説明

エレクトロクロミック装置及びその製造方法

【課題】耐久性、応答性、大型化を含めた生産性に優れたエレクトロクロミック装置を提供する。
【解決手段】電極層11aと、該電極層11aに対向配置される対向電極層12aと、電極層11aと対向電極層12aの間であって電極層11aに接して設けられるエレクトロクロミック層13と、を有するエレクトロクロミック装置において、エレクトロクロミック層13は、酸化ニッケルを主成分とした化合物からなる酸化ニッケル化合物層13bと、酸化ニッケル化合物層13bと電極層11aとの間に設けられ、半導体微粒子13a1が充填されてなる半導体微粒子充填層13aと、を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エレクトロクロミック装置及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電圧を印加することで、可逆的に酸化還元反応が起こり、可逆的に色が変化する現象をエレクトロクロミズム(あるいはエレクトロクロミック)という。このエレクトロクロミズムを利用した装置がエレクトロクロミック装置である。エレクトロクロミック装置にはエレクトロクロミズムの特徴に由来する応用が実現できるとして、今日まで多くの研究がなされている。
【0003】
例としては、着色状態と消色状態を可逆的に変化するために、電極層および対向電極層として透明導電材料を用いることで、着色状態と透明状態を可逆的に変化するエレクトロクロミック装置を得ることが可能である。これによって、調光ガラスやNDフィルタへの応用が期待できる。他の例としては、電極層および対向電極層のいずれか一方に鏡面反射する金属材料を含み、他方に透明導電層を用いることで、高反射状態と低反射状態を可逆的に変化するエレクトロクロミック装置を得ることが可能である。これによって、グレアを抑制する防眩ミラーとしての応用が期待できる。他の例としては、電極層及び対向電極層のいずれか一方に、白色反射する材料を含み、他方に透明導電層を用いることで、高反射状態と低反射状態を可逆的に変化するエレクトロクロミック装置を得ることが可能である。これによって、電子ペーパーをはじめとする各種反射表示型ディスプレイの表示素子としての応用が期待できる。
【0004】
またエレクトロクロミズム現象は、材料の構造や組成などの条件を調整することで酸化状態と還元状態をいずれも安定に保持することが可能という特徴がある(メモリー効果)。この特徴によれば、発光源を用いた表示装置のように常時発光駆動する必要がなく、状態を変化させるときのみ電圧を印加するため、消費エネルギーが小さいという利点がある。例えば表示素子としては、発光源を用いた常時発光駆動する必要がある表示装置と比較すると、消費エネルギーを節約できる。
【0005】
さらに、エレクトロクロミズム現象は、酸化還元反応時に電荷がエレクトロクロミック材料に蓄積されるという特徴がある。この特徴によれば、二次電池としての応用が期待できるため、エレクトロクロミックするラジカル性ポリマーを用いた2次電池も開発されている。
【0006】
このエレクトロクロミックを示す材料としては、有機材料では、ポリマー系、色素系、のエレクトロクロミック化合物として、アゾベンゼン系、アントラキノン系、ジアリールエテン系、ジヒドロプレン系、スチリル系、スチリルスピロピラン系、スピロオキサジン系、スピロチオピラン系、チオインジゴ系、テトラチアフルバレン系、テレフタル酸系、トリフェニルメタン系、トリフェニルアミン系、ナフトピラン系、ビオロゲン系、ピラゾリン系、フェナジン系、フェニレンジアミン系、フェノキサジン系、フェノチアジン系、フタロシアニン系、フルオラン系、フルギド系、ベンゾピラン系、メタロセン系、等の低分子系有機エレクトロクロミック化合物、ポリアニリン、ポリチオフェン、PEDOTPSS等の導電性高分子化合物が用いられる。また無機材料では、WO、Ir(OH)x、MoO、V、TiO、NiO及びLiNiOなどの無機金属酸化物やプルシアンブルーのような無機錯体化合物が用いられる。
【0007】
ここで、有機材料はその分子構造により様々な色彩発色が可能であることから、カラー表示装置として開発されているが、有機物であるため耐久性に課題がある。一方、無機材料は色彩の制御に課題があるが、特に固体電解層を用いた場合、耐久性に優れる。この特徴を利用し、色彩度が低いことが利点となるアプリケーションとして調光ガラスやNDフィルタへの実用化が検討されている。しかし固体電解層を用いた装置では応答速度が遅いという課題がある。
【0008】
また、これらのエレクトロクロミック材料は、一般に対向する2つの電極間に形成され、イオン伝導可能な電解質層が電極間に満たされた構成で酸化還元反応する。エレクトロクロミック装置は、酸化還元反応を利用して発消色を行う原理ゆえに、発消色の応答速度が液晶表示装置に比べて遅いという欠点がある。
【0009】
さらに、エレクトロクロミックは電気化学現象であるため、電解質層の性能(イオン伝導度など)が応答速度や発色のメモリー効果に影響する。従来から電気化学素子としての電池やエレクトロクロミック表示装置においては、電解液を使用しているため、電解液の漏れ、溶媒の揮発による電池内の乾燥があるばかりでなく、電池容器内では、電解液の偏りにより、隔膜が部分的に乾燥状態になり、このことが内部インピーダンスの上昇あるいは内部短絡の原因になっていた。すなわち、電荷質層は電解質を溶媒に溶かした液体状である場合は速い応答性を得やすいが、素子強度・信頼性の点で問題がある。特にエレクトロクロミック装置は、調光ガラスや表示用途に用いる場合、少なくとも一方向は、ガラスやプラスチック等の透明材料で封止する必要があるため、金属等で電解質を完全に密閉してしまうことは困難であり、電解液の漏れや揮発がより大きな問題となる。そのため、電解質層について固体化、ゲル化による改良が検討されている。
【0010】
上述したような欠点を解決するための方法としては、高分子固体電解質を用いることが提案されている。その具体例としてオキシエチレン鎖やオキシプロピレン鎖を含有するマトリックスポリマーと無機塩との固溶体が挙げられるが、これらは完全固体であり、加工性に優れるものの、その電導度は通常の非水電解液にくらべて数桁ほど低いという実用上の課題を有している。また、高分子固体電解質の電導度を向上させるために、高分子に有機電解液を溶解させて半固形状のものにする方法(例えば、特許文献1参照)や、電解質を加えた液状モノマーを重合反応させて電解質を含む架橋重合体とする方法が提案されているが実用レベルには至っていない。
【0011】
有機エレクトロクロミック化合物では、特許文献2において有機エレクトロクロミック化合物を電極近傍に固定させることによって発消色の応答速度の改善を図った例が記載されている。特許文献2の記載によれば、従来数10秒程度だった発消色に要する時間は、無色から青色への発色時間、青色から無色への消色時間は、ともに1秒程度まで向上している。しかし、耐久性の課題は解決されていない。
【0012】
また、有機エレクトロクロミック化合物を用いた別の例では、特許文献3において有機エレクトロクロミック材料の反応を支援する電子シャトル材料を用いることによって、発消色の応答速度の改善を図った例が記載されている。該特許文献3の記載によれば、防眩ミラーとしての応答速度が15%短縮されたとしているが、透過率の変化には10秒程度要しており、依然として応答速度には課題がある。
【0013】
一方、無機エレクトロクロミック化合物では、特許文献4において還元発色層と酸化発色層を固体電解質層を挟んで対向配置した構造を有するエレクトロクロミック素子において、前記還元発色層が酸化タングステンと酸化チタンを含有する材料で構成され、前記酸化発色層がニッケル酸化物を含有する材料で構成され、前記酸化発色層と前記固体電解質層との間に、ニッケル酸化物以外の金属酸化物もしくは金属、またはニッケル酸化物以外の金属酸化物と金属との複合物を主成分として構成される透明性を有する中間層を配置するエレクトロクロミック素子が開示されている。本文献によれば、中間層を形成することにより、繰り返し特性と応答性が改良することが記載されており、数秒で発消色駆動が可能である。しかし、構造が複雑であるとともに真空成膜で無機クロミック化合物層を多層形成することは大型化が困難であるとともにコストアップ要因となる。
【0014】
さらに、無機エレクトロクロミック化合物を利用した装置として、紫外線照射により金属酸化物層を変化させて酸化還元機能を付与する方式も提案されている(例えば、特許文献5参照)。この文献では、金属酸化物と絶縁体有機化合物から構成される膜をITO電極上にスピン成膜し、紫外線照射することにより酸化還元可能な機能膜に変化させ、さらにその上に酸化ニッケル層とITO対向電極を順次形成したエレクトロクロミック装置が数10msで発消色応答することが記載されている。この例示は電解層が不要であるとともに、金属酸化物と絶縁体有機化合物から構成される酸化還元機能層をスピン成膜することから、大型化、コストの点で優れている。しかし、1時間の紫外線照射処理を必要とするなど、いまだ生産性については課題がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明は、以上の従来技術における課題に鑑みてなされたものであり、耐久性、応答性、大型化を含めた生産性に優れたエレクトロクロミック装置及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
前記課題を解決するために提供する本発明は、電極層と、該電極層に対向配置される対向電極層と、前記電極層と対向電極層の間であって該電極層に接して設けられるエレクトロクロミック層と、を有するエレクトロクロミック装置において、前記エレクトロクロミック層は、酸化ニッケルを主成分とした化合物からなる酸化ニッケル化合物層と、該酸化ニッケル化合物層と前記電極層との間に設けられ、半導体微粒子が充填されてなる半導体微粒子充填層と、を有することを特徴とするエレクトロクロミック装置である。
【0017】
また、前記課題を解決するために提供する本発明は、電極層と、該電極層に対向配置される対向電極層と、前記電極層と対向電極層に間であって該電極層に接して設けられるエレクトロクロミック層と、を有するエレクトロクロミック装置の製造方法であって、前記エレクトロクロミック層の形成に関し、前記電極層上に塗布により半導体微粒子が充填された半導体微粒子充填層を形成する工程と、前記半導体微粒子充填層上に、真空成膜法により酸化ニッケルを主成分とする化合物からなる酸化ニッケル化合物層を形成する工程と、を有することを特徴とするエレクトロクロミック装置の製造方法である。
【発明の効果】
【0018】
本発明のエレクトロクロミック装置によれば、電子輸送層として機能する半導体微粒子充填層と、電子の授受により酸化還元反応を示す酸化ニッケル化合物層を設けたので、耐久性があり、高速で発消色反応が得られる。また大型化が可能である。
本発明のエレクトロクロミック装置の製造方法によれば、本発明のエレクトロクロミック装置を簡便な方法で製造することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明に係るエレクトロクロミック装置の一実施の形態における構成を示す断面図である。
【図2】本発明に係るエレクトロクロミック装置の他の実施の形態における構成を示す断面図である。
【図3】実施例におけるエレクトロクロミック装置の構成例を示す上面図である。
【図4】実施例1における発消色駆動評価(1)の結果を示す図である。
【図5】実施例1における発消色駆動評価(2)の結果を示す図である。
【図6】実施例1,3における調光ガラス−1、調光ガラス−3(2)、調光ガラス−3(3)の電流−電圧特性を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に、本発明に係るエレクトロクロミック装置の構成について説明する。
図1は、本発明に係るエレクトロクロミック装置の一実施の形態における構成を示す断面図である。
図1に示すように、本発明のエレクトロクロミック装置10は、基板11上に設けられる電極層11aと、該電極層11aに対向配置される対向電極層12aと、前記電極層11aと対向電極層12aの間であって該電極層11aに接して設けられるエレクトロクロミック層13と、を有するエレクトロクロミック装置において、前記エレクトロクロミック層13は、酸化ニッケルを主成分とした化合物からなる酸化ニッケル化合物層13bと、該酸化ニッケル化合物層13bと前記電極層11aとの間に設けられ、この両者の間で電子授受が可能なように半導体微粒子13a1が緻密に充填されてなる半導体微粒子充填層13aと、を有する。
なお、半導体微粒子充填層13aの「緻密」とは、半導体微粒子13a1同士が接触して電極層11aから酸化ニッケル化合物層13bへ、あるいは酸化ニッケル化合物層13bから電極層11aへ電子が行き来できる程度に高密度で半導体微粒子13a1が充填されていることを意味する。
【0021】
ここで、基板11は、透明性の高いガラス、プラスチック等の材料から構成されており、例えば、無アルカリガラス、硼珪酸ガラス、フロートガラス、ソーダ石灰ガラス、ポリマー樹脂など可視領域に吸収を持たない透明な材料を用いることができる。また特に赤外、紫外領域の光を選択的に反射するあるいは、熱伝導率を低める効果のある複層ガラス基板を用いても良い。またPET(ポリエチレンテレフタレート)やポリカーボネートなどのプラスチックを使用してもよい。このうち、基板11に透明プラスチックフィルムを用いると、軽量でフレキシブルな表示装置とすることができ好ましい。
【0022】
電極層11aは、エレクトロクロミック層13形成前に基板11上に形成されるものでる。
【0023】
また、対向電極層12aは、ブロック層14(ブロック層14省略の場合にはエレクトロクロミック層13)の形成後に付与されるものである。
【0024】
電極層11a、対向電極層12aは、ともに同様の電極材料を用いることができ、強度や密封性が充分に保たれるような構成では支持体は必ずしも必要ではない。その電極材料としては、導電性を有する材料であれば特に限定されるものではなく、その具体例としては、白金、金、銀、銅、アルミニウム等の金属、グラファイト、フラーレン、カーボンナノチューブ等の炭素系化合物(カーボン)、スズをドープした酸化インジウム(以下ITO)、フッ素をドープした酸化スズ(以下FTO)、アンチモンをドープした酸化スズ(以下ATO)等の導電性金属酸化物、ポリチオフェン、ポリアニリン等の導電性高分子が挙げられる。なお、エレクトロクロミック装置10を調光ガラスとして利用する場合は全体として光の透過性を確保する必要があるため、透明且つ導電性に優れた透明導電性材料が用いられる。これにより、ガラスの透明性を得るとともに着色のコントラストをより高めることができる。透明導電性材料としては、ITO、FTO、ATO等の無機材料を用いることができるが、特に、真空成膜により形成されたインジウム酸化物(以下、In酸化物という)、スズ酸化物(以下、Sn酸化物という)又は亜鉛酸化物(以下、Zn酸化物という)の何れか1つを含む無機材料であることが好ましい。In酸化物、Sn酸化物及びZn酸化物は、スパッタ法により、容易に成膜が可能な材料であると共に、良好な透明性と電気伝導度が得られる材料である。また、特に好ましい材料は、InSnO、GaZnO、SnO、In、ZnOである。また、エレクトロクロミック装置10を調光ミラーとして利用する場合には電極層11a、対向電極層12aのいずれかが反射機能を有する構造であってもよく、その場合には金属層を含む。金属層としては例えばPt、Ag、Au、Cr、ロジウムおよびこれらの合金、あるいはそれらを積層したものなどである。
【0025】
電極層11aおよび対向電極層12aの膜厚はエレクトロクロミックの酸化還元反応に必要な電気抵抗値が得られるように調整される。ITOを用いた場合は通常50〜500nmの範囲にある。
【0026】
電極層11aの形成については、用いられる電極材料の種類により、適宜基板11上に塗布、ラミネート、蒸着、CVD、貼り合わせ等の手法により形成可能である。また、対向電極層12aの形成については、用いられる電極材料の種類やブロック層14(ブロック層14省略の場合にはエレクトロクロミック層13)の種類により、適宜ブロック層14(ブロック層14省略の場合にはエレクトロクロミック層13)に塗布、ラミネート、蒸着、CVD、貼り合わせ等の手法により形成可能である。
【0027】
対向保護層12は、対向電極層12a表面を環境から保護するための層である。
対向保護層12の材料としては、透明な樹脂として一般的なUV硬化、熱硬化樹脂を用いることができる。また対向保護層12の好ましい膜厚範囲は0.5μm〜10μmである。また、対向保護層12を着色することで任意なカラー調光ガラス(エレクトロクロミック装置)とすることも可能である。また、対向保護層12としては、基板11と同様の基板を含むことができる。
【0028】
なお、エレクトロクロミック装置10を調光ミラーとして用いる場合には、基板11と対向保護層12のいずれかは透明であり、他方が反射機能を有する構造であっても良く、その場合はいずれかに金属材料を含む。この金属材料としては例えばPt、Ag、Au、Cr、ロジウムおよびこれらの合金、あるいはそれらを積層したものなどである。
【0029】
エレクトロクロミック層13は、前述の通り、酸化ニッケルを主成分とした化合物からなる酸化ニッケル化合物層13bと、該酸化ニッケル化合物層13bと前記電極層11aとの間に設けられ、この両者の間で電子授受が可能なように半導体微粒子13a1が緻密に充填されてなる半導体微粒子充填層13aと、を有する。
【0030】
このうち、半導体微粒子充填層13aは、半導体微粒子13a1が緻密に充填された電子輸送層である。また、半導体微粒子充填層13aは、半導体微粒子13a1同士を結着する有機樹脂(結着樹脂)13a2を含むことが好適である。結着樹脂13a2を含有させることによりエレクトロクロミック層13における酸化還元反応に寄与しない電極間電流を低減でき、発消色時の電流効率が向上し、反応速度が向上する。
【0031】
半導体微粒子13a1を構成する材料には、電子輸送材としての半導体材料であれば特に限定されるものではなく、公知のものを使用することができる。具体的には、シリコン、ゲルマニウムのような単体半導体、あるいは金属のカルコゲニドに代表される化合物半導体、またはペロブスカイト構造を有する化合物等を挙げることができる。
【0032】
詳しくは、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化スズ、酸化アルミニウム(以下アルミナ)、酸化ジルコニウム、酸化セリウム、酸化ケイ素(以下シリカ)、酸化イットリウム、酸素ホウ素、酸化マグネシウム、チタン酸ストロンチウム、チタン酸カリウム、チタン酸バリウム、チタン酸カルシウム、酸化カルシウム、フェライト、酸化ハフニウム、酸化タングステン、酸化鉄、酸化銅、酸化ニッケル、酸化コバルト、酸化バリウム、酸化ストロンチウム、酸化バナジウム、アルミノケイ酸、リン酸カルシウム、アルミノシリケート等を主成分とする金属酸化物が挙げられる。また、これらの金属酸化物は、単独で用いられてもよく、2種以上が混合され用いられてもよい。
【0033】
これらの中でも、電気伝導性等の電気的特性や光学的性質等の物理的特性を鑑みるに、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化スズ、アルミナ、酸化ジルコニウム、酸化鉄、酸化マグネシウム、酸化インジウム、酸化タングステン、から選ばれる一種、もしくはそれらの混合物が、発消色の応答速度に優れた動作が可能であり好適である。このうち、酸化チタンが最も好ましい。酸化チタンの微粒子は安価である(貴金属と使わない)とともに、エレクトロクロミック装置の酸化還元応答に優れる。これらの半導体の結晶型は特に限定されるものではなく、単結晶でも多結晶でも、あるいは非晶質でも構わない。
【0034】
また、半導体微粒子13a1の形状は、特に限定されるものではないが、単位体積当たりの表面積(以下比表面積)が大きい形状が用いられる。大きな比表面積を有することにより酸化ニッケル化合物層13bにおける酸化還元反応を効率的に促進して、発消色させることが可能である。
【0035】
なお、半導体微粒子13a1のサイズに特に制限はないが、一次粒子の平均粒径は1〜100nmが好ましく、5〜30nmがより好ましい。
【0036】
また、半導体微粒子充填層13aの膜厚に制限はないが、10nm〜1μmが好ましく、20nm〜700nmがより好ましい。
【0037】
半導体微粒子充填層13aの作製方法には特に制限はなく、スパッタリング等の真空中で薄膜を形成する方法や湿式製膜法が挙げられる。製造コスト等を考慮した場合、特に湿式製膜法が好ましく、半導体微粒子の粉末あるいはゾルを分散した分散液あるいはペーストを調製し、電極層11a上に塗布する方法が好ましい。
【0038】
この湿式製膜法を用いた場合、塗布方法は特に制限はなく、公知の方法に従って行なうことができる。例えば、ディップ法、スプレー法、ワイヤーバー法、スピンコート法、ローラーコート法、ブレードコート法、グラビアコート法、また、湿式印刷方法として、凸版、オフセット、グラビア、凹版、ゴム版、スクリーン印刷等様々な方法を用いることができる。
【0039】
機械的粉砕、あるいはミルを使用して分散液を作製する場合、少なくとも半導体微粒子13a1単独、あるいは半導体微粒子13a1と結着樹脂13a2となる樹脂の混合物を水あるいは有機溶剤に分散して形成するとよい。また、結着樹脂13a2を半導体微粒子13a1の表面にあらかじめ形成したナノ粒子を用意し、この粒子分散ペーストを用いて塗布形成してもよい。この場合、結着樹脂13a2の材料を半導体微粒子13a1表面に確実に形成することが容易となる。
【0040】
この時に使用される樹脂としては、スチレン、酢酸ビニル、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル等によるビニル化合物の重合体や共重合体、シリコン樹脂、フェノキシ樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、ポリビニルホルマール樹脂、ポリエステル樹脂、セルロースエステル樹脂、セルロースエーテル樹脂、ウレタン樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂等が挙げられる。
【0041】
なお、半導体微粒子13a1と結着樹脂13a2の重量比率(結着樹脂13a2/半導体微粒子13a1)は0.5%〜20%程度が好ましい。結着樹脂13a2の材料量が0.5%未満では、結着樹脂13a2含有による応答性の改善効果が十分ではなく、また20%を超えると半導体微粒子充填層13aの電気抵抗値が高くなり、エレクトロクロミック層13の発消色応答が低下する。
【0042】
半導体微粒子13a1を分散する溶媒としては、水、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、α−テルピネオール等のアルコール系溶媒、アセトン、メチルエチルケトン、あるいはメチルイソブチルケトン等のケトン系溶媒、ギ酸エチル、酢酸エチル、あるいは酢酸n−ブチル等のエステル系溶媒、ジエチルエーテル、ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン、ジオキソラン、あるいはジオキサン等のエーテル系溶媒、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、あるいはN−メチル−2−ピロリドン等のアミド系溶媒、ジクロロメタン、クロロホルム、ブロモホルム、ヨウ化メチル、ジクロロエタン、トリクロロエタン、トリクロロエチレン、クロロベンゼン、o−ジクロロベンゼン、フルオロベンゼン、ブロモベンゼン、ヨードベンゼン、あるいは1−クロロナフタレン等のハロゲン化炭化水素系溶媒、n−ペンタン、n−ヘキサン、n−オクタン、1,5−ヘキサジエン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、シクロヘキサジエン、ベンゼン、トルエン、o−キシレン、m−キシレン、p−キシレン、エチルベンゼン、あるいはクメン等の炭化水素系溶媒を挙げることができる。これらは単独、あるいは2種以上の混合溶媒として用いることができる。
【0043】
半導体微粒子13a1の分散液、あるいはゾル−ゲル法等によって得られた半導体微粒子13a1のペーストは、粒子の再凝集を防ぐため、塩酸、硝酸、酢酸等の酸、ポリオキシエチレン(10)オクチルフェニルエーテル等の界面活性剤、アセチルアセトン、2−アミノエタノール、エチレンジアミン等のキレート化剤等を添加することができる。
【0044】
また、成膜性を向上させる目的で増粘剤を添加することも有効な手段である。
この時加える増粘剤としては、ポリエチレングリコール、ポリビニルアルコール等の高分子、エチルセルロース等の増粘剤等が挙げられる。
【0045】
半導体微粒子13a1は、塗布した後に粒子同士を電子的にコンタクトさせ、膜強度の向上や基板(電極層11a)との密着性を向上させるために焼成、マイクロ波照射、電子線照射、レーザー光照射、あるいはプレス処理を行なうことが好ましい。これらの処理は単独で行なってもあるいは二種類以上組み合わせて行なってもよい。
【0046】
焼成する場合、焼成温度の範囲に特に制限はないが、温度を上げ過ぎると基板の抵抗が高くなったり、溶融することもあるため、30〜700℃が好ましく、100〜600℃がより好ましい。また、焼成時間にも特に制限はないが、10分〜10時間が好ましい。
焼成後、半導体微粒子13a1の表面積の増大の目的で、例えば四塩化チタンの水溶液や有機溶剤との混合溶液を用いた化学メッキや三塩化チタン水溶液を用いた電気化学的メッキ処理を行なってもよい。
【0047】
酸化ニッケル化合物層13bは、酸化還元反応により発消色する層であり、NiとOの組成比を調整した材料が用いられる。このとき、NiOに対してO量が多く含まれるように成膜すると発色時の着色濃度が向上し、高いコントラストを得やすい。さらに酸化ニッケルの酸化還元反応を安定化する材料として他の金属元素をドープして用いることもできる。ドープ金属はLiなどがよい。
【0048】
酸化ニッケル化合物層13bは、粒子分散ペーストやゾルゲル法により形成することもできるが、NiとOの組成比の調整のしやすさから、真空成膜法が好ましい。特に好ましくは、Arガスに混合するO2ガス分圧を調整し、NiOターゲットによりスパッタ成膜する方法である。
【0049】
また、酸化ニッケル化合物層13bの好ましい膜厚範囲は、100nm〜500nmである。酸化ニッケル化合物層13bの膜厚が100nm未満であると発消色のコントラストが得にくく、また500nmを超えると消色透明状態においても着色しやすくなるとともに、生産性が低下する。
【0050】
以上のように構成されるエレクトロクロミック層13の好ましい膜厚範囲は、0.2〜5.0μmである。エレクトロクロミック層13の膜厚が0.2μm未満の場合、発色濃度を得にくくなり、5.0μmを超える場合、製造コストが増大するとともに着色によって視認性が低下しやすい。
【0051】
ブロック層14は省略することもできるが、エレクトロクロミック層13の導電性が高い構成の場合に有用となる。ブロック層14を設けることによりエレクトロクロミック層13の酸化還元反応に寄与しない電極間電流を低減できるため、特に発色時の電流効率が向上し、反応速度が向上する。
【0052】
ブロック層14の材料としては、n型半導体または絶縁体が用いられる。具体例としては、有機材料としてポリマー材料が好ましく、ポリエチレン、ポリ塩化ビニル、ポリエステル、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、フェノール樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリイミド樹脂などが挙げられる。また無機材料として、前述の半導体微粒子13a1の材料を用いることができるが、絶縁性の点では、SiO2、HfO2、Ta25、Al23、ZrO2、Si34、ZnSやその混合物などが挙げられる。このうち、酸化ニッケル化合物層13bの物理的特性を考慮して、金属酸化物である酸化チタンを主成分として用いると応答速度の改善に効果があり好ましい。このとき、酸化チタンに他の金属酸化物を混合してもよい。
【0053】
ブロック層14の形成方法としては、前記無機材料の場合は真空成膜または粒子分散ペーストとして塗布形成することができる。一方、前記有機材料の場合は溶媒に溶解した溶液として塗布形成する。
【0054】
ブロック層14の好ましい膜厚は、電極層11aと対向電極層12aの間に印加する電圧(駆動電圧)等の条件によって異なるが、概ね2nm〜500nmである。このうち、3〜6V程度の低電圧で駆動する場合には、2nm〜10nmが好ましい。ブロック層14の膜厚がこの範囲外の場合、電極層11aと対向電極層12aの間において適正な電気抵抗が得られず、反応速度(応答性)向上の効果を得にくい。
【0055】
以上のように構成された本発明のエレクトロクロミック装置10は、電極層11aと対向電極層12aの間に電圧を印加することで、エレクトロクロミック層13が電荷(電子)の授受により酸化還元反応することにより発消色する。すなわち、エレクトロクロミック層13は、可逆的に変化可能に着色状態または非着色状態となる。具体的には、電極層11aにマイナス電位、対向電極層12aにプラス電位を印加すると、エレクトロクロミック層13において電極層11aから半導体微粒子充填層13aを経由して酸化ニッケル化合物層13bに電子が供給され酸化反応により酸化ニッケル化合物層13bは黒色に着色する。また電極層11aにプラス電位、対向電極層12aにマイナス電位を印加すると、エレクトロクロミック層13において酸化ニッケル化合物層13bから電子が奪われて(奪われた電子は半導体微粒子充填層13aから電極層11aに移動し)酸化ニッケル化合物層13bは還元反応により透明に消色する。
【0056】
これにより、エレクトロクロミック装置10を調光ガラス、調光ミラー等または電池として動作させることができる。
例えば、エレクトロクロミック装置10において、電極層11a及び対向電極層12aをいずれも透明な層とした場合、該電極層11aと対向電極層12aの間の電圧の印加により可逆的に変化可能に透明状態または着色状態とすることができ、調光ガラス、表示装置、NDフィルタ等への応用が可能である。
【0057】
また、エレクトロクロミック装置10において、電極層11aと対向電極層12aのいずれか一方を透明な層とし、他方を鏡面反射する金属材料を含む層とした場合、該電極層11aと対向電極層12aの間の電圧の印加により可逆的に変化可能に入射光に対して高反射状態または低反射状態とすることができ、防眩ミラー等への応用が可能である。あるいは、エレクトロクロミック装置10において、電極層11aと対向電極層12aのいずれか一方を透明な層とし、他方を白色反射する材料を含む層とした場合、該電極層11aと対向電極層12aの間の電圧の印加により可逆的に変化可能に入射光に対して高反射状態または低反射状態とすることができ、表示装置等への応用が可能である。
【0058】
なお、以上の構成のエレクトロクロミック装置10の製造方法として、エレクトロクロミック層13の形成に関し、まず電極層11a上に塗布により半導体微粒子13a1が充填された半導体微粒子充填層13aを形成する工程と、ついで半導体微粒子充填層13a上に、真空成膜法により酸化ニッケルを主成分とする化合物からなる酸化ニッケル化合物層13bを形成する工程と、を有するようにするとよい。
【0059】
これにより、本発明のエレクトロクロミック装置10を簡便な方法で製造することが可能である。すなわち、半導体微粒子充填層13aを塗布により形成するので容易に厚膜層を得ることができ、真空成膜での多層形成を低減できるため、本発明のエレクトロクロミック装置を大型化することができる。また、生産性に優れたものとなる。また容易に酸化ニッケル化合物層13bの膜状態を制御することが可能となり、エレクトロクロミック装置10において、エレクトロクロミック層13への電圧印加により、酸化ニッケル化合物層13bを所望の酸化還元状態とすることができる。
【0060】
またこのとき、前記半導体微粒子充填層を形成する工程は、電極層11a上に、半導体微粒子13a1と、有機樹脂材料とを含む分散液を塗布して、前記半導体微粒子13a1同士を有機樹脂(結着樹脂13a2)で結着した状態で該半導体微粒子13a1を層状に充填して半導体微粒子充填層13aを形成することが好適である。
【0061】
次に、図2は、本発明に係るエレクトロクロミック装置の他の一実施の形態における構成を示す断面図である。
本発明に係るエレクトロクロミック装置20は、基板11上に設けられる電極層11aと、該電極層11aに対向配置される対向電極層12aと、前記電極層11aと対向電極層12aの間であって該電極層11aに接して設けられるエレクトロクロミック層23と、を有するエレクトロクロミック装置であって、エレクトロクロミック層23は、酸化ニッケルを主成分とした化合物からなる酸化ニッケル化合物部分と、該酸化ニッケル化合物部分と前記電極層11aとの間での電子授受を可能にするように層中に充填される半導体微粒子13a1とを含むことを特徴とするものである。
【0062】
ここで本実施形態のエレクトロクロミック装置20は、図1に示すエレクトロクロミック装置10と比較すると、基板11、電極層11a、ブロック層14、対向電極層12a、対向保護層12は同じであり、エレクトロクロミック層23のみ異なる。詳しくは図2に示すように、エレクトロクロミック層23は、前記半導体微粒子13a1が充填された半導体微粒子充填層23aと、前記半導体微粒子13a1とは異なる半導体材料または絶縁材料からなる中間層23bと、前記酸化ニッケルを主成分とした化合物からなる酸化ニッケル化合物層23cと、が前記電極層11a側からこの順番で積層されてなるものである。
【0063】
また、半導体微粒子充填層23aを構成する半導体微粒子13a1、酸化ニッケル化合物層23cを構成する酸化ニッケルを主成分とした化合物は、図1に示すエレクトロクロミック装置10で用いるものと同じである。したがって、図1に示すエレクトロクロミック装置10とは、エレクトロクロミック層23の層構造及び中間層23bの構成材料が異なる。
【0064】
中間層23bは、半導体微粒子13a1とは異なる半導体材料または絶縁材料からなる薄膜である。中間層23bを設けることにより、エレクトロクロミック層23における酸化還元反応に寄与しない電極間電流を低減でき、発消色時の電流効率が向上し、反応速度が向上する。
なお、中間層23bの膜厚は、酸化ニッケル化合物層23cと電極層11aとの間での電子授受を妨げない程度に薄くすることが好ましい。
【0065】
また中間層23bを構成する材料としては、半導体微粒子13a1を構成する材料とは異なる半導体材料または絶縁材料からなる化合物が用いられ、有機材料または無機材料でも良い。そのような材料としては特に限定されるものではないが、装置製造プロセス、装置耐久性の点で耐熱性に優れた透明性材料が好ましい。具体的な材料としては有機材料では、上記観点からポリマー材料が好ましく、ポリエチレン、ポリ塩化ビニル、ポリエステル、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、フェノール樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリイミド樹脂などが挙げられる。また無機材料としては前述の半導体微粒子13a1の材料を用いることができるが、絶縁性の点では、SiO2、HfO2、Ta25、Al23、ZrO2、Si34、ZnSやその混合物などが好ましい。
【0066】
また、中間層23bを真空成膜法により形成することも可能であるが、生産性の点で塗布形成することが好ましい。例えば、中間層材料が有機材料の場合は溶媒に溶解した溶液を用いて塗布形成する。
【0067】
以上のように構成された本発明のエレクトロクロミック装置20は、電極層11aと対向電極層12aの間に電圧を印加することで、エレクトロクロミック層23が電荷(電子)の授受により酸化還元反応することにより発消色する。具体的には、電極層11aにマイナス電位、対向電極層12aにプラス電位を印加すると、エレクトロクロミック層23において電極層11aから半導体微粒子充填層23aを経由して酸化ニッケル化合物層23cに電子が供給され酸化反応により酸化ニッケル化合物層23cは黒色に着色する。また電極層11aにプラス電位、対向電極層12aにマイナス電位を印加すると、エレクトロクロミック層23において酸化ニッケル化合物層23cから電子が奪われて(奪われた電子は半導体微粒子充填層23aから電極層11aに移動し)酸化ニッケル化合物層23cは還元反応により透明に消色する。
これにより、エレクトロクロミック装置20を調光ガラスまたは電池として動作させることができる。
【0068】
以上の構成のエレクトロクロミック装置20の製造方法として、エレクトロクロミック層23の形成に関し、まず電極層11a上に塗布により半導体微粒子13a1が充填された半導体微粒子充填層23aを形成する工程と、半導体微粒子充填層23a上に塗布または真空成膜法により前記半導体微粒子13a1とは異なる半導体材料または絶縁材料からなる中間層23bを形成する工程と、中間層23b上に真空成膜法により酸化ニッケルを主成分とする化合物からなる酸化ニッケル化合物層23cを形成する工程と、を有するようにするとよい。
【実施例】
【0069】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明の実施の形態はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0070】
(実施例1)
[調光ガラス装置の作製]
<電極層/エレクトロクロミック層/対向電極層の形成>
基板11として、40mm×40mm、厚さ0.7mmのガラス基板を準備し、ガラス基板上に、ITO膜をスパッタ法により約100nmの厚さになるように成膜することによって、電極層11aを形成した。
つぎに、このITO膜の表面に酸化チタンナノ粒子分散液(商品名:SP210 昭和タイタニウム社製、平均粒子径:約20nm)をスピンコート法により塗布し、120℃で15分間アニール処理を行うことによって、厚さ約1.0μmの酸化チタン粒子膜からなる半導体微粒子充填層13aを形成した。なお、この酸化チタンナノ粒子分散液に結着材として有機ポリマー(親水性有機ポリマー約1%混合品)が有機ポリマー/酸化チタンの重量比で5wt%となるように混合した。
続いて、NiOをターゲットとして、O2分圧をArに対して12%としたスパッタガスを用いて、スパッタ法により半導体微粒子充填層13a(酸化チタン粒子膜)上に酸化ニッケルからなる化合物層(酸化ニッケル化合物層13b)を形成した。さらにその上にスパッタ法にてITO膜を約100nmの厚さになるように成膜することによって、対向電極層12aを形成した。
以上の手順により、図1に示す構成のエレクトロクロミック装置10(ただし、ブロック層14および対向保護層12を省略している)であるエレクトロクロミック調光ガラス−1を作製した。なお、図3に、作製したサンプルを上から見た構成を示す。ここでは、エレクトロクロミック反応領域(電極層11a形成領域、エレクトロクロミック層13形成領域、対向電極層12a形成領域が重なっている領域)は25mm×10mmである。
【0071】
[発消色駆動評価(1)]
作製した調光ガラス−1のエレクトロクロミック反応領域は黒色着色状態であった。
まず、この調光ガラスの電極層11aにプラス極、対向電極層12aにマイナス極を接続し、+7Vの電圧を5秒間印加したところ、エレクトロクロミック反応領域が透明に消色した。
次に、電極層11aにマイナス極、対向電極層12aにプラス極を接続し、−7Vの電圧を5秒間印加したところ、黒色着色状態に戻った。また、−7Vの電圧を5秒間印加した後、電圧を印加せずに60分放置しても、着色状態が保持されたことから、メモリー性に優れることが確認された。なおメモリー時は電極層11aと対向電極層12a間は開回路構成とした。
図4に、このときの調光ガラス−1の消色状態の透過スペクトルおよび着色状態の透過スペクトルを示す。視感度の高い波長550nmにおける透過率は54%(消色状態)から33%(着色状態)に変化した。このように、本発明のエレクトロクロミック装置10のサンプルが透明−着色のエレクトロクロミックを示すことが確認された。
【0072】
[発消色駆動評価(2)]
作製した調光ガラス−1に定電圧を印加し、消色応答速度を測定した。ここでは、電極層11aをプラス極、対向電極層12aをマイナス極として、+4V,+5V,+7V,+10Vを印加し、電極層11aをマイナス極、対向電極層12aをプラス極として、−4Vを印加して、電圧印加時間による波長550nmにおける透過率の変化を測定した。その結果を図5に示す。
本発明のサンプルは、+4V印加条件で18sec(+5V印加条件で13sec)、+10V印加条件で1secで消色応答することが確認された(図5(a))。一方、−4V印加条件で5secで着色応答することが確認された(図5(b))。
【0073】
(実施例2)
実施例1において、NiOをターゲットをLiNiO(Li:15atm%)として酸化ニッケル化合物層13bを形成し、それ以外は実施例1と同様にしてエレクトロクロミック調光ガラス−2を作製した。
【0074】
作製した調光ガラス−2のエレクトロクロミック反応領域は黒色着色状態であった。この調光ガラス−2の電極層11aにプラス極、対向電極層12aにマイナス極を接続し、+10Vの電圧を3秒間印加したところ、エレクトロクロミック反応領域が透明に消色した。
次に、電極層11aにマイナス極、対向電極層12aにプラス極を接続し、−10Vの電圧を3秒間印加したところ、黒色着色状態に戻った。また、−10Vの電圧を3秒間印加した後、電圧を印加せずに60分放置しても、着色状態が保持されたことから、メモリー性に優れることが確認された。なおメモリー時は電極層11aと対向電極層12a間は開回路構成とした。
このときの調光ガラス−2の波長550nmにおける透過率は52%(消色状態)から23%(着色状態)に変化した。本発明のエレクトロクロミック装置10のサンプルが透明−着色のエレクトロクロミックを示すことが確認された。
【0075】
(実施例3)
(試験例3−1)
実施例1において、エレクトロクロミック層13と対向電極層12aの間であって、酸化ニッケル化合物層13b(NiO膜)上にスパッタ法にてTiO2膜を約20nmの厚さになるように成膜することによって、ブロック層14を形成し、それ以外は実施例1と同様にしてエレクトロクロミック調光ガラス−3(1)を作製した。
【0076】
作製した調光ガラス−3(1)のエレクトロクロミック反応領域は黒色着色状態であった。この調光ガラス−3(1)の電極層11aにプラス極、対向電極層12aにマイナス極を接続し、+7Vの電圧を2秒間印加したところ、エレクトロクロミック反応領域が透明に消色した。
次に、電極層11aにマイナス極、対向電極層12aにプラス極を接続し、−7Vの電圧を2秒間印加したところ、黒色着色状態に戻った。また、−7Vの電圧を2秒間印加した後、電圧を印加せずに60分放置しても、着色状態が保持されたことから、メモリー性に優れることが確認された。なおメモリー時は電極層11aと対向電極層12a間は開回路構成とした。
このときの調光ガラス−3(1)の波長550nmにおける透過率は58%(消色状態)から30%(着色状態)に変化した。本発明のエレクトロクロミック装置10のサンプルが透明−着色のエレクトロクロミックを示すことが確認された。
【0077】
(試験例3−2)
試験例3−1において、ブロック層14(TiO2膜)の厚さを10nmとし、それ以外は試験例3−1と同様にしてエレクトロクロミック調光ガラス−3(2)を作製した。
【0078】
作製した調光ガラス−3(2)のエレクトロクロミック反応領域は黒色着色状態であった。この調光ガラス−3(2)の電極層11aにプラス極、対向電極層12aにマイナス極を接続し、+7Vの電圧を2秒間印加したところ、エレクトロクロミック反応領域が透明に消色した。
次に、電極層11aにマイナス極、対向電極層12aにプラス極を接続し、−4Vの電圧を4秒間印加したところ、黒色着色状態に戻った。また、−4Vの電圧を4秒間印加した後、電圧を印加せずに60分放置しても、着色状態が保持されたことから、メモリー性に優れることが確認された。なおメモリー時は電極層11aと対向電極層12a間は開回路構成とした。
このときの調光ガラス−3(2)の波長550nmにおける透過率は57%(消色状態)から35%(着色状態)に変化した。本発明のエレクトロクロミック装置10のサンプルが透明−着色のエレクトロクロミックを示すことが確認された。
【0079】
(試験例3−3)
試験例3−1において、ブロック層14(TiO2膜)の厚さを2nmとし、それ以外は試験例3−1と同様にしてエレクトロクロミック調光ガラス−3(3)を作製した。
【0080】
作製した調光ガラス−3(3)のエレクトロクロミック反応領域は黒色着色状態であった。この調光ガラス−3(3)の電極層11aにプラス極、対向電極層12aにマイナス極を接続し、+7Vの電圧を2秒間印加したところ、エレクトロクロミック反応領域が透明に消色した。
次に、電極層11aにマイナス極、対向電極層12aにプラス極を接続し、−4Vの電圧を3秒間印加したところ、黒色着色状態に戻った。また、−4Vの電圧を3秒間印加した後、電圧を印加せずに60分放置しても、着色状態が保持されたことから、メモリー性に優れることが確認された。なおメモリー時は電極層11aと対向電極層12a間は開回路構成とした。
このときの調光ガラス−3(3)の波長550nmにおける透過率は57%(消色状態)から38%(着色状態)に変化した。本発明のエレクトロクロミック装置10のサンプルが透明−着色のエレクトロクロミックを示すことが確認された。
【0081】
(試験例3−4)
試験例3−1において、ブロック層14(TiO2膜)の厚さを1nmとし、それ以外は試験例3−1と同様にしてエレクトロクロミック調光ガラス−3(4)を作製した。
【0082】
作製した調光ガラス−3(4)のエレクトロクロミック反応領域は黒色着色状態であった。この調光ガラス−3(4)の電極層11aにプラス極、対向電極層12aにマイナス極を接続し、+7Vの電圧を2秒間印加したところ、エレクトロクロミック反応領域が透明に消色した。
次に、電極層11aにマイナス極、対向電極層12aにプラス極を接続し、−4Vの電圧を印加したところ、試験例3−3よりも長時間となる5秒で黒色着色状態に戻った。また、−4Vの電圧を5秒間印加した後、電圧を印加せずに60分放置しても、着色状態が保持されたことから、メモリー性に優れることが確認された。なおメモリー時は電極層11aと対向電極層12a間は開回路構成とした。
このときの調光ガラス−3(4)の波長550nmにおける透過率は59%(消色状態)から38%(着色状態)に変化した。本発明のエレクトロクロミック装置10のサンプルが透明−着色のエレクトロクロミックを示すことが確認された。
【0083】
図6に、調光ガラス−1、調光ガラス−3(2)、調光ガラス−3(3)の電流−電圧特性(CV特性)を示す。
図6に示すように、調光ガラス−3(2)(ブロック層14厚さ10nm)、調光ガラス−3(3)(ブロック層14厚さ2nm)では、負バイアス印加時すなわち着色時の電流値が調光ガラス−1(ブロック層14なし)よりも抑制されていることが分かった。すなわち、ブロック層14を挿入することによって、着色時の酸化還元反応に寄与しない電流成分が抑制され、効率的な駆動が実現でき、その結果として着色時の応答性が改善された。また、ブロック層14挿入により消色反応には悪影響を与えていなかった。
【0084】
(比較例1)
実施例1において、半導体微粒子充填層13a(酸化チタン粒子膜)に代えて、電極層11a(ITO電極層)上にスパッタ法にてTiO2膜を約200nmの厚さになるように成膜形成し、それ以外は実施例1と同様にして、比較用の比較サンプル−1を作製した。
【0085】
作製した比較サンプル−1のエレクトロクロミック反応領域は黒色着色状態であった。しかし、この比較サンプル−1の電極層11aにプラス極、対向電極層12aにマイナス極を接続し、+10Vの電圧を20秒間印加したが、エレクトロクロミック反応領域は透明にならなかった。
【0086】
以上のように、本発明のエレクトロクロミック装置によれば、高速で発消色応答する結果を得た。これは、半導体微粒子13a1の表面増感により、酸化ニッケル化合物層13bの酸化還元効率が向上することが一因と考えられる。
【0087】
なお、これまで本発明を図面に示した実施形態をもって説明してきたが、本発明は図面に示した実施形態に限定されるものではなく、他の実施形態、追加、変更、削除など、当業者が想到することができる範囲内で変更することができ、いずれの態様においても本発明の作用・効果を奏する限り、本発明の範囲に含まれるものである。
例えば、本実施形態では、半導体微粒子充填層13a,23aと酸化ニッケル化合物層13b,23cを別個の層とする構成であったが、これらを一つの層としてもよい。すなわち、エレクトロクロミック層は、前記酸化ニッケルを主成分とした化合物を坦持した前記半導体微粒子13a1が充填されてなるものとしてもよい。
【符号の説明】
【0088】
10,20 エレクトロクロミック装置
11 基板
11a 電極層
12 対向保護層
12a 対向電極層12a
13,23 エレクトロクロミック層
13a,23a 半導体微粒子充填層
13a1 半導体微粒子
13a2 結着樹脂
13b,23c 酸化ニッケル化合物層
14 ブロック層
23b 中間層
【先行技術文献】
【特許文献】
【0089】
【特許文献1】特公平3‐73081号公報
【特許文献2】特許第3955641号公報
【特許文献3】特開2009‐276800号公報
【特許文献4】特許第4105537号公報
【特許文献5】国際公開2008/053561号公報

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電極層と、該電極層に対向配置される対向電極層と、前記電極層と対向電極層の間であって該電極層に接して設けられるエレクトロクロミック層と、を有するエレクトロクロミック装置において、
前記エレクトロクロミック層は、酸化ニッケルを主成分とした化合物からなる酸化ニッケル化合物層と、該酸化ニッケル化合物層と前記電極層との間に設けられ、半導体微粒子が充填されてなる半導体微粒子充填層と、を有することを特徴とするエレクトロクロミック装置。
【請求項2】
前記半導体微粒子充填層は、前記半導体微粒子同士を結着する結着樹脂を含むことを特徴とする請求項1に記載のエレクトロクロミック装置。
【請求項3】
前記半導体微粒子は、金属酸化物半導体材料からなることを特徴とする請求項1または2に記載のエレクトロクロミック装置。
【請求項4】
前記エレクトロクロミック層と対向電極層との間に、n型半導体材料または絶縁材料を含むブロック層を有することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のエレクトロクロミック装置。
【請求項5】
前記ブロック層は、酸化チタンからなることを特徴とする請求項4に記載のエレクトロクロミック装置。
【請求項6】
前記ブロック層の厚さが、2nm以上、10nm以下であることを特徴とする請求項4または5に記載のエレクトロクロミック装置。
【請求項7】
前記エレクトロクロミック層は、前記電極層と対向電極層の間の電圧の印加により、可逆的に変化可能に着色状態または非着色状態となることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載のエレクトロクロミック装置。
【請求項8】
前記電極層及び対向電極層がいずれも透明であり、該電極層と対向電極層の間の電圧の印加により可逆的に変化可能に透明状態または着色状態となることを特徴とする請求項7に記載のエレクトロクロミック装置。
【請求項9】
前記電極層と対向電極層のいずれか一方が透明であり、他方が鏡面反射する金属材料または白色反射する材料を含むものであり、該電極層と対向電極層の間の電圧の印加により可逆的に変化可能に入射光に対して高反射状態または低反射状態となることを特徴とする請求項7に記載のエレクトロクロミック装置。
【請求項10】
電極層と、該電極層に対向配置される対向電極層と、前記電極層と対向電極層の間であって該電極層に接して設けられるエレクトロクロミック層と、を有するエレクトロクロミック装置の製造方法であって、
前記エレクトロクロミック層の形成に関し、前記電極層上に塗布により半導体微粒子が充填された半導体微粒子充填層を形成する工程と、前記半導体微粒子充填層上に、真空成膜法により酸化ニッケルを主成分とする化合物からなる酸化ニッケル化合物層を形成する工程と、を有することを特徴とするエレクトロクロミック装置の製造方法。
【請求項11】
前記半導体微粒子充填層を形成する工程は、前記電極層上に、半導体微粒子と、有機樹脂材料とを含む分散液を塗布して、前記半導体微粒子同士を有機樹脂で結着した状態で該半導体微粒子を層状に充填して半導体微粒子充填層を形成するものであることを特徴とする請求項10に記載のエレクトロクロミック装置の製造方法。


【図1】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−15805(P2013−15805A)
【公開日】平成25年1月24日(2013.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−188823(P2011−188823)
【出願日】平成23年8月31日(2011.8.31)
【出願人】(000006747)株式会社リコー (37,907)
【Fターム(参考)】