エフォリン及び/又はエフからなる炎症細胞の化学遊走調節剤及びその用途
【課題】アテローム性動脈硬化症をはじめとする炎症性疾患の診断及び/又は治療薬の開発に役立つ新規な研究方法及びそのためのツールを提供する。
【解決手段】エフォリン及び/又はエフからなる炎症細胞の化学遊走調節剤。
【解決手段】エフォリン及び/又はエフからなる炎症細胞の化学遊走調節剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エフォリン及びエフォリン受容体(エフ)による炎症細胞の調節及びそれを利用した炎症の測定に関する。
【背景技術】
【0002】
動脈硬化症は、主要な疾患であり、心臓発作及び脳梗塞のような突然の死亡を起こすことから、その予防は世界的に重要な医療問題となってきている。動脈硬化症については高コレステロール血症のような危険因子が公知であるが、近年、炎症は、アテローム性動脈硬化症の発症及び進行において重要な役割を果たすことがわかってきた。
【0003】
マクロファージは、脂質を担持した泡沫細胞及び脂肪小滴が平滑筋細胞及びコラーゲンの豊富なマトリックスのキャップによって囲まれているコア領域を形成する動脈硬化症病変部(プラーク)で優勢である。これらのプラークの破壊及びその後の塞栓症は、突然の動脈の閉塞を起こし、急性の臨床的事象をもたらす。したがって、アテローム性動脈硬化症プラークの発生に関わるメカニズムの解明は、臨床的事象を予防するために重要である。しかし、ヒト動脈硬化症におけるマクロファージとT−リンパ球とをつなぐ分子ネットワークは未だ未解明である。
【0004】
受容体チロシンキナーゼであるエフ(Eph)は、そのリガンドであるエフォリン(ephrin)によって活性化され、胎生期における細胞の接着及び移動を制御する分子群として知られている。分子の形態により、エフォリン及びエフは、A群及びB群に大別されている(A群:エフォリン−A1〜−A5及びエフA1〜A8;B群:エフォリン−B1〜−B3及びエフB1〜B4、B6)。これらの分子は、一部でガン発生との関連が指摘されているが、動脈硬化症を含むその他の種々の炎症性疾患との関係が指摘されたことはこれまでなかった。
【0005】
【非特許文献1】Yusuf, S. et al. (2001) Circulation 104, 2746-2753.
【非特許文献2】Naghavi, M. et al. (2003) Circulation 108, 1664-1672.
【非特許文献3】Libby, P. (2002) Nature 420, 868-874.
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【非特許文献6】Daugherty, A. et al. (2005) J Lipid Res 46, 1812-1822.
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【非特許文献12】Murai, K. K. & Pasquale, E. B. (2003) J Cell Sci 116, 2823-2832.
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【非特許文献14】Armstrong, P. J. et al. (2002) J Vasc Surg 35, 346-355.
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【非特許文献19】Sharfe, N. et al. (2002) Eur J Immunol 32, 3745-3755.
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【非特許文献21】Yu, G. et al. (2004) J Biol Chem 279, 55531-55539.
【非特許文献22】Luo, H. et al. (2002) J Clin Invest 110, 1141-1150.
【非特許文献23】Lu, Q. et al. (2001) Cell 105, 69-79.
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【非特許文献25】Bouloumie, A. et al. (2005) Curr Opin Clin Nutr Metab Care 8, 347-354.
【非特許文献26】Ma, Y. & Pope, R. M. (2005) Curr Pharm Des 11, 569-580.
【非特許文献27】Barnes, P. J. (2004) Cell Mol Biol (Noisy-le-grand) 50 Online Pub, OL627-OL637.
【非特許文献28】Grip, O. et al. (2003) Curr Drug Targets Inflamm Allergy 2, 155-160.
【非特許文献29】Hendriks, J. J. et al. (2005) Brain Res Brain Res Rev 48, 185-195.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明者らは、アテローム性動脈硬化症をはじめとする炎症性疾患の診断及び/又は治療薬の開発に役立つ新規な研究方法及びそのためのツールを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、cDNAアレイ技術を用いてヒトアテローム性動脈硬化症プラークの発生に関与する新規な分子ネットワークを探索した結果、従来は発生分化遺伝子群と考えられてきたエフォリン遺伝子及びその同族受容体遺伝子が動脈硬化症プラーク領域(病変部)において高発現することを見出し、本発明を完成した。
【0008】
即ち、本発明は、
〔1〕エフォリン及び/又はエフからなる炎症細胞の化学遊走調節剤;
〔2〕炎症細胞がT−リンパ球、単球及びそれらに由来する株細胞から選択される、前記〔1〕記載の化学遊走調節剤;
〔3〕エフォリン及び/又はエフが、B群エフォリン及びエフから選択される、前記〔1〕又は〔2〕記載の化学遊走調節剤;
〔4〕インビトロで炎症細胞にエフォリン及び/又はエフを添加することを含む、炎症細胞の化学遊走を抑制する方法;
〔5〕炎症細胞を化学遊走が起こり得る条件下でエフォリン及び/又はエフと被検物質との存在下でインビトロで培養する工程、及び前記炎症細胞の化学遊走の程度を測定する工程を含むことを特徴とする、被検物質による炎症細胞の化学遊走調節能を調べる方法;
〔6〕炎症細胞の通過が可能な隔壁によって区分された少なくとも2つの培養区画を有する培養容器であって、前記隔壁の表面又は一方の培養区画の表面にエフォリン及び/又はエフが固定化されていることを特徴とする培養容器からなる、被検物質による炎症細胞の化学遊走調節能を調べるための試験具;
〔7〕炎症細胞の通過が可能な隔壁によって区分された少なくとも2つの培養区画を有する培養容器、前記隔壁の表面又は一方の培養区画の表面に固定化するためのエフォリン及び/又はエフを含むコーティング溶液、他方の培養区画に添加するためのケモカイン溶液を含む、被検物質による炎症細胞の化学遊走調節能を調べるための試験キット;
〔8〕増幅される領域が1つのエクソンの一部又は全部に相当するように設計されている、エフォリン又はエフ遺伝子群、又はその転写物に由来する核酸を増幅するためのプライマー対;
〔9〕プライマー対の各プライマーが、以下の配列の対からなる群から選択される配列を有する、請求項8記載のプライマー対:配列表の配列番号1及び2、配列番号3及び4、配列番号5及び6、配列番号7及び8、配列番号9及び10、配列番号11及び12、配列番号13及び14、配列番号15及び16、配列番号17及び18、配列番号19及び20、配列番号21及び22、配列番号23及び24、配列番号25及び26、配列番号27及び28、配列番号29及び30、配列番号31及び32、配列番号33及び34、配列番号35及び36、配列番号37及び38、配列番号39及び40、配列番号41及び42、配列番号49及び50、配列番号51及び52;
〔10〕前記〔8〕又は〔9〕記載のプライマー対と、鋳型として細胞又は組織由来RNAとを用いてPCR法を行なうことを特徴とする、エフォリン及び/又はエフの発現に基づいて前記細胞又は組織における炎症の有無又は程度を評価する方法、
を提供する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、エフォリン及び/又はエフを用いて炎症細胞の化学遊走を調節することが可能となる。これにより、被検物質から、炎症細胞の化学遊走を調節する能力を有するものを選択することができる。炎症は、炎症細胞の遊走及び組織侵入により発生又は重症化すると考えられることから、このような炎症細胞の化学遊走調節能、特に化学遊走抑制能を有する物質は、抗炎症剤として使用される可能性がある。
【0010】
また、本発明によれば、エフォリン及び/又はエフの遺伝子の発現を指標として、炎症の有無又は程度を調べることができる。特に、本発明のプライマーを用いれば、PCRの鋳型としてcDNA及びゲノムDNAのいずれを用いても同一の増幅産物が得られるように設計されているため、PCRにおいて容易に入手可能なヒトゲノムDNAを陽性対照として用いることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明に用いられるエフォリン及びエフは、後述するような試験によって炎症細胞の化学遊走を調節(抑制又は促進)する能力を有する限りにおいて、公知のいずれのものであってもよい。エフォリン及びエフとしては、好ましくはB群に属するもの又は化学遊走を抑制する能力を有するものであり、それらの中では特にエフォリン−B1及びエフB2が好ましい。
【0012】
炎症細胞は、一般に生体の炎症反応局所に集積することが知られている細胞であり、例えば好中球、単球、マクロファージ、リンパ球、形質細胞、組織球、血小板などを含む。本発明に関しては、それらに加えて、炎症細胞に由来する培養細胞(株細胞等)も含む。被検物質の化学遊走調節能を試験する場合、個別の調製の手間が省け、また、調製物ごとの変動が回避できるために結果の解釈が容易になることから、培養細胞を用いることが好ましい。
【0013】
本発明の化学遊走抑制方法は、インビトロで炎症細胞にエフォリン及び/又はエフを添加する工程を含む。炎症細胞をエフォリン及び/又はエフと接触させることによって、炎症細胞の化学遊走の程度を調節することができる。また、この系に被検物質を共存させた場合、その被検物質がエフォリン及び/エフによる化学遊走の調節に与える影響を調べることができる。
【0014】
本発明者らは、エフォリン及びエフが、動脈硬化病変部(プラーク)のマクロファージ及びT−リンパ球において高発現されている一方、健常人の末梢血中の単球及びT−リンパ球並びに血管内皮細胞においても発現しており、さらにエフォリン及びエフは、炎症細胞の自発遊走及び化学遊走を抑制することを見出した。これらの知見に基づいて、正常血管において内皮細胞に発現するエフォリン及びエフは炎症細胞の組織への侵入を防御していると考えられる。したがって、本発明によって、エフォリン及び/又はエフによる化学遊走を抑制する能力に関して、アゴニストとして作用する被検物質を見出すことにより、その被検物質を抗炎症薬の候補として選択すること(スクリーニング)ができる。そのようなアゴニストとしては、例えばエフォリンの細胞外ドメインを免疫グロブリンのFc部分と融合させた組換えタンパク質が挙げられる。また、エフォリン及び/又はエフによる化学遊走を抑制する能力に関して、アンタゴニストとして作用する被検物質が見出されれば、それは炎症を悪化させる可能性があるものとして選別することができる。
【0015】
このような被検物質の能力を調べる方法としては、具体的には、まず、化学遊走が起こり得る系においてインビトロで炎症細胞をエフォリン及び/又はエフの存在下で培養する。この培養の前又は培養と同時に被検物質を培地に添加し、エフォリン及び/又はエフと被検物質とが共存する状態で炎症細胞を一定時間培養する。その後、炎症細胞の化学遊走の程度を測定する。この測定結果を、同じ系において被検物質を添加しなかった場合と比較して、被検物質を添加した場合において遊走の程度が低減していればアゴニストとして作用する能力、増大していればアンタゴニストとして作用する能力を被検物質が有すると判定することができる。
【0016】
上記の方法は、細胞の通過が可能な隔壁によって区分された少なくとも2つの培養区画を有する培養容器を用いることによって有利に行なうことができる。複数の区画は、水平に設けられていてもよく、垂直(上下)に配置されていてもよい。材質は細胞の培養に関して有害でない限り特に制限はなく、隔壁としては、例えば有孔のプラスチック製の板、ポリエステル又はポリカーボネート製の多孔質膜などであってもよい。孔のサイズとしては、使用する炎症細胞が通過できるものであればよく、一般的には約3〜12μm程度であることが好ましい。このような培養容器は公知であり、例えばTranswell(登録商標)(Corning)などが市販されている。
【0017】
本発明の方法における使用のためには、このような培養容器は、エフォリン及び/又はエフを一方の区画の内壁(側面及び底面を含む)又は隔壁に予め固定化しておき、被検物質による炎症細胞の化学遊走調節能を調べるための試験具として提供することができる。同様に、本発明の方法を実施するために、上記のような培養容器と、隔壁の表面又は一方の培養区画の表面に固定化するためのエフォリン及び/又はエフを含むコーティング溶液と、他方の培養区画に添加するためのケモカイン溶液とを、キットの形態で提供することができる。キットには、さらに希釈用緩衝液(例えば後述するような化学遊走用緩衝液)のような、本発明の方法の実施に際して使用する他の構成要素を含ませることができる。
【0018】
このような試験具又はキットを用いる場合、使用の際に、一方の区画にケモカイン、他方の区画(内壁にエフォリン及び/又はエフがコーティングされている場合はその側)に炎症細胞を入れ、所定の時間培養し、隔壁を通過してケモカインの側に移動した細胞の数を調べることによって、化学遊走の増減を容易に測定・評価することが可能である。
【0019】
細胞又は組織におけるエフォリン又はエフの発現の有無又は量は、細胞又は組織からRNAを抽出し、このRNAからcDNAを調製し、それを鋳型として、公知のPCR方法を行なうことにより調べることができる。本発明の増幅用プライマーセット(対)は、エフォリン又はエフ遺伝子の1つのエクソン内の領域が増幅されるように設計されているので、ゲノムDNAを陽性対照として用いることができ、試験の有効性を簡単に確認することができる。即ち、サンプルからのcDNAを鋳型とした場合と、ゲノムDNAを鋳型とした場合とで、同一の増幅産物が得られるので有利である。
【0020】
表1に、このような本発明のエフォリン及びエフ核酸増幅用プライマーの配列の具体例を示す。カッコ内は増幅されるエクソン(Ex)の番号を示す。
【0021】
【表1】
【0022】
PCR条件の設定は、当業者が適宜選択することができる。具体的な条件は、以下の例において挙げるが、それに限らない。
【実施例】
【0023】
下記の試料、試薬、方法は、いくつかの例において共通して使用された。
【0024】
ヒト頚動脈組織
発作歴がある10人のアテローマ性動脈硬化症患者(平均年齢58.2歳、男性)から、国立循環器病センターで頚動脈血管内膜切除術(CEA)により切除された頚動脈を得た。国立循環器病センターの倫理委員会によって確立された基準にしたがってすべての患者からインフォームド・コンセントを得た。
【0025】
得られた頚動脈は、90%以上が管腔内の狭窄を有しており、そのすべてが米国心臓病学会分類(American Heart Association classification)による第VI段階に属していた。採取後直ちに検体の半分をヒストチョイス(Histochoice)(商品名、Amresco, Solon, OH)で固定した。残りの半分から、動脈硬化症プラーク領域(「Pl」)及びプラークのない動脈内領域を切り出し、後者を比較的正常な領域(「rN」)と名付けた。PlとrNの両方を液体窒素中で凍結し、使用時まで−80℃で保存した。
【0026】
抗体
以下の抗体を使用した:モノクローナル抗CD68(クローンKP1)及び抗平滑筋アクチン(SMA、クローン1A4)、DAKO(Kyoto,Japan)から入手;モノクローナル抗CD4(クローン1F6)及び抗CD8(クローン4B11)、Novocastra(Newcastle, UK)から入手。ポリクローナルウサギ抗エフォリン−B1抗体、Santa Cruz(Santa Cruz, CA)から入手。ポリクローナルヤギ抗エフB2抗体及びポリクローナルウサギ抗CXCR4抗体、Sigma(St. Louis, MO)から入手。ビオチン化ブタ抗ヤギIgG抗体、DAKOから入手。Alexa 546−コンジュゲート化抗マウスIgG抗体、Alexa 488−コンジュゲート化抗ウサギIgG抗体及びAlexa 488−コンジュゲート化抗ヤギIgG抗体、Molecular Probes(Eugene,OR)から入手。
【0027】
統計学的処理
rN及びPlの間の各標的遺伝子の標準化された発現レベルの統計学的な比較は、スタットビュー(StatView) Ver.5.0 ソフトウェア(商品名、SAS Institute Inc, Cary, NC)を用いて対応のあるt−検定(paired Student’s t-test)によって行なった。P<0.05を統計学的に有意であると判定した。
【0028】
例1.cDNAマクロアレイ解析によるヒト頚動脈動脈硬化症プラークにおけるアップレギュレートされた遺伝子の同定及びクラスター化
アイソジェン(Isogen)試薬(商品名、Nippon Gene, Tokyo, Japan)を製造業者の指示書どおりに用いて、CEA検体の10対のrN及びPl部分から全RNAを単離した。RNAの濃度を分光光度計で測定し、その質を、サイバー・グリーン色素(Sybr Green dye)(Molecular Probes)で染色した1.2%変性アガロースゲル電気泳動で肉眼で確認した。
【0029】
cDNAマクロアレイ解析を、4対の適当な量の全RNAについて行なった。cDNA膜マクロアレイについては、サイトカイン/受容体及び心血管アトラスアレイ(Cytokines/Receptors and Cardiovascular Atlas Arrays)(BD Biosciences, Palo Alto, CA)を用いた。これは、全部で522の独立の遺伝子(既知のサイトカイン及び心血管関連遺伝子)を網羅する。cDNA合成プライマーミックス及び[α−32P]dATPを用いて2μgの各全RNAからcDNAプローブ混合物を合成し、製造業者の指示書にしたがって膜アレイとハイブリダイズさせた。充分に洗浄した後、これらの16枚の膜のすべてをストームイメージ解析装置(STORM phosphorimaging device)(Amersham Biosciences, Piscataway, NJ)で走査した。
【0030】
アレイ・ビジョン・プログラム(Array Vision program)(Amersham Biosciences)を用いて、各スポットcDNAからのシグナル密度を決定し、グリセロアルデヒド−3’−ホスフェートデヒドロゲナーゼ(GAPDH)に対して標準化した。対にした膜の各々について、522のcDNAの標準化したシグナルをrN及びPl間で比較した。Plにおいてアップレギュレートされた遺伝子を含む機能的及び物理的な分子ネットワークは、インジェニュイティ・パスウェイ・アナリシス・プログラム(Ingenuity Pathway Analysis program)(Ingenuity, Mountain View, CA)を用いて予測した。動脈硬化症に関してのこれらの潜在的な分子ネットワークの新規性を、PubMedデータベースによって調べた。
【0031】
結果は、10個のCEA検体のrN又はPl部分から単離されたRNAのすべては、アガロースゲル電気泳動上で良好な完全性を維持していた。ハウスキーピング遺伝子は常に強いハイブリダイゼーションシグナルを示したが、陰性対照スポットは全くハイブリダイズしなかった。Plにおいてアップレギュレートされている遺伝子についてのスクリーニング感度を最大にするために、以下の緩い基準を満たす151の候補遺伝子を選択した:少なくとも1つのPl検体における3倍を超えるアップレギュレーション及びすべてのPl検体における3分の1未満のダウレギュレーション。
【0032】
これらの候補遺伝子について、インジェニュイティ・パスウェイ・アナリシス・プログラムを用いて29の分子ネットワークを企図し、動脈硬化症との関係におけるそれらの新規性をPubMedデータベースによって検索した。ネットワークの大部分は、動脈硬化症と充分に関連づけられた遺伝子、例えばapoE及び脂肪酸結合タンパクのような脂質代謝関連遺伝子;インターロイキン8のようなサイトカイン遺伝子;インスリン様成長因子1及び肝細胞成長因子を含む成長因子遺伝子;マトリックスメタロプロテアーゼ9及びトロンボモジュリンのようなその他のものであったが、マクロファージ−リンパ球相互作用及びアテローム発生において認識されたことが全くなかったエフォリン及びエフ、特にエフォリン−B類及びそれらの同族受容体であるエフB類からなるネットワークが発見された。
【0033】
例2.定量的リアルタイムRT−PCRによる遺伝子アップレギュレーションの確認
10対のCEA検体すべてについて、1μgの全RNAをDNAフリー(DNA-free)(Ambion, Austin, TX)で処理し、ランダムプライマー及びスーパースクリプト(SuperScript)II逆転写酵素(Invitrogen, Carlsbad, CA)を用いてcDNAに変換した(Higashikata et al., Atheroselerosis 177, 353-360(2004))。定量的リアルタイムRT−PCRは、ABIプリズム7700配列検出システム(ABI Prism 7700 Sequence Detection System)(PE Applied Biosystems, Foster City, CA)を用いて行なった。各標的遺伝子の発現レベルを、GAPDHのそれらに対して標準化した(Higashikata et al., Atheroselerosis 177, 353-360(2004))。2つのケモカイン受容体、即ちCXCR2及びCXCR4についてのプライマーセット及びTaqManプローブは、コンピュータプログラム「プライマー・エクスプレス(Primer Express)2.0」(PE Applied Biosystems)を用いて以下のように設計した:
【0034】
CXCR2
フォワードプライマー:5’−TACATGGCTTGATCAGCAAGGA−3’(配列番号43);
リバースプライマー:5’−GCCCTGAAGAAGAGCCAACA−3’ (配列番号44);
TaqManプローブ:5’−TGCCCAAAGACAGCAGGCCTTCCT−3’)(配列番号45);及び
CXCR4
フォワードプライマー:5’−GGTGGTTGTGTTCCAGTTTCAG−3’(配列番号46);
リバースプライマー:5’−ATAATGCAATAGCAGGACAGGATG−3’(配列番号47);
TaqManプローブ:5’−TCATGGTTGGCCTTATCCTGCCTGGTA−3’(配列番号48)。
【0035】
アッセイ・オン・デマンド(Assay-on-Demand)カクテルを、エフォリン−B1(Hs00270004_m1)、エフォリン−B2(Hs00187950_m1)、エフB1(Hs00174725_m1)、エフB2(Hs00362096_m1)、エフB3(Hs00177903_m1)及びエフB4(Hs00174752_m1)について用いた。各標的遺伝子について、2回の独立したアッセイを三連で行ない、平均発現レベルを算出した。
【0036】
結果を図1に示す。CXCR2及びCXCR4の2つのケモカイン受容体遺伝子の発現は、共にrNと比較してPlにおいて有意に高められていた(図1、パネルA)。したがって、これらの10対のrN及びPlcDNAが動脈硬化症関連遺伝子発現に関する非常に信頼できるデータを提供することが示された。
【0037】
エフォリン−B類及びエフB類についての遺伝子発現レベルについては、エフォリン−B1(同、パネルB)及びエフB2(同、パネルC)は、rNと比較してPlにおいて有意にアップレギュレートされていた。相対発現レベルは以下のとおりであった(rN対P1、n=10):エフォリン−B1について、0.638±0.106対0.831±0.152、p<0.05;エフB2について1.296±0.281対2.233±0.506、p<0.05。したがって、プラーク領域におけるエフォリン−B1及びエフB2の発現を解析した。
【0038】
例3.免疫組織化学による動脈硬化症プラークにおけるエフォリン−B1及びエフB2の局在
固定したCEA検体をパラフィン包埋し、厚さ3μmの切片を作製した。調製物の完全性の評価のために、これらの切片を、マウス抗CD68抗体(1:300希釈)と共にインキュベートし、ペルオキシダーゼ共役エンビジョン・システム(Envision system)(PO-Envision, DAKO)及び基質として3,3’−ジアミノベンジジン(DAB)を用いた間接法により染色した。
【0039】
エフォリン−B1及びCD68の二重免疫組織化学染色のためには、まず切片を抗CD68抗体と共にインキュベートし、PO-Envision及びDABを用いて褐色の沈澱物として染色した。続いて、同じ切片を、ウサギ抗エフォリン−B1抗体(1:300希釈)と共にインキュベートし、アルカリホスファターゼ共役エンビジョン・システム(AP-Envision, DAKO)及び基質としてニュー・フクシン(New Fuchsin)(DAKO)を用いて赤色の沈殿物として染色した。エフォリン−B1及びCXCR4の二重免疫染色のためには、まず切片を抗エフォリン−B1抗体と共にインキュベートし、PO-Envision及びDABを用いて処理した。同じ切片を、次にウサギ抗CXCR4抗体(1:100希釈)と共にインキュベートし、AP-Envision及びNew Fuchsinを用いて処理した。エフォリン−B1及びSMAの二重免疫染色のためには、まず切片を抗エフォリン−B1抗体と共にインキュベートし、PO-Envision及びDABを用いて処理した。同じ切片を、次にマウス抗SMA抗体(1:300希釈)と共にインキュベートし、AP-Envision及びNew Fuchsinを用いて処理した。エフォリン−B1及びCD4、又はエフォリン−B1及びCD8の二重免疫染色のためには、切片を0.01mol/Lクエン酸緩衝液(pH6.0)中で121℃で5分間オートクレーブ処理し、CD4又はCD8抗原を露出させた。露出させた切片を、抗エフォリン−B1抗体と共にインキュベートし、PO-Envision及びDABを用いて処理した。同じ切片を、次にマウス抗CD4抗体(1:40希釈)又はマウス抗CD8抗体(1:40希釈)と共にインキュベートし、AP-Envision及びNew Fuchsinを用いて処理した。
【0040】
エフB2及びCD68の二重免疫染色のためには、切片を、まずヤギ抗エフB2抗体(1:50希釈)と共にインキュベートし、ペルオキシダーゼ共役ヒストファイン・マックス−(G)・システム(Histofine MAX-(G) system)(Nichirei, Tokyo, Japan)及びDABで処理した。同じ切片を、次に抗CD68抗体と共にインキュベートし、AP-Envision及びNew Fuchsinを用いて処理した。エフB2及びCD4、又はエフB2及びCD8の二重免疫染色のためには、露出された切片を、まず抗CD4抗体又は抗CD8抗体と共にインキュベートし、PO-Envision及びDABを用いて処理した。次に、同じ切片を、まずヤギ抗エフB2抗体と、後にビオチン化ブタ抗ヤギIgG抗体(1:100希釈)と共にインキュベートし、アルカリホスファターゼ共役LSAB2キット(DAKO)及びNew Fuchsinを用いて処理した。これらのすべての調製物は、ヘマトキシリンで対染色し、アクシオカム(AxioCam)CCDカメラを装着したアクシオフォト2(Axiophot2)光学顕微鏡(Carl Zeiss, Hallbergmoos, Germany)で検査した。
【0041】
結果を図2及び図3に示す。全単球/マクロファージについてのマーカーであるCD68についての単独染色によって、コレステロール・クレフト(cholesterol clefts)をとりまくCD68陽性泡沫細胞が見出された(図2、パネル(A))。したがって、検体が典型的なアテローム性動脈硬化症の特徴を有し、それを維持していることが示された。
単独染色によって種々の形態の細胞においてエフォリン−B1又はエフB2様の免疫反応性が見出されたので、二重免疫組織化学染色を行なってエフォリン−B1又はエフB2を発現する正確な細胞タイプを明らかにした。
【0042】
エフォリン−B1免疫反応性は、以下の細胞タイプにおいて見出された:マクロファージ様細胞及びCD68陽性泡沫細胞(同、パネル(B));SMA(平滑筋細胞のマーカー)陽性長型細胞(elongated cells)(同、パネル(D));CD4(ヘルパーT−リンパ球のマーカー)陽性小細胞(small cells)(同、パネル(E));CD8(キラー又はサプレッサーT−リンパ球のマーカー)陽性小細胞(同、パネル(F))。
【0043】
一方、エフB2についての免疫反応性は、以下の細胞タイプにおいて見出された:マクロファージ様細胞及びCD68陽性泡沫細胞(図3、パネル(A));CD4陽性小細胞(同、パネル(B));CD8陽性小細胞(同、パネル(C))。
【0044】
即ち、エフォリン−B1及びエフB2の両方が、プラーク領域内でマクロファージ及びT−リンパ球において見出された。また、エフォリン−B1及びCXCR4の両方を発現する多くのマクロファージ様細胞(図2、パネル(C))及びリンパ球様細胞も見出された(データは示していない)。
【0045】
例4.健常ヒト成人の末梢血単球及びT−リンパ球におけるエフォリン−B1及びエフB2の発現
健常ヒト成人の末梢血中に循環している静止状態の(resting)単球及びT−リンパ球においてもエフォリン−B1及びエフB2が発現されているかどうかを調べた。単核細胞を、健常成人志願者の全血(200mL)からリンフォプレップ(Lymphoprep)試薬(Axis-Shield PoC AS, Oslo, Norway)を用いて分離し、以前記載されたように、対流遠心エルトリエーション(counterflow centrifugal elutriation)(R5E elutriation system, 日立工機、茨城県)に供した(Terui et al., J. Immunol. 156, 1981-1988(1996))。この単球富化(enriched)画分からの細胞を、マウス抗CD68抗体と共にインキュベートし、次にAlexa 488−コンジュゲート化抗マウスIgG抗体とインキュベートした。これらの細胞を、4’,6−ジアミジノ−2−フェニルインドール(DAPI; Molecular Probes)で対染色し、Axiophot2 落斜蛍光(epifluorescence)顕微鏡(Carl Zeiss)を用いて単球の純度について調べた。
【0046】
CD68及びエフォリン−B1の二重免疫染色のために、この単球富化細胞をまずマウス抗CD68抗体及びウサギ抗エフォリン−B1抗体と共にインキュベートし、次にAlexa 546−コンジュゲート化抗マウスIgG抗体(1:600希釈)及びAlexa 488−コンジュゲート化抗ウサギIgG抗体(1:600希釈)と共にインキュベートした。CD68及びエフB2の二重免疫蛍光染色のためには、これらの細胞を、まずマウス抗CD68抗体及びヤギ抗エフB2抗体と共にインキュベートし、次にAlexa 546−コンジュゲート化抗マウスIgG抗体及びAlexa 488−コンジュゲート化抗ヤギIgG抗体(1:600希釈)と共にインキュベートした。
【0047】
これらの単球富化細胞からcDNAを合成し、以下のプライマーセットを用いてRT−PCRを行なった:
【0048】
エフォリン−B1
フォワードプライマー:5’−AGCTGCCTGTAGCACAGTTC−3’(配列番号49);
リバースプライマー:5’−GAGCAGGAAGATGACGCAAC−3’配列番号50);
エフB2
フォワードプライマー:5’−GACTCCACTACAGCGACTGC−3’(配列番号51);
リバースプライマー:5’−TTGCGGTAGAAGACACGCAC−3’(配列番号52);及び
GAPDH
フォワードプライマー:5’−ACCACAGTCCATGCCATCAC−3’(配列番号53);
リバースプライマー:5’−TCCACCACCCTGTTGCTGTA−3’(配列番号54)。
【0049】
PCRは、以下の条件下でExTaq(Takara, Tokyo, Japan)を用いて行なった:プレヒート、94℃、2分間;35サイクルの増幅、94℃で20秒、60℃で30秒、及び72℃で40秒。フォワード及びリバースプライマーは、RT−PCRによるゲノムの増幅を排除するように各標的遺伝子の分離したエクソン中で設計した。
【0050】
リンパ球富化細胞フラクションについて、CD4及びエフォリン−B1、CD4及びエフB2、CD8及びエフォリン−B1、及びCD8及びエフB2に関する二重免疫蛍光試験を同様に行なった。
【0051】
結果を図4及び図5に示す。健常成人志願者由来の単球は、対流遠心エルトリエーションシステムによって>90%の純度まで富化された(図4、パネル(A))。エフォリン−B1(同、パネル(B))及びエフB2(同、パネル(C))の両方についての免疫反応性が、CD68陽性細胞において観察された。また、RT−PCRによってこの単球富化cDNAからエフォリン−B1及びエフB2の確固たる生成物が得られた(同、パネル(D))。T−リンパ球については、CD4陽性細胞は、エフォリン−B1(図5、パネル(A))及びエフB2(同、パネル(B))の両方を発現した。CD8陽性T−リンパ球もまた、エフォリン−B1(同、パネル(C))及びエフB2(同、パネル(D))の両方を発現した。これらのデータは、エフォリン−B1及びエフB2の両方が健常ヒト成人の末梢血中の循環している単球及びT−リンパ球において発現されることを明らかに示した。
【0052】
例5.RT−PCRによる炎症細胞におけるエフォリン遺伝子群の発現の検出
PCR反応における鋳型として、THP−1細胞、Jurkat細胞、内皮細胞の各々からRNAを抽出し、クオンティテクト逆転写(QuantiTect Reverse Transcription)キット(QIAGEN、カタログNo.205311)を用いて逆転写酵素を添加して又は添加せずにcDNAを作製した。具体的には、各RNAを、0.5mLのチューブ中で合計14μL(7×gDNA Wipeout Buffer 2.0μL、RNase無含有水とRNA(10pg〜1μg)との合計12μL)の反応液中で42℃で2分間インキュベートした後、氷冷し、DNase処理した。次に、DNase処理後のチューブに反応液のカクテル(5×Quantiscript RT Buffer 4μL、RT Primer Mix 1.0μL、Quantiscript Reverse Transcriptase 1.0μLの合計6μL)を入れて、cDNA合成を行なった。cDNA合成を行なわない逆転写酵素なし(RT(−))にはDEPC水を6μL加え、合計20μLにした。この反応液を42℃で15分間インキュベートした後、95℃で3分間加熱して酵素を不活化した。
【0053】
この各cDNAをサンプルとして使用して、PCRを行なった。反応液の組成は、オートクレーブ水 6.65μL、Ex Buffer 1.0μL、dNTP 0.8μL、以下に示す各プライマー対(10μM) 1.0μL、サンプル 0.5μL、Ex Taq 0.05μL(合計10μL)であった。陽性対照として、Hela細胞由来のヒトゲノムDNA 50ng/μLを用いて同様に反応を行なった(反応液組成:オートクレーブ水 6.15μL、Ex Buffer 1.0μL、dNTP 0.8μL、各プライマー対(10μM) 1.0μL、サンプル 1.0μL、Ex Taq 0.05μL;合計10μL)。
【0054】
以下のいずれかのPCR条件を用いた。[1]:94℃、2分(熱変性)の後、94℃で20秒、55℃で30秒、72℃で30秒のサイクルを30回又は35回行ない、4℃で保存する;[2]:94℃で2分(熱変性)の後、94℃で20秒、65℃で30秒、72℃で30秒のサイクルを30回又は35回行ない、4℃で保存する。
【0055】
[1]の条件で用いたプライマーは、
ephrin-A1 F及びR(配列番号1及び2)
ephrin-A2 F3及びR3(配列番号3及び4)
ephrin-A3 F2及びR(配列番号5及び6)
ephrin-A4 F及びR(配列番号7及び8)
ephrin-A5 F及びR(配列番号9及び10)
EphA1 F及びR(配列番号11及び12)
EphA4 F及びR(配列番号17及び18)
EphA5 F及びR(配列番号19及び20)
EphA6 F及びR(配列番号21及び22)
Ephrin-B1 F及びR(配列番号27及び28)
EphB4 F及びR(配列番号39及び40);
【0056】
[2]の条件で用いたプライマーは、
EphA2 F及びR(配列番号13及び14)
EphA3 F及びR(配列番号15及び16)
EphA7 F及びR(配列番号23及び24)
EphA8 F及びR(配列番号25及び26)
ephrin-B2 F及びR(配列番号29及び30)
ephrin-B3 F及びR(配列番号31及び32)
EphB1 F及びR(配列番号33及び34)
EphB2 F及びR(配列番号35及び36)
EphB3 F及びR(配列番号37及び38)
EphB6 F及びR(配列番号41及び42)
であった(F=フォワード、R=リバース)。
【0057】
PCR産物は、4%ポリアクリルアミドゲル上で電気泳動して確認した(泳動前、300v、400mAで30分プレランした後、300v、400mAで35分泳動した。)
【0058】
結果を図6〜11に示す。図6〜11において、×30及び×35はPCRのサイクル(それぞれ30回及び35回)を示している。×30でバンドを認めたものは高発現、×35でもバンドを認めないものは検出限界以下、と考えることができる。
【0059】
図6は、THP−1細胞におけるA群のエフォリンとエフの発現を検討したものである。THP−1細胞において、エフォリン−A1、エフォリン−A2、エフォリン−A3、エフォリン−A4、エフォリン−A5、エフA1、エフA2、エフA5、エフA6、エフA7は発現し、中でもエフォリン−A4、エフA6は高発現していると考えられる。
【0060】
図7は、THP−1細胞におけるB群のエフォリンとエフの発現を検討したものである。THP−1細胞において、エフォリン−B1、エフォリン−B2、エフォリン−B3、エフB1、エフB2、エフB3、エフB4、エフB6は発現し、中でもエフォリン−B1、エフB1、エフB4、エフB6は高発現していると考えられる。
【0061】
図8は、Jurkat細胞におけるA群のエフォリンとエフの発現を検討したものである。Jurkat細胞において、エフォリン−A1、エフォリン−A3、エフォリン−A4、エフA1、エフA2、エフA3、エフA5、エフA6、エフA8は発現し、中でもエフォリン−A1、エフォリン−A3、エフォリン−A4、エフA1、エフA3は高発現していると考えられる。
【0062】
図9は、Jurkat細胞におけるB群のエフォリンとエフの発現を検討したものである。Jurkat細胞において、エフォリン−B1、エフォリン−B2、エフォリン−B3、エフB1、エフB2、エフB3、エフB4、エフB6が発現し、中でも、エフォリン−B1、エフォリン−B2、エフォリン−B3、エフB1、エフB2、エフB4、エフB6は高発現していると考えられる。
【0063】
図10は、冠動脈由来の血管内皮細胞におけるA群のエフォリンとエフの発現を検討したものである。血管内皮細胞において、エフォリン−A1、エフォリン−A2、エフォリン−A3、エフォリン−A4、エフォリン−A5、エフA2、エフA3、エフA4、エフA5、エフA6、エフA7、エフA8は発現し、中でもエフォリン−A1、エフォリン−A3、エフォリン−A4、エフォリン−A5、エフA2、エフA4、エフA5、エフA6、エフA7、エフA8は高発現していると考えられる。
【0064】
図11は、冠動脈由来の血管内皮細胞におけるB群のエフォリンとエフの発現を検討したものである。血管内皮細胞において、エフォリン−B1、エフォリン−B2、エフォリン−B3、エフB1、エフB2、エフB4、エフB6は発現し、中でもエフォリン−B1、エフォリン−B2、エフB1、エフB2、エフB4、エフB6は高発現していると考えられる。
【0065】
例6.化学遊走調節能の試験
実験の前日に、ヒト単球由来のTHP−1細胞を、4×105個/mL(2.4×106個/dish)の濃度で直径10cmの丸シャーレに播いた。実験までの培養時間は約15時間であった。
【0066】
一方、フィルターのコーティングは以下のようにして行なった。Transwell(Corning、カタログ番号3421、ウェルの直径6.5cm、小孔の大きさ5.0μm)を必要枚数取り出し、中央のウェルにあるフィルターを外側のウェルにピンセットで移動させた。フィルターの中に、5μg/mLのIgG−Fc(Athens Research Technology, Athens, GA, USA)、エフォリン−B1(R&D Systems, Minneapolis, MN, USA)又はエフB2(R&D Systems)を含むコーティング溶液(各々ストック溶液(それぞれ3.39mg/mL、500μg/mL又は500μg/mL)をPBSで希釈したもの)を100μL/well入れた。UV照射したクリーンベンチの中で、室温で一晩コーティングした。
【0067】
翌日、コーティングしたTranswellのフィルターを、PBSで3回リンスした。0.1μg/mLのケモカイン(SDF−1;10μg/mLのストック溶液を化学遊走用緩衝液(Chemotaxis Buffer:RPMI1640/0.1%BSA)で100倍希釈したもの)を、Transwellの下層ウェルに600μL/well分注した。対照として化学遊走用緩衝液を600μL/well分注したウェルも用意した。これらの下層ウェルに、フィルターをフィルターの下に空気が入らないように静かにのせた。このフィルターの中(上層ウェル)に、コールターカウンターで計測し、1×105個/100μLの濃度に調整した細胞を100μL/well分注した。
【0068】
37℃のCO2インキュベータに入れ、2時間静置し、細胞を遊走させた。その後、上層ウェルの細胞液(遊走しなかった細胞を含む)を100μL/well静かに除き、別のウェルに移した。フィルターはそのままで、Transwellプレートをボルテックス(vortex)ミキサーに10秒間かけ(目盛は3.5でONにし、動いているvortexにプレートをのせる)フィルターの穴に入っている細胞を落とした。さらに、Transwellプレートを2000rpmで2分間遠心分離し、フィルターに付着している細胞を落とした後、下層に移動した細胞の総数をコールターカウンターを用いて、計数した。
【0069】
結果を図12に示す。図12は、ヒト単球由来の細胞株であるTHP−1細胞の化学遊走に及ぼすエフォリン−B1とエフB2の影響を示したものである。下層の培養液にSDF−1を添加した場合、エフォリン−B1とエフB2は共にTHP−1細胞のSDF−1による化学遊走を有意に抑制した。なお、SDF−1を添加しない場合(自発遊走)についても同様の結果が得られた。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】図1は、ヒト頚動脈動脈内切除術検体から調製したcDNAの定量的リアルタイムRT−PCR解析を示す図である。(A)はケモカイン受容体、(B)はエフォリン−B類、(C)はエフB類を表す。データは、三連で行なった2回の独立した実験における平均±SEを表す。P値は対応のあるt−検定(n=10)により算出した。rN=比較的正常な領域、Pl=動脈硬化症プラーク。
【図2】図2は、ヒト頚動脈の動脈硬化症プラークにおけるエフォリン−B1の局在を示す図である。単独の(パネル(A))又は二重の(パネル(B)〜(F))免疫組織化学染色は実施例に記載したとおりに行なった。(A):多数のCD68(褐色)陽性泡沫細胞がcholesterol cleftsの周囲に観察された。(B):エフォリン−B1(赤色)及びCD68(褐色)。(C):エフォリン−B1(褐色)及びCXCR4(赤色)。矢印は、内弾性板を示す。(D):エフォリン−B1(褐色)及びSMA(赤色)。(E):エフォリン−B1(褐色)及びCD4(赤色)。NC=壊死中核(necrotic core)。(F):エフォリン−B1(褐色)及びCD8(赤色)。NC=necrotic core。各パネルについて、矢印によって示す高倍率の図を囲みの中に示す。バーは20μmである。
【図3】図3は、ヒト頚動脈の動脈硬化症プラークにおけるエフB2の局在を示す図である。二重免疫組織化学染色は実施例に記載したとおりに行なった。(A):エフB2(褐色)及びCD68(赤色)。(B):エフB2(赤色)及びCD4(褐色)。(C):エフB2(赤色)及びCD8(褐色)。各パネルについて、矢印によって示す高倍率の図を囲みの中に示す。バーは20μmである。
【図4】図4は、健常ヒトからの末梢血単球におけるエフォリン−B1及びエフB2の発現を示す図である。対流遠心エルトリエーションシステムを用いて健常志願者の末梢血単球を富化した。(A):CD68は、DAPIで染色した細胞の>90%で陽性であった。バーは20μmである。(B)、(C):エフォリン−B1及びエフB2の発現を二重免疫蛍光試験によって解析したもの。(左)=CD68。(中央)=エフォリン−B1(B)及びエフB2(C)。(右)=CD68及びエフォリン−B1(B)又はCD68及びエフB2(C)についての結合した像。バーは20μmである。(D):エフォリン−B1及びエフB2のRT−PCR解析。MO=単球富化細胞、NC=陰性対照(鋳型なし)、PC=陽性対照(動脈硬化症プラーク)。生成物のサイズは、エフォリン−B1が502塩基対(bp)、エフB2が515bp、GAPDHが452bpであった。
【図5】図5は、健常ヒトからの末梢血T−リンパ球におけるエフォリン−B1及びエフB2の発現を示す図である。エフォリン−B1及びエフB2の発現は、二重免疫蛍光試験によって解析した。(A)、(B):(左)=CD4。(中央)=エフォリン−B1(A)及びエフB2(B)。(右)=CD4及びエフォリン−B1(A)又はCD4及びエフB2(B)についての結合した像。(C)、(D):(左)=CD8。(中央)=エフォリン−B1(C)及びエフB2(D)。(右)=CD8及びエフォリン−B1(C)又はCD8及びエフB2(D)についての結合した像。バーは20μmである。
【図6】図6は、THP−1細胞におけるA群のエフォリン及びエフ遺伝子の増幅を示す図である。以下の説明は図6〜11について共通である。プライマーとしては、各パネルの左側に記したプライマー対を使用した。各パネルにおいて、レーン「1」=cDNA、レーン「2」=鋳型なし(逆転写酵素なし;DNase処理)のRNA、レーン「3」=ゲノムDNAをそれぞれ鋳型として用いた。「×30」及び「×35」はPCRにおける温度サイクルがそれぞれ30回及び35回であることを表す。
【図7】図7は、THP−1細胞におけるB群のエフォリン及びエフ遺伝子の増幅を示す図である。
【図8】図8は、Jurkat細胞におけるA群のエフォリン及びエフ遺伝子の増幅を示す図である。
【図9】図9は、Jurkat細胞におけるB群のエフォリン及びエフ遺伝子の増幅を示す図である。
【図10】図10は、内皮細胞におけるA群のエフォリン及びエフ遺伝子の増幅を示す図である。
【図11】図11は、内皮細胞におけるB群のエフォリン及びエフ遺伝子の増幅を示す図である。
【図12】図12は、THP−1細胞を用いた化学遊走試験の結果を示す図である。
【技術分野】
【0001】
本発明は、エフォリン及びエフォリン受容体(エフ)による炎症細胞の調節及びそれを利用した炎症の測定に関する。
【背景技術】
【0002】
動脈硬化症は、主要な疾患であり、心臓発作及び脳梗塞のような突然の死亡を起こすことから、その予防は世界的に重要な医療問題となってきている。動脈硬化症については高コレステロール血症のような危険因子が公知であるが、近年、炎症は、アテローム性動脈硬化症の発症及び進行において重要な役割を果たすことがわかってきた。
【0003】
マクロファージは、脂質を担持した泡沫細胞及び脂肪小滴が平滑筋細胞及びコラーゲンの豊富なマトリックスのキャップによって囲まれているコア領域を形成する動脈硬化症病変部(プラーク)で優勢である。これらのプラークの破壊及びその後の塞栓症は、突然の動脈の閉塞を起こし、急性の臨床的事象をもたらす。したがって、アテローム性動脈硬化症プラークの発生に関わるメカニズムの解明は、臨床的事象を予防するために重要である。しかし、ヒト動脈硬化症におけるマクロファージとT−リンパ球とをつなぐ分子ネットワークは未だ未解明である。
【0004】
受容体チロシンキナーゼであるエフ(Eph)は、そのリガンドであるエフォリン(ephrin)によって活性化され、胎生期における細胞の接着及び移動を制御する分子群として知られている。分子の形態により、エフォリン及びエフは、A群及びB群に大別されている(A群:エフォリン−A1〜−A5及びエフA1〜A8;B群:エフォリン−B1〜−B3及びエフB1〜B4、B6)。これらの分子は、一部でガン発生との関連が指摘されているが、動脈硬化症を含むその他の種々の炎症性疾患との関係が指摘されたことはこれまでなかった。
【0005】
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【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明者らは、アテローム性動脈硬化症をはじめとする炎症性疾患の診断及び/又は治療薬の開発に役立つ新規な研究方法及びそのためのツールを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、cDNAアレイ技術を用いてヒトアテローム性動脈硬化症プラークの発生に関与する新規な分子ネットワークを探索した結果、従来は発生分化遺伝子群と考えられてきたエフォリン遺伝子及びその同族受容体遺伝子が動脈硬化症プラーク領域(病変部)において高発現することを見出し、本発明を完成した。
【0008】
即ち、本発明は、
〔1〕エフォリン及び/又はエフからなる炎症細胞の化学遊走調節剤;
〔2〕炎症細胞がT−リンパ球、単球及びそれらに由来する株細胞から選択される、前記〔1〕記載の化学遊走調節剤;
〔3〕エフォリン及び/又はエフが、B群エフォリン及びエフから選択される、前記〔1〕又は〔2〕記載の化学遊走調節剤;
〔4〕インビトロで炎症細胞にエフォリン及び/又はエフを添加することを含む、炎症細胞の化学遊走を抑制する方法;
〔5〕炎症細胞を化学遊走が起こり得る条件下でエフォリン及び/又はエフと被検物質との存在下でインビトロで培養する工程、及び前記炎症細胞の化学遊走の程度を測定する工程を含むことを特徴とする、被検物質による炎症細胞の化学遊走調節能を調べる方法;
〔6〕炎症細胞の通過が可能な隔壁によって区分された少なくとも2つの培養区画を有する培養容器であって、前記隔壁の表面又は一方の培養区画の表面にエフォリン及び/又はエフが固定化されていることを特徴とする培養容器からなる、被検物質による炎症細胞の化学遊走調節能を調べるための試験具;
〔7〕炎症細胞の通過が可能な隔壁によって区分された少なくとも2つの培養区画を有する培養容器、前記隔壁の表面又は一方の培養区画の表面に固定化するためのエフォリン及び/又はエフを含むコーティング溶液、他方の培養区画に添加するためのケモカイン溶液を含む、被検物質による炎症細胞の化学遊走調節能を調べるための試験キット;
〔8〕増幅される領域が1つのエクソンの一部又は全部に相当するように設計されている、エフォリン又はエフ遺伝子群、又はその転写物に由来する核酸を増幅するためのプライマー対;
〔9〕プライマー対の各プライマーが、以下の配列の対からなる群から選択される配列を有する、請求項8記載のプライマー対:配列表の配列番号1及び2、配列番号3及び4、配列番号5及び6、配列番号7及び8、配列番号9及び10、配列番号11及び12、配列番号13及び14、配列番号15及び16、配列番号17及び18、配列番号19及び20、配列番号21及び22、配列番号23及び24、配列番号25及び26、配列番号27及び28、配列番号29及び30、配列番号31及び32、配列番号33及び34、配列番号35及び36、配列番号37及び38、配列番号39及び40、配列番号41及び42、配列番号49及び50、配列番号51及び52;
〔10〕前記〔8〕又は〔9〕記載のプライマー対と、鋳型として細胞又は組織由来RNAとを用いてPCR法を行なうことを特徴とする、エフォリン及び/又はエフの発現に基づいて前記細胞又は組織における炎症の有無又は程度を評価する方法、
を提供する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、エフォリン及び/又はエフを用いて炎症細胞の化学遊走を調節することが可能となる。これにより、被検物質から、炎症細胞の化学遊走を調節する能力を有するものを選択することができる。炎症は、炎症細胞の遊走及び組織侵入により発生又は重症化すると考えられることから、このような炎症細胞の化学遊走調節能、特に化学遊走抑制能を有する物質は、抗炎症剤として使用される可能性がある。
【0010】
また、本発明によれば、エフォリン及び/又はエフの遺伝子の発現を指標として、炎症の有無又は程度を調べることができる。特に、本発明のプライマーを用いれば、PCRの鋳型としてcDNA及びゲノムDNAのいずれを用いても同一の増幅産物が得られるように設計されているため、PCRにおいて容易に入手可能なヒトゲノムDNAを陽性対照として用いることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明に用いられるエフォリン及びエフは、後述するような試験によって炎症細胞の化学遊走を調節(抑制又は促進)する能力を有する限りにおいて、公知のいずれのものであってもよい。エフォリン及びエフとしては、好ましくはB群に属するもの又は化学遊走を抑制する能力を有するものであり、それらの中では特にエフォリン−B1及びエフB2が好ましい。
【0012】
炎症細胞は、一般に生体の炎症反応局所に集積することが知られている細胞であり、例えば好中球、単球、マクロファージ、リンパ球、形質細胞、組織球、血小板などを含む。本発明に関しては、それらに加えて、炎症細胞に由来する培養細胞(株細胞等)も含む。被検物質の化学遊走調節能を試験する場合、個別の調製の手間が省け、また、調製物ごとの変動が回避できるために結果の解釈が容易になることから、培養細胞を用いることが好ましい。
【0013】
本発明の化学遊走抑制方法は、インビトロで炎症細胞にエフォリン及び/又はエフを添加する工程を含む。炎症細胞をエフォリン及び/又はエフと接触させることによって、炎症細胞の化学遊走の程度を調節することができる。また、この系に被検物質を共存させた場合、その被検物質がエフォリン及び/エフによる化学遊走の調節に与える影響を調べることができる。
【0014】
本発明者らは、エフォリン及びエフが、動脈硬化病変部(プラーク)のマクロファージ及びT−リンパ球において高発現されている一方、健常人の末梢血中の単球及びT−リンパ球並びに血管内皮細胞においても発現しており、さらにエフォリン及びエフは、炎症細胞の自発遊走及び化学遊走を抑制することを見出した。これらの知見に基づいて、正常血管において内皮細胞に発現するエフォリン及びエフは炎症細胞の組織への侵入を防御していると考えられる。したがって、本発明によって、エフォリン及び/又はエフによる化学遊走を抑制する能力に関して、アゴニストとして作用する被検物質を見出すことにより、その被検物質を抗炎症薬の候補として選択すること(スクリーニング)ができる。そのようなアゴニストとしては、例えばエフォリンの細胞外ドメインを免疫グロブリンのFc部分と融合させた組換えタンパク質が挙げられる。また、エフォリン及び/又はエフによる化学遊走を抑制する能力に関して、アンタゴニストとして作用する被検物質が見出されれば、それは炎症を悪化させる可能性があるものとして選別することができる。
【0015】
このような被検物質の能力を調べる方法としては、具体的には、まず、化学遊走が起こり得る系においてインビトロで炎症細胞をエフォリン及び/又はエフの存在下で培養する。この培養の前又は培養と同時に被検物質を培地に添加し、エフォリン及び/又はエフと被検物質とが共存する状態で炎症細胞を一定時間培養する。その後、炎症細胞の化学遊走の程度を測定する。この測定結果を、同じ系において被検物質を添加しなかった場合と比較して、被検物質を添加した場合において遊走の程度が低減していればアゴニストとして作用する能力、増大していればアンタゴニストとして作用する能力を被検物質が有すると判定することができる。
【0016】
上記の方法は、細胞の通過が可能な隔壁によって区分された少なくとも2つの培養区画を有する培養容器を用いることによって有利に行なうことができる。複数の区画は、水平に設けられていてもよく、垂直(上下)に配置されていてもよい。材質は細胞の培養に関して有害でない限り特に制限はなく、隔壁としては、例えば有孔のプラスチック製の板、ポリエステル又はポリカーボネート製の多孔質膜などであってもよい。孔のサイズとしては、使用する炎症細胞が通過できるものであればよく、一般的には約3〜12μm程度であることが好ましい。このような培養容器は公知であり、例えばTranswell(登録商標)(Corning)などが市販されている。
【0017】
本発明の方法における使用のためには、このような培養容器は、エフォリン及び/又はエフを一方の区画の内壁(側面及び底面を含む)又は隔壁に予め固定化しておき、被検物質による炎症細胞の化学遊走調節能を調べるための試験具として提供することができる。同様に、本発明の方法を実施するために、上記のような培養容器と、隔壁の表面又は一方の培養区画の表面に固定化するためのエフォリン及び/又はエフを含むコーティング溶液と、他方の培養区画に添加するためのケモカイン溶液とを、キットの形態で提供することができる。キットには、さらに希釈用緩衝液(例えば後述するような化学遊走用緩衝液)のような、本発明の方法の実施に際して使用する他の構成要素を含ませることができる。
【0018】
このような試験具又はキットを用いる場合、使用の際に、一方の区画にケモカイン、他方の区画(内壁にエフォリン及び/又はエフがコーティングされている場合はその側)に炎症細胞を入れ、所定の時間培養し、隔壁を通過してケモカインの側に移動した細胞の数を調べることによって、化学遊走の増減を容易に測定・評価することが可能である。
【0019】
細胞又は組織におけるエフォリン又はエフの発現の有無又は量は、細胞又は組織からRNAを抽出し、このRNAからcDNAを調製し、それを鋳型として、公知のPCR方法を行なうことにより調べることができる。本発明の増幅用プライマーセット(対)は、エフォリン又はエフ遺伝子の1つのエクソン内の領域が増幅されるように設計されているので、ゲノムDNAを陽性対照として用いることができ、試験の有効性を簡単に確認することができる。即ち、サンプルからのcDNAを鋳型とした場合と、ゲノムDNAを鋳型とした場合とで、同一の増幅産物が得られるので有利である。
【0020】
表1に、このような本発明のエフォリン及びエフ核酸増幅用プライマーの配列の具体例を示す。カッコ内は増幅されるエクソン(Ex)の番号を示す。
【0021】
【表1】
【0022】
PCR条件の設定は、当業者が適宜選択することができる。具体的な条件は、以下の例において挙げるが、それに限らない。
【実施例】
【0023】
下記の試料、試薬、方法は、いくつかの例において共通して使用された。
【0024】
ヒト頚動脈組織
発作歴がある10人のアテローマ性動脈硬化症患者(平均年齢58.2歳、男性)から、国立循環器病センターで頚動脈血管内膜切除術(CEA)により切除された頚動脈を得た。国立循環器病センターの倫理委員会によって確立された基準にしたがってすべての患者からインフォームド・コンセントを得た。
【0025】
得られた頚動脈は、90%以上が管腔内の狭窄を有しており、そのすべてが米国心臓病学会分類(American Heart Association classification)による第VI段階に属していた。採取後直ちに検体の半分をヒストチョイス(Histochoice)(商品名、Amresco, Solon, OH)で固定した。残りの半分から、動脈硬化症プラーク領域(「Pl」)及びプラークのない動脈内領域を切り出し、後者を比較的正常な領域(「rN」)と名付けた。PlとrNの両方を液体窒素中で凍結し、使用時まで−80℃で保存した。
【0026】
抗体
以下の抗体を使用した:モノクローナル抗CD68(クローンKP1)及び抗平滑筋アクチン(SMA、クローン1A4)、DAKO(Kyoto,Japan)から入手;モノクローナル抗CD4(クローン1F6)及び抗CD8(クローン4B11)、Novocastra(Newcastle, UK)から入手。ポリクローナルウサギ抗エフォリン−B1抗体、Santa Cruz(Santa Cruz, CA)から入手。ポリクローナルヤギ抗エフB2抗体及びポリクローナルウサギ抗CXCR4抗体、Sigma(St. Louis, MO)から入手。ビオチン化ブタ抗ヤギIgG抗体、DAKOから入手。Alexa 546−コンジュゲート化抗マウスIgG抗体、Alexa 488−コンジュゲート化抗ウサギIgG抗体及びAlexa 488−コンジュゲート化抗ヤギIgG抗体、Molecular Probes(Eugene,OR)から入手。
【0027】
統計学的処理
rN及びPlの間の各標的遺伝子の標準化された発現レベルの統計学的な比較は、スタットビュー(StatView) Ver.5.0 ソフトウェア(商品名、SAS Institute Inc, Cary, NC)を用いて対応のあるt−検定(paired Student’s t-test)によって行なった。P<0.05を統計学的に有意であると判定した。
【0028】
例1.cDNAマクロアレイ解析によるヒト頚動脈動脈硬化症プラークにおけるアップレギュレートされた遺伝子の同定及びクラスター化
アイソジェン(Isogen)試薬(商品名、Nippon Gene, Tokyo, Japan)を製造業者の指示書どおりに用いて、CEA検体の10対のrN及びPl部分から全RNAを単離した。RNAの濃度を分光光度計で測定し、その質を、サイバー・グリーン色素(Sybr Green dye)(Molecular Probes)で染色した1.2%変性アガロースゲル電気泳動で肉眼で確認した。
【0029】
cDNAマクロアレイ解析を、4対の適当な量の全RNAについて行なった。cDNA膜マクロアレイについては、サイトカイン/受容体及び心血管アトラスアレイ(Cytokines/Receptors and Cardiovascular Atlas Arrays)(BD Biosciences, Palo Alto, CA)を用いた。これは、全部で522の独立の遺伝子(既知のサイトカイン及び心血管関連遺伝子)を網羅する。cDNA合成プライマーミックス及び[α−32P]dATPを用いて2μgの各全RNAからcDNAプローブ混合物を合成し、製造業者の指示書にしたがって膜アレイとハイブリダイズさせた。充分に洗浄した後、これらの16枚の膜のすべてをストームイメージ解析装置(STORM phosphorimaging device)(Amersham Biosciences, Piscataway, NJ)で走査した。
【0030】
アレイ・ビジョン・プログラム(Array Vision program)(Amersham Biosciences)を用いて、各スポットcDNAからのシグナル密度を決定し、グリセロアルデヒド−3’−ホスフェートデヒドロゲナーゼ(GAPDH)に対して標準化した。対にした膜の各々について、522のcDNAの標準化したシグナルをrN及びPl間で比較した。Plにおいてアップレギュレートされた遺伝子を含む機能的及び物理的な分子ネットワークは、インジェニュイティ・パスウェイ・アナリシス・プログラム(Ingenuity Pathway Analysis program)(Ingenuity, Mountain View, CA)を用いて予測した。動脈硬化症に関してのこれらの潜在的な分子ネットワークの新規性を、PubMedデータベースによって調べた。
【0031】
結果は、10個のCEA検体のrN又はPl部分から単離されたRNAのすべては、アガロースゲル電気泳動上で良好な完全性を維持していた。ハウスキーピング遺伝子は常に強いハイブリダイゼーションシグナルを示したが、陰性対照スポットは全くハイブリダイズしなかった。Plにおいてアップレギュレートされている遺伝子についてのスクリーニング感度を最大にするために、以下の緩い基準を満たす151の候補遺伝子を選択した:少なくとも1つのPl検体における3倍を超えるアップレギュレーション及びすべてのPl検体における3分の1未満のダウレギュレーション。
【0032】
これらの候補遺伝子について、インジェニュイティ・パスウェイ・アナリシス・プログラムを用いて29の分子ネットワークを企図し、動脈硬化症との関係におけるそれらの新規性をPubMedデータベースによって検索した。ネットワークの大部分は、動脈硬化症と充分に関連づけられた遺伝子、例えばapoE及び脂肪酸結合タンパクのような脂質代謝関連遺伝子;インターロイキン8のようなサイトカイン遺伝子;インスリン様成長因子1及び肝細胞成長因子を含む成長因子遺伝子;マトリックスメタロプロテアーゼ9及びトロンボモジュリンのようなその他のものであったが、マクロファージ−リンパ球相互作用及びアテローム発生において認識されたことが全くなかったエフォリン及びエフ、特にエフォリン−B類及びそれらの同族受容体であるエフB類からなるネットワークが発見された。
【0033】
例2.定量的リアルタイムRT−PCRによる遺伝子アップレギュレーションの確認
10対のCEA検体すべてについて、1μgの全RNAをDNAフリー(DNA-free)(Ambion, Austin, TX)で処理し、ランダムプライマー及びスーパースクリプト(SuperScript)II逆転写酵素(Invitrogen, Carlsbad, CA)を用いてcDNAに変換した(Higashikata et al., Atheroselerosis 177, 353-360(2004))。定量的リアルタイムRT−PCRは、ABIプリズム7700配列検出システム(ABI Prism 7700 Sequence Detection System)(PE Applied Biosystems, Foster City, CA)を用いて行なった。各標的遺伝子の発現レベルを、GAPDHのそれらに対して標準化した(Higashikata et al., Atheroselerosis 177, 353-360(2004))。2つのケモカイン受容体、即ちCXCR2及びCXCR4についてのプライマーセット及びTaqManプローブは、コンピュータプログラム「プライマー・エクスプレス(Primer Express)2.0」(PE Applied Biosystems)を用いて以下のように設計した:
【0034】
CXCR2
フォワードプライマー:5’−TACATGGCTTGATCAGCAAGGA−3’(配列番号43);
リバースプライマー:5’−GCCCTGAAGAAGAGCCAACA−3’ (配列番号44);
TaqManプローブ:5’−TGCCCAAAGACAGCAGGCCTTCCT−3’)(配列番号45);及び
CXCR4
フォワードプライマー:5’−GGTGGTTGTGTTCCAGTTTCAG−3’(配列番号46);
リバースプライマー:5’−ATAATGCAATAGCAGGACAGGATG−3’(配列番号47);
TaqManプローブ:5’−TCATGGTTGGCCTTATCCTGCCTGGTA−3’(配列番号48)。
【0035】
アッセイ・オン・デマンド(Assay-on-Demand)カクテルを、エフォリン−B1(Hs00270004_m1)、エフォリン−B2(Hs00187950_m1)、エフB1(Hs00174725_m1)、エフB2(Hs00362096_m1)、エフB3(Hs00177903_m1)及びエフB4(Hs00174752_m1)について用いた。各標的遺伝子について、2回の独立したアッセイを三連で行ない、平均発現レベルを算出した。
【0036】
結果を図1に示す。CXCR2及びCXCR4の2つのケモカイン受容体遺伝子の発現は、共にrNと比較してPlにおいて有意に高められていた(図1、パネルA)。したがって、これらの10対のrN及びPlcDNAが動脈硬化症関連遺伝子発現に関する非常に信頼できるデータを提供することが示された。
【0037】
エフォリン−B類及びエフB類についての遺伝子発現レベルについては、エフォリン−B1(同、パネルB)及びエフB2(同、パネルC)は、rNと比較してPlにおいて有意にアップレギュレートされていた。相対発現レベルは以下のとおりであった(rN対P1、n=10):エフォリン−B1について、0.638±0.106対0.831±0.152、p<0.05;エフB2について1.296±0.281対2.233±0.506、p<0.05。したがって、プラーク領域におけるエフォリン−B1及びエフB2の発現を解析した。
【0038】
例3.免疫組織化学による動脈硬化症プラークにおけるエフォリン−B1及びエフB2の局在
固定したCEA検体をパラフィン包埋し、厚さ3μmの切片を作製した。調製物の完全性の評価のために、これらの切片を、マウス抗CD68抗体(1:300希釈)と共にインキュベートし、ペルオキシダーゼ共役エンビジョン・システム(Envision system)(PO-Envision, DAKO)及び基質として3,3’−ジアミノベンジジン(DAB)を用いた間接法により染色した。
【0039】
エフォリン−B1及びCD68の二重免疫組織化学染色のためには、まず切片を抗CD68抗体と共にインキュベートし、PO-Envision及びDABを用いて褐色の沈澱物として染色した。続いて、同じ切片を、ウサギ抗エフォリン−B1抗体(1:300希釈)と共にインキュベートし、アルカリホスファターゼ共役エンビジョン・システム(AP-Envision, DAKO)及び基質としてニュー・フクシン(New Fuchsin)(DAKO)を用いて赤色の沈殿物として染色した。エフォリン−B1及びCXCR4の二重免疫染色のためには、まず切片を抗エフォリン−B1抗体と共にインキュベートし、PO-Envision及びDABを用いて処理した。同じ切片を、次にウサギ抗CXCR4抗体(1:100希釈)と共にインキュベートし、AP-Envision及びNew Fuchsinを用いて処理した。エフォリン−B1及びSMAの二重免疫染色のためには、まず切片を抗エフォリン−B1抗体と共にインキュベートし、PO-Envision及びDABを用いて処理した。同じ切片を、次にマウス抗SMA抗体(1:300希釈)と共にインキュベートし、AP-Envision及びNew Fuchsinを用いて処理した。エフォリン−B1及びCD4、又はエフォリン−B1及びCD8の二重免疫染色のためには、切片を0.01mol/Lクエン酸緩衝液(pH6.0)中で121℃で5分間オートクレーブ処理し、CD4又はCD8抗原を露出させた。露出させた切片を、抗エフォリン−B1抗体と共にインキュベートし、PO-Envision及びDABを用いて処理した。同じ切片を、次にマウス抗CD4抗体(1:40希釈)又はマウス抗CD8抗体(1:40希釈)と共にインキュベートし、AP-Envision及びNew Fuchsinを用いて処理した。
【0040】
エフB2及びCD68の二重免疫染色のためには、切片を、まずヤギ抗エフB2抗体(1:50希釈)と共にインキュベートし、ペルオキシダーゼ共役ヒストファイン・マックス−(G)・システム(Histofine MAX-(G) system)(Nichirei, Tokyo, Japan)及びDABで処理した。同じ切片を、次に抗CD68抗体と共にインキュベートし、AP-Envision及びNew Fuchsinを用いて処理した。エフB2及びCD4、又はエフB2及びCD8の二重免疫染色のためには、露出された切片を、まず抗CD4抗体又は抗CD8抗体と共にインキュベートし、PO-Envision及びDABを用いて処理した。次に、同じ切片を、まずヤギ抗エフB2抗体と、後にビオチン化ブタ抗ヤギIgG抗体(1:100希釈)と共にインキュベートし、アルカリホスファターゼ共役LSAB2キット(DAKO)及びNew Fuchsinを用いて処理した。これらのすべての調製物は、ヘマトキシリンで対染色し、アクシオカム(AxioCam)CCDカメラを装着したアクシオフォト2(Axiophot2)光学顕微鏡(Carl Zeiss, Hallbergmoos, Germany)で検査した。
【0041】
結果を図2及び図3に示す。全単球/マクロファージについてのマーカーであるCD68についての単独染色によって、コレステロール・クレフト(cholesterol clefts)をとりまくCD68陽性泡沫細胞が見出された(図2、パネル(A))。したがって、検体が典型的なアテローム性動脈硬化症の特徴を有し、それを維持していることが示された。
単独染色によって種々の形態の細胞においてエフォリン−B1又はエフB2様の免疫反応性が見出されたので、二重免疫組織化学染色を行なってエフォリン−B1又はエフB2を発現する正確な細胞タイプを明らかにした。
【0042】
エフォリン−B1免疫反応性は、以下の細胞タイプにおいて見出された:マクロファージ様細胞及びCD68陽性泡沫細胞(同、パネル(B));SMA(平滑筋細胞のマーカー)陽性長型細胞(elongated cells)(同、パネル(D));CD4(ヘルパーT−リンパ球のマーカー)陽性小細胞(small cells)(同、パネル(E));CD8(キラー又はサプレッサーT−リンパ球のマーカー)陽性小細胞(同、パネル(F))。
【0043】
一方、エフB2についての免疫反応性は、以下の細胞タイプにおいて見出された:マクロファージ様細胞及びCD68陽性泡沫細胞(図3、パネル(A));CD4陽性小細胞(同、パネル(B));CD8陽性小細胞(同、パネル(C))。
【0044】
即ち、エフォリン−B1及びエフB2の両方が、プラーク領域内でマクロファージ及びT−リンパ球において見出された。また、エフォリン−B1及びCXCR4の両方を発現する多くのマクロファージ様細胞(図2、パネル(C))及びリンパ球様細胞も見出された(データは示していない)。
【0045】
例4.健常ヒト成人の末梢血単球及びT−リンパ球におけるエフォリン−B1及びエフB2の発現
健常ヒト成人の末梢血中に循環している静止状態の(resting)単球及びT−リンパ球においてもエフォリン−B1及びエフB2が発現されているかどうかを調べた。単核細胞を、健常成人志願者の全血(200mL)からリンフォプレップ(Lymphoprep)試薬(Axis-Shield PoC AS, Oslo, Norway)を用いて分離し、以前記載されたように、対流遠心エルトリエーション(counterflow centrifugal elutriation)(R5E elutriation system, 日立工機、茨城県)に供した(Terui et al., J. Immunol. 156, 1981-1988(1996))。この単球富化(enriched)画分からの細胞を、マウス抗CD68抗体と共にインキュベートし、次にAlexa 488−コンジュゲート化抗マウスIgG抗体とインキュベートした。これらの細胞を、4’,6−ジアミジノ−2−フェニルインドール(DAPI; Molecular Probes)で対染色し、Axiophot2 落斜蛍光(epifluorescence)顕微鏡(Carl Zeiss)を用いて単球の純度について調べた。
【0046】
CD68及びエフォリン−B1の二重免疫染色のために、この単球富化細胞をまずマウス抗CD68抗体及びウサギ抗エフォリン−B1抗体と共にインキュベートし、次にAlexa 546−コンジュゲート化抗マウスIgG抗体(1:600希釈)及びAlexa 488−コンジュゲート化抗ウサギIgG抗体(1:600希釈)と共にインキュベートした。CD68及びエフB2の二重免疫蛍光染色のためには、これらの細胞を、まずマウス抗CD68抗体及びヤギ抗エフB2抗体と共にインキュベートし、次にAlexa 546−コンジュゲート化抗マウスIgG抗体及びAlexa 488−コンジュゲート化抗ヤギIgG抗体(1:600希釈)と共にインキュベートした。
【0047】
これらの単球富化細胞からcDNAを合成し、以下のプライマーセットを用いてRT−PCRを行なった:
【0048】
エフォリン−B1
フォワードプライマー:5’−AGCTGCCTGTAGCACAGTTC−3’(配列番号49);
リバースプライマー:5’−GAGCAGGAAGATGACGCAAC−3’配列番号50);
エフB2
フォワードプライマー:5’−GACTCCACTACAGCGACTGC−3’(配列番号51);
リバースプライマー:5’−TTGCGGTAGAAGACACGCAC−3’(配列番号52);及び
GAPDH
フォワードプライマー:5’−ACCACAGTCCATGCCATCAC−3’(配列番号53);
リバースプライマー:5’−TCCACCACCCTGTTGCTGTA−3’(配列番号54)。
【0049】
PCRは、以下の条件下でExTaq(Takara, Tokyo, Japan)を用いて行なった:プレヒート、94℃、2分間;35サイクルの増幅、94℃で20秒、60℃で30秒、及び72℃で40秒。フォワード及びリバースプライマーは、RT−PCRによるゲノムの増幅を排除するように各標的遺伝子の分離したエクソン中で設計した。
【0050】
リンパ球富化細胞フラクションについて、CD4及びエフォリン−B1、CD4及びエフB2、CD8及びエフォリン−B1、及びCD8及びエフB2に関する二重免疫蛍光試験を同様に行なった。
【0051】
結果を図4及び図5に示す。健常成人志願者由来の単球は、対流遠心エルトリエーションシステムによって>90%の純度まで富化された(図4、パネル(A))。エフォリン−B1(同、パネル(B))及びエフB2(同、パネル(C))の両方についての免疫反応性が、CD68陽性細胞において観察された。また、RT−PCRによってこの単球富化cDNAからエフォリン−B1及びエフB2の確固たる生成物が得られた(同、パネル(D))。T−リンパ球については、CD4陽性細胞は、エフォリン−B1(図5、パネル(A))及びエフB2(同、パネル(B))の両方を発現した。CD8陽性T−リンパ球もまた、エフォリン−B1(同、パネル(C))及びエフB2(同、パネル(D))の両方を発現した。これらのデータは、エフォリン−B1及びエフB2の両方が健常ヒト成人の末梢血中の循環している単球及びT−リンパ球において発現されることを明らかに示した。
【0052】
例5.RT−PCRによる炎症細胞におけるエフォリン遺伝子群の発現の検出
PCR反応における鋳型として、THP−1細胞、Jurkat細胞、内皮細胞の各々からRNAを抽出し、クオンティテクト逆転写(QuantiTect Reverse Transcription)キット(QIAGEN、カタログNo.205311)を用いて逆転写酵素を添加して又は添加せずにcDNAを作製した。具体的には、各RNAを、0.5mLのチューブ中で合計14μL(7×gDNA Wipeout Buffer 2.0μL、RNase無含有水とRNA(10pg〜1μg)との合計12μL)の反応液中で42℃で2分間インキュベートした後、氷冷し、DNase処理した。次に、DNase処理後のチューブに反応液のカクテル(5×Quantiscript RT Buffer 4μL、RT Primer Mix 1.0μL、Quantiscript Reverse Transcriptase 1.0μLの合計6μL)を入れて、cDNA合成を行なった。cDNA合成を行なわない逆転写酵素なし(RT(−))にはDEPC水を6μL加え、合計20μLにした。この反応液を42℃で15分間インキュベートした後、95℃で3分間加熱して酵素を不活化した。
【0053】
この各cDNAをサンプルとして使用して、PCRを行なった。反応液の組成は、オートクレーブ水 6.65μL、Ex Buffer 1.0μL、dNTP 0.8μL、以下に示す各プライマー対(10μM) 1.0μL、サンプル 0.5μL、Ex Taq 0.05μL(合計10μL)であった。陽性対照として、Hela細胞由来のヒトゲノムDNA 50ng/μLを用いて同様に反応を行なった(反応液組成:オートクレーブ水 6.15μL、Ex Buffer 1.0μL、dNTP 0.8μL、各プライマー対(10μM) 1.0μL、サンプル 1.0μL、Ex Taq 0.05μL;合計10μL)。
【0054】
以下のいずれかのPCR条件を用いた。[1]:94℃、2分(熱変性)の後、94℃で20秒、55℃で30秒、72℃で30秒のサイクルを30回又は35回行ない、4℃で保存する;[2]:94℃で2分(熱変性)の後、94℃で20秒、65℃で30秒、72℃で30秒のサイクルを30回又は35回行ない、4℃で保存する。
【0055】
[1]の条件で用いたプライマーは、
ephrin-A1 F及びR(配列番号1及び2)
ephrin-A2 F3及びR3(配列番号3及び4)
ephrin-A3 F2及びR(配列番号5及び6)
ephrin-A4 F及びR(配列番号7及び8)
ephrin-A5 F及びR(配列番号9及び10)
EphA1 F及びR(配列番号11及び12)
EphA4 F及びR(配列番号17及び18)
EphA5 F及びR(配列番号19及び20)
EphA6 F及びR(配列番号21及び22)
Ephrin-B1 F及びR(配列番号27及び28)
EphB4 F及びR(配列番号39及び40);
【0056】
[2]の条件で用いたプライマーは、
EphA2 F及びR(配列番号13及び14)
EphA3 F及びR(配列番号15及び16)
EphA7 F及びR(配列番号23及び24)
EphA8 F及びR(配列番号25及び26)
ephrin-B2 F及びR(配列番号29及び30)
ephrin-B3 F及びR(配列番号31及び32)
EphB1 F及びR(配列番号33及び34)
EphB2 F及びR(配列番号35及び36)
EphB3 F及びR(配列番号37及び38)
EphB6 F及びR(配列番号41及び42)
であった(F=フォワード、R=リバース)。
【0057】
PCR産物は、4%ポリアクリルアミドゲル上で電気泳動して確認した(泳動前、300v、400mAで30分プレランした後、300v、400mAで35分泳動した。)
【0058】
結果を図6〜11に示す。図6〜11において、×30及び×35はPCRのサイクル(それぞれ30回及び35回)を示している。×30でバンドを認めたものは高発現、×35でもバンドを認めないものは検出限界以下、と考えることができる。
【0059】
図6は、THP−1細胞におけるA群のエフォリンとエフの発現を検討したものである。THP−1細胞において、エフォリン−A1、エフォリン−A2、エフォリン−A3、エフォリン−A4、エフォリン−A5、エフA1、エフA2、エフA5、エフA6、エフA7は発現し、中でもエフォリン−A4、エフA6は高発現していると考えられる。
【0060】
図7は、THP−1細胞におけるB群のエフォリンとエフの発現を検討したものである。THP−1細胞において、エフォリン−B1、エフォリン−B2、エフォリン−B3、エフB1、エフB2、エフB3、エフB4、エフB6は発現し、中でもエフォリン−B1、エフB1、エフB4、エフB6は高発現していると考えられる。
【0061】
図8は、Jurkat細胞におけるA群のエフォリンとエフの発現を検討したものである。Jurkat細胞において、エフォリン−A1、エフォリン−A3、エフォリン−A4、エフA1、エフA2、エフA3、エフA5、エフA6、エフA8は発現し、中でもエフォリン−A1、エフォリン−A3、エフォリン−A4、エフA1、エフA3は高発現していると考えられる。
【0062】
図9は、Jurkat細胞におけるB群のエフォリンとエフの発現を検討したものである。Jurkat細胞において、エフォリン−B1、エフォリン−B2、エフォリン−B3、エフB1、エフB2、エフB3、エフB4、エフB6が発現し、中でも、エフォリン−B1、エフォリン−B2、エフォリン−B3、エフB1、エフB2、エフB4、エフB6は高発現していると考えられる。
【0063】
図10は、冠動脈由来の血管内皮細胞におけるA群のエフォリンとエフの発現を検討したものである。血管内皮細胞において、エフォリン−A1、エフォリン−A2、エフォリン−A3、エフォリン−A4、エフォリン−A5、エフA2、エフA3、エフA4、エフA5、エフA6、エフA7、エフA8は発現し、中でもエフォリン−A1、エフォリン−A3、エフォリン−A4、エフォリン−A5、エフA2、エフA4、エフA5、エフA6、エフA7、エフA8は高発現していると考えられる。
【0064】
図11は、冠動脈由来の血管内皮細胞におけるB群のエフォリンとエフの発現を検討したものである。血管内皮細胞において、エフォリン−B1、エフォリン−B2、エフォリン−B3、エフB1、エフB2、エフB4、エフB6は発現し、中でもエフォリン−B1、エフォリン−B2、エフB1、エフB2、エフB4、エフB6は高発現していると考えられる。
【0065】
例6.化学遊走調節能の試験
実験の前日に、ヒト単球由来のTHP−1細胞を、4×105個/mL(2.4×106個/dish)の濃度で直径10cmの丸シャーレに播いた。実験までの培養時間は約15時間であった。
【0066】
一方、フィルターのコーティングは以下のようにして行なった。Transwell(Corning、カタログ番号3421、ウェルの直径6.5cm、小孔の大きさ5.0μm)を必要枚数取り出し、中央のウェルにあるフィルターを外側のウェルにピンセットで移動させた。フィルターの中に、5μg/mLのIgG−Fc(Athens Research Technology, Athens, GA, USA)、エフォリン−B1(R&D Systems, Minneapolis, MN, USA)又はエフB2(R&D Systems)を含むコーティング溶液(各々ストック溶液(それぞれ3.39mg/mL、500μg/mL又は500μg/mL)をPBSで希釈したもの)を100μL/well入れた。UV照射したクリーンベンチの中で、室温で一晩コーティングした。
【0067】
翌日、コーティングしたTranswellのフィルターを、PBSで3回リンスした。0.1μg/mLのケモカイン(SDF−1;10μg/mLのストック溶液を化学遊走用緩衝液(Chemotaxis Buffer:RPMI1640/0.1%BSA)で100倍希釈したもの)を、Transwellの下層ウェルに600μL/well分注した。対照として化学遊走用緩衝液を600μL/well分注したウェルも用意した。これらの下層ウェルに、フィルターをフィルターの下に空気が入らないように静かにのせた。このフィルターの中(上層ウェル)に、コールターカウンターで計測し、1×105個/100μLの濃度に調整した細胞を100μL/well分注した。
【0068】
37℃のCO2インキュベータに入れ、2時間静置し、細胞を遊走させた。その後、上層ウェルの細胞液(遊走しなかった細胞を含む)を100μL/well静かに除き、別のウェルに移した。フィルターはそのままで、Transwellプレートをボルテックス(vortex)ミキサーに10秒間かけ(目盛は3.5でONにし、動いているvortexにプレートをのせる)フィルターの穴に入っている細胞を落とした。さらに、Transwellプレートを2000rpmで2分間遠心分離し、フィルターに付着している細胞を落とした後、下層に移動した細胞の総数をコールターカウンターを用いて、計数した。
【0069】
結果を図12に示す。図12は、ヒト単球由来の細胞株であるTHP−1細胞の化学遊走に及ぼすエフォリン−B1とエフB2の影響を示したものである。下層の培養液にSDF−1を添加した場合、エフォリン−B1とエフB2は共にTHP−1細胞のSDF−1による化学遊走を有意に抑制した。なお、SDF−1を添加しない場合(自発遊走)についても同様の結果が得られた。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】図1は、ヒト頚動脈動脈内切除術検体から調製したcDNAの定量的リアルタイムRT−PCR解析を示す図である。(A)はケモカイン受容体、(B)はエフォリン−B類、(C)はエフB類を表す。データは、三連で行なった2回の独立した実験における平均±SEを表す。P値は対応のあるt−検定(n=10)により算出した。rN=比較的正常な領域、Pl=動脈硬化症プラーク。
【図2】図2は、ヒト頚動脈の動脈硬化症プラークにおけるエフォリン−B1の局在を示す図である。単独の(パネル(A))又は二重の(パネル(B)〜(F))免疫組織化学染色は実施例に記載したとおりに行なった。(A):多数のCD68(褐色)陽性泡沫細胞がcholesterol cleftsの周囲に観察された。(B):エフォリン−B1(赤色)及びCD68(褐色)。(C):エフォリン−B1(褐色)及びCXCR4(赤色)。矢印は、内弾性板を示す。(D):エフォリン−B1(褐色)及びSMA(赤色)。(E):エフォリン−B1(褐色)及びCD4(赤色)。NC=壊死中核(necrotic core)。(F):エフォリン−B1(褐色)及びCD8(赤色)。NC=necrotic core。各パネルについて、矢印によって示す高倍率の図を囲みの中に示す。バーは20μmである。
【図3】図3は、ヒト頚動脈の動脈硬化症プラークにおけるエフB2の局在を示す図である。二重免疫組織化学染色は実施例に記載したとおりに行なった。(A):エフB2(褐色)及びCD68(赤色)。(B):エフB2(赤色)及びCD4(褐色)。(C):エフB2(赤色)及びCD8(褐色)。各パネルについて、矢印によって示す高倍率の図を囲みの中に示す。バーは20μmである。
【図4】図4は、健常ヒトからの末梢血単球におけるエフォリン−B1及びエフB2の発現を示す図である。対流遠心エルトリエーションシステムを用いて健常志願者の末梢血単球を富化した。(A):CD68は、DAPIで染色した細胞の>90%で陽性であった。バーは20μmである。(B)、(C):エフォリン−B1及びエフB2の発現を二重免疫蛍光試験によって解析したもの。(左)=CD68。(中央)=エフォリン−B1(B)及びエフB2(C)。(右)=CD68及びエフォリン−B1(B)又はCD68及びエフB2(C)についての結合した像。バーは20μmである。(D):エフォリン−B1及びエフB2のRT−PCR解析。MO=単球富化細胞、NC=陰性対照(鋳型なし)、PC=陽性対照(動脈硬化症プラーク)。生成物のサイズは、エフォリン−B1が502塩基対(bp)、エフB2が515bp、GAPDHが452bpであった。
【図5】図5は、健常ヒトからの末梢血T−リンパ球におけるエフォリン−B1及びエフB2の発現を示す図である。エフォリン−B1及びエフB2の発現は、二重免疫蛍光試験によって解析した。(A)、(B):(左)=CD4。(中央)=エフォリン−B1(A)及びエフB2(B)。(右)=CD4及びエフォリン−B1(A)又はCD4及びエフB2(B)についての結合した像。(C)、(D):(左)=CD8。(中央)=エフォリン−B1(C)及びエフB2(D)。(右)=CD8及びエフォリン−B1(C)又はCD8及びエフB2(D)についての結合した像。バーは20μmである。
【図6】図6は、THP−1細胞におけるA群のエフォリン及びエフ遺伝子の増幅を示す図である。以下の説明は図6〜11について共通である。プライマーとしては、各パネルの左側に記したプライマー対を使用した。各パネルにおいて、レーン「1」=cDNA、レーン「2」=鋳型なし(逆転写酵素なし;DNase処理)のRNA、レーン「3」=ゲノムDNAをそれぞれ鋳型として用いた。「×30」及び「×35」はPCRにおける温度サイクルがそれぞれ30回及び35回であることを表す。
【図7】図7は、THP−1細胞におけるB群のエフォリン及びエフ遺伝子の増幅を示す図である。
【図8】図8は、Jurkat細胞におけるA群のエフォリン及びエフ遺伝子の増幅を示す図である。
【図9】図9は、Jurkat細胞におけるB群のエフォリン及びエフ遺伝子の増幅を示す図である。
【図10】図10は、内皮細胞におけるA群のエフォリン及びエフ遺伝子の増幅を示す図である。
【図11】図11は、内皮細胞におけるB群のエフォリン及びエフ遺伝子の増幅を示す図である。
【図12】図12は、THP−1細胞を用いた化学遊走試験の結果を示す図である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エフォリン及び/又はエフからなる炎症細胞の化学遊走調節剤。
【請求項2】
炎症細胞がT−リンパ球、単球及びそれらに由来する株細胞から選択される、請求項1記載の化学遊走調節剤。
【請求項3】
エフォリン及び/又はエフが、B群エフォリン及びエフから選択される、請求項1又は2記載の化学遊走調節剤。
【請求項4】
インビトロで炎症細胞にエフォリン及び/又はエフを添加することを含む、炎症細胞の化学遊走を抑制する方法。
【請求項5】
炎症細胞を化学遊走が起こり得る条件下でエフォリン及び/又はエフと被検物質との存在下でインビトロで培養する工程、及び前記炎症細胞の化学遊走の程度を測定する工程を含むことを特徴とする、被検物質による炎症細胞の化学遊走調節能を調べる方法。
【請求項6】
炎症細胞の通過が可能な隔壁によって区分された少なくとも2つの培養区画を有する培養容器であって、前記隔壁の表面又は一方の培養区画の表面にエフォリン及び/又はエフが固定化されていることを特徴とする培養容器からなる、被検物質による炎症細胞の化学遊走調節能を調べるための試験具。
【請求項7】
炎症細胞の通過が可能な隔壁によって区分された少なくとも2つの培養区画を有する培養容器、前記隔壁の表面又は一方の培養区画の表面に固定化するためのエフォリン及び/又はエフを含むコーティング溶液、他方の培養区画に添加するためのケモカイン溶液を含む、被検物質による炎症細胞の化学遊走調節能を調べるための試験キット。
【請求項8】
増幅される領域が1つのエクソンの一部又は全部に相当するように設計されている、エフォリン又はエフ遺伝子群、又はその転写物に由来する核酸を増幅するためのプライマー対。
【請求項9】
プライマー対の各プライマーが、以下の配列の対からなる群から選択される配列を有する、請求項8記載のプライマー対:配列表の配列番号1及び2、配列番号3及び4、配列番号5及び6、配列番号7及び8、配列番号9及び10、配列番号11及び12、配列番号13及び14、配列番号15及び16、配列番号17及び18、配列番号19及び20、配列番号21及び22、配列番号23及び24、配列番号25及び26、配列番号27及び28、配列番号29及び30、配列番号31及び32、配列番号33及び34、配列番号35及び36、配列番号37及び38、配列番号39及び40、配列番号41及び42、配列番号49及び50、配列番号51及び52。
【請求項10】
請求項8又は9記載のプライマー対と、鋳型として細胞又は組織由来RNAとを用いてPCR法を行なうことを特徴とする、エフォリン及び/又はエフの発現に基づいて前記細胞又は組織における炎症の有無又は程度を評価する方法。
【請求項1】
エフォリン及び/又はエフからなる炎症細胞の化学遊走調節剤。
【請求項2】
炎症細胞がT−リンパ球、単球及びそれらに由来する株細胞から選択される、請求項1記載の化学遊走調節剤。
【請求項3】
エフォリン及び/又はエフが、B群エフォリン及びエフから選択される、請求項1又は2記載の化学遊走調節剤。
【請求項4】
インビトロで炎症細胞にエフォリン及び/又はエフを添加することを含む、炎症細胞の化学遊走を抑制する方法。
【請求項5】
炎症細胞を化学遊走が起こり得る条件下でエフォリン及び/又はエフと被検物質との存在下でインビトロで培養する工程、及び前記炎症細胞の化学遊走の程度を測定する工程を含むことを特徴とする、被検物質による炎症細胞の化学遊走調節能を調べる方法。
【請求項6】
炎症細胞の通過が可能な隔壁によって区分された少なくとも2つの培養区画を有する培養容器であって、前記隔壁の表面又は一方の培養区画の表面にエフォリン及び/又はエフが固定化されていることを特徴とする培養容器からなる、被検物質による炎症細胞の化学遊走調節能を調べるための試験具。
【請求項7】
炎症細胞の通過が可能な隔壁によって区分された少なくとも2つの培養区画を有する培養容器、前記隔壁の表面又は一方の培養区画の表面に固定化するためのエフォリン及び/又はエフを含むコーティング溶液、他方の培養区画に添加するためのケモカイン溶液を含む、被検物質による炎症細胞の化学遊走調節能を調べるための試験キット。
【請求項8】
増幅される領域が1つのエクソンの一部又は全部に相当するように設計されている、エフォリン又はエフ遺伝子群、又はその転写物に由来する核酸を増幅するためのプライマー対。
【請求項9】
プライマー対の各プライマーが、以下の配列の対からなる群から選択される配列を有する、請求項8記載のプライマー対:配列表の配列番号1及び2、配列番号3及び4、配列番号5及び6、配列番号7及び8、配列番号9及び10、配列番号11及び12、配列番号13及び14、配列番号15及び16、配列番号17及び18、配列番号19及び20、配列番号21及び22、配列番号23及び24、配列番号25及び26、配列番号27及び28、配列番号29及び30、配列番号31及び32、配列番号33及び34、配列番号35及び36、配列番号37及び38、配列番号39及び40、配列番号41及び42、配列番号49及び50、配列番号51及び52。
【請求項10】
請求項8又は9記載のプライマー対と、鋳型として細胞又は組織由来RNAとを用いてPCR法を行なうことを特徴とする、エフォリン及び/又はエフの発現に基づいて前記細胞又は組織における炎症の有無又は程度を評価する方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2007−259829(P2007−259829A)
【公開日】平成19年10月11日(2007.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−92715(P2006−92715)
【出願日】平成18年3月30日(2006.3.30)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 日本循環器学会、Circulation Journal Vol.70 Supplement I、 2006年3月1日
【出願人】(803000056)財団法人ヒューマンサイエンス振興財団 (341)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年10月11日(2007.10.11)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年3月30日(2006.3.30)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 日本循環器学会、Circulation Journal Vol.70 Supplement I、 2006年3月1日
【出願人】(803000056)財団法人ヒューマンサイエンス振興財団 (341)
【Fターム(参考)】
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