説明

エネルギー吸収作用を行う柱脚部の構造

【課題】建物の層間変形の増大を効果的に抑制することができる柱脚部の構造を提供する。
【解決手段】基礎1の上に、ピース状の基礎パッキン2を介して長物からなる土台3が設置され、土台3の上に柱4が立設された柱脚部の構造において、柱下の土台部に、外筒体7が上下方向に向けられて土台と一体化されて備えられると共に、外筒体内に同軸状態に配置される軸体6が基礎1と一体化されて備えられ、外筒体7の内周部と軸体6の外周部との間の環状空間部に粘弾性体8が設置され、外筒体7と軸体6との上下方向の相対変位により粘弾性体8がせん断変形をしてエネルギーを吸収するようになされている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エネルギー吸収作用を行う柱脚部の構造に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば木造建物において、図4(イ)(ロ)に示すように、コンクリート布基礎51の上に、弾力性を有する樹脂製のピース状をした基礎パッキン52…を介して長物からなる木製土台53を設置し、該土台53の上に木製柱54…を立設した柱脚部の構造は、従来より知られている。
【特許文献1】特開2003−147992号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、この構造では、地震等により水平力が作用すると、柱脚部に引抜き力と圧縮力とが交互に作用し、引抜き力の作用で土台53に上に凸の曲げ変形を生じたり、また、圧縮力の作用で図4(ロ)に示すように柱下の基礎パッキン52が圧潰変形をして土台53に下に凸の曲げ変形を生じたりして、それが、建物の層間変形を増大させてしまう要因になるという問題がある。
【0004】
一方、柱下の基礎パッキン52として、エネルギー吸収作用を行う制振基礎パッキンを用いたものもあるが(特開2003−147992号公報)、この基礎パッキンは、水平方向の振動に対してせん断変形をしてエネルギーを吸収するものであり、上下方向の動きに対しては、せん断変形をすることができず、エネルギーの有効的な吸収を期待できず、そのため、このような基礎パッキンを用いても、建物の層間変形の増大を抑制することは難しい。
【0005】
本発明は、上記のような問題点に鑑み、建物の層間変形の増大を効果的に抑制することができる柱脚部の構造を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題は、基礎の上に、ピース状の基礎パッキンを介して長物からなる土台が設置され、該土台の上に柱が立設された柱脚部の構造において、
前記柱下の土台部に、外筒体と該外筒体の内部に突出する軸体とのいずれか一方が上下方向に向けられて土台と一体化されて備えられると共に、もう一方が基礎と一体化されて備えられ、かつ、前記外筒体の内周部と軸体の外周部との間の環状空間部に粘弾性体が設置され、外筒体と軸体との上下方向の相対変位により前記粘弾性体がせん断変形をしてエネルギーを吸収するようになされていることを特徴とする柱脚部の構造(第1発明)によって解決される。
【0007】
この構造では、地震等により水平力が作用して柱脚部に引抜き力と圧縮力とが交互に作用し、引抜き力によって土台に上に凸の曲げ変形を生じようとすると、粘弾性体がせん断変形をしてエネルギーを吸収し、建物の層間変形の増大を効果的に抑制することができる。
【0008】
また、柱下の土台部の下に弾力性を有する基礎パッキンが備えられていたり、あるいは、柱下の土台の下が空隙部であったりして、圧縮力によって土台に下に凸の曲げ変形を生じようとする場合には、粘弾性体がせん断変形をしてエネルギーを吸収し、建物の層間変形の増大を効果的に抑制することができる。
【0009】
第1発明において、前記軸体と外筒体のいずれか一方に、柱と土台を連結する連結手段が備えられ、該連結手段によって土台と柱とを連結することにより、該一方が土台と一体化される構造になっているのもよい(第2発明)。
【0010】
この構造では、土台に対する軸体と外筒体のいずれか一方の一体化を、連結手段により土台と柱とを連結するだけで実現することができ、土台に対する該一方の一体化と、土台と柱の連結とを、施工能率良く行うことができる。
【0011】
第1、第2発明において、前記基礎パッキンが、弾力性のない硬質材からなり、柱直下の土台部と基礎との間に介設されているのもよい(第3発明)。
【0012】
この場合は、地震等により水平力が作用して柱脚部に引抜き力と圧縮力とが交互に作用し、圧縮力によって土台に下に凸の曲げ変形を生じようとすると、それを基礎パッキンが阻止するように働き、それによって、建物の層間変形の増大を効果的に抑制することができる。もちろん、引抜き力によって土台に上に凸の曲げ変形を生じようとすると、粘弾性体がせん断変形をしてエネルギーを吸収し、建物の層間変形の増大を効果的に抑制することができる。
【0013】
また、上記の課題は、基礎の上に、ピース状の基礎パッキンを介して長物からなる土台が設置され、該土台の上に柱が立設された柱脚部の構造において、
上下方向に相対変位に対してエネルギーを有効的に吸収するエネルギー吸収手段が備えられ、該エネルギー吸収手段の一方の継ぎ手が前記柱下の土台部と一体化されて備えられると共に、もう一方の継ぎ手が基礎と一体化されていることを特徴とする柱脚部の構造(第4発明)によっても、同様に解決される。
【0014】
即ち、上下方向エネルギー吸収手段は、軸体と外筒体と粘弾性体とからなるものに限られるものではなく、縦向きに備えさせたシリンダー型などの粘性体ダンパーであってもよいし、摩擦式のダンパーであってもよいし、上下方向に相対変位に対してエネルギーを有効的に吸収することができる各種エネルギー吸収手段が用いられてよい。
【0015】
なお、第4発明において、エネルギー吸収手段の継ぎ手のいずれか一方に、柱と土台を連結する連結手段が備えられ、該連結手段によって土台と柱とを連結することにより、該一方が土台と一体化される構造になっている場合(第5発明)は、土台に対する前記一方の一体化を、連結手段により土台と柱とを連結するだけで実現することができ、土台に対する該一方の一体化と、土台と柱の連結とを、施工能率良く行うことができる。
【0016】
また、第4、第5発明において、前記基礎パッキンが、弾力性のない硬質材からなり、柱直下の土台部と基礎との間に介設されている場合(第6発明)は、地震等により水平力が作用して柱脚部に引抜き力と圧縮力とが交互に作用した場合に、土台に下に凸の曲げ変形を生じさせようとするのを基礎パッキンが阻止するように働き、それによって、建物の層間変形の増大を効果的に抑制することができる。もちろん、引抜き力によって土台に上に凸の曲げ変形を生じようとすると、エネルギー吸収手段がエネルギーを吸収し、建物の層間変形の増大を効果的に抑制することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明は、以上のとおりのものであるから、建物の層間変形の増大を効果的に抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
次に、本発明の実施最良形態を図面に基づいて説明する。
【0019】
図1に示す第1実施形態の柱脚部の構造において、1はコンクリート布基礎、2はピース状の基礎パッキン、3は長物からなる木製土台、4は木製柱、5は上下方向エネルギー吸収手段である。
【0020】
基礎パッキン2は、弾力性のない硬質材、例えば鉄系金属材などからなっていて、柱4の直下位置において土台3と基礎1との間に介設されている。
【0021】
上下方向エネルギー吸収手段5は、軸体6と外筒体7とを備え、軸体6は外筒体7の内部に同軸状に配置され、軸体6の外周部と外筒体7の内周部との間の環状空間部に粘弾性体8が環状に設置されて、外筒体7と軸体6とが軸線方向に相対変位をすると、粘弾性体8がせん断変形をしてエネルギーの吸収を行うようになされたものからなっている。
【0022】
本実施形態では、軸体6はエネルギー吸収手段5の一方の継ぎ手を構成するものとして、上下方向に向けられ、基礎1側に、基礎コンクリートの打設時に埋込み状態にされることなどで一体化されている。
【0023】
また、外筒体7は、同じく上下方向に向けられて、土台3と一体化されるが、そのための手段として、次のような構造が採用されている。即ち、外筒体7は、上端を閉じられた有天の筒体からなっており、天部中心部には、外筒体の外周サイズよりも外周サイズの小さい、連結手段としてのホゾパイプ9が、エネルギー吸収手段のもう一方の継ぎ手を構成するものとして一体的に備えられており、該ホゾパイプ9には、土台3を連結する第1ドリフトピン通孔11と、柱4を連結する第2ドリフトピン通孔12とが、高さ位置を互いに異ならせて備えられている。
【0024】
また、土台3には、上下方向に貫通の下向き段13a付きの孔13が設けられ、該段付き孔13は、段13aを挟む下側の径大孔部13bを外筒体収容孔部とし、段13aを挟む上側の径小孔部13cをホゾパイプ通孔部とし、段13aを外筒体当接部としたものからなっていて、ホゾパイプ9付きの外筒体7を下にし、上方から土台3を降ろしていくことで、ホゾパイプ9が段付き孔13を貫通して土台3の上方に突出し、外筒体7が段付き孔13の外筒体収容孔部13b内に収容され、外筒体7の上端部が段13aに当接して上下方向において位置決めされるようになされている。
【0025】
また、柱4には、下面中央部に開口するホゾパイプ通孔14が設けられ、上記のようにして土台3を貫通して上方に突出したホゾパイプ9の上方より、柱4を降ろしていくことで、ホゾパイプ9が柱4のホゾパイプ通孔14に差し込まれて、柱4の下端部が土台3の上面に当接するようになされている。
【0026】
そして、そのような組付け状態において、側方より、ホゾパイプ9の第1,第2の各ドリフトピン通孔11,12にドリフトピン15…を打ち込むことによって、柱4と土台3とが連結され、それにより、同時に、外筒体7も土台3と一体化された構造になっている。
【0027】
上記の柱脚部構造では、地震等により建物に水平力が作用して柱脚部に引抜き力と圧縮力とが交互に作用し、図2(イ)に示すように、引抜き力によって土台3に上に凸の曲げ変形を生じようとすると、粘弾性体8がせん断変形をしてエネルギーを吸収し、また、図2(ロ)に示すように、圧縮力によって土台3に下に凸の曲げ変形を生じようとすると、それを基礎パッキン2が阻止するように働き、それらによって、建物の層間変形の増大を効果的に抑制することができる。
【0028】
しかも、上記の実施形態では、土台3に対する外筒体7の一体化を、柱4と土台3の連結のためのドリフトピン15…の打込みによって同時に達成することができる構造になっているので、土台3に対する外筒体7の一体化と、柱4と土台3の連結とを、施工容易に遂行することができる。
【0029】
図3(イ)に示す第2実施形態の柱脚部の構造は、基礎パッキン2が、弾力性を有する樹脂製等のものからなっている。その他は第1実施形態と同様である。この場合は、地震等により建物に水平力が作用して柱脚部に引抜き力と圧縮力とが交互に作用し、図3(ロ)に示すように、引抜き力によって土台3に上に凸の曲げ変形を生じようとすると、粘弾性体8がせん断変形をしてエネルギーを吸収し、また、図3(ハ)に示すように、圧縮力によって土台3に下に凸の曲げ変形を生じようとする場合も、粘弾性体8がせん断変形をしてエネルギーを吸収し、それによって、建物の層間変形の増大を効果的に抑制することができる。
【0030】
以上に、本発明の実施形態を示したが、本発明はこれに限られるものではなく、発明思想を逸脱しない範囲で各種の変更が可能である。例えば、上記の実施形態では、基礎パッキン2が、柱直下の土台部と基礎との間に介設されている場合を示したが、第1,第2,第4発明では、柱直下の土台部と基礎との間の基礎パッキンを省略してそこを空隙部とし、土台部と基礎との間のその他の部位に基礎パッキンが介設されている構造であってもよい。
【0031】
また、上記の実施形態では、外筒体7を土台3と一体化させるために、外筒体7にホゾパイプ9を一体的に備えさせ、ホゾパイプ9とドリフトピン15…で柱4と土台3とを連結することで同時に外筒体7を土台3と一体化させる構造を示したが、ホゾパイプ9以外の方法で、それを実現する構造が採用されてもよいし、また、柱4と土台3の連結、及び、土台3と外筒体7の一体化をそれぞれ個別に行うようになされた構造が採用されてもよい。また、柱4と土台3の連結の構造、及び、土台3と外筒体7の一体化の構造に制限はなく、各種構造が採用されてよい。更に、上記の実施形態では、外筒体7を土台3と一体化させ、軸体6を基礎1と一体化させた場合を示したが、外筒体7を基礎1の側と一体化させ、軸体6を土台3の側と一体化させた構造であってもよい。
【0032】
また、上記の実施形態では、上下方向エネルギー吸収手段として、軸体と外筒体と粘弾性体とからなるものを示したが、第4発明では、縦向きに備えさせたシリンダー型などの粘性体ダンパーであってもよいし、摩擦式のダンパーであってもよいし、上下方向に相対変位に対してエネルギーを有効的に吸収する各種エネルギー吸収手段が用いられてよいことは、上述したとおりである。
【0033】
また、上記の実施形態では、土台や柱が木製である場合を示したが、それらが鋼製などの金属製である柱脚部の構造に用いることも可能であり、適用する建物は木造であってもよいし、軽量鉄骨造などであってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】第1実施形態の柱脚部の構造を示すもので、図(イ)は一部断面正面図、図(ロ)は図(イ)のI−I線断面図、図(ハ)は図(イ)のII−II線断面図である。
【図2】図(イ)及び図(ロ)はそれぞれ、同柱脚部における層間変形増大抑制作動状態を示す一部断面正面図である。
【図3】図(イ)は第2実施形態の柱脚部の構造を示す一部断面正面図、図(ロ)及び図(ハ)はそれぞれ、同柱脚部における層間変形増大抑制作動状態を示す一部断面正面図である。
【図4】図(イ)は従来の柱脚部の構造を示す正面図、図(ロ)は層間変形増大の作動状態を示す要部拡大正面図である。
【符号の説明】
【0035】
1…基礎
2…基礎パッキン
3…土台
4…柱
5…上下方向エネルギー吸収手段
6…軸体
7…外筒体
8…粘弾性体
9…ホゾパイプ(連結手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基礎の上に、ピース状の基礎パッキンを介して長物からなる土台が設置され、該土台の上に柱が立設された柱脚部の構造において、
前記柱下の土台部に、外筒体と該外筒体の内部に突出する軸体とのいずれか一方が上下方向に向けられて土台と一体化されて備えられると共に、もう一方が基礎と一体化されて備えられ、かつ、前記外筒体の内周部と軸体の外周部との間の環状空間部に粘弾性体が設置され、外筒体と軸体との上下方向の相対変位により前記粘弾性体がせん断変形をしてエネルギーを吸収するようになされていることを特徴とする柱脚部の構造。
【請求項2】
前記軸体と外筒体のいずれか一方に、柱と土台を連結する連結手段が備えられ、該連結手段によって土台と柱とを連結することにより、該一方が土台と一体化される構造になっている請求項1に記載の柱脚部の構造。
【請求項3】
前記基礎パッキンが、弾力性のない硬質材からなり、柱直下の土台部と基礎との間に介設されている請求項1又は2に記載の柱脚部の構造。
【請求項4】
基礎の上に、ピース状の基礎パッキンを介して長物からなる土台が設置され、該土台の上に柱が立設された柱脚部の構造において、
上下方向に相対変位に対してエネルギーを有効的に吸収するエネルギー吸収手段が備えられ、該エネルギー吸収手段の一方の継ぎ手が前記柱下の土台部と一体化されて備えられると共に、もう一方の継ぎ手が基礎と一体化されていることを特徴とする柱脚部の構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−31789(P2008−31789A)
【公開日】平成20年2月14日(2008.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−208796(P2006−208796)
【出願日】平成18年7月31日(2006.7.31)
【出願人】(390037154)大和ハウス工業株式会社 (946)
【Fターム(参考)】