説明

エスカレータ用踏段

【課題】エスカレータ用踏段において、利用者の踏段上移動を有効に抑制することである。
【解決手段】踏段14は、利用者が乗載可能な踏板30を備え、無端状連結部材であるチェーン16により複数連結された状態で使用する。踏段14は、踏板30上の特定の部分が利用者の足で踏まれる毎に注意喚起音を発生する出力部であるスピーカー46を含む踏段上移動抑止装置48を備える。踏段上移動抑止装置48は、踏板上の特定の部分が利用者の足で踏まれたことを検知可能で、検知信号を出力する圧力センサ50a、50bと、踏板30上の特定の部分が利用者の足で連続して踏まれる時間が予め設定した所定時間内である場合に、スピーカー46により注意喚起音を発生させる出力部作動手段とを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、利用者が乗載可能な踏板を備え、無端状連結部材により複数連結された状態で使用されるエスカレータ用踏段に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、図10に略断面図を示すようなエスカレータが考えられている。図10に示すエスカレータは、例えば建物内に収容され、建物の上側階床と下側階床とにかけ渡すように配置されたトラス10に設けられた移送手段12を備え、移送手段12により複数の踏段14を移動自在としている。すなわち、複数の踏段14に図示しない複数のステップ軸が支持されており、複数のステップ軸が、無端状連結部材であるチェーン16により連結されている。また、各ステップ軸の左右両側(図10の表裏両側)に支持された左右2個の駆動ローラ18(図10では左右の片側の駆動ローラ18のみを示し、他側の駆動ローラを省略する。)が、左右で上下2本ずつの駆動レール20a、20bにより案内されている。なお、本明細書および特許請求の範囲の全体において、「左右」は、エスカレータの下側の乗降口から上側の乗降口を見た場合の左右である。なお、エスカレータは、屋外に設けられたものでもよい。
【0003】
また、移送手段12は、駆動機構22と、エスカレータ駆動装置24とを含む。駆動機構22は、上記のチェーン16とスプロケット26,28とを有する動力伝達機構を含む。エスカレータ駆動装置24はモータを含み、駆動によりチェーン16が駆動され、踏段14を循環させる。このために上側、下側の2のスプロケット26,28の間にチェーン16がかけ渡されている。図示の例では、エスカレータは、下降用であり、図10に矢印αで示す方向に複数の踏段14を循環させる。なお、エスカレータを上昇用とする場合には、図10の矢印αと逆方向に複数の踏段を循環させる。
【0004】
また、従来からエスカレータの踏段上での利用者の転倒の危険性を回避する手段が考えられている。例えば、特許文献1には、乗客がエスカレータに乗り込むときに転倒を回避するための転倒防止装置が記載されている。転倒防止装置は、エスカレータの乗り込み口の床板の前方に踏段である踏段の踏板の全面が現れる時点を検出する計測装置と、踏板の全面が現れる時点毎に音を発する報知装置とを備える。報知装置は、さらに、踏板の全面が現れる時点毎に光を発する発光器を備える。これにより、踏板の全面が現れる時点で乗り込む人に向けて鳴らされる音が歩を進めるときのリズムとして作用し、人が全面が現れた踏板の中央に足を載せて乗り込むことができ、踏段が上昇しても段差に足が載っていないので、エスカレータに乗り込むときに転倒の危険性がないとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−327808号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載された転倒防止装置は、エスカレータに人が乗り込む際の転倒の危険性を回避することを目的として考えられたものである。ただし、エスカレータでの利用者の転倒の状態としては、エスカレータに乗り込む際の利用者の足が踏段の段差に載ることにより転倒する場合の他、踏段に乗載する利用者が、次々に別の踏段に乗るように歩行したり、走ったりする際に段差に載ったり、つまづいたり、または立ち止まっている人の追い越し時にその人の肩等、身体にぶつかる等により転倒することも考えられる。このため、本発明者は、利用者の踏段上での歩行や走り等の踏段上移動を抑制することが利用者の転倒防止につながると考えた。ただし、特許文献1には、利用者の踏段上移動を抑制する有効な手段は開示されていない。
【0007】
本発明の目的は、エスカレータ用踏段において、利用者の踏段上移動を有効に抑制することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係るエスカレータ用踏段は、利用者が乗載可能な踏板を備え、無端状連結部材により複数連結された状態で、エスカレータの踏段連結機構を構成するエスカレータ用踏段であって、踏板上の特定の部分が利用者の足で踏まれる毎に注意喚起出力を発生する出力部を含む踏段上移動抑止装置を備えることを特徴とするエスカレータ用踏段である。
【0009】
また、本発明に係るエスカレータ用踏段において、好ましくは、出力部は、注意喚起出力である音または光を発する機能を有する。
【0010】
また、本発明に係るエスカレータ用踏段において、好ましくは、踏段上移動抑止装置は、踏板上の特定の部分が利用者の足で踏まれたことを検知可能で、検知信号を出力する検知部と、踏板上の特定の部分が利用者の足で連続して踏まれる時間が予め設定した所定時間内である場合に、出力部により音または光を発生させる出力部作動手段とを含む。
【0011】
また、本発明に係るエスカレータ用踏段において、好ましくは、踏板は、少なくとも左右方向片側半部に形成された孔部を有する枠体と、枠体の孔部内に配置され、枠体に対し移動方向一端部に設けられた支持軸を中心とする揺動可能に支持された揺動板と、を含み、揺動板と枠体との間に設けられ、揺動板に枠体に対して上方に変位する方向の弾力を付勢する弾力付与部を備え、検知部は、揺動板が弾力付与部の弾力に抗して下方に変位した場合に作動し、検知信号を出力する。
【0012】
また、本発明に係るエスカレータ用踏段において、好ましくは、検知部は、踏板上に設けられ、上側が遮光された場合に作動し、検知信号を出力する遮光感知センサを含む。
【0013】
また、本発明に係るエスカレータ用踏段において、好ましくは、出力部は、踏板の裏側に貼り付けるように設けられた発音部材であって、自由状態で弾性的に膨らみ、内側に空気溜まりを形成する膨出部と、膨出部に接続され、踏板の変形により膨出部が変形した場合に空気を吹き出すことで発音する吹き出し部とを含む。
【0014】
また、本発明に係るエスカレータ用踏段において、好ましくは、踏板は、踏板本体と、踏板本体の左右両端部の上側に支持された左右のデマケーションクリートとを含み、踏段上移動抑止装置は、踏板上の特定の部分である左右のデマケーションクリートのうち、対応するデマケーションクリートが利用者の足で踏まれたことを検知可能で、検知信号を出力する左右の検知部と、左右のデマケーションクリートの少なくともいずれか1が利用者の足で踏まれた場合に、出力部により音または光を発生させる出力部作動手段とを含む。
【0015】
また、本発明に係るエスカレータ用踏段において、好ましくは、左右のデマケーションクリートは、踏板本体の左右両端部上に移動方向一端部に設けられた支持軸を中心とする揺動可能に支持するように設けられており、踏板本体の左右両端部と左右のデマケーションクリートとの間に設けられ、対応するデマケーションクリートに踏板本体に対して上方に変位する方向の弾力を付勢する左右の弾力付与部を備え、左右の検知部は、対応するデマケーションクリートが対応する弾力付与部の弾力に抗して下方に変位した場合に作動し、検知信号を出力する。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係るエスカレータ用踏段によれば、利用者が複数の踏板の特定の部分を踏むように歩行等の踏段上移動すると、踏板を踏む毎に音または光等の注意喚起出力が発生するので、利用者の踏段上移動を有効に抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係る、ステップ軸に支持された踏段を示す略斜視図である。
【図2】図1の踏段の上方から下方に見た略図である。
【図3】踏板の端部を示す、図1の矢印A方向に見た図である。
【図4】第1の実施の形態において、踏段が踏まれた場合に注意喚起出力を発生させる方法を示すフローチャートである。
【図5】本発明の第2の実施の形態に係る、ステップ軸に支持された踏段を部分的に示す略斜視図である。
【図6】図5の矢印B方向に見た略図である。
【図7】本発明の第3の実施の形態において、踏板の端部を示す、図3に対応する図である。
【図8】本発明の第4の実施の形態に係る踏段を構成する踏板の裏側に固定した発音部材を示す斜視図である。
【図9】本発明の第5の実施の形態に係る踏段の端部を示す、図3に対応する図である。
【図10】従来から考えられているエスカレータの1例を示す略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
[第1の発明の実施の形態]
以下において、図面を用いて本発明に係る実施の形態につき詳細に説明する。図1から図4は、本発明の第1の実施の形態を示している。なお、踏段14を除くエスカレータの基本構成自体は、上記の図10に示した構造の場合と同様であるため、同等部分には同一符号を付して重複する図示および説明を省略もしくは簡略にする。
【0019】
図1に示すように、複数の踏段14は無端状連結部材であるチェーン16により連結された状態で、エスカレータに組み込んで使用される。このような踏段14は、それぞれ利用者が乗載可能な略矩形状の踏板30と、踏板30の外周に設けられた移動方向両端部である、一対の長辺部の一方の長辺部に略直角に結合するように設けられたライザー32とを備える。また、踏段14の左右方向(図1の矢印β方向)両端部裏側とライザー32の左右両端の下端部とを結合するように補強部34が設けられている。各補強部34の上端部にステップ軸36が、左右両端寄りを延出させるように支持されており、ステップ軸36の左右両端部に駆動ローラ18が回転可能に支持されている。各駆動ローラ18は、トラスに設けられた、左右で上下2本ずつの駆動レール20a、20b(図10参照)により案内されている。
【0020】
また、各補強部34の下端部で、駆動ローラ18と斜め上下方向に離れた部分に、2個の追従ローラ38が回転可能に支持されている。各追従ローラ38は、トラスに設けられた、左右で2個の環状の追従レール(図示せず)により案内されている。
【0021】
また、図2に示すように、踏板30上のライザー32と反対側の長辺部には、黄色等の目立つ色が付された注意喚起部であるデマケーションコム40が設けられている。また、踏板30は、鉄、アルミニウム合金等の金属により構成される踏板本体42と、踏板本体42の左右両端部上にねじ等で固定された樹脂製のデマケーションクリート(以下、「デマクリート」という。)44とを含む。図3に示すように、踏板本体42及びデマクリート44の上面には、櫛歯が形成されている。また、デマクリート44の表面にも、黄色等の目立つ色の表示部が表示されている。また、ライザー32(図1)の表面にも図示しない櫛歯が形成されている。
【0022】
また、踏段14は、踏板30上の特定の部分が利用者の足で踏まれる毎に注意喚起出力である注意喚起音を発生する出力部であるスピーカー46を含む踏段上移動抑止装置48を備える。踏段上移動抑止装置48は、上記のスピーカー46と、検知部である左右の圧力センサ50a、50bと、制御部52(図2)とを含む。図2に示すように、左右の圧力センサ50a、50bは、踏板30の上面の左右両側に分かれた部分に設けられており、それぞれ図2に符号50a、50bを付した矩形状の範囲に複数の圧力センサ要素を有する。より具体的には、図3に示すように、片側の圧力センサ50aで代表して説明するが、圧力センサ50aは、櫛歯の先端面上に配置された複数の圧力センサ要素54を有し、対応する圧力センサ50aで少なくともいずれか1の圧力センサ要素54が上側から押圧された場合にそれを検出して、検出信号を制御部52(図2)に出力する。このため、左右の圧力センサ50a、50bは、互いに独立した検出信号を制御部52に出力可能である。また、左右の圧力センサ50a、50bは、それぞれ踏板30上の特定の部分が利用者の足で踏まれたことを検知可能で、検知信号を制御部52へ出力する。
【0023】
図2に示す制御部52は、CPU,メモリ等を有するマイクロコンピュータを含むもので、出力部作動手段を有する。出力部作動手段は、踏板30上の特定の部分である左右の圧力センサ50a、50bの少なくともいずれか1が利用者の足で連続して踏まれる時間が予め設定した所定時間内である場合に、スピーカー46によりブザー音、電子音等の注意喚起音を所定の短時間だけ発生させる。このため、左右の圧力センサ要素54が上側から連続して押圧される時間が所定時間を越える場合には、注意喚起音は発生されない。
【0024】
次に、図4に示すフローチャートを用いて、本実施の形態の踏段において、踏段の特定部分が踏まれた場合に注意喚起音を発生させる方法を説明する。なお、本実施の形態において、図1から図3に示した要素と同一の要素には同一の符号を付して説明する。まず、図4のステップS10(以下、ステップSは単にSという。)で、制御部52の出力部作動手段は、踏段14の特定部分である左右の圧力センサ50a、50bの少なくともいずれか1の圧力センサ50a(または50b)が踏まれたか否かを判定する。圧力センサ50a(または50b)が踏まれたと判定された場合に、S12で、その圧力センサ50a(または50b)が踏まれてから復帰、すなわち踏みがなくなるまでの時間がA秒(例えば1秒)以内か否かを判定する。S12の判定結果が肯定であれば、出力部作動手段は、スピーカー46に注意喚起音を所定の短時間だけ発生させ、処理を終了する。逆に、S12の判定結果が否定であれば、出力部作動手段は注意喚起音を発生させることなく、処理を終了する。例えば圧力センサ50a(または50b)の踏み続けられる時間がA秒を超えると、注意喚起音は発生しない。
【0025】
このような本実施の形態の踏段によれば、利用者が複数の踏板30の特定の部分である左右の圧力センサ50a、50bの少なくとも一方を踏むように歩行すると、踏板30を踏む毎に音または光等の注意喚起音が発生し、断続的な注意喚起音が発生するので、利用者の周囲の人の注意が大きく引き付けられ、目立つので、利用者が踏段14上で歩行したり、走ったりする踏段上移動するのをためらいやすくなる。このため、利用者の踏段14上移動を有効に抑制できる。これに対して、踏段14上を歩行しないで立ち止まって利用する利用者の場合、踏段14上にA秒を越えて乗り続けるので、その利用者によってはその踏段14で注意喚起音が発生することはない。なお、左右の圧力センサ50a、50bの検知部は、図1、図2に二点差線で示す広い領域に設けることもできる。
【0026】
また、本実施の形態で、圧力センサ50a、50bが踏段14の左右に独立して設けられているのは、もし1の踏段14の左右にまたがるように1の圧力センサのみが設けられていると、踏段14の左右の片側で立ち止まっている利用者がいれば、圧力センサが常にその利用者に踏まれ続ける状態となり、複数の踏段14の左右の他側を歩行等、移動する利用者がいる場合でも、断続的な注意喚起音が発生せず、利用者の歩行を抑制することができないからである。逆にいえば、本実施の形態によれば、踏段14の左右の片側で立ち止まっている利用者がいる場合でも、複数の踏段14の左右の他側を歩行等、移動する利用者がいる場合に、その利用者の踏段上移動を判断できる。なお、本実施の形態において、踏段上移動抑止装置48を構成する出力部は、音を発生するスピーカー46に限定するものではなく、例えば光を発生する発光ダイオードや、ランプ、液晶表示部等の発光部等とすることもできる。この場合、出力部作動手段は、発光部により注意喚起出力である光を発生させるようにする。
【0027】
[第2の発明の実施の形態]
次に、図5は、本発明の第2の実施の形態に係る、ステップ軸に支持された踏段を部分的に示す略斜視図である。また、図6は、図5の矢印B方向に見た略図である。
【0028】
本実施の形態の場合、踏段14の上部に設けられた踏板30は、左右2個所に、それぞれ上下に揺動可能に設けられた揺動板56a、56bを含んでいる。すなわち、踏板30は、左右方向両側半部にまたがるように設けられた上下に貫通する1の孔部58を有する枠体60と、枠体60の孔部58内に左右に並んで配置され、枠体60に対し移動方向一端部(図5、図6の左端部)に設けられた水平方向の支持軸62(図6)を中心とする、左右で独立した揺動可能に支持された左右の2の揺動板56a、56bとを含んでいる。また、踏段14は、各揺動板56a、56bと枠体60との間に設けられ、各揺動板56a、56bに枠体60の移動方向他端部(図5、図6の右端部)に対して上方に変位する方向の弾力を付勢する弾力付与部であり、各揺動板56a、56bに対応して設けられた2のバネ64と、踏段上移動抑止装置48とを備える。各揺動板56a、56bは、自由状態、すなわち踏板30が利用者により踏まれない状態で、図5、図6のように移動方向他端部が移動方向一端部よりもわずかに上方に上がるように傾斜している。
【0029】
また、踏段上移動抑止装置48は、出力部であるスピーカー46(図1、図2参照)と、押圧検知部66(図6)と、制御部52(図2参照)とを含んでいる。図6に示すように、押圧検知部66は、枠体60に固定の部分で各揺動板56a、56bの下側に対向する2のリミットスイッチ等を含んでおり、各揺動板56a、56bの少なくとも1が対応するバネ64の弾力に抗して下方に変位した場合に下に押圧されることで作動し、検知信号を制御部52へ出力する。そして、制御部52が有する出力部作動手段は、踏板30上の特定の部分である左右の揺動板56a、56bの少なくとも一方が利用者の足で連続して踏まれる時間が予め設定した所定時間内である場合に、スピーカー46により注意喚起音を発生させる。このような本実施の形態の場合も、上記の第1の実施の形態と同様に、利用者の踏段14上での歩行等の移動を有効に抑制できる。また、踏板30は、左右に独立して揺動する揺動板56a、56bを含んでいるので、上記の第1の実施の形態と同様に、踏段14の左右の片側で立ち止まっている利用者がいる場合でも、複数の踏段14の左右の他側を歩行する利用者がいる場合に、その利用者の歩行を判断できる。
【0030】
なお、踏板30は、左右に分かれた2の孔部を有し、各孔部のそれぞれに配置するように枠体60に揺動板56a、56bを揺動可能に支持する構成とすることもできる。また、第1の実施の形態と同様に、出力部を発光部として、出力部作動手段は、発光部により注意喚起出力である光を発生させるようにすることもできる。その他の構成及び作用は、上記の第1の実施の形態と同様である。
【0031】
[第3の発明の実施の形態]
図7は、本発明の第3の実施の形態において、踏板の端部を示す、図3に対応する図である。本実施の形態では、上記の図1から図4に示した第1の実施の形態において、踏板30上に、圧力センサの代わりに検知部である遮光感知センサ68が設けられている。すなわち、踏板30の上面の左右両側に分かれた部分に左右の遮光感知センサ68が設けられており、それぞれ矩形状の範囲に設けられた複数の遮光感知センサ要素70を有する。より具体的には、各遮光感知センサ68は、櫛歯の先端面上に配置された複数の遮光感知センサ要素70を有し、各遮光感知センサ68で少なくともいずれか1の遮光感知センサ要素70が上側から押圧された場合にそれを検出して、検出信号を制御部52(図2参照)に出力する。このため、各遮光感知センサ68は、互いに独立した検出信号を制御部52に出力可能である。図7では、左右の遮光感知センサ68のうち、左側の遮光感知センサ68のみを図示している。また、左右の遮光感知センサ68は、それぞれ踏板30上の特定の部分が利用者の足で踏まれたことを検知可能で、検知信号を制御部52へ出力する。すなわち、踏段14に設けられた検知部は、踏板30上に設けられ、上側が遮光された場合に作動し、検知信号を出力する遮光感知センサ68を含む。また、制御部52は、踏板30上の特定の部分が利用者に連続して踏まれる時間が予め設定した所定時間内である場合に、スピーカー46(図1、図2)等の出力部により注意喚起音等の注意喚起出力を発生させる出力部作動手段を有する。
【0032】
このように検知部として遮光感知センサ68を含んでいる場合でも、利用者が遮光感知センサ68の上に乗ることで、遮光感知センサ68が上方からの光が遮られるとそれが検知可能となり、利用者の踏段14上の歩行を感知できる。その他の構成及び作用は、上記の図1から図4に示した第1の実施の形態と同様である。
【0033】
[第4の発明の実施の形態]
図8は、本発明の第4の実施の形態に係る踏段を構成する踏板の裏側に固定した発音部材を示す斜視図である。本実施の形態では、踏段14(図1等参照)に設けられる出力部は、踏板30(図1等参照)の裏側の中央部に1つのみ、または踏板30の左右に分かれて1つずつの合計2つが固定された発音部材72を含んでいる。図8は、発音部材72を踏板30の裏側、すなわち下側に固定した状態で下側から見た図に対応するものであり、踏板30自体の図示を省略している。また、発音部材72は、踏板30の裏側に固定可能な板部74と、板部74の裏側(図8の上側)に膨出するように一体に設けられた膨出部76と、円筒状の吹き出し部78とを有する。発音部材72は、全体が弾性変形可能、すなわち撓みやすい材料で、自由状態で膨出部76の形状を保持可能な材料、例えば樹脂等により造られている。
【0034】
より具体的には、発音部材72は、踏板30の裏側に貼り付けるように設けられるもので、膨出部76は、自由状態で図8のように膨らんでおり、内側に空気溜まりを形成する。また、吹き出し部78は、板部74の一端側面から突出するように設けられたもので、板部74内に形成された通路を通じて膨出部76内に接続されている。このような吹き出し部78は、踏板30(図1等参照)の変形に伴って板部74が例えば湾曲するように変形することで膨出部76が潰れるように変形した場合に、膨出部76から出る空気を吹き出すことで短時間発音する。
【0035】
このように踏段14に発音部材72が設けられる場合、例えば利用者が踏板30の左右片側に乗ることにより、板部74が変形し発音部材72が作動して発音する。このため、利用者が複数の踏板30の特定の部分を踏むように歩行等、移動すると、踏板30を踏む毎に注意喚起出力である注意喚起音が発生する。したがって、利用者が踏段14上で歩行等、移動すると、踏板30が踏まれる度に対応する発音部材72が発音するので、利用者の周囲の人の注意が大きく引き付けられて、利用者の踏段14上移動を有効に抑制できる。なお、発音部材72は、図8に示す形状に限定するものではなく踏段の踏板30が踏まれることで変形して発音するものであれば種々の構成を採用できる。例えば、発音部材72は踏板30と一体に形成されたものでもよい。また、上記の図5、図6に示したように、踏段14が枠体60と揺動板56a、56bとを含む場合に、揺動板56a、56bの下側で枠体60に固定の部分との間に、例えば図8の発音部材72を、膨出部76が上側となる向きで設けられる構成とすることもできる。この場合、揺動板56a、56bの少なくとも一方が利用者に踏まれることで押し下げられ、膨出部76が潰れることで吹き出し部78から空気が吹き出されて発音可能とすることもできる。このような発音部材72を使用する場合、上記の図1から図4の第1の実施の形態と異なり、スピーカー46(図1、図2)や制御部52(図2)を設ける必要がなくなる。その他の構成及び作用は、上記の第1の実施の形態と同様である。
【0036】
[第5の発明の実施の形態]
図9は、本発明の第5の実施の形態に係る踏段の端部を示す、図3に対応する図である。本実施の形態では、踏板30は、櫛歯が形成された踏板本体42と、踏板本体42の左右両端部に揺動可能に支持された左右のデマクリート80(図9では、左側のデマクリート80のみを図示している。)とを含んでいる。このために各デマクリート80は、踏板本体42の左右両端部の上面に設けられた移動方向(図9の表裏方向)に長い凹部内に少なくとも一部が配置されている。また、各デマクリート80は、踏板本体42の左右両端部上に、移動方向一端部(図9の裏側端部)に設けられた水平方向の支持軸を中心とする揺動可能に支持するように設けられている。また、踏段14は、踏板本体42の左右両端部と左右のデマクリート80との間に設けられ、対応するデマクリート80の移動方向他端部(図9の表側端部)に、踏板本体42に対して上方に変位する方向の弾力を付勢する左右の弾力付与部であるバネ82と、踏段上移動抑止装置48とを備えている。
【0037】
各デマクリート80は、自由状態、すなわちデマクリート80が利用者により踏まれない状態で、図9のように移動方向他端部が移動方向一端部よりもわずかに上方に上がるように傾斜している。また、踏段上移動抑止装置48は、踏段14に設けられた出力部であるスピーカー46(図1、図2等参照)と、左右の押圧検知部84と、制御部52(図2参照)とを含む。各押圧検知部84は、各デマクリート80と踏板本体42との間に設けられたリミットスイッチ等である。各押圧検知部84は、対応するデマクリート80が対応するバネ82の弾力に抗して下方に変位した場合に押圧されて作動し、検知信号を制御部52へ出力する。制御部52は、左右の押圧検知部84の少なくとも1から、対応するデマクリート80が踏まれたことを表す検知信号が入力された場合に、スピーカー46により注意喚起出力である注意喚起音を出力する出力部作動手段を有する。なお、出力部作動手段は、CPUやメモリを有するものではなく、単に回路部により構成することもできる。
【0038】
このように踏板30は、踏板本体42と、踏板本体42の左右両端部の上側に支持された左右のデマクリート80とを含む。また、踏段上移動抑止装置48は、踏板30上の特定の部分である左右のデマクリート80のうち、対応するデマクリート80が利用者の足で踏まれたことを検知可能で、検知信号を出力する左右の押圧検知部84と、出力部作動手段とを含む。出力部作動手段は、左右のデマクリート80の少なくともいずれか1が利用者の足で踏まれた場合に、出力部であるスピーカー46により電子音、ブザー音や、警告を報知するアナウンス音等の注意喚起音を発生させる。
【0039】
このような踏段14の場合、踏段14上を歩行等、移動することで踏段14の左右両端部分を踏みやすい、踏段上移動する利用者がいる場合でも、デマクリート80が踏まれることで注意喚起音が出力されるので、周囲の人の注意が大きく引き付けられ利用者の踏段上移動を抑制できる。デマクリート80を踏まないように利用者が左右の中央側に寄ると、他の利用者がこの利用者を避けるように歩行等、移動することが難しくなるので、踏段上移動抑制効果が高くなる。なお、出力部を発光部として、出力部作動手段は、発光部により注意喚起出力である光を発生させるようにすることもできる。また、このように揺動可能なデマクリート80を設けるのではなく、デマクリート80が上記の第1の実施の形態のように踏板本体42に固定されている場合でも、デマクリート80上に圧力センサや遮光感知センサを設けることで、押圧検知部を構成することもできる。その他の構成及び作用は、上記の図1から図4に示した第1の実施の形態と同様である。
【0040】
なお、本実施の形態において、踏板で左右のデマクリート80を、本来必要とされる領域以上に中央側に広げて幅広に設けることで、より利用者を左右の中央側に寄せて利用者の踏段上での歩行等の移動をより抑制するようにすることもできる。
【符号の説明】
【0041】
10 トラス、12 移送手段、14 踏段、16 チェーン、18 駆動ローラ、20a,20b 駆動レール、22 駆動機構、24 エスカレータ駆動装置、26,28 スプロケット、30 踏板、32 ライザー、34 補強部、36 ステップ軸、38 追従ローラ、40 デマケーションコム、42 踏板本体、44 デマケーションクリート(デマクリート)、46 スピーカー、48 踏段上移動抑止装置、50a,50b 圧力センサ、52 制御部、54 圧力センサ要素、56a,56b 揺動板、58 孔部、60 枠体、62 支持軸、64 バネ、66 押圧検知部、68 遮光感知センサ、70 遮光感知センサ要素、72 発音部材、74 板部、76 膨出部、78 吹き出し部、80 デマケーションクリート(デマクリート)、82 バネ、84 押圧検知部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
利用者が乗載可能な踏板を備え、
無端状連結部材により複数連結された状態で使用されるエスカレータ用踏段であって、
踏板上の特定の部分が利用者の足で踏まれる毎に注意喚起出力を発生する出力部を含む踏段上移動抑止装置を備えることを特徴とするエスカレータ用踏段。
【請求項2】
請求項1に記載のエスカレータ用歩行抑止機能付踏段において、
出力部は、注意喚起出力である音または光を発する機能を有することを特徴とするエスカレータ用踏段。
【請求項3】
請求項2に記載のエスカレータ用踏段において、
踏段上移動抑止装置は、
踏板上の特定の部分が利用者の足で踏まれたことを検知可能で、検知信号を出力する検知部と、
踏板上の特定の部分が利用者の足で連続して踏まれる時間が予め設定した所定時間内である場合に、出力部により音または光を発生させる出力部作動手段とを含むことを特徴とするエスカレータ用踏段。
【請求項4】
請求項3に記載のエスカレータ用踏段において、
踏板は、
少なくとも左右方向片側半部に形成された孔部を有する枠体と、
枠体の孔部内に配置され、枠体に対し移動方向一端部に設けられた支持軸を中心とする揺動可能に支持された揺動板と、を含み、
揺動板と枠体との間に設けられ、揺動板に枠体に対して上方に変位する方向の弾力を付勢する弾力付与部を備え、
検知部は、揺動板が弾力付与部の弾力に抗して下方に変位した場合に作動し、検知信号を出力することを特徴とするエスカレータ用踏段。
【請求項5】
請求項3に記載のエスカレータ用踏段において、
検知部は、踏板上に設けられ、上側が遮光された場合に作動し、検知信号を出力する遮光感知センサを含むことを特徴とするエスカレータ用踏段。
【請求項6】
請求項2に記載のエスカレータ用踏段において、
出力部は、踏板の裏側に貼り付けるように設けられた発音部材であって、自由状態で弾性的に膨らみ、内側に空気溜まりを形成する膨出部と、膨出部に接続され、踏板の変形により膨出部が変形した場合に空気を吹き出すことで発音する吹き出し部とを含むことを特徴とするエスカレータ用踏段。
【請求項7】
請求項2に記載のエスカレータ用踏段において、
踏板は、踏板本体と、踏板本体の左右両端部の上側に支持された左右のデマケーションクリートとを含み、
踏段上移動抑止装置は、
踏板上の特定の部分である左右のデマケーションクリートのうち、対応するデマケーションクリートが利用者の足で踏まれたことを検知可能で、検知信号を出力する左右の検知部と、
左右のデマケーションクリートの少なくともいずれか1が利用者の足で踏まれた場合に、出力部により音または光を発生させる出力部作動手段とを含むことを特徴とするエスカレータ用踏段。
【請求項8】
請求項7に記載のエスカレータ用踏段において、
左右のデマケーションクリートは、
踏板本体の左右両端部上に移動方向一端部に設けられた支持軸を中心とする揺動可能に支持するように設けられており、
踏板本体の左右両端部と左右のデマケーションクリートとの間に設けられ、対応するデマケーションクリートに踏板本体に対して上方に変位する方向の弾力を付勢する左右の弾力付与部を備え、
左右の検知部は、対応するデマケーションクリートが対応する弾力付与部の弾力に抗して下方に変位した場合に作動し、検知信号を出力することを特徴とするエスカレータ用踏段。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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