説明

エポキシ樹脂組成物および繊維強化複合材料の製造方法

【課題】成形性に優れ、フィラメントワインディング法と引き抜き成形法のいずれにも使用可能なエポキシ樹脂組成物およびそれを用いて高温での機械特性に優れた繊維強化複合材料を提供する。
【解決手段】環状脂肪族エポキシ化合物およびトリグリシジルアミノフェノールから選ばれる化合物を含むエポキシ樹脂(A)、ナジック酸類無水物および一分子中に酸無水物基を2個以上有する多価酸無水物、からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物を含むエポキシ樹脂硬化剤(B)、イミダゾール誘導体を含む硬化促進剤(C)を含み、50℃における粘度が50〜500mPa・sであることを特徴とする繊維強化複合材料成形用液状エポキシ樹脂組成物。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、航空・宇宙分野、輸送機器・産業機械分野、土木・建築分野、スポーツ・レジャー分野などで広く使用できるエポキシ樹脂組成物、繊維強化複合材料に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ガラス繊維、炭素繊維およびアラミド繊維などの強化繊維と、不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、シアネート樹脂およびビスマレイミド樹脂等のマトリックス樹脂からなる繊維強化複合材料は、軽量でありながら、強度や剛性など機械物性に優れるため、航空・宇宙分野、輸送機器・産業機械分野、土木・建築分野、スポーツ・レジャー分野などで広く応用されてきた。この中で、繊維強化複合材料用のマトリックス樹脂としては、優れた耐熱性、弾性率および耐薬品性を有し、かつ硬化収縮が小さいエポキシ樹脂が最もよく用いられている。
【0003】
また、繊維強化複合材料の製造には、プリプレグ法、ハンドレイアップ法、フィラメントワイディング法、引き抜き成形法、RTM法(レジン・トランスファー・モールディング法)などの各種方式が適用される。この中で、フィラメントワインディング法や引き抜き成形法は、製造できる形状には制限があるものの、比較的低コストで大量に繊維強化複合材料を製造できる方法として有益である。
【0004】
従来から、フィラメントワインディング法や引き抜き成形法に用いられるエポキシ樹脂としては低粘度の液状エポキシ樹脂を酸無水物硬化剤やアミン系硬化剤で硬化させる例が多く、近年の各適用分野の耐熱性向上要求に応えるべく、多官能エポキシ樹脂や芳香族アミン硬化剤を用いた樹脂が検討されているが、耐熱性と成形性の両立が困難であり、また、フィラメントワインディング法と引き抜き成形法の両方に使用できる樹脂ではなかった。(例えば、特許文献1、特許文献2)
【特許文献1】特許第3531845号
【特許文献2】特開平5−117412号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、成形性に優れ、フィラメントワインディング法と引き抜き成形法のいずれにも使用可能なエポキシ樹脂組成物およびそれを用いて高温での機械特性に優れた繊維強化複合材料を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明はかかる課題を解決するために、次のような手段を採用する。
すなわち、
(1)(A)環状脂肪族エポキシ化合物およびトリグリシジルアミノフェノールから選ばれる化合物を含むエポキシ樹脂、(B)ナジック酸類無水物および一分子中に酸無水物基を2個以上有する多価酸無水物、からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物を含むエポキシ樹脂硬化剤、(C)イミダゾール誘導体を含む硬化促進剤を含んでなり、50℃における粘度が50mPa・s以上で、500mPa・s以下であることを特徴とする繊維強化複合材料成形用液状エポキシ樹脂組成物。
(2)引き揃えた強化繊維束を、前記(1)に記載の繊維強化複合材料成形用液状エポキシ樹脂組成物の含浸槽に連続的に通して、繊維束に前記液状エポキシ樹脂組成物を含浸させ、マンドレルに巻き付けた後、マンドレル上で樹脂を硬化させ、その後マンドレルを抜き取る繊維強化複合材料の製造方法。
(3)引き揃えた強化繊維束を、前記(1)に記載の繊維強化複合材料成形用液状エポキシ樹脂組成物の含浸槽に連続的に通し、スクイーズダイ及び、加熱金型を通して引張機によって連続的に引き抜き成形しつつ硬化させる工程を有する繊維強化複合材料の製造方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、成形性に優れ、フィラメントワインディング法と引き抜き成形法のいずれにも使用可能なエポキシ樹脂組成物およびそれを用いた高温での機械特性に優れた繊維強化複合材料が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明のエポキシ樹脂組成物は、(A)環状脂肪族エポキシ化合物およびトリグリシジルアミノフェノールから選ばれる化合物を含むエポキシ樹脂、(B)ナジック酸類無水物および一分子中に酸無水物基を2個以上有する多価酸無水物、からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物を含むエポキシ樹脂硬化剤、(C)イミダゾール誘導体を含む硬化促進剤を含んでなり、50℃における粘度が50mPa・s以上で、500mPa・s以下であることを特徴とする繊維強化複合材料用液状エポキシ樹脂組成物である。
【0009】
本発明における構成要素(A)は、環状脂肪族エポキシ化合物およびトリグリシジルアミノフェノールから選ばれる化合物を含むエポキシ樹脂である。これら、環状脂肪族エポキシ化合物およびトリグリシジルアミノフェノールから選ばれる化合物を用いることで、低粘度で成形性に優れ、耐熱性の高い硬化物が得られる。
【0010】
本発明における構成要素(A)は、環状脂肪族エポキシ化合物およびトリグリシジルアミノフェノールから選ばれる化合物を含んでいれば、その量の多少は問わないが、エポキシ樹脂中に15重量%以上含まれることが好ましく、25重量%以上含まれることがさらに好ましい。含有量の増加すれば耐熱性を一段と向上できることから好ましい。
【0011】
ここで、環状脂肪族エポキシ化合物とは、1,2−エポキシシクロアルカンを部分構造として有するエポキシ樹脂を意味する。具体例としては、ビニルシクロヘキサンジエポキシド(ダウケミカル(株)社製ERL−4206)、3,4−エポキシシクロヘキシルメチル−3,4−エポキシ−シクロヘキサンカルボキシレート(ダイセル化学工業(株)社製“セロキサイド”(登録商標)2021P)、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル−5,5−スピロ−3,4−エポキシ)シクロヘキサン−m−ジオキサン(ダウケミカル(株)社製ERL−4234)、ビス(3,4−エポキシシクロヘキシル)アジペート(ダウケミカル(株)社製ERL−4299)などがあげられるが、これらに限定されるものではない。
【0012】
また、トリグリシジルアミノフェノールとしては、トリグリシジル−p−アミノフェノール(ジャパンエポキシレジン(株)社製“jER”(登録商標)630)、トリグリシジル−m−アミノフェノール(ハンツマン・アドバンスト・マテリアルズ(株)社製“アラルダイト”(登録商標)MY0600)などがあげられるが、これらに限定される物ではない。
【0013】
また、本発明における構成成分(A)には、上述以外のエポキシ樹脂を配合してもかまわない。具体的には、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、ジグリシジルアニリン類、テトラグリシジルジアミノジフェニルメタン、テトラグリシジル−m−キシレンジアミンなどのグリシジルアミン型エポキシ樹脂などが使用できるが、これらに限定されるものではない。
【0014】
本発明における構成要素(B)は、ナジック酸類無水物および一分子中に酸無水物基を2個以上有する多価酸無水物、からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物を含むエポキシ樹脂硬化剤である。これら、ナジック酸類無水物および一分子中に酸無水物基を2個以上有する多価酸無水物、からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物を用いることで、低粘度で成形性に優れ、耐熱性の高い硬化物が得られる。
【0015】
本発明における構成要素(B)は、ナジック酸類無水物および一分子中に酸無水物基を2個以上有する多価酸無水物、からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物を含んでいれば、その量の多少は問わないが、エポキシ樹脂硬化剤中に15重量%以上含まれることが好ましく、25重量%以上含まれることがさらに好ましい。含有量の増加は耐熱性を一段と向上できる。
【0016】
ここで、ナジック酸類無水物とは、ノルボルネンまたはノルボルナンを部分構造として有する酸無水物を意味する。具体例としてはナジック酸無水物(日本化薬社製“カヤハード”(登録商標)CD)、メチルナジック酸無水物(日本化薬社製“カヤハード”(登録商標)MCD)、ノルボルナン−2,3−ジカルボン酸無水物、メチルノルボルナン−2,3−ジカルボン酸無水物などがあげられるが、これらに限定されるものではない。
【0017】
また、一分子中に酸無水物基を2個以上有する多価酸無水物から選ばれる化合物の具体例としては、ピロメリット酸二無水物、ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、グリセロールビス(アンヒドロトリメリテート)モノアセテート、エチレングリコールビス(アンヒドロトリメリテート)、ブタンテトラカルボン酸二無水物などがあげられるが、これらに限定されるものではない。
【0018】
また、本発明における構成成分(B)には、上述以外のエポキシ樹脂硬化剤を配合してもかまわない。配合できる硬化剤としてはアミン系硬化剤、フェノール系硬化剤、酸無水物系硬化剤などエポキシ樹脂を硬化させる化合物であれば種類を問わないが、硬化反応の制御の容易さから酸無水物系硬化剤が好ましい。具体的には、無水フタル酸、無水コハク酸、無水マレイン酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、テトラヒドロ無水フタル酸、メチルヘキサヒドロ無水フタル酸、メチルテトラヒドロ無水フタル酸などがあげられるが、これらに限定されるものではない。
【0019】
本発明における構成要素(C)は、イミダゾール誘導体を含む硬化促進剤である。これら、イミダゾール誘導体を用いることで、硬化性と粘度の安定性のバランスが取れ、優れた耐熱性と成形性が得られる。
【0020】
ここで、イミダゾール誘導体とは、分子中にイミダゾール環を有する化合物を意味する。具体的には、イミダゾール、2−メチルイミダゾール、2−エチルイミダゾール、2−ウンデシルイミダゾール、2−ヘプタデシルイミダゾール、2−フェニルイミダゾール、1,2−ジメチルイミダゾール、2−エチル−4−メチルイミダゾール、2−フェニル−4−メチルイミダゾール、1−ベンジル−2−フェニルイミダゾール、1−ベンジル−2−メチルイミダゾール、1−シアノエチル−2−メチルイミダゾール、1−アミノエチル−2−メチルイミダゾールなどがあげられるが、これらに限定されるものではない。また、イミダゾール誘導体の中では、一位に置換基を有するイミダゾール誘導体が、粘度の安定性に優れ、特に好ましく使用され、1−ベンジル−2−フェニルイミダゾール、1−ベンジル−2−メチルイミダゾール、1−シアノエチル−2−メチルイミダゾール、1−アミノエチル−2−メチルイミダゾールなどが好ましい。
【0021】
本発明における構成要素(C)の配合量は、構成要素(A)100重量部に対して通常0.1〜10重量部、好ましくは0.2〜5重量部の範囲内である。0.1重量部より少ないと硬化が不十分となることがあり、10重量部より多いとポットライフが低下したり、機械特性が低下する場合がある。
【0022】
また、本発明のエポキシ樹脂組成物は、前記成要素以外の添加剤に、界面活性剤、内部離型剤、色素、難燃剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤等を含むこともできる。
【0023】
本発明におけるエポキシ樹脂組成物は、50℃における粘度が50mPa・s以上で、500mPa・s以下であることがフィラメントワインディング法と引き抜き成形法のいずれにも使用可能とするために必要である。粘度が50mPa・sより低いと成形時に強化繊維束に樹脂が十分に保持されず、粘度が500mPa・sより高いと成形時に強化繊維束に樹脂が十分に含浸されず、いずれも機械特性が低下する。
【0024】
本発明におけるエポキシ樹脂組成物の粘度は、ISO 2884−1における円錐−平板型回転粘度計を使用した測定方法に従い求める。
【0025】
本発明における繊維強化複合材料に使用される強化繊維としては、ガラス繊維、アラミド繊維、炭素繊維、ボロン繊維、バサルト繊維、チラノ繊維、PBO繊維等が好ましいが、特に強度、弾性率に優れていることから炭素繊維を使用するのが好ましい。炭素繊維としては、PAN系、ピッチ系を問わず用いることができ、JIS R 7601(1986)に記載の方法によるストランド引張試験における引張弾性率が150GPa以上、950GPa以下の物が好ましく使用できる。
【0026】
本発明の繊維強化複合材料成形用液状エポキシ樹脂組成物は、粘度がフィラメントワインディング成形法において繊維束に対する含浸性に優れた領域にあり、その経時変化も小さいので、一般的なフィラメントワインディング成形法を用い、成形後に加熱硬化させて、繊維強化複合材料とする成形方法に好ましく用いることができる。
【0027】
一般的なフィラメントワインディング成形法としては、まず、強化繊維束を引き揃え、これをエポキシ樹脂組成物の含浸槽に連続的に通して、繊維束に樹脂を含浸させ、マンドレルにその軸方向に対して種々の角度で螺旋状に巻き付ける。次に、表面を表層材などで巻締め、余剰の樹脂を絞り出した後、硬化炉等を用いてマンドレル上で樹脂を硬化させ、マンドレルから成形品を抜き取って繊維強化複合材料を得る。
【0028】
ここで含浸槽は、10〜80℃に保たれていることが好ましい。より好ましくは、20〜60℃である。含浸槽の温度が80℃以上では、エポキシ樹脂組成物の粘度安定性が悪くなることがある。また、含浸槽の温度が10℃以下では、繊維への含浸が悪くなることがある。
【0029】
なお、前記はフィラメントワインディング法の一例を示したものであり、これに限定されるものではない。
【0030】
ここで、得られた繊維強化複合材料のWfは、JIS K7075(1991)に記載の燃焼法に基づいて、燃焼前後の重量を測定することにより求めることができる。
【0031】
本発明のフィラメントワインディング成形法で成形される繊維強化複合材料は、軽量であり、強度や弾性率などの機械特性が優れ、かつ、耐熱性にも優れるため、自動車用プロペラシャフト、CNGタンク、フライホイールをはじめとした各種産業機械部品やゴルフシャフト、釣り竿などスポーツ・レジャー製品に好適である。
【0032】
本発明の繊維強化複合材料成形用液状エポキシ樹脂組成物は、粘度が引き抜き成形法において繊維束に対する含浸性に優れた領域にあり、その経時変化も小さいので、一般的な引き抜き成形法を行い、引き抜き成形と平行して、または引き抜き成形後に加熱硬化させて、繊維強化複合材料とする成形方法に好ましく用いることができる。
【0033】
一般的な引き抜き成形法としては、強化繊維をエポキシ樹脂組成物の含浸槽に連続的に通し、スクイーズダイ及び、加熱金型を通して引張機によって連続的に引き抜き成形しつつ硬化させる。さらに、アフターキュアオーブン内にて硬化させ、繊維強化複合材料を得る。なお前記は引き抜き成形法の一例を示したものであり、これに限定されるものではない。
【0034】
含浸槽は、10〜80℃に保たれていることが好ましい。より好ましくは、20〜60℃である。含浸槽の温度が80℃以上では、エポキシ樹脂組成物の粘度安定性が悪くなることがある。また、含浸槽の温度が10℃以下では、繊維への含浸が悪くなることがある。
【0035】
金型の温度は100〜250℃であることが好ましい。より好ましくは120〜220℃である。100℃以下では金型内での硬化不良を起こすことがあり、250℃以上ではエポキシ樹脂組成物の分解反応が起こることがある。
【0036】
金型内の滞留時間としては、30秒から5分であることが好ましい、滞留時間が30秒以下では金型内での硬化が不十分であり、外観が悪くなることがある。また、5分以上であると金型内で完全に硬化し、引き抜けなくなることがある。
【0037】
耐熱性を向上させたり、エポキシ基の反応を完結させるために、アフターキュアを行っても良い。アフターキュアは、金型を通過後、アフターキュアオーブンを設置して、オンラインでキュアしても良いし、巻き取り後、オーブンに入れてキュアしてもよい。アフターキュアの温度は、耐熱性や物性の観点から130〜220℃であることが好ましい。より好ましくは、140〜200℃である。130℃以下であると、樹脂のガラス転移温度を超えないため反応が進みにくくなることがあり、アフターキュアの時間がかかり生産性が落ちることがある。一方、220℃以上であると、熱により変形したりすることがある。アフターキュア時間は、キュア温度にもよるが、5分から10時間であることが好ましい。5分よりも短いと十分に反応が完結しないことがあり、10時間よりも長いと、生産性が悪くなる。
【0038】
本発明の引き抜き成形品の炭素繊維の重量含有率(Wf)は、軽量かつ高強度・高弾性率な特徴を十分に引き出すために50〜90%であることが好ましい。さらに好ましくは60〜85%である。50%以下であると、本発明の軽量かつ高強度・高弾性率の特徴が得にくく、90%以上であると、樹脂の強化繊維束への含浸が不十分になり内部にボイドが発生することがある。
【0039】
ここで、得られた繊維強化複合材料のWfは、JIS K7075(1991)に記載の燃焼法に基づいて、燃焼前後の重量を測定することにより求めることができる。
【0040】
引き抜き成形法で成形される炭素繊維強化複合材料は、軽量であり、強度や弾性率などの機械特性が優れ、かつ、耐熱性にも優れるため、土木・建築用の補強材や産業機械の部品などに好適である。
【実施例】
【0041】
以下に、本発明を実施例によって説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
<樹脂原料>
・エポキシ樹脂
“セロキサイド”(登録商標)2021P:3,4−エポキシシクロヘキシルメチル−3,4−エポキシ−シクロヘキサンカルボキシレート、ダイセル化学工業(株)製
ERL4299:ビス(3,4−エポキシシクロヘキシル)アジペート、ダウケミカル(株)製
“jER”(登録商標)630:トリグリシジル−p−アミノフェノール、ジャパンエポキシレジン(株)製
“jER”(登録商標)828:ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ジャパンエポキシレジン(株)製
・酸無水物硬化剤
“カヤハード”(登録商標)MCD:メチルナジック酸無水物、日本化薬(株)製
“リカシッド”(登録商標)MTA−15:グリセロールビスアンヒドロトリメリテート/“リカシッド”(登録商標)MH700=33/67(重量比)の混合物、新日本理化(株)製
ピロメリット酸二無水物:シグマ・アルドリッチ・ジャパン(株)製
“リカシッド”(登録商標)MH700:メチルヘキサヒドロ無水フタル酸/ヘキサヒドロ無水フタル酸=70/30(重量比)の混合物、新日本理化(株)製
・硬化促進剤
“jERキュア”(登録商標)EMI24:2−エチル−4−メチルイミダゾール、ジャパンエポキシレジン(株)製
“jERキュア”(登録商標)BMI12:1−ベンジル−2−メチルイミダゾール、ジャパンエポキシレジン(株)製
TPP:トリフェニルホスフィン、北興化学工業(株)製
<強化繊維>
“トレカ”(登録商標)T700SC−24K:炭素繊維、東レ(株)製。
【0042】
(1)樹脂組成物の調製
表1に示す硬化剤に硬化促進剤を添加し、50℃に加温して溶解させた。次に、この溶液を50℃に保持し、さらに、50℃に加温したエポキシ樹脂を加えて、エポキシ樹脂組成物を調製した。
【0043】
(2)樹脂組成物の粘度測定
ISO 2884−1における円錐−平板型回転粘度計を使用した測定方法に従い、エポキシ樹脂組成物を調整し、調整直後と50℃の恒温装置内に調整後4時間放置した粘度をそれぞれ50℃にて測定した。装置は東機産業(株)製のTVE−30H型を用いた。ここで、ローターは1°34′×R24を用い、サンプル量は1cmとした。
【0044】
(3)フィラメントワインディング成形品(プロペラシャフト)の作製
図1および図2を参照しながら説明する。東レ株式会社製炭素繊維“トレカ(登録商標)”T700SC−24Kを3本引き揃え、(1)で調製した樹脂組成物を50℃に温調して含浸槽で含浸させながら、フィラメントワインディング法によって、φ70mmのマンドレルにその軸方向に対し内層に85°の螺旋巻き層2a0.2mmを形成した後、主層2bとして±12°で厚さ1mmを螺旋巻きした後、±45°にて厚さ0.5mm、更に±12°で厚さ1mmの螺旋巻きした後、最外層を85°の螺旋巻き層2c0.2mmを実施した。主層は合計2.9mmで構成される。なお、継手の装着部となる、本体筒の両端部の110mmの長さに相当する部分には、継手との接合強度を向上させるために、軸方向に対し±83°で構成される厚みが2.5mmからなる補強層2dを形成した。補強層2dは、厚さ2.5mm、軸方向長さ60mmのストレート部および軸中央方向に向かった長さ50mmのテーパー部にて形成されている。
【0045】
その後、硬化炉にて硬化を実施した。硬化温度は100℃×2hr+200℃×4hrにて実施しFRP製円筒体2を得た。
【0046】
(4)フィラメントワインディング成形品のガラス転移温度
成形品硬化物のガラス転移温度の測定は、示差熱量計(DSC)を用いて、JIS K7121(1987)に基づいてもとめた中間点温度をガラス転移温度とした。
【0047】
(5)フィラメントワインディング成形品のねじり強度測定
図1および図2を参照しながら説明する。FRP製円筒体2の両端部に、接合される金属製継手3はセレーション部3aを有する。セレーションは、ピッチ約2mm、歯高さ0.9mm、先端R0.04mm、歯先角90度のセレーションを用い、外径は74.45mmに加工した。従って直径で0.40mmの圧入代を有している。この金属製継手3をFRP製円筒体2と圧入接合し、プロペラシャフト1とした後、ねじり試験機にかけて評価した。
図5は、ねじり試験の概要を示す。両端にねじり試験用継ぎ手4a、4bが圧入されたねじり試験用FRP本体筒4はねじり試験機のフランジ部に固定される。このとき、一方の可動部フランジ5aは油圧による回転駆動部を有しており試験体へのトルク負荷が可能となる。他方の固定部フランジ5bは試験器ベースに固定され、フランジ部に連結されたロードセル5cからトルクを検出することができる。また、本発明では試験温度が重要であることから、図5に示す恒温槽6を用い所定の温度に調節・保持後、ねじり試験を実施した。雰囲気温度は図中6aの温度計より検出した。ねじり試験時の試験速度、温度設定は図中8にしめす制御装置により設定される。
【0048】
(6)フィラメントワインディング成形品のボイド観察
成形品を切断し、断面を耐水ペーパー#240、400、800で適宜研磨後、デジタル顕微鏡(CCD)で50倍の倍率で撮影した。撮影した断面の正常部とボイド(空隙部)の面積率を測定し、ボイド率が1%未満の物を◎、1〜3%の物を○、3〜5%の物を△、5%を超える物を×と判定した。
【0049】
(7)引き抜き成形品の作製
(1)で調製した樹脂組成物を、25℃の含浸槽に2時間滞留させた。この樹脂組成物の入った含浸槽に強化繊維として東レ株式会社製炭素繊維“トレカ(登録商標)”T700SC−24Kを112本ひき通して樹脂を含浸させ、次いでこれを型材に挿通し、170℃で2分加熱硬化させ、150℃で15分でアフターキュアを行い、幅100mm、厚み1.4mmの繊維強化複合材料を得た。
【0050】
(8)引き抜き成形品のガラス転移温度
成形品硬化物のガラス転移温度の測定は、示差熱量計(DSC)を用いて、JIS K7121(1987)に基づいてもとめた中間点温度をガラス転移温度とした。
【0051】
(9)引き抜き成形品の引っ張り強度測定
(7)で作製した成形品から繊維方向に長さ200mm、幅12.5mmの試験片を切り出し、JIS K7073(1988)に準拠して、恒温槽を用い、150℃に調温した後、クロスヘッドスピード1mm/分で引っ張り試験を行い引っ張り強度を算出した。引っ張り強度はWf(繊維重量含有率)80%に規格化した。
【0052】
(10)引き抜き成形品のボイド観察
成形品を切断し、断面を耐水ペーパー#240、400、800で適宜研磨後、デジタル顕微鏡(CCD)で50倍の倍率で撮影した。撮影した断面の正常部とボイド(空隙部)の面積率を測定し、ボイド率が1%未満の物を◎、1〜3%の物を○、3〜5%の物を△、5%を超える物を×と判定した。
【0053】
(11)引き抜き成形品の繊維重量含有率
上記(5)の方法で作成した炭素繊維強化複合材料を、JIS K7075(1991)に記載の燃焼法を用いて、燃焼前後の重量を測定することにより重量含有率を求めた。
【0054】
実施例1〜7と比較例1〜3との比較により、本発明の繊維強化複合材料用液状エポキシ樹脂組成物は低粘度で粘度の安定性に優れ、フィラメントワインディング成形や引き抜き成形に好適で、これらの方法で製造した繊維強化複合材料が、高温での機械特性に優れることがわかる。
【0055】
【表1】

【0056】
実施例1〜7の樹脂組成物は、いずれも調製直後および4時間放置後ともに50℃の粘度が低く、フィラメントワインディング成形性や引き抜き成形性に優れている。また、実施例1〜7のフィラメントワインディング成形品は、Tgが高く、150℃ねじり強度に優れ、ボイドも少ない。さらに、実施例1〜7の引き抜き成形品は、Tgが高く、150℃引っ張り強度に優れ、ボイドも少ない。また、1位に置換基を有するイミダゾールを硬化促進剤に用いた実施例2〜7の樹脂組成物は、4時間放置後の粘度及び調製直後からの粘度変化率が小さく、成形性や各成形品のボイドの少なさで特に優れている。
【0057】
一方、本発明の構成成分(A)に該当するエポキシ樹脂を含まない比較例1では粘度が高く、成形性に劣り、各成形品はTgが低く、150℃ねじり強度や引っ張り強度が劣り、ボイド発生量も多い。
【0058】
また、本発明の構成成分(B)に該当する硬化剤を含まない比較例2では粘度は低く、成形性には優れるものの、成形品のTgが低く、150℃でのねじり強度や引っ張り強度が非常に劣っている。
【0059】
さらに、本発明の構成成分(C)に該当する硬化促進剤を含まない比較例3は、粘度変化率が大きく、4時間放置後の粘度が高く、成形性がやや悪い。また、成形品のTgも低めで150℃でのねじり強度や引っ張り強度がやや劣っている。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】本発明のプロペラシャフトの一例の要部を示す概略断面図である。
【図2】本発明のプロペラシャフトのFRP製本体筒の構成の一例を示す概略断面図である。
【図3】ねじり試験の様子を示す斜視図である。
【符号の説明】
【0061】
1 プロペラシャフト
2 FRP製円筒体
2a 内層
2b 主層
2c 外層
2d 補強層
3 金属製継手
3a セレーション部
4 ねじり試験用FRP本体筒
4a、b ねじり試験用継ぎ手
5 ねじり試験機
5a 可動部フランジ
5b 固定部フランジ
5c ロードセル
5d 回転部
6 恒温槽
6a 温度検出部
7 油圧ポンプ
8 制御装置
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明によれば、成形性に優れ、フィラメントワインディング法と引き抜き成形法のいずれにも使用可能なエポキシ樹脂組成物およびそれを用いた高温での機械特性に優れた繊維強化複合材料が得られる。中でもプロペラシャフトなどの自動車部品、ロボットアームなど産業機械部品、土木建築向けの補修・補強剤などに好適である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
環状脂肪族エポキシ化合物およびトリグリシジルアミノフェノールから選ばれる化合物を含むエポキシ樹脂(A)、ナジック酸類無水物および一分子中に酸無水物基を2個以上有する多価酸無水物、からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物を含むエポキシ樹脂硬化剤(B)、イミダゾール誘導体を含む硬化促進剤(C)を含み、50℃における粘度が50〜500mPa・sであることを特徴とする繊維強化複合材料成形用液状エポキシ樹脂組成物。
【請求項2】
引き揃えた強化繊維束を、請求項1に記載の繊維強化複合材料成形用液状エポキシ樹脂組成物の含浸槽に連続的に通して、繊維束に前記液状エポキシ樹脂組成物を含浸させ、マンドレルに巻き付けた後、マンドレル上で樹脂を硬化させ、その後マンドレルを抜き取る繊維強化複合材料の製造方法。
【請求項3】
引き揃えた強化繊維束を、請求項1に記載の繊維強化複合材料成形用液状エポキシ樹脂組成物の含浸槽に連続的に通し、スクイーズダイ及び、加熱金型を通して引張機によって連続的に引き抜き成形しつつ硬化させる工程を有する繊維強化複合材料の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−88342(P2008−88342A)
【公開日】平成20年4月17日(2008.4.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−272628(P2006−272628)
【出願日】平成18年10月4日(2006.10.4)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】