説明

エキソ−多環式ラクトン(メタ)アクリレートおよびその製造方法

【課題】 晶析などの簡便な操作で精製可能であり、且つリソグラフィー特性を緻密に設計するために必要であった、リソグラフィー条件下での安定性を向上させることのできる多環式ラクトン(メタ)アクリレートを提供する。
【解決手段】 下記一般式(1−1)および/または(1−2)で表されるエキソ−多環式ラクトン(メタ)アクリレート。
(式(1−1)および(1−2)中,Xは酸素原子、硫黄原子、または炭素数1〜8のアルキル基で置換されていてもよいメチレン基又はエチレン基を;Rは水素原子またはメチル基を;R1およびR2はそれぞれ独立に水素原子または炭素数1〜8のアルキル基を示す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は特定の立体構造を有するラクトン環を含む多環式アルコールの(メタ)アクリル酸エステルおよびその製造方法、並びにその原料として用いられる多環式ラクトンアルコールに関する。
本化合物を単独重合または他の重合性不飽和結合を有する化合物と共重合させて得られる重合体は、感光性材料に用いられる樹脂として有用なものである。
【背景技術】
【0002】
近年、LSIはますます高集積化が進んでおり、パターンルールの更なる微細化が求められている。この要求に適合する次世代の微細加工技術として期待されているのが遠紫外線リソグラフィーである。なかでもKrFエキシマレーザー光、ArFエキシマレーザー光を光源とするフォトリソグラフィーは、0.3μm以下の超微細加工に不可欠な技術としてその実現が切望されている。
【0003】
エキシマレーザー光、特に波長193nmのArFエキシマレーザー光に対して高い透過性を発揮するレジスト材料のベース樹脂としては、ポリアクリル酸又はポリメタクリル酸の誘導体が多く検討されてきている(例えば、非特許文献1および特許文献1参照)。
特に高いフォトレジスト性能を示す単量体の報告例としては、酸解離性置換基を有する単量体である下記式(I)で表される2−メチル−2−アダマンチルメタクリレートの基板密着性を付与するための単量体として、メチレンテトラヒドロフタルラクトンメタクリレート下記式(II)が挙げられている(特許文献2および特許文献3参照)。
【0004】
【化1】

【0005】
リソグラフィーの光露光工程とそれに続く加熱処理(ポストエクスポージャーベーキング)工程において、式(I)に示すエステルは光酸発生剤由来の強酸の存在下、加熱によってカルボキシル基に変換され、アルカリ性現像液への樹脂の溶解性を向上せしめる役割を担う。一方、式(II)に示すエステルはこの条件で変化することなく基板への密着性を保つことが重要である。
【0006】
エンド−メチレンテトラヒドロフタルラクトンを原料として得られる上記式(II)のメチレンテトラヒドロフタルラクトンメタクリレートについては製造方法を含めた詳細な報告がある(特許文献4および特許文献5参照)。これらの報告で得られているメチレンテトラヒドロフタルラクトンメタクリレートは異性体の混合物であるとされている。具体的には特許文献4の実施例2で得られた生成物は下記式(3−1)〜(3−4)の混合物であると記載されている。
【0007】
【化2】

【0008】
一方,特許文献5の実施例1で得られた生成物は下記式(4−1)〜(4−8)のうち少なくとも6種類からなる混合物であると記載されている。
【0009】
【化3】

【特許文献1】特開平10−274852号公報
【特許文献2】特開2001−242627号公報
【特許文献3】特開2002−275215号公報
【特許文献4】特開2002−234882号公報
【特許文献5】特開2002−308866号公報
【非特許文献1】「ジャーナル・オブ・フォトポリマー・サイエンス・アンド・テクノロジー(J.Photopolym.Sci.Tech.)」,1988年,第12巻,p.433
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上記特許文献5には粗生成物をカラムクロマトグラフィーによって精製した異性体混合物の核磁気共鳴スペクトルが示されている。我々は同様の試料を得、そのスペクトルを詳細に解析した結果、ほぼすべてのシグナルを各異性体に帰属することに成功した。それによると上記報告にあるスペクトルからは異性体の比率のうちラクトン環の配向について、エキソ:エンド≒70:30であることが明らかとなった。
【0011】
これら従来報告されているメチレンテトラヒドロフタルラクトンメタクリレートについてはすべてにおいて該当することであるが、原料のラクトンとしてエンド体のみもしくはエキソ/(エンド+エキソ)<0.7モル分率の組成物を使用した場合にあっても、生成するアルコールおよび(メタ)アクリレートの異性体組成はエキソ体が60〜75%の範囲にある混合物になることが我々の検討で明らかになった(後述する比較例1を参照)。これは酸触媒によるカルボン酸の付加反応を行う際に、プロトン化されたノルボルナン骨格特有の転位反応が進行し、ある平衡定数で定められる組成(カルボニウムイオンの平衡
組成K=K12で決まる)までエンド体からエキソ体への変換が行われることに基づくと考えられる(下記式(5))。
【0012】
【化4】

【0013】
上記の報告においては,生成物はいずれも室温で液状物質として得られることが示されている。このような性状を示す混合物を精製しようとする場合、再結晶などの簡便な手段はとれず、一般的な工業的手段としては蒸留が採用されると考えられるが、目的物質の粘度が高い上に沸点が非常に高く高温では重合など安定性に不安があると推定されることから、厳しい減圧条件のもとでの蒸留精製を強いられることとなり、製造における重合トラブルや経済性の悪化を招くことになる。
【0014】
以上のようにこれまで明らかとなっているメチレンテトラヒドロフタルラクトン(メタ)アクリレートはラクトン環の立体がエキソ型およびエンド型の混合物であり、常温では高粘性液体で高い沸点を有する物質であるため精製が困難であった。
これに対し異性体比率を制御することによって生成物を固体として取得できるようになれば、再結晶などの簡便な手法による製品の精製が可能となる。
【0015】
また別の課題として、酸やアルカリなどエステル結合の開裂を促進する試剤に対する安定性がいずれか高いかなどの性能差については明らかにされていなかった点を指摘できる。本化合物をフォトレジスト樹脂原料のモノマーとして使用することを考えた場合には、樹脂のリソグラフ特性を緻密に設計する上で、酸に対する安定性が十分に高くリソグラフィー条件下で安定に存在することが望まれる。すなわち何れかの異性体が酸に対する高い安定性を有することが明らかとなり、かつその異性体のみを選択的に取得できるならば、上記の目的が達成されることになる。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意検討した結果、エキソ型の多環式ラクトン(メタ)アクリレートはエンド型異性体と比較して,酸性条件での安定性が極めて高いこと、そしてこのエキソ−多環式ラクトン(メタ)アクリレートはエキソ−多環式フタル酸無水物を出発原料とすれば製造できること、そしてこのエキソ−多環式ラクトン(メタ)アクリレートを80重量%以上含有する多環式ラクトン(メタ)アクリレートは、特定の有機溶媒の溶液からの晶析操作によって、さらに高純度のエキソ−多環式ラクトン(メタ)アクリレートが結晶として取得できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0017】
即ち本発明の第1の要旨は、下記一般式(1−1)および/または(1−2)で表され
るエキソ−多環式ラクトン(メタ)アクリレート、に存する。
【0018】
【化5】

【0019】
(式(1−1)および(1−2)中,Xは酸素原子、硫黄原子、または炭素数1〜8のアルキル基で置換されていてもよいメチレン基又はエチレン基を;Rは水素原子またはメチル基を;R1およびR2はそれぞれ独立に水素原子または炭素数1〜8のアルキル基を示す。)
本発明の第2の要旨は、上記一般式(1−1)および/または(1−2)で表されるエキソ−多環式ラクトン(メタ)アクリレートを80重量%以上含有してなる多環式ラクトン(メタ)アクリレート、に存する。
【0020】
本発明の第3の要旨は、上記エキソ−多環式ラクトン(メタ)アクリレートを重合してなる重合体、に存する。
本発明の第4の要旨は、下記一般式(2−1)および/または(2−2)で表されるエキソ−多環式ラクトンアルコールを80重量%以上含有する多環式ラクトンアルコールを原料として用いる、上記多環式ラクトン(メタ)アクリレートの製造方法。
【0021】
【化6】

【0022】
(式(2−1)および(2−2)中、Xは酸素原子、硫黄原子、または炭素数1〜8のアルキル基で置換されていてもよいメチレン基又はエチレン基を;Rは水素原子またはメチル基を;R1およびR2はそれぞれ独立に水素原子または炭素数1〜8のアルキル基を示す。)
本発明の第5の要旨は、上記一般式(2−1)および/または(2−2)で表されるエキソ−多環式ラクトンアルコール、に存する。
【0023】
本発明の第6の要旨は、上記一般式(2−1)および/または(2−2)で表されるエキソ−多環式ラクトンアルコールを80重量%以上含有してなる多環式ラクトンアルコール、に存する。
【発明の効果】
【0024】
本発明によって、従来精製が困難とされていた多環式ラクトン(メタ)アクリレートが晶析などの簡便な操作で精製可能となり、且つリソグラフィー特性を緻密に設計するために必要であった該(メタ)アクリレートのリソグラフィー条件下での安定性が向上する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下に本発明につき詳細に説明する。
<エキソ−多環式ラクトン(メタ)アクリレート>
本発明のエキソ−多環式ラクトン(メタ)アクリレートは、下記一般式(1−1)および/または(1−2)で表されるものである。なお、本願において(メタ)アクリレートとは、メタクリレートおよび/またはアクリレートを指すものとする。
【0026】
【化7】

【0027】
式(1−1)および(1−2)中,Xは酸素原子、硫黄原子、または炭素数1〜8のアルキル基で置換されていてもよいメチレン基又はエチレン基を;Rは水素原子またはメチル基を;R1およびR2はそれぞれ独立に水素原子または炭素数1〜8のアルキル基を示す。このうち、Xはメチレン基またはエチレン基であるのが好ましく、メチレン基が最も好ましい。R1およびR2はいずれも水素原子であるのが好ましい。このエキソ型の多環式ラクトン(メタ)アクリレートはエンド型異性体と比較して,酸性条件での安定性が極めて高い。
【0028】
下記一般式(1−3)で表される多環式ラクトン(メタ)アクリレート(R、R1およ
びR2はそれぞれ式(1−1)及び(1−2)におけるのと同義である)が、上記式(1
−2)および/または(1−2)で表されるエキソ体を80重量%以上、好ましくは85重量%以上、より好ましくは90重量%以上の純度で含有するものである場合、特定の有機溶媒の溶液からの晶析操作によって、さらに高純度のエキソ−多環式ラクトン(メタ)アクリレートを結晶として取得することができる。
【0029】
【化8】

【0030】
<多環式ラクトン(メタ)アクリレートの製造方法>
上記一般式(1−3)で表される多環式ラクトン(メタ)アクリレートのうち、Xがメチレン基、R1およびR2がいずれも水素原子であるメチレンテトラヒドロフタルラクトン(メタ)アクリレートを製造する方法を例に挙げると、従来、報告されている原料は、全て下記一般式(6−1)および/または(6−2)で表されるメチレンジヒドロフタルラクトンである。
【0031】
【化9】

【0032】
式(6−1)はエキソ−メチレンジヒドロフタルラクトンであり,式(6−2)はエンド−メチレンジヒドロフタルラクトンである。これらラクトンの原料として一般に入手しやすい物質は対応するエンド酸無水物であり、これをこのまま還元すればエンド−メチレンジヒドロフタルラクトンが得られる。エキソ−メチレンジヒドロフタルラクトンまたはエンド/エキソ混合物を得る場合には酸無水物の段階でその立体を変換する必要がある。
【0033】
<1.エキソ−メチレンテトラヒドロフタル酸無水物とエンド−メチレンテトラヒドロフタル酸無水物との混合物の製造方法>
メチレンテトラヒドロフタル酸無水物は、マレイン酸無水物とシクロペンタジエンまたはジシクロペンタジエンとのDiels−Alder反応によって合成される。本反応では速度論支配の条件で制御するとエンド体が主生成物となる事が知られており(S.H.Pine著 Organic Chemistry)、純度の高いエンド体が工業的に生産されている。一方、エキソ体の生成量を上げる為には熱力学支配の反応条件にすることが有効であることが知られている。言い換えれば、長時間、高温条件に保持する事でエキソ体の生成量を増すことは可能である。
【0034】
従って、本発明で使用するエキソ−メチレンテトラヒドロフタル酸無水物とエンド−メチレンテトラヒドロフタル酸無水物の混合物を得る方法として、以下2種類の方法が例示される。
(1)エンド−メチレンテトラヒドロフタル酸無水物の異性化反応
エンド−メチレンテトラヒドロフタル酸無水物を加熱処理することで、エキソ−メチレンテトラヒドロフタル酸無水物が生成し、エンド体とエキソ体の混合物が生成する。
【0035】
加熱処理温度は、下限が通常140℃以上、好ましくは160℃以上、更に好ましくは170℃以上であり、上限が通常300℃以下、好ましくは270℃以下、更に好ましくは250℃以下である。
反応時間は、下限が通常1分以上、好ましくは5分以上であり上限は通常10時間以下である。
【0036】
反応は適当な溶媒中で行うことが好ましく、使用できる溶媒の種類としては、原料、中間体および生成物に対して不活性であれば制限はないが、例えばヘキサン、ヘプタン、オクタンなどの脂肪族炭化水素類;ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素類;酢酸エチル、酢酸ブチルなどのエステル類;ブチロラクトン、バレロラクトンなどのラクトン類;ジブチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、テトラヒドロフランなどの鎖状または環状エーテル類などが例示できる。
(2)無水マレイン酸とジシクロペンタジエンのDiels−Alder反応
無水マレイン酸とジシクロペンタジエンを加熱することで、エキソ−メチレンテトラヒドロフタル酸無水物とエンド−メチレンテトラヒドロフタル酸無水物の混合物を得ることができる。無水マレイン酸の仕込み量はジシクロペンタジエンに対して、下限が通常1モル比以上、好ましくは1.5モル比以上、更に好ましくは2モル比以上であり、上限は通常10モル比以下、好ましくは5モル比以下である。
【0037】
反応温度は、下限が通常140℃以上、好ましくは160℃以上、更に好ましくは170℃以上であり、上限が通常300℃以下、好ましくは270℃以下、更に好ましくは250℃以下である。
反応時間は、下限が通常1分以上、好ましくは5分以上であり、上限が通常10時間以下である。
【0038】
反応時に上記(1)に例示したような溶媒を共存させてもかまわない.
<2.優先結晶化によるエキソ−メチレンテトラヒドロフタル酸無水物の取得>
ここではエキソ−メチレンテトラヒドロフタル酸無水物とエンド−メチレンテトラヒドロフタル酸無水物の混合物から、エキソ−メチレンテトラヒドロフタル酸無水物を優先的に結晶化させる方法を例示する。この際には溶媒の使用が必要であり、溶媒としては30℃において原料混合物の溶解度が50以下であることが要件となる。この要件を満たす溶媒の例としては、ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素類;ヘキサン、ヘプタン、オクタンなどの脂肪族炭化水素類;ジブチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、テトラヒドロフランなどの鎖状または環状エーテル類;酢酸エチル、酢酸ブチルなどのエステル類;ブチロラクトン、バレロラクトンなどのラクトン類が例示される。とりわけ芳香族炭化水素類、脂肪族炭化水素類が好ましく、更に好ましくは、ベンゼン、トルエン、キシレンなどの単環芳香族炭化水素類である。
【0039】
結晶化に際しては、種晶を添加することも好適に行われる。
優先結晶化処理により純度の高いエキソ体が得るためには、溶媒に応じた温度設定が重要である。結晶と母液をろ別する際の温度が高すぎると、純度は高いが収量が減り、逆に冷却しすぎると収量は高いが純度が低下する。結晶化温度は、溶媒の種類および量によって最適な条件を選択することになる。一般的には、下限が通常−20℃以上、好ましくは0℃以上、更に好ましくは10℃以上であり、上限が通常80℃以下、好ましくは50℃以下、更に好ましくは40℃以下である。また、溶媒を用いる場合には、溶媒量が極端に多いと収量が減る。好ましい使用量は、エンド体およびエキソ体の合計重量に対し、下限が通常0.1重量倍以上、好ましくは0.5重量倍以上であり、上限が通常20重量倍以下、好ましくは10重量倍以下である。必要に応じて再結晶を行えば、更に純度を向上させることができる。
【0040】
<3.エキソ−メチレンテトラヒドロフタルラクトン化合物の製造方法>
得られたエキソ−メチレンテトラヒドロフタル酸無水物は、1つのカルボニル基を公知の方法又はそれに準じた方法に従い還元することによりラクトン化合物とすることができる。
還元反応に用いられる還元剤としては、カルボニル基の還元に用いられるものであれば特に限定されないが、好ましい具体例としては、水素化ホウ素ナトリウム、水素化リチウムアルミニウムといったホウ素又はアルミニウムの水素化物等の金属水素化物における活性水素の一部をアルコキシドで置換した化合物が挙げられる。なおアルコキシド系還元剤は、対応する金属水素化物とアルコールとを還元反応に先立って量論量混ぜ合わせることによって調製してもよい。
【0041】
還元剤はエキソ−メチレンテトラヒドロフタル酸無水物に対し、化学量論量ないしは過剰量で使用するのが好ましい。具体的には原料である上記酸無水物のモル数に対する還元剤の活性水素当量数の比で下限が通常0.25以上、好ましくは0.3以上であり、上限が通常20以下、好ましくは15以下の範囲である。
還元剤と酸無水物との反応は一般にそのいずれかの溶液または懸濁液に他方の溶液または懸濁液を少量ずつ添加することによって進められる。完全に添加した後、反応を完結させるために添加時の温度と同様あるいは異なる温度条件で所定時間の攪拌が加えられる。
添加温度およびその後の攪拌温度は一般に−100℃〜100℃で行なわれるが、水素化リチウムアルミニウムやその一部アルコキシド置換体を用いる場合には−78〜−20℃で行うのが好ましく、また水素化ホウ素ナトリウムやその一部アルコキシド置換体を用いる場合には−20℃〜100℃で行うのが好ましい。
【0042】
反応時間および添加反応後の攪拌時間は反応温度などの条件によって変化するが、一般には添加時間および攪拌時間は下限が通常0.1時間以上、好ましくは0.2時間以上であり、上限が通常100時間以下、好ましくは80時間以下の範囲である。反応は十分に乾燥されたヘリウム、窒素、アルゴンなどの不活性ガス雰囲気下で行われる。
反応溶媒については、例えばM.M.Kayserら,Canadian Journal of Chemistry, vol.56,
p.1524(1978)などに開示されている方法ではジメチルホルムアミド等が推奨されている
が、生成物の単離などの総合的な利便性を考慮するならばジエチルエーテル、ジプロピルエーテル、ジブチルエーテル、1,2−ジメトキシエタンなどの脂肪族鎖状エーテル類;テトラヒドロフラン、ピラン、1,3−ジオキソラン、1,4−ジオキサンなどの環状エーテル類溶媒中で行うのが好ましい。その使用量は一概に規定できず任意であるが、一般には原料濃度として下限が通常0.1重量%以上、好ましくは0.5重量%以上であり、上限が通常80重量%以下、好ましくは70重量%以下の範囲である。
【0043】
上記還元反応終了後、反応液を硫酸、塩酸などの酸性水溶液と混ぜ合わせることによって、未反応の還元剤および基質と還元剤の錯化合物中間体を分解させてから、水と混和しない有機溶媒、例えばヘキサン、ヘプタン、オクタンなどの脂肪族炭化水素類;ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素類;酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチルなどのエステル類;ジエチルエーテル、ジプロピルエーテル、ジブチルエーテルなどのエーテル類を用いて目的生成物を抽出する。反応溶媒としてテトラヒドロフランなどの水と任意の比率で混和するものを使用した場合は抽出効率が低下するので、必要に応じて抽出に先立って反応溶媒の一部または全部を減圧蒸留などの一般的な方法で除去するのがよい。
【0044】
上記の酸の濃度は特に限定されないが、一般的に0.1〜5規定の水溶液が使用される。これらの酸水溶液を用いた加水分解によって得られる溶液はpH2以下の酸性とすることが好ましい。この分解反応に必要とする反応温度と反応時間は原料の種類によって異なり、酸処理時間が収率や分離困難な副生成物の量に影響する。一般に温度は下限が通常−5℃以上、好ましくは0℃以上であり、上限が通常80℃以下、好ましくは50℃以下の範囲である。時間は下限が通常0.1時間以上、好ましくは0.2時間以上であり、上限が通常100時間以下、好ましくは80時間以下の範囲である。
【0045】
<4.エキソ−メチレンテトラヒドロフタルラクトン(メタ)アクリレートの製造方法>
エキソ−メチレンテトラヒドロフタルラクトンから(メタ)アクリレートエキソ−メチレンテトラヒドロフタルラクトン(メタ)アクリレートを製造するには、(1)酸触媒を使用するエキソ−メチレンテトラヒドロフタルラクトンへの(メタ)アクリル酸の付加反応による方法、(2)エキソ−メチレンテトラヒドロフタルラクトンアルコールを中間体とする方法の2つの方法がある。
(1)酸触媒を使用するエキソ−メチレンテトラヒドロフタルラクトンへの(メタ)アクリル酸の付加反応による方法
本発明の(メタ)アクリレートを製造するにはエキソ型ラクトンと(メタ)アクリル酸を鉱酸、好ましくは濃硫酸または希硫酸の存在下に反応させる。硫酸の使用量については、原料のラクトン化合物に対して、下限が通常0.01モル%以上,好ましくは0.1モル%以上であり、上限が通常100モル%以下、好ましくは50モル%以下である。希硫酸を触媒として使用する場合には、反応系内における水の量は水および硫酸の合計量100重量%に対し、下限が通常5重量%以上であり、好ましくは10重量%以上、より好ま
しくは20重量%以上である。上限は、通常45重量%以下、好ましくは40重量%以下である。
【0046】
本反応では反応条件下で触媒である硫酸および水と混和しない有機溶媒を用いるが、具体例としては、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素系溶媒や、ジエチルエーテル、ジブチルエーテル等のエーテル系溶媒が挙げられる。有機溶媒の使用量は、ラクトン化合物に対して、下限が通常0.01倍重量以上、好ましくは1倍重量以上であり、上限が通常100倍重量以下、好ましくは10倍重量以下である。ここで、(メタ)アクリル酸は原料のラクトン化合物に対して通常1〜10倍モルを用いる。
【0047】
また本反応においては重合禁止剤を通常100〜10000ppm存在させるのが好ましい。
反応は通常、攪拌下に行い、反応温度は通常室温以上、好ましくは50℃以上、上限が通常200℃以下、好ましくは150℃以下で行う。
反応開始方法としては、室温で原料をすべて仕込んでから所定温度に昇温してもよいし、一部を仕込んだ後昇温し、反応基質や後述する触媒などを滴下してもよい。
【0048】
反応時間は下限が通常0.1時間以上、好ましくは1時間以上であり、上限が通常100時間以下、好ましくは20時間以下である。
(2)エキソ−メチレンテトラヒドロフタルラクトンアルコールを中間体とする方法
この方法では先ず上述したエキソ−多環式ラクトンからエキソ−多環式ラクトンアルコールを製造する。
【0049】
上記一般式(1−1)および/または(1−2)で表されるエキソ−多環式ラクトン(メタ)アクリレートを製造するためのエキソ−多環式ラクトンアルコールは下記一般式(2−1)および/または(2−2)で表されるものである。
【0050】
【化10】

【0051】
(式(2−1)および(2−2)中、Xは酸素原子、硫黄原子、または炭素数1〜8のアルキル基で置換されていてもよいメチレン基又はエチレン基を;Rは水素原子またはメチル基を;R1およびR2はそれぞれ独立に水素原子または炭素数1〜8のアルキル基を示す。)
エキソ−多環式ラクトン(メタ)アクリレートを80重量%以上含有する多環式ラクトン(メタ)アクリレートを製造するためには、エキソ−多環式ラクトン(メタ)アルコールを80重量%以上含有する多環式ラクトンアルコールを原料として用いるのがよい。
【0052】
多環式ラクトンから多環式ラクトンアルコールを製造するには、いくつかの方法が知られているが、エキソ−多環式ラクトンとして、上述したエキソ−メチレンテトラヒドロフタルラクトンを使用する場合、上記で示したエキソ−メチレンテトラヒドロフタルラクトンへの(メタ)アクリル酸の付加反応と同様の反応を(メタ)アクリル酸に代えてギ酸や酢酸などの低級カルボン酸を用いることによって行い、ギ酸または酢酸エステルを得、これをアルカリ加水分解してアルコールを得る方法が一般的である。
【0053】
使用する塩基としてはナトリウム、カリウムなどアルカリ金属の水酸化物、炭酸化物、シアン化物が一般的である。ラクトン環の開環を防ぐために、基質に対する塩基のモル比は通常1〜1.2当量の範囲とする。使用する水の量は量論量以上であれば問題はないが、基質と水を均一の系に存在させるためにメタノール、エタノールなどの低級アルコールを溶媒とすることが好ましい。
【0054】
アルコールを得る別の方法としてボランまたはその等価体をエキソ−メチレンテトラヒドロフタルラクトンへ付加した後、酸化分解する方法も有効に採用できる。反応条件は様々なボラン水素化物と酸化剤の組み合わせが公知であり、その中から適当な試剤を利用すればよい。
次に、上記で得たアルコールと(メタ)アクリル酸ハライドの反応によって、目的物である(メタ)クリレートを製造する。(メタ)アクリル酸ハライドとして使用できるハライドはクロリド、ブロミドおよびアイオダイドであるが、このうちではクロリドが一般的である。これらの酸ハライドの代わりとして酸無水物を使用することも可能である。アルコールに対するこれら(メタ)アクリレート試剤の使用量は1〜2当量の範囲が好ましい。
【0055】
反応の際には塩基が使用される。その例としては、トリエチルアミン、トリブチルアミンなどの脂肪族第3アミン;メチルピロリジン、メチルピペリジン、ジメチルピペラジンなどの脂肪族環状第3アミン;ピリジン、ピコリン、ルチジンなどの芳香族アミン;ナトリウム、カリウムなどのアルカリ金属水酸化物、炭酸化物など無機塩基が一般的である。アルコールに対するこれら塩基の使用量は1.2〜2.4当量の範囲が好ましい。
【0056】
<5.エキソ−メチレンテトラヒドロフタルラクトン(メタ)アクリレートの精製方法>
上述の例などの方法によって得られた メチレンテトラヒドロフタルラクトン(メタ)
アクリレートのエキソ型およびエンド型混合物の性状は異性体組成によって変化するが、上気した80重量%以上のエキソ型異性体組成からなる多環式ラクトン(メタ)アクリレート混合物は、一般に粘りのある固体である。必要に応じて晶析を行うことにより、さらに高純度の結晶としてエキソ体を取得できる。
【0057】
晶析精製に使用する溶媒としてはペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、イソオクタン、ノナン、デカンなどの炭素数5〜16の直鎖状または分岐状の飽和炭化水素類;シクロペンタン、シクロヘキサン、シクロオクタン、テトラリンなどの炭素数5〜16の脂環式飽和炭化水素類;ベンゼン、トルエン、キシレン、クメン、デカリンなどの炭素数5〜16の芳香族炭化水素類;メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、シクロヘキサノールなどの炭素数1〜12の脂肪族アルコール類;ジエチルエーテル、ジプロピルエーテル、ジブチルエーテル、テトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン、ジオキサンなどの脂肪族エーテル類;酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチルなどの脂肪族エステル類;アセトン、メチルエチルケトンメチルイソブチルケトンなどの脂肪族ケトン類など、一般的な有機溶剤が使用可能である。晶析温度については使用する溶媒や対象となる混合物の異性体組成によって変化するが、下限が通常−100℃以上、好ましくは−50℃以上、上限が通常100℃以下、好ましくは50℃以下の範囲である。
【実施例】
【0058】
以下に実施例により本発明を更に具体的に説明する.
合成例1
エキソ−メチレンテトラヒドロフタルラクトンの製造
(エンド−メチレンテトラヒドロフタル酸無水物の異性化反応)
反応器に、市販のエンド−メチレンテトラヒドロフタル酸無水物150g、トルエン150gを仕込んだ。系内の攪拌下、190℃に昇温し、2時間保持した。その後、反応器を25℃まで冷却した所、反応液には結晶が析出していた。結晶を濾別した後、結晶を乾燥させた所、重量は61gであった。かかる結晶をTHFに溶解し、ガスクロマトグラフで分析した結果、エキソ−メチレンテトラヒドロフタル酸無水物が82.3wt%の純度で存在していることがわかった。
【0059】
(再結晶)
かかる結晶51g、トルエン51gをガラス容器に仕込んだ。95℃に昇温し、結晶を完全に溶解させた。その後、溶液を25℃まで冷却させた。反応器内には結晶が析出しており、結晶を濾別した後、結晶を乾燥させた所、重量は39gであった。かかる結晶をTHFに溶解し、ガスクロマトグラフで分析した結果、エキソ−メチレンテトラヒドロフタル酸無水物が94.2wt%の純度で存在していることがわかった。
【0060】
(還元反応によるラクトンの製造)
反応器にTHFを33g、NaBH4を2.3g仕込み、攪拌を開始した。一方、上記
結晶10g、メタノール2g、THF60gをあらかじめ混合させた溶液を1時間かけて上記反応器に滴下した。その間、反応器の内温を25℃に制御した。滴下終了後、攪拌下、25℃で2時間保持した。
【0061】
続いて、攪拌下、2規定の硫酸水溶液36.5gを1時間かけて滴下した。反応器の内温は25℃に制御した。さらに水20gを加えた。
続いて、反応器にトルエン5gを加え、攪拌後に静置した。反応器の内容物は2層に層分離した。水層を除去し、油層のみを取り出した。エバポレーターにて溶媒留去を行った。
【0062】
溶媒留去後の残査にトルエン45gと、5%重曹水20gを加え、攪拌した後、静置し、水層を除去した。更に5%重曹水20gを加え、同様に水層を除去した。かかる重曹水による洗浄を6回繰り返した。得たトルエン層をエバポレーターにて溶媒留去を行った所、5.6gの液状化合物が得られた。ガスクロマトグラフで分析した結果、エキソ体/エンド体=97.9/2.1の割合でのラクトン化合物の混合物を得た。
【0063】
実施例1
エキソ−メチレンテトラヒドロフタルラクトンアルコールの製造
合成例1で得られたエキソ−メチレンテトラヒドロフタルラクトン混合物1.00g(6.66ミリモル)を窒素で置換した容量50mlの3つ口フラスコに入れ、テトラヒドロフラン7mlを加えて溶解させた.フラスコを氷水浴にて冷却し、内温を5℃とした。攪拌しながらこの溶液に1M濃度のボランテトラヒドロフラン錯体(テトラヒドロフラン溶液)3.33ml(3.33ミリモル)を15分かけてゆっくり滴下した。この間フラスコ内の温度が一時10℃まで上昇するのが観察されたが、滴下が終了すると速やかに温度は5℃となった。滴下終了後、内温を20℃に戻しながら、さらに2.5時間攪拌を継続した。
【0064】
再びフラスコを氷水浴にて内温を5℃とした後、水1mlと2.5規定の水酸化ナトリウム水溶液3.5mlをゆっくり加えた。さらにこの溶液に30%過酸化水素水2.9g(30ミリモル)を内温が20℃以上にならないようにゆっくり滴下した。浴を湯浴に変え、内温が40℃となるよう調節して1時間攪拌しながら反応を継続した。反応終了後、塩化ナトリウムを加えて油層を分離し、水層は各10mlの酢酸エチルで2回抽出した。上記油層と酢酸エチル抽出液を混合し、飽和亜硫酸ナトリウム液で洗浄しヨウ化カリウム
溶液による呈色反応を示さなくなったことを確認した。その後、飽和食塩水10mlで洗浄し、無水硫酸マグネシウムで乾燥した。ろ過の後、溶媒を留去して無色の油状物0.47gを得た。このものをガスクロマトグラフィーとマススペクトルにより分析したところ、純度49%で目的物のエキソ−メチレンテトラヒドロフタルラクトンアルコールが含まれていることがわかった。
【0065】
上記した抽出後の水層に濃塩酸を数滴滴下してpHを1とした後、飽和となるまで塩化ナトリウムを加えた。さらに、ヨウ化カリウム溶液による試験で呈色しなくなるまで亜硫酸ナトリウムを加え過剰の過酸化水素を分解した。この水層を各20mlの酢酸エチルで3回抽出し、硫酸マグネシウムで乾燥後、ろ過し、溶媒を留去して無色の油状物0.22gを得た。このものをガスクロマトグラフィーにより分析したところ、純度90%で目的物のエキソ−メチレンテトラヒドロフタルラクトンアルコールが含まれていることが分かった。1H−NMRを測定したところ下記のデータを与え、エキソ−メチレンテトラヒド
ロフタルラクトンアルコールの構造を支持することが分かった。
【0066】
エキソ−メチレンテトラヒドロフタルラクトンアルコールの合計の収率は38%であった

1H-NMR (400MHz, CDCl3-D2O)]
0.6-2.7ppm 8H (C1-H, C2-H, C-6H, C7-H, C8-H2, (or C9-H2), C10-H2)
3.3-4.6ppm 3H (C5-H2, HO-C-H)
[GC-mass (EI)]
168(M+), 150(M-H2O), 140(メタステーブルイオンピーク, M-CO), 124(M-CO2), 80, 79
実施例2
エキソ−メチレンテトラヒドロフタルラクトンへのメタクリル酸の付加反応によるエキソ−メチレンテトラヒドロフタルラクトンメタクリレートの製造
下記式(7)の反応を以下の処方で実施した。合成例1で得られたエキソ−メチレンテトラヒドロフタルラクトン(純度90%)を4当量のメタクリル酸に溶解し、ここに95%硫酸をラクトンに対するモル比で0.2加え、85℃で4時間攪拌した。
【0067】
このものをガスクロマトグラフィーにより分析したところ、純度92%で目的物のエキソ−メチレンテトラヒドロフタルラクトンメタクリレートが含まれていた。また、原料の転化率は95%以上であった。
【0068】
【化11】

【0069】
反応液を常法によって処理して硫酸を除き,白色固体を得た。この生成物の1H−NM
Rを測定したところ、生成物の立体異性体は表1に示す組成であることが明らかとなった。
比較例1
エンド−メチレンテトラヒドロフタルラクトンへのメタクリル酸の付加反応によるエキソおよびエンド−メチレンテトラヒドロフタルラクトンメタクリレート混合物の製造
下記式(8)の反応を以下の処方で実施した。エンド−メチレンテトラヒドロフタルラ
クトンを4当量のメタクリル酸に溶解し、ここに95%硫酸をラクトンに対するモル比で0.2加え、85℃で4時間攪拌した。内容物を常法によってガスクロマトグラフ分析したところ、原料の転化率は5%以下であり、対応するメタクリレートの混合物が生成していることが認められた。
【0070】
【化12】

【0071】
以上のようにエキソ−ラクトンのメタクリル化反応は,エンド−ラクトンのそれよりも十分に速く進行することが明らかとなった。
そこで反応の進行を十分に確保するために温度を130℃とした以外は上記と同様の条件で反応操作を行ったところ、4時間の反応で原料転化率は95%以上に達した。常法によって反応液を処理し、得られた粘性液体の1H−NMRを測定したところ、生成物の立
体異性体は表1に示す組成であることが明らかとなった。なお、上記式(4−1)〜(4−8)以外の副生成物として下記式(9)で示される化合物が約6%の収率で生成していた.このものは特開2003−2883号公報に明らかにされている方法によって別途合成しNMRスペクトルおよびGCマススペクトル分析によって構造を確認した。
【0072】
【化13】

【0073】
【表1】

【0074】
実施例3
エキソ−メチレンテトラヒドロフタルラクトンアルコールからのエキソ−メチレンテト
ラヒドロフタルラクトンメタクリレートの製造
実施例1で得られたメチレンテトラヒドロフタルラクトンアルコールをシリカゲルカラムクロマトグラフィーによって精製し、得られたエキソ体純度97%の試料を原料に使用した。エキソ−メチレンテトラヒドロフタルラクトンアルコール0.100g(0.67ミリモル)、トリエチルアミン0.108g(1.07ミリモル)、塩化メチレン3mlの溶液を5℃に冷却し、メタクリル酸クロリド0.084g(0.80ミリモル)を加えて、室温で5時間攪拌した。水を加えて反応を停止した後、酢酸エチルで抽出、有機層を水洗、無水硫酸マグネシウムで乾燥し、溶媒を留去して白色固体0.12gを得た。これをガスクロマトグラフィーで分析したところ95%以上の純度のエキソ−メチレンテトラヒドロフタルラクトンメタクリレートであることが分かった。アルコール基準での収率は76%であった。
【0075】
参考例1(酸に対する安定性)
従来の方法で得られるエキソ型およびエンド型のメチレンテトラヒドロフタルラクトンメタクリレート混合物を試料とし、酸としてトリフルオロメタンスルフォン酸を用いて高められた温度条件下での各異性体の安定性を観察した。この検討はフォトレジスト樹脂などにモノマーとして用いられた際、生成物である樹脂の各官能基がどの程度安定であるかを相対的に比較するに十分な検討であると判断できる。結果から明らかなとおりエステル結合の開裂反応下記式(10)に関して、エキソ型のラクトンメタクリレートはエンド型のラクトンメタクリレートに対して十分な安定性を有していることが明らかとなった。
【0076】
【化14】

【0077】
エキソ−メチレンテトラヒドロフタルラクトンメタクリレートとエンド−メチレンテトラヒドロフタルラクトンメタクリレートの混合物の酸分解速度の比較
エキソ−メチレンテトラヒドロフタルラクトンメタクリレートとエンド−メチレンテトラヒドロフタルラクトンメタクリレートの混合物200mg(エキソ体:エンド体=72:28モル比)を1mlの1,1,2,2−テトラクロルエタンに室温で溶解した。ここにトリフルオロメタンスルフォン酸254mg(基質に対するモル比=2)および定量分析用の内部標準物質としてドコサン100mgを加えて混合、均一化し試験液を調製した。室温で5分間攪拌の後、一部をサンプリングし、ガスクロマトグラフィーで内容物の定性、定量分析を行った。次いで、試験液を予め100℃に加熱した油浴に浸し、5分間攪拌後、30分攪拌後の各サンプルを同様に分析したところ、表2の結果が得られた。
【0078】
【表2】

【0079】
ここで残存率とは試験液に仕込んだ各基質モル数に対する測定時での検出モル数を百分率で表記したものである。この結果から、エキソ−メチレンテトラヒドロフタルラクトン
メタクリレートとエンド−メチレンテトラヒドロフタルラクトンメタクリレートの酸に対する安定性は明らかに前者が高いことが分かった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1−1)および/または(1−2)で表されるエキソ−多環式ラクトン(メタ)アクリレート。
【化1】

(式(1−1)および(1−2)中,Xは酸素原子、硫黄原子、または炭素数1〜8のアルキル基で置換されていてもよいメチレン基又はエチレン基を;Rは水素原子またはメチル基を;R1およびR2はそれぞれ独立に水素原子または炭素数1〜8のアルキル基を示す。)
【請求項2】
Xがメチレン基である、請求項1に記載のエキソ−多環式ラクトン(メタ)アクリレート。
【請求項3】
1およびR2が水素原子である、請求項1または2に記載のエキソ−多環式ラクトン(メタ)アクリレート。
【請求項4】
上記一般式(1−1)および/または(1−2)で表されるエキソ−多環式ラクトン(メタ)アクリレートを80重量%以上含有してなる多環式ラクトン(メタ)アクリレート。
【請求項5】
下記一般式(2−1)および/または(2−2)で表されるエキソ−多環式ラクトンアルコールを80重量%以上含有する多環式ラクトンアルコールを原料として用いる、請求項4に記載の多環式ラクトン(メタ)アクリレートの製造方法。
【化2】

(式(2−1)および(2−2)中、Xは酸素原子、硫黄原子、または炭素数1〜8のアルキル基で置換されていてもよいメチレン基又はエチレン基を;Rは水素原子またはメチル基を;R1およびR2はそれぞれ独立に水素原子または炭素数1〜8のアルキル基を示す。)
【請求項6】
上記一般式(2−1)および/または(2−2)で表されるエキソ−多環式ラクトンアルコール。
【請求項7】
上記一般式(2−1)および/または(2−2)で表されるエキソ−多環式ラクトンアルコールを80重量%以上含有してなる多環式ラクトンアルコール。

【公開番号】特開2006−70097(P2006−70097A)
【公開日】平成18年3月16日(2006.3.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−252620(P2004−252620)
【出願日】平成16年8月31日(2004.8.31)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【Fターム(参考)】