説明

エキシマランプ

【課題】 エキシマランプの放電空間において異常放電が発生することを防止することにより、紫外線出力が経時的に低下することのないエキシマランプを提供することを目的とする。
【解決手段】 透光性部材と金属よりなる封止部材とにより気密に封止されると共に、放電ガスが内部に充填された放電容器と、前記透光性部材を挟んで対向する接地電極と高圧電極とを備えるエキシマランプにおいて、
前記封止部材の電位を前記接地電極の電位に比べて高くしたことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エキシマランプおよび当該エキシマランプを備える紫外線照射装置に関するものであり、特に、透光性部材と金属よりなる封止部材とにより気密に封止されると共に放電ガスが内部に充填された放電容器を有するエキシマランプおよび当該エキシマランプを備える紫外線照射装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から光化学反応用の紫外線光源としてエキシマランプが使用されており、放電空間を形成する放電容器内に適宜の発光ガスが充填され、エキシマ放電によりエキシマ分子を生成し、エキシマ分子から放射されるエキシマ光を放出するエキシマランプが知られている。
【0003】
このようなエキシマランプは、特許文献1に開示されているように、放電用ガスとしてアルゴン、クリプトンを使用するものであり、必要に応じてフッ素や塩素のハロゲンが封入されている。例えば、アルゴン−フッ素の放電ガスでは波長193nmの光が放射され、クリプトン−フッ素の放電ガスでは波長248nmの光が放射され、キセノン−フッ素の放電ガスでは波長351nmの光が放射され、キセノン−塩素の放電ガスでは波長308nmの光が放射される。
【0004】
図7は、従来のエキシマランプの構成の一部を示す断面図である。
放電容器100は、筒状のサファイアガラスよりなる発光管101の両端を覆うようにチタン製キャップ102を配置し、フッ素樹脂系のOリング103で発光管101とキャップ102とを封止して構成されている。放電容器100は、Oリング103によって気密封止されているので、外部と遮蔽された放電空間Sが内部に形成されている。
【0005】
上記のエキシマランプは、高圧電極104と接地電極105とが発光管101の外表面に離間して設けられ、キセノンと塩素が放電空間Sに放電ガスとして封入されている。このようなエキシマランプは、不図示の給電装置によって高圧電極104と接地電極105との間に高周波高電圧を印加することにより、放電空間S内に誘電体エキシマ放電によりエキシマが生成され、波長193nmのエキシマ光が放出される。
【0006】
【特許文献1】特許第3178162号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記のエキシマランプにおいては、点灯時間の経過に伴って放電容器100の外方へ放出される紫外線の出力が低下するため、光化学反応等に必要とされる紫外線出力を十分に得ることができないという問題が発生した。この原因については、以下のように考えられる。
【0008】
上記の従来のエキシマランプにおいては、発光管101の端部に装着されたチタン製のキャップ102が放電空間Sに対して剥きだしになっている。そのため、高圧電極104と接地電極105との間に高周波高電圧を印加したときに、発光管101の高圧電極104に対応する内面とキャップ102との間で異常放電が発生することが判明した。従って、従来のエキシマランプにおいては、放電空間Sにおいて上記の異常放電が発生することによって、高圧電極104と接地電極105との間に正常に放電が形成されなくなり、その結果として、放電容器100から放出される紫外線の出力が低下したものと考えられる。
【0009】
以上から、本発明は、エキシマランプの放電空間において上記したような異常放電が発生することを防止することにより、紫外線出力が経時的に低下することのないエキシマランプを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記した課題を解決するため、本発明のエキシマランプは、透光性部材と金属よりなる封止部材とにより気密に封止されると共に、放電ガスが内部に充填された放電容器と、前記透光性部材を挟んで対向する接地電極と高圧電極とを備えるエキシマランプにおいて、
前記封止部材の電位を前記接地電極の電位に比べて高くしたことを特徴とする。
【0011】
さらに、本発明のエキシマランプは、前記透光性部材が、珪素を含まないセラミックスによって直管状に形成され、
前記封止部材が、有底筒状に形成され、前記透光性部材の管軸方向において前記接地電極および前記高圧電極から離間すると共に前記透光性部材の端部を塞ぐよう装着され、
前記透光性部材と前記封止部材とが、当該透光性部材および封止部材の間に充填された溶加材によって封止されていることを特徴とする。
【0012】
さらに、本発明のエキシマランプは、前記放電ガスが、希ガスおよびフッ化物ガスを含むことを特徴とする。
【0013】
さらに、本発明のエキシマランプは、前記放電ガスが、アルゴンガスおよびフッ素ガスを含むことを特徴とする。
【0014】
さらにまた、本発明の紫外線照射装置は、上記したエキシマランプを内部に収容するランプハウスと、前記エキシマランプを固定する支持体とを備え、
前記支持体は、前記封止部材に当接する面が絶縁材料よりなることを特徴とする。
【0015】
さらにまた、本発明の紫外線照射装置は、上記したエキシマランプを内部に収容するランプハウスと、前記エキシマランプを固定する支持体と、当該支持体に連結されると共に前記ランプハウスに固定された連結体とを備えた紫外線照射装置であって、
前記連結部が絶縁材料よりなり、
前記支持体の前記封止部材に当接する面が金属よりなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明のエキシマランプによれば、封止部材の電位を接地電極の電位に比べて高くしたので、封止部材が金属よりなるものであっても、透光性部材の高圧電極に対応する内面と封止部材との間で異常放電が発生することを確実に防止することができるため、透光性部材を挟んで対向する接地電極と高圧電極との間で正常に放電を発生させることができるので、エキシマランプから放出される紫外線の出力が経時的に低下することなく所望の紫外線出力を得ることができる。
【0017】
また、本発明のエキシマランプによれば、珪素を含まないセラミックスによって直管状に形成された透光性部材の端部を塞ぐよう、有底筒状に形成された封止部材が装着され、透光性部材と封止部材との間に溶加材が充填されているので、セラミックスよりなる透光性部材と金属よりなる封止部材とを確実に封止することができる。
【0018】
また、本発明のエキシマランプによれば、放電ガスが希ガスおよびフッ化物ガスを含むものであっても、透光性部材が珪素を含まないセラミックスによって形成されていることから、フッ素が透光性部材に吸収されることがないために、エキシマランプから放出される紫外線の出力が低下する虞がない。
【0019】
さらに、本発明のエキシマランプによれば、放電ガスがアルゴンガスおよびフッ素ガスを含むので、放電空間内において、アルゴンとフッ素とが励起状態になって、励起状態になったアルゴンとフッ素とが結合してアルゴン−フッ素のエキシマ分子が生成されることにより、波長193nmの真空紫外光を放出することができる。
【0020】
さらに、本発明の紫外線照射装置によれば、エキシマランプを固定する支持体の前記封止部材に当接する面が絶縁材料よりなるために、封止部材の電位が浮遊電位となって接地電極の電位より高くなるので、透光性部材の高圧電極に対応する内面と封止部材との間で異常放電が発生することを確実に防止することができる。従って、本発明の紫外線照射装置によれば、透光性部材を挟んで対向する接地電極と高圧電極との間で正常に放電を発生させることができるので、エキシマランプから放出される紫外線の出力が経時的に低下することなく所望の紫外線出力を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
図1は、本発明のエキシマランプの構成を示す説明用断面図である。
エキシマランプ10の透光性部材1は、光取出し部材として機能し、平均厚みが0.3〜3mmの両端が開口した直管状で、珪素を含まない透光性セラミックスにより構成される。珪素を含まない透光性セラミックスとは、例えば、酸化アルミニウム(Al)を主成分とするサファイア(単結晶アルミナ)やアルミナ(多結晶アルミナ)、または、チタニア(TiO)、イットリア(Y)、フッ化マグネシウム(MgF)、フッ化リチウム(LiF)、フッ化カルシウム(CaF)などであり、厚さ1mmの基板において波長193nmの光を30%以上透過する部材である。
【0022】
透光性部材1の長手方向における両端に有底筒状の封止部材2が配置され、内部に放電空間Sを有する放電容器11が形成される。封止部材2の開口部径は透光性部材1の外径より大きくなっており、封止部材2が透光性部材1の端部12を覆うようにして配置される。
【0023】
封止部材2は、例えば鉄(Fe)にニッケル(Ni)及びコバルト(Co)を配合した合金のいわゆるコバールにより形成される。コバールは珪素を含まない透光性セラミックスと膨張係数がほぼ等しい金属であり、サファイアやアルミナなどの珪素を含まない透光性セラミックスより形成される透光性部材1との膨張係数の差異を小さくすることができる。珪素を含まない透光性セラミックスと膨張係数がほぼ等しい金属としては、コバールのほかにニオブ(Nb)などがある。封止部材2を珪素を含まない透光性セラミックスと膨張係数がほぼ等しい金属により形成することによって、エキシマランプ10の点灯・消灯に伴って放電容器11が加熱・冷却されても、透光性部材1と封止部材2とが膨張収縮する長さが略等しくなるので放電容器11を割れにくくすることができる。
【0024】
金属よりなる封止部材2には排気管3が設けられており、放電容器11の内部が排気管3により排気されて減圧された後、発光ガスとして希ガスと化学的安定性の高いフッ化物が封入される。放電容器11の放電空間S内に封入される発光ガスとして、アルゴン(Ar),クリプトン(Kr)又はキセノン(Xe)からなる希ガスと、六フッ化硫黄(SF)、四フッ化炭素(CF)又は三フッ化窒素(NF)からなるフッ化物とが挙げられる。発光ガスの封入後、排気管3を封止部材2との付け根から3〜100mm突き出たところを終端として圧接切断されることにより、放電容器11を密閉構造とする。
【0025】
希ガスがアルゴン(Ar)でフッ化物が六フッ化硫黄(SF)として発光ガスが放電空間S内に封入されている場合、アルゴンとフッ素の混合ガスが全圧で40kPa、このうちフッ素の割合は0.1%として封入する。フッ素をあまり多くすると、電子がフッ素に吸引されて負のイオンとなり放電が安定しないため、フッ素濃度を少なくしている。また、フッ素濃度を少なくしたことを補い、なるべく大量のエキシマ分子を作るために一定以上の圧力を必要とする。
【0026】
透光性部材1と封止部材2との間には、透光性部材1や封止部材2よりも低い融点を持った金属の溶加材4が充填されて溶融することにより、透光性部材1と金属部材である封止部材2とが封止されて放電容器11が形成される。
【0027】
溶加材4の材料としては、例えば、銀と銅との合金(Ag−Cu合金)、銀と金と銅との合金(Ag−Au−Cu合金)、チタンと銅と銀との合金(Ti−Cu−Ag合金)、インジウムと銅と銀との合金(In−Cu−Ag合金)、インジウムと金との合金(In−Au合金)などの金属合金が挙げられる。エキシマランプ10の点灯時、溶加材4は紫外線が照射されると共に加熱されるため、耐紫外線性及び耐熱性を有するものでることが要求される。
【0028】
アースに接続された接地電極5と、図3に示す給電装置33の高圧側に接続された高圧電極6とは、互いに離間して管軸方向に沿って延びると共に、透光性部材1を挟んで対向するよう透光性部材1の外表面上に配置されている。接地電極5および高圧電極6は、例えば銅をペースト状にしたものを透光性部材1の外面に塗布するか、又は、例えば板状のアルミニウムを接着剤などによって透光性部材1の外面に接着すること等によって形成されている。接地電極5と高圧電極6との間に高周波高電圧が印加されることにより、透光性部材1を介して放電空間Sにおいて接地電極5と高圧電極6との間に放電が形成される。
【0029】
接地電極5と高圧電極6との間に高周波高電圧が印加されると、アルゴンがエネルギーを得て電離されてアルゴンイオンとなり、六フッ化硫黄が解離してフッ素イオンとなり、アルゴンとフッ素が励起状態となる。励起状態に至ったアルゴンとフッ素が結合してアルゴン−フッ素からなるエキシマ分子に変化する。このように生成されたArFエキシマは脱励起することにより、波長193nmの真空紫外光を放射する。透光性部材1が光取出し部材として機能し、波長193nmの真空紫外光が透光性部材1から放電容器11の外部に放出される。
【0030】
図2は、本発明のエキシマランプの透光性部材1と封止部材2との接合部を示す拡大断面図である。
封止部材2は、例えば平均厚みが2mmのコバールよりなる部材であり、直径φ10mmの円形の底部21の端部に高さ2〜10mmの筒状の側面部22の一端が接続されている。放電容器11の放電空間S側の底部21と側面部22との接続部は滑らかなR形状となっている。底部21の中央部に直径φ1〜2mmの排気穴23が設けられ、排気穴23に続いて直径φ3mmのニッケルよりなる排気管3が取り付けられている。排気穴23の中間に段差24が設けられており、透光性部材1側の排気穴開口径25が排気管側の排気穴開口径26より小さくなっている。
【0031】
排気管3の内径は封止部材2の発光管側の排気穴開口径25に比べてわずかに大きいが略同程度の大きさであり、排気管3の外径は封止部材2の排気管側の排気穴開口径26より大きくなっている。排気管3の封止部材2に嵌合される先端3Aは薄肉になっており、排気穴23の段差24に当接できるようになっている。封止部材2と排気管3の継ぎ目に放電容器11の外側から、溶加材6を注入して、封止部材2に排気管3を固定している。
【0032】
封止部材2の開口部径は、透光性部材1の外径より0.1〜1mm大きくなっているので、透光性部材1を封止部材2の開口部に余裕をもって挿入することができる。溶加材4がセラミックスに溶着しない性質を有するので、透光性部材1と溶加材4とのなじみを良くするために、透光性部材1の外表面において端部12から5mmまでの範囲にモリブデンおよびニッケルよりなるメタライズ層13が形成されている。透光性部材1のメタライズ層13と封止部材2の側面部22との間の隙間が埋まるように溶加材4が充填される。透光性部材1と封止部材2との間に隙間が残るとフッ素などの発光ガスが漏れ出して減少してしまうので、溶加材4は封止部材2の開口部を埋める程度にまで十分に充填される。溶加材4が透光性部材1と封止部材2との緩衝材となり、透光性部材1と封止部材2の膨張伸縮によって生じるズレを許容し、ズレによって生じる隙間も塞いで放電容器11の気密性を保つことができる。
【0033】
封止部材2の底部21と透光性部材1の端部12とは、0.1〜1mm離間して配置されている。また、上記するように封止部材2の側面部22と透光性部材1の外表面に形成されたメタライズ層13との間も0.1〜1mm離間して配置され、溶加材4を介して封止されている。このように透光性部材1と封止部材2とが離間しているので、透光性部材1と封止部材2とで熱膨張率が異なっていても膨張収縮を隙間によって許容できるので、放電容器11が破裂しにくい。
【0034】
封止部材2の底部21と透光性部材1の端部12とが離間する箇所において、溶加材4が放電容器11の放電空間Sに露出する。溶加材4の露出面41は一方がメタライズ層13の端部につながり、他方が封止部材2の底部21につながり、溶加材4自体の表面張力により露出面41が弓状に湾曲している。溶加材4の充填量が増えると、露出面41の一方がメタライズ層13の端部につながる位置は変わらないが、露出面41の他方がつながる封止部材2の底部21の位置は排気穴23側に移動する。
【0035】
エキシマランプ10の放電によって放電容器11の放電空間Sに発生するフッ素イオンは酸化力が強く、ほとんど全ての元素と反応する。したがって、フッ素が取り込まれないように放電容器11の放電空間Sを形成することが好ましい。珪素はフッ素イオンによって酸化されやすいため、珪素を含むセラミックスはフッ素との反応性が高い。そのため、透光性部材1を、波長193nmの真空紫外光を透過しつつ、フッ素との反応性が低い性質を有する珪素を含まない透光性セラミックスにより構成することが好ましい。こうすることで、透光性部材1によるフッ素の取り込みを防止するとともに、透光性部材1から波長193nmの真空紫外光を外部に放射することができる。
【0036】
図3は、本発明の紫外線照射装置の第1の実施形態を示す斜視図である。
紫外線照射装置30は、エキシマランプ10と、互いに離間して配置され、エキシマランプ10が大地と水平になる姿勢で配置されるようエキシマランプ10を固定する一対の支持体31と、エキシマランプ10および支持体31を収容する直方体形状の筐体よりなるランプハウス32と、エキシマランプ10の接地電極5と高圧電極6とに対して高周波高電圧を印加するための給電装置33とを備えている。接地電極5は給電装置33のアース側に接続され、高圧電極6は給電装置33の高圧側に接続されている。
【0037】
図4は、図3の支持体31を拡大した斜視図である。
支持体31は、基体部311と蓋部312とを連結することによって構成されている。基体部311は、エキシマランプ10の外表面に当接する円弧状の凹所311Aと、互いに離間して凹所311Aの両端に連続する一対の平坦部311Bとが先端部に形成され、基端部がランプハウス32の底面に固定されている。蓋部312は、エキシマランプ10の外表面に当接する円弧状の凹所312Aと、互いに離間して凹所312Aの両端に連続する一対の平坦部312Bとが基端部に形成されている。各々の支持体31は、互いに離間して光出射窓32Aを挟んで対向するように配置され、各々の基体部311の基端部が、例えばランプハウス32の底面にそれぞれネジ止めされて固定されている。
【0038】
支持体31を構成する基体部311および蓋部312は、例えばセラミックス等の絶縁材料よりなる板材によって構成されている。支持体31を絶縁材料によって構成するのは、支持体31に固定されるエキシマランプ10の封止部材2の電位を、エキシマランプ10の接地電極5の電位に比べて高い状態にするためである。例えば、紫外線照射装置30においては、支持体31に固定された封止部材2の電位が2kVとされ、高圧電極6の電位が4kVとされている。
【0039】
エキシマランプ10は、封止部材2の外表面が基体部311の凹所311Aに当接するよう配置され、蓋部312の凹所312Aが封止部材2の外表面に当接すると共に、蓋部312の各々の平坦部312Bが基体部311の各々の平坦部311Bに当接して配置された後に、例えば基体部311と蓋部312とがネジ止めされることによって支持体31に対して固定されている。なお、エキシマランプ10は、接地電極5および高圧電極6が光出射窓32Aの直上に配置されることのないように配置されている。
【0040】
ランプハウス32は、エキシマランプ10の外部に放出される紫外線の吸収が少ない紫外線透過性材料よりなる板部材が、ランプハウス32の光出射側(図3の紙面において鉛直方向下方側)の面に形成された開口に嵌め込まれることにより、ランプハウス32の外方へ紫外線を出射するための光出射窓32Aが形成されている。光出射窓32Aは、エキシマランプ10の管軸方向の全長に比べて若干短めに形成されており、例えば、合成石英等により構成されている。
【0041】
また、ランプハウス32は、複数の微細な孔を有するメッシュ状の金属部材が、ランプハウス32の光出射方向に対し逆側(図3の紙面において鉛直方向上方側)の面に形成された開口に対し、ランプハウス32の外方側の面に取付けられることにより、ランプハウス32の内部に冷却風を導入するための通気口32Bが形成されている。エキシマランプ10の点灯時においては、不図示の冷却ファンから放出された冷却風が通気口32Bを介してランプハウス32の内部に導入され、エキシマランプ10が冷却される。
【0042】
なお、ランプハウス32は、通気口32Bが光出射窓32Aに対向する箇所に設けられていることが好ましい。すなわち、エキシマランプ10の点灯時においては、光出射窓32Aに対してエキシマランプ10から出射された紫外線が照射されるが、通気口32Bを介してランプハウス32内に導入した冷却風が光出射窓32Aにも当たるようにすることによって、エキシマランプ10と共に光出射窓32Aが冷却される。従って、光出射窓32Aがエキシマランプ10の点灯時に過度に高温状態になることがないために、光出射窓32Aの直下に配置された被処理物(図3では不図示)が、光出射窓32Aから発せられる輻射熱によって不所望に加熱される虞が無い。
【0043】
以上の本発明の紫外線照射装置30においては、エキシマランプ10における封止部材2が絶縁材料によって構成された支持台31によって固定されており、上記したように封止部材2の電位が浮遊電位となって接地電極5の電位に比べて高い状態になっているので、封止部材2と透光性部材1の高圧電極6に対応する内面との間で不所望な異常放電が発生することが確実に防止され、接地電極5と高圧電極6との間で正常に放電が形成されるため、エキシマランプ10から放出される紫外線の出力が経時的に低下することを確実に防止することができる。
【0044】
特に、希ガスおよびフッ化物ガスを含む放電ガスがエキシマランプ10の透光性部材1の内部に充填されている場合においては、上記の異常放電の発生を防止することにより、フッ化物ガスが金属材料よりなる封止部材2と反応して減少することでエキシマランプ10から放出される紫外線の出力が低下する、という不具合の発生を確実に防止することができる。
【0045】
本発明の効果を確認するために行った実験について以下に説明する。
図1に示す構成に従い、以下の仕様に基いて2種類のエキシマランプを作製した。
(エキシマランプ1)
・透光性部材1:サファイア、管径13mm、全長150mm、
アルゴンガスと六フッ化硫黄ガスの混合ガスを27kPaの圧力で封入
・封止部材2:コバール、外径15mm、全長10mm
・接地電極5、高圧電極6:幅5mm、全長100mm、
封止部材2の端部から8mm離間して配置
・点灯条件:7kV、15W
(エキシマランプ2)
・透光性部材1:サファイア、管径13mm、全長150mm、
アルゴンガスと六フッ化硫黄ガスの混合ガスを27kPaの圧力で封入
・封止部材2:コバール、外径15mm、全長10mm
・接地電極5、高圧電極6:幅5mm、全長100mm、
封止部材2の端部から10mm離間して配置
・点灯条件:8kV、19W
【0046】
図5は、実験用灯具の構成を示す断面図である。図5(a)は絶縁材料製の支持体31を備える実験用灯具の構成を示し、図5(b)は金属製の支持体31´を備える実験用灯具の構成を示している。
図5(a)、図5(b)の実験用灯具の支持体31、31´に対して、それぞれ上記のエキシマランプ1、2の封止部材2を固定した。この状態で、エキシマランプ1、2に対して上記の点灯条件でエキシマランプ1、2の点灯試験を行い、封止部材2と透光性部材1の高圧電極6に対応する内面との間で異常放電が発生するか否かを目視で確認した。点灯試験は1回につき10分間の連続点灯を行った。その結果を表1に示す。
【0047】
【表1】

【0048】
表1から次のことが判明した。
エキシマランプ1を図5(a)に示す実験用灯具の絶縁材料製の支持体31に固定して、点灯試験を10回行ったところ、異常放電は1回も発生しなかった。
エキシマランプ2を図5(a)に示す実験用灯具の絶縁材料製の支持体31に固定して、点灯試験を10回行ったところ、異常放電は1回も発生しなかった。
エキシマランプ1を図5(b)に示す実験用灯具の金属製の支持体31´に固定して、点灯試験を3回行ったところ、異常放電は3回発生した。
エキシマランプ2を図5(b)に示す実験用灯具の金属製の支持体31´に固定して、点灯試験を3回行ったところ、異常放電は3回発生した。
表1に示す実験結果によれば、エキシマランプ1、2を絶縁材料製の支持体31に固定して点灯させることによって、異常放電の発生を確実に回避することができることが確認された。
【0049】
以上の実験結果から、上記の本発明のエキシマランプ10は、図3に示す紫外線照射装置の絶縁材料よりなる支持体31に対して封止部材2を固定することにより、点灯時に封止部材2と透光性部材1の高圧電極6に対応する内面との間で異常放電が発生することを確実に防止できることが確認された。
【0050】
図6は、本発明の紫外線照射装置の第2の実施形態を示す斜視図である。図6においては、図3に示す紫外線照射装置と共通する構成には図3と同一の符号を付している。
紫外線照射装置50は、エキシマランプ10と、エキシマランプ10を収容する直方体形状の筐体よりなるランプハウス32と、互いに離間して配置され、エキシマランプ10が大地と水平になる姿勢で配置されるようエキシマランプ10を固定する一対の支持体51と、当該支持体51の基端側に連結されると共にランプハウス32の底面に固定される連結体52とを備えている。
【0051】
支持体51は、例えば、アルミニウム等の金属よりなる板材によって構成され、エキシマランプ10の外表面に当接する円弧状の凹所51Aと、互いに離間して凹所51Aの両端に連続する一対の平坦部51Bとが先端部に形成されている。支持体51には、例えばバネなどの弾性体よりなる固定部材53が、凹所51Aを跨いで各々の平坦部51B上に固定されている。
【0052】
連結体52は、例えば、セラミックなどの絶縁材料よりなる板材によって構成されており、先端面が支持体51の基端面に当接すると共に、基端面がランプハウス32の底面に当接するよう配置されている。支持体51と連結体52とは、例えばネジ止めなどの周知の手段によりランプハウス32の底面に対して固定されている。
【0053】
エキシマランプ10は、固定部材53を素手で把持して図6の紙面において鉛直方向上方側に持上げ、封止部材2の外表面が支持体51の凹所51Aに当接するよう配置された状態とした後に、固定部材53から手を離すことで固定部材53から生じる反発力によって、封止部材2が凹所51Aの表面に当接した状態で支持体51に対して固定されている。
【0054】
本発明の紫外線照射装置の第2の実施形態においては、封止部材2の電位が浮遊電位となって接地電極5の電位に比べて高い状態になっているので、封止部材2と透光性部材1の高圧電極6に対応する内面との間で不所望な異常放電が発生することを確実に防止され、接地電極5と高圧電極6との間で正常に放電が形成されるため、エキシマランプ10から放出される紫外線の出力が経時的に低下することを確実に防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】本発明のエキシマランプの構成を示す断面図である。
【図2】本発明のエキシマランプにおいて透光性部材と封止部材との接合部を示す拡大断面図である。
【図3】本発明の紫外線照射装置の第1の実施形態を示す斜視図である。
【図4】図3の支持体を拡大して示す斜視図である。
【図5】実験用灯具を示す断面図である。
【図6】本発明の紫外線照射装置の第2の実施形態を示す斜視図である。
【図7】従来のエキシマランプの構成の一部を示す断面図である。
【符号の説明】
【0056】
10 エキシマランプ
1 透光性部材
2 封止部材
3 排気管
4 溶加材
5 接地電極
6 高圧電極
31 支持体
311 基体部
312 蓋部
32 ランプハウス
32A 光出射窓
32B 通気口
51 支持体
52 連結体
53 固定部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
透光性部材と金属よりなる封止部材とにより気密に封止されると共に、放電ガスが内部に充填された放電容器と、前記透光性部材を挟んで対向する接地電極と高圧電極とを備えるエキシマランプにおいて、
前記封止部材の電位を前記接地電極の電位に比べて高くしたことを特徴とするエキシマランプ。
【請求項2】
前記透光性部材が、珪素を含まないセラミックスによって直管状に形成され、
前記封止部材が、有底筒状に形成され、前記透光性部材の管軸方向において前記接地電極および前記高圧電極から離間すると共に前記透光性部材の端部を塞ぐよう装着され、
前記透光性部材と前記封止部材とが、当該透光性部材および封止部材の間に充填された溶加材によって封止されていることを特徴とする請求項1に記載のエキシマランプ。
【請求項3】
前記放電ガスが、希ガスおよびフッ化物ガスを含むことを特徴とする請求項1に記載のエキシマランプ。
【請求項4】
前記放電ガスが、アルゴンガスおよびフッ素ガスを含むことを特徴とする請求項3に記載のエキシマランプ。
【請求項5】
請求項1ないし請求項4の何れかに記載のエキシマランプと、当該エキシマランプを内部に収容するランプハウスと、前記エキシマランプの封止部材を固定する支持体とを備えた紫外線照射装置であって、
前記支持体は、前記封止部材に当接する面が電気的絶縁性材料よりなることを特徴とする紫外線照射装置。
【請求項6】
請求項1ないし請求項4の何れかに記載のエキシマランプと、当該エキシマランプを内部に収容するランプハウスと、前記エキシマランプの封止部材を固定する支持体と、当該支持体に連結されると共に前記ランプハウスに固定された連結体とを備えた紫外線照射装置であって、
前記連結体が電気的絶縁性材料よりなり、
前記支持体の前記封止部材に当接する面が金属よりなることを特徴とする紫外線照射装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2009−238471(P2009−238471A)
【公開日】平成21年10月15日(2009.10.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−80919(P2008−80919)
【出願日】平成20年3月26日(2008.3.26)
【出願人】(000102212)ウシオ電機株式会社 (1,414)
【Fターム(参考)】