説明

エレクトレット性粗粉の製造方法

【課題】大画面ディスプレイの泳動粒子として好適なエレクトレット性粗粉を効率的に製造する方法を提供する。
【解決手段】フッ素含有樹脂シートに電子線又は放射線を照射することにより前記シートをエレクトレット化した後、前記シートを粉砕するエレクトレット性粗粉の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フルカラーの電気泳動表示装置(いわゆる電子ペーパー)に用いる泳動粒子として有用なエレクトレット性粗粉の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、荷電粒子(エレクトレット性粒子)の電気泳動による電気泳動表示方法が、次世代表示装置の最適技術と考えられている。しかしながら、荷電粒子の形状、帯電電位(ζ電位)が小さく不安定なこと、泳動粒子の二次凝集や沈殿、前歴表示画像の消去や応答速度が不十分である等の多くの課題を抱えている。
【0003】
特許文献1、2には、上記用途に用いるエレクトレット性粒子が開示されている。
【0004】
特許文献1には、「高分子微粒子材料を重合して製作した、粒径1〜10μmの真球状超微粒子のコア樹脂に、電子トラップとなる樹脂を添加し、これに10〜300kGyの電子線を照射して、エレクトレット性負電荷を帯電した微粒子で、コア樹脂を所望の色彩に着色したことを特徴とする負荷電微粒子。」が記載されている(請求項1)。
【0005】
特許文献2には、「高分子微粒子原料モノマーに、電子トラップとなる材料、顔料等を添加し、懸濁重合法・乳化重合法・分散重合法等により、5〜10μmの真球状微粒子を作り、これに10〜50kGyの電子線を照射し、90〜110℃で十数分間加熱するか、90〜110℃で10〜50kGyの電子線を照射して、エレクトレット性負電荷を帯電した微粒子で、−50〜−100mVのζ電位をもち、所望の色彩に着色したことを特徴とする着色負荷電微粒子。」を用いることが記載されている(請求項10)。
【0006】
しかしながら、従来の各種重合法により調製されるエレクトレット性粒子は、いずれも微粒子であり、大画面ディスプレイの泳動粒子として用いる場合には、ディスプレイの大きさに対して泳動粒子が小さすぎる点で課題がある。例えば、微粒子の場合には、画面に対して点で表示するため、微粒子どうしの間に隙間が生じるおそれがある。大画面ディスプレイの泳動粒子としては、微粒子ではなく粗粉の方が適しているが、応答性能が良好な粗粉を製造する方法は未だ開発されていない。
【0007】
従って、大画面ディスプレイの泳動粒子として好適なエレクトレット性粗粉を効率的に製造する方法の開発が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2005−154705号公報
【特許文献2】特開2007−102148号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、大画面ディスプレイの泳動粒子として好適なエレクトレット性粗粉を効率的に製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、フッ素含有樹脂シートをエレクトレット化した後、前記シートを粉砕することによりエレクトレット性粗粉を製造する方法によれば上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
即ち、本発明は、下記のエレクトレット性粗粉の製造方法に関する。
1.フッ素含有樹脂シートに電子線又は放射線を照射することにより前記シートをエレクトレット化した後、前記シートを粉砕するエレクトレット性粗粉の製造方法。
2.前記フッ素含有樹脂シートは、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体シート(FEP)、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体シート(PFA)及びポリテトラフルオロエチレンシート(PTFE)からなる群から選択される少なくとも1種である、上記項1に記載の製造方法。
3.前記エレクトレット性粗粉の平均粒子径が0.5〜3mmである、上記項1又は2に記載の製造方法。
4.前記エレクトレット性粗粉は、顔料を含有する、上記項1〜3のいずれかに記載の製造方法。
5.上記項1〜4のいずれかに記載の製造方法により得られるエレクトレット性粗粉。
6.上記項5に記載のエレクトレット性粗粉を空気中で電極板間に配置し、前記電極板間に外部電圧を印加する電気泳動方法。
7.上記項5に記載のエレクトレット性粗粉をシリコーンオイル中で電極板間に配置し、前記電極板間に外部電圧を印加する電気泳動方法。
【0012】
以下、本発明のエレクトレット性粗粉の製造方法について詳細に説明する。
【0013】
本発明のエレクトレット性粗粉の製造方法は、フッ素含有樹脂シートに電子線又は放射線を照射することにより前記シートをエレクトレット化した後、前記シートを粉砕することを特徴とする。
【0014】
上記特徴を有する本発明のエレクトレット性粗粉の製造方法は、特にフッ素含有樹脂シートを先にエレクトレット化した後、前記シートを粉砕することにより、均質にエレクトレット化された所望の大きさの粗粉を効率的に製造することができる。特に電子線又は放射線を照射した後に粉砕しているため、照射によりフッ素含有樹脂シートがエレクトレット化しているだけでなく材料的に脆くなって粉砕し易くなっている点でも効率的である。得られたエレクトレット粗粉は、特に大画面ディスプレイの泳動粒子として有用である。その他、エレクトレット繊維、不織布、濾材(フィルタ)、集塵袋、エレクトレットコンデンサマイクロフォン等の材料としても有用である。
【0015】
上記フッ素含有樹脂シートとしては、電子トラップとして機能する限り特に限定されず、例えば、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体シート(FEP)、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体シート(PFA)、ポリテトラフルオロエチレンシート(PTFE)、テトラフルオロエチレン−エチレン共重合体シート(ETFE)、ポリビニリデンフルオライドシート(PVDF)、ポリクロロトリフルオロエチレンシート(PCTFE)、クロロトリフルオエチレン−エチレン共重合体シート(ECTFE)等が挙げられる。これらのフッ素含有樹脂シートの中でも、特にFEPシート、PFAシート及びPTFEシートの少なくとも1種が好ましい。
【0016】
上記フッ素含有樹脂シートは顔料を含有してもよい。顔料を含有する場合には、最終的に着色されたエレクトレット性粗粉が得られ、フルカラーの電子ペーパー材料として有用である。顔料としては、公知の無機顔料及び有機顔料が使用できる。
【0017】
無機顔料としては限定されないが、例えば、炭素を主成分とする黒色顔料として、カーボンブラック、油煙、ボーンブラック、植物性黒等が挙げられる。また、白色顔料として、酸化チタン、酸化亜鉛、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、酸化珪素等が挙げられる。これらの白色顔料は、白色泳動粗粉の製造や粗粉比重調整のために適宜使用できる。
【0018】
有機顔料としては限定されないが、例えば、β−ナフトール系、ナフトールAS系、アセト酢酸、アリールアミド系、ピラゾロン系、アセト酢酸アリールアミド系、ピラゾロン系、β−ナフトール系、β−オキシナフトエ酸系(BON酸系)、ナフトールAS系、アセト酢酸アリリド系のアゾ顔料が挙げられる。また、フタロシアニン系、アントラキノン系(スレン系)、ペリレン系・ペリノン系、インジゴ系・チオインジゴ系、キナクリドン系、ジオキサジン系、イソインドリノン系、キノフタロン系、金属錯体顔料、メチン・アゾメチン系、ジケトピロロピロール等の多環状顔料が挙げられる。その他、アジン顔料、昼光蛍光顔料(染料樹脂固溶体)、中空樹脂顔料、ニトロソ顔料、ニトロ顔料、天然顔料等が挙げられる。
【0019】
具体的な市販品としては、DIC(株)製のSymuler fast yellow 4GO、Fasdtogen super magenta RG、Fasdtogen blue TGRや、富士色素(株)製のFuji fast red 7R3300E、Fuji fast carmine 527等が挙げられる。
【0020】
これらの顔料の平均粒子径としては、0.02〜20μm程度が好ましく、0.02〜3μm程度がより好ましい。この平均粒子径は、顔料分散体をイオン交換水で5000倍に希釈し、動的光散乱式粒径分布測定装置「LB−500」(堀場製作所製)を用いて、着色剤分散体をイオン交換水で5000倍に希釈し、メジアン径を測定することにより求めた値である。
【0021】
上記フッ素含有樹脂シートの厚さは限定的ではないが、エレクトレット化の効率や粉砕後の粗粉の平均粒子径の観点から、100〜3000μm程度が好ましく、100〜1000μm程度がより好ましい。
【0022】
本発明の製造方法では、先ず上記フッ素含有樹脂シートに電子線又は放射線を照射することによりエレクトレット化する。電子線又は放射線の照射条件はフッ素含有樹脂シートをエレクトレット化できる限り限定されないが、垂直方向からシート全体に同時且つ均一に電子線又は放射線を照射できる装置を用いることが好ましい。
【0023】
照射量は限定的ではなく、シートの材質及び厚みに応じて適宜設定できる。シートの厚みが大きい場合には、加速電圧を大きく、且つ、照射量を多くすることによりシート全体をエレクトレット化し易くなる。照射量については、例えば、電子線加速器を用いて10〜2000kGy程度の電子線を照射すればよい。また、放射線については、例えば、1〜15kGy程度のガンマ線を照射すればよい。
【0024】
フッ素含有樹脂シートをエレクトレット化した後、粉砕装置によりシートを粉砕する。粉砕装置としては限定されず、公知のプラスチックフィルム粉砕装置が利用できる。粉砕により得られる粗粉の平均粒子径は限定されないが、0.5〜3mm程度が好ましく、1〜2mm程度がより好ましい。上記平均粒子径の範囲であれば、大画面ディスプレイの泳動粒子として用いる場合でも応答性が良好である。上記過程を経ることにより、均一に負電荷を有するエレクトレット性粗粉が得られる。なお、この平均粒子径は、光学顕微鏡を用いて測定した任意の10個の粗粉の直径の算術平均値である。
【0025】
上記エレクトレット性粗粉は、電極板間に配置し、電極板間に外部電圧を印加することにより電気泳動を示す。このとき、電気泳動媒体は限定されず、空気中をはじめ液体媒体を用いることもできる。液体媒体としては、例えば、エチレングリコール(EG)、プロピレングリコール(PG)、グリセリン、シリコーンオイル、フッ素系オイル、石油系オイル等が挙げられる。上記シリコーンオイルとしてはジメチルシリコーンオイル等が挙げられる。また、上記フッ素系オイルとしてはパーフルオロポリエーテルオイル等が挙げられる。これらの媒体の中でも、特にシリコーンオイルが好ましい。
【0026】
上記エレクトレット性粗粉は、異型粒子であるため、画面に対して点で表示する従来の球状微粒子と比べて面で表示できるため、表示面積が大きく、しかも粗粉どうしの間に隙間が生じにくいという利点がある。
【発明の効果】
【0027】
本発明のエレクトレット性粗粉の製造方法は、特にフッ素含有樹脂シートを先にエレクトレット化した後、前記シートを粉砕することにより、均質にエレクトレット化された所望の大きさの粗粉を効率的に製造することができる。特に電子線又は放射線を照射した後に粉砕しているため、照射によりフッ素含有樹脂シートがエレクトレット化しているだけでなく材料的に脆くなって粉砕し易くなっている点でも効率的である。得られたエレクトレット粗粉は、特に大画面ディスプレイの泳動粒子として有用である。その他、エレクトレット繊維、不織布、濾材(フィルタ)、集塵袋、エレクトレットコンデンサマイクロフォン等の材料としても有用である。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】エレクトレット化したPTFEシートを粉砕して得られる粗粉の一例である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下に調製例及び試験例を示して本発明を具体的に説明する。但し本発明は調製例及び試験例に限定されない。
【0030】
調製例1〜11
フッ素含有樹脂シートに電子線照射することによりエレクトレット化した後、フッ素含有樹脂シートを粉砕することによりエレクトレット性粗粉を調製した。
【0031】
フッ素含有樹脂シートの種類、電子線の加速電圧、照射線量、並びに、フッ素含有樹脂シートの厚み及び粗粉の平均粒子径を下記表1に示す。
【0032】
【表1】

【0033】
試験例1(電気泳動試験)
調製例1〜11で得られたエレクトレット性粗粉をそれぞれ白色絶縁性液体(シリコーンオイル、KF96L−0.65、信越化学工業製)に分散した。
【0034】
7cm四方のPETフィルム(テイジン製マイラー850、厚み15〜30μm)に各分散液を2ccずつ包含し、四方をヒートシールした。全体の厚みは0.5〜1μmとなるようにした。これにより、エレクトレット性粗粉分散液(11種類)のサンプルを得た。
【0035】
比較のため、電子線照射をしないサンプル(11種類)も作製した。
【0036】
各サンプル及び比較サンプルの両端をクリップで挟み、高圧電源の端子につないだ。クリップ間に2000Vの電圧をかけて電気泳動の様子を観察した。
【0037】
その結果、エレクトレット化した各サンプルは、規則的且つ高速に電気泳動し、全て+極に移動した。他方、エレクトレット化しない各サンプルは、不規則に電気泳動し、+極に移動するものや−極に移動するものがあった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フッ素含有樹脂シートに電子線又は放射線を照射することにより前記シートをエレクトレット化した後、前記シートを粉砕するエレクトレット性粗粉の製造方法。
【請求項2】
前記フッ素含有樹脂シートは、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体シート(FEP)、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体シート(PFA)及びポリテトラフルオロエチレンシート(PTFE)からなる群から選択される少なくとも1種である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記エレクトレット性粗粉の平均粒子径が0.5〜3mmである、請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記エレクトレット性粗粉は、顔料を含有する、請求項1〜3のいずれかに記載の製造方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の製造方法により得られるエレクトレット性粗粉。
【請求項6】
請求項5に記載のエレクトレット性粗粉を空気中で電極板間に配置し、前記電極板間に外部電圧を印加する電気泳動方法。
【請求項7】
請求項5に記載のエレクトレット性粗粉をシリコーンオイル中で電極板間に配置し、前記電極板間に外部電圧を印加する電気泳動方法。

【図1】
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【公開番号】特開2011−168678(P2011−168678A)
【公開日】平成23年9月1日(2011.9.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−32868(P2010−32868)
【出願日】平成22年2月17日(2010.2.17)
【出願人】(390039734)株式会社サクラクレパス (211)
【Fターム(参考)】