説明

エアバッグ装置

【課題】インフレータのフランジよりも前方側に配置されるステアリングホイールの構成部品との接触による制振性能の低下を抑制する。
【解決手段】エアバッグ装置20は、ステアリングホイール内に配設されるバックホルダ40と、バックホルダ40に取付けられるエアバッグ37と、エアバッグ37にガスGを供給して、同エアバッグ37を後方へ膨張させるインフレータ30と、インフレータ30の周壁部31に設けられたフランジ33において同インフレータ30をバックホルダ40に弾性支持する弾性支持部55とを備える。バックホルダ40には、ステアリングシャフトの径方向についてフランジ33よりも外方となる箇所から後方へ延びる環状の壁部43を設ける。弾性支持部55を壁部43の後端とフランジ33との間に設け、弾性支持部55の一部を、弾性材からなる環状の弾性連結部64により構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両等のステアリングホイールに内装されるエアバッグ装置に関し、より詳しくは、インフレータを、弾性支持部によってバックホルダに弾性支持することで、ダイナミックダンパのダンパマスとして機能させるようにしたエアバッグ装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
車両の高速走行中やエンジンのアイドリング中に、ステアリングシャフトを通じて振動がステアリングホイールに伝わると、運転者の快適な運転が損なわれるおそれがある。そこで、このステアリングホイールの振動を抑制(制振)する技術が従来から開発・提案されている。その一つに、錘と、この錘をステアリングホイールの芯金等に支持する弾性部材とからなるダイナミックダンパを用いる技術がある。この技術によると、ステアリングホイールからダイナミックダンパに対し、そのダイナミックダンパ固有の共振周波数と同じ周波数の振動が伝わると、ダイナミックダンパが共振してステアリングホイールの振動エネルギーを吸収する。この吸収により、ステアリングホイールの振動が抑制(制振)される。
【0003】
一方、ステアリングホイールには、車両の衝突時等における運転者の保護を図るべく、エアバッグ装置が内装されている。エアバッグ装置は、ステアリングホイール内に配設されるバックホルダと、バックホルダに取付けられるエアバッグと、バックホルダに取付けられてエアバッグにガスを供給するインフレータとを備える。エアバッグ装置は、車両の衝突時等には、インフレータから供給されるガスによりエアバッグを後方へ向けて膨張させることで、運転者を衝撃から保護する。
【0004】
ここで、上記エアバッグ装置が、ステアリングホイールの内部スペースの多くを占有することから、近時のステアリングホイールでは、上述したダイナミックダンパを内装することが難しくなっている。そこで、インフレータを、バックホルダに対し、弾性支持部によって弾性支持することで、ダイナミックダンパのダンパマスとして機能させる構成が提案されている。
【0005】
例えば、特許文献1では、図10に示すように、インフレータ101の周壁部102にアダプタエレメント103が固定されている。アダプタエレメント103は、インフレータ101のフランジ104の前側に配置されたリング状のフランジ105と、同フランジ105の外周部から前方へ向けて延びるパイプ状のアタッチメント106と、アタッチメント106の前端部からインフレータ101の径方向外方へ屈曲された円板状の周縁107とからなる。そして、アダプタエレメント103は、フランジ105において、ねじ(図示略)によりインフレータ101のフランジ104に締結されている。
【0006】
一方、バックホルダ108の前端部外周には固定フランジ109が設けられており、その前側に配置されたリング状の接続プレート111が、ねじ(図示略)により同固定フランジ109に締結されている。
【0007】
さらに、アダプタエレメント103の周りには、環状のゴム製ダイヤフラム112が配置されている。ゴム製ダイヤフラム112の前端部は、上記アダプタエレメント103の周縁107に対し接合され、後端部は、上記接続プレート111の内周部に接合されている。
【0008】
上記アダプタエレメント103、接続プレート111及びゴム製ダイヤフラム112によって、インフレータ101をバックホルダ108に弾性支持する弾性支持部113が構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2001−171460号公報(図2)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ところで、上記のようにエアバッグ装置が内装されたステアリングホイールでは、多くの場合、インフレータ101のフランジ104よりも前方側の空間に、同ステアリングホイールの構成部品、例えば、インフレータ101に接続されたハーネスを含む各種ハーネスが配置されている。
【0011】
この点、特許文献1では、インフレータ101と一緒になって振動するもの(アダプタエレメント103)や、インフレータ101の振動に伴い弾性変形するもの(ゴム製ダイヤフラム112)が、インフレータ101のフランジ104よりも前方に位置するため、ステアリングホイールの上記構成部品に接触しやすい。この接触により、インフレータ101の振動や、ゴム製ダイヤフラム112の弾性変形が妨げられ、ダイナミックダンパの振動抑制(制振)性能が低下するおそれがある。
【0012】
本発明は、このような実情に鑑みてなされたものであって、その目的は、インフレータのフランジよりも前方側に配置されるステアリングホイールの構成部品との接触による制振性能の低下を抑制することのできるエアバッグ装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記の目的を達成するために、請求項1に記載の発明は、前後方向に延びるステアリングシャフトを中心として回転操作されるステアリングホイール内に配設されるバックホルダと、前記バックホルダに取付けられるエアバッグと、前記エアバッグにガスを供給して、前記エアバッグを後方へ膨張させるインフレータと、前記インフレータの周壁部に設けられたフランジにおいて同インフレータを前記バックホルダに弾性支持する環状の弾性支持部とを備えるエアバッグ装置であって、前記バックホルダには、前記ステアリングシャフトの径方向について前記フランジよりも外方となる箇所から後方へ延びる環状の壁部が設けられており、前記弾性支持部は前記壁部の後端と前記フランジとの間に設けられており、前記弾性支持部の一部は、弾性材からなる環状の弾性連結部により構成されていることを要旨とする。
【0014】
上記の構成によれば、エアバッグ装置では、弾性支持部の弾性連結部がダイナミックダンパのばねとして機能し、インフレータがダイナミックダンパのダンパマスとして機能する。このため、ステアリングホイールからダイナミックダンパに対し、そのダイナミックダンパ固有の共振周波数と同じ周波数の振動が伝わると、弾性連結部が弾性変形しながらインフレータを伴って振動し(弾性連結部及びインフレータが共振し)、ステアリングホイールの振動エネルギーを吸収する。この吸収により、ステアリングホイールの振動が減衰(制振)される。
【0015】
ここで、ステアリングホイール内では、インフレータのフランジよりも前方側の空間に、同ステアリングホイールの構成部品、例えば、インフレータに接続されたハーネスを含む各種ハーネスが配置されている。そのため、インフレータと一緒になって振動するものや、インフレータの振動に伴い弾性変形するもの(弾性連結部)がステアリングホイールの上記構成部品に接触すると、その構成部品によってインフレータ及び弾性支持部の動きが妨げられ、ダイナミックダンパの振動抑制(制振)性能が低下するおそれがある。
【0016】
この点、請求項1に記載の発明では、バックホルダの壁部が、ステアリングシャフトの径方向についてインフレータのフランジよりも外方となる箇所から後方へ延びている。弾性支持部が壁部の後端とフランジとの間に設けられていて、その弾性支持部の一部が、弾性材からなる環状の弾性連結部によって構成されている。このことから、インフレータと一緒になって振動するものも、インフレータの振動に伴い弾性変形するもの(弾性連結部)も、フランジよりも後方に位置することとなり、同フランジよりも前方側の空間のステアリングホイールの構成部品と接触しにくい。その結果、上記構成部品との接触に起因するダイナミックダンパの制振性能の低下が起こりにくい。
【0017】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、前記インフレータの前記周壁部にはガス噴出孔が設けられており、前記弾性支持部の前記弾性連結部と前記ガス噴出孔との間には、前記ガス噴出孔から噴出されたガスが前記弾性連結部に向かって流れるのを規制するガス流れ規制部が設けられていることを要旨とする。
【0018】
上記の構成によれば、衝突等の衝撃によりエアバッグ装置が作動すると、インフレータの周壁部のガス噴出孔からガスが噴出される。このガスは、弾性連結部に向かって流れて同弾性連結部に直接触れることを、弾性支持部の弾性連結部とガス噴出孔との間に位置するガス流れ規制部によって規制される。その結果、ガス噴出孔から噴出されたガスが弾性連結部に直接触れることがなくなり、弾性連結部がガスの熱の影響を受けにくくなる。
【0019】
請求項3に記載の発明は、請求項2に記載の発明において、前記インフレータを後側から覆うカップリテーナと、前記壁部及び前記カップリテーナ間に配置され、前記カップリテーナとの間で前記エアバッグのガス導入口の周辺部分を挟み込む環状のガスプレートとをさらに備え、前記ガスプレートの内周部は前記ガス流れ規制部として前方へ屈曲されていることを要旨とする。
【0020】
上記の構成によれば、エアバッグは、そのガス導入口の周辺部分が、ガスプレート及びカップリテーナを介してバックホルダに固定される。
また、インフレータのガス噴出孔から噴出されたガスが、エアバッグのガス導入口の周辺部分に直接触れることを、ガスプレート及びカップリテーナによって規制される。さらに、インフレータのガス噴出孔から噴出されたガスが弾性連結部に直接触れることを、ガスプレートの内周部において前方へ屈曲されている箇所(ガス流れ規制部)によって規制される。その結果、エアバッグのガス導入口の周辺部分と弾性連結部とが、ガスの熱の影響を受けにくくなる。
【0021】
請求項4に記載の発明は、請求項1〜3のいずれか1つに記載の発明において、前記バックホルダの前記壁部は弾性材からなる壁被覆部により被覆されており、前記壁被覆部の内側面には、弾性材からなり、かつ前記ステアリングシャフトの径方向内方へ向けて突出する突起が一体形成されていることを要旨とする。
【0022】
上記の構成によれば、ステアリングホイールからダイナミックダンパに振動が伝わると、弾性連結部が弾性変形しながらインフレータを伴って振動する。この際、弾性連結部自身や、同弾性連結部とインフレータのフランジとの連結部分が、壁被覆部の内側面からステアリングシャフトの径方向内方へ向けて突出する突起に接触することで、インフレータがステアリングシャフトの径方向外方へ必要以上移動することや、壁部(壁被覆部)に接触することを規制される。
【0023】
その結果、弾性連結部の弾性変形量が必要最小限に抑えられて、同弾性連結部の耐久性低下が抑制されるとともに、壁被覆部との接触による異音の発生が抑制される。
同様の効果は、壁被覆部の内側面に、同壁被覆部とは別部材からなる接触抑制部材を取付けることによっても得られる。ただし、その場合には、エアバッグ装置の部品点数が接触抑制部材の分だけ多くなり、また、その接触抑制部材を壁被覆部に取付ける工程が必要となり、その分だけ製造工数が増える。
【0024】
この点、請求項4に記載の発明によれば、壁被覆部を形成する際に突起が一緒に形成される。また、突起と壁被覆部とは一体となっている。そのため、接触抑制部材を取付ける場合に比べ、エアバッグ装置の部品点数及び製造工数が少なくてすむ。
【0025】
また、上記部品点数及び製造工数についてのメリットは、弾性連結部の外側面に、弾性材からなる突起を設けることによっても得られる。しかし、その場合には、弾性連結部の形状が突起無しの場合と異なることとなり、突起が弾性連結部の制振性能に影響を及ぼす。その点、突起が壁被覆部の内側面に設けられる請求項4に記載の発明では、突起が弾性連結部の制振性能に影響を及ぼすおそれはない。
【0026】
請求項5に記載の発明は、請求項1〜4のいずれか1つに記載の発明において、前記バックホルダは、前後方向に貫通された係止孔を有しており、前記ステアリングホイールの構成部材の一部をなし、かつ前記エアバッグ及び前記インフレータを後方から覆うパッドカバーには、爪部を有する係止爪が設けられ、前記パッドカバーは、前記係止爪が前記係止孔に挿通され、前記爪部が前記係止孔に係止されることにより、前記バックホルダに締結されるものであり、前記インフレータを前方から覆うカバープレートには、前記係止孔に挿入されて、前記係止爪を、前記爪部が前記係止孔に係止された状態に保持する保持部が設けられていることを要旨とする。
【0027】
上記の構成によれば、パッドカバーのバックホルダへの締結に際しては、係止爪が係止孔に対し後方から挿通されて爪部が係止孔に係止される。この係止爪は、係止孔に挿入されたカバープレートの保持部により、ステアリングシャフトの径方向へ撓むことを規制され、爪部が係止孔に係止された状態に保持される。従って、エアバッグの膨張時等にパッドカバーに過大な力が加わっても、係止爪が係止孔から抜け出ることが阻止される。
【発明の効果】
【0028】
本発明のエアバッグ装置によれば、インフレータのフランジよりも前方側に配置されるステアリングホイールの構成部品との接触による制振性能の低下を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明を具体化した一実施形態を示す図であり、エアバッグ装置が内装されたステアリングホイールの概略側面図。
【図2】エアバッグ装置の斜視図。
【図3】エアバッグ装置の一部を示す正面図。
【図4】図3のX−X線断面図。
【図5】図3のY−Y線断面図。
【図6】図5において、カバープレートがバックホルダに締結される前の状態を示す断面図。
【図7】(A)はバックホルダの斜視図、(B)はフランジプレートの斜視図。
【図8】(A)はバックホルダ及び弾性支持部の斜視図、(B)は(A)の弾性支持部にインフレータが取付けられた状態を示す斜視図。
【図9】バックホルダにおける壁部の内側面に突起を設けた変更例を示す正面図。
【図10】従来のエアバッグ装置を示す部分断面図。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明のエアバッグ装置を、車両用のステアリングホイールに適用した一実施形態について、図1〜図8を参照して説明する。
図1に示すように、車両の運転席よりも前方には、回転軸線L1を中心として回転するステアリングシャフト(操舵軸)11が、運転席側(後側)ほど高くなるように傾斜した状態で配設されている。ステアリングシャフト11の後端部には、ステアリングホイール12が一体回転可能に取付けられている。
【0031】
なお、本実施形態では、ステアリングホイール12の各部について説明する際には、ステアリングシャフト11の回転軸線L1を基準とする。この回転軸線L1に沿う方向をステアリングホイール12の「前後方向」といい、回転軸線L1に直交する面に沿う方向のうち、ステアリングホイール12の起立する方向を「上下方向」というものとする。従って、ステアリングホイール12の前後方向及び上下方向は、車両の前後方向(水平方向)及び上下方向(鉛直方向)に対し若干傾いていることとなる。
【0032】
また、回転操作されるステアリングホイール12の位置を特定するために、本実施形態では、車両が直進しているときのステアリングホイール12の状態、すなわち中立状態を基準に、「上」、「下」、「左」、「右」を規定するものとする。従って、ステアリングホイール12の左右方向は、車両の幅方向(車幅方向)と同一となる。
【0033】
さらに、ステアリングシャフト11から径方向に遠ざかる方向(側)を径方向外方(径方向外側)といい、同ステアリングシャフト11に近づく方向(側)を径方向内方(径方向内側)というものとする。
【0034】
ステアリングホイール12は、リム部(ハンドル部、リング部と呼ばれることもある)13、パッドカバー21、ロアカバー15及びスポーク部(図1では隠れた箇所にあり見えない)を備えている。リム部13は、上記ステアリングシャフト11を中心とした略円環状をなしている。パッドカバー21は、リム部13の中央部分に配置されている。ロアカバー15は、同中央部分においてパッドカバー21の前側に配置されている。スポーク部は、リム部13及びパッドカバー21間に設けられている。
【0035】
ステアリングホイール12の上記構成部材(リム部13、スポーク部)の各内部、及びパッドカバー21とロアカバー15とによって囲まれた空間には、鉄、アルミニウム、マグネシウム、又はこれらの合金等によって形成された芯金(図示略)が配設されている。芯金は、ステアリングホイール12の骨格部分をなすものである。
【0036】
パッドカバー21とロアカバー15とによって囲まれた上記空間には、上記芯金の一部に加え、図2及び図4に示すエアバッグ装置20が配設されている。エアバッグ装置20は、車両の前面衝突(前突)等により、車両に対し前方から衝撃が加わった場合に、インフレータ(ガス発生器)30からガスGをエアバッグ37(図4参照)に供給し、そのエアバッグ37を運転者の前方で膨張させて、運転者に伝わる衝撃を緩和するための装置である。このエアバッグ装置20は、上記パッドカバー21、インフレータ30、エアバッグ37に加え、バックホルダ40、弾性支持部55、カップリテーナ70、ガスプレート80及びカバープレート90を備えて構成されている。なお、パッドカバー21はステアリングホイール12の構成部材の1つであるが、ここではエアバッグ装置20の構成部材も兼ねている。次に、エアバッグ装置20のこれらの構成部材について説明する。
【0037】
<パッドカバー21>
図2及び図5に示すように、パッドカバー21は、蓋部22と、その蓋部22の前面から略四角環状に突出する収容壁部23とを有しており、全体が合成樹脂によって形成されている。これらの蓋部22及び収容壁部23は、バックホルダ40との間に、折り畳まれた状態のエアバッグ37等を収容するための収容空間24(図5参照)を形成している。蓋部22の前面には、同蓋部22の他の箇所よりも厚みが小さく強度の低い破断予定部(図示略)が形成されており、エアバッグ37が展開膨張したときに、この破断予定部において蓋部22が破断されるようになっている。
【0038】
収容壁部23の前端部の複数箇所には、係止爪25が一体に形成されている。各係止爪25は、矩形板状をなす本体部26と、本体部26の前部から径方向外方(収容空間24から遠ざかる方向)へ突出する爪部27とによって構成されている。なお、図2では係止爪25の図示が省略されている。
【0039】
<インフレータ30>
図5及び図8(B)に示すように、インフレータ30は、略円柱状をなしており、その内部にはガス発生剤(図示略)が収容されている。このインフレータ30の軸線L2は、ステアリングシャフト11の上記回転軸線L1と同一直線上に位置している。インフレータ30の周壁部31には、複数のガス噴出孔32が周方向に略等角度毎に設けられており、ガス発生剤で発生されたガスGが各ガス噴出孔32から径方向外方へ噴出される。
【0040】
上記周壁部31上であって、ガス噴出孔32よりも前側となる箇所には、その周壁部31の全周にわたって環状のフランジ33が形成されている。フランジ33は、インフレータ30の軸線L2に直交する略平板状をなしている。フランジ33の複数箇所(4箇所)は、同フランジ33の他の箇所よりも径方向外方へ多く延出する取付け片33Aとなっている。各取付け片33Aにはリベット挿通孔34があけられている。
【0041】
また、インフレータ30の前部にはコネクタ36が組付けられており、インフレータ30への作動信号の入力配線となるハーネス(図示略)が、このコネクタ36に接続されている。
【0042】
なお、インフレータ30としては、上記ガス発生剤を用いたタイプに代えて、高圧ガスの充填された高圧ガスボンベの隔壁を火薬等によって破断してガスを噴出させるタイプが用いられてもよい。
【0043】
<エアバッグ37>
図4及び図5に示すように、エアバッグ37は、上記インフレータ30から供給されるガスGにより膨張するものであり、強度が高く、かつ可撓性を有する織布等の布によって袋状に形成されている。エアバッグ37は、ステアリングホイール12と運転者との間の領域で膨張し得る大きさを有している。エアバッグ37は、インフレータ30のガス噴出孔32から噴出されたガスGを導入するためのガス導入口38を自身の前端部に有している。エアバッグ37のガス導入口38を除く多くの部分は、図示しないが、後述するカップリテーナ70の後側で折り畳まれることによりコンパクトな形態にされている。
【0044】
<バックホルダ40>
図5及び図7(A)に示すようにバックホルダ40は、金属板をプレス加工することにより形成されている。バックホルダ40は、略四角環状をなす基部41を備えている。基部41は、インフレータ30の軸線L2に対し直交する略平板状をなしており、インフレータ30のフランジ33の径方向外方に位置している。
【0045】
基部41において、パッドカバー21の上記各係止爪25に対応する複数の箇所には、それぞれ係止孔42が形成されている。各係止孔42は、幅広の上記各係止爪25に対応して基部41の辺方向に長いスリット状をなし、同基部41を前後方向に貫通している。各係止孔42には、その後側からパッドカバー21の各係止爪25の爪部27が挿通されている。そして、各爪部27が基部41の前側で各係止孔42よりも径方向外側に位置することで、各係止爪25が各係止孔42に対し、後方への移動不能に係止されている。図6に示すように、各係止孔42の幅W1は、各係止爪25の最大厚み(爪部27が最も多く膨出している箇所での厚み)T1よりも若干広く設定されている。これは、各係止爪25を各係止孔42に挿通させるために必要な条件である。
【0046】
図5及び図7(A)に示すように、バックホルダ40は、基部41の内縁部から後方へ延びる環状の壁部43と、同壁部43の後端部から径方向内方へ延びる複数(4つ)の延出部44とをさらに備えている。従って、基部41と各延出部44とは、壁部43の分だけ前後方向にずれた箇所で互いに平行に配置されていることとなる。
【0047】
なお、本実施形態では、壁部43が、後側ほど軸線L2に近づくように傾斜しているが、同軸線L2に平行となるように形成されてもよい。
隣合う延出部44間であって、上記インフレータ30の取付け片33Aに対応する複数箇所(4箇所)にはそれぞれ円弧状の切欠き部45が形成されている。各切欠き部45は、インフレータ30が前後に振動したときに、取付け片33Aに取付けられた、後述するリベット67が延出部44に接触するのを回避するためのものである。複数の延出部44は、上記フランジ33の外形形状に対応した内形形状を有している。
【0048】
各延出部44には、1つのボルト挿通孔46と、ボルト挿通孔46よりも径の小さな複数の貫通孔47とがそれぞれあけられている。複数の延出部44によって囲まれた空間は、インフレータ30のフランジ33よりも後側部分を挿通させるための開口48となっている。
【0049】
図2及び図7(A)に示すように、上記基部41の複数箇所(3箇所)には、ホーンスイッチ機構(図示略)を取付けるための取付け部49がそれぞれ径方向外方へ突出するように形成されている。ホーンスイッチ機構は、車両に設けられたホーン装置(図示略)を作動させるためのものである。各取付け部49には、ホーンスイッチ機構の取付けのための取付け孔51が貫通形成されている。各取付け部49に取付けられたホーンスイッチ機構は、ステアリングホイール12の芯金(図示略)に支持される。この支持により、エアバッグ装置20は、芯金に対しフローティング状態となり、各ホーンスイッチ機構を変形させることにより前後方向へ移動(変位)可能である。
【0050】
<弾性支持部55>
図4及び図8(A)に示すように、弾性支持部55は、インフレータ30をバックホルダ40に弾性支持するためのものであり、前側支持部56、後側支持部62及び弾性連結部64からなる。
【0051】
図5及び図7に示すように前側支持部56は、金属板を用いて、インフレータ30のフランジ33の外形形状(図8(B)参照)と略同一の外形形状に形成されたフランジプレート57を備えている。フランジプレート57は、インフレータ30の周壁部31よりも若干大径の略円環状をなしている。フランジプレート57の複数箇所(4箇所)は、同フランジプレート57の他の箇所よりも径方向外方へ多く延出する取付け片57Aとなっている。各取付け片57Aには、上記取付け片33Aのリベット挿通孔34に対応するリベット挿通孔58があけられている。また、フランジプレート57において各取付け片57Aの近傍となる箇所には、リベット挿通孔58よりも径の小さな複数の貫通孔59があけられている。フランジプレート57は、主として、前側支持部56のフランジ33との結合強度を確保するための強度部材として用いられている。
【0052】
上記フランジプレート57の周りには、エラストマー等の弾性材からなる前側被覆部61が形成されている。この弾性材は、上記リベット挿通孔58には充填されていないが、上記貫通孔59には充填されている。そして、これらのフランジプレート57と前側被覆部61とによって前側支持部56が構成されている。前側被覆部61において、フランジプレート57の厚み方向(前後方向)についての両側部分は、貫通孔59を通じて相互に連結されている。こうした貫通孔59を通じた連結により、フランジプレート57と前側被覆部61とが一体となっている。この一体化のために接着剤は用いられていない。
【0053】
一方、後側支持部62の一部は、上記バックホルダ40の延出部44によって構成されている。各延出部44の周りには、上記前側被覆部61と同様、エラストマー等の弾性材からなる後側被覆部63が形成されている。この弾性材は、上記ボルト挿通孔46には充填されていないが、上記各貫通孔47には充填されている。そして、これらの延出部44と後側被覆部63とによって後側支持部62が構成されている。後側被覆部63において、各延出部44の厚み方向(前後方向)についての両側部分は、貫通孔47を通じて相互に連結されている。こうした貫通孔47を通じた連結により、各延出部44と後側被覆部63とが一体となっている。この一体化のために、接着剤は用いられていない。
【0054】
ここで、上述したように、フランジプレート57と各延出部44とが、上記軸線L2に沿う方向(前後方向)にずれた箇所で互いに平行に配置されていることから、前側支持部56及び後側支持部62もまた軸線L2に沿う方向(前後方向)にずれた箇所で互いに平行に配置されている。
【0055】
弾性連結部64は、上記前側被覆部61及び後側被覆部63と同一の弾性材のみによって環状に形成されており、硬質部材(フランジプレート57や延出部44)の入っている上記前側支持部56や後側支持部62よりも弾性変形しやすくなっている。弾性連結部64の前端部は、前側支持部56の外縁部に繋がり、同弾性連結部64の後端部は、後側支持部62の内縁部に繋がっている。弾性連結部64は、上記フランジプレート57の外形形状、及び延出部44の内形形状に対応した形状をなしている(図8(A)参照)。
【0056】
弾性連結部64は、インフレータ30とともにダイナミックダンパを構成するものである。本実施形態では、この弾性連結部64をダイナミックダンパのばねとして機能させ、インフレータ30をダンパマスとして機能させるようにしている。
【0057】
さらに、弾性連結部64の大きさ、径方向の厚み、前後方向の長さ等をチューニングすることで、ダイナミックダンパの上下方向や左右方向についての共振周波数が、ステアリングホイール12の上下方向や左右方向の振動について、狙いとする制振の周波数(制振したい周波数)に設定されている。
【0058】
さらに、バックホルダ40の壁部43の周り(内側及び外側)は、上記前側被覆部61や後側被覆部63と同様、エラストマー等の弾性材からなる壁被覆部65によって被覆されている。
【0059】
なお、上記の構成を有する弾性支持部55は、例えば、次のインサート成形を行なうことによって形成される。このインサート成形では、バックホルダ40及びフランジプレート57がインサート部材として金型内に配置され、バックホルダ40の各延出部44の周り、フランジプレート57の周り、及び各延出部44の内縁部とフランジプレート57の外縁部との間に弾性材がそれぞれ注入される。弾性材が硬化することで、前側被覆部61、弾性連結部64、後側被覆部63及び壁被覆部65が、バックホルダ40及びフランジプレート57と一体となった状態で形成される。
【0060】
弾性支持部55の前側支持部56はインフレータ30のフランジ33に対し後側から重ねられている。そして、各取付け片33A,57Aの各リベット挿通孔34,58に対し後方からリベット67が挿通され、そのリベット67の前端部が押し潰されることによって、前側支持部56がフランジ33に締結(かしめ固定)されている。
【0061】
上記のように締結された状態では、前側支持部56における前側被覆部61が弾性変形してフランジ33に密着し、前側支持部56とフランジ33との間に生ずる隙間は極めて小さくなっている。
【0062】
<カップリテーナ70>
図3及び図5に示すように、カップリテーナ70は、金属板をプレス加工することにより形成されている。カップリテーナ70は、環状の取付け基部72と、取付け基部72の内縁部から後方へ向けて膨出してインフレータ30を後ろ側から覆うカバー部73とを備えている。
【0063】
取付け基部72は、インフレータ30の軸線L2に対し直交する略平板状をなしており、インフレータ30のガス噴出孔32よりも僅かに後側となる箇所に配置されている。取付け基部72において、各延出部44のボルト挿通孔46に対応する箇所には、ボルト挿通孔74があけられている。
【0064】
カバー部73には、インフレータ30から噴出されたガスGをカップリテーナ70からエアバッグ37へ放出するガス放出口75が形成されている。カバー部73の前面には、フェルトによって形成された接触抑制部材76が取付けられている(図4参照)。接触抑制部材76は、インフレータ30のカバー部73との接触を抑制して、接触に伴う異音の発生を抑制するためのものである。
【0065】
<ガスプレート80>
図4及び図5に示すようにガスプレート80は、金属板をプレス加工することにより環状に形成されている。ガスプレート80の主要部をなす本体部81は、インフレータ30の軸線L2に対し直交する略平板状をなしている。本体部81は、バックホルダ40の延出部44とカップリテーナ70の取付け基部72との間に配置されている。この本体部81は、前後方向については、インフレータ30のガス噴出孔32と略同じ箇所に位置している。本体部81において各延出部44のボルト挿通孔46に対応する箇所にはボルト挿通孔82があけられている。
【0066】
ガスプレート80の本体部81と上記カップリテーナ70の取付け基部72との間には、上記エアバッグ37のガス導入口38の周辺部分が配置されている。表現を変えると、エアバッグ37のガス導入口38の周辺部分は、ガスプレート80とカップリテーナ70とによって前後から挟み込まれている。ガスプレート80は、延出部44の後方だけでなく、切欠き部45の後方にも位置している(図5参照)。そのため、エアバッグ37のガス導入口38の周辺部分は、ガスプレート80の本体部81とカップリテーナ70の取付け基部72とによって覆われた状態となっており、露出していない。
【0067】
さらに、本体部81の内周部は前方へ向けて屈曲されていて、円環状のガス流れ規制部83を構成している。ガス流れ規制部83は、弾性支持部55の弾性連結部64とガス噴出孔32との間に位置しており、同ガス噴出孔32から噴出されたガスGが弾性連結部64に向かって流れるのを規制する。ガス流れ規制部83の径方向内側には、フェルトによって形成された接触抑制部材84が取付けられている。接触抑制部材84は、インフレータ30のガス流れ規制部83との接触を抑制して、接触に伴う異音の発生を抑制するためのものである。
【0068】
なお、ガス流れ規制部83の前端部は、前側ほど軸線L2に近づくようにテーパ状に形成されている。これは、1つには、ガス流れ規制部83の前端の角部を弾性連結部64から遠ざけて、金属からなる同角部と弾性材のみからなる弾性連結部64との接触を起こりにくくするためである。また、ガス噴出孔32から噴出されたガスGをガス流れ規制部83に沿わせて流れさせることで、弾性連結部64から遠ざけるためでもある。
【0069】
<カバープレート90>
図2及び図6に示すように、カバープレート90は、金属板をプレス加工することにより形成されている。カバープレート90の主要部は環状の取付け基部92によって構成されている。取付け基部92は、軸線L2に対し直交する略平板状をなしており、インフレータ30のフランジ33よりも前方側に配置されている。カバープレート90において、各リベット67の前方となる箇所には逃がし孔91があけられている。各逃がし孔91は、弾性支持部55の弾性変形に伴いリベット67が前後方向へ振動したときに、同リベット67がカバープレート90に接触するのを回避するためのものである。
【0070】
取付け基部92において、各延出部44のボルト挿通孔46に対応する箇所にはボルト挿通孔93があけられている。図5及び図6に示すように、カバープレート90の取付け基部92とバックホルダ40の延出部44との間であって、ボルト挿通孔93,46に対応する複数箇所には、カラー(円筒状のスペーサ)94がそれぞれ介在されている。これらのカラー94により、バックホルダ40及びインフレータ30から前方へそれぞれ一定距離離れた箇所に、カバープレート90が位置決めされた状態で配置されている。そして、カップリテーナ70、ガスプレート80及びバックホルダ40の各ボルト挿通孔74,82,46と、カラー94と、カバープレート90のボルト挿通孔93に対し、同カップリテーナ70の後方からボルト95が挿通されている。カバープレート90から前方へ露出するボルト95にナット96が締付けられている。この締付けにより、カップリテーナ70、ガスプレート80及びカバープレート90がバックホルダ40に締結されるとともに、エアバッグ37のガス導入口38の周辺部分が、カップリテーナ70及びガスプレート80を介してバックホルダ40に固定されている。
【0071】
カバープレート90は、さらに、取付け基部92の内縁部から前方へ向けて膨出するカバー部97と、取付け基部92の外縁部から後方へ延びる複数(係止孔42と同数)の保持部98とを備えている。カバー部97は円環状をなし、インフレータ30の前部外周部を離間状態で覆っている。カバー部97を環状にしているのは、インフレータ30のコネクタ36に接続されたハーネスをカバープレート90よりも前方へ引き出すためである。取付け基部92とカバー部97との境界部分には、フェルトによって形成された接触抑制部材99が取付けられている。接触抑制部材99は、インフレータ30前部のカバープレート90との接触を抑制して、接触に伴う異音の発生を抑制するためのものである。
【0072】
複数の保持部98は、バックホルダ40の上記係止孔42に対応する箇所に設けられており、上記のようにカバープレート90がバックホルダ40に締結された状態では、各保持部98が係止孔42内において係止爪25の径方向内側に挿入される。各保持部98は、係止爪25が径方向内側へ撓むのを規制し、同係止爪25を、爪部27が係止孔42に係止された状態に保持する。
【0073】
カバープレート90は、上記以外にも次の機能も有する。
(i)インフレータ30が前方へ過剰に移動した場合に受け止める機能。この機能は、主として取付け基部92及びカバー部97によって発揮される。
【0074】
(ii)インフレータ30の前方に配策されているハーネスがそのインフレータ30に接触するのを規制して、ハーネスとの接触によりインフレータ30の振動が阻害されるのを抑制する機能。
【0075】
上記のようにして、本実施形態のステアリングホイール12が構成されている。次に、このステアリングホイール12の作用について説明する。
本実施形態のステアリングホイール12では、運転者が図2に示すパッドカバー21の蓋部22を押圧することにより、バックホルダ40がエアバッグ装置20の他の構成部品を伴って前方へ変位する。この変位により、ホーンスイッチ機構が閉成して、ホーン装置が作動(鳴動)する。
【0076】
また、エアバッグ装置20では、車両に対し、前面衝突(前突)等による前方からの衝撃が加わらない通常時には、インフレータ30の各ガス噴出孔32からガスGが噴出されず、エアバッグ37が折り畳まれた状態に維持される。
【0077】
上記通常時であって、車両の高速走行中やエンジンのアイドリング中に、ステアリングシャフト11を通じてステアリングホイール12に対し、上下方向や左右方向の振動が伝わる場合がある。この振動は、エアバッグ装置20では、図4及び図5に示すバックホルダ40及び弾性支持部55を介してインフレータ30に伝わる。この際、弾性支持部55では、延出部44及びフランジプレート57がともに強度部材として機能する。
【0078】
上記振動に応じて、エアバッグ装置20では、弾性支持部55の弾性連結部64がダイナミックダンパのばねとして機能し、インフレータ30がダイナミックダンパのダンパマスとして機能する。
【0079】
例えば、ステアリングホイール12が所定の周波数で上下方向へ振動すると、その周波数と同一又は近い共振周波数で弾性連結部64が弾性変形しながらインフレータ30を伴って上下方向に振動(共振)し、ステアリングホイール12の上下方向の振動エネルギーを吸収する。この吸収により、ステアリングホイール12の上下方向の振動が抑制(制振)される。
【0080】
また、ステアリングホイール12が所定の周波数で左右方向へ振動すると、その周波数と同一又は近い共振周波数で弾性連結部64が弾性変形しながらインフレータ30を伴って左右方向へ振動し、ステアリングホイール12の左右方向の振動エネルギーを吸収する。この吸収により、ステアリングホイール12の左右方向の振動が減衰(制振)される。
【0081】
このようにして、本実施形態では、ステアリングホイール12について、上下及び左右のいずれの方向についても振動が減衰(制振)される。
ここで、ステアリングホイール12内では、インフレータ30のフランジ33よりも前方側の空間に、同ステアリングホイール12の構成部品、例えば、インフレータ30に接続されたハーネスを含む各種ハーネスが配置されている。そのため、インフレータ30と一緒になって振動するもの(前側支持部56)や、インフレータ30の振動に伴い弾性変形するもの(弾性連結部64)がステアリングホイール12の上記構成部品に接触すると、その構成部品によってインフレータ30及び弾性支持部55の動きが妨げられる。ダイナミックダンパが狙いとする共振周波数で振動(共振)しなくなり、同ダイナミックダンパの振動抑制(制振)性能が低下するおそれがある。
【0082】
この点、本実施形態では、バックホルダ40の壁部43が、インフレータ30のフランジ33よりも径方向外方となる箇所から後方へ延びていて、弾性支持部55が壁部43の後端とフランジ33との間に設けられている。このことから、インフレータ30と一緒になって振動するもの(前側支持部56)も、インフレータ30の振動に伴い弾性変形するもの(弾性連結部64)も、フランジ33よりも後方に位置することとなり、同フランジ33よりも前方側の空間のステアリングホイール12の構成部品と接触しにくい。
【0083】
ところで、前突等により車両に対し前方から衝撃が加わると、慣性により運転者が前傾しようとする。一方、エアバッグ装置20では、前記衝撃に応じインフレータ30の各ガス噴出孔32からガスGが径方向外方へ噴射される。噴射されたガスGは、ガス導入口38からエアバッグ37内に供給される。このガスGにより、エアバッグ37が後側(運転者側)へ向けて、折り状態を解消(展開)しながら膨張する。この展開膨張するエアバッグ37により、パッドカバー21の蓋部22に押圧力が加わって、同蓋部22が破断予定部において破断される。破断により生じた開口を通じてエアバッグ37が後方へ向けて引き続き展開膨張する。前突の衝撃により前傾しようとする運転者の前方に、展開膨張したエアバッグ37が介在し、運転者の前傾が拘束されて、衝撃から保護される。
【0084】
この際、上記のようにガス噴出孔32から噴出されたガスGのうち、弾性連結部64に向かって流れるものは、図4及び図5において二点鎖線で示すようにガスプレート80において、弾性連結部64とガス噴出孔32との間に設けられているガス流れ規制部83に接触する。この接触によりガスGは流れ方向を、弾性連結部64に向かう方向とは異なる方向へ変えられる。そのため、ガスGが弾性連結部64に直接触れることが起こりにくく、弾性連結部64がガスGの熱による影響を受けにくくなる。
【0085】
ここで、仮に、ガスプレート80が用いられないとすると、エアバッグ37のガス導入口38の周辺部分は、バックホルダ40の延出部44とカップリテーナ70の取付け基部72とによって挟み込まれることとなる。この場合、延出部44の後方ではエアバッグ37が同延出部44によって覆われ、ガスGの熱の影響を受けにくいが、切欠き部45(図5参照)の後方ではエアバッグ37が露出し、ガスGの熱の影響を受けるおそれがある。
【0086】
この点、本実施形態では、エアバッグ37のガス導入口38の周辺部分とバックホルダ40の延出部44との間に金属製のガスプレート80が介在されていて、切欠き部45の後方にもガスプレート80が位置している。そのため、延出部44の後方はもちろんのこと、切欠き部45の後方でもエアバッグ37が露出することがなく、ガスGの熱の影響を受けにくい。
【0087】
さらに、カバープレート90がバックホルダ40に締結された状態では、各係止孔42に各係止爪25が挿入されている。各係止孔42内であって、各係止爪25の径方向内側には、カバープレート90の各保持部98が挿入されていて、各係止爪25が各係止孔42から外れる方向である径方向内方へ撓むことを同保持部98によって規制される。この規制により、各係止爪25は、爪部27が係止孔42に係止された状態に保持される。
【0088】
さらに、上記のように、ガスGが噴出された際、弾性支持部55とインフレータ30のフランジ33との間に隙間があると、ガスGの一部がこの隙間を通ってエアバッグ装置20の外部へ漏れ出るおそれがある。
【0089】
この点、本実施形態では、前側支持部56がフランジ33に締結された状態では、前側被覆部61が弾性変形してフランジ33に密着する。そのため、前側支持部56とフランジ33との間に生ずる隙間は極めて小さなものとなる。従って、ガスGはこの隙間を通ってエアバッグ装置20の外部へ漏れ出にくい。
【0090】
また、弾性支持部55とガスプレート80との間に隙間があると、ガスGの一部がこの隙間を通ってエアバッグ装置20の外部へ漏れ出るおそれがある。
本実施形態では、ガスプレート80がバックホルダ40に締結された状態では、後側被覆部63が弾性変形してガスプレート80に密着する。そのため、後側支持部62とガスプレート80との間に生ずる隙間は極めて小さなものとなる。従って、ガスGはこの隙間を通ってエアバッグ装置20の外部へ漏れ出にくい。
【0091】
以上詳述した本実施形態によれば、次の効果が得られる。
(1)バックホルダ40には、インフレータ30のフランジ33よりも径方向外方となる箇所から後方へ延びる環状の壁部43を設ける。弾性支持部55を壁部43の後端とフランジ33との間に設ける。弾性支持部55の一部を、弾性材からなる環状の弾性連結部64によって構成するようにしている(図4、図5)。
【0092】
そのため、インフレータ30と一緒になって振動するもの(前側支持部56)も、インフレータ30の振動に伴い弾性変形するもの(弾性連結部64)も、フランジ33よりも後方に位置させ、同フランジ33よりも前方側の空間のステアリングホイール12の構成部品(ハーネス等)と接触しにくくすることができる。その結果、上記構成部品との接触に起因するダイナミックダンパの制振性能の低下を抑制することができる。
【0093】
(2)弾性連結部64とガス噴出孔32との間にガス流れ規制部83を設けている(図4、図5)。
そのため、ガス噴出孔32から噴出されたガスGが弾性連結部64に向かって流れるのを規制し、同弾性連結部64が同ガスGの熱の影響を受けるのを抑制することができる。
【0094】
(3)バックホルダ40の壁部43とカップリテーナ70の取付け基部72との間に環状のガスプレート80を配置し、エアバッグ37のガス導入口38の周辺部分をガスプレート80の本体部81と取付け基部72とによって前後から挟み込むようにしている(図4、図5)。
【0095】
そのため、ガス噴出孔32から噴出されたガスGが、エアバッグ37のガス導入口38の周辺部分に直接触れるのを規制し、同周辺部分がガスGの熱の影響を受けるのを抑制することができる。
【0096】
(4)ガスプレート80の内周部を前方へ屈曲させることでガス流れ規制部83を形成している(図4、図5)。
そのため、このガスプレート80の一部(ガス流れ規制部83)によって、ガス噴出孔32から噴出されたガスGが弾性連結部64に向かって流れるのを規制し、上記(2)の効果を得ることができる。
【0097】
また、ガス流れ規制部83をガスプレート80の一部として形成しているため、ガスプレート80とは別にガス流れ規制部83を設けた場合に比べ、エアバッグ装置20の部品点数を少なくすることができる。
【0098】
(5)バックホルダ40に弾性支持されたインフレータ30を前方から覆うカバープレート90を設けている(図2、図5)。
そのため、インフレータ30と一緒になって振動するもの(前側支持部56)や、インフレータ30の振動に伴い弾性変形するもの(弾性連結部64)が、フランジ33よりも前方側の空間のステアリングホイール12の構成部品(ハーネス等)と接触するのを、カバープレート90によってさらに規制することができる。その結果、上記(1)の効果がより一層得られやすくなる。
【0099】
(6)上記(5)のカバープレート90に、バックホルダ40の係止孔42に挿入される保持部98を設けている(図2、図5)。
そのため、係止孔42に挿入された係止爪25を、爪部27が係止孔42に係止された状態に保持することができる。エアバッグ37の膨張時等にパッドカバー21に過大な力が加わっても、係止爪25が係止孔42から抜け出るのを規制することができる。
【0100】
なお、本発明は次に示す別の実施形態に具体化することができる。
・バックホルダ40の壁部43が弾性材からなる壁被覆部65によって被覆されていることを利用し、図9に示すように、壁被覆部65の内側面に、弾性材からなり、かつ径方向内方へ向けて突出する突起52が一体形成されてもよい。この突起52は、壁部43が略四角環状をなす場合、壁被覆部65の上下左右の4つの内側面に形成されることが望ましい。インフレータ30はダンパマスとして機能する際、上下方向や左右方向に多く振動するからである。
【0101】
このようにすると、ステアリングホイールからダイナミックダンパに振動が伝わった場合、弾性連結部64が弾性変形しながらインフレータ30を伴って振動する。この際、弾性連結部64自身や、同弾性連結部64とインフレータ30のフランジ33との連結部分が突起52に接触する。この接触により、インフレータ30が径方向外方へ必要以上移動することや、壁被覆部65に接触することを規制される。
【0102】
その結果、弾性連結部64の弾性変形量を必要最小限に抑えて、同弾性連結部64の耐久性低下を抑制することができる。また、厚みの小さな壁被覆部65を介して壁部43に間接的に接触することによる異音の発生を抑制することもできる。
【0103】
同様の効果は、壁被覆部65の内側面に、フェルト等からなる接触抑制部材を取付けることによっても得られる。ただし、その場合には、エアバッグ装置20の部品点数が接触抑制部材の分だけ多くなるばかりか、その接触抑制部材を壁被覆部65に固定する工程が必要となり、その分だけ製造工数が増える。
【0104】
この点、上記変更例の構成を採用すれば、壁被覆部65を形成する際に突起52を一緒に形成することができる。また、突起52と壁被覆部65とは一体となっている。そのため、接触抑制部材を取付ける場合に比べ、エアバッグ装置の部品点数及び製造工数を少なくすることができる。
【0105】
また、上記部品点数及び製造工数についてのメリットは、弾性連結部64の外側面に、弾性材からなる突起を設けることによっても得られる。しかし、その場合には、弾性連結部64の厚み、高さ等が突起の設けられない場合と異なることとなり、ダイナミックダンパの共振周波数が変化する等して、突起がダイナミックダンパの制振性能に影響を及ぼす。その点、突起52が壁被覆部65の内側面に設けられれば、弾性連結部64の厚み、高さ等が変わることがないため、突起52がダイナミックダンパの制振性能に影響を及ぼすおそれはない。
【0106】
・ガス流れ規制部83は、ガスプレート80とは別部品によって構成されてもよい。
・本発明は、上記実施形態からカバープレート90が省略されたエアバッグ装置にも適用可能である。ただし、この場合には、カバープレート90が、弾性支持部55等とハーネス等との接触を抑制する効果は期待できない。
【0107】
しかし、その場合であっても、バックホルダ40に後方へ延びる環状の壁部43が設けられていることや、壁部43の後端及びフランジ33が、弾性連結部64を有する弾性支持部55によって連結されていることに変わりはない。そのため、インフレータ30と一緒になって振動するもの(前側支持部56)や、インフレータ30の振動に伴い弾性変形するもの(弾性連結部64)と、フランジ33よりも前方側の空間のステアリングホイール12の構成部品との接触を抑制でき、ダイナミックダンパの制振性能の低下を起こりにくくする上記(1)の効果を得ることができる。
【0108】
・エアバッグ装置20内部のガスGの圧力を調整する必要がある場合には、弾性支持部55に、弾性連結部64を厚み方向に貫通する排気孔が設けられてもよい。このようにすると、エアバッグ装置20内部のガスGの一部が排気孔を通ってエアバッグ装置20の外部へ排出されることで、同エアバッグ装置20内部のガスGの圧力を調整することができる。
【0109】
・インフレータ30の周壁部31は、円環状以外の環状をなすものであってもよい。
・バックホルダ40、フランジプレート57、カップリテーナ70、ガスプレート80、及びカバープレート90の少なくとも1つは、プレス加工以外の手段、例えばダイカスト成形等によって形成されてもよい。
【0110】
・本発明は、車両に限らず、航空機、船舶等の他の乗り物における操舵装置のステアリングホイールに内装されるエアバッグ装置に適用することもできる。この場合、車両には、自家用車に限らず各種産業車両も含まれる。
【符号の説明】
【0111】
11…ステアリングシャフト、12…ステアリングホイール、20…エアバッグ装置、21…パッドカバー、25…係止爪、27…爪部、30…インフレータ、31…周壁部、32…ガス噴出孔、33…フランジ、37…エアバッグ、38…ガス導入口、40…バックホルダ、42…係止孔、43…壁部、52…突起、55…弾性支持部、64…弾性連結部、65…壁被覆部、70…カップリテーナ、80…ガスプレート、83…ガス流れ規制部、90…カバープレート、98…保持部、G…ガス。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
前後方向に延びるステアリングシャフトを中心として回転操作されるステアリングホイール内に配設されるバックホルダと、前記バックホルダに取付けられるエアバッグと、前記エアバッグにガスを供給して、前記エアバッグを後方へ膨張させるインフレータと、前記インフレータの周壁部に設けられたフランジにおいて同インフレータを前記バックホルダに弾性支持する環状の弾性支持部とを備えるエアバッグ装置であって、
前記バックホルダには、前記ステアリングシャフトの径方向について前記フランジよりも外方となる箇所から後方へ延びる環状の壁部が設けられており、
前記弾性支持部は前記壁部の後端と前記フランジとの間に設けられており、
前記弾性支持部の一部は、弾性材からなる環状の弾性連結部により構成されていることを特徴とするエアバッグ装置。
【請求項2】
前記インフレータの前記周壁部にはガス噴出孔が設けられており、
前記弾性支持部の前記弾性連結部と前記ガス噴出孔との間には、前記ガス噴出孔から噴出されたガスが前記弾性連結部に向かって流れるのを規制するガス流れ規制部が設けられている請求項1に記載のエアバッグ装置。
【請求項3】
前記インフレータを後側から覆うカップリテーナと、
前記壁部及び前記カップリテーナ間に配置され、前記カップリテーナとの間で前記エアバッグのガス導入口の周辺部分を挟み込む環状のガスプレートと
をさらに備え、
前記ガスプレートの内周部は前記ガス流れ規制部として前方へ屈曲されている請求項2に記載のエアバッグ装置。
【請求項4】
前記バックホルダの前記壁部は弾性材からなる壁被覆部により被覆されており、
前記壁被覆部の内側面には、弾性材からなり、かつ前記ステアリングシャフトの径方向内方へ向けて突出する突起が一体形成されている請求項1〜3のいずれか1つに記載のエアバッグ装置。
【請求項5】
前記バックホルダは、前後方向に貫通された係止孔を有しており、
前記ステアリングホイールの構成部材の一部をなし、かつ前記エアバッグ及び前記インフレータを後方から覆うパッドカバーには、爪部を有する係止爪が設けられ、
前記パッドカバーは、前記係止爪が前記係止孔に挿通され、前記爪部が前記係止孔に係止されることにより、前記バックホルダに締結されるものであり、
前記インフレータを前方から覆うカバープレートには、前記係止孔に挿入されて、前記係止爪を、前記爪部が前記係止孔に係止された状態に保持する保持部が設けられている請求項1〜4のいずれか1つに記載のエアバッグ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−218679(P2012−218679A)
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−89282(P2011−89282)
【出願日】平成23年4月13日(2011.4.13)
【出願人】(000241463)豊田合成株式会社 (3,467)
【Fターム(参考)】