説明

エレクトレットコンデンサの製造方法及びその製造装置

【課題】製造工程におけるエレクトレットの電荷の放電を回避することができるエレクトレットコンデンサの製造装置を提供する。
【解決手段】エレクトレットコンデンサの製造装置100は、半導体製造技術によって形成された半導体ECM110に電離放射線を照射する電離放射線照射装置101と、直流電源102とを備え、半導体ECM110は、振動膜112と、背面板113と、背面板113に形成された誘電体としてのシリコン酸化膜115とを有し、電離放射線照射装置101は、振動膜112と背面板113との間に直流電圧を印加した状態で電離放射線を照射し、振動膜112を透過した電離放射線が生成する正及び負のイオンのうち、負イオンをシリコン酸化膜115に注入することによってエレクトレットを製造する構成を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エレクトレットコンデンサの製造方法及びその製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、互いに対向する振動膜電極及び固定電極を備えたコンデンサにおいて、一方の電極の対向面に誘電体膜を設け、この誘電体膜に半永久的に電荷を保持させた、いわゆるエレクトレットを有するエレクトレットコンデンサが知られている。このエレクトレットコンデンサを利用したものには、音を検知するマイクロホン、圧力を検知する圧力センサ、加速度を検知する加速度センサ等がある。以下の説明では、エレクトレットコンデンサを備えたマイクロホン(以下「ECM」という。)を例に挙げて説明する。
【0003】
一般に、ECMのエレクトレットは、有機系高分子等の誘電体膜にコロナ放電等で電荷を注入することにより形成される。誘電体膜は対向電極の一方の電極の対向面側(コンデンサの内側)にあるため、従来は、マイクロホンを組み立てる以前に、コロナ放電等により誘電体膜に電荷を注入してエレクトレットを製造し、その後これを含めた各パーツを組み立てる方法が一般的であった。その結果、組立工程中にエレクトレット面に人体などが接触したり、あるいはエレクトレット面が湿気に暴露されたりしてエレクトレットの電荷が放電し、マイクロホンとしての性能が劣化するという課題があった。また、半田リフロー工程を行う場合、リフローの熱によりエレクトレットの電荷が放電し性能が劣化するという課題があった。
【0004】
また、近年、ECMの小型化、量産性の向上、耐候性の向上等を目的として、従来の有機系高分子で形成されるものに代えて、半導体製造技術を利用して形成される半導体エレクトレットコンデンサマイクロホン(以下「半導体ECM」という。)が提案されている(例えば、特許文献1〜2参照)。
【0005】
特許文献1に記載された半導体ECMは、振動膜及び固定電極を別々の基板から製造し、振動膜あるいは固定電極上に形成した誘電体膜に電荷を注入した後、両基板の接合を行う構成を有する。このため、特許文献1に記載のものでは、従来の有機系ECMと同様、貼り合わせ工程中のハンドリングやリフローの熱によりエレクトレットの電荷が放電し性能が劣化するという課題や、製造工程が複雑化するという課題があった。
【0006】
特許文献2では、半導体ECMにおいて、誘電体膜を有する振動膜と、音孔を有する固定電極とからなるコンデンサを形成した後、固定電極側からその音孔を通してコロナ放電を行って電荷を誘電体膜に注入することによりエレクトレットを製造する方法が提案されている。この方法によれは、ハンドリング等によるエレクトレットの電荷の放電が発生しにくくなる。しかしながら、音孔は、マイクの特性上、際限なく大きくすることはできないため、特許文献2に記載の方法では、限られた音孔部分を通ったイオンのみで電荷を誘電体膜に注入することになり、電荷注入の効率低下や、注入した電荷の面内均一性が悪化するという課題があった。
【0007】
また、特許文献2に記載のものでは、固定電極側からその音孔を通してコロナ放電を行うので、エレクトレットを固定電極側に形成することができないという課題があった。これは、振動膜の厚さや応力はマイクの音響特性に影響するため、振動膜よりも固定電極にエレクトレットを形成する方が高性能な半導体ECMを実現できるという利点が得られないことを示している。
【0008】
他方、コロナ放電以外の方法でECMのエレクトレットを製造する方法として、メッシュ状電極と平板状電極とに挟まれた領域に被処理体を配置し、両電極間に電界を印加した状態で放射線を照射して被処理体を帯電させるものも提案されている(例えば、特許文献3参照)。しかしながら、特許文献3に示された帯電方法では、マイクロホンを組み立てる以前に、誘電体に電荷を注入してエレクトレットを製造し、そのエレクトレットをマイクロホンに取り付ける必要があるため、特許文献3に記載のものは、組立工程や、貼り合わせ工程中のハンドリングやリフローの熱により電荷が放電し性能が劣化するという課題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2005−183437号公報
【特許文献2】特開2008−112755号公報
【特許文献3】特開平11−117172号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、前述のような事情に鑑みてなされたもので、製造工程におけるエレクトレットの電荷の放電を回避することができるエレクトレットコンデンサの製造方法及びその製造装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明のエレクトレットコンデンサの製造方法は、互いに対向する対向電極として振動膜電極及び固定電極を備え、前記対向電極のいずれか一方の対向面側に誘電体を有するエレクトレットコンデンサの製造方法であって、前記対向電極間に直流電圧を印加した状態で、前記振動膜電極を透過する電離放射線を発生して前記対向電極間に照射することによって前記対向電極間に発生する正イオン及び負イオンのうちのいずれか一方により前記誘電体を帯電させる誘電体帯電工程を含む構成を有している。
【0012】
この構成により、本発明のエレクトレットコンデンサの製造方法は、振動膜電極と固定電極とからなるコンデンサの内側に誘電体を形成した後に組立工程や半田リフロー工程等を実施し、その後に誘電体を帯電させてエレクトレットを製造する工程を設けることが可能となり、製造工程におけるエレクトレットの電荷の放電を回避することができる。
【0013】
また、本発明のエレクトレットコンデンサの製造方法は、前記誘電体帯電工程において、前記電離放射線の予め定めたエネルギー範囲において空気よりも前記電離放射線の透過率が低いガスを含む雰囲気に前記対向電極間を設定した状態で前記誘電体を帯電させる構成を有している。
【0014】
この構成により、本発明のエレクトレットコンデンサの製造方法は、製造工程におけるエレクトレットの電荷の放電を回避することができるとともに、エレクトレットの製造に要する時間の短縮化を図ることができる。
【0015】
さらに、本発明のエレクトレットコンデンサの製造方法は、前記誘電体帯電工程において、前記対向電極間の静電容量が一定となるように前記振動膜電極に加える圧力を制御して前記誘電体を帯電させる構成を有している。
【0016】
この構成により、本発明のエレクトレットコンデンサの製造方法は、製造工程におけるエレクトレットの電荷の放電を回避することができるとともに、誘電体帯電工程における対向電極間の吸着を回避してエレクトレットを製造することができる。
【0017】
さらに、本発明のエレクトレットコンデンサの製造方法は、前記誘電体帯電工程において、前記振動膜電極の機械的共振周波数以上の周波数を有する交流電圧を前記直流電圧に重畳させて前記対向電極間に印加する構成を有している。
【0018】
この構成により、本発明のエレクトレットコンデンサの製造方法は、製造工程におけるエレクトレットの電荷の放電を回避することができるとともに、誘電体帯電工程における対向電極間の吸着を回避してエレクトレットを製造することができる。
【0019】
さらに、本発明のエレクトレットコンデンサの製造方法は、前記誘電体帯電工程の前に、前記振動膜電極と前記固定電極とを対向配置させた対向配置体の前記固定電極側に電子部品が実装された基板を装着する基板装着工程を含み、前記誘電体帯電工程において、前記基板が装着された前記対向配置体の前記振動膜電極側から前記電離放射線を照射して前記誘電体を帯電させる構成を有している。
【0020】
この構成により、本発明のエレクトレットコンデンサの製造方法は、基板装着工程において基板の組み立てや半田リフローを行った後に誘電体を帯電させてエレクトレットを製造することが可能となり、製造工程におけるエレクトレットの電荷の放電を回避することができる。
【0021】
本発明のエレクトレットコンデンサの製造装置は、エレクトレットコンデンサの製造方法において、前記誘電体を帯電させてエレクトレットコンデンサを製造する製造装置であって、前記振動膜電極を透過する電離放射線を発生して前記対向電極間に照射する電離放射線照射装置と、直流電圧を前記対向電極間に印加する直流電源とを備えた構成を有している。
【0022】
この構成により、本発明のエレクトレットコンデンサの製造装置は、振動膜電極と固定電極とからなるコンデンサの内側に誘電体を形成した後に組立工程や半田リフロー工程等を実施し、その後に誘電体を帯電させてエレクトレットを製造する工程を実施することが可能となり、製造工程におけるエレクトレットの電荷の放電を回避することができる。
【0023】
また、本発明のエレクトレットコンデンサの製造装置は、前記電離放射線の予め定めたエネルギー範囲において空気よりも前記電離放射線の透過率が低いガスを発生するガス発生手段を備え、前記直流電源は、前記対向電極間が前記ガスを含む雰囲気にある状態で前記電離放射線によって前記対向電極間に発生する正イオン及び負イオンのうちのいずれか一方により前記誘電体を帯電させるものである構成を有している。
【0024】
この構成により、本発明のエレクトレットコンデンサの製造装置は、製造工程におけるエレクトレットの電荷の放電を回避することができるとともに、エレクトレットの製造に要する時間の短縮化を図ることができる。
【0025】
さらに、本発明のエレクトレットコンデンサの製造装置は、前記対向電極間の静電容量を検出する静電容量検出装置と、前記静電容量に基づいて前記対向電極間の距離を一定に保つ電極間距離調整装置とを備えた構成を有している。
【0026】
この構成により、本発明のエレクトレットコンデンサの製造装置は、製造工程におけるエレクトレットの電荷の放電を回避することができるとともに、誘電体帯電工程における対向電極間の吸着を回避してエレクトレットを製造することができる。
【0027】
さらに、本発明のエレクトレットコンデンサの製造装置は、前記振動膜電極の機械的共振周波数以上の周波数を有する交流電圧と前記直流電圧とを重畳させて前記対向電極間に印加する重畳電圧印加手段を備えた構成を有している。
【0028】
この構成により、本発明のエレクトレットコンデンサの製造装置は、製造工程におけるエレクトレットの電荷の放電を回避することができるとともに、誘電体帯電工程における対向電極間の吸着を回避してエレクトレットを製造することができる。
【発明の効果】
【0029】
本発明は、製造工程におけるエレクトレットの電荷の放電を回避することができるという効果を有するエレクトレットコンデンサの製造方法及びその製造装置を提供することができるものである。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の第1実施形態におけるエレクトレットの製造装置の構成の概念図
【図2】第1実施形態の他の態様において、複数の半導体ECMに対してエレクトレットを製造する際の説明図
【図3】第1実施形態の他の態様における誘電体帯電工程の説明図
【図4】第1実施形態の他の態様において、複数の電離放射線照射装置を用いて軟X線を照射する際の説明図
【図5】第1実施形態及びそれの他の態様において、誘電体としてのシリコン酸化膜を振動膜側に設けた場合の構成例を示す図
【図6】本発明の第2実施形態におけるエレクトレットの製造装置に関し、その実験装置の構成を示す図
【図7】軟X線のエネルギーが3keV〜9.5keVの範囲における、空気及び酸素等のそれぞれの透過率を示す図
【図8】軟X線のエネルギーが3keV〜9.5keVの範囲における、ヘリウム、ネオン、アルゴン、クリプトン、キセノン及び空気の透過率を示す図
【図9】サンプルの表面電位とアルゴン混合割合との関係を示す図
【図10】サンプルの表面電位と照射時間との関係を示す図
【図11】本発明の第2実施形態におけるエレクトレットの製造装置の筐体内部を示す図
【図12】本発明の第3実施形態におけるエレクトレットの製造装置の構成の概念図
【図13】本発明の第3実施形態におけるエレクトレットの製造装置において、密閉容器及び圧力調整手段の構成説明図
【図14】印加する直流電圧とエレクトレットの電位とを、従来及び本発明で比較した図
【図15】第3実施形態の他の態様において、複数の半導体ECMに対してエレクトレットを製造する際の説明図
【図16】本発明の第4実施形態におけるエレクトレットの製造装置の構成の概念図
【図17】本発明の第5実施形態におけるエレクトレットの製造装置の構成の概念図
【図18】直流電圧に正弦波の交流電圧を重畳したときの波形を示す図
【図19】印加する直流電圧とエレクトレットの電位とを、従来及び本発明で比較した図
【図20】印加する電圧波形としての方形波を示す図
【図21】印加する電圧波形としての半波整流波形を示す図
【図22】印加する電圧波形としてのパルス波形を示す図
【図23】本発明の第6実施形態におけるエレクトレットの製造装置の構成の概念図
【図24】本発明の第6実施形態の他の態様におけるエレクトレットの製造装置の構成の概念図
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明の実施形態について図面を用いて説明する。なお、本発明に係るエレクトレットコンデンサの製造方法を、エレクトレットコンデンサを備えたマイクロホンの製造方法に適用する例を挙げて説明する。
【0032】
(第1実施形態)
まず、本発明に係る半導体ECMが備えるエレクトレットコンデンサを製造する製造装置の第1実施形態における構成について説明する。
【0033】
図1に示すように、本実施形態におけるエレクトレットコンデンサの製造装置100は、半導体製造技術によって形成された半導体ECM110に電離放射線を照射する電離放射線照射装置101と、直流電源102とを備えている。図示を省略したが、エレクトレットコンデンサの製造装置100は、装置の外部に対して電離放射線を遮蔽する筐体を備えるのが好ましい。この場合、筐体内に、電離放射線照射装置101や、半導体ECM110を保持する保持装置等を配置する。また、直流電源102は、筐体の内部か外部に配置する。
【0034】
半導体ECM110は、振動膜112が形成されたシリコン基板111と、音孔117が形成された背面板113とが、互いに対向した構造を有している。振動膜112と背面板113との間にはスペーサ114が形成され、両者間には空隙121が形成されている。以下、振動膜112と背面板113とが互いに対向するそれぞれの面を「対向面」という。半導体ECM110は、半導体基板や誘電膜等を積層し、半導体製造技術によって形成されたもので、前述の特許文献1に記載されているような振動膜及び固定電極を別々の基板から製造し、誘電体を帯電させた後に両者を貼り合わせるものではない。
【0035】
振動膜112の対向面及びその対向面の裏面には、図示のように電極118が形成されている。振動膜112の膜厚は、2000nm程度である。また、背面板113の対向面の裏面には、電極119が形成されている。電極118及び119は、例えば膜厚が50nm〜100nm程度のアルミニウム薄膜で構成される。なお、振動膜112や背面板113に電気抵抗の低い材料、例えば低抵抗のポリシリコンや低抵抗の単結晶シリコン等を用いれば、必ずしも電極118及び119は必要としない。
【0036】
前述の構成において、振動膜112及び電極118は、本発明に係る振動膜電極を構成する。また、背面板113及び電極119は、本発明に係る固定電極を構成する。
【0037】
背面板113の対向面には、誘電体であるシリコン酸化膜115と、防湿膜であるシリコン窒化膜116とが形成されている。シリコン酸化膜115の膜厚は1000nm程度、シリコン窒化膜116の膜厚は200nm程度である。
【0038】
電極118は直流電源102に接続され、電極119は接地される。電極118と119との間には、直流電源102によって直流電圧Vbが印加されるようになっている。
【0039】
電離放射線照射装置101は、半導体ECM110の振動膜112側から電離放射線を照射するようになっている。以下、電離放射線照射装置101は、電離放射線として軟X線を照射するものとするが、軟X線のほかに、X線、γ線等も使用できる。
【0040】
次に、本実施形態におけるエレクトレットの製造方法について説明する。ここでは負に帯電したエレクトレットを製造する例を挙げる。
【0041】
[半導体ECM製造工程]
半導体ECM110は、半導体製造技術によって形成される。この技術は公知であるので説明を省略するが、背面板113の面上に、200nm程度の厚さのシリコン窒化膜116と、1000nm程度の厚さのシリコン酸化膜115とを形成する。
【0042】
[半導体ECM取付工程]
筐体内において、半導体ECM110を保持装置(図示省略)に取り付けて固定し、電極118と119との間に直流電源102を接続する。直流電圧Vbの極性(正か負)及び大きさは、所望のエレクトレットの電位に応じて設定できる。本実施形態では、シリコン酸化膜115を負に帯電させるため、電極118に負電圧、電極119にアース電位を印加するよう直流電源102を接続する。なお、直流電圧Vbは、振動膜112と背面板113とが静電引力により吸着する電圧以下に設定する必要がある。また、電極118にアース電位、電極119に正電圧を印加するよう直流電源102を接続してもよい。
【0043】
[誘電体帯電工程]
直流電源102により振動膜112と背面板113との間に直流電圧Vbを印加して両電極間の空隙121に電界122を発生させる。この状態で、電離放射線照射装置101により軟X線(例えばエネルギー3keV〜9.5keV)を振動膜112側から照射する。軟X線が空気中に照射されると空気中の各成分(酸素、窒素、二酸化炭素等)が電離し、正イオン及び負イオンが生成される。空隙121では、振動膜112を透過した軟X線により生成されたイオンのうち負イオンが電界122の作用により背面板113側に付着し、シリコン酸化膜115に負電荷が注入される。シリコン酸化膜115が負に帯電するにつれて電界122が弱まり、最終的にシリコン酸化膜115は、直流電圧Vb以下のある電位(最大で直流電圧Vbに等しい電位)を有するエレクトレットとなる。
【0044】
次に、エレクトレットの電位に関し、発明者が行った実験について説明する。
【0045】
まず、振動膜112を模した、銅のメッシュ状のグリッド電極を、厚さ25μmのFEP(四フッ化エチレン六フッ化プロピレンの共重合体)から2mm離した位置に配置し、グリッド電極に直流電圧Vb=−100Vを印加し、グリッド電極より8cm離した距離から軟X線を2分間照射して電荷をFEPに注入したところ、エレクトレット化されたFEPの電位が−96Vになった。すなわち、印加電圧と同等のエレクトレット電位が得られた。
【0046】
次に、振動膜112の厚さ2μm、空隙長(空隙121の長さ)10μm、シリコン酸化膜115の厚さ1μm、シリコン窒化膜116の厚さ200nmの半導体ECM110に、直流電圧Vb=−50Vを印加し、振動膜112より1cm離した位置から軟X線を50分照射して電荷をシリコン酸化膜115に注入したところ、エレクトレット化されたシリコン酸化膜115の電位が−33Vになった。すなわち、エレクトレットの電位は、印加電圧の33/50であった。
【0047】
エレクトレットの電位は、一般に、直流電圧Vb以下のある電位になるが、これは電離放射線のエネルギー、電離放射線源から誘電体までの距離、振動膜の厚さ、誘電体膜の厚さ、照射時間等によって変化する。これらの条件を調整することにより、エレクトレットの電位を最大で直流電圧に等しい値まで高めることができる。
【0048】
例えば、前述の半導体ECM110の場合、発明者の実験では、シリコン酸化膜115の厚さや、軟X線の線量に比例してその電位が上昇することを確認しており、シリコン酸化膜115の厚さや軟X線の線量、他の条件の調整により、エレクトレットの電位を高めることができる。エレクトレットの電位が直流電圧Vb以下の値になる場合には、予備実験を行って、エレクトレットの電位と直流電圧との比を決定することが望ましい。例えば前述の実験条件の半導体ECM110であれば、直流電圧を、所望のエレクトレット電位の1.5倍(50÷33=1.5)に設定すればよい。
【0049】
前述のように製造された半導体ECM110は、次のように動作する。振動膜112に音波が入射すると、その音圧に応じて振動膜112が変位する。その結果、振動膜112と背面板113との間の静電容量が変化する。シリコン酸化膜115に注入された電荷は一定であるため、静電容量の変化に応じて振動膜112と背面板113との間の電位差が変化する(注入電荷=静電容量×電位差)。すなわち、半導体ECM110は、入射した音波の音圧を電気信号に変換する。
【0050】
以上のように、本実施形態のエレクトレットの製造方法によれば、半導体ECM110を製造した後に、振動膜112を透過する軟X線を照射して対向電極間にイオンを発生させ、シリコン酸化膜115に電荷を注入してエレクトレットを製造することができるので、製造工程におけるエレクトレットの電荷の放電を回避することができる。
【0051】
また、本実施形態におけるエレクトレットの製造方法によれば、シリコン基板を加工して振動膜112と、シリコン酸化膜115を有する背面板113とからなるコンデンサを形成した後に、背面板113の対向面側にあるシリコン酸化膜115に電荷を注入することが可能となり、マイクの音響特性に影響する振動膜112側に誘電体膜を付加することなく、背面板113にエレクトレットを有する高性能なエレクトレットの製造が可能となる。
【0052】
また、本実施形態におけるエレクトレットの製造方法によれば、電離放射線によって生成されたイオンを移動させるための電界を発生させる電極を振動膜112が兼ねるため、メッシュ等のグリッド電極を外部に別途設ける必要がない。
【0053】
また、本実施形態におけるエレクトレットの製造方法によれば、半導体製造技術で製造することにより高精度で形成された空隙に電界を発生させるため、外部にグリッド電極を配置するのに比べ、電界の精密な制御が可能となる。また、シリコン酸化膜115全面にわたり均一な電界が発生できるため、面内均一性に優れたエレクトレットが得られ、量産性に優れたエレクトレットの製造方法を提供できる。さらに、空隙長は非常に短いため(数μm〜数10μm)、比較的小さい直流電圧で強い電界を発生させることが可能となり、電荷を注入する効率を高めることができる。
【0054】
さらに、本実施形態におけるエレクトレットの製造方法では、電子部品が実装された基板を半導体ECM110に装着した後においてもエレクトレットを製造することができる。
【0055】
具体的には、前述の誘電体帯電工程の前に、半導体ECM110の背面板113側に、電子部品が実装された基板を装着し、半田リフロー工程により半田付けする工程を設ける。その後、誘電体帯電工程を実施することにより、本実施形態におけるエレクトレットの製造方法は、組み立て作業中のハンドリングやリフローの熱によりエレクトレットの電荷が放電し性能が劣化するという問題を回避することができる。
【0056】
なお、前述の実施形態においては、本発明に係るエレクトレットコンデンサの製造方法を半導体ECMに適用した例を挙げて説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、圧力センサや加速度センサ等に適用しても同様の効果が得られる。
【0057】
(第1実施形態の他の態様)
前述の第1実施形態では、1つの半導体ECM110に対してエレクトレットを製造する例を挙げた。以下、第1実施形態の他の態様として、シリコン基板上に一括して形成した複数の半導体ECM110に対してエレクトレットを製造する例を示す。
【0058】
図2は、複数の半導体ECM110が、半導体製造技術によって一括されて形成されたシリコンウエハ130を示している。なお、個々の半導体ECM110の構成については、適宜図1を参照するものとする。
【0059】
図2に示すように、シリコンウエハ130は、振動膜112が形成されたシリコン基板111を上側にして、金属板103上に配置されている。シリコン基板111上に形成された電極118は、直流電源102に接続されている。振動膜112の対向電極である背面板113の電極119(図示省略)は、金属板103を介して接地されている。この電極119と金属板103との接触を良好にするため、柔軟性及び導電性を有するシートを両者間に挟む構成としてもよい。また、金属板103を使用せず、ワイヤボンディングやプローブ等により各半導体ECM110に直流電源102やアース電位を接続する構成としてもよい。
【0060】
次に、本実施形態における誘電体帯電工程及びウエハ分割工程について説明する。ここでは負に帯電したエレクトレットを製造する例を挙げる。
【0061】
[誘電体帯電工程]
振動膜112と背面板113との間に直流電圧Vbを印加して各半導体ECM110の空隙121に電界122を発生させる。この状態で、電離放射線照射装置101により軟X線を振動膜112側から照射する。軟X線が空気中に照射されると空気中の各成分が電離し、正イオン及び負イオンが生成される。空隙121では、振動膜112を透過した軟X線により生成されたイオンのうち負イオンが電界122により背面板113側に付着し、シリコン酸化膜115に負電荷が注入される。その結果、負に帯電したエレクトレットが得られる。
【0062】
図3は、その電荷注入の詳細を図示したもので、簡単のため2個の半導体ECM110を示す。また、シリコンウエハ130の全面にわたって一様なエネルギーの軟X線を照射するためには、例えば図4に示すように、複数の電離放射線照射装置101を用いて、軟X線を照射することもできる。
【0063】
[ウエハ分割工程]
電荷を注入した後に、各半導体ECM110を区切る領域でシリコンウエハ130を分割し、個々の半導体ECM110を得る。ここでシリコンウエハ130を分割する方法としては、レーザーを用いたダイシング法など、水を用いない分割方法が、エレクトレットの電荷を放電させないために好ましい。また、エレクトレットはコンデンサの内側にあるため、ダイシング工程中のハンドリングで、この電荷が放電する問題はない。
【0064】
以上のように、本実施形態におけるエレクトレットの製造方法によれば、製造工程におけるエレクトレットの電荷の放電を回避することができるとともに、シリコンウエハ130上に形成された複数の半導体ECM110のシリコン酸化膜115に一括で電荷を注入することが可能である。この製造方法において、直流電源102の印加電圧によって発生する電界122は、半導体製造技術で製造することにより高精度で形成された空隙121に発生するため、全ての半導体ECM110における対向電極間の電界は一定であり、各半導体ECM110間におけるエレクトレットの電位のばらつきを抑えることが可能であり、量産性に優れた高性能なエレクトレットの製造方法を提供できる。
【0065】
なお、前述した第1実施形態及びそれの他の態様では、背面板113側にエレクトレットを設ける構成としたが、本発明はこれに限定されない。例えば、図5に示すように、振動膜112側に誘電体膜としてのシリコン酸化膜115を設けた構成であっても、振動膜112と背面板113との間に直流電圧を印加した状態で、軟X線等の電離放射線を振動膜112側から照射することにより、同様にシリコン酸化膜115に電荷を注入し、エレクトレットの製造が可能となる。この場合、従来用いられていた背面板の音孔を通してコロナ放電をする方法に比べ、電荷注入の効率や面内均一性に優れ、量産性に優れた高性能なエレクトレットの製造方法を提供できる。
【0066】
(第2実施形態)
次に、本発明に係る半導体ECMのエレクトレットを製造する製造方法の第2実施形態について説明する。本実施形態は、第1実施形態における誘電体帯電工程の時間短縮化に関する。
【0067】
本発明の発明者は、誘電体帯電工程の時間短縮化を図るために実験検討を重ねた結果、電離放射線を照射する際、半導体ECM110の振動膜112と背面板113との間を、照射する電離放射線のエネルギー範囲において、空気に比べて透過率が低いガスを含む雰囲気にすることが有効であることを見出した。そこで、本実施形態について説明する前に、本実施に係るエレクトレットの製造方法に関する実験について説明する。
【0068】
図6は、実験装置の構成を示す図である。図7は、電離放射線として軟X線を用いた場合、軟X線のエネルギーが3keV〜9.5keVの範囲における標準空気(以下「空気」という。)及び空気を構成する酸素等の透過率を示す図である。また、図8は、前述のエネルギー範囲において、空気よりも軟X線の透過率が低いネオンやアルゴン、クリプトン、キセノンの透過率、及び空気よりも軟X線の透過率が高いヘリウムの透過率を示す図である。
【0069】
後述するように、実験結果によれば、電離放射線の照射により、空気のみの雰囲気中よりも、希ガスを含む雰囲気中の方が、生成される総イオン数が増えるため、短時間でエレクトレットを製造することが可能になることが分かった。これは、(1)希ガスは空気中の酸素等に比べて軟X線の吸収率が大きいため、イオン化する確率が高い、(2)希ガスが軟X線を吸収して正イオン化するため、希ガス分子から放出された電子が空気中の酸素等に作用し、空気中の酸素等から生成される正イオン及び負イオンの数も増やす、などの理由があるためであると考えられる。
【0070】
また、希ガスを用いるため、腐食や有害ガスの発生の問題もない。また、希ガスから生成された正イオンを利用して電荷蓄積することができることも分かった。これにより、前述のように空気中の酸素等に作用してイオン数を増やすだけではなく、希ガスから生成される正イオン自身が誘電体の帯電に寄与するため、通常空気中では得ることが難しい表面電位の大きなエレクトレットを製造することが可能になる。
【0071】
以下、図6に示した構成図に基づき、実験内容について具体的に説明する。
【0072】
まず、シリコン基板11上にシリコン酸化膜12及びシリコン窒化膜13を順次積層したサンプル10を用意した。サンプル10の表面電位を予め測定し、表面電位が0Vであることを確認した。
【0073】
次に、密閉した筐体25内において、サンプル10を金属板21の上に載せ、その上にSUS製のメッシュ状のグリッド電極23を、サンプル10に触れないように間隔をおいて配置した。ここで、グリッド電極23からサンプル10の表面までの距離は2.5mmとした。
【0074】
次に、外部に設けた直流電源24をグリッド電極23に接続した(極性は後述)。金属板21はアース電位とした。グリッド電極23の上方に3keV〜9.5keVのエネルギーを有する軟X線を発生する電離放射線照射装置22を配置した。ここで、電離放射線照射装置22からサンプル10の表面までの距離は15mmとした。また、筐体25には、バルブ32、流量計33及びチューブ34を介してアルゴンボンベ31を接続し、バルブ36、流量計37及びチューブ34を介して空気ボンベ35を接続した。なお、アルゴンボンベ31は、本発明に係るガス発生手段を構成する。
【0075】
前述の構成において、流量計33、37及びバルブ32、36を用いてアルゴンガスと空気とを所定の割合で混合して、この混合ガスを筐体25の注入口26から注入し、筐体25の内部の気体が十分に置換されるのに必要な時間を経た後、直流電源24によりグリッド電極23に所定の電圧を印加した。その後、サンプル10に軟X線を照射し、一定の時間経過後に照射を停止した。そして、直流電源24による電圧印加を停止して筐体25からサンプル10を取り出し、エレクトレット化されたサンプル10の表面電位を測定した。
【0076】
(実験1)
この実験1は、グリッド電極23の電位を−50Vとして、サンプル10に軟X線を照射する実験である。具体的には、軟X線をサンプル10に30秒間照射し、アルゴンガスと空気との混合割合が、サンプル10の表面電位にどの程度影響を及ぼすかについて調べた実験である。その結果を図9に示す。
【0077】
図9に示した結果によると、アルゴンガスを空気に添加していない場合、サンプル10の表面電位は0Vから−17Vに変化したに過ぎなかった。ところが、サンプル10の表面電位は、アルゴンガスの割合を増やすにつれて負方向に上昇し、アルゴンガスを80%まで増やした時に最も負方向に上昇し、−31Vになった。これは印加した電圧の3/5に相当する。その後、サンプル10の表面電位は、アルゴンガスを99.5%まで増やすと、逆に−21Vになった。
【0078】
一方、アルゴンガスを添加せず、空気中で軟X線をサンプル10に照射した場合において、アルゴンガスを空気に80%添加した条件と同じく−31Vの表面電位を得るためには、図10に示すように、300秒程度の時間を要することが分かった。
【0079】
以上の結果より、軟X線を利用したエレクトレットの製造方法において、アルゴンガスを含む雰囲気中に誘電体を配置することにより、誘電体の電荷量を増加させるのに要する時間を大幅に短縮できることが分かった。
【0080】
(実験2)
この実験2は、グリッド電極23の電位を+50Vとして、実験1と同様に、サンプル10に軟X線を照射する実験である。
【0081】
この実験の結果、アルゴンを空気に添加していない場合、軟X線を照射しても、表面電位は+7Vまでしか上昇しなかった。一方、アルゴンガスの割合を99.5%にまで増やすと、表面電位は+40Vまで上昇することが分かった。この結果は、印加した電圧の4/5に相当し、空気中で得られる限界値である3/5よりも大きいことを示している。
【0082】
他方、前述の実験1の結果(図9、10)からは、アルゴンの添加に関わらず、グリッド電極23の電位を−50Vとした場合には、サンプル10の表面電位は、−31V程度で飽和してそれ以上負方向に上昇しないことが分かった。
【0083】
これに対し、本実験2の結果によれば、グリッド電極23の電位を+50Vとし、アルゴンの混合割合を増やしていくと、空気中で得られる限界値である3/5を超えた表面電位が得られることが分かった。これは、空気中の各成分から生成された正イオンの他に、多量に生成されたアルゴンイオン(正イオン)が誘電体への電荷の注入に寄与しているためと考えられる。このため、軟X線を利用したエレクトレットの製造方法において、誘電体が設けられた一方の電極と、他方の電極との間に印加する電圧を大きく増加させることなく、両電極間をアルゴンガスが含まれた雰囲気にすることにより、空気中において得られる表面電位よりも大きな表面電位が得られることが分かった。
【0084】
また、従来、例えばシリコンマイクにおいて、エレクトレットの所望の電圧を1とすると、1を大きく超える電圧をグリッドの役目をする振動電極と、固定電極との間に印加する必要があった。具体的には、1の電圧を得ようとすると5/3程度の印加電圧が必要であった。しかも、一定以上の電圧を印加すると振動電極と固定電極とが静電引力によって吸着し、場合によっては振動電極が破壊に至るため、エレクトレットの製造時に高い電圧を印加できず、所望の表面電位が得られなかった。これに対し、本実験2の結果は、本発明に係るエレクトレットの製造方法が、これらの問題を解決できることを示している。
【0085】
次に、本発明に係る半導体ECMのエレクトレットを製造する製造装置の第2実施形態における構成について説明する。図11は、本実施形態におけるエレクトレットコンデンサの製造装置200の筐体内部を示す図であって、筐体自体の図示は省略している。
【0086】
図11に示すように、エレクトレットコンデンサの製造装置200は、筐体の内部が上下に分割された構成を有し、筐体の上部に位置する上部室201と、筐体の下部に位置する下部室202と、上部室201と下部室202とを仕切る仕切板203とを備えている。
【0087】
また、エレクトレットコンデンサの製造装置200は、半導体ECM110を保持する台座204と、台座204の上部室201側の面上に設けられた電極205と、台座204の下部室202側の面上に設けられた電極206と、電極205と206との間に直流電圧を印加する直流電源207と、電離放射線を発生する電離放射線照射装置101とを備えている。
【0088】
上部室201には、電離放射線照射装置101が配置されるとともに、電離放射線照射装置101から出射した電離放射線が透過する振動膜112の対向面の裏面、すなわち電極118の表面が露出している。
【0089】
下部室202には、振動膜112の対向面が露出し、誘電体であるシリコン酸化膜115を備えた背面板113が配置されている。
【0090】
上部室201及び下部室202は、それぞれ別個に任意のガスを注入することができるようになっている。
【0091】
具体的には、上部室201には、電離放射線の予め定めたエネルギー範囲において空気よりも電離放射線の透過率が高いガス、例えばヘリウムガスを注入するのが好ましい。この構成により、電離放射線照射装置101から振動膜112までの空間で電離放射線が吸収される確率を下げることができるので、より多量の電離放射線が振動膜112を通過し、振動膜112と背面板113との間で生成されるイオン数を増加させることができる。なお、上部室201に空気のみを満たす構成であってもよい。
【0092】
一方、下部室202には、空気にアルゴンを20%〜95%、好ましくは70%〜90%添加したガスを満たす。この際、簡便のため、密閉された筐体を用いず、ガスノズルを背面板113の直下に設置し、音孔117を通して空気及びアルゴンガスの混合ガスを振動膜112と背面板113との間の空隙121に吹き付ける構成としてもよい。また、ガスノズルを半導体ECM110の側面に設置し、振動膜112と背面板113との間の空隙121に吹き付ける構成とすることもできる。なお、下部室202をアルゴンガス100%とする構成であってもよい。
【0093】
台座204の外周は仕切板203と結合され、台座204の内側には段差部のある貫通孔が形成されている。台座204は絶縁体で構成され、半導体ECM110は、台座204の段差部に振動膜112側が電離放射線照射装置101側になるようセットされる。台座204に半導体ECM110がセットされると、振動膜112を境に上部室201と下部室202とが分離されるとともに、振動膜112の電極118と電極205、背面板113の電極119と電極206とがそれぞれ電気的に接続されるようになっている。
【0094】
次に、本実施形態におけるエレクトレットの製造方法について説明する。ここでは負に帯電したエレクトレットを製造する例を挙げる。
【0095】
[半導体ECM取付工程]
まず、シリコン酸化膜115が帯電していない半導体ECM110を、台座204の段差部にセットする。その際、台座204の上下に設けた電極205及び206に、それぞれ、電極118及び119を電気的に接続する。
【0096】
[ガス注入工程]
続いて、筐体の上部室201にヘリウムガスを図示しない注入口から注入する。また、筐体の下部室202に、アルゴンガスを空気に添加した混合ガスを図示しない注入口から注入する。
【0097】
[誘電体帯電工程]
次に、電離放射線照射装置101から半導体ECM110に向けて軟X線を照射する。照射した軟X線は、電極118を含む振動膜112を透過する。ここで、シリコン製の振動膜112の膜厚を2000nmとすると、例えばエネルギーが6.5keVの軟X線の透過率は、およそ95%である。振動膜112を透過した軟X線は、振動膜112と背面板113との間の混合ガスをイオン化する。
【0098】
次に、直流電源207によって、電極118及び119に電圧を印加する。ここで、シリコン酸化膜115を負に帯電させる場合、電極119(背面板113側電極)が電極118(振動膜112側電極)に対して正の電位になるよう、直流電源207の極性を設定する。この状態で電離放射線の照射を行うと、振動膜112と背面板113との間で、空気中の酸素等が電離してイオンが生成されるだけでなく、アルゴンが電離放射線を吸収して正イオン化し、その際に放出された電子が、空気中の酸素等に作用してイオン数が増加する。この際、アルゴンイオンを含む正イオンは振動膜112に、負イオンは背面板113に引き寄せられ、背面板113に設けたシリコン酸化膜115は負に帯電される。
【0099】
以上のように、第2実施形態における半導体ECM110の製造方法では、エレクトレットコンデンサの製造装置200において、振動膜112と背面板113との対向電極間の空隙を下部室202に配置し、下部室202はアルゴンガスを空気に添加した雰囲気とし、誘電体であるシリコン酸化膜115に軟X線を照射する構成としたので、対向電極間でのイオンの生成量が増加するため、背面板113上に設けたシリコン酸化膜115の表面電位が短時間で上昇し、通常の空気中で所定の表面電位を得るのに要する時間を1/10(300秒→30秒:実験1参照)に短縮することができる。
【0100】
したがって、本実施形態におけるエレクトレットの製造方法は、製造工程におけるエレクトレットの電荷の放電を回避することができるとともに、エレクトレットの製造に要する時間の短縮化を図ることができる。
【0101】
また、本実施形態における半導体ECM110の製造方法は、希ガスを用いるため、腐食や有害ガスの発生の問題もない。
【0102】
なお、前述の実施形態において、振動膜112と背面板113との対向電極間の空隙121を、アルゴンガスを空気に添加した雰囲気とした例を挙げて説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。すなわち、対向電極間の空隙121が、空気に比べて透過率が低いガスを含む雰囲気であってもよいし、空気にCOを混合させたものでもよい。
【0103】
また、前述の実施形態のように、誘電体を負に帯電させる場合は、電離放射線を照射したときに、空気中よりも多くの負イオンが生成されるガスを用いるのが好ましい。負イオンが生成されやすいガスとしては、例えば、塩素系やフッ素系のガスが挙げられる。ただし、塩素系やフッ素系のガスを用いる場合は、これらのガスに耐性のある材料で誘電体等を構成するのが好ましい。
【0104】
また、前述の実施形態において、電離放射線として軟X線を例に挙げたが、本発明はこれに限定されるものではなく、X線やγ線等を用いても同様の効果が得られる。
【0105】
また、前述の実施形態において、誘電体としてのシリコン酸化膜115を背面板113に設けた例を挙げて説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、誘電体を振動膜112側に設ける構成としても同様の効果が得られる。
【0106】
なお、本実施形態において、半導体ECM110のエレクトレットを製造する製造方法について説明したが、本実施形態におけるエレクトレットの製造方法は、ECMのエレクトレットについても同様に製造することができる。
【0107】
(第2実施形態の他の態様)
前述の説明では、誘電体としてのシリコン酸化膜115を負に帯電させる場合について説明した。以下、第2実施形態の他の態様として、シリコン酸化膜115を正に帯電させる場合について説明する。この態様では、下部室202の雰囲気が前述の構成と異なっており、その他の構成は同様である。したがって、前述の説明と重複する説明は省略する。
【0108】
[ガス注入工程]
まず、本態様のエレクトレットの製造装置における下部室202に、空気にアルゴンを50%以上、好ましくは99%以上添加した混合ガスを満たす。なお、下部室202をアルゴンガス100%とする構成であってもよい。
【0109】
[誘電体帯電工程]
次に、直流電源207によって、電極118及び119に電圧を印加する。ここで、シリコン酸化膜115を正に帯電させる場合、電極119(背面板113側電極)が電極118(振動膜112側電極)に対して負の電位になるよう、直流電源207の極性を設定する。この状態で電離放射線の照射を行うと、振動膜112と背面板113との間で、空気中の酸素等が電離してイオンが生成されるだけでなく、アルゴンが電離放射線を吸収して正イオン化し、その際に放出された電子が、空気中の酸素等に作用してイオン数が増加する。この際、負イオンは振動膜112側に、アルゴンイオンを含む正イオンは背面板113側に引き寄せられ、背面板113に設けたシリコン酸化膜115は正に帯電される。
【0110】
以上のように、第2実施形態の他の態様におけるエレクトレットの製造装置では、製造工程におけるエレクトレットの電荷の放電を回避することができるとともに、シリコン酸化膜115を正に帯電させる構成において、アルゴンガスを含む雰囲気にシリコン酸化膜115を配置することによりシリコン酸化膜115の表面電位の上昇にアルゴンイオンが大きく寄与するため、通常空気中で得られる表面電位よりも25%大きい表面電位(31/50→40/50:実験2参照)を得ることができる。
【0111】
なお、本実施形態において、半導体ECM110のエレクトレットを製造する製造方法について説明したが、本実施形態におけるエレクトレットの製造方法は、ECMのエレクトレットについても同様に製造することができる。
【0112】
(第3実施形態)
次に、本発明に係るエレクトレットの製造装置の第3実施形態について図12に基づき説明する。なお、第1実施形態と同様な構成要素には同一の符号を付し、その説明を省略する。
【0113】
図12に示すように、本実施形態におけるエレクトレットコンデンサの製造装置300は、電離放射線照射装置101、直流電源301、静電容量測定器302、密閉容器310、圧力調整手段320を備えている。
【0114】
直流電源301は、半導体ECM110の電極118と119との間に直流電圧を印加するようになっている。密閉容器310は、図示のように半導体ECM110を、その振動膜112側が電離放射線照射装置101に向くよう収容するようになっている。
【0115】
静電容量測定器302は、半導体ECM110の電極118と119との間の静電容量を測定し、その測定データを記憶するメモリを備えている。また、静電容量測定器302は、静電容量の測定データを圧力調整手段320に出力するようになっている。この静電容量測定器302は、本発明に係る静電容量検出装置を構成する。
【0116】
圧力調整手段320は、密閉容器310内の圧力を調整することができるようになっている。この圧力調整手段320は、本発明に係る電極間距離調整装置を構成する。
【0117】
密閉容器310及び圧力調整手段320は、それぞれ、例えば図13に示すように構成される。
【0118】
図13に示すように、密閉容器310は、金属製の容器本体311及び蓋312と、容器本体311と蓋312との間に設けた絶縁体313とを備えている。
【0119】
容器本体311の内部の底面には、半導体ECM110の電極119に電気的に接続するプローブ314と、プローブ314を電極119に押し当てる導電性のバネ315と、プローブ314のガイド316とが設けられている。プローブ314がバネ315に押圧されることにより、電極119とプローブ314とが電気的に接続されるとともに、電極118も蓋312に押圧されて電気的に接続されるようになっている。容器本体311は接地され、蓋312は直流電源301に接続されている。したがって、電極119は接地され、電極118は直流電源301に接続される構成となっている。
【0120】
なお、例えば絶縁体313を絶縁ゴムで形成し、バネ315を使用しない構成としてもよい。また、プローブ314及びバネ315を使用せず、例えばワイヤボンディングによって電極119と容器本体311とを電気的に接続する構成としてもよい。
【0121】
圧力調整手段320は、容器本体311の側面に接続して設けられたシリンダ321と、ピストン322と、モータ323と、モータ323とピストン322との間を結合する結合機構324と、モータ323の駆動を制御するモータ制御回路325とを備えている。
【0122】
モータ制御回路325は、例えばマイクロコンピュータで構成され、静電容量測定器302から入力した静電容量の測定データに応じて、密閉容器310内の圧力を設定するようになっている。具体的には、モータ制御回路325は、静電容量の測定データに応じてモータ323の回転角及び回転方向を制御し、モータ323が結合機構324を介してピストン322を動かすことによって密閉容器310内の圧力が所望値になるようフィードバック制御を行うようになっている。
【0123】
本実施形態におけるエレクトレットコンデンサの製造装置300が静電容量測定器302及び圧力調整手段320を備えているのは、次の理由による。すなわち、エレクトレットの電位をより高くしようとすると、振動膜112と背面板113との間に、より高い直流電圧を印加しなければならない。ところが、印加する直流電圧により、振動膜112と背面板113との間には静電引力が働くので、印加する直流電圧を高くしていくと、両者の吸着が発生して正常な帯電ができなくなるばかりか、場合によっては振動膜112の破壊に至ってしまう。
【0124】
そこで、印加する直流電圧に応じて振動膜112と背面板113との間の距離が変化し、両者間の距離の変化に応じて両者間の静電容量が変化することを考慮し、エレクトレットコンデンサの製造装置300は、静電容量測定器302及び圧力調整手段320を備えることによって、両者間の距離を一定に保つことができるようになっている。この構成において、静電容量を一定にするように圧力調整手段320の圧力調整処理が追従するよう、直流電源301の出力電圧の絶対値を徐々に増加させるのが好ましい。例えば、エレクトレットコンデンサの製造装置300がコンピュータを備え、このコンピュータの制御により、静電容量測定器302の測定データの変化を監視しながら直流電源301の出力電圧の絶対値を変化させるのが好ましい。
【0125】
次に、本実施形態におけるエレクトレットの製造工程について説明する。ここでは負に帯電したエレクトレットを製造する例を挙げる。
【0126】
[半導体ECM取付工程]
容器本体311内部に設けたれたプローブ314に、半導体ECM110の電極119を押し当てた状態で、絶縁体313を介して容器本体311に蓋312を取り付ける。また、容器本体311と蓋312との間に直流電源301を接続する。本実施形態では、シリコン酸化膜115を負に帯電させるため、蓋312に負電圧を印加するよう直流電源301の極性を設定する。
【0127】
[静電容量初期値測定工程]
静電容量測定器302により、半導体ECM110の電極118と119との間の初期値の静電容量Cを測定する。この静電容量Cは、直流電圧の印加はなく、軟X線の照射もない状態でのものである。測定で得た静電容量Cのデータは、静電容量測定器302のメモリに記憶される。
【0128】
[誘電体帯電工程]
直流電源301により、振動膜112と背面板113との間に直流電圧を印加し、半導体ECM110の空隙121に電界122を発生させる。
【0129】
直流電圧の印加により、静電引力で振動膜112が背面板113に引き寄せられ、電極118と119との間の静電容量はCv(Cv>C)となる。ここで、直流電源301による直流電圧の印加とともに、圧力調整手段320により密閉容器310内部を加圧することで、振動膜112に吸着力とは逆の力を与え振動膜112を背面板113から引き戻す。この工程では、圧力調整手段320が追従するよう徐々に直流電圧の絶対値を増加させる。
【0130】
この状態で、電離放射線照射装置101により軟X線を振動膜112側から照射する。軟X線が空気中に照射されると空気中の各成分が電離し、正イオン及び負イオンが生成される。空隙121では、振動膜112を透過した軟X線により生成されたイオンのうち負イオンが電界122により背面板113側に付着し、シリコン酸化膜115に負電荷が注入される。シリコン酸化膜115が負に帯電するにつれて電界122が弱まり、最終的にシリコン酸化膜115は負に帯電したエレクトレットとなる。
【0131】
負電荷の注入中は、時間とともにエレクトレットの電位が変動するため、振動膜112と背面板113との間の静電引力も変動する。そこで、モータ制御回路325が、静電容量測定器302が出力する静電容量の測定データにより圧力調整手段320をフィードバック制御し、電極118と119との間の静電容量が一定、すなわち振動膜112と背面板113との間の距離が一定になるよう、密閉容器310内の圧力を制御する。例えば、モータ制御回路325が、静電容量が常に初期の静電容量Cになるよう制御すれば、振動膜112と背面板113との間は初期の空隙長を保ったまま帯電が可能となる。
【0132】
その結果、本実施形態におけるエレクトレットの製造方法は、製造工程におけるエレクトレットの電荷の放電を回避することができるとともに、振動膜112と背面板113とを吸着させることなく、エレクトレットを製造することができる。
【0133】
さらに、本実施形態におけるエレクトレットコンデンサの製造装置300では、従来よりも高い直流電圧を印加した状態で電荷を注入することができるので、従来よりも高い帯電電圧を有するエレクトレットを得ることができる。
【0134】
本実施形態における改善効果を図14に示す。図14に示すように、従来の方法では、振動膜112及び背面板113の吸着が起こる電圧を示す吸着電圧Vよりも低い直流電圧V1しか印加できなかったため、エレクトレットの電位はV1よりも低いV1が限界であった。本実施形態では、吸着の問題が解決されるため、吸着電圧V以上の直流電圧V2を印加することが可能である。これにより、エレクトレットの電位は、V2に高められる。ただし、エレクトレットの電位は吸着電圧Vを超えない範囲で設定しなければならないので、V2<Vである。吸着電圧Vを超えて帯電すると、本実施形態による帯電完了後に、エレクトレットの電位により振動膜112が背面板113に吸着してしまうからである。
【0135】
なお、本実施形態において、半導体ECM110のエレクトレットを製造する製造方法について説明したが、本実施形態におけるエレクトレットの製造方法は、ECMのエレクトレットについても同様に製造することができる。
【0136】
(第3実施形態の他の態様)
以上の説明では、1つの半導体ECM110に対してエレクトレットを製造する例を挙げた。以下、第3実施形態の他の態様として、シリコン基板上に一括して形成した複数の半導体ECM110に対してエレクトレットを製造する例を示す。
【0137】
図15は、複数の半導体ECM110が、半導体製造技術によって一括されて形成されたシリコンウエハ140における断面図であって、分かりやすくするため3つ分の半導体ECM110の断面を示している。この図は、第1実施形態の他の態様において説明した図2〜図4のうちの図3に対応するものであり、図2に示したシリコンウエハ130と本実施形態におけるシリコンウエハ140は同様な外観を有する。なお、個々の半導体ECM110及び密閉容器310以外の構成については、適宜図13を参照するものとする。
【0138】
図15に示すように、密閉容器310内に設けられたプローブ314は、シリコンウエハ140に形成された、全ての半導体ECM110の背面板113に設けた電極119と接触する構成となっている。また、バネ315に押圧されることにより、電極119とプローブ314とが電気的に接続されるとともに、電極118も蓋312に押圧されて電気的に接続されるようになっている。図13に示したものと同様に、容器本体311は接地され、蓋312は直流電源301に接続されている。したがって、シリコンウエハ140に形成された、全ての電極119は接地され、全ての電極118は直流電源301に接続される構成となっている。
【0139】
振動膜112の電極118は、シリコンウエハ140の全面に広がっているので、本実施形態では、静電容量測定器302により、全ての半導体ECM110の静電容量の合計(並列接続)が測定される。測定された静電容量の合計値を一定とするよう密閉容器310内の圧力を制御することで、振動膜112と背面板113との間の距離を設定することができる。
【0140】
本実施形態における製造方法では、静電容量の合計値を監視することになるので、個々の半導体ECM110において振動膜112と背面板113との間の距離が例えば初期値に保たれる保証はない。したがって、個々の半導体ECM110におけるエレクトレットの電位に多少のばらつきが生じる可能性がある。しかしながら、本実施形態における製造方法では、シリコンウエハ140上に作製された全ての半導体ECM110を一括して帯電させることができるため、製造工程におけるエレクトレットの電荷の放電を回避することができるとともに、生産性を向上させるという効果が得られる。
【0141】
なお、本実施形態において、半導体ECM110のエレクトレットを製造する製造方法について説明したが、本実施形態におけるエレクトレットの製造方法は、ECMのエレクトレットについても同様に製造することができる。
【0142】
(第4実施形態)
次に、本発明に係るエレクトレットの製造装置の第4実施形態について図16に基づき説明する。なお、第1実施形態と同様な構成要素には同一の符号を付し、その説明を省略する。
【0143】
図16に示すように、本実施形態におけるエレクトレットコンデンサの製造装置400は、第3実施形態における構成(図13参照)に、ガスボンベ401、ガス圧調整器402、排気ポンプ403、バルブ404を加えたものである。なお、第3実施形態と同様な構成要素には同一の符号を付し、その説明を省略する。
【0144】
ガスボンベ401には、所望のガスが充填されている。ここで、所望のガスとしては、第2実施形態で述べたように、電離放射線照射装置101が照射する電離放射線のエネルギー範囲において、空気中の酸素等に比べて透過率が低いガス、例えば希ガスを用いるのが好ましい。
【0145】
ガス圧調整器402は、例えば減圧弁で構成され、ガスボンベ401から密閉容器310に注入するガスの圧力を調整できるようになっている。排気ポンプ403は、密閉容器310内の空気を排気するようになっている。
【0146】
次に、本実施形態におけるエレクトレットの製造工程について説明する。
【0147】
[排気行程]
はじめに、直流電圧を印加せず、軟X線も照射しない状態で、バルブ404を開き、排気ポンプ403により、密閉容器310内の空気を排気する。このとき、密閉容器310内が減圧されるため、振動膜112が背面板113に密着することがあるが問題はない。
【0148】
[ガス注入工程]
次に、ガスボンベ401からガス圧調整器402を介して、密閉容器310内に所望の圧力で例えばアルゴンガスを満たす。その結果、背面板113に吸着されていた振動膜112は背面板113から離れる。アルゴンガスは、音孔117や空隙121の側面から空隙121内に入り、振動膜112と背面板113との間はアルゴンガスで満たされる。その後、バルブ404を閉じることで密閉容器310内の初期の圧力が定まる。
【0149】
[誘電体帯電工程]
その後、第3実施形態で説明したようにシリコン酸化膜115に電荷を注入することにより、エレクトレットを製造する。
【0150】
以上のように、本実施形態におけるエレクトレットの製造方法によれば、製造工程におけるエレクトレットの電荷の放電を回避することができるとともに、密閉容器310内を所望のガスで満たすことにより、空隙121が所望のガスで満たされ、従来と同じ直流電圧を印加した場合でも、従来よりも高い電位のエレクトレットを製造することができる。
【0151】
なお、本実施形態において、半導体ECM110のエレクトレットを製造する製造方法について説明したが、本実施形態におけるエレクトレットの製造方法は、ECMのエレクトレットについても同様に製造することができる。
【0152】
(第5実施形態)
次に、本発明に係るエレクトレットの製造装置の第5実施形態について図17に基づき説明する。なお、第1実施形態と同様な構成要素には同一の符号を付し、その説明を省略する。
【0153】
図17に示すように、本実施形態におけるエレクトレットコンデンサの製造装置500は、電離放射線を照射する電離放射線照射装置101と、直流電圧Vを出力する直流電源102と、交流電圧vを出力する交流電源501とを備えている。ここで、直流電源102及び交流電源501は、本発明に係る重畳電圧印加手段を構成する。
【0154】
次に、本実施形態におけるエレクトレットの製造工程について説明する。ここでは負に帯電したエレクトレットを製造する例を挙げる。
【0155】
[誘電体帯電工程]
半導体ECM110の電極118と119との間に、直流電源102の直流電圧Vと交流電源501の交流電圧vとを重畳した電圧を印加する。この重畳した電圧により、空隙121に電界122が発生する。この状態で、電離放射線照射装置101により軟X線を振動膜112側から照射する。軟X線が空気中に照射されると空気中の各成分が電離し、正イオン及び負イオンが生成される。空隙121では、振動膜112を透過した軟X線により生成されたイオンのうち負イオンが電界122により背面板113側に付着し、シリコン酸化膜115に負電荷が注入される。シリコン酸化膜115が負に帯電するにつれて電界122が弱まり、最終的にシリコン酸化膜115は負に帯電したエレクトレットとなる。
【0156】
図18は、直流電圧に正弦波の交流電圧を重畳したときの波形例を示している。縦軸の電圧は絶対値を示しており、例えば図17に示したように振動膜112に負の電圧を印加する場合には、実際には負符号を付けた電圧を印加する。以下の電圧は、全てこの絶対値で表したものとして説明する。
【0157】
図18に示すVは直流電圧、vは交流電圧、Vは吸着電圧、Vmaxは最大電圧、Vminは最小電圧を表す。VがVを超えると吸着してしまうため、V<Vとなる直流電圧を設定し、これに交流電圧vを重畳しV+vの電圧を振動膜112と背面板113との間に印加する。また、VmaxがVを超えるよう交流電圧vの振幅を設定する。
【0158】
さらに、Vminが0あるいはVとは逆符号の電圧になると、空隙121の電界122が所望の向きに発生せず、所望のイオン(例えば負イオン)と逆極性のイオン(例えば正イオン)による電荷がシリコン酸化膜115に注入されて、エレクトレットの電位が低下してしまうため、Vmin>0となるよう交流電圧vの振幅を設定する。交流電圧vの周波数は、振動膜112の機械的共振周波数以上、好ましくは機械的共振周波数より十分高い周波数に設定する。交流電圧vの周波数が振動膜112の機械的共振周波数に等しいか、又はそれ以下であると、振動膜112が交流電圧に追随して振動し吸着が発生してしまうが、交流電圧vの周波数が振動膜112の機械的共振周波数よりも高ければ、振動系が慣性制御になり振動膜112の変位が抑制されるため、吸着は起こらない。共振の先鋭度によっては、機械的共振周波数よりわずかに高い周波数でも振動膜112の振動が交流電圧に追随することがあるので、機械的共振周波数より十分高い周波数にすることが好ましい。一方で、エレクトレットの電位は最大電圧Vmaxに比例した値となるため、従来の直流電圧Vのみを印加していた場合に比べ、エレクトレットの電位を高めることができる。
【0159】
図19に、印加電圧とエレクトレットの電位との関係を示す。従来の方式では、吸着電圧Vよりも低い電圧Vでしか印加できなかったため、エレクトレットの電位はVよりも低いV1が限界であった。ここで、V1=αVと表すことができる。αは電離放射線のエネルギーや誘電体膜の厚さ等の条件により決まる係数で、0<α≦1である。本実施形態では、エレクトレットの電位をV2とするとV2は最大電圧Vmaxに比例するため、V2=αVmaxとなり、エレクトレットの電位を高めることができる。ただし、エレクトレットの電位は、吸着電圧を超えない範囲で設定しなければならないので、V2<Vである必要がある。
【0160】
以上のように、本実施形態におけるエレクトレットの製造方法によれば、製造工程におけるエレクトレットの電荷の放電を回避することができるとともに、振動膜112やシリコン酸化膜115の厚さの制限、電離放射線のエネルギー範囲の制限等によりエレクトレットの電位が印加電圧よりも低い値に制限される場合であっても、エレクトレットの電位を吸着電圧V未満の電圧まで高めることが可能となる。
【0161】
前述の交流電圧vを印加する電圧波形としては、図20に示すような方形波でもよいし、三角波や鋸波でもよい。また、半波整流波を印加することもできる。例えば、図21に示すような半波整流した正弦波を印加することができる。この場合、電圧の平均値Vが直流分と見なせるため、吸着を起こさないためには、V<Vであるよう設定しなくてはならない。例えば、平均値V=V+(Vmax−V)/πとなるため、V+(Vmax−V)/π<Vを満たすよう電圧波形を設定すればよい。
【0162】
さらに、図22に示すような一定のデューティ比を持つパルス波も用いることができる。図21と同様に平均値Vが直流分と見なせるため、吸着を起こさないためには、V<Vであるように電圧波形を設定する必要がある。図22に示したパルス波の場合、周期T、パルス幅τとすると、デューティ比D=τ/Tで、平均値V=V+(Vmax−V)×Dとなるため、V+(Vmax−V)×D<Vを満たすよう電圧波形を設定すればよい。
【0163】
なお、本実施形態において、半導体ECM110のエレクトレットを製造する製造方法について説明したが、本実施形態におけるエレクトレットの製造方法は、ECMのエレクトレットについても同様に製造することができる。
【0164】
(第6実施形態)
次に、本発明に係るエレクトレットの製造装置の第6実施形態について図23に基づき説明する。なお、第1実施形態と同様な構成要素には同一の符号を付し、その説明を省略する。
【0165】
図23に示すように、本実施形態におけるエレクトレットコンデンサの製造装置600は、ECM150に対してエレクトレットを製造するものであり、直流電源601及び電離放射線照射装置101を備えている。
【0166】
ECM150は、振動膜151、音孔153が形成された背面板152、背面板152に接続された電極154、電極154を保持する電極保持部155、振動膜151及び電極保持部155を固定する固定部156を備えている。
【0167】
振動膜151は、例えば有機高分子系の誘電体の上面(電離放射線照射装置101側)に金属膜(斜線部)を蒸着して形成されている。背面板152は、例えば金属板に音孔153を形成して構成され、振動膜151と対向して配置されている。すなわち、ECM150は、互いに対向する電極を有し、一方の電極の対向面側に誘電体を備えたエレクトレットコンデンサを備えたものである。
【0168】
振動膜151の金属膜は、直流電源601に接続されるようになっている。また、背面板152は、電極154を介して接地されるようになっている。電極保持部155及び固定部156は、樹脂等の絶縁材料で構成されている。
【0169】
次に、本実施形態におけるエレクトレットの製造工程について説明する。ここでは負に帯電したエレクトレットを製造する例を挙げる。
【0170】
[ECM取付工程]
エレクトレットコンデンサの製造装置600内において、電離放射線照射装置101からの軟X線が照射される位置にECM150を配置し、電極154を接地する。また、直流電源601の正極を振動膜151の金属膜に接続し、直流電源601の負極を接地する。
【0171】
[誘電体帯電工程]
振動膜151と背面板152との間に直流電圧Vbを印加し、両者間の空隙に電界を発生させる。この状態で、電離放射線照射装置101により軟X線を振動膜151側から照射する。軟X線が空気中に照射されると空気中の各成分が電離し、正イオン及び負イオンが生成される。振動膜151と背面板152との間の空隙では、振動膜151を透過した軟X線により生成されたイオンのうち負イオンが電界により振動膜151側に付着し、振動膜151の誘電体に負電荷が注入される。振動膜151の誘電体が負に帯電するにつれて電界が弱まり、最終的に振動膜151の誘電体は負に帯電したエレクトレットとなる。
【0172】
以上のように、本発明のエレクトレットの製造方法によれば、有機高分子系の誘電体に金属膜を蒸着して形成した振動膜151と、金属板等で構成した背面板152とでコンデンサを形成した後に、振動膜151の対向面側にある有機高分子系の誘電体に電荷を注入してエレクトレットを製造することが可能となる。
【0173】
したがって、本実施形態におけるエレクトレットの製造方法によれば、振動膜151及び背面板152と、電極保持部155及び固定部156とを固定する固定組立工程後に誘電体に電荷を注入してエレクトレットを製造することができるため、固定組立工程前にエレクトレットを製造する従来のものと異なり、固定組立工程中にハンドリングにより電荷が放電し性能が劣化する問題を回避できる。すなわち、本実施形態におけるエレクトレットの製造方法によれば、製造工程におけるエレクトレットの電荷の放電を回避することができる。
【0174】
さらに、本実施形態におけるエレクトレットの製造方法は、電子部品が実装された基板をECM150に装着した後においてもエレクトレットを製造することができる。
【0175】
具体的には、前述の誘電体帯電工程の前に、振動膜151及び背面板152と、電極保持部155及び固定部156とを組み立てた組立体において、固定部156の下面側に電子部品が実装された基板を半田リフロー工程により装着する工程を設ける(基板装着工程)。その後、誘電体帯電工程を実施することにより、本実施形態におけるエレクトレットの製造方法は、組立工程におけるハンドリングやリフローの熱によりエレクトレットの電荷が放電し性能が劣化するという問題を回避することができる。
【0176】
なお、ECM150を製造する製造方法として、第2実施形態で説明した希ガスをガスノズルから吹き付ける方法や、第3〜第5実施形態で説明した対向電極間の吸着を防止する方法等を適用することもできる。
【0177】
(第6実施形態の他の態様)
前述の実施形態において、振動膜151にエレクトレットを形成する例を挙げて説明したが、背面板152にエレクトレットを形成することもできる。その構成例を図24に示す。
【0178】
図24に示すように、ECM160は、振動膜161、音孔163が形成された背面板162、背面板162に接続された電極164、電極164を保持する電極保持部165、振動膜161及び電極保持部165を固定する固定部166を備えている。
【0179】
振動膜161は、例えば金属板で構成される。背面板162は、例えば金属板の上面(対向面側)に有機高分子系の誘電体(斜線部)が形成されている。すなわち、ECM160は、互いに対向する電極を備え、一方の電極の対向面側に誘電体を備えたものである。
【0180】
次に、本実施形態における誘電体帯電工程について説明する。ここでは負に帯電したエレクトレットを製造する例を挙げる。
【0181】
[誘電体帯電工程]
振動膜161と背面板162との間に直流電圧Vbを印加し、両者の空隙に電界を発生させる。この状態で、電離放射線照射装置101により軟X線を振動膜161側から照射する。軟X線が空気中に照射されると空気中の各成分が電離し、正イオン及び負イオンが生成される。振動膜161と背面板162との間の空隙では、振動膜161を透過した軟X線により生成されたイオンのうち負イオンが電界により背面板162側に付着し、背面板162に形成した誘電体に負電荷が注入される。背面板162に形成した誘電体が負に帯電するにつれて電界が弱まり、最終的に背面板162に形成した誘電体は負に帯電したエレクトレットとなる。
【0182】
以上のように、本発明のエレクトレットの製造方法によれば、金属板で形成した振動膜161と、有機高分子系の誘電体を設けた金属板等で構成した背面板162とでコンデンサを形成した後に、背面板162の対向面側にある有機高分子系の誘電体に電荷を注入してエレクトレットを製造することが可能となる。
【0183】
したがって、本実施形態におけるエレクトレットの製造方法によれば、振動膜161及び背面板162と、電極保持部165及び固定部166とを固定する固定組立工程後に誘電体に電荷を注入してエレクトレットを製造することができるため、固定組立工程前にエレクトレットを製造する従来のものと異なり、固定組立工程中にハンドリングにより電荷が放電し性能が劣化する問題を回避できる。
【符号の説明】
【0184】
100、200、300、400、500、600 エレクトレットコンデンサの製造装置
101 電離放射線照射装置
102、207、301、601 直流電源
103 金属板
110 半導体ECM
111 シリコン基板
112、151、161 振動膜
113、152、162 背面板
114 スペーサ
115 シリコン酸化膜
116 シリコン窒化膜
117、153、163 音孔
118、119、154、164、205、206 電極
121 空隙
122 電界
130、140 シリコンウエハ
150、160 ECM
155、165 電極保持部
156、166 固定部
201 上部室
202 下部室
203 仕切板
204 台座
302 静電容量測定器
310 密閉容器
311 容器本体
312 蓋
313 絶縁体
314 プローブ
315 バネ
316 ガイド
320 圧力調整手段
321 シリンダ
322 ピストン
323 モータ
324 結合機構
325 モータ制御回路
401 ガスボンベ
402 ガス圧調整器
403 排気ポンプ
404 バルブ
501 交流電源

【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに対向する対向電極として振動膜電極及び固定電極を備え、前記対向電極のいずれか一方の対向面側に誘電体を有するエレクトレットコンデンサの製造方法であって、
前記対向電極間に直流電圧を印加した状態で、前記振動膜電極を透過する電離放射線を発生して前記対向電極間に照射することによって前記対向電極間に発生する正イオン及び負イオンのうちのいずれか一方により前記誘電体を帯電させる誘電体帯電工程を含むことを特徴とするエレクトレットコンデンサの製造方法。
【請求項2】
前記誘電体帯電工程において、前記電離放射線の予め定めたエネルギー範囲において空気よりも前記電離放射線の透過率が低いガスを含む雰囲気に前記対向電極間を設定した状態で前記誘電体を帯電させることを特徴とする請求項1に記載のエレクトレットコンデンサの製造方法。
【請求項3】
前記誘電体帯電工程において、前記対向電極間の静電容量が一定となるように前記振動膜電極に加える圧力を制御して前記誘電体を帯電させることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のエレクトレットコンデンサの製造方法。
【請求項4】
前記誘電体帯電工程において、前記振動膜電極の機械的共振周波数以上の周波数を有する交流電圧を前記直流電圧に重畳させて前記対向電極間に印加することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のエレクトレットコンデンサの製造方法。
【請求項5】
前記誘電体帯電工程の前に、前記振動膜電極と前記固定電極とを対向配置させた対向配置体の前記固定電極側に電子部品が実装された基板を装着する基板装着工程を含み、
前記誘電体帯電工程において、前記基板が装着された前記対向配置体の前記振動膜電極側から前記電離放射線を照射して前記誘電体を帯電させることを特徴とする請求項1から請求項4までのいずれか1項に記載のエレクトレットコンデンサの製造方法。
【請求項6】
請求項1から請求項5までのいずれか1項に記載のエレクトレットコンデンサの製造方法において、前記誘電体を帯電させてエレクトレットコンデンサを製造する製造装置であって、
前記振動膜電極を透過する電離放射線を発生して前記対向電極間に照射する電離放射線照射装置と、直流電圧を前記対向電極間に印加する直流電源とを備えたことを特徴とするエレクトレットコンデンサの製造装置。
【請求項7】
前記電離放射線の予め定めたエネルギー範囲において空気よりも前記電離放射線の透過率が低いガスを発生するガス発生手段を備え、
前記直流電源は、前記対向電極間が前記ガスを含む雰囲気にある状態で前記電離放射線によって前記対向電極間に発生する正イオン及び負イオンのうちのいずれか一方により前記誘電体を帯電させるものであることを特徴とする請求項6に記載のエレクトレットコンデンサの製造装置。
【請求項8】
前記対向電極間の静電容量を検出する静電容量検出装置と、前記静電容量に基づいて前記対向電極間の距離を一定に保つ電極間距離調整装置とを備えたことを特徴とする請求項6又は請求項7に記載のエレクトレットコンデンサの製造装置。
【請求項9】
前記振動膜電極の機械的共振周波数以上の周波数を有する交流電圧と前記直流電圧とを重畳させて前記対向電極間に印加する重畳電圧印加手段を備えたことを特徴とする請求項6又は請求項7に記載のエレクトレットコンデンサの製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【公開番号】特開2010−267883(P2010−267883A)
【公開日】平成22年11月25日(2010.11.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−119216(P2009−119216)
【出願日】平成21年5月15日(2009.5.15)
【出願人】(000004352)日本放送協会 (2,206)
【出願人】(000115636)リオン株式会社 (128)
【出願人】(000173728)財団法人小林理学研究所 (15)
【出願人】(591053926)財団法人エヌエイチケイエンジニアリングサービス (169)
【Fターム(参考)】