説明

エリスロポエチン応答性細胞、組織及び器官の保護、回復ならびに増強

【課題】エリスロポエチン応答性細胞、それらに関連する細胞、組織及び器官を保護及び増強するための内皮細胞バリアを介したエリスロポエチンの送達方法の提供。
【解決手段】エリスロポエチンや修飾型エリスロポエチン等のエリスロポエチン受容体活性化因子の全身もしくは局所投与によって、ヒトを含む哺乳動物のエリスロポエチン応答性細胞、組織、器官もしくは身体部分の機能又は生存力をin vivo、in situまたはex vivoで保護又は増強する方法及び組成物。エリスロポエチンは、眼の疾患、心臓血管疾患、心肺疾患、呼吸器疾患、腎臓疾患、尿路疾患、生殖器疾患、胃腸疾患、ならびに内分泌性及び代謝性異常だけでなく、主に神経的もしくは精神的な症状を有するCNS又は末梢神経系のヒト疾患の治療又は予防にも有用である。

【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
米国特許法の下に、2000年12月29に出願された米国仮出願番号第60/259,245号(本明細書中に参考として全て組み込まれる)に基づいて優先権を主張する。
【0002】
発明の背景
長年の間、唯一明らかであったエリスロポエチンの生理学的役割は、赤血球細胞産生の制御のみであった。最近になって、エリスロポエチンは、サイトカインのスーパーファミリーのメンバーとして、エリスロポエチン受容体(エリスロポエチン-R)との相互作用により媒介される他の重要な生理学的機能を果たすことを示す幾つかの証拠が得られた。これらの作用としては、有糸分裂誘発、平滑筋細胞及び神経細胞内へのカルシウム流入の調節、ならびに中間代謝への影響が挙げられる。エリスロポエチンは、低酸素性の細胞内ミクロ環境(hypoxic cellular microenvironment)を改善し及び代謝ストレスにより引き起こされるプログラム細胞死を調節する代償性反応をもたらすと考えられている。研究により、頭蓋内に投与されたエリスロポエチンは低酸素性神経損傷からニューロンを守るということが立証されたが、頭蓋内投与は、(特に正常な個体への)治療的用途での投与経路としては実用的ではなく受け入れがたいものである。さらに、エリスロポエチンを与えた貧血患者の過去の研究により、末梢投与されたエリスロポエチンは脳内に輸送されないという結論が出された(Martiら, 1997, Kidney Int. 51:416-8; Juulら, 1999, Pediatr. Res. 46:543-547; Buemiら, 2000, Nephrol. Dial. Transplant. 15:422-433.)。
【0003】
エリスロポエチンの赤血球産生作用を改良する活動とともに、エリスロポエチンの様々な修飾形態がこれまで記載されてきた:例えば、米国特許第5,457,089号及び米国特許第4,835,260号に記載されたカルボキシ末端のアミノ酸が修飾されたもの;米国特許第5,856,292号に記載されたもの等の、1分子あたり様々な数のシアル酸残基を有するエリスロポエチンのアイソフォーム;米国特許第4,703,008号に記載されたポリペプチド;米国特許第5,767,078号に記載されたアゴニスト;米国特許第5,773,569号及び第5,830,851号に記載されたエリスロポエチン受容体に結合するペプチド;ならびに米国特許第5,835,382号に記載された小分子模倣体等がある。
【0004】
技術分野
本発明は、エリスロポエチン応答性細胞、それらに関連する細胞、組織及び器官をin situ及びex vivoで保護、維持、増強もしくは回復するためのエリスロポエチンの使用、ならびに脈管構造の遠位にある(distal to the vasculature)エリスロポエチン応答性細胞、それらに関連する細胞、組織及び器官を保護及び増強するための内皮細胞バリアを介したエリスロポエチンの送達、即ち本発明に関係する関連分子の運搬に関する。
【発明の開示】
【0005】
発明の概要
1つの態様において、本発明は、エリスロポエチン応答性哺乳動物細胞、それらに関連する細胞、組織、及び器官の機能もしくは生存力を保護、維持、増強又は回復する医薬組成物を調製するためのエリスロポエチンの使用に関する。1つの具体的な態様において、エリスロポエチン応答性哺乳動物細胞、それらに関連する細胞、組織又は器官は、接着内皮細胞バリアの存在によって脈管構造の遠位にある。他の具体的な態様において、これらの細胞、組織、器官、又は他の身体部分は、哺乳動物の身体から単離されたもの(例えば移植用のもの等)である。非限定的な例として、エリスロポエチン応答性細胞又は組織は、神経、網膜、筋肉、心臓、肺、肝臓、腎臓、小腸、副腎皮質、副腎髄質、毛細管内皮、精巣、卵巣、脾臓もしくは子宮内膜の細胞又は組織であってもよい。エリスロポエチン応答性細胞のこれらの例は単に例示的なものである。1つの態様において、エリスロポエチン応答性細胞、それに関連する細胞、組織又は器官は、興奮性細胞、組織もしくは器官ではない、又は主に興奮性細胞もしくは組織を含まない。特定の実施形態において、上記エリスロポエチン誘導体を用いる対象となる哺乳動物の細胞、組織もしくは器官は、その細胞、組織又は器官の生存力に対して有害な少なくとも1つの条件下に一定時間置いたもしくはこれから置くものである。このような条件としては、外傷性のin-situでの低酸素性もしくは代謝性機能不全、外科手術により誘導されたin-situでの低酸素性もしくは代謝性機能不全、又はin-situでの毒素への曝露が挙げられる。in-situでの毒素への曝露は、化学療法又は放射線療法に関係するものである。1つの実施形態において、有害条件は、ある種の外科手術で使用されるような心肺バイパス(人工心肺装置)によりもたらされる。
【0006】
エリスロポエチンは、眼の疾患、心臓血管疾患、心肺疾患、呼吸器疾患、腎臓疾患、尿路疾患、生殖器疾患、胃腸疾患、ならびに内分泌性及び代謝性異常だけでなく、主に神経的もしくは精神的な症状を有するCNS又は末梢神経系のヒト疾患の治療又は予防にも有用である。
【0007】
また本発明は、哺乳動物、特にヒトに投与するための特定のエリスロポエチン誘導体を含む医薬組成物にも関する。このような医薬組成物は、経口、鼻腔内、もしくは非経口投与用に、又は、細胞、組織もしくは器官の生存力をex vivoで維持するための潅流溶液として、製剤化することができる。
【0008】
上記目的に有用なエリスロポエチン誘導体は、天然エリスロポエチン、エリスロポエチン類似体、エリスロポエチン模倣体、エリスロポエチンフラグメント、ハイブリッドエリスロポエチン分子、エリスロポエチン受容体結合性分子、エリスロポエチンアゴニスト、腎エリスロポエチン、脳エリスロポエチン、そのオリゴマー、その多量体、その突然変異蛋白質、その同属種、その天然発生形態、その合成形態、その組換え形態、そのグリコシル化変異体、その脱グリコシル化変異体、又はその組合せであってもよい。エリスロポエチン応答性細胞に恩恵をもたらすことができるあらゆる形態のエリスロポエチンは、本発明のこの態様に包含される。
【0009】
上記目的に有用な他のエリスロポエチン誘導体及び医薬組成物は、天然エリスロポエチンだけでなく、天然エリスロポエチン(好ましくは天然ヒトエリスロポエチン)に少なくとも1つの修飾を行うことによって改変したエリスロポエチンも含む。少なくとも1つの修飾とは、エリスロポエチン分子の少なくとも1つのアミノ酸の修飾であっても、エリスロポエチン分子の少なくとも1つの糖鎖の修飾であってもよい。もちろん、本明細書中に記載される目的に有用なエリスロポエチン分子は、天然分子に複数の修飾を加えたもの、例えば該分子のアミノ酸部分に複数の修飾を加えたもの、該分子の糖鎖部分に複数の修飾を加えたもの、又は該分子のアミノ酸部分に少なくとも1つの修飾と該分子の糖鎖部分の少なくとも1つに修飾とを加えたものであってもよい。修飾型エリスロポエチン分子は、天然分子と比較して、エリスロポエチン応答性哺乳動物細胞の機能もしくは生存力を保護、維持、増強又は回復する能力を維持しており、且つ上記望ましい特徴に関係のないエリスロポエチン分子の他の特性がないものである。好適な実施形態において、エリスロポエチン誘導体は赤血球産生作用を持たない。
【0010】
1つの実施形態において、本発明のエリスロポエチンは、少なくともシアル酸成分を持たない。好適な実施形態において、修飾型エリスロポエチンはアシアロエリスロポエチンであり、最も好適には、ヒトアシアロエリスロポエチンである。他の実施形態において、修飾型エリスロポエチンは、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12又は13個のシアル酸成分を有する。
【0011】
第2の実施形態において、修飾型エリスロポエチンは、少なくともN結合型もしくはO結合型糖鎖を持たない。
【0012】
第3の実施形態において、修飾型エリスロポエチンは、天然糖鎖を有するエリスロポエチンを少なくとも1つのグリコシダーゼで処理することによって少なくとも糖鎖含有量が低下している。
【0013】
第4の実施形態において、修飾型エリスロポエチン分子の糖鎖部分は、非哺乳動物細胞中で組換えエリスロポエチンを発現させることによって少なくとも非哺乳動物のグリコシル化パターンを有する。好適な実施形態において、修飾型エリスロポエチンは、昆虫細胞又は植物細胞内で発現される。
【0014】
第5の実施形態において、修飾型エリスロポエチンは、化学的に還元することもできる少なくとも1つ以上の酸化された糖鎖を有する。好適な実施形態において、修飾型エリスロポエチンは、過ヨウ素酸塩酸化型エリスロポエチンであり、他の好適な実施形態において、過ヨウ素酸塩酸化型エリスロポエチンは、水素化ホウ素ナトリウム又はシアノ水素化ホウ素ナトリウム等の水素化ホウ素塩で化学的に還元される。
【0015】
第6の実施形態において、上記使用のための修飾型エリスロポエチンは、少なくとも1つ以上の修飾されたアルギニン残基を有する。1つの実施形態において、修飾型エリスロポエチンは、その1つ以上のアルギニン残基上にグリオキサール成分(例えばアリールグリオキサール又はアルキルグリオキサール成分)を含む。他の実施形態において、少なくとも1つのアルギニン残基は、2,3-ブタンジオン又はシクロヘキサンジオン等(ただしこれらに限定されない)のビシナルジケトンとの反応により修飾される。
【0016】
第7の実施形態において、修飾型エリスロポエチンは、少なくとも1つ以上の修飾されたリシン残基を含むもの、又はエリスロポエチン分子のN末端アミノ基が修飾されたもの、例えばリシン残基もしくはN末端アミノ基とアミノ基修飾剤との反応により得られたもの等である。修飾されたリシン残基はさらに、化学的に還元することができる。1つの好適な実施形態において、エリスロポエチンは、1つ以上のリシン基を介してビオチン化もしくはカルバミル化される。他の好適な実施形態において、リシンをアルデヒドもしくは還元糖と反応させてイミンを形成させ、このイミンをシアノ水素化ホウ素ナトリウム等を用いた還元により安定化させてN-アルキル化リシン(グルシトリルリシン(glucitolyl lysine)等)を形成させたり、または還元糖の場合は該イミンをアマドリ転位又はヘインズ転位(Heyns rearrangement)により安定化させて、α-デオキシ-α-フルクトシルリシン等のα-デオキシ-α-アミノ糖を形成してもよい。他の好適な実施形態において、リシン基は、例えばシアナートイオンとの反応によりカルバミル化(カルバモイル化)されたり、またはアルキル-イソシアナート、アリール-イソシアナート、もしくはアリール-イソチオシアナートによりそれぞれアルキル-カルバミル化、アリール-カルバミル化、又はアリール-チオカルバミル化されるか、または反応性アルキルカルボン酸もしくはアリールカルボン酸誘導体により(例えば無水酢酸、無水コハク酸又は無水フタル酸との反応等により)アシル化されたりしてもよい。また少なくとも1つのリシン基を、トリニトロベンゼンスルホン酸又は好ましくはその塩との反応によりトリニトロフェニル修飾させてもよい。他の実施形態において、リシン残基は、グリオキサール誘導体との反応により(例えばグリオキサール、メチルグリオキサール又は3-デオキシグルコソンとの反応等により)修飾して、対応するα-カルボキシアルキル誘導体を形成してもよい。
【0017】
第8の実施形態において、エリスロポエチンの少なくとも1つのチロシン残基が、求電子試薬により、例えばニトロ化又はヨウ素化されることによって、芳香環位置で修飾されていてもよい。
【0018】
第9の実施形態において、エリスロポエチンの少なくともアスパラギン酸もしくはグルタミン酸残基が、例えばカルボジイミドと反応させた後、グリシンアミド等(ただしこれに限定されない)のアミンと反応させることにより、修飾されていてもよい。
【0019】
第10の実施形態において、エリスロポエチンの少なくともトリプトファン残基が、n-ブロモスクシンイミド又はn-クロロスクシンイミドとの反応等により修飾されていてもよい。
【0020】
第11の実施形態において、例えばニンヒドリンと反応させた後に得られたカルボニル基を水素化ホウ素と反応させること等によって、エリスロポエチンの少なくとも1つのアミノ基が除去された修飾型エリスロポエチン分子が提供される。
【0021】
第12の実施形態において、ジチオトレイトール等の還元剤と反応させた後に続くスルフヒドリルをヨードアセトアミド、ヨード酢酸又は他の求電子試薬と反応させてジスルフィド結合の再形成を防ぐことによって、エリスロポエチン分子の中のシスチン結合の少なくとも1つの開裂を少なくとも有する修飾型エリスロポエチンが提供される。
【0022】
第13の実施形態において、分子生物学的技法を用いて、リシン、アルギニン、トリプトファン、チロシン、又はシステイン残基のうちの少なくとも1つによる沢山のアミノ酸のうちのいずれか一つの(ロイシン等)の少なくとも1つの置換を有する修飾型エリスロポエチンが提供される。
【0023】
第14の実施形態において、例えばトリプトファン残基の後ろを切断するために、修飾型エリスロポエチンを特定の残基を標的とする限定的な化学的蛋白分解(limited chemical proteolysis)にかける。このようにして得られたエリスロポエチンフラグメントは本明細書中に包含される。
【0024】
上記のように、本明細書中に記載された目的に有用なエリスロポエチンは、上記修飾のうちの少なくとも1つを有するものであってもよいが、上記修飾のうちの2つ以上を有するものであってもよい。エリスロポエチン分子の糖鎖部分に1つの修飾とアミノ酸部分に1つの修飾とを有する修飾型エリスロポエチンの例として、修飾型エリスロポエチンはアシアロエリスロポエチンであり、そのリシン残基がビオチン化もしくはカルバミル化されている。また本発明は、上記エリスロポエチンの1つ以上を含む組成物(医薬組成物等)も包含する。
【0025】
本発明の他の態様において、上記エリスロポエチンのうちの1つ以上を有効量投与することによって、エリスロポエチン応答性哺乳動物細胞、ならびにそれらに関連する細胞、組織及び器官の機能もしくは生存力を保護、維持、増強又は回復する方法が提供される。この方法の1つの特定の態様において、エリスロポエチン応答性哺乳動物細胞、ならびにそれらに関連する細胞、組織もしくは器官は、接着内皮細胞バリアの存在によって脈管構造の遠位にある。他の特定の態様において、細胞、組織、器官又は他の身体部分は哺乳動物の身体から単離されたもの(例えば移植手術用のもの等)である。非限定的な例として、エリスロポエチン応答性細胞又は組織は、神経、網膜、筋肉、心臓、肺、肝臓、腎臓、小腸、副腎皮質、副腎髄質、毛細管内皮、精巣、卵巣もしくは子宮内膜の細胞又は組織であってもよい。エリスロポエチン応答性細胞のこれらの例は単に例示的なものである。特定の実施形態において、エリスロポエチン応答性細胞、又はそれに関連する細胞、組織もしくは器官は、興奮性の細胞、組織もしくは器官ではない、又は主に興奮性細胞もしくは組織を含むものではない。他の特定の実施形態において、上記エリスロポエチン誘導体が投与される哺乳動物の細胞、組織もしくは器官は、その細胞、組織又は器官の生存力に対して有害な少なくとも1つの条件下に一定時間置いた、もしくはこれから置くものである。このような条件としては、外傷性のin-situでの低酸素性もしくは代謝性機能不全、外科手術により誘導されたin-situでの低酸素性もしくは代謝性機能不全、又はin-situでの毒素への曝露が挙げられる。in-situでの毒素への曝露は、化学療法又は放射線療法に関係するものであってもよい。1つの実施形態において、本発明は、心肺バイパスにより生じる有害な状態から守る。
【0026】
本発明の他の態様において、上記エリスロポエチン及び天然ヒトエリスロポエチンを含む他の任意のエリスロポエチン分子は、エリスロポエチン応答性哺乳動物細胞、ならびにそれらに関連する細胞、組織及び器官の機能又は生存力を保護、維持、増強又は回復するための細胞、組織及び器官のex-vivo治療のための医薬組成物の調製で使用することができる。このようなex-vivo治療は、例えば移植(自己移植または異個体間移植(xenotransplant))用の細胞、組織又は器官の保存に有用である。細胞、組織又は器官がドナー又は受容者の脈管構造と一体化されない間、細胞の機能を維持するためには、エリスロポエチンを含む溶液中に細胞、組織又は器官を入れたり、脈管構造もしくは他の手段を介して潅流液を器官の中に徐々に入れたりしてもよい。潅流液の投与は、回収された器官及び受容者に行うだけでなく、器官を回収する前にドナーに行っても良い。さらに、任意のエリスロポエチンの上記使用は、個体の脈管構造から細胞、組織又は器官を単離して一定時間に渡って、主にex vivoで存在するときにはいつでも有用である。ここで、「単離された」というという用語は、細胞、組織、器官もしくは身体部分又はその脈管構造を拘束したり又は締めつけたりすること(特に心-肺バイパス手術等の外科手術中に行われるもの等)、細胞、組織、器官又は身体部分の脈管構造をバイパスすること、細胞、組織、器官又は身体部分を哺乳動物の身体から取り出すこと(異個体間移植の前又は自己移植の前及び自己移植中に行われるもの等)、あるいは細胞、組織、器官又は身体部分の外傷性切断を指す。このように、本発明のこの態様は、in situ及びex vivoの両方でのエリスロポエチンを用いた潅流に関する。ex vivoにおいて、エリスロポエチンは細胞、組織又は器官の保存溶液中に提供されてもよい。いずれの態様の場合であっても、連続的潅流、拍動性潅流、注入、浴(bathing)、注射、又はカテーテルによって曝露を行うことができる。
【0027】
さらに他の態様において、本発明は、エリスロポエチン応答性細胞もしくは組織を含む、哺乳動物の身体から単離された哺乳動物細胞、組織、器官又は身体部分の生存力を保護、維持、増強又は回復する方法に関する。この方法は、上記生存力を保護、維持、増強又は回復するのに効果的な時間に渡って、単離した哺乳動物細胞、組織、器官又は身体部分を一定量のエリスロポエチンに曝露する工程を少なくとも含む。非限定的な例において、「単離された」とは、細胞、組織、器官もしくは身体部分の脈管構造を拘束したり又は締めつけたりすること(特に心-肺バイパス手術等の外科手術中に行われるもの等)、細胞、組織、器官又は身体部分の脈管構造をバイパスすること、細胞、組織、器官又は身体部分を哺乳動物の身体から取り出すこと(異個体間移植の前又は自己移植の前及び自己移植中に行われるもの等)、あるいは細胞、組織、器官又は身体部分の外傷性切断を指す。このように、本発明のこの態様は、in situ及びex vivoの両方におけるエリスロポエチンを用いた潅流に関する。ex vivoにおいて、エリスロポエチンは細胞、組織又は器官の保存溶液中に提供される。いずれの態様の場合であっても、連続的潅流、拍動性潅流、注入、浴、注射又はカテーテルによって曝露を行うことができる。
【0028】
上記の単離またはex-vivoにおける実施形態において、有用なエリスロポエチンは、天然エリスロポエチン、エリスロポエチン類似体、エリスロポエチン模倣体、エリスロポエチンフラグメント、ハイブリッドエリスロポエチン分子、エリスロポエチン受容体結合性分子、エリスロポエチンアゴニスト、腎エリスロポエチン、脳エリスロポエチン、そのオリゴマー、その多量体、その突然変異蛋白質、その同属種、その天然発生形態、その合成形態、その組換え形態、そのグリコシル化変異体、その脱グリコシル化変異体、又はその組合せを含む上記エリスロポエチンのいずれであってもよい。エリスロポエチン応答性細胞に恩恵をもたらすことができるあらゆる形態のエリスロポエチンは、本発明のこの態様に包含される。他のエリスロポエチンとしては、本明細書中の教示に基づき幾つか代表的な(ただし非限定的な)例を挙げると、アシアロエリスロポエチン、N-脱グリコシル化エリスロポエチン、O-脱グリコシル化エリスロポエチン、糖鎖含有量の低いエリスロポエチン、グリコシル化パターンを改変したエリスロポエチン、糖鎖が酸化された後に還元されたエリスロポエチン、アリールグリオキサール修飾型エリスロポエチン、アルキルグリオキサール修飾型エリスロポエチン、2,3-ブタンジオン修飾型エリスロポエチン、シクロヘキサンジオン修飾型エリスロポエチン、ビオチン化エリスロポエチン、N-アルキル化-リシル-エリスロポエチン、グルシトリルリシンエリスロポエチン、α-デオキシ-α-フルクトシルリシン-エリスロポエチン、カルバミル化エリスロポエチン、アセチル化エリスロポエチン、サクシニル化エリスロポエチン、α-カルボキシアルキルエリスロポエチン、ニトロ化エリスロポエチン、ヨード化エリスロポエチンが挙げられるがこれらに限定されない。ヒトエリスロポエチンが好ましく、天然ヒトエリスロポエチンが最も好ましい。他の実施形態において、ヒトアシアロエリスロポエチンが好ましい。他の実施形態において、ヒトフェニルグリオキサールエリスロポエチンが好ましい。
【0029】
非限定的な例として、上記ex-vivoエリスロポエチン応答性細胞もしくは組織は、神経、網膜、筋肉、心臓、肺、肝臓、腎臓、小腸、副腎皮質、副腎髄質、毛細管内皮、精巣、卵巣もしくは子宮内膜の細胞又は組織である、またはこれらを含むものであってもよい。エリスロポエチン応答性細胞のこれらの例は、単に例示的なものである。
【0030】
上記方法及び使用の全ては好ましくは人間にも適用可能であるが、あらゆる哺乳動物(ペット動物、家畜動物、牧畜及び動物園の動物等が挙げられるがこれらに限定されない)にも有用である。上記医薬組成物の投与経路としては、経口、静脈内、鼻腔内、局所、腔内、吸入又は非経口投与が挙げられ、非経口投与としては、静脈内、動脈内、皮下、筋肉内、腹腔内、粘膜下又は皮内が挙げられる。ex-vivoで使用する場合、潅流液又は浴液(bath solution)が好ましい。これは、in situでの脈管構造の単離された部分の還流(pervusing)を含む。
【0031】
本発明のさらに他の態様において、機能不全の一因となる症状又は疾患の発症後に投与したときにその機能不全細胞、組織もしくは器官を回復させる医薬組成物の調製において、上記エリスロポエチンのいずれもが有用である。非限定的な例として、エリスロポエチンを含む医薬組成物の投与は、過去に脳に外傷を負った動物において、その外傷がおさまってからしばらく経った後(例えば3日、5日、1週間、1ヶ月又はそれ以上)に投与された場合であっても、認知機能を回復させる。このような用途に有用なエリスロポエチンは、具体的な上記エリスロポエチン、天然エリスロポエチン、エリスロポエチン類似体、エリスロポエチン模倣体、エリスロポエチンフラグメント、ハイブリッドエリスロポエチン分子、エリスロポエチン受容体結合性分子、エリスロポエチンアゴニスト、腎エリスロポエチン、脳エリスロポエチン、そのオリゴマー、その多量体、その突然変異蛋白質、その同属種、その天然発生形態、その合成形態、その組換え形態、そのグリコシル化変異体、その脱グリコシル化変異体、又はその組合せのいずれであってもよい。エリスロポエチン応答性細胞に恩恵をもたらすことができるあらゆる形態のエリスロポエチンは、本発明のこの態様に包含される。上記目的に有用な他のエリスロポエチン誘導体及び医薬組成物は、天然エリスロポエチンだけでなく、天然エリスロポエチン(好ましくは天然ヒトエリスロポエチン)に少なくとも1つの修飾を行うことによって改変されたエリスロポエチンも含む。少なくとも1つの修飾とは、エリスロポエチン分子の少なくとも1つのアミノ酸の修飾であっても、エリスロポエチン分子の少なくとも1つの糖鎖の修飾であってもよい。もちろん、本明細書中に記載された目的に有用なエリスロポエチン分子は、天然分子に複数の修飾(例えば該分子のアミノ酸部分に複数の修飾、該分子の糖鎖部分に複数の修飾、又は該分子のアミノ酸部分に少なくとも1つの修飾と該分子の糖鎖部分に少なくとも1つの修飾)を加えたものであってもよい。修飾型エリスロポエチン分子は、天然分子と比較して、エリスロポエチン応答性哺乳動物細胞の機能もしくは生存力を保護、維持、増強又は回復する能力を維持しており、且つ上記望ましい特徴に関係のないエリスロポエチン分子の他の特性がないものである。ヒトエリスロポエチンが好ましく、天然ヒトエリスロポエチンが最も好ましい。他の実施形態において、ヒトアシアロエリスロポエチンが好ましい。
【0032】
さらに他の実施形態において、本発明は、機能不全の一因となる症状又は疾患の発症後に投与したときにその機能不全細胞、組織もしくは器官を回復させるための上記エリスロポエチンの使用方法を提供する。非限定的な例として、エリスロポエチンを含む医薬組成物の投与方法は、過去に脳に外傷を負った動物において、その外傷がおさまってからしばらく経った後(例えば3日、5日、1週間、1ヶ月又はそれ以上)に投与された場合であっても、認知機能を回復させる。このような方法に有用なエリスロポエチンは、特定の上記エリスロポエチン、天然エリスロポエチン、エリスロポエチン類似体、エリスロポエチン模倣体、エリスロポエチンフラグメント、ハイブリッドエリスロポエチン分子、エリスロポエチン受容体結合性分子、エリスロポエチンアゴニスト、腎エリスロポエチン、脳エリスロポエチン、そのオリゴマー、その多量体、その突然変異蛋白質、その同属種、その天然発生形態、その合成形態、その組換え形態、そのグリコシル化変異体、その脱グリコシル化変異体、又はその組合せのいずれであってもよい。エリスロポエチン応答性細胞に恩恵をもたらすことができるあらゆる形態のエリスロポエチンは、本発明のこの態様に包含される。上記目的に有用な他のエリスロポエチン誘導体及び医薬組成物は、天然エリスロポエチン、及び天然エリスロポエチン(好ましくは天然ヒトエリスロポエチン)に少なくとも1つの修飾を行うことによって改変したエリスロポエチンの両方を含む。少なくとも1つの修飾とは、エリスロポエチン分子の少なくとも1つのアミノ酸の修飾であっても、エリスロポエチン分子の少なくとも1つの糖鎖の修飾であってもよい。もちろん、本明細書中に記載された目的に有用なエリスロポエチン分子は、天然分子に複数の修飾(例えば該分子のアミノ酸部分に複数の修飾、該分子の糖鎖部分に複数の修飾、又は該分子のアミノ酸部分に少なくとも1つの修飾と該分子の糖鎖部分に少なくとも1つの修飾と)を加えたものであってもよい。修飾型エリスロポエチン分子は、天然分子と比較して、エリスロポエチン応答性哺乳動物細胞の機能もしくは生存力を保護、維持、増強又は回復する能力を維持しており、且つ上記望ましい特徴に関係のないエリスロポエチン分子の他の特性がないものである。ヒトエリスロポエチンが好ましく、天然ヒトエリスロポエチンが最も好ましい。他の実施形態において、ヒトアシアロエリスロポエチンが好ましい。
【0033】
本発明のさらに他の態様において、以下に挙げるエリスロポエチンに分子を会合させた組成物を投与することによって、哺乳動物において内皮細胞バリアを介する分子のトランスサイトーシスを容易にする方法が提供される:少なくともシアル酸成分を持たないエリスロポエチン;少なくともN結合型糖鎖もしくはO結合型糖鎖を持たないエリスロポエチン;天然エリスロポエチンを少なくとも1つのグリコシダーゼで処理することによって少なくとも糖鎖の含有量を低下させたエリスロポエチン;非哺乳動物細胞中で組換えエリスロポエチンを発現させることによってエリスロポエチン分子の糖鎖部分が少なくとも非哺乳動物グリコシル化パターンを有するエリスロポエチン;化学的に還元することもできる少なくとも1つ以上の酸化糖鎖を有するエリスロポエチン;少なくとも1つ以上の修飾されたアルギニン残基を有するエリスロポエチン;少なくとも1つ以上の修飾されたリシン残基を有するもしくはエリスロポエチン分子のN末端アミノ基が修飾されたエリスロポエチン;少なくとも修飾されたチロシン残基を有するエリスロポエチン;少なくとも修飾されたアスパラギン酸もしくはグルタミン酸残基を有するエリスロポエチン;少なくとも修飾されたトリプトファン残基を有するエリスロポエチン;少なくとも1つのアミノ基が除去されたエリスロポエチン;エリスロポエチン分子中のシスチン結合の少なくとも1つの開裂を少なくとも有するエリスロポエチン;少なくとも1つのアミノ酸の少なくとも1つの置換を有するエリスロポエチン;又はトランケート型エリスロポエチン。
【0034】
輸送しようとする分子とエリスロポエチンとの間の会合は、例えば前記分子に対する結合部位との不安定な共有結合、安定な共有結合、または非共有結合であってもよい。内皮細胞バリアが、血液脳関門、血液眼関門、血液精巣障壁、血液卵巣関門(blood-ovary barrier)、及び血液胎盤関門であってもよい。本発明の方法により輸送するのに適した分子としては、成長ホルモン等のホルモン、抗生物質及び抗癌薬が挙げられる。
【0035】
本発明のさらなる態様は、哺乳動物において内皮細胞バリアを介する分子のトランスサイトーシスを容易にする組成物を提供することである。前記組成物は、前記分子を以下に挙げるようなエリスロポエチンと会合させたものを含む:少なくともシアル酸成分を持たないエリスロポエチン;少なくともN結合型糖鎖もしくはO結合型糖鎖を持たないエリスロポエチン;天然エリスロポエチンを少なくとも1つのグリコシダーゼで処理することによって少なくとも糖鎖の含有量を低下させたエリスロポエチン;非哺乳動物細胞中で組換えエリスロポエチンを発現させることによって修飾型エリスロポエチン分子の糖鎖部分が少なくとも非哺乳動物グリコシル化パターンを有するエリスロポエチン;化学的に還元することもできる少なくとも1つ以上の酸化糖鎖を有するエリスロポエチン;少なくとも1つ以上の修飾されたアルギニン残基を有するエリスロポエチン;少なくとも1つ以上の修飾されたリシン残基を有するもしくはエリスロポエチン分子のN末端アミノ基が修飾されたエリスロポエチン;少なくとも修飾されたチロシン残基を有するエリスロポエチン;少なくとも修飾されたアスパラギン酸もしくはグルタミン酸残基を有するエリスロポエチン;少なくとも修飾されたトリプトファン残基を有するエリスロポエチン;少なくとも1つのアミノ基が除去されたエリスロポエチン;エリスロポエチン分子中のシスチン結合の少なくとも1つの開裂を少なくとも有するエリスロポエチン;少なくとも1つのアミノ酸の少なくとも1つの置換を有するエリスロポエチン;又はトランケート型エリスロポエチン。
【0036】
会合は、例えば前記分子に対する結合性部位との不安定な共有結合、安定な共有結合、または非共有結合であってもよい。内皮細胞バリアが、血液脳関門、血液眼関門、血液精巣障壁、血液卵巣関門、及び血液胎盤関門であってもよい。本発明の方法により輸送するのに適した分子としては、成長ホルモン等のホルモン、抗生物質及び抗癌薬が挙げられる。
【0037】
本発明のさらに他の態様において、哺乳動物における内皮細胞バリアを介する分子のトランスサイトーシスを容易にする医薬組成物の調製において、上記エリスロポエチンのどれもが有用である。前記組成物は、前記分子が以下に挙げるようなエリスロポエチンと会合したものを含む:少なくともシアル酸成分を持たないエリスロポエチン;少なくともN結合型糖鎖もしくはO結合型糖鎖を持たないエリスロポエチン;天然エリスロポエチンを少なくとも1つのグリコシダーゼで処理することによって少なくとも糖鎖の含有量を低下させたエリスロポエチン;非哺乳動物細胞中で組換えエリスロポエチンを発現させることによって修飾型エリスロポエチン分子の糖鎖部分が少なくとも非哺乳動物グリコシル化パターンを有するエリスロポエチン;化学的に還元することもできる少なくとも1つ以上の酸化糖鎖を有するエリスロポエチン;少なくとも1つ以上の修飾されたアルギニン残基を有するエリスロポエチン;少なくとも1つ以上の修飾されたリシン残基を有するもしくはエリスロポエチン分子のN末端アミノ基が修飾されたエリスロポエチン;少なくとも修飾されたチロシン残基を有するエリスロポエチン;少なくとも修飾されたアスパラギン酸もしくはグルタミン酸残基を有するエリスロポエチン;少なくとも修飾されたトリプトファン残基を有するエリスロポエチン;少なくとも1つのアミノ基が除去されたエリスロポエチン;エリスロポエチン分子中のシスチン結合の少なくとも1つの開裂を少なくとも有するエリスロポエチン;少なくとも1つのアミノ酸の少なくとも1つの置換を有するエリスロポエチン;又はトランケート型エリスロポエチン。
【0038】
会合は、例えば前記分子に対する結合性部位との不安定な共有結合、安定な共有結合、または非共有結合であってもよい。内皮細胞バリアは、血液脳関門、血液眼関門、血液精巣障壁、血液卵巣関門、及び血液胎盤関門であってもよい。本発明の方法により輸送するのに適した分子としては、成長ホルモン等のホルモン、抗生物質及び抗癌薬が挙げられる。
【0039】
本発明のこれらの態様及び他の態様は、添付の図面及び以下の詳細な説明を参照することによりさらに良く理解されよう。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】図1は、非経口投与されたエリスロポエチンの脳脊髄液中へのトランスロケーションを表す。
【図2】図2は、一時的な血管閉塞の後の虚血ダメージからのエリスロポエチンによる心筋層の保護を表す。
【図3】図3は、エリスロポエチンによる移植用に用意された心臓の機能維持を表す。
【図4】図4は、血清欠乏P19細胞の生存力に対するエリスロポエチン及びアシアロエリスロポエチンのin-vitro効力を比較した図である。
【図5】図5は、血清欠乏P19細胞の生存力に対するエリスロポエチン及びアシアロエリスロポエチンのin-vitro効力を比較する他の実験を表す。
【図6】図6は、血清欠乏P19細胞の生存力に対するエリスロポエチン及びフェニルグリオキサールにより修飾されたエリスロポエチンのin-vitro効力を比較した図である。
【図7】図7は、ラット局所脳虚血モデルにおけるエリスロポエチン及びアシアロエリスロポエチンの保護を表す。
【図8】図8は、虚血卒中のモデルにおける中大脳動脈閉塞におけるヒトエリスロポエチン及びヒトアシアロエリスロポエチンの効力を比較する用量応答曲線を表す。
【図9】図9は、P19アッセイにおけるビオチン化エリスロポエチン及びアシアロエリスロポエチンの効力を表す。
【図10】図10は、P19アッセイにおけるヨウ化エリスロポエチンの活性を表す。
【図11】図11は、ラット緑内障モデルにおけるエリスロポエチン治療の効力を表す。
【図12】図12は、ラット緑内障モデルにおけるエリスロポエチンによる網膜機能の保存程度を表す。
【図13】図13は、外傷を負った5日後にエリスロポエチンの投与を開始することによる、脳の外傷後の認知機能の回復を表す。
【図14】図14は、外傷を負った30日後にエリスロポエチンの投与を開始することによる、脳の外傷後の認知機能の回復を表す。
【図15】図15は、大脳毒性のカイニン酸モデルにおけるヒトアシアロエリスロポエチンの効力を表す。
【0041】
発明の詳細な説明
「エリスロポエチン応答性細胞」とは、エリスロポエチンへの曝露によりその機能又は生存力が維持、促進、増強もしくは再生される又は何らかの他の恩恵をこうむる哺乳動物細胞を指す。このような細胞の非限定的な例としては、神経、網膜、筋肉、心臓、肺、肝臓、腎臓、小腸、副腎皮質、副腎髄質、毛細管内皮、精巣、卵巣、及び子宮内膜の細胞が挙げられる。さらに、このようなエリスロポエチン応答性細胞及びエリスロポエチンによりそれらにもたらされる恩恵は、直接的にはエリスロポエチン応答性ではない他の細胞又はこのような非エリスロポエチン応答性細胞を含む組織もしくは器官の細胞を間接的に保護又は増強することまで拡大することができる。エリスロポエチン応答性細胞の増強により間接的に恩恵をこうむるこれらの他の細胞、組織もしくは器官は、その細胞、組織もしくは器官の一部として、「会合した」細胞、組織及び器官として存在する。このように、組織又は器官(例えばこのような組織の中に存在する興奮性もしくは神経性組織)の中、又はテストステロンを作る精巣のライジッヒ細胞の中に少数もしくは小さな割合のエリスロポエチン応答性細胞が存在する結果として、本明細書中に記載されるエリスロポエチンの恩恵がもたらされ得る。1つの態様において、エリスロポエチン応答性細胞又はそれに関連する細胞、組織、又は器官は、興奮性の細胞、組織もしくは器官ではないか、又は興奮性細胞もしくは組織を主に含むものではない。
【0042】
本発明の方法は、様々な正常な条件および有害条件の下に、哺乳動物の体内において細胞、組織及び器官を局所的にもしくは全身的に防御又は増強する、あるいは、他の哺乳動物に移植されようとする細胞、組織及び器官を保護する。さらに、機能不全の回復又は再生ももたらされる。上記に記載したように、接着内皮細胞バリアを通過して脈管構造の遠位にあるエリスロポエチン応答性細胞(及び他のタイプの細胞)に対してプラスの影響を発揮するエリスロポエチンの能力は、動物(ヒトを含む)において細胞及び組織に大きなダメージを引き起こし得る様々な症状及び疾患を治療及び予防する可能性を提供し、さらに、伝統的に利益よりも危険の方が高かったこれまで企てられたことがない外科手術を成功させるものである。最終的な恩恵のために誘導される意図的な有害条件の継続時間及び程度(例えば高線量化学療法、放射線療法、長時間のex-vivo移植生存性、及び手術により誘導される長時間の虚血等)は、本明細書中に記載される発明を利用することによって実施することができる。しかし本発明は、1つの態様として、標的となるエリスロポエチン応答性細胞が内皮細胞バリア又は内皮の密着帯(tight junction)の存在により脈管構造の遠位に位置する場合の方法又は組成物を含むものであるが、これらに限定はされない。本発明は一般に、エリスロポエチンに曝露することにより恩恵を得ることができるエリスロポエチン応答性細胞ならびにそれに関連する細胞、組織及び器官に関する。さらに、細胞、組織又は器官の機能不全は、急な損傷(外傷等)を負った後、エリスロポエチンへの曝露によって回復又は再生させることができる。
【0043】
従って本発明は、細胞機能が維持される、促進される、増強される、再生される、又は他の恩恵を得られる、上記目的のための医薬組成物を調製するためのエリスロポエチンの使用に一般に関する。また本発明は、本明細書中に記載される有効量のエリスロポエチンを哺乳動物に投与することによって細胞機能を維持、増強、促進又は再生する方法にも関する。本発明はさらに、細胞、組織又は器官をエリスロポエチンに曝露することによって、ex vivoで細胞機能を維持、促進、増強又は再生する方法に関する。また本発明は、器官又は組織の保存で使用するための、エリスロポエチンを含む潅流組成物に関する。
【0044】
本発明の種々の方法は、少なくとも有効量のエリスロポエチンを含む医薬組成物を特定の経路及び曝露時間にて利用して、哺乳動物の体内にある又は哺乳動物の身体から取り出したエリスロポエチン応答性細胞に対してプラスの影響又は恩恵を発揮するものである。意図する治療の標的となる細胞、組織又は器官が、内皮細胞バリアを介してエリスロポエチンを輸送する必要がある場合、医薬組成物は、内皮細胞バリアを通過した後にエリスロポエチン応答性細胞に対して望ましい影響を及ぼすことができる濃度のエリスロポエチンを含む。エリスロポエチン受容体と相互作用して該受容体の活性を調節することができる分子(本明細書中エリスロポエチンもしくはエリスロポエチン受容体活性調節因子と呼ぶ)は、本発明の文脈において有用である。これらの分子は、例えば、上記記載のエリスロポエチン分子の天然発生形態、合成形態もしくは組換え形態、又は、本明細書中に記載されるようにエリスロポエチン応答性細胞活性を調節すること以外は何らかの形でエリスロポエチンに必ずしも似ているわけではない他の分子である。
【0045】
エリスロポエチンは、ヒトにおいて約34kDaの分子量を有する糖蛋白ホルモンである。成熟タンパク質は165アミノ酸を含み、グリコシル残基はその分子量の約40%を占める。本発明の実施において有用なエリスロポエチンの形態は、以下に挙げるヒト及び他の哺乳動物のエリスロポエチン関連分子の天然発生形態、合成形態、及び組換え形態を包含する:エリスロポエチン、アシアロエリスロポエチン、脱グリコシル化エリスロポエチン、エリスロポエチン類似体、エリスロポエチン模倣体、エリスロポエチンフラグメント、ハイブリッドエリスロポエチン分子、エリスロポエチン受容体結合性分子、エリスロポエチンアゴニスト、腎エリスロポエチン、脳エリスロポエチン、そのオリゴマー及び多量体、その突然変異蛋白質、ならびにその同属種を包含する。さらに、本発明の実施において有用なエリスロポエチン形態としては、機能的に同等な遺伝子産物を表すタンパク質が挙げられる。このような同等なエリスロポエチン遺伝子産物としては、内部欠失を含む欠失、融合タンパク質を生じさせる付加を含む付加、又はアミノ酸配列の中及び/又はそれに隣接するアミノ酸残基の保存的置換(置換により機能的に同等なエリスロポエチンが生じる「サイレント」変化をもたらす)を含み得る突然変異型エリスロポエチンが挙げられる。このようなアミノ酸置換は、関与する残基の極性、電荷、可溶度、疎水性、親水性、及び/又は両親媒性における類似性に基づいて行うことができる。例えば非極性(疎水性)アミノ酸としてはアラニン、ロイシン、イソロイシン、バリン、プロリン、フェニルアラニン、トリプトファン、及びメチオニンが挙げられ、極性中性アミノ酸としてはグリシン、セリン、トレオニン、システイン、チロシン、アスパラギン及びグルタミンが挙げられ、正電荷を持つ(塩基性)アミノ酸としてはアルギニン、リシン及びヒスチジンが挙げられ、そして負電荷を持つ(酸性)アミノ酸としてはアスパラギン酸及びグルタミン酸が挙げられる。あるいは、非保存的アミノ酸変化、ならびに大きな挿入及び欠失を用いて、機能的に修飾されたエリスロポエチン突然変異体を作製することができる。このような突然変異体を用いて、望み通りにエリスロポエチン特性を変更することができる。例えば、1つの実施形態において、本発明の実施に有用なエリスロポエチンは、受容体結合に影響を及ぼすエリスロポエチンの4つの機能的ドメインVLQRY及び/又はTKVNFYAW及び/又はSGLRSLTTL及び/又はSNFLRGの中の1つ以上のアミノ酸に変化が起こった突然変異型エリスロポエチンであってもよい。他の実施形態において、その分子の動態又は受容体結合特性に影響を及ぼす該分子の周辺領域の中に突然変異を含むエリスロポエチンを用いることができる。
【0046】
「エリスロポエチン」及び「あるエリスロポエチン」という用語は、交換可能又は連結的(conjunctively)に用いられ、上記の様々な類似体、フラグメント、ハイブリッド分子、アゴニスト、突然変異蛋白質及び他の形態は、エリスロポエチンのグリコシル化の長さ及び部位が異なる変異体(エリスロポエチンの天然のグリコシル化形態、アシル化形態及び他の一部グリコシル化形態)を包含する。このような変異体の非限定的な例は、Tsudaら, 1990, Eur. J. Biochem. 188:405-411(本明細書中に参考として記載される)に記載されている。細菌、酵母、昆虫、植物、哺乳動物(ヒトを含む)。さらに、組換えエリスロポエチンを発現及び産生させるために、細菌、酵母、昆虫、植物及び哺乳動物(ヒトを含む)の細胞系を含む(ただしこれらに限定されない)様々な宿主系を用いることができる。例えば、エリスロポエチンの非グリコシル化形態を作製するために、細菌内で産生された組換えエリスロポエチン(該生成物をグリコシル化もしくはシアル化しない)を用いることができるであろう。あるいは、例えば植物をグリコシル化する他の系(ヒト細胞を含む)の中で組替えエリスロポエチンを作製することができる。
【0047】
上記のように、本明細書中に記載される発明は、その分子とエリスロポエチンとの構造的関係のいかんにかかわらず、エリスロポエチン応答性細胞に対してプラスの作用を発揮することができるあらゆる全てのエリスロポエチン受容体活性調節分子を包含する。
【0048】
さらに、エリスロポエチン自体を修飾して、1つ以上の特定の組織に対するその活性を調整することができる。この所望の組織特異性を達成するために行うことができる幾つかの非限定的戦略としては、循環半減期を短くすることによりエリスロポエチンが赤血球前駆体と相互作用することができる時間を少なくする修飾、又はエリスロポエチン分子の一次構造の修飾が挙げられる。循環半減期を短くする1つのアプローチは、グリコシル化成分(エリスロポエチンは3つのN結合型グリコシル化成分と1つのO結合型グリコシル化成分とを有する)を削除又は修飾するものである。このようなグリコシル化エリスロポエチンの変異体は、様々な方法で作成することができる。例えば、糖鎖の端部をしめくくるシアル酸は、シアル酸を該糖鎖に結合する化学結合に応じて、特定のシアリダーゼによって除去することができる。あるいは、グリコシル化構造は、特定の結合を切断する他の酵素を用いることによって様々な様式で解体することができる。一次構造を修飾する技法は無数にあり、例えば特定のアミノ酸の置換、アミノ酸の化学的修飾、又はエリスロポエチンとその受容体のいずれかとの相互作用を妨げる他の構造の付加等が挙げられる。このような形態のエリスロポエチンの使用は全て本明細書中に包含される。好適な実施形態において、本発明の非赤血球生成性エリスロポエチンの半減期は、天然エリスロポエチンに比べて約90%低減される。
【0049】
にもかかわらずこれらの分子の幾つかは、他の組織又は器官の中でエリスロポエチン自体の機能と似た機能を発揮する。例えば、天然エリスロポエチンの31位〜47位のアミノ酸配列を含む17量体は、赤血球生成について不活性であるが、in vitroでは神経細胞に対して完全に活性である(Campana & O'Brien, 1998: Int. J. Mol. Med. 1:235-41)。
【0050】
さらに、本明細書中に記載される用途に望ましいエリスロポエチン誘導体分子は、グアニジン化(guanidination)、アミジン化(amidination)、カルバミル化(カルバモイル化)、トリニトロフェニル化、アセチル化、サクシニル化、ニトロ化、あるいは、アルギニン、リシン、チロシン、トリプトファンもしくはシステイン残基又はカルボニル基の修飾によって、特に例えば限定的蛋白分解、アミノ基の除去、及び/又は分子生物学的技法によるアルギニン、リシン、チロシン、トリプトファンもしくはシステイン残基の突然変異的置換によって、特定の器官及び組織に対する適度な活性レベルを維持し且つ他の器官及び組織(赤血球等)に対して活性を持たないエリスロポエチンを生成することにより、作製することができる(例えばSatakeら;1990, Biochim. Biophys. Acta 1038: 125-9;本明細書中に参考として全て組み込まれる)。以下に記載するような1つの非限定的な例は、フェニルグリオキサール等のグリオキサールとの反応によるエリスロポエチンのアルギニン残基の修飾である(Takahashi, 1977, J. Biochem. 81:395-402のプロトコールに従う)。以下に記載されるように、このようなエリスロポエチン分子はその神経栄養効果を完全に保持している。このようなエリスロポエチン分子は、本明細書中に記載される様々な用途及び組成物について全て包含される。
【0051】
脳エリスロポエチン及び腎エリスロポエチン等の合成分子及び組換え分子、エリスロポエチンの組換え哺乳動物形態、ならびにその天然発生形態、腫瘍誘導型形態、及び組換えアイソフォーム(例えば組換えにより発現させた分子及び相同的組換えにより調製されたもの等)が本明細書中において提供される。さらに本発明は、エリスロポエチン受容体に結合するペプチドを含む分子、エリスロポエチンの構造的及び/もしくは生物学的特性の一部又は全てを保有する組換え構築物又は他の分子(エリスロポエチンのフラグメント及び多量体又はそのフラグメントを含む)を含む。本明細書中に記載されるエリスロポエチン又はエリスロポエチン受容体結合活性が改変された分子(好ましくは受容体親和性が高まったもの)を包含し、特に、内皮細胞バリアを介する輸送の増強に関する。グリコシル化部位の数が増加もしくは減少した分子を含む突然変異蛋白質は本明細書中に含まれる。上記のように、他の用語と同様に、「エリスロポエチン」及び「模倣体」という用語は、本明細書中において、エリスロポエチン応答性細胞を保護及び増強するエリスロポエチン関連分子及び内皮細胞バリアを通過することができるエリスロポエチン関連分子を指すために、交換可能に用いられる。
【0052】
さらに、トランスジェニック動物によって産生される分子も本明細書中に包含される。本明細書中に包含されるエリスロポエチンは、本明細書中に記載されるような、エリスロポエチン受容体と相互作用する能力、又はエリスロポエチン受容体活性を調節するもしくはエリスロポエチンにより活性化されたシグナル伝達カスケードを活性化する能力以外は、構造的又は他の形でエリスロポエチン分子に必ずしも似ている必要はないことに留意されたい。
【0053】
非限定的な例としては、本発明の実施で有用なエリスロポエチンの形態としては、米国特許第5,457,089号及び米国特許第4,835,260号に記載されたカルボキシ末端のアミノ酸が修飾されたもの等のエリスロポエチン突然変異蛋白質;米国特許第5,856,298号に記載されたもの等の、1分子あたり様々な数のシアル酸残基を有するエリスロポエチンアイソフォーム及びアシアロエリスロポエチン;米国特許第4,703,008号に記載されたポリペプチド;米国特許第5,767,078号に記載されたアゴニスト;米国特許第5,773,569号及び第5,830,851号に記載されたエリスロポエチン受容体に結合するペプチド;米国特許第5,835,382号に記載されたもの等のエリスロポエチン受容体を活性化する小分子模倣体;ならびに国際特許出願公開番号第WO9505465号、WO9718318号、及びWO9818926号に記載されたエリスロポエチン類似体等がある。上記引用文献の全ては、このような開示内容が、本発明のエリスロポエチンの様々な代替形態又はこのような形態を調製するためのプロセスの参考となる程度に、本明細書中に組み込まれる。
【0054】
エリスロポエチンは、例えばPROCRIT(Ortho Biotech Inc., Raritan, NJ)及びEPOGEN(Amgen, Inc., Thousand Oaks, CA)という商品名で市販されている。
【0055】
エリスロポエチン(エリスロポエチン)及びエリスロポエチン様分子の活性(単位:unit)は、伝統的には、げっ歯類モデルにおける赤血球細胞産生の刺激におけるその効力に基づいて(及びエリスロポエチンの国際標準によって)定義される。通常のエリスロポエチン(分子量およそ34,000)の1unit(U)は、タンパク質約8ngである(タンパク質1mgはおよそ125,000Uである)。しかし、赤血球産生に対する効果は、本明細書中の所望の活性の二次的なものであり、本発明のエリスロポエチンの幾つかについては検出可能な特性である必要はないため、赤血球産生活性に基づいて活性を定義するのは適当ではない。従って、本明細書中で使用されるエリスロポエチン又はエリスロポエチン関連分子の活性単位は、神経細胞系又は他のエリスロポエチン応答性細胞系において、WHO国際標準エリスロポエチンによって誘発される活性と同じ活性を同じ系の中で誘発するのに必要なタンパク質の量として定義される。当業者であれば、本明細書中に示されるガイダンスに従って、非赤血球産生性エリスロポエチン又は関連分子の単位を簡単に決定することができるであろう。
【0056】
本明細書中で有用な上記エリスロポエチン修飾に加えて、以下の記載は本発明の様々なエリスロポエチンに範囲を広げて説明している。
【0057】
本発明のエリスロポエチンは、少なくともシアル成分を持たない(アシアロエリスロポエチンと呼ばれる)ものであってもよい。好ましくは、本発明のエリスロポエチンは、ヒトアシアロエリスロポエチンである。他の実施形態において、本発明のエリスロポエチンは、少なくとも1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12又は13個のシアル酸残基を有するものであってもよい。これは、シアリダーゼを用いて、例えばProZyme Inc.(San Leandro, California)のシアリダーゼAの該製造業社のパッケージングに記載されるように、エリスロポエチンを脱シアリル化(desialylate)することによって調製することができる。典型的には、PROZYME(登録商標)GLYCOPRO(登録商標)の配列決定等級の(sequencing-grade)シアリダーゼA(商品名)(N-アセチルノイラミン酸(N-acetylneuraminate)グリコヒドロラーゼ、EC3.2.1.18)を用いて、複合体糖鎖及び糖蛋白(エリスロポエチン等)から全ての非還元末端シアル酸残基を切断する。このようにシアリダーゼAは、(内部残基に結合した)分岐状シアル酸を切断する。シアリダーゼAは、アルトロバクター属Arthrobacter ureafciensのクローンから単離される。
【0058】
エリスロポエチンは、少なくともN結合型糖鎖の数が減少したものであってもよい。N結合型糖鎖を除去するために、例えば、Hermentinら(1996, Glycobiology 6(2): 217-30)により記載された方法に従って、エリスロポエチンをヒドラジンで処理することができる。上記のように、エリスロポエチンは3つのN結合型糖鎖成分を持つ。本発明は、N結合型糖鎖を2つもしくは1つ持つ又は1つも持たないこれらのエリスロポエチンを包含する。
【0059】
本発明のエリスロポエチンは、天然エリスロポエチンを少なくとも1つのグリコシダーゼで処理することにより少なくとも糖鎖の含有量が低下したものであってもよい。例えば、Chen及びEvangelista, 1998, Electrophoresis 19(15): 2639-44の手法に従ってもよい。さらに、O結合型糖鎖の除去は、Hokkeら, 1995, Eur. J. Biochem. 228(3):981-1008に記載される方法に従って行ってもよい。
【0060】
エリスロポエチン分子の糖鎖部分は、組換えエリスロポエチンを非哺乳動物細胞中で発現させることによって非哺乳動物のグリコシル化パターンを少なくとも有していてもよい。好ましくは、エリスロポエチンは昆虫もしくは植物細胞の中で発現される。非限定的な例として、バキュロウイルス発現系を用いた昆虫細胞内でのエリスロポエチンの発現は、Quelleら, 1989, Blood 74(2):652-657に従って行うことができる。他の方法は、米国特許第5,637,477号に記載されている。植物細胞系中での発現は、Matsumotoら, 1993, Biosci., Biotech. Biochem. 57(8): 1249-1252の方法に従って行うことができる。あるいは、細菌中で発現させると、非グリコシル化形態のエリスロポエチンが得られる。これらは単に、本発明のエリスロポエチンの生成に有用な方法の例であり、限定的なものではない。
【0061】
本発明のエリスロポエチンは、化学的に還元することもできる少なくとも1つ以上の酸化糖鎖を有するものであってもよい。例えば、エリスロポエチンは、過ヨウ素酸により酸化されたエリスロポエチンであってもよい。過ヨウ素酸により酸化されたエリスロポエチンもまた、水素化ホウ素ナトリウムやシアノ水素化ホウ素ナトリウム等の水素化ホウ素塩で化学的に還元することができる。過ヨウ素酸によるエリスロポエチンの酸化は、例えばLinsleyら, 1994, Anal. Biochem. 219(2):207-17により記載された方法によって実行することができる。過ヨウ素酸による酸化の後の化学的な還元は、Tonilli及びMeints, 1978, J. Supramol. Struct. 8(1):67-78の方法に従って実行することができる。
【0062】
上記用途のためのエリスロポエチンは、少なくとも1つ以上の修飾されたアルギニン残基を有するものであってもよい。例えば、修飾型エリスロポエチンは、1つ以上のアルギニン残基上にR-グリオキサール成分(ここでRはアリール、ヘテロアリール、低級アルキル、低級アルコキシもしくはシクロアルキル基、またはα-デオキシグリシトリル基であってもよい)を含むものであってもよい。本明細書中で使用される低級「アルキル」という用語は、直鎖状もしくは分岐鎖状の飽和脂肪族炭化水素基(好ましくは1〜6個の炭素原子を含むもの)を意味する。このような基の代表的なものとしては、メチル、エチル、イソプロピル、イソブチル、ブチル、ペンチル、ヘキシル等が挙げられる。「アルコキシ」という用語は、酸素によって該分子の残りの部分に結合された上記定義の低級アルキル基を意味する。アルコキシの例としては、メトキシ、エトキシ、プロポキシ、イソプロポキシ等が挙げられる。「シクロアルキル」という用語は、3個〜約8個の炭素を有する環状アルキル基(例えばシクロプロピル、シクロブチル、シクロヘキシル等を含む)を指す。アリールという用語は、フェニル基及びナフチル基を指す。ヘテロアリールという用語は、酸素、窒素及び硫黄からなる群より選択される1〜3個のヘテロ原子を含む4〜10員のヘテロ環状基を指す。例としては、イソオキサゾリル(isoxazolyl)、フェニルイソオキサゾリル、フリル、ピリミジニル、キノリル、テトラヒドロキノリル、ピリジル、イミダゾリル、ピロリジニル、1,2,4-トリアゾリル(triazolyl)、チアゾリル、チエニル等が挙げられるがこれらに限定されない。R基は置換されたもの、例えば3-デオキシグルコソンの4-トリヒドロキシブチル基等であってもよい。R-グリオキサール化合物の典型的な例は、グリオキサール、メチルグリオキサール、3-デオキシグルコソン、及びフェニルグリオキサールである。好適なR-グリオキサール化合物は、メチルグリオキサールまたはフェニルグリオキサールである。このような修飾方法の例は、Werberら, 1975, Isr. J. Med. Sci. 11(11); 1169-70(フェニルグリオキサールを用いるもの)に記載されている。
【0063】
更なる例において、少なくとも1つのアルギニン残基は、好ましくはおよそ50mmolのホウ酸塩緩衝液(pH8〜9)中において、2,3-ブタンジオン又はシクロヘキサンジオン等のビシナルジケトンとの反応により修飾することができる。2,3-ブタンジオンを用いた後者の修飾を行うための手法は、Riordan, 1973, Biochemistry 12(20):3915-3923に従って行うことができる。また、シクロヘキサノンを用いた手法は、Patthyら, 1975, J. Biol. Chem 250(2):565-9に従って行うことができる。
【0064】
本発明のエリスロポエチンは、少なくとも1つ以上の修飾されたリシン残基を含むものもしくはエリスロポエチン分子のN末端アミノ基が修飾されたものであってもよく、このような修飾としては、リシン残基をアミノ基修飾剤と反応させて得られるものがある。他の実施形態において、リシン残基は、グリオキサール誘導体との反応(例えばグリオキサール、メチルグリオキサール及び3-デオキシグルコソンとの反応)によって修飾し、α-カルボキシアルキル誘導体を形成することができる。例としては、Glomb及びMonnier, 1995, J. Biol. Chem. 270(17): 10017-26に記載されるようなグリオキサールとの反応によりカルボキシメチルリシンを形成させるもの、又は、Degenhardtら, 1998, Cell. Mol. Biol. (Noisy-le-grand)44(7):1139-45に記載されるようなメチルグリオキサールとの反応により(1-カルボキシエチル)リシンを形成させるものが挙げられる。修飾されたリシン残基をさらに化学的に還元してもよい。例えば、実施例5に記載される方法等に従ってリシン基によりエリスロポエチンをビオチン化してもよい。実施例5では、D-ビオチノイル-ε-アミノカプロン酸-N-ヒドロキシスクシンイミドエステルをエリスロポエチンと反応させた後、Wojchowski及びCaslake, 1989, Blood 74(3):952-8により記載されたようにセントリコン(Centricon)10カラムでのゲル濾過により未反応ビオチンを除去した。上記報告書において著者等は、エリスロポエチンをビオチン化する3つの異なる方法を使用しており、本明細書中に記載された用途で用いるエリスロポエチンを調製するためには、これらの方法のどれでも用いることもできる。ビオチンは、(1)シアル酸成分、(2)カルボキシラート基又は(3)アミノ基に付加することができる。
【0065】
他の好適な実施形態では、リシンをアルデヒド又は還元糖と反応させてイミンを形成させ、このイミンを、シアノ水素化ホウ素ナトリウム等を用いた還元により安定化させて、グルシトリルリシン等のN-アルキル化リシンを形成してもよいし、又は還元糖を用いる場合は該イミンをアマドリ転位又はヘインズ転位により安定化させて、α-デオキシ-α-フルクトシルリシン等のα-デオキシ-α-アミノ糖を形成してもよい。例として、リン酸ナトリウム緩衝液(pH7.4)中の0.5Mグルコースと一緒に60日間インキュベートすることによるフルクトシルリシン修飾型タンパク質の調製は、Makitaら, 1992, J. Biol. Chem. 267:5133-5138により記載されている。他の例において、リシン基は、シアナートイオンとの反応等によってカルバミル化されてもよいし、アルキル-イソシアナート、アリール-イソシアナート、アルキル-イソチオシアナート又はアリール-イソチオシアナートとの反応によって、アルキル-カルバミル化、アリール-カルバミル化、アルキル-カルバモイル化又はアリール-カルバモイル化されてもよい。あるいは、リシン基は、反応性のアルキル-もしくはアリール-カルボン酸誘導体によって(例えば無水酢酸、無水コハク酸、又は無水フタル酸との反応等により)アシル化されてもよい。例としては、4-スルホフェニルイソチオシアナート又は無水酢酸を用いたリシン基の修飾が挙げられる(これらはいずれもGaoら, 1994, Proc. Natl Acad Sci USA 91(25):12027-30に記載されている)。またリシン基は、トリニトロベンゼンスルホン酸又は好ましくはその塩との反応によって、トリニトロフェニル修飾されてもよい。このような方法は、以下の実施例5に記載されている。
【0066】
エリスロポエチンの少なくとも1つのチロシン残基は、求電子試薬によって、例えばニトロ化又はヨウ素化等によって、芳香環位置で修飾することができる。非限定的な例として、エリスロポエチンは、テトラニトロメタンと反応させても(Nestlerら, 1985, J. Biol. Chem. 260(12):7316-21)、又は実施例5に記載されるようにヨウ素化されてもよい。
【0067】
カルボジイミドとの反応等を行った後にグリシンアミド等(ただしこれに限定されない)のアミンと反応させることにより、エリスロポエチンの少なくともアスパラギン酸もしくはグルタミン酸残基を修飾することができる。このような修飾の例は実施例5に記載されている。
【0068】
他の例において、n-ブロモスクシンンイミド又はn-クロロスクシンイミドとの反応等の後に、Josseら, Chem Biol Interact 1999 May 14;119-120に記載されたような方法を行うことによって、エリスロポエチンのトリプトファン残基を修飾することができる。
【0069】
さらに他の実施例において、エリスロポエチン分子は、例えば、ニンヒドリンと反応させた後に、その結果生じるカルボニル基を水素化ホウ素との反応によって還元すること等により、少なくとも1つのアミノ基を除去することによって、調製することができる。
【0070】
さらに他の例では、ジチオトレイトール等の還元剤と反応させた後に、その結果生じるスルフヒドリルをヨードアセトアミド、ヨード酢酸又は他の求電子試薬と反応させてジスルフィド結合の再形成を防ぐことにより、エリスロポエチン分子中のシスチン結合のうちの少なくとも1つの開裂を少なくとも有するエリスロポエチンが提供される。
【0071】
エリスロポエチンの沢山のアミノ酸のうちの少なくともいずれか1つ(例えばロイシン等)が、分子生物学的技法を用いてリシン、アルギニン、トリプトファン、チロシン又はシステイン残基の少なくとも1つで置換された、エリスロポエチンが提供される。
【0072】
エリスロポエチンを、例えばトリプトファン残基の後で切断するために特定の残基を標的とする限定的な化学的蛋白分解にかけることにより、修飾型エリスロポエチンを調製することができる。このように得られたエリスロポエチンフラグメントは本明細書中に包含される。
【0073】
上記のように、本明細書中に記載された目的のために有用なエリスロポエチンは、上記修飾のうちの少なくとも1つを有するものであってもよいが、上記修飾のうち2つ以上を有するものであってもよい。分子の糖鎖部分に1つの修飾とアミノ酸部分に1つの修飾とを有する修飾型エリスロポエチンの例として、修飾型エリスロポエチンはアシアロエリスロポエチンであってもよく、そのリシン残基はビオチン化もしくはカルバミル化されている。
【0074】
このように、本明細書中に記載される用途のための種々のエリスロポエチン分子及びこれらを含む医薬組成物が包含される。このようなエリスロポエチン分子としては、本明細書中の教示に基づいて幾つか代表的な例(ただし非限定的な例)を挙げると、アシアロエリスロポエチン、N-脱グリコシル化エリスロポエチン、O-脱グリコシル化エリスロポエチン、糖鎖の含有量が低下したエリスロポエチン、グリコシル化パターンが変更されたエリスロポエチン、酸化された後に還元された糖鎖を有するエリスロポエチン、アリールグリオキサール修飾型エリスロポエチン、アルキルグリオキサール修飾型エリスロポエチン、2,3-ブタンジオン修飾型エリスロポエチン、シクロヘキサンジオン修飾型エリスロポエチン、ビオチン化エリスロポエチン、N-アルキル化-リシル-エリスロポエチン、グルシトリルリシンエリスロポエチン、α-デオキシ-α-フルクトシルリシン-エリスロポエチン、カルバミル化エリスロポエチン、アセチル化エリスロポエチン、サクシニル化エリスロポエチン、α-カルボキシアルキルエリスロポエチン、ニトロ化エリスロポエチン、ヨウ素化エリスロポエチンが挙げられるが、これらに限定されない。好ましいのはヒトエリスロポエチンをベースとした上記修飾形態である。
【0075】
さらに、上記エリスロポエチンのうちの幾つかは新規なものであり、本発明は、このような化合物ならびにこれらを含む医薬組成物に関する。非限定的な例として、このような新しいエリスロポエチンとしては、過ヨウ素酸塩酸化型エリスロポエチン、グルシトリルリシンエリスロポエチン、フルクトシルリシンエリスロポエチン、3-デオキシグルコソンエリスロポエチン、及びカルバミル化アシアロエリスロポエチンが挙げられる。
【0076】
様々な宿主発現ベクター系を利用して、本発明のエリスロポエチン及びエリスロポエチン関連分子を作製することができる。このような宿主発現系は、目的のエリスロポエチンを作製した後に精製するために用いる媒介手段を代表するものであるが、適当な塩基コード配列で形質転換もしくはトランスフェクトしたときにin situで修飾型エリスロポエチン遺伝子産物を示し得る細胞でもある。これらとしては、以下に挙げる細菌、昆虫、植物、及び哺乳動物(ヒトを含む)宿主系が挙げられるがこれらに限定されない:例えば修飾型エリスロポエチン産物をコードする配列を含むバキュロウイルス等の組換えウイルス発現ベクターに感染させた昆虫細胞系等;カリフラワーモザイクウイルスCaMVやタバコモザイクウイルスTMV等の組換えウイルス発現ベクターに感染させた植物細胞系、又はエリスロポエチン関連分子をコードする配列を含むTiプラスミド等の組換えプラスミド発現ベクターで形質転換した植物細胞系;あるいは、哺乳動物細胞のゲノムに由来するプロモーター(例えばメタロチオネインプロモーター等)もしくは哺乳動物ウイルスに由来するプロモーター(例えばアデノウイルス後期プロモーター、ワクシニアウイルス7.5Kプロモーター等)を含む組換え発現構築物を宿している、ヒト細胞系を含む哺乳動物細胞系(例えばHT1080、COS、CHO、BHK、293、3T3)。
【0077】
さらに、挿入された配列の発現を調節する宿主細胞株、又は、望み通りの特定の仕様で遺伝子産物を修飾及びプロセッシングする宿主細胞株を選択することができる。タンパク質産物のこのような修飾(例えばグリコシル化)及びプロセッシング(例えば切断)は、タンパク質の機能にとって重要である。異なる宿主細胞は、タンパク質及び遺伝子産物の翻訳後のプロセッシング及び修飾の特徴的且つ独特なメカニズムを有する。発現される外来タンパク質の正しい修飾及びプロセッシングを行うために、適当な細胞系又は宿主系を選択することができる。このために、一次転写産物の適切なプロセッシング、グリコシル化、及び遺伝子産物のリン酸化のための細胞内装置(cellular machinery)を有する真核宿主細胞を用いることができる。このような哺乳動物宿主細胞(ヒト宿主細胞を含む)としては、HT1080、CHO、VERO、BHK、HeLa、COS、MDCK、293、3T3及びWI38が挙げられるがこれらに限定されない。
【0078】
組換えタンパク質の長期的な高収率産生のためには、安定な発現が好ましい。例えば、エリスロポエチン関連分子の遺伝子産物を安定に発現する細胞系を遺伝子操作により作製することができる。ウイルス複製起点を含む発現ベクターを用いるのではなく、適当な発現制御エレメント(例えばプロモーター、エンハンサー、配列、転写終結因子、ポリアデニル化部位等)により制御されるDNA及び選択マーカーを用いて宿主細胞を形質転換することができる。外来DNAを導入した後、遺伝子操作した細胞を濃縮培地中で1〜2日間増殖させたあと、選択培地に移し替える。組換えプラスミド中の選択マーカーは、その選択に対する耐性を与え、細胞の染色体の中にプラスミドが安定に組み込まれてこれらの細胞がフォーカスを形成できるようにし、これらのフォーカスは、クローニングして細胞系へと拡大させることができる。この方法は、エリスロポエチン関連分子の遺伝子産物を発現する細胞系を遺伝子操作するために、都合よく使用することができる。このような遺伝子操作された細胞系は特に、エリスロポエチン関連分子の遺伝子産物の内因活性に影響を及ぼす化合物のスクリーニング及び評価において有用である。
【0079】
あるいは、細胞系又は微生物内での内因性エリスロポエチン遺伝子の発現特性は、異種DNA調節エレメントを、挿入された調節エレメントが内因性エリスロポエチン遺伝子に機能的に影響し得る形で結合されるように、安定な細胞系もしくはクローニングされた微生物のゲノム中に挿入することにより、改変することができる。例えば、通常は「転写的に不活動な(transcriptionally silent)」内因性エリスロポエチン遺伝子(すなわち細胞系の中では通常は全く又は非常に低レベルでしか発現されないエリスロポエチン遺伝子)は、その細胞系又は微生物の中で通常は発現されない遺伝子産物の発現を促進することができる調節エレメントを挿入することによって、活性化することができる。あるいは、転写的に不活動な内因性エリスロポエチン遺伝子は、細胞型を問わず機能する無差別な調節エレメントを挿入することによって活性化することができる。
【0080】
当業者に周知である、及びフランス特許第2646438号(パスツール研究所)、米国特許第4,215,051号(Chappel)、米国特許第5,578,461号(Sherwinら)、国際特許出願第PCT/US92/09627号(WO93/09222号)(Seldenら)、及び国際特許出願第PCT/US90/06436号(WO91/06667号)(Skoultchiら)(これらはそれぞれ本明細書中に参考として全て組み込まれる)に記載されているターゲッティング式相同的組換え等の技法を用いて、異種調節エレメントを、該エレメントが内因性エリスロポエチン遺伝子に機能的に影響し得る形で結合されるように、安定な細胞系又はクローニングされた微生物の中に挿入することができる。
【0081】
本発明の1つの実施形態において、シアル酸残基が少ないか又はシアル酸残基を全く持たないエリスロポエチン関連分子を、哺乳動物細胞(ヒト細胞を含む)内で作製することができる。このような細胞は、シアル酸を付加する酵素(すなわちβ-ガラクトシドα2,3シアリルトランスフェラーゼ「α2,3シアリルトランスフェラーゼ」及びβ-ガラクトシドα2,6シアリルトランスフェラーゼ「α2,6シアリルトランスフェラーゼ」活性)に欠陥があるように又は該酵素を持たないように遺伝子操作される。1つの実施形態において、α2,3シアリルトランスフェラーゼ遺伝子及び/もしくはα2,6シアリルトランスフェラーゼ遺伝子のいずれか又は両方が欠失した哺乳動物細胞を用いる。このような欠失は、当分野で周知である遺伝子ノックアウト技法を用いて構築することができる。他の実施形態において、ジヒドロ葉酸レダクターゼ(DHFR)欠陥チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞を、組換えエリスロポエチン関連分子を産生するための宿主細胞として使用する。CHO細胞は酵素α2,6シアリルトランスフェラーゼを発現しないので、これらの細胞内で産生される糖蛋白のN結合型オリゴ糖への2,6結合中にシアル酸を付加しない。その結果、CHO細胞内で産生された組換えタンパク質は、ガラクトースへの2,6結合中にシアル酸を持たない(Sasakiら, (1987);Takeuchiら(前掲)、Mutsaersら, Eur. J. Biochem. 156, 651(1986);Takeuchiら, J. Chromotgr. 400, 207(1987)。1つの実施形態において、アシアロ-エリスロポエチンを産生するための宿主細胞を作成するために、CHO細胞内のα2,3シアリルトランスフェラーゼをコードする遺伝子を欠失させる。このような2,3シアリルトランスフェラーゼノックアウトCHO細胞はシアリルトランスフェラーゼ活性を全く持たないため、アシアロ-エリスロポエチンの組換え発現及び産生に有用である。
【0082】
他の実施形態において、アシアロ糖蛋白は、ゴルジ体内へのシアル酸の輸送を妨げることによって作製することができる(例えばEckhardtら, 1998, J. Biol. Chem. 273:20189-95)。当業者に周知である方法(例えばOelmannら, 2001, J. Biol. Chem. 276:26291-300)を用いて、ヌクレオチド糖CMP-シアル酸トランスポーターの突然変異誘発を起こして、チャイニーズハムスター卵巣細胞の突然変異体を作製することができる。これらの細胞は、エリスロポエチン等の糖蛋白にシアル酸残基を付加することができないので、アシアロエリスロポエチンのみを産生する。エリスロポエチンを産生するトランスフェクトされた哺乳動物細胞は、培養培地中に漏れ出した場合に効率良くシアロエリスロポエチンを分解する細胞質ゾルシアリダーゼも産生する(例えば、Gramerら, 1995 Biotechnology 13:692-698)。(例えばFerrariら, 1994, Glycobiology 4:367-373に記載された情報から)当業者に周知である方法を用いて、細胞系をトランスフェクトしたり、突然変異させたり、又は他の方法で、シアリダーゼを構成的に産生するようにさせることができる。このように、アシアロエリスロポエチンは、アシアロエリスロポエチンの製造中に作製することができる。
【0083】
本発明の1つの態様の実施において、エリスロポエチンを含む上記医薬組成物は、脈管構造内に十分なレベルのエリスロポエチンをもたらして、内皮細胞バリアを介したトランスロケーションを可能にし、エリスロポエチン応答性細胞に対して有益な影響をもたらす任意の経路により、哺乳動物に投与することができるものである。組織又は器官を潅流するために使用する場合、同様の結果が望ましい。エリスロポエチンをex-vivo潅流で使用する場合、エリスロポエチンは、上記エリスロポエチン等(ただしこれらに限定されない)の任意の形態のエリスロポエチンであってもよく、ヒトエリスロポエチン等の天然エリスロポエチンを含み得る。細胞又は組織が血管新生されていない場合及び/又は投与が細胞もしくは組織を本発明の組成物に浸すものである場合、医薬組成物は、エリスロポエチン応答性細胞に有益な有効量のエリスロポエチンを提供する。エリスロポエチンがトランスロケートする時に通る内皮細胞バリアとしては、哺乳動物の体内に存在する密着帯、有孔接合部(perforated junction)、有窓接合部(fenestrated junction)、及び他のタイプの内皮バリアが挙げられる。好適なバリアは、内皮細胞密着帯であるが、本発明はそれに限定するものではない。
【0084】
上記エリスロポエチンは一般に、主に神経症状又は精神医学的症状を有する、中枢神経系又は末梢神経系のヒト疾患、眼の疾患、心臓血管疾患、心肺疾患、呼吸器疾患、腎臓疾患、尿路疾患、生殖器系疾患、胃腸疾患、内分泌性異常及び代謝性異常の治療的もしくは予防的処置において有用である。特に、このような症状及び疾患としては、低酸素状態が挙げられる。低酸素状態は、中枢神経系組織、抹消神経系組織、心臓組織又は網膜組織(例えば脳、心臓、又は網膜/眼等)内の興奮性組織等の興奮性組織に悪影響を及ぼす。従って本発明は、種々の症状及び状況における低酸素状態により生じる興奮性組織へのダメージを治療又は予防するために用いることができる。このような症状及び状況の非限定的な例を、以下の表に記載する。
【0085】
本発明に従って治療することができる神経組織の病理の保護の例において、このような病理には、神経組織への酸素供給量の低下により生じるものが含まれる。神経組織への酸素の利用可能性を低下させるあらゆる条件(ストレス、ダメージ、そして最終的には神経細胞死をもたらす)は、本発明の方法によって治療することができる。一般に低酸素症及び/又は虚血に関して、これらの条件は、卒中、血管閉塞、出生前もしくは生後の酸素欠乏、窒息、気道内閉塞、溺水(near drowning)、一酸化炭素中毒、煙吸入、外傷(外科手術及び放射線療法を含む)、仮死、癲癇、低血糖症、慢性閉塞性肺疾患、気腫、成人呼吸促進症候群、低血圧性ショック、敗血症性ショック、アナフィラキシーショック、インスリンショック、鎌状赤血球発症、心拍停止、律動異常、窒素性ナルコーシス、及び心肺バイパス手術により引き起こされる神経性欠損等(ただしこれらに限定されない)を含む又はこれらから生じる。
【0086】
1つの実施形態において、例えば腫瘍切除又は動脈瘤の修復等の外科手術中に傷害又は組織ダメージの危険から生じる傷害又は組織ダメージを防ぐために、例えば特定のEPO組成物を投与することができる。低血糖症により引き起こされる又は低血糖症から生じる他の病理であって、本明細書中に記載される方法によって治療可能なものとしては、インスリンの過剰投与(医原性高インスリン血症とも呼ばれる)、インスリノーマ、成長ホルモン欠陥、低副腎皮質機能、薬物の過剰投与、及びある種の腫瘍が挙げられる。
【0087】
興奮性神経組織のダメージにより発生する他の病理としては、発作障害(癲癇、痙攣、又は慢性発作障害等)が挙げられる。他の治療可能な症状及び疾患としては、卒中、多発性硬化症、低血圧症、心拍停止、アルツハイマー病、パーキンソン病、脳性小児麻痺、脳脊髄の外傷、AIDS痴呆、老化による認知機能の低下、記憶喪失(memory loss)、筋萎縮性側索硬化症、発作障害、アルコール中毒症、網膜虚血、緑内障により生じる視神経のダメージ、及びニューロン減少などの疾患が挙げられる。
【0088】
本発明の特定の組成物及び方法を用いて、網膜組織の症状及び網膜組織へのダメージを治療することができる。このような障害としては、網膜虚血、黄斑変性、網膜剥離、色素性網膜炎、動脈硬化性網膜症、高血圧性網膜症、網膜動脈閉塞(blockage)、網膜静脈閉塞、低血圧症、及び糖尿病性網膜症が挙げられるがこれらに限定されない。
【0089】
他の実施形態において、本発明の方法の原則は、放射線による興奮性組織へのダメージから生じる損傷を保護又は治療するために使用することができる。本発明の方法の他の用途は、神経毒中毒症(例えばドウモイ酸(domoic acid)による貝中毒、神経ラシリズム(neurolathyrism)及びGuam疾患等)、筋萎縮性側索硬化症、及びパーキンソン病の治療においてである。
【0090】
上記のように、本発明は、上記のようなエリスロポエチンの末梢投与により哺乳動物における興奮性組織の機能を強化する方法にも関する。この方法を用いた治療により、種々の疾患及び症状を治療することができ、さらにこの方法は、何の症状も疾患もない場合に認知機能を増強するのに有用である。本発明のこれらの使用(ヒト及び非ヒト哺乳動物の両方における学習及び訓練の増強を含む)について、以下にさらに詳しく記載する。
【0091】
本発明のこの態様の方法によって治療することができる中枢神経系に関係する症状及び疾患としては、気分障害、不安障害、うつ病、自閉症、注意欠陥過活動性障害、及び認知機能障害が挙げられるが、これらに限定されない。これらの症状は神経機能の増強により恩恵を得る。本発明の教示に従って治療することができる他の障害には、睡眠障害(例えば睡眠時無呼吸及び旅行に関係する障害等)、クモ膜下及び動脈瘤出血、低血圧性ショック、振とう症傷害、敗血症性ショック、アナフィラキシーショック、及び種々の脳炎及び髄膜炎(例えば狼瘡等の結合組織に関係する脳炎)の続発症が含まれる。他の用途としては、神経毒による中毒(例えばドウモイ酸による貝中毒、神経ラシリズム及びGuam疾患等)、筋萎縮性側索硬化症、パーキンソン病、塞栓性もしくは虚血性傷害の術後の処置、全脳放射線照射、鎌状赤血球発症、ならびに子癇の予防又はこれらからの保護が挙げられる。
【0092】
本発明の方法によって治療することができる更なる症状群としては、遺伝性もしくは後天性のミトコンドリア機能障害(神経の損傷及び死を典型とする様々な神経疾患の原因となる)が挙げられる。例えば、リー病(亜急性壊死性脳障害)は、ニューロン脱落による視力低下の進行と脳障害及び筋障害を特徴とする。これらの場合、不完全なミトコンドリア代謝により、興奮性細胞の代謝の燃料となる高エネルギー物質を十分供給することができない。エリスロポエチン受容体活性調節因子は、様々なミトコンドリア疾患において弱まった機能を最適にする。上記のように、低酸素状態は、興奮性組織に悪影響を及ぼす。興奮性組織としては、中枢神経系組織、末梢神経系組織、及び心組織が挙げられるがこれらに限定されない。上記症状に加えて、本発明の方法は、一酸化炭素および煙の吸入などの吸入中毒、重度の喘息、成人呼吸促進症候群、ならびに窒息及び溺水の治療において有用である。低酸素状態を引き起こす又は何らかにより興奮性組織のダメージを誘導する更なる症状としては、インスリンの不適切な投与において生じ得る又はインスリン産生新生物(インスリノーマ)を有する低血糖症が挙げられる。
【0093】
興奮性組織のダメージが原因であると考えられている様々な神経心理学的障害は、本発明の方法によって治療可能である。本発明による治療が提供される神経のダメージが関与している慢性疾患には、中枢神経系及び/又は末梢神経系に関係する障害(老化による認知機能の低下及び老人性痴呆、慢性発作障害、アルツハイマー病、パーキンソン病、痴呆、記憶喪失、筋萎縮性側索硬化症、多発性硬化症、結節硬化症、ウィルソン病脳及び進行性核上性麻痺、Guam疾患、レーヴィ小体痴呆、プリオン疾患(例えばクロイツフェルト-ヤコブ病、ハンティングトン病、筋緊張性ジストロフィー、フリートライヒ運動失調及び他の運動失調等の海綿状脳障害)、ジル・ド・ラ・ツレット症候群、癲癇等の発作障害及び慢性発作障害、卒中、脳もしくは脊髄の外傷、AIDS痴呆、アルコール中毒症、自閉症、網膜虚血、緑内障、高血圧症や睡眠障害等の自立神経機能障害、ならびに神経精神障害(精神分裂病、分裂情動性障害、注意欠陥障害、気分変調性障害、大うつ病、躁病、強迫性障害、精神活性物質使用障害、不安、パニック障害、一極性及び双極性情動障害を含むがこれらに限定されない)が含まれる。更なる神経精神障害及び神経変性障害としては、例えば、米国精神医学協会(American Psychiatric Association)の精神障害の診断及び統計マニュアル(Diagnostic and Statistical manual of Mental Disorders, DSM)に記載されているものがあり、最新バージョンは、本明細書中に参考として全て組み込まれる。
【0094】
他の実施形態において、エリスロポエチンを含む組換えキメラ毒素分子は、癌等の増殖性障害又は亜急性硬化性汎脳炎等のウイルス性障害を治療するための、毒素の治療的送達のために用いることができる。
【0095】
以下の表は、上記エリスロポエチンによって治療することができる様々な症状及び疾患の追加的な例の非限定的適応症を列挙している。
【表1】


【表2】


【表3】


【表4】


【表5】


上記の通り、これらの疾患、障害又は症状は、本発明のエリスロポエチンによって提供される恩恵の範囲の単なる例示である。従って本発明は一般に、機械的な外傷又はヒト疾患の結果生じる不調の治療的もしくは予防的処置を提供する。CNS及び/又は末梢神経系の疾患、障害または症状の治療的もしくは予防的処置が好ましい。精神医学的要素を有する疾患、障害または症状の治療的もしくは予防的処置が提供される。眼、心血管、心肺、呼吸器系、腎臓、尿道、生殖器、胃腸、内分泌性又は代謝性の要素を持つもの等(ただしこれらに限定されない)の疾患、障害または症状の治療的もしくは予防的処置が提供される。
【0096】
1つの実施形態において、エリスロポエチンのこのような医薬組成物は、標的細胞、組織又は器官を保護又は増強するために全身に投与することができる。このような投与は、非経口、吸入、又は粘膜経由で行われる(例えば口内、鼻腔内、直腸内、膣内、舌下、粘膜下、又は経皮投与等)。好ましくは、投与は、例えば静脈内もしくは腹腔内注射等による非経口経由であり、例えば動脈内、筋肉内、皮内及び皮下投与が挙げられるがこれらに限定されない。
【0097】
潅流液の使用、器官内への注射又は他の局所投与等による他の投与経路の場合、上記と同様のレベルのエリスロポエチンをもたらす医薬組成物が提供される。約15pM〜30nMのレベルが好ましい。
【0098】
本発明の医薬組成物は、治療的有効量の化合物及び薬学的に許容可能な担体を含み得る。特定の実施形態において、「薬学的に許容可能な」という用語は、動物(特にヒト)への使用が、連邦政府又は州政府の取締機関により認証されていること、又は米国薬局方もしくは他の一般に認識されている外国薬局方に記載されていることを意味する。「担体」という用語は、治療剤と一緒に投与される希釈剤、アジュバント、賦形剤、又はビヒクルを指す。このような医薬担体は、無菌液(例えば生理食塩水、又は石油、動物、植物もしくは合成起源の油等(例えば落花生油、大豆油、鉱油、ゴマ油等を含む))であってもよい。医薬組成物を静脈内投与する場合、生理食塩水が好適な担体である。特に注射用溶液の場合は、生理食塩水、デキストロース水溶液及びグリセロール水溶液を液体担体として使用することもできる。好適な医薬賦形剤としては、澱粉、ブドウ糖、乳糖、ショ糖、ゼラチン、麦芽、米、コムギ、チョーク、シリカゲル、ステアリン酸ナトリウム、モノステアリン酸グリセリン、タルク、塩化ナトリウム、脱脂粉乳、グリセロール、プロピレン、グリコール、水及びエタノール等が挙げられる。望ましい場合、組成物は、少量の湿潤剤、乳化剤、又はpH緩衝剤を含むこともできる。これらの組成物は、溶液、懸濁液、乳液、錠剤、丸剤、カプセル、粉剤、及び持続放出性製剤等であってもよい。この組成物は、伝統的な結合剤及び担体(トリグリセリド等)と一緒に坐剤として製剤化することができる。本発明の組成物は、中性のもの又は塩として製剤化することができる。薬学的に許容可能な塩としては、遊離アミノ基と共に形成されたもの(塩酸、リン酸、酢酸、シュウ酸及び酒石酸等から誘導されたもの等)、ならびに遊離カルボキシル基と共に形成されたもの(ナトリウム、カリウム、アンモニウム、カルシウム、水酸化第2鉄、イソプロピルアミン、トリエチルアミン、2-エチルアミノエタノール、ヒスチジン、プロカイン等から誘導されたもの等)が挙げられる。好適な医薬担体の例は、"Remington's Pharmaceutical Sciences" by E.W. Martinに記載されている。このような組成物は、治療上有効な量の該化合物(好ましくは純粋な形態)を、患者への投与に適した形状にするために適量の担体と一緒に含む。製剤は、投与方法に見合ったものでければならない。
【0099】
経口投与用の医薬組成物は、カプセル剤もしくは錠剤として、粉剤もしくは顆粒剤として、(水性もしくは非水性液体中の)溶液、シロップもしくは懸濁剤として、食用泡沫もしくはホイップとして、又は乳剤として提供されてもよい。錠剤もしくは硬ゼラチンカプセルは、乳糖、澱粉もしくはその誘導体、ステアリン酸マグネシウム、ナトリウム糖(sodium saccharine)、セルロース、炭酸マグネシウム、ステアリン酸もしくはその塩等を含む得る。軟ゼラチンカプセルは、植物油、ろう、脂肪、半固体もしくは液体ポリオール等を含み得る。溶液及びシロップ剤は、水、ポリオール及び糖類を含み得る。
【0100】
経口投与のための有効成分は、胃腸管内での該有効成分の分解及び/又は吸収を遅らせる物質でコーティングしたりこのような物質と混合したりしてもよい。例えばモノステアリン酸グリセリン又はジステアリン酸グリセリン等を使用してもよい。このように、有効成分の持続性放出は、何時間もの間行っても良いし、必要であれば、有効成分は胃の中で分解されないようにすることができる。経口投与用の医薬組成物は、特定のpH又は酵素条件によって胃腸内の特定の位置で有効成分の放出を促進するよう製剤化してもよい。
【0101】
経皮投与用の医薬組成物は、受容者の表皮に長時間密着させるための独立型のパッチとして提供されてもよい。局所投与用の医薬組成物は、軟膏、クリーム、懸濁液、ローション、粉末、溶液、パスタ剤、ゲル、スプレー、エアロゾル又はオイルとして提供されてもい。皮膚、口、眼又は他の外部組織への局所投与用には、表面塗布用の軟膏又はクリームが好ましくは使用される。軟膏として製剤化される場合、有効成分は、パラフィン系もしくは水混和性の軟膏基剤と一緒に使用することができる。あるいは、有効成分は、水中油基剤又は油中水基剤を用いてクリームとして製剤化することができる。眼への局所投与用の医薬組成物としては、点眼剤が挙げられる。これらの組成物中において、有効成分は、適当な担体の中(例えば水性溶剤の中)に溶解もしくは懸濁させることができる。口内への局所投与用の医薬組成物としては、トローチ剤、香錠及びマウスウォッシュが挙げられる。
【0102】
鼻腔内及び肺投与用の医薬組成物は、粉末(好ましくは20〜500ミクロンの粒径を有するもの)などの固体担体を含み得る。粉末は、鼻でかぐようにして(すなわち鼻の近くに保持された粉末の容器から鼻でさっと吸入することにより)投与することができる。あるいは、鼻腔内投与用の組成物は、液体担体を含み得る(例えば鼻内スプレー又は点鼻剤等)。あるいは、深く吸入したり又はマウスピースを介して咽頭口腔部に装置を据え付けることによって、肺への直接吸入を行ってもよい。これらの組成物は、有効成分の水性もしくは油性溶液を含み得る。吸入による投与用の組成物は、所定用量の有効成分を提供するように構築することができる専用デバイス(加圧エアロゾル、ネブライザー、又は注入器を含むがこれらに限定されない)に入れて供給される。好適な実施形態において、本発明の医薬組成物は、鼻腔内に直接、又は鼻腔もしくは咽頭口腔部を介して肺へと投与される。
【0103】
直腸投与用の医薬組成物は、坐剤又は浣腸剤として提供することができる。膣内投与用の医薬組成物は、ペッサリー、タンポン、クリーム、ゲル、パスタ剤、泡沫剤又はスプレー製剤として提供することができる。
【0104】
非経口投与用の医薬組成物としては、水性及び非水性の無菌注射用溶液もしくは懸濁液が挙げられ、これらは、酸化防止剤、緩衝剤、静菌薬、及び投与を受ける受容者の血液と該組成物とがほぼ等張となるようにする溶質を含み得る。このような組成物中に含まれ得る他の成分としては、例えば水、アルコール、ポリオール、グリセリン及び植物油が挙げられる。非経口投与用組成物は、単位服用量もしくは複数分の服用量の容器(例えば密閉アンプル及びバイアル)に入れて提供され、使用直前に無菌液体担体(例えば注射用無菌生理食塩溶液等)を加えるだけですむように、冷凍乾燥(凍結乾燥)状態で保存することができる。即時調合注射用溶液及び懸濁液は、無菌粉剤、顆粒剤及び錠剤から調製することができる。1つの実施形態において、救急車、救急室、及び戦場といった状況下での緊急時の使用のために、また、家庭内状況における自己投与のために(特に、例えば芝狩機の不注意な使用等による外傷性切断の可能性が生じ得る場合)、エリスロポエチンの注射用溶液を含む自己注射器が提供される。切断された身体部分の複数の部位にエリスロポエチンをできるだけ早く投与することによって、たとえ現場に医師が到着する前もしくは足指が切断された患者が運ばれて救急室に到着する前であっても、切断された足又は足指の中の細胞及び組織が再び取りつけた後に生き残る可能性を高くすることができる。
【0105】
好適な実施形態において、組成物は、ヒトへの静脈内投与用の医薬組成物と同様の常套手法に従って製剤化される。典型的には、静脈内投与用の組成物は、無菌等張水性緩衝液中の溶液である。必要であれば、組成物は、可溶化剤及び注射部位の痛みを和らげるリドカイン等の局部麻酔も含み得る。一般的に、これらの成分は別々に又は単位剤形の中に一緒に混合して(例えば有効成分の量を示すアンプルやサッシェ(sachette)等の気密封止容器に入れた凍結乾燥粉末又は無水濃縮物として)供給される。組成物を注入により投与する場合、医薬品質の無菌水もしくは生理食塩水を含む注入ボトルを用いて投薬することができる。組成物を注射により投与する場合、投与前に成分を混合することができるように、無菌食塩水の入ったアンプルを提供することができる。
【0106】
一般に坐剤は有効成分を0.5〜10重量%含み、経口投与用製剤は好ましくは有効成分を10%〜95%含む。
【0107】
in situ潅流用の移植器官浴(transplanted organ bath)で使用するため、又は器官を回収する前に器官ドナーの脈管に投与するための、潅流液組成物を提供することができる。このような医薬組成物は、個体への急性もしくは慢性の局部投与又は全身投与には適さないレベルもしくは形態のエリスロポエチンを含み得るが、死体、器官浴、器官潅流液、又はin situ潅流液において本明細書中で意図される機能を果たすものであり、その後、処理した器官又は組織を正常な循環にさらすもしくは戻す前に、その中に含まれるエリスロポエチンのレベルを除去する又は低下させる。本発明のこの態様のためのエリスロポエチンは、非限定的な例として、ヒトエリスロポエチン等の天然発生形態等の任意のエリスロポエチン、又はアシアロエリスロポエチン及びフェニルグリオキサールエリスロポエチン等の上記エリスロポエチンのいずれであってもよい。
【0108】
また本発明は、本発明の医薬組成物の成分のうちの1つ以上を充填した1つ以上の容器を含む医薬パックもしくはキットも提供する。場合により、このような容器に、医薬品もしくは生物学的製剤の製造、使用又は販売を規制する政府機関により規定されたフォームで書かれた注意書き(この注意書きはヒト投与のための製造、使用又は販売を規制する管轄機関による認可を反映する)を添えることができる。
【0109】
例えば1つの実施形態において、エリスロポエチンは放出制御系で送達することができる。例えば、静脈内注入、移植可能浸透圧ポンプ、経皮パッチ、リポソーム、又は他の投与方法を用いてポリペプチドを投与することができる。1つの実施形態においては、ポンプを使用することができる(以下の文献を参照されたい:Langer(前掲);Sefton, 1987, CRC Crit. Ref. Biomed. Eng. 14:201; Buchwaldら, 1980, Surgery 88:507; Saudekら, 1989, N. Engl. J. Med.321:574)。他の実施形態において、化合物は小胞(特にリポソーム)内に入れて送達することができる(以下の文献を参照されたい:Langer, Science 249:1527-1533(1990);Treatら, in Liposomes in the Therapy of Infectious Disease and Cancer, Lopez-Berestein及びFidler(編), LissNew York, pp.353-365(1989);国際特許出願公開番号第WO91/04014;米国特許第4,704,355号;Lopez-Berestein, 同書, pp.317-327;一般に同書を参照されたい)。1つの実施形態において、ポリマー系材料を用いることができる(以下の文献を参照されたい:Medical Applications of Controlled Release, Langer及びWise(編)、CRC Press;Boca Raton, Florida, 1974;Controlled Drug Bioavailability, Drug Product Design and Performance, Smolen and Ball(編), Wiley: New York (1984);Ranger及びPappas, J. Macromol. Sci. Rev. Macromol. Chem. 23:61, 1953;また以下の文献も参照されたい:Levyら, 1985, Science 228:190; Duringら, 1989, Ann. Neurol. 25:351; Howardら, 1989, J. Neurosurg. 71:105)。
【0110】
さらに他の実施形態において、制御型放出系を治療標的(即ち標的細胞、組織又は器官)の近傍に設置することができる。こうすることにより、全身投与で必要とされる用量に比べて少ない用量しか必要としなくなる(例えばGoodson, pp.115-138 in Medical Applications of Controlled Release, Vol. 2(前掲), 1984を参照されたい)。他の制御型放出系は、Langerによる概説(1990, Science 249:1527-1533)に記載されている。
【0111】
他の実施形態において、適切に製剤化されたエリスロポエチンは、鼻腔内、口内、直腸内、膣内、又は舌下投与により投与することができる。
【0112】
特定の実施形態において、治療を必要とする領域に本発明のエリスロポエチン組成物を局所投与することが望ましい。これは、例えば(ただし限定する訳ではない)外科手術中の局所注入により、局所投与(例えば外科手術後の創傷包帯と組み合わせた投与)、注射により、カテーテルにより、坐剤により、又はインプラントを用いて、行うことができる。インプラントは、多孔性、非多孔性、又はゼラチン状の材料(シラスチック膜等の膜又は繊維を含む)からできている。
【0113】
好適な有効用量の選択は、当業者に公知である幾つかの要因の考慮に基づいて専門家により決定される。このような要因としては、エリスロポエチンの具体的な形態、ならびに医薬化合物の規制認可を得る際に一般に使用される一般開発手続き(usual development procedure)中に確立されているであろうその薬物動態パラメータ(例えばバイオアベイラビリティ、代謝、半減期等)が挙げられる。用量決定の際に考慮される更なる要因としては、治療される症状もしくは疾患、または正常な個体において得られるべき恩恵、患者の体重、投与経路(投与は急性もしくは慢性的なものであってもよい)、併用薬物の適用の有無、及び投与された薬学的物質の効力に影響を及ぼす周知の他の要因が挙げられる。このように正確な投薬量は、標準的な臨床技法に従って、医師の判断及び各患者の状況に従って(例えば個々の患者の体調及び免疫状態等に応じて)決定されるべきである。
【0114】
本発明の他の態様において、移植用器官の還流及び保存のための潅流液又は還流溶液が提供される。還流溶液は、エリスロポエチン応答性細胞及び関連する細胞、組織もしくは器官を保護するのに有効な量のエリスロポエチンを含む。移植には、器官(細胞、組織又は他の身体部分を含む)をあるドナーから回収して異なる受容者に移植する異個体間移植(xenotransplantion)、及び、身体の一部から器官を取り出して他の部位に移植する自己移植(例えば腫瘍除去等のために器官を取り出し、ex vivoで切除、修復又は処理した後に元の場所に戻すベンチ外科手術を含む)が含まれるがこれらに限定されない。1つの実施形態において、還流溶液は、約1〜約25U/mlエリスロポエチン、5%ヒドロキシエチル澱粉(分子量約200,000〜約300,000であり、エチレングリコール、エチレンクロロヒドリン、塩化ナトリウム及びアセトンを実質的に含まない)、25mM KH2PO4、3mMグルタチオン、5mMアデノシン、10mMグルコース、10mM HEPES緩衝液、5mMグルコン酸マグネシウム、1.5mM CaCl2、105mMグルコン酸ナトリウム、200,000unitのペニシリン、40unitのインスリン、16mgのデキサメタゾン、12mgのフェノールレッドを含む、pH7.4〜7.5、重量モル浸透圧約320mOSm/lの、ウィスコンシン大学(the University of Wisconsin, UW)溶液(米国特許第4,798,824号)である。この溶液は、移植前に死体の腎臓及び脾臓を維持するために用いられる。この溶液を用いると、死体の腎臓保存に推奨される制限時間30時間を超える長い時間保存することができる。この特定の潅流液は、有効量のエリスロポエチンを含ませることによって本発明の用途に適合させることができる多くのこのような溶液のうちの単なる例である。さらなる実施形態において、潅流溶液は、約5〜約35U/mlエリスロポエチン又は約10〜約30U/mlエリスロポエチンを含む。上記のように、本発明のこの態様において任意の形態のエリスロポエチンを使用することができる。
【0115】
本明細書中を通じて記載される目的のためのエリスロポエチンの好適な受容者はヒトであるが、本明細書中に記載される方法は、他の哺乳動物(特に飼養動物、家畜動物、ペット及び動物園の動物)に同様に適用することができる。しかし、本発明はそれらの動物に限定されず、恩恵はあらゆる哺乳動物に適用することができる。
【0116】
ex-vivoでの本発明のさらなる態様において、上記エリスロポエチン(ただしそれらに限定されない)、天然エリスロポエチン、それらの類似体、エリスロポエチン模倣体、エリスロポエチンフラグメント、ハイブリッドエリスロポエチン分子、エリスロポエチン受容体結合性分子、エリスロポエチンアゴニスト、腎エリスロポエチン、脳エリスロポエチン、そのオリゴマー、その多量体、その突然変異蛋白質、その同属種、その天然発生形態、その合成形態、その組換え形態、そのグリコシル化変異体、その脱グリコシル化変異体、又はその組合せ等を含むどのエリスロポエチンであってもよい。
【0117】
本発明の他の態様において、内皮細胞バリアにより脈管構造から隔離されていない細胞、組織又は器官の生存力を増強する方法及び組成物は、エリスロポエチンを含む医薬組成物にその細胞、組織もしくは器官を直接曝露することにより、又はその組織もしくは器官の脈管構造にエリスロポエチン含有医薬組成物を投与するもしくは接触させることにより、提供される。処理した組織又は器官の中のエリスロポエチン応答性細胞の活性の増強は、発揮されるプラスの効果の原因となる。
【0118】
上記のように、本発明は、エリスロポエチン分子が、管腔表面から、例えば脳、網膜、及び精巣などを含む内皮細胞の密着帯を有する器官の毛管の内皮細胞の基底膜表面へと輸送されることができる、という発見に一部基づく。このように、バリアを通過するエリスロポエチン応答性細胞は、エリスロポエチンの有益な影響を受け易い標的であり、その中にエリスロポエチン応答性細胞を含み且つそれらに全てもしくは一部依存する他の細胞型、組織又は器官は、本発明の方法の標的である。特定の理論に限定するわけではないが、エリスロポエチンのトランスサイトーシスの後、エリスロポエチンは、例えば神経、網膜、筋肉、心臓、肺、肝臓、腎臓、小腸、副腎皮質、副腎髄質、毛細管内皮、精巣、卵巣もしくは子宮内膜等のエリスロポエチン応答性細胞上のエリスロポエチン受容体と相互作用することができる。そして受容体に結合することにより、エリスロポエチン応答性細胞もしくは組織の中の遺伝子発現プログラムを活性化して、毒素、化学療法剤、放射線療法、低酸素症等のダメージから細胞、組織もしくは器官を保護するシグナル伝達カスケードを始動することができる。このように、損傷又は低酸素性ストレスからエリスロポエチン応答性細胞を含む組織を保護し及びこのような組織の機能を増強する方法について、以下に詳細に説明する。
【0119】
本発明の1つの実施形態の実施にあたり、哺乳動物患者に、神経、肺、心臓、卵巣又は精巣へのダメージ等の副作用を一般に有する癌治療のための全身化学療法(放射線治療を含む)を受けさせる。上記のようなエリスロポエチンを含む医薬組成物の投与は、化学療法及び/又は放射線療法を行う前または行っている間に、化学療法剤によるダメージから様々な組織及び器官を保護するために(例えば精巣を保護するために)実施される。治療は、化学療法剤の循環レベルが哺乳動物の身体に危険を及ぼす可能性のあるレベル未満に下がるまで続けることができる。
【0120】
本発明の他の実施形態の実施にあたり、交通事故犠牲者から複数の受容者に移植するために様々な器官を回収するように計画し、これらの器官のうちの幾つかは長距離及び長時間の輸送が必要であった。器官回収の前に、本明細書記載のエリスロポエチンを含む医薬組成物を犠牲者に注入した。出荷用の回収器官を、本明細書記載のエリスロポエチンを含む潅流液で潅流させ、エリスロポエチンを含む浴の中に保存した。ある器官は、本発明のエリスロポエチンを含む潅流液を利用した拍動性潅流装置を用いて連続的に潅流した。in situでの輸送中、移植時、及び器官の再潅流時の器官機能の劣化は最小限に食い止められた。
【0121】
本発明の他の実施形態において、心臓弁を修復するための外科手術で、一時的な心停止及び動脈閉塞が必要であった。外科手術前に、患者に体重1kgあたり500Uエリスロポエチンを注入した。このような治療は、特に再潅流後に、低酸素性虚血による細胞ダメージを防いだ。
【0122】
本発明の他の実施形態において、任意の外科手術(例えば心肺バイパス手術等)において、天然発生形態のエリスロポエチン又は本発明の任意のエリスロポエチンを用いることができる。1つの実施形態において、脳、心臓、及び他の器官の機能を保護するために、上記エリスロポエチンを含む医薬組成物の投与は、バイパス手術を行う前、行っている間、及び/又は行った後に行われる。
【0123】
天然エリスロポエチンを含む本発明のエリスロポエチンをex-vivo用途で使用する上記例において、または神経組織、網膜組織、心臓、肺、肝臓、腎臓、小腸、副腎皮質、副腎髄質、毛細管内皮、精巣、卵巣もしくは子宮内膜の細胞又は組織等のエリスロポエチン応答性細胞を治療するために、本発明は、脈管構造の遠位にあるエリスロポエチン応答性細胞、組織もしくは器官の保護又は増強に適応させた単位剤形としての医薬組成物を提供する。この医薬組成物は、剤形1つあたり、約50,000〜500,000 Unit、60,000〜500,000 Unit、70,000〜500,000 Unit、80,000〜500,000 Unit、90,000〜500,000 Unit、100,000〜500,000 Unit、150,000〜500,000 Unit、200,000〜500,000 Unit、250,000〜500,000 Unit、300,000〜500,000 Unit、350,000〜500,000 Unit、400,000〜500,000 Unit、又は450,000〜500,000 Unitの範囲の有効な非毒性量のエリスロポエチン、エリスロポエチン受容体活性化因子、又はエリスロポエチン活性化型受容体調節因子、ならびに薬学的に許容可能な担体を含む。好適な実施形態において、エリスロポエチンの有効な非毒性量は、約50,000〜500,000 Unitの範囲内である。好適な実施形態において、上記組成物中のエリスロポエチンは、非赤血球産生性である。
【0124】
本発明のさらなる態様において、エリスロポエチンの投与は、脳に外傷を負った動物の認知機能を回復させることが分かった。5日又は30日遅れた後でも、エリスロポエチンの投与はなお、擬似手術を行った動物と比較して機能を回復させることができた。これは、脳の活性を再生もしくは回復させるエリスロポエチンの能力を示している。このように、本発明は、脳の外傷又は他の認知機能障害の治療(損傷後、例えば3日後、5日後、1週間後、1ヶ月後またはそれ以上の治療も含む)のための医薬組成物を調製するためのエリスロポエチンの使用にも関する。また本発明は、有効量のエリスロポエチンを投与することによる、損傷後の認知機能障害の治療方法にも関する。本発明のこの態様では、本明細書中に記載されるどのエリスロポエチンを使用してもよい。
【0125】
さらに、本発明のこの機能回復の態様は、治療がその機能障害の原因となる最初の傷害の後及びしばらくたった後に開始される場合の、細胞、組織もしくは器官の機能不全を回復させる医薬組成物の調製のための本明細書中に記載されるエリスロポエチンのいずれかの使用に関する。さらに、本発明のエリスロポエチンを用いた治療は、急性期及び慢性期の疾患又は症状の過程を通して行うことができる。
【0126】
好適な実施形態において、本発明のエリスロポエチンが赤血球産生作用を有する場合、エリスロポエチンは、一回の投与あたり、約300〜約10,000 Unit/kg体重、好ましくは約500〜5,000 Unit/kg体重、最も好ましくは約1,000 Unit/kg体重の用量で全身投与され得る。この有効用量は、エリスロポエチンを投与した後に、エリスロポエチンの血清レベルを血清1mlあたり約10,000、15,000又は20,000mUを超えるレベルとするために十分な量でなければならない。このような血清レベルは、投与後約1、2、3、4、5、6、7、8、9又は10時間経過後に達成されるものであってもよい。このような投薬は必要に応じて繰り返すことができる。例えば投薬は、臨床的に必要である限り毎日繰り返してもよいし、適当な間隔をもうけて(例えば1週間〜12週間毎、好ましくは1〜3週間毎に)繰り返してもよい。1つの実施形態において、有効量のエリスロポエチン及び薬学的に許容可能な担体を1回分服用量のバイアル又は他の容器の中にパッケージングすることができる。他の実施形態において、本明細書中に記載される目的に有用なエリスロポエチンは非赤血球産生性である、すなわち本明細書中に記載される活性を発揮することができるがヘモグロビン濃度またはヘマトクリットの上昇を引き起こすものではない。このような非赤血球産生性形態のエリスロポエチンは、本発明の方法を長期的に提供する場合に好適である。他の実施形態において、エリスロポエチンは、赤血球産生を最大限に刺激するのに必要な量を超える量で与えられる。上記のように、本発明のエリスロポエチンは、赤血球産生作用を必ずしも持っている必要がないので、赤血球産生単位(Unit)で表された上記用量は単に赤血球産生性エリスロポエチンの場合の例であり、どのエリスロポエチンにも適用可能な上記モル当量の投薬量が提供される。
【0127】
本発明はさらに、上記エリスロポエチンに会合させた特定の分子を含む組成物を投与することによって哺乳動物の体内の内皮細胞バリアを介する分子の輸送を容易にする方法に関する。上記のように、体内のある器官の中の内皮細胞同士の間の密着帯は、ある種の分子の侵入を防ぐバリアを生成する。バリア機能に守られた器官の中の種々の症状を治療するために、薬物の通過を促進する手段が望ましい。本発明のエリスロポエチンは、血液脳関門及び同様のバリアを介して他の分子を送達するための担体として有用である。エリスロポエチンと共にバリアを通過させたい分子を含む組成物を調製し、その組成物を末梢投与すると、バリアを介する該組成物のトランスサイトーシスが得られる。バリアを通過させたい分子とエリスロポエチンとの会合は、不安定な共有結合であってもよく、この場合は、バリアを通過した後に該分子がエリスロポエチンと会合した状態から解放される。該分子の所望の薬理学的活性がエリスロポエチンとの会合により維持されるか又は会合により影響を受けない場合、このような複合体を投与することができる。
【0128】
当業者であれば、分子を本発明のエリスロポエチン及び上記他の物質と共有結合、非共有結合および他の手段により会合させる様々な手段を思いつくとことができるであろう。さらに、実験システムにおける組成物の効力の評価法を簡単に決定することもできるであろう。エリスロポエチンと分子との会合は、様々な手段(不安定な共有結合、架橋等を含む)によって行ってもよい。ビオチンとアビジンとの相互作用を用いることもできる。上記のように、組換えもしくは合成手段によって、例えばその分子の所望の薬理活性を有するドメイン及びエリスロポエチン受容体活性化調節を担うドメインの両方を含むハイブリッド分子を調製してもよい。
【0129】
多官能性分子(すなわち多官能性架橋剤)を介して分子をエリスロポエチンに結合させることができる。本明細書中で使用される「多官能性分子」という用語は、連続して2回以上反応することができる1つの官能基を有する分子(ホルムアルデヒド等)及び2つ以上の反応性基を有する分子を包含する。本明細書中で使用される「反応性基」という用語は、ある分子(例えば内皮細胞バリアを介して送達しようとするペプチド、タンパク質、炭水化物、核酸、特にホルモン、抗生物質、又は抗癌剤)上の官能基と反応する架橋剤上の官能性基であって、反応すると架橋剤と分子との間に共有結合を形成する官能基を指す。「官能基」という用語は、有機化学におけるその標準的な意味を持つ。使用することができる多官能性分子は、好ましくは成体適合性リンカーである(すなわちこれらはin vivoにおいて非発癌性、非毒性であり、実質的に非免疫原性である)。当分野で公知であるものや本明細書中に記載されるもの等の多官能性架橋剤は、これらの生態適合性を決定するために動物モデルで簡単にテストすることができる。多官能性分子は好ましくは二官能性である。本明細書中で使用される「二官能性分子」とは、2つの反応性基を有する分子を指す。二官能性分子は、ヘテロ二官能性であってもホモ二官能性であってもよい。ヘテロ二官能性架橋剤により、有向性接合(vectorial conjugation)が可能となる。架橋反応を水溶液(pH6〜8に緩衝された水溶液等)の中で生じさせるには多官能性分子が十分な水溶性を有すること、及びより効果的な生体内分布を得るためには得られる接合体が水溶性のままであることが特に好ましい。典型的には、多官能性分子はアミノもしくはスルフヒドリル官能基に共有結合する。しかし、他の官能基(例えばカルボン酸又はヒドロキシル基)に対して反応性である多官能性分子も本発明において想定される。
【0130】
ホモ二官能性分子は少なくとも2つの同種の反応性官能基を有する。ホモ二官能性分子上の反応性官能基は、例えばアルデヒド基および活性エステル基を含む。アルデヒド基を有するホモ二官能性分子としては、例えばグルタルアルデヒド及びサブアラルデヒド(subaraldehyde)が挙げられる。架橋剤としてのグルタルアルデヒドの使用は、Poznanskyら, Science 223, 1304-1306 (1984)により開示された。少なくとも2つの活性エステルユニットを有するホモ二官能性分子としては、ジカルボン酸及びN-ヒドロキシスクシンイミドのエステルが挙げられる。このようなN-スクシンイミジルエステルの幾つかの例としては、ジスクシンイミジルスベリン酸塩及びジチオ-ビス-(スクシンイミジルプロピオン酸塩)、ならびにこれらの可溶性ビス-スルホン酸及びビススルホン酸塩(これらのナトリウム塩及びカリウム塩等)が挙げられる。これらのホモ二官能性試薬は、Pierce(Rockford, Illinois)から入手可能である。
【0131】
ヘテロ二官能性分子は、少なくとも2つの異種の反応性基を有する。反応性基は、(例えばエリスロポエチン上及び分子上に存在する)異なる官能基と反応する。ヘテロ二官能性架橋剤上の反応性基と反応するこれら2つの異なる官能基は通常、アミノ基(例えばリシンのεアミノ基等)、スルフヒドリル基(例えばシステインのチオール基等)、カルボン酸(例えばアスパラギン酸上のカルボキシラート等)、又はヒドロキシル基(例えばセリン上のヒドロキシル基等)である。
【0132】
もちろん、本発明の種々のエリスロポエチン分子は、ある架橋剤と共に使用することができる適当な反応性基をもたなくてもよいが、当業者であれば、本発明のエリスロポエチン中の架橋に利用できる基に基づいて架橋剤の選択を十分行うことができるであろう。
【0133】
ヘテロ二官能性分子の反応性基がアミノ基と共に共有結合を形成するとき、この共有結合は通常はアミドもしくはイミド結合である。アミノ基と共有結合を形成する反応性基は、例えば活性化されたカルボキシラート基、ハロカルボニル基、またはエステル基であってもよい。好適なハロカルボニル基は、クロロカルボニル基である。エステル基は好ましくは例えばN-ヒドロキシ-スクシンイミドエステル基等の反応性エステル基である。
【0134】
典型的には、他の官能基は、チオール基、チオール基に変換されることができる基、またはチオール基と共に共有結合を形成する基である。共有結合は通常はチオエーテル結合又はジスルフィド結合である。チオール基と共に共有結合を形成する反応性基としては、例えば、チオール基または活性化されたジスルフィドと反応する二重結合が挙げられる。チオール基と反応することができる二重結合を含む反応性基はマレイミド基であるが、アクリロニトリル等の他の反応性基も可能である。反応性ジスルフィド基としては例えば2-ピリジルジチオ基又は5,5'-ジチオ-ビス-(2-ニトロ安息香酸)基が挙げられる。反応性ジスルフィド結合を含むヘテロ二官能性試薬の幾つかの例としては、N-スクシンイミジル-3-(2-ピリジル-ジチオ)プロピオン酸塩(Carlssonら, 1978, Biochem J., 173:723-737)、S-4-スクシンイミジルオキシカルボニル-α-メチルベンジルチオ硫酸ナトリウム、及び4-スクシンイミジルオキシカルボニル-α-メチル-(2-ピリジルジチオ)トルエンが挙げられる。N-スクシンイミジル3-(2-ピリジルジチオ)プロピオン酸塩が好ましい。チオール基と反応する二重結合を有する反応性基を含むヘテロ二官能性試薬の幾つかの例としては、スクシンイミジル-4-(N-マレイミドメチル)シクロヘキサン-1-カルボキシラート及びスクシンイミジルm-マレイミド安息香酸塩が挙げられる。
【0135】
他のヘテロ二官能性分子としては、スクシンイミジル3-(マレイミド)プロピオン酸、スルホスクシンイミジル4-(p-マレイミド-フェニル)酪酸塩、スルホスクシンイミジル4-(N-マレイミドメチル-シクロヘキサン)-1-カルボン酸塩、マレイミドベンゾイル-N-ヒドロキシ-スクシンイミドエステルが挙げられる。スクシンイミジルm-マレイミドベンゾエートのスルホン酸ナトリウム塩が好ましい。上記ヘテロ二官能性試薬及びこれらのスルホン酸塩の多くは、Pierce Chemical Co., Rockford, Illinois USAから入手可能である。
【0136】
上記可逆的又は不安定な接合をさせるために必要なことは、当業者により簡単に決定することができる。接合体を、in vitroにてエリスロポエチン及び所望の薬理活性の両方についてテストすることができる。接合体がどちらの活性も維持している場合、次にその適合性についてin vivoでテストする。接合された分子がその活性化のためにエリスロポエチンからの分離を必要とする場合、エリスロポエチンとの不安定な結合又は可逆的会合が好ましい。不安定性の特徴についても、in vivoでテストする前に標準的なin vitro手法を用いてテストすることもできる。
【0137】
これら及び他の多官能性試薬をどのように作製及び使用するかについての更なる情報は、以下に挙げる出版物又は当分野で入手可能な他の出版物から入手することができる。
【0138】
Carlsson, J.ら, 1978, Biochem. J. 173:723-737.
Cumber, J.A.ら, 1985, Methods in Enzymology 112:207-224
Jue, R.ら, 1978, Biochem 17:5399-5405.
Sun, T.T.ら, 1974, Biochem 13:2334-2340.
Blattler, W.A.ら, 1985, Biochem. 24:1517-152.
Liu, F.T.ら, 1979, Biochem. 18:690-697.
Youle, R.J.及びNeville, D.M., Jr., 1980, Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 77:5483-5486.
Lerner, R.A.ら, 1981, Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 78:3403-3407.
Jung, S.M.及びMoroi, M., 1983, Biochem. Biophys. Acta 761:162.
Caulfield, M.P.ら, 1984, Biochem. 81:7772-7776.
Staros, J.V., 1979, Eur. J. Biochem. 101:395-399.
Yoshitake, S.ら, 1982, Biochem. 21:3950-3955.
Yoshitake, S.ら, 1982, J. Biochem. 92:1413-1424.
Pilch, P.F.及びCzech, M.P., 1979, J. Biol. Chem. 254:3375-3381.
Novick, D.ら, 1987, J. Biol. Chem. 262:8483-8487.
Lomant, A.J.及びFirbanks, G., 1976, J. Mol. Biol. 104:243-261.
Hamada, H.及びTsuruo, T., 1987, Anal. Biochem. 160:483-488.
Hashida, S.ら, 1984, J. Applied Biochem. 6:56-63.
さらに、架橋方法については、Means及びFeeney, 1990, Bioconjugate Chem. 1:2-12により概説が記載されている。
【0139】
本発明の上記方法及び組成物が通過するバリアとしては、血液脳関門、血液眼関門、血液精巣障壁、血液卵巣関門、及び血液胎盤関門が挙げられるが、これらに限定されない。
【0140】
内皮細胞バリアを介して輸送させる候補分子としては、例えば成長ホルモン等のホルモン、神経栄養因子、例えば脳及び他のバリア機能に守られた器官からは通常除外されるもの等の抗生物質又は抗真菌剤、ペプチド放射性医薬品、アンチセンス薬、生物学的に活性な物質に対する抗体、医薬品、及び抗癌剤等が挙げられる。このような分子の非限定的な例としては、成長ホルモン、神経成長因子(NGF)、脳由来神経栄養因子(BDNF)、毛様体神経栄養因子(CNTF)、塩基性繊維芽細胞増殖因子(bFGF)、トランスフォーミング増殖因子β1(TGFβ1)、トランスフォーミング増殖因子β2(TGFβ2)、トランスフォーミング増殖因子β3(TGFβ3)、インターロイキン1、インターロイキン2、インターロイキン3、インターロイキン6、AZT、腫瘍壊死因子に対する抗体、及びシクロスポリン等の免疫抑制剤が挙げられる。
【0141】
また本発明は、内皮細胞の密着帯バリアを介したトランスサイトーシスにより輸送させようとする分子と上記エリスロポエチンとを含む組成物にも関する。本発明はさらに、上記のようにバリアを介して分子を送達するための医薬組成物を調製するための、上記エリスロポエチンと該分子との接合体の使用に関する。
【0142】
本発明は、本発明の例として提供される以下の非限定的実施例を参照することによってさらに良く理解することができる。以下の実施例は、本発明の好適な実施形態をよりあますところなく示すために提供される。ただしこれらの実施例は、本発明の広い範囲を限定するものと考えるべきではない。
【実施例】
【0143】
実施例1
密着血液脳脊髄液関門を通過するエリスロポエチン
成体雄Sprague-Dawleyラットに麻酔をかけ、組換えヒトエリスロポエチンを腹膜内投与した。30分間隔で最長4時間、大槽から脳脊髄液のサンプルを取り、高感度の特異的酵素結合イムノアッセイを用いてエリスロポエチン濃度を測定した。図1に示すように、CSF内におけるベースラインエリスロポエチン濃度は8mU/mlである。数時間遅れて、CSF内で測定されるエリスロポエチンのレベルは上昇し始め、2.5時間以後は、ベースライン濃度とは大きく異なる(p<0.01レベル)。約100mU/mlのピークレベルは、in vitroにおいて保護的な効果を発揮することが分かっている範囲内である(0.1〜100mU/ml)。ピークに達する時間は約3.5時間頃であり、これは、ピーク血漿レベルのもの(1時間未満)よりかなり遅れている。この実験結果は、適当な濃度のエリスロポエチンの非経口ボーラス投与によって、有意なレベルのエリスロポエチンが密着細胞結合を通過することができることを示している。
【0144】
実施例2
移植術用に用意された心臓内での機能の維持
Wistar雄ラット(体重300〜330g)に、エリスロポエチン(5000U/kg体重)又はビヒクルを与えた24時間後、ex vivo研究のために心臓を取り出す(Delcayreら, 1992, Amer. J. Physiol. 263: H1537-45のプロトコールに従って行う)。ペントバルビタール(0.3mL)を用いて動物を犠牲にし、静脈内にヘパリン投与(0.2mL)を行う。まず心臓を15分間平衡化する。次に、拡張終期血圧が8mm Hgとなる体積まで左心室のバルーンを膨張させる。0.02ml増分ずつバルーン体積を膨張させることにより、左心室の圧力-体積曲線を構築する。ゼロ体積は、左心室の拡張終期血圧がゼロになるポイントとして定義する。圧力-体積曲線が完成したら、左心室のバルーンからガスを抜いて拡張終期血圧をもとの8mm Hgに設定し、冠状血流量をチェックした後、対照期間を15分間追跡する。次に、50mL Celsior+分子を用いて心臓を停止させ、圧力60cm H2O下で4℃にて休息させる。次に心臓を取り出し、同溶液で満たしたプラスチック容器の中で4℃にて5時間保存し、砕いた氷で囲む。
【0145】
保存終了後、心臓をランゲンドルフ装置に移す。バルーンカテーテルを左心室の中に再び挿入し、虚血前期間と同じ体積になるまで再び膨らませる。心臓を37℃にて少なくとも2時間再潅流する。再潅流圧は、リフロー(re-flow)の15分間は50cm H2Oに設定した後、次の2時間は100cmH2Oに戻す。ペーシング(1分間あたり320拍)を再び始める。収縮指数及び拡張期血圧の定容測定は、再潅流の25分、45分、60分及び120分で3重テストを行う。この時間ポイントで、圧力-体積曲線の構築を行い、45mn再潅流中の冠状動脈流出液を回収して、クレアチンキナーゼの漏出を測定する。不対t-検定(unpaired t-test)を用いてこれら2つの処理グループを比較し、拡張終期血圧データを用いた1次回帰を用いてコンプライアンス曲線を設計する。図2に示すように、エリスロポエチンでの処理後には、発生した左心室圧の大きな改善、ならびに体積-圧力曲線の改善、拡張期の左心室圧の低下及びクレアチンキナーゼ漏出の減少が生じる。
【0146】
実施例3
エリスロポエチンは虚血損傷から心筋を守る
24時間前に組換えヒトエリスロポエチン(5000U/kg体重)を与えた成体雄ラットに麻酔をかけ、冠状動脈閉塞の準備をする。処理開始時に追加用量のエリスロポエチンを与え、左の主冠状動脈を30分間塞いだ後、解放する。処理後一週間、同量のエリスロポエチンを毎日与える。次に動物の心機能について調べる。図3が示すように、擬似注射(食塩水)を与えた動物は左心室の拡張終期血圧が大きく増加した。これは、心筋梗塞に付随した拡張した硬直心臓を示している。これとは対照的に、擬似手術を行った対照と比較して、エリスロポエチンを与えた動物では、心機能の減分は見られなかった(差は有意であった:p<0.01レベル)。
【0147】
実施例4
エリスロポエチン分子
天然エリスロポエチンを修飾して1以上の特定の組織についてのその活性を調整することができる。この所望の組織特異性を達成するために行うことができる幾つかの非限定的戦略としては、グリコシル化された部分(エリスロポエチンは3つのN結合型及び1つのO結合型のグリコシル化された部分を有する)を除去もしくは変更する修飾が挙げられる。グリコシル化エリスロポエチンのこのような変異体は、様々な方法で作製することができる。例えば、糖鎖の端部を締めくくるシアル酸は、そのシアル酸と糖鎖とを結ぶ化学結合の種類に応じた特定のシアリダーゼによって除去することができる。あるいは、グリコシル化構造は、特定の結合を切断する他の酵素を用いることによって種々の方法で解体することができる。これらの原則を確認するために、シアリダーゼA(Prozyme Inc.)を用いてその製造業者のプロトコールに従って組換えヒトエリスロポエチンを脱シアル化した。化学的修飾が成功したかどうか、SDSポリアクリルアミドゲル上で反応生成物を泳動させ、得られたバンドを染色することによって(およそ34kDの未修飾エリスロポエチンに対し、予想通り、化学修飾したエリスロポエチンはおよそ31kDの見かけ分子量を有していた)、及び化学的手段で残りのシアル酸残基を測定することによって(エリスロポエチンは1モルあたり<0.1モルであった)、確認した。
【0148】
エリスロポエチンのアミノ酸残基を修飾する他の修飾では、Takahashiのプロトコール(1977, J. Biochem. 81:395-402)に従いフェニルグリオキサールを用いて、室温にて0.5〜3時間の様々な長さの時間実施することによって、アルギニン残基を修飾した。水に対して反応混合物を透析することにより、反応を終了させた。このようなエリスロポエチンの修飾形態の使用は、本明細書中に全て包含される。
【0149】
アシアロエリスロポエチン及びフェニルグリオキサールエリスロポエチンは、図4〜6に示すようにin vitroにおいて神経細胞に対して天然エリスロポエチンと同じ様に効率的であった。血清除去後にアポトーシスを経験した神経様胚性癌細胞(P19)を用いて、in vitroテストを行った。血清除去の24時間前に、1〜1000ng/mlのエリスロポエチン又は修飾エリスロポエチンを培養物に加えた。翌日培地を除去し、細胞を新しい非血清含有培地で洗浄し、テスト物質を含む培地(血清なし)を培養物にもう一度加えてさらに48時間培養した。生存細胞の数を測定するために、テトラゾリウム還元アッセイを行った(CellTiter 96;Promega, Inc.)。図4〜5が示すように、アシアロエリスロポエチンは、細胞死の予防においてエリスロポエチン自体と同等の効力を有するようである。上記の神経様P19細胞アッセイを用いて、フェニルグリオキサール修飾型エリスロポエチンをテストした。図6が示すように、この化学修飾エリスロポエチンはその神経保護的作用を完全に保持している。
【0150】
ラット局所虚血モデル(中大脳動脈の領域内の可逆的病変を、過去に記載されたように行う(Brinesら, 2000, Proc. Nat. Acad. Sci. U.S.A. 97:10526-31))を用いて、in vivoでの神経保護作用の保持について確かめた。動脈閉塞の発症時に成体雄Sprague-Dawleyラットにアシアロエリスロポエチン又はエリスロポエチン(5000U/kg BW、腹膜内)又はビヒクルを投与した。24時間後、動物を犠牲にし、これらの脳を取り出して調べた。連続切片を作製し、テトラゾリウム塩で染色して、脳の生きている領域を同定した。図7に示すように、1時間の虚血から神経を保護するのに、アシアロエリスロポエチンは天然エリスロポエチンと同じくらい効果的であった。図8は、他の局所虚血モデル(エリスロポエチン及びアシアロエリスロポエチンを用いて比較用量応答テストを行う)の結果を表す。最低用量250U/kgにおいて、アシアロエリスロポエチンは保護機能を発揮したが、未修飾エリスロポエチンは保護機能を持たなかった。
【0151】
実施例5
エリスロポエチンの一次構造の修飾及び神経保護の有効性
赤血球のエリスロポエチン受容体に結合せず従ってin vivo又はin vitroにおいて赤血球新生をサポートしない多くの突然変異型エリスロポエチン分子が記載されている。にもかかわらず、これらの分子の幾つかは、他の組織又は器官の中でエリスロポエチン自体の機能に似た機能を発揮する。例えば天然エリスロポエチンの31〜47位のアミノ酸配列を含む17量体は、in vitroにおいて赤血球新生に対しては不活性であるが、神経細胞に対しては完全に活性である(Campana & O'Brien, 1998; Int. J. Mol. Med. 1:235-41)。
【0152】
本明細書中に記載される使用に望ましいエリスロポエチン誘導体は、本明細書中の上記他の手法の中でも、アルギニン残基又はカルボキシル基のグアニジン化、アミジン化、トリニトロフェニル化、アセチル化、サクシニル化、ニトロ化、又は修飾によって、特定の器官及び組織に対するそれらの活性を維持し且つ他の器官や組織(赤血球等)に対する活性を持たないエリスロポエチンを作製することにより作製することができる。エリスロポエチンを上記反応にかけたところ、全般的に、得られる分子はin vivo及びin vitroのいずれであっても赤血球産生作用を持たないことが分かった(例えばSatakeら;1990, Biochem. Biophys. Acta 1038:125-9)。修飾型エリスロポエチンの幾つかの調製例を以下に記載する。
【0153】
エリスロポエチンの遊離アミノ基のビオチン化:0.2mgのD-ビオチノイル-e-アミノカプロン酸-N-ヒドロキシスクシンイミドエステル(Boehringer Mannheim #1418165)を100ul DMSOに溶解した。この溶液を、エリスロポエチン約0.2mgを含む400μlのPBSと一緒に、箔を被せた試験管に入れた。室温にて4時管インキュベートを行った後、Centricon 10カラムでゲル濾過を行って、未反応のビオチンを分離した。図10に示されるように、このビオチン化エリスロポエチンは、血清除去からp19細胞を守る。
【0154】
"Biotinylated recombinant human erythropoietins: Bioactivity and Utility as a receptor ligand", by Wojchowskiら, Bllod, 1989, 74(3): 952-8において、著者等は、3つの異なるエリスロポエチンのビオチン化方法を使用している。(1)シアル酸成分、(2)カルボキシラート基、(3)アミノ基に、ビオチンを付加する。著者等は、マウス脾臓細胞増殖アッセイを用いて、(1)シアル酸性分にビオチンを付加しても、エリスロポエチンの生物学的活性は不活化されないこと、(2)カルボキシラート基にビオチンを付加すると、エリスロポエチンが実質的に生物学的に不活化されること、(3)アミノ基にビオチンを付加すると、エリスロポエチンが完全に生物学的に不活化されることを示している。これらの方法及び修飾は、本明細書中に全て包含される。図9は、血清欠乏P19アッセイにおける、ビオチン化されたエリスロポエチン及びアシアロエリスロポエチンの活性を示す。
【0155】
エリスロポエチンのヨウ素化:方法1-ヨードビーズ。1m Ci遊離Na125Iを含む100ul PBS(20mMリン酸ナトリウム、0.15M NaCl, pH7.5)中で、1つのヨードビーズ(Pierce, Rockford, I1)を5分間インキュベートした。次に100ul PBS中の100ugエリスロポエチンを混合物に加えた。室温にて10分間インキュベートを行った後、反応容器から200ul溶液を除去する(ヨードビーズは残しておく)ことにより、反応を停止した。Centricon 10カラムでのゲル濾過により、過剰なヨウ素を除去した。図11に示すように、このように作製したヨード-エリスロポエチンは、血清除去からP19細胞を守るのに効果的である。
【0156】
方法2:クロラミンT。100ul PBS中の100ugエリスロポエチンを500uCi Na125Iに加え、エッペンドルフ試験管の中で混合した。次に、25ulのクロラミンT(2mg/ml)を加え、混合物を室温にて1分間インキュベートした。次に、50ulのクロラミンT停止バッファー(PBS中の2.4mg/mlメタ重亜硫酸ナトリウム、10mg/mlチロシン、10%グリセロール、0.1%キシレン)を加えた。次に、Centricon10カラムでのゲル濾過により、ヨードチロシン及びヨウ素化エリスロポエチンを分離した。
【0157】
リシン修飾:カルバミル化:シアン酸カリウムを用いてPlappら("Activity of bovine pancreatic deoxyribonuclease A with modified amino groups" 1971, J. Biol. Chem. 246, 939-845)に記載されるようにエリスロポエチン(100ug)を修飾した。
【0158】
トリニトロフェニル化: 2,4,6-トリニトロベンゼンスルホン酸塩を用いて、Plappら("Activity of bovine pancreatic deoxyribonuclease A with modified amino groups" 1971, J. Biol. Chem. 246, 939-845)に記載されるようにエリスロポエチン(100ug)を修飾した。
【0159】
アセチル化:同量の無水酢酸を含む0.3Mリン酸バッファー(pH7.2)中でエリスロポエチン(100ug)を0℃にて1時間インキュベートした。蒸留水に対する透析により、反応を停止した。
【0160】
サクシニル化:0.5M NaHCO3(pH8.0)中のエリスロポエチン(100ug)を、15モル過剰の無水コハク酸と一緒に15℃にて1時間インキュベートした。蒸留水に対する透析により、反応を停止した。
【0161】
アルギニン修飾:Riordan("Functional arginyl residues in carboxypeptidase A. Modification with butanedione" Riordan JF, Biochemistry 1973, 12(20): 3915-3923)に記載されるように、2,3ブタンジオンを用いてエリスロポエチンを修飾した。
【0162】
Patthyら("Identification of functional arginine residues in ribonuclease A and lysozyme", Patthy, L, Smith EL, J. Biol. Chem. 1975 250(2): 565-9)に記載されるように、シクロヘキサノンを用いてエリスロポエチンを修飾した。
【0163】
Werberら("Proceedings: Carboxypeptidase B: modification of functional arginyl residues" Werber, MM, Sokolovsky M Isr J. Med Sci 1975 11(11): 1169-70)に記載されるように、フェニルグリオキサールを用いてエリスロポエチンを修飾した。
【0164】
チロシン修飾:Nestlerら"Stimulation of rat ovarian cell steroidogenesis by high density lipoproteins modified with tetranitromethane" Nestler JE, Chacko GK, Strauss JF 3rd. J. Biol Chem 1985 Jun 25;260(12): 7316-21において以前記載されたように、エリスロポエチン(100ug)をテトラニトロメタンと一緒にインキュベートした。
【0165】
グルタミン酸(及びアスパラギン酸)修飾:カルボキシル基を修飾するために、Carrawayら"Carboxyl group modification in chymotrypsin and chymotrypsinogen." Carraway KL, Spoerl P, Koshland DE Jr J Mol Biol 1969 May 28;42(1):133-7に記載されるように、1Mグリシンアミド(pH4.5)中の0.02M EDCと一緒にエリスロポエチン(100ug)を室温にて60分間インキュベートした。
【0166】
トリプトファン残基修飾:Aliら, J. Biol. Chem. 1995 Mar 3;270(9): 4570-4に記載されるように、20mMリン酸カリウムバッファー(pH6.5)中の20uM n-ブロモスクシンイミドと一緒にエリスロポエチン(100ug)を室温にてインキュベートした。Korotchkina(Korotchkina, LGら, Protein Expr Purif. 1995 Feb;6(1):79-90)に記載された方法によって、酸化されたトリプトファン残基の数を測定した。
【0167】
アミノ基の除去:エリスロポエチン(100ug)のアミノ基を除去するために、20mMニンヒドリン(Pierce Chemical, Rockford, I1)を含むPBS(pH7.4)中で37℃にて2時間、Kokkiniら(Kokkini, G.ら, "Modification of hemoglobin by ninhydrin" Blood, Vol. 556, No. 4 1980: 701-705)に記載されるように、インキュベートした。得られたアルデヒドの還元を、この生成物を水素化ホウ素ナトリウム又は水素化アルミニウムリチウムと反応させることによって行った。具体的には、エリスロポエチン(100ug)をPBS中の0.1M水素化ホウ素ナトリウムと一緒に室温にて30分間インキュベートした。還元は、サンプルを氷上にて10分間冷やし、これをPBSに対して一晩3回透析することによって終了した(Kokkini, G., Blood, Vol. 556, No 4 1980: 701-705)。水素化アルミニウムリチウムを用いた還元は、エリスロポエチン(100ug)をPBS中の0.1M水素化アルミニウムリチウムと一緒に室温にて30分間インキュベートすることによって行った。還元は、サンプルを氷上にて10分間冷やし、これをPBSに対して一晩3回透析することによって終了した。
【0168】
ジスルフィドによる還元及び安定化:エリスロポエチン(100ug)を500mM DTTと共に60℃にて15分間インキュベートした。次に、20mMヨードアセトアミド水を混合物に加え、暗所で室温にて25分間インキュベートした。
【0169】
限定的蛋白分解:エリスロポエチンを、特定の残基を標的とする限定的な化学的蛋白分解にかけることができる。エリスロポエチンを、トリプトファン残基を特異的に切断する2-(2-ニトロフェニルスルフェニル)-3-メチル-3'-ブロモインドレニン(bromoindolenine)と50倍過剰量の50%酢酸の中で暗所で室温にて48時間、窒素圧力下でキャップした試験管の中で反応させた。トリプトファンでクエンチして脱塩することにより、反応を停止した。
【0170】
実施例6
エリスロポエチンの末梢投与による網膜虚血の保護
網膜細胞は、虚血ストレスの30分後にはその多くが死滅してしまうほど虚血に対して非常に敏感である。さらに、亜急性もしくは慢性の虚血は、糖尿病、緑内障、及び黄斑変性等の多くの一般的なヒト疾患を伴う視力の悪化の原因である。現時点では、虚血から細胞を保護する効果的な治療法はない。血液と網膜との間には、大部分の巨大分子を排除する密着内皮バリアが存在する。末梢投与されたエリスロポエチンが、虚血に対して敏感な細胞を守るか否かをテストするために、Rosenbaumら(1997; Vis. Res. 37:3443-51)により記載されるように、急性可逆的緑内障ラットモデルを使用した。具体的には、成体雄ラットの前眼房に食塩水を注射して、全身動脈血圧を超える圧力にし、60分間維持した。動物に、食塩水又は体重kgあたり5000Uのエリスロポエチンを腹腔内投与した24時間後に、虚血を誘導し、さらに3日間毎日投与を続けた。処理後1週間で、暗順応ラットに対して網膜電図記録を行った。図11〜12は、食塩水のみで処理した動物(パネルC)(機能は僅かしか残っていなかった)とは対照的に、エリスロポエチンの投与が網膜電図(ERG)の良好な保持(パネルD)に関係があることを示している。図11は、エリスロポエチンで処理したグループと食塩水で処理したグループとで、網膜電図a波及びb波の振幅を比較するものであり、エリスロポエチンにより有意な保護が付与されたことを示す。
【0171】
実施例7
脳損傷から生じる認知機能の低下に及ぼすエリスロポエチンの回復作用
脳に外傷を受けたマウスにおける低下した認知機能を回復させるエリスロポエチンの能力を示す研究において、Brinesら(PNAS 2000, 97; 10295-10672)に記載されるように、雌Balb/cマウスに、脳に鈍傷を負わせ、5日後に、毎日1日あたり5000U/kg-bwのエリスロポエチンの腹腔内投与を開始した。損傷を負わせた12日後に、モーリス水迷路(Morris water maze)の中で認知機能について動物をテストした。一日あたり4回試行を行った。処理動物及び未処理動物はいずれもこのテストにおける行動が良くなかった(遊泳時間はおそらく90秒間のうち約80秒間)。図13は、エリスロポエチンで処理した動物の行動の方が良かったことを示している(このプレゼンテーションでは、負の値の方が良い)。外傷後30日までエリスロポエチン処理の開始を遅らせても(図14)、認知機能の回復が見られる。
【0172】
実施例8
カイニン酸モデル
カイニン酸神経毒性モデルにおいて、Brinesら, Proc. Nat. Acad. Sci. U.S.A. 2000, 97; 10295-10672のプロトコールに従って、5000U/kg-bwの用量でアシアロエリスロポエチンを腹腔内投与した24時間後に、25mg/kgカイニン酸を投与したところ、(時間)対(死亡率)により示されるように(図15)、エリスロポエチンと同じくらい効果的であることが分かる。
【0173】
本発明は、記載された特定の実施形態によってその範囲が限定されるものではなく、これらの実施形態は、本発明の個々の態様を1つずつ例示するものであり、機能的に同等な方法及びコンポーネントは本発明の範囲に含まれる。実際に、これまでの説明及び添付の図面から、本明細書中に示し記載されたものに加え、本発明の種々の改変物が当業者には自明となろう。このような改変物は、本発明の特許請求の範囲内に含まれるものとする。
【0174】
本明細書中で引用された全ての文献は、あらゆる目的のためにその全てが本明細書中に参考として組み込まれる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エリスロポエチン応答性哺乳動物細胞、ならびにそれらに関連する細胞、組織及び器官の機能もしくは生存力を保護、維持、増強もしくは回復する医薬組成物を調製するための以下のエリスロポエチンからなる群から選択されるエリスロポエチンの使用:
i)少なくともシアル酸成分を持たないエリスロポエチン、
ii)少なくともN結合型糖鎖もしくはO結合型糖鎖を持たないエリスロポエチン、
iii)天然エリスロポエチンを少なくとも1つのグリコシダーゼで処理することによって少なくとも糖鎖の含有量を低下させたエリスロポエチン、
iv)非哺乳動物細胞中で組換えエリスロポエチンを発現させることにより少なくとも非哺乳動物グリコシル化パターンを有する糖鎖部分を含む、エリスロポエチン、
v)化学的に還元することもできる少なくとも1つ以上の酸化糖鎖を有するエリスロポエチン、
vi)少なくとも1つ以上の修飾されたアルギニン残基を有するエリスロポエチン、
vii)少なくとも1つ以上の修飾されたリシン残基を有するもしくはエリスロポエチン分子のN末端アミノ基が修飾されたエリスロポエチン、
viii)少なくとも修飾されたチロシン残基を有するエリスロポエチン、
ix)少なくとも修飾されたアスパラギン酸もしくはグルタミン酸残基を有するエリスロポエチン、
x)少なくとも修飾されたトリプトファン残基を有するエリスロポエチン、
xi)少なくとも1つのアミノ基が除去されたエリスロポエチン、
xii)エリスロポエチン分子中のシスチン結合の少なくとも1つの開裂を少なくとも有するエリスロポエチン、
xiii)少なくとも1つのアミノ酸の少なくとも1つの置換を有するエリスロポエチン、ならびに
xiv)トランケート型エリスロポエチン。
【請求項2】
前記エリスロポエチンがアシアロエリスロポエチンである、請求項1記載の使用。
【請求項3】
前記アシアロエリスロポエチンがヒトアシアロエリスロポエチンである、請求項2記載の使用。
【請求項4】
前記エリスロポエチンがN結合型糖鎖を持たない、請求項1記載の使用。
【請求項5】
前記エリスロポエチンがO結合型糖鎖を持たない、請求項1記載の使用。
【請求項6】
前記エリスロポエチンが少なくとも1つのグリコシダーゼで処理される、請求項1記載の使用。
【請求項7】
前記エリスロポエチンが昆虫または植物細胞中で発現される、請求項1記載の使用。
【請求項8】
前記エリスロポエチンが過ヨウ素酸により酸化されたエリスロポエチンである、請求項1記載の使用。
【請求項9】
前記過ヨウ素酸により酸化されたエリスロポエチンがシアノ水素化ホウ素ナトリウムで化学的に還元される、請求項8記載の使用。
【請求項10】
前記エリスロポエチンが1つ以上のアルギニン残基上にR-グリオキサール成分を含み、Rがアリールもしくはアルキル成分である、請求項1記載の使用。
【請求項11】
前記エリスロポエチンがフェニルグリオキサール-エリスロポエチンである、請求項10記載の使用。
【請求項12】
前記エリスロポエチンのアルギニン残基が、2,3-ブタンジオン及びシクロヘキサンジオンからなる群より選択されるビシナルジケトンとの反応により修飾される、請求項1記載の使用。
【請求項13】
前記エリスロポエチンのアルギニン残基を3-デオキシグルコソンと反応させる、請求項1記載の使用。
【請求項14】
前記エリスロポエチン分子が少なくとも1つのビオチン化リシンまたはN末端アミノ基を有する、請求項1記載の使用。
【請求項15】
前記エリスロポエチン分子がビオチン化エリスロポエチンである、請求項14記載の使用。
【請求項16】
前記エリスロポエチンがグルシトリルリシンエリスロポエチン又はフルクトシルリシンエリスロポエチンである、請求項1記載の使用。
【請求項17】
前記エリスロポエチンのリシン残基がカルバミル化されている、請求項1記載の使用。
【請求項18】
前記エリスロポエチンのリシン残基がアシル化されている、請求項1記載の使用。
【請求項19】
前記エリスロポエチンのリシン残基がアセチル化されている、請求項18記載の使用。
【請求項20】
前記エリスロポエチンのリシン残基がサクシニル化されている、請求項18記載の使用。
【請求項21】
前記エリスロポエチンのリシン残基が2,4,6トリニトロベンゼンスルホン酸ナトリウム又はその他の塩により修飾されている、請求項1記載の使用。
【請求項22】
前記エリスロポエチンのチロシン残基がニトロ化もしくはヨウ素化されている、請求項1記載の使用。
【請求項23】
前記エリスロポエチンのアスパラギン酸もしくはグルタミン酸残基をカルボジイミドと反応させた後にアミンと反応させる、請求項1記載の使用。
【請求項24】
前記アミンがグリシンアミドである、請求項21記載の使用。
【請求項25】
エリスロポエチン応答性細胞もしくは組織が、神経、網膜、筋肉、心臓、肺、肝臓、腎臓、小腸、副腎皮質、副腎髄質、毛細管内皮、精巣、卵巣もしくは子宮内膜の細胞又は組織である、請求項1記載の使用。
【請求項26】
エリスロポエチン応答性細胞の保護、維持、増強もしくは回復するのに有効な量の、以下からなる群から選択されるエリスロポエチンを含む医薬組成物:
i)少なくともシアル酸成分を持たないエリスロポエチン、
ii)少なくともN結合型糖鎖またはO結合型糖鎖を持たないエリスロポエチン、
iii)天然エリスロポエチンを少なくとも1つのグリコシダーゼで処理することによって少なくとも糖鎖の含有量を低下させたエリスロポエチン、
iv)非哺乳動物細胞中で組換えエリスロポエチンを発現させることにより少なくとも非哺乳動物グリコシル化パターンを有する糖鎖部分を含む、エリスロポエチン、
v)化学的に還元することもできる少なくとも1つ以上の酸化糖鎖を有するエリスロポエチン、
vi)少なくとも1つ以上の修飾されたアルギニン残基を有するエリスロポエチン、
vii)少なくとも1つ以上の修飾されたリシン残基を有するまたはエリスロポエチン分子のN末端アミノ基が修飾されたエリスロポエチン、
viii)少なくとも修飾されたチロシン残基を有するエリスロポエチン、
ix)少なくとも修飾されたアスパラギン酸もしくはグルタミン酸残基を有するエリスロポエチン、
x)少なくとも修飾されたトリプトファン残基を有するエリスロポエチン、
xi)少なくとも1つのアミノ基が除去されたエリスロポエチン、
xii)エリスロポエチン分子中のシスチン結合の少なくとも1つの開裂を少なくとも有するエリスロポエチン、
xiii)少なくとも1つのアミノ酸の少なくとも1つの置換を有するエリスロポエチン、ならびに
xiv)トランケート型エリスロポエチン。
【請求項27】
前記エリスロポエチンがアシアロエリスロポエチン又はフェニルグリオキサール-エリスロポエチンである、請求項26記載の医薬組成物。
【請求項28】
エリスロポエチン応答性細胞又はそれらに関連する細胞、組織もしくは器官の機能又は生存力を保護、維持、増強もしくは回復する医薬組成物を調製するためのエリスロポエチンの使用であって、前記細胞、組織もしくは器官が興奮性細胞、組織もしくは器官ではない、又は興奮性細胞もしくは組織を主として含むものではないことを特徴とする、上記使用。
【請求項29】
前記エリスロポエチンが、エリスロポエチンもしくは天然エリスロポエチン、又はエリスロポエチン類似体、エリスロポエチン模倣体、及びエリスロポエチン断片、ハイブリッドエリスロポエチン分子、エリスロポエチン受容体結合性分子、エリスロポエチンアゴニスト、腎エリスロポエチン、脳エリスロポエチン、そのオリゴマー、その多量体、その突然変異蛋白質、その同属種、その天然発生形態、その合成形態、その組換え形態、そのグリコシル化変異体、その脱グリコシル化変異体、又はその組合せである、請求項28記載の使用。
【請求項30】
前記エリスロポエチンがフェニルグリオキサール-エリスロポエチンである、請求項28記載の使用。
【請求項31】
哺乳動物の身体から単離した細胞、組織もしくは器官の生存力を保護、維持又は増強する方法であって、エリスロポエチンを含む医薬組成物に前記細胞、組織もしくは器官を曝露することを含む上記方法。
【請求項32】
前記エリスロポエチンが、エリスロポエチンもしくは天然エリスロポエチン、又はエリスロポエチン類似体、エリスロポエチン模倣体、及びエリスロポエチン断片、ハイブリッドエリスロポエチン分子、エリスロポエチン受容体結合性分子、エリスロポエチンアゴニスト、腎エリスロポエチン、脳エリスロポエチン、そのオリゴマー、その多量体、その突然変異蛋白質、その同属種、その天然発生形態、その合成形態、その組換え形態、そのグリコシル化変異体、その脱グリコシル化変異体、又はその組合せである、請求項31記載の方法。
【請求項33】
前記エリスロポエチンが、
i)少なくともシアル酸成分を持たないエリスロポエチン、
ii)少なくともN結合型糖鎖もしくはO結合型糖鎖を持たないエリスロポエチン、
iii)天然エリスロポエチンを少なくとも1つのグリコシダーゼで処理することによって少なくとも糖鎖の含有量を低下させたエリスロポエチン、
iv)非哺乳動物細胞中で組換えエリスロポエチンを発現させることにより少なくとも非哺乳動物グリコシル化パターンを有する糖鎖部分を含む、エリスロポエチン、
v)化学的に還元することもできる少なくとも1つ以上の酸化糖鎖を有するエリスロポエチン、
vi)少なくとも1つ以上の修飾されたアルギニン残基を有するエリスロポエチン、
vii)少なくとも1つ以上の修飾されたリシン残基を有するもしくはエリスロポエチン分子のN末端アミノ基が修飾されたエリスロポエチン、
viii)少なくとも修飾されたチロシン残基を有するエリスロポエチン、
ix)少なくとも修飾されたアスパラギン酸もしくはグルタミン酸残基を有するエリスロポエチン、
x)少なくとも修飾されたトリプトファン残基を有するエリスロポエチン、
xi)少なくとも1つのアミノ基が除去されたエリスロポエチン、
xii)エリスロポエチン分子中のシスチン結合の少なくとも1つの開裂を少なくとも有するエリスロポエチン、
xiii)少なくとも1つのアミノ酸の少なくとも1つの置換を有するエリスロポエチン、又は
xiv)トランケート型エリスロポエチン
である、請求項32記載の方法。
【請求項34】
前記エリスロポエチンがヒトエリスロポエチンである、請求項31記載の方法。
【請求項35】
前記エリスロポエチンがフェニルグリオキサール-エリスロポエチンである、請求項31記載の方法。
【請求項36】
哺乳動物における認知機能障害の回復のための医薬組成物を調製するための、エリスロポエチンもしくは天然エリスロポエチン、又はエリスロポエチン類似体、エリスロポエチン模倣体、及びエリスロポエチン断片、ハイブリッドエリスロポエチン分子、エリスロポエチン受容体結合性分子、エリスロポエチンアゴニスト、腎エリスロポエチン、脳エリスロポエチン、そのオリゴマー、その多量体、その突然変異蛋白質、その同属種、その天然発生形態、その合成形態、その組換え形態、そのグリコシル化変異体、その脱グリコシル化変異体、又はその組合せからなる群より選択されるエリスロポエチンの使用。
【請求項37】
認知機能障害が、痙攣障害、多発性硬化症、発作、低血圧症、心停止、虚血、心筋梗塞、炎症、老化による認知機能の低下、放射線障害、脳性麻痺、神経変性疾患、アルツハイマー病、パーキンソン病、リー病、AIDS痴呆、記憶喪失、筋萎縮性側索硬化症、アルコール中毒症、気分障害、不安障害、注意欠陥障害、自閉症、クロイツフェルト-ヤコブ病、脳脊髄の損傷もしくは虚血、心肺バイパス、慢性心不全、黄斑変性、糖尿病性神経障害、糖尿病性網膜症、緑内障、網膜虚血、又は網膜損傷により引き起こされる損傷の結果生じるものである、請求項36記載の使用。
【請求項38】
前記エリスロポエチンがフェニルグリオキサール-エリスロポエチンである、請求項36記載の使用。
【請求項39】
前記エリスロポエチンが、
i)少なくともシアル酸成分を持たないエリスロポエチン、
ii)少なくともN結合型糖鎖もしくはO結合型糖鎖を持たないエリスロポエチン、
iii)天然エリスロポエチンを少なくとも1つのグリコシダーゼで処理することによって少なくとも糖鎖の含有量を低下させたエリスロポエチン、
iv)非哺乳動物細胞中で組換えエリスロポエチンを発現させることにより少なくとも非哺乳動物グリコシル化パターンを有する糖鎖部分を含む、エリスロポエチン、
v)化学的に還元することもできる少なくとも1つ以上の酸化糖鎖を有するエリスロポエチン、
vi)少なくとも1つ以上の修飾されたアルギニン残基を有するエリスロポエチン、
vii)少なくとも1つ以上の修飾されたリシン残基を有するもしくはエリスロポエチン分子のN末端アミノ基が修飾されたエリスロポエチン、
viii)少なくとも修飾されたチロシン残基を有するエリスロポエチン、
ix)少なくとも修飾されたアスパラギン酸もしくはグルタミン酸残基を有するエリスロポエチン、
x)少なくとも修飾されたトリプトファン残基を有するエリスロポエチン、
xi)少なくとも1つのアミノ基が除去されたエリスロポエチン、
xii)エリスロポエチン分子中のシスチン結合の少なくとも1つの開裂を少なくとも有するエリスロポエチン、
xiii)少なくとも1つのアミノ酸の少なくとも1つの置換を有するエリスロポエチン、又は
xiv)トランケート型エリスロポエチン
である、請求項36記載の使用。
【請求項40】
哺乳動物において内皮細胞バリアを介する分子のトランスサイトーシスを容易にする方法であって、以下のエリスロポエチンからなる群より選択されるエリスロポエチンに、前記分子を会合させたものを含む組成物を、前記哺乳動物に投与することを含む上記方法:
i)少なくともシアル酸成分を持たないエリスロポエチン、
ii)少なくともN結合型糖鎖もしくはO結合型糖鎖を持たないエリスロポエチン、
iii)天然エリスロポエチンを少なくとも1つのグリコシダーゼで処理することによって少なくとも糖鎖の含有量を低下させたエリスロポエチン、
iv)非哺乳動物細胞中で組換えエリスロポエチンを発現させることにより少なくとも非哺乳動物グリコシル化パターンを有する糖鎖部分を含む、エリスロポエチン、
v)化学的に還元することもできる少なくとも1つ以上の酸化糖鎖を有するエリスロポエチン、
vi)少なくとも1つ以上の修飾されたアルギニン残基を有するエリスロポエチン、
vii)少なくとも1つ以上の修飾されたリシン残基を有するもしくはエリスロポエチン分子のN末端アミノ基が修飾されたエリスロポエチン、
viii)少なくとも修飾されたチロシン残基を有するエリスロポエチン、
ix)少なくとも修飾されたアスパラギン酸もしくはグルタミン酸残基を有するエリスロポエチン、
x)少なくとも修飾されたトリプトファン残基を有するエリスロポエチン、
xi)少なくとも1つのアミノ基が除去されたエリスロポエチン、
xii)エリスロポエチン分子中のシスチン結合の少なくとも1つの開裂を少なくとも有するエリスロポエチン、
xiii)少なくとも1つのアミノ酸の少なくとも1つの置換を有するエリスロポエチン、及び
xiv)トランケート型エリスロポエチン。
【請求項41】
前記会合が、前記分子に対する結合部位との不安定な共有結合、安定な共有結合、または非共有結合である、請求項40記載の方法。
【請求項42】
前記内皮細胞バリアが、血液脳関門、血液眼関門、血液精巣障壁、血液卵巣関門、及び血液胎盤関門からなる群より選択される、請求項40記載の方法。
【請求項43】
前記分子が、受容体アゴニストもしくはアンタゴニストホルモン、神経栄養因子、抗菌物質、放射性医薬品、アンチセンスオリゴヌクレオチド、抗体、免疫抑制薬、又は抗癌薬である、請求項40記載の方法。
【請求項44】
内皮細胞バリアを介するトランスサイトーシスにより分子を輸送する組成物であって、以下のエリスロポエチンからなる群より選択されるエリスロポエチンに、前記分子を会合させたものを含む上記組成物:
i)少なくともシアル酸成分を持たないエリスロポエチン、
ii)少なくともN結合型糖鎖もしくはO結合型糖鎖を持たないエリスロポエチン、
iii)天然エリスロポエチンを少なくとも1つのグリコシダーゼで処理することによって少なくとも糖鎖の含有量を低下させたエリスロポエチン、
iv)非哺乳動物細胞中で組換えエリスロポエチンを発現させることにより少なくとも非哺乳動物グリコシル化パターンを有する糖鎖部分を含む、エリスロポエチン、
v)化学的に還元することもできる少なくとも1つ以上の酸化糖鎖を有するエリスロポエチン、
vi)少なくとも1つ以上の修飾されたアルギニン残基を有するエリスロポエチン、
vii)少なくとも1つ以上の修飾されたリシン残基を有するもしくはエリスロポエチン分子のN末端アミノ基が修飾されたエリスロポエチン、
viii)少なくとも修飾されたチロシン残基を有するエリスロポエチン、
ix)少なくとも修飾されたアスパラギン酸もしくはグルタミン酸残基を有するエリスロポエチン、
x)少なくとも修飾されたトリプトファン残基を有するエリスロポエチン、
xi)少なくとも1つのアミノ基が除去されたエリスロポエチン、
xii)エリスロポエチン分子中のシスチン結合の少なくとも1つの開裂を少なくとも有するエリスロポエチン、
xiii)少なくとも1つのアミノ酸の少なくとも1つの置換を有するエリスロポエチン、及び
xiv)トランケート型エリスロポエチン。
【請求項45】
前記会合が、前記分子に対する結合部位との不安定な共有結合、安定な共有結合、または非共有結合である、請求項44記載の組成物。
【請求項46】
前記分子が、受容体アゴニストもしくはアンタゴニストホルモン、神経栄養因子、抗菌物質、放射性医薬品、アンチセンスオリゴヌクレオチド、抗体、免疫抑制薬、又は抗癌薬である、請求項44記載の組成物。
【請求項47】
内皮細胞バリアを介したトランスサイトーシスにより分子を輸送するための医薬組成物を調製するための、前記分子に会合させた以下のエリスロポエチンからなる群より選択されるエリスロポエチンの使用:
i)少なくともシアル酸成分を持たないエリスロポエチン、
ii)少なくともN結合型糖鎖もしくはO結合型糖鎖を持たないエリスロポエチン、
iii)天然エリスロポエチンを少なくとも1つのグリコシダーゼで処理することによって少なくとも糖鎖の含有量を低下させたエリスロポエチン、
iv)非哺乳動物細胞中で組換えエリスロポエチンを発現させることにより少なくとも非哺乳動物グリコシル化パターンを有する糖鎖部分を含む、エリスロポエチン、
v)化学的に還元することもできる少なくとも1つ以上の酸化糖鎖を有するエリスロポエチン、
vi)少なくとも1つ以上の修飾されたアルギニン残基を有するエリスロポエチン、
vii)少なくとも1つ以上の修飾されたリシン残基を有するもしくはエリスロポエチン分子のN末端アミノ基が修飾されたエリスロポエチン、
viii)少なくとも修飾されたチロシン残基を有するエリスロポエチン、
ix)少なくとも修飾されたアスパラギン酸もしくはグルタミン酸残基を有するエリスロポエチン、
x)少なくとも修飾されたトリプトファン残基を有するエリスロポエチン、
xi)少なくとも1つのアミノ基が除去されたエリスロポエチン、
xii)エリスロポエチン分子中のシスチン結合の少なくとも1つの開裂を少なくとも有するエリスロポエチン、
xiii)少なくとも1つのアミノ酸の少なくとも1つの置換を有するエリスロポエチン、及びトランケート型エリスロポエチン。
【請求項48】
前記会合が、前記分子に対する結合部位との不安定な共有結合、安定な共有結合、または非共有結合である、請求項47記載の使用。
【請求項49】
前記分子が、受容体アゴニストもしくはアンタゴニストホルモン、神経栄養因子、抗菌物質、放射性医薬品、アンチセンスオリゴヌクレオチド、抗体、免疫抑制薬、又は抗癌薬である、請求項47記載の組成物。
【請求項50】
過ヨウ素酸塩により酸化されたエリスロポエチンを含む組成物。
【請求項51】
グルシトリルリシンエリスロポエチンを含む組成物。
【請求項52】
フルクトシルリシンエリスロポエチンを含む組成物。
【請求項53】
3-デオキシグルコソンエリスロポエチンを含む組成物。
【請求項54】
カルバミル化アシアロエリスロポエチンを含む組成物。
【請求項55】
ビオチン化アシアロエリスロポエチンを含む組成物。
【請求項56】
サクシニル化アシアロエリスロポエチンを含む組成物。
【請求項57】
アセチル化アシアロエリスロポエチンを含む組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2010−31017(P2010−31017A)
【公開日】平成22年2月12日(2010.2.12)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2009−209009(P2009−209009)
【出願日】平成21年9月10日(2009.9.10)
【分割の表示】特願2002−555103(P2002−555103)の分割
【原出願日】平成13年12月28日(2001.12.28)
【出願人】(501401582)ザ ケネス エス.ウォーレン インスティテュート,インコーポレーテッド (8)
【Fターム(参考)】