説明

エスカレータ装置

【課題】浸水時に車いす用踏段を安全空間へ迅速に退避させることのできるエスカレータ装置の提供。
【解決手段】無端状に連結され、上部乗降口と下部乗降口間を走行する、車いす用踏段を含む複数の踏段と、下部乗降口の下方に形成された下部ピット1の浸水を検出し、浸水検出信号を出力する浸水検出手段3と、浸水検出信号に応じて所定処理を行う制御手段とを備えたエスカレータ装置において、車いす用踏段の位置を検出する手段と、車いす用踏段の位置に応じて、この車いす用踏段の停止制御方法を判断する手段とを備え、浸水検出手段3が浸水を検出した際、車いす用踏段の現在位置を判定し、車いす用踏段を退避位置まで移動させるものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、下部乗降口の下方に形成された下部ピットの浸水を検出し対応するエスカレータ装置のうち、車いす用踏段を備えるエスカレータ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
無端状に連結され、上部乗降口と下部乗降口間を走行する複数の踏段をするエスカレータにあって、下部乗降口の下方に形成された下部ピットの浸水を検出するものとして従来、下部ピットの所定高さに浸水検出手段を設け、この検出手段から出力される浸水検出信号に応じて、報知手段により下部ピットが浸水したことを報知したり、制御手段によりエスカレータを停止するようにしたりしたものが挙げられる(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平7−206355号公報(段落番号0024〜0030、図3)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、近年、比較的短時間の間に多量の雨が降る降雨傾向にあることから、下部ピットに侵入した水が急激に水位を上げることがあり、前述した従来のもののように、下部ピットの水位が所定レベルに達した時点で浸水検出信号を出力しても、時間的な猶予が少なく、エスカレータの機器が冠水することがあった。特に、車いす用踏段においては機器の構造が精密で冠水に弱く、かつ高価であるため、一度冠水すると復旧に多大な時間と費用を要し、顧客、および利用者に迷惑をかけるという問題があった。
【0005】
本発明は、前述した従来技術における実状からなされたもので、その目的は、浸水時に車いす用踏段を安全空間へ迅速に退避させることのできるエスカレータ装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記目的を達成するために、本発明は、無端状に連結され、上部乗降口と下部乗降口間を走行する、車いす用踏段を含む複数の踏段と、前記下部乗降口の下方に形成された下部ピットの浸水を検出し、浸水検出信号を出力する浸水検出手段と、前記浸水検出信号に応じて所定処理を行う制御手段とを備えたエスカレータ装置において、前記車いす用踏段の位置を検出する手段と、前記車いす用踏段の位置に応じて、この車いす用踏段の停止制御方法を判断する手段とを備えたことを特徴としている。
【0007】
このように構成した本発明では、下部ピットに侵入した水は、下部ピットに流れ込み、水位が所定レベルに達すると浸水検出手段がこれを検出して浸水検出信号を出力する。この際、車いす用踏段の位置に応じて、この車いす用踏段の停止制御方法を判断することにより、浸水時に車いす用踏段を安全空間へ迅速に退避させることができる。
【0008】
また、前記制御手段は、前記浸水検出信号に応じてエスカレータ停止指令を出力し、前記踏段を減速手段を介して所定の減速度で停止することを特徴としている。
【0009】
このように構成したものでは、下部ピットの水位が所定レベルに達し、浸水検出手段が浸水検出信号を出力すると、退避指令の後に制御手段はエスカレータ停止指令を出力し、踏段を減速手段を介して所定の減速度で停止する。このようにエスカレータを停止する際、踏段を所定の減速度で徐々に停止させることにより、停止動作に伴い利用客が転倒することを防ぎ、安全性を確保することができる。
【0010】
さらに、前記下部ピットの底部に貯水升を形成するとともに、この貯水升に、前記浸水検出手段を配置したことを特徴としている。
【0011】
このように構成したものでは、下部ピットに侵入した水は、まず、下部ピットの底部に形成された貯水升に流れ込み、この貯水升の水位が所定レベルに達すると浸水検出手段がこれを検出して浸水検出信号を出力する。このように、下部ピットに侵入した水はまず貯水升に流れ込むとともに、この貯水升の水位が所定レベルとなった時点で浸水検出が行われることから、車いす用踏段を安全空間へ退避させるまでの時間をより長く確保することができる。
【0012】
さらにまた、手動運転に切替える手段を備えたことを特徴としている。
【0013】
このように構成したものでは、自動でエスカレータを休止させた場合、人流の整理に困難を生じる恐れのある鉄道駅等に設置したエスカレータにあっては、浸水時に、管理者により自動による退避運転を行うかどうか判断する。これによって、エスカレータの利用状況に応じて安全性を確保しつつ、車いす用踏段を安全空間へ退避させることができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、浸水時に車いす用踏段を安全空間へ迅速に退避させることができ、これによって、顧客、および利用者の利便性を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明が適用されるエスカレータ装置の概略図である。
【図2】本発明が適用されるエスカレータ装置の要部構成図である。
【図3】本発明に係るエスカレータ装置の第1の実施例を示すフローチャートである。
【図4】本発明に係るエスカレータ装置の第2の実施例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明に係るエスカレータ装置の実施例を図に基づき説明する。
【0017】
エスカレータ装置は、無端状に連結され、上部乗降口と下部乗降口間を走行する、図示しない車いす用踏段を含む複数の踏段を備えているともに、図1に示すように、下部乗降口の下方には、踏段の反転部となる下部ピット1が形成されている。
【0018】
そして、下部ピット1の底部に、図1および図2に示すように、所定深さ寸法の貯水升2を形成し、この貯水升2に、浸水検出信号を出力する浸水検出手段3を配置してある。なお、貯水升2には図示しない排水溝が設けられている。
【0019】
浸水検出手段3は、一端が貯水升上方に設けられる点検用蓋4に固定される索状体3aと、この索状体3aの他端に取付けられるフロート3bとを有しているとともに、フロート3bが貯水升2に侵入した水5に浮き、水位の上昇により所定の角度、例えば45度となったときに浸水検出信号を出力するようになっている。
【0020】
また、エスカレータ装置には、エスカレータの運転制御を行う図示しない制御手段が設けられるとともに、この制御手段は、前述した浸水検出信号に応じてエスカレータ停止指令を出力し、踏段を減速手段、例えば図示しないインバータ装置を介して所定の減速度で停止するとともに、図示しない報知手段によりエスカレータ停止を利用客および外部、例えば管理室に報知するようになっている。
【0021】
多くの場合、浸水はエスカレータの機械室下部より発生し、徐々に進行し、エスカレータの機器の冠水に至る。高価な車いす用踏段を保護するためには速やかに車いす用踏段を冠水した空間から退避させることが必要である。そこで、本実施例は、エスカレータの任意の位置、例えばエスカレータの上部機械室付近に退避判定区間、および退避位置(停止位置)を設定し、浸水時には速やかに退避位置に車いす用踏段を退避させるものである。ここでいう退避判定区間とは、この区間内に車いす用踏段が位置していれば、車いす用踏段を安全に退避位置(停止位置)に停止させることが出来る区間をいう。また、図示しない車いす用踏段の位置検出方法としては、駆動機に設けたロータリエンコーダ等から制御手段が位置を演算する方法、車いす用踏段、又は踏段の走行路に設けたスイッチ(光電スイッチ、磁気スイッチ、機械スイッチ)とカム等を用いた方法等がある。
【0022】
第1の実施例にあっては、図3の手順S1に示すようにエスカレータの平常運転を行っているときに大雨等により下部ピット1に水が侵入した場合、水は下部ピット1の底部に形成された貯水升2に流れ込む。この貯水升2に侵入した水は、図示しない排水溝により排水されるが、排水量よりも雨水の侵入量が多くなると、貯水升2には水が溜まり始め水位が上昇する。そして、水位の上昇により図2のAに示すようにフロート3bが浮き始めるとともに、傾きが生じる。そして、フロート3bの傾きが図2のBに示すように45度になると浸水検出手段3は浸水検出信号を出力する。この浸水検出信号に応じて制御手段は、手順S2として浸水を検知し、手順S3に示すように、図示しない報知手段によりエスカレータ停止に係る注意喚起を乗客および管理室に向けて実施する。具体的には、エスカレータ乗客、および管理者に向け、エスカレータ本体、又はエスカレータ付近に設けたスピーカ・表示器、および管理室に設置したスピーカ・表示器等によって喚起を行う。次に、手順S4として車いす用踏段の現在位置を判定し、前述した予め設定される避判定区間に車いす用踏段があるか否かを判定する。退避判定区間に車いす用踏段がある場合は、手順S6に示すように、これからエスカレータを停止する旨の予告放送、又は表示を実施する。その後、制御手段は、手順S7として減速指令を出力し、インバータ装置を介して予定停止位置手前で徐々に踏段の速度を落とし、次に、手順S8として車いす用踏段が退避位置(停止位置)に到達した時点で停止指令を出力して踏段を停止し、この状態で、手順S9としてエスカレータを休止する。
【0023】
一方、前述した手順S3で、前述した予め設定される避判定区間外に車いす用踏段があることが判断されると、手順S5として車いす用踏段が退避区間に至るまで通常速度で運転を行い、次いで、前述と同様、手順S6に示すように、これからエスカレータを停止する旨の予告放送、又は表示を実施する。その後、制御手段は、手順S7として減速指令を出力し、インバータ装置を介して予定停止位置手前で徐々に踏段の速度を落とし、次に、手順S8として車いす用踏段が退避位置(停止位置)に到達した時点で停止指令を出力して踏段を停止し、この状態で、手順S9としてエスカレータを休止する。
【0024】
第1の実施例によれば、浸水時に車いす用踏段を安全空間へ迅速に退避させることができ、これによって、顧客、および利用者の利便性を図ることができる。また、下部ピット1に侵入した水はまず貯水升2に流れ込むとともに、この貯水升2の水位が所定レベルとなった時点で浸水検出が行われることから、車いす用踏段を安全空間へ迅退避させるまでの時間をより長く確保することができる。さらに、エスカレータを停止する際、踏段を所定の減速度で徐々に停止させることにより、停止動作に伴い利用客が転倒することを防ぎ、安全性を確保することができる。
【0025】
なお、第1の実施例では貯水升2に配置される浸水検出手段としてフロート式のものを例として挙げたが、本発明はこれに限らず、例えば水によって電気特性が変化するセンサを浸水検出手段として用いてもよい。また、一般的に被害の多い下部ピットの浸水を検出し対応することを前提としたが、エスカレータの設置環境によっては、上部機械室付近に浸水する場合が考えられる。この場合は、浸水の影響の少ない下部機械室、又は中間部等に退避区間を設ければよい。
【0026】
次に、第2の実施例を図4に基づき説明する。
【0027】
鉄道駅等に設置したエスカレータにあっては、多くの乗客がエスカレータを利用しており、自動でエスカレータを休止させた場合、人流の整理に困難を生じる場合がある。これを防止する為、注意喚起を行った時点で管理者がエスカレータの利用状況を確認する必要がある。そこで、本実施例のエスカレータ装置にあっては、管理室、又はエスカレータ実機、又はエスカレータ付近に手動運転切替えスイッチが設けられている。そして、図4の手順S10に示すように、注意喚起後に管理者が退避運転を継続するか、手動運転に切り替えるかを判定する。手動運転に切り替えなかった場合、すなわち退避運転を継続した場合、前述した第1の実施例に示すものと同様の手順にてエスカレータ装置は制御され、車いす用踏段を退避位置(停止位置)まで移動するとともに、エスカレータを休止する。一方、前述した手順S10で手動運転に切り替えた場合、手順S11に示すようにエスカレータは管理者により手動運転により運転される。
【0028】
第2の実施例によれば、自動でエスカレータを休止させた場合、人流の整理に困難を生じる恐れのある鉄道駅等に設置したエスカレータにあって、エスカレータの状況に応じて安全性を確保しつつ、車いす用踏段を安全空間へ退避させることができる。
【0029】
なお、図4にあっては、手動運転切替えスイッチのスイッチ操作が無い場合に、退避運転へ移行するものとしたが、本発明はこれにかぎらず、その逆として、スイッチ操作が無い場合に、退避運転を中止するものとすることも可能である。
【符号の説明】
【0030】
1 下部ピット
2 貯水升
3 浸水検出手段
3a 索状体
3b フロート
4 点検用蓋
5 水

【特許請求の範囲】
【請求項1】
無端状に連結され、上部乗降口と下部乗降口間を走行する、車いす用踏段を含む複数の踏段と、前記下部乗降口の下方に形成された下部ピットの浸水を検出し、浸水検出信号を出力する浸水検出手段と、前記浸水検出信号に応じて所定処理を行う制御手段とを備えたエスカレータ装置において、
前記車いす用踏段の位置を検出する手段と、前記車いす用踏段の位置に応じて、この車いす用踏段の停止制御方法を判断する手段とを備えたことを特徴とするエスカレータ装置。
【請求項2】
前記制御手段は、前記浸水検出信号に応じてエスカレータ停止指令を出力し、前記踏段を減速手段を介して所定の減速度で停止することを特徴とする請求項1記載のエスカレータ装置。
【請求項3】
前記下部ピットの底部に貯水升を形成するとともに、この貯水升に、前記浸水検出手段を配置したことを特徴とする請求項1記載のエスカレータ装置。
【請求項4】
手動運転に切替える手段を備えたことを特徴とする請求項1記載のエスカレータ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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