説明

エゼクタおよびこのエゼクタを用いた燃料電池システム

【課題】小流量域の流量制御の更なる向上に寄与するエゼクタおよびこのエゼクタを用いた燃料電池システム。
【解決手段】エゼクタ50は、ボディ60と、ノズル80と、ニードル70と、ノズル80から噴出された第1流体によって発生する負圧で第2流体を吸引し、これらの流体を混合させて流出するディフューザ90と、を含み、ニードル70に対してノズル80を軸方向に変位可能とする第1、第2のダイヤフラム100,110と、第1流体が供給される第1流体室41と、を備え、第1流体室41において、ノズル80およびニードル70の一方に弁体77bを設けるとともに、他方に弁座77aを設け、ノズル80の変位によって弁体77bが弁座77aに着座あるいは離座するバルブ77を構成し、ノズル80の胴部とニードル70の基部73との間に、バルブ77を介して第1流体室41と連通する背圧室81bを設けた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エゼクタおよびこのエゼクタを用いた燃料電池システムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、水素(燃料ガス、反応ガス)がアノードに、酸素を含む空気(酸化剤ガス、反応ガス)がカソードに、それぞれ供給されることで発電する固体高分子型燃料電池(Polymer Electrolyte Fuel Cell:PEFC)等の燃料電池の開発が盛んである。
【0003】
燃料電池は、例えば、数十個から数百個のセルが積層されたスタック構造である。各セルは、膜電極構造体(MEA)を一対のセパレータで挟持して構成され、膜電極構造体は、アノード(陽極)およびカソード(陰極)の2つの電極と、これらの電極に挟持された固体高分子電解質膜とで構成される。
そして、燃料電池のアノードに燃料としての水素ガスが供給され、カソードに酸化剤としての酸素を含む空気が供給されると、燃料電池は化学反応により発電する。
【0004】
このような燃料電池を用いた燃料電子システムでは、水素タンクから燃料電池に水素を供給し、燃料電池からは、アノードオフガスが排出される。ここで、水素タンクから供給される水素には、発電に必要が水素量よりも多くの水素が含まれているため、燃料電池から排出されるアノードオフガスには、余剰な水素が含まれる。そこで、循環装置を用いて、このアノードオフガスを循環させ、これを水素タンクからの水素に混合させて、燃料電池に供給している。
【0005】
従来、この循環装置としては、外部に動力源を必要とせず、圧力エネルギを利用するエゼクタが用いられることが多い。
エゼクタを用いた燃料電池システムでは、燃料電池に供給される水素の圧力を発電電力に応じて制御するレギュレータや発電電力に応じた循環能力を引き出すためにエゼクタに構成されるノズルの開口径を切り替える装置等が必要となる。
従来、レギュレータやエゼクタのノズルの開口径(開口面積)を切り替える装置等として、種々の技術が開示されている(例えば、特許文献1〜4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2002−227799号公報
【特許文献2】特開2002−56868号公報
【特許文献3】特開2004−095528号公報
【特許文献4】特開2005−183357号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、従来のエゼクタでは、小流量域における流量制御の向上を図りたいという要望があった。
そこで、本発明は、小流量域の流量制御の更なる向上に寄与するエゼクタおよびこのエゼクタを用いた燃料電池システムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記目的を達成するために、本発明は、ボディと、第1流体が供給され、胴部と先端部とを有して構成されるノズルと、前記ノズルと同軸に配置され、基部と先部とを有するニードルと、前記ノズルから噴出された第1流体によって発生する負圧で第2流体を吸引し、これらの流体を混合させて流出するディフューザと、を含むエゼクタであって、前記ボディに周囲を固定されるとともに、前記ノズルの一端側およびこの一端側から離間した他端側にそれぞれ固定され、前記ニードルに対して前記ノズルを軸方向に変位可能とする第1、第2のダイヤフラムと、少なくとも前記第1、第2のダイヤフラム、前記ボディ、前記ノズル、および前記ニードルで囲まれて構成され、第1流体が供給される第1流体室と、を備え、前記第1流体室において、前記ノズルおよび前記ニードルの一方に弁体を設けるとともに、他方に弁座を設け、前記ノズルの変位によって前記弁体が前記弁座に着座あるいは離座するバルブを構成し、前記ノズルの前記胴部と前記ニードルの前記基部との間に、前記バルブを介して前記第1流体室と連通する背圧室を設けたことを特徴とする。
【0009】
本発明のエゼクタによれば、第1流体室において、ノズルおよびニードルの一方に弁体を設けるとともに、他方に弁座を設け、ノズルの変位によって弁体が弁座に着座あるいは離座するバルブを構成してあるので、このバルブを利用してノズルから噴出される第1流体の流量を制御することができる。
また、ノズルの胴部とニードルの基部との間に、バルブを介して第1流体室と連通する背圧室が設けられているので、第1流体室からバルブを介してノズルに付与される第1流体の圧力の少なくとも一部を、背圧室で相殺することができる。
【0010】
この場合、バルブより下流側において第1流体の圧力が作用するノズルの有効径(弁体のシール面積)と、背圧室の有効径(受圧面積)との比を変更することで、その面積差から生じるノズルの推力、つまり、ノズルの可動力(可動方向に作用する力)を変更することができる。これにより、バルブを絞った小流量域の流量制御において、ノズルをうまく可動させることができ、ノズルから噴出される第1流体の流量制御の向上が図れる。すなわち、例えば、弁体のシール面積を背圧室の受圧面積よりも大きくすることで、噴出される第1流体の流量が大きくなるように設定することが可能であり、また、これとは逆に、弁体のシール面積を背圧室の受圧面積よりも小さくすることで、噴出される第1流体の流量が小さくなるように設定することも可能である。
【0011】
また、弁体のシール面積と背圧室の受圧面積とを等しくすることにより、その面積差をゼロにして、ノズルの推力を打ち消して、ノズルの可動力が生じないように設定することも可能である。この場合には、例えば、供給されるエア等の流体の圧力に比例して噴出される第1流体の流量を制御することができる。したがって、第1流体の流量制御の向上に寄与するエゼクタが得られる。
【0012】
また、本発明のエゼクタを用いた燃料電池システムは、前記エゼクタが、燃料電池から排出される排出燃料を、燃料供給源からの燃料と混合して燃料電池に再供給する燃料循環路に設けられることを特徴とする。
【0013】
この燃料電池システムによれば、エゼクタを用いて、燃料電池から排出される排出燃料を、新たに燃料電池に供給される燃料に混合して再循環させる際に、燃料電池に供給する燃料および排出燃料の混合流体の流量を、バルブを利用して制御することができる。これにより、例えば電気的なアクチュエータ等を用いて流量制御を行う場合に比べて、より単純な構成でありながら、所望の信頼性の高い流量制御を行うことができる。これによって、燃料電池システムの制御が複雑化することを防いで、コスト抑制を図ることができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、小流量域の流量制御の更なる向上に寄与するエゼクタおよびこのエゼクタを用いた燃料電池システムが得られる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本実施形態のエゼクタが適用される燃料電池システムの構成を示す図である。
【図2】エゼクタの構成を示す断面図である。
【図3】エゼクタに作用する圧力の関係について説明する図である。
【図4】流体の流れを示す説明図である。
【図5】バルブが閉じる側にノズルが変位したときの状態を示す断面図である。
【図6】変形例に係るエゼクタを示す断面図である。
【図7】その他の燃料電池システムの構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明に係るエゼクタの実施の形態を、適宜図面を参照しながら詳細に説明する。
ここで、本実施の形態によるエゼクタ50は、例えば電気自動車等の車両に搭載された燃料電池システムに備えられており、この燃料電池システムは、エゼクタ50と、燃料電池スタック1と、燃料供給手段(水素供給源)としての水素タンク20と、酸化剤供給手段としてのコンプレッサ30と、これらを制御するECU(Electronic Control Unit、電子制御装置)10とを備えて構成されている。
【0017】
燃料電池スタック1は、固体高分子型燃料電池(Polymer Electrolyte Fuel Cell:PEFC)であり、MEA(Membrane Electrode Assembly、膜電極接合体)をセパレータ(図示しない)で挟持してなる単セルが複数積層されて構成されている。MEAは、電解質膜(固体高分子膜)と、これを挟持するカソード及びアノードとを備えている。各セパレータには、溝や貫通孔からなるアノード流路2およびカソード流路3が形成されている。
【0018】
このような燃料電池スタック1は、アノード流路2を介してアノード側に水素タンク20から水素が供給され、カソード流路3を介してカソード側にコンプレッサ30から酸素を含む空気が供給されると、アノードおよびカソードに含まれる触媒(Pt等)上で電極反応が起こり、発電可能な状態となる。
【0019】
そして、このように発電可能な状態の燃料電池スタック1と、外部負荷(例えば図示しない走行用のモータ)とが電気的に接続され、電流が取り出されると、燃料電池スタック1が発電するようになっている。
【0020】
<アノード系>
アノード系は、燃料電池スタック1よりも上流側に備えられる、水素タンク20、常閉型の遮断弁21、エゼクタ50、および燃料電池スタック1よりも下流側に備えられる、常閉型のパージ弁22を備えている。
【0021】
水素タンク20は、配管21a、遮断弁21、配管21b、エゼクタ50、および配管21cを介して、アノード流路2の入口側に接続されている。
そして、燃料電池自動車のイグニッションがオンされ、燃料電池スタック1の起動が要求されてECU10により遮断弁21が開かれると、水素タンク20の水素が配管21a等を介してアノード流路2に供給されるようになっている。
【0022】
アノード流路2の出口は、配管22a、配管22bを介して、エゼクタ50の後記する第2流体室42に通じる吸込口に接続されている。そして、アノード流路(アノード)2から排出された未反応の水素を含むアノードオフガスは、図示しない気液分離器において、これに同伴する液状の水分が分離された後、燃料電池スタック1の上流側のエゼクタ50に戻されるようになっている。
そして、エゼクタ50に戻されたアノードオフガスは、水素タンク20からの水素と混合された後、アノード流路2に再供給されるようになっている。つまり、本実施形態では、配管22aおよび配管22bによって、水素を循環させて再利用する水素循環ラインが構成されている。
【0023】
パージ弁22は、常閉型の電磁弁であり、燃料電池スタック1の発電時において、配管22aおよび配管22bを循環するアノードオフガス(水素)に含まれる不純物(水蒸気、窒素等)を排出(パージ)する場合に、ECU10によって開かれる弁である。
パージ弁22が開かれると、配管22a内の水素ガスは、希釈器32に流入し、希釈器32内において後記するカソード系の配管31a等を通じて供給されたエアで希釈されて車外に排出される。
【0024】
<カソード系>
カソード系は、コンプレッサ30と、希釈器32(ガス処理装置)とを備えている。
コンプレッサ30は、配管30aを介して、カソード流路3の入口に接続されている。そして、ECU10から送られる指令回転速度にしたがって作動すると、コンプレッサ30は、酸素を含む空気を取り込み、空気をカソード流路3に供給するようになっている。コンプレッサ30の回転速度は、通常、図示しないアクセルペダルの踏み込み量(アクセル開度)が大きくなると、空気を大流量・高圧で供給すべく、高められる設定となっている。
なお、コンプレッサ30は、燃料電池スタック1および/又は燃料電池スタック1の発電電力を充放電する高圧バッテリ(図示しない)を電源として作動する。
【0025】
配管30aは途中で分岐されており、この分岐した部分は、エア分岐路33aとなり、後記するエゼクタ50の第3流体室43に通じる導入口に接続されている。つまり、エア分岐路33aを通じて、コンプレッサ30からのエアがエゼクタ50の第3流体室43に(パイロット圧として)直接供給されるようになっている。
【0026】
カソード流路3の出口は、配管31a、背圧弁31、配管31bを介して、希釈器32に接続されている。そして、カソード流路3(カソード)から排出された多湿のカソードオフガスは、配管31a等を介して希釈器32に供給されるようになっている。背圧弁31は、カソード流路3における空気の圧力を制御するようになっており、バタフライ弁等からなる。
【0027】
希釈器32は、パージ弁22から導入されるアノードオフガスと、配管31bから導入されるカソードオフガス(希釈用ガス)とを混合し、アノードオフガス中の水素を、カソードオフガスで希釈する役割をなす。
【0028】
〔エゼクタ〕
次に、エゼクタ50について図2を参照して説明する。なお、以下の説明では、図2に示すように、ニードル70を構成するニードル本体72の基部73が配置される側を「一端側」と称し、また、ニードル本体72の先部74が配置される側を「他端側」と称する。
エゼクタ50は、ボディ60と、このボディ60の内部に固定されたニードル70と、このニードル70を収容する略筒状のノズル80と、ノズル80の噴出口82a側に設けられたディフューザ90と、を備え、これらのニードル70とノズル80とがボディ60に内包され、ニードル70とノズル80とディフューザ90とが同軸に配置されている。
【0029】
本実施形態のエゼクタ50では、ボディ60に対してニードル70が固定されており、この固定されたニードル70に対してノズル80が後記するように軸方向に変位可能に構成されている。
また、ノズル80の一端側および他端側において、ノズル80とボディ60との間には、ノズル80の変位動作に追従して撓む弾性部材(例えば、合成ゴム等の材料)からなる第1,第2のダイヤフラム100、110が固定されており、この第1,第2のダイヤフラム100,110によってボディ60内が3つの流体室(第1流体室41、第2流体室42、第3流体室43)に仕切られた構造となっている。
【0030】
ニードル70は、円環状の支持部71と、この支持部71に支持されてボディ60の延出方向に沿って他端側へ延びるニードル本体72と、を備える。支持部71は、ボディ60の内壁面に設けられた突部61に複数個のボルト62(図では1個のみ図示)で固定されており、その中心部に形成された挿通孔71aに、ニードル本体72の後記する基部73が挿通されて固定されている。
なお、支持部71には、軸方向に図示しない複数の透孔が形成されており、この透孔を通じて後記する第1流体としての水素が通流可能である。
【0031】
以下、エゼクタ50の各部について詳細に説明する。
ボディ60は、略筒状であり、ニードル70およびノズル80を内包している。ボディ60の他端側には、ディフューザ90が配置されており、このディフューザ90の送出口91は、図1に示した配管21cを介して燃料電池スタック1のアノード流路2に接続されている。
また、ボディ60内には、ノズル80を付勢してノズル80とニードル70との相対位置を保持する第1のばね63と、第2のばね64が保持されている。本実施形態では、ノズル80の初期位置を、ノズル80が全開となる状態、つまり、ノズル80が他端側に付勢された図2に示す状態となるように、供給される第1流体としての水素の圧力を考慮して第1,第2のばね63,64の付勢力の強弱を設定している。
【0032】
ニードル本体72は、筒状の基部73と、この基部73の他端側に設けられ、ノズル80の噴出口82aに挿入される先部74とを有する。基部73は、大径部75と小径部76とを有しており、その内側に形成される中空を利用して後記する第1流体としての水素が通流する通路73aが形成されている。大径部75の他端側には、フランジ部73bが形成されており、このフランジ部73bに、後記するバルブ77を構成する円環状のシール部材(弾性部材)からなる弁座77aが設けられている。
また、大径部75の一端側には、シール材75aを介して後記するノズル80の胴部としての基端部81が装着される。
【0033】
小径部76の一端側には、通路73aの流入口となる4個の開口部76aが形成されている。また、小径部76の他端側には、通路73aの流出口となるスロット状の連通孔76bが計4個形成されている。つまり、通路73aは、一方が開口部76aを通じて後記する第1流体室41に連通するとともに、他方が先部74側のスロット状の連通孔76bを通じてノズル80内に連通するようになっている。連通孔76bは、細長溝状として形成しても、長孔状に形成してもよい。
【0034】
小径部76の外周面には、図2に示すように、ノズル80の後記する先端部82の内周面に係止された軸受85の内面が接しており、小径部76(ニードル本体72)に対して先端部82が軸方向に変位可能となっている。
【0035】
先部74は、ノズル80の噴出口82aに挿入されるようになっており、先端74aが、先細りとされたテーパ状とされている。
【0036】
ノズル80は、ニードル70の基端側(一端側)に設けられた基端部81と、ニードル70の先端側(他端側)に設けられた先端部82と、これらの基端部81と先端部82とを連結する連結部材83とからなる。
基端部81は、断面略ハット形状とされた有底円筒状とされており、その中空部に、ニードル本体72の基部73の一端側が軸方向に摺動可能に収容される。本実施形態では、中空部の底部81aが断面三角凹状とされており、この底部81aと、底部81aに対向するニードル本体72の基部73の一端面との間に背圧室81bを形成している。この背圧室81bには、ニードル本体72の通路73aの一端側が連通している。つまり、背圧室81bは、通路73a、開口部76a、および後記するバルブ77を介して第1流体室41に連通している。したがって、これらを介して背圧室81bには、第1流体室41の第1流体が流入するようになっており、これによって、ノズル80の可動方向(他端側に変位する方向)に作用する力を打ち消すようになっている。
【0037】
基端部81の他端側には、フランジ部81cが形成されており、このフランジ部81cがニードル70の支持部71の一端面71bに当接するようになっており、当接した状態でノズル80の他端側への変位が規制されるようになっている。本実施形態では、フランジ部81cが一端面71bに当接した状態で、先端部82の噴出口82aの開口が最大開口となるように設定されている。つまり、噴出口82aにおける開口(ニードル70の先部74との間に形成される円環状の隙間)が最大開口面積となるように設定されている。
また、フランジ部81cには、貫通孔が形成され、この貫通孔に連結部材83を構成するボルト83aが挿通されるようになっている。
【0038】
また、基端部81には、第1のダイヤフラム100が固定されている。第1のダイヤフラム100は、基端部81を取り囲むように基端部81に固定された円環状の部材であり、基端部81側に装着される内周縁部101と、内周縁部101から半径外方向へと延在する薄肉状のスカート部102と、このスカート部102の外周部に形成されてボディ60に固定される外周縁部103とからなる。
【0039】
内周縁部101は、基端部81に装着される円環状の保持部材84と、この保持部材84に被せられる円環状の押え部材86と、の間に挟持されることで基端部81に固定される。スカート部102は、ノズル80の変位動作に追従して撓曲自在である。また、外周縁部103は、ボディ60を構成するブロック間に挟持されて固定されている。
【0040】
このような第1のダイヤフラム100を設けることによって、第1のダイヤフラム100で仕切られる第3流体室43の内部の気密が好適に保持されるようになる。
なお、押え部材86と第3流体室43の側壁との間には、前記した第1のばね63が縮設されている。
【0041】
先端部82は、ボディ60の延出方向に沿って延びる円筒状の噴出部82bを有しており、この噴出部82bの先端に、噴出口82aが形成されている。噴出部82bは、噴出口82aに向かい漸次連続的に縮径するテーパ状に形成されている。
【0042】
先端部82は、ニードル70の基部73の小径部76および先部74の略全体を覆う状態に配置されており、ニードル70に対して軸方向に摺動可能である。先端部82の基端部82cには、その一端面に、バルブ77を構成する円環突条の弁体77bが形成されている。
弁体77bは、ニードル70の基部73における大径部75に設けられた円環状の弁座77aに対向して設けられており、後記するように一端側へノズル80が変位した際に(図5参照)、弁座77aに着座可能である。
本実施形態では、背圧室81bの有効径(受圧面積)と、バルブ77の弁体77bの有効径(シール面積)とが同一の大きさとなるように設定されている。
また、先端部82の基端部82cには、連結部材83を構成するボルト83aがカラー83bを介して螺合されている。カラー83bは、基端部81と先端部82との間隔を所定の間隔に一体的に保持するスペーサの役割をなす。
【0043】
また、先端部82には、第2のダイヤフラム110が固定されている。第2のダイヤフラム110は、先端部82を取り囲むように先端部82に固定された円環状の部材であり、先端部82に固定される内周縁部111と、内周縁部111から半径外方向へと延在する薄肉状のスカート部112と、このスカート部112の外周部に形成されてボディ60に固定される外周縁部113とからなる。
【0044】
内周縁部111は、先端部82に設けられたフランジ部82eと、このフランジ部82eに被せられる円環状の押え部材87と、の間に挟持されることで先端部82に固定される。スカート部112は、ノズル80の変位動作に追従して撓曲自在である。外周縁部113は、ボディ60とディフューザ90との間に挟持されて固定されている。
【0045】
このような第2のダイヤフラム110を設けることによって、第2のダイヤフラム110で仕切られる第2流体室42の内部の気密が好適に保持されるようになる。また、前記した第1のダイヤフラム100と第2のダイヤフラム110で仕切られる第1流体室41の内部の気密が好適に保持されるようになる。
なお、押え部材87と第2流体室42の対向壁との間には、前記した第2のばね64が縮設されている。
また、第1のダイヤフラム100と第2のダイヤフラム110とは、同一のものが用いられている。
【0046】
このように、少なくとも第1,第2のダイヤフラム100,110とボディ60で囲われて構成される第1流体室41には、配管21bを介して水素が供給されるようになっている。また、少なくとも第2のダイヤフラム110とボディ60で囲われて構成される第2流体室42には、配管22bを介してアノード流路(アノード)2から排出された未反応の水素を含むアノードオフガスが供給されるようになっている。さらに、少なくとも第1のダイヤフラム100とボディ60で囲われて構成される第3流体室43には、エア分岐路33aを介してコンプレッサ30からのエアが供給されるようになっている。
【0047】
このようなエゼクタ50は、第1流体室41に供給された水素を、第1流体室41からニードル本体72の内部に形成された通路73aを通じてノズル80の噴出口82aから噴出する。
【0048】
そして、エゼクタ50は、ノズル80の噴出口82aから噴出される水素の負圧で、配管22bを通じて第2流体室42に供給されるアノードオフガスを吸引して、これらの流体をディフューザ90で混合させて流出する。流出された混合流体は、配管21cを通じて燃料電池スタック1のアノード流路2に供給される。
一方、エゼクタ50には、前記したようにコンプレッサ30からのエアが第3流体室43に供給されており、この第3流体室43に供給されたエアの圧力に基づいてノズル80が他端側に変位し、ノズル80の噴出口82aから噴出される水素の噴出量が調整される。
【0049】
ここで、エゼクタ50に作用する圧力の関係について図3を参照して説明する。以下では、ノズル80の可動方向(ここでは一端側に向かう方向)に作用する力をプラス、これとは逆向きに作用する力をマイナスとして説明する。なお、簡単のため、第1,第2のダイヤフラム100,110の有効面積は同一とする。
まず、バルブ77よりも上流側において第1流体室41に作用する力F1は、
第1流体室41に供給される水素の圧力をP、第1のダイヤフラム100の有効面積をSa、第2のダイヤフラム110の有効面積をSh、バルブ77の弁体77bのシール面積をSv、背圧室81bの有効径(受圧面積)をSbとすると、次式(1)で表される。
F1 = P(Sh−Sv−(Sa−Sb)) ・・・(1)
【0050】
また、バルブ77より下流側においてノズル80に作用する力F2は、
バルブ77より下流側においてノズル80に作用する圧力をP、ノズル80の噴出口82aにおける開口面積をSnとすると、次式(2)で表される。
F2 = P(Sv−Sn−Sb) ・・・(2)
【0051】
また、第2流体室42において作用する力F3は、
第2流体室42に作用する圧力(噴出圧)をPとすると、次式(3)で表される。
F3 = P(Sh−Sn) ・・・(3)
【0052】
さらに、第3流体室43において作用する力F4は、
第3流体室43に供給されるエアの圧力をPaとすると、次式(4)で表される。
F4 = Pa・Sa ・・・(4)
【0053】
これらの式(1)から(4)により、エゼクタに作用する力の関係を示すと、次式(5)(6)で表される関係が成り立つ。
F1+F2−F3+F4 = 0 ・・・(5)
つまり、
(Sh−Sv−Sa+Sb)+P(Sv−Sn−Sb)−P(Sh−Sn)+Pa・Sa = 0 ・・・(6)
となる。
【0054】
ところで、小流量域において、バルブ77の開閉によって流量を制御している場合には、P=Pとなる。つまり、ノズル80の噴出口82aの前後でノズル80内と第2流体室42との間に差圧は発生しないようになっている。
また、エゼクタ50には、背圧室81bが設けられており、本実施形態では、前記したように背圧室81bの受圧面積Sbと、バルブ77の弁体77bのシール面積をSvとが同一の大きさとされているので、Sb=Svの関係が成立している。
したがって、このような関係を踏まえた上で、前記式(6)により第2流体室42に作用する噴出圧Pを求めると、次式(7)で表されることとなる。
= Pa ・・・(7)
【0055】
つまり、噴出圧Pは、第3流体室43に供給されるエアの圧力Paに対応したものとなる。したがって、エアの圧力Paを制御することで、これに応じた噴出圧Pを得ることができる。
【0056】
仮に、本実施形態のエゼクタ50において、前記した背圧室81bが設けられていない、つまり、背圧室81bの有効径(受圧面積)Sbが0(ゼロ)であるとすると、前記式(6)は、次式(8)で表されるように、
(Sh−Sv−Sa)+P(Sv−Sn)−P(Sh−Sn)+Pa・Sa = 0 ・・・(8)
となる。したがって、式(8)は、次式(9)で表されるようになり、
−PSv+P(Sv−Sh)+PaSh = 0 ・・・(9)
【0057】
この式(9)から、噴出圧Pは、次式(10)で表されるようになる。
【0058】
【数1】

【0059】
つまり、噴出圧Pは、バルブ77のシール面積Svを第2のダイヤフラム110の有効面積Shで除算したものの関数で表されることとなり、前記式(7)で示した関係を得ることができない。
【0060】
これに対して、本実施形態のエゼクタ50では、前記式(7)に示したように、噴出圧Pは、第3流体室43に供給されるエアの圧力Paに対応したものとなり、エアの圧力Paを制御することで、これに応じた噴出圧Pを直接的に得ることができる。
【0061】
一方、主として大流量域において、ノズル80を変位させることにより噴出口82aの開口面積を調節して流量を制御している場合には、P=Pとなる。つまり、バルブ77の前後で、第1流体室41とノズル80内との間に差圧は発生しないようになっている。
したがって、このような関係を踏まえると、前記式(6)は、次式(11)で表されることとなり、
−PSn−P(Sh−Sn)+PaSh = 0 ・・・(11)
したがって、第2流体室42に作用する噴出圧Pを求めると、次式(12)で表されることとなる。
【0062】
【数2】

【0063】
つまり、噴出圧Pは、ノズル80の開口面積Snを第2のダイヤフラム110の有効面積Shで除算したものの関数として得ることができる。
【0064】
次に、燃料電池システムにおけるエゼクタ50の作動について説明する。
このようなエゼクタ50を有する燃料電池システムにおいて、エゼクタ50は、図2に示すように、燃料電池システムが作動していない初期状態で、前記した第1,第2のばね63,64の設定による付勢力によって、ノズル80が他端側に付勢されて変位された状態にある。
【0065】
その後、図示しないイグニッションがオンされ、燃料電池スタック1の起動が要求されてECU10により遮断弁21が開かれると、水素タンク20の水素が配管21a等を介してエゼクタ50の第1流体室41に供給される(図4参照)。第1流体室41に供給された水素は、ニードル70の通路73aを通じてノズル80の噴出口82aから第2流体室42に流入する。
ここで、供給される水素の圧力が所定の圧力、つまり、第1,第2のばね64,65の差圧に相当する圧力が第2流体室42に作用するように水素が供給されると、第1のばね63の付勢力と第2のばね64の付勢力とが同等状態となり、ノズル80が一端側に変位し始める。
そして、さらに水素の圧力が所定の圧力に上昇することで、ノズル80が一端側にさらに変位して、弁体77bが弁座77aに着座することでバルブ77が一旦閉じられる(図5参照)。
【0066】
その後、コンプレッサ30がECU10の制御により所定の回転速度で運転され、エア分岐路33aを介してエアが第3流体室43に供給されると、第3流体室43のエアの圧力が高まり、ノズル80を他端側に変位させる方向の力が作用し始める。これと同時に燃料電池スタック1のアノード流路2では水素が消費され、アノード流路2に配管21cを通じて連通する第2流体室42の水素の圧力が低下し始める。これによって、バルブ77の上流側と下流側とでは差圧が生じた状態となり、前記したエアの供給によりノズル80が他端側へ変位し始めてバルブ77が開き始めると、水素が第1流体室41からバルブ77を通ってニードル70の通路73aに流入し、その後、ノズル80の噴出口82aから第2流体室42に噴出する。
【0067】
そして、第3流体室43のエアの圧力がさらに高められると、ノズル80が他端側にさらに変位し、バルブ77がさらに開いて、第3流体室43に供給されたエアの圧力に対応した水素が噴出口82aから噴出される(図4参照)。
【0068】
ここで、前記したように、小流量域において、バルブ77の開閉によって流量を制御している場合には、P=Pとなり、ノズル80の噴出口82aの前後でノズル80内と第2流体室42との間に差圧は発生しないようになっているとともに、背圧室81bが設けられて、前記したように背圧室81bの受圧面積Sbと、バルブ77の弁体77bのシール面積をSvとが同一の大きさとされているので、Sb=Svの関係が成立し、前記式(7)により、第2流体室42に作用する噴出圧P3は、第3流体室43に供給されるエアの圧力Paに対応したものとなる。したがって、エアの圧力Paを制御することで、これに応じた噴出圧Pを得ることができる。
【0069】
一方、主として大流量域において、ノズル80を変位させることにより噴出口82aの開口面積を調節して流量を制御している場合には、P=Pとなり、バルブ77の前後で、第1流体室41とノズル80内との間に差圧は発生しない。したがって、前記式(12)に示したように、噴出圧Pは、ノズル80の開口面積Snを第2のダイヤフラム110の有効面積Shで除算したものの関数として得ることができる。
【0070】
なお、前記したように、第2流体室42には、配管22bを通じてアノードオフガスが還流されているので、ノズル80の噴出口82aから噴出される水素の負圧で、第2流体室42に供給されるアノードオフガスが吸引され、これらの流体がディフューザ90で混合されて燃料電池スタック1のアノード流路2に向けて供給される。
【0071】
以上説明した本実施形態のエゼクタ50によれば、第1流体室41において、ノズル80およびニードル70の一方に弁体77bを設けるとともに、他方に弁座77aを設け、ノズル80の変位によって弁体77bが弁座77aに着座あるいは離座するバルブ77を構成してあるので、このバルブ77を利用してノズル80から噴出される水素の流量を制御することができる。
また、ノズル80の基端部81とニードル70の基部73との間に、バルブ77を介して第1流体室41と連通する背圧室81bが設けられているので、第1流体室41からバルブ77を介してノズル80に付与される水素の圧力を、背圧室81bで相殺することができる。
【0072】
この場合、弁体77bのシール面積と背圧室81bの受圧面積とが等しくされているので、ノズル80の推力を打ち消すことができ、供給される水素によってノズル80の可動力が生じないようにすることができる。したがって、第3流体室43に供給されるエアの圧力に比例して噴出される水素の流量を制御することができる。したがって、水素の流量制御の向上に寄与するエゼクタ50が得られる。
【0073】
また、バルブ77より下流側において水素の圧力が作用するノズル80の有効径(弁体77bのシール面積)と、背圧室81bの有効径(受圧面積)との比を変更することで、その面積差から生じるノズル80の推力、つまり、ノズル80の可動力(可動方向に作用する力)を変更することができる。これにより、バルブ77を絞った小流量域の流量制御において、ノズル80をうまく可動させることができ、ノズル80から噴出される水素の流量制御の向上が図れる。すなわち、例えば、弁体77bのシール面積を背圧室81bの受圧面積よりも大きくすることで、噴出される水素の流量が大きくなるように設定することが可能であり、また、これとは逆に、弁体77bのシール面積を背圧室81bの受圧面積よりも小さくすることで、噴出される水素の流量が小さくなるように設定することも可能である。
【0074】
また、本実施形態のエゼクタ50を用いた燃料電池システムによれば、エゼクタ50を用いて、燃料電池スタック1から排出されるアノードオフガスを、新たに燃料電池スタック1に供給される水素に混合して再循環させる際に、燃料電池スタック1に供給する水素およびアノードオフガスの混合流体の流量を、バルブ77を利用して制御することができる。これにより、例えば電気的なアクチュエータ等を用いて流量制御を行う場合に比べて、より単純な構成でありながら、所望の信頼性の高い流量制御を行うことができる。これによって、燃料電池システムの制御が複雑化することを防いで、コスト抑制を図ることができる。
【0075】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこれに限定されず、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、例えば次のように変更することができる。
【0076】
例えば、ノズル80を構成する弁体77bを、ニードル70の基部73における大径部75に設けて、弁座77aを、ノズル80の先端部82の基端部82cに設けてもよい。
なお、弁体77bは、円環状としたものに限定されず、種々の形状、例えば、楕円環状、長円環状、多辺で構成される環状としてもよい。
【0077】
また、図6に示すように、中実状のニードル70’を用いて、このニードル70’を、水素の流路85aを有する軸受部材85’で支持するように構成してもよい。この場合にも、ニードル70’とノズル80の基端部81との間に形成された背圧室81b’で、第1流体室41からバルブ77を介してノズル80に付与される水素の圧力を、相殺することができ、小流量域の流量制御の更なる向上に寄与するエゼクタ50’が得られる。
【0078】
また、エゼクタ50の第3流体室43に通じるエア分岐路33aに、図7に示すように、オリフィス33bを設けるとともに、エア分岐路33a内のエアの圧力を調整するインジェクタ33を接続して、第3流体室43に供給されるエアの圧力をECU10の制御により調整するようにしてもよい。ここで、インジェクタ33は、エア分岐路33a内のエアを排出する機能を有しており、エアを排出することで、エア分岐路33a内のエアの圧力を調整する機能を有している。
【符号の説明】
【0079】
1 燃料電池スタック
41 第1流体室
42 第2流体室
43 第3流体室
50 エゼクタ
60 ボディ
70 ニードル
72 ニードル本体
73 基部
74 先部
76a 開口部
76b 連通孔
77 バルブ
77a 弁座
77b 弁部
80 ノズル
81b 背圧室
82 先端部
82a 噴出口
85 軸受
90 ディフューザ
100 第1のダイヤフラム
110 第2のダイヤフラム


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ボディと、
第1流体が供給され、胴部と先端部とを有して構成されるノズルと、
前記ノズルと同軸に配置され、基部と先部とを有するニードルと、
前記ノズルから噴出された第1流体によって発生する負圧で第2流体を吸引し、これらの流体を混合させて流出するディフューザと、を含むエゼクタであって、
前記ボディに周囲を固定されるとともに、前記ノズルの一端側およびこの一端側から離間した他端側にそれぞれ固定され、前記ニードルに対して前記ノズルを軸方向に変位可能とする第1、第2のダイヤフラムと、
少なくとも前記第1、第2のダイヤフラム、前記ボディ、前記ノズル、および前記ニードルで囲まれて構成され、第1流体が供給される第1流体室と、を備え、
前記第1流体室において、前記ノズルおよび前記ニードルの一方に弁体を設けるとともに、他方に弁座を設け、前記ノズルの変位によって前記弁体が前記弁座に着座あるいは離座するバルブを構成し、
前記ノズルの前記胴部と前記ニードルの前記基部との間に、前記バルブを介して前記第1流体室と連通する背圧室を設けたことを特徴とするエゼクタ。
【請求項2】
前記弁体のシール面積は、前記背圧室の有効面積と等しいことを特徴とする請求項1に記載のエゼクタ。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載のエゼクタを用いた燃料電池システムであって、
前記エゼクタは、燃料電池から排出される排出燃料を、燃料供給源からの燃料と混合して燃料電池に再供給する燃料循環路に設けられることを特徴とする燃料電池システム。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2010−185391(P2010−185391A)
【公開日】平成22年8月26日(2010.8.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−30674(P2009−30674)
【出願日】平成21年2月13日(2009.2.13)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】