説明

エチレン−酢酸ビニル共重合体ケン化物の製造方法

【課題】 エチレン−酢酸ビニル共重合体溶液中の不純物を予め除去した後にケン化することを特徴とするエチレン−酢酸ビニル共重合体ケン化物の製造方法によって、着色が抑制され外観の優れたエチレン−酢酸ビニル共重合体ケン化物を得ること。
【解決手段】 (工程1)エチレン−酢酸ビニル共重合体溶液に対して、アルカリ触媒濃度が0.0001〜0.03mol/Lとなるようにアルカリ触媒を加えて混合した後、(工程2)前記エチレン−酢酸ビニル共重合体溶液を塔式反応器(A)の塔上部に供給し、塔下部から溶媒蒸気を供給して、塔上部から溶媒蒸気を排出するとともに、前記エチレン−酢酸ビニル共重合体溶液を供給する位置より下部からアルカリ触媒を供給してエチレン−酢酸ビニル共重合体をケン化することを特徴とするエチレン−酢酸ビニル共重合体ケン化物の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エチレン−酢酸ビニル共重合体ケン化物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
エチレン−酢酸ビニル共重合体ケン化物(以下、EVOHと略すことがある)は酸素遮蔽性、耐油性、非帯電性、機械強度等に優れた有用な高分子材料であり、フィルム、シート、容器など各種包装材料として広く用いられている。EVOHを前記フィルム、シートなどに成形する際に発生する外観上の問題、たとえば、着色やフィッシュアイなどは克服すべき重要な課題の一つである。特に内容物が目で確認できる透明包装材料の用途においては、EVOHの着色は内容物の変色を連想させるため、より着色の少ないEVOHへの品質要求は近年非常に高くなってきている。
【0003】
EVOHはエチレン−酢酸ビニル共重合体(以下、EVAcと略することがある)をアルカリ触媒などで加水分解処理(ケン化)して製造することが従来からなされており、EVOHの品質を向上させるため、当該ケン化工程を改良する方法が提案されている。
【0004】
例えば特許文献1では、エチレン−酢酸ビニル共重合体ケン化物の製造方法であって、塔型反応器を用いて、メタノール溶媒中でエチレン含量15〜60mol%のEVAcをアルカリ触媒にて酢酸ビニル成分のケン化度が70〜98mol%になるまでケン化を行い、続いて沸点下で水又は水/メタノールを加えて混合溶液を形成させ、アルカリ触媒の存在下に再ケン化を行い、EVOHのケン化度を99.4mol%以上とするほか、特定の方法を組み合わせることで、均一で、なおかつ溶融成形性の優れたエチレン−酢酸ビニル共重合体ケン化物のペレットが得られるとされている。
【0005】
特許文献2では、エチレン−酢酸ビニル共重合体ケン化物の製造方法であって、第1反応器内で所定圧力下においてアルカリ触媒を用いてエチレン−酢酸ビニル共重合体を部分的にケン化した後、第2反応器へと供給し、第1反応器内の圧力よりも高い圧力の下に、再ケン化することで、高ケン化度のEVOHを製造することが記載されている。この発明によれば、アルカリ触媒の使用量が低減されるため、着色などの外観不良も抑制されたEVOHが得られるとされている。
【0006】
特許文献3では、エチレン−酢酸ビニル共重合体ケン化物の製造方法であって、アルカリ触媒を用いてケン化する際にエチレン−酢酸ビニル共重合体に対して100ppm以上15000ppm以下の水を供給することが記載されている。この発明によれば、EVOHの着色が抑制され、外観特性を向上させたEVOHが得られるとされている。
【0007】
【特許文献1】特許第4046245号公報
【特許文献2】国際公開第2002/050137パンフレット
【特許文献3】特開2002−69123公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述のように、EVOHの品質を向上させるために、いくつかのエチレン−酢酸ビニル共重合体のケン化方法が考案されている。しかしながら、上述の方法においては、近年ますます高まっているEVOH品質、特にEVOHの着色の抑制という点においては未だ効果が不十分であり、更に着色の少ないEVOHが求められている。
【0009】
本発明者らが検討したところ、従来の技術で十分な着色の抑制効果が得られない理由は、EVAcを重合する工程において原料として使用する酢酸ビニルや、副生物として発生するアセトアルデヒドの存在を考慮していない点にあるとの結論に到達した。
【0010】
一般に、EVAcは酢酸ビニルとエチレンを共重合した後に未反応のエチレンや酢酸ビニルを除去することで製造されるが、除去後のEVAc溶液は不純物として原料の酢酸ビニルやその他のビニルエステル(以下、総じてビニルエステル類と記載する)を少量含有している。これらビニルエステル類はアルカリ性条件下あるいは酸性条件下で容易に加水分解反応を起こし、その化学構造に対応したカルボン酸とアセトアルデヒドに分解する。加水分解により生じたアセトアルデヒドは反応性に富む性質であるため、アルカリ触媒を用いたケン化反応条件下では多様な反応を引き起こす。例えば、アセトアルデヒド同士が縮合反応を起こしてクロトンアルデヒドや2,4−ヘキサジエナールのようなアルデヒドを形成する。このようなアセトアルデヒド由来の副生物が残存することで、EVOH中の着色やその他の品質不良の原因となる。そのため、未反応の酢酸ビニルは完全に除去されることが望ましいが、そのためには多大なエネルギーを必要とするため、工業的生産の観点からは完全な除去は不可能であった。
【0011】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、EVAc溶液中の不純物であるビニルエステル類やその分解により生ずるアセトアルデヒドを予め除去した後にケン化反応を行うことで、着色が抑制され外観の優れたEVOHの製造方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記課題の達成に向けて鋭意検討した結果、エチレン−酢酸ビニル共重合体溶液を微弱なアルカリ性溶液にすることで、エチレン−酢酸ビニル共重合体溶液中に残存するビニルエステル類を予めカルボン酸とアセトアルデヒドに加水分解したのち、塔式反応器に当該EVAc溶液を導入し、アセトアルデヒド等の不純物を塔上部から溶媒とともに排出しながらケン化することにより着色のない品質に優れたEVOHが製造できることを見出した。
すなわち、本発明は、(工程1)エチレン−酢酸ビニル共重合体溶液をアルカリ触媒に接触させて、アルカリ触媒濃度を0.0001〜0.03mol/Lとした後、(工程2)前記エチレン−酢酸ビニル共重合体溶液を塔式反応器(A)の塔上部に供給し、塔下部から溶媒を供給して、塔上部から溶媒を排出するとともに、前記エチレン−酢酸ビニル共重合体溶液を供給する位置より下部からアルカリ触媒を供給してエチレン−酢酸ビニル共重合体をケン化することを特徴とするエチレン−酢酸ビニル共重合体ケン化物の製造方法である。
本発明の製造方法の好適な実施態様は、エチレン−酢酸ビニル共重合体溶液の溶媒がメタノールであり、塔式反応器(A)の塔下部に供給する溶媒蒸気がメタノール蒸気である。また、好適な実施態様では、工程1に供した後のエチレン−酢酸ビニル共重合体のケン化度が5mol%以下であり、工程1で用いるエチレン−酢酸ビニル共重合体溶液中の酢酸ビニルの含有量が0.01mol/L以下である。さらに、好適な実施態様では、工程1と工程2の間に蒸留器(B)を導入し、蒸留器(B)内で前記エチレン−酢酸ビニル共重合体溶液中のアルデヒド類の含有量を100ppm以下としてから、上記の工程2における塔式反応器(A)の塔上部に当該エチレン−酢酸ビニル共重合体溶液を供給する。そして、好適な実施態様では、工程2における塔式反応器(A)の塔下部から供給する溶媒中のアルデヒド類の含有量が100ppm以下である。
【発明の効果】
【0013】
本発明の製造方法によれば、エチレン−酢酸ビニル共重合体中の不純物であるビニルエステル類やその副生物であるアセトアルデヒドを予め除去した後にケン化反応に供することで、エチレン−酢酸ビニル共重合体ケン化物の着色を抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明は、(工程1)エチレン−酢酸ビニル共重合体溶液に対して、アルカリ触媒濃度が0.0001〜0.03mol/Lとなるようにアルカリ触媒を加えて混合した後、(工程2)前記エチレン−酢酸ビニル共重合体溶液を塔式反応器(A)の塔上部に供給し、塔下部から溶媒蒸気を供給して、塔上部から溶媒蒸気を排出するとともに、前記エチレン−酢酸ビニル共重合体溶液を供給する位置より下部からアルカリ触媒を供給してエチレン−酢酸ビニル共重合体をケン化することが必須である。
【0015】
工程1は、ケン化工程に供するEVAc溶液を予め微弱なアルカリ性溶液とすることで、EVAc中に残存するビニルエステル類をカルボン酸とアセトアルデヒドに加水分解する工程である。本発明の趣旨から、EVAc溶液中に残存するビニルエステル類を十分に加水分解しつつも、アセトアルデヒドの副反応が進行しないようにアルカリ触媒濃度を調整することが肝要である。アルカリ触媒濃度は0.0001〜0.03mol/Lであることが必要である。アルカリ触媒濃度が低すぎると、ビニルエステル類の加水分解が十分に進行せず、後述する工程2で加水分解や副反応を起こし、EVOHの着色を引き起こすおそれがある。一方、アルカリ触媒濃度が高すぎると、ビニルエステル類が加水分解するに留まらず、アセトアルデヒド自身の副反応が起こるため、EVOHの着色を引き起こすおそれがある。より好適なアルカリ触媒濃度の範囲は0.0002〜0.02mol/Lであり、さらに好適には0.0004〜0.01mol/Lである。
【0016】
本発明に記載するビニルエステル類とは、代表的には、EVAcの重合反応の原料に用いられる酢酸ビニルが挙げられるが、これに限定されるものではない。例えば、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、クロトン酸ビニル、ヘキサン酸ビニル、ピバリン酸ビニル、デカン酸ビニル、ミリスチン酸ビニル、パルチミン酸ビニル、ソルビン酸ビニル、乳酸ビニルのような他のビニル基含有化合物が挙げられる。これらのビニル基含有化合物であれば、加水分解によりその化学構造に対応したカルボン酸とアセトアルデヒドとなるため、本発明の方法によりEVOHの着色を抑制することができる。
【0017】
工程1において、EVAc溶液にアルカリ触媒を接触させる方法は特に限定されるものではなく、プロペラ羽根やパドル羽根などを備えた一般的な攪拌槽を用いてEVAc溶液とアルカリ触媒とを混合すればよいが、スタティックミキサーのような各種インライン連続混合機を用いれば、効率よくEVAc溶液とアルカリ触媒とを混合し、連続的に工程2に供給することができる。
【0018】
工程2は、塔式反応器(A)の塔上部に工程1に供したEVAc溶液を供給し、工程1で発生したアルデヒド類を塔上部から排出しながら、前記EVAc溶液の供給部よりも下部でケン化反応を行う工程である。工程2の一例を、図1を参照して説明する。塔式ケン化反応器の塔上部2から、EVAc溶液が導入される。また、EVAc導入位置より下部の3からアルカリ触媒が導入される。さらに、塔下部4からは、溶媒蒸気を吹き込む。この溶媒蒸気により、工程1で発生したアルデヒド類を塔上部1から排出し、塔底部5からEVOHを溶媒とともに得る。アルカリ触媒によりケン化反応が進行するのは、アルカリ触媒供給部3より下部であるため、アルデヒド類の残存量を低減してケン化することができる。
【0019】
工程1で使用するアルカリ触媒は特に限定されないが、具体的には水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウムなどのアルカリ金属水酸化物;ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、カリウムt−ブトキシドなどのアルカリ金属アルコキシド;炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素カリウムなどのアルカリ金属炭酸塩;酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、プロピオン酸ナトリウムなどの各種カルボン酸のアルカリ金属塩;ジアザビシクロウンデセン、ジアザビシクロノネンなどの脂環式アミン;トリエチルアミン、ジエチルアミン、トリエタノールアミン、ジエタノールアミン、モノエタノールアミン、エチレンジアミン、アニリン、アンモニアなどの各種アミン類などが挙げられる。これらの化合物の中でも、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシドがより好適である。
【0020】
工程2で使用するアルカリ触媒についても特に限定されるものではなく、工程1で使用されるアルカリ触媒と同様なものが用いられるが、高ケン化度のEVOHを得るためには強アルカリ性の触媒が好適に用いられる。具体的には、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウムなどのアルカリ金属水酸化物;ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、カリウムt−ブトキシドなどのアルカリ金属アルコキシドなどが好適であり、これらの化合物の中でも、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシドがより好適である。
【0021】
本発明で用いるエチレン−酢酸ビニル共重合体溶液における溶媒、工程2で溶媒蒸気として塔式反応器(A)に吹き込む溶媒は、アルコール系化合物を使用することが好ましい。アルコール系溶媒下では、EVAcのケン化反応はEVAcの酢酸エステル基とアルコール系化合物とのエステル交換反応によって進行するのでアルカリ触媒の使用を少量に抑えることができ、効率よくケン化反応を進めることができる。アルコール系溶媒として、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノールなどが好適であり、特にメタノールが最適である。
【0022】
一般に、ケン化反応が進行すると、エチレン−酢酸ビニル共重合体ケン化物の溶媒への溶解性が低下するため、工程2における塔式反応器を加圧して高温で反応を行うことが好ましい。好適な塔式反応器(A)の圧力は、0.1MPa〜1.0MPaであり、好適な塔式反応器(A)の温度は、60℃〜180℃である。また、塔式反応器(A)での溶解性を増すために、ケン化反応の効率を損なわない程度に水などの溶媒を塔内に添加しても良い。
【0023】
工程2における塔式反応器(A)への溶媒蒸気の吹き込み量は、アセトアルデヒドなどの不純物を十分に追い出すことのできる範囲から選択することが好ましい。また、蒸気の温度は、例えば、塔内の圧力における溶媒の沸点とすればよい。溶媒蒸気の吹き込み量は、例えば、EVAc溶液中に含有されるEVAc1重量部に対して0.1〜10重量部程度が好適である。
【0024】
また、工程2におけるアルカリ触媒の添加量は、EVAcのエチレン含有率、目的とするケン化度などに応じて調整すればよい。一般に、90mol%以上のケン化度を得ようとする場合は、触媒の使用量をEVAcの酢酸エステル成分に対して、0.1〜100mol%の範囲に設定するのが好適である。上述のように、溶媒にアルコール系溶媒を使用して発生する酢酸メチルを追い出す工程とした場合には、0.1〜10mol%程度の低い触媒使用量で効率的に高いケン化度のEVOHを製造することが可能となる。
【0025】
また、工程1に供した後のエチレン−酢酸ビニル共重合体のケン化度が5mol%以下であることが好ましい。ケン化度が5mol%以上となると、EVAc溶液が高粘度化し、流動性が悪くなるため、工程2において塔式反応器(A)で効率良くケン化することが困難になる虞がある。
【0026】
本発明で使用するEVAc溶液中の酢酸ビニルの含有量は0.01mol/L以下であることが好ましい。酢酸ビニルの含有量が0.01mol/Lを超える場合、工程1においてビニルエステル類の加水分解が十分に進行しない虞がある。
【0027】
また、工程1の実施と工程2の実施の間に蒸留器(B)を導入し、蒸留器(B)内でEVAc溶液中のアルデヒド類の含有量を100ppm以下としてから、塔式反応器(A)の塔上部にEVAc溶液を供給することも可能である。すなわち、工程1で発生したアセトアルデヒドを蒸留器(B)内で予め除去しておけば、工程2においてアルデヒド類の副反応を最小限に留めることができる。
【0028】
上記の蒸留器(B)の種類や使用方法は特に制限されず、塔式蒸留器を使用して塔上部からEVAc溶液を連続的に導入し、塔下部から溶媒蒸気を連続的に導入させることでアルデヒド類を溶媒とともに塔上部から排出する方法、回分式蒸留器を用いて溶媒とともにアルデヒド類を除去した後、再度溶媒を供給してEVAc溶液を得る方法などが挙げられる。複数の蒸留器を用いても何ら問題はない。
【0029】
工程2における、塔式反応器(A)の塔下部から供給する溶媒蒸気中のアルデヒド類の含有量が100ppm以下であることも本発明の効果を奏する上で好適である。これらのアルデヒド類が溶媒蒸気中に存在すると、塔下部から導入されると溶媒とともに塔上部へと導かれるので、自ずとケン化反応に使用されるアルカリ触媒と接触するため副反応を引き起こすおそれがある。アルデヒド類の含有量はより好適には50ppm以下で、さらに好適には10ppm以下である。
【0030】
上述のアルデヒド類について具体的に記載するに、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、アクロレイン、プロピオンアルデヒド、n−ブチルアルデヒド、イソブチルアルデヒド、メタクロレイン、クロトンアルデヒド、3−メチル−2−ブテナール、2,4−ヘキサジエナール、シクロプロパンカルボキシアルデヒド、フルフリルアルデヒド、グリオキサール、マロンアルデヒド、2−メトキシブチルアルデヒド、3−メトキシブチルアルデヒドなどの、低分子量で揮発性を有するアルデヒドが挙げられる。溶媒中のアルデヒドの残存量をできる限り少なくすることで、本発明の効果を奏することができる。
【0031】
本発明の方法により製造されるEVOHのケン化度の範囲は特に限定されないが、EVOHの樹脂性能を引き出す上でも99.0〜100mol%の高ケン化度のEVOHとすることが好適である。用途に応じて、99.0mol%よりもケン化度が低い部分ケン化のEVOHを製造することもできる。
【0032】
なお、本発明の方法により製造されるEVOHのメルトインデックス(MI)は、0.1〜200g/10分が好ましい。ここでは、MIとして、190℃、2160g荷重下での測定値を採用する。ただし、融点が190℃付近または190℃を超えるものは、上記荷重下、融点以上の温度における複数の測定値を、絶対温度の逆数を横軸、MIを縦軸(対数目盛)とする片対数グラフとしてプロットし、190℃に外挿した値を用いることとする。
【0033】
本発明の方法により得られたEVOHは、通常、さらに、水または水とメタノールとの混合液からなる凝固浴中へと押し出して切断し、ペレットへと加工される。このペレットは、洗浄、脱液され、適宜、ホウ素化合物、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩などにより処理される。これらの化合物を含有させると、EVOH成形体の機械的特性、熱安定性などを改善することができる。
【0034】
本発明の方法で得られたEVOHに、重合度、エチレン含有量及びケン化度の異なるEVOHをブレンドし溶融成形することも可能である。また、他の各種可塑剤、酸化防止剤、色剤、紫外線吸収剤、スリップ剤、帯電防止剤、可塑剤、硼酸等の架橋剤、無機充填剤、無機乾燥剤、各種繊維などの補強材などを適量添加することも可能である。
【0035】
本発明の方法により得られたEVOHはフィルム、シート、容器、パイプ、繊維等、各種の成形物に成形することができる。
【0036】
EVOHの成形方法は特に限定されない。押出成形、インフレーション押出、ブロー成形、溶融紡糸、射出成形などによる溶融成形が一般的である。溶融温度は該共重合体の融点等により異なるが150〜270℃程度が好ましい。
【0037】
こうして得られたフィルム、シート、繊維等を一軸又は二軸延伸することも可能である。また、これらの成形物は再利用の目的で粉砕し再度成形することも可能である。
【0038】
本発明の方法により製造されるEVOHは、当該樹脂のみの単層からなる成形物としても使用可能であるが、当該EVOHからなる少なくとも1層を含む多層構造体とすることが好適である。多層構造体の層構成としては、本発明のEVOHをE、接着性樹脂をAd、他の熱可塑性樹脂や基材をTで表わすと、E/T、T/E/T、E/Ad/T、T/Ad/E/Ad/T等が挙げられるが、これに限定されない。ここで示されたそれぞれの層は単層であってもよいし、場合によっては多層であってもよい。
【0039】
上記に示す多層構造体を製造する方法は特に限定されない。例えば、EVOHからなる成形物(フィルム、シート等)上に熱可塑性樹脂を溶融押出する方法、逆に熱可塑性樹脂等の基材上に該EVOHと他の熱可塑性樹脂とを共押出する方法、熱可塑性樹脂とEVOHからなるEVOHを共押出又は共射出する方法、本発明のEVOHより得られた成形物と他の基材のフィルム、シートとを有機チタン化合物、イソシアネート化合物、ポリエステル系化合物等の公知の接着剤を用いてラミネートする方法、EVOHをメタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノールなどのアルコール類と水の混合溶媒、ジメチルスルホキシド、1,1,1,2,2,2−ヘキサフルオロプロパノールなどのハロゲン化アルコール類に溶解して、基材フィルムに溶液コートする方法等が挙げられる。なかでも、共押出又は共射出する方法が好適である。
【0040】
EVOHと積層するのに用いられる熱可塑性樹脂としては、直鎖状低密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−プロピレン共重合体、ポリプロピレン、プロピレン−α−オレフィン共重合体(炭素数4〜20のα−オレフィン)、ポリブテン、ポリペンテン等のオレフィンの単独又はその共重合体、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル、ポリエステルエラストマー、ナイロン−6、ナイロン−6,6等のポリアミド樹脂、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、アクリル系樹脂、ビニルエステル系樹脂、ポリウレタンエラストマー、ポリカーボネート、塩素化ポリエチレン、塩素化ポリプロピレンなどが挙げられる。上記の中でも、ポリプロピレン、ポリエチレン、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体、ポリアミド、ポリスチレン、ポリエステルが好ましく用いられる。
【0041】
熱可塑性樹脂との共押出成形の方法は特に限定されず、マルチマニホールド合流方式Tダイ法、フィードブロック合流方式Tダイ法、インフレーション法などが好適なものとして例示される。また、共射出成形の方法も特に限定されず、一般的な手法を用いることができる。
【0042】
EVOHと熱可塑性樹脂とを積層するに際し、接着性樹脂を使用する場合があり、この場合の接着性樹脂としてはカルボン酸変性ポリオレフィンからなる接着性樹脂が好ましい。ここでカルボン酸変性ポリオレフィンとは、オレフィン系重合体にエチレン性不飽和カルボン酸又はその無水物を化学的(たとえば付加反応、グラフト反応により)結合させて得られるカルボキシル基を含有する変性オレフィン系重合体のことをいう。ここで、オレフィン系重合体とはポリエチレン(低圧、中圧、高圧)、直鎖状低密度ポリエチレン、ポリプロピレン、ボリブテンなどのポリオレフィン、オレフィンと該オレフィンとを共重合し得るコモノマー(ビニルエステル、不飽和カルボン酸エステルなど)との共重合体、たとえばエチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−アクリル酸エチルエステル共重合体などを意味する。このうち直鎖状低密度ポリエチレン、エチレン−酢酸ビニル共重合体(酢酸ビニルの含有量5〜55重量%)、エチレン−アクリル酸エチルエステル共重合体(アクリル酸エチルエステルの含有量8〜35重量%)が好適であり、直鎖状低密度ポリエチレン及びエチレン−酢酸ビニル共重合体が特に好適である。また、エチレン性不飽和カルボン酸又はその無水物とはエチレン性不飽和モノカルボン酸、そのエステル、エチレン性不飽和ジカルボン酸、そのモノ又はジエステル、その無水物を意味し、このうちエチレン性不飽和ジカルボン酸無水物が好適である。具体的にはマレイン酸、フマル酸、イタコン酸、無水マレイン酸、無水イタコン酸、マレイン酸モノメチルエステル、マレイン酸モノエチルエステル、マレイン酸ジエチルエステル、フマル酸モノメチルエステルなどが挙げられ、これらの中でも無水マレイン酸が好適である。
【0043】
エチレン性不飽和カルボン酸又はその無水物のオレフィン系重合体への付加量又はグラフト量(変性度)はオレフィン系重合体に対し0.01〜15重量%、好ましくは0.02〜10重量%である。エチレン性不飽和カルボン酸又はその無水物のオレフィン系重合体への付加反応、グラフト反応は、たとえば溶媒(キシレンなど)、触媒(過酸化物など)の存在下でラジカル重合法などにより得られる。このようにして得られたカルボン酸変性ポリオレフィンの190℃、2160g荷重下で測定したメルトインデックス(MI)は0.2〜30g/10分であることが好ましく、より好ましくは0.5〜10g/10 分である。これらの接着性樹脂は単独で用いてもよいし、また二種以上を混合して用いることもできる。
【0044】
このようにして得られた共押出多層構造体又は共射出多層構造体を二次加工することにより、各種成形品(フィルム、シート、チューブ、ボトルなど)を得ることができる。たとえば以下のようなものが挙げられる。
(1)多層構造体(シート又はフィルムなど)を一軸又は二軸方向に延伸し、必要に応じて熱処理することによる多層共延伸シート又はフィルム
(2)多層構造体(シート又はフィルムなど)を圧延することによる多層圧延シート又はフィルム
(3)多層構造体(シート又はフィルムなど)真空成形、圧空成形、真空圧空成形等、熱成形加工することによる多層トレーカップ状容器
(4)多層構造体(パイプなど)からのストレッチブロー成形等によるボトル、カップ状容器
(5)多層構造体(パリソンなど)からの二軸延伸ブロー成形等によるボトル状容器
【0045】
このような二次加工法には特に制限はなく、上記以外の公知の二次加工法も採用できる。このようにして得られた共押出多層構造体あるいは共射出多層構造体は層間接着性に優れ、外観が良好で臭気の発生が抑制されているから、各種食品容器の材料、例えば、包装用フィルム、深絞り容器、カップ状容器、ボトル等の材料として好適に用いられる。
【実施例】
【0046】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこの実施例に限定されるものではない。また、以下の説明においては、アルデヒド類の含有量を特定した場合を除き、1−プロパノールはアルデヒド類の含有量が150ppm、メタノールはアルデヒド類の含有量が110ppmであるもの、水はアルデヒド類を実質的に含有しないものを使用した。
【0047】
(1)溶媒中のアルデヒド類の定量
分析する溶媒0.5mLに1000mg/Lの2,4−ジニトロフェニルヒドラジンを含有するアセトニトリル/酢酸混合溶液(重量比:アセトニトリル/酢酸=9:1)(以下、DNPH溶液と記載する)を10mL加えて、60℃で1時間加熱攪拌した。当該溶液を、島津製作所製高速液体クロマトグラフ(カラム:資生堂CAPCELL PAK C18 MGタイプ、溶媒:アセトニトリル/水(グラジェント系)、UV検出器)で分析し、アルデヒド類の含有量を定量した。なお、定量に際しては、市販のアルデヒド−DNPH化物(あるいは合成したもの)で作成した検量線を用いた。
【0048】
(2)EVAc溶液中のアルデヒド類の定量
分析するEVAc溶液5mLに前記のDNPH溶液を10mL加えて、60℃で1時間加熱攪拌した。得られた溶液をヘキサン100mL中に投入して、EVAcを析出させた。析出したEVAcをろ別した後、回収した溶液をロータリーエバポレーターで濃縮した。濃縮後の残渣を10mLのアセトニトリルに溶解した後、前記の(1)溶媒中のアルデヒド類の定量と同様にして、アルデヒド類の含有量を定量した。
【0049】
(3)EVAc溶液中の酢酸ビニルの定量
分析するEVAc溶液5mLをヘキサン100mL中に投入して、EVAcを析出させて、ろ別した後、回収した溶液を島津製作所製ガスクロマトグラフGC−14B(カラム:J&W Scientific DB−1710、キャリアガス:水素)で分析して酢酸ビニルの含有量を定量した。なお、定量に際しては、酢酸ビニルのヘキサン溶液を標準液として用いた。
【0050】
(4)EVAcのケン化度の測定
EVAc溶液をロータリーエバポレーターで濃縮した後、減圧下、40℃で10時間乾燥させて乾燥EVAcを得た。当該EVAc20mgをCDCl6mLに溶解した後、下記の測定条件でH−NMRの測定を行い、3.1〜4.1ppmに観測されるビニルアルコール単位のメチン水素(ケン化された部位)の積分値と4.5〜5.2ppmに観測される酢酸ビニル単位のメチン水素(未ケン化部位)の積分値の比からケン化度を求めた。
【0051】
測定条件 装置名:日本電子製 超伝導核磁気共鳴装置Lambda 500
観測周波数:500MHz
測定温度:25℃
積算回数:1024回
【0052】
(5)EVOHのケン化度の測定
乾燥EVOHの粉末20mgを重ジメチルスルホキシド/重トリフルオロ酢酸の混合溶液(重量比:重ジメチルスルホキシド/重トリフルオロ酢酸=95:5)6mLに溶解した後、下記の測定条件でプロトンNMRの測定を行い、3.1〜4.1ppmに観測されるビニルアルコール単位のメチン水素の積分値(ケン化された部位)と1.9〜2.0ppmに観測される酢酸ビニル単位のメチル基水素(未ケン化部位)の積分値の比からケン化度を求めた。
【0053】
測定条件 装置名:日本電子製 超伝導核磁気共鳴装置Lambda 500
観測周波数:500MHz
測定温度:80℃
積算回数:128回
【0054】
実施例1
〔工程1〕
エチレン含有量35mol%、EVAc含有量48重量%、酢酸ビニル濃度0.014mol/Lのメタノール溶液に水酸化ナトリウムを添加して水酸化ナトリウム濃度を0.028mol/Lに調整した。この溶液を60℃で10分間攪拌したのち、水酸化ナトリウムと等モルの酢酸を添加して中和した。反応後のEVAcのケン化度は8.8mol%であった。
【0055】
〔工程2〕
続いて、上記工程1で得られたアルカリ処理後のEVAc溶液を塔式反応器(棚段塔(ケン化塔、総段数10))の9段目の棚板に0.9kg/時の速度で導入し、2段目より4.0kg/時の速度でメタノールの蒸気を供給した。さらに当該EVAcの残存酢酸エステル基に対して、0.1当量の水酸化ナトリウムを含むメタノール溶液を7段目より供給した。塔内温度は112℃、塔圧は0.51MPaであった。塔底より得られたEVOH溶液(EVOH36重量%)に、供給した水酸化ナトリウムと等モル量の酢酸を逐次添加することで中和した。
【0056】
〔EVOHペレットの製造〕
中和後の反応液100重量部に対して水50重量部を加えて、ケーキ状に冷却固化させた。その後、遠心分離機を用いて、前記ケーキ状の樹脂を脱液した。次に、遠心分離機の中央部に、上方よりイオン交換水を連続的に供給しながら脱液し、前記樹脂を水洗する工程を10時間行った。
【0057】
このようにして得られた粒状のEVOHを、真空乾燥機を用いて60℃、10時間乾燥した。続いて、水/メタノールの混合溶媒(重量比:水/メタノール=35/65)に80℃で5時間、撹拌しながら溶解させて35重量%のEVOH溶液を得た。次に、撹拌を止めて溶解槽の温度を65℃に下げて5時間放置し、前記のEVOHの水/メタノール溶液の脱泡を行った。そして、直径3.5mmの円形の開口部を有する金板から、5℃の水/メタノール=9/1(重量比)の混合液中に押出してストランド状に析出させ、切断することでペレットを得た。得られたEVOHペレットの水分率は70重量%であった。
【0058】
このようにして得られた含水状態のEVOHペレット4.0kgに40Lの純水を加え、25℃で2時間撹拌しながら洗浄しては脱液する操作を2回繰り返した。次に、1.0g/Lの酢酸水溶液で、25℃で2時間撹拌しながら洗浄しては脱液する操作を2回繰り返した。さらに、含水EVOHペレットを40Lのイオン交換水で、25℃で2時間撹拌しながら洗浄しては脱液する操作を6回繰り返した。次に、5.4mmol/Lの酢酸ナトリウムおよび12mmol/Lの酢酸を含有する水溶液40Lに上記含水ペレットを投入し、25℃で5時間、浸漬及び撹拌を行った。処理後の含水ペレットを脱液した後、80℃にて3時間、引き続き120℃にて30時間、窒素雰囲気下の乾燥機(機内酸素濃度200ppm)で乾燥し、乾燥EVOHペレットを得た。乾燥EVOHペレットのケン化度は99.0mol%であり、MIは2.0g/10分(190℃、2160g荷重下)であった。
【0059】
〔溶融混練後の黄色度評価〕
得られたEVOHペレットを二軸押出機にて溶融混練して、直径3mm,長さ3.5mmのEVOHペレットを得た。溶融混練条件を以下に示す。
【0060】
二軸押出機((株)東洋精機製作所製)の仕様:
L/D:25、口径:26mmφ、スクリュー:同方向完全噛合型、ダイスホール数:2ホール(3mmφ)
混練条件:
回転数:150rpm
押出温度:C1/C2/C3/C4/C5/Die
=180/200/220/220/220/220℃
吐出量:2.3kg/hr
【0061】
溶融混練後のEVOHペレットのYI(黄色度、イエローインデックス)をJIS−K−7103に準じて測定したところ、YIは11であった。
【0062】
実施例2
〔工程1〕
エチレン含有量35mol%、EVAc含有量50重量%、酢酸ビニル濃度0.018mol/Lの1−プロパノール/水の混合溶液(重量比:1−プロパノール/水=90/10)に水酸化ナトリウムを添加して水酸化ナトリウム濃度を0.028mol/Lに調整した。この混合液を60℃で10分間攪拌したのち、水酸化ナトリウムと等モルの酢酸を添加して中和した。反応後のEVAcのケン化度は8.3mol%であった。
【0063】
〔工程2〕
続いて、上記工程1で得られたアルカリ処理後のEVAc溶液を塔式反応器(棚段塔(ケン化塔、総段数10))の9段目の棚段に1.0kg/時の速度で導入し、2段目より3.7kg/時の速度で1−プロパノールの蒸気を供給した。さらにEVAcの残存酢酸エステル基に対して、1.0当量の水酸化ナトリウムを含む水溶液を7段目より供給した。塔内温度は118℃、塔圧は0.23MPaであった。塔底より得られたEVOH溶液(EVOH36重量%)に、供給した水酸化ナトリウムと等モルの酢酸を逐次添加することで中和した。
【0064】
以降の工程は、実施例1と同様にしてEVOHペレットを得た。EVOHペレットのケン化度は99.0mol%であり、MIは2.0g/10分(190℃、2160g荷重下)であった。また、溶融混練後のペレットのYIは13であった。
【0065】
実施例3
工程1の水酸化ナトリウム濃度を0.019mol/Lとして、反応時間を2分としたことを除いては、実施例1と同様にしてEVOHペレットを作製した。なお、工程1を供した後のEVAcのケン化度は1.2mol%であった。EVOHペレット作製後のケン化度は99.8mol%であり、MIは2.1g/10分(190℃、2160g荷重下)であった。また、溶融混練後のペレットのYIは10であった。
【0066】
実施例4
〔工程1〕
エチレン含有量35mol%、EVAc含有量50重量%、酢酸ビニル濃度0.001mol/Lのメタノール溶液にナトリウムメトキシドを添加してナトリウムメトキシド濃度を0.005mol/Lに調整した。この混合液を60℃で2分間攪拌したのち、ナトリウムメトキシドと等モルの酢酸を添加して中和した。反応後のEVAcのケン化度は0.2mol%であった。
【0067】
〔工程2〕
続いて、アルカリ処理後のEVAc溶液を塔式反応器(棚段塔(ケン化塔、総段数10))の9段目の棚板に0.9kg/時の速度で導入し、2段目より4.0kg/時の速度でメタノールの蒸気を供給した。さらに当該EVAcの残存酢酸エステル基に対して、0.05当量のナトリウムメトキシドを含むメタノール溶液を7段目より供給した。塔内温度は112℃、塔圧は0.51MPaであった。塔底より得られたEVOH溶液(EVOH36重量%)に供給した水酸化ナトリウムと等モル量の酢酸を逐次添加することで中和した。
【0068】
以降の工程は、実施例1と同様にしてEVOHペレットを得た。EVOHペレットのケン化度は99.8mol%であり、MIは2.1g/10分(190℃、2160g荷重下)であった。また、溶融混練後のペレットのYIは8であった。
【0069】
実施例5
〔メタノールの蒸留〕
メタノールを投入した回分式蒸留器の外温を80℃に設定してメタノールを蒸留し、沸点64〜65℃の成分のみを回収した。回収したメタノール100重量部に対して、強酸性イオン交換樹脂を10重量部投入して、60℃で5時間加熱攪拌した後、再度蒸留することで、沸点64〜65℃の成分を回収した。こうして得られたメタノール中のアルデヒド類の含有量は0.2ppmであった。
【0070】
〔工程1〕
エチレン含有量35mol%、EVAc含有量50重量%、酢酸ビニル濃度0.014mol/Lのメタノール溶液に水酸化ナトリウムを添加して水酸化ナトリウム濃度を0.019mol/Lに調整した。この混合液を60℃で2分間加熱攪拌したのち、水酸化ナトリウムと等モルの酢酸を添加して中和した。反応後のEVAcのケン化度は1.2mol%であった。
【0071】
〔蒸留〕
こうして得られたアルカリ処理後のEVAc溶液を回分式蒸留器に仕込み、常圧下、外温80℃で加熱して、EVAc中のメタノールを留去させた。3時間後、残留物に、上述の方法で調整したアルデヒド類含有量0.2ppmのメタノールを添加して希釈し、EVAc50重量%のメタノール溶液を得た。当該EVAc溶液中のアルデヒド類の含有量は3.6ppmであった。
【0072】
〔工程2〕
続いて、アルカリ処理後のEVAc溶液を塔式反応器(棚段塔(ケン化塔、総段数10))の9段目の棚板に1.0kg/時の速度で導入し、塔底から4.1kg/時の速度でメタノールの蒸気を供給した。さらに当該EVAcの残存酢酸エステル基に対して、0.1当量の水酸化ナトリウムを含むメタノール溶液を7段目より供給した。なお、ケン化塔内に供給したメタノールはすべて、上述の方法で調整したアルデヒド類含有量0.2ppmのメタノールを使用した。塔内温度は112℃、塔圧は0.51MPaであった。塔底より得られたEVOH溶液(EVOH36重量%)に、供給した水酸化ナトリウムと等モルの酢酸を逐次添加することで中和した。
【0073】
以降の工程は、実施例1と同様にしてEVOHペレットを得た。EVOHペレットのケン化度は99.8mol%であり、MIは2.0g/10分(190℃、2160g荷重下)であった。また、溶融混練後のペレットのYIは6であった。
【0074】
実施例6
〔工程1および工程2〕
エチレン含有量29mol%、EVAc含有量47重量%、酢酸ビニル濃度0.001mol/Lのメタノール溶液を1.0kg/時の速度でスタティックミキサーに供給した。また、ミキサー内に2.0mol/Lのナトリウムメトキシドのメタノール溶液をフィードすることで、ミキサー内でのナトリウムメトキシドの濃度を0.005mol/Lに調整した。ミキサーを通過したEVAc溶液をインラインで配管接続された塔式反応器(棚段塔(ケン化塔、10段))の9段目の棚板に導入するとともに、2段目より4.1kg/時の速度でメタノール蒸気を供給した。さらに該重合体中の残存酢酸エステル基に対して、0.05当量の水酸化ナトリウムを含むメタノール溶液を7段目より供給した。なお、ケン化塔内に供給したメタノールはすべて、実施例5に記載の方法で調整したアルデヒド類の含有量0.2ppmのメタノールを使用した。塔内温度は111℃、塔圧は0.51MPaであった。塔底より得られたEVOH溶液(EVOH37重量%)に、供給した水酸化ナトリウムと等モルの酢酸を添加することで中和した。
【0075】
以降の工程は、実施例1と同様にしてEVOHペレットを得た。EVOHペレットのケン化度は99.9mol%であり、MIは2.0g/10分(190℃、2160g荷重下)であった。また、溶融混練後のペレットのYIは8であった。
【0076】
比較例1
エチレン含有量35mol%、EVAc含有量48重量%、酢酸ビニル含有量0.014mol/Lのメタノール溶液を事前にアルカリ触媒で処理することなく、塔式反応器(棚段塔(ケン化塔、総段数10))の9段目の棚板に0.9kg/時の速度で導入し、2段目より4.0kg/時の速度でメタノールの蒸気を供給した。さらに当該EVAcの残存酢酸エステル基に対して、0.1当量の水酸化ナトリウムを含むメタノール溶液を7段目より供給した。塔内温度は112℃、塔圧は0.51MPaであった。塔底より得られたEVOH溶液(EVOH36重量%)に、供給した水酸化ナトリウムと等モル量の酢酸を逐次添加することで中和した。
【0077】
以降の工程は、実施例1と同様にしてEVOHペレットを得た。EVOHペレットのケン化度は99.6mol%であり、MIは2.0g/10分(190℃、2160g荷重下)であった。また、溶融混練後のペレットのYIは17であった。
【0078】
比較例2
エチレン含有量35mol%、EVAc含有量50重量%、酢酸ビニル含有量0.018mol/Lの1−プロパノール/水の混合溶液(重量比:1−プロパノール/水=90/10)を事前にアルカリ触媒で処理することなく、塔式反応器(棚段塔(ケン化塔、総段数10))の9段目の棚板に1.0kg/時の速度で導入し、2段目より3.7kg/時の速度で1−プロパノールの蒸気を供給した。さらにEVAcの残存酢酸エステル基に対して、1.0当量の水酸化ナトリウムを含む水溶液を7段目より供給した。塔内温度は118℃、塔圧は0.23MPaであった。塔底より得られたEVOH溶液(EVOH36重量%)に、供給した水酸化ナトリウムと等モルの酢酸を逐次添加することで中和した。
【0079】
以降の工程は、実施例2と同様にしてEVOHペレットを得た。EVOHペレットのケン化度は99.1mol%であり、MIは2.0g/10分(190℃、2160g荷重下)であった。また、溶融混練後のペレットのYIは21であった。
【0080】
比較例3
〔工程1〕
エチレン含有量35mol%、EVAc含有量48重量%、酢酸ビニル濃度0.011mol/Lのメタノール溶液に水酸化ナトリウムを添加して水酸化ナトリウム濃度を0.1mol/Lに調整した。この混合液を60℃で10分間攪拌したのち、水酸化ナトリウムと等モルの酢酸を添加して中和した。反応後のEVAcのケン化度は10.1mol%であった。
【0081】
〔工程2〕
続いて、上記の工程1で得られたアルカリ処理後のEVAc溶液を塔式反応器(棚段塔(ケン化塔、総段数10))の9段目の棚板に0.9kg/時の速度で導入し、2段目より4.0kg/時の速度でメタノールの蒸気を供給した。さらに当該EVAcの残存酢酸エステル基に対して、0.1当量の水酸化ナトリウムを含むメタノール溶液を7段目より供給した。塔内温度は112℃、塔圧は0.51MPaであった。塔底より得られたEVOH溶液(EVOH36重量%)に供給した水酸化ナトリウムと等モル量の酢酸を逐次添加することで中和した。
【0082】
以降の工程は、実施例1と同様にしてEVOHペレットを得た。EVOHペレットのケン化度は99.7mol%であり、MFRは1.9g/10分(190℃、2160g荷重下)であった。また、溶融混練後のペレットのYIは15であった。
【図面の簡単な説明】
【0083】
【図1】本発明の製造方法に用いる塔式反応器を模式化したものである。
【符号の説明】
【0084】
1:溶媒蒸気排出口
2:EVAc溶液フィード口
3:アルカリ触媒フィード口
4:溶媒蒸気吹込み口
5:EVOH溶液払出口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(工程1)エチレン−酢酸ビニル共重合体溶液に対して、アルカリ触媒濃度が0.0001〜0.03mol/Lとなるようにアルカリ触媒を加えて混合した後、(工程2)前記エチレン−酢酸ビニル共重合体溶液を塔式反応器(A)の塔上部に供給し、塔下部から溶媒蒸気を供給して、塔上部から溶媒蒸気を排出するとともに、前記エチレン−酢酸ビニル共重合体溶液を供給する位置より下部からアルカリ触媒を供給してエチレン−酢酸ビニル共重合体をケン化することを特徴とするエチレン−酢酸ビニル共重合体ケン化物の製造方法。
【請求項2】
エチレン−酢酸ビニル共重合体溶液の溶媒がメタノールであり、塔式反応器(A)の塔下部に供給する溶媒蒸気がメタノール蒸気である請求項1に記載のエチレン−酢酸ビニル共重合体ケン化物の製造方法。
【請求項3】
工程1に供した後のエチレン−酢酸ビニル共重合体のケン化度が5mol%以下である請求項1又は2に記載のエチレン−酢酸ビニル共重合体ケン化物の製造方法。
【請求項4】
工程1で用いるエチレン−酢酸ビニル共重合体溶液中の酢酸ビニルの含有量が0.01mol/L以下である請求項1〜3いずれかに記載のエチレン−酢酸ビニル共重合体ケン化物の製造方法。
【請求項5】
工程1と工程2の間に蒸留器(B)を導入し、蒸留器(B)内で前記エチレン−酢酸ビニル共重合体溶液中のアルデヒド類の含有量を100ppm以下としてから、上記の工程2における塔式反応器(A)の塔上部に当該エチレン−酢酸ビニル共重合体溶液を供給する請求項1〜4いずれかに記載のエチレン−酢酸ビニル共重合体ケン化物の製造方法。
【請求項6】
工程2における塔式反応器(A)の塔下部から供給する溶媒中のアルデヒド類の含有量が100ppm以下である請求項1〜5いずれかに記載のエチレン−酢酸ビニル共重合体ケン化物の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2009−242645(P2009−242645A)
【公開日】平成21年10月22日(2009.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−91874(P2008−91874)
【出願日】平成20年3月31日(2008.3.31)
【出願人】(000001085)株式会社クラレ (1,607)
【Fターム(参考)】