説明

エスカレータの移動手すりおよびその製造方法

エスカレータ(20)は移動手すりアッセンブリ(30)を含み、これは同時に押し出し成形される複数のポリマ材料(34,36)を有する移動手すり(32)を含む。1つの実施例では、最外部(34)が乗客側の掴み面(38)を形成する。1つの実施例は、移動手すり断面の中央付近に、押し出された軟質で安価なポリマを含有させることにより、コストを削減し重量を低減させる。開示された実施例はポリマ材料(34,36)の選択された一方の材料から成る内側部分に歯付き駆動面(40)を含む。1つの実施例では、駆動面(40)および掴み面(38)は同一のポリマ材料を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は一般的にエスカレータに関する。特に、本発明は、エスカレータ用移動手すりの製造に関する。
【背景技術】
【0002】
エスカレータはよく知られている。コンベヤの両端にある昇降口間を乗客を乗せて運ぶために、通常、複数の踏段はループ状に動く。たいてい移動手すりが装備されているので、コンベヤで運ばれる際、乗客は自身を安定に支えることができる。
【0003】
一般的な移動手すりの設計は上方を向いて平らな面を有し、その縁が丸みを帯びている。移動手すりの本体は、多くの場合、材料を積層したシートから成り、層合わせを確実にするために接着剤、熱または圧力を利用する。ある種のゴム製移動手すりは型成形プロセスを利用して製造される。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の移動手すりの設計上の1つの欠点は、どのような乗客でも握り易いような表面を提供できないことである。人間工学的により使い易い設計が望まれる。しかし、従来の製造技術では、材料コストと実際の移動手すりに必要とされる剛性の面から、移動手すりの形状に限界があった。
【0005】
従来の移動手すりの設計上の別の欠点は、一般的に、移動手すりと駆動装置との間の摩擦を利用する圧迫型の駆動設備に依存する点である。この際、移動手すりと駆動装置との間の摩擦は、移動手すりをエスカレータ踏段と同時に動かすのに十分なだけの垂直な力を移動手すりに対して与える。このような設備は移動手すりの外側面に傷や磨耗を残すことが多い。これにより移動手すりは早期の交換を余儀なくされる。
【0006】
別の駆動設備が特許第2735453号明細書に記載されている。この明細書では、移動手すりを動かす目的で、駆動装置と連動して稼働できるように移動手すり内側面にラック歯が形成されている。この明細書は改良された移動手すり用駆動設備が記載しているが、移動手すりの全体的な設計や製造方法は理想とするものではない。当業者は常に改良の努力を重ねている。
【0007】
本発明は、移動手すりに関する改良した設計および製造技術を提供するものであり、これにより、従来の形状とは異なる移動手すりおよび改良された駆動設備の実現が可能になる。
【課題を解決するための手段】
【0008】
エスカレータの移動手すりを製造する実施例の方法は、複数のポリマ材料を同時に押し出し成形して、第1のポリマ材料から乗客の掴み面を製造し、第2の材料から内側部分を製造するステップを含む。1つの実施例では、移動手すり上に歯付き駆動面を形成するステップが含まれる。歯付き駆動面は、対応する表面形状を有する駆動装置と相互作用する駆動面である。
【0009】
1つの実施例の移動手すりは、同時に押し出し成形される複数のポリマ材料を含む。ポリマ材料の1つである第1のポリマ材料は掴み面を形成する特性を有し、ポリマ材料の1つである第2のポリマ材料は、内側部分に例えば高い耐磨耗性をもたらすという特性を有する。1つの実施例の移動手すりは、歯付き駆動面を有する。
【0010】
本発明の様々な特徴および利点は、最新の好ましい形態に関する以下の詳細な記載から当業者に明らかであろう。詳細な記載に添付された図面については後に簡単に説明する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
図1は、昇降口24と昇降口26との間を公知の方法で移動して乗客を運搬する複数の踏段22を含むエスカレータ20を示す。移動手すりアッセンブリ30が複数の踏段22と連動するので、エスカレータ20に乗っている間、乗客は自身を支えることができる。移動手すりアッセンブリ30は移動手すりと欄干34を含む。移動手すりガイダンス(図示せず)は、欄干34に対して動く移動手すり32が、踏段22と同時に移動し易くするためのものである。
【0012】
図2は、本発明の実施形態に即して設計された1つの例示の移動手すり32の断面図である。この実施例では、移動手すり32は複数のポリマ材料を含む。この実施例では、第1のポリマ材料34と第2のポリマ材料36が示される。特定の状況におけるニーズに対処するために、2種類を超える材料を使用してもよい。説明のために2種類の材料を図示している。本明細書により利益を受ける当業者は、その時々の特定の状況におけるニーズに対処するように適当な材料を選択し、それらを組み合わせることができるであろう。
【0013】
1つの実施例の第1のポリマ材料34は、熱可塑性ポリウレタンを含む。この実施例では、第1のポリマ材料34は比較的硬い外側面38を形成し、これが乗客の掴み面となる。
【0014】
第2のポリマ材料36は、移動手すり32の内側部分を形成する。第2のポリマ材料を使用すれば、例えば、移動手すりの内側にそれほど高価でない材料を使用できる。外層つまり掴み面38は、例えば、表面にある程度の耐久性を有するべきである。第2のポリマ材料36から成る内側部分にはこのような特性は必要ないが、適度な耐摩耗性を有するべきであり、移動手すり32の内側部分を製造するのに1つまたは複数の第2のポリマ材料36を適切に選択することにより、費用節減を実現し得る。
【0015】
1つの実施例では、第2のポリマ材料36は、約40〜50メガパスカルの範囲の強度に相当する剛性を有する。1つの実施例では、材料は約80〜90の範囲のショア硬さを有する。この記載により、当業者はその時々の特定のニーズに対処するのに適切な材料を選択することができるであろう。
【0016】
例示の実施例の断面図からすると、従来の平面的な設計の場合と比べて、移動手すり32を製造するにはかなり多くの原料が必要であると思われる。複数の材料を使用することでコストの増加を避けることができるが、さもないと従来の平面的な設計と比べて丸みを帯びた断面であるためコストが増加する。この実施例では、第1のポリマ材料34と第2のポリマ材料36との間に、充填されていない空間が存在する。この空間は図2で番号39として示される。別の実施例は、この空間を充填する第3のポリマ材料を含む。このような第3のポリマ材料は、外側面について移動手すりの性能に関わるような要求が存在しないので、より安価な材料から選択することができる。例示の実施例の1つの利点は、材料の選択が可能であり、これによって従来の設計よりコストを削減できる点である。
【0017】
さらに、複数のポリマ材料を選択することにより材料の剛性および屈曲性が調整できるので、所望の耐久性および面肌をコスト制約の範囲で実現できる。本明細書により利益を受ける当業者は、その時々の特定の状況において、材料のどのような組合せが最良であるかを認識しているであろう。市販のまたは特注の材料を使用してよい。
【0018】
図2の実施例の1つの特徴は、歯付き駆動面40が移動手すり32の“内”側に存在することである。図3および図4は、歯付き駆動面40の例である。各実施例では、凹部42は歯部44と組み合わさり、これにより駆動面は例えば歯付きスプロケットまたは歯付きベルトと係合するようになる。図3の実施例では、歯部44が移動手すりの仕上がり内側面から外側に突出していない。この実施例では、凹部42は駆動面40の幅全体に広がらない。図4の実施例では、凹部42は駆動面40の幅全体に亘る溝のような構造である。
【0019】
図2を再び参照すると、例示の実施例は低摩擦材料から成る滑り層(slider layer)46を含み、これにより移動手すり32はガイダンスに沿って動き易くなる。1つの実施例では、第2のポリマ材料36を押し出した後に、且つ、材料がまだ十分に温かく滑り層材料と第2のポリマ材料36との間に容易に堅固な結合が得られる間に、滑り層材料を第2のポリマ材料36へ接着させる。別の実施例では、滑り層は押し出し装置へ送り込まれ、押し出しプロセス中に材料へ接着される。1つの実施例では、低摩擦滑り層は、エスカレータ用移動手すりの滑り層として利用される公知の材料を含有する。
【0020】
図5は、移動手すり32を製造し、歯付き駆動面40を形成するための技術の1つの例を示す略図である。図5の実施例では、型成形装置50が第1の押出機52を含み、これが位置54で装置50へ送り込まれるポリマ材料の1つである第1のポリマ材料34を押し出す。第2の押し出し機56は、位置58で送り込まれる第2のポリマ材料を押し出す。押し出し機52,56から出たものを共通の型成形装置60へ送り込む。この実施例では、型成形装置60は、押し出された材料34,36を受け取る入口として、複数のマニホールド62,64を有する。1つの出口66は、移動手すり32の形状を製造できるように、形状づけられているかダイスを含んでいる。
【0021】
例示の実施例では、移動手すりを製造するのに複数のポリマ材料を同時に押し出し成形する。同時に押し出し成形する技術は知られており、本明細書により利益を受ける当業者は、その時々の特定の状況におけるニーズに対処できる移動手すり形状を得るのに適する材料および技術を選択できるであろう。図5の実施例では層流原理を組み合わせて利用しており、これにより適当な操作条件下、材料34,36の2種類の溶融層を、これらの接触界面における材料混合を最小限に抑えた状態で型成形装置60の共通流路に導入することができる。これにより、例えば図2に示すように、移動手すりの多−構成設計(すなわち内側部分および外側部分を有する設計)が実現可能となる。
【0022】
この実施例では、2つのチャンバがマニホールド入口62,64につながっており、これらの入口はそれぞれ、移動手すりの対応部分を形成するために必要な断面に応じた幅、長さおよび高さを有する。得られた製品32’は空気中で延伸され、次に移動手すりを完成させるための仕上げ装置へと送られる。図5の実施例では、第1のホイール70が“内”側の駆動面40と噛み合い、歯付き駆動面40が完成する。1つの実施例では、ホイール70が鋸歯付きの外形を有し、押し出された移動手すり材料を切削するかまたは加圧して凹部42を形成することにより、駆動面40上に歯部を作成する。
【0023】
図5の実施例では、掴み面仕上げホイール72が掴み面38と係合し、掴み面に所望の面肌を形成する。方法の最後で冷却浴74が、梱包および現場への輸送のために公知の方法で移動手すりを取り扱うことができるように、移動手すり32の材料を冷却する。
【0024】
別の実施例では、同時押し出し成形中に歯付き駆動面40が形成される。図2に示すように、移動手すり32内には耐荷重部材80が設けられている。この実施例では、複数のスチールコードが少なくとも部分的に第2のポリマ材料内で支持されて耐荷重部材80となる。1つの実施例では、移動手すり32内に耐荷重部材80を形成するのと同時に歯付き駆動面40を製造する。
【0025】
図6は型成形用ホイール82の略図であり、1つの実施例では押し出し機の一部として含まれ、複数の凸部84および凹部86を有する。耐荷重部材80のスチールコードは、適当なポリマ材料が少なくとも部分的に耐荷重部材80を覆い、型成形用ホイールの凹部86を満たすように押し出し機の凸部84に沿って支持される。押し出された材料および耐荷重部材80が型成形用ホイールを通過すると、材料は図4で示したものに類する駆動面を有する。このような設備では、図5のホイール70は、移動手すり32を冷却浴74へ導くための、鋸歯状の外側面を伴わない誘導ホイールであってもよい。このような実施例のホイール72は、移動手すり32の掴み面に所望の面肌をもたらすように成形されていてよい。1つの実施例では、駆動面40上に印加されるべき成形圧力を調整するための制御システムを含んでよい。
【0026】
上記記載は、本質的に例示を目的とするもので制限を意図しない。開示される実施例への本発明の本質を必ずしも逸脱しない範囲での変更および修正は、当業者に明らかであろう。本発明に与えられる法的保護範囲は、以下の請求項を熟読することによってのみ判断できる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の実施形態に従って設計された移動手すりを組み込んだ実施例のエスカレータの略図。
【図2】図1の線2−2に沿って見た実施例の移動手すりの断面図。
【図3】1つの実施例の駆動面の略図。
【図4】別の実施例の駆動面の略図。
【図5】本発明の1つの実施形態に従うエスカレータ用移動手すりの製造方法の略図。
【図6】別の実施例の方法の選択された一部の略図。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のポリマ材料を同時に押し出し成形して、ポリマ材料の1つである第1のポリマ材料から乗客の掴み面を製造し、前記ポリマ材料の1つである第2のポリマ材料から内側部分を製造するステップと、
この移動手すりに歯付き駆動面を形成するステップと、
を含むエスカレータ用移動手すりの製造方法。
【請求項2】
前記第1のポリマ材料および前記第2のポリマ材料を同時に押し出し成形した後に、歯付き駆動面を形成するステップを含むことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記押し出された材料の少なくとも1つの面を、前記歯付き駆動面を形成するための外側面を有するホイールに押し付けるステップを含むことを特徴とする請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記歯付き駆動面を形成した後に前記押し出しされた材料を冷却するステップを含むことを特徴とする請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記第1のポリマ材料が、熱可塑性ポリウレタンを含むことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項6】
少なくとも1つの前記ポリマ材料中に耐荷重部材を少なくとも1つ設けるステップを含むことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記耐荷重部材が複数のコードを含み、前記方法が該コードの少なくとも一部を少なくとも1つの材料で覆うステップを含むことを特徴とする請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記複数のコードを型成形用ホイールで支持するステップと、該型成形用ホイールを利用して前記歯付き駆動面を形成するステップを含むことを特徴とする請求項7に記載の方法。
【請求項9】
エスカレータ用移動手すりであって、
同時に押し出し成形される複数のポリマ材料を備え、該ポリマ材料の第1のポリマ材料は、掴み面を製造し、前記ポリマ材料の第2のポリマ材料は、内側部分を製造し、
前記移動手すりは、歯付き駆動面を含むことを特徴とするエスカレータ用移動手すり。
【請求項10】
前記第1のポリマ材料と前記第2のポリマ材料との間の少なくとも一部に第3のポリマ材料充填材を含むことを特徴とする請求項9に記載の移動手すり。
【請求項11】
少なくとも1つの前記ポリマ材料中に存在する少なくとも1つの耐荷重部材を有することを特徴とする請求項10に記載の移動手すり。
【請求項12】
第1のポリマ材料が熱可塑性ポリウレタンを含むことを特徴とする請求項9に記載の移動手すり。
【請求項13】
前記内側部分の少なくとも一部に隣接する低摩擦滑り層を有することを特徴とする請求項9に記載の移動手すり。
【請求項14】
前記歯付き駆動面が、前記第2のポリマ材料を含むことを特徴とする請求項9に記載の移動手すり。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2008−538346(P2008−538346A)
【公表日】平成20年10月23日(2008.10.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−505279(P2008−505279)
【出願日】平成17年4月8日(2005.4.8)
【国際出願番号】PCT/US2005/011924
【国際公開番号】WO2006/110136
【国際公開日】平成18年10月19日(2006.10.19)
【出願人】(591020353)オーチス エレベータ カンパニー (402)
【氏名又は名称原語表記】OTIS ELEVATOR COMPANY
【Fターム(参考)】