説明

エステル基含有脂環式テトラカルボン酸無水物及びその製造方法

【課題】エステル基含有脂環式テトラカルボン酸無水物合成時のジオール成分を特定の構造のものとすることにより、ガラス転位点が低く、かつ有機溶媒溶解性の高い新規な脂環式ポリエステルイミドとその原料であるエステル基含有脂環式テトラカルボン酸無水物を提供し、樹脂の加工性を向上させる。
【解決手段】下記一般式(1)で表されるエステル基含有脂環式テトラカルボン酸無水物。このエステル基含有脂環式テトラカルボン酸無水物とジアミン類とを反応させた後、イミド化して得られる脂環式ポリエステルイミド。


(式(1)中、Aは芳香族基を含まない2価の基、好ましくは脂肪族基又は少なくとも1つのヘテロ元素を含む環状構造を含む基を示す。x,yはそれぞれ独立に、0、1又は2、好ましくは0を示す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エステル基含有脂環式テトラカルボン酸無水物及びその製造方法に係り、特に、ガラス転位点が比較的低く、また、有機溶媒への溶解性に優れ、成形加工性に優れた脂環式ポリエステルイミドを提供し得るエステル基含有脂環式テトラカルボン酸無水物及びその製造方法に関する。
本発明はまた、このエステル基含有脂環式テトラカルボン酸無水物を原料として得られる、成形加工性に優れた脂環式ポリエステルイミドの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリイミドは優れた耐熱性のみならず、耐薬品性、耐放射線性、電気絶縁性、優れた機械的性質などの特性を併せ持つことから、フレキシブルプリント配線回路用基板、テープオートメーションボンディング用基材、半導体素子の保護膜、集積回路の層間絶縁膜等、様々な電子デバイスに現在広く利用されている。ポリイミドはまた製造方法の簡便さ、高い膜純度、物性改良のしやすさの点で、非常に有用な材料であり、近年様々な用途毎に適した機能性ポリイミドの材料設計がなされている。
【0003】
多くのポリイミドは有機溶媒に不溶で、ガラス転位点以上でも溶融しないため、ポリイミドそのものを成型加工することは通常容易ではない。そのため、ポリイミドは一般に、無水ピロメリット酸等の芳香族テトラカルボン酸二無水物とジアミノジフェニルエーテル等の芳香族ジアミンとをジメチルアセトアミド等の非プロトン性極性有機溶媒中で等モル反応させて、先ず高重合度のポリイミド前駆体を重合し、この溶液を膜などに成形し、250℃から350℃程度の温度をかけて加熱し、脱水閉環(イミド化)して製膜される。
【0004】
ポリイミド/金属基板積層体をイミド化温度から室温へ冷却する過程で発生する熱応力はしばしばカーリング、膜の剥離、割れ等の深刻な問題を引き起こす。最近では電子回路の高密度化に伴い、多層配線基板が採用されるようになってきたが、たとえ膜の剥離や割れにまで至らなくても、多層基板における応力の残留はデバイスの信頼性を著しく低下させる。このため、熱応力を低減することも検討されているが、これら熱応力の低い樹脂は溶媒に対する溶解性が低く操作性が悪いという問題がある。
【0005】
一方、ポリイミドが有機溶媒に可溶である場合、熱イミド化工程を必要としないため、金属基板上にポリイミドの有機溶媒溶液(ワニス)を塗布後、熱イミド化温度よりずっと低い温度で溶媒を蒸発・乾燥するだけでよく、金属基板/絶縁膜積層体における熱応力を低減することが可能である。しかしながら、有機溶媒に可溶で実用化されたポリイミドはごく限られており、多様な物性を持つポリイミドで溶媒に可溶なものの開発が待ち望まれている。
【0006】
さらに、ポリイミドは一般に吸水率が高いことが知られている。絶縁層における吸水は絶縁膜の寸法変化や電気特性の低下等の深刻な問題を引き起こす。低吸水率を実現するための分子設計として、ポリイミド骨格へのエステル結合の導入が有効であると報告されている(非特許文献1)。
【0007】
また、近年、特にマイクロプロセッサーの演算速度の高速化やクロック信号の立ち上がり時間の短縮化が情報処理・通信分野で重要な課題になってきているが、そのためには絶縁膜として使用されるポリイミド膜の誘電率を下げることが必要となる。また、電気配線長の短縮のための高密度配線及び多層基板化にとっても、絶縁膜の誘電率が低いほど絶縁層を薄くできる等の点で有利である。
【0008】
ポリイミドの低誘電率化には骨格中へのフッ素置換基の導入が有効である(非特許文献2)。しかしながら、フッ素化モノマーの使用はコストの点で不利である。
また、芳香族単位を脂環族単位に置き換えてπ電子を減少することも低誘電率化に有効な手段である(非特許文献3)。
【0009】
しかしながら、低誘電率(目標値として3.0以下)、低吸水性及び溶媒可溶性を同時に有し、かつハンダ耐熱性を保持するポリイミドを得ることは分子設計上容易ではなく、このような要求特性を満足する実用的な材料は今のところ知られていない。ポリイミド以外の低誘電率高分子材料や無機材料も検討されているが、誘電率、耐熱性及び靭性の点で要求特性が十分に満たされていないのが現状である。
【0010】
さらに近年、光学材料用途へ展開する要望から、可視光領域で高い透明性を示すポリイミドの要求が高まっている。この透明性に加えて、耐熱性、可溶性、適度な靭性を兼ね備えたポリイミドが得られれば、液晶ディスプレーやELディスプレー用フレキシブル基板や、内部に使用される各種光学特性部材として好適に使用することできるが、このような物性を兼ね備えた材料は知られていないのが現状である。
【0011】
また、絶縁層としてのポリイミドにスルーホール形成や微細加工を施す目的で、ポリイミドあるいはその前駆体自身に感光性能を付与した感光性ポリイミドシステムが盛んに研究されている。一方、塩基性物質でポリイミドそのものにエッチングを施し、スルーホール形成等も行われている。しかしながら、後者ではアルカリによるポリイミド膜のエッチング速度が通常遅いために、エッチング液はエタノールアミン等特殊な塩基性物質に限られており、エタノールアミンを用いても全てのポリイミドに適用できるわけではない。上記要求特性を有し且つ、汎用の塩基性物質により容易にエッチングできるような材料が開発されれば、上記産業分野において極めて有益な材料を提供しうるが、そのような材料は現在のところ知られていない。
【0012】
このような従来の問題点を解決し、高ガラス転位点、高透明性、低吸水率及びエッチング特性を併せ持ち、各種電子デバイスにおける電気絶縁膜や積層板、フレキシブルプリント配線基板などの電子材料分野、液晶ディスプレー用基板、有機エレクトロルミネッセンス(EL)ディスプレー用基板、電子ペーパー用基板などの表示装置分野、レンズや回折格子、光導波路などの光学材料分野、バッファーコート膜や層間絶縁膜などの半導体分野、この他太陽電池用基板、感光材料等において有益な脂環式ポリエステルイミドを提供し得るエステル基含有脂環式テトラカルボン酸無水物として、本出願人は先に、特定のエステル基含有脂環式テトラカルボン酸無水物を提案した(特許文献1)。
【0013】
このテトラカルボン酸無水物は、脂環式骨格を有する、エステル基を含有するなどの特徴があることから、この酸二無水物から合成されるポリイミド樹脂は、高い耐熱性を保ちつつ、高透明性、低誘電性、低吸水性、低熱膨張性、溶媒溶解性及びエッチング特性等の優れた特性を併せ持つ。このため、電気絶縁膜及びフレキシブルプリント配線基板などの電子材料用の樹脂や、液晶ディスプレー用基板、有機エレクトロルミネッセンス(EL)ディスプレー用基板、電子ペーパー用基板、太陽電池用基板、発光ダイオード用封止剤、光導波路等の光学材料用として利用可能である。
【特許文献1】特願2006−308082号公報
【非特許文献1】高分子討論会予稿集,53,4115(2004)
【非特許文献2】Macromolecules,24,5001(1991)
【非特許文献3】Macromolecules,32,4933(1999)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
特許文献1で提案されるエステル基含有脂環式テトラカルボン酸無水物は、対応するカルボン酸の酸クロリドとジオール類との反応により得られるが、このようなエステル基含有脂環式テトラカルボン酸無水物を原料として得られる脂環式ポリエステルイミドの物性は、エステル基含有脂環式テトラカルボン酸無水物の合成に用いたジオール類の構造に依存する。例えば、ジオールとしてヒドロキノンを用いて得られるエステル基含有脂環式テトラカルボン酸無水物を、ジアミンとしてp−フェニレンジアミンや4,4’−ジアミノジフェニルエーテルなどと組み合わせて得られたポリエステルイミドは、ガラス転位点は200℃以上と高く、かつ有機溶媒に対する溶解性が低いため、樹脂とした時の成形加工に問題がある。
【0015】
本発明は、このような問題を解決するものであり、エステル基含有脂環式テトラカルボン酸無水物合成時のジオール成分を特定の構造のものとすることにより、ガラス転位点が低く、かつ有機溶媒の溶解性の高い新規な脂環式ポリエステルイミドとその原料であるエステル基含有脂環式テトラカルボン酸無水物を提供し、樹脂の加工性を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者らは上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、エステル基含有脂環式テトラカルボン酸無水物合成時のジオールとして、芳香族基を含まないものを用いることにより、ガラス転位点が比較的低く、また、有機溶媒への溶解性に優れ、成形加工性に優れた脂環式ポリエステルイミドを得ることができることを見出した。
【0017】
本発明は、上記知見に基いて達成されたものであり、以下を要旨とする。
【0018】
[1] 下記一般式(1)で表されるエステル基含有脂環式テトラカルボン酸無水物。
【化3】

(式(1)中、Aは芳香族基を含まない2価の基を示す。x,yはそれぞれ独立に、0、1又は2を示す。)
【0019】
[2] 一般式(1)中のAが脂肪族基又は少なくとも1つのヘテロ元素を含む環状構造を含む基であることを特徴とする[1]に記載のエステル基含有脂環式テトラカルボン酸無水物。
【0020】
[3] 下記一般式(2)で表される無水酸クロリドとジオールとを塩基性物質の存在下に反応させることを特徴とする[1]又は[2]に記載のエステル基含有脂環式テトラカルボン酸無水物の製造方法。
【化4】

(式(2)中、zは0、1又は2を示す。)
【0021】
[4] [1]又は[2]に記載のエステル基含有脂環式テトラカルボン酸無水物とジアミン類とを反応させた後、イミド化することを特徴とする脂環式ポリエステルイミドの製造方法。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、前記一般式(1)のA部分に芳香族基を含まないことにより、好ましくは、A部分が、脂肪族基又は少なくとも1つのヘテロ元素を含む環状構造を含む基であることにより、高透明性を維持した上で、ガラス転位点が比較的低く、また、有機溶媒への溶解性に優れ、成形加工性に優れた脂環式ポリエステルイミド、及びその原料であるエステル基含有脂環式テトラカルボン酸無水物を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明するが、以下に記載する構成要件の説明は、本発明の実施態様の一例(代表例)であり、これらの内容に特定はされない。
【0024】
[エステル基含有脂環式テトラカルボン酸無水物]
本発明のエステル基含有脂環式テトラカルボン酸無水物は、下記一般式(1)で表されるものである。
【0025】
【化5】

(式(1)中、Aは芳香族基を含まない2価の基を示す。x,yはそれぞれ独立に、0、1又は2を示す。)
【0026】
一般式(1)において、Aは芳香族基を含まない基であれば良く、特に制限はないが、特に脂肪族基及び/又は少なくとも1つのヘテロ元素を含む環状構造を含む基であることが好ましく、例えば、次のようなものが挙げられる。
【0027】
<脂肪族基>
炭素数2〜10のアルキレン基、例えばエチレン基、プロピレン基、ブチレン基、ペンチレン基、ヘキシレン基等が挙げられるが、必要以上に炭素数が大きくなると脂環式ポリエステルイミドの耐熱性が大幅に低下するので、好ましくは炭素数2〜5、特に好ましくは2〜3である。これらは、側鎖がついていても特に本発明の樹脂の物性に負の影響を与えなければ特に限定されない。これらの中でも好ましくは、直鎖の脂肪族基である。
【0028】
<少なくとも一つのヘテロ元素を含む環状構造を含む基>
ヘテロ原子としては、酸素原子、窒素原子、硫黄原子等が挙げられ、少なくとも一つのヘテロ元素を含む環状構造を含む基の例としては、下記一般式群(Z)に示す構造のものが上げられる。
【0029】
<(Z)群>
【化6】

【0030】
(一般式群(Z)の中でRは、水素又は、任意のアルキル基を表し、置換位置は構造的に可能な任意の位置である。)
この中でも、酸素原子が入ったものが樹脂とした時の性能がよく好ましい。
さらには、2,3−テトラヒドロフラニレン基、1,2−テトラヒドロピラニレン基、イソソルバイド基は、合成が容易な点で好ましい。
【0031】
一般式(1)において、x,yはそれぞれ独立に0、1又は2を示すが、好ましくは0又は1、特に好ましくは0である。
【0032】
[エステル基含有脂環式テトラカルボン酸無水物の製造方法]
上記一般式(1)で表される本発明のエステル基含有脂環式テトラカルボン酸無水物は、下記一般式(2)で表される無水酸クロリドとジオールとを塩基性物質の存在下に反応させることにより得ることができる。
【0033】
【化7】

(式(2)中、zは0、1又は2を示す。)
【0034】
なお、一般式(2)において、zはx,yと同義であり、好ましくは0又は1、特に好ましくは0である。
【0035】
本発明のエステル基含有脂環式テトラカルボン酸無水物の合成に用いるジオールは、HO−A−OH(Aは一般式(1)におけるAと同義である。)で表されるものであり、具体的には、Aが直鎖の脂肪族基であるものとして、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール等の炭素数2〜10のグリコール類が挙げられ、エステル基含有脂環式テトラカルボン酸無水物が少なくとも一つのヘテロ元素を含む環状構造を含む基であるものとして、2,3−ジヒドロキシテトラヒドロフラン、2,3−ジヒドロキシテトラヒドロチオフェン、イソソルバイド等が挙げられる。
【0036】
これらのジオール類は1種を単独で用いても良く、2種以上を混合して用いても良い。
【0037】
このようなジオールと無水酸クロリドとの反応方法には特に制限はないが、例えば以下のようにして行う。
【0038】
まず、反応試剤の反応容器への導入の方法であるが、ジオール類と塩基性物質を溶媒に溶解し、これに同一の溶媒に溶解した無水酸クロリドをゆっくりと滴下する方法、或いは、逆に必要に応じて溶媒に溶解した無水酸クロリド中にジオールと塩基性物質の混合溶液を滴下する方法、さらには、無水酸クロリドとジオールの混合溶液の中へ塩基性物質を滴下する方法、などが採用可能である。
【0039】
反応の進行とともに白色沈殿が生じる。これを濾過後、沈殿を水で十分洗浄して生成した塩酸塩を除去し、ジエステルの沈殿を加温して真空乾燥することで、目的のエステル基含有脂環式テトラカルボン酸無水物の粗生成物を収率よく得ることができる。さらに必要に応じて適当な溶媒で再結晶を行うことにより、純度の高められたエステル基含有脂環式テトラカルボン酸無水物を得ることもできる。
【0040】
ジオールの使用量は、無水酸クロリドに対して、通常上限は0.6等量以下、好ましくは、0.5等量以下である。これより多く用いるとジオールの1つのみしかエステル化されていないハーフエステルもしくはハーフアミドが多く生成するので好ましくない。また下限は、0.3等量以上、好ましくは0.45等量以上である。これより少ないと無水酸クロリドが系内に余るので好ましくはない。通常、ジオールは、無水酸クロリドに対して0.5等量程度使用される。
【0041】
無水酸クロリドとジオールを反応させてエステル基含有脂環式テトラカルボン酸無水物を合成する際に使用可能な溶媒としては、特に限定されないが、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、1,2−ジメトキシエタン-ビス(2−メトキシエチル)エーテル等のエーテル溶媒、ピコリン、ピリジン等の芳香族アミン溶媒、アセトン、メチルエチルケトン等のようなケトン系溶媒、トルエン、キシレン等の様な芳香族炭化水素溶媒、ジクロロメタン、クロロホルム、1,2−ジクロロエタン等のような含ハロゲン溶媒、N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジエチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド等のようなアミド系溶媒、ヘキサメチルホスホンアミド等のような含リン溶媒、ジメチルスルホオキシド等のような含イオウ溶媒、γ−ブチロラクトン、酢酸エチル、酢酸ブチル等のようなエステル系溶媒、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン等のような含窒素溶媒、フェノール、o−クレゾール、m−クレゾール、p−クレゾール、o−クロロフェノール、m−クロロフェノール、p−クロロフェノール等の水酸基を有する芳香族系溶媒等が挙げられる。これらの溶媒は1種を単独で用いても、2種類以上混合して用いてもよい。
【0042】
本発明のエステル基含有脂環式テトラカルボン酸無水物を得る反応における反応液中の溶質の濃度は、下限が1重量%以上、好ましくは10重量%以上、上限が50重量%以下、好ましくは40重量%以下で行われる。副反応の制御、沈殿の濾過工程を考慮すると10重量%以上40重量%以下の範囲で行われるのがより好ましい。
【0043】
本発明のエステル基含有脂環式テトラカルボン酸無水物の合成の際、採用される反応温度は下限が−10℃以上、好ましくは−5℃以上、より好ましくは0℃以上、上限は30℃以下、好ましくは20℃以下、より好ましくは10℃以下で行われる。反応温度が30℃よりも高いと一部副反応が起こり、収率が低下する恐れがあり、好ましくない。
【0044】
反応は通常、常圧で行われるが、必要に応じて加圧下又は減圧下でも実施できる。また、通常、反応雰囲気は窒素下で行う。
【0045】
反応容器は密閉型反応容器でも開放型反応容器でも良いが、反応系を不活性雰囲気に保つため、開放型の場合には不活性ガスでシールできるものを用いる。
【0046】
反応の際、使用する塩基は反応の進行とともに発生する塩化水素を中和するために用いる。
この際使用される塩基の種類としては特に限定されないが、ピリジン、トリエチルアミン、N,N−ジメチルアニリン等の有機3級アミン類、炭酸カリウム、水酸化ナトリウム等の無機塩基を用いることができる。
【0047】
上述の反応により生成した沈殿物は目的物と塩酸塩の混合物である。塩酸塩を分離除去するために、沈殿物をクロロホルムや酢酸エチル等で抽出溶解し、分液ロートを用いて有機層を水洗する方法も可能であるが、沈殿物を単に十分水洗するだけでも、塩酸塩を完全に除去することができる。塩酸塩の除去の判定は洗浄液に硝酸銀水溶液を添加し、塩化銀の白色沈殿の生成の有無を確認することで行う。
【0048】
水洗操作の際、テトラカルボン酸無水物は一部加水分解を受けて、テトラカルボン酸に変化するが、これは、減圧下加熱処理をすることにより、容易に本発明のテトラカルボン酸無水物に戻すことができる。
【0049】
その際採用される温度は、下限が50℃以上、好ましくは120℃以上、上限が250℃以下、好ましくは200℃以下である。
閉環処理に採用される減圧度は、下限の制限はなく、上限は0.1MPa以下、好ましくは0.05MPa以下である。
【0050】
また、加水分解によりテトラカルボン酸となった場合の再閉環の方法としては、上記した減圧下に加熱する方法の他に、有機酸の酸無水物と処理する方法も採用することができる。その際に使用される有機酸の酸無水物としては、無水酢酸、無水プロピオン酸、無水マレイン酸、無水フタル酸などが挙げられるが、過剰に使用した際の除去の容易さから無水酢酸が好適に用いられる。
【0051】
こうして得られた本発明のテトラカルボン酸無水物をさらに精製することも可能である。その場合の精製方法としては、再結晶、昇華、洗浄、活性炭処理、カラムクロマトグラフィーなど任意に行うことができる。またこれら精製法を繰り返しても、組み合わせて実施することも可能である。
【0052】
再結晶の際に用いることのできる溶媒としては、テトラカルボン酸無水物が溶解する溶媒であれば特に制限なく使用することができる。
具体的には、テトラヒドロフラン、ジメトキシエタン、ジオキサン等のエーテル系溶媒、アセトニトリルなどのニトリル系溶媒、スルホラン、ジメチルスルオキシド、N−メチルピロリドン、γ−ブチロラクトン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミドなどの非プロトン性極性溶媒、ジクロロメタン、1,2−ジクロロエタンなどのハロゲン系溶媒、酢酸エチル、酢酸ブチルなどのエステル系溶媒などが使用可能である。さらには、これらの良溶媒に加えてトルエンやキシレンなどの芳香族炭化水素、ヘプタン、ヘキサン、シクロヘキサンなどの脂肪族炭化水素などの貧溶媒を添加して使用してもかまわない。貧溶媒を添加すると目的物の回収率を高めることができる。
再結晶の際に、酸無水物環の開環を防ぐために脱水剤を共存させてもよい。その際、使用可能な脱水剤の例としては、無水酢酸、無水プロピオン酸、無水マレイン酸などが挙げられる。
【0053】
こうして得られる本発明のテトラカルボン酸無水物の純度は例えば示差屈折系検出器付液体高速クロマトグラフィ−などの分析で得られるピークの面積比として、通常90%以上、好ましくは95%以上、さらに好ましくは98%以上である。
【0054】
不純物として含まれてくるものとしては、ジオールの片方のみがエステル化されたモノエステル体、精製時に閉環剤として無水酢酸などの酸無水物を使用した場合にはこの閉環剤などがある。これらの不純物は、酸無水物構造を1つ分子内に含有していることから、これらのものは、ジアミンと重合する際に重合停止剤として機能するため、なるべくテトラカルボン酸無水物から除去しておく必要がある。テトラカルボン酸無水物中に含まれる無水酢酸などの酸無水物の含量は、好ましくは10モル%以下、さらに好ましくは5モル%以下、さらに好ましくは2モル%以下である。これらの不純物がこれ以上存在すると、ジアミンとの重合の際に重合度が上がらなくなる可能性がでてくる。
【0055】
また、上記した無水酸クロリドとジオールのエステル化による本発明のエステル基含有脂環式テトラカルボン酸無水物の合成収率は、精製後で通常10モル%以上、好ましくは20モル%以上、さらに好ましくは30モル%以上、より好ましくは50モル%以上である。
【0056】
[脂環式ポリエステルイミドの製造]
上述のようにして製造された本発明のエステル基含有脂環式テトラカルボン酸無水物は、脂環式ポリエステルイミド等の重合物の製造に好適に使用され、優れた重合反応性により、高特性の脂環式ポリエステルイミドを製造することができる。
【0057】
脂環式ポリエステルイミドを製造するには、上述のようにして精製されたテトラカルボン酸無水物を、重合溶媒中で実質的に等モルのジアミン類と反応させることで、脂環式ポリエステルイミド前駆体を製造する。ここで、テトラカルボン酸無水物は、1種を単独で用いても良く、2種以上を併用しても良い。
【0058】
また、エステル基含有脂環式テトラカルボン酸二無水物の他に、他の構造の酸二無水物を混合して用いることも制限なく可能である。その際、エステル基含有脂環式テトラカルボン酸二無水物の他に用いるこのできる酸二無水物としては、例えば、ピロメリット酸などの1つのベンゼン環を有する芳香族酸二無水物、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)、2,3’,3,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(a-BPDA)、3,3’’,4,4’-ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物(DSDA)、3,3’,4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物(BTDA)、2,2’,3,3’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−オキシジフタル酸無水物(ODPA)、ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)エ−テル二酸無水物(a−ODPA)、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)エ−テル二酸無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)メタン二酸無水物、2,2’−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物(BDCP)、2,2’−ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、2,2’−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン二無水物(BDCF)、2,2’−ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン二無水物等の2つのベンゼン環を有する芳香族酸二無水物、2,3,6,7−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、1,2,5,6−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、1,4,5,8−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物等のナフタレン骨格を有する芳香族酸二無水物、2,3,6,7−アントラセンテトラカルボン酸二無水物、1,2,5,6−アントラセンテトラカルボン酸二無水物などのアントラセン骨格を有する芳香族酸二無水物が例として挙げられる。
【0059】
一方、加えて使用できる脂環式の酸無水物の例としては、1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸二無水物やエチレンテトラカルボン酸二無水物などの鎖状の脂肪族テトラカルボン酸二無水物や、1,2,3,4−シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、1,3−ジメチル−1,2,3,4−シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、1,2,4,5−シクロペンタンテトラカルボン酸二無水物、1,2,3,4−シクロペンタンテトラカルボン酸二無水物、1,2,4,5-シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物、ビシクロ[2.2.2]オクタ−7−エン−2,3,5,6−テトラカルボン酸二無水物、ジシクロヘキシル−3,4,3’,4’−テトラカルボン酸二無水物(BPDA水添物)、2,3,5−トリカルボキシシクロペンチル酢酸二無水物、3,4−ジカルボキシ−1,2,3,4−テトラヒドロ−1−ナフタレンコハク酸二無水物、ビシクロ[3,3,0]オクタン−2,4,6,8−テトラカルボン酸二無水物などの脂環構造を有するテトラカルボン酸の二無水物などを挙げることができる。
これら酸二無水物と本発明のテトラカルボン酸無水物との使用割合は得ようとする樹脂の物性により任意に設定可能であるが、本発明のテトラカルボン酸無水物の使用量が5モル%以上が好ましく、さらに10モル%以上使用することがより好ましい。
【0060】
本発明に係る脂環式ポリエステルイミド前駆体を製造するために使用されるジアミンとしては、前駆体製造の際の重合反応性、脂環式ポリエステルイミドの要求特性を著しく損なわない範囲で自由に選択可能である。具体的に使用可能なジアミンとしては例えば、芳香族ジアミンでは、3,5−ジアミノベンゾトリフルオリド、2,5−ジアミノベンゾトリフルオリド、3,3’−ビストリフルオロメチル−4,4’−ジアミノビフェニル、3,3’−ビストリフルオロメチル−5,5’−ジアミノビフェニル、ビス(トリフルオロメチル)−4,4’−ジアミノジフェニル、ビス(フッ素化アルキル)−4,4’−ジアミノジフェニル、ジクロロ−4,4’−ジアミノジフェニル、ジブロモ−4,4’−ジアミノジフェニル、ビス (フツ素化アルコキシ)−4,4’−ジアミノジフェニル、ジフェニル−,4’−ジアミノジフェニル、4,4’ビス(4−アミノテトラフルオロフェノキシ)テトラフルオロベンゼン、4,4’−ビス(4−アミノテトラフルオロフェキシ)オクタフルオロビフェニル、4,4’−ビナフチルアミン、o−、m−、p−フェニレンジアミン、2,4−ジアミノトルエン、2,5−ジアミノトルエン、2,4−ジアミノキシレン、2,4−ジアミノジュレン、ジメチル−4,4’−ジアミノジフェニル、ジアルキル−4,4’−ジアミノジフェニル、ジメトキシ−4,4’−ジアミノジフェニル、ジエトキシ−4,4’−ジアミノジフェニル、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、3,4’−ジアミノジフェニルエーテル、4,4’−ジアミノジフエニルスルフォン、3,3’−ジアミノジフエニルスルフォン、4,4’−ジアミノベンゾフェノン、3,3’−ジアミノベンゾフェノン、1,3−ビス (3−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、4,4’−ビス (4−アミノフェノキシ)ビフェニル、ビス(4(3−アミノフェノキシ)フェニル)スルフォン、ビス(4−(4−アミノフェノキシ)フェニル)スルフォン、2,2−ビス(4−(4−アミノフェノキシ)フェニル)プロパン、2,2−ビス(4−(4−アミノフェノキシ)フェニル)へキサフルオロプロパン、2,2−ビス(4−(3−アミノフェノキジ)フェニル)プロパン、2,2−ビス(4−(3−アミノフェノキシ)フェニル)へキサフルオロプロパン、2,2−ビス(4−(4−アミノ−2−トリフルオロメチルフェノキシ)フェニル)へキサフルオロプロパン、2,2−ビス(4−(3−アミノ−5−トリフルオロメチルフェノキシ)フェニル)へキサフルオロプロパン、2,2−ビス(4−アミノフェニル〉ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス(3−アミノフェニル)へキサフルオロプロパン、2,2−ビス(3−アミノ−4−ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン、2,2一ビス(3−アミノ−4−メチルフェニル)へキサフルオロプロパン、4,4’−ビス(4−アミノフェノキシ)オクタフルオロビフェニル、4,4’−ジアミノベンズアニリド等が例示でき、これらを2種以上併用することもできる。
【0061】
脂肪族ジアミンとしては例えば、4,4’−メチレンビス(シクロヘキシルアミン)、イソホロンジアミン、トランス−1,4−ジアミノシクロヘキサン、シス−1,4−ジアミノシクロヘキサン、1,4−シクロヘキサンビス(メチルアミン)、2,5−ビス(アミノメチル)ビシクロ〔2.2.1〕ヘプタン、2,6−ビス(アミノメチル)ビシクロ〔2.2.1〕ヘプタン、3,8−ビス(アミノメチル)トリシクロ〔5.2.1.0〕デカン、1,3−ジアミノアダマンタン、2,2−ビス(4−アミノシクロヘキシル)プロパン、2,2−ビス(4−アミノシクロヘキシル)ヘキサフルオロプロパン、1,3−プロパンジアミン、1,4−テトラメチレンジアミン、1,5−ペンタメチレンジアミン、1,6−ヘキサメチレンジアミン、1,7−ヘプタメチレンジアミン、1,8−オクタメチレンジアミン、1,9−ノナメチレンジアミン等が挙げられる。またこれらを2種類以上併用することもできる。
【0062】
さらには、1,3−ビス(3−アミノプロピル)−1,1,3,3−テトラメチルジシロキサンなどのシロキサン基含有のジアミンも使用することができる。
これらジアミンの中でも芳香族ジアミンとしては、o−、m−、p−フェニレンジアミンなどの単核のフェニレンジアミン化合物、4,4’−ジアミノジフェニル、4,4’−ジアミノジフエニルスルフォン、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、4,4’−ジアミノジフェニルエーテルなどのジアミノジフェニル化合物が好ましく、中でも入手の容易性や得られる樹脂の物性が良好なことから、p−フェニレンジアミン、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、4,4’−ジアミノジフェニルがより好ましい。脂肪族ジアミンとしては、4,4’−メチレンビス(シクロヘキシルアミン)、トランス−1,4−ジアミノシクロヘキサン、イソホロンジアミンなどの脂環式ジアミンが環構造を有し入手も容易なのでより好ましく、さらには、トランス−1,4−ジアミノシクロヘキサンが得られる樹脂の物性が良好なことからより好ましい。
これらは、1種を単独で用いても良く、2種以上を併用しても良い。
【0063】
テトラカルボン酸無水物とジアミンの比率は、モル比で1:0.8〜1.2であることが好ましい。通常の重縮合反応と同様にこのモル比が1:1に近いほど得られるポリアミド酸の分子量は大きくなる。
【0064】
反応温度は、あまり低すぎると試剤の溶解性が低下することと十分な反応速度が得られないこと、高すぎると反応の進行をコントロールしにくくなることから好ましくない。下限が−20℃、好ましくは−10℃、さらに好ましくは0℃、上限が150℃、好ましくは100℃、さらに好ましくは60℃が採用される。
反応時間は特に制限なく採用できるが十分な試剤の変換率を達成するためには、下限が10分、好ましくは30分、さらに好ましくは1時間、上限は特に制限はないが反応が終了すれば必要以上に反応時間を延ばす必要はない。例えば、100時間、好ましくは50
時間、さらに好ましくは30時間が採用される。
【0065】
重合反応は、溶媒を用いて行う。この際使用される溶媒としては、原料モノマーであるジアミンと本発明の脂環式テトラカルボン酸が溶媒と反応せず、且つこれら原料が溶解する溶媒であれば問題はなく、特にその構造は限定されない。具体的に例示するならば、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン等のアミド溶媒、γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン、δ−バレロラクトン、γ−カプロラクトン、ε−カプロラクトン、α−メチル−γ−ブチロラクトン等の環状エステル溶媒、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート等のカーボネート溶媒、カプロラクタム等のラクタム溶媒、ジオキサンなどのエーテル系溶媒、トリエチレングリコール等のグリコール系溶媒、m−クレゾール、p−クレゾール、3−クロロフェノ−ル、4−クロロフェノ−ル、4−メトキシフェノール、2,6−ジメチルフェノール等のフェノール系溶媒、アセトフェノン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、スルホラン、ジメチルスルホキシド、テトラメチルウレアなどが好ましく採用される.さらに、その他の一般的な有機溶剤、即ちフエノ−ル、o−クレゾール、酢酸ブチル、酢酸エチル、酢酸イソブチル、プロピレングリコールメチルアセテート、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ、2−メチルセロソルブアセテート、エチルセロソルブアセテート、ブチルセロソルブアセテート、テトラヒドロフラン、ジメトキシエタン、ジエトキシエタン、ジブチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、メチルイソブチルケトン、ジイソブチルケトン、シクロへキサノン、メチルエチルケトン、アセトン、ブタノール、エタノール、キシレン、トルエン、クロルベンゼン、ターペン、ミネラルスピリット、石油ナフサ系溶媒なども添加して使用できる。中でも原料の溶解性が高いことからN,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン、ジメチルスルホキシド、γ−ブチロラクトン等の非プロトン性溶媒が好ましい。
【0066】
溶媒の使用量は、原料であるテトラカルボン酸無水物とジアミンの総量の重量濃度が以下の範囲に入るような量の溶媒が使用されるのが好ましい。すなわち濃度は、0.1重量%以上、好ましくは1重量%以上、さらに好ましくは5重量%以上、上限は特に制限はないものの、テトラカルボン酸無水物の溶解性の観点から、80重量%以下、好ましくは50重量%以下、さらに好ましくは30重量%以下が採用される。このテトラカルボン酸無水物の濃度範囲で重合を行うことにより均一で高重合度のポリイミド前駆体溶液を得ることができる。目的とするポリエステルイミドに膜靭性を付与するためには、ポリエステルイミド前駆体の重合度はできるだけ高いことが好ましく、上記濃度範囲よりも低濃度で重合を行うと、ポリイミド前駆体の十分な重合度が得られず、最終的に得られるポリイミド膜が脆弱になる恐れがあり好ましくない。ジアミンとして脂環式ジアミンを用いた場合、より高濃度では形成された塩が溶解、消失するまでに長い重合時間を必要とし、生産性の低下を招く恐れがある。
【0067】
必要に応じて前駆体の製造の際に無機塩類を触媒として用いても良い。この際に用いられる無機塩類としては、たとえばLiCl、NaCl、LiBrなどのハロゲン化アルカリ金属塩、CaClなどのハロゲン化アルカリ土類金属、ZnClなどのハロゲン化金属類が挙げられる。これらのうち、LiCl、CaCl、ZnClなどの金属の塩化物が特に好ましい。
反応は、進行中攪拌しながら行うのが好ましい。
【0068】
こうして得られる本発明の脂環式ポリエステルイミド前駆体の固有粘度は、特に限定されるものではないが、好ましい固有粘度としては、下限が0.3dL/g、好ましくは0.5dL/g、さらに好ましくは、0.7dL/gである。一方、上限は、5.0dL/gであり、好ましく3.0dL/gであり、より好ましくは2.0dL/gである。固有粘度は後述の実施例の項に記載される方法で測定される。
【0069】
脂環式ポリエステルイミドを合成する方法は、(i)脂環式ポリエステルイミド前駆体から得る方法、及び(ii)脂環式ポリエステルイミド前駆体を介さずに得る方法が挙げられる。そして、(i)脂環式ポリエステルイミド前駆体から得る方法としては、加熱イミド化法及び化学イミド化法がある。ただし、本発明の脂環式ポリエステルイミドの製造方法は、以下に記載される製法に特に制限されることはない。
【0070】
(i)脂環式ポリエステルイミド前駆体から得る方法
本発明の脂環式ポリエステルイミドは、上記の方法で得られた脂環式ポリエステルイミド前駆体を環化イミド化反応させることで製造することができる。
この際脂環式ポリエステルイミドの製造可能な形態は、フィルム、粉末、成型体及び溶液である。
【0071】
脂環式ポリエステルイミドのフィルムは、例えば以下の様にして製造を行うことができる。まず、該脂環式ポリエステルイミド前駆体の重合溶液(ワニス)をガラス、銅、アルミニウム、シリコン、石英板、ステンレス板、カプトンフィルム等の基板上に流延して塗布する。塗布の方法としては、前述のようにして得られた脂環式ポリエステルイミド溶液を、上記した基板上に滴下し高さを固定した支持体などの上をなぞり溶液を伸ばすことにより均一な高さに塗布することができる。この際、ドクターブレードなどの機器を使用して行ってもかまわない。またこの他の塗布方法としては、スピンコート法、印刷法、インクジェット法など、溶液を所定の厚みで塗布できる手法であれば制限なく採用できる。
【0072】
こうして塗布された塗膜には、溶媒が含まれているので、次に乾燥する。その際に採用される乾燥の温度は、通常下限が20℃、好ましくは40℃、さらに好ましくは、60℃である。一方、上限は、200℃、好ましくは150℃、さらに好ましくは100℃である。
【0073】
乾燥の時間は、溶媒がある程度除去されるならば特に制限なく採用できるが、下限が10分、好ましくは30分、さらに好ましくは1時間、上限は特に制限はないが、50時間、好ましくは30時間、さらに好ましくは10時間が採用される。
乾燥は減圧下に行っても良い。その際に採用される減圧度は、通常0.05MPa以下、好ましくは0.01MPa以下、さらに好ましくは0.001MPa以下である。
【0074】
こうして得られた乾燥された脂環式ポリエステルイミド前駆体フィルムを基板上で真空中、窒素等の不活性ガス中、あるいは空気中高温度加熱してイミド化する。この方法を加熱イミド化と言う。
【0075】
この時採用される温度は、下限が180℃、好ましくは200℃、さらに好ましくは250℃である。一方、上限は500℃、好ましくは400℃、さらに好ましくは350℃で加熱する。加熱温度は180℃以下であると環化イミド化反応の環化反応が不完全であったりするため好ましくなく、また高すぎると生成した脂環式ポリイミドエステルフィルムが着色したりする可能性があるため好ましくない。またイミド化は真空中あるいは不活性ガス中で行うことが望ましいが、イミド化反応の温度が高すぎなければ空気中で行っても差し支えはない。加熱イミド化を減圧下に行う場合に採用される減圧度は、通常0.05MPa以下、好ましくは0.01MPa以下、さらに好ましくは0.001MPa以下である。
【0076】
加熱時間は環化イミド化が十分に進行する時間が採用されるが、通常、下限が5分、好ましくは10分、さらに好ましくは20分、上限は特に制限はないが、20時間、好ましくは10時間、さらに好ましくは5時間が採用される。
【0077】
[脂環式ポリエステルイミドの物性]
このようにして製造される本発明の脂環式ポリエステルイミドは、後述の実施例3に示す如く、DMAc、N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルホルムアミド、γ−ブチロラクトン、シクロヘキサノン等の有機溶媒に室温で高い溶解性を示し、またそのガラス転位点Tg(℃)は、通常下限が100℃、好ましくは110℃、さらに好ましくは120℃であり、上限は通常200℃、好ましくは190℃、さらに好ましくは180℃の範囲内であり、成形加工性に優れる。
【0078】
なお、脂環式ポリエステルイミドのガラス転位点は、後述の実施例の項に記載される方法で測定される。
【実施例】
【0079】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限りこれら実施例に限定されるものではない。
なお、以下において、テトラカルボン酸無水物のNMRスペクトル、質量分析及びポリイミドのガラス転位点の測定方法は次の通りである。
【0080】
<プロトンNMR(H−HMR)スペクトル>
生成物を重水素化ジメチルスルホキシドに溶解し、プロトンの共鳴周波数400MHzNMR分光計を用いて測定した。
【0081】
<質量分析>
日本電子社製質量分析計(JMS−700)を用い、イオン化モード FAB法にて測定を行った。
【0082】
<ガラス転位点>
エスアイアイ・ナノテクノロジー社製示差走査熱量分析装置(DSC6220)を用い、窒素気流下、昇温速度10℃/min.の条件でDSC測定を行い、ガラス転位点を求めた。
【0083】
[実施例1]
核水素化トリメリット酸無水物クロリドの合成は以下のように行った。
窒素流通下、500mLの四つ口フラスコ中に、核水素化トリメリット酸40.91g(0.189mol)、N,N’−ジメチルホルムアミド40.6mg(0.56mmol)、及びトルエン200mlを加えて溶解させた。これに塩化チオニル64.35g(0.541mol)を加え、窒素雰囲気中、60℃で4.5時間反応した。反応後、過剰の塩化チオニルとトルエンを減圧下留去し、内容物を100g程度まで濃縮した。この溶液にヘキサン300mlを加えて固体を析出させ、濾別後、室温で5時間真空乾燥し、核水素化トリメリット酸無水物クロリドを32.9g(収率82.2%)得た。
【0084】
次に、50mL三つ口フラスコに、エチレングリコール0.421g(6.8mmol)及びピリジン1.10g(13.8mmol)をテトラヒドロフラン9mLに溶解した。この中に核水素化トリメリット酸無水物クロリド3.0g(13.8mmol)をテトラヒドロフラン6mLに溶解させたものを室温で滴下した。滴下終了後、室温で1時間、更に50℃に昇温して2時間反応した。反応後、ピリジン塩酸塩を濾別し、濾液を濃縮した。濃縮物を酢酸エチル20mlに溶解させ、5mlの水で3回洗浄した後、無水硫酸マグネシウムで乾燥した。濾別後、濾液を濃縮し、得られたオイルをトルエン/酢酸エチル(1/1)5mlで再結し、生成物を1.79g(収率62.5%)、白色粉末として得た。
【0085】
この化合物はH−NMRスペクトル及び質量分析スペクトルにより、得られた生成物は下記式(1A)の構造の目的とするエチレングリコール水素化トリメリット酸ジエステルであることが確認された。
【0086】
GC−MS(FAB法):(M+H)に相当するm/z=423を確認
H−NMR(4000MHz;DMSO−d):
1.46−1.57(m,2H),
1.43−1.61(m,4H),
1.96−2.00(m,2H),
2.27−2.47(m,6H),
3.20−3.26(m,4H),
4.30(s,4H)
【0087】
【化8】

【0088】
[実施例2]
50mL三つ口フラスコに、エリスリタン0.690g(6.76mmol)及びピリジン1.07g(13.5mmol)をテトラヒドロフラン9mLに溶解した。この中に核水素化トリメリット酸無水物クロリド3.0g(13.8mmol)をテトラヒドロフラン6mLに溶解させたものを室温で滴下した。滴下終了後、室温で2時間、更に50℃に昇温して2時間反応した。反応後、ピリジン塩酸塩を濾別し、濾液を濃縮した。濃縮物を酢酸エチル30mlに溶解させ、10mlの水で3回洗浄した後、無水硫酸マグネシウムで乾燥した。濾別後、濾液を濃縮し、白色固体を3.00g(収率95.7%)を得た。
【0089】
この化合物はH−NMRスペクトル及び質量分析スペクトルにより、下記式(1B)の構造の目的とするエリスリタン水素化トリメリット酸ジエステルであることが確認された。
【0090】
GC−MS(FAB法):(M+H)に相当するm/z=465を確認
H−NMR(400MHz;DMSO−d6):
1.38−1.56(m,2H),
1.54−1.73(m,2H),
1.71−1.86(m,2H),
1.89−2.02(m,2H),
2.26−2.45(m,6H),
3.09−3.31(m,4H),
3.72−3.84(m,2H),
4.01−4.15(m,2H),
5.24−5.38(m,2H)
【0091】
【化9】

【0092】
[実施例3]
エチレングリコール水素化トリメリット酸エステルを原料とした脂環式ポリエステルイミドの製造を行った。
窒素流通下、10mLのフラスコに4,4’−ジアミノジフェニルエーテル(以下ODAと略す)99.2mg(0.495mmol)とN,N−ジメチルアセトアミド(以下DMAcと略す)850mgを加えて室温にて攪拌し、溶解させた。この中へ実施例1で合成したエチレングリコール水素化トリメリット酸ジエステル214.5mg(0.507mmol)を加え、69時間攪拌した。その後、DMAc5.4g、無水酢酸560mgとピリジン277mgを加えて室温で1時間、引き続き50℃で2時間反応した。内容物を水100mlに投入し、析出物を濾別、メタノールで洗浄した後100℃で5時間真空乾燥し、257mgのポリエステルイミド粉末を得た。
【0093】
合成したポリエステルイミド粉末をDMAcに溶解して20%固形物濃度とし、ガラス板上に塗布した。このガラス板を80℃で1時間、150℃で1時間加熱することによりポリエステルイミド膜を得た。ガラス転位点は130℃を示した。
また、DMAc、N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルホルムアミド、γ−ブチロラクトン、シクロヘキサノン等の有機溶媒に室温で高い溶解性を示し、加工性が良好であることが確認された。
【0094】
本実施例3で得られたポリエステルイミドは、以下の構造を有する。このもののDMSO(ジメチルスルホキシド)中で測定したNMRスペクトルは図1に示す。
【0095】
【化10】

【0096】
[比較例1]
ヒドロキノン水素化トリメリット酸エステルを原料とした脂環式ポリイミドの製造を行った。
窒素流通下、500mL四つ口フラスコ中に、ヒドロキノン13.81g(125mmol)及びピリジン20.24g(256mmol)をテトラヒドロフラン160mlに溶解し、氷浴で0℃に冷却した。この中に核水素化トリメリット酸無水物クロリド55.43g(256mmol)をテトラヒドロフラン110mLに溶解させたものを滴下した。滴下終了後、室温に戻して15時間反応した。反応後、析出した白色固体を濾別し、水40mlで4回洗浄して塩酸塩を除去した。これを120℃で真空乾燥して生成物47.8g(収率81.0%)を得た。
【0097】
1Lの三つ口フラスコに、実施例1で得られたヒドロキノン水素化トリメリット酸ジエステル23.9gと無水酢酸200mlと酢酸300mlを加え、140℃で溶解させた。これを室温で冷却し、析出した固体を濾別した後、150℃で真空乾燥し、目的物を13.7g得た。
【0098】
50mLの三つ口フラスコにODA 0.801g(4.00mmol)とDMAc 10.75gを加えて室温にて攪拌し、溶解させた。この中へ上記精製テトラカルボン酸無水物1.88g(4.00mmol)を加え、そのまま1時間攪拌した。次にDMAc 6.39gで希釈した後、引き続き16時間攪拌した。この脂環式ポリエステルイミド前駆体の固有粘度は1.99dL/gであり、極めて高重合体であった。その後、DMAc13.68gを加えて希釈し、無水酢酸5mlとピリジン2.5mlを加えて100℃で4時間反応した。冷却後、内容物をメタノール200mlに投入し、析出物を濾別、メタノールで洗浄した後100℃で5時間真空乾燥し、2.18gのポリイミド粉末を得た。
【0099】
合成したポリエステルイミド粉末をDMAcに溶解して20%固形物濃度とし、ガラス板上に塗布した。このガラス板を80℃で1時間、200℃で1時間加熱することにより良好なポリエステルイミド膜を得た。
【0100】
本比較例1で得られたポリエステルイミドは以下の構造を有し、ガラス転位点は220℃で、DMAc、N−メチルピロリドンには溶解したが、シクロヘキサノンには溶解せず、加工性に劣るものであった。
【0101】
【化11】

【図面の簡単な説明】
【0102】
【図1】実施例3で得られたポリエステルイミドのDMSO中で測定したNMRスペクトルチャートである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表されるエステル基含有脂環式テトラカルボン酸無水物。
【化1】

(式(1)中、Aは芳香族基を含まない2価の基を示す。x,yはそれぞれ独立に、0、1又は2を示す。)
【請求項2】
一般式(1)中のAが脂肪族基又は少なくとも1つのヘテロ元素を含む環状構造を含む基であることを特徴とする請求項1に記載のエステル基含有脂環式テトラカルボン酸無水物。
【請求項3】
下記一般式(2)で表される無水酸クロリドとジオールとを塩基性物質の存在下に反応させることを特徴とする請求項1又は2に記載のエステル基含有脂環式テトラカルボン酸無水物の製造方法。
【化2】

(式(2)中、zは0、1又は2を示す。)
【請求項4】
請求項1又は2に記載のエステル基含有脂環式テトラカルボン酸無水物とジアミンとを反応させた後、イミド化することを特徴とする脂環式ポリエステルイミドの製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2008−163088(P2008−163088A)
【公開日】平成20年7月17日(2008.7.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−351596(P2006−351596)
【出願日】平成18年12月27日(2006.12.27)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【Fターム(参考)】