全周の端部を綴じることを特徴とする。
【0022】
これにより、対応する挿通孔どうしを一致させるよう重ね合わせて挿通部へ挿通させることで、基布を高い精度で正しく折り畳むことができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、外周縫合工程を不要とすることで製造コストを大幅に低減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、本発明の実施の形態を図面を参照しつつ説明する。まず、本発明を側突用エアバッグ装置に適用した第1の実施の形態について説明する。 図1(a)は、第1の実施の形態である側突用エアバッグ装置SABの装着位置を示す車両の運転席付近の側面図であり、図1(b)は、側突用エアバッグ装置SABのエアバッグが膨張展開した状態を模式的に示す側面図である。また、図2(a)〜(l)は、側突用エアバッグ装置SABの製造工程を表す図である。
【0025】
なお、図1(a)、図1(b)は、右ハンドル仕様車の運転席(進行方向に向かって右側に位置する座席)の右側(乗員から向かって右側;車両の外方側)から見た側面図であり、エアバッグは乗員から向かって右側の側部から膨張展開するものとする(後述の図6、図9においても同様とする)。
【0026】
図1に示す側突用エアバッグ装置SABは、図1(a)に示す車室内の座席シート11の背もたれ12に収容設置され、自動車等のボディサイド部に所定値以上の衝撃が加わったとき、図1(b)に示すように、座席シート11に着座している乗員Mとボディサイド部との間にてガス発生器15によりガスを発生してエアバッグ14を乗員Mの側部に膨張させ、乗員Mの上半身を拘束するエアバッグ装置である。
【0027】
図1(a)に示すように、エアバッグ14は、平常時には折り畳まれた状態でシート11の背もたれ12の内部に収納されている。一方、例えば自動車が側面衝突した場合等には、インフレータ制御回路(図示せず)により側突用エアバッグ装置SABのガス発生器15のイニシエータ(図示せず)が起動され、点火したガス発生器15からのガスがエアバッグ14の内部に供給される。これにより、ガスの供給を受けたエアバッグ14は、図1(b)に示すように、例えば背もたれ12の横面の布地に設けられた図示しない縫製ラインを開裂してシート11から飛び出し、自動車等のボディサイド部に沿って展開してシート11に着座した乗員Mとの間に展開する。
【0028】
以下において、上記側突用エアバッグ装置SABのエアバッグ14を組み立てる工程を、図2(a)〜(l)を参照しつつ詳細に説明する。まず、上記側突用エアバッグ装置SABのエアバッグ14は、基布を図2(a)に示す平面形状(図示する例では略正方形形状)に裁断した一枚のウエブ(基布)14Aよりなる。なお、ウエブ14Aを複数枚に裁断して溶着により図2(a)に示す平面形状となるように継ぎ足したものでもよい。また、このウエブ14Aの全周の端部における適宜箇所に複数の挿通孔HP(後に詳述する)が形成されている。
【0029】
そして、この略正方形形状のウエブ14Aの対角線と一致する折り曲げ線BL1に沿って一回折り曲げることで、図2(b)に示すように閉状態の折り曲げ辺(第1折り曲げ辺)BE1を形成する。さらに、互いに直交しかつ上記折り曲げ辺BE1に対してそれぞれ45度で交差する2本の折り曲げ線BL2,BL3に沿ってそれぞれ折り曲げることで、図2(c)に示すように閉状態の2本の折り曲げ辺(第2折り曲げ辺)BE2,BE3を形成する。なお、2本の折り曲げ線BL2,BL3に対しては図中の奥側へ折り曲げるようにする。
【0030】
次に図中の上方に位置する閉状態の頂点BPを中心にそれぞれ上記折り曲げ辺BE2,BE3から約20度の角度を為す2本の折り曲げ線BL4,BL5に沿ってそれぞれ折り曲げる(図中手前側)ことで、図2(d)に示すように閉状態の2本の折り曲げ辺BE4,BE5を形成する。
【0031】
次に、互いに平行でかつ上記折り曲げ辺BE4,BE5に対してそれぞれ約25度の角度で交差する2本の折り曲げ線BL6,BL7に沿ってそれぞれ折り曲げる(図中手前側)ことで、図2(e)に示すように閉状態の2本の折り曲げ辺BE6,BE7を形成する。
【0032】
次に、これまでのウエブ14Aの折り畳みにより形成した内部空間内に、インフレータ(ガス発生器)15を配置する。このインフレータ15は、全体が略筒形状のものであり、その外周はリテーナ18にて支持されている(詳細は後述する図3参照。ただし、図2及び後述の図4、図5、図7中では図示の煩雑を避けるために省略)。そして、このリテーナ18の外周側面には、平行に突出する2本の雄ネジ(挿通部)18aが設けられている。上記の挿通孔HPは全てこれら2本の雄ネジ18aに挿通させるよう予め形成されているものであり、ウエブ14Aを正しく折り畳んだ場合には挿通孔HPどうしが重なり合って雄ネジ18aに挿通されるようになっている(後述の図3参照)。
【0033】
そして、図2(f)に示すようにインフレータ15がウエブ14Aの内部空間に配置された後、上記頂点BPの反対側に位置する開放辺と平行な折り曲げ線BL8に沿って折り曲げる(図中手前側)ことで、図2(g)に示すように閉状態の折り曲げ辺BE8を形成する。これにより、ウエブ14Aの内部空間が密閉されて袋体として構成される。なお、インフレータ15に接続して制御信号を伝達する信号コード15bが所定の孔(特に図示せず)を貫通して外部に露出している。
【0034】
そして、この図2(g)の状態では、ウエブ14Aの全周の端部(図2(a)中の斜線で示す縁部)がインフレータ15の付近の略一箇所(ある程度の範囲幅を有する一つながりの一箇所)に集められるように折り畳まれた状態となっており、この例では、後述の図3に示すようにインフレータ15の外周でインフレータ15を支持しているリテーナ18に設けられた雄ネジ18aにナット17を締結することでウエブ14Aの全周の端部が綴じられることになる。この状態でウエブ14Aは、ほぼ密閉する空間を内部に形成した袋体としてのエアバッグ14を構成する。
【0035】
そして次に、図2(g)においてウエブ14Aの頂点BP側のほとんどの部分を蛇腹折りによって折り畳むことで、図2(h)に示すようにコンパクト化することができる。なお、折り方については、蛇腹折り以外にも適宜ロール折り等にしてもよい。
【0036】
そしてこのようなエアバッグ14のコンパクトな状態を維持するために、図2(i)〜図2(l)に示すように保護カバー16でエアバッグ14全体を包んで形状を保持する。なお、この保護カバー16にも複数の挿通孔HPが形成されており、エアバッグ14を包んだ状態で各挿通孔HPに雄ネジ18aを挿通させることで、保護カバー16の開放を留めることができる。
【0037】
図3は、側突用エアバッグ装置SABを取り付け固定した状態で、上記図2(l)におけるIII−III線から見た断面図である。この図3において、エアバッグ14内の空間に収納されたインフレータ15は、上述したようにその外周はこの例のリテーナ18にて支持されており、さらにこのリテーナ18の外周側面に雄ネジ18aが突出するように設けられている。そしてこの雄ネジ18aが固定壁部13(座席シート11の背もたれ12の内部に備えられて側突用エアバッグ装置SABを取り付け固定する強度部材の壁部;図1中では図示省略)を貫通してナット17で締結されていることにより、リテーナ18及びインフレータ15が固定壁部13に対して固定されている。この状態では、ウエブ14A(エアバッグ14)の全周の端部(図2(a)の斜線部)が、その取り付け先の部材である固定壁部13の近傍に集められて重なり合い、固定壁部13と密着した状態でリテーナ18とナット17によって挟み込まれて固定されている(綴じられている)状態となる。
【0038】
以上において、リテーナ18、雄ネジ18a、及びナット17が、綴じ部材として機能している。
【0039】
以上のような構成である側突用エアバッグ装置SABによれば、1枚のウェブ14Aで袋体としてのエアバッグ14を構成する場合、その内部空間の気密を確保するためには、ウエブ14Aの端部どうし、又はウエブ14Aの端部と中央部とを重ね合わせてできる開放辺を綴じればよい。このとき、本願発明では、このウエブ14Aの全周の端部を集めるように折り畳み、そして気密性を確保するようにその全周の端部をまとめて綴じることで、内部に密閉した空間を有する袋体としてエアバッグ14を形成することができる。このように1枚のウエブ14Aに対して折り畳み工程と綴じ工程だけで袋体を構成するエアバッグ14を作成できるため、比較的長い縫合経路を縫合する必要のある外周縫合工程(後述の図9参照;後に詳述する)が不要となり、その結果製造コストを大幅に低減することができる。
【0040】
なお、特に図示しないが、ウエブ14Aの全周の縁部のうちで部分的に突出して形成されている箇所などがある場合でも、当該突出部分の根本の部分が他の端部と同じ箇所に集められて綴じられることにより、内部に密閉した空間を有する袋体としてエアバッグ14を形成することができ、同等に機能することができる。
【0041】
また本実施形態では特に、略一箇所に集めた全周の端部を重ね合わせて綴じるリテーナ18、雄ネジ18a、及びナット17を有していることにより、溶着や縫合と比較して容易かつ安定的にウエブ14Aの全周の端部を綴じることができる。
【0042】
また本実施形態では特に、全周の端部が当該エアバッグ14の取り付け固定部分の近傍位置に集められていることにより、何重にも重ねられて綴じられた全周の端部がエアバッグ14の取り付け固定部の付近で静的にも動的にも安定して固定されるため、エアバッグ14を円滑に膨張展開させることができる。
【0043】
また本実施形態では特に、リテーナ18とナット17が、当該エアバッグ14の取り付け先の部材である固定壁部13と全周の端部とを密着させて挟み込むことで当該エアバッグ14の取り付け固定と全周の端部の綴じとを併せて行っている。
【0044】
これにより、リテーナ18とナット17により、全周の端部の安定した綴じとエアバッグ14の取り付け固定の両方が可能となるためエアバッグ14全体の小型化が可能となる。
【0045】
また本実施形態では特に、ウエブ14Aを一回折り曲げて閉状態の第1折り曲げ辺BE1を形成し、さらにこの第1の折り曲げ辺BE1に対して交差するように折り曲げて閉状態の第2折り曲げ辺BE2,BE3を2つ形成していることにより、第1折り曲げ辺BE1を形成した際の全周の端部が、第2折り曲げ辺BE2,BE3を形成することによってより狭い範囲に集められるようにして折り畳まれることになる。この結果、全周の端部が略一箇所に集中することになり、より気密性の高い綴じが可能となる。
【0046】
また本実施形態では特に、最小の大きさに折り畳まれた当該エアバッグ14を包む保護カバー16を有していることにより、エアバッグ14が最小に折り畳まれた状態が維持され、取り扱いが容易となる。
【0047】
なお、リテーナ18を設けずにインフレータ15に雄ネジ18aを直接設けてもよく、この場合には当該インフレータ15、雄ネジ18a、及びナット17が綴じ部材に相当する。これにより、インフレータ15の安定した取り付け固定が可能となるとともに、エアバッグ14全体の小型化が可能となる。また、袋体として形成されたエアバッグ14の外部にインフレータ15を設置して、インフレータ15が噴出するガスをエアバッグ14の内部に供給できるように管部材等で連通して接続するようにしてもよい。
【0048】
また本実施形態では特に、全周の端部の重ね合わせ位置にリテーナ18及びインフレータ15を固定する雄ネジ18aを挿通させるための挿通孔HPを設け、この挿通孔HPに雄ネジ18aを挿通することにより全周の端部を綴じるようにしている。
【0049】
これにより、対応する挿通孔HPどうしを一致させるよう重ね合わせて雄ネジ18aへ挿通させることで、ウエブ14Aを高い精度で正しく折り畳むことができる。
【0050】
本発明は、前記第1の実施形態に限られるものではなく、その趣旨と技術思想の範囲を逸脱しない範囲で以下に示すような種々の変形が可能である。
【0051】
図4(a)〜(e)、図5(a)〜(j)は、本発明のエアバッグ装置の変形例である側突用エアバッグ装置SAB′の製造工程を表す図である。本変形例のエアバッグ14′を構成するウエブ14A′は、上記実施形態のウエブ14Aと比較して横に長い略六角形形状となっている。また図中の下方側の縁部には幅の広い延長縁部が形成されており、この延長縁部も含めて全周の端部(図4(a)中の斜線部)となっている。
【0052】
そして、この略六角形形状の長手方向対角線と一致する折り曲げ線BL1′に沿って折り曲げることで、図4(b)に示すように閉状態の折り曲げ辺(第1折り曲げ辺)BE1′を形成する。さらに上記折り曲げ辺BE1′に対してそれぞれ約60度で交差する2本の折り曲げ線BL2′,BL3′にそってそれぞれ折り曲げることで、図4(d)に示すように閉状態の2本の折り曲げ辺(第2折り曲げ辺)BE2′,BE3′を形成する。なお、本変形例における2本の折り曲げ線BL2′,BL3′に対しては、それぞれ内側へ引き込むように折り曲げる(矢視IVc図参照)。
【0053】
次に図中の上方に位置する閉状態の2つの頂点BP1′,BP2′からそれぞれ下方に延びた2本の折り曲げ線BL4′,BL5′に沿ってそれぞれ折り曲げる。ここで、上述の2本の折り曲げ線BL2′,BL3′がそれぞれ内側へ引き込むように折り曲げられていることにより、上記の閉状態の2本の折り曲げ辺BE2′,BE3′はそれぞれ2重に形成(2本の閉状態の折り曲げ辺が図中の手前側と奥側で重なっている)されており、つまり各折り曲げ辺BE2′,BE3′はそれぞれ2組の折り曲げ面に対応している構成となっている(矢視IVd図参照)。
【0054】
まず、図中の奥側(裏側)の2本の折り曲げ辺BE2′,BE3′にそれぞれ対応する折り曲げ面を2本の折り曲げ線BL4′,BL5′に沿って図中の奥側へ折り曲げる(矢視IVe図参照)。このとき、図中の下方の延長縁部も奥側へ折り曲げられる。これにより、図4(e)に示すように、図中の奥側に閉状態の2本の折り曲げ辺BE4′,BE5′を形成する。そしてこの状態でウエブ14A′の折り畳みにより形成した内部空間内に、インフレータ15を配置する。
【0055】
その後に、図中の手前側(表側)の2本の折り曲げ辺BE2′,BE3′にそれぞれ対応する折り曲げ面に対しても2本の折り曲げ線BL4′,BL5′に沿って図中の手前側へ折り曲げることで(矢視Va1図参照)、図5(a)に示すように、図中の手前側に閉状態の2本の折り曲げ辺BE4′,BE5′を形成する。このときの2本の折り曲げ辺BE4′,BE5′は、上記の2本の折り曲げ辺BE2′,BE3′と同様にそれぞれ2重に形成されている。
【0056】
このようにして折り畳まれたウエブ14A′により形成される内部空間のうちで全周の端部を集めた箇所にインフレータ15′を配置し、そして全周の端部に予め形成されている挿通孔HPをリテーナ18′に設けられている雄ネジ18a′に挿通させることで、ウエブ14A′の全周の端部を留めることができる(なお、本変形例におけるインフレータ15′、リテーナ18′、及び雄ネジ18a′の構成は上記図3に示した実施形態と同様の構成となる)。このようにして全周の端部を略一箇所に集めて綴じることで、密閉した内部空間を有するエアバッグ14′が構成される。
【0057】
それ以降は、上記実施形態とほぼ同様にウエブ14A′を折り畳み、蛇腹折りとロール折りを組み合わせてコンパクト化を行う。そして保護カバー16′でそのコンパクト化した状態を保持する。
【0058】
以上のように構成したエアバッグ14′を備える側突用エアバッグ装置SAB′も、上記実施形態と同様の効果を得ることができる。また、上記実施形態のエアバッグ14よりも縦長形状のエアバッグ14′を実現できる。
【0059】
以下においては、実際のエアバッグに施される補助縫合と、本発明のエアバッグが不要とする外周縫合について図面を参照しつつ詳細に説明する。
【0060】
図6は、実際的な側突用エアバッグ装置SABのエアバッグの一例が膨張展開した状態を示す側面図であり、上記実施形態の図1(b)に対応する図である。なお、以下に示す例のエアバッグは、上記実施形態又はその変形例に示したエアバッグ14,14′と同様に基本的に1枚のウエブで構成されたものである。そして、通常時には上記実施形態又はその変形例と同等の態様で折り畳まれて背もたれ12の内部に収容設置され、緊急時には図示するように乗員Mの側方で膨張展開する。各部について上記実施形態又はその変形例が備えるものと同等である場合には同じ符号を付し、適宜説明を省略する。
【0061】
図6において、膨張展開した状態のこの例のエアバッグ114には、その前方側面に2つのベントホール115が上下に並んで形成されている。これらのベントホール115は、膨張展開したエアバッグ114が乗員Mを拘束する際にエアバッグ114の内部で圧力が過剰になったガスを適宜漏出させるための孔であり、それらの縁部の周囲には当該ベントホール115の縁部を補強するためのベントホール補強布116が縫合により取り付けられている。
【0062】
また、エアバッグ114の固定部分にはマウント補強布117が、エアバッグ114の内部にはエアバッグ114の全体の形状を矯正するためのテザー118が、それぞれ縫合により取り付けられている。
【0063】
図7は、膨張展開した状態のエアバッグ114の構成を詳細に表す図であり、図7(a)は車両の外方から見た側面図、図7(b)は正面図、図7(c)は車両の内方から見た側面図である。
【0064】
この図7において、上述したように、エアバッグ114は前方側面に形成された2つのベントホール115のそれぞれの縁部周囲に設けられたベントホール補強布116、エアバッグ114の固定部分に設けられた2枚のマウント補強布117、及びエアバッグの内部に設けられたテザー118を備えている。
【0065】
2つのベントホール補強布116は、略円環形状に形成されており、楕円形に形成されたベントホール115の縁部の周囲を覆って縫合により取り付けられている(VIIb−VIIb断面図参照)。
【0066】
2枚のマウント補強布117は、それぞれほぼ同じ大きさの長方形形状に形成されており、エアバッグ114が固定される部分でウエブ114Aの端部が集められる箇所に重なる配置で縫合によって取り付けられる(VIIc1−VIIc1断面図参照)。
【0067】
テザー118は、略長方形形状に形成されており、当該テザー118の対向する2つの端部がそれぞれエアバッグ114の内部において車両外方側の側面と車両内方側の側面に縫合されて取り付けられている(VIIc2−VIIc2断面図参照)。このようにテザー118がエアバッグ114の両側面の間を渡すように設けられていることにより、エアバッグ114は側方に対して過剰に膨張が拡大するのを規制され、膨張展開した際のエアバッグ114の全体の形状が矯正される。
【0068】
図8は、上記エアバッグ114のウエブ114Aが折り畳まれる前の展開平面図である。
【0069】
この図8において、この例のウエブ114Aは長い略六角形形状となっている。そして、この略六角形形状の長手方向対角線上に2つのベントホール115が形成され、それらの周囲にベントホール補強布116が設けられる。また、それらを挟む配置の両側のウエブ114Aの端部にそれぞれマウント補強布117が設けられる。また、テザー118は図示を省略しているが、そのテザー118の両端部を縫合するテザー縫合箇所119は、この例では一方(図中の下方)のベントホール115と各マウント補強布117との間の箇所となっている。
【0070】
この例では、これらベントホール補強布116、マウント補強布117、及びテザー118をウエブ114Aに取り付ける縫合が補助縫合に相当し、これらは比較的狭い範囲における短い縫合経路での縫合となる。
【0071】
図9は、比較例として外周縫合により形成されたエアバッグが膨張展開した状態を示す側面図であり、上記実施形態の図1(b)、図6に対応する図である。
【0072】
この図9において、図示する例のエアバッグ214は、ほぼ同じ形状の2枚のウエブを重ね合わせ(図中の手前側と奥側で重ねている)、それらの自由縁部を相互に縫合して袋体に構成されている。この自由縁部どうしの縫合が外周縫合に相当し、この外周縫合はエアバッグ214の気密性や強度に関わって膨張展開性能や拘束性能に大きく影響を与える加工工程となっている。したがって上記の補助縫合と比較して長い縫合経路を強固に縫合する必要があり、エアバッグの製造コストのうちの比較的大きな割合を占めるものとなっている。
【0073】
本発明のエアバッグ14,14′,114は、1枚のウエブ14A,14A′,114Aの全周の端部を集めるように折り畳み、そして気密性を確保するようにその全周の端部をまとめて綴じることで、内部に密閉した空間を有する袋体としてエアバッグ14,14′,114を形成するため、上記の外周縫合の工程を一切必要としない。したがって、製造コストを大幅に低減することができる(比較的安価に行える上記補助縫合は別途施すことは可能)。
【0074】
なお、上述の実施形態は本発明の好適な形態の一例ではあるがこれに限定されるものではなく本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々変形実施可能である。
【図面の簡単な説明】
【0075】
【図1】本発明の実施の形態に係る側突用エアバッグ装置のエアバッグ非膨張時と膨張時を示す車両の座席シートの側面図である。
【図2】側突用エアバッグ装置の製造工程を表す図である。
【図3】側突用エアバッグ装置を取り付け固定した状態で、図2(l)におけるIII−III線から見た断面図である。
【図4】本発明のエアバッグ装置の変形例である側突用エアバッグ装置の製造工程を表す図である。
【図5】本発明のエアバッグ装置の変形例である側突用エアバッグ装置の製造工程を表す図である。
【図6】実際的な側突用エアバッグ装置のエアバッグの一例が膨張展開した状態を示す側面図である。
【図7】膨張展開した状態の実際的なエアバッグの構成を詳細に表す両側面図、正面図、及び断面図である。
【図8】実際的なエアバッグのウエブが折り畳まれる前の展開平面図である。
【図9】比較例として外周縫合により形成されたエアバッグが膨張展開した状態を示す側面図である。
【符号の説明】
【0076】
SAB 側突用エアバッグ装置(エアバッグ装置)
11 座席シート
12 背もたれ
13 固定壁部
14 エアバッグ
14A ウエブ(基布)
14A′ ウエブ(基布)
15 インフレータ(ガス発生器)
16 保護カバー
17 ナット(綴じ部材)
18 リテーナ(綴じ部材)
18a 雄ネジ(綴じ部材)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
乗員の身体を拘束するエアバッグであって、
所定形状の1枚の基布に対し、その全周の端部を集めるように折り畳んで綴じることによりほぼ密閉する空間を内部に形成した
ことを特徴とするエアバッグ。
【請求項2】
請求項1記載のエアバッグにおいて、
略一箇所に集めた前記全周の端部を重ね合わせて綴じる綴じ部材を有している
ことを特徴とするエアバッグ。
【請求項3】
請求項1又は2記載のエアバッグにおいて、
前記全周の端部は当該エアバッグの取り付け固定部分の近傍位置に集められている
ことを特徴とするエアバッグ。
【請求項4】
請求項3記載のエアバッグにおいて、
前記綴じ部材は、当該エアバッグを取り付ける先の部材と前記全周の端部とを密着させて2つの部材で挟み込むことで当該エアバッグの取り付け固定と前記全周の端部の綴じとを併せて行う
ことを特徴とするエアバッグ。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか1項記載のエアバッグにおいて、
前記基布を一回折り曲げて閉状態の第1折り曲げ辺を形成し、さらにこの第1の折り曲げ辺に対して交差するように折り曲げて閉状態の第2折り曲げ辺を少なくとも一つ形成している
ことを特徴とするエアバッグ。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれか1項記載のエアバッグにおいて、
最小の大きさに折り畳まれた当該エアバッグを包む保護カバーを有している
ことを特徴とするエアバッグ。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれか1項記載のエアバッグと、
ガスを噴出して前記エアバッグを膨張させるガス発生器とを有することを特徴とするエアバッグ装置。
【請求項8】
請求項7記載のエアバッグ装置において、
前記ガス発生器は、前記綴じ部材に固定されている
ことを特徴とするエアバッグ装置。
【請求項9】
請求項8記載のエアバッグ装置において、
前記全周の端部の重ね合わせ位置に前記ガス発生器を固定する前記綴じ部材の挿通部を挿通させるための挿通孔を設け、この挿通孔に前記挿通部を挿通することにより前記全周の端部を綴じる
ことを特徴とするエアバッグ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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