説明

エマルジョン製造装置

【課題】高性能で安定したエマルジョン燃料を製造することができるエマルジョン製造装置を提供すること。
【解決手段】混合液管2の下方に、回転中管軸7に固定された混合液を微粒子化する第1ロータ9と、この第1ロータ9の上方に設けられ、前記第1ロータ9を通過した混合液を圧縮する中間支持体15と、この中間支持体15に設けられた長孔16を通過した液を、さらに微粒子化するように前記回転中管軸7に固定された第2ロータ18とを有するエマルジョン製造装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低公害燃料として用いる安定性の高いエマルジョン燃料等のエマルジョンを製造するエマルジョン製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
軽油、重油、重質油等の燃料油に水を添加して攪拌し、燃料油中に水を分散させたエマルジョン燃料が知られている。ここで、重質油とは、常温では流動性に乏しく高温に加熱しないと流動しない油で、好ましくは常圧での沸点340℃以上の成分を90重量%以上含む次に示す油が含まれる。石油系アスファルト類およびその油の混合物、石油系アスファルト各種処理物、その中間製品、残渣及びそれらの混合物、常温で流動しない高流動点油あるいは原油、石油系タールピッチ及びその油混合物、ビチューメン類、天然アスファルト、オリノコタール、タール、残渣油等である。
【0003】
エマルジョン燃料は、高温場に噴霧されたとき、燃料液滴中の水は瞬時に沸騰して、燃料液滴を微粒化して(ミクロ爆発)、これによって高速で高効率の燃焼を実現し、COや煤の生成を抑制できる。また、水の蒸発によって火炎温度が低下するので、排ガス中のNOxの低減効果もあるので低公害燃料として知られている。
【0004】
エマルジョン燃料を製造する場合、混合装置(ミキサー)の性能の良否が製造されたエマルジョン燃料の燃焼性能や長期安定性に大きく影響を及ぼす。これまで混合装置、特にインライン型の混合装置には、スタティックミキサーや高圧ホモジナイザなどが利用されてきた。
【0005】
スタティックミキサーの場合は、管路内に流体が交互に回転しながら進行するように交互にねじり方向が反転するフィン列が挿入されている。
【0006】
一方、高圧ホモジナイザの場合は、数百〜数千気圧の高圧で流体を徴小ノズルから噴出させ、そのとき発生する大きな剪断力で微細混合を促進している。
【0007】
また、さらに、エマルジョン燃料をポンプによる圧出またはノズルからのジェット噴出により高速で衝突させ、ロータにより撹拌するとともに、磁場印加装置を通過させて起電力によってミセル粒子の各分子クラスタを引きちぎり、ミセル粒子の混合および拡散を促進して粒径を小さくする技術も開示されている。(例えば、特許文献1を参照)
また、アスファルトや油サンドなどの重質油を対象としたものとして、所定温度に保持された重質油タンク、乳化剤タンク及び水タンクから定量ポンプで供給される各原料を、スタティクミキサで予混合後、高剪断攪拌機(ここでは特殊機化工製、パイプラインホモミキサを使用)で攪拌してエマルジョン燃料化し、温度調整器を経て重質油エマルジョン燃料タンク7に移送するエマルジョン燃料の製造方法が開示されている。(特許文献2参照)。
【0008】
また、エマルジョン燃料は、一般に、それ自体ではエマルジョン燃料として経時的に安定しているわけではない。すなわち、水を微細な粒子にして油中に分散しただけのエマルジョン燃料は、やがては凝集して油は上層、水は下層と2相に分離してしまう。かかる油と水とが2相分離した燃料はもはや燃料として使用することは不可能である。したがって運搬や貯蔵時の経時分散安定性を確保する必要がある。
【0009】
この経時安定性確保するべく、従来、分散水粒子の粒径を微小化したり、安定剤を添加したりする技術が提案されている。(例えば、特許文献3を参照)
【特許文献1】特開2004−161943号公報
【特許文献2】特開平8-209157号公報
【特許文献3】特開平2−105890号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、エマルジョン燃料の製造に関して、上述の、スタティックミキサーを用いた場合は、十分な微細混合が得られない。
【0011】
また、高圧ホモジナイザはエマルジョン燃料製造時に消費するエネルギーに比べて製造量が少なく、装置の値段も非常に高価になるという問題点がある。
【0012】
また、重質油を対象としたものは、燃料油中に水を分散させる手段として、高剪断攪拌機を用いている。しかしながら、高剪断攪拌機の撹拌翼を高速回転することによる撹拌作用のみで燃料油中に水を十分分散させるためには、大型の攪拌翼が必要となり、攪拌機の負荷が大きく、攪拌翼の交換頻度が高くなり、また、電気代も高額になる。
【0013】
また、攪拌翼による一重旋回流で攪拌した場合には、質量の大きい粗粒液滴が遠心力により攪拌容器の内壁に付着するため、短時間での均一混合は難しく、エマルジョン燃料の含水率をオンラインで精密制御することは困難である。特に、C重油等の高粘性燃料油の場合にはこの短時間での均一混合は難しい。
【0014】
さらに、C重油等の高粘性燃料油を攪拌翼による一重旋回流で攪拌して混合するには140℃程度に加温して流動性を高める必要があり、加温のためのエネルギー、時間、設備がかかり、低質燃料を安価に利用することができない。
【0015】
またさらに、乳化剤を数%程度混合する必要があるが、乳化剤を数%程度混合すると、エマルジョン燃料の価格が高くなり、また乳化剤が燃焼に悪影響を及ぼすといった問題がある。
【0016】
本発明はこれらの事情に基づいてなされたもので、高性能で安定したエマルジョン燃料を製造することができるエマルジョン製造装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明のエマルジョン製造装置の実施の形態に係る第1の特徴は、円筒状容器と、この円筒状容器のほぼ中心軸上に配置され、上端部から少なくも2種類の液体が供給され、これらの液体を混合して前記円筒状容器の底部上方において放出する混合液管と、この混合液管と同心的に配置され、前記容器内で回転可能に設けられた回転中空軸と、この回転中空軸の下端部に放射状に固着された複数の翼板およびこれらの翼板の下端部が固着され、前記混合液管の下端部から流出される前記混合液を前記複数の翼板間を前記円筒状容器の内壁方向に導く放射状の流路を形成する円錐状底板からなる第1ロータと、前記円筒状容器の上部において、前記回転中空軸に放射状に固着された複数の翼板からなる第2ロータと、この第2ロータと前記第1ロータとの間の前記円筒状容器の内壁に固定され、前記回転軸が回転自在に支持されると共に、前記混合液が通過する複数の通過孔が設けられた中間支持体と、前記回転中空軸を回転駆動する駆動手段とを有することである。
【0018】
また、本発明のエマルジョン製造装置の実施の形態に係る第2の特徴は、前記回転中空軸は、少なくとも10,000rpm以上の回転数で高速回転していることである。
【0019】
また、本発明のエマルジョン製造装置の実施の形態に係る第3の特徴は、前記第1ロータおよび第2ロータには、それぞれ12枚の翼が等角度で立設されていることである。
【0020】
また、本発明のエマルジョン製造装置の実施の形態に係る第4の特徴は、前記混合液管は上端が二股に分岐されていることを特徴とすることである。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、高性能で安定したエマルジョン燃料等を製造することができるエマルジョン製造装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明のエマルジョン製造装置についての実施するための最良の形態を、図面を参照して説明する。
【0023】
図1は、本発明のエマルジョン製造装置の一実施形態を示す断面図である。
【0024】
図1に示したように、エマルジョン製造装置の基本的な構成は、円筒状容器1の中心軸に沿って、油(軽油、灯油、A重油等)と水とを混合して移送する混合液管2が垂直方向に設けられている。この混合液管2は、上部がY字状に分岐した分岐管2a、2bを備え、分岐管2a、2bのそれぞれに油タンク3と水タンク4とが接続されている。すなわち、この混合液管2はステンレス製で、上部がY字状に二又に分岐した分岐管2a、2bには流量弁4a、4bがそれぞれ設けられている。この流量弁4a、4bを介して分岐管2a、2bの先端は、一方が油タンク3の底部に、他方が水タンク4の底部にそれぞれ配管されている。なお、油タンク3および水タンク4はいずれもステンレス製で、その内部にはそれぞれ内部に貯蔵している液(水又は油)の液温を所定温度(例えば、55℃)に保つためにヒータ5、6が内蔵されている。
【0025】
混合液管2の外側には、混合液管2と同心に、混合液管2と離間して高速回転する回転中空軸7が配置されている。この回転中空軸7は、上部が固定板8に第1の軸受8aを介して回転自在に支持され、下部には第1ロータ9の円柱状の第1の回転体10に固定されている。この第1ロータ9はステンレス製で、図2に平面図を示したように、第1の回転体10の下面10aに、12枚の板状の第1パドル11が放射状に固定されている。第1ロータ9の下方には、第1ロータ9と一体に形成されている円錐状底板12が設けられている。円錐状底板12は、円錐状の上面12aと、平坦な底面12bを有している。円錐状の上面12aはその頂点12cが、混合液管2の下端部に対向して配置され、その頂角は約60度に形成されている。第1ロータ9の第1の回転体10の下面10aと円錐状底板12の上面12aとの間には第1のチャンバ13が形成されており、このチャンバ13はその周辺部が、12枚の第1パドル11により放射状に分割されている。また、第1パドル11はその上辺11aが第1の回転体10の下面10aに植設され、その下辺11bが円錐状底板12の傾斜した上面12aに植設されている。第1ロータ9は、これらの第1の回転体10、12枚の第1パドル11および円錐状底板12により構成されている。このように構成された第1ロータ9の周囲と円筒状容器11の側壁との間には流路としての隙間gが形成されている。円錐状底板12には、円筒状容器11の外側下部に設けられたモータ14の回転軸14aに直結されている。
【0026】
回転中空軸7の略中央部は、円筒状容器1に一体に固定された円柱状の中間支持体15内に設けられた第2の軸受15aにより、回転自在に軸受されている。この円柱状の支持体15には、図3にその水平断面図を示すように、円周方向に沿って、6個の長孔(オリフィス)16が等間隔に設けられている。これらの長孔16は、第1ロータ9の周囲と円筒状容器11の側壁との間には流路としての隙間gと共に、液体の流路を形成する。
【0027】
円柱状の中間支持体15の上部には、第2のチャンバ17が設けられている。この第2のチャンバ17は、固定板8と円柱状の支持体15との間に円筒状の閉じた空間を形成し、円筒状容器1の一部を形成するする。この第2のチャンバ17内には、回転中空軸7と一体で高速回転する第2ロータ18が配置されている。
【0028】
この第2ロータ18も、図2に示した第1ロータ9と同様に、12枚の板状の第2パドル19が円柱状の第2の回転体20の周囲に放射状に固定されている。この第2のチャンバ17には、その底面に、円柱状の中間支持体15に設けられた6個の長孔16を通過した流体が流入する流入孔17aが形成されている。また、第2のチャンバ17の側面には、第2のチャンバ17内に流入した流体を円筒状容器1の外部に排出するための流出口17bが形成されている。第2ロータ18は第1ロータ9と同様に、ステンレス製であり、第2パドル19の面はいずれも鏡面仕上げが施されている。
【0029】
次に、上述の構成のエマルジョン製造装置の動作について説明する。なお、図1における矢印は、いずれも、液の流れの方向を示している。混合液管2を自由落下する水と油の混合液を、混合液管2の下方に設けられた第1ロータ9の第1パドル11で混合液に対してせん断力を加えて粉砕し、微粒化してエマルジョン燃料化する。
【0030】
すなわち、モータ14の回転により、動力伝達機構を介して回転中空軸7は15,000rpmで高速回転している。したがって、回転中空軸7に固着されている第1ロータ9と第2ロータ18も15,000rpmで高速回転している。なお、回転中空軸7は少なくとも10,000rpm以上の回転数が望ましい。
【0031】
一方、油タンク3および水タンク4に貯蔵されている液(例えば、軽油と水)はそれぞれ、ヒータ6により液温が55℃程度に維持されている。各タンク3、4内の液はそれぞれ、分岐管2a、2bから液量調整バルブ4a、4bを通過して混合液管2に流入し、混合液管2の内部で水と油の混合液となり、混合液管2の内部を自由落下する。
【0032】
なお、混合液管2に流入する液は、それぞれ液量調整バルブ4a、4bによる調整されており、混合液管2の内部を自由落下する混合液の割合は、体積比率で、水:油=40:60となっている。
【0033】
混合液管2の内部を自由落下した混合液は、第1のチャンバ13に流入し、円錐状底板12の上面12aに衝突して円周方向に飛散し、第1パドル11により分割された流路内に流入する。第1パドル11右側に回転しているため、混合液は第1パドル11により粉砕されて粒径がφ5μm程度の微粒子によるエマルジョン燃料に変換される。さらに、変換されたエマルジョン燃料は、第1ロータ9の遠心力により円筒状容器1の側壁に衝突し、円筒状容器1と第1ロータ9周囲と間に形成されている隙間g内を上昇して円柱状の中間支持体15の下面に衝突する。
【0034】
中間支持体15には、図3に示すように、エマルジョン燃料を圧縮して通過させるための長孔16が形成されているので、エマルジョン燃料は、長孔16を通過する際に膨張状態から圧縮状態に変換される。そして、長孔16を通過した圧縮状態の流入孔17aを介して第2のチャンバ17内に流入する。第2のチャンバ17内には高速回転する第2ロータ18が設けられているため、第2のチャンバ17内に流入したエマルジョン燃料は、第2パドル19に衝突してさらに粉砕されて微粒子化される。この微粒化されたエマルジョン燃料は、第2のチャンバ17側面に設けられた流出口17bから外部に流出し、例えば、ボイラのバーナ等へ供給される。
【0035】
このようにして取り出されたエマルジョン燃料を採取し、レーザー光散乱方式の粒度分布測定器でミセル(会合体)粒径の平均値を測定したところ、φ0.1μmであった。また、このエマルジョン燃料を1ヶ月間、静置状態で観察した結果、全く分離が認められず、きわめて安定性の良好なエマルジョン燃料であることが確認された。
【0036】
なお、上述のエマルジョン製造装置は食用エマルジョンの製造にも利用できる。その他当業者であれば容易に考え付く種々の改良を施しした状態で実施し得ることは言うまでもない。
【0037】
なお、本発明は上記の実施形態のそのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記の実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより、種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。さらに、異なる実施形態にわたる構成要素を適宜組み合わせてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明のエマルジョン製造装置の一実施形態を示す断面図。
【図2】本発明のエマルジョン製造装置を構成する第1ロータにおけるパドルの配置を示す平面図。
【図3】本発明のエマルジョン製造装置を構成する支持体における長孔の配置を示す平面図。
【符号の説明】
【0039】
1…円筒状容器、2…混合液管、3…油タンク、4…水タンク、5…ヒータ、6…ヒータ、7…回転中空軸、8…固定板、8a…第1の軸受、9…第1ロータ、10…第1の回転体、11…第1パドル、12…円錐状底板、13…第1のチャンバ、14…モータ、15…中間支持体、16…長孔16、17…第2のチャンバ、18…第2ロータ、19…第2パドル、20…第2の回転軸。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
円筒状容器と、この円筒状容器のほぼ中心軸上に配置され、上端部から少なくも2種類の液体が供給され、これらの液体を混合して前記円筒状容器の底部上方において放出する混合液管と、この混合液管と同心的に配置され、前記容器内で回転可能に設けられた回転中空軸と、この回転中空軸の下端部に放射状に固着された複数の翼板およびこれらの翼板の下端部が固着され、前記混合液管の下端部から流出される前記混合液を前記複数の翼板間を前記円筒状容器の内壁方向に導く放射状の流路を形成する円錐状底板からなる第1ロータと、前記円筒状容器の上部において、前記回転中空軸に放射状に固着された複数の翼板からなる第2ロータと、この第2ロータと前記第1ロータとの間の前記円筒状容器の内壁に固定され、前記回転軸が回転自在に支持されると共に、前記混合液が通過する複数の通過孔が設けられた中間支持体と、前記回転中空軸を回転駆動する駆動手段とを有することを特徴とするエマルジョン製造装置。
【請求項2】
前記回転中空軸は、少なくとも10,000rpm以上の回転数で高速回転していることを特徴とする請求項1記載のエマルジョン製造装置。
【請求項3】
前記第1ロータおよび第2ロータには、それぞれ12枚の翼が等角度で立設されていることを特徴とする請求項1記載のエマルジョン製造装置。
【請求項4】
前記混合液管は上端が二股に分岐されていることを特徴とする請求項1記載のエマルジョン製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−185223(P2008−185223A)
【公開日】平成20年8月14日(2008.8.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−16369(P2007−16369)
【出願日】平成19年1月26日(2007.1.26)
【出願人】(503465487)株式会社ブイエスディー (7)
【出願人】(507028941)株式会社フジミプラント (5)
【Fターム(参考)】