説明

エレクトロルミネッセントデバイス用の官能化三重項エミッタ

本発明は、オプトエレクトロニクスデバイス及びセンサー(sensory)デバイス用の有機金属錯体、並びにかかるオプトエレクトロニクスデバイス及びセンサーデバイスにおけるその使用に関する。本発明の有機金属錯体(三重項エミッタ)は、金属中心及びキレート配位子からなる。これらのキレート配位子の少なくとも1つは、芳香環又は縮合芳香環(複数も可)を含む。これらの配位子の各々は、少なくとも1つ、好ましくは2つの電荷輸送基(ctg)で共有結合的に置換される。金属中心にはスペクテーター配位子が更に配位することができる。各々の配位子に2つのctgが存在することは、現行の技術水準で既知の錯体と比べて、特に有機発光ダイオード(OLED)における用途に対し以下の明白な利点をもたらす。この電荷輸送単位は分子中心への正孔輸送及び/又は電子輸送を容易にし、エミッタ錯体上で直接の効率的な励起子形成を可能にする。各々の配位子上にctgが存在することは、環境との相互作用に対する良好な遮蔽を与える。このため、発光消光は強く低減され、発光量子収率の高い材料が得られる。各々の配位子上にctgが存在することは、異なる分子の発光コア間の分離を増大させ、それにより三重項・三重項消滅又は自己消光効果による望ましくない消光が減少する。本発明の錯体は多くの有機溶媒に高溶解性であるため、湿式化学処理によく適している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
【背景技術】
【0002】
有機材料からのエレクトロルミネッセンスの発見(非特許文献1)以来、小分子、とりわけ重金属含有錯体を利用する高効率エレクトロルミネッセントデバイスが幅広く研究されてきた。重金属含有材料に基づく有機オプトエレクトロニクスは目覚しい進歩を遂げている。純有機材料を用いた効率的なOLEDは、スピン選択則により僅か25%の量子効率(スピン統計に従う)しか得ることができないため、達成することが困難である。一方、OLED内で形成される励起子の大部分(75%)は三重項励起子であり、これは純有機エミッタでは熱として消散する。エレクトロルミネッセンス(EL)量子効率は、結果として非常に限られている。したがって、過去10年間では、OLED材料の研究は三重項励起状態から発光する材料の開発に焦点を合わせていた(例えば、非特許文献2を参照されたい)。かかる三重項エミッタ、すなわちリン光性分子を利用することによって、(内部)エレクトロルミネッセンス効率が一重項エミッタに課された25%という理論的限界を超える可能性がある。リン光性材料を用いることによって一重項励起子及び三重項励起子の両方を取り入れることから、1に近い量子効率を想定することができる(非特許文献3、非特許文献4、非特許文献5)。例えば、緑色発光イリジウム(III)トリス(2−フェニルピリジナト−N,C)(Ir(ppy))を発光層中に含むOLEDは、全ての一重項励起子及び三重項励起子を利用することによって100%に近い内部量子効率を生じている(非特許文献6)。
【0003】
HOMO/LUMOエネルギー及び最低励起状態を変化させて、材料の光物理的性質を微調整し、電荷輸送性及び安定性を向上させるために、種々のタイプの配位子が使用されている。例えば、デバイスの効率、寿命及びターンオン電圧は、好適な金属/配位子の組み合わせを用いて大幅に最適化することができる。対応する電極から発光層への正孔及び電子の注入及び輸送は、適当な電荷輸送層によって容易にすることができる。エミッタでの電荷再結合は有利であり、金属イオンにキレート化した配位子が電荷輸送単位に結合している場合に増強され得る。
【0004】
リン光性小分子を処理してOLED等の薄膜デバイスにすることは、高温での真空熱蒸発及び有機気相堆積(OVPD)技法を適用する場合、高価かつ高度な技法を伴う。これらの技法を用いて製造される薄膜デバイスの製造コストは、LCD技術のような現在のディスプレイ技術又は現在の照明技法と競合するものではない。さらに、ディスプレイ又は照明表面の面積は限られている。したがって、低コスト生産、大面積ディスプレイ/照明及びデバイスの印刷製造(printing)を目的として、溶解処理可能なリン光性材料の開発に高い関心が寄せられている。本発明において記載される材料は、溶解処理可能である。
【0005】
自己消光又は三重項・三重項消滅を回避するために、ポリマーマトリックスホスト材料への三重項エミッタ材料の希釈(低濃度ドーピング)が通常は適用される。しかしながら、これらの系は、ルミネッセンス消光及びデバイス効率の低下につながる凝集、相分離等を起こす。
【0006】
したがって、本発明の一目的は、オプトエレクトロニクスデバイスに使用される、共有結合性の電荷輸送部分を有する高発光性材料を提供することによって、この要求に応えることである。さらに、置換部分が遮蔽の要件を満たすことにより、三重項・三重項消滅、自己消光、及び凝集又は相分離の影響が強く低減される。
【0007】
ホストを含まない溶解処理可能なリン光性材料、すなわち更なるマトリックス材料を含まない材料は、現行の技術水準で既知である。三重項エミッタは、ペンダント基として、又は共役骨格に沿って共有結合する(特許文献1、非特許文献7、非特許文献8)。しかしながら、ポリマー材料は単分散性ではなく、合成中に欠陥部位が生じることは避けられない。このポリマー鎖に沿ったこれらの欠陥は、材料の安定性及びデバイスの性能に悪影響を与える。
【0008】
この点に関して、本発明の更なる目的は、新たな溶解処理可能な発光性の材料(ドープ材料又は100%純粋な材料として使用される)の明確に規定及び制御された合成を提供することである。
【0009】
上記の点を鑑みると、OLED用の明確に規定され、合成的に制御可能な、共役した溶解処理可能な材料を良好な効率及び安定性をもって作製する方法を提供する必要性が依然として残っている。このため、本発明の更なる目的は高度に発光性の材料を提供することである。このことは、錯体の外圏を遮蔽することによって可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】国際公開第2003/091355号
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】Tang et al. Appl. Phys. Lett. 1987, 51, 913
【非特許文献2】H. Yersin, Highly Efficient OLEDs with Phosphorescent Materials,Wiley-VCH, Weinheim 2008
【非特許文献3】M. A. Baldo, D. F. O'Brien, M. E. Thompson, S. R. Forrest; Phys.Rev. B 1999, 60, 14422
【非特許文献4】C. Adachi, M. A. Baldo, M. E. Thompson, S. R. Forrest; J. Appl.Phys. 2001, 90, 5048
【非特許文献5】H. Yersin, Top. Curr. Chem. 2004, 241, 1
【非特許文献6】Baldo et al. Appl. Phys. Lett. 1999, 75, 4
【非特許文献7】N. R. Evans, L. S. Devi, C. S. K. Mak, S. E. Watkins, S. I. Pascu,A. Koehler, R. H.Friend, C. K. Williams, A. B. Holmes, J. Am. Chem. Soc. 2006, 128, 6647
【非特許文献8】A. J. Sandee, C. K. Williams, N. R. Evans, J. E. Davies, C. E.Boothby, A. Koehler,R. H. Friend, A. B. Holmes, J. Am. Chem. Soc. 2004, 126, 7041
【発明の概要】
【0012】
本発明は、光エミッタとして使用することのできる、新規のタイプの高度に置換されたリン光性錯体を提供する。エミッタの構造及びサイズは明確に規定されており、単分散性であり、合成的に制御可能である。材料は、金属含有ポリマー(通常は構造上の欠陥を生じる)のいずれかであってもよい。
【0013】
本発明は、ルミネッセンス(リン光又はエレクトロルミネッセンス)可能な錯体M(ligI(ctg1)(ctg2))(ligII(ctg3)(ctg4))(ligIII(ctg5)(ctg6))(スペクテーター)(L)に関する。本発明の錯体は、金属イオンMと、電荷移動基(ctg)で置換され得る少なくとも1つの配位子ligとを含む。
【0014】
本発明の錯体は下記式Iによって表すことができる:
【化1】

【0015】
式I中で使用される記号は以下の意味を有する。
【0016】
本発明の錯体は、中心金属イオンMをキレート化する少なくとも2つの配位子lig(ligI、ligII、ligIII)を含む。これらの配位子ligの少なくとも1つは、芳香環若しくは縮合環からなるか、又は芳香環若しくは縮合環を含む。この配位子は、少なくとも1つの電荷輸送基(ctg)で共有結合的に置換される。好ましくは、錯体は中性である。
【0017】
Mは任意の金属イオン、特に重金属又はランタニド、好ましくはdブロック元素である。本発明の錯体(置換エミッタ)の金属イオンMは、遷移金属又はランタニドであり得る。遷移金属は、好ましくは重金属、より好ましくはイリジウム、白金、金、ロジウム、ルテニウム、オスミウム及びレニウムのイオンであり、ランタニド金属イオンは好ましくはセリウム、ユーロピウム、テルビウム、サマリウム、ツリウム、エルビウム、ジスプロシウム及びネオジミウムである。最も好ましくは、金属イオンMは白金又はイリジウムである。
【0018】
lig(ligI、ligII及びligIII)は、金属イオンMに結合した共役π電子系を有するキレート配位子であり、同じであっても、又は異なっていてもよく、好ましくは互いに共有結合した、又は縮合した少なくとも2つの芳香環を含むのが好ましい。
【0019】
ctgは、電荷(正孔又は電子)を輸送し、ジクロロメタン、クロロホルム、トルエン及びテトラヒドロフラン等の有機溶媒に対する錯体の溶解性を改善する有機電荷輸送基である。本発明の錯体の一部であるctgは全て、同じ配位子にある場合でも、同じであっても、又は異なっていてもよく、共役正孔又は電子輸送基を表す。ctgは、好ましくは窒素原子、酸素原子、硫黄原子及び/又はリン(phosphorous)原子を含むアリール又はヘテロアリールを含むのが好ましい。窒素及び酸素が最も好ましい。
【0020】
n、m、o、pは、各々0〜4であり得る整数であり、n、m、o、pの合計は、
4つの配位部位を有する金属イオンMについては2であり、
6つの配位部位を有する金属イオンMについては3であり、
8つ又は9つの配位部位を有するランタニド金属イオンMについては4である。例えば、金属イオンMが白金である場合、n、m、o、pの合計は2である(例えば、n=m=1、o=p=0)。金属イオンMがイリジウムである場合、n、m、o、pの合計は3である(例えば、n=m=o=1、p=0)。
【0021】
金属イオンMをキレート化する、配位子ligと、2つのctgとの組み合わせ(lig(ctgi)(ctgj))は、本発明の錯体においては同じであっても、又は異なっていてもよい。
【0022】
Lは任意の中性単座配位子であり、Mがランタニド金属イオンである場合に錯体中に存在し得る。例えば、中性単座配位子Lは、金属中心に配位結合によって配位することのできる孤立電子対を有する。中性単座配位子は例えば、9配位(9-site coordination)錯体を形成するアミン、イミン、p−置換ピリジン、エーテル、イソシアネート、イソニトリル、ニトリル、カルボニル、N−複素環等であり得る。
【0023】
スペクテーターは負に帯電した二座(キレート)配位子であり、補助配位子と称される場合もある。好ましくは、スペクテーターはβ−ジケトネート、nacnac、N−アルキルサリチルイミン、2−ピコリネート、二座ピラゾリルボレート、1,2−ニド−カルボランジホスフィン、1,2−ニド−カルボランジイソシアニド、1,2−ニド−カルボランジアルセネート、一価に負に帯電したジアミン、一価に負に帯電したジホスフィン、一価に負に帯電したジアルシン、一価に負に帯電したビスグアニジン、負に帯電した二座チオレート、負に帯電した二座アルコレート、負に帯電した二座フェノレート等からなる群から選ばれる。光物理的な意味では、スペクテーター又は補助配位子のフロンティア軌道は、本発明の錯体の発光三重項状態の電子構造に直接関与していない。
【0024】
好ましい実施の形態では、ctgのアリール基又はヘテロアリール基は、フェニル、ビフェニル、フェノール、ピリジン、ピリミジン、ピラジン、トリアジン、ピロール、ピラゾール、イミダゾール(imidazole)、トリアゾール、チオフェン、フラン、チアゾール、オキサゾール、オキサジアゾール、チアジアゾール、ナフタレン、フェナントレン、フルオレン、カルバゾール、ベンゾチオフェン、ベンズイミダゾール、ベンゾチアゾール及びベンゾオキサゾールからなる群から選択される化学基を含む。
【0025】
さらに、ctgが窒素原子、酸素原子、硫黄原子及び/又はリン原子を含むことが好ましい。これは、これらのタイプの原子が本発明の錯体の電荷移動能を増強するためである。
【0026】
好ましくは、正孔を輸送する該ctgが、配位子ligと共有結合し、置換又は非置換のジアリールアミン、置換又は非置換のトリアリールアミン、置換又は非置換のカルバゾール、置換又は非置換のチオフェン、置換又は非置換のピロール、置換又は非置換の3,4−エチレンジオキシチオフェン、置換又は非置換の縮合チエノチオフェン、置換又は非置換のオリゴチオフェン、置換又は非置換のトリス(オリゴアリーレニル)アミン、置換又は非置換のスピロ化合物、置換又は非置換のベンジジン化合物からなる群から選択される化学基を含む。
【0027】
正孔を輸送する好ましいctgを図2に示す。
【0028】
好ましくは、電子を輸送する該ctgが、配位子ligと共有結合し、置換又は非置換のオキサジアゾール、置換又は非置換のチアジアゾール、置換又は非置換のトリアゾール、置換又は非置換のピリジン、フルオロアリール、フルオロヘテロアリール、置換又は非置換のベンズイミダゾール、置換又は非置換のペリレン及びペリレン誘導体、置換又は非置換のトリス(フェニルキノキサリン)、置換又は非置換のシロール化合物、置換又は非置換のホウ素含有化合物からなる群から選択される化学基を含む。
【0029】
電子を輸送する好ましいctgを図3に示す。
【0030】
本発明の好ましい1つの実施の形態では、錯体は正孔輸送基として働く少なくとも1つのctgと、電子輸送基として働く1つのctgとの両方を含有する。かかる錯体は双極性化合物となる。かかる双極性化合物の使用によって、OLEDの製作を大幅に簡略化することができ、したがってOLEDの製造コストが削減される。
【0031】
好ましくは2つのctgによる配位子ligの置換は、有機溶媒に対する溶解性が良好な錯体をもたらすが、可溶化基によるctgの置換により本発明の錯体の溶解性を更に改善することができる。好ましい可溶化基としては、アルキル基、アルコキシ基及びポリエーテル基が挙げられる。例えばOLED等のオプトエレクトロニクスデバイスを製造するために、錯体を少なくとも1つの有機溶媒の溶液中で処理することができることが好ましい。
【0032】
本発明の錯体が下記式IIの錯体であることが好ましい:
【化2】

【0033】
本発明のこの好ましい実施の形態では、式Iの配位子ligが更に規定される。具体的には、式Iの配位子ligは、2つの芳香環Ar(Ar1及びAr2、並びにAr3及びAr4)を含む。
【0034】
特に、Ar1、Ar2、Ar3及びAr4は同じ又は異なる芳香環であり、好ましくは共有結合又は縮合しており、五員又は六員のアリール若しくはヘテロアリール、又は縮合アリール若しくは縮合ヘテロアリールを表し、Ar1、Ar2、Ar3及びAr4のいずれも2つ又は3つ又は4つの共有結合又は縮合した芳香環を含むことができ、異なる配位子がアリール基及び置換アリール基、アミン基、エーテル基、オリゴエーテル基、ビニル基、アルケン基、脂肪族基、スピロ基、シリル基、ボラン基、ホスファン基及びアルサン基、シラン基等の架橋基によって連結していてもよい。
【0035】
本発明の好ましい1つの実施の形態では、式II中に示されるスペクテーターは錯体中に存在しない(o=0)。この場合、或る配位子が2つの芳香環Ar1及びAr2からなるか、又はそれらを含み、第2の配位子が2つの芳香環Ar3及びAr4からなるか、又はそれらを含み、第3の配位子が2つの芳香環Ar5及びAr6からなるか、又はそれらを含む。当業者によって理解されるように、この場合、Ar5はA’’’を含み、Ar6はB’’’を含む。Ar1、Ar2、Ar3、Ar4、Ar5及びAr6は、好ましくは共有結合又は縮合した、同じ又は異なる芳香環であることができ、五員又は六員のアリール若しくはヘテロアリール、又は縮合アリール若しくは縮合ヘテロアリールを表し、Ar1、Ar2、Ar3、Ar4、Ar5及びAr6が各々、2つ又は3つ又は4つの共有結合又は縮合した芳香環を含むか、又はそれらからなることができ、配位子がアリール基及び置換アリール基、アミン基、エーテル基又はオリゴエーテル基、ビニル基、アルケン基、脂肪族基、スピロ基、シリル基、ボラン基、ホスファン基及びアルサン基、シラン基等の架橋基によって連結していてもよい。
【0036】
式II中で使用される他の記号は以下の意味を有する。
【0037】
Mは式Iについて規定したような金属イオンである。
【0038】
ctg’、ctg’’、ctg’’’及びctg’’’’は同じ又は異なる電荷輸送基であり、好ましくは窒素原子、酸素原子、硫黄原子及び/又はリン原子を含むアリール又はヘテロアリールを含む共役正孔又は電子輸送基を表す。ctg’、ctg’’、ctg’’’及びctg’’’’はAr1、Ar2、Ar3及びAr4をそれぞれ共有結合的に置換する。Ar5及びAr6を含む第3の配位子が錯体中に存在する場合(すなわち、スペクテーターが存在しない(o=0の)場合)、Ar5が電荷輸送基ctg’’’’’に結合し、Ar5が電荷輸送基ctg’’’’’’に結合し得る。好ましいctgは、同様に式Iを参照して上記及び本明細書中に、並びに図2及び図3に記載される。
【0039】
A’及びB’並びにA’’及びB’’は同じであるか、又は異なり、金属イオンMに対する芳香環Arの配位部位を表す。好ましい配位部位は炭素又は窒素である。スペクテーターが錯体中に存在しない(o=0の)場合、2つの芳香環Ar5及びAr6からなるか、又はそれらを含む第3の配位子が存在する。この場合、Ar5はA’’’を含み、Ar6はB’’’を含む。
【0040】
z’、z’’、z’’’及びz’’’’は同じであるか、又は異なり、1〜4の整数を表す。スペクテーターが錯体中に存在しない(o=0の)場合、2つの芳香環Ar5及びAr6からなるか、又はそれらを含む第3の配位子が存在し得る。この場合、Ar5はA’’’を含み、Ar6はB’’’を含む。Ar5及びAr6に結合するctgの数は1〜4であり得る。
【0041】
n、m、o、pは各々、独立して0〜4であり得る整数である。p(式II中に示されない)は、芳香環Ar5及びAr6からなるか、又はそれらを含む第3の配位子(例えばo=0の場合に存在し得る)の数を表す。n、m、o、pの合計は、(式Iについて規定したように)4つの配位部位を有する金属イオンMについては2であり、6つの配位部位を有するイオン中心Mについては3であり、8つの配位部位を有する金属イオンMについては4である。加えて、上記に規定されるような更なる配位子Lが必要とされる場合もある。
【0042】
金属イオンMをキレート化する、配位子と、共有結合したctgとの組み合わせは、本発明の錯体については同じであっても、又は異なっていてもよい。
【0043】
スペクテーターは、β−ジケトネート、nacnac、N−アルキルサリチルイミン、2−ピコリネート、二座ピラゾリルボレート、1,2−ニド−カルボランジホスフィン、1,2−ニド−カルボランジイソシアニド、1,2−ニド−カルボランジアルセネート、一価に負に帯電したジアミン、一価に負に帯電したジホスフィン、一価に負に帯電したジアルシン、一価に負に帯電したビスグアニジン、負に帯電した二座チオレート、負に帯電した二座アルコレート、負に帯電した二座フェノレート等を含む群から選択される負に帯電した二座配位子である。
【0044】
特に好ましい本発明の化合物を図1に示す。
【0045】
本発明の更なる態様では、上記及び本明細書中に記載されるような錯体は、特にオプトエレクトロニクス素子における光エミッタ又は光吸収体として使用される。本発明の錯体は、少なくとも1つの他の材料、特に少なくとも1つの他のマトリックス材料とともに、5重量%〜30重量%の錯体濃度で使用してもよい。本発明の錯体を、ロールオフ傾向の小さい高輝度用途(500lm/W超)で使用することが特に好ましい。ロールオフ傾向は、好ましくは100lm/W範囲で得られる効率と比較して20%未満である。「ロールオフ」という用語は、電流密度の増加に伴うOLEDの効率の低下を表す(J. Kido et al., Jap. J. Appl. Phys. 2007, 46, L10に記載される)。
【0046】
本発明の錯体が使用されるオプトエレクトロニクス素子は、有機発光ダイオード(OLED)、発光電気化学セル、有機ダイオード、有機フォトダイオード、OLEDセンサー(特に密閉封止されていないガスセンサー及び蒸気センサーにおけるもの)、有機太陽電池、有機電界効果トランジスタ、有機レーザー及び下方変換システム、すなわち紫外光を可視光に、青色光を緑色光又は赤色光にそれぞれ変換するオプトエレクトロニクス素子からなる群から選ばれることが好ましい。
【0047】
本発明の化合物の好ましい用途は、例えばO検出用のセンサー素子における光エミッタとしての用途である。このような場合、エミッタの発光減衰時間は長い、例えば10μs〜100μsであるものとする。発光層における錯体の割合は好ましくは5%〜100%である。
【0048】
他の場合では、光エミッタ又は吸収体における該錯体の割合が、好ましくは0.1%〜99%の範囲である。
【0049】
錯体をOLEDデバイスにおいて使用することが最も好ましい。光学発光素子、特にOLEDにおける光エミッタとしての錯体の濃度は1%〜20%である。この目的で、OLEDにおいてエミッタとして適用される本発明の錯体は、可能な限り短い発光減衰時間を示すものとする。好ましくは、錯体の発光減衰時間は0.5μs〜10μsである。
【0050】
本発明の好ましい実施の形態では、錯体が電荷輸送材料及び発光材料の両方としての役割を果たす。
【0051】
更なる態様では、本発明は、上記及び本明細書中に記載されるような本発明の錯体を含むオプトエレクトロニクス素子に関する。
【0052】
かかるオプトエレクトロニクス素子は、有機発光素子、有機フォトダイオード、有機ダイオード、有機太陽電池、有機トランジスタ、有機発光ダイオード、発光電気化学セル、有機電界効果トランジスタ、有機レーザー、及び紫外光を可視光に変換し、青色光を緑色光又は赤色光に変換する下方変換システムからなる群から選ばれる素子として実装することができる。
【0053】
本発明は、上記及び本明細書中に記載されるような本発明の錯体を含むオプトエレクトロニクス素子を製造する方法に更に関する。かかる方法では、上記及び本明細書中に記載されるような本発明の錯体は、支持体又はキャリア上に塗布することができる。本発明において記載される錯体は溶解処理可能であるため、錯体の塗布は好ましくは湿式化学手段を用いて行われる。
【0054】
別の態様では、本発明は、電子素子の発光特性及び/若しくは吸光特性に影響を与えるか、又は該特性を変化させる方法に関する。この方法は、上記及び本明細書中に記載されるような本発明の錯体を、オプトエレクトロニクス素子において電子又は正孔を移動させるマトリックス材料に添加することを含む。
【0055】
また、本発明は、特に紫外光を可視光に、又は青色光を緑色光、黄色光若しくは赤色光にそれぞれ変換するオプトエレクトロニクス素子における、上記及び本明細書中に記載されるような本発明の錯体の使用に言及する。この処理も下方変換として当業者に既知である。
【0056】
本発明の6つの重要な利点
第1の態様では、本発明は、金属中心が配位子上の巨大な電荷輸送基によって良好に遮蔽された、新規の発光材料である錯体を提供する。金属イオンにキレート化する各々の芳香環は、好ましくは少なくとも1つの電荷輸送基(好ましくは1つの二座配位子につき2つの置換基)で置換される。このため、隣接する錯体間の相互作用は大きく減少する。結果的に、いかなる形の構造配置のエミッタにおいても三重項・三重項消滅及び自己消光を強く抑制することができる。さらに、エミッタが酸素、水分及び他の不純物の作用を受ける可能性も最小限に抑えられる。
【0057】
第2の態様では、電荷輸送基は配位子に共有結合する。電荷輸送基の芳香環は、一般的な有機溶媒に対する溶解性をエミッタ錯体にもたらし、材料を湿式化学法によって処理することを可能にする。
【0058】
第3の態様では、金属中心Mに配位する配位子を置換する電荷輸送基は、窒素原子、酸素原子、硫黄原子及び/又はリン原子を含むアリール、ヘテロアリールから構成される。この置換基のπ系は金属錯体への電荷輸送を補助する。
【0059】
第4の態様では、本発明において、異なるタイプの配位子、電荷輸送基及び金属イオン中心が存在する。本発明は、エミッタにおける金属と配位子との組み合わせをオプトエレクトロニクス用途用に最適化することによって、HOMO/LUMOギャップ、三重項状態エネルギー、光物理的性質及び電荷輸送性を微調整することが可能な広範なリン光性材料を提供する。
【0060】
第5の態様では、本発明の錯体は、電荷輸送材料及びエミッタ材料の両方としての役割を果たすことができる。
【0061】
第6の態様では、エミッタ錯体は、正孔輸送単位として働く少なくとも1つのctgと、電子輸送単位として働く1つのctgとの両方を含有し、それにより双極性錯体を形成することができる。かかる双極性錯体の使用は、OLED製作コストを大きく簡略化することができる。
【0062】
本発明の錯体の合成
更なる態様では、本発明は、上記及び本明細書中に記載されるような本発明の錯体の合成に言及する。
【0063】
下記式IIIの錯体の金属イオンMと配位子ligとの組み合わせは、電荷輸送基(ctg)との反応の中間体として働く:
【化3】

【0064】
式III中、C1〜C4は各々、電荷輸送基との金属触媒カップリング反応のための芳香族基Ar(Ar1及びAr2;Ar3及びAr4)からなる配位子ligに結合した反応性基(例えば、ハロゲン化物基、ボロン酸基、ボロン酸エステル基、ビニル基、アセチレニル基、トリアルキルスタンナン基)である。式(III)中の他の記号は、式(II)について上記に記載されるものと同じである。式IIIの錯体のバリエーション及び好ましい実施の形態については、上記の説明を参照されたい。当業者であれば、例えばスペクテーターが存在せず、Ar5及びAr6を含む第3の配位子が存在する場合に本発明の錯体の合成スキームを修正する方法を理解するであろう。
【0065】
本明細書中で使用される場合、2つの芳香族基Ar(Ar1及びAr2;Ar3及びAr4)からなる配位子ligという用語は、好ましくは金属中心に配位する2つ以上の五員又は六員のアリール又はヘテロアリール、縮合アリール、縮合ヘテロアリールを表し、これら2つのアリール基は、互いに共役的に結合するか、又は縮合する。この配位子内のアリールとしては、フェニル、ビフェニル、フェノールが挙げられ、ヘテロアリールとしては、ピリジン、ピリミジン、ピラジン、トリアジン、ピロール、ピラゾール、イミダゾール、トリアゾール、チオフェン、フラン、チアゾール、オキサゾール、オキサジアゾール、チアジアゾールが挙げられ、縮合アリールとしては、ナフタレン、フェナントレン、フルオレンが挙げられ、縮合ヘテロアリールとしては、カルバゾール、ベンゾチオフェン、ベンズイミダゾール、ベンゾチアゾール及びベンゾオキサゾールが挙げられる。
【0066】
好ましい1つの実施の形態では、C1〜C4は、電荷輸送基との金属触媒カップリング反応のための各々の金属キレート化環上の反応性ハロゲン化物基、ボロン酸基、ボロン酸エステル基、ビニル基、アセチレニル基、トリアルキルスタンナン基を含む群から独立して選択される。C1〜C4は好ましくは同じである。好ましくは、配位子の各々の金属キレート化環は、C1〜C4の少なくとも1つを含有する。
【0067】
本発明の錯体の合成においては、下記式(IV)によって表される「電荷輸送部」が好ましくは使用される:
【化4】

(式中、
cgtは電荷輸送基であり、(上記で規定されるような)正孔輸送基又は電子輸送基を表す。
C’は、キレート化配位子との金属触媒カップリング反応に使用することのできる反応性基である。C’は、例えば電荷輸送基上のハロゲン化物基、ボロン酸基、ボロン酸エステル基、ビニル基、アセチレニル基、トリアルキルスタンナン基を表す。各々のC’は、好ましくは式IIの構造上のC1〜C4に相補的である(complementary)。C1〜C4及びC’は各々、金属触媒カップリング反応を受けて、金属キレート化配位子と電荷輸送基との間に炭素−炭素共有結合又は炭素−窒素共有結合を形成することができる。
R及びR’は同じであるか、又は異なり、水素、可溶化基、電子供与基又は電子求引基を表す。
pは1〜10の整数である)。
【0068】
好ましい実施の形態では、金属イオンMにキレート化するアリール又はヘテロアリールを含む各々の配位子ligは、少なくとも2つの電荷輸送基を有するものとする。別の好ましい実施の形態では、アリール又はヘテロアリールを含む各々の配位子上の電荷輸送基は好ましくは同じ電荷輸送性を有する、すなわち全てのctgが正孔輸送性又は電子輸送性である。配位子の選択の際には、起こり得る立体障害及び溶解処理可能性を考慮すべきであるが、このことは当業者には理解される。
【0069】
1つの実施の形態では、電荷輸送基と配位子との共役を増加させるために、電荷輸送基がアリール基若しくはヘテロアリール基若しくはビニル基若しくはアセチレニル基及び/又は窒素原子を含むことが好ましい。
【0070】
好ましくは、正孔輸送基のアリール又はヘテロアリールが、置換又は非置換のジアリールアミン、置換又は非置換のトリアリールアミン、置換又は非置換のカルバゾール、置換又は非置換のチオフェン、置換又は非置換のピロール、置換又は非置換の3,4−エチレンジオキシチオフェン、置換又は非置換の縮合チエノチオフェン、置換又は非置換のオリゴチオフェン、置換又は非置換のトリス(オリゴアリーレニル)アミン、置換又は非置換のスピロ化合物、置換又は非置換のベンジジン化合物からなる群から選択される基を含む。
【0071】
好ましくは、電子輸送基のアリール又はヘテロアリールが、置換又は非置換のオキサジアゾール、置換又は非置換のチアジアゾール、置換又は非置換のトリアゾール、置換又は非置換のピリジン、フルオロアリール、フルオロヘテロアリール、置換又は非置換のベンズイミダゾール、置換又は非置換のペリレン及びペリレン誘導体、置換又は非置換のトリス(フェニルキノキサリン)、置換又は非置換のシロール化合物、置換又は非置換のホウ素含有化合物を含む群から選択される基を含む。
【0072】
好ましくは、式IV中のC’は、正孔輸送基、電子輸送基又は双極性基上の第二級アミン基、反応性ハロゲン化物基、ボロン酸基、ボロン酸エステル基、ビニル基、アセチレニル基、トリアルキルスタンナン基を含む群から選択される。
【0073】
異なる電荷輸送部を用いて錯体合成を行う(電荷輸送部の各々の種が異なるC’を有する)場合、各々のC’は好ましくは式IIIの構造上のC1〜C4に相補的である。C1〜C4及びC’は各々、金属触媒カップリング反応を受けて、金属キレート化配位子ligと電荷輸送基ctgとの間に炭素−炭素共有結合又は炭素−窒素共有結合を形成することができる。
【0074】
式IVのR及びR’は正孔輸送基又は電子輸送基上で同じであるか、又は異なり、錯体の溶解性を増強する。好ましい電荷輸送基上の可溶化基としては、分岐及び非分岐アルキル基、分岐及び非分岐アルコキシ基、アルケニル基、アルキルシラン基、ジアルキルアミン基、ポリエーテル基(例えば、tert−ブチル、2−エチルヘキシル、tert−ブトキシル、2−エチルヘキシルオキシ、C〜C12アルキル、C〜C12アルコキシル、トリ−C〜C12アルキルシラン、トリ−C〜C12アルコキシルシラン、ジ−C〜C12ジアルキルアミン)が挙げられる。錯体が溶解処理可能であることが好ましい。
【0075】
置換エミッタ錯体のHOMO−LUMO間のエネルギーギャップ、及び電荷キャリア移動度を増強及び微調整するために、電荷輸送基上の電子供与/求引基を置換することができる。
【0076】
正孔輸送置換基については、好ましくは式IV中のR及びR’は同じであるか、又は異なる。R及びR’は、アルキル、アルコキシル、アリール、ヒドロキシル、アミン、チエニル、ピロリルを含む電子供与基を表す。電子輸送置換基については、R及びR’は同じであるか、又は異なり、フッ素、シアノ、ニトロ、フッ素化アリール、フルオロアルキル、エステル、カルボキシル、ケトン、アミド、ホスホネート及びスルホン、ピリジル、トリアゾリル(triazolyl)を含む電子求引基を表す。
【0077】
本発明を図面と関連付けて説明する。
【図面の簡単な説明】
【0078】
【図1−1】本発明の金属錯体の例を示す図である。
【図1−2】同上
【図1−3】同上
【図1−4】同上
【図1−5】同上
【図1−6】同上
【図1−7】同上
【図1−8】同上
【図1−9】同上
【図1−10】同上
【図1−11】同上
【図1−12】同上
【図1−13】同上
【図1−14】同上
【図1−15】同上
【図1−16】同上
【図1−17】同上
【図1−18】同上
【図1−19】同上
【図1−20】同上
【図1−21】同上
【図1−22】同上
【図2−1】配位子の置換基としての正孔輸送基の形態の電荷輸送基(ctg)の例を示す図である(ctgは#で配位子に共有結合する)
【図2−2】同上
【図3】配位子の置換基としての電子輸送基の形態の電荷輸送基(ctg)の例を示す図である(ctgは#で配位子に共有結合する);
【図4】PMMAに溶解したIr[(TPA)ppy)]の発光スペクトル及び励起スペクトル(CHClによる)を示す図である。発光減衰時間は、λexc=372nmでの励起の後、λmax=560nmで測定した。図中訳Photophysicaldata of Example 1 in PMMA PMMA中における実施例1の光物理的データWavenumber 波数Intensity 強度Wavelength 波長Excitation 励起Emission 発光
【図5】本発明の錯体を含むか、又はそれからなるエミッタ層を有するOLEDデバ図中訳Cathode カソードInterlayer 中間層Emitter Layer エミッタ層Anode アノードTransparentSubstrate, Glass 透明基板、ガラス
【発明を実施するための形態】
【0079】
図1は、本発明の錯体(三重項エミッタ)の例を示す。R〜R10は同じであっても、又は異なっていてもよく、本発明の錯体の溶解性を向上させることもできる電荷輸送基(ctg)を表す。好ましくは、各々の配位子ligは、立体障害の問題を回避するために1つ又は好ましくは2つのctgで置換される。したがって、R〜R10は別の置換基、例えば−Hであってもよい。
【0080】
図2は、配位子ligの置換基としての正孔輸送基の形態のctgの例を示す。R、R’、R’’及びR’’’は可溶化基、電子供与基又は電子求引基を表し、#は配位子ligへの結合点を表す。
【0081】
図3は、配位子ligの置換基としての電子輸送材料の例を示す。R及びR’は可溶化基、電子供与基又は電子求引基を表し、#は配位子への結合点を表す。
【0082】
図4は、PMMAに溶解したIr[(TPA)ppy)]の発光スペクトル及び励起スペクトル(CHClによる)を示す。発光減衰時間は、λexc=372nmでの励起の後、λmax=560nmで測定した。
【0083】
図5は、OLEDの簡単なデバイス構造の一例を示す。総厚が約300nmの層2〜層7は、ガラス基板1、又は別の固体支持体若しくは可撓性支持体上に塗布することができる。層1〜層7は以下のとおりである:
1.固体支持体として、ガラス、又は任意の他の好適な固体透明材料若しくは可撓性透明材料を使用することができる。
2.ITO=インジウムスズ酸化物
3.PEDOT/PSS=ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)/ポリ(スチレンスルホネート)、水溶性である正孔輸送材料の例(HTL=正孔輸送層)。
4.エミッタとして本発明の錯体を含むエミッタ層(EML)。本発明の錯体は、例えば有機溶媒に可溶化して、マトリックス材料(例えば、PVK=ポリビニルカルバゾール又はCBP=4,4’−ビス(9−カルバゾリル)ビフェニル)とともに塗布することができる。適当な有機溶媒を選ぶことによって、下位のPEDOT/PSS層の溶解を防止することができる。好ましくは、本発明の錯体は、この層中に5重量%から10重量%〜15重量%までの量で存在する。本発明の錯体は、不活性ポリマー、例えばポリ(メチルメタクリレート)(PMMA)又はポリスチレン(PS)中にドープしてもよい。
5.ETL=電子輸送層。例えば、昇華技法を用いて堆積させることのできるAlqを使用することができる(例えば、厚さ40nm)。
6.通常は昇華技法を用いて堆積させる、保護及び注入障壁の低減のための層。例えばCsF又はLiFから構成されるこの薄い中間体層は、電子注入の障壁を低くし、ETL層を保護する。簡略化OLEDにおいては、ETL層及びCsF層は省略され得る。
7.導電性カソード層を昇華によって堆積させる。Alだけでなく、Mg:Ag(10:1)又は他の金属も使用することができる。
【0084】
デバイスに印加される電圧は例えば3V〜15Vである。
【実施例】
【0085】
ホモレプティックfac−イリジウム錯体を、Ir(acac)及びシクロメタル化配位子をグリセロール中で還流させることによって合成した。Ir(III)金属中心に対する配位子の配位幾何構造は、X線結晶学によってfacial型であることが確認された。
【0086】
以下の代表的な本発明の錯体のうち1つの合成、特性決定及び光物理的性質を参照して、本発明をより詳細に説明する:
【0087】
実施例1
【化5】

(toluene:トルエン,16h:16時間,Glycerol:グリセロール)

臭化物官能化フェニルピリジンを合成し、Ir(acac)との錯体形成を200℃で行い、確実にfac異性体を得た。鈴木カップリングを用いてfac−Ir(III)錯体をトリアリールアミンボロネートに直接カップリングすることによって、置換エミッタを合成した。
【0088】
実施例1の合成
μ−ジクロロテトラキス(2−(3−ブロモフェニル−3−ブロモピリジナト−κN,C)ジイリジウム(97mg、0.086mmol)及びジフェニル−[4−(4,4,5,5,−テトラメチル−[1,3,2]ジオキサボロラン(dioxaborolane)−2−イル)アミン(239mg、0.65mmol)及び炭酸ナトリウム(137mg、1.29mmol)を、蒸留トルエン(50mL)、無水エタノール(20mL)及び蒸留水(15mL)に添加した。この白色の懸濁液を30分間脱気した後、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(30mg、0.026mmol)を添加した。この黄色の二相混合物を80℃に加熱し、N下で一晩撹拌した。混合物を室温まで冷却した。有機相を分離し、水相をDCM(3×50mL)で抽出した。合わせた有機抽出物をMgSOで乾燥させ、溶媒を真空下で除去して、赤色の油を得た。次いで、この粗生成物を、DCM/ヘキサン(1:2)を溶離液としたシリカカラムクロマトグラフィーによって精製し、黄色の固体(30mg、16.5%)を得た。H NMR(300MHz、CDCl):δ6.91〜7.02(m,9H,ArH)、7.05〜7.32(m,75H,ArH)、7.50〜7.56(m,9H,ArH)、7.68(d,3H,ArH,J=5.9Hz)、7.95(bs,3H,ArH)、8.14(bs,3H,ArH)。
【0089】
PMMAに溶解したIr[(TPA)ppy)]の発光スペクトル及び励起スペクトル(CHClによる)を図4に示す。発光減衰時間は、λexc=372nmでの励起の後、λmax=560nmで測定した。
【0090】
実施例1の錯体Ir[(TPA)ppy)]は、3つ全ての配位子lig及び全てのctgが同一である錯体である。当業者であれば、異なる配位子及び/又はctgを有する錯体を合成する方法を知っているであろう。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ルミネッセンス可能な下記式Iの錯体:
【化1】

(式中、
Mは金属イオン、重金属又はランタニド、又はdブロック元素であり、
ligは、共役π電子系を有する配位子であり、金属イオンMに結合しており、互いに共有結合した、又は縮合した少なくとも2つの芳香環を含み、
ctgは、正孔又は電子を輸送し、ジクロロメタン、クロロホルム、トルエン及びテトラヒドロフラン等の有機溶媒に対する該錯体の溶解性を改善する有機電荷輸送基であり、ctgが窒素原子、酸素原子、硫黄原子及び/又はリン原子を含むアリール又はヘテロアリールを含み、
n、m、o、pは、各々0、1、2又は4であり得る整数であり、n、m、o、pの合計は、
4つの配位部位を有する金属イオンMについては2であり、
6つの配位部位を有する金属イオンMについては3であり、
8つ又は9つの配位部位を有する金属イオンMについては4であり、
ligI(ctg1)(ctg2)、ligII(ctg3)(ctg4)及びligIII(ctg5)(ctg6)は同じであっても、又は異なっていてもよく、
Lは、金属イオンMが9つの配位部位を有するランタニド金属イオンである場合に存在する、任意の中性単座配位子であり、Lはアミン、イミン、p−置換ピリジン、エーテル、イソシアネート、イソニトリル、ニトリル、カルボニル又はN−複素環であり、
スペクテーターは負に帯電した二座配位子であり、β−ジケトネート、nacnac、N−アルキルサリチルイミン、2−ピコリネート、二座ピラゾリルボレート、1,2−ニド−カルボランジホスフィン、1,2−ニド−カルボランジイソシアニド、1,2−ニド−カルボランジアルセネート、一価に負に帯電したジアミン、一価に負に帯電したジホスフィン、一価に負に帯電したジアルシン、一価に負に帯電したビスグアニジン、負に帯電した二座チオレート、負に帯電した二座アルコレート、負に帯電した二座フェノレートを含む群から選択することができる)。
【請求項2】
ルミネッセンスがリン光又はエレクトロルミネッセンスである、請求項1に記載の錯体。
【請求項3】
正孔を輸送する該ctgが、置換又は非置換のジアリールアミン、置換又は非置換のトリアリールアミン、置換又は非置換のカルバゾール、置換又は非置換のチオフェン、置換又は非置換のピロール、置換又は非置換の3,4−エチレンジオキシチオフェン、置換又は非置換の縮合チエノチオフェン、置換又は非置換のオリゴチオフェン、置換又は非置換のトリス(オリゴアリーレニル)アミン、置換又は非置換のスピロ化合物、置換又は非置換のベンジジン化合物からなる群から選択される化学基を含む、請求項1又は2に記載の錯体。
【請求項4】
電子を輸送する該ctgが、置換又は非置換のオキサジアゾール、置換又は非置換のチアジアゾール、置換又は非置換のトリアゾール、置換又は非置換のピリジン、フルオロアリール、フルオロヘテロアリール、置換又は非置換のベンズイミダゾール、置換又は非置換のペリレン及びペリレン誘導体、置換又は非置換のトリス(フェニルキノキサリン)、置換又は非置換のシロール化合物、置換又は非置換のホウ素含有化合物からなる群から選択される化学基を含む、請求項1又は2に記載の錯体。
【請求項5】
配位子のアリール基又はヘテロアリール基が、フェニル、ビフェニル、フェノール、ピリジン、ピリミジン、ピラジン、トリアジン、ピロール、ピラゾール、イミダゾール、トリアゾール、チオフェン、フラン、チアゾール、オキサゾール、オキサジアゾール、チアジアゾール、ナフタレン(naphthalene)、フェナントレン、フッ素、カルバゾール、ベンゾチオフェン、ベンズイミダゾール、ベンゾチアゾール及びベンゾオキサゾールからなる群から選択される化学基を含む、請求項1〜4のいずれか一項に記載の錯体。
【請求項6】
ルミネッセンス可能な下記式IIの錯体:
【化2】

(式中、
Mは金属イオン、重金属、dブロック元素、又はランタニドであり、
Ar1、Ar2、Ar3及びAr4は同じ又は異なる芳香環であり、Ar1とAr2とが、及びAr3とAr4とが共有結合又は縮合して、五員又は六員のアリール若しくはヘテロアリール、又は縮合アリール若しくは縮合ヘテロアリールを表し、Ar1、Ar2、Ar3及びAr4のいずれも2つ、3つ又は4つの共有結合又は縮合した芳香環を含むことができ、異なる配位子がアリール基及び置換アリール基、アミン基、エーテル基、オリゴエーテル基、ビニル基、アルケン基、脂肪族基、スピロ基、シリル基、ボラン基、ホスファン基及びアルサン基、シラン基等の架橋基によって連結していてもよく、
ctg’、ctg’’、ctg’’’及びctg’’’’は同じ又は異なる電荷輸送基であり、Ar1、Ar2、Ar3及びAr4をそれぞれ共有結合的に置換する、窒素原子、酸素原子、硫黄原子及び/又はリン原子を含むアリール又はヘテロアリールを含む共役正孔又は電子輸送基を表し、
A’及びB’並びにA”及びB”は同じであるか、又は異なり、金属イオンに対する配位部位を表し、炭素又は窒素を表し、
z’、z’’、z’’’及びz’’’’は同じであるか、又は異なり、1〜4の整数を表し、
n’、m’、o’は各々、独立して0〜4であり得る整数であり、n’、m’、o’の合計は、4つの配位部位を有する金属イオンMについては2であり、6つの配位部位を有する金属イオンMについては3であり、8つの配位部位を有する金属イオンMについては4であり、
金属イオンMにキレート化する、Ar1とAr2とによって及びAr3とAr4とによって形成される配位子は同じであっても、又は異なっていてもよく、
スペクテーターは負に帯電した二座配位子であり、β−ジケトネート、nacnac、N−アルキルサリチルイミン、2−ピコリネート、二座ピラゾリルボレート、1,2−ニド−カルボランジホスフィン、1,2−ニド−カルボランジイソシアニド、1,2−ニド−カルボランジアルセネート、一価に負に帯電したジアミン、一価に負に帯電したジホスフィン、一価に負に帯電したジアルシン、一価に負に帯電したビスグアニジン、負に帯電した二座チオレート、負に帯電した二座アルコレート、負に帯電した二座フェノレートを含む群から選択することができる)。
【請求項7】
正孔を輸送する少なくとも1つのctg及び電子を輸送する少なくとも1つのctgを含み、それにより電子輸送、正孔輸送及び発光が可能な双極性錯体を形成する、請求項1〜6のいずれか一項に記載の錯体。
【請求項8】
特にオプトエレクトロニクス素子における光エミッタ又は光吸収体としての請求項1〜7のいずれか一項に記載の錯体の使用。
【請求項9】
錯体が、少なくとも1つの他の材料、又は少なくとも1つの他のマトリックス材料とともに1重量%〜30重量%の濃度で使用される、請求項8に記載の使用。
【請求項10】
オプトエレクトロニクス素子が、
有機発光ダイオード(OLED)、
発光電気化学セル、
OLEDセンサー、又は密閉封止されていないガスセンサー及び蒸気センサー用のもの、
有機フォトダイオード、
有機ダイオード、
有機太陽電池、
有機電界効果トランジスタ、
有機レーザー、
下方変換システム、並びに
照明デバイス
からなる群から選ばれる、請求項8又は9に記載の使用。
【請求項11】
例えばO検出用のセンサー素子における光エミッタとしての請求項1〜7のいずれか一項に記載の錯体の使用。
【請求項12】
発光層における該錯体の割合が100%である、請求項8〜11のいずれか一項に記載の使用。
【請求項13】
光エミッタ又は吸収体における該錯体の割合が0.1%〜99%である、請求項8〜11のいずれか一項に記載の使用。
【請求項14】
光学発光素子、又はOLEDにおける光エミッタとしての該錯体の濃度が、1%〜20%である、請求項8〜13のいずれか一項に記載の使用。
【請求項15】
ロールオフ傾向のより小さい高輝度用途、又はOLED照明用途用の、請求項8〜14のいずれか一項に記載の使用。
【請求項16】
錯体が電荷輸送材料及び発光材料の両方としての役割を果たす、請求項8〜15のいずれか一項に記載の使用。
【請求項17】
請求項1〜7のいずれか一項に記載の錯体を含むオプトエレクトロニクス素子。
【請求項18】
有機発光素子、有機フォトダイオード、有機ダイオード、有機太陽電池、有機トランジスタ、有機発光ダイオード、発光電気化学セル、有機電界効果トランジスタ、有機レーザー及び下方変換システムからなる群から選ばれる素子として実装される、請求項17に記載のオプトエレクトロニクス素子。
【請求項19】
請求項1〜7のいずれか一項に記載の錯体を使用する、オプトエレクトロニクス素子を製造する方法。
【請求項20】
請求項1〜7のいずれか一項に記載の錯体を支持体又はキャリア上に塗布する、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
湿式化学手段を用いて塗布を行う、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
請求項1〜7のいずれか一項に記載の錯体を、オプトエレクトロニクス素子において電子又は正孔を移動させるためにマトリックス材料に添加することを含む、電子素子の発光特性及び/若しくは吸光特性に影響を与えるか、又は該特性を変化させる方法。
【請求項23】
紫外光を可視光に変換するか、又は青色光を緑色光若しくは赤色光に変換する(下方変換)、特にオプトエレクトロニクス素子における請求項1〜7のいずれか一項に記載の錯体の使用。

【図1−1】
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【図1−2】
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【図1−3】
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【図1−4】
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【図1−5】
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【図1−6】
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【図1−7】
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【図1−8】
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【図1−9】
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【図1−10】
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【図1−11】
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【図1−12】
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【図1−13】
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【図1−14】
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【図1−15】
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【図1−16】
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【図1−17】
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【図1−18】
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【図1−19】
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【図1−20】
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【図1−21】
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【図1−22】
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【図2−1】
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【図2−2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2013−512227(P2013−512227A)
【公表日】平成25年4月11日(2013.4.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−540442(P2012−540442)
【出願日】平成22年11月26日(2010.11.26)
【国際出願番号】PCT/EP2010/068317
【国際公開番号】WO2011/064335
【国際公開日】平成23年6月3日(2011.6.3)
【出願人】(511102387)シノーラ ゲエムベーハー (3)
【Fターム(参考)】