説明

エッチング加工用無方向性電磁鋼板とモータコアの製造方法

【課題】自動車の駆動用モータなどのコア材に用いて好適な、エッチング加工性に優れ、かつ磁気特性にも優れる無方向性電磁鋼板の製造方法とその鋼板を用いたモータコアの製造方法を提案する。
【解決手段】C:0.005mass%以下、Si:0.5〜7mass%、Al:4mass%以下、Mn:5mass%以下、Ti:0.002mass%以下、Nb:0.002mass%以下、V:0.004mass%以下、Zr:0.004mass%以下、かつ、Ti,Nb,VおよびZrの合計が0.006mass%以下であり、残部がFeおよび不可避的不純物からなる鋼素材を、熱間圧延し、冷間圧延して板厚0.05〜0.25mmとするか、あるいは、冷間圧延後、水素を3vol%以上含有し、露点−10℃以下の雰囲気で720℃以下の温度で仕上焼鈍を施してエッチング加工用無方向性電磁鋼板とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モータコア、特に自動車の駆動モータのように高速回転域での特性が重視されるモータのコア材などに用いられる無方向性電磁鋼板の製造方法と、その鋼板を用いたモータコアの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、モータには、小型・軽量化が求められており、特にハイブリッド車のメインモータのように、小型・軽量化が重視される用途に用いられるモータでは、その傾向が強い。モータの小型・軽量化を達成するためには、回転数を高めることが効果的であり、この観点から、モータの高周波駆動が指向されている。
【0003】
その結果、高周波モータのコア材に使用される無方向性電磁鋼板には、高周波鉄損の低いことが求められることになる。そこで、斯かる要求に応えるため、SiやAlを多量に添加し、高合金化して固有抵抗を高めたり、板厚を低減したりすることにより渦電流損を低減した無方向性電磁鋼板が開発されている。
【0004】
このような無方向性電磁鋼板からモータコアを製造する方法としては、電磁鋼板をコア形状に打ち抜き加工するのが一般的である(例えば、特許文献1参照)。しかしながら、上記のように高合金化した鋼板は脆いため、打ち抜き加工において、割れやチッピングを生じやすく、また鋼板が高硬度化しているため、金型の摩耗が大きいという問題がある。また、板厚が薄い電磁鋼板を打ち抜き加工する場合、クリアランスを小さくする必要があることから、金型の摩耗が大きく、チッピング等を生じやすいという問題もある。
【0005】
ところで、板厚の薄い鋼板を加工する方法としては、シャドウマスク等の加工に使用されているエッチング法がある。この加工法は、金型による打ち抜き加工に比べて、以下のような特長を有する。
・高価な金型の作製が不要である。
・形状の変更が容易であり、微細加工が可能である。
・加工時に歪みが入らないため、素材の磁気特性の劣化がなく、モータ効率が向上する。
そのため、合金成分を多量に含む高硬度の電磁鋼板や板厚の薄い電磁鋼板の加工方法として望ましいものと言える。
【特許文献1】特開2003−053445号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、これまでに開発されてきた無方向性電磁鋼板は、エッチングによる加工をまったく想定していないため、エッチングができないか、エッチング性が著しく劣るものであった。また、電磁鋼板をエッチング加工する技術についても、今までのところ開示されたものは見当たらない。
【0007】
そこで、本発明の目的は、自動車の駆動用モータなどのコア材に用いて好適な、エッチング加工性に優れかつ磁気特性にも優れる無方向性電磁鋼板の製造方法とその鋼板を用いたモータコアの製造方法を提案することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
発明者らは、無方向性電磁鋼板のエッチング性に及ぼす各種要因について検討を重ねた。その結果、無方向性電磁鋼板を製造する仕上焼鈍の際に鋼板表面に生成する酸化層がエッチング性を支配している重要な因子であることがわかった。そこで、表面酸化層の生成を抑制する焼鈍条件を検討したところ、再結晶粒が十分に成長せず、磁気特性が劣るため、従来、電磁鋼板では採用されていない未焼鈍材、あるいは、720℃以下の低温焼鈍材において、非常に良好なエッチング性(エッチング速度)が得られることを見出した。
【0009】
しかし、このままでは磁気特性が劣るため、高い特性が要求されるモータのコア材として使用することは難しい。そこで、エッチングによるコア形状への加工後に磁性焼鈍を施し、これにより優れた磁気特性を得ることができる鋼の成分組成を検討した。その結果、従来より一般に採用されている750℃×2hrの磁性焼鈍で再結晶組織を発達させて優れた磁気特性を得るには、無方向性電磁鋼板に不可避的不純物として含まれてくるTi,Nb,VおよびZr等の炭化物形成元素の含有量を極力低減する、中でも、Ti,Nbの含有量を低減することが極めて重要であることを見出し、本発明を完成させた。
【0010】
すなわち、本発明は、C:0.005mass%以下、Si:0.5〜7mass%、Al:4mass%以下、Mn:5mass%以下、Ti:0.002mass%以下、Nb:0.002mass%以下、V:0.004mass%以下、Zr:0.004mass%以下、かつ、Ti,Nb,VおよびZrの合計が0.006mass%以下であり、残部がFeおよび不可避的不純物からなる鋼素材を、熱間圧延し、冷間圧延して板厚0.05〜0.25mmとして製品とすることを特徴とするエッチング加工用無方向性電磁鋼板の製造方法である。
【0011】
本発明の製造方法は、冷間圧延後、水素を3vol%以上含有し、露点が−10℃以下の雰囲気下で720℃以下の仕上焼鈍を施して製品とすることを特徴とする。
【0012】
また、本発明の製造方法は、上記成分組成に加えてさらに、P:0.2mass%以下、Sb:0.005〜0.1mass%、Sn:0.005〜0.1mass%、Ca:0.001〜0.01mass%およびREM:0.001〜0.01mass%のうちから選ばれる1種または2種以上を含有することを特徴とする。
【0013】
また、本発明は、上記の製造方法により得られた無方向性電磁鋼板を、コア形状にエッチング加工し、その後、磁性焼鈍を施すことを特徴とするモータコアの製造方法を提案する。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、エッチング加工性に優れかつ磁性焼鈍後の磁気特性に優れる無方向性電磁鋼板を提供することができる。したがって、本発明により得られる無方向性電磁鋼板は、従来、打ち抜き加工では難しかった極薄の電磁鋼板や、金型の摩耗や損傷を起こしやすい高強度の電磁鋼板の代替材として有望であり、自動車駆動用のモータコア材として使用した場合には、高精度のモータコアを製造することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明を開発する契機となった実験について説明する。
エッチング性に及ぼす素材成分の影響を調べるため、Si:3.3mass%、Mn:0.45mass%、Al:0.72mass%を含有する電磁鋼板用鋼と、Si:0.05mass%、Mn:0.15mass%、Al:0.02mass%を含有するシャドウマスク用鋼を、真空溶解炉にて溶解し、得られた鋼塊を熱間圧延して熱延板とし、この熱延板を酸洗後、水素雰囲気中にて850℃×3hrの熱延板焼鈍し、その後、冷間圧延して板厚0.10mmの冷延板とした。次いで、この冷延板を、20vol%H−80vol%N、露点−20℃の雰囲気中で1000℃×10secの仕上焼鈍を行った。ただし、シャドウマスク用鋼の冷延板の仕上焼鈍は、上記焼鈍条件ではオーステナイト変態が生じることから900℃×10secとした。また、無方向性電磁鋼板において通常行われる絶縁被膜の塗布は、エッチング性の評価には不要であるため、行わなかった。
【0016】
続いて、下記の要領でエッチング性の評価を行った。
まず、鋼板表面にレジストを塗布し、その上にフォトマスクを形成する。この際のマスクパターンは、直径10cmのモータのロータに相当する円板に加工するため、内径が10cmで、幅が20μmの円環状に露光されるものを用いた。その後、露光、現像処理して、上記20μmの幅のフォトレジストを溶解し、次いで、塩化第二鉄水溶液(45ボーメ、液温45℃)によるスプレーエッチングを行い、直径10cmの円板にエッチング加工した。この際、エッチング加工に要した時間と鋼板の板厚とから、エッチング速度を求め、エッチング性を評価した。
【0017】
その結果、シャドウマスク用鋼板のエッチング速度は、1.6μm/secであった。これに対して、電磁鋼板のエッチング速度は0.2μm/secしかなく、シャドウマスク用鋼板に比べて、エッチング性が著しく劣っていることが明らかとなった。
【0018】
発明者らは、エッチング処理は、そもそも鋼板表面の腐食反応を利用したものであるから、電磁鋼板とシャドウマスク用鋼板とのエッチング速度の差は、鋼板の表面状態の違いに起因しているのではないかと考え、鋼板表層をSEMにて観察し、比較した。その結果、電磁鋼板の表面には、シャドウマスク用鋼板と比較して、Si,Alを主成分とした酸化層が多量に形成されていることがわかった。すなわち、電磁鋼板には、鉄損の低減を目的としてSi,Alを多く添加しているため、これらの元素が熱延板焼鈍時あるいは仕上焼鈍時に酸化を起こし、鋼板表面に緻密な酸化層を形成しているため、エッチング性が低下したものと考えられた。
【0019】
そこで、発明者らは、電磁鋼板のエッチング性を改善する方法について検討した。
図1は、上記電磁鋼板およびシャドウマスク用鋼板を20vol%H−80vol%N、露点−20℃の雰囲気中で仕上焼鈍を行ったときの、仕上焼鈍温度とエッチング速度との関係を示したものである。図1から、電磁鋼板のエッチング性は、仕上焼鈍温度と密接な関係があり、電磁鋼板の仕上焼鈍温度として一般的な800〜1100℃の温度域では、エッチング速度が非常に遅くなっていることがわかる。一方、仕上焼鈍を行わないか、あるいは、720℃以下の低温で仕上焼鈍したものは、シャドウマスク用鋼板と同等以上のエッチング速度を有していることがわかる。
【0020】
しかしながら、仕上焼鈍しない鋼板や低温で仕上焼鈍した鋼板は、モータコアとした場合には、十分な磁気特性を得ることができない。ところで、従来、打ち抜き加工して製造したモータコアは、打ち抜き時の歪みを除去するため、750℃で2hr程度の磁性焼鈍を施すことが多い。そこで、発明者らは、エッチング加工後、上記磁性焼鈍を行うことにより、磁気特性の改善を図ることができないかと考え、検討を行った。
【0021】
その結果、同じ基本成分組成を有する鋼でも、微量成分、特に炭化物形成元素の含有量によって、磁性焼鈍後の磁気特性が大きく変化することを見出した。
図2は、Si:3.3mass%、Mn:0.3mass%、Al:0.3mass%の基本成分を有し、Cの含有量を0.001〜0.003mass%の範囲に制御した鋼板における、磁性焼鈍後の磁気特性に及ぼすTi含有量の影響を示したものである。ここで、上記鋼板は、Ti以外の炭化物形成元素であるNb,V,Zrの含有量をそれぞれ0.0002mass%以下に制御した鋼を小型真空溶解炉にて溶解し、得られた鋼塊を熱間圧延して熱延板とし、950℃×60secの熱延板焼鈍し、酸洗後、冷間圧延して板厚0.10mmの冷延板とし、その後、30vol%H+70vol%N、露点−40℃の雰囲気中で700℃×30sの仕上焼鈍を施したものである。また、磁気特性は、鋼板の圧延方向と平行および垂直の方向から同数のエプスタイン試験片を剪断して採取し、励磁磁束密度1.0T、周波数1000Hzでの鉄損W10/1kを測定した。その後、エプスタイン試験片に、N雰囲気中で750℃×2hrの磁性焼鈍を施し、再度、磁気特性を評価した。
【0022】
図2から、同一の基本成分組成、製造条件であっても、炭化物形成元素であるTi含有量によって、仕上焼鈍後および磁性焼鈍後の磁気特性は大きく異なり、Ti含有量が低い鋼の方が、仕上焼鈍後の磁気特性(鉄損)は良好であること、また、磁性焼鈍による鉄損改善効果は、Ti含有量の影響がさらに大きく、Ti:0.002mass%以下とすることで、鉄損を大きく改善できることがわかる。発明者らは、他の炭化物形成元素(Nb,V,Zr)についても、同様の実験を行い、エッチング性と磁性焼鈍後の磁気特性を両立させるために、本発明の電磁鋼板が具備すべき条件を調査し、本発明を完成させた。
【0023】
次に、本発明の無方向性電磁鋼板が有すべき成分組成について説明する。
Si:0.5〜7.0mass%
Siは、鋼板の固有抵抗を高め、鉄損を低減するために有効な元素であり、その効果を得るためには0.5mass%以上の添加が必要である。一方、この鉄損低減効果は、Si量が高いほど向上するが、7mass%を超える含有は、鋼を硬質化して圧延が困難となるので、その上限を7mass%とする。好ましくは、1.5〜4.0mass%の範囲である。
【0024】
Al:4mass%以下
Alは、Siと同様、鋼板の固有抵抗を高めるために有効な元素であるが、4mass%を超えると、鋼板表面に緻密な酸化層を形成しやすくなり、エッチング性が低下するため、4mass%以下とする。好ましくは、0.2〜2.0mass%の範囲である。
【0025】
Mn:5mass%以下
Mnは、鋼板の固有抵抗を高めるために有効な元素であるが、Si,Alと比較してその効果は小さく、5mass%を超える添加はコスト上昇をもたらすだけなので、上限は5mass%とする。好ましくは、0.1〜2.0mass%の範囲である。
【0026】
C:0.005mass%以下
Cは、磁気時効を起こして磁気特性を劣化させる有害な元素であるので、できる限り低減することが好ましい。さらに、本発明においては、エッチング加工後に行う磁性焼鈍において、再結晶や粒成長を進行させる必要があるため、その障害となる炭化物の析出をできるだけ抑制することが重要である。そのため、本発明では、Cの含有量を0.005mass%以下とする。好ましくは、0.003mass%以下である。
【0027】
Ti:0.002mass%以下、Nb:0.002mass%以下、V:0.004mass%以下、Zr:0.004mass%以下、かつ、Ti,Nb,VおよびZrの合計:0.006mass%以下
上述したように、炭化物の析出は、磁性焼鈍における再結晶や粒成長を阻害する。したがって、本発明においては、Cを0.005mass%以下に低減することに加えてさらに、炭化物形成元素であるTi,Nb,VおよびZrの含有量を、Tiを0.002mass%以下、Nbを0.002mass%以下、Vを0.004mass%以下、Zrを0.004mass%以下、かつTi,Nb,VおよびZrの合計を0.006mass%以下に制限する必要がある。好ましくは、Ti:0.0015mass%以下、Nb:0.0015mass%以下、V:0.003mass%以下、Zr:0.003mass%以下、かつTi,Nb,VおよびZrの合計:0.004mass%以下である。
【0028】
本発明の無方向性電磁鋼板は、要求特性に応じて、上記成分に加えてさらに、P,Sb,Sn,CaおよびREMのうちから選ばれる1種または2種以上を下記の範囲で含有することができる。
P:0.2mass%以下
Pは、鋼の溶製時に不可避的に含まれる不純物元素であり、通常は溶銑予備処理などで0.01mass%程度にまで脱Pする。しかし、Pは、素材の強度を高め、集合組織を改善する効果があり、この効果を利用するために0.04mass%以上含有させてもよい。一方、0.2mass%を超えて含有すると、鋼が脆化して圧延性などを低下させるので、上限は0.2mass%とするのが好ましい。
【0029】
Sb:0.005〜0.1mass%、Sn:0.005〜0.1mass%
SbおよびSnは、集合組織を改善し、磁気特性を向上させるのに有効な成分であり、この効果を発現させるためには、それぞれ0.005mass%以上含有させることが好ましい。一方、過剰に含有すると、ヘゲのような表面欠陥が増加するようになるので、上限はそれぞれ0.1mass%とするのが好ましい。
【0030】
Ca:0.001〜0.01mass%、REM:0.001〜0.01mass%
CaおよびREMは、鋼中の不純物であるSを硫化物として固定して粗大に析出し、磁性焼鈍後の鉄損を改善するのに有効な成分であり、この効果を発現させるためには、0.001mass%以上含有させることが好ましい。一方、過剰に含有すると、コスト高となるので、上限は0.01mass%とするのが好ましい。
【0031】
本発明の無方向性電磁鋼板は、上記成分以外の残部はFeおよび不可避的不純物からなる。ただし、上記効果を阻害しない範囲内であれば、その他の成分の含有を拒むものではない。
【0032】
次に、本発明の無方向性電磁鋼板の製造方法について説明する。
本発明の無方向性電磁鋼板は、転炉、電気炉等、公知の方法で鋼を溶製し、脱ガス処理などを施して成分組成を上記適正範囲に調整した後、連続鋳造等の公知の方法で鋼スラブとする。その後、その鋼スラブを熱間圧延して熱延板とし、その熱延板に必要に応じて600〜1100℃の温度範囲で熱延板焼鈍を施したのち酸洗して熱延スケールを除去し、1回または中間焼鈍を挟んだ2回以上の冷間圧延により所定の板厚の冷延板とする。
【0033】
その後、上記冷延板に仕上焼鈍を施すが、この焼鈍条件は、本発明においては、極めて重要である。すなわち、本発明では、鋼板の表面酸化を抑制して良好なエッチング性を確保するためには、圧延まま(未焼鈍)とするか、もしくは、720℃以下の低温で仕上焼鈍を施す必要がある。720℃を超える焼鈍では、先述した実験結果から明らかなように、鋼板表面に酸化層が形成されて、エッチング性が大きく低下するからである。なお、エッチング性に限れば、圧延まま(未焼鈍)が最も良好であるが、ここで敢えて仕上焼鈍を施す理由は、磁性焼鈍後の磁気特性(鉄損)が、仕上焼鈍を行った場合の方が改善されるからである。なお、仕上焼鈍における焼鈍時間は、酸化層の形成を抑制する観点から60sec以下であることが好ましい。また、焼鈍は、鋼板表面の酸化を抑制するため、水素を3vol%以上含有し、残部を窒素やアルゴンなどの不活性ガスとした雰囲気とし、露点は−10℃以下に制御する必要がある。鋼中のSiやAlの酸化は、上記雰囲気でも、完全に防止できないが、抑制することはできる。好ましい仕上焼鈍における雰囲気は、水素含有量が20vol%以上、露点が−25℃以下であり、さらに好ましくは−35℃以下である。
【0034】
続いて、仕上焼鈍後の鋼板の表面には、必要に応じて、絶縁被膜を形成する。ただし、本発明の無方向性電磁鋼板では、絶縁被膜は片面にのみ形成するのが好ましい。というのは、電磁鋼板をエッチング加工する場合には、鋼板表面にフォトレジストを塗布し、その後、露光、現像処理を行う必要があり、斯かる場合、絶縁被膜が両面に形成してあると、片面の被膜を剥離する工程が必要になるからである。なお、両面に絶縁被膜を形成しないで、無方向性電磁鋼板とし、エッチング加工後に絶縁被膜を塗布することを行ってもよく、また、エッチング加工後、酸化性雰囲気中でブルーイング処理し、絶縁性を付与してもよい。また、ブルーイング処理を行う場合には、磁性焼鈍工程の昇温過程あるいは降温過程で実施してもよい。もちろん、両面に絶縁被膜を形成した鋼板でも、剥離工程を付加することにより、エッチング用として使用することは可能である。
【0035】
上記のようにして得た無方向性電磁鋼板は、その後、レジストを塗布し、露光し、現像した後、エッチング処理してコア形状に加工し、その後、磁性焼鈍を施す。この磁性焼鈍は、残存する圧延歪みを解放し、再結晶とその後の粒成長を促進して磁気特性を改善するために極めて重要な工程であり、斯かる効果を得るためには、700℃以上の温度で10min以上保持することが好ましい。ただし、磁性焼鈍は、過度に高温、長時間としても、その効果は飽和するばかりか、内部酸化が進行し、却って磁気特性が劣化する原因ともなり、また、経済的にも不利となるので、それらの上限は900℃、10hr程度とするのが好ましい。なお、本発明の無方向性電磁鋼板の磁性焼鈍条件としては、一般的な歪取焼鈍条件である750℃×2hrが推奨される。
【0036】
最後に本発明の無方向性電磁鋼板は、エッチング加工に用いる観点から、板厚は0.05〜0.25mmの範囲であることが好ましい。板厚が0.05mm未満では、圧延の負荷が大きくなり、安定して鋼板を製造することが困難となる。一方、板厚が0.25mm超では、エッチング加工に要する時間が長くなり、モータコアの生産性が低下するからである。
【実施例1】
【0037】
表1に示した成分組成を有する鋼を、転炉−脱ガス処理して溶製した後、連続鋳造して鋼スラブとした。次いで、そのスラブを所定温度に加熱後、熱間圧延して板厚2.3mmの熱延板とし、表2に示した条件で熱延板焼鈍してから冷間圧延して板厚0.1mmの冷延板とし、その後、30vol%H−70vol%N、露点−30℃および−40℃に調整した雰囲気中で仕上焼鈍した後、有機−無機の被膜剤を片面のみに塗布して絶縁被膜を形成し、無方向性電磁鋼板とした。なお、表1中の鋼Aは、シャドウマスク用鋼板と同じ成分組成を有するものであり、エッチング性を評価するための比較材である。
【0038】
【表1】

【0039】
次いで、上記のようにして得た電磁鋼板の絶縁被膜を塗布しなかった側の表面にレジストを塗布し、露光、現像した後、塩化第二鉄(45ボーメ、液温45℃)をスプレーしてエッチングし、エッチング孔が鋼板を貫通する時間を測定し、エッチング速度を求めた。また、上記絶縁被膜形成後の鋼板と、その鋼板に750℃で2hrの磁性焼鈍を施した鋼板について、励磁磁束密度1.0T、周波数1000Hzにおける鉄損W10/1kを測定した。
【0040】
上記の測定結果を表2に併記した。この結果から、シャドウマスク用鋼板である鋼Aを用いたNo.1〜9の鋼板は、仕上焼鈍温度を高温にしても1μm/sec以上のエッチング速度で、エッチング性は良好であるが、鉄損W10/1kは、仕上焼鈍後、磁性焼鈍後ともに50W/kgを超えており、良好とは言い難い。
一方、本発明の成分組成条件を満たす鋼B,CおよびDについてみると、圧延ままおよび仕上焼鈍温度720℃以下の鋼板(No.10〜16、22〜28、34および35)は、いずれもシャドウマスク用鋼板(鋼A)と同等以上のエッチング速度が得られ、エッチング性が良好である。しかし、仕上焼鈍温度750℃以上では、エッチング性が急激に劣化している。
また、鋼Bを700℃以下で仕上焼鈍したNo.10〜15の鋼板、鋼Cを650℃以下で仕上焼鈍したNo.22〜26の鋼板は、仕上焼鈍後の鉄損W10/1kは高いが、磁性焼鈍を行うことで改善され、50W/kg未満の低鉄損材が得られている。また、鋼Bを720℃で仕上焼鈍したNo.16の鋼板や、鋼Cを700℃、720℃で仕上焼鈍したNo.27,28の鋼板、鋼Dを720℃で仕上焼鈍したNo.35の鋼板は、仕上焼鈍後でも、鉄損W10/1kが50W/kg以下であり、磁性焼鈍なしでも実用に足るレベルの特性が得られている。そして、さらに磁性焼鈍を施すことにより、より鉄損が改善されている。
これに対して、Cおよび炭化物形成元素(Ti,Nb,VおよびZr)を本発明の範囲を超えて含有する鋼E,F,G,HおよびIの鋼板(No.36〜40)は、エッチング性が良好な720℃以下の温度で仕上焼鈍した場合でも鉄損が高く、しかも、磁性焼鈍を施したとしても、鉄損の改善が不充分である。
【0041】
【表2】

【実施例2】
【0042】
表3に示した成分組成を有する鋼を、転炉−脱ガス処理して溶製した後、連続鋳造して鋼スラブとし、次いで、そのスラブを所定の温度に加熱後、熱間圧延して板厚2.3mmの熱延板とし、950℃×60secの熱延板焼鈍し、冷間圧延して板厚0.1mmの冷延板とし、20%H−80%Nを用い、露点−35℃に調整した雰囲気中で700℃×30secの仕上焼鈍を施し、その後、有機−無機の被膜剤を片面のみに塗布して絶縁被膜を形成し、無方向性電磁鋼板とした。上記のようにして得た鋼板について、実施例1と同様にして、エッチング速度と、仕上焼鈍後および磁性焼鈍後の鉄損W10/1kを測定し、その結果を表3に併記して示した。
【0043】
【表3】

【0044】
結果を表3に示す。本発明の方法により得られた鋼板はいずれも優れたエッチング性および磁性焼鈍後の鉄損特性が得られている。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明の電磁鋼板は、モータ、発電機といった回転機用コアのみならず、小型トランスやリアクトルといった静止器コアとしても好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】電磁鋼板のエッチング性に及ぼす仕上焼鈍温度の影響を示すグラフである。
【図2】電磁鋼板の鉄損に及ぼすTi含有量の影響を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
C:0.005mass%以下、
Si:0.5〜7mass%、
Al:4mass%以下、
Mn:5mass%以下、
Ti:0.002mass%以下、
Nb:0.002mass%以下、
V:0.004mass%以下、
Zr:0.004mass%以下、
かつ、Ti,Nb,VおよびZrの合計が0.006mass%以下であり、残部がFeおよび不可避的不純物からなる鋼素材を、熱間圧延し、冷間圧延して板厚0.05〜0.25mmとして製品とすることを特徴とするエッチング加工用無方向性電磁鋼板の製造方法。
【請求項2】
冷間圧延後、水素を3vol%以上含有し、露点が−10℃以下の雰囲気下で720℃以下の仕上焼鈍を施して製品とすることを特徴とする請求項1に記載のエッチング加工用無方向性電磁鋼板の製造方法。
【請求項3】
上記成分組成に加えてさらに、P:0.2mass%以下、Sb:0.005〜0.1mass%、Sn:0.005〜0.1mass%、Ca:0.001〜0.01mass%およびREM:0.001〜0.01mass%のうちから選ばれる1種または2種以上を含有することを特徴とする請求項1または2に記載のエッチング加工用無方向性電磁鋼板の製造方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の製造方法により得られた無方向性電磁鋼板を、コア形状にエッチング加工し、その後、磁性焼鈍を施すことを特徴とするモータコアの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−167480(P2009−167480A)
【公開日】平成21年7月30日(2009.7.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−7881(P2008−7881)
【出願日】平成20年1月17日(2008.1.17)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】