説明

エバネッセント波照明を備えた走査顕微鏡

本発明は、対象物保持体(13)に配置された試料(15)のためにエバネッセント波照明を提供する光源(1)を有する走査顕微鏡に関する。位置検出器(35,36)は、試料(15)のラスターポイントから発された検出光(51)を受ける。ビーム発散装置(29)が検出光のビーム経路に配置され、それにより試料のラスターポイントの位置が移動する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は走査顕微鏡に関する。
【背景技術】
【0002】
走査顕微鏡検査では、試料から反射光又は蛍光ライトとして放出された検査光を観察するために試料が光ビームで照射される。照明光ビームの焦点は、一般に2つの鏡を傾けて制御可能なビーム偏向装置を用いて試料面を移動する。偏向軸は通常互いに垂直であり、それで一方の鏡はx方向に偏向し、他方はy方向に偏向する。鏡の傾斜は、例えば検流計位置決め要素を用いて生じる。試料から来る偏向光のパワーは走査ビームの位置の関数として測定される。カレントミラー位置を決定するために、位置決め要素は通常センサーを具備している。共焦点走査顕微鏡検査では、特に試料は光ビームの焦点を用いて3次元で走査される。
【0003】
共焦点走査顕微鏡は一般的に光源、光源の光をピンホール(「励起ピンホール」と呼ばれる)にフォーカスするのに用いられるフォーカス光学系、ビームスプリッタ、ビーム制御のためのビーム偏向装置、顕微鏡光学系、検出ピンホール及び検出光若しくは蛍光ライトを検出する検出器を有する。照明光はビームスプリッタを介して結合(照射)される。試料から来る蛍光ライト又は反射光はビーム偏向装置を介してビームスプリッタに戻って進み、それを通過して、後ろに検出器が位置した検出ピンホールにフォーカスされる。この検出装置は「デスキャン」装置と呼ばれる。焦点領域に直接起因しない検出光は異なる光路をとり、検出ピンホールを通過しない。それで、照明光ビームの焦点による試料の連続走査により3次元画像になる位置情報が得られる。通常3次元画像は層の画像データを獲得することで実現される。
【0004】
特許文献1は試料のエバネッセント波照明を提供する顕微鏡を開示する。顕微鏡は白色光源を有し、その光はスリットアパーチャと顕微鏡対物レンズを通過し、エバネッセント波照明をもたらすために試料担持スライドに結合する。照明光は全反射によりスライド内を伝わる。試料の照射はスライドから突出したエバネッセント場の領域にのみ行われる。このタイプの顕微鏡は用語TIRFM(全反射蛍光顕微鏡)で知られている。
【0005】
エバネッセント場が試料に約100nmだけ延びるので、TIRF顕微鏡のz解像度は極めて良好である。
【0006】
【特許文献1】US 2002/0097489 A1
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、エバネッセント波照明と走査顕微鏡検査の両方の利点が使用できる走査顕微鏡を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この目的は、スライドに配置された試料をエバネッセント照射する光源を有し、さらに試料の走査ポイントから発する検出光を受ける位置検出器を有し、さらに試料の走査ポイントの位置をシフトさせるために検出光の光路に配置されたビーム偏向装置を有する走査顕微鏡により達成される。
【0009】
本発明は、試料の2次元又は3次元走査が可能になり、z方向の非常に増加した解像度がもたらされるという利点を有する。
【0010】
横方向(xy方向)の試料の走査は、検出光の光路に配置されたビーム偏向装置を用いて実現される。軸方向(z方向)の試料の走査は、試料と対物レンズの相対距離を調節することで行われる。このために、試料を高さ調節ステージに配置し又はz方向に調節可能な対物レンズを使用することが可能である。
【0011】
照明光は好ましくは走査顕微鏡の対物レンズを介して試料のカバーガラスに結合する。別な変形例では、照明光は走査顕微鏡の集光器を介してスライドに結合する。また別な変形例では、光をスライドに結合させるために対物レンズも集光器も使用されないが、例えばプリズムが代わりに使用される。
【0012】
カバーガラスで全反射の臨界角が達成されるのを保証するために、照明光は好ましくは対物レンズ瞳の外側縁領域を通過する。好ましくは、照明光は、好ましくは対物レンズ瞳の面にフォーカスされる照明光ビームとして形成される。照明光ビームは試料の試験の際固定されたままである。特に好ましい形態では、照明光ビームは、別なビーム偏向装置を用いて円形に(循環して)対物レンズ瞳の外側縁領域を通って移動できる。特に有利にはこのようにして非常に一様で均一な照明が実現される。
【0013】
好ましくは対物レンズは1.3より大きい開口数、特に有利には1.35〜1.42の開口数を有する。
【0014】
ある好ましい実施形態では、色選択区分絞り(色選択セグメントアパーチャ)は照明光の光路、好ましくは対物レンズ瞳の面に位置する。色選択区分絞りの外側縁領域の光学特性はその内側領域のそれと異なる。好ましくは、色選択区分絞りの外側縁領域は照明光の波長を有する光を透過させるが、内側領域は照明光より大きい波長を有する光だけを透過させる。この実施形態は蛍光アプリケーションのために特に好ましく、検出光の波長は本来照明光の波長より大きい。
【0015】
別の変形例では、色選択区分絞りの内側領域は照明光のそれより小さい波長を有する光のみ透過させる。この変形例は、試料の多光子励起に特に適する。この場合、照明光はパルス赤外光が好ましい。
【0016】
色選択区分絞りは照明光が外側縁領域の外側の対物レンズを通過し、試料を直接照射するのを防ぐ。
【0017】
非常に好ましい実施例では、照明光は複数の波長を有する。この例では、例えば、複数の異なる試料ダイが同時に光学的に励起される。
【0018】
位置検出器は好ましくは対物レンズの焦点面と対の面に位置した検出ピンホールを有する。位置検出器が検出光を受ける走査ポイントの空間位置が、検出ピンホールの位置とビーム偏向装置の位置から決定される。
【0019】
好ましい実施形態では、位置検出器は多帯域検出器又は分光計であり、これにより試料からのスペクトル位置情報を得ることができる。この実施形態は多色照明と組み合わせると特に有利である。
【0020】
さらに、本発明の走査顕微鏡は共焦点走査顕微鏡として構成され、これにより色選択区分絞りの内側領域を介して試料の共焦点試験が可能になる一方、同時に色選択区分絞りの外側領域を介してTIRF照明も可能になる。
【0021】
対物レンズ瞳の面に照明光ビームをフォーカスさせるために、画像光学系、好ましくはベルトランレンズが照明光の光路に設けられる。
【0022】
特に好ましい実施形態では、検出光の光路は複数の検出チャネルを有し、これらはそれぞれ帯域フィルターを有する。
【0023】
本発明のサブジェクトマターは図面に概略的に示されており、図面に則して以下に説明されている。同じ要素は同じ参照番号で示されている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
図1は、アルゴンイオンレーザ3の形式の光源1を有する本発明に従う走査顕微鏡を示す。光源1は、対物レンズ9に向かってビームスプリッタ7で偏向される照明光ビーム5を発生する。照明光ビーム5は、ダブルの矢印24で示されるように、対物レンズ瞳11の外側縁領域を通過し、エバネッセント波照射をもたらすため試料15のカバーガラス13に結合する。ベルトランレンズ17の形式をとり、対物レンズ瞳11の面に焦点を形成する画像光学系19が照明光ビーム5の光路に配置されている。ジンバル搭載走査ミラー(図示せず)を有する別なビーム偏向装置21も照明光ビーム5の光路に配置される。別なビーム偏向装置は、対物レンズ瞳11の外側縁領域を通って連続的に円形に照明光ビームの焦点を移動させる。これにより、特に一様なエバネッセント波照明が実現される。図2に示された色選択区分絞り23は対物レンズ瞳11の面に配置される。色選択区分絞り23は照明光を通す外側縁領域25と、照明光のそれより大きい波長を有する光を通す内側領域27を有する。試料から生じる検出光51は対物レンズ及び色選択区分絞りの内側領域を通ってビームスプリッタ7に進み、そこを通り、ジンバル搭載走査ミラー31を有するビーム偏向装置29を介して位置検出器33に到達する。位置検出器33は検出ピンホール35を有し、ジンバル搭載走査ミラー31の位置に関連するその空間位置は試料の走査ポイントの位置を決定し、位置検出器33は検出光51を受ける。位置検出器33は、複数の設定可能な波長帯域の光を同時に受けることができる多帯域検出器36を有する。アルゴンイオンレーザ3の照明光ビームは試料の多色の励起を可能にする複数の波長の照明光を有する。
【0025】
図3は本発明に従う別な走査顕微鏡を示す。試料の共焦点試験はTIRF試験と同時に実行される。この走査顕微鏡は別な光源37を有し、これはパルスチタンサファイアレーザ39の形式であり、別な照明光ビーム41を放出する。別な照明光ビーム41は、第2ビームスプリッタ43、ビーム偏向装置29、ビームスプリッタ7及び第3ビームスプリッタ45を通過し対物レンズ9に達し、絞り23の内側領域27を直接通って試料15を照射する。試料15では、照明光ビーム5によるTIRF照明とは無関係に、別な照明光ビーム41が試料の2光子励起を引き起こす。試料の2光子励起は、CCD要素49の形式のノンデスキャン検出器47で検出される別な検出光53を生成する。この別な検出光53は対物レンズの内側領域を通過し、第3ビームスプリッタ45によりノンデスキャン検出器47に反射される。この走査顕微鏡では、異なる色選択区分絞りが対物レンズの瞳に挿入される。この異なる色選択区分絞りの外側縁領域は光源1の照明光ビーム5を透過させるのに対し、内側領域はこの光を反射するように設計されている。これは照明光が試料に直接入射しないことを保証する。ビームスプリッタ7,45及び43は、照明光ビーム5の光とチタンサファイアレーザ39の光のどちらも位置検出器33とノンデスキャン検出器47に到達しないように設計される。
【0026】
図4は本発明に従う走査顕微鏡の別な変形例を示す。この場合、光源1は、TIRF証明を提供するために色選択区分絞りの外側縁領域25に指向した照明光ビーム5を放出するチタンサファイアレーザ55からなる。エバネッセント波照明は試料15の多光子励起を誘発する。その結果、蛍光ライトが絞り23全体を通過し、ビームスプリッタ45を介して、CCD要素49の形式のノンデスキャン検出器47に達する。その直後に、アルゴンイオンレーザ57からなる光源37を用いて試料を共焦点で照射し、多帯域検出器36の形式の位置検出器33を用いて検出を実行することで、試料の3次元画像が得られる。
【0027】
本発明を特定の実施形態に関して説明してきたが、特許請求の範囲を逸脱することなく変形及び修正がなされることは明らかである。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明に従う走査顕微鏡を示す図である。
【図2】色選択区分絞りを示す図である。
【図3】本発明に従う別な走査顕微鏡を示す図である。
【図4】本発明に従うまた別な走査顕微鏡を示す図である。
【符号の説明】
【0029】
1 光源
3 アルゴンイオンレーザ
5 照明光ビーム
7 ビームスプリッタ
9 対物レンズ
11 対物レンズ瞳
13 カバーガラス
15 試料
17 ベルトランレンズ
19 画像光学系
21 ビーム偏向装置
23 色選択区分絞り
25 外側縁領域
27 内側領域
29 ビーム偏向装置
31 走査ミラー
33 位置検出器
35 検出ピンホール
36 多帯域検出器
37 光源
39 チタンサファイアレーザ
41 照明光ビーム
43 第2ビームスプリッタ
45 第3ビームスプリッタ
47 ノンデスキャン検出器
49 CCD要素
51 検出光
53 検出光
55 チタンサファイアレーザ
57 アルゴンイオンレーザ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スライドに配置された試料をエバネッセント照射する光源を有し、さらに試料の走査ポイントから発する検出光を受ける位置検出器を有し、さらに試料の走査ポイントの位置をシフトさせるために検出光の光路に配置されたビーム偏向装置を有する走査顕微鏡。
【請求項2】
照明光がスライド又は試料のカバーガラスに結合される請求項1に記載の走査顕微鏡。
【請求項3】
走査顕微鏡が集光器を有し、照明光が集光器を通ってスライドに結合する請求項2に記載の走査顕微鏡。
【請求項4】
走査顕微鏡が対物レンズを有し、照明光が対物レンズを通ってカバーガラスに結合する請求項2に記載の走査顕微鏡。
【請求項5】
対物レンズが対物レンズ瞳を有し、照明光が対物レンズ瞳の外側縁領域を通過する請求項4に記載の走査顕微鏡。
【請求項6】
照明光が照明光ビームとして伝わる請求項5に記載の走査顕微鏡。
【請求項7】
照明光ビームが対物レンズ瞳の面に焦点を形成する請求項5に記載の走査顕微鏡。
【請求項8】
別なビーム偏向装置が照明光の光路に設けられ、この別なビーム偏向装置により照明光ビームの空間位置が変えられる請求項6又は7に記載の走査顕微鏡。
【請求項9】
別なビーム偏向装置が対物レンズ瞳の外側縁領域を通って円形に照明光ビームを導く請求項8に記載の走査顕微鏡。
【請求項10】
対物レンズが1.3より大きい開口数、好ましくは1.35〜1.42の開口数を有する請求項4〜9のいずれか一項に記載の走査顕微鏡。
【請求項11】
色選択区分絞りが照明光の光路、好ましくは対物レンズ瞳の面に位置する請求項1〜10のいずれか一項に記載の走査顕微鏡。
【請求項12】
色選択区分絞りの外側縁領域が照明光の波長を有する光を透過させる請求項11に記載の走査顕微鏡。
【請求項13】
色選択区分絞りの内側領域が照明光のそれより大きい波長を有する光のみ透過させる請求項12に記載の走査顕微鏡。
【請求項14】
色選択区分絞りの内側領域は照明光のそれより小さい波長を有する光のみ透過させる請求項12に記載の走査顕微鏡。
【請求項15】
照明光が好ましくはパルス赤外光である請求項14に記載の走査顕微鏡。
【請求項16】
照明光が複数の波長を有する請求項1〜15のいずれか一項に記載の走査顕微鏡。
【請求項17】
位置検出器が多帯域検出器又は分光計である請求項1〜16のいずれか一項に記載の走査顕微鏡。
【請求項18】
位置検出器が検出ピンホールを有する請求項1〜16のいずれか一項に記載の走査顕微鏡。
【請求項19】
走査顕微鏡が共焦点走査顕微鏡として構成された請求項1〜18のいずれか一項に記載の走査顕微鏡。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2007−506955(P2007−506955A)
【公表日】平成19年3月22日(2007.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−527425(P2006−527425)
【出願日】平成16年9月23日(2004.9.23)
【国際出願番号】PCT/EP2004/052296
【国際公開番号】WO2005/029151
【国際公開日】平成17年3月31日(2005.3.31)
【出願人】(500178876)ライカ マイクロシステムス ツェーエムエス ゲーエムベーハー (80)
【Fターム(参考)】