説明

エポキシ樹脂用硬化促進剤としてのグアニジン誘導体の使用

本発明により、冷間硬化エポキシ樹脂組成物のための促進剤としての、R1、R2およびR3基が上記の意味を有する一般式(I)のグアニジン誘導体が記載される。この化合物を用いて、冷間硬化エポキシ樹脂系を有利に硬化促進できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はグアニジン誘導体、冷間硬化エポキシ樹脂における硬化促進剤としてのその使用、並びに冷間硬化エポキシ樹脂の製造方法に関する。
【0002】
熱硬化性エポキシ樹脂の使用は、良好な化学物質耐性、非常に良好な熱特性および力学的特性、並びに高い電気絶縁性に基づき、広く普及している。その上、それは、多くの基材への良好な付着を示す。この特性に基づき、それらは好ましくは、構造の成分として同時に低重量で使用される繊維複合材料(複合材)のための収縮の少ないマトリックスとしてはたらく。さらにまた、エポキシ樹脂は、キャスト樹脂、エレクトロラミネート、構造接着剤、粉末塗料、および封止用コンパウンドの成分として、多方面で見出されている (G.W.Ehrenstein, Faserverbund−Kunststoffe, 2006,第2版, Carl Hanser Verlag,ミュンヘン,63−68ページ;およびM.Reyne, Composite Solutions, 2006, JEC Publications, 31−37ページ参照)。
【0003】
エポキシ樹脂の硬化は、様々なメカニズムに従って進む。フェノールまたは無水物を用いた硬化以外に、しばしば、アミンを用いた硬化が実施される。この目的のために、化学量論組成量の水素原子、例えば二官能価のアミンを産出するものが添加される。これに関しては、1993年にVerlag Blackie Academic&Professionalにおいて刊行された、Bryan Ellisの「Chemistry and Technology of Epoxy Resins」内の第二章「Curing Agents for Epoxy resins」に教示されている。この中で、芳香族、脂肪族、芳香脂肪族または脂環式アミン、ポリアミド、ポリアミドアミン、ポリエーテルアミンまたはマンニッヒ塩基を用いて架橋が何回も行われることが記載されている。高い反応性ひいては低い潜在性に基づき、大抵、エポキシ樹脂と硬化剤との組成物は二成分で仕上げられる。これは、樹脂(A成分)と硬化剤(B成分)とを別々に保管し、且つ、使う直前で初めて、正確な比で混合することを意味する。この際、「潜在性」とは、個々の成分の混合物が、特定の貯蔵条件下および貯蔵時間の間、安定に存在し、且つ、大抵、熱での活性化の後に初めて、迅速に硬化することを意味する (H.Sanftenberg, M.Fedke Angew.Makrom.Chem. 1995, 225, 99−107)。架橋をより完全なものにするために、且つ、熱硬化性材料の望ましい最終特性を達成するために、かかる冷間硬化エポキシ樹脂組成物も、しばしば熱による後処理に供される。熱による後処理のための典型的な温度は、60〜80℃である。
【0004】
それに対して、1成分の熱硬化性混合物は、使用可能なように完成して仕上げられており、その際、使用現場では個々の成分の混合誤差は問題にならない。そのために、室温では安定(貯蔵安定性)であるが、しかし加熱下では進んで反応する潜在性硬化剤系が必要とされる。かかる1成分系エポキシ樹脂配合物は、例えばジシアンジアミド(Dicy)であり、それは特に適し、且つ低コストの硬化剤でもある。周囲条件下で、相応する樹脂と硬化剤との混合物を、6ヶ月まで使用可能であるように貯蔵できる。この特性はとりわけ、周囲温度の際、エポキシ樹脂中でDicyが不溶性であることによって説明される (Bryan Ellis, Chemistry and Technology of Epoxy Resins, 1993, Verlag Blackie Academic&Professional, 49ページ)。ただし、Dicyが顕著に反応不活性であることに基づく系は、高温での長い硬化時間を必要とする (R.Lopez, 1966, US3391113号; G.Ott, 1949, US2637715号B1; J.v.Seyerl, 1984, EP0148365号)。硬化温度の低下のために、ジシアンジアミドと硬化促進剤との組み合わせを使用できる。この特性を有する化合物は、とりわけ、ウロン(Urone) (Th.Guethner, B.Hammer J.Appl.Polym.Sci., 1993, 50, 1453−1459; Brockmann et al. J.Adhesion&Adhesives, 2000, 20, 333−340 ;Poisson et al. J.Appl.Polym.Sci., 1998, 69, 2487−2497) またはイミダゾール (GB1050679号)である。ウロン系についての際立った長い潜在時間が記載される一方で、イミダゾール配合物は一般に、ジシアンジアミドを用いて、または用いないで、数時間だけの短いポットライフを有する (Bryan Ellis, Chemistry and Technology of Epoxy Resins, 1993, Verlag Blackie Academic&Professional, 58−60ページ)。
【0005】
ドイツの公開特許公報DE1951600号においては、室温またはそれより下で、素早く硬化する、エポキシ樹脂、エチレンポリアミン、例えばジエチレントリアミン(DETA)、N−(アミノエチル)−ピペラジン、ジシアンジアミド(Dicy)とイミダゾール化合物との組み合わせからなる接着剤について記載されている。イミダゾールと同様にDicyも、その発明の実施のためにどうしても必要とされることが詳細に説明されて開示されている。
【0006】
ドイツの特許文献DE2131929号内に、加熱硬化性の濃縮エポキシ樹脂材料を製造するための、アミンとDicyとの組み合わせの使用が記載されている。柔らかく、できるだけねばねばしないが、しかし貯蔵安定性であり、加熱中に素早く硬化するエポキシ樹脂材料を提供できるために提示される課題は、反応性アミン硬化剤を用いて、その材料を予め濃縮することによって解決される。予め濃縮された材料の中にまだ含まれている、未反応のDicyは、架橋を、熱の作用によってさらにより完全なものにすることができる。
【0007】
さらに、ドイツの特許出願DE102006056311号A1では、非常に良好な貯蔵安定性(潜在性)を有する熱硬化性エポキシ樹脂配合物が記載されている。この配合物中では、ジシアンジアミド以外に、硬化剤として選択されたグアニジン誘導体が促進剤として使用される。示されたエポキシ樹脂配合物は、一成分系として仕上げられる。
【0008】
さらにまた、欧州特許出願EP310545号A2および国際特許出願WO92/01726号A1では、異なるシアノグアニジンが硬化剤として記載されている。これらの硬化剤は、良好な潜在性を有し、従って、良好な貯蔵性を有するべきである熱硬化性エポキシ配合物のためによく適している。
【0009】
従って、本発明は、高い反応性を有し、ひいては低い潜在性を有する、冷間硬化エポキシ樹脂系のために適した促進剤を提供するという課題に基づいている。この際、高い費用対効果の長所を有する促進剤であって、この物質が同時に良好に配分可能であるという促進剤が提供される。さらに、この促進剤の使用下での冷間硬化エポキシ樹脂の製造方法が提供されなければならない。
【0010】
この課題は、本発明によれば、請求項1によるグアニジン誘導体の使用によって解決される。
【0011】
この際、意外にも、高い潜在性を有する公知の、且つ室温でエポキシ材料中で長い時間にわたって安定な式(I)によるグアニジン誘導体を、硬化剤としての他に、冷間硬化、殊に冷間硬化アミン硬化剤を含むエポキシ樹脂系の促進剤として使用できることが明らかになった。これらのグアニジン誘導体は、エポキシ材料、殊に冷間硬化のアミン硬化剤を含むエポキシ材料の硬化を、その硬化時間を1つ且つ同一のアミン硬化剤の使用の際の半分の時間までに短縮できるように、促進する。さらにまた、式(I)によって表されるグアニジン誘導体は固体であるので、このことによって特に容易に且つ確実な操作で配量を行うことができる。
【0012】
本発明の範囲において、ここで、冷間硬化エポキシ樹脂組成物とは、室温で最長48時間のゲル化時間を有する組成物であると理解されるべきである。
【0013】
アミンは一般に室温で既に進んで硬化し始めるが、しかしながら非常に潜在性のグアニジン誘導体は高温によって初めて活性化され得るということが知られているだけに、まさしく非常に不活性な式(I)によるグアニジン誘導体が、室温で既に進んで開始するアミン硬化を追加的に促進するということは、よりいっそう意外である。本発明に相応して、冷間硬化エポキシ樹脂組成物のための硬化加速剤として、一般式(I)のグアニジン誘導体が提供される。
【化1】

[式中、
1=−CN、−NO2、−(C=O)−R4
2=−H、−アルキル、−ベンジル、−フェニル、−アリール、−(C=O)−R4
3=−H、−アルキル、
4=−H、−アルキル、−NH2、−NH−アルキル、−O−アルキル
であり、且つ、その際、R1=−CNについては、同時にR2=R3=−Hではない]。
【0014】
この際、R2=−アルキルまたはR3=−アルキルが、同時に、または互いに独立して、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、またはn−ブチル基を表す、式(I)による誘導体が特に好ましい。
【0015】
とりわけ特に意外なことに、この際、
1=−NO2
2=−H、−アルキル、−ベンジル、−フェニル、−アリール、
3=−H、−アルキル
である、式(I)によるグアニジン誘導体を、冷間硬化エポキシ樹脂組成物のための硬化促進剤として使用できることが示された。
【0016】
このニトログアニジン誘導体は、硬化時間を特に高く加速する点で優れている (実施例の表1参照)。
【0017】
本発明によれば、この際、R2基=−ベンジル、−フェニルまたは−アリールは、ベンジル、フェニルまたはアリールの置換誘導体も包含することが特筆される。殊に、R2=−クロロベンジル、−クロロフェニルまたは−クロロアリールを意味する。
【0018】
一般式(I)の本発明によるグアニジン誘導体のための例として、且つ、限定されずに、好ましい代表物としては、1,1−ジメチル−3−シアングアニジン、1−アセチル−3−シアングアニジン、1−(p−クロロフェニル)−3−シアングアニジン、ニトログアニジン、1−メチル−3−ニトログアニジン、1−エチル−3−ニトログアニジン、1−ブチル−3−ニトログアニジン、1−ベンジル−3−ニトログアニジン、ホルミルグアニジン、アセチルグアニジン、カルバモイルグアニジン、またはメトキシカルボニルグアニジンが使用される。
【0019】
従って、さらなる態様によれば、冷間硬化エポキシ樹脂組成物中での硬化促進剤としての、式(I)によるグアニジン誘導体の使用も、上記且つ好ましいグアニジン誘導体の使用も、本発明の対象である。
【0020】
この際、このグアニジン誘導体が、温度60℃で活性化可能なエポキシ樹脂用の少なくとも1つのアミン硬化剤と共に使用される場合、特に有利であることがわかった。
【0021】
その際、特に意外なことに、このグアニジン誘導体が、それがエポキシ樹脂中で高い潜在性を有するにもかかわらず、冷間硬化エポキシ樹脂組成物の硬化を、特に多く促進することがわかった。殊に、アミン硬化剤を含むエポキシ樹脂組成物の硬化が促進される。
【0022】
その際、殊に、本発明によるグアニジン誘導体が、アルキルジアミン、アリールジアミン、アルキルポリアミン、アリールポリアミン、ポリエーテルアミンの群からのアミン硬化剤(各々のアミン硬化剤は少なくとも2つの遊離アミン基を有する)と共に使用されることが予想され得る。
【0023】
この際、とりわけ特に好ましいのは、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、メタ−キシリレンジアミン、メチレンジアニリン、パラ−アミノシクロヘキシルメタン、イソホロンジアミンおよびポリエーテルアミンの群からのアミン硬化剤である。
【0024】
使用量に関しては、本発明によるグアニジン誘導体を、エポキシド組成物に対して0.01〜15質量%の量で投入し且つ使用できることが示された。さらにまた、グアニジン誘導体を、100部のエポキシ樹脂に対して0.01〜15部の割合で投入し且つ使用することもできる。
【0025】
硬化されるエポキシ樹脂に関して、本発明はどのようにも限定されない。通常、1つより多くの1,2−エポキシ基(オキシラン)を有し、且つその際、飽和または不飽和の、脂肪族、脂環式、芳香族または複素環式であってよい、全ての市販品が考慮に入れられる。その上、エポキシ樹脂は、置換基、例えばハロゲン、リン、およびヒドロキシル基を有することができる。2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−プロパン(ビスフェノールA)のグリシジルエーテル、並びに臭素で置換された誘導体(テトラブロモビスフェノールA)、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン (ビスフェノールF)のグリシジルポリエーテル、およびノボラックのグリシジルポリエーテル、並びに、アニリンまたは置換アニリンに基づくもの、例えばp−アミノフェノールまたは4,4’−ジアミノジフェニルメタンに基づくエポキシ樹脂を、式(I)の本発明による化合物の使用によって、アミンの存在中で特に良好に硬化できる。
【0026】
本発明によって使用されるアミン硬化剤について典型的には、好ましい代表物として、エチレンジアミン(EDA)、ジエチレントリアミン(DETA)、トリエチレンテトラミン(TETA)、メタ−キシリレンジアミン(MXDA)、メチレンジアニリン(MDA)、パラ−アミノシクロヘキシルメタン(PACM)、イソホロンジアミン(IPDA)およびポリエーテルアミン(ジェフアミン)が挙げられる。
【0027】
本発明の考えでは、エポキシ樹脂材料の調製は、公知の専門的基盤に従って行われる。このために、第一の工程において、樹脂とアミン硬化剤とを均質に混合する。その際、アミン硬化剤は好ましくは架橋成分であり、従って、必要な化学量論組成量で使用される。使用量は大抵、選択されたアミン化合物の分子量に直接的に依存し、ひいては、それぞれ、固有のHEW値(水素等量)に依存する。これは、製造業者のデータシートで得ることができるか、またはアミンの分子量を反応性のNH官能基の数で割った商として表すことができる。補足的に、HEW値は、例えば最高ガラス転移温度の測定を介しても正確に算出される(最高Tg法)。100部のエポキシ樹脂の化学量論組成での硬化のために、HEW(アミン)とEEW(樹脂)との商を出し、そして100をかける。樹脂のEEW値(エポキシ等量)は、製造業者のデータシートから得られる。
【0028】
第二の工程において、促進剤としての、式(I)による本発明によるグアニジン誘導体の添加を行い、その際、本発明の作用のための、樹脂と、硬化剤と、促進剤と、任意のさらなる添加剤との混合物の調製の順序は束縛されない。
【0029】
それ故、さらなる態様によれば、冷間硬化エポキシ樹脂組成物の製造方法も本発明の対象である。この方法において、エポキシ樹脂組成物の製造を、供給されるまたは追加される成分の均質な完全混合によって行い、その際、該方法は以下の方法工程:
a. 分子あたり、平均して1つより多くのエポキシ基を有する少なくとも1つのエポキシ樹脂を準備する工程、
b. 温度<60℃で活性化可能な、エポキシ樹脂用の少なくとも1つのアミン硬化剤を加える工程、
c. 硬化促進剤としての、式(I)による少なくとも1つのグアニジン誘導体を加える工程
【化2】

[式中、
1=−CN、−NO2、−(C=O)−R4
2=−H、−アルキル、−ベンジル、−フェニル、−アリール、−(C=O)−R4
3=−H、−アルキル、
4=−H、−アルキル、−NH2、−NH−アルキル、−O−アルキル
であり、且つ、その際、R1=−CNについては、同時にR2=R3=−Hではない]
を含み、ただし、方法工程b)およびc)を相前後して、または同時に行う。
【0030】
この際、意外なことに、アミン硬化剤および上記の構造によるグアニジン誘導体の成分を、同時または相前後して加えて行うと、その産物が、特に素早く冷間硬化するエポキシ樹脂組成物である方法を生じることが示された。これは本発明によって使用されたグアニジン誘導体が、今までは、冷間硬化エポキシ樹脂のための潜在性硬化剤としてしか知られていなかっただけに、よりいっそう意外である。従って、当該方法を用いて、本発明によるグアニジン誘導体の使用下で、特に短い時間で固まる、冷間硬化エポキシ樹脂組成物の製造方法を提供することができる。
【0031】
該方法のさらに好ましい実施態様によれば、まずアミン硬化剤の添加を行い、そしてこの後で硬化促進剤の添加を行う。これによって、特に一様な、ひいては特に均質な完全混合を達成できる。
【0032】
追加的に熱をかけることなく行われる方法がさらに好ましい。
【0033】
さらに、本発明によれば、方法工程b)またはc)の前に、少なくとも1つの助剤および/または添加剤の添加を行い、その際、該助剤および/または添加剤は有利には反応性希釈剤、充填剤、流動添加剤、チキソトロープ剤、分散添加剤、凝結防止剤、着色剤、顔料、靭性改質剤(Zaehmodifikator)および/または防炎添加剤からの群から選択されることが予想され得る。
【0034】
その際、殊に、方法工程c)において、1,1−ジメチル−3−シアングアニジン、1−アセチル−3−シアングアニジン、1−(p−クロロフェニル)−3−シアングアニジン、ニトログアニジン、1−メチル−3−ニトログアニジン、1−エチル−3−ニトログアニジン、1−ブチル−3−ニトログアニジン、1−ベンジル−3−ニトログアニジン、ホルミルグアニジン、アセチルグアニジン、カルバモイルグアニジン、またはメトキシカルボニルグアニジンが、硬化促進剤として使用される方法が、特に素早く硬化するエポキシ樹脂をもたらすために示される。
【0035】
特に好ましい方法として、本発明によれば、硬化促進剤としての上述の且つ好ましいグアニジン誘導体の使用が見出されている方法が特筆される。
【0036】
アミン硬化剤に関して、本発明によれば、殊に、温度>10℃且つ<60℃、殊に>10℃且つ<40℃で活性化可能であるアミン硬化剤を使用できる。その際、アミン硬化剤として殊に、アルキルジアミン、アリールジアミン、アルキルポリアミン、アリールポリアミン、ポリエーテルアミンの群から選択される硬化剤であって、それぞれ、少なくとも2つの遊離アミン基を有するアミン硬化剤を使用できることが判明した。遊離アミン基として、本発明の範疇では、2つの水素原子を有するアミン基(−NH2)が示される。とりわけ特に好ましいのは、アミン硬化剤が、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、メタ−キシリレンジアミン、メチレンジアニリン、パラ−アミノシクロヘキシルメタン、イソホロンジアミンおよび/またはポリエーテルアミンの群から選択されるような方法である。
【0037】
本発明を実施するために使用される助剤は同様にほとんど限定的ではない。成分を均質に混合するための好ましい手段は、例えば溶解機またはニーダである。
【0038】
式(I)による本発明による硬化促進剤の使用量は限定されない。好ましくは、100部の樹脂に0.01ないし15部、有利には0.1ないし15部、有利には0.1ないし10部、有利には0.1ないし5部、および特に好ましくは0.5ないし1部が使用される。式(I)によるいくつかの硬化促進剤の組み合わせも本発明に含まれる。
【0039】
本発明によって使用される化合物(I)を用いたエポキシ樹脂の硬化を、通常、温度10ないし80℃で行う。硬化温度の選択は、固有の加工および製品の要求に依存し、且つ、該配合物を介して、とりわけ硬化剤量の調整によって、並びに添加剤の添加によって変化させることができる。この際、殊に、上述の冷間硬化系を、さらに熱をかけることなく、行うことができることが指摘される。該反応はこの際、自発的に開始される。しかしながら、本発明の範疇では、反応をより完全にするために、追加的に熱をかけてよい。この際、どのように樹脂配合物にエネルギーを供給するかは重要ではない。例示的には、これをオーブンまたは加熱素子による熱の形態において行うことができるが、同様に赤外線またはマイクロ波またはその他の放射線による励起を用いて行うことができる。
【0040】
理論に束縛されることなく、エポキシ樹脂のアミン硬化剤への、本発明による置換グアニジン誘導体(I)の促進作用の仕方を、式(I)を用いて明示できる。
【0041】
【化3】

【0042】
[式中、
1=−CN、−NO2、−(C=O)−R4
2=−H、−アルキル、−ベンジル、−フェニル、−アリール、−(C=O)−R4
3=−H、−アルキル、
4=−H、−アルキル、−NH2、−NH−アルキル、−O−アルキル、
であり、R1=−CNについては、同時にR2=R3=−Hではない]。
【0043】
有機塩基として、アミンは顕著な求核特性を有する。それとは対照的に、グアニジンは求電子炭素を有する。グアニジン−炭素原子へのアミン硬化剤の攻撃によって、アンモニアまたは低分子アミンのいずれかを除去しながら、相応の、攻撃するアミン硬化剤で置換されたグアニジン化合物の形成が行われる。従って、この発明の本質的な教示として、高分子アミンの置換反応によって、組成物(I)のグアニジンから低分子アミンまたはアンモニアが解放され得るという知見が引き出される。アンモニアおよび低分子アミン、例えばジメチルアミンは、エポキシ基に対して、上述の通常の市販品で使用されるアミン硬化剤よりも高い反応性を示す。つまり、グアニジン(I)は、その構造内に、他のアミンの作用によって平衡反応において解放され得るブロックされた低分子アミンを有している。これは他方で、エポキシ樹脂の硬化を、より高い反応性に基づき触媒し、ひいては促進できる。
【0044】
さらなる市販の添加剤、例えばエポキシ樹脂の硬化のために当業者に知られるものを添加することによって、本発明の配合物の硬化プロファイルを変化させることができる。従って、例えば作動温度を、添加量に依存してさらに下げることができる、または、ゲル化時間ひいては硬化時間を、有利には、技術的な基準値に、ひいては特別な顧客の要請に合わせることができる。
【0045】
未硬化のエポキシ樹脂材料の加工性を改善するための、または熱硬化性樹脂製品の熱機械特性を要求されるプロファイルに合わせるための添加剤は、例えば反応性希釈剤、充填剤、流動添加剤、例えばチキソトロープ剤または分散添加剤、凝結防止剤、着色剤、顔料、靭性改質剤または防炎添加剤を含む。
【0046】
樹脂と同様に、硬化剤、補助硬化剤、およびさらなる添加剤の物理的な形態に関しても、制限はない。殊に、微粉化された、または微粉化されていない形態での粉末形態の成分を使用できることが見出されている。また、溶剤の添加は、多くの用途において有利であり得る。溶剤についての例は、水、グリコールエーテルの種々のエステルであり、さらに、ケトン、例えばアセトン、MEK、MIBKまたは溶剤、例えばDMF等である。
【0047】
本発明による促進剤を有するエポキシ樹脂配合物は、手動と同様に自動の加工方法のために、および、特に含浸強化繊維、例えばとりわけ文献 G.W.Ehrenstein, Faserverbund−Kunststoffe, 2006, 第2版, Carl Hanser Verlag, ミュンヘン, 第5章, 148ページ以降、およびM.Reyne, Composite Solutions, 2006, JEC Publications, 第5章,51ページ以降に記載されているものの製造のために適している。プリプレグ法における使用の他に、殊に、インフュージョン法における操作は、好ましい加工形態である。この際、一般に、アミン硬化剤中と同様にエポキシ樹脂中でも、式(I)によるグアニジン誘導体の溶解性が非常に良好であることが有利であり、なぜなら、含浸プロセスのために、より低い粘性を有する流動性インフュージョン樹脂が必要だからである (とりわけM.Reyne, Composite Solutions, 2006, JEC Publications, 第5章, 65ページ; およびG.W.Ehrenstein, Faserverbund−Kunststoffe, 2006, 第2版, Carl Hanser Verlag, ミュンヘン,第5章, 166ページ参照)。
【0048】
本発明による硬化剤配合物の有利な使用特性、並びに低コストの製造、および付随して有利な費用対効果の関係に基づき、これは工業的な使用のために特によく適している。
【0049】
以下の実施例により、本発明の利点が明らかになる。
【0050】
実施例
以下の樹脂と硬化剤との成分を、本発明を具体的に示すための実施例において使用した:
エポキシ樹脂:
【表1】

【0051】
アミン硬化剤:
【表2】

【0052】
グアニジン硬化促進剤:
【表3】

【0053】
エポキシ樹脂およびアミン硬化剤の入手元、並びにグアニジン硬化促進剤の入手元および製造元:

【0054】
試料の製造
樹脂と硬化剤との配合物を準備するために、成分を上記の割合で、陶磁器製乳鉢に計量導入し、且つ、手で均質に完全混合した。この際、内容物の添加を、エポキシ樹脂が存在し、そしてまずアミン硬化剤を、並びに第二の工程においてグアニジン硬化促進剤を添加して行った。添加の後に、均質な完全混合を行った。
【0055】
ゲル化時間の調査
約700〜800mgの新たに用意された試料を、上記の温度に予め温度調節されたヒーターブロックに取り付けられたアルミニウムるつぼに計量導入した(時間計測開始)。液体樹脂に浸漬された木串を用いて、ゲル化試験を行った。安定した糸状のものが(もはや滴下なく)引き抜かれたら、この時間をゲル化時間として定義した。
【0056】
ポット試験の実施
100gの新たに用意された試料を、室温で250mlのねじ蓋ガラスに計量導入した(時間計測開始)。温度の推移を、蓋の4mmの大きさの開口部を介して試料中央に浸された熱電対を用いて、記録し、そしてデジタル方式で書き記した。最高温度に達した際に、経過時間を書き留めた。
【0057】
動的DSC測定の実施
DSCピーク温度(DSCピーク温度T)の計測のために、試料を10K/分の加熱速度で30℃から250℃へと加熱した。DSCオンセット温度(DSCオンセット温度T)を、同一の測定から、発熱反応ピークに接線を引くことによって計測した。等温反応時間の調査のために、第二の試料を試料ピックアップを用いて、上記の温度に加熱されたDSCオーブン中に導入し、且つ、この温度を40分間、一定に保った。硬化ピークの位置は、放出される発熱が最大である時点に相応し、且つ、等温反応時間として定義された。
【0058】
DSCを用いたガラス転移温度の測定(End−Tg)
到達可能な最高のガラス転移温度(End−Tg)を計測するために、ゲル時間計測からのゲル化前の試料を援用した。該試料を、200℃に加熱し(DSC温度プログラム:30℃から200℃まで、加熱速度20K/分)、且つ30分間、その温度で保持することによって、完全に硬化させた。30℃への冷却後、該試料を10K/分の加熱速度で改めて30℃から200℃へと加熱し、且つ、その熱曲線から、熱容量の変化(ΔCp)が最大となる変曲点で接線を引くことによって、Tgを計測した。
【0059】
DSCを用いた動的Tgの測定(Dyn−Tg)
End−Tgとは対照的に、動的Tgの調査のために、該試料を予め温度プログラムに供しなかった。動的Tgの計測のために、該試料を加熱速度10K/分で、−40℃から250℃へと一回だけ加熱した。熱容量の変化(ΔCp)が最大となる変曲点で接線を引くことによって評価を行った。
【0060】
EEWおよびHEWの定義および調査
エポキシド等価重量(EEW)およびH等価重量(HEW)の定義は、とりわけ、Faserverbund−Kunststoffe、G.W.Ehrenstein、2006、第2版、Carl Hanser Verlag、ミュンヘン、64ページ内にある。EEWおよびHEWは、製造業者の技術データシートにある範囲内で得られた。HEWが利用できない場合は、最高Tg法を用いて算出された。このために、種々の硬化剤量を有する、樹脂と硬化剤との配合物のEnd−Tgを計測した。最高のEnd−Tgを有する組成物から、硬化剤のHEWを逆算した。
【0061】
使用した分析装置
ゲル化時間 ヒーターブロック VLM 2.0 HT
DSC測定 DSC装置 Mettler−Toledo DSC 822
粘度 レオメータ Haake RheoStress 1
【0062】
実施例1
本発明による硬化促進剤を用いた硬化剤IPDのゲル化時間
本発明による樹脂配合物を、表1に記載された組成に応じて、冒頭部に記載された通りに作製し、そして試験した。
【0063】
【表4】

【0064】
本発明による硬化促進剤(1.2〜1.11)をアミン硬化剤IPDに添加することによって、80℃でのゲル化時間は、比較試料(1.1)に対して短縮された。
【0065】
実施例2
本発明による硬化促進剤を有するアミン硬化剤のポット試験
本発明による樹脂配合物を、表2に記載された組成に応じて、冒頭部に記載された通りに作製し、そして試験した。
【0066】
【表5】

【0067】
本発明による硬化促進剤(2.2〜2.4)をアミン硬化剤に添加することによって、比較試料(2.1)に対して、より短い時間で最高温度に達した。
【0068】
実施例3
本発明による硬化促進剤を有するアミン硬化剤のEnd−Tg
本発明による樹脂配合物を、表3に記載された組成に応じて、冒頭部に記載された通りに作製し、そして試験した。
【0069】
【表6】

【0070】
本発明による硬化促進剤(3.2、3.3)をアミン硬化剤に添加することによって、比較試料(3.1)に対してより高いEnd−Tg値が達成された。
【0071】
実施例4
60℃での本発明による硬化促進剤を有する硬化剤IPDのTg推移
本発明による樹脂配合物を、表4に記載された組成に応じて、冒頭部に記載された通りに作製し、そして試験した。
【0072】
【表7】

【0073】
本発明による硬化促進剤(4.2〜4.4)をアミン硬化剤IPDに添加することによって、60℃での硬化の推移は、比較試料(4.1)に対して促進された。殊に、初めの2時間以内で動的Tg値のより速い上昇が達成された。これに対して、到達可能な最高Tgは、ばらつきの範囲内で同一であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(I)
【化1】

[式中、
1=−CN、−NO2、−(C=O)−R4
2=−H、−アルキル、−ベンジル、−フェニル、−アリール、−(C=O)−R4
3=−H、−アルキル、
4=−H、−アルキル、−NH2、−NH−アルキル、−O−アルキル、
であり、R1=−CNについては、同時にR2=R3=−Hではない]
のグアニジン誘導体の、冷間硬化エポキシ樹脂組成物中での硬化促進剤としての使用。
【請求項2】
1,1−ジメチル−3−シアングアニジン、1−アセチル−3−シアングアニジン、1−(p−クロロフェニル)−3−シアングアニジン、ニトログアニジン、1−メチル−3−ニトログアニジン、1−エチル−3−ニトログアニジン、1−ブチル−3−ニトログアニジン、1−ベンジル−3−ニトログアニジン、ホルミルグアニジン、アセチルグアニジン、カルバモイルグアニジン、またはメトキシカルボニルグアニジンを、冷間硬化エポキシ樹脂組成物のための硬化促進剤として使用することを特徴とする、請求項1に記載のグアニジン誘導体の使用。
【請求項3】
グアニジン誘導体を、<60℃の温度で活性化可能である、エポキシ樹脂用の少なくとも1つのアミン硬化剤と共に使用することを特徴とする、請求項1または2に記載のグアニジン誘導体の使用。
【請求項4】
アミン硬化剤が、アルキルジアミン、アリールジアミン、アルキルポリアミン、アリールポリアミン、ポリエーテルアミンの群から選択され、それぞれのアミン硬化剤は、少なくとも2つの遊離アミン基を有していることを特徴とする、請求項1から3までのいずれか1項に記載のグアニジン誘導体の使用。
【請求項5】
アミン硬化剤が、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、メタ−キシリレンジアミン、メチレンジアニリン、パラ−アミノシクロヘキシルメタン、イソホロンジアミンおよびポリエーテルアミンの群から選択されることを特徴とする、請求項1から4までのいずれか1項に記載のグアニジン誘導体の使用。
【請求項6】
グアニジン誘導体を、エポキシ樹脂組成物に対して0.1〜15質量%の量で使用することを特徴とする、請求項1から5までのいずれか1項に記載のグアニジン誘導体の使用。
【請求項7】
グアニジン誘導体を、エポキシ樹脂100部に対して0.1〜15部の割合で使用することを特徴とする、請求項1から6までのいずれか1項に記載のグアニジン誘導体の使用。
【請求項8】
一般式(I)
【化2】

[式中、
1=−CN、−NO2、−(C=O)−R4
2=−H、−アルキル、−ベンジル、−フェニル、−アリール、−(C=O)−R4
3=−H、−アルキル、
4=−H、−アルキル、−NH2、−NH−アルキル、−O−アルキル、
であり、R1=−CNについては、同時にR2=R3=−Hではない]
の1つまたはそれより多くのグアニジン誘導体を、硬化促進剤として含む、冷間硬化エポキシ樹脂組成物。
【請求項9】
硬化促進剤として、1,1−ジメチル−3−シアングアニジン、1−アセチル−3−シアングアニジン、1−(p−クロロフェニル)−3−シアングアニジン、ニトログアニジン、1−メチル−3−ニトログアニジン、1−エチル−3−ニトログアニジン、1−ブチル−3−ニトログアニジン、1−ベンジル−3−ニトログアニジン、ホルミルグアニジン、アセチルグアニジン、カルバモイルグアニジン、またはメトキシカルボニルグアニジンを使用することを特徴とする、請求項8に記載の冷間硬化エポキシ樹脂組成物。
【請求項10】
前記組成物が、アミン硬化剤として、アルキルジアミン、アリールジアミン、アルキルポリアミン、アリールポリアミン、ポリエーテルアミンを含み、このアミン硬化剤がそれぞれ、少なくとも2つの遊離アミン基を有することを特徴とする、請求項8または9に記載の冷間硬化エポキシ樹脂組成物。
【請求項11】
前記組成物が、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、メタ−キシリレンジアミン、メチレンジアニリン、パラ−アミノシクロヘキシルメタン、イソホロンジアミンおよびポリエーテルアミンの群から選択される1つまたはそれより多くアミン硬化剤を含むことを特徴とする、請求項8から10までのいずれか1項に記載の冷間硬化エポキシ樹脂組成物。
【請求項12】
前記組成物が、有利には反応性希釈剤、充填剤、流動添加剤、チキソトロープ剤、分散添加剤、凝結防止剤、着色剤、顔料、靭性改質剤および/または防炎添加剤の群から選択される、1つまたはそれより多くの助剤および/または添加剤をさらに含有することを特徴とする、請求項8から11までのいずれか1項に記載の冷間硬化エポキシ樹脂組成物。
【請求項13】
均質な完全混合を用い、以下の方法工程:
a. 1分子あたり平均1つより多くのエポキシ基を有する少なくとも1つのエポキシ樹脂を準備する工程、
b. <60℃の温度で活性化可能である、エポキシ樹脂のための少なくとも1つのアミン硬化剤を加える工程、
c. 請求項1による硬化促進剤としての少なくとも1つのグアニジン誘導体を加える工程
を含み、ただし、方法工程b)およびc)を相前後して、または同時に行う、請求項8から12までのいずれか1項に記載の冷間硬化エポキシ樹脂組成物の製造方法。
【請求項14】
まずアミン硬化剤の添加を行い、その後、硬化促進剤の添加を行うことを特徴とする、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
方法工程b)またはc)の前に、少なくとも1つの助剤および/または添加剤の添加を行い、該助剤および/または添加剤は、有利には反応性希釈剤、充填剤、流動添加剤、チキソトロープ剤、分散添加剤、凝結防止剤、着色剤、顔料、靭性改質剤および/または防炎添加剤の群から選択されることを特徴とする、請求項13または14に記載の方法。
【請求項16】
前記方法を、追加的に熱をかけることなく行うことを特徴とする、請求項13から15までのいずれか1項に記載の方法。

【公表番号】特表2013−510215(P2013−510215A)
【公表日】平成25年3月21日(2013.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−537413(P2012−537413)
【出願日】平成22年11月5日(2010.11.5)
【国際出願番号】PCT/EP2010/066951
【国際公開番号】WO2011/054945
【国際公開日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【出願人】(512117801)アルツケム アクチエンゲゼルシャフト (1)
【氏名又は名称原語表記】AlzChem AG
【住所又は居所原語表記】Dr.−Albert−Frank−Str. 32, D−83308 Trostberg, Germany
【Fターム(参考)】