説明

エコー高さ真値推定プログラムおよびエコー高さ真値推定方法

【課題】被測定領域に超音波を照射して、反射波から得られるエコー高さ等から真値を精度よく推定可能な技術を提供する。
【解決手段】焦点型超音波探触子1を、その焦点距離に固定した、焦点径以下の振動子径を持つ受信用探触子7に対して移動させ、別探触子内で平均化された、焦点径内の音圧分布を取得し、平均化された音圧分布を2つの変数だけでトレースできる関数で表わし、形状が既知な基準試験面10に対して探触子1を移動させつつ受信した反射波信号に基づいて、平均化されたエコー高さを取得し、エコー高さの波形が基準試験面10の形状に対応するように、関数の変数を微調整して、焦点径内の真の音圧分布データを演算し、被測定領域2に対して探触子1を移動させつつ受信した反射波信号により、エコー高さを取得し、真の音圧分布に基づき、被測定領域2から得られた平均化されたエコー高さを補正演算し、音軸上におけるエコー高さの真値を取得する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、音軸を中心としてある音圧分布を有する焦点型超音波探触子を用いて、焦点型超音波探触子から被測定領域に対し超音波を照射して、その被測定領域から反射される反射波信号を受信することで得られるエコー高さもしくはエコー高さ比(以下、エコー高さ等)から、音軸上におけるエコー高さ等の真値を推定するために用いられる、エコー高さ真値推定プログラム及びエコー高さ真値推定方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
測定対象物の物体内部の特性を計測するための非破壊計測方法として、超音波探触子を用いた方法が知られている。例えば、物体表面下におけるキズの存在、物体裏面の表面粗さ、物体同士の接触分布情報、ICパッケージのチップと電極間の配線の良否の判定を行う時に、超音波探触子を2次元的にスキャンさせて形状情報を取得し、この情報に基づいて良否判定を行なっている。
【0003】
このように超音波探触子は、被測定領域に対して超音波を照射すると共に、被測定領域からの反射波を受信し、上記の例で挙げた被測定領域の種々の特性を解析するために用いられている(例えば、下記特許文献1,2)。特に、超音波を用いることで、非接触・非破壊の計測を行うことができ、通常のセンサーでは計測できないような箇所の特性をも解析できるという利点がある。
【0004】
上記のように、超音波探触子を被測定領域に対して移動させながら、測定対象物に対して超音波を照射すると、その被測定領域の特性に依存した反射波を受信することができ、この反射波信号から得られたエコー高さやエコー高さ比(エコー高さ比等)を解析することで、その特性情報を計測できると考えられる。
【0005】
【特許文献1】特開2006−214904号公報
【特許文献2】特開2006−214905号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、焦点型超音波探触子により超音波を照射する場合には、照射される領域は1点ではなく、ある大きさ(焦点径)を有している。そして、照射領域においては、ある音圧分布を有する形で超音波が照射されることになる。従って、被測定領域のある特定の音軸上で受信される反射波(エコー高さ等)には、超音波照射領域の音軸位置のみならず、その周辺の位置からの反射波の影響も含まれた形で受信されることになる。すなわち、受信される反射波信号は測定領域における平均的な情報として得られるものであり、その音軸上のみから得られる情報ではない。したがって、これをそのまま被測定領域の特性を表す情報として用いることはできない。
【0007】
また、照射領域内の音圧分布を測定することで、エコー高さ等のデータを修正し、エコー高さ等の真値を求める方法が考えられるが、修正するための音圧分布データを精度よく求めなければ、修正されたエコー高さ等のデータの精度を高めることができない。なぜならば、音圧分布を測定する際に用いる受信用探触子も受信部が1点ではなく、ある大きさを有しているからである。従って、普通に測定して得られる焦点内の音圧分布データは、平均化されたデータであり、これをそのまま用いてエコー高さ等を修正したのでは、真値を精度よく求めることができない。
【0008】
本発明は上記実情に鑑みてなされたものであり、その課題は、被測定領域に超音波を照射して、その反射波から得られるエコー高さ等から真値を精度よく推定可能なエコー高さ真値推定プログラム及びエコー高さ真値推定方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため本発明に係るエコー高さ真値推定プログラムは、
音軸を中心としてある音圧分布を有する焦点型超音波探触子を用いて、焦点型超音波探触子から被測定領域に対し超音波を照射して、その被測定領域から反射される反射波信号を受信することで得られるエコー高さもしくはエコー高さ比(以下、エコー高さ等)から、音軸上におけるエコー高さ等の真値を推定するために用いられる、エコー高さ真値推定プログラムであって、
前記焦点型超音波探触子を、その焦点距離に固定した,焦点径以下の振動子径を持つ受信用の別の探触子に対して相対的に移動させつつ、別の探触子内で平均化された、超音波の焦点径内の音圧分布データを取得するステップと、
この平均化された音圧分布データを2つの変数だけでトレースできる関数で表わすステップと、
形状が既知な基準試験面に対して前記焦点型超音波探触子を相対的に移動させる移動手段により、前記焦点型超音波探触子を移動させつつ受信した反射波信号に基づいて、焦点径内で平均化されたエコー高さ等のデータを取得するステップと、
このエコー高さ等の波形が基準試験面の形状に対応するように、前記関数の変数を微調整することで、焦点径内の真の音圧分布データを取得する補正演算ステップと、
被測定領域に対して焦点型超音波探触子を相対的に移動させつつ受信した反射波信号に基づいて、エコー高さ等のデータを取得するステップと、
前記真値の音圧分布データに基づいて、被測定領域から得られた焦点径内で平均化されたエコー高さ等のデータを補正演算し、音軸上におけるエコー高さ等の真値を取得し、被測定領域の真の特性を特定するステップと、をコンピュータに実行させることを特徴とするものである。
【0010】
かかる構成によるエコー高さ真値推定プログラムの作用・効果を説明する。このプログラムをコンピュータにインストールすることで、以下に説明する所望の機能を発揮させることができる。また、詳しくは以下説明するが、音圧分布データに基づいて、エコー高さ比等のデータを補正してエコー高さ比等の真値を演算するようにしている。すなわち、ある特定の音軸位置の周囲からの反射波の影響をキャンセルできるような補正演算を行なうものであり、これは音圧分布データを利用すれば真値を求めることができることを本発明者は見出したものである。また、エコー高さ等の真値を求めるために必要な音圧分布データも精度よく求める必要がある。そこで、本発明において、音圧分布データは次のように実測することで求められる。
【0011】
まず、計測を行う場合には、真の音圧分布データを求める必要がある。そこで、受信用の別の超音波探触子を用いて、この受信用探触子に対して焦点型超音波探触子を相対的に移動させながら、反射波信号をエコー高さもしくはエコー高さ比(エコー高さ等)として取得し保持する。移動は、焦点型超音波探触子を移動させてもよいし、受信用探触子を移動させてもよい。なお、受信用探触子は、焦点型超音波探触子の焦点位置に置かれるものであり、受信用探触子は、焦点型超音波探触子の焦点径以下の振動子径を有している。
【0012】
この受信用探触子により焦点型超音波探触子の音圧分布データを得ることができるが、前述のように平均化されたものである。この平均化された音圧分布データを2つの変数のみでトレースできる関数で表わす。
【0013】
次に、形状が既知の基準試験面を準備する。この基準試験面に対して、焦点型超音波探触子を相対的に移動させつつ、反射波信号(エコー高さ等)を得る。このエコー高さ等も平均化されたものであり、基準試験面の形状に対応していない平均化されたエコー高さ等となっている。このエコー高さ等を上記音圧分布データ(関数)により補正演算する。この関数の変数を微調整することで、基準試験面の既知の形状に対応(合致又はほぼ合致)した関数が得られる。この関数が、焦点型超音波探触子が持つ真の音圧分布データとなる。
【0014】
実際に計測を行う場合には、被測定領域に対して焦点型超音波探触子を相対的に移動させつつ、反射波信号(エコー高さ等)を受信する。このエコー高さ等を上記のように求められた真の音圧分布データを用いて補正演算することで、エコー高さ等の真値を得ることができ、データも精度がよいものとなる。その結果、被測定領域に超音波を照射して、その反射波から得られるエコー高さ等から真値を精度よく推定可能なエコー高さ真値推定プログラムを提供することができる。
【0015】
本発明において、前記補正演算ステップは、超音波を照射している音軸位置におけるエコー高さ等の真値をhとし、これに隣接するn個の音軸位置でのエコー高さ等の真値をhk(0≦k≦n)とし、実測により得られたエコー高さ等をHとし、音圧分布データから得られる重み付け係数データを(ak)とした場合、
H=Σ(ak×hk)/(n+1)
で表わされる方程式を計測範囲の各音軸位置について立てた連立方程式とし、この連立方程式の解を求めることで、各音軸位置のエコー高さ等の真値を求めることが好ましい。
【0016】
この構成において、エコー高さは、受信した反射波の大きさを表わすデータであり、エコー高さ比は、例えば、エコー高さを基準のエコー高さで除した値を示す。本発明においては、どちらのデータを使用してもよい。基準のエコー高さは、例えば、乾燥時におけるエコー高さにより求めておくことができる。計測点の間隔などは、焦点型超音波探触子の特性や計測目的等に応じて決められるものである。被測定領域内の各音軸位置におけるエコー高さ等の真値については、上記式の連立方程式により求めることができる。方程式の数については、計測点の数や、音圧分布の形状などに応じて決まるものである。
【0017】
音圧分布データは、重み付け係数データの集合により構成されるものであり、音軸に隣接する計測点からの計測値(エコー高さ等データ)に対する影響度を表わすものである。従って、この重み付け係数データを用いることで、隣接する計測点からの影響をキャンセルできるような補正演算を行なうことができ、精度よく音軸上(照射領域中心)のエコー高さ等の真値データを得ることができる。なお、重み付け係数データの具体例としては、後述するように、音軸上で1であり、周辺に行くほど減少する。
【0018】
本発明における前記補正演算ステップでは、エコー高さ等のデータが得られた計測範囲の外周領域に、真のエコー高さ等が既知でかつ所定となる領域と、この所定領域に設定した既知の値を用いて、前記連立方程式を解くことが好ましい。
【0019】
前述の連立方程式を解く場合に、未知数であるエコー高さ等の真値の数のほうが、方程式の数よりも多くなることがある。この場合は、方程式の解を求めることができるように、真のエコー高さ等の領域を設定する。そこで、反射波信号が得られた計測範囲の外周領域に、所定領域と遷移領域を設定する。このような領域は、得られたエコー高さ等の大きさなどに基づいて、適宜既知の値を設定することができる。これにより、連立方程式の解を確実に求めることができ、遷移領域よりも内側にある計測範囲のデータ(エコー高さ等の真値)は信頼性のおけるものとなる。
【0020】
上記課題を解決するための本発明に係るエコー高さ真値推定方法は、
前記焦点型超音波探触子を、その焦点距離に固定した焦点径以下の振動子径を持つ受信用の別の探触子に対して相対的に移動させつつ、別の探触子内で平均化された、超音波の焦点径内の音圧分布データを取得するステップと、
この平均化された音圧分布データを2つの変数だけでトレースできる関数で表わすステップと、
形状が既知な基準試験面に対して前記焦点型超音波探触子を相対的に移動させる移動手段により、前記焦点型超音波探触子を移動させつつ受信した反射波信号に基づいて、焦点径内で平均化されたエコー高さ等のデータを取得するステップと、
このエコー高さ等の波形が基準試験面の形状に対応するように、前記関数の変数を微調整することで、焦点径内の真の音圧分布データを取得する補正演算するステップと、
被測定領域に対して焦点型超音波探触子を相対的に移動させつつ受信した反射波信号に基づいて、エコー高さ等のデータを取得するステップと、
前記真の音圧分布データに基づいて、被測定領域から得られた焦点径内で平均化されたエコー高さ等のデータを補正演算し、音軸上におけるエコー高さ等の真値を取得し、被測定領域の真の特性を特定するステップと、を有することを特徴とするものである。
【0021】
かかる構成によるエコー高さ真値推定方法の作用・効果は、既に述べた通りである。すなわち、照射領域の音軸位置の周囲からの反射波の影響をキャンセルできるような補正演算を行なうものであり、これは、前述のエコー高さ真値推定プログラムの作用・効果に関する説明で述べた超音波照射領域内での真の音圧分布データを利用すればエコー高さ等の真値を求めることができることを本発明者は見出したものである。その結果、被測定領域に超音波を照射して、その反射波から得られるエコー高さ等から真値を精度よく推定可能なエコー高さ真値推定方法を提供することができる。
【0022】
本発明において、被測定領域の外周領域に、超音波を均一に吸収する部材もしくは超音波が均一に反射される部材を配置することが好ましい。
【0023】
この構成によると、超音波を均一に吸収する部材や均一に反射する部材(例えば、反射率が0%、あるいは100%、あるいは一定)を配置することで、真のエコー高さ等として扱える既知の大きさの反射波の受信(例えば、一定値)を行なうことができる。従って、このような箇所からのエコー高さ等の計測に基づいて、前述の所定領域及び遷移領域を設定することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
本発明に係るエコー高さ真値推定システムの好適な実施形態を図面を用いて説明する。図1は、システムの概要を示す模式図である。このシステムは、焦点型超音波探触子1を用いて、被測定領域2の特性情報(例えば、物体表面下におけるキズの存在、物体裏面の表面粗さなどの情報)を計測するものである。なお、以下の説明では、物体の裏面の表面粗さ情報を計測する例を代表して行なう。図1は、物体Mの裏面の情報を計測している様子を示している。
【0025】
<システムの概要>
焦点型超音波探触子1は、被測定領域2に対して相対的に移動することができ、移動機構3により、3次元方向に任意に移動させることができる。すなわち、移動機構3により、焦点型超音波探触子1を移動させながら、超音波を照射すると共に、被測定領域2からの反射波を受信するように構成されている。超音波探傷器4は、焦点型超音波探触子1の駆動や反射波の受信や解析などを行なうことができる。
【0026】
焦点型超音波探触子1により超音波を照射して、被測定領域2からの反射波を受信する場合、その反射波の大きさは被測定領域2の表面粗さ(凹凸)の影響を受ける。そこで、焦点型超音波探触子1を移動させながら反射波を受信し解析することで、被測定領域2の凹凸情報を得ることができる。
【0027】
焦点型超音波探触子1から照射される超音波は図示のように被測定領域2に到達するが、照射領域Aは有限の大きさを有しており、音響レンズ等を用いた焦点型超音波探触子を使用することで、例えば、φ0.3mm程度まで収束させることもできる。
【0028】
コンピュータ5は、パソコン等の汎用コンピュータにより構成することができ、焦点型超音波探触子1により受信されたエコー高さのデータ(反射波データ)を解析し、被測定領域2の凹凸情報を計測するためのソフトウェア(エコー高さ真値推定プログラム)がインストールされる。
【0029】
照射領域Aにおける音圧分布の一例が図示されており、ほぼガウス分布となっている。すなわち、音軸Zにおける音圧が最も大きく、音軸Zから離れるに従い音圧が小さくなるような分布を有している。
【0030】
従って、焦点型超音波探触子1がある計測点Pの直上(音軸Z上)に位置している場合、その位置における反射波データには、計測点Pからの反射波のみならず、計測点Pの周囲からの反射波の情報も含まれてしまうことになる。その結果、得られる反射波データは、正確に被測定領域2からの情報を表わさないことになる。
【0031】
これを図2で説明すると、(a)は実際に観測されるエコー高さデータH(反射波データ)を示し(b)はエコー高さデータの真値h(被測定領域2の凹凸情報に対応)を示している。実際には、凸凹の形状であったとしても、音圧分布の影響により平均化され、なまった波形が観測されている。エコー高さの真値hは、観測されたエコー高さデータHと音圧分布データから、求めることができる。
【0032】
そこで、仮にH7〜H12までのエコー高さが観測されており、その音圧分布が(c)のように表わされている場合、エコー高さの真値h6〜h13は次のような方程式で表わすことができる。
【0033】
7=(a06+a17+a28)/3・・・・(1)
8=(a07+a18+a29)/3・・・・(2)
9=(a08+a19+a210)/3・・・・(3)
10=(a09+a110+a211)/3・・・・(4)
11=(a010+a111+a212)/3・・・・(5)
12=(a011+a112+a213)/3・・・・(6)
この連立方程式の解を求めることで、エコー高さの真値h6〜h13を得ることができる。また、a0とa1とa2は音圧分布データから得られる重み付け係数データを示している。音圧分布データは図2(c)に示されており、音軸Z上では、例えば、重み付け係数は1、両端で0、音軸Zに隣接する計測点上では左右とも0.5となっている。
【0034】
各方程式(1)〜(6)では、ある音軸位置で観測されるエコー高さHは、その計測点における真値と、その両側の2つ真値について、夫々重み付け係数を乗算したものを加算し、3で割った平均値となっている。音圧分布は、焦点型超音波探触子1の特性によるものであるから、どの方程式においても、重み付け係数は同じである。
【0035】
測定で観測されているのはH7〜H12の6個であるが、未知数である真値はh6〜h13であり8個である。従って、未知数の方が方程式の数よりも多いためにこのままでは上記連立方程式を解くことができない。つまり、測定領域外のh6とh13に関するデータがないためであり、これは、既知な真のエコー高さ等を適切に設定することで与えることができる。真のエコー高さ等を与えれば、未知数の数を減らし、未知数の数と方程式の数を同じにすることができる。
【0036】
なお、上記説明は分かりやすく説明するために、方程式の数を6個、方程式の右辺の項が3つであるとして説明したが、実際には、計測点の間隔を細かく設定するため、方程式の数や項数は膨大な数になる。
【0037】
<真の音圧分布データの取得>
音圧分布は焦点型超音波探触子1に固有の特性であるから、予めデータを計測後、補正演算により真の音圧分布を特定し、その音圧分布データを保存しておく必要がある。そこで、まず音圧分布データを取得する方法について説明する。
【0038】
図3は、音圧分布データを計測する1つの方法を示す概略図である。図3に示すように、適宜の平面板6(超音波の反射率が一定のもの)を用意し、焦点型超音波探触子1を平面板6の位置を通過させ、平面板6より離れた位置まで移動させる間に、図3(b)のような信号波形が得られる。
【0039】
すなわち、平面板6の端面6aを通過する時に、エコー高さデータHが急激に変化するのではなく、滑らかに変化する。これは、照射される超音波が音圧分布を有しているからである。ただ、この場合のエコー高さ等の分布は、超音波の照射領域での音圧分布の影響を受けて平均化されたものであることに注意しなければならない。
【0040】
図3において、エコー高さHの変化量ΔHの半分の変化量(1/2)ΔHの位置と、エコー高さHが変化し始める位置で決まる領域Aが、平面板6の上における音圧分布の1/2幅を表わしていると考えられる。そこで、この計測された領域Aを元にガウス分布関数もしくはベッセル関数を当てはめることで、その焦点型超音波探触子1についての平均化された音圧分布データとすることができる。
【0041】
図4は、別の音圧分布データ計測方法を示す図である。この方法では、測定用の焦点型超音波探触子1の焦点径(図4にDで示す9)と同程度以下の径の振動子を持つ受信用の別の超音波探触子7(受信用探触子)を、焦点型超音波探触子1の焦点距離に固定した状態で設置し、焦点型超音波探触子1を移動させながら探傷器4により計測して、音圧分布データを取得している。この音圧分布データは、別の受信用探触子7の振動子径内で平均化された音圧分布であることに注意を要する。この平均化された音圧分布は、後述の式(1)による関数で表わすことができる。
【0042】
なお、音圧分布データを実測で取得できないような場合は、音圧分布(後述の式(1))を表わす関数の変数を適当に調整し、後述の基準試験面から得られるエコー高さ等の実測値から真値を求める補正演算により真のエコー高さ等の分布を仮計算して、その分布が基準試験面の形状と最もよく一致するときの2つの変数を求め、真の音圧分布データとしてもよい。
【0043】
<基準試験面を用いた音圧分布データの計測>
次に、基準試験面を用いた音圧分布データの計測方法について説明する。図4に示すように、受信用探触子7により受信される音圧分布データは、実際には正確なデータではなく、平均化された音圧分布が得られる。受信用探触子7の振動子径も、ある程度の有限の大きさを有しているためである。そこで、本発明においては、真の音圧分布データを計測するために図5に示すような基準試験面を使用する。
【0044】
基準試験面10は、形状が既知であればどのようなものでもよい。図5(a)は、上面10aと下面10bを有する平板状であり、下面側に多数の袋穴10cが形成される。袋穴10cは、断面円形、断面正方形などどのような形状でもよい。図5(b)は、三角形の溝10dが形成された基準試験面10である。
【0045】
この基準試験面10の上面側に焦点型超音波探触子を配置し、焦点型超音波探触子を移動させつつ反射波を受信する。この場合、(a)であれば、焦点型超音波探触子により受信されるエコー高さ等は、方形波にならなければならないが、実際にはなまった形状になる。そこで、受信用探触子7により得られた音圧分布データを用いて、前述の連立方程式を解くことになるが、実際に得られる解は、まだ方形波にはならず、なまった形状になる(図6参照)。これは、音圧分布データが平均化された状態であるからと考えられる。
【0046】
そこで、得られた音圧分布データを関数で表わす。その関数としては、下記式のものを用いることができる。
【0047】
y=EXP(−a×|x|b)−EXP(−a)×|x|・・・(1)
この式において、(a,b)が変数であり、これを与えることで音圧分布(y)の形状が定まる。この式において、音圧分布は0から1の間の数値を取る。xは、音圧の分布幅の半分に対する、音軸中心からの距離の割合である。ちなみに、この式(1)において、(a,b)を適宜選択することで、ディラックのデルタ関数,三角分布,ガウス分布,矩形分布などを表わすことができる。
【0048】
そこで、まず前述のようにして得られた平均化された音圧分布データを用いて、使用する超音波探触子の音圧分布を上記式(1)で表わす。式(1)は、平均化された音圧分布データをa,bの2つの変数だけでトレースできる関数に相当する。(a,b)を適宜設定して、関数計算を行い、計測等により得られた平均化された音圧分布データと合致するような(最も近くなるような)(a,b)を最終決定する。この方法では、平均化された音圧分布データと最も相関度が高くなるような(相関度が所定レベル以上になるような)(a,b)を決定することになる。このような(a,b)の初期設定や最終決定までの演算処理はコンピュータソフトウェアの機能により自動的に行うことができる。
【0049】
以上の手順により、超音波探触子が有する音圧分布を関数で表わすことができるが、この音圧分布は前述のように平均化された状態であり、真の音圧分布を表わすものではない。そこで、真の音圧分布を求めるために、上記の基準試験面10を用い、焦点型超音波探触子を相対的に移動させて、反射波信号としてエコー高さ等のデータを取得する。このエコー高さ等と上記関数を用いて、エコー高さ等の真値を求めるが、求められた結果は基準試験面10の形状に対応するものではない。これは演算に用いている音圧分布データ(関数)が平均化されたものであるからである。
【0050】
そこで、この関数における2つの変数(a,b)を微調整しながら、エコー高さ等の真値の演算を行なう。(a,b)の微調整をしながら、得られたエコー高さ等と、基準試験面10の形状との相関度を求めながら、形状に一致する、あるいは、相関度が最も高くなるものを最終決定し、音圧分布データの真値とすることができる。(a,b)の微調整や相関度の演算は、コンピュータソフトウェアの機能により自動的に行なうことができる。以上のようにして、超音波探触子の焦点径内の音圧分布データの真値を得ることができる。
【0051】
実際に計測を行う場合は、被測定領域に対して超音波探触子を移動させつつ、エコー高さ等を取得する。このエコー高さ等は平均化されたデータであるから、上記の真の音圧分布データを用いて、補正演算を行ない、真のエコー高さ等(被測定領域の真の特性)を得ることができる。これにより、より精度高く、エコー高さ比あるいはエコー高さの真値を推定することが可能になる。
【0052】
<計測範囲外の値の設定>
前述の連立方程式の説明において、未知数の数が方程式の数よりも多く、既知の真のエコー高さ等のデータを設定する必要がある点について説明した。そこで、図5に示すように、計測範囲の両端領域(外周領域)に計測値が既知(図例では一定)となる領域L1,L2を設定する。この大きさは、恣意的に手動で入力設定することができる。また、一定値を設定した領域と、実際の計測範囲と、を滑らかに接続するための遷移領域rが設定される。この遷移領域rも恣意的に関数などで設定することができる。
【0053】
従って、図7に示すように、全計測領域は、一定領域とその内側にある遷移領域と、更にその内側にある計測値のままの領域とにより構成されることになる。そして、前述の連立方程式の解を解く範囲としての真値推定領域は、基本的には計測値のままの領域であるが、遷移領域や両端領域(外周領域)に真のエコー高さ等値が設定されている場合には、その内側の領域として設定される。図7において、真値推定領域よりも外側の領域の大きさL10,L20については、手動設定することができる。
【0054】
図7の左端のL1において、その一定値は、真値推定領域内の場合には計測値Hs1(実測されたエコー高さ等)として扱い、領域外の場合は既知の値(すなわち、真値のエコー高さ等)hs1として扱う。右端L2においても同様に、その一定値は、真値推定領域内の場合には計測値Hs2として扱い、領域外の場合は既知の値hs2として扱う。このように設定することで、未知数と方程式の数を同じにすることができ、エコー高さ等の真値を推定(演算)することができる。
【0055】
図8は、計測範囲よりも外側の領域に一定領域を設定した例を示している。すなわち、計測範囲の外側に新たに一定値となるデータ範囲を追加する。その範囲の大きさはLp1,Lp2で示されている。Lp1,Lp2については、手動設定することができる。
【0056】
このように設定することで、真値推定領域の範囲を遷移領域よりも外側にまで拡げることができるという利点があり、実際に知りたい計測値のままの領域での真値の推定精度を高めることが可能となる。
【0057】
図7、図8では、両端領域(外周領域)に、既知の真のエコー高さ等として、一定値を手動設定する場合について説明した。図7は、一定値に相当する領域を実測時に与えるための構成を示す図である。図9に示すように、測定範囲の外側に平面板8を配置する。この平面板8として、超音波を完全(ほぼ完全)に吸収する材質(ゴムなど)か、超音波を完全(ほぼ完全)に反射する材質(鋼など)のものを使用する。これにより、焦点型超音波探触子1により一定値の反射波を既知のエコー高さ等として受信することができ、連立方程式を解くことができる状態でデータを取得することができる。なお、平面板8としては、均一に超音波を吸収もしくは反射できるものであればよく、上記のものの中間的な反射(吸収)率を有する材料でもよい。
【0058】
図10は、図 で述べた例について実際に演算を行なった例を示すグラフである。左上は実際に計測されたエコー高さデータを示す波形のグラフである。右上は、超音波の照射領域内での真の音圧分布データを示すグラフである。右下は、演算されたエコー高さの真値を示すグラフである。このグラフが、測定対象物の表面形状を表わしている。左下のグラフは、計測されたエコー高さと、真値のエコー高さを並べて表示させたグラフである。
【0059】
<制御ブロック図>
次に、コンピュータ5にインストールされる測定プログラムの主要な機能について、図11のブロック図により説明する。
【0060】
第1保持手段5aは、焦点型超音波探触子1により受信された反射波信号をエコー高さデータとして保存する。第2保持手段5bは、焦点型超音波探触子1の焦点径内での真の音圧分布データの推定値を保持する。プログラムは、これらのデータを保持手段に保持させる機能を有する。これら第1・第2保持手段5a,5bは、ハードディスクなどの大容量記憶装置が使用される。
【0061】
補正演算手段5cは、照射領域内の真の音圧分布データに基づいてエコー高さデータ(反射波データ)を補正演算し、エコー高さの真値を演算する機能を提供する。具体的には、式(1)〜(6)で示した連立方程式を立ててその解を求めることで、エコー高さの真値を演算する。演算された結果などは、図10などにも示したように、モニター5eに表示される。
【0062】
設定手段5dは、図7や図8で説明したように、既知の真のエコー高さ等としての一定領域や遷移領域を設定する機能を提供する。
【0063】
<別実施形態>
本実施形態においては、焦点型超音波探触子1を2次元的に計測を行う場合について説明したが、3次元的な計測を行うこともできる。3次元計測を行う場合は、高さを変えながら焦点型超音波探触子1を2次元走査すればよい。また、音圧分布データについては、図12などに示す音圧分布の形状を音軸周りに1回転させた立体形状で表現することができる。
【0064】
図13は、3次元計測を行う場合の各領域の設定について説明する図である。基本的には、図5や図6で説明したのと同じ考え方である。
【0065】
焦点型超音波探触子1の移動速度や測定対象物との距離については、適宜決めることができるものである。また、焦点型超音波探触子1と被測定領域2の間に介在する媒体は、空気、水のほか適宜の流体を用いることができる。
【0066】
以上、本発明に係る推定方法は、焦点型超音波探触子を用いた計測システムだけでなく、渦電流測定素子や静電容量の測定素子のように、検出領域に強度の分布を持つものであれば何にでも応用できるものである。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】性状計測システムの概要を示す模式図
【図2】エコー高さデータの計測値とエコー高さ真値との関係を示す図
【図3】音圧分布データを計測する方法(1)
【図4】音圧分布データを計測する方法(2)
【図5】基準試験面の構成を示す図
【図6】平均化されたエコー高さ比と得られるべきエコー高さ比を示す図
【図7】計測領域外の値の設定について説明する図
【図8】計測領域外の値の設定について説明する図
【図9】一定値を測定可能にする構成を示す図
【図10】真値推定の演算を行なった結果を示すグラフ
【図11】制御機能を示すブロック図
【図12】音圧分布データの形状例を示す図
【図13】3次元計測を行う場合の各領域の設定について説明する図
【符号の説明】
【0068】
1 焦点型超音波探触子
2 被測定領域
3 移動機構
4 探傷器
5 コンピュータ
5a 第1保持手段
5b 第2保持手段
5c 補正演算手段
5d 設定手段
5e モニター
7 受信用探触子
10 基準試験面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
音軸を中心としてある音圧分布を有する焦点型超音波探触子を用いて、焦点型超音波探触子から被測定領域に対し超音波を照射して、その被測定領域から反射される反射波信号を受信することで得られるエコー高さもしくはエコー高さ比(以下、エコー高さ等)から、音軸上におけるエコー高さ等の真値を推定するために用いられる、エコー高さ真値推定プログラムであって、
前記焦点型超音波探触子を、その焦点距離に固定した,焦点径以下の振動子径を持つ受信用の別の探触子に対して相対的に移動させつつ、別の探触子内で平均化された、超音波の焦点径内の音圧分布データを取得するステップと、
この平均化された音圧分布データを2つの変数だけでトレースできる関数で表わすステップと、
形状が既知な基準試験面に対して前記焦点型超音波探触子を相対的に移動させる移動手段により、前記焦点型超音波探触子を移動させつつ受信した反射波信号に基づいて、焦点径内で平均化されたエコー高さ等のデータを取得するステップと、
このエコー高さ等の波形が基準試験面の形状に対応するように、前記関数の変数を微調整することで、焦点径内の真の音圧分布データを取得する補正演算ステップと、
被測定領域に対して焦点型超音波探触子を相対的に移動させつつ受信した反射波信号に基づいて、エコー高さ等のデータを取得するステップと、
前記真の音圧分布データに基づいて、被測定領域から得られた焦点径内で平均化されたエコー高さ等のデータを補正演算し、音軸上におけるエコー高さ等の真値を取得し、被測定領域の真の特性を特定するステップと、をコンピュータに実行させることを特徴とするエコー高さ真値推定プログラム。
【請求項2】
前記補正演算ステップは、超音波を照射している音軸位置におけるエコー高さ等の真値をhとし、これに隣接するn個の音軸位置でのエコー高さ等の真値をhk(0≦k≦n)とし、実測により得られたエコー高さ等をHとし、音圧分布データから得られる重み付け係数データを(ak)とした場合、
H=Σ(ak×hk)/(n+1)
で表わされる方程式を計測範囲の各音軸位置について立てた連立方程式とし、この連立方程式の解を求めることで、各音軸位置のエコー高さ等の真値を求めることを特徴とする請求項1に記載のエコー高さ真値推定プログラム。
【請求項3】
前記補正演算ステップでは、エコー高さ等のデータが得られた計測範囲の外周領域に、真のエコー高さ等が既知でかつ所定となる領域と、この所定領域に設定した既知の値を用いて、前記連立方程式を解くことを特徴とする請求項2に記載のエコー高さ真値推定プログラム。
【請求項4】
音軸を中心としてある音圧分布を有する焦点型超音波探触子を用いて、焦点型超音波探触子から被測定領域に対し超音波を照射して、その被測定領域から反射される反射波信号を受信することで得られるエコー高さもしくはエコー高さ比(以下、エコー高さ等)から、音軸上におけるエコー高さ等の真値を推定するための、エコー高さ真値推定方法であって、
前記焦点型超音波探触子を、その焦点距離に固定した,焦点径以下の振動子径を持つ受信用の別の探触子に対して相対的に移動させつつ、別の探触子内で平均化された、超音波の焦点径内の音圧分布データを取得するステップと、
この平均化された音圧分布データを2つの変数だけでトレースできる関数で表わすステップと、
形状が既知な基準試験面に対して前記焦点型超音波探触子を相対的に移動させる移動手段により、前記焦点型超音波探触子を移動させつつ受信した反射波信号に基づいて、焦点径内で平均化されたエコー高さ等のデータを取得するステップと、
このエコー高さ等の波形が基準試験面の形状に対応するように、前記関数の変数を微調整することで、焦点径内の真の音圧分布データを取得する補正演算ステップと、
被測定領域に対して焦点型超音波探触子を相対的に移動させつつ受信した反射波信号に基づいて、エコー高さ等のデータを取得するステップと、
前記真値の音圧分布データに基づいて、被測定領域から得られた焦点径内で平均化されたエコー高さ等のデータを補正演算し、音軸上におけるエコー高さ等の真値を取得し、被測定領域の真の特性を特定するステップと、を有することを特徴とするエコー高さ真値推定方法。
【請求項5】
被測定領域の外周領域に、超音波を均一に吸収する部材もしくは超音波が均一に反射される部材を配置することで、既知の真のエコー高さ等を得ることを特徴とする請求項4に記載のエコー高さ真値推定方法。
【請求項6】
前記補正演算ステップは、超音波を照射している音軸位置におけるエコー高さ等の真値をhとし、これに隣接するn個の音軸位置でのエコー高さ等の真値をhk(0≦k≦n)とし、実測により得られたエコー高さ等をHとし、音圧分布データから得られる重み付け係数データを(ak)とした場合、
H=Σ(ak×hk)/(n+1)
で表わされる方程式を計測範囲の各音軸位置について立てた連立方程式とし、この連立方程式の解を求めることで、各音軸位置のエコー高さ等の真値を求めることを特徴とする請求項4又は5に記載のエコー高さ真値推定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2008−185553(P2008−185553A)
【公開日】平成20年8月14日(2008.8.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−21709(P2007−21709)
【出願日】平成19年1月31日(2007.1.31)
【出願人】(597154966)学校法人高知工科大学 (141)
【出願人】(392000110)オートマックス株式会社 (16)
【Fターム(参考)】