説明

エリスロマイシン誘導体の6―O―アルキル化法

【課題】6―O―メチルエリスロマイシンAを高収率で製造すること。
【解決手段】式(I)


(式中、Rは低アルキル基であり、RとRは、RとRが同時に共に水素でないことを除いて独立に水素またはヒドロキシ保護基であり;Yは酸素または特定置換オキシムであり;Zは水素等である)を有する6―O―アルキルエリスロマイシン化合物を、Rが水素である式(1)の化合物とアルキル化剤を、弱有機アミン塩基の存在で、適切に攪拌した極性非プロトン溶媒等で反応する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗菌剤合成の中間体として用途を持つエリスロマイシンA及びBの6―O―アルキル誘導体の製造プロセスに関する。特に関心があるのは6―O―メチルエリスロマイシンA(すなわちクラリスロマイシン)をより高い収率で製造するための本発明の使用である。
【背景技術】
【0002】
各種のエリスロマイシン誘導体の6―O―メチル化はいくつかの特許または公開出願で報じられてきた。米国特許第4,496,717号(1985年1月25日発行)は、アルカリ金属水素化物またはアルカリ金属アミドの存在で、メチル化剤との反応によるエリスロマイシンの2′―O―,3′―N―ジベンジルオキシカルボニル誘導体のメチル化を記述する。米国特許第4,670,549号(1987年6月2日発行)はアルカリ金属水素化物、水酸化物またはアルコキシドのごとき塩基の存在で、エリスロマイシンA9―オキシム四級塩とメチル化剤の反応を記述する。米国特許第4,672,109号(1987年6月9日発行)はアルカリ金属水素化物または水酸化物のごとき塩基の存在で、エリスロマイシンA9―オキシムのメチル化剤との反応を記述する。欧州出願EP260,938(1988年3月23日公開)はアルカリ金属水素化物、水酸化物またはアルコキシドのごとき塩基の存在で、2′―シリル化エリスロマイシンA9―オキシムのメチル化剤との反応により製造される6―O―メチルエリスロマイシン誘導体を記述し、好ましくない四級塩生成を防止するためと述べている。米国特許第4,990,602号(1981年2月5日発行)は、望ましくない四級塩生成を防止する意図も持って、アルカリ金属水素化物、水酸化物またはアルコキシドのごとき塩基の存在で、かかる2′―シリル化エリスロマイシンA9―オキシム誘導体とメチル化剤の反応による追加の6―O―メチルエリスロマイシンA誘導体(オキシム位置でEP260、938のそれよりもっと広く置換された)を記述する。第4,990,602号特許とEP260、938出願は四級塩生成を防止することが望ましいと指摘するが、収率向上のための代替法の必要性は残っている。
【0003】
6―O―メチルエリスロマイシン化合物を指向する新しい特許の連続的出現は、望まない副反応の防止と望ましい抗菌化合物の収率向上への継続努力の重要性を示す。
【0004】
通常、クラリスロマイシン製造プロセスは、エリスロマイシンAを出発物質として4段工程で考えることができる:
工程1:任意に9―オキソ基をオキシムで保護する;
工程2:2′と4″ヒドロキシル基を保護する;
工程3:6―ヒドロキシル基をメチル化する;
工程4:2′、4″及び9―位置を脱保護する。
【発明の開示】
【0005】
本発明者は、いま、強塩基の存在で弱塩基を使う6―O―アルキル化の方法により、高収率の6―O―アルキルエリスロマイシン誘導体が得られ、副生化合物が減少することを発見した。このアルキル化工程は上述した通常の工程3に該当する。
【0006】
この方法は、ヒドロキシ―被保護エリスロマイシン誘導体(及び特にシリル化合物、例えばトリメチルシリルで保護された)の混合物をメチル化するときに特に有効である。かかるヒドロキシ―被保護エリスロマイシン誘導体の混合物(すなわち2′―モノ―、4″―モノ、及び2′,4″―ビス―被保護誘導体)は、大規模製造(すなわち、上述した工程2)中に、もしビス―保護が完全に達成されなければ、生成することがあり得る。ヒドロキシ―被保護化合物の混合物をアルキル化する能力は、費用のかかる分離工程を避け得るので明らかな利点である。
【0007】
発明の概要
本発明は式(I)
【0008】
【化1】

{式中、
は以下に定義される低(低級のこと。以下同じ)アルキル基であり;
及びRは同時に共に水素でないことを除いて、独立に、水素または以下に定義されるヒドロキシ保護基であり;
Yは、
a)酸素;
b)式 N―O―R
[式中、R
水素、
以下に定義される低アルケニル基、
以下に定義されるアリール(低アルキル)基、または
以下に定義される置換されたアリール(低アルキル)基
の群から選択される]のオキシム;または
c)式 N―O―C(R)(R)―O―R
[式中、R
低アルキル基、
以下に定義されるシクロアルキル基、
フェニル基、
アリール(低アルキル)基からなる群から選択され;
またはRとRまたはRとR及びそれらに付属する原子が共に酸素原子1つを含む5〜7員環を形成し;

低アルキル基、
以下に定義される低アルコキシメチル基からなる群から選択され;
またはRとR及びそれらに付属する原子が共に酸素原子1つを含む5〜7員環を形成し、
またはRとR及びそれらに付属する原子が共に5〜7員シクロアルキル基を形成し;

水素原子、
低アルキル基、
フェニル基
アリール(低アルキル)基からなる群から選択され;
またはRとR及びそれらに付属する原子が共に酸素原子1つを含む5〜7員環を形成し、
またはRとR及びそれらに付属する原子が共に5〜7員のシクロアルキル基を形成し;
ただ1組の置換基(RとR)、(RとR)または(RとR)がそれらに付属する原子と共に上に定義される環を形成することを必要条件とする]のオキシム;及び
Zは水素、ヒドロキシまたは被保護―ヒドロキシである}
を有する6―O―アルキルエリスロマイシン化合物を製造するために、

【0009】
【化2】

(式中、R、R、Y、及びZは上に定義されている)を有する化合物と下に定義されるアルキル化剤を、下に定義される強アルカリ金属塩基の存在と共に、下に定義される弱有機アミン塩基の存在で、下に定義されるかき回すかまたは攪拌した極性非プロトン性溶媒またはかかる極性非プロトン性溶媒の混合物中でアルキル化を起こすに十分な反応温度と時間を維持して、反応させるという方法を含む。
【0010】
本発明の方法により製造される化合物は、続いて2′(R)及び4″(R)位置で脱保護されて、商業的に望ましい6―O―アルキル抗菌剤を与える。
【0011】
発明の詳細なる説明
本発明のある実施様態(実施様態A)は、式(I)
【0012】
【化3】

{式中、
は低アルキル基であり;
及びRは独立に、水素またはヒドロキシ保護基であり、そのヒドロキシ保護基はベンジルオキシカルボニル、アセチル、または式SiR10の置換シリル基(式中、R、R及びR10は同じか異なり、それぞれ水素原子、低アルキル基、アルキル部が1〜3炭素原子であるフェニル置換アルキル基、フェニル基、5〜7炭素原子を有するシクロアルキル基、または2〜5炭素原子を有する低アルケニル基である)であり;少なくともR、R及びR10の1つは水素原子でなく、RとRは同時に共に水素でないという必要条件を備えており;
Yは、
a)酸素;
b)式 N―O―R
[式中、R
水素、
低アルケニル基、
アリール(低アルキル)基、または
置換されたアリール(低アルキル)基
からなる群から選択される]のオキシム;または
c)式
N―O―C(R)(R)―O―R
[式中、R
低アルキル基、
シクロアルキル基、
フェニル基、
アリール(低アルキル)基からなる群から選択され;
またはRとRまたはRとR及びそれらに付属する原子が共に酸素原子1つを含む5〜7員環を形成し;

低アルキル基、
低アルコキシメチル基からなる群から選択され;
またはRとR及びそれらに付属する原子が共に酸素原子1つを含む5〜7員環を形成し、
またはRとR及びそれらに付属する原子が共に5〜7員シクロアルキル基を形成し;

水素原子、
低アルキル基、
フェニル基
アリール(低アルキル)基からなる群から選択され;
またはRとR及びそれらに付属する原子が共に酸素原子1つを含む5〜7員環を形成し、
またはRとR及びそれらに付属する原子が共に5〜7員のシクロアルキル基を形成し;
ただ1組の置換基(RとR)、(RとR)または(RとR)がそれらに付属する原子と共に上に定義される環を形成することを必要条件とする]のオキシム;及び
Zは水素、ヒドロキシまたは被保護―ヒドロキシである}
を有する6―O―アルキルエリスロマイシン化合物を製造するために、

【0013】
【化4】

(式中、R、R、Y、及びZは上に定義されている)を有する化合物と、典型的には臭化メチル、臭化エチル、臭化n―プロピル、沃化メチル、沃化エチル、臭化n―プロピル、硫酸ジメチル、硫酸ジエチル、硫酸ジ―n―プロピル、p―トルエンスルホン酸メチル、メタンスルホン酸エチル、及びメタンスルホン酸n―プロピルを含むアルキル化剤とを、強アルカリ金属塩基(好ましくは、アルカリ金属水素化物、アルカリ金属水酸化物またはアルカリ金属アルコキシドからなる群から選択される)の存在下、弱有機アミン塩基(好ましくはトリメチルアミン、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、ピリジン、2―メトキシピリジン、1―メチルピロリジン、1―メチルピペリジン、及び1―エチルピペリジンからなる群から選択される)の存在下で、適切にかき回しまたは攪拌した、例えばN,N―ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、N―メチル―2―ピロリドン、ヘキサメチル燐酸トリアミド、テトラヒドロフラン、1,2―ジメトキシエタン、アセトニトリルまたは酢酸エチルからなる群から選択される極性非プロトン性溶媒、またはかかる極性非プロトン性溶媒の混合物中で、アルキル化を起こすに十分な反応温度と時間、好ましくは−15℃〜室温、1〜8時間維持して、反応させる方法である。
【0014】
本発明の他の実施様態(実施様態B)は、R及びRは独立に、水素または式SiR10の置換シリル基(式中、R、R及びR10は同じか異なり、それぞれ水素原子、低アルキル基、アルキル部が1〜3炭素原子であるフェニル置換アルキル基、フェニル基、5〜7炭素原子を有するシクロアルキル基、または2〜5炭素原子を有する低アルケニル基である)であり;少なくともR、R及びR10の1つは水素原子でなく、RとRは同時に共に水素でない必要条件を備える実施様態Aの方法である。
【0015】
本発明の他の実施様態(実施様態C)は、Yが式
N―O―C(R)(R)―O―R
[式中、R
低アルキル基、
シクロアルキル基、
フェニル基、
アリール(低アルキル)基からなる群から選択され;
またはRとRまたはRとR及びそれらに付属する原子が共に酸素原子1つを含む5〜7員環を形成し;

低アルキル基、
低アルコキシメチル基からなる群から選択され;
またはRとR及びそれらに付属する原子が共に酸素原子1つを含む5〜7員環を形成し、
またはRとR及びそれらに付属する原子が共に5〜7員のシクロアルキル基を形成し;

水素原子、
低アルキル基、
フェニル基
アリール(低アルキル)基からなる群から選択され;
またはRとR及びそれら付属する原子が共に酸素原子1つを含む5〜7員環を形成し、またはRとR及びそれらに付属する原子が共に5〜7員のシクロアルキル基を形成し;
ただ1組の置換基(RとR)、(RとR)または(RとR)がそれらに付属する原子と共に上に定義される環を形成することを必要条件とする]
のオキシムである実施様態Aの方法である。
【0016】
本発明の他の実施様態(実施様態D)は、Zがヒドロキシである実施様態Aの方法である。
【0017】
本発明の他の実施様態(実施様態E)は、アルキル化剤が臭化メチル、沃化メチル、硫酸ジメチル、及びp―トルエンスルホン酸メチルからなる群から選択される実施様態Aの方法である。
【0018】
本発明の他の実施様態(実施様態F)は、反応が−5〜+5℃の温度に維持される実施様態Aの方法である。
【0019】
本発明の他の実施様態(実施様態G)は、溶媒がN,N―ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、N―メチル―2―ピロリドン、ヘキサメチル燐酸トリアミド、テトラヒドロフラン、1,2―ジメトキシエタン、アセトニトリル及び酢酸エチルからなる溶媒の混合物である実施様態Aの方法である。
【0020】
本発明の他の実施様態(実施様態H)は、強アルカリ金属塩基がアルカリ金属水酸化物である実施様態Aの方法である。
【0021】
本発明の他の実施様態(実施様態I)は、弱有機アミン塩基が、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、ピリジン、2―メトキシピリジン、1―メチルピロリジン、1―メチルピペリジン、及び1―エチルピペリジンからなる群から選択される実施様態Aの方法である。
【0022】
本発明の好ましい実施様態(実施様態J)は、R及びRは独立に、水素または式SiR10の置換シリル基(式中、R、R及びR10は同じか異なり、それぞれ水素原子、低アルキル基、アルキル部が1〜3炭素原子であるフェニル置換アルキル基、フェニル基、5〜7炭素原子を有するシクロアルキル基、または2〜5炭素原子を有する低アルケニル基である)であり;少なくともR、R及びR10の1つは水素原子でなく、RとRは同時に共に水素でない必要条件を備えており;
Yは、式
N―O―C(R)(R)―O―R
[式中、R
低アルキル基、
下に定義されるシクロアルキル基、
フェニル基、
アリール(低アルキル)基からなる群から選択され;
またはRとRまたはRとR及びそれらに付属する原子が共に酸素原子1つを含む5〜7員環を形成し;

低アルキル基、
下に定義される低アルコキシメチル基からなる群から選択され;
またはRとR及びそれらに付属する原子が共に酸素原子1つを含む5〜7員環を形成し、
またはRとR及びそれらに付属する原子が共に5〜7員のシクロアルキル基を形成し;

水素原子、
低アルキル基、
フェニル基
アリール(低アルキル)基からなる群から選択され;
またはRとR及びそれらに付属する原子が共に酸素原子1つを含む5〜7員環を形成し、
またはRとR及びそれらに付属する原子が共に1つの5〜7員のシクロアルキル基を形成し;
ただ1組の置換基(RとR)、(RとR)または(RとR)がそれらに付属する原子と共に上に定義される環を形成することを必要条件とする]のオキシムであり;
Zはヒドロキシであり;アルキル化剤は臭化メチル、沃化メチル、硫酸ジエチル、またはp―トルエンスルホン酸メチルからなるメチル化剤であり;強アルカリ金属塩基はアルカリ金属水酸化物であり;弱有機アミン塩基はトリメチルアミン、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、ピリジン、2―メトキシピリジン、1―メチルピロリジン、1―メチルピペリジン、及び1―エチルピペリジンからなる群から選択され;溶媒はN,N―ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、N―メチル―2―ピロリドン、ヘキサメチル燐酸トリアミド、テトラヒドロフラン、1,2―ジメトキシエタン、アセトニトリルまたは酢酸エチルからなる溶媒の混合物であり、反応は−5〜+5℃の温度に維持される実施様態Aの方法である。
【0023】
本発明の更に好ましい実施様態(実施様態K)は、R及びRは独立に、水素またはトリメチルシリル基であるが、R及びRは同時に共に水素でなく;Yはイソプロピルシクロヘキシルケタールオキシム基であり;Zはヒドロキシであり;アルキル化剤は臭化メチル、沃化メチル、硫酸ジメチル、またはp―トルエンスルホン酸メチルからなり;強アルカリ金属塩基は水酸化カリウムであり;弱有機アミン塩基はトリエチルアミンであり;溶媒はTHFとDMSOの混合物であり、そして反応は−5〜0℃の温度に維持される実施様態Aの方法である。
【0024】
本発明の他の姿は新規の中間化合物、4″―TMS―エリスロマイシンAオキシムIPCHケタール及び2′―TMS―エリスロマイシンAオキシムIPCHケタールである。
【0025】
定義
本明細書には本発明の特別な要素を記すためにいくつかの定義された用語が使われている。使用に際しては次の意味が意図されている。
【0026】
用語「アルキル」は1〜10炭素原子を有する飽和した直鎖または分岐鎖の炭化水素基を意味し、これに限定されないが、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、n―ブチル、tert―ブチル、及びネオペンチルを含む。
【0027】
用語「アルキル化剤」は親核位置にアルキル基を配置する能力のある剤を意味し、これに限定されないが、臭化メチル、臭化エチル、臭化n―プロピル、沃化メチル、沃化エチル、臭化n―プロピルのごときハロゲン化アルキル;硫酸ジメチル、硫酸ジエチル、硫酸ジ―n―プロピルのごとき硫酸ジアルキル;p―トルエンスルホン酸メチル、メタンスルホン酸エチル、メタンスルホン酸n―プロピルのごときアルキルまたはアリール硫酸塩、及びその類を含む。
【0028】
用語「アリール(低アルキル)」は付加された1〜3芳香族炭化水素基を有する低アルキル基、例えばベンジル、ジフェニルベンジル、トリチル、及びフェニルエチルを意味する。
【0029】
用語「アリールオキシ」は分子の他の部分にエーテル鎖経由で(すなわち酸素原子を介して)接続される芳香族炭化水素基、例えばフェノキシを意味する。
【0030】
用語「シクロアルキル」は3〜8炭素原子を環内に有し、任意に、低アルキル、ハロ(低アルキル)、低アルコキシ、ハロゲンから選択される1〜3の追加基で置換された飽和単環炭化水素基を意味する。シクロアルキル基の例はこれに限定されないが、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロヘプチル、1―フルオロ―シクロプロピル、2―フルオロシクロプロピル、及び2―アミノシクロプロピルを含む。
【0031】
用語「ヒドロキシ―保護基」は当業界で良く知られており、合成中の望ましくない反応と分解を防止するための化学変化を起こす化合物の官能ヒドロキシ基の置換物を意味する(例えば、T.H.Greene and P.G.M.Wuts,Protective Groups in Organic Synthesis(有機合成の保護基),第2版,John Wiley & Sons,New York(1991)を参照のこと)。ヒドロキシ―保護基の例は、これに限定されないが、ベンジルオキシカルボニル、アセチル、または式SiR10の置換シリル基(R、R及びR10は同じか異なり、それぞれ水素原子、低アルキル基、アルキル部が1〜3炭素原子のフェニル置換アルキル基、フェニル基、5〜7炭素原子を有するシクロアルキル基、または2〜5炭素原子を有する低アルキル基であり、そしてR、R及びR10の少なくとも1つは水素原子でない)及びその類のものである。
【0032】
用語「低アルケニル」は2〜6炭素原子を含み、少なくとも1つの炭素―炭素二重結合を持つ直鎖または分岐鎖の炭化水素基を意味する。低アルケニル基の例は、ビニル、アリル、2―または3―ブテニル、2―、3―または4―ペンテニル、2―、3―、4―または5―ヘキセニル及びその異性体形を含む。
【0033】
用語「低アルコキシ」は分子の他の部分にエーテル鎖経由で(すなあわち酸素原子を通して)接続される低アルキル基を意味する。低アルコキシ基の例は、これに限定されないが、メトキシ及びエチルオキシを含む。
【0034】
用語「低アルキル」は1〜6炭素原子を有するアルキル基を意味し、これに限定されないが、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、n―ブチル、tert―ブチル、及びネオペンチルを含む。
【0035】
用語「被保護ヒドロキシ」は上に定義されたようにヒドロキシ保護基で保護されたヒドロキシ基を意味する。
【0036】
用語「極性非プロトン溶媒」は容易に除去されるプロトンを欠く極性有機溶媒を意味し、これに限定されないが、N,N―ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、N―メチル―2―ピロリドン、ヘキサメチル燐酸トリアミド、テトラヒドロフラン、1,2―ジメトキシエタン、アセトニトリルまたは酢酸エチル、及びその類を含む。
【0037】
用語「強アルカリ金属塩基」は弱い共役酸を有するアルカリ金属塩基を意味し、これに限定されないが、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水素化ナトリウム、水素化カリウム、カリウムt―ブトキシド、及びその類を含む。
【0038】
用語「置換アリール(低アルキル)」は上に定義されたようにそれぞれハロゲン、低アルコキシ、低アルキル、ヒドロキシ置換低アルキル、及び(低アルキル)アミノから独立して選択される1〜3の非水素環置換基を有するアリール(低アルキル)残基を意味する。置換アリール(低アルキル)基の例は、2―フルオロフェニルメチル、4―フルオロフェニルエチル及び2,4―ジフルオロフェニルプロピルである。
【0039】
用語「弱有機アミン塩基」は強い共役酸を有する有機アミン塩基を意味し、これに限定されないが、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、ピリジン、2―メトキシピリジン、1―メチルピロリジン、1―メチルピペリジン、及び1―エチルピペリジン及びその類を含む。
【0040】
略語
或る定まった略語が以下の明細書に繰返し使われる。これらは次を含む;ジメチルスルホキシドに対してDMSO;高性能液体クロマトグラフィに対してHPLC;イソプロピルシクロヘキシルケタールに対してIPCHケタール;トリエチルアミンに対してTEA;テトラヒドロフランに対してTHF;トリメチルシリルに対してTMS。
【0041】
出発物質
2′,4″―ビスTMS―エリスロマイシンAオキシムIPCHケタールは米国特許第4,990,602号の実施例30の記述の通り調製した。
【0042】
4″―TMS―エリスロマイシンAオキシムIPCHケタールの調製
2′,4″―ビスTMS―エリスロマイシンAオキシムIPCHケタールをTHF、DMSF及びイソプロピルアルコール混合物中で、室温、2時間20分、酢酸で処理し、それから混合物を酢酸イソプロピルで希釈し、過剰の2N―NaOHで急冷して4″―TMS―エリスロマイシンAオキシムIPCHケタールを調製した。有機層を分離し、乾燥し、溶媒を真空下で除去して4″―TMS―エリスロマイシンAオキシムIPCHケタールを得た。分子のデソサミン部に対するH―NMR帰属は次の通りである:1′,4.57;2′,3.20;3′,2.44;4′,1.69&1.21;5′,3.45;6′,1.21;OTMS(9H),0.12。TMS信号(9H)の積分は、分子中に単一のTMS基が存在することを示す。0.12ppmのTMS基と3.20ppmのH2′の間のROESYスペクトルのNOEは、TMS基が2′位置にあることを示す。
【0043】
2′―TMS―エリスロマイシンAオキシムIPCHケタール
2′,4″―ビスTMS―エリスロマイシンAオキシムIPCHケタールを1:1 THF:DMSO中で、2.5時間、室温で、0.5N―NaOH及びTEAで処理して、2′―TMS―エリスロマイシンAオキシムIPCHケタールを調製した。反応はヘプタンと2N―NaOHで急冷し、層を分離した。有機層を水で洗浄しMgSO上で乾燥し、それから溶媒を真空下で除去し、ヘプタンと窒素で追加のフラッシュ洗浄を行い、2′―TMS―エリスロマイシンAオキシムIPCHケタールを得た。NMRで構造を確定した。分子のクラジノース部のH―NMR帰属は次の通りである:1″,4.90;2″,2.36&1.50:3″―メチル,1.14;4″,3.16;5″,4.24;6″,1.22;Oメチル,3.29;OTMS(9H),0.14。TMS信号(9H)の積分は、分子に単一のTMS基が存在することを示す。0.14ppmのTMS基と3.16ppmのH4″の間のROESYスペクトルのNOEは、TMS基が4″位置にあることを示す。
【0044】
実施例
次の実施例は本発明の説明のために提供するもので本発明を制限するものではないが、本発明のプロセスと利点を更なる説明に役立つであろう。
【0045】
出発物質の混合物が利用できる場合は、出発物質は適切な溶媒に溶解しHPLCで分析して、それぞれの化合物の正確な評価を得る。同じHPLC分析を生成物混合物にも行い、それぞれの生成物化合物の正確な評価を得た。
【実施例1】
【0046】
2′,4″―ビスTMS―エリスロマイシンAオキシムIPCHケタールのメチル化;
KOH塩基を使いTEA無添加の対照メチル化方法
2′,4″―ビスTMS―エリスロマイシンAオキシムIPCHケタール(4.0mmol)を含む1:1 THF:DMSO(50ml)溶液を調製した。溶液を0〜5℃に冷却し、沃化メチル(2.34g、16.5mmol)及びKOH(0.47g、8.3mmol)をこの順に添加した。反応混合物を60分間攪拌し、反応物にヘプタン100mlを加えて希釈し、2N―NaOH20mlを加えて反応を急冷した。層を分離し、有機層を水で洗浄した。ヘプタン層をMgSO上で乾燥し、溶媒を真空で除去して6―O―メチル―2′,4″―ビスTMS―エリスロマイシンAオキシムIPCHケタール2.99gを含有する生成物3.86gを得た(71%収率)。生成物の同定は、HPLC分析と対照生成物(米国特許第4,990,602号参照)と比較して確認した。実施例1、2及び3の総括は下表1を参照すること。
【実施例2】
【0047】
2′,4″―ビスTMS―エリスロマイシンAオキシムIPCHケタールのメチル化;
KOH塩基を使いTEA低水準のメチル化方法
沃化メチル及びKOH添加に先立ってTEA(1.0g,10mmol)を添加したことを除いて実施例1の方法に従った。6―O―メチル生成物3.4gを含有する粗生成物(4.14g)を得た(81%収率)。実施例1、2及び3の総括は下表1を参照すること。
【実施例3】
【0048】
2′,4″―ビスTMS―エリスロマイシンAオキシムIPCHケタールのメチル化;
KOH塩基を使いTEA高水準のメチル化方法
沃化メチル及びKOH添加に先立ってTEA(3.5g,34.6mmol)を添加したことを除いて実施例1の方法に従った。6―O―メチル生成物3.5gを含有する粗生成物(3.84g)を得た(83%収率)。実施例1、2及び3の総括は下表1を参照すること。
【0049】
【表1】

【0050】
これらのデータはTEAの存在で生成物のより高い収率が得られることを示すものであり、より高いTEA水準で収率が最高であった。
【実施例4】
【0051】
2′,4″―ビスTMS―エリスロマイシンAオキシムIPCHケタールと4″―TMS―エリスロマイシンAオキシムIPCHケタールの混合物のメチル化;
KOH塩基を使いTEA無添加の対照メチル化方法
2′,4″―ビスTMS―エリスロマイシンAオキシムIPCHケタールと4″―TMS―エリスロマイシンAオキシムIPCHケタール(各3.07及び1.0mmol)を含む1:1 THF:DMSO(50ml)溶液を調製した。溶液を0〜5℃に冷却し、臭化メチル(0.85g、9.0mmol)及びKOH(0.47g、8.3mmol)をこの順に添加した。反応混合物を30分間攪拌し、反応物にヘプタン100mlを加えて希釈し、2N―NaOH20mlを加えて反応を急冷した。層を分離し、有機層を水で洗浄した。層を分離して、ゴム状副生物を採集した。ヘプタン層をMgSO上で乾燥し、溶媒を真空で除去して6―O―メチル―2′,4″―ビスTMS―エリスロマイシンAオキシムIPCHケタールと同定された生成物2.95gを得た(総合収率69%)。メチル化4″―TMS生成物は得られなかった。生成物は、NMRスペクトルを対照生成物(米国特許第4,990,602号参照)のそれと比較して同定した。ゴム状副生物を酢酸イソプロピル25mlに溶解した。溶液を乾燥し濾過し、溶媒を真空下で除去してNMR分光法により四級塩と同定される物質0.91gを得た。実施例4、5及び6の総括は下表2を参照すること。
【実施例5】
【0052】
2′,4″―ビスTMS―エリスロマイシンAオキシムIPCHケタールと4″―TMS―エリスロマイシンAオキシムIPCHケタールの混合物のメチル化;
KOH塩基を使いTEA低水準のメチル化方法
出発物質への剤の添加順序が、TEA(1.0g,10mmol)、臭化メチル、それからKOHであることを除いて実施例4の方法に従い実施して、所望の生成物、6―O―メチル―2′,4″―ビスTMS―エリスロマイシンAオキシムIPCHケタール及び6―O―メチル―4″―TMS―エリスロマイシンAオキシムIPCHケタール(各2.58及び0.44mmol;総合収率74%)の混合物3.93gを得た。中庸の量の四級塩副生物(0.41g)が単離された。実施例4、5及び6の総括は下表2を参照すること。
【実施例6】
【0053】
2′,4″―ビスTMS―エリスロマイシンAオキシムIPCHケタールと4″―TMS―エリスロマイシンAオキシムIPCHケタールの混合物のメチル化;
KOH塩基を使いTEA高水準のメチル化方法
出発物質への剤の添加順序が、TEA(3.5g,34.6mmol)、臭化メチル、それからKOHであることを除いて実施例4の方法に従い実施して、所望の生成物、6―O―メチル―2′,4″―ビスTMS―エリスロマイシンAオキシムIPCHケタール及び6―O―メチル―4″―TMS―エリスロマイシンAオキシムIPCHケタール(各2.48及び0.72mmol;総合収率79%)の混合物3.87gを得た。痕跡量の四級塩副生物を得た。実施例4、5及び6の総括は下表2を参照すること。
【0054】
【表2】

【0055】
これらのデータはTEAの存在で生成物のより高い収率が得られることを示すものであり、より高いTEA水準で収率が最高であった。
【実施例7】
【0056】
モノ―被保護4″―TMS―エリスロマイシンAオキシムIPCHケタールのメチル化;
KOH塩基のみを使うメチル化方法
4″―TMS―エリスロマイシンAオキシムIPCHケタール(2.1g,2.2mmol)を1:1 THF:DMSO(25ml)に溶解した。溶液を0〜5℃に冷却し、臭化メチル(1.5ml、27mmol)及びKOH(0.2g、3.0mmol)をこの順に添加した。反応混合物を1時間攪拌し、反応物にヘプタン50mlを加えて希釈し、2N―NaOH10mlを加えて反応を急冷した。層を分離し、ゴム状副生物を採集し、有機層を水で洗浄した。ヘプタン層をMgSO上で乾燥し、溶媒を真空で除去した。生成物は観察されなかった。ゴム状副生物を酢酸イソプロピル50mlに溶解した。溶液を乾燥し、濾過して、溶媒を真空下で除去して、NMR分光法で四級塩と同定された物質1.5gを得た。実施例7及び8を総括した下表3を参照のこと。
【実施例8】
【0057】
モノ被保護4″―TMS―エリスロマイシンAオキシムIPCHケタールのメチル化;
KOH塩基とTEAを使うメチル化方法
出発物質への剤の添加順序が、TEA(3.5g,34.6mmol)、臭化メチル(0.5ml、9mmol)、それからKOH(0.26g、3.9mmol)であることを除いて、実施例7の方法に従い実施して、所望の生成物、6―O―メチル―4″―TMS―エリスロマイシンAオキシムIPCHケタール及び6―O―メチル―4″―TMS―エリスロマイシンAオキシムIPCHケタール1.32g(68%収率)及び四級塩副生物0.32gを得た。実施例7及び8を総括した下表3を参照のこと。
【0058】
【表3】

【0059】
これらのデータはTEAが存在しないと4″―モノ―被保護生成物が得られないことを示した。
【実施例9】
【0060】
モノ―被保護2′―TMS―エリスロマイシンAオキシムIPCHケタールのメチル化;
KOH塩基のみを使うメチル化方法
2′―TMS―エリスロマイシンAオキシムIPCHケタール(2.1g,2.2mmol)を1:1 THF:DMSO(25ml)に溶解した。溶液を0〜5℃に冷却し、臭化メチル(1.0ml、28mmol)及びKOH(0.2g、3.0mmol)をこの順に添加した。反応混合物を1時間攪拌し、反応物にヘプタン50mlを加えて希釈し、2N―NaOH10mlを加えて反応を急冷した。層を分離し、ゴム状副生物を採集し、有機層を水で洗浄した。ヘプタン層をMgSO上で乾燥し、溶媒を真空で除去して、6―O―メチル―2′―TMS―エリスロマイシンAオキシムIPCHケタール1.54gを得た(69%収率)。ゴム状副生物を酢酸イソプロピル50mlに溶解した。溶液を乾燥し濾過して、溶媒を真空下で除去して、NMR分光法で四級塩と同定された物質0.36gを得た。実施例9及び10を総括した下表4を参照すること。
【実施例10】
【0061】
モノ―被保護2′―TMS―エリスロマイシンAオキシムIPCHケタールのメチル化;
KOH塩基とTEAを使うメチル化方法
出発物質への剤の添加順序が、TEA(1.75g,17.3mmol)、臭化メチル(0.5ml、9mmol)、それからKOH(0.23g、3.0mmol)であることを除いて、実施例9の方法に従い実施して、所望の生成物、6―O―メチル―2′―TMS―エリスロマイシンAオキシムIPCHケタール及び1.84g(74.5%収率)及び四級塩副生物0.1gを得た。実施例9及び10を総括した下表4を参照のこと。
【0062】
【表4】

【0063】
これらのデータはTEAが存在すると2′―モノ―被保護生成物がより高い収率で得らることを示した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
4″―TMS―エリスロマイシンAオキシムIPCHケタールまたは2′―TMS―エリスロマイシンAオキシムIPCHケタールである化合物。

【公開番号】特開2008−110976(P2008−110976A)
【公開日】平成20年5月15日(2008.5.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−275992(P2007−275992)
【出願日】平成19年10月24日(2007.10.24)
【分割の表示】特願平9−519720の分割
【原出願日】平成8年10月25日(1996.10.25)
【出願人】(391008788)アボット・ラボラトリーズ (650)
【氏名又は名称原語表記】ABBOTT LABORATORIES
【Fターム(参考)】