説明

エポキシ樹脂用硬化触媒および該触媒を含有するエポキシ樹脂組成物

【課題】 室温程度では硬化反応が進行せずに高い保存安定性を保持し、かつ室温より高い所定の温度以上では速やかに硬化し、さらに電気絶縁性および機械的強度の優れた硬化物を得ることが可能な、作業性に優れたエポキシ樹脂組成物を提供する。
【解決手段】 エポキシ樹脂と、下記化学式で表わされる化合物および少なくとも1種のアルミニウム化合物を含有する硬化触媒とを含むエポキシ樹脂組成物である。
【化1】

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、エポキシ樹脂の硬化に用いられるエポキシ樹脂用硬化触媒およびこの硬化触媒を含有するエポキシ樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
エポキシ樹脂は、電気絶縁性、機械的強度など諸特性のバランスがとれた優れた硬化樹脂であり、電気絶縁材料をはじめとして多くの分野で使用されている。このエポキシ樹脂は加熱により硬化するが、エポキシ樹脂自体は硬化速度が遅いため、通常は硬化を加速するために種々の触媒が用いられている。このような硬化触媒としては、従来、ジシアンジアミド、BF3錯体、イミダゾール誘導体等が用いられている。
【0003】
しかしながら、上記従来の触媒を用いた場合には、触媒をエポキシ樹脂と混合した直後から、たとえ室温であっても反応が徐々に進行する。すなわち、このようなエポキシ樹脂組成物は、単に保存しておくだけでも反応が進行し、硬化してしまう。そのため、エポキシ樹脂組成物の保存期間はある限られた期間に限定されてしまい、その期間内に使用してしまわなければならない。
【0004】
また、従来の触媒による硬化反応はイオン反応によって起こるため、反応後のイオン性触媒が硬化樹脂中に残存し、樹脂の電気絶縁性を大きく低下させるという問題点がある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
したがって、この発明は、樹脂組成物、特にエポキシ樹脂組成物の硬化触媒であって、室温より高い所定の温度以上では速やかに反応して樹脂を硬化させるものの、室温程度では反応が進行せず、かつ硬化後の樹脂中にイオン性物質を残存させない硬化触媒を提供することを目的とする。すなわち、この発明の実施形態にかかる硬化触媒は、室温程度での樹脂組成物の保存安定性を高めて長期間の保存を可能とし、かつ樹脂の電気絶縁性を劣化させることがない。
【0006】
また、この発明は、室温程度では硬化反応が進行せずに高い保存安定性を保持し、かつ室温より高い所定の温度以上では速やかに硬化し、さらに電気絶縁性および機械的強度の優れた硬化物を得ることが可能な、作業性に優れたエポキシ樹脂組成物を提供することをも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明の実施形態にかかるエポキシ樹脂用硬化触媒は、下記化学(A)で表わされる化合物と少なくとも1種のアルミニウム化合物を含有することを特徴とする。
【化3】

【0008】
また、この発明の実施形態にかかるエポキシ樹脂組成物は、エポキシ樹脂と、下記化学式(A)で表わされる化合物および少なくとも1種のアルミニウム化合物を含有する硬化触媒とを含むことを特徴とする。
【化4】

【発明の効果】
【0009】
この発明の実施形態にかかるエポキシ樹脂用硬化触媒は、室温程度の温度では触媒活性が現われず、熱、光等の刺激によりその活性を発現する。したがって、このエポキシ樹脂用硬化触媒は、樹脂組成物に配合することにより、樹脂組成物の室温より高い所定の温度以上での優れた硬化特性を維持すると共に、樹脂組成物に室温での高い保存安定性を付与する。すなわち、このエポキシ樹脂用硬化触媒を含有する樹脂組成物は、室温では反応が進行せずに長期に亘り安定であり、加熱や光照射により速やかに反応して硬化する。
【0010】
また、この発明の実施形態にかかるエポキシ樹脂組成物は、上記硬化触媒を含有しており、室温程度では反応が進行せずに長期に亘る保存が可能な高い保存安定性を有しており、しかも室温より高い所定の温度以上の温度では反応が速やかに進行して硬化する。さらに、硬化後にイオン性物質が残存することなく、硬化物の電気絶縁性および機械的強度に優れている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、この発明をより詳細に説明する。
【0012】
この発明の実施形態にかかるエポキシ樹脂用硬化触媒は、前記化学式(A)で表わされる化合物を含有する。かかる化合物は、化学式(A)に示されるように−O−CO−O−結合を有するので、熱分解により炭酸ガスが発生し、これが硬化物を発泡させることから硬化物の低誘電率化が期待できる。
【0013】
この発明の実施形態にかかるエポキシ樹脂用硬化触媒においては、アルミニウム化合物として特に有機アルミニウム化合物が用いられ、その具体的な例としては、例えば、トリスメトキシアルミニウム、トリスエトキシアルミニウム、トリスイソプロポキシアルミニウム、トリスフェノキシアルミニウム、トリスパラメチルフェノキシアルミニウム、イソプロポキシジエトキシアルミニウム、トリスブトキシアルミニウム、トリスアセトキシアルミニウム、トリスステアラトアルミニウム、トリスブチトアルミニウム、トリスプロピオナトアルミニウム、トリスイソプロピオナトアルミニウム、トリスアセチルアセトナトアルミニウム、トリストリフルオロアセチルアセトナトアルミニウム、トリスヘキサフルオロアセトルアセトナトアルミニウム、トリスエチルアセトアセタトアルミニウム、トリスサリチルアルデヒダトアルミニウム、トリスジエチルマロラトアルミニウム、トリスプロピルアセトアセタトアルミニウム、トリスブチルアセトアセタトアルミニウム、トリスジピバロイルメタナトアルミニウム、ジアセチルアセトナトジピバロイルメタナトアルミニウム、
【化5】

【0014】
【化6】

【0015】
を挙げることができる。
【0016】
これらの中でも、経済性もしくは硬化時間に及ぼす影響を考慮すると、トリスアセチルアセトナトアルミニウム、トリスサリチルアルデヒダトアルミニウムおよびトリスエチルアセトアセタトアルミニウムが好ましく、とりわけトリスエチルアセトアセタトアルミニウムが好ましい。
【0017】
これらのアルミニウム化合物は、単独で、もしくは任意の複数種を組み合わせて用いることができる。
【0018】
ここで、アルミニウム化合物の好ましい配合割合は、前記化学式(A)で表わされる化合物100重量部に対して10〜200重量部である。この範囲を逸脱すると、硬化後の樹脂に残存するいずれかの成分の量が多くなって硬化物の機械的強度が低下する傾向にある。
【0019】
次に、この発明の実施形態にかかるエポキシ樹脂組成物について詳細に説明する。
【0020】
この発明の実施形態にかかるエポキシ樹脂組成物は、エポキシ樹脂と、前述の硬化触媒とを含む。この発明の実施形態にかかるエポキシ樹脂組成物に用いられるエポキシ樹脂は特に限定されるものではなく、例えば、ノボラック化合物とエピクロルヒドリンとの反応生成物であるグリシジルエーテル型エポキシ樹脂、ビスフェノールAのそれぞれの水酸基のオルト位にアリル基を有するジアリルビスフェノール化合物とエピクロルヒドリンとの反応生成物であるグリシジルエーテル型エポキシ樹脂などを用いることができる。これらの化合物の中では、硬化物の柔軟性を維持するためにビスフェノールAを用いて得られたエポキシ樹脂が好ましい。さらには、分子量が300〜5000であり、エポキシ当量が150〜2500であるものが好ましい。
【0021】
また、この発明の実施形態にかかるエポキシ樹脂組成物に用いられるエポキシ樹脂として、脂環式エポキシ化合物を用いることもできる。脂環式エポキシ化合物は、環が直接エポキシ化された脂環式化合物であり、例えば、次に示す構造式で表わされるものを挙げることができる。
【化7】

【0022】
脂環式エポキシ化合物のより具体的な例としては、
【化8】

【0023】
を挙げることができ、例えば、チッソノックス221(商品名、チッソ社)などとして市販されている。脂環式エポキシ化合物のエポキシ当量に特に制限はないが、硬化速度増進の観点からはエポキシ当量は200以下であることが好ましい。
【0024】
さらに、この発明の実施形態にかかるポキシ樹脂組成物に用いられるエポキシ樹脂として、分子内にエポキシ基と不飽和二重結合を有するエポキシ化合物を用いることもできる。このエポキシ化合物におけるエポキシ基としては、例えば、次式に示す基を挙げることができる。
【化9】

【0025】
また、このエポキシ化合物における不飽和二重結合を有する基としては、例えば、次式で示される基を挙げることができる。
【化10】

【0026】
【化11】

【0027】
このエポキシ化合物の一分子中に存在する前記エポキシ基および不飽和二重結合の数は、それぞれ1以上であれば幾つであってもよいが、2〜5個の範囲にあることが好ましい。また、エポキシ基および不飽和二重結合を有する基が複数存在する場合には、それらが必ずしも同一である必要はなく、2種以上が混在していてもよい。
【0028】
なお、前記エポキシ基および不飽和二重結合を有する基は、場合により、炭素原子に結合している水素原子が、例えば、塩素原子、臭素原子、フッ素原子等のハロゲン原子または炭素数1〜12のアルキル基で置換されていてもよい。このようなアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、ドデシル基等を挙げることができる。
【0029】
前記エポキシ基および不飽和二重結合を有するエポキシ化合物は、用途に応じて任意にその構造が選択される。所望の構造を有するエポキシ化合物は、例えば、不飽和カルボン酸と通常のエポキシ化合物とを、塩化コリン等の触媒の存在下、有機溶媒中で反応させることにより得ることができる。
【0030】
ここで使用される不飽和カルボン酸としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、ケイ皮酸、マレイン酸およびこれらの誘導体を挙げることができる。また、エポキシ化合物としては、分子内に少なくとも1個のエポキシ基を有するものであればいかなるものでもよく、一官能性エポキシ化合物および多官能性エポキシ化合物のいずれであってもよい。
【0031】
前記一官能性エポキシ化合物としては、例えば、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、ブチレンオキシド、スチレンオキシド、フェニルグリシジルエーテル、ブチルグリシジルエーテルを挙げることができる。
【0032】
また、前記多官能性エポキシ化合物は、一般にエポキシ樹脂として知られているものであれば特に限定されるものではなく、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂;ビスフェノールF型エポキシ樹脂;フェノールノボラック型エポキシ樹脂;脂環式エポキシ樹脂;トリグリシジルイソシアヌレート、ヒダントインエポキシ等の含複素環エポキシ樹脂;水添ビスフェノールA型エポキシ樹脂;プロピレングリコール−ジグリシジルエーテル、ペンタエリスリトール−ポリグリシジルエーテル等の脂肪族系エポキシ樹脂;芳香族、脂肪族もしくは脂環式のカルボン酸とエピクロルヒドリンとの反応によって得られるグリシジルエステル型エポキシ樹脂;スピロ環含有エポキシ樹脂;o−アリル−フェノールノボラック化合物とエピクロルヒドリンとの反応生成物であるグリシジルエーテル型エポキシ樹脂;ビスフェノールAのそれぞれの水酸基の0−位にアリル基を有するジアリルビスフェノール化合物とエピクロルヒドリンとの反応生成物であるグリシジルエーテル型エポキシ樹脂を挙げることができる。
【0033】
前記エポキシ基および不飽和二重結合を有するエポキシ化合物の具体例としては、例えば、以下に示す化合物を挙げることができる。
【化12】

【0034】
【化13】

【0035】
【化14】

【0036】
並びに、上記式中のアクリル基:−COOCH=CH2 が、
メタクリル基:−COOC(CH3 )=CH2 に変換されている化合物。
【0037】
この発明の実施形態にかかるエポキシ樹脂組成物において、前記化学式(A)で表わされる化合物の配合量は、好ましくは、エポキシ樹脂に対して0.1ないし50重量%である。配合量が50重量%を越えると、化合物の分解により生じるフェノールが硬化後の樹脂に残存し、樹脂硬化物の特性を低下させることがある。また、配合量が0.1重量%未満である場合には、触媒として十分機能せず、硬化物の機械的強度が低下する傾向にある。
【0038】
一方、アルミニウム化合物の配合量は、エポキシ樹脂に対して、好ましくは0.1重量%ないし5重量%である。配合割合が0.1重量%未満である場合には硬化反応が遅くなり、5重量%を越えるとコストが上昇し、電気特性が劣化する傾向にある。
【0039】
この発明の実施形態にかかるエポキシ樹脂組成物においては、前記エポキシ樹脂と共に、酸無水物、フェノール類および芳香族アミン化合物を硬化剤として用いることもできる。
【0040】
硬化剤として用いることができる酸無水物の具体例としては、無水フタル酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、テトラヒドロ無水フタル酸、メチル- テトラヒドロ無水フタル酸、メチルヘキサヒドロ無水フタル酸、ナジック酸無水物、メチルナジック酸無水物、クロレンディック酸無水物、ドデシル無水コハク酸、メチル無水コハク酸、ベンゾフェノンテトラカルボン酸無水物、ピロメリット酸無水物、無水マレイン酸を挙げることができる。
【0041】
これらの酸無水物の配合量は、その当量がエポキシ樹脂の当量の0.1倍ないし1.1倍に相当する量であることが好ましい。酸無水物の当量が1.1倍を越えると、未反応の酸無水物が系中に取り残されて硬化物の特性を低下させる恐れがあり、0.1倍未満である場合には、酸無水物を添加した効果が十分に発揮されない。
【0042】
また、硬化剤として用いることができるフェノール類の具体例としては、例えば、フェノール樹脂、フェノールノボラック樹脂、クレゾールノボラック樹脂、ポリビニルフェノールを挙げることができる。
【0043】
これらフェノール類の配合量は、その当量がエポキシ樹脂の当量の0.1倍ないし1.1倍に相当する量であることが好ましい。フェノール類の当量が1.1倍を越えると、未反応のフェノール類が系中に取り残されて硬化物の特性を低下させる恐れがあり、0.1倍未満である場合には、フェノール類を添加した効果が十分に発揮されない。
【0044】
さらに、硬化剤として用いることができる芳香族アミン化合物としては、例えば、4,4’−ジアミノジシクロヘキシルメタン、1,4−ジアミノシクロヘキサン、2,6−ジアミノピリジン、m−フェニレンジアミン、p−フェニレンジアミン、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、2,2’−ビス(4−アミノフェニル)プロパン、4,4’−ジアミノジフェニルオキシド、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン、ビス(4−アミノフェニル)メチルホスフィンオキシド、ビス(4−アミノフェニル)メチルアミン、1,5−ジアミノナフタレン、m−キシリレンジアミン、1,1−ビス(p−アミノフェニル)フラタン、p−キシリレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、6,6’−ジアミノ−2,2’−ジピリジル、4,4’−ジアミノベンゾフェノン、4,4’−ジアミノアゾベンゼン、ビス(4−アミノフェニル)フェニルメタン、1,1−ビス(4−アミノフェニル)シクロヘキサン、1,1−ビス(4−アミノフェニル−3−メチルフェニル)シクロヘキサン、2,5−ビス(m−アミノフェニル)−1,3,4−オキサジアゾール、2,5−ビス(p−アミノフェニル)−1,3,4−オキサジアゾール、2,5−ビス(m−アミノフェニル)チアゾロ(4,5−d)チアゾール、5,5’−ジ(m−アミノフェニル)−2,2’−ビス(1,3,4−オキサジアゾリル)、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、4,4’−ビス(p−アミノフェニル)−2,2’−ジチアゾール、m−ビス(4−p−アミノフェニル−2−チアゾリル)ベンゼン、4,4’−ジアミノベンズアニリド、4,4’−ジアミノフェニルベンゾエート、N,N’−ビス(4−アミノベンジル)−p−フェニレンジアミン、4,4’−メチレンビス(2−クロロアニリン)、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼンを挙げることができる。
【0045】
これらの芳香族アミン化合物の配合量は、その当量がエポキシ当量の0.1倍ないし1.1倍に相当する量であることが好ましい。アミン化合物の当量が1.1倍を越えると、未反応のアミン化合物が系中に取り残されて硬化物の特性が低下する恐れがあり、0.1倍未満である場合には、アミン化合物を添加した効果が十分に発揮されない。
【0046】
この発明の実施形態にかかるエポキシ樹脂組成物には、さらに、メタクリル樹脂、アクリル樹脂などの不飽和二重結合を有する化合物を目的に応じて任意に配合することができる。また、高温での機械的強度を増加させるために、マレイミド類を配合することもできる。このようなマレイミド類としては、下記一般式
【化15】

【0047】
(式中、Xはアルキレン基、シクロアルキレン基、単環式もしくは多環式のアリレーン基のような2価の炭化水素基、または−CH2−、−CO−、−SO2−もしくは−CONH−のような2価の原子団によって結合された2価の炭化水素基である)で表わされる N,N’−置換ビスマレイミド、または下記一般式
【化16】

【0048】
(式中、nは1〜5)で表わされるポリ(フェニルメチレン)ポリマレイミドを挙げることができる。より具体的には、例えば、N,N’−フェニレンビスマレイミド、N,N’−ヘキサメチレンビスマレイミド、N,N’−ジフェニルメタンビスマレイミド、N,N’−オキシ−ジ−p−フェニレンビスマレイミド、N,N’−4,4’−ベンゾフェノンビスマレイミド、N,N’−p−ジフェニルスルホンビスマレイミド、N,N’−(3,3’−ジメチル)メチレン−ジ−p−フェニレンビスマレイミド、ポリ(フェニルメチレン)ポリマレイミド、2,2−ビス(4−フェノキシフェニル)プロパン−N,N’−ビスマレイミド、ビス(4−フェノキシフェニル)スルホン−N,N’−ビスマレイミド、1,4−ビス(4−フェノキシ)ベンゼン−N,N’−ビスマレイミド、1,3−ビス(4−フェノキシ)ベンゼン−N,N’−ビスマレイミド、1,3−ビス(3−フェノキシ)ベンゼン−N,N’−ビスマレイミドを挙げることができる。
【0049】
マレイミド類は、エポキシ樹脂に対して1〜70重量%の範囲で配合することが好ましい。配合量が70重量%を越えると、硬化物が脆くなって硬化特性が劣化する傾向にあり、1重量%未満ではマレイミドを配合した効果が十分発揮されない。
【0050】
この発明の実施形態にかかるエポキシ樹脂組成物には、目的に応じて無機充填剤を添加することもできる。用いることができる無機充填剤は、一般に樹脂と複合可能であるものであれば特に限定されず、例えば、溶融シリカ、結晶性シリカ、アルミナ、窒化ケイ素、窒化アルミニウムを挙げることができる。
【0051】
また、無機充填剤の配合割合は、樹脂組成物全体中40〜90体積%の範囲にあることが好ましい。配合割合が40体積%未満では熱膨張率が大きくなって熱応力が高くなり、90体積%を越えると樹脂組成物の流動性が低下する傾向にある。
【0052】
前述のように、この発明の実施形態にかかるエポキシ樹脂組成物は、前記化学式(A)で表わされる化合物およびアルミニウム化合物を含有する硬化触媒を含む。前記化学式(A)で表わされる化合物では、その式から明らかなように、フェノール性水酸基が保護基により保護されている。エポキシ樹脂組成物が硬化する際には、まずこのフェノール性水酸基を保護している保護基が熱や酸により分解してフェノール性水酸基を生成し、次いで、生成したフェノール性水酸基とアルミニウム化合物とが相互作用することによりエポキシ基が重合するものと推定される。したがって、室温程度では保護基が分解せずフェノール性水酸基が保護されている状態なので触媒活性は発現せず、反応は全く進行しない。そして、熱、酸などにより一旦フェノール性水酸基が生成すると反応は速やかに進行する。このため、前記硬化触媒には潜在触媒性が生じる。
【0053】
前記化学式(A)で表わされる化合物の保護基を分解してフェノール性水酸基を生成するのは、通常、加熱のみで十分である。しかしながら、この発明の実施形態にかかるエポキシ樹脂組成物においては、保護基の分解を補助する意味で、加熱もしくは光照射により酸成分を発生する少量の触媒を硬化樹脂の電気特性が低下しない程度に添加することができる。
【0054】
酸発生剤としての光照射により酸を発生する化合物としては、例えば、オニウム塩、オルトキノンジアジドスルホン酸クロリド、スルホン酸エステル類、有機ハロゲン化物を用いることができる。
【0055】
前記オニウム塩としては、例えば、CF3SO3-、p-CH3PhSO3-、p-NO2PhSO3-(Phはフェニル)等を対アニオンとするジアゾニウム塩、ホスホニウム塩、スルホニウム塩、さらには、トリアリールスルホニウム塩、ジアリールスルホニウム塩を挙げることができる。このようなオニウム塩は、光の照射に対して良好な感度を有する酸発生剤として知られており、とりわけ、オニウム塩の対アニオンが、テトラフルオロホウ酸アニオン、ヘキサフルオロアンチモン酸アニオン、ヘキサフルオロヒ素酸アニオン、トリフルオロ酢酸アニオン、トリフルオロメタンスルホン酸アニオン、トルエンスルホン酸アニオン等のルイス塩基であるオニウム塩が好ましい。具体的には、例えば、ジフェニルヨードニウム、4,4’−ジ−ブチルフェニル、トリフェニルスルホニウム、t−ブチルトリフェニルスルホニウム等のトリフルオロ酢酸塩、トリフルオロメタンスルホン酸塩およびトルエンスルホン酸塩化合物、並びにこれらのオニウム塩のフェニル基に置換基を有する化合物を挙げることができる。
【0056】
前記有機ハロゲン化物はハロゲン化水素酸を形成する化合物であり、このような化合物としては、例えば、米国特許第3515552号、同第3536489号および同第3779778号、並びに西ドイツ特許公開公報第2243621号に開示されるものを挙げることができる。
【0057】
その他、光照射により酸を発生する化合物としては、特開昭54−74728号、同55−24113号、同55−77742号、同60−3626号、同60−138539号、同56−17345号および同50−36209号に開示される化合物を使用することもできる。
【0058】
以上の光照射により酸を発生する化合物をより具体的に例示すると、ジ(パラターシャリーブチルベンゼン)ジフェニルヨードニウムトリフルオロメタンスルホネート、ベンゾイントシレート、オルトニトロベンジルパラトルエンスルホネート、トリフェニルスルホニウムトリフルオロメタンスルホネート、トリ(ターシャリーブチルフェニル)スルホニウムトリフルオロメタンスルホネート、ベンゼンジアゾニウムパラトルエンスルホネート、4−(ジ−n−プロピルアミン)−ベンゾニウムテトラフルオロボレート、4−p−トリル−メルカプト−2,5−ジエトキシ−ベンゼンジアゾニウムヘキサフルオロホスフェート、テトラフルオロボレート、ジフェニルアミン−4−ジアゾニウムサルフェート、4−メチル−6−トリクロロメチル−2−ピロン、4−(3,4,5−トリメトキシ−スチリル)−6−トリクロロメチル−2−ピロン、4−(4−メトキシ−スチリル)−6−(3,3,3−トリクロロ−プロペニル)−2−ピロン、2−トリクロロメチル−ベンズイミダゾール、2−トリブロモメチル−キノリン、2,4−ジメチル−1−トリブロモアセチル−ベンゼン、4−ジブロモアセチル−安息香酸、1,4−ビス−ジブロモメチル−ベンゼン、トリス−ジブロモメチル−s−トリアジン、2−(6−メトキシ−ナフチル−2−イル)−4,6−ビス−トリクロロメチル−s−トリアジン、2−(ナフチル−1−イル)−4,6−ビス−トリクロロメチル−s−トリアジン、2−(ナフチル−2−イル)−4,6−ビス−トリクロロメチル−s−トリアジン、2−(4−エトキシエチル−ナフチル−1−イル)−4,6−ビス−トリクロロメチル−s−トリアジン、2−(ベンゾピラニ−3−イル)−4,6−ビス−トリクロロメチル−s−トリアジン、2−(4−メトキシ−アントラシ−1−イル)−4,6−ビス−トリクロロメチル−s−トリアジン、2−(フェナンチ−9−イル)−4,6−ビス−トリクロロメチル−s−トリアジン、o−ナフトキノンジアジド−4−スルホン酸クロリドを挙げることができる。
【0059】
また、この発明の実施形態にかかるエポキシ樹脂組成物においては、前記光照射により酸を発生する化合物の他に、熱により酸を発生するスルホニウム塩やヨードニウム塩を使用することもできる。これらスルホニウム塩やヨードニウム塩は、その有機基の一つがアルキル基、アラルキル基等により置換されているものが熱によって有効に分解し、酸を発生する。
【0060】
これらの酸発生剤は、前記化学式(A)で表わされる化合物に対して10重量%以下の量で使用することが好ましい。酸発生剤の量が10重量%を越えると、硬化樹脂の電気絶縁性が低下する傾向にある。
【0061】
さらに、この発明の実施形態にかかるエポキシ樹脂組成物においては、カルボン酸、クレゾールノボラック樹脂、フェノール樹脂、チオールなどの酸性物質を添加することにより、前記化学式(A)で表わされる化合物をより低い温度で分解させることができる。また、ケイ素原子に直接結合する水酸基または加水分解性基を有する有機ケイ素化合物、あるいは光照射により酸性物質であるシラノールを発生することが可能なケイ素化合物も、前記化学式(A)で表わされる化合物の分解温度を下げるために用いることができる。
【0062】
ここで、「加水分解性基」とは、ケイ素に直接結合する残基であって、水の存在下において一定温度以上で加水分解してシラノール性水酸基(≡Si−OH)を生成する残基である。このような基としては、例えば、炭素原子数1〜5個のアルコキシル基;フェノキシ基、トリルオキシ基、パラメトキシフェノキシ基、パラニトロフェノキシ基、ベンジルオキシ基、パラクロルフェノキシ基等のアリールオキシ基;アセトキシ基、プロピオニルオキシ基、ブタノイルオキシ基、ベンゾイルオキシ基、フェニルアセトキシ基、ホルミルオキシ基等のアシロキシ基;ビニルオキシ基、アリルオキシ基等の炭素原子数2〜12個のアルケニルオキシ基;ベンジルオキシ基、フェネチルオキシ基等のアラルキルオキシ基;次式で表わされる基:
【化17】

【0063】
(式中、R’およびR”は同一であっても異なっていてもよく、炭素原子数 1〜5個のアルキル基を表わす)を挙げることができる。
【0064】
したがって、前記「ケイ素原子に直接結合する水酸基または加水分解性基を有する有機ケイ素化合物」としては、以下に説明するオルガノシランおよびオルガノシロキサンを挙げることができる。
【0065】
この発明の実施形態にかかるエポキシ樹脂組成物に好適に用いることができるオルガノシランは、下記一般式(IV)で表わすことができる。
【化18】

【0066】
(式中、Rは水酸基または前記加水分解性基を意味し、X1、X2およびX3は同一であっても異なっていてもよく、各々、炭素原子数1〜12個のアルキル基;フェニル基、トリル基、パラメトキシフェニル基、パラクロルフェニル基、パラニトロフェニル基等のアリール基;ベンジル基、フェネチル基、パラメトキシベンジル基、パラメチルベンジル基等のアラルキル基;ビニル基、アリル基、プロペニル基、ブテニル基等のアルケニル基;またはアセチル基、ベンゾイル基、トリフルオロアセチル基等のアシル基を表わし、p、qおよびrは各々0〜3の整数であって、p+q+rは3以下である)
前記オルガノシランのうち、この発明のエポキシ樹脂組成物においてより好ましいものの具体例としては、ジフェニルシランジオール、トリフェニルシラノール、ジフェニル(メチル)シラノール、フェニル(ビニル)シランジオール、トリ(パラメトキシフェニル)シラノール、トリアセチルシラノール、ジフェニル(エチル)シラノール、ジフェニル(プロピル)シラノール、トリ(パラニトロフェニル)シラノール、フェニルジビニルシラノール、2−ブテニルジフェニルシラノール、ジ(2−ペンテニル)フェニルシラノール、フェニルジプロピルシラノール、パラメチルベンジルジメチルシラノール、トリエチルシラノール、トリメチルシラノール、トリプロピルシラノール、トリブチルシラノール、トリイソブチルシラノールのようなシラノール類を挙げることができる。また、加水分解性基を有するオルガノシランの具体例としては、トリフェニル(メトキシ)シラン、ジフェニルジメトキシシラン、トリフェニル(エトキシ)シラン、ジフェニル(メチル)メトキシシラン、フェニル(ビニル)(メチル)(メトキシ)シラン、ジフェニルジエトキシシラン、トリ(パラメトキシフェニル)メトキシシラン、トリアセチル(メトキシ)シラン、ジフェニル(エチル)(エトキシ)シラン、ジフェニル(プロピル)(エトキシ)シラン、ジフェニル(メチル)(アセトキシ)シラン、ジフェニルジプロピオニルオキシシラン、ジフェニル(メチル)(トリフェニルアセトキシ)シラン、トリ(パラニトロフェニル)(メトキシ)シラン、トリアセチル(メトキシ)シラン、フェニルジビニル(プロポキシ)シラン、2−ブテニルジフェニル(メトキシ)シラン、ジ(2−ペンテニル)(フェニル)(エトキシ)シラン、フェニルジプロピル(メトキシ)シラン、トリ(パラメトキシフェニル)(エトキシ)シラン、パラメチルベンジルトリメトキシシラン、トリフルオロアセチルトリメトキシシラン、ジ(パラクロルフェニル)ジエトキシシラン、トリエチル(メトキシ)シラン、トリメチル(メトキシ)シラン、トリプロピル(メトキシ)シラン、トリブチル(エトキシ)シラン、トリイソブチル(アセトキシ)シラン、
【化19】

【0067】
を挙げることができる。
【0068】
さらに、前記例の他に、水酸基と加水分解性基との両方を有するオルガノシランも勿論用いることができる。
【0069】
この発明の実施形態にかかるエポキシ樹脂組成物に好適に用いることができるオルガノシロキサンは、下記式(V)で表わされる二官能性単位および/または下記式(VI)で表わされる三官能性単位からなる、分岐を有することもある直鎖状または環状のシロキサンであり、場合によっては下記式(VII)で表わされる四官能性単位を含んでいてもよい。さらに、このオルガノシロキサンは、シロキサン鎖が末端を有する場合には、下記式(VIII)で表わされる一官能性単位によって封じられたものであり、特に、構成単位の少なくとも1つが水酸基または加水分解性基を少なくとも1つ含む。
【化20】

【0070】
(式中、Y1、Y2、Y3、Y4、Y5およびY6は同一であっても異なっていてもよく、各々、水酸基もしくは加水分解性基;炭素原子数1〜12個のアルキル基;フェニル基、トリル基、パラメトキシフェニル基、パラクロルフェニル基、パラシアノフェニル基等のアリール基;ベンジル基、フェネチル基、パラメトキシベンジル基、パラメチルベンジル基等のアラルキル基;ビニル基、アリル基、プロペニル基、ブテニル基等のアルケニル基;アセチル基、ベンゾイル基、トリフルオロアセチル基等のアシル基を表わす)
前記オルガノシロキサンのうち、重合度が50以下で、水酸基および/または加水分解性基の当量が1000以下のものがより好ましく、さらには当量が50〜500であるものが好ましい。
【0071】
このような好ましいオルガノシロキサンの具体例としては、水酸基を有するものとして、1,3−ジヒドロキシ−1,3−ジメチル−1,3−ジフェニルジシロキサン、1,5−ジヒドロキシ−1,3,5−トリメチル−1,3,5−トリフェニルトリシロキサン、1,7−ジヒドロキシ−1,3,5,7−テトラメチル−1,3,5,7−テトラフェニルテトラシロキサン、1,3−ジヒドロキシテトラフェニルジシロキサン、1,5−ジヒドロキシヘキサフェニルトリシロキサン、1,7−ジヒドロキシオクタフェニルテトラシロキサン、1,5−ジヒドロキシ−3,3−ジメチル−1,1,5,5−テトラフェニルトリシロキサン、1,3−ジヒドロキシテトラ(ジメチルフェニル)ジシロキサン、1,5−ジヒドロキシヘキサエチルトリシロキサン、1,7−ジヒドロキシオクタプロピルテトラシロキサン、1,3,5−トリヒドロキシ−3−エチル−1,1,5,5−テトラメチルトリシロキサン、1,5−ジヒドロキシ−1,1,5,5−テトラフェニル−3,3−ジp−トリルトリシロキサン、
【化21】

【0072】
を挙げることができ、また、SH6018(トーレシリコーン(株)製:水酸基当量400、分子量1600のメチルフェニルポリシロキサン)などの商品名で入手し得るシリコーン樹脂も用いることができる。
【0073】
一般に、次の一般式:
【化22】

【0074】
で表わされるポリシロキサンも使用することができる。
【0075】
上記ケイ素原子に直接結合する水酸基または加水分解性基を有する有機ケイ素化合物は、エポキシ樹脂に対して0.1〜50重量%、好ましくは、0.5〜5重量%の範囲で配合される。配合量が0.1重量%未満である場合には、前記化学式(A)で表わされる化合物の分解温度を十分に下げることが困難になる。また、50重量%を越えて用いることも可能ではあるが、コスト高や触媒成分の分解生成物が問題となる場合があり、好ましくはない。
【0076】
この発明の実施形態にかかるエポキシ樹脂組成物に用いることができる、前記光照射によってシラノールを生ずるケイ素化合物としては、ペルオキシシラノ基、o−ニトロベンジルオキシ基、α−ケトシリル基のいずれかを有するケイ素化合物が好ましい。
【0077】
上記ペルオキシシラノ基を有するケイ素化合物は、下記一般式で表わすことができる。
【化23】

【0078】
(式中、R1、R2、R3およびR4は同じであっても異なっていてもよく、各々、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜5のアルキル基、炭素数1〜5のアルコキシ基、アリール基またはアラルキル基を表わし、l、m、nは各々0〜3の整数であり、かつ1≦l+m+n≦3である)
上記一般式において、ハロゲン原子としては、例えば、塩素および臭素原子を、炭素数1〜5のアルキル基としては、例えば、メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、イソブチル、sec−ブチル、tert−ブチル、n−ペンチル、イソペンチルおよびネオペンチル基を、炭素数1〜5のアルコキシ基としては、例えば、メトキシ、エトキシ、n−プロポキシ、n−ブトキシ、sec−ブトキシ、tert−ブトキシおよびn−ペンチルオキシ基を、アリール基としては、例えば、フェニル、ナフチルおよびアントラニル基を、アラルキル基としては、例えば、ベンジルおよびフェネチル基を、それぞれ挙げることができる。なお、これらの基は、ハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基、メトキシ基等の置換基を有していてもよい。
【0079】
ペルオキシシラノ基を有するケイ素化合物の具体的な例としては、下記式で表わされる化合物を挙げることができる。
【化24】

【0080】
【化25】

【0081】
【化26】

【0082】
前記o-ニトロベンジルオキシ基を有するケイ素化合物は、下記一般式で表わすことができる。
【化27】

【0083】
(式中、R5、R6およびR7は同一であっても異なっていてもよく、それぞれ、水素原子、ハロゲン原子、ビニル基、アリル基、炭素数1〜10の非置換もしくは置換アルキル基、炭素数1〜10のアルコキシ基、非置換もしくは置換アリール基、アリールオキシ基またはシロキシ基を表わし、R8は水素原子、炭素数1〜10の非置換もしくは置換アルキル基、フェニル基または置換フェニル基を表わし、R9、R10、R11およびR12は同一であっても異なっていてもよく、それぞれ、水素原子、ニトロ基、シアノ基、ヒドロキシル基、メルカプト基、ハロゲン原子、アセチル基、アリル基、炭素数1〜5のアルキル基、炭素数1〜5のアルコキシ基、非置換もしくは置換アリール基またはアリールオキシ基を表わし、p、qおよびrはそれぞれ0〜3の整数であって、かつ0≦p+q+r≦3である)
上記一般式において、ハロゲン原子としては、例えば、塩素原子および臭素原子を、炭素数1〜10(または炭素数1〜5)の非置換もしくは置換アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、n−ブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、クロロメチル基、クロロエチル基、フルオロメチル基およびシアノメチル基を、炭素数1〜10(または炭素数1〜5)のアルコキシ基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基およびn−ブトキシ基を、非置換もしくは置換アリール基としては、例えば、フェニル基、p−メトキシフェニル基、p−クロロフェニル基およびp−トリフルオロメチルフェニル基を、アリールオキシ基としては、例えば、フェノキシ基を、それぞれ挙げることができる。また、前記o−ニトロベンジルオキシ基を有するケイ素化合物は、o−ニトロベンジルオキシ基を末端基とし、主鎖が次式で表わされる基からなる化合物であってもよい。
【化28】

【0084】
(式中、sは1以上の整数を表わし、R5およびR6は同一であっても異なっていてもよく、それぞれ、水素原子、ハロゲン原子、ビニル基、アリル基、炭素数1〜10の非置換もしくは置換アルキル基、炭素数1〜10のアルコキシ基、非置換もしくは置換アリール基、アリールオキシ基またはシロキシ基を表わし、Xは酸素原子、アルキレン基またはアリールジイル基を表わす)
前記o−ニトロベンジルオキシ基を有するケイ素化合物の具体的な例としては、トリメチル(o−ニトロベンジルオキシ)シラン、ジメチルフェニル(o−ニトロベンジルオキシ)シラン、ジフェニルメチル(o−ニトロベンジルオキシ)シラン、トリフェニル(o−ニトロベンジルオキシ)シラン、ビニルメチルフェニル(o−ニトロベンジルオキシ)シラン、t−ブチルメチルフェニル(o−ニトロベンジルオキシ)シラン、トリエチル(o−ニトロベンジルオキシ)シラン、トリ(2−クロロエチル)−o−ニトロベンジルオキシシラン、トリ(p−トリフルオロメチルフェニル−o−ニトロベンジルオキシ)シラン、トリメチル[α−(o−ニトロフェニル)−o−ニトロベンジルオキシ]シラン、ジメチルフェニル[α−(o−ニトロフェニル)−o−ニトロベンジルオキシ]シラン、メチルフェニルジ[α−(o−ニトロフェニル)−o−ニトロベンジルオキシ]シラン、トリフェニル(α−エチル−o−ニトロベンジルオキシ)シラン、トリメチル(3−メチル−2−ニトロベンジルオキシ)シラン、ジメチルフェニル(3,4,5−トリメトキシ−2−ニトロベンジルオキシ)シラン、トリフェニル(4,5,6−トリメトキシ−2−ニトロベンジルオキシ)シラン、ジフェニルメチル(5−メチル−4−メトキシ−2−ニトロベンジルオキシ)シラン、トリフェニル(4,5−ジメチル−2−ニトロベンジルオキシ)シラン、ビニルメチルフェニル(4,5−ジクロロ−2−ニトロベンジルオキシ)シラン、トリフェニル(2,6−ジニトロベンジルオキシ)シラン、ジフェニルメチル(2,4−ジニトロベンジルオキシ)シラン、トリフェニル(3−メトキシ−2−ニトロベンジルオキシ)シラン、ビニルメチルフェニル(3,4−ジメトキシ−2−ニトロベンジルオキシ)シラン、ジメチルジ(o−ニトロベンジルオキシ)シラン、メチルフェニルジ(o−ニトロベンジルオキシ)シラン、ビニルフェニルジ(o−ニトロベンジルオキシ)シラン、t−ブチルフェニルジ(o−ニトロベンジルオキシ)シラン、ジエチルジ(o−ニトロベンジルオキシ)シラン、2−クロロエチルフェニルジ(o−ニトロベンジルオキシ)シラン、ジフェニルジ(o−ニトロベンジルオキシ)シラン、ジフェニルジ(3−メトキシ−2−ニトロベンジルオキシ)シラン、ジフェニルジ(3,4−ジメトキシ−2−ニトロベンジルオキシ)シラン、ジフェニルジ(2,6−ジニトロベンジルオキシ)シラン、ジフェニルジ(2,4−ジニトロベンジルオキシ)シラン、メチルトリ(o−ニトロベンジルオキシ)シラン、フェニルトリ(o−ニトロベンジルオキシ)シラン、p−ビス(o−ニトロベンジルオキシジメチルシリル)ベンゼン1,1,3,3−テトラフェニル−1,3−ジ(o−ニトロベンジルオキシ)ジシロキサン、1,1,3,3,5,5−ヘキサフェニル−1,5−ジ(o−ニトロベンジルオキシ)トリシロキサン、およびSiCl含有シリコーン樹脂とo−ニトロベンジルアルコールとの反応により生成するケイ素化合物を挙げることができる。
【0085】
前記α- ケトシリル基を有するケイ素化合物は、下記一般式で表わすことができる。
【化29】

【0086】
(式中、R13、R14、R15およびR16は同一であっても異なっていてもよく、各々、水素原子、ビニル基、アリル基、炭素原子数 1〜10のアルキル基、炭素原子数1〜10のアルコキシ基、アリール基またはアリールオキシ基を表わし、t、u、vはそれぞれ0〜3の整数であって、かつ1≦t+u+v≦3である)
上記一般式において、炭素数1〜10のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、n−ブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、ネオペンチル基、n−ヘキシル基、n−ヘプチル基およびn−オクチル基を、炭素数1〜10のアルコキシ基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、n−ブトキシ基、tert−ブトキシ基、n−ペンチルオキシ基、ネオペンチルオキシ基、n−ヘキシルオキシ基、n−ヘプチルオキシ基およびn−オクチルオキシ基を、アリール基としては、例えば、フェニル基およびナフチル基を、アリールオキシ基としては、例えば、フェノキシ基およびナフチルオキシ基を、それぞれ挙げることができる。なお、これらの基は、場合によってはハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基、メトキシ基等の置換基を有していてもよい。
【0087】
前記α- ケトシリル基を有するケイ素化合物のより具体的な例としては、下記式で表わされる化合物を挙げることができる。
【化30】

【0088】
上述の光照射によってシラノールを発生するケイ素化合物は、組成物中に1種もしくは2種以上が混合して用いられ、その添加配合量は、組成物中のエポキシ樹脂に対して通常0.1〜20重量%、好ましくは1〜10重量%である。配合量が0.1重量%未満である場合には、前記化学式(A)で表わされる化合物の分解温度を十分に下げることが困難になる。また、20重量%を越えて用いることは可能ではあるが、コスト高や触媒成分の分解生成物が問題となる場合があり、好ましくはない。
【0089】
この発明の実施形態にかかるエポキシ樹脂組成物においては、前記光照射により酸もしくはシラノール等の酸性物質を発生する化合物に加えて、光増感剤を用いてさらに硬化を促進することもできる。光増感剤は、前記化合物の光増感が可能なものであればいかなるものでもよく、使用する化合物の種類や光源等に応じて適宜選択される。具体的には、例えば、芳香族炭化水素およびその誘導体、ベンゾフェノンおよびその誘導体、o−ベンゾイル安息香酸エステルおよびその誘導体、アセトフェノンおよびその誘導体、ベンゾイン並びにベンゾインエーテルおよびその誘導体、キサントンおよびその誘導体、チオキサントンおよびその誘導体、ジスルフィド化合物、キノン系化合物、ハロゲン化炭化水素含有化合物並びにアミン類を光増感剤として用いることができる。
【0090】
より具体的には、芳香族炭化水素およびその誘導体の例として、ベンゼン、ベンゼン−d6、トルエン、p−キシレン、フルオロベンゼン、クロロベンゼン、ブロモベンゼン、ヨードベンゼン、ナフタレン、1−メチルナフタレン、2−メチルナフタレン、1−フルオロナフタレン、1−クロロナフタレン、2−クロロナフタレン、1−ブロモナフタレン、2−ブロモナフタレン、1−ヨードナフタレン、2−ヨードナフタレン、1−ナフトール、2−ナフトール、ビフェニル、フルオレン、p−テルフェニル、アセナフテン、p−クアテルフェニル、トリフェニレン、フェナントレン、アズレン、フルオランテン、クリセン、ピレン、1,2−ベンズピレン、アントラセン、1,2−ベンズアントラセン、9,10−ジクロロアントラセン、9,10−ジブロモアントラセン、9,10−ジフェニルアントラセン、ペリレン、テトラセンおよびペンタセンを挙げることができる。
【0091】
ベンゾフェノンおよびその誘導体の例としては、ベンゾフェノン、2,4−ジメチルベンゾフェノン、2,4−ジクロロベンゾフェノンおよび4,4’−ビス(ジメチルアミノ)ベンゾフェノンを挙げることができる。
【0092】
o−ベンゾイル安息香酸エステルおよびその誘導体の例としては、o−ベンゾイル安息香酸メチルエステル、o−ベンゾイル安息香酸エチルエステル、o−ベンゾイル安息香酸フェニルエステルおよび下記式で表わされる化合物を挙げることができる。
【化31】

【0093】
アセトフェノンおよびその誘導体の例としては、アセトフェノン、4−メチルアセトフェノン、3−メチルアセトフェノンおよび3−メトキシアセトフェノンを挙げることができる。
【0094】
ベンゾイン並びにベンゾインエーテルおよびその誘導体の例としては、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾインn−ブチルエーテル、ベンゾイントリフェニルシリルエーテルおよび
【化32】

【0095】
を挙げることができる。
【0096】
キサントンおよびその誘導体の例としては、キサントン、2,4−ジメチルキサントンおよび2,4−ジクロロキサントンを挙げることができる。
【0097】
チオキサントンおよびその誘導体の例としては、チオキサントン、2,4−ジメチルチオキサントンおよび2,4−ジクロロチオキサントンを挙げることができる。
【0098】
ジスルフィド化合物の例としては、下記式で表わされる化合物を挙げることができる。
【化33】

【0099】
(ここで、Etはエチル基を表わし、以下、同様に略記する)
キノン系化合物の例としては、ベンゾキノン、ナフトキノン、アントラキノン、5,12−ナフタセンジオンおよび2,7−ピレンジオンを挙げることができる。
【0100】
ハロゲン化炭化水素含有化合物の例としては、四塩化炭素、ヘキサクロロエタン、四臭化炭素および下記式で表わされる化合物を挙げることができる。
【化34】

【0101】
【化35】

【0102】
アミン類の例としては、ジフェニルアミン、カルバゾール、トリフェニルアミンおよび下記式で表わされる化合物を挙げることができる。
【化36】

【0103】
さらに、上記以外の光増感剤の具体例として、プロピオフェノン、アントロン、ベンズアルデヒド、ブチロフェノン、2−ナフチルフェニルケトン、2−ナフトアルデヒド、2−アセトナフトン、1−ナフチルフェニルケトン、1−アセトナフトン、1−ナフトアルデヒド、フルオレノン、1−フェニル−1,2−プロパンジオン、ベンズニトリル、アセトン、ビアセチル、アクリジンオレンジ、アクリジン、ローダミンB、エオシン、フルオレセインおよび下記式で表わされる化合物を挙げることができる。
【化37】

【0104】
これらの光増感剤は、1種もしくは2種以上で使用することが可能であり、その配合量は、エポキシ樹脂に対して、通常0.001〜10重量%、好ましくは0.01〜5重量%である。配合量が0.001重量%未満である場合には、光増感剤を添加した効果が十分に発揮されず、10重量%を越えると硬化物の機械的強度が低下する傾向にある。
【0105】
この発明の実施形態にかかるエポキシ樹脂組成物が、前記光照射により酸や酸性物質を発生する化合物あるいは光増感剤など、光の照射により硬化を促進する化合物を含有する場合には、樹脂組成物を硬化する際に光を照射する。この光の波長は含有される化合物や組成物の組成によって異なるが、通常180〜700nmであり、とりわけ紫外線は有効である。
【0106】
また、光源としては、通常光硬化用に使用されているものであればいかなるものでもよく、例えば、低圧水銀ランプ、高圧水銀ランプ、カーボンアークランプ、メタルハロゲンランプ、キセノン−水銀ランプ、キセノンランプ、水素放電管、タングステンランプ、ハロゲンランプ、ナトリウム放電管、ネオン放電管、アルゴン放電管、He−Neレーザー、Arイオンレーザー、N2レーザー、Cdイオンレーザー、He−Cdレーザーおよび色素レーザーを挙げることができる。硬化の際には、これらの光源からなる群より選ばれる1種もしくは2種以上が適宜使用される。
【0107】
この発明の実施形態にかかる硬化触媒は、通常100ないし250℃で活性化する。したがって、この硬化触媒を含有するこの発明の実施形態にかかるエポキシ樹脂組成物の硬化は、上記温度範囲で数分から数時間かけて行なわれる。
【0108】
(実施例)
シェル石油化学社製エポキシ樹脂Ep828 100g、トリス(エチルアセトアセタト)アルミニウム1g、および下記化学式(A)で表わされる化合物3gを混合して溶解した。次いで、各々の溶液をTg測定用の金型に流し込み、それぞれ100℃で30分間、140℃で1時間および160℃で5時間の条件で硬化させてガラス転移点(Tg)を測定した。
【化38】

【0109】
その結果、得られた硬化物のTgは125℃であった。得られた組成物を1か月間室温で保存したところ、粘度上昇は認められなかった。
【0110】
次に、比較例として、前記化学式(A)で表わされる化合物の代わりに下記化合物を用いて同様に硬化物を作製し、Tgを測定した。
【化39】

【0111】
その結果、Tgは105℃であった。
【0112】
以上の結果から明らかなように、この発明の実施形態にかかる硬化触媒を用いることにより、エポキシ樹脂組成物のTgを高めることが可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記化学(A)で表わされる化合物と少なくとも1種のアルミニウム化合物を含有する硬化触媒とを含むエポキシ樹脂用硬化触媒。
【化1】

【請求項2】
エポキシ樹脂と、下記化学式(A)で表わされる化合物および少なくとも1種のアルミニウム化合物を含有する硬化触媒とを含むエポキシ樹脂組成物。
【化2】

【請求項3】
アルミニウム化合物が有機アルミニウム化合物である請求項2記載のエポキシ樹脂組成物。
【請求項4】
加熱もしくは光照射により酸を発生する酸発生剤をさらに含有する請求項2記載のエポキシ樹脂組成物。
【請求項5】
酸無水物、フェノール類および芳香族アミン化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種の硬化剤をさらに含有する請求項2記載のエポキシ樹脂組成物。

【公開番号】特開2006−22342(P2006−22342A)
【公開日】平成18年1月26日(2006.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−285243(P2005−285243)
【出願日】平成17年9月29日(2005.9.29)
【分割の表示】特願平7−226744の分割
【原出願日】平成7年9月4日(1995.9.4)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】