エレウテリノシドA、B、C
【課題】天然由来の新規な化学物質を資源として提供する。
【解決手段】アヤメ科植物Eleutherine palmifolia鱗茎のメタノール抽出物を精製し、下記式(1)で示されるエレウテリノシドA。
該化合物は、癌治療薬として有用である。
【解決手段】アヤメ科植物Eleutherine palmifolia鱗茎のメタノール抽出物を精製し、下記式(1)で示されるエレウテリノシドA。
該化合物は、癌治療薬として有用である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規化合物であるエレウテリノシドA、B及びCに関し、更には、これらを用いた薬剤に関する。
【背景技術】
【0002】
現在の我々の生活において、天然の動植物、微生物等の体内に含まれる化学物質(以下「天然物」という。)として見出されたもののうち人体に有用な効果をもたらすものは生薬、医薬品の有効成分として使用されている。また、このようなものは更に有用な医薬品を開発するための研究材料としても様々な役割を有しており、非常に重要なものとなっている。
【0003】
このように、人体に有益な効果をもたらす天然物の探索に関する報告としては、例えば下記非特許文献1に、変形菌からビスインドール化合物、ナフトキノン化合物、グリセリド化合物等を抽出した報告がある。
【0004】
【非特許文献1】石橋正己、“未利用菌類の資源化:変形菌からの天然物探索”、有機合成化学協会誌、2003年、第61巻、第2号、152〜163頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら一方で、天然物の探索が多数の者によって行なわれているにもかかわらず、探索の材料として検討、調査されたものは、地球上の全生物種の中で10%にも満たないといわれている。
【0006】
本発明は、新規な化学物質を資源として提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一手段に係る化学物質は、下記式(1)で示される。なお本明細書中において下記式(1)で示される化学物質はエレウテリノシドAと呼ばれる。
【化1】
【0008】
また、本発明の他の一手段に係る化学物質は、下記式(2)で示される。なお本明細書中において下記式(2)で示される化学物質はエレウテリノシドBと呼ばれる。
【化2】
【0009】
また、本発明の他の一手段に係る化学物質は、下記式(3)で示される。なお本明細書中において下記式(3)で示される化学物質はエレウテリノシドCと呼ばれる。
【化3】
【0010】
また、本発明の他の一手段に係る薬剤は、下記式(1)で示されるエレウテリノシドA及びその塩の少なくともいずれかを有効成分として含有する。
【化4】
【0011】
また、本発明の他の一手段に係る薬剤は、下記式(2)で示されるエレウテリノシドB及びその塩の少なくともいずれかを有効成分として含有する。
【化5】
【0012】
また、本発明の他の一手段に係る薬剤は、下記式(3)で示されるエレウテリノシドC及びその塩の少なくともいずれかを有効成分として含有する。
【化6】
【0013】
なお、上記の薬剤は、限定されるわけではないが、癌の治療薬として有用であることが期待される。
【発明の効果】
【0014】
本発明により、新規な化学物質を資源として提供することができる。特に、本発明に係る化学物質は、癌細胞に対し細胞増殖抑制作用を発揮するため、例えば癌の治療薬として利用が期待される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態について説明するが、本発明は多くの異なる形態による実施が可能であり、以下に示す実施形態についての記載にのみ狭く解釈されるものではない。
【0016】
本発明の一形態に係るエレウテリノシドA、B及びCは、下記式(1)乃至(3)によりそれぞれ示される。
【化7】
【化8】
【化9】
【0017】
本実施形態に係るエレウテリノシドA、B及びCは、後述の実施例から明らかなように、アヤメ科植物Eleutherine palmifoliaから抽出することができるが、これに限定されず、合成することも可能である。
【0018】
本実施形態に係るエレウテリノシドA、B及びCは、癌細胞に対し細胞増殖抑制作用を発揮するため、薬剤、例えば癌の治療薬として利用が期待される。なおエレウテリノシドA、B及びCを癌の治療薬として利用する場合、エレウテリノシドA、B及びC並びにこれらの塩のうち少なくともいずれかを有効成分として含有しておくことが好ましい。
【0019】
また、本実施形態に係る癌の治療薬は、上記エレウテリノシドA、B及びC並びにこれらの塩のうち少なくともいずれかの他、薬学的に許容しうる通常の担体、結合剤、安定化剤、賦形剤、希釈剤(例えば蒸留水)、pH緩衝剤(例えばリン酸緩衝生理食塩水)、崩壊剤、可溶化剤、溶解補助剤、等張剤等の各種調剤用配合成分を含有させることができる。
【0020】
またこの癌の治療薬は、患者の性別、体重、症状に見合った適切な投与量を経口的又は非経口的に投与することができる。経口的な投与としては、通常用いられる投与形態、例えば粉末、顆粒、錠剤、カプセル剤、液剤、懸濁液、油剤、乳化剤等の投与形態を採用することができる。また、非経口的な投与としては、通常用いられる投与形態、例えば上記の液剤、懸濁液等にしたものを直接患部に投与する方法、注射等により投与する形態を採用することができる。
【実施例】
【0021】
本実施例では、アヤメ科植物Eleutherine palmifoliaからエレウテリノシドA、B及びCを抽出し、検討した結果を示す。図1に、エレウテリノシドA、B及びCの単離についてのスキームの概略を示しておく。
【0022】
まずEleutherine palmifoliaの鱗茎のメタノール抽出物10.3gを得て、n−ヘキサン、酢酸エチル、ブタノールを用いて溶媒分配を行い、各可溶部を得た。
【0023】
次に、ブタノール可溶部についてSilica gel PSQ 100Bを担体とするカラム(φ28×500mm)に付し、クロロホルム、メタノールを用いて溶出し、溶出順に1a〜1iの各画分を得た。
【0024】
そして、1cについてメタノールを加え遠心を行い、得られた不溶部をメタノールで洗浄し、エレウテリノシドA(40.0mg)を単離した。
【0025】
また、1dについて、下記表1に記載のHPLC条件による分取用HPLC(ODS)に付し、エレウテリノシドB(26.2mg)、エレウテリノシドC(33.7mg)をそれぞれ単離した。
【表1】
【0026】
(エレウテリノシドA)
エレウテリノシドAに対して高分解能FABMSを行い、[M+K]+と推測されるm/z419.1372のピークを観測した。この結果、分子式をC21H23O9と決定した。
【0027】
また、エレウテリノシドAに対して赤外吸収測定(以下「IR測定」という。)を行い、赤外吸収スペクトル(以下「IRスペクトル」という。)を得た。この結果、3225、1651cm−1にそれぞれヒドロキシ基、カルボニル基に由来する吸収をそれぞれ観測した。
【0028】
また、エレウテリノシドAに対して紫外吸収測定(以下「UV測定」という。)を行い、紫外吸収スペクトル(以下「UVスペクトル」という。)を得た。この紫外吸収測定は、メタノールを溶媒として濃度を2.0×10−5mol/l、セル長を1cmとして行なった。この結果、359.0nm、269.0nm、238.0nmにそれぞれ吸収ピークを有しており、芳香族化合物又は共役二重結合化合物であることが推定できた。なお、上記ピークにおけるそれぞれのモル吸収係数(ε)はそれぞれ10350、39450、49350であった。図2に、エレウテリノシドAにおけるUVスペクトルを示しておく。
【0029】
また、エレウテリノシドAに対し、旋光角[α]Dの測定を行った。この結果、旋光角は−59.2度であり、光学活性を有することが確認できた。なお下記表2に、旋光角、高分解FABMS、UV測定、IR測定の結果を示しておく。
【表2】
【0030】
また、エレウテリノシドAに対し、1H NMR及び13C NMRの測定も行った。この結果を下記表3、図3及び図4に示す。この結果、ナフトピロン骨格に由来するシグナル及び糖に由来するシグナルが観察された。
【表3】
【0031】
また、エレウテリノシドAに対し、HMQC、HMBC、1H−1H COSYも求めた。このスペクトルを図5乃至図7に示す。この結果、アグリコンとしてeleuterionolをもち、分子内にグルコースを1分子をもつ配糖体と推定された。またHMBCスペクトルによると1’位の水素から8位の炭素にHMBC相関を認めることができたこと及び8位炭素のケミカルシフト値(δc158.5)より、グルコースはアグリコンの8位に結合していることが判明した。なおグルコースの立体化学については、ナリンギナーゼを用いた酵素加水分解、糖部のL−Cystein methylester・HCl反応により得られるチアゾリジン誘導体のHPLC分析によりD体を決定した。また、アノマー位の立体配置に関してはアノマー水素の結合定数が7.8Hzであることから、β配置と決定した。
【0032】
以上の結果より、エレウテリノシドAの構造を上記式(1)で示すように決定した。
【0033】
(エレウテリノシドB)
エレウテリノシドBに対して高分解能FABMSを行い、[M+K]+と推測されるm/z615.2336のピークを観測した。この結果、分子式をC28H39O15と決定した。
【0034】
また、エレウテリノシドBに対してIR測定を行い、IRスペクトルを得た。この結果、3326cm−1にヒドロキシ基に由来する吸収をそれぞれ観測した。
【0035】
また、エレウテリノシドBに対してUV測定を行い、UVスペクトルを得た。このUV測定は、メタノールを溶媒として濃度を2.0×10−5mol/l、セル長を1cmとして行なった。この結果、340.0nm、326.0nm、311.0nm、234.0nmにそれぞれ吸収ピークを有しており、芳香族化合物又は共役二重結合化合物であることが推定できた。なお、上記ピークにおけるそれぞれのモル吸収係数(ε)はそれぞれ9450、9650、9850、60500であった。図8に、エレウテリノシドBにおけるUVスペクトルを示しておく。
【0036】
また、エレウテリノシドAに対し、旋光角[α]Dの測定を行った。この結果、旋光角は−2.7度であり、光学活性を有することが確認できた。なお下記表4に、旋光角、高分解FABMS、UV測定、IR測定の結果を示しておく。
【表4】
【0037】
また、エレウテリノシドBに対し、1H NMR及び13C NMRの測定も行った。この結果を上記表3、図9及び図10に示す。この結果、ピラノナフトキノンと2分子の糖に由来するシグナル及び糖に由来するシグナルが観察された。
【0038】
また、エレウテリノシドAに対し、HMQC、HMBC、1H−1H COSYも求めた。このスペクトルを図11乃至図13に示す。この結果、アグリコンとして4−hydroxyl isoeleutherinの平面構造をもち、分子内にグルコースを2分子をもつ配糖体と推定された。またHMBCスペクトルによると1’’位の水素から6’位の炭素にHMBC相関を認めることができたことから、分子内のグルコース2分子はゲンチオビオースであることが判明した。なおこれは1’位及び1’’位の結合定数がβ配置を示す8.0Hzであることからも支持される。更に、1’位の水素から5位の炭素へHMBC相関が観察されたことから、ゲンチオビオースはアグリコンの5位に結合していることが判明した。また差NOEスペクトルにより、1位のメチル基水素から3位水素、3位メチル基水素から1位水素及び4位水素へそれぞれNOE相関が観察されたことから、ピラン環の相対立体配置を決定した。
【0039】
グルコース2分子の立体化学は、エレウテリノシドAと同様の方法を用いて検討を行い共にD体と決定した。
【0040】
以上の結果より、エレウテリノシドBの構造を上記式(2)で示すように決定した。
【0041】
(エレウテリノシドC)
エレウテリノシドCに対して高分解能FABMSを行い、[M+K]+と推測されるm/z637.1887のピークを観測した。この結果、分子式をC28H38O14Kと決定した。
【0042】
また、エレウテリノシドCに対してIR測定を行い、IRスペクトルを得た。この結果、3365cm−1にヒドロキシ基に由来する吸収をそれぞれ観測した。
【0043】
また、エレウテリノシドCに対しUV測定を行い、UVスペクトルを得た。この紫外吸収測定は、メタノールを溶媒として濃度を2.0×10−5mol/l、セル長を1cmとして行なった。この結果、337.0nm、323.5nm、310.0nm、235.5nmにそれぞれ吸収ピークを有しており、芳香族化合物又は共役二重結合化合物であることが推定できた。なお、上記ピークにおけるそれぞれのモル吸収係数(ε)はそれぞれ10350、39450、49350であった。図14に、エレウテリノシドCにおけるUVスペクトルを示しておく。
【0044】
また、エレウテリノシドCに対し、旋光角[α]Dの測定を行った。この結果、旋光角は−5.0度であり、光学活性を有することが確認できた。なお下記表5に、旋光角、高分解FABMS、UV測定、IR測定の結果を示しておく。
【表5】
【0045】
また、エレウテリノシドCに対し、1H NMR及び13C NMRの測定も行った。この結果を上記表3、図15及び図16に示す。この結果、ナフトピロン骨格に由来するシグナル及び2分子の糖に由来するシグナルが観察された。
【0046】
また、酵素加水分解を行い、NMR、MSスペクトルデータ及び比旋光度よりアグリコンをisoeleutherinと同定した。糖部は、L−Cystein methyl ester・HClと反応させることにより得られるチアゾリジン誘導体をHPLC分析することによりD−グルコースであると判明した。
【0047】
また、エレウテリノシドCに対し、HMQC、HMBC、1H−1H COSYも求めた。このスペクトルを図17乃至図19に示す。この結果、アグリコンとしてisoeleutherinの平面構造をもち、分子内に糖を2分子をもつ配糖体と推定された。
【0048】
またHMBCスペクトルによると1’位の水素から5位の炭素にHMBC相関を認めることができたことから、ゲンチオビオースはアグリコンの5位に結合していることが判明した。なお糖のアノマー位の立体配置に関しては、アノマー水素の結合定数(J1’,2’:7.5Hz)よりβ配置と決定した。糖鎖の構造及びアグリコンへの結合位置はHMBCスペクトルより決定した。すなわち1’’位の水素から6’位の炭素に相関が認められたことから、分子内のグルコース2分子はゲンチオビオースであることが判明した。
【0049】
以上の結果より、エレウテリノシドCの構造を上記式(3)で示すように決定した。
【0050】
(細胞増殖阻害活性)
次に、単離したエレウテリノシドCについて、ヒト大腸がん細胞株3種類(HCT116、DLD1、SW480)及びヒト退治腎上皮細胞株である293T細胞(正常細胞)に対する細胞増殖阻害活性を検討した。この結果を下記表6に示す。この結果、エレウテリノシドCはヒト大腸がん細胞株3種類に対して細胞増殖阻害活性をもち、特にHCT116に対して強い細胞増殖阻害活性をもつことが判明した。一方、エレウテリノシドCは正常細胞株である293Tには細胞増殖阻害活性を有しておらず選択性を有していることが確認できた。
【表6】
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明は新規化合物を有効成分とし、薬剤として産業上の利用可能性を有する。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】実施例におけるエレウテリノシドA、B及びCの単離スキームの概略を示す図である。
【図2】実施例におけるエレウテリノシドAのUVスペクトルである。
【図3】実施例におけるエレウテリノシドAの1H NMRスペクトルである。
【図4】実施例におけるエレウテリノシドAの13C NMRスペクトルである。
【図5】実施例におけるエレウテリノシドAに関するHMQCスペクトルである。
【図6】実施例におけるエレウテリノシドAに関するHMBCスペクトルである。
【図7】実施例におけるエレウテリノシドAに関する1H−1H COSYスペクトルである。
【図8】実施例におけるエレウテリノシドBのUVスペクトルである。
【図9】実施例におけるエレウテリノシドBの1H NMRスペクトルである。
【図10】実施例におけるエレウテリノシドBの13C NMRスペクトルである。
【図11】実施例におけるエレウテリノシドBに関するHMQCスペクトルである。
【図12】実施例におけるエレウテリノシドBに関するHMBCスペクトルである。
【図13】実施例におけるエレウテリノシドBに関する1H−1H COSYスペクトルである。
【図14】実施例におけるエレウテリノシドCのUVスペクトルである。
【図15】実施例におけるエレウテリノシドCの1H NMRスペクトルである。
【図16】実施例におけるエレウテリノシドCの13C NMRスペクトルである。
【図17】実施例におけるエレウテリノシドCに関するHMQCスペクトルである。
【図18】実施例におけるエレウテリノシドCに関するHMBCスペクトルである。
【図19】実施例におけるエレウテリノシドCに関する1H−1H COSYスペクトルである。
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規化合物であるエレウテリノシドA、B及びCに関し、更には、これらを用いた薬剤に関する。
【背景技術】
【0002】
現在の我々の生活において、天然の動植物、微生物等の体内に含まれる化学物質(以下「天然物」という。)として見出されたもののうち人体に有用な効果をもたらすものは生薬、医薬品の有効成分として使用されている。また、このようなものは更に有用な医薬品を開発するための研究材料としても様々な役割を有しており、非常に重要なものとなっている。
【0003】
このように、人体に有益な効果をもたらす天然物の探索に関する報告としては、例えば下記非特許文献1に、変形菌からビスインドール化合物、ナフトキノン化合物、グリセリド化合物等を抽出した報告がある。
【0004】
【非特許文献1】石橋正己、“未利用菌類の資源化:変形菌からの天然物探索”、有機合成化学協会誌、2003年、第61巻、第2号、152〜163頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら一方で、天然物の探索が多数の者によって行なわれているにもかかわらず、探索の材料として検討、調査されたものは、地球上の全生物種の中で10%にも満たないといわれている。
【0006】
本発明は、新規な化学物質を資源として提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一手段に係る化学物質は、下記式(1)で示される。なお本明細書中において下記式(1)で示される化学物質はエレウテリノシドAと呼ばれる。
【化1】
【0008】
また、本発明の他の一手段に係る化学物質は、下記式(2)で示される。なお本明細書中において下記式(2)で示される化学物質はエレウテリノシドBと呼ばれる。
【化2】
【0009】
また、本発明の他の一手段に係る化学物質は、下記式(3)で示される。なお本明細書中において下記式(3)で示される化学物質はエレウテリノシドCと呼ばれる。
【化3】
【0010】
また、本発明の他の一手段に係る薬剤は、下記式(1)で示されるエレウテリノシドA及びその塩の少なくともいずれかを有効成分として含有する。
【化4】
【0011】
また、本発明の他の一手段に係る薬剤は、下記式(2)で示されるエレウテリノシドB及びその塩の少なくともいずれかを有効成分として含有する。
【化5】
【0012】
また、本発明の他の一手段に係る薬剤は、下記式(3)で示されるエレウテリノシドC及びその塩の少なくともいずれかを有効成分として含有する。
【化6】
【0013】
なお、上記の薬剤は、限定されるわけではないが、癌の治療薬として有用であることが期待される。
【発明の効果】
【0014】
本発明により、新規な化学物質を資源として提供することができる。特に、本発明に係る化学物質は、癌細胞に対し細胞増殖抑制作用を発揮するため、例えば癌の治療薬として利用が期待される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態について説明するが、本発明は多くの異なる形態による実施が可能であり、以下に示す実施形態についての記載にのみ狭く解釈されるものではない。
【0016】
本発明の一形態に係るエレウテリノシドA、B及びCは、下記式(1)乃至(3)によりそれぞれ示される。
【化7】
【化8】
【化9】
【0017】
本実施形態に係るエレウテリノシドA、B及びCは、後述の実施例から明らかなように、アヤメ科植物Eleutherine palmifoliaから抽出することができるが、これに限定されず、合成することも可能である。
【0018】
本実施形態に係るエレウテリノシドA、B及びCは、癌細胞に対し細胞増殖抑制作用を発揮するため、薬剤、例えば癌の治療薬として利用が期待される。なおエレウテリノシドA、B及びCを癌の治療薬として利用する場合、エレウテリノシドA、B及びC並びにこれらの塩のうち少なくともいずれかを有効成分として含有しておくことが好ましい。
【0019】
また、本実施形態に係る癌の治療薬は、上記エレウテリノシドA、B及びC並びにこれらの塩のうち少なくともいずれかの他、薬学的に許容しうる通常の担体、結合剤、安定化剤、賦形剤、希釈剤(例えば蒸留水)、pH緩衝剤(例えばリン酸緩衝生理食塩水)、崩壊剤、可溶化剤、溶解補助剤、等張剤等の各種調剤用配合成分を含有させることができる。
【0020】
またこの癌の治療薬は、患者の性別、体重、症状に見合った適切な投与量を経口的又は非経口的に投与することができる。経口的な投与としては、通常用いられる投与形態、例えば粉末、顆粒、錠剤、カプセル剤、液剤、懸濁液、油剤、乳化剤等の投与形態を採用することができる。また、非経口的な投与としては、通常用いられる投与形態、例えば上記の液剤、懸濁液等にしたものを直接患部に投与する方法、注射等により投与する形態を採用することができる。
【実施例】
【0021】
本実施例では、アヤメ科植物Eleutherine palmifoliaからエレウテリノシドA、B及びCを抽出し、検討した結果を示す。図1に、エレウテリノシドA、B及びCの単離についてのスキームの概略を示しておく。
【0022】
まずEleutherine palmifoliaの鱗茎のメタノール抽出物10.3gを得て、n−ヘキサン、酢酸エチル、ブタノールを用いて溶媒分配を行い、各可溶部を得た。
【0023】
次に、ブタノール可溶部についてSilica gel PSQ 100Bを担体とするカラム(φ28×500mm)に付し、クロロホルム、メタノールを用いて溶出し、溶出順に1a〜1iの各画分を得た。
【0024】
そして、1cについてメタノールを加え遠心を行い、得られた不溶部をメタノールで洗浄し、エレウテリノシドA(40.0mg)を単離した。
【0025】
また、1dについて、下記表1に記載のHPLC条件による分取用HPLC(ODS)に付し、エレウテリノシドB(26.2mg)、エレウテリノシドC(33.7mg)をそれぞれ単離した。
【表1】
【0026】
(エレウテリノシドA)
エレウテリノシドAに対して高分解能FABMSを行い、[M+K]+と推測されるm/z419.1372のピークを観測した。この結果、分子式をC21H23O9と決定した。
【0027】
また、エレウテリノシドAに対して赤外吸収測定(以下「IR測定」という。)を行い、赤外吸収スペクトル(以下「IRスペクトル」という。)を得た。この結果、3225、1651cm−1にそれぞれヒドロキシ基、カルボニル基に由来する吸収をそれぞれ観測した。
【0028】
また、エレウテリノシドAに対して紫外吸収測定(以下「UV測定」という。)を行い、紫外吸収スペクトル(以下「UVスペクトル」という。)を得た。この紫外吸収測定は、メタノールを溶媒として濃度を2.0×10−5mol/l、セル長を1cmとして行なった。この結果、359.0nm、269.0nm、238.0nmにそれぞれ吸収ピークを有しており、芳香族化合物又は共役二重結合化合物であることが推定できた。なお、上記ピークにおけるそれぞれのモル吸収係数(ε)はそれぞれ10350、39450、49350であった。図2に、エレウテリノシドAにおけるUVスペクトルを示しておく。
【0029】
また、エレウテリノシドAに対し、旋光角[α]Dの測定を行った。この結果、旋光角は−59.2度であり、光学活性を有することが確認できた。なお下記表2に、旋光角、高分解FABMS、UV測定、IR測定の結果を示しておく。
【表2】
【0030】
また、エレウテリノシドAに対し、1H NMR及び13C NMRの測定も行った。この結果を下記表3、図3及び図4に示す。この結果、ナフトピロン骨格に由来するシグナル及び糖に由来するシグナルが観察された。
【表3】
【0031】
また、エレウテリノシドAに対し、HMQC、HMBC、1H−1H COSYも求めた。このスペクトルを図5乃至図7に示す。この結果、アグリコンとしてeleuterionolをもち、分子内にグルコースを1分子をもつ配糖体と推定された。またHMBCスペクトルによると1’位の水素から8位の炭素にHMBC相関を認めることができたこと及び8位炭素のケミカルシフト値(δc158.5)より、グルコースはアグリコンの8位に結合していることが判明した。なおグルコースの立体化学については、ナリンギナーゼを用いた酵素加水分解、糖部のL−Cystein methylester・HCl反応により得られるチアゾリジン誘導体のHPLC分析によりD体を決定した。また、アノマー位の立体配置に関してはアノマー水素の結合定数が7.8Hzであることから、β配置と決定した。
【0032】
以上の結果より、エレウテリノシドAの構造を上記式(1)で示すように決定した。
【0033】
(エレウテリノシドB)
エレウテリノシドBに対して高分解能FABMSを行い、[M+K]+と推測されるm/z615.2336のピークを観測した。この結果、分子式をC28H39O15と決定した。
【0034】
また、エレウテリノシドBに対してIR測定を行い、IRスペクトルを得た。この結果、3326cm−1にヒドロキシ基に由来する吸収をそれぞれ観測した。
【0035】
また、エレウテリノシドBに対してUV測定を行い、UVスペクトルを得た。このUV測定は、メタノールを溶媒として濃度を2.0×10−5mol/l、セル長を1cmとして行なった。この結果、340.0nm、326.0nm、311.0nm、234.0nmにそれぞれ吸収ピークを有しており、芳香族化合物又は共役二重結合化合物であることが推定できた。なお、上記ピークにおけるそれぞれのモル吸収係数(ε)はそれぞれ9450、9650、9850、60500であった。図8に、エレウテリノシドBにおけるUVスペクトルを示しておく。
【0036】
また、エレウテリノシドAに対し、旋光角[α]Dの測定を行った。この結果、旋光角は−2.7度であり、光学活性を有することが確認できた。なお下記表4に、旋光角、高分解FABMS、UV測定、IR測定の結果を示しておく。
【表4】
【0037】
また、エレウテリノシドBに対し、1H NMR及び13C NMRの測定も行った。この結果を上記表3、図9及び図10に示す。この結果、ピラノナフトキノンと2分子の糖に由来するシグナル及び糖に由来するシグナルが観察された。
【0038】
また、エレウテリノシドAに対し、HMQC、HMBC、1H−1H COSYも求めた。このスペクトルを図11乃至図13に示す。この結果、アグリコンとして4−hydroxyl isoeleutherinの平面構造をもち、分子内にグルコースを2分子をもつ配糖体と推定された。またHMBCスペクトルによると1’’位の水素から6’位の炭素にHMBC相関を認めることができたことから、分子内のグルコース2分子はゲンチオビオースであることが判明した。なおこれは1’位及び1’’位の結合定数がβ配置を示す8.0Hzであることからも支持される。更に、1’位の水素から5位の炭素へHMBC相関が観察されたことから、ゲンチオビオースはアグリコンの5位に結合していることが判明した。また差NOEスペクトルにより、1位のメチル基水素から3位水素、3位メチル基水素から1位水素及び4位水素へそれぞれNOE相関が観察されたことから、ピラン環の相対立体配置を決定した。
【0039】
グルコース2分子の立体化学は、エレウテリノシドAと同様の方法を用いて検討を行い共にD体と決定した。
【0040】
以上の結果より、エレウテリノシドBの構造を上記式(2)で示すように決定した。
【0041】
(エレウテリノシドC)
エレウテリノシドCに対して高分解能FABMSを行い、[M+K]+と推測されるm/z637.1887のピークを観測した。この結果、分子式をC28H38O14Kと決定した。
【0042】
また、エレウテリノシドCに対してIR測定を行い、IRスペクトルを得た。この結果、3365cm−1にヒドロキシ基に由来する吸収をそれぞれ観測した。
【0043】
また、エレウテリノシドCに対しUV測定を行い、UVスペクトルを得た。この紫外吸収測定は、メタノールを溶媒として濃度を2.0×10−5mol/l、セル長を1cmとして行なった。この結果、337.0nm、323.5nm、310.0nm、235.5nmにそれぞれ吸収ピークを有しており、芳香族化合物又は共役二重結合化合物であることが推定できた。なお、上記ピークにおけるそれぞれのモル吸収係数(ε)はそれぞれ10350、39450、49350であった。図14に、エレウテリノシドCにおけるUVスペクトルを示しておく。
【0044】
また、エレウテリノシドCに対し、旋光角[α]Dの測定を行った。この結果、旋光角は−5.0度であり、光学活性を有することが確認できた。なお下記表5に、旋光角、高分解FABMS、UV測定、IR測定の結果を示しておく。
【表5】
【0045】
また、エレウテリノシドCに対し、1H NMR及び13C NMRの測定も行った。この結果を上記表3、図15及び図16に示す。この結果、ナフトピロン骨格に由来するシグナル及び2分子の糖に由来するシグナルが観察された。
【0046】
また、酵素加水分解を行い、NMR、MSスペクトルデータ及び比旋光度よりアグリコンをisoeleutherinと同定した。糖部は、L−Cystein methyl ester・HClと反応させることにより得られるチアゾリジン誘導体をHPLC分析することによりD−グルコースであると判明した。
【0047】
また、エレウテリノシドCに対し、HMQC、HMBC、1H−1H COSYも求めた。このスペクトルを図17乃至図19に示す。この結果、アグリコンとしてisoeleutherinの平面構造をもち、分子内に糖を2分子をもつ配糖体と推定された。
【0048】
またHMBCスペクトルによると1’位の水素から5位の炭素にHMBC相関を認めることができたことから、ゲンチオビオースはアグリコンの5位に結合していることが判明した。なお糖のアノマー位の立体配置に関しては、アノマー水素の結合定数(J1’,2’:7.5Hz)よりβ配置と決定した。糖鎖の構造及びアグリコンへの結合位置はHMBCスペクトルより決定した。すなわち1’’位の水素から6’位の炭素に相関が認められたことから、分子内のグルコース2分子はゲンチオビオースであることが判明した。
【0049】
以上の結果より、エレウテリノシドCの構造を上記式(3)で示すように決定した。
【0050】
(細胞増殖阻害活性)
次に、単離したエレウテリノシドCについて、ヒト大腸がん細胞株3種類(HCT116、DLD1、SW480)及びヒト退治腎上皮細胞株である293T細胞(正常細胞)に対する細胞増殖阻害活性を検討した。この結果を下記表6に示す。この結果、エレウテリノシドCはヒト大腸がん細胞株3種類に対して細胞増殖阻害活性をもち、特にHCT116に対して強い細胞増殖阻害活性をもつことが判明した。一方、エレウテリノシドCは正常細胞株である293Tには細胞増殖阻害活性を有しておらず選択性を有していることが確認できた。
【表6】
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明は新規化合物を有効成分とし、薬剤として産業上の利用可能性を有する。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】実施例におけるエレウテリノシドA、B及びCの単離スキームの概略を示す図である。
【図2】実施例におけるエレウテリノシドAのUVスペクトルである。
【図3】実施例におけるエレウテリノシドAの1H NMRスペクトルである。
【図4】実施例におけるエレウテリノシドAの13C NMRスペクトルである。
【図5】実施例におけるエレウテリノシドAに関するHMQCスペクトルである。
【図6】実施例におけるエレウテリノシドAに関するHMBCスペクトルである。
【図7】実施例におけるエレウテリノシドAに関する1H−1H COSYスペクトルである。
【図8】実施例におけるエレウテリノシドBのUVスペクトルである。
【図9】実施例におけるエレウテリノシドBの1H NMRスペクトルである。
【図10】実施例におけるエレウテリノシドBの13C NMRスペクトルである。
【図11】実施例におけるエレウテリノシドBに関するHMQCスペクトルである。
【図12】実施例におけるエレウテリノシドBに関するHMBCスペクトルである。
【図13】実施例におけるエレウテリノシドBに関する1H−1H COSYスペクトルである。
【図14】実施例におけるエレウテリノシドCのUVスペクトルである。
【図15】実施例におけるエレウテリノシドCの1H NMRスペクトルである。
【図16】実施例におけるエレウテリノシドCの13C NMRスペクトルである。
【図17】実施例におけるエレウテリノシドCに関するHMQCスペクトルである。
【図18】実施例におけるエレウテリノシドCに関するHMBCスペクトルである。
【図19】実施例におけるエレウテリノシドCに関する1H−1H COSYスペクトルである。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で示されるエレウテリノシドA。
【化1】
【請求項2】
下記式(2)で示されるエレウテリノシドB。
【化2】
【請求項3】
下記式(3)で示されるエレウテリノシドC。
【化3】
【請求項4】
下記式(1)で示されるエレウテリノシドA及びその塩の少なくともいずれかを有効成分として含有する薬剤。
【化4】
【請求項5】
下記式(2)で示されるエレウテリノシドB及びその塩の少なくともいずれかを有効成分として含有する薬剤。
【化5】
【請求項6】
下記式(3)で示されるエレウテリノシドC及びその塩の少なくともいずれかを有効成分として含有する薬剤。
【化6】
【請求項7】
癌の治療薬である請求項4、5又は6記載の薬剤。
【請求項1】
下記式(1)で示されるエレウテリノシドA。
【化1】
【請求項2】
下記式(2)で示されるエレウテリノシドB。
【化2】
【請求項3】
下記式(3)で示されるエレウテリノシドC。
【化3】
【請求項4】
下記式(1)で示されるエレウテリノシドA及びその塩の少なくともいずれかを有効成分として含有する薬剤。
【化4】
【請求項5】
下記式(2)で示されるエレウテリノシドB及びその塩の少なくともいずれかを有効成分として含有する薬剤。
【化5】
【請求項6】
下記式(3)で示されるエレウテリノシドC及びその塩の少なくともいずれかを有効成分として含有する薬剤。
【化6】
【請求項7】
癌の治療薬である請求項4、5又は6記載の薬剤。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【公開番号】特開2009−179602(P2009−179602A)
【公開日】平成21年8月13日(2009.8.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−20163(P2008−20163)
【出願日】平成20年1月31日(2008.1.31)
【出願人】(304021831)国立大学法人 千葉大学 (601)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年8月13日(2009.8.13)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年1月31日(2008.1.31)
【出願人】(304021831)国立大学法人 千葉大学 (601)
【Fターム(参考)】
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