説明

エポキシ樹脂組成物

【課題】ポットライフが長く、しかも薄膜硬化性が良好で、硬化物の耐湿性、低硬化収縮率および耐クラック性を兼ね備えたエポキシ樹脂組成物を提供する。
【課題を解決するための手段】エポキシ樹脂および一般式(1)で示されるエポキシ変性オルガノポリシロキサン、および蒸発エネルギーが16.0kcal/mol以上である酸無水物を50重量%以上含む硬化剤を必須成分とするエポキシ樹脂組成物である。


式中、R1は水素原子または脂肪族炭化水素基、Xはエポキシ環を有する置換基、YはR1またはX、aおよびbは1〜300の整数、a/bは0.1〜300である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はエポキシ樹脂組成物およびその硬化物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
エポキシ樹脂は一般に、接着性、電気特性、機械特性に優れているため、接着剤、塗料、電気・電子材料として幅広く使用されている。特に近年は電気・電子材料分野、先進複合材料分野を中心にめざましく需要が拡大している。
しかし、エポキシ樹脂は脆いため、クラックが発生する等の問題があった。
特に電気・電子材料分野および先進複合材料分野では、その電気特性や透明性などから酸無水物を硬化剤としたエポキシ樹脂の需要が拡大している。
しかし、アミンやフェノール系硬化剤に比較し、酸無水物は硬化物が剛直であり、硬化収縮が大きいといった問題があった。
また、近年の小型化や薄膜化に伴い、吸湿性が高くて耐湿性が悪い酸無水物は、薄膜硬化性および薄膜硬化後の物性劣化が問題となっていた。特に硬化物の低い耐湿性に起因する周辺材の腐食、および硬化物の低い耐湿性に起因する強度劣化によって熱ストレスによるクラックが発生し易くなっていることが問題となっている。
そこで、耐湿性と薄膜硬化性を解決するものとして、たとえば、芳香族スルホニウム塩などのカチオン硬化系が提案されているが、薄膜硬化性は解決できるが、しかし硬化収縮が大きく、内部応力が高いため、クラック発生は抑制されていない(例えば、特許文献1)。また、酸無水物とエポキシ樹脂をあらかじめ反応させた架橋オリゴマーを一部混合する方法が提案されている。(例えば特許文献2)。 しかし特許文献2の方法であっても、薄膜硬化性はある程度解決できるものの、硬化物の内部応力の低下は不十分であり、かつエポキシ樹脂組成物が経時的に不安定でポットライフが短いという問題点があった。
【特許文献1】特開平10−135522号公報
【特許文献2】特開2003−176334号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
すなわち本発明の課題は、エポキシ樹脂組成物のポットライフが長く、しかも薄膜硬化性が良好で、エポキシ樹脂硬化物の耐湿性、低硬化収縮率および耐クラック性を兼ね備えたエポキシ樹脂組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者等は上記問題を解決するため鋭意検討し、本発明に到達した。すなわち本発明は、
エポキシ樹脂(A)(以下、単に(A)と表記する場合がある)、一般式(1)で示されるエポキシ変性オルガノポリシロキサン(B)(以下、単に(B)と表記する場合がある)、および硬化剤(C)(以下、単に(C)と表記する場合がある)を含有してなるエポキシ樹脂組成物であって、(C)のうちの50重量%以上が16.0kcal/mol以上の蒸発エネルギーを有する酸無水物(C1)(以下、単に(C1)と表記する場合がある)であるエポキシ樹脂組成物、並びに該エポキシ樹脂組成物を硬化させてなるエポキシ樹脂硬化物を要旨とする。
【0005】
【化4】

【0006】
式中、R1は水素原子または炭素数が1〜6の直鎖もしくは分岐の脂肪族炭化水素基、Xは一般式(2)または(3)で表される置換基、YはR1またはX、aおよびbは1〜300の整数であって、a/bは0.1〜300であり、複数のR1、XおよびYはそれぞれ同一でも異なっていてもよい。〔 〕内はランダム結合、ブロック結合またはそれらの併用を表す。
【0007】
【化5】

【0008】
式中、R2は炭素数が1〜10および酸素数が0〜5の2価の脂肪族基である。
【発明の効果】
【0009】
本発明のエポキシ樹脂組成物は、薄膜硬化性に優れ、その硬化物は優れた低硬化収縮率、耐クラック性および耐湿性を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明におけるエポキシ樹脂(A)としては、芳香族系エポキシ樹脂、複素環系エポキシ樹脂、脂環族系エポキシ樹脂または脂肪族系エポキシ樹脂が使用でき、特に制限されない。
【0011】
芳香族系エポキシ樹脂としては、多価フェノールのグリシジルエーテル体、グリシジル芳香族ポリアミンおよびその他の芳香族エポキシ樹脂が挙げられる。
多価フェノールのグリシジルエーテル体としては、ビスフェノールFジグリシジルエーテル、ビスフェノールAジグリシジルエーテル、ビスフェノールBジグリシジルエーテル、ビスフェノールADジグリシジルエーテル、ビスフェノールSジグリシジルエーテル、ハロゲン化ビスフェノールAジグリシジル、テトラクロロビスフェノールAジグリシジルエーテル、カテキンジグリシジルエーテル、レゾルシノールジグリシジルエーテル、ハイドロキノンジグリシジルエーテル、ピロガロールトリグリシジルエーテル、1,5−ジヒドロキシナフタリンジグリシジルエーテル、ジヒドロキシビフェニルジグリシジルエーテル、オクタクロロ−4,4'−ジヒドロキシビフェニルジグリシジルエーテル、フェノールノボラック樹脂もしくはクレゾールノボラック樹脂のグリシジルエーテル体、ビスフェノールA2モルとエピクロロヒドリン3モルの反応から得られるジグリシジルエーテル体、フェノールとグリオキザール、グルタールアルデヒドもしくはホルムアルデヒドとの縮合反応によって得られるポリフェノールのポリグリシジルエーテル体、およびレゾルシンとアセトンの縮合反応によって得られるポリフェノールのポリグリシジルエーテル体が挙げられる。
【0012】
グリシジル芳香族ポリアミンとしては、N,N−ジグリシジルアニリンおよびN,N,N',N'−テトラグリシジルジフェニルメタンジアミンが挙げられる。
【0013】
その他の芳香族系エポキシ樹脂としては、トリレンジイソシアネートもしくはジフェニルメタンジイソシアネートとグリシドールの付加反応によって得られるジグリシジルウレタン化合物、グリシジル基含有ポリウレタン(プレ)ポリマー、およびビスフェノールAのアルキレンオキシド(エチレンオキシドまたはプロピレンオキシド)付加物のジグリシジルエーテル体が挙げられる。
【0014】
複素環系エポキシ樹脂としては、トリスグリシジルメラミンが挙げられる。
【0015】
脂環族系エポキシ樹脂としては、ビニルシクロヘキセンジオキシド、リモネンジオキシド、ジシクロペンタジエンジオキシド、ビス(2,3−エポキシシクロペンチル)エーテル、エチレングリコールビスエポキシジシクロペンチルエール、3,4−エポキシ−6−メチルシクロヘキシルメチル−3',4'−エポキシ−6'−メチルシクロヘキサンカルボキシレート、ビス(3,4−エポキシ−6−メチルシクロヘキシルメチル)アジペート、および3,4−エポキシシクロヘキシルメチル−3'、4'−エポキシシクロヘキシルカルボキシレートが挙げられる。また、脂環族系としては、前記芳香族系エポキシ樹脂の核水添化物も含まれ、例えば多価フェノールの核水添化物のグリシジルエーテル体(水添ビスフェノールAのグリシジルエーテル体など)が挙げられる。
【0016】
脂肪族系エポキシ樹脂としては、脂肪族多価アルコールのポリグリシジルエーテル体、脂肪族多価カルボン酸のポリグリシジルエステル体、およびグリシジル脂肪族アミンが挙げられる。
脂肪族多価アルコールのポリグリシジルエーテル体としては、エチレングリコールジグリシジルエーテル、プロピレングリコールジグリシジルエーテル、テトラメチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル、トリメチロールプロパントリグリシジルエーテル、ペンタエリスリトールテトラグリシジルエーテル、およびソルビトールポリグリシジルエーテルが挙げられる。
脂肪族多価カルボン酸のポリグリシジルエステル体としては、ジグリシジルアジペートが挙げられる。
グリシジル脂肪族アミンとしては、N,N,N',N'−テトラグリシジルヘキサメチレンジアミンが挙げられる。
また、本発明において脂肪族系エポキシ樹脂としては、グリシジル(メタ)アクリレートの(共)重合体も含む。
【0017】
これらのうち、好ましいのは芳香族系エポキシ樹脂および脂環族系エポキシ樹脂である。
芳香族系エポキシ樹脂のうち、さらに好ましいのは、多価フェノールのグリシジルエーテル体である。
脂環族系エポキシ樹脂のうち、さらに好ましいのは、ジシクロペンタジエンジオキシド、ビス(2,3−エポキシシクロペンチル)エーテル、エチレングリコールビスエポキシジシクロペンチルエール、3,4−エポキシ−6−メチルシクロヘキシルメチル−3',4'−エポキシ−6'−メチルシクロヘキサンカルボキシレート、ビス(3,4−エポキシ−6−メチルシクロヘキシルメチル)アジペート、3,4−エポキシシクロヘキシルメチル−3'、4'−エポキシシクロヘキシルカルボキシレート、および多価フェノールの核水添化物のグリシジルエーテル体である。なお、核水添化物は、水添率が90%以上であることが好ましい。
【0018】
本発明におけるエポキシ樹脂(A)は、分子中に2個以上のエポキシ基を有していれば、いずれも用いることができるが、好ましいのは、分子中に2〜5個有するものである。エポキシ樹脂(A)のエポキシ当量は、通常80〜1,000g/eqであり、好ましいのは100〜500g/eqである。
エポキシ樹脂(A)は単独で、もしくは2種類以上を併用して使用してもよい。
【0019】
本発明におけるエポキシ変性オルガノポリシロキサン(B)は、一般式(1)で示される。
【0020】
【化6】

【0021】
式中、R1は水素原子または炭素数が1〜6の直鎖もしくは分岐の脂肪族炭化水素基である。R1が脂環式炭化水素基であると、エポキシ樹脂硬化物の弾性率が高くなり、クラック発生率が高くなる。
【0022】
炭素数1〜6の脂肪族炭化水素基としては、直鎖もしくは分岐のアルキル基およびアルケニル基が挙げられる。
アルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、t−ブチル基、ペンチル基、イソペンチル基、3−メチルブチル基、ネオペンチル基、ヘキシル基および2−エチルブチル基等が挙げられる。
【0023】
アルケニル基としては、ビニル基、アリル基、プロペニル基、ブテニル基、イソブテニル基、ペンテニル基、イソペンテニル基およびヘキセニル基等が挙げられる。
【0024】
これらのうち、エポキシ樹脂硬化物の耐熱性の観点から、アルキル基が好ましい。さらに、炭素数1〜3のアルキルが好ましい。R1は、すべて同じであってもよいし、異なっていてもよい。
【0025】
一般式(1)におけるXは、一般式(2)または(3)で表される置換基である。
【0026】
【化7】

【0027】
一般式(2)および(3)中、R2は炭素数が1〜10および酸素数が0〜5の2価の脂肪族基である。R2が芳香族環を含む基であると、得られるエポキシ樹脂硬化物は弾性率が高くてクラックが発生しやすい。
【0028】
2としては、一般式(1)におけるSi原子との結合原子が酸素である脂肪族基と炭素である脂肪族基が挙げられる。
【0029】
Si原子との結合原子が酸素である脂肪族基としては、オキシアルキレン基、オキシアルケニレン基および(ポリ)オキシアルキレン−オキシ基[例えば、式−(OR)n−O−で表される基;但し、Rはアルキレン基、nは1〜10の整数。]などが挙げられる。
オキシアルキレン基としては、アルキレン基の炭素数1〜10の基、例えばオキシメチレン基、オキシエチレン基およびオキシプロピレン基などが挙げられる。
(ポリ)オキシアルキレン−オキシ基としては、アルキレン基の総炭素数が1〜10の基、例えばオキシメチレン−オキシ基、ジオキシメチレン−オキシ基およびトリオキシメチレン−オキシ基等が挙げられる。
【0030】
Si原子との結合原子が炭素である脂肪族基としては、脂肪族炭化水素基およびアルキレン(ポリ)オキシアルキレン基[例えば、式−R’−(OR”)m−で表される基;但し、R’およびR”はアルキレン基、mは1〜10の整数。]が挙げられる。
2価の脂肪族炭化水素基としては、メチレン基、エチレン基、1,2−プロピレン基、1,3−プロピレン基、ブチレン基およびヘキシレン基などが挙げられる。
アルキレン(ポリ)オキシアルキレン基としては、メチレンオキシメチレン基、メチレンオキシプロピレン基およびメチレン(テトラ)オキシメチレン基等が挙げられる。
【0031】
2のうち、好ましいのは炭素数が1〜7の2価の脂肪族炭化水素基、オキシアルキレン基および(ポリ)オキシアルキレン−オキシ基であり、さらに好ましいのは炭素数が2〜5の2価の脂肪族炭化水素基およびオキシアルキレン基である。
【0032】
一般式(1)におけるYは、上記のR1またはXで挙げた基のうちのいずれかの基である。なお、一般式(1)における複数のR1、XおよびYはそれぞれ同一でも異なっていてもよい。
【0033】
一般式(1)におけるaおよびbは、それぞれ1〜300である。aが1〜300であるということは、(B)が、一般式(2)または(3)で示されるエポキシ基含有基を、少なくとも分子のペンダント位置に1〜300個有することを示しており、YがXである場合には、さらにエポキシ基を分子の末端にも有していることを示している。
aが0である場合、即ちエポキシ基を有しないか、または末端にのみエポキシ基を有する場合は、それを使用したエポキシ樹脂組成物は、耐熱性およびクラック発生率の点で劣り、かつ、耐湿性が低くなる。
aおよびbは、耐熱性、クラック発生率、耐湿性および相溶性の観点から好ましくは5〜200の整数であり、さらに好ましくはaは10〜100、bは20〜150である。aおよびbが300以下の場合、(B)の粘度が高すぎず、取り扱いやすい。
さらに、a/bは0.1〜300、好ましくは0.2〜280、さらに好ましくは0.3〜250である。この範囲であると、(A)と(B)が相溶しやすくなる。
一般式(1)における〔 〕内はランダム結合、ブロック結合またはそれらの併用を表す。弾性率の観点から、好ましいのはランダム結合である。
【0034】
本発明におけるエポキシ変性オルガノポリシロキサン(B)は公知の方法で製造でき、特に限定されない。例えば、オレフィン基含有シロキサンを過酸化物で酸化反応させる方法、予め臭化マグネシウム等でグリニャード化したシロキサンをエピクロルヒドリンと共にアルカリ処理する方法、クロロシラン又はアセトキシシラン化合物をグリシドールと反応させてグリシジルシリコーンエーテルを生成する方法(例えば、米国特許2,730,532パンフレット)、エチレン性不飽和基含有エポキシドとオルガノ水素ポリシロキサンを反応させる方法(例えば、特開平7−133351号公報)等が挙げられる。
【0035】
(B)の数平均分子量は、好ましくは2,000〜30,000、さらに好ましくは3,000〜20,000である。本発明における数平均分子量は、ポリスチレンを標準としたゲルパーミュエーションクロマトグラフィー(GPC)によって測定されるものである。
【0036】
本発明のエポキシ樹脂組成物における(B)の含有量は、(A)100重量部に対して好ましくは1〜90重量部であり、さらに好ましくは10〜80重量部である。(B)の添加量を1重量部以上とすることで強靱化でき、90重量部以下であると、耐熱性の観点から好ましく、かつ、クラック発生率をさらに低くすることができる。
【0037】
本発明のエポキシ樹脂組成物には、一般式(4)で表される両末端にのみエポキシ基を有するエポキシ変性オルガノポリシロキサン(D)(以下、単に(D)と表記する場合がある)を添加してもよい。(D)は両末端にのみエポキシ基を有している点において(B)とは異なる。
【0038】
【化8】

【0039】
式中、R3は炭素数が1〜10および酸素数が0〜5の2価の脂肪族基、R4は炭素数が1〜6の直鎖もしくは分岐の2価の脂肪族炭化水素基、R5は炭素数が1〜6の直鎖もしくは分岐の1価の脂肪族炭化水素基、cは1〜10の整数であり、複数のR5は同一でも異なっていてもよい。
【0040】
3としては、Si原子との結合原子が酸素である脂肪族基と炭素である脂肪族基が挙げられる。
【0041】
結合原子が酸素である基としては、オキシアルキレン基、オキシアルケニレン基および(ポリ)オキシアルキレン−オキシ基が挙げられ、具体的には、前述のR2で挙げたのと同様の基が挙げられる。
結合原子が炭素である脂肪族基としては、脂肪族炭化水素基もしくはアルキレン(ポリ)オキシアルキレン基が挙げられ、具体的には、前述のR2で挙げたのと同様の基が挙げられる。
3のうち、好ましいのは炭素数が1〜3であって酸素数が1の有機基であり、さらに好ましいのはオキシアルキレン基である。
【0042】
4は、炭素数が1〜6の直鎖もしくは分岐の2価の脂肪族炭化水素基であり、具体的には、前述のR2で挙げた2価の脂肪族炭化水素基と同様の基が挙げられる。
4のうち、好ましいのは炭素数が1〜6のアルキル基であり、さらに好ましいのは炭素数が1〜3のアルキル基である。
【0043】
5は、炭素数が1〜6の直鎖もしくは分岐の1価の脂肪族炭化水素基であり、前述のR1で挙げた基と同様の基が挙げられる。R5のうち好ましいのは炭素数が1〜2のアルキル基である。
【0044】
(D)の含有量は、(B)100重量部に対して、(D)が1〜100重量部であると好ましい。さらに好ましくは5〜50重量部である。1重量部以上であれば、耐熱性がさらに向上しやすく、100重量部以下であればブリードアウトしにくい。
【0045】
本発明において、硬化剤(C)は、蒸発エネルギーが16.0kcal/mol以上である酸無水物(C1)を、該(C)のうちの50重量%以上、好ましくは70%以上(以下において、特に限定しない限り%は重量%を表す)、さらに好ましくは100%含む硬化剤である。
(C1)の蒸発エネルギーは、16.0kcal/mol以上であれば特に制限されないが、好ましくは16.4〜40kcal/molである。 16.4kcal/mol以上であれば薄膜硬化性がさらに良好になる傾向があり、40kcal/mol以下であればハンドリングの観点から好ましい。
ここで、蒸発エネルギーは、酸無水物の構造に基づいて、Polymer Engineering and Science,February、1974,Vol.14,No2,147−154頁記載の各原子および原子団の蒸発エネルギーの総和を用いる。
蒸発エネルギーは、分子の蒸気圧と関係のある尺度であって、同じ温度では蒸発エネルギーが大きいほど蒸気圧が低くなる。蒸気圧が低いと酸無水物の揮発が少なくなり、エポキシ樹脂の硬化反応において未反応のエポキシ樹脂が残らず、目的の架橋密度をもつことができるので、特に、前記の一般式(1)で示されるエポキシ変性オルガノポリシロキサンを含むエポキシ樹脂が薄膜で硬化した場合に薄膜硬化性が良好で、エポキシ樹脂硬化物が耐湿性、低硬化収縮率および耐クラック性が優れた薄膜となるものと推定される。
【0046】
蒸発エネルギーが16.0kcal/mol以上である酸無水物(C1)としては、ジカルボン酸無水物(C11)、トリカルボン酸無水物(C12)、テトラカルボン酸無水物(C13)が挙げられ、これらの混合物でもよい。
ジカルボン酸無水物(C11)としては、例えば、ドデセニル無水コハク酸(25.2kcal/mol)、ドデセニル無水コハク酸の水添物(25.4kcal/mol)、オクテニルコハク酸無水物(20.4kcal/mol)、オクテニルコハク酸無水物の水添物(20.7kcal/mol)、メチルヘキシルジカルボン酸無水物(16.9kcal/mol)、ナジック酸無水物(16.4kcal/mol)、メチルナジック酸無水物(17.5kcal/mol)、ノルボルナン−2,3−ジカルボン酸無水物(16.7kcal/mol)、メチルノルボルナン−2,3−ジカルボン酸無水物(16.4kcal/mol)、1−イゾプロピル−4−メチルビシクロ(2,2,2)オクタ−5−エン−2,3−ジカルボン酸無水物(20.8kcal/mol)、1−イゾプロピル−4−メチルビシクロ(2,2,2)オクタ−5−エン−2,3−ジカルボン酸無水物の水添物(21.1kcal/mol)等が挙げられる。
【0047】
トリカルボン酸無水物(C12)としては、トリメリット酸無水物(32.7kcal/mol)、トリメリット酸無水物の水添物(21.6kcal/mol)等が挙げられる。
【0048】
テトラカルボン酸無水物(C−3)としては、ピロメリット酸(26.3kcal/mol)、ピロメリット酸無水物の水添物(24.6kcal/mol)、無水ナフタレンテトラカルボン酸無水物(34.0kcal/mol)、テトラリン−ジ酸無水物(32.4kcal/mol)、無水ナフタレン酸テトラカルボン酸の全水添物(27.2kcal/mol)、メチルシクロヘキセンテトラカルボン酸二無水物(36.5kcal/mol)、メチルシクロヘキセンテトラカルボン酸二無水物の水添物(28.8kcal/mol)等が挙げられる。
【0049】
これらのうち、好ましいのは、硬化収縮が少ないという観点から、ジカルボン
酸無水物(C11)であり、さらに好ましいのは、ドデセニルコハク酸無水物、オクテニルコハク酸無水物、メチルヘキシルジカルボン酸無水物、ナジック酸無水物、メチルナジック酸無水物、ノルボルナン−2,3−ジカルボン酸無水物、メチルノルボルナン−2,3−ジカルボン酸無水物、1−イゾプロピル−4−メチルビシクロ(2,2,2)オクタ−5−エン−2,3−ジカルボン酸無水物およびこれらの水添物からなる群から選ばれる1種以上のジカルボン酸無水物である。
【0050】
なお、上記の酸無水物のうちの水添物は、例えば、ラネーニッケル触媒を用い、水素ガスにより水素添加する方法、白金、パラジウム、ロジウム等の白金族金属を触媒とし、水素ガスにより水素添加する方法(例えば、R.L.Augustine著「水素化反応」、日刊工業新聞社発行)等により製造できる。
【0051】
本発明における硬化剤(C)は、上記の(C1)以外に、他の硬化剤(C2)(以下、単に(C2)と表記する場合がある)を含有してもよい。
(C2)としては、カルボン酸もしくはその酸無水物であって、蒸発エネルギーが16.0kcal/mol未満のカルボン酸もしくはその酸無水物(C21)、アミン系硬化剤(C22)、フェノール系硬化剤(C23)、メルカプタン系硬化剤(C24)、イミダゾール類(C25)、有機ホスフィン系(C26)、カチオン硬化剤(C27)およびこれらのうちの2種以上の併用が挙げられる。
【0052】
蒸発エネルギーが16.0kcal/mol未満のカルボン酸もしくはその酸無水物(C21)としては、例えば、メチルテトラヒドロ(無水)フタル酸、テトラヒドロ(無水)フタル酸、メチルヘキサヒドロ(無水)フタル酸、ヘキサヒドロ(無水)フタル酸、ペンチルジカルボン酸(無水物)、マレイン酸、2,4−ジエチルグルタル酸無水物およびこれらのうちの2種以上の併用が挙げられる。
【0053】
(C21)のうち、好ましいのは、硬化剤としての反応性および硬化物の耐熱性の観点から、メチルテトラヒドロ無水フタル酸、テトラヒドロ無水フタル酸、メチルヘキサヒドロ無水フタル酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、および2,4−ジエチルグルタル酸無水物であり、さらに好ましいのは、メチルテトラヒドロ無水フタル酸、メチルヘキサヒドロ無水フタル酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、および2,4−ジエチルグルタル酸無水物であり、特に好ましいのは、メチルヘキサヒドロ無水フタル酸およびヘキサヒドロ無水フタル酸である。
【0054】
アミン系硬化剤(C22)としては、ジエチレンジアミン、トリエチレンテトラミン、ヘキサメチレンジアミン、ダイマー酸変性エチレンジアミン、4,4‘−ジアミノジフェニルスルホン、4,4’−ジアミノジフェノールエーテル、1,8−ジアザビシクロ[5,4,0]ウンデセン−7等が挙げられる。
【0055】
フェノール樹脂系硬化剤(C23)としては、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールS、テトラメチルビスフェノールA,テトラメチルビスフェノールF、テトラメチルビスフェノールS、テトラクロロビスフェノールA、テトラブロモビスフェノールA、ジヒドロキシナフタレン、フェノールノボラック、クレゾールノボラック、ビスフェノールAノボラック、臭素化フェノールノボラック等が挙げられる。
【0056】
メルカプタン系硬化剤(C24)としては、メルカプトプロピオン酸エステル、エポキシ樹脂末端メルカプト化合物等が挙げられる。
【0057】
イミダゾール類(C25)等としては、2−メチルイミダゾール、2−エチル−4−メチルイミダゾール、2−フェニルイミダゾール等が挙げられる。
【0058】
有機ホスフィン系硬化剤(C26)としては、トリフェニルホスフィン、ジフェニルナフチルホスフィン、ジフェニルエチルホスフィン等が挙げられる。
【0059】
カチオン硬化剤(C27)としては、芳香族ホスホニウム塩、芳香族ジアゾニウム塩、芳香族ヨードニウム塩、芳香族セレニウム塩等が挙げられる。
【0060】
これらのうち、好ましいのは、硬化物の透明性と耐熱性の観点から、(C21)または(C22)であり、さらに好ましいのは、(C21)である。
【0061】
硬化剤(C)の官能基数と樹脂組成物中のエポキシ官能基数の比は、硬化物の耐熱性、耐湿性の観点から1:0.8〜1:1.2が好ましく、より好ましくは1:0.9〜1:1.1である
【0062】
本発明のエポキシ樹脂組成物は、硬化剤のみでなく、さらに硬化促進剤を含有することができる。硬化促進剤としては、通常、エポキシ樹脂用硬化促進剤として使用されている3級アミン系、イミダゾール系、有機ホスフィン系、ホスホニウム系およびテトラフェニルボロン塩系硬化促進剤等から選ばれる1種以上が使用でき、特に制限されない。
硬化促進剤の含有割合は、硬化剤の重量に基づいて0.01〜10%、好ましくは0.05〜5%である。
【0063】
本発明のエポキシ樹脂組成物は、さらに溶剤を含有していてもよい。
溶剤としては、芳香族系溶剤(トルエンおよびキシレンなど)、ケトン系溶剤(メチルエチルケトンおよびメチルイソブチルケトンなど)、およびアミド系溶剤(ジメチルホルムアミドおよびジメチルアセトアミドなど)などが使用できる。
溶剤の含有割合は、エポキシ樹脂組成物の重量に基づいて好ましくは90%以下、さらに好ましくは50%以下である。
また、本発明の効果を損なわない範囲で、必要に応じて、充填剤、離型剤、表面処理剤、難燃剤、粘度調整剤、可塑剤、防黴剤、レベリング剤、消泡剤、着色剤、着色防止剤、酸化防止剤、安定剤、カップリング剤等を配合してもよい。
これらの添加剤の含有割合は、硬化物の用途によって適宜選択されるが、エポキシ樹脂組成物中の溶剤以外の成分の重量に基づいて、それぞれ80%以下、好ましくは0.1〜70%である。
【0064】
本発明の他の実施態様は、上記のエポキシ樹脂組成物を硬化させて得られるエポキシ樹脂硬化物である。
【0065】
本発明のエポキシ樹脂硬化物は、熱、紫外線および電子線などから選ばれる1種以上を用いて硬化させて得られる。
硬化に際しては、本発明のエポキシ樹脂組成物を、目的とする形状の硬化物が得られるように、通常は、型枠もしくは金型などに封入するか、基材に塗布、またはエポキシ樹脂組成物中に被塗物をポッティングなどをする。
【0066】
熱硬化の場合は、硬化温度は特に限定されず、0℃〜250℃の範囲で行うことができる。耐熱性および吸湿性の観点から、30℃〜200℃の範囲が好ましい。
硬化させる場合は、1段階昇温で行っても、2段階以上で行ってもよい。なかでも硬化収縮の抑制および耐湿性向上の観点から、2段階で行うことが好ましい。
【0067】
紫外線または電子線硬化の場合は、本発明のエポキシ樹脂組成物に光カチオン系硬化剤を含有させた組成物を紫外線照射により硬化させる。
光カチオン系硬化剤としては、芳香族スルホニウム塩、芳香族ジアゾニウム、芳香族ヨードニウム塩および芳香族セレニウム塩などが用いられる。(例えば6フッ化アンチモン酸ベンジルメチル−P−ヒドロキシフェニルスルホニウム等)。光カチオン系硬化剤の含有量はエポキシ樹脂(A)の重量に基づいて0.01〜5重量%である。
硬化の条件としては、例えば、高圧水銀ランプなどで360nm以下の波長の紫外光を、10〜30mW/cm2の照度で5〜20分程度の照射が挙げられる。
【0068】
上記のようにして得られた硬化物は、耐熱性および耐湿性に優れ、かつ耐クラック性を兼ね備えているため、接着剤、塗料、土木建築用材料および電気・電子部品材料(例えば、半導体用封止材等の絶縁材料等)の様々な分野で使用できる。特に本発明のエポキシ樹脂硬化物は、電気特性およびその他の物理的特性にも優れているので電気・電子部品材料に好適である。また、本発明の硬化物は薄膜であっても硬化性が優れており、表面にタックが残りにくい。また、硬化収縮率が小さい。
【0069】
以下、実施例および比較例をあげて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
[製造例1]
1リットルの撹拌機付き反応器に、アリルグリシジルエーテル130g、トルエン60g、 エタノール3g、塩化白金酸の1,3−ジビニル−1,1,3,3−テトラメチルジシロキサン錯体を0.05g投入し、60〜70℃に加熱した後、下記式(5)で表されるメチル水素ポリシロキサン220gを滴下して付加反応を行った。
80℃で減圧ストリッピングにより溶剤を留去したところ、透明なエポキシ変性オルガノポリシロキサン(B−1)が得られた。
得られた(B−1)の数平均分子量は14,050であり、エポキシ当量は162g/eqであった。
【0070】
【化9】

【0071】
但し、〔 〕内はランダム結合。
【0072】
[製造例2]
式(5)で表される化合物を式(6)で表されるメトキシ水素ポリシロキサンに代え、アリルグリシジルエーテル100g、トルエン60g、エタノール4g、塩化白金酸の1,3−ジビニル−1,1,3,3−テトラメチルジシロキサン錯体を0.05g投入し、60〜70℃に加熱した後、式(6)で表されるメトキシ水素ポリシロキサンを滴下したこと以外は、製造例1と同じようにして淡黄色透明なエポキシ変性オルガノポリシロキサンを得た。これに水20gを添加し、さらにオクチル酸スズ0.1gを添加して、70℃×3時間加熱撹拌後、80℃で減圧ストリッピングにより、溶剤および水を留去したところ、透明なエポキシ変性オルガノポリシロキサン(B−2)を得た。
得られた(B−2)の数平均分子量は18,710であり、エポキシ当量は204g/eqであった。
【0073】
【化10】

【0074】
[製造例3]
攪拌機能を備えたSUS製オートクレーブにドデセニルコハク酸無水物(「DSA」三洋化成工業株式会社製)(以下、DSAと略記)50部、脱水処理をしたプロピレングリコールジエチルエーテル150部、Avecia社製固定化パラジウム触媒0.5部を加え、系内を水素置換後、攪拌しながら55℃、水素圧20MPaの条件下10時間水素添加を行った。反応後、触媒を濾別し、130℃、300Paでプロピレングリコールジエチルエーテルを除去後、ドデセニルコハク酸無水物の水添物を得た。元素分析およびIR、NMRより、水添率99.8%であった。
【0075】
[実施例1]
水添ビスフェノールA型エポキシ樹脂(「EPICLON EXA−7015」大日本インキ株式会社製、エポキシ当量201g/eq、以下において「EPICLON EXA−7015」と略記)23.4部に、硬化剤としてメチルノルボルナン−2,3−ジカルボン酸無水物(新日本理化株式会社製、酸無水物当量183g/eq、以下において「HNA」と略記)28.5部、硬化促進剤としてエポキシ開環触媒(「U−5003」サンアプロ株式会社製、以下において「U−5003」と略記)0.2部、エポキシ変性オルガノポリシロキサン(B−1)を6.5部加え、攪拌混合してエポキシ樹脂組成物を得た。
【0076】
[実施例2]
脂環式エポキシ樹脂(「セロキサイド2021」;3,4−エポキシシクロヘキサンカルボン酸3´4´−エポキシシクロへキシルメチル、ダイセル化学工業株式会社製、エポキシ当量130g/eq、以下において「セロキサイド2021」と略記)24.8部に、硬化剤としてメチルヘキサヒドロ無水フタル酸(「EPICLON B−650」大日本インキ株式会社製、酸無水物当量168g/eq、以下において「EPICLON B−650」と略記)20.0部、「HNA」28.5部、硬化促進剤として、エポキシ開環触媒(「U−CAT 18X」サンアプロ株式会社製、以下において「U−CAT 18X」と略記)を0.2部、エポキシ変性オルガノポリシロキサン(B−2)を25部加え、攪拌混合してエポキシ樹脂組成物を得た。
【0077】
[実施例3]
水添ビスフェノールA型エポキシ樹脂「EPICLON EXA−7015」15.4部および脂環式エポキシ樹脂「セロキサイド2021」1.6部に、硬化剤として「DSA」21.3部、硬化促進剤として「U−CAT 18X」を0.2部、エポキシ変性オルガノポリシロキサン(B−1)を6.0部を加え、攪拌混合してエポキシ樹脂組成物を得た。
【0078】
[実施例4]
水添ビスフェノールA型エポキシ樹脂「EPICLON EXA−7015」15.3部、脂環式エポキシ樹脂「セロキサイド2021」1.7部に、硬化剤として製造例3で得た水添ドデセニルコハク酸無水物(三洋化成工業株式会社製:DSAの水添物:酸無水物当量255g/eq、以下において「HDSA」と略記)25.9部、硬化促進剤として「U−CAT 18X」を0.2部、エポキシ変性オルガノポリシロキサン(B−1)を5.8部を加え、攪拌混合してエポキシ樹脂組成物を得た。
【0079】
[実施例5]
水添ビスフェノールA型エポキシ樹脂「EPICLON EXA−7015」15.3部および脂環式エポキシ樹脂「セロキサイド2021」1.7部に、硬化剤として製造例3で得た「HDSA」10.5部および「HNA」10.5部、硬化促進剤として「U−CAT 18X」を0.2部、エポキシ変性オルガノポリシロキサン(B−1)を5.8部を加え、攪拌混合してエポキシ樹脂組成物を得た。
【0080】
[実施例6]
水添ビスフェノールA型エポキシ樹脂「EPICLON EXA−7015」27部および脂環式エポキシ樹脂「セロキサイド2021」14部に、硬化剤としてメチルシクロヘキセンテトラカルボン酸二無水物(大日本インキ株式会社製:酸無水物当量132g/eq、以下「MCTC」と略記)18.0部、「HDSA」31.0部、硬化促進剤として
「U−CAT 18X」を0.1部、エポキシ変性オルガノポリシロキサン(B−1)を15部、(D)成分(東レダウシリコーン社製:BY16−855:エポキシ当量180g/eq)を5部加え、攪拌混合してエポキシ樹脂組成物を得た。
【0081】
[比較例1]
水添ビスフェノールA型エポキシ樹脂「EPICLON EXA−7015」34部に、硬化剤としてヘキサヒドロ無水フタル酸(丸善石油社製:酸無水物当量152g/eq、以下「HHPA」と略記)29.0部、硬化促進剤として、エポキシ開環触媒「U−CAT 18X」0.2部を加え、攪拌混合してエポキシ樹脂組成物を得た。
【0082】
[比較例2]
水添ビスフェノールA型エポキシ樹脂「EPICLON EXA−7015」23.4部に、硬化剤としてメチルヘキサヒドロ無水フタル酸(「EPICLON B−650」大日本インキ株式会社製:酸無水物当量168g/eq)21.0部、硬化促進剤としてエポキシ開環触媒「U−CAT 18X」0.2部、エポキシ変性オルガノポリシロキサン(B−1)を6.5部加え、攪拌混合してエポキシ樹脂組成物を得た。
【0083】
[比較例3]
脂環式エポキシ樹脂「セロキサイド2021」26部に、硬化剤として「HNA」4.0部および「EPICLON B−650」21.0部、硬化促進剤としてエポキシ開環触媒「U−CAT 18X」0.2部、エポキシ変性オルガノポリシロキサン(B−1)を40部加え、攪拌混合してエポキシ樹脂組成物を得た。
【0084】
[比較例4]
脂環式エポキシ樹脂「セロキサイド2021」30部に、硬化剤として「HNA」28.0部、硬化促進剤としてエポキシ開環触媒「U−CAT 18X」0.2部、エポキシ変性シリコーンオイル(信越化学工業(株)社製:KF−105:エポキシ当量490g/eq)を25部加え、攪拌混合してエポキシ樹脂組成物を得た。
【0085】
[比較例5]
芳香族スルホニウム塩として、6フッ化アンチモン酸ベンジルメチルP−ヒドロキシフェニルスルホニウム(三新化学工業社製) 1部と脂環式エポキシ樹脂「セロキサイド2021」を100部を加え、攪拌混合してエポキシ樹脂組成物を得た。
【0086】
[比較例6]
300mLの四つ口フラスコに、脂環式エポキシ樹脂「セロキサイド2021」を256部と、酸無水物として「EPICLON B−650」を10.2部と、助触媒としてエチレングリコールを1.77部(2.85×10-2mol部)とを加え、マントルヒータにて徐々に昇温し、90〜100℃で16時間加熱した。室温まで徐冷した後、芳香族スルホニウム塩として6フッ化アンチモン酸ベンジルメチルP−ヒドロキシフェニルスルホニウム(三新化学工業社製)0.6部を加え、0.5時間撹拌した後、カルボキシル基のエステル転化率を測定すると90.6%でのエポキシ樹脂組成物を得た。
ここで、エステル転化率は、酸無水物のもつカルボキシル基のうちエステル結合に変化した割合をモル%で表したものであり、KOH水溶液による中和反応によって評価した。具体的には、エポキシ樹脂1.00gをエタノール50mLに溶解させ、0.1NKOH水溶液を添加して、BTB指示薬が黄色から青色(pH7.6)に変色する点を中和点として、中和に要したKOH水溶液量からエステル転化してないカルボキシル基量を求めた。
【0087】
エポキシ樹脂組成物の評価;
実施例1〜6、および比較例1〜6で得られたエポキシ樹脂組成物について、ポットライフ、薄膜硬化性、硬化収縮率、耐湿性、熱衝撃試験およびはんだ耐熱性を評価した。
評価方法は以下の通りであり、結果を表1に示した。
【0088】
<ポットライフ>
B型粘度型を用いて初期粘度を測定し、初期粘度の増粘倍数2.0になった期間を求める。(暗所貯蔵)
【0089】
<薄膜硬化性>
各エポキシ樹脂組成物を、厚さ50μmになるようにガラス板上にキャスティング後、120℃×3時間、150℃×3時間硬化させた。 硬化後に脂触して、タックがあるものを×、タックがないものを○とした。
【0090】
<硬化収縮率>
試験片はそれぞれのエポキシ樹脂組成物を、2枚のガラス板を4mmのスペーサーを介して固定した金型に注型し、120℃×3時間、150℃×3時間加熱硬化させて硬化させ、冷却後、10mm×50mmの大きさに切断して試験片を得た。
硬化前の液比重及び硬化後の試験片の比重を、空気比較式比重計(東京サイエンス株式会社製)で測定した。
硬化前後の比重より、次式にて硬化収縮率を求めた。
硬化収縮率(%)=[(硬化後の比重−硬化前の比重)/硬化前の比重]×100
【0091】
<耐湿性>
耐湿性は、JIS−6911の煮沸吸水率の測定方法に準じた。
それぞれのエポキシ樹脂組成物を、2枚のガラス板を0.2mmのスペーサーを介して固定した金型に注型し、120℃×3時間、150℃×3時間加熱硬化させて硬化させ、冷却後、直径50±1mmの円盤状に切断して試験片を得た。
【0092】
<耐熱衝撃性>
30±0.5mm直径のシリコーン容器に、内径3mm、外径10mm、厚さ1mmの真鍮製のワッシャーを入れ、各エポキシ樹脂組成物を厚さ3mmになるように流し入れ、120℃×3時間、150℃×3時間加熱して硬化させた。
シリコーン容器から取り出した硬化物を、熱衝撃試験機(エタック社製)で−20℃×15分間と150℃×15分間を50サイクル繰り返し、50サンプル中、クラックが入っているサンプル数が5未満の場合を○、5サンプル以上にクラックが入っている場合を×とした。
【0093】
<はんだ耐熱性>
上記の耐熱衝撃性試験と同様にしてシリコーン容器を使用して作製した硬化物サンプルを、
30℃、70%RHで168時間放置後、100℃に予熱しておいたはんだリフロー試験機に入れ、50℃/分の速度で230℃まで昇温し、230℃で1分間加熱した。これを2回繰り返す。50サンプル中、剥がれやクラックが入っているサンプル数が5未満の場合を○、5サンプル以上に剥がれ、クラックが入っているものを×とした。
【0094】
表1中の略号は以下の通り。
HNA:メチルノルボルナン−2,3−ジカルボン酸無水物
DSA:ドデセニルコハク酸無水物
HDSA:水添ドデセニルコハク酸無水物
MCTC:メチルシクロヘキセンテトラカルボン酸二無水物
HHPA:ヘキサヒドロ無水フタル酸
EPICLON B−650:メチルヘキサヒドロ無水フタル酸
【0095】
【表1】

【0096】
実施例1〜6のエポキシ樹脂組成物から得られたエポキシ樹脂硬化物は、硬化剤として蒸発エネルギーが16.0kcal/mol以上の酸無水物を全く含まない比較例1および比較例2のエポキシ樹脂硬化物と比べて、薄膜硬化性に優れ、かつ、硬化収縮率も小さい。
また、比較例3のように、硬化剤として蒸発エネルギーが16.0kcal/mol以上の酸無水物を含んでいても、それが少量(硬化剤のうちの50%重量未満)の場合は、薄膜硬化性が劣り、かつ硬化収縮率が大きい。
また、硬化剤として全てが蒸発エネルギーが16.0kcal/mol以上の酸無水物を使用していても、ポリオルガノシロキサンとして本発明の範囲外のもの(シリコーンオイル)を使用した比較例4では、エポキシ樹脂に相溶しない上、耐湿性および耐熱衝撃性が劣化し、はんだ耐熱試験後のはがれが多い。
以上に示した効果により、本発明のエポキシ樹脂硬化物は薄膜硬化性、低硬化収縮率、耐湿性、耐クラック性を兼ね備えたエポキシ樹脂を提供するものであるといえる。
【産業上の利用可能性】
【0097】
本発明のエポキシ樹脂組成物の硬化物は、接着剤、塗料、土木建築用材料および電気・電子部品材料(例えば、半導体用封止材等の絶縁材料等)の様々な分野で使用できる。特に本発明のエポキシ樹脂硬化物は、電気特性およびその他の物理的特性にも優れているので電気・電子部品材料に好適である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エポキシ樹脂(A)、一般式(1)で示されるエポキシ変性オルガノポリシロキサン(B)、および硬化剤(C)を含有してなるエポキシ樹脂組成物であって、硬化剤(C)のうちの50重量%以上が16.0kcal/mol以上の蒸発エネルギーを有する酸無水物(C1)であるエポキシ樹脂組成物。
【化1】

(式中、R1は水素原子または炭素数が1〜6の直鎖もしくは分岐の脂肪族炭化水素基、Xは一般式(2)または(3)で表される置換基、YはR1またはX、aおよびbは1〜300の整数であって、a/bは0.1〜300であり、複数のR1、XおよびYはそれぞれ同一でも異なっていてもよい。〔 〕内はランダム結合、ブロック結合またはそれらの併用を表す。)
【化2】

(式中、R2は炭素数が1〜10および酸素数が0〜5の2価の脂肪族基である。)
【請求項2】
前記(B)の含有量が、前記(A)100重量部に対して、1〜90重量部である請求項1記載のエポキシ樹脂組成物。
【請求項3】
酸無水物(C1)が16.4〜40kcal/molの蒸発エネルギーを有する酸無水物である請求項1または2記載のエポキシ樹脂組成物。
【請求項4】
酸無水物(C1)が、ドデセニルコハク酸無水物、オクテニルコハク酸無水物、メチルヘキシルジカルボン酸無水物、ナジック酸無水物、メチルナジック酸無水物、ノルボルナン−2,3−ジカルボン酸無水物、メチルノルボルナン−2,3−ジカルボン酸無水物、1−イゾプロピル−4−メチルビシクロ(2,2,2)オクタ−5−エン−2,3−ジカルボン酸無水物およびこれらの水添物からなる群から選ばれる1種以上のジカルボン酸無水物である請求項1〜3のいずれか記載のエポキシ樹脂組成物。
【請求項5】
さらに、一般式(4)で表される両末端にのみエポキシ基を有するエポキシ変性オルガノポリシロキサン(D)を含有する請求項1〜4のいずれか記載のエポキシ樹脂組成物。
【化3】

(式中、R3は炭素数が1〜5および酸素数が1〜3の2価の有機基、R4は炭素数が1〜6の直鎖もしくは分岐の脂肪族炭化水素基、R5は炭素数が1〜6の直鎖もしくは分岐の脂肪族炭化水素基、cは1〜10の整数であり、複数のR3、R4およびR5はそれぞれ同一でも異なっていてもよい。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか記載のエポキシ樹脂組成物を硬化させて得られるエポキシ樹脂硬化物。

【公開番号】特開2006−307141(P2006−307141A)
【公開日】平成18年11月9日(2006.11.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−286750(P2005−286750)
【出願日】平成17年9月30日(2005.9.30)
【出願人】(000002288)三洋化成工業株式会社 (1,719)
【Fターム(参考)】