説明

エポキシ化反応触媒

チタン−またはバナジウムゼオライト触媒は、チタン−またはバナジウム化合物、シリコン源、鋳型剤、炭化水素、および界面活性剤をモレキュラーシーブの形成にとって十分な温度と時間で反応させることにより調製される。この触媒は過酸化水素を用いたオレフィンのエポキシ化に有用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、チタンまたはバナジウムゼオライト触媒の製造方法、ならびに過酸化水素を用いたオレフィンのエポキシ化における該触媒の使用に関連する。
【背景技術】
【0002】
様々なエポキシドの製造方法がこれまで開発されてきた。一般的に、エポキシドは触媒の存在下における、オレフィンと酸化剤との反応により形成される。プロピレンと、有機ヒドロペルオキシド酸化剤、例えばエチルベンゼンヒドロペルオキシドまたはt−ブチルヒドロペルオキシドからのプロピレンオキシドの製造は、工業的に実用化されている技術である。この方法は可溶化モリブデン触媒の存在下で(米国特許3,351,635号公報参照)、あるいはシリカ触媒上の不均一チタニアの存在下で(米国特許4,367,342号公報参照)実施される。もう1つの、工業的に実用化されている技術は、エチレンを銀触媒上で酸素と反応させることにより直接エポキシ化してエチレンオキシドにするものである。残念ながら、銀触媒は商業ベースでの高級オレフィンのエポキシ化においては有用性が証明されてはいない。
【0003】
酸素およびアルキルヒドロペルオキシドの他、エポキシドを製造するのに有用な酸化剤として過酸化水素が挙げられる。たとえば、米国特許4,833,260号公報では、チタンシリケート触媒の存在下でオレフィンを過酸化水素によってエポキシ化することが開示されている。
【0004】
オレフィンを酸素と水素により直接エポキシ化することについて多くの最新の研究が行われている。この方法においては、酸素と水素が反応の場において酸化剤を生成しているものと信じられている。高級オレフィンの直接エポキシ化のために様々な触媒が提案されてきた。一般的に、触媒はチタノシリケート上に保持された貴金属を含む。例えば、特開平4−352771号公報では、結晶性のチタノシリケート上にパラジウムのような第VIII族金属を含む触媒を用いてプロピレン、酸素及び水素を反応させてプロピレンオキシドを形成することが開示されている。第VIII族金属は、酸素と水素が反応の場で酸化剤を形成する反応を促進しているものと信じられている。米国特許5,859,265号公報では、Ru、Rh、Pd、Os、Ir及びPtから選択された白金族金属がチタン−またはバナジウムシリカライト上に保持された触媒が開示されている。他の直接エポキシ化触媒の例としては、例えば金を担持したチタノシリケートが挙げられる。例えばPCT国際出願WO98/00413を参照のこと。
【0005】
チタノシリケートおよびバナドシリケートは、一般的に、例えば米国特許公報第4,410,501号および第4,833,260号に記載されているような水熱結晶化手順により製造される。リーおよびシャンツは、Chem.Comm.,2004年、680頁〜681頁において、シリケート−1の合成中に水/油/界面活性剤混合物のようなマイクロエマルジョンを使用することにより、シリケート−1の粒径および形状を改善する方法を開示している。しかしながら、リーおよびシャンツは、チタノシリケートの合成、オレフィンのエポキシ化方法のいずれについても開示していない。
【0006】
いかなる化学的方法においても、直接エポキシ化法並びに触媒における更なる改善が達成されることがなおも求められている。我々は、効果的かつ簡便なエポキシ化触媒の生成プロセスと、オレフィンをエポキシ化する際の触媒の使用を見出した。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、チタン−またはバナジウムゼオライト触媒の製造方法である。この方法は、チタン−またはバナジウム化合物、シリコン源、鋳型剤、炭化水素、および界面活性剤をモレキュラーシーブの形成にとって十分な温度と時間で反応させることを含む。この触媒は過酸化水素によるオレフィンエポキシ化において活性を有し、炭化水素および界面活性剤の添加なしに製造されたゼオライトと比較してより高い生産性とエポキシドへの選択性を示す。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明のエポキシ化方法はチタン−またはバナジウムゼオライトを利用するものである。チタン−またはバナジウムゼオライトは、モレキュラーシーブの格子骨格中の珪素原子の一部がチタン−またはバナジウム原子で置換されている種類のゼオライト物質を含む。このような物質やその製造は当業者周知の技術である。例えば、米国特許4,410,501号公報及び4,666,692号公報を参照のこと。
【0009】
本発明の方法は、チタン−またはバナジウム化合物、シリコン源、炭化水素および界面活性剤を、モレキュラーシーブの形成に十分な温度と時間で反応させることを含む。この方法は一般的に水の存在下において行われる。例えばアルコールのような他の溶媒が存在してもよい。イソプロピル、エチルおよびメチルアルコールのようなアルコールが好ましく、イソプロピルアルコールが特に好ましい。
【0010】
本発明の方法は、特定のチタン−もしくはバナジウム化合物を選択することには限定されないが、本発明において有用な適切なチタン−もしくはバナジウム化合物には、チタン−もしくはバナジウムアルコキシドおよびチタン−もしくはバナジウムハライドが含まれるがこれらには限定されない。好ましいチタンアルコキシドは、チタンテトライソプロポキシド、チタンテトラエトキシドおよびチタンテトラブトキシドである。チタンテトラエトキシドが特に好ましい。好ましいチタンハライドとしてはチタントリクロライドおよびチタンテトラクロライドが挙げられる。
【0011】
適切なシリコン源には、コロイダルシリカ、ヒュームドシリカ及びシリコンアルコキシドが含まれるが、これらに限定されない。好ましいシリコンアルコキシドは、テトラエチルオルトシリケート、テトラメチルオルトシリケートなどである。テトラエチルオルトシリケートが特に好ましい。
【0012】
鋳型剤は一般的には、水酸化テトラアルキルアンモニウム、ハロゲン化テトラアルキルアンモニウム、硝酸テトラアルキルアンモニウム、酢酸テトラアルキルアンモニウムなどである。水酸化テトラアルキルアンモニウムおよびハロゲン化テトラアルキルアンモニウム、例えば水酸化テトラプロピルアンモニウム及び臭化テトラプロピルアンモニウムが好ましい。水酸化テトラプロピルアンモニウムが特に好ましい。
【0013】
炭化水素は一般的には酸化されていない炭化水素である。好ましい酸化されていない炭化水素は、酸素原子を1つも含まず、室温で液体のものである。特に好ましい炭化水素の種類としては、C5〜C12脂肪族炭化水素(直鎖、分岐または環式)、C6〜C12芳香族炭化水素(アルキル置換された芳香族炭化水素を含む)、C1〜C10ハロゲン化脂肪族炭化水素、C6〜C10ハロゲン化芳香族炭化水素、並びにこれらの混合物が挙げられる。適切な炭化水素溶媒の例としては、n−ヘキサン、n−ヘプタン、シクロペンタン、メチルペンタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、ジメチルヘキサン、トルエン、キシレン、メチレンクロライド、クロロホルム、ジクロロエタン、クロロベンゼン、ベンジルクロライドなどが挙げられる。界面活性剤は適切な非イオン性、イオン性、カチオン性あるいは両性のいずれの界面活性剤であってもよい。好ましくは、界面活性剤はアルコール、ジオール、またはポリオールのアルコキシル化された付加化合物のような非イオン性界面活性剤である。このような界面活性剤は一般的に1モルのアルコール(またはジオールもしくはポリオール)と1〜約50モル、好ましくは1〜約20モル、より好ましくは2〜約10モルのエチレンオキシド(EO)またはプロピレンオキシド(PO)との縮合生成物を含む。適切な界面活性剤としては、例えば2,4,7,9−テトラメチル−5−デシン−4,7−ジオールのエトキシル化付加化合物を含む、エアプロダクツ社の製品サーフィノール(登録商標)のような、アセチレンジオールのアルキレンオキシド付加化合物が挙げられる。適切な界面活性剤としてはさらにポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルアリルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルアリールエーテル、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、およびポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテルも挙げられる。これらの中では、ポリオキシエチレンアルキルエーテルおよびポリオキシエチレンアルキルアリールエーテルが最も好ましい。特に好ましいのはポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテルなどである。
【0014】
一般的に、チタン−またはバナジウムゼオライトの調製に用いられる熱水プロセスは、添加剤のモル比(鋳型剤のモル数、SiO2のモル数及びTiO2またはVO2.5のモル数で定義される)が好ましくは下記モル比である反応混合物の生成を伴う:TiO2(VO2.5):SiO2=0.5〜5:100;かつ鋳型剤:SiO2=10〜50:100。水:SiO2のモル比は、一般的にはおよそ1000〜5000:100であり、溶媒:SiO2のモル比は、0〜500:100の範囲とすることができる。チタン−またはバナジウム源、鋳型剤、および水(および添加されている場合は溶媒)が一緒にされ、透明ゲル母液を形成する。炭化水素:透明ゲルの重量比は、好ましくは約0.5〜約20である。界面活性剤:透明ゲルの重量比は、好ましくは約0.001〜約0.25である。
【0015】
反応混合物は、所望のチタン−またはバナジウム源、シリコンおよび鋳型剤化合物を、炭化水素および反応混合物を形成する界面活性剤と混合することにより調製することができる。反応混合物の形成後も、一般的に混合物のpHは約9〜約13であることが必要である。混合物の塩基性度は、添加される鋳型剤化合物の量(水酸化物の形態である場合)か、あるいは他の塩基性化合物の添加によって調節される。他の塩基性化合物を用いる場合は、有機塩基であり、アルカリ金属、アルカリ土類金属などを含まないものが好ましい。他の塩基性化合物の添加は、鋳型剤として塩、例えばハロゲン化物や硝酸塩を添加する場合には必要となるであろう。これらの塩基性化合物の例には、水酸化アンモニウム、水酸化第4級アンモニウム及びアミンが含まれる。特定の例としては、水酸化テトラエチルアンモニウム、水酸化テトラブチルアンモニウム、n−ブチルアミン及びトリプロピルアミンが挙げられる。
【0016】
チタン−またはバナジウム化合物、シリコン源、鋳型剤、炭化水素、および反応混合物を形成する界面活性剤の添加の順番は本発明では重要ではないと考えられる。例えば、これらの化合物はすべてを一度に加えて反応混合物を形成することが可能である。他の方法として、反応混合物は、まず所望のチタン−あるいはバナジウム源、シリコンおよび鋳型剤を混合することにより初期反応混合物とすることにより調製してもよい。必要により、初期反応混合物は上記のようにpHが約9〜約13になるように調整してもよい。次いで炭化水素および界面活性剤を初期反応混合物に加えることにより反応混合物を形成する。
【0017】
反応混合物が形成された後、モレキュラーシーブの形成に十分な温度と時間のもとで反応が行われる。一般的には、反応混合物は約100℃〜約250℃で、約0.25時間以上(好ましくは約96時間未満)、密閉した容器中で自発的加圧下で加熱される。好ましくは、反応混合物は約125℃〜約200℃、最も好ましくは約150℃〜約180℃の温度範囲で加熱される。この反応はバッチ、連続または半連続法で、撹拌槽またはCSTRリアクターのような、適切であればいかなるタイプの反応槽または装置を用いて行うこともできる。連続または半連続法の場合、まず所望のチタン−あるいはバナジウム源、シリコンおよび鋳型剤を混合することにより調製される初期反応混合物を形成することが好ましく、また好ましくはpHを約9〜約13になるように調整する。この初期反応混合物と、別立ての炭化水素と界面活性剤を含む混合物を、同時に連続または半連続反応槽に投入すると、チタン−あるいはバナジウムゼオライトが反応槽から連続的に取り出される。
【0018】
反応が終わった後で、チタン−あるいはバナジウムゼオライトを回収する。適切なゼオライトの回収法としては、濾過・洗浄法(一般的には脱イオン水使用)、回転蒸発法、遠心分離法等が挙げられる。チタン−またはバナジウムゼオライトは約20℃以上、好ましくは約50℃〜約200℃で乾燥される。
【0019】
このように合成された、本発明のチタン−またはバナジウムゼオライトは、孔内にいくばくかの鋳型剤または追加の塩基化合物を含んでいる。この鋳型剤を除去するためには、適切であればいかなる方法をとってもよい。鋳型剤の除去は、不活性ガスもしくは酸素を含有するガス流の存在下での高温熱処理により行われる。他の方法として、鋳型剤はゼオライトを20℃〜約800℃の温度でオゾンと接触させることで除去することもできる。ゼオライトは鋳型剤を除去するために過酸化水素(あるいは反応の場で過酸化水素を生成する水素と酸素)または過酸のような酸化剤と接触させてもよい。ゼオライトは鋳型剤を分解するために酵素と接触、もしくはマイクロ波や光のようなエネルギー源に暴露させてもよい。
【0020】
好ましくは、貴金属とチタン−またはバナジウムゼオライトは、鋳型剤を除去するために250℃を超える温度で加熱される。約275℃〜約800℃の温度が好ましく、最も好ましくは約300℃〜約600℃である。高温での加熱は実質的に酸素を含まない不活性雰囲気下、例えば窒素、アルゴン、ネオン、ヘリウム等、あるいはそれらの混合物の下で行われる。ここで実質的に酸素を含まないとは、10,000ppm(モル)未満、好ましくは2000ppm未満の酸素しか含まない不活性雰囲気を意味する。同様に、例えば空気や、酸素と不活性ガスの混合物で酸素含有雰囲気下でも加熱が行われる。他の方法として、チタン−またはバナジウムゼオライトは酸素含有雰囲気下での加熱に先立って窒素のような不活性ガスの存在下で加熱されてもよい。この加熱プロセスは、ガス流(不活性、酸素含有、あるいはその双方)がチタン−またはバナジウムゼオライトを通り抜けるようにして行ってよい。他の方法として、静的な状態で加熱を行ってもよい。ゼオライトはガス流との接触の間揺動もしくは撹拌されていてもよい。
【0021】
このように合成されたチタン−またはバナジウムゼオライトが、粉末の形態で製造された場合、加熱段階に先立って、噴霧乾燥、ペレット化、あるいは押し出し成形される噴霧乾燥、ペレット化、あるいは押し出し成形された場合は、貴金属を含むチタン−またはバナジウムゼオライトはさらに加熱段階に先立って、バインダー等を含有して所望の形状へと型成形、噴霧乾燥、賦形あるいは押し出し成形される。
【0022】
チタンバナジウムゼオライトとしては、好ましくはチタンシリカライトとして一般に言及されるモレキュラーシーブの類が挙げられ、特にTS−1(ZSM−5アルミノシリケートゼオライトに類似のMFI位相を有する)、TS−2(ZSM−11アルミノシリケートゼオライトに類似のMEL位相を有する)、及びTS−3(ベルギー国特許番号第1,001,038号)である。本発明の方法では、ゼオライトベータ、モルデナイト、ZSM−48、ZSM−12、及びMCM−41と同形体である骨格構造を有するチタン含有モレキュラーシーブも合成中に形成される。
【0023】
本発明のエポキシ化方法は、チタン−またはバナジウムゼオライト触媒の存在下でのオレフィンと過酸化水素との接触を含む。適当なオレフィンには、少なくとも1つの炭素−炭素二重結合を持ついかなるオレフィンも含まれるが、一般的には炭素原子が2〜60のものである。好ましくはこのオレフィンは炭素数2〜30の非環式アルケンである。本発明の方法は特にC2−C6オレフィンのエポキシ化に適する。例えばジエンあるいはトリエンのような1を超える二重結合が存在してもよい。オレフィンは炭化水素(すなわち、炭素および水素原子のみを含む)であっても、ハライド、カルボキシル、ヒドロキシル、エーテル、カルボニル、シアノまたはニトロの各基やそれに類するものを含んでいてもよい。本発明の方法は特にプロピレンをプロピレンオキシドに変換するのに有用である。
【0024】
過酸化水素はエポキシ化反応に用いられる前に生成される。過酸化水素は適切ないかなる発生源由来のものでもよく、二級アルコール例えばイソプロパノールの酸化、アントラキノン法、および水素と酸素の直接反応由来が挙げられる。エポキシ化反応において添加される過酸化水素水溶液反応剤の濃度は決定的なものではない。典型的な過酸化水素濃度範囲は、水中に0.1〜90重量%の過酸化水素であり、好ましくは1〜5重量%である。
【0025】
オレフィンの量に対する過酸化水素の量も決定的なものではないが、最も適切には、過酸化水素:オレフィンのモル比を100:1〜1:100の範囲、より好ましくは10:1〜1:10の範囲とする。理論的には、一不飽和オレフィンの基質1当量を酸化するには過酸化水素1当量が必要であるが、エポキシドへの選択性を最適化するために、過剰量の反応剤を使用するのが望ましい。
【0026】
過酸化水素は、貴金属触媒の存在下で水素と酸素とを反応の場において反応させることによっても形成可能である。水素と酸素の供給源としてはいかなるものも適切であるが、分子状酸素および分子状水素が好ましい。
【0027】
いかなる貴金属触媒も単独でも組み合わせにおいても用いることが可能であるが(すなわち、金、銀、白金、パラジウム、イリジウム、ルテニウム、オスミウムの金属触媒)、パラジウム、白金および金の金属触媒が特に望ましい。適切な貴金属触媒としては、表面積の大きな貴金属、貴金属合金、および担持された貴金属触媒が挙げられる。適切な貴金属触媒の具体例としては、表面積の大きなパラジウムおよびパラジウム合金が挙げられる。しかしながら、特に好ましい貴金属触媒は、貴金属と担体を含む担持された貴金属触媒である。
【0028】
担持された貴金属触媒においては、担体は好ましくは多孔質金属である。担体については当業者に公知である。使用される担体のタイプには特に制限はない。例えば、担体は無機酸化物、無機塩化物、炭素、および有機ポリマー樹脂であってよい。好ましい無機酸化物としては、周期表2、3、4、5、6、13または14族の元素の酸化物が挙げられる。特に好ましい無機酸化物担体としては、シリカ、アルミナ、チタニア、ジルコニア、酸化ニオブ、酸化タンタル、酸化モリブデン、酸化タングステン、アモルファスチタニア−シリカ、アモルファスジルコニア−シリカ、アモルファスニオビア−シリカなどが挙げられる。好ましい有機ポリマー樹脂としては、ポリスチレン、スチレン-ジビニルベンゼンコポリマー、 架橋ポリエチレンイミン、およびポリベンズイミダゾールが挙げられる。適切な担体としては、さらに、無機酸化物担体上にグラフトされた有機ポリマー、例えばポリエチレンイミン−シリカが挙げられる。好ましい担体としては炭素も挙げられる。特に好ましい担体としては炭素、シリカ、シリカ−アルミナ、チタニア、ジルコニア、およびニオビアが挙げられる。
【0029】
好ましくは担体は約10〜約700m2/gの範囲の表面積を持ち、より好ましくは約50〜約500m2/g、最も好ましくは約100〜約400m2/gである。好ましくは担体の細孔容積は約0.1〜約4.0mL/gの範囲であり、より好ましくは約0.5〜約3.5mL/g、最も好ましくは約0.8〜約3.0mL/gである。好ましくは担体の平均粒径は約0.1〜約500μmの範囲であり、より好ましくは約1〜約200μm、最も好ましくは約10〜約100μmである。平均細孔径は一般的に約10〜約1000Åの範囲であり、より好ましくは約20〜約500Å、最も好ましくは約50〜約350Åである。
【0030】
担持された貴金属触媒は貴金属を含有している。貴金属であれば単独であれ組み合わせであれいかなるものを用いてもよいが(すなわち、金、銀、白金、パラジウム、イリジウム、ルテニウム、オスミウム)、パラジウム、白金および金が特に望ましい。一般的に、担持された触媒中における貴金属の典型的な含有量は、約0.001〜10重量%の範囲であり、好ましくは0.005〜5重量%、特に0.01〜1重量%である。貴金属が触媒に組み込まれている様態については特に不可欠とされる要件はないものと考えられている。例えば、貴金属は、含浸、吸着、沈殿等によって保持される。他の方法として、貴金属は例えばテトラアミンパラジウムジクロライドとのイオン交換により組み込まれる。
【0031】
担持された触媒中の貴金属の供給源として用いられる貴金属化合物または複合体の選択にあたっては特に制限はない。例えば、適切な化合物としては、貴金属の硝酸塩、ハロゲン化物(例えば塩化物、臭化物)、カルボン酸塩(例えば酢酸塩)、及びアミン錯体が挙げられる。
【0032】
本発明のある好ましい実施形態においては、水素および酸素によるオレフィンのエポキシ化は、貴金属および前処理されたチタン−またはバナジウムゼオライトを含む、貴金属含有チタン−またはバナジウムゼオライトの存在下で行われる。この実施形態では、貴金属は前記の方法によりチタン−またはバナジウムゼオライト中に組み込まれる。
【0033】
反応するオレフィンによって、本発明によるエポキシ化は、液相、気相または超臨界相中で行うことができる。液体の反応媒体を使用する場合、触媒は好ましくは懸濁または固定床の形態である。このプロセスは連続流れ、セミ・バッチ(半回分)またはバッチ(回分)のいずれの運転モードでも行うことができる。
【0034】
エポキシ化が液相(もしくは超臨界相)で行われる場合、1〜200barの圧力の下で、1種以上の溶媒の存在下で行うのが有利である。溶媒としてはアルコール、ケトン、水、CO2もしくはこれらの混合物が適しているが、これらには限定されない。アルコールとして適しているのは、メタノール、エタノール、イソプロパノール及びt−ブタノールのようなC1〜C4アルコール、もしくはこれらの混合物である。溶媒としてCO2を用いる場合は、CO2は超臨界状態、あるいは高圧亜臨界状態のいずれかであってよい。フッ素化アルコールも使用できる。ここに挙げたアルコールと水の混合物を用いるのが好ましい。
【0035】
エポキシ化が液相(もしくは超臨界相)で行われる場合、緩衝剤を用いると有利である。緩衝剤は一般的には溶媒に加えて緩衝液を生成する。緩衝液はエポキシ化の際にグリコールやグリコールエーテルの生成を抑制するために、この反応で用いられる。緩衝剤については当業者に公知である。
【0036】
本発明で有用な緩衝剤には、酸素酸の塩であって、混合物中のその性状と割合がそれらの溶液中のpHが3〜12、好ましくは4〜10、より好ましくは5〜9の範囲になるようにできるものであればいかなるものも含まれる。適合する酸素酸の塩はアニオンとカチオンを含む。塩のアニオン部分としてはリン酸、炭酸、重炭酸、カルボン酸(例えば酢酸、フタル酸等)、クエン酸、ホウ酸、水酸化物、珪酸、アルミノシリケート等の酸イオン(アニオン)が含まれる。塩のカチオン部分としては、アンモニウム、アルキルアンモニウム(例えばテトラアルキルアンモニウム、ピリジニウム等)、アルカリ金属、アルカリ土類金属等のカチオンが含まれる。カチオンの例としてはNH4、NBu4、NMe4、Li、Na、K、Cs、Mg、およびCaの各カチオンが含まれる。緩衝剤は好ましくは1より多くの好適な塩の組み合わせを含むことができる。一般的には、溶媒中の緩衝剤の濃度は約0.0001M〜約1M、好ましくは約0.001M〜約0.3Mである。本発明で有用な緩衝剤には、反応系で添加されるアンモニアガスまたは水酸化アンモニウムも含まれる。例えば、反応系のpHを調整するために、pH=12〜14の水酸化アンモニウムを用いることができる。より好ましい緩衝剤としては、アルカリ金属燐酸塩、燐酸アンモニウムおよび水酸化アンモニウム緩衝剤が挙げられる。
【0037】
本発明の方法はバッチ、連続または半連続法で、固定床、輸送床、流動層、撹拌スラリーまたはCSTRリアクターのような、適切であればいかなるタイプの反応槽または装置を用いて行うこともできる。触媒は好ましくは懸濁液または固定床の形態である。触媒により行われる、酸化剤を用いたオレフィンのエポキシ化のための既知の方法においても、一般に本方法を適切に用いることができる。したがって、反応物質は全部を一度に一緒にしても、あるいは順次一緒にしてもよい。
【0038】
本発明によるエポキシ化は、所望のオレフィンエポキシ化の達成に有効な温度であれば行うことができ、好ましくは0〜150℃、より好ましくは20〜120℃の範囲の温度で行うことができる。反応または滞留時間として一般的に適切なのは1分〜48時間、より好ましくは1分〜8時間である。反応は大気圧下で行うことも可能であるが、1〜200気圧の圧力下で稼動させるのが有利である。
【0039】
以下の例は単に本発明を説明するものである。当業者は本発明の技術思想および特許請求の範囲の範囲内において、様々な変形があることを認識できるであろう。
【実施例】
【0040】
(比較例1):炭化水素および界面活性剤を用いないTS−1触媒の調製
TS−1は標準的ないかなる方法で調製してもよい。一般的な手順は次の通りである。
【0041】
容量2ガロンの乾燥したステンレスオートクレーブに窒素パージ、攪拌器、熱電対、追加のポートとバルブ、および過圧逃がしディスクを装着したものを氷浴中に入れ0℃まで冷やし、窒素を供給してパージする。テトラエチルオルトシリケート(TEOS,1978.4g)を容器に注入し、攪拌器を1000rpmで作動させる。次いで氷浴中での冷却を保ちながらテトラエチルオルトチタネート(TEOT,60.4g)を30〜60分間かけて強く混合しながら加える。次いで冷却を続けながらテトラプロピルアンモニウムヒドロキシド(TPAOH)の15重量%水溶液(TPAOHの40重量%水溶液1447.1gを脱イオン水2413.7gに加えることで調製される)を容器に2時間かけて加える。TPAOHを加えたのち、氷浴を取り去り、混合物が室温になるまで攪拌し続ける。透明ゲル母液が得られる(透明ゲル1)。
【0042】
透明ゲル1の一部を200rpmで攪拌しながら170℃まで5時間かけて昇温し、170℃に24時間保ち、その後冷却する。TS−1の製品の結晶を濾過し、脱イオン水で3回洗浄し、55℃で2時間真空乾燥し、空気中で20℃から110℃まで10℃/分で加熱、110℃で2時間保った後550℃まで2℃/分で加熱し、550℃で4時間保ってオーブン焼成することにより比較触媒1を製造する。
【0043】
実施例2:炭化水素および界面活性剤を含むTS−1触媒の調製
透明ゲル1(100g,比較例1)、イゲパール(登録商標)CO−720(20g,ポリオキシエチレン(12)ノニルフェニルエーテル、アルドリッチ社製)、およびヘプタン(140g)を450mL容パール社製反応器に注入する。反応器を閉じて窒素で洗い流した後、反応器を180℃まで30分かけて昇温し、800rpmで攪拌しながら180℃に3.5時間保つ。反応器を室温まで冷却した後、遠心分離により固体を単離し、蒸留水で2回洗浄し、真空オーブン中で60〜70℃で一定重量(9.22g)になるまで乾燥する。固体の一部(4.75g)を550℃で窒素で2時間処理し、その後空気中で110℃で2時間、その後550℃で4時間焼成して触媒2(4.09g)を製造する。
【0044】
実施例3:半連続法を用いた炭化水素および界面活性剤を含むTS−1触媒の調製
ヘプタン(140g)およびイゲパールCO−720(20g)を450mL容パール社製反応器に注入する。反応器を閉じて窒素で洗い流した後、反応器を180℃まで30分かけて昇温し、800rpmで攪拌しながら180℃に保つ。続いて透明ゲル1(100g,比較例1)を反応器に2時間かけて連続的に加え、さらに3時間の間180℃で反応を継続させる。反応器を室温まで冷却した後、遠心分離により固体を単離し、蒸留水で2回洗浄し、真空オーブン中で60〜70℃で一定重量8g)になるまで乾燥する。固体を550℃で窒素で2時間処理し、その後空気中で110℃で2時間、その後550℃で4時間焼成して触媒3(7.08g)を製造する。
【0045】
実施例4:プロピレンのエポキシ化
100mLパールリアクターにメタノール/水/過酸化水素をそれぞれ70:25:5重量%含む溶液(40g)と触媒(0.15g)を注入する。反応器を密閉し、プロピレン(23〜25g)を注入する。磁石により攪拌された反応混合物を、反応器の圧力約280psigの下、50℃で30分間加熱し、その後10℃まで冷却する。液相および気相をGCで分析する。プロピレンオキシドおよび同等物(POE)が反応の間に生成される。製造されたPOEはプロピレンオキシド(PO)および開環生成物であるプロピレングリコールおよびグリコールエーテルを含んでいる。結果は表1に示されている。
【0046】
実施例4Aでは比較触媒1を用いる。実施例4Bでは触媒2を用いる。実施例4Cでは触媒3を用いる。
【0047】
結果は、炭化水素および界面活性剤の存在下において製造されたチタンゼオライトを用いたオレフィンエポキシ化反応におけるより高い生産性と選択性を示している。
【0048】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
チタン−またはバナジウム化合物、シリコン源、鋳型剤、炭化水素、および界面活性剤をモレキュラーシーブの形成にとって十分な温度と時間で反応させることを含む、チタン−またはバナジウムゼオライトの製造方法。
【請求項2】
前記チタン化合物が、チタンハライド、チタンアルコキシド、およびそれらの混合物からなる群より選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記シリコン源が、コロイダルシリカ、ヒュームドシリカ、シリコンアルコキシド、およびそれらの混合物からなる群より選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記鋳型剤が、水酸化テトラアルキルアンモニウム、ハロゲン化テトラアルキルアンモニウム、およびそれらの混合物からなる群より選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記炭化水素が、C5〜C12脂肪族炭化水素、C6〜C12芳香族炭化水素、C1〜C10ハロゲン化脂肪族炭化水素、C6〜C10ハロゲン化芳香族炭化水素、およびそれらの混合物からなる群より選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記界面活性剤が、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルアリルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルアリールエーテル、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル、アセチレンジオールのアルキレンオキシド付加化合物、およびそれらの混合物からなる群より選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
チタン−またはバナジウムゼオライトの存在下におけるオレフィンと過酸化水素の反応を含むエポキシドの製造方法において、該チタン−またはバナジウムゼオライトが、チタン−またはバナジウム化合物、シリコン源、鋳型剤、炭化水素、および界面活性剤をモレキュラーシーブの形成にとって十分な温度と時間で反応させることにより製造されることを特徴とする、エポキシドの製造方法。
【請求項8】
前記チタン化合物が、チタンハライド、チタンアルコキシド、およびそれらの混合物からなる群より選択される、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記シリコン源が、コロイダルシリカ、ヒュームドシリカ、シリコンアルコキシド、およびそれらの混合物からなる群より選択される、請求項7に記載の方法。
【請求項10】
前記鋳型剤が、水酸化テトラアルキルアンモニウム、ハロゲン化テトラアルキルアンモニウム、およびそれらの混合物からなる群より選択される、請求項7に記載の方法。
【請求項11】
前記炭化水素が、C5〜C12脂肪族炭化水素、C6〜C12芳香族炭化水素、C1〜C10ハロゲン化脂肪族炭化水素、C6〜C10ハロゲン化芳香族炭化水素、およびそれらの混合物からなる群より選択される、請求項7に記載の方法。
【請求項12】
前記界面活性剤が、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルアリルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルアリールエーテル、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル、アセチレンジオールのアルキレンオキシド付加化合物、およびそれらの混合物からなる群より選択される、請求項7に記載の方法。
【請求項13】
前記チタン−またはバナジウムゼオライトが、チタンシリケートである請求項7に記載の方法。
【請求項14】
前記オレフィンがC2〜C6オレフィンである請求項7に記載の方法。
【請求項15】
前記オレフィンがプロピレンである請求項7に記載の方法。
【請求項16】
オレフィンと過酸化水素の反応が、水、C1〜C4アルコール、CO2、およびそれらの混合物からなる群より選択される溶媒中で行われる、請求項7に記載の方法。
【請求項17】
前記過酸化水素が貴金属触媒の存在下で水素と酸素とを反応の場において反応させることによって形成されるものである、請求項7に記載の方法。
【請求項18】
前記貴金属触媒が貴金属と担体を含む、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記貴金属がパラジウム、白金および金からなる群より選択される、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記担体が、炭素、チタニア、ジルコニア、酸化ニオブ、シリカ、アルミナ、シリカ−アルミナ、酸化タンタル、酸化モリブデン、酸化タングステン、チタニア−シリカ、ジルコニア−シリカ、ニオビア−シリカ、およびそれらの混合物である、請求項18に記載の方法。
【請求項21】
貴金属および、チタン−またはバナジウムゼオライトを含む貴金属含有チタン−またはバナジウムゼオライトの存在下におけるオレフィン、水素および酸素の反応を含むエポキシドの製造方法において、該チタン−またはバナジウムゼオライトが、チタン−またはバナジウム化合物、シリコン源、鋳型剤、炭化水素、および界面活性剤をモレキュラーシーブの形成にとって十分な温度と時間で反応させることにより製造されることを特徴とする、エポキシドの製造方法。
【請求項22】
前記チタン−またはバナジウムゼオライトが、チタンシリケートである請求項21に記載の方法。
【請求項23】
前記オレフィンがC2〜C6オレフィンである請求項21に記載の方法。
【請求項24】
前記オレフィンがプロピレンである請求項21に記載の方法。
【請求項25】
オレフィン、水素および酸素の反応が、水、C1−C4アルコール、CO2、およびそれらの混合物からなる群より選択される溶媒中で行われる、請求項21に記載の方法。

【公表番号】特表2009−515809(P2009−515809A)
【公表日】平成21年4月16日(2009.4.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−541167(P2008−541167)
【出願日】平成18年10月3日(2006.10.3)
【国際出願番号】PCT/US2006/038810
【国際公開番号】WO2007/058709
【国際公開日】平成19年5月24日(2007.5.24)
【出願人】(505341095)ライオンデル ケミカル テクノロジー、 エル.ピー. (61)
【氏名又は名称原語表記】LYONDELL CHEMICAL TECHNOLOGY, L.P.
【Fターム(参考)】