説明

エスカレータ管理装置

【課題】メンテナンスが容易で、運転状況の影響を受けずにエスカレータの周回位置を正確に検出する。
【解決手段】エスカレータの踏板部に設けられ、該エスカレータの周回面内での姿勢角度に応じた信号を出力する傾斜センサ11と、傾斜センサ11が出力する信号から傾斜センサ11を設けた踏板部の周回位置を判定し、その判定結果を記憶部24に記憶させてエスカレータの周回数をカウントするデータ処理部23とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エスカレータの周回位置を検出して点検を行なうエスカレータ管理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
エスカレータの各種点検を行なう際、規定周回数だけエスカレータを稼働させてその間に点検を行ない、その後に停止させる場合がある。
【0003】
その際に周回数をカウントする方法としては、例えばエスカレータの周回する一部に有接点式のセンサを設ける方法が考えられる。しかしながら、接点を有するセンサは機械的な摩耗が避けられず、定期的な交換を必要とするなど、メンテナンスに手間とコストを要する。
【0004】
また、所定の踏段内に鉛直方向の感度が得られる加速度センサを設け、該加速度センサの出力信号の正負の反転から踏段部の周回位置を検知するようなマンコンベア装置が考えられている。(例えば、特許文献1)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第4020204号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記特許文献に記載された技術では、踏段内に重力加速度方向を検知するための加速度センサを設けることを特徴としている。そのため、エスカレータを運転することで発生する各種の振動の影響を受け易く、運転状況によっては正確な検出が難しいという不具合がある。
【0007】
本発明は上記のような実情に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、メンテナンスが容易で、運転状況の影響を受けずにエスカレータの周回位置を正確に検出することが可能なエスカレータ管理装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様は、エスカレータの踏板部に設けられ、該エスカレータの周回面内での姿勢角度に応じた信号を出力する傾斜センサと、上記傾斜センサが出力する信号から上記傾斜センサを設けた踏板の周回位置を判定する判定手段と、上記判定手段での判定結果から上記エスカレータの周回数をカウントするカウント手段とを具備したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、メンテナンスが容易で、運転状況の影響を受けずにエスカレータの周回位置を正確に検出することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の一実施形態に係るエスカレータ点検システムの構成を示すブロック図。
【図2】同実施形態に係る傾斜センサの取付位置及び周回位置に応じた傾斜範囲を説明する図。
【図3】同実施形態に係る上りエスカレータ運転時の傾斜センサの出力波形を示す図。
【図4】同実施形態に係る下りエスカレータ運転時の傾斜センサの出力波形を示す図。
【図5】同実施形態に係る下りエスカレータ運転時の傾斜センサの出力波形を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下本発明の一実施形態について図面を参照して説明する。
【0012】
図1は、同実施形態に係るエスカレータ管理システム全体の構成を示す図である。本実施形態に係るエスカレータ管理システム10は、第1〜第3のエスカレータ10A〜10Cと、これらエスカレータと無線接続された中央管理装置20とから構成される。
【0013】
第1〜第3のエスカレータ10A〜10Cは、制御回路上は基本的に同様の構成であるので、第1のエスカレータ10Aのみを例にとって内部構成を示す。
第1のエスカレータ10Aを構成する多数段の踏板部の1つに傾斜センサ11を取付ける。この傾斜センサ11は、踏板部の側面に取付けられ、該エスカレータの周回面内での姿勢角度に応じた信号をデータ処理部12に出力する。
【0014】
データ処理部12は、傾斜センサ11からの信号をデジタル化し、デジタル化した該センサ信号を記憶部13に記憶させる一方で、無線通信部14へも出力する。記憶部13は、例えば不揮発性メモリとそのドライバ回路で構成され、傾斜センサ11での検出信号を傾斜センサ11の運転記録として所定時間分記憶する。
【0015】
無線通信部14は、これら第1〜第3のエスカレータ10A〜10Cが設置された施設館内で有効な無線伝送形式に従い、データ処理部12から得た信号を変調して送信アンテナ15により送信する。
【0016】
中央管理装置20側では、第1〜第3のエスカレータ10A〜10Cの各送信アンテナ15から送信される信号を、受信アンテナ21を介して無線通信部22が受信する。無線通信部22は、各エスカレータ10A〜10Cから送られてきた傾斜センサ11の検出信号を復調した後にデータ処理部23に出力する。
【0017】
データ処理部23は、無線通信部22を介して送られてくる各第1〜第3のエスカレータ10A〜10Cの傾斜センサ11の検出信号により、傾斜センサ11を設けた踏板部の周回位置の判定を含む、第1〜第3のエスカレータ10A〜10Cの運転状況を解析して、その解析結果を時刻情報と関連付けて随時記憶部24に記憶させる。
【0018】
結果として、記憶部24に記憶される各第1〜第3のエスカレータ10A〜10Cの運転状況のデータを解析することで、各第1〜第3のエスカレータ10A〜10Cの周回数をカウントすることができる。
【0019】
次に図2により上記第1〜第3のエスカレータ10A〜10Cに取付けられる傾斜センサ11の構成について説明する。
図2(A)は、エスカレータ10A(〜10C)を構成する多数の踏板部30の1つに傾斜センサ11を取り付けた状態を示す。同図2(A)は踏板部30をその側面方向から見た構成を示す。図中、SBが踏板SB、DRが駆動ローラ、FRが追従ローラである。図示する如く傾斜センサ11は、踏板部30の側面側に取付けられ、該エスカレータの周回面内での姿勢角度に応じた信号を出力する。
【0020】
具体的には、傾斜センサ11の計測軸を踏板部30の回転方向に合わせるもので、傾斜センサ11は踏板SBがある鉛直方向上向きに対応する信号を出力する。傾斜センサ11が図示するようにA〜Dの面を有しているとすると、
・Aの面が真上を向いている時を180度、
・Bの面が真上を向いている時を270度、
・Cの面が真上を向いている時を0度若しくは360°、
・Dの面が真上を向いている時を90度、
となり、角度に応じた検出信号を出力する。
【0021】
図2(B)は、エスカレータ10A(〜10C)の踏板部30の位置と傾斜センサ11の出力信号との関係を示す。
図示する如く、踏板部30が周回する過程で、利用者が乗るために踏板部30の踏板SBの角度がほとんど変化せず180度を維持する表側通過時Iと、互いに隣接する踏板部30の踏板SBがフラットとなって約315度を維持する裏側通過時IIでは、傾斜センサ11の出力信号もレベルがほとんど変化しない。
【0022】
一方で、図示しない踏板駆動用のチェーンが上下各スプロケット部にあり、踏板部30の踏板SBが水平方向で最端側に位置する、傾斜センサ11が270度、及び90度となる各スプロケットに接している状態では、傾斜センサ11の出力信号が大きく変化する。そのため、傾斜センサ11が上記270度となる位置、及び上記90度となる位置でそれぞれ踏板部30の踏板SBの反転を検出する。
【0023】
次に上記実施形態の動作として、上り運転時及び下り運転時の傾斜センサ11の出力信号とその判定方法とを説明する。
図3は、エスカレータ10A(〜10C)を上り運転する場合の、傾斜センサ11の出力波形の例を示す。
【0024】
利用者が乗るために踏板部30の踏板SBが表側を上昇しながら通過し、図示しないランディングプレートに入って上側のスプロケットに到るまでの間、踏板部30に設けられた傾斜センサ11の出力は180度を維持する。
【0025】
上側のスプロケットにより踏板部30が回転される間、傾斜センサ11の出力は180度から一旦360度まで上昇し、その後すぐに約315度まで下降する。この過程で、踏板部30の踏板SBが水平方向で最端側(図2(B)の最左側)に位置する、図3のタイミングt11で傾斜センサ11の出力が270度となり、この出力により中央管理装置20側のデータ処理部23は踏板部30が反転したものと判定する。
【0026】
その後に踏板部30が上側のスプロケットを離れて裏側を下降しながら通過し、図示しない下側のスプロケットに到るまでの間、踏板部30に設けられた傾斜センサ11の出力は約315度を維持する。
【0027】
そして、下側のスプロケットにより踏板部30が回転される間、傾斜センサ11の出力は一旦360度に上昇した後、急峻に0°まで下降し、その後すぐに180度まで上昇する。この過程で、踏板部30の踏板SBが水平方向で最端側(図2(B)の最右側)に位置する、図3のタイミングt12で傾斜センサ11の出力が90度となり、この出力により中央管理装置20側のデータ処理部23は踏板部30が反転したものと判定する。
【0028】
その後、再び利用者が乗るために踏板部30の踏板SBが表側を上昇する間、傾斜センサ11の出力は180度を維持する。
【0029】
以後、エスカレータ10A(〜10C)が上り運転を続行する間、傾斜センサ11は同様のサイクルで繰返し図3に示すような波形の信号を出力し続ける。
【0030】
傾斜センサ11の出力する信号を受信する中央管理装置20側のデータ処理部23では、上記図3のタイミングt11で示す270度の位置、及びタイミングt12で示す90度の位置で踏板部30が反転したことを判定し、その判定結果を記憶部24に時刻情報と関連付けて記憶する。
【0031】
また、図4は、エスカレータ10A(〜10C)を下り運転する場合の、傾斜センサ11の出力波形の例を示す。
【0032】
利用者が乗るために踏板部30の踏板SBが表側を加工しながら通過し、図示しないランディングプレートに入って下側のスプロケットに到るまでの間、踏板部30に設けられた傾斜センサ11の出力は180度を維持する。
【0033】
下側のスプロケットにより踏板部30が回転される間、傾斜センサ11の出力は0°まで加工した後、急峻に360度まで上昇し、その後すぐに約315度まで下降する。この過程で、踏板部30の踏板SBが水平方向で最端側(図2(B)の最右側)に位置する、図4のタイミングt21で傾斜センサ11の出力が90度となり、この出力により中央管理装置20側のデータ処理部23は踏板部30が反転したものと判定する。
【0034】
その後に踏板部30が下側のスプロケットを離れて裏側を上昇しながら通過し、図示しない上側のスプロケットに到るまでの間、踏板部30に設けられた傾斜センサ11の出力は約315度を維持する。
【0035】
そして、上側のスプロケットにより踏板部30が回転される間、傾斜センサ11の出力は一旦360度に上昇した後、180度まで下降する。この過程で、踏板部30の踏板SBが水平方向で最端側(図2(B)の最左側)に位置する、図4のタイミングt22で傾斜センサ11の出力が270度となり、この出力により中央管理装置20側のデータ処理部23は踏板部30が反転したものと判定する。
【0036】
その後、再び利用者が乗るために踏板部30の踏板SBが表側を下降する間、傾斜センサ11の出力は180度を維持する。
【0037】
以後、エスカレータ10A(〜10C)が下り運転を続行する間、傾斜センサ11は同様のサイクルで繰返し図4に示すような波形の信号を出力し続ける。
【0038】
傾斜センサ11の出力する信号を受信する中央管理装置20側のデータ処理部23では、上記図4のタイミングt21で示す90度の位置、及びタイミングt22で示す270度の位置で踏板部30が反転したことを判定し、その判定結果をデータ化し、記憶部24に時刻情報と関連付けて記憶する。
【0039】
したがってデータ処理部23は、記憶部24に記憶されるデータを解析することで、2回の反転で踏板部30が1周としたものとしてエスカレータ10A(〜10C)の周回数をカウントすることができる。
【0040】
このように傾斜センサ11は、取付けられた位置での姿勢角度に応じた検出信号を出力するため、外乱により平行移動するような振動が生じたとしても出力信号に乱れが生じ難く、運転状況の影響を比較的受けずにエスカレータの周回位置を正確に検出することが可能となる。
【0041】
なお上記実施形態では、エスカレータ10A(〜10C)から中央管理装置20へ傾斜センサ11の検出信号のみを無線送信するものとして説明したが、エスカレータ10A(〜10C)が上り運転中であるか、あるいは下り運転中であるか、踏板部30の周回方向を示す運転情報を合わせて中央管理装置20へ送信するものとすれば、中央管理装置20のデータ処理部23側では該運転情報を勘案して踏板部30の反転位置をより的確且つ迅速に判定することが可能となる。
【0042】
加えて上記実施形態では、各第1〜第3のエスカレータ10A〜10Cにそれぞれ記憶部13を設けて傾斜センサ11での検出信号を記憶させる一方で、中央管理装置20側でも記憶部24で各エスカレータ10A(〜10C)の傾斜センサ11を設けた踏板部30の周回位置の判定を含む運転状況の解析結果を時刻情報と関連付けて記憶させるものとした。
【0043】
このように2重記憶方式を採用することにより、第1〜第3のエスカレータ10A〜10Cの各記憶部13に記憶されている内容と中央管理装置20の記憶部24に記憶されている内容との一致比較を行なえば、特に故障が生じて一方の記憶内容が失われた場合などでも各第1〜第3のエスカレータ10A〜10Cの過去の運転履歴を正確に検証できる。
【0044】
また、上記実施形態に加えて中央管理装置20のデータ処理部23では、パターンマッチング技術により、傾斜センサ11の出力信号波形が経年劣化等により変化した場合でも確実に対処できる。
【0045】
以下、そのようなパターンマッチングを行なう場合の動作についても説明する。
図5は、エスカレータ10A(〜10C)を下り運転する場合の傾斜センサ11の出力信号波形を例示する。同図では、傾斜センサ11の出力が90度となるタイミングt31から、次に同様に傾斜センサ11の出力が90度となるタイミングt32までの1サイクルを、傾斜センサ11の出力波形のパターンを学習する期間とする。
【0046】
この学習期間において、傾斜センサ11の出力が90度となるタイミングt31と、270度となるタイミングt41を踏板部30が反転したタイミングと判定するものとすると、続く上記タイミングt32から、さらに再び傾斜センサ11の出力が90度となるタイミングt33までの1サイクルを、上記学習したパターンに基づくマッチングを行なう期間とする。
【0047】
このマッチング期間においては、傾斜センサ11の出力が90度となるタイミングt32と、270度となるタイミングt42をそれぞれ踏板部30が反転したタイミングと判定する。
【0048】
このように、パターンを学習する期間とマッチングにより反転のタイミングを判定する期間とを続けて設定することを繰返し実行することにより、例えば傾斜センサ11が経年劣化等によって初期状態とは出力信号の波形が変化した場合でも、これに対処して踏板部30の反転タイミングを正確に判定する動作を維持できる。
【0049】
なお上記実施形態は、3機のエスカレータ10A〜10Cと中央管理装置20とが無線接続して構成されるエスカレータ管理システムについて説明したものであるが、本発明はそのようなシステム構成に限らず、単機のエスカレータとその管理装置を一体に構成した装置であっても適用可能である。
【0050】
また、上記実施形態は、エスカレータの踏板部がエスカレータの周回面に沿って回転する際の角度を傾斜センサ11により検出するものとして説明したが、傾斜センサに限らず、地磁気センサを用いて方位の変化を検出するように構成しても同様に適用できる。
【0051】
その他、本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で種々に変形することが可能である。また、上述した実施形態で実行される機能は可能な限り適宜組み合わせて実施しても良い。上述した実施形態には種々の段階が含まれており、開示される複数の構成要件による適宜の組み合せにより種々の発明が抽出され得る。例えば、実施形態に示される全構成要件からいくつかの構成要件が削除されても、効果が得られるのであれば、この構成要件が削除された構成が発明として抽出され得る。
【符号の説明】
【0052】
10A〜10C…エスカレータ、11…傾斜センサ、12…データ処理部、13…記憶部、14…無線通信部、15…送信アンテナ、20…中央管理装置、21…受信アンテナ、22…無線通信部、23…データ処理部、24…記憶部、30…踏板部、DR…駆動ローラ、FR…追従ローラ、SB…踏板。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エスカレータの踏板部に設けられ、該エスカレータの周回面内での姿勢角度に応じた信号を出力する傾斜センサと、
上記傾斜センサが出力する信号から上記傾斜センサを設けた踏板部の周回位置を判定する判定手段と、
上記判定手段での判定結果から上記エスカレータの周回数をカウントするカウント手段と
を具備したことを特徴とするエスカレータ管理装置。
【請求項2】
上記エスカレータの周回方向を示す情報を出力する方向出力手段をさらに具備し、
上記判定手段は、上記傾斜センサが出力する信号、及び上記方向出力手段が出力する周回方向を示す情報から上記傾斜センサを設けた踏板部の周回位置を判定する
ことを特徴とする請求項1記載のエスカレータ管理装置。
【請求項3】
上記傾斜センサが出力する信号の波形を記憶する記憶手段をさらに設け、
上記判定手段は、上記記憶手段で記憶した信号の波形と、上記傾斜センサから得られる信号の波形とのパターンマッチングにより上記傾斜センサを設けた踏板部の周回位置を判定する
ことを特徴とする請求項1記載のエスカレータ管理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−105434(P2011−105434A)
【公開日】平成23年6月2日(2011.6.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−261272(P2009−261272)
【出願日】平成21年11月16日(2009.11.16)
【出願人】(390025265)東芝エレベータ株式会社 (2,543)
【Fターム(参考)】