説明

エアバッグ装置

【課題】保護対象物を迅速に保護することができ、かつ、実際に車両の衝突が起こらなかった場合には、再利用可能なエアバッグを有したエアバッグ装置を提供すること。
【解決手段】エアバッグ装置Sは、エアバッグ23と、エアバッグ23に膨張用ガスを供給するガス供給器14と、を備える。エアバッグ23が、内部に膨張用ガスを流入させて周壁を構成する合成樹脂の弾性変形領域内で予備膨張する予備膨張モードと、予備膨張モードより内圧を高められて周壁を延伸させるように塑性変形された状態で膨張する本膨張モードと、との2段階のモードで膨張可能に、構成される。ガス供給器14が、予備膨張後に車両の衝突が検知されなかった場合に、エアバッグ23の予備膨張状態を解消可能に、構成され、予備膨張後における車両の衝突検知時に、エアバッグ23を本膨張モードで膨張させるように、構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両における収納部位内に収納されるとともに、作動時に内部に膨張用ガスを流入させて膨張して保護対象物を受け止め可能な袋状のエアバッグと、該エアバッグに膨張用ガスを供給するガス供給器と、を備えるエアバッグ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
エアバッグ装置のエアバッグとしては、周壁をポリアミド糸やポリエステル糸等の織布から構成したものが使用されているが、周壁を織布から構成する場合、内部に流入した膨張用ガスが、エアバッグの膨張完了後に、周壁から外部へ抜けることから、膨張完了後の気密性を維持可能なように、周壁を合成樹脂製のフィルム材から構成したエアバッグが、知られている(例えば、特許文献1,2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平9−24787号公報
【特許文献2】特開平10−264187号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上記特許文献1及び2に記載のエアバッグを使用したエアバッグ装置は、いずれも、車両の衝突物との衝突検知後に、エアバッグの内部に膨張用ガスを供給するインフレーターを作動させて、エアバッグを膨張させる構成であることから、再利用できるものではなく、また、エアバッグを迅速に膨張させて、保護対象物を迅速に保護する点に、改善の余地があった。
【0005】
本発明は、上述の課題を解決するものであり、保護対象物を迅速に保護することができ、かつ、実際に車両の衝突が起こらなかった場合には、再利用可能なエアバッグを有したエアバッグ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係るエアバッグ装置は、車両における収納部位内に収納されるとともに、作動時に内部に膨張用ガスを流入させて膨張して保護対象物を受け止め可能な袋状のエアバッグと、エアバッグに膨張用ガスを供給するガス供給器と、を備えるエアバッグ装置であって、
エアバッグが、シート状の周壁を有した合成樹脂製として、
内部に膨張用ガスを流入させて、周壁を構成する合成樹脂の弾性変形領域内で予備膨張する予備膨張モードと、
予備膨張モードより内圧を高められて、周壁を延伸させるように塑性変形された状態で膨張する本膨張モードと、
との2段階のモードで膨張可能に、構成され、
ガス供給器が、
エアバッグの予備膨張後において、車両の衝突が検知されなかった場合には、エアバッグ内に流入した膨張用ガスを外部に排出させて、エアバッグの予備膨張状態を解消可能に、構成されるとともに、
予備膨張後における車両の衝突検知時に、エアバッグを、本膨張モードで膨張させるように、構成されていることを特徴とする。
【0007】
本発明のエアバッグ装置では、エアバッグを、予備膨張モードと本膨張モードとの2段階のモードで膨張可能に構成しており、車両の衝突前の衝突予測時に、内部に膨張用ガスを流入させて、予め、予備膨張させておく構成であることから、車両が衝突した際に、エアバッグを本膨張モードで迅速に膨張完了させることができ、保護対象物を迅速に安定して保護することができる。また、本発明のエアバッグ装置では、エアバッグの予備膨張後において、車両の衝突が検知されなかった場合には、エアバッグは、内部に流入した膨張用ガスを外部に排出させることにより、予備膨張状態を解消可能とされており、さらに、本発明のエアバッグ装置では、エアバッグが、周壁を構成する合成樹脂の弾性変形領域内で予備膨張するように構成されることから、衝突予測状態から衝突検知状態に移行しなかった場合には、エアバッグを、変形を抑えて、予備膨張前(衝突予測前)の状態に戻すことができ、繰り返し使用することができる。
【0008】
したがって、本発明のエアバッグ装置では、保護対象物を迅速に保護することができ、かつ、実際に車両の衝突が起こらなかった場合には、エアバッグを再利用することができる。
【0009】
また、本発明のエアバッグ装置では、エアバッグは、周壁を合成樹脂製とされており、予備膨張後における車両の衝突検知時には、周壁を延伸させるように塑性変形された状態の本膨張モードで膨張を完了させる構成であることから、膨張完了後のエアバッグによって、保護対象物が受け止められた際、エアバッグが、周壁を延伸させるようにさらに塑性変形されることとなり、保護対象物の運動エネルギーを、周壁の塑性変形によってエネルギー吸収できると同時に、この周壁の延伸分だけ、エアバッグが、容積を増大させるような態様となって、保護エリアを拡大させることができるとともに、内圧上昇を抑制することができる。そのため、保護対象物を受け止めた際に、保護対象物の運動エネルギーを低減させ、かつ、保護対象物側への反力を抑えた状態で、保護対象物を拘束できることから、保護対象物をソフトに受け止めることができる。
【0010】
具体的には、本発明のエアバッグ装置において、ガス供給器として、予備膨張時に圧縮エアをエアバッグ内に供給するコンプレッサと、本膨張時にエアバッグの内部に充満されている圧縮エアより高温の加熱ガスをエアバッグ内に供給する加熱ガス供給手段と、を備えて構成されるものを使用することが好ましい。
【0011】
また、エアバッグを、保護対象物としての乗員が着座しているシートの座部に収納させて、予備膨張時に、座部の車外側の上面側を押し上げるように膨張して、本膨張時に、乗員の腰部を拘束可能に、構成すれば、予備膨張時に、乗員の腰部を、車内側に向かわせるように押し上げることができることから、車両の衝突時に、乗員が車外側に向かって移動することを抑制でき、また、本膨張時には、エアバッグは、保護エリアを拡大させるように膨張することから、広い保護エリアで、乗員の腰部を的確に拘束できて、好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の一実施形態である側突用エアバッグ装置の使用態様を示す側面図である。
【図2】図1の側突用エアバッグ装置の概略縦断面図であり、図1のII−II部位に対応する。
【図3】図1の側突用エアバッグ装置におけるガス供給器を示す概略図である。
【図4】図1の側突用エアバッグ装置に使用されるエアバッグの予備膨張時の斜視図であり、成形時の形状を二点鎖線で示す図である。
【図5】図4のV−V部位の断面図であり、成形時の形状を二点鎖線で示す図である。
【図6】実施形態の側突用エアバッグ装置において、エアバッグが予備膨張した状態を示す側面図であり、本膨張した状態を二点鎖線で示す。
【図7】実施形態の側突用エアバッグ装置において、エアバッグが予備膨張した状態を示す断面図である。
【図8】実施形態の側突用エアバッグ装置において、エアバッグが本膨張した状態を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の一実施形態を図面に基づいて説明する。実施形態では、車両におけるシート1に搭載される側突用のエアバッグ装置Sを例に採り、説明する。
【0014】
実施形態のエアバッグ装置Sは、図1,2に示すように、保護対象物としての乗員Mが着座しているシート1の座部2における車外側O(実施形態の場合、右側)の側面2aに、配置されている。なお、実施形態において、上下、前後、及び、左右の方向は、特に断らない限り、車両の上下、前後、及び、左右の方向に一致するものである。
【0015】
シート1における座部2は、図2に示すように、水平方向に沿って配置されるシートパン3と、シートパン3の周囲を覆うように配置されるクッション4、そして、クッション4の外周側を覆う表皮5,6を、備える構成とされており、実施形態のエアバッグ装置Sは、シートパン3とクッション4との間の隙間から構成される収納部位Pに、収納されている。なお、実施形態の場合、クッション4は、エアバッグ23の右側に位置する右縁4aと、エアバッグ23の左側に位置する中央部4bと、に分離可能に、構成されており、エアバッグ23は、クッション4を、右縁4aと中央部4bとに分離させつつ、クッション4を圧縮させるようにして、予備膨張することとなる(図7参照)。クッション4の外周側を覆う表皮5,6は、伸縮性に富んだシート体(織布等)から、形成されるもので、エアバッグ23の予備膨張時には、破断を抑えられて、上方に突出するように伸び、エアバッグ23の本膨張時には、破断されて、エアバッグ23を上方に突出可能に構成されている(図8参照)。
【0016】
エアバッグ装置Sは、実施形態の場合、図1〜3に示すように、収納部位P内に収納されるエアバッグ23と、エアバッグ23に膨張用ガスを供給するガス供給器14と、を、備えて構成されている。
【0017】
ガス供給器14は、図1,3に示すように、エアバッグ23を予備膨張モードと本膨張モードとの2段階のモードで膨張可能に、エアバッグ23の内部に膨張用ガスを供給するもので、実施形態の場合、コンプレッサ15と、加熱ガス供給手段としてのマイクロガスジェネレータ20と、を備えて構成されている。
【0018】
また、ガス供給器14は、図1に示すように、車両の所定位置に配置される制御回路9により、作動を制御されている。制御回路9は、実施形態の場合、車両の側方側から接近しようとする被衝突物との相対速度や距離等を検知可能なミリ波レーダ等からなる衝突予測センサ10と、車両の実際の衝突時の減速度を検知可能な加速度センサ等からなる衝突検知センサ11と、に電気的に接続されて、これらのセンサ10,11からの電気信号を入力させて、コンプレッサ15とマイクロガスジェネレータ20とを作動させる構成である。
【0019】
コンプレッサ15は、実施形態の場合、図1,3に示すように、座部2の後端付近に配設されるコンプレッサ本体16と、コンプレッサ本体16から延びてエアバッグ23に連結される供給パイプ部17と、を備えている。コンプレッサ本体16は、圧縮エアを内蔵させた構成とされるもので、制御回路9が、衝突予測センサ10からの信号を入力させて、車両の衝突を予測した際に、制御回路9からの作動信号を受けて、作動し、供給パイプ部17を介して、エアバッグ23内に膨張用ガスとしての圧縮エアを流入させて、エアバッグ23を、予備膨張モードで膨張させる構成である。供給パイプ部17は、クランプ19を利用して、エアバッグ23の後述する接続口部25に、連結される構成である。また、供給パイプ部17には、エアバッグ23内に流入した圧縮エアを外部に排出可能な電磁バルブ等からなる排出バルブ18が、配設されている。この排出バルブ18は、制御回路9からの作動信号を受けて開閉可能に構成されるもので、通常は閉状態とされ、エアバッグ23の予備膨張後において、制御回路9が車両の衝突を予測して所定時間経過した後車両の衝突を検知しなかった場合に、制御回路9からの作動信号を受けて、開くように構成されて、エアバッグ23内に流入した圧縮エアを外部に排出させ、エアバッグ23の予備膨張状態を解消するように、構成されている。
【0020】
加熱ガス供給手段としてのマイクロガスジェネレータ20は、制御回路9からの作動信号を受けた際に、エアバッグ23内に加熱ガスを供給可能に、エアバッグ23に連結されて、シートパン3の所定位置に固定されている(図3参照)。このマイクロガスジェネレータ20は、エアバッグ23の予備膨張後において、制御回路9が、衝突検知センサ11からの信号を入力させて、車両の衝突を検知した際に、制御回路9からの作動信号を受けて、図示しないスクイブを点火させ、エアバッグ23内に、圧縮エアより高温の加熱ガスを流出させる構成である。
【0021】
エアバッグ23は、図4,5に示すように、袋状として、内部に膨張用ガス(圧縮エア及び加熱ガス)を流入させて膨張する膨張本体部24と、膨張本体部24の後下端から後方に突出するように構成される略筒状の接続口部25と、を有する構成とされている。接続口部25は、後端側を、コンプレッサ本体16から延びる供給パイプ部17を挿入可能に、開口させて構成されている。また、実施形態の場合、エアバッグ23は、取付ブラケット27を利用して、シートパン3に連結されている。取付ブラケット27は、図1,2,4に示すように、前後方向に沿った長尺状の取付片部27aと、取付片部27aから下方に突出するとともに前後方向に沿って複数個配置されるボルト27bと、を備える構成とされるもので、ボルト27bをエアバッグ23における膨張本体部24の下端側から外部に突出させるように、エアバッグ23内に配設させ、ボルト27bをシートパン3にナット28止めすることにより、エアバッグ23をシートパン3に取り付ける構成である。実施形態の場合、エアバッグ23の膨張本体部24は、前後の略全域にわたって、下端側の領域を、取付ブラケット27の取付片部27aにより、押えられた状態で、シートパン3に取り付けられている。
【0022】
膨張本体部24は、エアバッグ23の膨張完了時に、車内側に配設される車内側壁部24aと、車外側に配設される車外側壁24b部と、を備える構成とされている。実施形態の場合、膨張本体部24は、前後方向側の幅寸法を、座部2の前後の幅寸法より小さく形成されて、弾性変形しつつ膨張する予備膨張時の形状を、図4,5に示すように、長手方向を前後方向に沿わせた略長方形板状として、上側の領域を下側の領域よりも左右方向の幅寸法を幅広とした、左右方向の断面形状を略扇形状とされている。そして、膨張本体部24は、予備膨張時に、図7の実線に示すように、座部2の車外側Oの上面側を、前後の略全域にわたって押し上げるように膨張して、乗員Mを車内側に向かわせるように、乗員Mの腰部Wを押し上げ可能に、構成されている。
【0023】
エアバッグ23は、合成樹脂製とされて、実施形態の場合、図3及び図4,5の二点鎖線に示すように、弾性変形前における収納時の形状を賦形されるようにして、ブロー成形により一体成形されている。そして、実施形態の場合、エアバッグ23は、図3に示すように、折り畳まれない状態で、収納部位P内に収納されている。
【0024】
そして、実施形態の場合、エアバッグ23は、コンプレッサ15の作動時において、コンプレッサ本体16から流出される圧縮エアを内部に流入させた際に、弾性領域内で膨らむように、車内側壁部24aと車外側壁部24bとを離隔させて、周囲のクッション4を圧縮させるように、予備膨張することとなる(図4,5,7参照)。予備膨張後、エアバッグ23は、加熱ガス供給手段としてのマイクロガスジェネレータ20の作動時に、マイクロガスジェネレータ20から吐出される加熱ガスを内部に流入させた際に、加熱ガスの流入と圧縮エアの昇温とによって膨張本体部24内の内圧が上昇することから、さらに膨張して、周壁を構成する車内側壁部24aと車外側壁部24bとを延伸させるように、塑性変形させつつ、本膨張することとなる。この本膨張時に、エアバッグ23は、クッション4の外周側に配置される表皮5,6の所定箇所を破断させて、上方に突出し、乗員Mの腰部Wの車外側を覆うように膨張することとなる(図8参照)。
【0025】
なお、エアバッグ23は、予備膨張後において、制御回路9が車両の衝突を予測して所定時間経過した後、車両の衝突を検知しなかった場合に、排出バルブ18から圧縮エアを外部に排出させ、非膨張状態に復元されて、予備膨張状態を解消されることとなるが、このとき、周囲の圧縮されているクッション4の復元や着座した乗員Mの荷重により、車内側壁部24aと車外側壁部24bとが相互に接近されるように押圧されて、圧縮エアが、エアバッグ23から排出され、エアバッグ23が予備膨張状態を解消されて、予備膨張前の状態に復元されることとなる。なお、実施形態の場合、エアバッグ23の予備膨張時の内圧は、50kPa程度に設定されている。
【0026】
すなわち、実施形態のエアバッグ23は、予備膨張後においても、供給パイプ部17に設けられた排出バルブ18から、内部に充満した圧縮エアを排出させれば、予備膨張状態を解消可能に構成され、かつ、予備膨張後に、マイクロガスジェネレータ20を作動させて、内圧を上昇させた際に、車内側壁部24aと車外側壁部24bとを延伸させるように、塑性変形可能に、構成されている。そして、内圧上昇に伴う本膨張時の塑性変形は、膨張本体部24の内圧が上昇して、車内側壁部24a,車外側壁部24bに生じる引張力(引張応力)がエアバッグ23を構成する合成樹脂における弾性変形領域と塑性変形領域との境界となる降伏点の引張応力を超えると促進されると推測される。そのため、エアバッグ23は、引張応力−ひずみ曲線において降伏点を示すタイプの合成樹脂を使用する必要がある。また、実施形態のエアバッグ23では、予備膨張後に、予備膨張状態を解消することを考慮すれば、予備膨張解消時に確実に復元可能とするように、弾性限度より小さな比例限度における引張応力の領域内において、エアバッグ23を予備膨張させることが望ましい。さらに、実施形態では、エアバッグ23は、塑性変形後にさらに膨張することから、引張応力−ひずみ曲線において、破断点の引張応力が降伏点の引張応力よりも大きいタイプの合成樹脂を使用することが望ましい。
【0027】
そして、実施形態のエアバッグ23は、上記のような作用を得るために、引っ張り強さを60MPa程度(望ましくは、40〜60MPa)(JIS K 7311)として、比例限度における引張応力を0.5MPa以上(望ましくは、3〜50MPaの範囲内)、降伏点における引張応力を1.0MPa以上(望ましくは、5.0〜80MPaの範囲内)(ともに、JIS K 7113)に設定されるとともに、破断伸びを、450%以上(望ましくは、500%以上)(JIS K 7161)に設定される合成樹脂から、構成されている。具体的には、エアバッグ23を構成する合成樹脂としては、ウレタン系熱可塑性エラストマー(TPU)、オレフィン系熱可塑性エラストマー(TPO)、塩素化ポリエチレン系熱可塑性エラストマー(TCM)等を使用することができる。また、実施形態のエアバッグ23では、周壁を構成する車内側壁部24aと車外側壁部24bとの肉厚を、0.1〜1.0mm(望ましくは、0.3〜0.8mm)の範囲内に、設定している。
【0028】
実施形態では、エアバッグ23は、引張強さを50MPa(JIS K 7311)として、比例限度における引張応力を6MPa、降伏点における引張応力を13MPa、破断点における引張応力を60MPa(ともに、JIS K 7113)に設定されたウレタン系熱可塑性エラストマー(TPU)から、形成されている。また、エアバッグ23は、収納時の容積を1.0〜2.0L程度として、車内側壁部24aと車外側壁部24bとの肉厚を0.3mmに設定され、予備膨張時の内圧を50kPa程度に設定されている。
【0029】
実施形態では、エアバッグ装置Sが車両に搭載された後、車両の走行時において、制御回路9が、衝突予測センサ10により、車両の衝突を予測すれば、ガス供給器14におけるコンプレッサ15が作動されて、エアバッグ23内に圧縮エアを供給して、図6,7に示すように、エアバッグ23を予備膨張モードで膨張させ、エアバッグ23の予備膨張後に、制御回路9が、衝突検知センサ11により、車両の衝突を検知すれば、ガス供給器14におけるマイクロガスジェネレータ20が作動されて、エアバッグ23内に加熱ガスを供給し、図6の二点鎖線及び図8に示すように、エアバッグ23を本膨張モードで膨張させることとなる。
【0030】
すなわち、実施形態のエアバッグ装置Sでは、エアバッグ23を、予備膨張モードと本膨張モードとの2段階のモードで膨張可能に構成しており、車両の衝突前の衝突予測時に、内部に膨張用ガス(圧縮エア)を流入させて、予め、予備膨張させておく構成であることから、車両が衝突した際に、エアバッグ23を本膨張モードで迅速に膨張完了させることができ、保護対象物としての乗員Mを迅速に安定して保護することができる。また、実施形態のエアバッグ装置Sでは、エアバッグ23の予備膨張後において、車両の衝突が検知されなかった場合には、エアバッグ23は、内部に流入した膨張用ガス(圧縮エア)を外部に排出させることにより、予備膨張状態を解消可能とされており、さらに、実施形態のエアバッグ装置Sでは、エアバッグ23が、車内側壁部24aと車外側壁部24bとを構成する合成樹脂の弾性変形領域内で予備膨張するように構成されることから、衝突予測状態から衝突検知状態に移行しなかった場合には、エアバッグ23を、変形を抑えて、図2に示すような、予備膨張前(衝突予測前)の状態に戻すことができ、繰り返し使用することができる。
【0031】
したがって、実施形態のエアバッグ装置Sでは、保護対象物としての乗員Mを迅速に保護することができ、かつ、実際に車両の衝突が起こらなかった場合には、エアバッグ23を再利用することができる。
【0032】
また、実施形態のエアバッグ装置Sでは、エアバッグ23は、周壁としての車内側壁部24a,車外側壁部24bを、合成樹脂製とされており、予備膨張後における車両の衝突検知時には、車内側壁部24a,車外側壁部24bを延伸させるように塑性変形された状態の本膨張モードで膨張を完了させる構成であることから、膨張完了後のエアバッグ23によって、乗員Mが受け止められた際、エアバッグ23が、車内側壁部24a,車外側壁部24bを延伸させるようにさらに塑性変形されることとなり、乗員Mの運動エネルギーを、車内側壁部24a,車外側壁部24bの塑性変形によってエネルギー吸収できると同時に、この車内側壁部24a,車外側壁部24bの延伸分だけ、エアバッグ23が、容積を増大させるような態様となって、保護エリアを拡大させることができるとともに、内圧上昇を抑制することができる。そのため、乗員Mを受け止めた際に、乗員Mの運動エネルギーを低減させ、かつ、乗員M側への反力を抑えた状態で、乗員Mを拘束できることから、乗員Mをソフトに受け止めることができる。
【0033】
実施形態では、エアバッグ装置Sは、乗員Mが着座したシート1の座部2に搭載されるもので、エアバッグ23は、予備膨張時に、周囲に配置されるクッション4を圧縮させつつ、座部2の車外側Oの上面側を、前後の略全域にわたって押し上げるように膨張して、本膨張時に、クッション4の外周側を覆う表皮5,6を破断させつつ上方に突出して、乗員Mの腰部Wの車外側を覆って、乗員Mの腰部Wを拘束可能に、構成されている。すなわち、実施形態のエアバッグ装置Sでは、車両の衝突予測時に、予備膨張したエアバッグ23の膨張本体部24によって、乗員Mの腰部Wの車外側Oを押し上げ可能であることから、車両の衝突前に、乗員Mを、車内壁(例えばドア)から離隔させて、車内側に向かわせるように押し上げることができて、車両の衝突時に、乗員Mが車外側に向かって移動することを抑制することができ、かつ、衝突時に、車外側から車内側に向かう車内壁との干渉を抑制できる。また、予備膨張後に、車両の衝突が検知されたならば、膨張本体部24が、車内側壁部24a,車外側壁部24bを延伸させるように塑性変形された状態で本膨張することとなり、エアバッグ23(膨張本体部24)が、車内側壁部24a,車外側壁部24bの延伸分だけ、容積を増大させ、保護エリアを拡大させるように、表皮5,6を破断させつつ上方に突出して、本膨張することとなる。この本膨張時に、エアバッグ23の膨張本体部24は、乗員Mの腰部Wの車外側を覆うように、膨張することとなる。そのため、広い保護エリアで、乗員Mの腰部Wを拘束することができる。
【0034】
また、実施形態では、エアバッグ23の膨張本体部24が、予備膨張時に、周囲に配置されるクッション4を圧縮させるように膨張する構成であることから、予備膨張後に、圧縮された周囲のクッション4の復元や、乗員Mによる荷重によって、膨張本体部24の車内側壁部24aと車外側壁部24bとを押圧することができ、膨張本体部24を、予備膨張前の状態に戻すことができる。そのため、エアバッグ23を、一旦予備膨張させた後でも、搭載時の状態に近づけるように戻すことができて、予備膨張状態から復元したエアバッグ23の存在を外部から目視しがたく、意匠性を良好に保持することができる。
【0035】
なお、実施形態では、乗員が着座したシート(座席)の側方に配置される側突用のエアバッグ装置を例に採り説明したが、本発明を適用可能なエアバッグ装置は、これに限られるものではない。一旦予備膨張させた後に、予備膨張前の状態に戻し可能であることから、エアバッグが、折り畳まれない状態で収納部位に収納され、かつ、予備膨張時に、車両の車内側を覆う内装材等の内部で膨張する構成とすることが望ましく、例えば、座席に着座した乗員の膝の前方に配置されるニーパッドの内部に内蔵させる構成のエアバッグ装置や、ルーフの車内側を覆うルーフヘッドライニングの内部に内蔵させる構成のエアバッグ装置等に、好適に適用可能である。
【符号の説明】
【0036】
1…シート、
2…座部、
9…制御回路、
10…衝突予測センサ、
11…衝突検知センサ、
14…ガス供給器、
15…コンプレッサ、
20…マイクロガスジェネレータ(加熱ガス供給手段)、
23…エアバッグ、
24…膨張本体部、
24a…車内側壁部(周壁)、
24b…車外側壁部(周壁)、
M…乗員(保護対象物)、
S…エアバッグ装置。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両における収納部位内に収納されるとともに、作動時に内部に膨張用ガスを流入させて膨張して保護対象物を受け止め可能な袋状のエアバッグと、該エアバッグに前記膨張用ガスを供給するガス供給器と、を備えるエアバッグ装置であって、
前記エアバッグが、シート状の周壁を有した合成樹脂製として、
内部に膨張用ガスを流入させて、前記周壁を構成する合成樹脂の弾性変形領域内で予備膨張する予備膨張モードと、
該予備膨張モードより内圧を高められて、前記周壁を延伸させるように塑性変形された状態で膨張する本膨張モードと、
との2段階のモードで膨張可能に、構成され、
前記ガス供給器が、
前記エアバッグの予備膨張後において、前記車両の衝突が検知されなかった場合には、前記エアバッグ内に流入した前記膨張用ガスを外部に排出させて、前記エアバッグの予備膨張状態を解消可能に、構成されるとともに、
前記予備膨張後における前記車両の衝突検知時に、前記エアバッグを、本膨張モードで膨張させるように、構成されていることを特徴とするエアバッグ装置。
【請求項2】
前記ガス供給器が、予備膨張時に圧縮エアを前記エアバッグ内に供給するコンプレッサと、本膨張時に前記エアバッグの内部に充満されている前記圧縮エアより高温の加熱ガスを前記エアバッグ内に供給する加熱ガス供給手段と、を備えて構成されていることを特徴とする請求項1に記載のエアバッグ装置。
【請求項3】
前記エアバッグが、保護対象物としての乗員が着座しているシートの座部に収納されて、予備膨張時に、前記座部の車外側の上面側を押し上げるように膨張して、本膨張時に、前記乗員の腰部を拘束可能に、構成されていることを特徴とする請求項1又は2に記載のエアバッグ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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