説明

エレクトロクロミックミラー

【課題】反射膜に銀を用いても、エレクトロクロミック膜での銀の拡散を防止又は極めて効果的に抑制できるエレクトロクロミックミラーを得る。
【解決手段】本エレクトロクロミックミラー140では、エレクトロクロミック膜16と光反射膜146との間にリチウムイオン透過膜144を設けているため、エレクトロクロミック膜16への銀の拡散が防止又は効果的に抑制される。これにより、銀又は銀を含む合金により光反射膜146を形成しても、エレクトロクロミック膜16の黄変を防止又は効果的に抑制でき、長期に亘り品質を良好に保つことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、車両の後方確認用としてアウタミラーやインナミラーに用いられて電圧を印加することにより反射率を可変できるエレクトロクロミックミラーに関する。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1に開示されたエレクトロクロミックミラーでは、光反射膜にパラジウムの膜を使用している。
【特許文献1】米国特許3844636号の明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、パラジウムは反射率が比較的低いことから、銀膜の使用が検討されている。しかしながら、エレクトロクロミック膜を三酸化タングステンで形成した場合、エレクトロクロミック膜に銀が拡散することで三酸化タングステンが黄変する可能性がある。
【0004】
本発明は、上記事実を考慮して、反射膜に銀を用いても、エレクトロクロミック膜での銀の拡散を防止又は極めて効果的に抑制できるエレクトロクロミックミラーを得ることが目的である。
【課題を解決するための手段】
【0005】
請求項1に記載の本発明に係るエレクトロクロミックミラーは、光の透過が可能で且つ導電性を有する透明電極膜と、前記透明電極膜の厚さ方向一方の側に形成されて還元反応することで着色されるエレクトロクロミック膜と、銀又は銀を含む合金により形成されて前記透明電極膜及び前記エレクトロクロミック膜を透過した光を反射する光反射膜と、前記エレクトロクロミック膜と前記光反射膜との間に設けられ、前記リチウムイオンを透過すると共に前記光反射膜の側から前記エレクトロクロミック膜の側への銀の拡散を規制する透明のリチウムイオン透過膜と、前記透明電極膜の厚さ方向一方の側で前記光反射膜の前記リチウムイオン透過膜とは反対側に設けられた導電性を有する導電性膜と、リチウムイオンを含めて構成されて前記光反射膜と前記導電性膜との間に封入され、前記導電性膜を正とし前記透明電極膜を負として電圧を印加することで前記リチウムイオンが前記エレクトロクロミック膜の側へ移動して、前記エレクトロクロミック膜の還元反応に供される電解液と、を備えている。
【0006】
請求項1に記載の本発明に係るエレクトロクロミックミラーでは、透明電極膜、エレクトロクロミック膜、及びリチウムイオン透過膜を透過した光が光反射膜により反射される。
【0007】
また、導電性膜を正として透明電極膜を負として電圧を印加すると、導電性膜と光反射膜との間に封入された電解液のリチウムイオンがエレクトロクロミック膜の側へ移動する。エレクトロクロミック膜の側へリチウムイオンが移動することでエレクトロクロミック膜が還元反応し、この還元反応によりエレクトロクロミック膜が着色される。このようにしてエレクトロクロミック膜が着色されることでエレクトロクロミック膜における光の透過率が低下する。
【0008】
さらに、本発明に係るエレクトロクロミックミラーでは、光反射膜に銀又は銀を含む合金により形成されているが、光反射膜とエレクトロクロミック膜との間に設けられたリチウムイオン透過膜によってエレクトロクロミック膜への銀の拡散が規制される。このため、銀がエレクトロクロミック膜に拡散すること起因した不具合の発生を防止又は効果的に抑制できる。
【0009】
請求項2に記載の本発明に係るエレクトロクロミックミラーは、請求項1に記載の本発明において、前記透明電極膜に前記光反射膜を電気的に接続したことを特徴としている。
【0010】
請求項2に記載の本発明に係るエレクトロクロミックミラーでは、透明電極膜に光反射膜が電気的に接続される。このため、電圧を印加する際には銀又は銀を含む合金により構成された光反射膜もまた電極として機能する。
【0011】
請求項3に記載の本発明に係るエレクトロクロミックミラーは、請求項1又は請求項2に記載の本発明において、前記電圧の印加状態で電荷を蓄え又は前記電解液中の負イオンと酸化反応することにより前記還元反応を補償する還元反応補償手段を備えることを特徴としている。
【0012】
請求項3に記載の本発明に係るエレクトロクロミックミラーでは、導電性膜を正として光反射膜を負として電圧を印加すると、還元反応補償手段において電荷が蓄えられ、又は、電解液中の負イオンと酸化反応して、エレクトロクロミック膜での還元反応が補償される。
【0013】
請求項4に記載の本発明に係るエレクトロクロミックミラーは、請求項3に記載の本発明において、活性炭を含めて形成されて、前記導電性膜の前記光反射膜の側に設けられたカーボン膜を含めて前記還元補償手段を構成した、ことを特徴としている。
【0014】
請求項4に記載の本発明に係るエレクトロクロミックミラーでは、導電性膜を正として光反射膜を負として電圧を印加すると、電解液の負イオンが導電性膜の光反射膜の側に設けられたカーボン膜の側へ移動して、負イオンがカーボン膜に蓄積される。ここで、カーボン膜は活性炭を含めて形成される。活性炭は多孔質であるが故に表面積が大きいため、多くの負イオンを蓄積できる。
【0015】
これにより、上記の導電性膜及び光反射膜に印加する電圧が低くてもエレクトロクロミック膜で充分に還元反応を起こさせることができる。しかも、このように低電圧でもエレクトロクロミック膜で還元反応を起こさせることができるため、電圧印加終了後にエレクトロクロミック膜を容易に消色できる。
【0016】
請求項5に記載の本発明に係るエレクトロクロミックミラーは、請求項3に記載の本発明において、導電性ポリマ又はレドックスポリマにより形成されて、前記導電性膜の前記光反射膜の側に設けられて、前記電圧が印加されることで前記導電性膜の側へ移動した負イオンにより酸化される負イオン反応膜を含めて前記還元補償手段を構成した、ことを特徴としている。
【0017】
請求項5に記載の本発明に係るエレクトロクロミックミラーでは、導電性膜を正として光反射膜を負として電圧を印加すると、電解液の負イオンが導電性ポリマ又はレドックスポリマにより形成された負イオン反応膜の側へ移動して、負イオンにより負イオン反応膜が酸化される。
【0018】
このように、負イオン反応膜を導電性ポリマ又はレドックスポリマにより形成したことで、多くの負イオンが負イオン反応膜の酸化に供されるので、上記の導電性膜及び光反射膜に印加する電圧が低くてもエレクトロクロミック膜で充分に還元反応を起こさせることができる。しかも、このように低電圧でもエレクトロクロミック膜で還元反応を起こさせることができるため、電圧印加終了後にエレクトロクロミック膜を容易に消色できる。
【0019】
請求項6に記載の本発明に係るエレクトロクロミックミラーは、請求項3に記載の本発明において、銀又は銀を含む合金により前記導電性膜を形成すると共に、前記導電性膜を正とし前記第1及び第2導電性反射膜を負として電圧を印加した際に前記導電性膜を形成する銀のイオンと反応する難溶性塩の負イオンを含めて前記電解液を形成し、更に、難溶性塩により形成されて、前記導電性膜の前記光反射膜の側に設けられ、前記電圧が印加されることで前記導電性膜の側へ移動した前記難溶性塩の負イオンと前記導電性膜を構成する銀のイオンとの反応により形成される析出物を析出させる析出膜を設け、前記導電性膜を形成する銀、前記電解液を構成する負イオン、及び前記析出膜を含めて前記還元反応補償手段を構成した、ことを特徴としている。
【0020】
請求項6に記載の本発明に係るエレクトロクロミックミラーでは、導電性膜を正として光反射膜を負として電圧を印加すると、電解液を構成する難溶性塩の負イオンが導電性膜の側へ移動する。この難溶性塩の負イオンは導電性膜を構成する銀のイオンと反応し、導電性膜の光反射膜とは反対側に設けられた難溶性塩の析出膜上で析出される。
【0021】
このように、エレクトロクロミック膜での還元反応に対応した酸化反応を導電性膜と析出膜とで充分に生じさせることができるので、上記の導電性膜及び光反射膜に印加する電圧が低くてもエレクトロクロミック膜で充分に還元反応を起こさせることができる。しかも、このように低電圧でもエレクトロクロミック膜で還元反応を起こさせることができるため、電圧印加終了後にエレクトロクロミック膜を容易に消色できる。
【0022】
請求項7に記載の本発明に係るエレクトロクロミックミラーは、請求項3に記載の本発明において、中性分子又は負イオンにより酸化可能で前記導電性膜を正とし前記第1及び第2導電性反射膜を負として電圧を印加することで酸化反応する反応材料を含めて前記電解液を構成し、前記反応材料を含めて前記還元反応補償手段を構成した、ことを特徴としている。
【0023】
請求項7に記載の本発明に係るエレクトロクロミックミラーでは、リチウムイオンの他に中性分子又は負イオンにより酸化可能な反応材料を含めて電解液が構成されており、導電性膜を正として光反射膜を負として電圧を印加すると、電解液を構成する反応材料に酸化反応が生じる。このため、上記のエレクトロクロミック膜での還元反応が補償され、上記の導電性膜及び第1及び第2導電性反射膜に印加する電圧が低くてもエレクトロクロミック膜で充分に還元反応を起こさせることができる。
【0024】
しかも、このように低電圧でもエレクトロクロミック膜で還元反応を起こさせることができるため、電圧印加終了後にエレクトロクロミック膜を容易に消色できる。
【発明の効果】
【0025】
以上説明したように、本発明に係るエレクトロクロミックミラーでは、反射膜に銀を用いても、エレクトロクロミック膜での銀の拡散を防止又は極めて効果的に抑制できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
<第1の実施の形態の構成>
図1には本発明の第1の実施の形態に係るエレクトロクロミックミラー140の構成が概略的な断面図により示されている。
【0027】
この図に示されるように、エレクトロクロミックミラー140は表面側基板12を備えている。表面側基板12はガラス等により形成された透明の基板本体14を備えている。この基板本体14の厚さ方向一方(図1の矢印W方向)側の面にはエレクトロクロミック膜16が形成されている。エレクトロクロミック膜16は、例えば、三酸化タングステン(WO)や三酸化タングステン(MoO)、又は、このような酸化物が含まれる混合物により形成されており、特に、本実施の形態では、三酸化タングステンによりエレクトロクロミック膜16が形成されている。
【0028】
基板本体14の厚さ方向に沿ったエレクトロクロミック膜16の厚さは300nm以上1000nm以下の範囲で設定され、特に、本実施の形態ではエレクトロクロミック膜16の厚さは500nmに設定されている。また、基板本体14とエレクトロクロミック膜16との間に透明の透明電極膜142が設けられている。透明電極膜142は、インジウムチンオキサイド(In:Sn、所謂「ITO」)や酸化スズ(SnO)、フッ素ドープ酸化スズ(SnO:F)、酸化亜鉛(ZnO)等、更にはこれらの混合物により形成されている。この透明電極膜142にはスイッチ42を介して直流電源44の負極に接続されている。
【0029】
一方、エレクトロクロミック膜16の透明電極膜142とは反対側の面には透明のリチウムイオン透過膜144が形成されている。リチウムイオン透過膜144はフッ化リチウムやフッ化マグネシウムにより形成されており、スイッチ42がON状態になった場合には、電解液34のリチウムイオン(Li)が透過する。さらに、リチウムイオン透過膜144のエレクトロクロミック膜16とは反対側の面には、銀や銀を含む合金により構成された光反射膜146が形成されている。
【0030】
以上の構成の表面側基板12の厚さ方向一方の側には裏面側基板24が表面側基板12と対向するように設けられている。裏面側基板24はガラス等により形成された透明の基板本体26を備えている。この基板本体26の厚さ方向他方、すなわち、表面側基板12の側の面には導電性膜28が形成されている。導電性膜28は、クロム(Cr)やニッケル(Ni)等の金属や、インジウムチンオキサイド(In:Sn、所謂「ITO」)や酸化スズ(SnO)、フッ素ドープ酸化スズ(SnO:F)、酸化亜鉛(ZnO)等、更にはこれらの混合物により形成されている。
【0031】
この導電性膜28の表面側基板12の側の面には導電性を有するカーボン膜30が形成されている。カーボン膜30はフェノール樹脂やポリイミド樹脂、又はアクリル等の合成樹脂材をバイダとして有している。また、これらのバインダの他にカーボン膜30はグラファイト、カーボンブラック、及び活性炭の混合物により形成されており、特に、この混合物には活性炭が50重量パーセント以上含まれている。
【0032】
基板本体26の厚さ方向に沿ったカーボン膜30の厚さ寸法は50μm以上とされており、以上の構成のカーボン膜30は静電容量が10mF/cm以上又は電荷蓄積容量が1.5Vの電圧で15mQ/cm以上に設定され、特に本実施の形態では、静電容量が20mF/cm又は電荷蓄積容量が1.5Vの電圧で30mQ/cmに設定されている。
【0033】
以上の構成の表面側基板12と裏面側基板24との間には所定の隙間が形成されていると共に、表面側基板12の外周部と裏面側基板24の外周部との間は封止材32により封止されている。表面側基板12、裏面側基板24、及び封止材32により囲まれた空間内には電解液34が封入されている。電解液34は、炭酸プロピレン、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ジエチルカーボネート、γブチロラクトン、ジメチルフォルムアミド等、又はこれらの混合物により形成された溶媒を有しており、特に、本実施の形態では炭酸プロピレンが溶媒として用いられている。
【0034】
このような溶媒の他に、電解液34は、過塩素酸リチウム(LiClO)、六フッ化リン酸リチウム(LiPF)、四フッ化ホウ酸リチウム(LiBF)、リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(LiN(SOCF)、リチウムビス(ペンタフルオロエタンスルホニル)イミド(LiN(SO)、トリフルオロメタンスルホン酸リチウム(LiCFSO)等やこれらの混合物を電解質として有しており、特に、本実施の形態では過塩素酸リチウムが電解質として用いられている。
【0035】
さらに、以上の構成のエレクトロクロミックミラー140の導電性膜28は、回路40を構成するスイッチ42に接続されている。スイッチ42は、ON状態で接続される端子に車両に搭載されるバッテリー等で構成され定格電圧が1.3V程度の直流電源44の正極が接続されている。この直流電源44の負極は透明電極膜142に接続されている。また、スイッチ42がOFF状態で接続される端子は、上記の直流電源44を介さずに透明電極膜142に接続されており、OFF状態では導電性膜28と透明電極膜142とが短絡される。
【0036】
<第1の実施の形態の作用、効果>
以上の構成のエレクトロクロミックミラー140では、スイッチ42のOFF状態では、透明電極膜142、エレクトロクロミック膜16、リチウムイオン透過膜144が略透明となっており、このため、基板本体14のエレクトロクロミック膜16とは反対側から入射した光は、基板本体14、透明電極膜142、エレクトロクロミック膜16、リチウムイオン透過膜144を透過して光反射膜146にて反射される。さらに、光反射膜146にて反射された光はリチウムイオン透過膜144、エレクトロクロミック膜16、透明電極膜142、及び基板本体14を透過する。
【0037】
一方、スイッチ42をON状態に切り替えると、回路40を透明電極膜142の側に移動した電子(e)がエレクトロクロミック膜16に侵入すると共に、電解液34の電解質を構成するリチウムイオン(Li)が光反射膜146及びリチウムイオン透過膜144を透過してエレクトロクロミック膜16に侵入する。これにより、エレクトロクロミック膜16では以下の式1の還元反応が生じ、所謂タングステンブロンズと称される青色のLiWOがエレクトロクロミック膜16で形成される。
【0038】
Li+e+WO→LiWO・・・(式1)
このようにしてエレクトロクロミック膜16が青色に着色されることでエレクトロクロミック膜16が着色される前に比べて反射率が低下する。
【0039】
さらに、以上の還元反応が生じる際には、カーボン膜30を構成する炭素から直流電源44の側へ電子(e)が移動し、これにより、電解質を構成する過塩素酸リチウムの負イオン(ClO)がカーボン膜30の側へ移動する。これにより、上記の還元反応に対する以下の式2のような補償反応が生じる。
【0040】
ClO+C−e→C・ClO・・・(式2)
ここで、図2には、LiWOにおけるXと、光の反射率との関係がグラフにより示されている。なお、このグラフにおいては、X=0、すなわち、三酸化タングステンが透明の場合を1として規格化されている。このグラフに示されるように、反射率はX=0.15以上で概ね飽和し、したがって、X=0.15〜0.2程度でエレクトロクロミック膜16に充分な着色が成される。
【0041】
一方、図3にはエレクトロクロミック膜16の膜厚と反射率との関係がグラフにより示されている。なお、このグラフにおいては、エレクトロクロミック膜16がないときの反射率を1として規格化されている。このグラフに示されるように、反射率はエレクトロクロミック膜16の膜厚が300nmまでで急激に低下し、500nmで飽和するため、エレクトロクロミック膜16の膜厚は300nm以上500nm以下の範囲に設定されることが好ましい。
【0042】
ここで、LiWOのXの値をX=0.15、エレクトロクロミック膜16の膜厚をd=500nm、エレクトロクロミック膜16を構成する三酸化タングステンのバルク密度をρ=7.18g/cm、エレクトロクロミック膜16を構成する三酸化タングステンの空孔度をP=0.8、ファラデー定数をF=96485.3415Q/mol、三酸化タングステンの分子量をM=231.9molとして以下の式3に代入すると電荷蓄積容量Q=17.92mQ/cmとなり、更に、印加電圧をV=1.3として、式3の結果(すなわち、Q=17.92mQ/cm)を以下の式4に代入すると、静電容量C=13.79mF/cmとなる。
【0043】
Q=(X・d・ρ・P・F)/M・・・(式3)
C=Q/V・・・(式4)
すなわち、エレクトロクロミック膜16において充分に着色されるための還元反応には、上記の式3で求められる電荷蓄積容量、及び、式4で求められる静電容量が必要になる。ここで、本実施の形態では、カーボン膜30は活性炭を含めて構成されている。活性炭は多孔質であるが故に表面積が大きい。このため、多くの負イオン及び正電荷の蓄積能力を有しており、これにより、カーボン膜30の静電容量を20mF/cm又は電荷蓄積容量を1.5Vの電圧で30mQ/cmに設定できる。
【0044】
このように、本実施の形態では、静電容量及び電荷蓄積容量共に上記の式3及び式4での計算結果よりも充分に大きい。このため、エレクトロクロミック膜16において充分な還元反応を生じさせることができ、この結果、上記のように、スイッチ42をON状態として電圧を印加することでエレクトロクロミック膜16を充分に着色できる。
【0045】
また、カーボン膜30には、活性炭のみならず、グラファイトとカーボンインクが含まれており、これにより、カーボン膜30は充分な導電性が付与され、カーボン膜30における反応を早くできる。
【0046】
さらに、本実施の形態では、エレクトロクロミック膜16を着色するに際して印加する電圧を1.3Vと低くできる。このため、スイッチ42をOFF状態にして透明電極膜142と導電性膜28とを短絡させると上記の式1及び式2とは逆向きの反応が生じ、エレクトロクロミック膜16が素早く消色される。
【0047】
ここで、本実施の形態では、光反射膜146が銀又は銀を含む合金により形成される。三酸化タングステンにより形成されたエレクトロクロミック膜16に直接銀又は銀を含む合金により形成された光反射膜146を形成すると、光反射膜146の銀がエレクトロクロミック膜16の三酸化タングステンに拡散し、三酸化タングステンが黄変する可能性がある。
【0048】
しかしながら、本実施の形態では、エレクトロクロミック膜16と光反射膜146との間にリチウムイオン透過膜144を設けているため、エレクトロクロミック膜16への銀の拡散が防止又は効果的に抑制される。これにより、銀又は銀を含む合金により光反射膜146を形成しても、エレクトロクロミック膜16の黄変を防止又は効果的に抑制でき、長期に亘り品質を良好に保つことができる。
【0049】
以上のようなエレクトロクロミックミラー140を、例えば、車両における後方確認用のインナミラー(ルームミラー)やアウタミラー(ドアミラーやフェンダーミラー)等のミラー本体に用いると、昼間時にはスイッチ42をOFF状態で維持して高い反射率で後方を確認でき、夜間時等に後方の車両がヘッドライトを点灯させている場合には、スイッチ42をON状態に切り換えてエレクトロクロミック膜16を着色し、反射率を低下させることで、ヘッドライトの反射光を低減でき、眩しさが低下する。
【0050】
<第2の実施の形態の構成>
次に、本発明のその他の実施の形態について説明する。なお、以下の各実施の形態を説明するにあたり、前記第1の実施の形態を含めて説明している実施の形態よりも前出の実施の形態と基本的に同一の部位に関しては、同一の符号を付与してその詳細な説明を省略する。
【0051】
図4には本実施の形態に係るエレクトロクロミックミラー160の構成が概略的な断面図により示されている。
【0052】
この図に示されるように、エレクトロクロミックミラー160は基本的に前記第5の実施の形態に係るエレクトロクロミックミラー140と同じ構成であるが、エレクトロクロミックミラー160は光反射膜146を備えておらず、代わりに光反射膜166を備えている。光反射膜166は銀や銀を含む合金により構成されている点で光反射膜146と同じであるが、外周縁が透明電極膜142の外周縁に接触し、電気的に導通している。
【0053】
<第2の実施の形態の作用、効果>
以上の構成のエレクトロクロミックミラー160では、銀や銀を含む合金により形成された光反射膜166の外周縁が透明電極膜142の外周縁に接触し、電気的に接続されているため、スイッチ42をON状態に切り替えた際には光反射膜166を電極として機能させることができる。
【0054】
なお、本実施の形態は、光反射膜146に変えて光反射膜166を設けた点以外は基本的に前記第1の実施の形態と同じ構成であるため、前記第1の実施の形態と同様の作用を奏し、同様の効果を得ることができる。
【0055】
<第3の実施の形態の構成>
次に、本発明の第3の実施の形態ついて説明する。
【0056】
図5には本実施の形態に係るエレクトロクロミックミラー210の構成が概略的な断面図により示されている。
【0057】
この図に示されるように、エレクトロクロミックミラー210はカーボン膜30を備えておらず、代わりに還元反応補償手段としての負イオン反応膜212が形成されている。負イオン反応膜212はポリピロール、ポリアニリン、ポリアセチレン、ポリチオフェン、ポリパラピレン、ポリフラン等の導電性ポリマ、又は、ポリビニルフェロセン等のレドックスポリマにより形成されている。例えば、ポリピロールを負イオン反応膜212として用いる場合には、ピロールを溶媒に溶かして基板本体26に塗布することで形成される。また、ポリビニルフェロセンを負イオン反応膜212として用いる場合には、ビニルフェロセンを溶媒に溶かして基板本体26に塗布することで形成される。この負イオン反応膜212の質量は0.012mg/cm以上となるように設定されている。
【0058】
<第3の実施の形態の作用、効果>
本エレクトロクロミックミラー210では、スイッチ42をON状態に切り替えることで、上記式1の還元反応がエレクトロクロミック膜16で生じる際には、負イオン反応膜212を構成する導電性ポリマ又はレドックスポリマが酸化されて正の電荷を帯びる。これにより、電解質を構成する過塩素酸リチウムの負イオン(ClO)が負イオン反応膜212に侵入して電荷バランスをとる。このように、上記の還元反応に対して、負イオン反応膜212がポリピロールにより形成されていれば以下の式5aのような補償反応が生じ、負イオン反応膜212がポリビニルフェロセンにより形成されていれば以下の式5bのような補償反応が生じ、
ClO+PPy−e→PPy・ClO・・・(式5a)
ClO+PVF−e→PVF・ClO・・・(式5b)
なお、式5aにおいてPPyはポリピロールを指し、式5aにおいてPVFはポリビニルフェロセンを指す。
【0059】
ここで、LiWOのXの値をX=0.15、エレクトロクロミック膜16の膜厚をd=500nm、エレクトロクロミック膜16を構成する三酸化タングステンのバルク密度をρ=7.18g/cm、エレクトロクロミック膜16を構成する三酸化タングステンの空孔度をP=0.8、三酸化タングステンの分子量をM=231.9molとして以下の式6に代入すると、三酸化タングステンの反応量(モル数)n=1.86mM/cmとなる。
【0060】
n=(X・d・ρ・P)/M・・・(式6)
さらに、負イオン反応膜212を構成する導電性ポリマ又はレドックスポリマも上記のnと同じモル数だけ反応しなくてはならない。したがって、負イオン反応膜212に用いられる導電性ポリマ又はレドックスポリマのモノマー当たりの分子量をM=65.07g/molとして以下の式7に代入すると、m=0.012mg/cmの質量の導電性ポリマ又はレドックスポリマが必要になる。
【0061】
m=n・M・・・(式7)
ここで、本実施の形態では、負イオン反応膜212はm=0.012mg/cm以上に設定されている。このため、エレクトロクロミック膜16において充分な還元反応を生じさせることができ、この結果、上記のように、スイッチ42をON状態として電圧を印加することでエレクトロクロミック膜16を充分に着色できる。
【0062】
さらに、本実施の形態では、エレクトロクロミック膜16を着色するに際して印加する電圧を1.3Vと低くできる。このため、スイッチ42をOFF状態にして透明電極膜142と導電性膜28とを短絡させると上記の式1、式5a又は式5bとは逆向きの反応が生じ、エレクトロクロミック膜16が素早く消色される。
【0063】
以上のようなエレクトロクロミックミラー210を、例えば、車両における後方確認用のインナミラー(ルームミラー)やアウタミラー(ドアミラーやフェンダーミラー)等のミラー本体に用いると、昼間時にはスイッチ42をOFF状態で維持して高い反射率で後方を確認でき、夜間時等に後方の車両がヘッドライトを点灯させている場合には、スイッチ42をON状態に切り換えてエレクトロクロミック膜16を着色し、反射率を低下させることで、ヘッドライトの反射光を低減でき、眩しさが低下する。
【0064】
<第4の実施の形態の構成>
図6には本発明の第4の実施の形態に係るエレクトロクロミックミラー220の構成が概略的な断面図により示されている。
【0065】
この図に示されるように、エレクトロクロミックミラー220では導電性膜28が銀(Ag)により形成されている。この導電性膜28の表面側基板12の側の面にはカーボン膜30が形成されておらず、代わりに析出膜として還元反応補償手段を構成する難溶性塩膜224が形成されている。難溶性塩膜224は塩化銀、塩化臭素、塩化チオシアン酸等により形成されており、特に、本実施の形態では難溶性塩膜224が塩化銀により形成されている。
【0066】
<第4の実施の形態の作用、効果>
本エレクトロクロミックミラー220では、スイッチ42をON状態に切り替えることで、上記式1の還元反応がエレクトロクロミック膜16で生じる際には、以下の式8に示されるように、導電性膜28を形成する銀(Ag)に電解質を構成する過塩素酸リチウムの負イオン(Cl)が反応し、これにより、塩化銀(AgCl)が生成され、塩化銀により形成された難溶性塩膜224上に析出される。これにより、上記の還元反応に応じた補償がなされる。
【0067】
Cl+Ag−e→AgCl・・・(式8)
このように、本実施の形態では、エレクトロクロミック膜16における還元反応に対して保障反応が確実に生じるので、エレクトロクロミック膜16を着色するに際して印加する電圧を1.3Vと低くできる。このため、スイッチ42をOFF状態にして透明電極膜142と導電性膜28とを短絡させると上記の式1及び式8とは逆向きの反応が生じ、エレクトロクロミック膜16が素早く消色される。
【0068】
以上のようなエレクトロクロミックミラー220を、例えば、車両における後方確認用のインナミラー(ルームミラー)やアウタミラー(ドアミラーやフェンダーミラー)等のミラー本体に用いると、昼間時にスイッチ42をOFF状態で維持して高い反射率で後方を確認でき、夜間時等に後方の車両がヘッドライトを点灯させている場合には、スイッチ42をON状態に切り換えてエレクトロクロミック膜16を着色し、反射率を低下させることで、ヘッドライトの反射光を低減でき、眩しさが低下する。
【0069】
<第5の実施の形態の構成>
図7には本発明の第5の実施の形態に係るエレクトロクロミックミラー240の構成が概略的な断面図により示されている。
【0070】
この図に示されるように、エレクトロクロミックミラー240では導電性膜28の表面側基板12の側の面にはカーボン膜30が形成されていない。また、電解液34に代わり電解液244が表面側基板12と裏面側基板24との間に封入されている。
【0071】
電解液244には、電解液34を構成する材質の他に、還元反応補償手段を構成する酸化剤としての中性物質であるフェロセン(Fe(C)が含まれている。
【0072】
<第5の実施の形態の作用、効果>
本エレクトロクロミックミラー240では、スイッチ42をON状態に切り替えることで、上記式1の還元反応がエレクトロクロミック膜16で生じる際には、以下の式9に示されるように、電解液244に含まれるフェロセンが正の電荷を帯びる。これにより、上記の還元反応に応じた補償がなされる。
【0073】
Fe(C→〔Fe(C・・・(式9)
このように、本実施の形態では、エレクトロクロミック膜16における還元反応に対して保障反応が確実に生じるので、エレクトロクロミック膜16を着色するに際して印加する電圧を1.3Vと低くできる。このため、スイッチ42をOFF状態にして透明電極膜142と導電性膜28とを短絡させると上記の式1及び式9とは逆向きの反応が生じ、エレクトロクロミック膜16が素早く消色される。
【0074】
以上のようなエレクトロクロミックミラー240を、例えば、車両における後方確認用のインナミラー(ルームミラー)やアウタミラー(ドアミラーやフェンダーミラー)等のミラー本体に用いると、昼間時にスイッチ42をOFF状態で維持して高い反射率で後方を確認でき、夜間時等に後方の車両がヘッドライトを点灯させている場合には、スイッチ42をON状態に切り換えてエレクトロクロミック膜16を着色し、反射率を低下させることで、ヘッドライトの反射光を低減でき、眩しさが低下する。
【0075】
なお、上記の第3の実施の形態から第5の実施の形態は、第1の実施の形態の変形例であったが、第3の実施の形態から第5の実施の形態を第2の実施の形態の変形例とする構成としてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0076】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係るエレクトロクロミックミラーの構成の概略を示す断面図である。
【図2】LiWOにおけるXと、光の反射率との関係がグラフにより示されている。
【図3】エレクトロクロミック膜16の膜厚と反射率との関係がグラフにより示されている。
【図4】本発明の第2の実施の形態に係るエレクトロクロミックミラーの構成の概略を示す断面図である。
【図5】本発明の第3の実施の形態に係るエレクトロクロミックミラーの構成の概略を示す断面図である。
【図6】本発明の第4の実施の形態に係るエレクトロクロミックミラーの構成の概略を示す断面図である。
【図7】本発明の第5の実施の形態に係るエレクトロクロミックミラーの構成の概略を示す断面図である。
【符号の説明】
【0077】
140 エレクトロクロミックミラー
16 エレクトロクロミック膜
28 導電性膜
30 カーボン膜(還元反応補償手段)
34 電解液
142 透明電極膜
144 リチウムイオン透過膜
146 光反射膜
160 エレクトロクロミックミラー
166 光反射膜
210 エレクトロクロミックミラー
212 負イオン反応膜(還元反応補償手段)
220 エレクトロクロミックミラー
224 難溶性塩膜(析出膜、還元反応補償手段)
240 エレクトロクロミックミラー
244 電解液(還元反応補償手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光の透過が可能で且つ導電性を有する透明電極膜と、
前記透明電極膜の厚さ方向一方の側に形成されて還元反応することで着色されるエレクトロクロミック膜と、
銀又は銀を含む合金により形成されて前記透明電極膜及び前記エレクトロクロミック膜を透過した光を反射する光反射膜と、
前記エレクトロクロミック膜と前記光反射膜との間に設けられ、前記リチウムイオンを透過すると共に前記光反射膜の側から前記エレクトロクロミック膜の側への銀の拡散を規制する透明のリチウムイオン透過膜と、
前記透明電極膜の厚さ方向一方の側で前記光反射膜の前記リチウムイオン透過膜とは反対側に設けられた導電性を有する導電性膜と、
リチウムイオンを含めて構成されて前記光反射膜と前記導電性膜との間に封入され、前記導電性膜を正とし前記透明電極膜を負として電圧を印加することで前記リチウムイオンが前記エレクトロクロミック膜の側へ移動して、前記エレクトロクロミック膜の還元反応に供される電解液と、
を備えるエレクトロクロミックミラー。
【請求項2】
前記透明電極膜に前記光反射膜を電気的に接続したことを特徴とする請求項1に記載のエレクトロクロミックミラー。
【請求項3】
前記電圧の印加状態で電荷を蓄え又は前記電解液中の負イオンと酸化反応することにより前記還元反応を補償する還元反応補償手段を備えることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のエレクトロクロミックミラー。
【請求項4】
活性炭を含めて形成されて、前記導電性膜の前記光反射膜の側に設けられたカーボン膜を含めて前記還元補償手段を構成した、
ことを特徴とする請求項3に記載のエレクトロクロミックミラー。
【請求項5】
導電性ポリマ又はレドックスポリマにより形成されて、前記導電性膜の前記光反射膜の側に設けられて、前記電圧が印加されることで前記導電性膜の側へ移動した負イオンにより酸化される負イオン反応膜を含めて前記還元補償手段を構成した、
ことを特徴とする請求項3に記載のエレクトロクロミックミラー。
【請求項6】
銀又は銀を含む合金により前記導電性膜を形成すると共に、前記導電性膜を正とし前記第1及び第2導電性反射膜を負として電圧を印加した際に前記導電性膜を形成する銀のイオンと反応する難溶性塩の負イオンを含めて前記電解液を形成し、更に、難溶性塩により形成されて、前記導電性膜の前記光反射膜の側に設けられ、前記電圧が印加されることで前記導電性膜の側へ移動した前記難溶性塩の負イオンと前記導電性膜を構成する銀のイオンとの反応により形成される析出物を析出させる析出膜を設け、前記導電性膜を形成する銀、前記電解液を構成する負イオン、及び前記析出膜を含めて前記還元反応補償手段を構成した、
ことを特徴とする請求項3に記載のエレクトロクロミックミラー。
【請求項7】
中性分子又は負イオンにより酸化可能で前記導電性膜を正とし前記第1及び第2導電性反射膜を負として電圧を印加することで酸化反応する反応材料を含めて前記電解液を構成し、前記反応材料を含めて前記還元反応補償手段を構成した、
ことを特徴とする請求項3に記載のエレクトロクロミックミラー。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−8751(P2009−8751A)
【公開日】平成21年1月15日(2009.1.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−167914(P2007−167914)
【出願日】平成19年6月26日(2007.6.26)
【出願人】(000003551)株式会社東海理化電機製作所 (3,198)
【出願人】(504139662)国立大学法人名古屋大学 (996)
【Fターム(参考)】