説明

エシェリヒア属又はバチルス属に属する細菌を使用した発酵によるプリンヌクレオシド及びヌクレオチドの製造方法

エシェリヒア属又はバチルス属のいずれかに属し、yeaS(leuE)遺伝子によってコードされるタンパク質の活性を高めることにより、プリンヌクレオシド生産能が高められた細菌を使用して、イノシン及びグアノシン等のプリンヌクレオシドを製造する方法及び5’−イノシン酸又は5’−グアニル酸等の5’−プリンヌクレオチドを製造する方法が提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、5’−イノシン酸又は5’−グアニル酸等の5’−プリンヌクレオチドの合成における原料物質として重要なプリンヌクレオシドを製造する方法と、その製造に使用する新規の微生物とに関する。
【背景技術】
【0002】
通常、イノシン、グアノシン及びキサントシン等のプリンヌクレオシドは、アデニン栄養要求性株を用いた発酵によって工業的に生産される。あるいは、このような株はさらに、プリン類似体及びスルファグアニジン等の様々な薬剤に対する薬剤耐性を与えられ得る。これらの株としては、バチルス属(特許文献1、特許文献2、特許文献3、特許文献4、特許文献5、特許文献6、特許文献7、及び特許文献8)、又はブレビバクテリウム(Brevibacterium)(コリネバクテリウム(Corynebacterium))属(特許文献9、特許文献10、及び非特許文献1)、又はエシェリヒア属(特許文献11)等に属するものが挙げられる。
【0003】
このような突然変異株を得るのに典型的な方法は、UV照射によって又はニトロソグアニジン(N−メチル−N’−ニトロ−N−ニトロソグアニジン)で処理することによって微生物の突然変異を誘発させること、及び好適な培地を用いて突然変異株を選択することを含む。また他方で、遺伝子工学技術を使用したこのような突然変異株の育種は、バチルス属(特許文献12、特許文献13、特許文献14、特許文献15、特許文献16、特許文献17、特許文献18、特許文献19、特許文献20、及び特許文献21)、ブレビバクテリウム(コリネバクテリウム)属(特許文献22)、又はエシェリヒア属(特許文献11)に属する株で実施されている。
【0004】
プリンヌクレオシド産生株の生産性は、プリンヌクレオシド排出活性を増大させることでさらに向上させることができる。細胞膜を通る代謝物の浸透は通常、特異的な排出輸送タンパク質によって媒介されることが一般的に考えられている(非特許文献2、非特許文献3、非特許文献4)。本発明者らは以前に、rhtA(ybiF)遺伝子によってコードされたRhtAタンパク質の活性が高い、エシェリヒア属又はバチルス属に属するイノシン産生株又はキサントシン産生株が、親株より多くのイノシン又はキサントシンを産生することを示した(特許文献23)。さらに、yijE遺伝子、ydeD遺伝子又はyicM遺伝子によってコードされたYijEタンパク質、YdeDタンパク質、又はYicMタンパク質の活性が高い、エシェリヒア属に属するイノシン産生株が、親株よりも多くのイノシンを産生した(それぞれ、特許文献24、特許文献25、特許文献26)。
【0005】
本発明者らは以前に、エシェリヒア・コリ(E. coli)のyeaS(leuE)遺伝子が、RhtBファミリーに属し、且つアミノ酸の排出に関与する膜タンパク質をコードすることを見出した(非特許文献5)。具体的に、この遺伝子は、ロイシン、ヒスチジン及びメチオニンのエクスポータをコードする(非特許文献6)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特公昭38−23039号公報(1963)
【特許文献2】特公昭54−17033号公報(1979)
【特許文献3】特公昭55−2956号公報(1980)
【特許文献4】特公昭55−45199号公報(1980)
【特許文献5】特開昭56−162998号公報(1981)
【特許文献6】特公昭57−14160号公報(1982)
【特許文献7】特公昭57−41915号公報(1982)
【特許文献8】特開昭59−42895号公報(1984)
【特許文献9】特公昭51−5075号公報(1976)
【特許文献10】特公昭58−17592号公報(1972)
【特許文献11】国際公開第99/03988号パンフレット
【特許文献12】特開昭58−158197号公報(1983)
【特許文献13】特開昭58−175493号公報(1983)
【特許文献14】特開昭59−28470号公報(1984)
【特許文献15】特開昭60−156388号公報(1985)
【特許文献16】特開平1−27477号公報(1989)
【特許文献17】特開平1−174385号公報(1989)
【特許文献18】特開平3−58787号公報(1991)
【特許文献19】特開平3−164185号公報(1991)
【特許文献20】特開平5−84067号公報(1993)
【特許文献21】特開平5−192164号公報(1993)
【特許文献22】特開昭63−248394(1988)
【特許文献23】ロシア国特許第2239656号
【特許文献24】ロシア国特許第2244003号
【特許文献25】ロシア国特許第2244004号
【特許文献26】ロシア国特許第2271391号
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Agric. Biol. Chem., 42, 399(1978)
【非特許文献2】Pao et al., Microbiol. Mol. Biol. Rev., 62, 1-34,(1998)
【非特許文献3】Paulsen et al., J. Mol. Biol., 277, 573-592(1998)
【非特許文献4】Saier et al., J. Mol. Microbiol. Biotechnol., 257-279(1999)
【非特許文献5】Aleshin et al., TIBS, 1999
【非特許文献6】Kutukova et al., FEBS Letters, 579, 4629-4534, 2005
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、プリンヌクレオシド産生株によるプリンヌクレオシドの生産性を高めること、及びこれらの株を使用したプリンヌクレオシドの製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この目的は、yeaS遺伝子を同定することによって達成された。この遺伝子は、多コピーベクター上の野生型対立遺伝子として株に導入されると、プリン塩基類似体、8−アザアデニン、2,6−ジアミノプリン、6−メルカプトプリン及び6−チオグアニンに対する耐性を与える推定アミノ酸エクスポーターをコードする。さらに、yeaS遺伝子は、構成的プロモーターの制御下で、エシェリヒア属又はバチルス属に属する各プリンヌクレオシド産生株の細胞に導入されると、プリンヌクレオシド産生を高めることができる。このようにして、本発明が完成した。
【0010】
したがって本発明は、プリンヌクレオシド生産能を有する、エシェリヒア属又はバチルス属に属する微生物を提供する。
【0011】
具体的には、本発明は、微生物外へのプリンヌクレオシドの輸送に関与すると予想され
るタンパク質の活性増大に基づいてプリンヌクレオシド生産能が向上した微生物を提供する。より具体的には本発明は、プリンヌクレオシド排出に関与するタンパク質をコードする遺伝子の発現増大に基づいてプリンヌクレオシド生産能が向上した微生物を提供する。
【0012】
本発明はさらに、発酵によるプリンヌクレオシドの製造方法であって、培地中で上記微生物を培養すること、及び培地からプリンヌクレオシドを回収することを含む方法を提供する。
【0013】
本発明はさらに、培地中で本発明の細菌を培養すること、イノシン又はグアノシン等のプリンヌクレオシドをリン酸化すること、及び5’−プリンヌクレオチドを回収することを含む、5’−イノシン酸又は5’−グアニル酸等の5’−プリンヌクレオチドの製造方法を提供する。
【0014】
本発明の目的は、プリンヌクレオシド生産能を有するエシェリヒア細菌又はバチルス細菌であって、該細菌中で下記タンパク質の活性が高められた細菌を提供することである。A)配列番号2のアミノ酸配列を含むタンパク質、
B)配列番号2のアミノ酸配列において、1つ又は複数のアミノ酸の置換、欠失、挿入、付加又は逆位を含むアミノ酸配列を含み、前記細菌中で活性が高まると、エシェリヒア細菌又はバチルス細菌を、8−アザアデニン、2,6−ジアミノプリン、6−メルカプトプリン又は6−チオグアニンに対して耐性とする活性を有する、タンパク質。
【0015】
本発明のさらなる目的は、前記タンパク質が、
(a)配列番号1の塩基配列を含むDNAと、
(b)ストリンジェントな条件下で、配列番号1と相補的な塩基配列、又は配列番号1の塩基配列から調製することができるプローブとハイブリダイズすることができ、且つ前記細菌中で活性が高まると、エシェリヒア細菌又はバチルス細菌を、8−アザアデニン、2,6−ジアミノプリン、6−メルカプトプリン又は6−チオグアニンに対して耐性とするタンパク質をコードするDNAとから成る群から選択されるDNAによってコードされる、上記の細菌を提供することである。
【0016】
本発明のさらなる目的は、前記ストリンジェントな条件が、60℃での1×SSC、0.1%SDSによる洗浄工程を含む、上記の細菌を提供することである。
【0017】
本発明のさらなる目的は、前記タンパク質をコードするDNAで前記細菌を形質転換すること、又は該DNAの発現を高めるように、前記細菌の染色体上の該DNAの発現制御配列を改変することにより、該タンパク質の活性が高められた、上記の細菌を提供することである。
【0018】
本発明のさらなる目的は、前記DNAが多コピーベクター上に位置する、上記の細菌を提供することである。
【0019】
本発明のさらなる目的は、前記プリンヌクレオシドがイノシン及び/又はグアノシンである、上記の細菌を提供することである。
【0020】
本発明のさらなる目的は、上記の細菌を培養する工程、及び該培地から該プリンヌクレオシドを回収する工程を含む、プリンヌクレオシドの製造方法を提供することである。
【0021】
本発明のさらなる目的は、前記細菌が、プリンヌクレオシド生合成に関与する遺伝子の発現が高まるように改変された、上記の方法を提供することである。
【0022】
本発明のさらなる目的は、前記プリンヌクレオシドがイノシン又はグアノシンである、上記の方法を提供することである。
【0023】
本発明のさらなる目的は、培地中で上記の細菌を培養して、プリンヌクレオシドを産生する工程、該プリンヌクレオシドをリン酸化して、プリンヌクレオチドを生成する工程、及び該5’−プリンヌクレオチドを回収する工程を含む、5’−プリンヌクレオチドの製造方法を提供することである。
【0024】
本発明のさらなる目的は、前記細菌がプリンヌクレオシド生合成に関与する遺伝子の発現が高まるように改変された、上記の方法を提供することである。
【0025】
本発明のさらなる目的は、前記プリンヌクレオシドがイノシン及び/又はグアノシンであり、前記5’−プリンヌクレオチドがイノシン酸及び/又はグアニル酸である、上記の方法を提供することである。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】PnlpD−yeaS構築物の構造を示す図である。
【図2】pLF−YeaSプラスミドの構造を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本発明を、以下で詳細に説明する。
【0028】
1. 本発明の細菌
本発明の細菌は、プリンヌクレオシド生産能を有するエシェリヒア属又はバチルス属に属する細菌であって、下記タンパク質の活性が高められた細菌である。該タンパク質は、配列番号2で示すアミノ酸配列を有するタンパク質、又は配列番号2で示すアミノ酸配列において、1つ又は複数のアミノ酸の置換、欠失、挿入、付加又は逆位を含み、且つ、細菌を、8−アザアデニン、2,6−ジアミノプリン、6−メルカプトプリン又は6−チオグアニンに対して耐性とする活性を有するタンパク質であり得る。用語「エシェリヒア属又はバチルス属に属する細菌」又は「エシェリヒア細菌又はバチルス細菌」は、この細菌が、微生物学における当業者に既知の分類法に従ってエシェリヒア属又はバチルス属に分類されることを意味する。エシェリヒア属に属する微生物の例は、エシェリヒア・コリ(Escherichia coli)である。バチルス属に属する微生物の例としては、バチルス・サブチリス(Bacillus subtilis)、バチルス・アミロリクエファシエンス(Bacillus amyloliquefaciens)、及びバチルス・プミルス(Bacillus pumilus)が挙げられる。バチルス・サブチリスの例としては、バチルス・サブチリス168マールブルグ株(ATCC6051)及びバチルス・サブチリスPY79株(Plasmid, 1984, 12, 1-9)が挙げられる。バチルス・アミロリクエファシエンスの例としては、バチルス・アミロリクエファシエンスT株(ATCC23842)及びバチルス・アミロリクエファシエンスN株(ATCC23845)が挙げられる。バチルス・サブチリス168マールブルグ株(ATCC6051)、バチルス・アミロリクエファシエンスT株(ATCC23842)及びバチルス・アミロリクエファシエンスN株(ATCC23845)は、アメリカン・タイプ・カルチャー・コレクション(10801 University Boulevard, Manassas, VA., 20110-2209, U.S.A.)から入手することができる。
【0029】
「プリンヌクレオシド生産能」という用語は、培地中でイノシン、グアノシン、キサントシン又はアデノシンを産生し、蓄積する能力を意味する。「プリンヌクレオシド生産能を有する」という用語は、エシェリヒア属又はバチルス属に属する微生物が、培地中でエシェリヒア・コリの野生型株(エシェリヒア・コリW3110及びMG1655等)又はバチルス・アミロリクエファシエンスの野生型株(バチルス・アミロリクエファシエンス
K等)より大量のイノシン、グアノシン、キサントシン又はアデノシンを産生し、蓄積することができることを意味する。このことは、微生物が、培地中で好ましくは10mg/L以上、より好ましくは50mg/L以上のプリンヌクレオシド(イノシン、グアノシン、キサントシン又はアデノシン等)を産生し、集積を引き起こすことができることを意味する。
【0030】
「タンパク質の活性を高める」という用語は、細胞におけるタンパク質分子の数を増やすこと、又は1つのタンパク質分子当たりの活性を増大させることを意味する。「活性」という用語は、細菌が、活性が高まっていない株に比べて、その細菌で活性が高まると、8−アザアデニン、2,6−ジアミノプリン、6−メルカプトプリン又は6−チオグアニンに対して耐性になることを意味する。
【0031】
本発明のタンパク質は、以下で規定されるものを含む:
(A)配列番号2で示すアミノ酸配列を有するタンパク質、及び
(B)配列番号2で示すアミノ酸配列を有するタンパク質において、1つ又は複数のアミノ酸の置換、欠失、挿入、付加又は逆位を含み、該タンパク質が、細菌を、8−アザアデニン、6−メルカプトプリン又は6−チオグアニンに対して耐性とする活性を有するタンパク質。本発明のタンパク質は、YeaSタンパク質とも呼ばれ得る。YeaSタンパク質は、典型的に212個のアミノ酸から成り、6個の予測膜貫通セグメントを含有する疎水性が高いタンパク質であるが、このタンパク質の機能は知られていない(http://ecocyc.org、http://www.tcdb.org)。YeaSタンパク質は、yeaS遺伝子でコードされる。yeaS遺伝子(GenBankアクセッション番号NC_000913の配列における番号1878145〜1878783)は、yeaR遺伝子とyeaT遺伝子との間のエシェリヒア・コリ染色体上に位置している。yeaS(現在leuEと改称されている)遺伝子は、アミノ酸排出に関与するタンパク質をコードし得る(ロシア国特許第2175351号明細書、Aleshin et al., TIBS, 1999、Kutukova et al., FEBS Letters, 579, 4629-4534, 2005)。
【0032】
欠失、置換、挿入又は付加される「複数の」アミノ酸の数は、タンパク質の三次元構造における位置、又はアミノ酸の種類に応じて変わり得る。この数は、配列番号2で示すタンパク質においては、1〜27、好ましくは1〜15、及びより好ましくは1〜5であり得る。
【0033】
「8−アザアデニン、2,6−ジアミノプリン、6−メルカプトプリン又は6−チオグアニンに対して高まった耐性」という用語は、野生株又は親株が増殖することができない濃度で8−アザアデニン、2,6−ジアミノプリン、6−メルカプトプリン又は6−チオグアニンを含有する最小培地で細菌が増殖することができることを意味する。この用語は、細菌が、その野生型株又は親株よりも迅速に、8−アザアデニン、2,6−ジアミノプリン、6−メルカプトプリン又は6−チオグアニンを含有する培地で増殖することができることも意味し得る。プリン塩基類似体の濃度は概して、10〜5000μg/ml、好ましくは50〜1000μg/mlである。
【0034】
本発明のタンパク質の活性を高める技術、特に細胞におけるタンパク質分子の数を増やす技術としては、本発明のタンパク質をコードするDNAの発現調節配列を改変すること、及び/又は遺伝子のコピー数を増やすことが挙げられるが、これらに限定されない。
【0035】
本発明のタンパク質をコードするDNAの発現調節配列を改変することは、強力なプロモーターの制御下にDNAを置くことによって達成することができる。例えば、lacプロモーター、trpプロモーター、nlpD遺伝子のプロモーター、trcプロモーター、λファージのPLプロモーター、pLF22プラスミド上のrepA遺伝子のプロモー
ターが、強力なプロモーターとして知られている。代替的に、例えばプロモーターに突然変異を導入し、これによりプロモーターを高めることができ、プロモーターの下流に位置する構造遺伝子の転写レベルを増大させることができる。さらに、リボソーム結合部位(RBS)と開始コドンとの間のスペーサ領域に突然変異を導入することによって、mRNAからの翻訳効率を高めることができる。例えば、開始コドンの前にある3つのヌクレオチドの種類に応じて、20倍に及ぶ発現レベルが見出された(Gold et al., Annu. Rev. Microbiol., 35, 365-403, 1981、Hui et al., EMBO J., 3, 623-629, 1984)。さらに、バチルスの細胞における本発明のタンパク質をコードするDNAの発現は、バチルスに特異的なRBS(例えばバチルス・サブチリスpurE遺伝子のRBS)下にDNAを置くことによって達成することができる(実施例4を参照されたい)。
【0036】
さらに、遺伝子の転写レベルを増大させるために、エンハンサーを導入してもよい。遺伝子又はプロモーターのいずれかを含有するDNAの染色体への導入は、例えば特開平1−215280号公報(1989)に記載されている。
【0037】
代替的に、遺伝子のコピー数は、遺伝子を多コピーベクターに挿入した後、ベクターを微生物に導入することによって増やすことができる。使用することができるベクターとしては、pMW118、pBR322、pUC19、pBluescript KS+、pACYC177、pACYC184、pAYC32、pMW119、pET22b等のエシェリヒア・コリプラスミドベクター、pHY300PLK、pGK12、pLF14、又はpLF22等のエシェリヒア・コリ−バチルス・サブチリスシャトルベクター、l1059、lBF101、M13mp9等のファージベクター、Muファージ(特開平2−109985号公報)等、及びトランスポゾン(Berg, D.E. and Berg, C.M., Bio/Technol., 1, 417(1983))(Mu、Tn10又はTn5等)が挙げられる。また、プラスミド又はトランスポゾン等を利用した相同組み換えによって、遺伝子を染色体に融合することによって、遺伝子のコピー数を増やすことが可能である。
【0038】
強力なプロモーター又はエンハンサーを使用する技術は、遺伝子コピーの増加に基づく技術と組み合わせることができる。
【0039】
染色体DNAを調製する方法、ハイブリダイゼーション、PCR、プラスミドDNAの調製、DNAの消化及びライゲーション、形質転換、及びプライマーとしてのオリゴヌクレオチドの選択等は、当業者に周知の一般的な方法であり得る。これらの方法は、Sambrook, J., and Russell D., "Molecular Cloning A Laboratory Manual, Third Edition", Cold Spring Harbor Laboratory Press(2001)等に記載されている。
【0040】
本発明のタンパク質をコードする遺伝子の発現が増大したエシェリヒア属に属する微生物を育種するのに必要な遺伝子領域は、エシェリヒア・コリの遺伝子に関する入手可能な情報に基づき、PCR(ポリメラーゼ連鎖反応)によって得ることができる。例えば、yeaS遺伝子(トランスポータをコードすると考えられる)は、PCRを使用して、エシェリヒア・コリK12 W3110又はエシェリヒア・コリMG1655の染色体DNAからクローニングすることができる。染色体DNAは、任意の他のエシェリヒア・コリ株由来であっても、又はそれから得てもよい。
【0041】
本発明のタンパク質は、依然としてYeaSタンパク質の機能的特性を保有することができれば、即ち少なくとも8−アザアデニン、2,6−ジアミノプリン、6−メルカプトプリン又は6−チオグアニンに対する耐性を与えることができれば、天然の多様性によって存在するYeaSタンパク質の突然変異体及び変異体を含む。突然変異体及び変異体をコードするDNAは、yesS遺伝子(配列番号1)の相補的DNA又は該遺伝子の一部と相補的なDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、且つプリンヌクレオ
シド産生を高めるタンパク質をコードするDNAを単離することによって得ることができる。「ストリンジェントな条件」という用語は、いわゆる特異的なハイブリッドを形成し、非特異的なハイブリッドは形成されない条件を意味する。例えば、ストリンジェントな条件は、例えば70%、80%、90%又は95%以上の相同性を有するDNAのような相同性が高いDNAが互いにハイブリダイズする条件を含む。代替的に、ストリンジェントな条件は、サザンハイブリダイゼーションにおける通常の洗浄条件(例えば、60℃、1×SSC、0.1%SDS、好ましくは0.1×SSC、0.1%SDS、より好ましくは65℃、0.1×SSC、0.1%SDS)である条件によって例示される。変異体をコードし、且つyeaS遺伝子とハイブリダイズするDNAのプローブとして、配列番号1の塩基配列の部分配列も使用することができる。このようなプローブは、プライマーとして配列番号1の塩基配列に基づき産生されたオリゴヌクレオチド、及び鋳型として配列番号1の塩基配列を含有するDNA断片を使用したPCRによって調製することができる。長さが約300bpのDNA断片をプローブとして使用する場合、ハイブリダイゼーションにおける洗浄条件は例えば、50℃、2×SSC及び0.1%SDSであり得る。
【0042】
YeaSタンパク質の活性が維持されている限り、YeaSは、配列番号2のアミノ酸配列において、1つ又は複数の位置で、1つ又は複数のアミノ酸が置換、欠失、挿入又は付加されてもよい。本明細書中では、用語「複数」は、タンパク質の三次元構造内のアミノ酸残基の種類及び位置によって変わるが、1〜27、好ましくは1〜15、及びより好ましくは1〜5を意味する。
【0043】
配列番号2のアミノ酸配列における上記の突然変異は、タンパク質の活性を損なわない保存的突然変異であるのが好ましい。置換は、アミノ酸配列において少なくとも1つの残基が取り除かれ、その位置に1つ又は複数の残基が挿入される突然変異を意味する。保存的置換としては、AlaのSer又はThrへの置換、ArgのGln、His又はLysへの置換、AsnのGlu、Gln、Lys、His又はAspへの置換、AspのAsn、Glu又はGlnへの置換、CysのSer又はAlaへの置換、GlnのAsn、Glu、Lys、His、Asp又はArgへの置換、GluのGly、Asn、Gln、Lys又はAspへの置換、GlyのProへの置換、HisのAsn、Lys、Gln、Arg又はTyrへの置換、IleのLeu、Met、Val又はPheへの置換、LeuのIle、Met、Val又はPheへの置換、LysのAsn、Glu、Gln、His又はArgへの置換、MetのIle、Leu、Val又はPheへの置換、PheのTrp、Tyr、Met、Ile又はLeuへの置換、SerのThr又はAlaへの置換、ThrのSer又はAlaへの置換、TrpのPhe又はTyrへの置換、TyrのHis、Phe又はTrpへの置換、ValのMet、Ile又はLeuへの置換が挙げられる。
【0044】
本発明の細菌は、本来的にプリンヌクレシドの生産能を有する細菌において、本発明のタンパク質の活性を高めることによって得ることができる。代替的に、本発明の細菌は、既に該タンパク質の活性を高めた細菌にプリンヌクレオシド生産能を与えることによって得ることができる。
【0045】
プリンヌクレオシドを産生し、且つ本発明のタンパク質の活性が高められる親株は、エシェリヒア・コリFADRaddedd株(pMWKQ(国際公開第99/03988号パンフレット))であり得る。この株は、既知のW3110株の誘導体であり、これはPRPPアミドトランスフェラーゼをコードするpurF遺伝子、プリンリプレッサをコードするpurR遺伝子、プリンヌクレオシドホスホリラーゼをコードするdeoD遺伝子、スクシニル−AMPシンターゼをコードするpurA遺伝子、アデノシンデアミナーゼをコードするadd遺伝子、6−ホスホグルコネートデヒドラーゼをコードするedd遺伝子(国際公開第99/03988号パンフレット)に突然変異が導入され、且つGMP
に対して非感受性であるPRPPアミドトランスフェラーゼをコードするpurFKQ遺伝子を含むpMWKQプラスミドを含む(国際公開第99/03988号パンフレット)。
【0046】
本発明に使用され得るバチルス属に属する親株の例は、バチルス・サブチリス(B.subtilis)株KMBS16−1である。この株は、イノシン産生株であるバチルス・サブチリスKMBS16(米国特許出願公開第2004−0166575号)の変異体であり、purA::erm突然変異がpurA::cat突然変異に変わっている。また、バチルス・サブチリスKMBS16は、既知のバチルス・サブチリスtrpC2の変異体であり、スクシニル−AMPシンターゼをコードするpurA遺伝子(purA::erm)、プリンリプレッサをコードするpurR遺伝子(purR::spc)、及びプリンヌクレオシドホスホリラーゼをコードするdeoD遺伝子(deoD::kan)に突然変異が導入されている(ロシア国特許第2239656号)。本発明に使用され得るバチルス属に属する他の親株としては、バチルス属に属するイノシン産生細菌株、例えばバチルス・サブチリス株AJ12707(FERM P−12951)(特願昭6113876号公報)、バチルス・サブチリス株AJ3772(FERM−P 2555)(特願昭62014794号公報)、バチルス・プミルスNA−1102(FERM BP−289)、バチルス・サブチリスNA−6011(FERM BP−291)、「バチルス・サブチリス」G1136A(米国特許第3,575,809号)(バチルス・アミロリクエファシエンスAJ1991(VKPM B−8994、国際公開第2005095627号パンフレット)としてVKPM(工業用微生物のロシアナショナルコレクション(the Russian National Collection of Industrial Microorganisms), Russia, 117545 Moscow, 1 Dorozhny proezd, 1)に2005年3月10日に寄託された)、バチルス・サブチリスNA−6012(FERM BP−292)(米国特許第4,701,413号)、バチルス・プミルスGottheil番号3218(ATCC番号21005)(米国特許第3,616,206号)、又はバチルス・アミロリクエファシエンス株AS115−7(VKPM B−6134)(ロシア国特許第2003678号)等が挙げられる。
【0047】
1つのタンパク質分子当たりの活性を増大させるために、本発明のタンパク質の構造遺伝子に突然変異を導入し、遺伝子によってコードされたタンパク質の特異的な活性を増大することも可能である。遺伝子に突然変異を導入するために、部位特異的突然変異誘発法(Kramer, W. and Frits, H.J., Methods in Enzymology, 154, 350(1987))、組み換えPCR(PCR Technology, Stockton Press(1989))、DNAの特定部分の化学合成、対象の遺伝子のヒドロキシルアミン処理、及びUV照射又はニトロソグアニジン若しくは亜硝酸等の化学物質による対象の遺伝子を有する微生物株の処理等を使用することができる。タンパク質の活性が高められた微生物は、非変性株又は野生型株が増殖することができない量の8−アザアデニン、2,6−ジアミノプリン、6−メルカプトプリン又は6−チオグアニンを含有する最小培地中で候補株を増殖することによって選択することができる。代替的に、該タンパク質の活性が高められた微生物は、8−アザアデニン、2,6−ジアミノプリン、6−メルカプトプリン又は6−チオグアニンを含有する培地中で、その微生物の非変異株又は野生型株よりも迅速に増殖する株を同定することによって選択することができる。
【0048】
本発明の細菌は、プリン生合成に関与する1つ又は複数の遺伝子の発現を高めることによってさらに改良され得る。このような遺伝子としては、エシェリヒア・コリのpurレギュロン(Escherichia coli and Salmonella, Second Edition, Editor in Chief: F.C.Neidhardt, ASM Press, Washington D.C., 1996)、又はバチルス・サブチリスのpur−オペロン(Bacillus subtilis and other Gram-positive bacteria. Editor in Chief:
A.L. Sonenshein. ASM Press, Washington D.C., 1993)が挙げられる。GMP及びAMPによるフィードバック阻害を受けない、PRPPアミドトランスフェラーゼをコードす
る突然変異purF遺伝子、及びプリンヌクレオチド生合成系においてリプレッサをコードするpurR遺伝子不活化する遺伝子を有するイノシン産生エシェリヒア・コリ株が記載されている(国際公開第99/03988号パンフレット)。
【0049】
本発明のタンパク質の活性を高めることによって、細菌によるプリンヌクレオシド産生が高められる機構は、標的となるプリンヌクレオシドの排出増大の結果であり得る。
【0050】
2. イノシン及び/又はグアノシン等のプリンヌクレオシドの製造方法
本発明の方法は、イノシン及び/又はグアノシン等のヌクレオシドを製造する方法を含み、該方法は培地中で本発明の細菌を培養し、培地中でヌクレオシドを産生させ、蓄積させ、そして、培地からヌクレオシドを回収する工程とを含む。
【0051】
本発明において、培養、培地からのプリンヌクレオシドの回収及び精製等は、プリンヌクレオシドを微生物を使用して産生する従来の発酵と同じように行うことができる。プリンヌクレオシド産生のための培地は、炭素源、窒素源、無機イオン、及び必要に応じて他の有機成分を含有する通常の培地であり得る。炭素源として、グルコース、ラクトース、ガラクトース、フルクトース、アラビノース、マルトース、キシロース、トレハロース、リボース及びデンプンの加水分解物等の単糖類;グリセロール、マンニトール及びソルビトール等のアルコール;グルコン酸、フマル酸、クエン酸及びコハク酸等の有機酸等を使用することができる。窒素源として、硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム、及びリン酸アンモニウム等の無機アンモニウム塩;ダイズ加水分解物等の有機窒素;アンモニアガス;アンモニア水等を使用することができる。ビタミンB1等のビタミン類、必要とされる物質、例えばアデニン及びRNA等の核酸のような有機栄養素、又は酵母抽出物等は、適切な量又は微量な量でも存在し得ることが望ましい。これら以外に必要であれば、少量のリン酸カルシウム、硫酸マグネシウム、鉄イオン、マンガンイオン等を添加してもよい。
【0052】
培養は、16時間〜72時間、好気条件下で行うのが好ましく、培養中の培養温度は、30℃〜45℃内に調整するのが好ましく、pHは、5〜8内に調整するのが好ましい。無機又は有機の酸性物質又はアルカリ性物質やアンモニアガスを使用することによって、pHを調整することができる。
【0053】
培養後、遠心分離又は膜濾過によって、液体培地から細胞等の固体を取り除くことができ、それからイオン交換樹脂と析出の使用等の従来技術の任意の組合せによって、発酵液から標的となるプリンヌクレオシドを回収することができる。
【0054】
3. 5’−イノシン酸及び/又は5’−グアニル酸等のプリンヌクレオチドを製造する方法
本発明の方法は、培地中で本発明の細菌を培養して、プリンヌクレオシドを産生する工程と、プリンヌクレオシドをリン酸化して、5’−プリンヌクレオチドを生成する工程と、5’−プリンヌクレオチドを回収する工程とを含む、プリンヌクレオチドの製造方法を含む。
【0055】
本明細書で使用される「5’−ヌクレオチド」という語句としては、5’−イノシン酸、5’−グアニル酸、5’−キサンチル酸、及び5’−アデニル酸、好ましくは5’−イノシン酸及び/又は5’−グアニル酸が挙げられる。イノシン、キサントシン、グアノシン及びアデノシンをリン酸化して、5’−イノシン酸、5’−グアニル酸、5’−キサンチル酸、及び5’−アデニル酸が生成される。
【0056】
本発明において、培養、培地からのイノシン及び/又はグアノシン等のプリンヌクレオシドの回収及び精製等は、イノシン及び/又はグアノシンを微生物を使用して産生する従
来の発酵と同じように行うことができる。さらに本発明において、イノシン及び/又はグアノシン等のプリンヌクレオシドのリン酸化、及び5’−プリンヌクレオチドイノシン酸及び/又は5’−グアニル酸の回収は、5’−イノシン酸及び/又は5’−グアニル酸等のプリンヌクレオチドをイノシン及び/又はグアノシン等のプリンヌクレオシドから産生する従来の発酵法と同じように行うことができる。
【0057】
プリンヌクレオシドのリン酸化は、様々なホスファターゼ、ヌクレオシドキナーゼ、若しくはヌクレオシドホスホトランスフェラーゼを使用して酵素的に行ってもよく、又はPOCl3等のリン酸化剤を使用して化学的に行ってもよい。ピロホスフェートのC−5’位でのホスホリル基のヌクレオシドへの選択的移動を触媒することができるホスファターゼを使用してもよい(Mihara et. al, Phosphorylation of nucleosides by the mutated
acid phosphatase from Morganella morganii. Appl. Environ. Microbiol. 2000, 66:2811-2816)。また、リン酸供与体としてポリ−リン酸(塩)、フェニルリン酸(塩)、又はカルバミルリン酸(塩)を利用する酸ホスファターゼ(国際公開第9637603号パンフレット)等を使用してもよい。また、基質として、p−ニトロフェニルホスフェート(Mitsugi, K., et al, Agric. Biol. Chem. 1964, 28, 586-600)、無機ホスフェート(特開昭42−1186号公報)、又はアセチルホスフェート(特開昭61−41555号公報)等を利用した、ヌクレオシドのC−2’位、C−3’位、又はC−5’位へのホスホリル基の移動を触媒することができるホスファターゼを使用してもよい。エシェリヒア・コリ由来のグアノシン/イノシンキナーゼ(Mori et. al. Cloning of a guanosine-inosine kinase gene of Escherichia coli and characterization of the purified gene product. J. Bacteriol. 1995. 177:4921-4926、国際公開第9108286号パンフレット)等を使用してもよい。Hammer-Jespersen, K.(Nucleoside catabolism, p. 203-258.
In A Munch-Petesen (ed.), Metabolism of nucleotides, nucleosides, and nucleobases in microorganism. 1980, Academic Press, New York)によって記載されたヌクレオシドホスホトランスフェラーゼ等を使用してもよい。ヌクレオシドの化学的リン酸化は、POCl3等のリン酸化剤を使用して行うことができる(Yoshikawa et. al. Studies of phosphorylation. III. Selective phosphorylation of unprotected nucleosides. Bull. Chem. Soc. Jpn. 1969, 42:3505-3508)。
【0058】
また本発明の方法において、細菌を改変し、プリンヌクレオシド生合成に関与する遺伝子の発現を高めてもよい。
【実施例】
【0059】
実施例1:強力な構成的PnlpDプロモーター下へのyeaS遺伝子のクローニング及びクローニング構築物の染色体への融合
エシェリヒア・コリK−12株の全塩基配列が報告されている(Science, 277, 1453-1474, 1997)。PSI−BLAST検索によって、少なくとも4つのrhtBパラログ(paralogues)(yeaS遺伝子を含む)がエシェリヒア・コリK−12のゲノムに存在することが示されている。yeaS遺伝子は、機能が未知の膜貫通タンパク質をコードする。
【0060】
報告された塩基配列に基づき、配列番号3で表されるプライマー(プライマー1)及び配列番号4で表されるプライマー(プライマー2)を合成した。エシェリヒア・コリMG1655株の染色体DNAを従来方法によって調製した。「Perkin ElmerのGeneAmp PCRシステム2400」を用いて、以下の条件でPCRを行った:Taqポリメラーゼ(Fermentas)によって、95℃で40秒、47℃で40秒、72℃で40秒を30サイクル。PCR断片をSalI及びXbaIで消化し、プラスミドpMIV−PnlpDのSalI及びXbaI部位へクローニングして、エシェリヒア・コリnlpD遺伝子プロモーターの制御下に置いた。cat遺伝子、プロモーター、及びpM1のMu−ファージ
付着部位間の推定外膜リポタンパク質をコードするnlpD遺伝子のRBSの連続クローニングによって、pMIV−PnlpDを得た(ロシア国特許第2212447号、Kutukova
et al., FEBS Letters, 579, 4629-4534, 2005)。このcat−PnlpD−yeaSカセット(図1)のエシェリヒア・コリTG1(K12、del(lac−pro)、supE、thi、hsdD5/F’traD36、proA+B+、lacIq、lacZdelM15)の染色体への融合は、ロシア国特許第2212447号で記載されるにように、ヘルパープラスミドpMH10を使用して、Mu融合系によって行った。エシェリヒア・コリTG1株は、DSMZ(German Collection of Microorganisms and Cell Cultures, Inhoffenstrase 7B, 38124, Braunschweig, Germany)から得ることができる。
【0061】
このようにして、TG1::PnlpD−yeaS株を得た。
【0062】
実施例2:エシェリヒア・コリTG1株のプリン塩基類似体への耐性に対するyeaS遺伝子の過剰発現の効果
TG1::PnlpD−yeaS及び親株TG1に対するプリン塩基類似体の最小阻害濃度(MIC)を、濃度勾配を有する阻害剤を含有するM9グルコース最小寒天プレートで測定した。最小培地で一晩培養した培養物由来の105個〜106個の細胞をプレートにスポットした。培養は、37℃で44時間のインキュベート後に評価した。結果を表1に示す。
【0063】
表1から分かるように、yeaS遺伝子の過剰発現によって、8−アザアデニン、2,6−ジアミノプリン、6−メルカプトプリン及び6−チオグアニンに対する細胞の耐性が増大した。yeaS(leuE)遺伝子は、アミノ酸の排出に関与する膜タンパク質をコードすることが知られている(ロシア国特許第2175351号、Aleshin et al., TIBS, 1999、Kutukova et al., FEBS Letters, 579, 4629-4534, 2005)。したがって、YeaSタンパク質は、広い特異性を有し、且つプリン誘導体の排出にも関与する。
【0064】
【表1】

【0065】
実施例3:エシェリヒア・コリ イノシン産生株によるイノシン産生に対するyeaS遺伝子の過剰発現の効果
イノシン産生株エシェリヒア・コリFADRaddedd(pMWKQ)(国際公開第99/03988号パンフレット)を、TG1::PnlpD−yeaS株で増殖したP1ファージによって形質導入した。10μg/mlのクロラムフェニコール及び75μg/mlのカナマイシンを含有するLB寒天上で形質導入株を選択した。このようにして、エシェリヒア・コリFADRaddedd::_PnlpD−yeaS(pMWKQ)株を得た。この株及び親株エシェリヒア・コリFADRaddedd(pMWKQ)をそれぞれ、75μg/mlのカナマイシンを有するL−ブロス中で37℃で18時間培養し、20×200mm容の試験管中の75mg/lのカナマイシンを含有する発酵培地3mlに培養物0.3mlを接種し、回転振盪器で37℃で72時間培養した。
発酵培地の組成(g/l):
グルコース 40.0
(NH42SO4 16.0
2HPO4 1.0
MgSO4・7H2O 1.0
FeSO4・7H2O 0.01
MnSO4・5H2O 0.01
酵母抽出物 8.0
CaCO3 30.0
【0066】
グルコース及び硫酸マグネシウムを別々に滅菌する。CaCO3を180℃で2時間、乾燥加熱滅菌する。pHを7.0に調整する。滅菌後、抗生物質を培地に導入する。
【0067】
培養後、培地中に蓄積したイノシン量をHPLCで測定した。培地のサンプル(500μl)を15000rpmで5分間遠心分離し、上清をH2Oで4倍希釈し、HPLCで分析した。HPLC分析の条件:カラム:Luna C18(2) 250×3mm、5u(Phenomenex, USA)。バッファー:2%(v/v)C25OH;0.8%(v/v)トリエチルアミン;0.5%(v/v)(氷)酢酸;pH4.5。温度:30℃。流速:0.3ml/分。注入量:5μl。検出:UV250nm。
保持時間(分):
キサントシン 13.7
イノシン 9.6
グアノシン 11.4
アデノシン 28.2
【0068】
結果を表2に示す。
【0069】
【表2】

【0070】
表2から分かるように、yeaS遺伝子の過剰発現によって、FADRaddedd(pMWKQ)株のイノシン生産性が向上した。
【0071】
実施例4:単一レプリコンシャトルベクターpLF22へのyeaS遺伝子のクローニング
バチルス株でyeaS遺伝子を発現するために、プラスミド上に存在するrepAB遺伝子プロモーター及びバチルス・サブチリスリボソーム結合部位のpurE遺伝子の制御下で、yeaS遺伝子を単一レプリコンシャトルベクターpLF22にクローニングした(Tarakanov et al., Expression vector pLF22 for the lactic acid bacteria. Mikrobiologiia(Rus). 73(2), 211-217, (2004))。このために、プライマー3(配列番号5)及びプライマー4(配列番号6)は、鋳型としてMG1655の染色体DNAを用いたPCRに使用した。プライマー3は、バチルス・サブチリスpurE遺伝子のリボソーム結合部位を含有する。得られた断片をSmaI及びHindIIIで消化し、repAB遺伝子プロモーターの制御下で、プラスミドpLF22のSmaI及びHindIII部位にクローニングした。このようにして、pLF−YeaSプラスミドを得た。
【0072】
実施例5:バチルス・アミロリクエファシエンスのイノシン−グアノシン産生株によるイノシン及びグアノシン産生に対するyeaS遺伝子の過剰発現の効果
形質転換によって、pLF22プラスミド及びpLF−YeaSプラスミドをバチルス・サブチリス168株に導入し、形質転換株をそれぞれ、バチルス・サブチリス(pLF22)及びバチルス・サブチリス(pLF−YeaS)と称した。それから、これらの株で増殖したE40ファージを使用して、バチルス・アミロリクエファシエンスAJ1991(ATCC番号19222、VKPM B−8994)株に形質導入した(米国特許第3,575,809号明細書)。形質導入株を、10μg/mlのクロラムフェニコールを含有するLBで選択した。このようにして、バチルス・アミロリクエファシエンスAJ1991(pLF22)株及びバチルス・アミロリクエファシエンスAJ1991(pLF−YeaS)株を得た。
【0073】
バチルス・アミロリクエファシエンスAJ1991(pLF−YeaS)株及びバチルス・アミロリクエファシエンスAJ1991(pLF22)対照株をそれぞれ、L−ブロス中で34℃で18時間培養した。それから、20×200mm容の試験管中の発酵培地3mlに培養物0.3mLを接種し、回転振盪器で34℃で72時間培養した。
【0074】
発酵培地の組成は以下の通りである:(g/l)
グルコース 80.0
KH2PO4 1.0
MgSO4 0.4
FeSO4・7H2O 0.01
MnSO4・5H2O 0.01
NH4Cl 15.0
アデニン 0.3
(豆濃(Mameno)形態の*)全窒素 0.8
CaCO3 25.0
*:ダイズ加水分解物
【0075】
グルコース及び硫酸マグネシウムを別々に滅菌する。CaCO3を180℃で2時間、乾燥加熱滅菌する。pHを7.0に調整する。
【0076】
培養後、上記のように、培地中に集積したイノシン及びグアノシンの量をHPLCで測定した。結果を表3に示す。
【0077】
【表3】

【0078】
表3から、yeaS遺伝子の過剰発現は、バチルス・アミロリクエファシエンスAJ1991(pLF−YeaS)株のイノシン及びグアノシンの生産性を向上させたということになる。
【0079】
本発明は、その好ましい実施形態で詳細に説明されているが、本発明の範囲を逸脱することなく、様々な変更を行い、同等物を利用することができることは当業者にとって明らかである。上述の文献はそれぞれ、その全体が参照により本明細書に援用される。
【産業上の利用可能性】
【0080】
本発明によれば、エシェリヒア細菌又はバチルス細菌によるプリンヌクレオシドの産生を高めることができる。産生されたプリンヌクレオシドは、例えば5’−プリンヌクレオチドの産生に使用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プリンヌクレオシド生産能を有するエシェリヒア細菌又はバチルス細菌であって、該細菌中で下記A及びBから選択されるタンパク質の活性が高められた細菌。
A)配列番号2のアミノ酸配列を含むタンパク質、
B)配列番号2のアミノ酸配列において、1つ又は複数のアミノ酸の置換、欠失、挿入、付加又は逆位を含むアミノ酸配列を含み、前記細菌中で活性が高まると、エシェリヒア細菌又はバチルス細菌を、8−アザアデニン、2,6−ジアミノプリン、6−メルカプトプリン又は6−チオグアニンに対して耐性とする活性を有するタンパク質。
【請求項2】
前記タンパク質が、
(a)配列番号1の塩基配列を含むDNA、
(b)ストリンジェントな条件下で、配列番号1と相補的な塩基配列、又は配列番号1の塩基配列から調製することができるプローブとハイブリダイズすることができ、且つ前記細菌中で活性が高まると、エシェリヒア細菌又はバチルス細菌を、8−アザアデニン、2,6−ジアミノプリン、6−メルカプトプリン又は6−チオグアニンに対して耐性とするタンパク質をコードするDNA、
から成る群から選択されるDNAによってコードされる、
請求項1に記載の細菌。
【請求項3】
前記ストリンジェントな条件が、60℃での1×SSC、0.1%SDSによる洗浄工程を含む、請求項2に記載の細菌。
【請求項4】
前記タンパク質をコードするDNAで前記細菌を形質転換すること、又は該DNAの発現を高めるように、前記細菌の染色体上の該DNAの発現制御配列を改変することにより、該タンパク質の活性が高められた、請求項1〜3のいずれか一項に記載の細菌。
【請求項5】
前記DNAが多コピーベクター上に位置する、請求項4に記載の細菌。
【請求項6】
前記プリンヌクレオシドがイノシン及び/又はグアノシンである、請求項1〜5のいずれか一項に記載の細菌。
【請求項7】
培地中で請求項1〜6のいずれか一項に記載の細菌を培養する工程、及び該培地から該プリンヌクレオシドを回収する工程を含む、プリンヌクレオシドの製造方法。
【請求項8】
前記細菌が、プリンヌクレオシド生合成に関与する遺伝子の発現が高まるように改変された、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記プリンヌクレオシドがイノシン又はグアノシンである、請求項7又は8に記載の方法。
【請求項10】
培地中で請求項1〜6のいずれか一項に記載の細菌を培養し、プリンヌクレオシドを産生する工程、該プリンヌクレオシドをリン酸化して、プリンヌクレオチドを生成する工程、及び該5’−プリンヌクレオチドを回収する工程を含む、5’−プリンヌクレオチドの製造方法。
【請求項11】
前記細菌がプリンヌクレオシド生合成に関与する遺伝子の発現が高まるように改変された、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記プリンヌクレオシドがイノシン及び/又はグアノシンであり、前記5’−プリンヌ
クレオチドがイノシン酸及び/又はグアニル酸である、請求項10又は11に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2010−512732(P2010−512732A)
【公表日】平成22年4月30日(2010.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−525842(P2009−525842)
【出願日】平成19年12月11日(2007.12.11)
【国際出願番号】PCT/JP2007/074195
【国際公開番号】WO2008/084629
【国際公開日】平成20年7月17日(2008.7.17)
【出願人】(000000066)味の素株式会社 (887)
【Fターム(参考)】