説明

エチレンジアミン四酢酸(EDTA)及びポリエチレンイミン(PEI)の組み合わせを含む、微生物の壁を透過性にするための新規組成物

【課題】膜上の微生物に指向された様式で計数及び検出するための特定な組成物、及び当該組成物を使用する方法の提供。
【解決手段】ポリエチレンイミン(PEI)及びエチレンジアミン四酢酸(EDTA)の組み合わせを含むこと、PEIの最終濃度が100μg/mL超であること、及び最終的なEDTA濃度が組成物中において、50mM超である、微生物の壁を透過性にするための組成物。リゾチームをさらに含む、上記の組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)及びポリエチレンイミン(PEI)の組み合わせを含む、微生物の壁を透過性にするための新規組成物、並びに、特に、液体又は気体状媒体中での微生物に指向された計数及び/又は同定のための方法におけるその使用に関する。
【0002】
本発明は、より具体的には、例えば食品及び医薬品用の製造ライン中に入る液体及び気体状媒体の微生物学的品質を管理することに適用する。
【背景技術】
【0003】
本分野において、微生物は水又は気体の大容量中に希釈されているので、多くの場合、検出されるべき微生物は少量である。しかしながら、微生物の種類は、確実に決定されなければならない。実際、実施される管理は、適宜、製品の製造又はその流通を停止し、必要な汚染除去工程をとることができるようにするために、できるだけ短い時間に、製造される製品の組成の一部である流体の全ての汚染が検出できなければならない。
【0004】
微生物に対する培養時間を最短化するために、微生物を検出するための多くの方法が開発されてきた。
【0005】
膜を通じた液体の濾過を含む、微生物を検出するためのこのような方法は、例えば出願WO01/59157に記載されている。本方法によると、液体試料中に含有される微生物は、膜を通じて液体を通過させることによって、膜の表面に保持される。微生物は、肉眼では見ることのできない微小コロニーを形成するのに必要な時間、寒天培地と接触した膜の表面で培養される。次に、アデノシン三リン酸塩(ATP)及び核酸の含有物を放出させるために、微小コロニーを形成する細胞を溶解する。ATP生物発光によって生細胞を同定及び定量化するためのマーカーとして、放出されたATPを使用する。ATPは、光シグナルが得られた後、適切なビデオインターフェイス(例えば、LCDカメラ)を使用して検出される化学発光反応を与える酵素に対する基質として機能する。画像の形態で提供される得られたシグナルによって、寒天培地中のペトリ皿上で実施される慣用の計数と同様の様式で、微生物が発達した膜上の部位において、生体内原位置で可視化することが可能となる。この事例では、ATPは、生きている全ての微生物中に存在するマーカーであるので、検出は、普遍的であるといわれる。ATPによって微生物の多様な種を識別することは不可能である。
【0006】
Millipore社の市販する「Milliflex Rapid(登録商標)」システムは、上述の原理に基づいて作動する。本システムは、プラスチックの支持体上に保持されている1つの同一膜上で濾過及び検出工程を実施するように設計された。本支持体は、濾過、微生物の培養及び検出のために使用される多様な装置中へ差し込まれるように設計されている。
【0007】
この小型化されたシステムによって、ペトリ皿上での従来の検査と比較して、大量の時間を節約することが可能となる。さらに、分析される産物の追跡管理の点で有利なデジタル媒体上で得られた画像を保存することが可能となる。
【0008】
それにもかかわらず、本システムは実際には、膜の表面に存在する微生物の計数が、細胞の溶解後に実施されるという事実に関連したある種の制約を有している。この溶解は、発光試薬、例えばATPと反応して検出される発光シグナルを生成する産物を細胞から抽出するために必要とされる。しかしながら、一度膜が処理されると、例えば検出される微生物の精確な同定をもたらし得る他の分析を実施するために前記膜を再使用することが困難となる。
【0009】
例えば微生物中に含有される核酸(DNA又はRNA)と特異的にハイブリッド形成するプローブを使用して、微生物の種類を決定することが可能である。この種の最も一般的なプローブは、微生物のDNA又はRNA内のものと相補的な配列を形成する、一般的に長さ10ヌクレオチドと40ヌクレオチドとの間であるオリゴヌクレオチド断片を含む。
【0010】
PNA(ペプチド核酸)型のプローブは、微生物中に存在する分解酵素に対する感受性がより低いペプチド骨格を有し、異なる標識化の可能性を与えるので、本プローブは、検出のこの種類において有益であることを明らかにし得る。
【0011】
出願WO2004/050902は、微生物の何れの溶解も引き起こさずに、血液試料を汚染させている微生物の存在を検出することを可能にする膜検出システムについて記載している。本システムの特徴は、微生物の壁を通じた微生物中への標識剤の貫通を通じて微生物が検出されるという事実に存する。使用される標識剤は、小さな寸法の分子であり、特に、シアニン誘導体、ヨウ化プロピジウム、アクリジンオレンジ又は臭化エチジウム等の、核酸(DNA、RNA)中に挿入される化合物である。これらの小さな化合物は、ポリエチレンイミン(PEI)、ジギトニン、ノネンシン(nonensin)、ヘキサメタリン酸ナトリウム又は塩化ベンザルコニウム等の先行技術の公知の透過性にする薬剤を使用して、膜を通じて微生物中へ比較的簡単に貫通する。検査されるべき微生物を含有する液体試料は、まず、細胞を透過性にする試薬の存在下で、標識剤を含む透過性にする溶液中で希釈された後、膜上で検出されるように、微生物を膜で濾過する。このことによって、より良好な解像度を与える微生物の検出が得られる。
【0012】
しかしながら、標識が普遍的な標識である、すなわち微生物に特異的ではないという事実により、本システムが、検出される微生物の性質を正確に決定することは不可能である。
【0013】
さらに、このようなシステムにおいて、微生物の操作(透過性にする溶液中での温置)は、特別な注意及び複雑な機器を必要とする溶液中で行われる。濾過前における溶液中での生細胞の温置は、膜上に固定される前に細胞が増殖及び分裂し続けることが可能であるという欠点も有しており、事実上、検査の最終結果に関して不確実性をもたらすことに注意しなければならない。
【0014】
分析のこの種類に関連する別の問題は、透過性にする溶液中で使用されなければならない透過性にする試薬の量である。この量は、実際、検出されるべき微生物の種類によって変動する。例えば、(細菌の場合)微生物がグラム陽性種であるか又はグラム陰性種であるかに依存して、透過性にする試薬は、同一濃度で効果を有さず、又はさらにひどい場合には、存在する微生物の溶解を生じる。
【0015】
従って、グラム陽性菌は、ペプチドグリカン(ペプチド及び多糖鎖でできたポリマー)で作られる厚い外側層を有する単一の膜を有し、これにより、壁が二重膜(この二重膜の間では、ペプチドグリカンがあまり豊富ではなく、より分散されている。)からなるグラム陰性菌に比べて、透過性にする処理はより困難となる。
【0016】
弱塩基性及び多価陽イオン性脂肪族のポリマーであるポリエチレンイミン(PEI)は、ある種のグラム陰性菌の壁を多様な抗菌性分子に対して透過性にすると記載されている[Helander,I.M.et al.,Polyethyleneimine is an effective permeabilizer of gram−negative bacteria,Microbiology(1997),143:3193−3199]。イー・コリ(E.coli)等の細菌を得るために、この目的のために使用されるPEIの濃度は、20μg/mLと30μg/mLとの間である。
【0017】
エチレンジアミン四酢酸(EDTA、化学式C1016)は、安定化剤として、特に酵素反応又は抗酸化反応の阻害剤として、生化学において一般的に使用される周知のキレート剤である。EDTAは、本目的のために、ある種の組成物中に存在する。しかしながら、EDTA単独では、特にグラム陽性菌について、核酸の標識化を得る目的のために微生物の壁に満足な程度に透過性にすることができないことが示されている(WO04/050902)。
【0018】
リゾチームは、細胞に核酸を形質移入するための多くのプロトコールにおいてグラム陽性菌の壁を透過性にするために使用されている生成物である。リゾチームは、特に、細菌の壁中に存在するペプチドグリカンのN−アセチルグルコサミンとN−アセチルムラミン酸との間のある種の結合を加水分解することによって作用する。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
本発明の目的は、特に、処理するのがより困難であると考えられるグラム陽性菌に関して、上述の既存の検出システムの制約に対処することである。
【課題を解決するための手段】
【0020】
驚くべきことに、本発明者は、EDTA及びPEIの組み合わせが、先行技術に記載されている組成物、特に、PEI又はEDTAのみを含有する組成物よりも効果的に微生物の壁を透過性にすることが可能であることに気付いた。
【0021】
従って、少なくともPEI及びEDTAを組み合わせる組成物が、微生物、特にグラム陽性菌の透過性にすることに特に適していることを確立することが可能となった。
【0022】
本発明によると、これらの組成物によって、特に、微生物を特異的に検出するために使用可能なオリゴヌクレオチドプローブを使用して該微生物を標識するための方法を実施することが可能となる。本方法は、オリゴヌクレオチドプローブ等の標識された巨大分子の存在下で又はPNA型の存在下でPEI及びEDTAの組み合わせを含む本発明の組成物と微生物を接触させることを含み、これにより標識された巨大分子又はPNA型が微生物の壁を通じて微生物中へ貫通し、微生物中に結合することが可能である。
【0023】
さらに、このように処理された微生物は、細胞の顕著な溶解を引き起こすことなく、通常使用される濃度を上回るPEIの高濃度に耐えるように見受けられた。
【0024】
本発明において、「微生物」という用語は、単一又は複数の壁からなる外被中に含有されている遺伝的遺産を含む全ての(真核又は原核)生細胞、単細胞生物、配偶子又はウィルスを示す。
【0025】
上述のような組成物によって、微生物中への巨大分子の貫通が可能となる一方で、同時に、微生物の壁の崩壊を制限する。
【0026】
巨大分子は、ポリペプチド、タンパク質、糖タンパク質、オリゴヌクレオチド、多糖、核酸(DNA、RNA)、抗体又はこれらの誘導体等の単純な分子の多数の結合から得られる分子として定義される。本発明が適している巨大分子とは一般的に、分子量が1000ダルトン(1kDa)超、好ましくは2000ダルトン(2kDa)超、及びより好ましくは5000ダルトン(5kDa)超の分子である。
【0027】
ポリエチレンイミン(PEI)は、幾つもの形態で利用可能な適切な生成物である。分子量約750kDaを有する重合化された単量体の形態は、本発明の好ましい形態である(CAS第9002−98−6番)。PEIは、多くの分野で使用されており、特に多様な精製工程において、溶液中でのタンパク質及び核酸の凝塊形成のための薬剤として使用される。PEIは、細胞壁中に存在するリン脂質を可逆的に崩壊する特性を有するという事実のため、透過性にする薬剤としても使用され、従って、細胞中へ貫通することが通常は可能ではない薬剤に対して細胞壁を透過性にする。
【0028】
従って、本発明の第一の対象は、PEI及びEDTAの組み合わせを含む、微生物の壁を透過性にするための組成物である。
【0029】
透過性にする組成物中のPEIの濃度は、100μg/mLと1000μg/mLとの間、好ましくは150μg/mLと900μg/mLとの間、より好ましくは200μg/mLと800μg/mLとの間であり得る。
【0030】
本発明によると、EDTAは一般的に、1mMと200mMとの間、好ましくは5mMと100mMとの間の最終濃度で透過性にする組成物中に存在する。好ましい態様によると、EDTAの最終濃度は、50mM超、より好ましくは50mMと100mMとの間である。
【0031】
好ましくは、本組成物は、一般に0.5mg/mLと5mg/mLとの間、好ましくは1mg/mLと4mg/mLとの間の濃度でリゾチームも含む。
【0032】
本発明の別の対象は、本発明の組成物の使用、より具体的には、標識された巨大分子の微生物中への貫通からなる工程を含む、膜上で微生物を検出するための方法に関する。
【0033】
いまだ十分には明らかとなっていない理由のため、PEI及びEDTAの組み合わせは、ヌクレオチドプローブ等の巨大分子が微生物中へ貫通するのを容易にするのに対し、リゾチームの使用は、該微生物の壁中に存在するペプチドグリカンを断片化するのに有用である。
【0034】
好ましくは、本発明の組成物は、何れの界面活性剤も含まず、それゆえ、以降に詳述されている微生物を検出するための方法の観点から幾つもの利点を提供する。界面活性剤がないことによって、例えばリゾチーム及び、発光による検出のためのシグナルの生成に関与する酵素など、方法の実施に必要とされる特定のタンパク質の崩壊を防止することが可能となる。界面活性剤がないことによって、より効果的に架橋結合することによる膜上での微生物の固定を実施することも可能となる。
【0035】
微生物の検出に関与する特異的プローブは、好ましくは、該微生物のリボソームRNAとハイブリッド形成することが可能であるオリゴヌクレオチドプローブである。これらのプローブは好ましくは、次の配列のうちの1つを含む。
【0036】
【化1】

【0037】
これらの配列によって、シュードモナス・エルギノーサ(Pseudomonas aeruginosa)、バチルス・スブチリス(Bacillus subtilis)、スタフィロコッカス・アウレウス(Staphylococcus aureus)、エシェリキア・コリ(Escherichia coli)及びサルモネラ・エンテリカ・アリゾナエ(Salmonella enterica arizonae)のそれぞれの特異的な検出が可能となる。
【0038】
本発明に従い、微生物を検出するための方法において使用されることが可能である巨大分子は、オリゴヌクレオチドプローブに限定されるわけではなく、例えば本発明に従って微生物を検出するためにまた使用されることが可能である、微生物の内部成分に対して誘導された抗原、抗体又はアプタマーからなり得る。
【0039】
図1は、実施例1において実施されるような、本発明の微生物を特異的に検出するための方法の多様な工程を説明する。
【0040】
図2は、(A)ATP生物発光による一般的な検出の方法に従って得られる結果と、(B)試薬として、リゾチーム1mg/mL、EDTA100mM、PEI374.5μg/mL及びRNase阻害剤(1×濃度)を含み、配列番号2に相当する配列のハイブリッド形成プローブを使用する本発明の方法に係るB.スブチリス(B.subtiris)を特異的に検出するための透過性にする組成物第7番を使用して得られる結果とを比較する。(A)及び(B)に記載の方法は、同一膜上で実施され、前記膜上にグラム陽性菌B.スブチリスの細胞が沈着する。左の部分は、コンピュータで作製した画像中での膜上で発光により検出される細菌の微小コロニーの位置を示し、右の部分は、検出される微小コロニーの各々によって発光される光シグナルの強度をレリーフ中の表示が表す傾斜した平面上の同一膜を表す。有意な光シグナルを生じる微小コロニーの数は、コンピュータで作製した画像の右下部に示される。計数される微小コロニーの数は、(A)及び(B)において事実上同一であるが、シグナルは、(B)に関してより良好な識別を付与する。
【0041】
図3は、B.スブチリスに特異的なプローブが、(A)B.スブチリス、(B)S.アウレウス、(C)P.エルギノーサ、(D)イー・コリ、及び(E)S.エンテリカ亜種アリゾナエの細菌コロニーに関して、本発明に従って使用されるときに得られる、コンピュータで発生させた画像を表す。この図は、本発明の方法によって、微生物の特異的な検出を得ることが可能となることを示す。
【0042】
図4ないし9は、B.スブチリスを標的微生物として使用する実施例1に記載のプロトコールに従って得られた、コンピュータで発生させた画像を表す。各図は、実施例1において対象とされた透過性にする組成物の使用に相当する。これらの図において、(A)の透過性にする処理は、大気温で実施され、(B)の透過性にする処理は、37℃で実施される。左の部分は、コンピュータで発生させた画像として、膜上での発光により検出された細菌の微小コロニーの位置を示し、右の部分は、検出された微小コロニーの各々によって発光される光シグナルの強度をレリーフ中の表示が表す傾斜した平面上の同一膜を表す。
【0043】
図4は、透過性にする試薬としてリゾチーム4mg/mLを含有する透過処理組成物(組成物第1番)の使用に相当する。
【0044】
図5は、透過性にする試薬としてリゾチーム4mg/mL及びEDTA5mMを含む組成物(組成物第2番)の使用に相当する。
【0045】
図6は、透過性にする試薬としてリゾチーム4mg/mL及びEDTA100mMを含む組成物(組成物第3番)の使用に相当する。
【0046】
図7は、透過性にする試薬としてリゾチーム4mg/mL及びPEI374.5μg/mLを含む組成物(組成物第4番)の使用に相当する。
【0047】
図8は、透過性にする試薬としてリゾチーム4mg/mL、EDTA5mM及びPEI374.5μg/mLを含む組成物(本発明の組成物第5番)の使用に相当する。
【0048】
図9は、透過性にする試薬としてリゾチーム4mg/mL、EDTA100mM及びPEI374.5μg/mLを含む組成物(本発明の組成物第6番)の使用に相当する。
【0049】
図10は、試薬としてリゾチーム4mg/mL、EDTA100mM及びPEI374.5μg/mLを含む透過処理組成物を使用して、本発明の方法に従ってグラム陰性菌シュードモナス・エルギノーサを特異的に検出するときに得られる、コンピュータで発生させた画像を表す。左の部分は、膜上での発光により検出された細菌の微小コロニーの位置を、コンピュータで発生させた画像として示し、右の部分は、検出された微小コロニーの各々により発光された光シグナルの強度をレリーフ中の表示が表す傾斜した平面上での同一膜を表す。
【0050】
本発明の主題は、より具体的に、液体又は気体の媒体中に初期的に存在する微生物を膜上で計数及び/又は同定するための方法における、上述の透過性にする組成物の使用である。
【0051】
本発明の具体的な実施形態によると、方法は、次の工程:
(a)液体又は気体状態媒体を膜で濾過し、これによりこの媒体中に存在する微生物を膜上又は膜中に保持する工程;
(b)PEI、EDTA及びリゾチームを含む上述の透過性にする組成物を膜及び微生物に接触させる工程;
(c)架橋剤を使用して膜上に細胞を固定する工程;
(d)微生物の壁を通過可能な、場合によって標識された1つ又はそれ以上の巨大分子と微生物を接触させる工程;
(e)微生物中に貫通した巨大分子を検出する工程
を含むことを特徴とする。
【0052】
本発明の方法によって標的とされる微生物は、より具体的に、シュードモナス属、エシェリキア属、レジオネラ(Legionella)属、サルモネラ属、リステリア(Listeria)属、バチルス属、ストレプトコッカス(Streptococcus)属、ビブリオ(Vibrio)属、エルシニア(Yersinia)属、スタフィロコッカス属、マイコバクテリウム(Mycobacterium)属、シゲラ(Shigella)属、クロストリジウム(Clostridium)属、カンピロバクター(Campylobacter)属又はエロモナス(Aeromonas)属のグラム陽性病原菌又はグラム陰性病原菌;ジアルジア(Giardia)属、エントアメーバ(Entamoeba)属、クリプトスポリジウム(Cryptosporidium)属又はシクロスポラ(Cyclospora)属の原生動物;マイコプラズマ(Mycoplasma)属及びウレアプラズマ(Ureaplazma)属のマイコプラズマ、アスペルギルス(Aspergillus)属、カンジダ(Candida)属又はアオカビ(Penicillium)属の真菌及びA型ないしE型肝炎ウィルスから選択され、これらは天然において病原性であり、環境中で一般に遭遇する微生物である。
【0053】
本方法は、原則として、ラン藻等の単細胞藻類から、アメーバ又は線形動物、吸虫若しくは鶏回虫属の卵等の寄生生物、又は花粉若しくは精子等のその他の植物若しくは動物の配偶子といった単細胞形態の検出にも適用可能である。
【0054】
本方法の目的は、水等の液体媒体中又は空気等の気体媒体中に存在する微生物を計数しつつ、できる限りそれらの種類(科、属、種等)を決定することである。「液体又は気体の媒体」という用語は、平均直径が一般的に0.1ミクロンと1.5ミクロンとの間、好ましくは0.15ミクロンと0.8ミクロンとの間、より好ましくは0.2ミクロンと0.6ミクロンとの間の孔を有する膜を通じて圧力差を与えることによって濾過されることが可能である全ての流体を意味する。このような流体は、滅菌製品の製造に関与する純粋な溶液からなり得るが、飲料水、飲料、医学的体液(血清、尿、羊水等)等の複合的な溶液からもなり得る。
【0055】
本方法によって、さらに、動物又は患者に由来する液体試料の分析のために診断分野における応用が可能となる。
【0056】
本願において「膜」という用語とは、2つの面を有し、その孔が公知の平均直径を有する合成支持体を示す。
【0057】
本発明との関連で使用される膜は、一般に、高い表面/容積比及び、好ましくは90ミクロンと200ミクロンとの間の一定の厚さを有する。
【0058】
このような膜は、単層又は多層であり得る。一般にこのような膜は、ポリテトラフルオロエチレン、フッ化ポリビニリデン(PVDF)、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリエステル、ポリエーテルスルホン、アセチルセルロース及びニトロセルロースから選択される1つ又はそれ以上の材料からなる。
【0059】
これらの材料は、好ましくは、使用される溶剤、特に本方法の多様な工程において使用され得るアルコール及びアルデヒドと適合性があるように選択される。
【0060】
微生物が検出される膜は、好ましくは、主としてPVDF(フッ化ポリビニリデン)又はナイロン(登録商標)からなる。より好ましくは、前記膜は、Milliflexという商標名のもと、Millipore(登録商標)社により市販され、参照コードMXHVWP124又はRMHVMFX24の種類のPVDF濾過膜である。
【0061】
本発明の方法の工程a)は、上述に定義された膜の表面において、液体又は気体の媒体中に含有される微生物を保持するために、分析されるべき該媒体をこの膜で濾過することからなる。
【0062】
微生物が濾過され、膜上に保持されたら、本方法において、工程a)と工程b)との間に、適切な培地と接触して微生物を培養する工程を場合によって含めることができる。この培養培地は、好ましくは、膜が濾過後に配置される寒天培地である。場合によって実施されるこの工程により、より迅速に微生物を検出するために、最初に濾過された微生物の各々のコロニーを得ることが可能となる。
【0063】
本発明によると、微生物は、次に工程b)において、本発明の透過性にする組成物中で温置される。
【0064】
この温置工程は、膜の表面でフィルムを形成する溶液のわずかな容積中で実施される。有利なことに、透過性にする組成物は、膜、例えば浸透性パッド等がその上に配置される固体支持体中に含有されることが可能であり、これにより、膜の表面で起こり得る一切の液体の移動を制限し、従って微生物の混合を制限する。この温置工程は、20℃と37℃との間の温度で5ないし20分間実施される。
【0065】
本発明の方法は、架橋剤として機能する薬剤を使用して膜上に細胞を固定する工程(c)を含むため、より効果的である。
【0066】
この工程によって、膜を構成する支持体上に細胞を固定することが可能となる。本発明において好ましい架橋剤は、グルタルアルデヒド、ホルムアルデヒド及びパラホルムアルデヒドから選択され、パラホルムアルデヒドは、ホルムアルデヒドの少なくとも6個の単位から構成される分子として定義される。有利なことに、固定組成物は、膜、例えば浸透性パッド等がその上に配置された固体支持体中に含有されることが可能であり、これにより膜の表面で起こり得る一切の液体の移動を制限し、それゆえ微生物の混合を制限する。好ましくは、本発明によると、固定工程は、20℃と35℃との間の温度で、5ないし20分間実施される。
【0067】
この固定工程は、紫外線照射を使用する、膜上の微生物の照射によっても実施されることが可能である。そのため、膜は好ましくは、ナイロン(登録商標)からなる。
【0068】
微生物を、微生物の壁を通じて該微生物中へと貫通する、場合によって標識された1つ又はそれ以上の巨大分子に接触させる工程d)は、微生物の壁が巨大分子に対して最も透過性の高いことが観察されるのはb)及び固定工程c)のそれぞれの温置工程終了時であるので、好ましくは個々の温置工程b)及び固定工程c)の終了時に実施される。
【0069】
本発明の好ましい実施形態によると、巨大分子は、標識されプローブとして使用される。
【0070】
本明細書において「プローブ」という用語は、微生物の構成成分である生物学的要素を認識し、該要素といっしょになることが可能であり、これにより、前記微生物を標識することができる巨大分子を意味するものとする。
【0071】
本発明の好ましい態様によると、このプローブは、微生物中に存在するDNA又はRNA配列とハイブリッドを形成し、該核酸に関して特異性の一定の程度を有することが可能な巨大分子である。本発明は、例えば単純なオリゴヌクレオチド、2’−O−メチル−RNA型のオリゴヌクレオチド、PNA型のプローブ(プリン塩基又はピリミジン塩基と置換されるポリペプチド鎖からなるプローブ)[Nielsen P.E.et al.Science(1991)254:1497−1500]又は欧州特許第1013661号に記載のLNA型のプローブ(2’−O−4’−C−メチレン−β−D−リボフラノシルの1つ又はそれ以上の単量体を含むオリゴヌクレオチド)等の核酸とハイブリッドを形成することが可能である、当業者に知られているプローブの全ての種類を提供する。
【0072】
本発明者は、微生物のリボソームRNAとハイブリッド形成することが可能なプローブが、本発明を実施するために特に有用であることに想到することができた。
【0073】
従って、本発明の一態様は、配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号4若しくは配列番号5と同一の配列を含むプローブ、又は上述の配列と少なくとも80%の同一性、好ましくは90%、より好ましくは95%の同一性を示す配列を有するその他のプローブからなる。このようなプローブは、本発明の計数及び/又は同定の方法を実施するために特に示される。本発明の別の態様によると、微生物中へ貫通させられ、上述のプローブと同一の性質であり得る巨大分子は、微生物中に含有される核酸に特異的な増幅のさらなる工程を実施するためのプライマーとして使用される。このような巨大分子が本発明の方法において使用される場合、さらなる工程(但し、場合によって行われる。)は、工程c)と工程e)との間で、好ましくは工程d)と工程e)との間で前記方法中へと導入される。
【0074】
このような増幅工程は、検出目的のために利用可能な核酸の量を増大させることによって、微生物の最適な検出に有用であることが判明し得る。本増幅工程が極めて特異的である場合、より大きな選択性で微生物を同定し、従って偽陽性数を減少させることも可能である。増幅は好ましくは、TMA型又はNASEA型の増幅[Compton,J.,Nature(1991)350:91−92]又はLAMP型の増幅[Notomi T.,Nucleic Acids Research(2000),28(12):e63]である。
【0075】
上述のプローブ又はプライマーは、微生物の単一の又は幾つもの種類を検出するように設計されることが可能である。この点において、プローブ又はプライマーは、微生物中に存在する生物要素に関して、特異性の変動する程度を有することが可能である。例えば、プライマー又はプローブが、微生物の多くの種においてその配列が保存されている核酸とハイブリッド形成するように選択された核酸である場合、同定は比較的非特異的であるのに対して、プライマー又はプローブの配列が種の少数に特異的な配列のみを認識するように選択される場合には、特異性はより大きい。
【0076】
本発明のさらに別の具体的な実施形態によると、有利なことに、核酸プローブ又はプライマーの前記微生物の核酸との特異的なハイブリッド形成の工程は、工程d)の後、及び後に続く検出工程e)の前に実施されることが可能である。
【0077】
核酸プローブ又はプライマーのハイブリッド形成のこの工程は、当業者に知られている標準的なハイブリッド形成条件下で実施される。この工程は、非特異的ハイブリッド形成を生じた核酸プローブ又はプライマーを除去するための洗浄工程も含むことが可能である。
【0078】
検出の目的のため、本発明の核酸プローブ又はプライマーは、好ましくは蛍光標識されるか、あるいは化学発光反応を実施するための酵素に結合される。
【0079】
微生物検出工程(e)は、適切なインターフェイスを使用して、プローブ又はプライマーの標識に対応する化学発光反応から生じる光シグナル又は得られた蛍光の発光を検出することによって実施される。
【0080】
本発明のより好ましい態様によると、オリゴヌクレオチド等の核酸プローブは、ペルオキシダーゼに結合される。ペルオキシダーゼが、ルミノール(ペルオキシダーゼの基質)の存在下に配置されると、ペルオキシダーゼは、光子を放射する(生物発光反応)。膜の表面にある微小コロニーによって放射される光子は、光ファイバーを通じて捕捉されて、光子を電子へ変換する光電陰極に到達することができる。各電子は、リンのスクリーンに到達すると、光子へ変換される電子雲を生じる。CCDカメラは、集積の間、放射される光を1秒間に30回記録し、画像が画像分析装置へ転送される。
【0081】
さらに別の態様によると、本発明の上記透過性にする組成物は、インビトロでの診断検査を実施するために使用されることが可能である。実際に、本発明の組成物の特異的な特性は、ヌクレオチドプローブ又は全ての他の分子複合体をヒト若しくは動物から採取され若しくは培養物中に維持される細胞中へと貫通させて生体内原位置での検出を実施するために使用することができる。
【0082】
本発明の透過性にする組成物は、医学分野において、例えば細胞中へ自然に容易に貫通することができない抗生物質又は抗ウィルス薬等の活性成分に対して壁透過性を増大させるための薬物アジュバントとしての多くの適用も見出し得る。
【0083】
より具体的には、本発明の組成物は、特に遺伝的疾患又はある種の癌の治療において、ある種の遺伝子の発現の阻害が求められる細胞中へ、アンチセンス核酸、特にアンチセンスRNA(iRNA)を貫通させるために使用することが可能である。
【0084】
本発明は、少なくとも
液体又は気体状媒体を濾過するための膜;及び
本発明の透過性にする組成物
を含む、液体又は気体の媒体中で微生物を検出及び計数するためのキットも包含するものとする。好ましくは、本キットにおいて含有される膜は主として、PVDF又はナイロン(登録商標)からなる。
【0085】
有利なことに、このようなキットは、グルタルアルデヒド、ホルムアルデヒド及びパラホルムアルデヒドから選択される架橋剤を含む組成物も含む。この第二の組成物によって、膜上に微生物を固定することが可能となり、これにより本発明の方法を実施することによって検出のより優れた解像度を得ることが可能となる。
【0086】
本発明のキットは、求められている微生物の特異的検出のためのプローブ、特に配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号4又は配列番号5と少なくとも80%の同一性を示す配列を含む、上述に定義されるようなプローブも含むことが可能である。
【0087】
以下の実施例の目的は、本発明を説明するためのものであり、本発明を限定するものではない。
【実施例1】
【0088】
Milliflex Rapid法に従った細菌系の普遍的検出
検査される系を、−80℃で凍結される凍結チューブ(Dutscher,参照コード028049)中で保存し、ATCC、DSMZ及びNCTCで照会される凍結乾燥された系から調製する。
【0089】
凍結チューブを作製するために、チューブを調製する当日に、TSブロス(Biomerieux、参照コード41146)の100mLフラスコに播種し、35ないし37℃で温置する。増殖中、分光光度計(Eppendorf,Biophotometer参照コード6131000.012)を使用して、一定の正確な間隔で600nmでのOD測定を実施する。ODが0.5に到達すると、増殖を停止させる。凍結保護剤(Sigma参照コードC6039、細胞をグリセロールとともに凍結)600μL及び培養物600μLを各凍結チューブ中へ分注する。チューブを混和した後、−80℃に配置する。
【0090】
10−5及び10−6の希釈物を播種することによって、ブロス及び凍結されていない凍結チューブに対して計数を実施する。ペプトン水(Biomerieux、参照コード42111)9mLのフラスコ中において、これらの希釈物を調製する。各希釈物100μLを延展器でTSA寒天(Biomerieux、参照コード43011)上に播種し、35℃で24時間温置する。本工程を3回反復する。翌日、凍結チューブを解凍し、同一様式で計数する。APIギャラリー(Biomerieux)によって、調製された凍結チューブの純度を同定及び確認することが可能となる。
【0091】
全ての検査に関して、ペプトン水(Biomerieux、参照コード42111)のチューブ中に細菌系を希釈する。望ましい希釈を得るまで、ペプトン水のチューブ9mLへ、使用される系の凍結チューブ1mLを添加することによって、カスケード希釈物を調製する。
【0092】
疎水性格子パターンを有する0.45μmのPVDF膜を備えたMilliflex Rapid漏斗(Millipore、参照コードRM HVMFX24)中で、Milliflex Plus Vacuumポンプ(Millipore、参照コードMXP PLUS01)を使用して濾過を実施する。0.9%NaClを含有する生理塩類溶液(B.Braun、参照コード)50ないし100mLへ細菌を添加する。
【0093】
32.5℃±2.5℃のインキュベータ中のMilliflex Tryptic−soya寒天(Millipore、参照コードMXSM CTS48)又はR2A(Millipore、参照コードMXSM CRA48)固体媒体カセット上で、膜を温置する。
【0094】
使用される細菌によって時間が左右される温置後、膜の表面に各試薬35μLを均等に分注する「Milliflex Rapid Autospray Station」(Millipore、参照コードMXRP SPRKT)によって、溶解及び生物発光試薬(Millipore、参照コードMXRP BLRST)を膜へ適用する。次に、製造元の説明書に従って、Milliflex Rapidシステム(Millipore、参照コードMXRP KT230)によって膜を読み取る。
【0095】
Milliflex Rapidシステムは、CCDカメラを使用して、生物発光反応の間に発光される光を検出、増幅及び記録する複合システムである。本システムは、CCDカメラを有する検出タワー、増幅装置、画像分析装置並びにデータを回収、処理及び記録するためのソフトウェアからなる。
【0096】
分析装置は、発光されたシグナルから背景ノイズを減算し、画像を生じ、コンピュータへ転送する。次に、膜の提示がスクリーン上に現れ、システムは、図2ないし10に表されるように、膜上に存在するコロニーを計数する。
【0097】
オリゴヌクレオチドプローブを使用する、本発明の方法に従った細菌系の特異的検出
Milliflex Rapidシステムに関するのと同様に、0.45μmのPVDF膜(Millipore、参照コードMX HVWP124)を有する漏斗中でMilliflex Plus Vacuumポンプを使用して濾過を実施する。0.9%NaClを含有する生理塩類溶液50ないし100mLへ、検出されるべき細菌系の細胞を添加する。TSA培地のMilliflexカセット(Millipore、参照コードMXSM CTS48)上で膜を32.5℃±2.5℃で、微生物が微小コロニーを形成するのに必要な時間量にわたって温置する。
【0098】
寒天培地から膜を分離し、漏れ止め支持体(Millipore液体培地カセットの吸収パッド、参照コードMXLM CO120)上で透過性にする溶液2mLと接触させて(検出されるべき微生物の性質に応じて)大気温又は37℃で5ないし20分間、配置する。次の透過性にする溶液を検査した。
【0099】
透過性にする溶液第1番
−リゾチーム 4mg/mL
透過性にする溶液第2番
−リゾチーム 4mg/mL
−EDTA 5mM
透過性にする溶液第3番
−リゾチーム 4mg/mL
−EDTA 100mM
透過性にする溶液第4番
−リゾチーム 4mg/mL
−PEI 374.5μg/mL
透過性にする溶液第5番
(本発明に記載)
−リゾチーム 4mg/mL
−EDTA 5mM
−PEI 374.5μg/mL
透過性にする溶液第6番
(本発明に記載)
−リゾチーム 4mg/mL
−EDTA 100mM
−PEI 374.5μg/mL
【0100】
一度膜を透過性にする溶液で処理したら、前記膜を
−H+尿素 0.01%
−ホルムアルデヒド 1%
−エタノール 80%
−HO 全体量が1Lになるように
を含む固定溶液2mLと大気温で10分間接触させる。
【0101】
次に、膜をハイブリッド形成カセット上に転移させ、
−デキストラン 10%
−NaCl 1.74%
−ホルムアルデヒド 30%
−ピロリン酸ナトリウム 0.1%
−PVP 0.2%
−フィコール 0.2%
−EDTA 0.186%
−トリトンX−100 1%
−トリス−HCl 0.738%
−HO 全体量が1Lになるように
を含むプレハイブリッド形成溶液1.5mLと接触させるようにする。
【0102】
次に、前記膜を50℃で15分間、穏やかに撹拌しながら(10rpm)温置する。次に、プレハイブリッド形成溶液を、プローブ100mMを含む同一溶液1.5mLと置換し、膜の表面にフィルムを形成するようにする。
【0103】
上述のように、膜をハイブリッド形成溶液中で、50℃で60分間、穏やかに撹拌しながら(10rpm)温置する。
【0104】
次に、膜を
−CAPSO 0.26%
−トゥイーン20 0.2%
−HO 全体量が1Lになるように
を含む洗浄溶液(pH=10)20mLで洗浄する。
【0105】
50℃へあらかじめ加温しておいた水1L中に本洗浄溶液を希釈する。膜を洗浄溶液中へ撹拌しながら(30rpm)3回導入する。具体的なハイブリッド形成カセット及び具体的な洗浄タンクは、参照コードMillipore(登録商標)MXREXPEND及びMXRPWASHRのもとで市販されている。
【0106】
次に、スプレーステーション(Milliflex Rapid Autospray Station)を使用して、オリゴヌクレオチドプローブへ結合されたペルオキシダーゼ分子に作用する発光試薬(ルミノールの後に過酸化水素 −Millipore、参照コードWBKL S0050)を含むスプレーを使用して膜を処理した後、普遍的な検出に対するものと同一の方法でMilliflex Rapid(登録商標)R−擬似プログラムに従って画像化することによって分析する。
【0107】
透過性にするアッセイにおいて検査される多様な化学生成物は、Sigma−Aldrich(登録商標)社製であり、リゾチーム(参照コードL6876)、EDTA(参照コードE5134)、ポリエチレンイミン(参照コードP3143)、ジグルコン酸クロルヘキシジン(参照コードC9394)、アルギニンエチルエステル(参照コードA2883)、プロテイナーゼK(参照コードP4850)、RNase阻害剤(参照コードR7397)である。溶液をPBS(Gibco、参照コード20012−019)中で調製し、液体培地カセットを使用して膜へ適用する。
【0108】
グラム陽性菌バチルス・スブチリス(Bacillus subtilis)を特異的に検出する目的のために、上述の多様な透過性にする溶液1ないし6を使用して得られた結果を図4ないし9に示す。
【0109】
膜上に存在する細菌が全て効果的に透過性にする処理がされたことを確認するために、寒天培地上での従来の計数によって検出されるコロニー数に対する、本発明の透過性にする処理及び(配列番号2のオリゴヌクレオチドプローブを使用する)ハイブリッド形成プロトコールに従って検出されるコロニー数の比を算出した(カバー度)。得られた結果及び相当するカバー度が以下の表1に報告されている。
【0110】
【表1】

【0111】
最も効果的な透過性にする溶液は、特に37℃で使用するときのリゾチーム(4mg/mL)、EDTA(100mM)及びPEI(374.5μg/mL)を含む組成物第6番であることが表1から明らかである。その後、リゾチームの2つの濃度の何れによって最良のカバー度を得ることが可能であるかを決定するために、この組成物第6番に対して検査を行った(1mg/mL及び4mg/mL)。B.スブチリスを検出標的として採用する上述の特異的検出プロトコールに従って、これら2つの濃度の比較を実施した。カバー度の結果を表2に表す。
【0112】
【表2】

【0113】
これらの結果は、本発明の1mg/mLのリゾチーム濃度によって、4mg/mLのより高い濃度よりも良好な結果が得られることが可能になることを示す。
【0114】
−リゾチーム 1mg/mL
−EDTA 100mM
−PEI 374.5μg/mL
−RNase阻害剤 1×
を含む「最適化された」透過性にする組成物第7番を、上述の標的化されたプロトコールに従って、及び並行して普遍的な検出方法に従って、B.スブチリスに関して検査した。結果を図2に表す。R擬似画像分析装置によって計数されたコロニー数から算出されるカバー度値は、100%の等級である。
【0115】
配列番号3のオリゴヌクレオチドプローブを使用して、グラム陽性菌スタフィロコッカス・アウレウスで同様の結果を得た(表3)。
【0116】
【表3】

【0117】
5つの微生物、すなわちB.スブチリス、S.アウレウス、P.エルギノーサ、イー・コリ及びS.エンテリカ亜種アリゾナエを使用して、本発明の特異的検出方法に従ってB.スブチリスの検出の特異性を確認することを目的とした検査を実施した。微生物全ての増殖を可能にするために、TSA培地上において25℃で一晩温置した後、本検査を実施した。B.スブチリスに特異的なプローブ(配列番号2)を使用して得られた結果を図3に表す。
【0118】
B.スブチリスに関するものと同一方法でグラム陰性菌シュードモナス・エルギノーサを特異的に検出する目的のため、透過性にする組成物第6番(4mg/mLリゾチーム+100mM EDTA+374.5μg/mL PEI)を、本発明に従って透過性パッド上で20分間使用した。この効果のために、配列番号1に相当するオリゴヌクレオチドプローブをハイブリッド形成プローブとして使用した。画像分析装置を介して本プロトコールの終了時に得られた画像を図10に表す。本発明の方法が、検出された細菌の微小コロニーを良好に識別することが可能であることが観察され得る。
【図面の簡単な説明】
【0119】
【図1】図1は、実施例1において実施されるような、本発明の微生物を特異的に検出するための方法の多様な工程を説明する。
【図2】図2は、(A)ATP生物発光による一般的な検出の方法に従って得られる結果と、(B)試薬として、リゾチーム1mg/mL、EDTA100mM、PEI374.5μg/mL及びRNase阻害剤(1×濃度)を含み、配列番号2に相当する配列のハイブリッド形成プローブを使用する本発明の方法に係るB.スブチリス(B.subtiris)を特異的に検出するための透過性にする組成物第7番を使用して得られる結果とを比較する。
【図3】図3は、B.スブチリスに特異的なプローブが、(A)B.スブチリス、(B)S.アウレウス、(C)P.エルギノーサ、(D)イー・コリ、及び(E)S.エンテリカ亜種アリゾナエの細菌コロニーに関して、本発明に従って使用されるときに得られる、コンピュータで発生させた画像を表す。
【図4】図4は、B.スブチリスを標的微生物として使用する実施例1に記載のプロトコールに従って得られた、コンピュータで発生させた画像を表し、透過性にする試薬としてリゾチーム4mg/mLを含有する透過性にする組成物(組成物第1番)の使用に相当する。
【図5】図5は、B.スブチリスを標的微生物として使用する実施例1に記載のプロトコールに従って得られた、コンピュータで発生させた画像を表し、透過性にする試薬としてリゾチーム4mg/mL及びEDTA5mMを含む組成物(組成物第2番)の使用に相当する。
【図6】図6は、B.スブチリスを標的微生物として使用する実施例1に記載のプロトコールに従って得られた、コンピュータで発生させた画像を表し、透過性にする試薬としてリゾチーム4mg/mL及びEDTA100mMを含む組成物(組成物第3番)の使用に相当する。
【図7】図7は、B.スブチリスを標的微生物として使用する実施例1に記載のプロトコールに従って得られた、コンピュータで発生させた画像を表し、透過性にする試薬としてリゾチーム4mg/mL及びPEI374.5μg/mLを含む組成物(組成物第4番)の使用に相当する。
【図8】図8は、B.スブチリスを標的微生物として使用する実施例1に記載のプロトコールに従って得られた、コンピュータで発生させた画像を表し、透過性にする試薬としてリゾチーム4mg/mL、EDTA5mM及びPEI374.5μg/mLを含む組成物(本発明の組成物第5番)の使用に相当する。
【図9】図9は、B.スブチリスを標的微生物として使用する実施例1に記載のプロトコールに従って得られた、コンピュータで発生させた画像を表し、透過性にする試薬としてリゾチーム4mg/mL、EDTA100mM及びPEI374.5μg/mLを含む組成物(本発明の組成物第6番)の使用に相当する。
【図10】図10は、試薬としてリゾチーム4mg/mL、EDTA100mM及びPEI374.5μg/mLを含む透過性にする組成物を使用して、本発明の方法に従ってグラム陰性菌シュードモナス・エルギノーサを特異的に検出するときに得られる、コンピュータで発生させた画像を表す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエチレンイミン(PEI)及びエチレンジアミン四酢酸(EDTA)の組み合わせを含むこと、PEIの最終濃度が100μg/mL超であること、及び最終的なEDTA濃度が組成物中において、50mM超であることを特徴とする、微生物の壁を透過性にするための組成物。
【請求項2】
リゾチームをさらに含むことを特徴とする、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
最終的な組成物中のEDTAの濃度が、50mMと150mMとの間であること、好ましくは50mMと100mMとの間であることを特徴とする、請求項1及び2の何れか一項に記載の組成物。
【請求項4】
組成物中のPEIの濃度が、100μg/mLと900μg/mLとの間であること、好ましくは200μg/mLと800μg/mLとの間であることを特徴とする、請求項1ないし3の何れか一項に記載の該組成物。
【請求項5】
何れの界面活性剤も含まないことを特徴とする、請求項1ないし4の何れか一項に記載の組成物。
【請求項6】
次の工程:
(a)液体又は気体状媒体中に存在する微生物が、膜上又は膜中で保持されるように、前記膜を通じて前記媒体が濾過される工程;
(b)前記膜及び前記微生物を、請求項1ないし5に記載の微生物の壁を透過性にするための組成物と接触させる工程;
(c)架橋剤を使用して、前記膜上に細胞が固定される工程;
(d)前記微生物を、前記微生物の壁を横断することができる、場合によって標識された1つ又はそれ以上の巨大分子と接触させる工程;及び
(e)前記微生物中へ貫通した前記巨大分子が検出される工程
を含むことを特徴とする、液体又は気体状媒体中に当初存在する微生物を膜上で計数及び/又は同定するための方法。
【請求項7】
工程a)と工程b)との間に、微生物を培養するさらなる工程を含むことを特徴とする、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
工程c)において架橋剤として機能する薬剤が、グルタルアルデヒド、ホルムアルデヒド及びパラホルムアルデヒドから選択されることを特徴とする、請求項6及び7の何れかに記載の方法。
【請求項9】
工程d)において、使用される巨大分子が、ハイブリッド形成プローブであること、好ましくはオリゴヌクレオチド又はPNA型ハイブリッド形成プローブであることを特徴とする、請求項6ないし8の何れか一項に記載の方法。
【請求項10】
ハイブリッド形成プローブが、前記微生物のRNAとハイブリッド形成することを特徴とする、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
ハイブリッド形成プローブが、前記微生物のリボソームRNAとハイブリッド形成することを特徴とする、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
工程d)において使用されるハイブリッド形成プローブが、配列番号1、2、3、4及び5から選択される配列と少なくとも80%の同一性を呈するオリゴヌクレオチド配列を含むことを特徴とする、請求項9ないし11の何れか一項に記載の方法。
【請求項13】
工程d)において、巨大分子が、光又は蛍光シグナルの発光を可能にする酵素と結合することによって標識されることを特徴とする、請求項6ないし12の何れか一項に記載の方法。
【請求項14】
工程e)において微生物の検出が、化学発光若しくは蛍光反応及び適切なインターフェイスを使用して発光される光シグナルの認識によって実施されることを特徴とする、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
工程d)と工程e)との間に、プローブ若しくはプライマーと、前記微生物の核酸との特異的ハイブリッド形成のさらなる工程を含むことを特徴とする、請求項6ないし14の何れか一項に記載の方法。
【請求項16】
工程c)と工程e)との間に、微生物中に存在する核酸の特異的な増幅のさらなる工程を含むことを特徴とする、請求項6ないし15の何れか一項に記載の方法。
【請求項17】
その上で微生物が検出される膜が主としてPVDF又はナイロン(登録商標)からなることを特徴とする、請求項6ないし16の何れか一項に記載の方法。
【請求項18】
単離された細胞又は微生物中へ巨大分子を貫通させるための、請求項1ないし5の何れか一項に記載の透過性にする組成物の使用。
【請求項19】
微生物を計数及び/又は同定するための方法における、請求項1ないし5の何れか一項に記載の透過にする組成物の使用。
【請求項20】
PEI及びEDTAの組み合わせを含む透過にする組成物の、薬物アジュバントとしての、使用。
【請求項21】
−少なくとも1つの標識された巨大分子;及び
−請求項1ないし5の何れか一項に記載の微生物の壁を透過性にするための組成物
を含むことを特徴とする、微生物を検出及び計数するためのキット。
【請求項22】
グルタルアルデヒド、ホルムアルデヒド及びパラホルムアルデヒドから選択される架橋剤を含む組成物も含むことを特徴とする、請求項21に記載のキット。
【請求項23】
前記標識された巨大分子が、ハイブリッド形成プローブからなることを特徴とする、請求項21又は22の何れか一項に記載のキット。
【請求項24】
標識された巨大分子が、配列番号1ないし5の配列のうちの1つと少なくとも80%の同一性を呈する配列を含むハイブリッド形成プローブからなることを特徴とする、請求項23に記載のキット。
【請求項25】
濾過膜、好ましくはPVDF又はナイロン(登録商標)膜も含むことを特徴とする、請求項21ないし24の何れか一項に記載のキット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2009−34093(P2009−34093A)
【公開日】平成21年2月19日(2009.2.19)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2008−107507(P2008−107507)
【出願日】平成20年4月17日(2008.4.17)
【出願人】(390019585)ミリポア・コーポレイション (212)
【氏名又は名称原語表記】MILLIPORE CORPORATION
【Fターム(参考)】