説明

エチレン/テトラフルオロエチレン系共重合体

【課題】引張降伏応力が高く、優れた透明性を有し、融点の高いETFEの提供を目的とする。
【解決手段】エチレンに基づく繰り返し単位と、テトラフルオロエチレンに基づく繰り返し単位と、Y−(CF−Z(ただし、YおよびZは、それぞれ独立にビニル基、トリフルオロビニル基またはトリフルオロビニルオキシ基である。)で表される単量体(a)に基づく繰り返し単位とを有することを特徴とするエチレン/テトラフルオロエチレン系共重合体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エチレン/テトラフルオロエチレン系共重合体に関する。
【背景技術】
【0002】
エチレン(以下、「E」という。)に基づく繰り返し単位とテトラフルオロエチレン(以下、「TFE」という。)に基づく繰り返し単位を有するエチレン/テトラフルオロエチレン系共重合体(以下、「ETFE」という。)は、耐熱性、耐候性、電気絶縁性、耐油性等に優れることから、チューブ、パイプ、コーティング材、電線被覆材、フィルム等の種々の形態で使用されている。
【0003】
例えば、ETFEフィルムは、農業ハウス、園芸ハウス、芝生が育成されているスポーツ施設、展示場等の膜構造物等の用途に使用されている。前記用途で使用されるETFEフィルムには、膜構造物内での植物の育成、開放感の付与等の点から、耐候性に加え、優れた透明性が求められる。そこで、ETFEの透明性を向上させるために、以下のETFEが知られている。
(1)Eに基づく繰り返し単位と、TFEに基づく繰り返し単位と、ペルフルオロブチルエチレン(以下、「PFBE」という。)に基づく繰り返し単位とを有し、PFBEに基づく繰り返し単位の割合が、全繰り返し単位に対して、2〜7モル%であるETFE(特許文献1)。
(2)Eに基づく繰り返し単位と、TFEに基づく繰り返し単位と、CH=CF(CFHに基づく繰り返し単位と、ヘキサフルオロプロピレンに基づく繰り返し単位とを有し、CH=CF(CFHに基づく繰り返し単位とヘキサフルオロプロピレンに基づく繰り返し単位を合計した割合が、全繰り返し単位に対して、12.6〜29.2モル%であるETFE(特許文献2)。
【0004】
一方、膜構造物では、例えば、ETFEフィルムを複数枚重ね合わせて鉄枠で挟み、該ETFEフィルム間に空気を充填して、風船状に膨らませたパネルとする場合がある。この場合、ETFEフィルムには展張する際に大きな張力が加わることから、耐候性、透明性に加えて、高い引張降伏応力が要求される。しかし、(1)、(2)に記載のETFEは、優れた透明性を有しているものの、引張降伏応力は充分に高くないため外力により伸びやすい。また、(1)、(2)に記載のETFEは、EおよびTFE以外の単量体に基づく単位が多量に含有されることから、融点が大きく低下する。そのため、(1)、(2)に記載のETFEの適用範囲には制限がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平7−41522号公報
【特許文献2】国際公開第1998/10000号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、引張降伏応力が高く、優れた透明性を有し、融点が高いETFEの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、前記課題を解決するために以下の構成を採用した。
[1]Eに基づく繰り返し単位と、TFEに基づく繰り返し単位と、下式(1)で表される単量体(a)に基づく繰り返し単位とを有することを特徴とするETFE。
Y−(CF−Z ・・・(1)
(ただし、YおよびZは、それぞれ独立にビニル基、トリフルオロビニル基またはトリフルオロビニルオキシ基である。)
[2]前記単量体(a)に基づく繰り返し単位の割合が、前記Eに基づく繰り返し単位とTFEに基づく繰り返し単位の合計(100モル%)に対して、0.5〜2モル%である、前記[1]に記載のETFE。
[3]前記TFEに基づく繰り返し単位とEに基づく繰り返し単位のモル比(TFE/E)が30/70〜70/30である、前記[1]または[2]に記載のETFE。
[4]前記単量体(a)が、下式(1−1)で表される単量体である、前記[1]〜[3]のいずれか一項に記載のETFE。
CH=CH−(CF−CH=CH ・・・(1−1)
[5]さらに、重合性二重結合を1個有する単量体(b)(EおよびTFEを除く。)に基づく繰り返し単位を有する、前記[1]〜[4]のいずれか一項に記載のETFE。
[6]前記単量体(b)が、下式(2)で表される単量体である、前記[5]に記載のETFE。
CH=CX(CFW ・・・(2)
(ただし、XおよびWは、それぞれ独立に水素原子またはフッ素原子であり、nは1〜8の整数である。)
[7]前記単量体(b)に基づく繰り返し単位の割合が、前記Eに基づく繰り返し単位とTFEに基づく繰り返し単位の合計(100モル%)に対して、0.01〜10モル%である、前記[5]または[6]に記載のETFE。
【発明の効果】
【0008】
本発明のETFEは、引張降伏応力が高く、優れた透明性を有し、融点が高い。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本明細書においては、式(1)で表される化合物を化合物(1)と記す。他の式で表される化合物も同様に記す。また、本明細書における単量体は、重合性不飽和基を有する化合物を意味する。
【0010】
本発明のETFEは、Eに基づく繰り返し単位(以下、「E単位」という。)と、TFEに基づく繰り返し単位(以下、「TFE単位」という。)と、後述する単量体(a)に基づく繰り返し単位(以下、「A単位」という。)とを必須として有し、必要に応じて後述する単量体(b)に基づく繰り返し単位(以下、「B単位」という。)を有する。
【0011】
単量体(a)は、下記化合物(1)である。
Y−(CF−Z ・・・(1)
【0012】
YおよびZは、それぞれ独立にビニル基、トリフルオロビニル基またはトリフルオロビニルオキシ基である。YおよびZは、EおよびTFEとの共重合性がより良好である点から、ビニル基またはトリフルオロビニルオキシ基が好ましい。また、入手の容易性の点から、YとZは同一の基であることがより好ましく、YおよびZが、共にビニル基またはトリフルオロビニル基であることがさらに好ましく、YおよびZが、共にビニル基であることが特に好ましい。
【0013】
好ましい化合物(1)は、下記化合物(1−1)〜(1−3)である。
CH=CH−(CF−CH=CH ・・・(1−1)、
CF=CF−(CF−CH=CH ・・・(1−2)、
CF=CF−(CF−CF=CF ・・・(1−3)。
化合物(1)としては、入手の容易性の点から、化合物(1−1)、化合物(1−3)がより好ましく、化合物(1−1)が特に好ましい。
EとTFEは交互に重合する傾向があり、化合物(1−1)は重合性不飽和基がEと同じビニル基であるため、化合物(1−1)およびEと、TFEが交互に重合する。そのため、化合物(1−1)を使用しても、ビニル基が連続して重合して形成された炭化水素鎖が並ぶ可能性は低く、優れた耐熱性が得られやすい。
【0014】
化合物(1−1)〜(1−3)以外の化合物(1)としては、以下の化合物が挙げられる。
CH=CH−O−(CF−O−CH=CH
CH=CH−(CF−O−CH=CH
CF=CF−O−(CF−O−CH=CH
単量体(a)は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0015】
単量体(b)は、E、TFEおよび単量体(a)と共重合可能な重合性二重結合を1個有する単量体であり、EおよびTFEを除く単量体である。ETFEが単量体(b)に基づく繰り返し単位を有することで、ETFEの耐ストレスクラック性がより良好になる。単量体(b)における重合性不飽和基としては、例えば、ビニル基、トリフルオロビニル基、トリフルオロビニルオキシ基等が挙げられる。
【0016】
単量体(b)としては、下記化合物(2)が好ましい。
CH=CX(CFW ・・・(2)
XおよびWは、それぞれ独立に水素原子またはフッ素原子である。
nは1〜8の整数であり、1〜6が好ましく、2〜5がより好ましい。
【0017】
化合物(2)としては、Xが水素原子、すなわち下記化合物(2−1)が好ましい。
CH=CH(CFW ・・・(2)
Wは、水素原子またはフッ素原子である。
nは1〜8の整数であり、1〜6が好ましく、2〜5がより好ましい。
【0018】
化合物(2−1)としては、例えば、以下の化合物が挙げられる。
CH=CH(CFF、
CH=CH(CFF、
CH=CH(CFF、
CH=CH(CFF、
CH=CH(CFF、
CH=CH(CFF、
CH=CH(CFH、
CH=CH(CFH、
CH=CH(CFH、
CH=CH(CFH、
CH=CH(CFH、
CH=CH(CFH。
【0019】
化合物(2−1)以外、すなわちXがフッ素原子である化合物(2)としては、例えば、以下の化合物が挙げられる。
CH=CF(CFF、
CH=CF(CFF、
CH=CF(CFF、
CH=CF(CFF、
CH=CF(CFF、
CH=CF(CFF、
CH=CF(CFH、
CH=CF(CFH、
CH=CF(CFH、
CH=CF(CFH、
CH=CF(CFH、
CH=CF(CFH。
【0020】
また、単量体(b)としては、化合物(2)以外のα−オレフィン類またはフルオロオレフィン類等が挙げられる。
前記α−オレフィン類としては、例えば、プロピレン、ブテン等が挙げられる。
前記フルオロオレフィン類としては、例えば、フッ化ビニリデン(VDF)、フッ化ビニル(VF)、トリフルオロエチレン、ヘキサフルオロイソブチレン(HFIB)等の重合性不飽和基に水素原子を有するフルオロオレフィン;ヘキサフルオロプロピレン(HFP)、クロロトリフルオロエチレン(CTFE)、ペルフルオロ(メチルビニルエーテル)(PMVE)、ペルフルオロ(エチルビニルエーテル)(PEVE)、ペルフルオロ(プロピルビニルエーテル)(PPVE)、ペルフルオロ(ブチルビニルエーテル)(PBVE)、ペルフルオロ(アルキルビニルエーテル)(PAVE)等の重合性不飽和基に水素原子を有しないフルオロオレフィン(ただし、TFEを除く。)等が挙げられる。
単量体(b)は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0021】
単量体(b)における重合性不飽和基は、単量体(a)におけるYおよびZの少なくとも一方と同じであることが好ましく、単量体(a)におけるYおよびZの両方と同じであることがより好ましい。これにより、単量体(a)と単量体(b)の重合性がほぼ同等となり、得られるETFE内でA単位とB単位が偏在することを抑制しやすい。
単量体(a)と単量体(b)を両方使用する場合、それらの組み合わせは、単量体(a)が化合物(1−1)または化合物(1−2)で、単量体(b)が化合物(2−1)であることが好ましく、単量体(a)が化合物(1−1)で、単量体(b)が化合物(2−1)であることが特に好ましい。
【0022】
ETFEにおけるTFE単位とE単位のモル比(TFE/E)は、30/70〜70/30が好ましく、40/60〜60/40がより好ましい。
A単位の割合は、E単位とTFE単位の合計(100モル%)に対して、0.3〜5モル%が好ましく、0.5〜3モル%がより好ましく、0.5〜2モル%が特に好ましい。
B単位の割合は、E単位とTFE単位の合計(100モル%)に対して、0.01〜10モル%が好ましく、0.1〜5モル%がより好ましい。
【0023】
本発明におけるE単位、TFE単位、A単位およびB単位の割合は、得られたETFEの元素分析、NMR分析、IR分析から求める。なお、例えば、A単位の割合が小さい場合等、各繰り返し単位の割合がIR分析等から求められない場合は、ETFEの製造時の各単量体の仕込み量に基づいて算出してもよい。ただし、単量体の仕込み量に基づいて算出する場合、単量体(a)および単量体(b)の重合性が低いと該単量体が未反応のまま残るため、得られるETFEの各繰り返し単位の割合が、ETFE製造時の各単量体の仕込み量の割合と一致しないことがある。この場合は、未反応の単量体の量をガスクロマトグラフィー等により測定し、その未反応量と仕込み量との差に基づいて各繰り返し単位の割合を算出することが好ましい。
単量体(b)が、重合性不飽和基がビニル基である化合物(2−1)である場合、単量体(b)の仕込み量が少なければ(EおよびTFEの合計(100モル%)に対して2モル%以下)、ETFE中のB単位の割合は単量体(b)の仕込み量の割合と同程度となる。よって、単量体(a)が、重合性不飽和基としてビニル基を有する化合物(1−1)、化合物(1−2)である場合も、仕込み量が2モル%以下であれば、ETFE中のA単位の割合は単量体(a)の仕込み量の割合と同程度となると考えられる。
【0024】
本発明のETFEの分子量は、各種成形方法が採用できる範囲が好ましい。ETFEの分子量は、容量流速(Q値)が指標となる。
ETFEの297℃、7kg/cm荷重下における容量流速(Q値)は、0.1〜30mm/秒が好ましく、1〜20mm/秒がより好ましい。ETFEの容量流速は、高化式フローテスタによって測定される。
【0025】
(製造方法)
本発明のETFEは、重合開始剤の存在下、E、TFEおよび単量体(a)を必須成分として含み、必要に応じて単量体(b)を含む単量体の混合物を重合することにより製造される。
重合方法としては、特に限定されず、バルク重合、溶液重合、乳化重合、懸濁重合等を採用できる。
溶液重合の重合媒体としては、ハイドロフルオロカーボン、クロロフルオロカーボン、ハイドロクロロフルオロカーボン、ハイドロフルオロエーテル、ハイドロカーボン、アルコール等が使用できる。
乳化重合の重合媒体としては、水が使用される。また、水に加えて、アルコール等の水溶性の有機媒体を添加してもよい。
懸濁重合の重合媒体としては、水が使用される。水に加えて、重合媒体を添加する場合には、その重合媒体としては、ハイドロフルオロカーボン、クロロフルオロカーボン、ハイドロクロロフルオロカーボン、ハイドロカーボン等が使用できる。
【0026】
ハイドロフルオロカーボンとしては、1,1,2,2−テトラフルオロシクロブタン、CFCFHCFCFCF、CF(CFH、CFCFCFHCFCF、CFCFHCFHCFCF、CFHCFHCFCFCF、CF(CFH、CFCH(CF)CFCFCF、CFCF(CF)CFHCFCF、CFCF(CF)CFHCFHCF、CFCH(CF)CFHCFCF、CFCFCHCH、CF(CFCHCH等が挙げられる。なかでも、ペルフルオロペンチルジフルオロメタン(CF(CFH)がより好ましい。
クロロフルオロカーボンとしては、1,1,2−トリクロロトリフルオロエタン等が挙げられる。
ハイドロクロロフルオロカーボンとしては、1,1,2,2,3−ペンタフルオロ−1,3−ジクロロプロパン、1−フルオロ−1,1−ジクロロエタン等が挙げられる。
ハイドロフルオロエーテルとしては、CFCHOCFCFH、CF(CF)CFCFOCH、CF(CFOCH等が挙げられる。
ハイドロカーボンとしては、ペンタン、ヘキサン、シクロヘキサン等が挙げられる。
アルコールとしては、メタノール、エタノール等が挙げられる。
【0027】
重合開始剤としては、ラジカル重合開始剤が好ましい。ラジカル重合開始剤としては、その半減期が10時間である温度が0〜100℃であるものが好ましく、20〜90℃であるものがより好ましい。具体的には、以下の化合物が挙げられる。
アゾビスイソブチロニトリル等のアゾ化合物、
イソブチリルペルオキシド、オクタノイルペルオキシド、ベンゾイルペルオキシド、ラウロイルペルオキシド等の非フッ素系ジアシルペルオキシド、
ジイソプロピルペルオキシジカ−ボネート、ジ−n−プロピルペルオキシジカーボネート等のペルオキシジカーボネート、
tert−ブチルペルオキシピバレート、tert−ブチルペルオキシイソブチレート、tert−ブチルペルオキシアセテート等のペルオキシエステル、
(Q(CFCOO)(ただし、Qは水素原子、フッ素原子または塩素原子であり、rは1〜10の整数である。)で表される化合物等の含フッ素ジアシルペルオキシド、
過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸アンモニウム等の無機過酸化物等。
【0028】
単量体混合物中のTFEとEのモル比(TFE/E)は、30/70〜70/30が好ましく、40/60〜60/40がより好ましい。
単量体混合物中の単量体(a)の割合は、単量体(a)の重合性によっても異なるが、EとTFEの合計(100モル%)に対して、0.01〜15モル%が好ましく、0.1〜10モル%がより好ましく、0.5〜3モル%が特に好ましい。
単量体混合物中の単量体(b)の割合は、単量体(b)の重合性によっても異なるが、EとTFEの合計(100モル%)に対して、0.01〜10モル%が好ましく、0.1〜7.5モル%がより好ましく、0.1〜5モル%が特に好ましい。
【0029】
重合圧力は、0.01〜10MPaが好ましく、0.1〜3MPaがより好ましく、0.5〜3MPaが特に好ましい。
重合温度は、0〜100℃が好ましく、20〜90℃がより好ましい。重合温度は、単量体を仕込む前に予め重合容器の温度を調節することで調節してもよく、単量体を仕込んだ後に重合容器の温度を調節することで調節してもよい。
重合時間は、重合温度との兼ね合いで決まるものであるが、30分〜15時間が好ましい。
【0030】
本発明のETFEは、E単位およびTFE単位に加えて、A単位を有しているため、優れた透明性と、高い引張降伏応力が得られる。A単位により前述の効果が得られる要因は明らかではないが、以下のように考えられる。CH=CH−(CF−CH=CH等の炭素数6以上のペルフルオロアルキレン基を有する単量体は、両末端の不飽和結合が別々に重合することから、ETFE中で、ETFE鎖間を架橋するような構造を形成する。一方、単量体(a)は、ETFE中で、架橋構造を形成する割合が少なく、下式(3)で表されるような環化した構造の単位を形成する傾向があると考えられる。その結果、ETFEの結晶性が低くなり、透明性の向上と、引張降伏応力の向上とを両立できると考えられる。
そのうえ、本発明のETFEにおいて、A単位の含有量が少ないため、充分に高い融点を有するものと考えられる。
【0031】
【化1】

【実施例】
【0032】
以下、実施例によって本発明を詳細に説明するが、本発明は以下の記載によっては限定されない。例1、2は実施例であり、例3〜7は比較例である。
[例1]
1Lの撹拌機付き圧力容器を脱気した後、該圧力容器に、重合媒体であるペルフルオロペンチルジフルオロメタン(以下、「C6H」という。)の786gと1,1,2,2,3−ペンタフルオロ−1,3−ジクロロプロパン(以下、「225cb」という。)の222g、単量体(a)である3,3,4,4,5,5,6,6−オクタフルオロ−1,7−オクタジエン(化合物(1−1))の5.4g、TFEの89.2g、および混合ガス(TFE/E=55/45(モル比))の35gを室温(25℃)において仕込んだ。ついで、該圧力容器の内温を66℃まで昇温させ、重合開始剤であるtert−ブチルペルオキシピバレート(10時間半減期温度55℃)の1質量%溶液(溶媒:C6H)(以下、「tBPOP溶液」という。)の8mLを仕込み、重合を開始させた。重合の進行に伴って圧力が低下するため、圧力が一定になるように、混合ガス(TFE/E=55/45(モル比))と、該混合ガスに対して1.5モル%に相当する割合の化合物(1−1)を連続的に圧力容器に仕込んだ。重合開始後の混合ガスの仕込み量が60gになった時点で圧力容器の内温を室温まで冷却し、未反応ガスを空放して圧力容器を開放した。圧力容器の内容物を225cbで洗浄し、ガラスフィルターで濾過してスラリーを得た。得られたスラリーを60℃で12時間真空乾燥してETFE(1)を63g得た。
ETFE(1)におけるTFE単位とE単位のモル比(TFE/E)は53.0/47.0であった。A単位の割合は、TFE単位とE単位の合計(100モル%)に対して、1.3モル%であった。
【0033】
[例2]
1Lの撹拌機付き圧力容器を脱気した後、該圧力容器に、重合媒体であるC6Hの786gと225cbの222g、単量体(a)である化合物(1−1)の2.9g、TFEの89.2g、および混合ガス(TFE/E=55/45(モル比))の35gを仕込み、重合開始後の圧力が一定になるように、混合ガス(TFE/E=55/45(モル比))と、該混合ガスに対して0.8モル%に相当する割合の化合物(1−1)を連続的に仕込んだ以外は、例1と同様にしてETFE(2)を69g得た。
ETFE(2)におけるTFE単位とE単位のモル比(TFE/E)は52.5/47.5であった。A単位の割合は、TFE単位とE単位の合計(100モル%)に対して、0.7モル%であった。
【0034】
[例3]
1Lの撹拌機付き圧力容器を脱気した後、該圧力容器に、重合媒体であるC6Hの812.9gと225cbの215.9g、TFEの87.7g、混合ガス(TFE/E=54/46(モル比))の36.2g、および単量体(b)であるPFBE(ペルフルオロブチルエチレン)の5.4gを仕込み、重合開始剤としてtBPOP溶液の1mLを使用し、重合開始後の圧力が一定になるように、混合ガス(TFE/E=54/46(モル比))と、該混合ガスに対して1.5モル%に相当する割合でPFBEを連続的に仕込んだ以外は、例1と同様にして白色のETFE(3)を63g得た。
ETFE(3)におけるTFE単位とE単位のモル比(TFE/E)は53.4/46.6であった。B単位(PFBEに基づく単位)の割合は、TFE単位とE単位の合計(100モル%)に対して、1.4モル%であった。
【0035】
[例4]
1Lの撹拌機付き圧力容器を脱気した後、該圧力容器に、重合媒体であるC6Hの775.3gと225cbの239.9g、TFEの87.7g、混合ガス(TFE/E=54/46(モル比))の36.2g、および単量体(b)であるPFBEの2.8gを仕込み、重合開始剤としてtBPOP溶液の1mLを使用し、重合開始後の圧力が一定になるように、混合ガス(TFE/E=54/46(モル比))と、該混合ガスに対して0.8モル%に相当する割合でPFBEを連続的に仕込んだ以外は、例1と同様にして白色のETFE(4)を63g得た。
ETFE(4)におけるTFE単位とE単位のモル比(TFE/E)は52.5/47.5であった。B単位(PFBEに基づく単位)の割合は、TFE単位とE単位の合計(100モル%)に対して、0.7モル%であった。
【0036】
[例5]
1Lの撹拌機付き圧力容器を脱気した後、該圧力容器に、重合媒体である225cbの936.8g、TFEの89.4g、混合ガス(TFE/E=54/46(モル比))の35.0g、単量体(a)の比較対象である3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8−ドデカフルオロ−1,9−デカジエン(CH=CH−(CF−CH=CH)(以下、「C6ジエン」という。)の0.5g、および単量体(b)であるPFBEの5.2gを仕込み、重合開始剤としてtBPOP溶液の2mLを使用し、重合開始後の圧力が一定になるように、混合ガス(TFE/E=54/46(モル比))と、該混合ガスに対して1.5モル%に相当する割合でPFBEを連続的に仕込んだ以外は、例1と同様にしてETFE(5)を62g得た。
ETFE(5)におけるTFE単位とE単位のモル比(TFE/E)は52.7/47.3であった。B単位(PFBEに基づく単位)の割合は、TFE単位とE単位の合計(100モル%)に対して、0.7モル%であった。C6ジエンに基づく単位(以下、「A’単位」という。)の割合は、TFE単位とE単位の合計(100モル%)に対して、0.1モル%であった。
【0037】
[例6]
1Lの撹拌機付き圧力容器を脱気した後、該圧力容器に、重合媒体である225cbの936.8g、TFEの89.4g、混合ガス(TFE/E=54/46(モル比))の35.0g、単量体(a)の比較対象であるC6ジエンの7.5gを仕込み、重合開始剤としてtBPOP溶液の2mLを使用し、重合開始後の圧力が一定になるように、混合ガス(TFE/E=54/46(モル比))を連続的に仕込み、重合開始後の混合ガスの仕込み量が20gになったところで圧力容器の内温を室温まで冷却した以外は、例1と同様にしてETFE(6)を21g得た。
ETFE(6)におけるTFE単位とE単位のモル比(TFE/E)は53.5/46.5であった。A’単位の割合は、TFE単位とE単位の合計(100モル%)に対して、1.4モル%であった。
【0038】
[例7]
1Lの撹拌機付き圧力容器を脱気した後、該圧力容器に、重合媒体であるC6Hの683.9gと225cbの252.9g、TFEの88.5g、および混合ガス(TFE/E=54/46(モル比))の37.0gを仕込み、重合開始剤としてtBPOP溶液の1mLを使用し、重合開始後の圧力が一定になるように、混合ガス(TFE/E=54/46(モル比))を連続的に仕込み、重合開始後の混合ガスの仕込み量が50gになったところで圧力容器の内温を室温まで冷却した以外は、例1と同様にしてETFE(7)を59g得た。
ETFE(7)におけるTFE単位とE単位のモル比(TFE/E)は53.5/46.5であった。
【0039】
[測定方法]
各例で得られたETFEについての組成(各単位の割合)、容量流量(Q値)、融点、引張降伏応力およびヘイズの測定方法を以下に示す。
1.ETFEの組成
ETFE中のE単位、TFE単位、B単位の割合は、フッ素元素分析および19F−溶融NMRにより求めた。また、ETFE中のA単位およびA’単位の割合は、ETFEを除去後の225cbと、大気放出した混合ガス(TFE/E)に含まれる単量体(a)または単量体(b)の量をガスクロマトグラフィにて測定し、未反応の単量体(a)または単量体(b)の量を決定し、この未反応量と仕込み量との差から算出した。
2.容量流速(Q値)
高化式フローテスタを使用し、297℃、7kg/cm荷重下で、直径2.095mm、長さ8mmのノズルから単位時間に流出するETFEの容量(mm/秒)を測定した。
3.融点
SII DSC6220型示差走査熱量計装置(セイコー電子社製)を使用し、10℃/分で昇温したときの融解ピークを融点とした。
4.ヘイズ
ヘーズメータ(スガ試験機社製)を使用し、200μm厚に成形したETFEフィルムについてヘイズを測定した。
5.引張降伏応力
ASTM D−638の測定方法に準じた方法で、200μm厚に成形したETFEフィルムについて引張降伏応力(単位:MPa)を測定した。
各例におけるETFEの測定結果を表1に示す。なお、表1におけるA単位、B単位およびA’単位の割合は、それぞれE単位とTFE単位の合計(100モル%)に対する割合である。
【0040】
【表1】

【0041】
表1に示すように、A単位を有する例1および例2のETFEは、E単位とTFE単位のみを有する例7のETFEに比べて、ヘイズが小さく、引張降伏応力が高かった。また、PFBEに基づくB単位を有する例3および例4のETFEと比べても、ヘイズが小さく、引張降伏応力が高くなっていた。また、例1および例2のETFEは、融点の低下が小さく、充分に高い融点を有していた。
また、例1のETFEと同等の割合でC6ジエンに基づくA’単位を有する例6のETFEは、297℃において流動せず、成形材料として使用できなかった。また、流動を可能とする程度にA’単位を減らした例7のETFEは、例1および例2のETFEに比べてヘイズが高くなり、引張降伏応力が低下した。
以上のように、A単位を有する本発明のETFEは、透明性に優れ、かつ高い引張降伏応力を有し、充分に高い融点を有していた。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明のETFEは、透明性に優れ、高い引張降伏応力を有し、また融点も充分に高いため、フィルム、容器等の成形材料として有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エチレンに基づく繰り返し単位と、テトラフルオロエチレンに基づく繰り返し単位と、下式(1)で表される単量体(a)に基づく繰り返し単位とを有することを特徴とするエチレン/テトラフルオロエチレン系共重合体。
Y−(CF−Z ・・・(1)
(ただし、YおよびZは、それぞれ独立にビニル基、トリフルオロビニル基またはトリフルオロビニルオキシ基である。)
【請求項2】
前記単量体(a)に基づく繰り返し単位の割合が、前記エチレンに基づく繰り返し単位とテトラフルオロエチレンに基づく繰り返し単位の合計(100モル%)に対して、0.5〜2モル%である、請求項1に記載のエチレン/テトラフルオロエチレン系共重合体。
【請求項3】
前記テトラフルオロエチレンに基づく繰り返し単位とエチレンに基づく繰り返し単位のモル比(TFE/E)が30/70〜70/30である、請求項1または2に記載のエチレン/テトラフルオロエチレン系共重合体。
【請求項4】
前記単量体(a)が、下式(1−1)で表される単量体である、請求項1〜3のいずれか一項に記載のエチレン/テトラフルオロエチレン系共重合体。
CH=CH−(CF−CH=CH ・・・(1−1)
【請求項5】
さらに、重合性二重結合を1個有する単量体(b)(エチレンおよびテトラフルオロエチレンを除く。)に基づく繰り返し単位を有する、請求項1〜4のいずれか一項に記載のエチレン/テトラフルオロエチレン系共重合体。
【請求項6】
前記単量体(b)が、下式(2)で表される単量体である、請求項5に記載のエチレン/テトラフルオロエチレン系共重合体。
CH=CX(CFW ・・・(2)
(ただし、XおよびWは、それぞれ独立に水素原子またはフッ素原子であり、nは1〜8の整数である。)
【請求項7】
前記単量体(b)に基づく繰り返し単位の割合が、前記エチレンに基づく繰り返し単位とテトラフルオロエチレンに基づく繰り返し単位の合計(100モル%)に対して、0.01〜10モル%である、請求項5または6に記載のエチレン/テトラフルオロエチレン系共重合体。

【公開番号】特開2012−21054(P2012−21054A)
【公開日】平成24年2月2日(2012.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−158644(P2010−158644)
【出願日】平成22年7月13日(2010.7.13)
【出願人】(000000044)旭硝子株式会社 (2,665)
【Fターム(参考)】