説明

エレベータのかご装置

【課題】かご上に閉じ込まれた保守員が天井の救出口を利用して脱出しており、救出口を設けることで天井構造に制約が生じ、より良い天井デザインを設計する上で制約が生じる。
【解決手段】この発明に係るエレベータのかご装置では、固定棒を上方向に移動することで巾木台14からの係止を解除し、回転軸3を中心に回転してチェーン12で支持された回転壁2を天井7からかご室16の外側方向に傾斜して空間Aを生じさせる。保守員18は、この空間Aを通じて天井7から脱出し、かご室16に移動する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、かご上に搭乗した保守員が閉じ込められたときに、かご上からかご室に脱出、移動可能なエレベータのかご装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
巻上機が昇降路上部、制御盤が昇降路下部に配置されている機械室レスエレベータにおいて、保守員が巻上機のメンテナンスをする場合、かご上に搭乗して作業する必要がある。
そして、保守員が一人で作業しているときにエレベータが起動不可の状況に陥ると、保守員はかご上に閉じ込められる状況になってしまう。
従来、これに対する対策を講じたものとして、例えば特許文献1に記載されたエレベータ乗かごの非常脱出装置や、特許文献2に記載されたエレベータのかご装置が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】実開平6-37257号公報
【特許文献2】特開2008-44734号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、これらのものは、かご上に閉じ込まれた保守員が天井の救出口を利用して脱出しており、救出口を設けることで天井構造に制約が生じ、より良い天井デザインを設計する上で制約が生じるという問題点があった。
【0005】
この発明は、かかる問題点を解決することを課題とするものであって、天井に救出口を設けなくても、かご上に搭乗した保守員がかご上からかご室に脱出、移動でき、救出口の制約を受けることなく天井のデザインを設計することができる等のエレベータのかご装置を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明に係るエレベータのかご装置は、かご室の天井と、前記かご室の側面に設けられ横方向に延びた回転軸を中心に回転可能な回転壁と、この回転壁に縦方向に貫通して設けられ、下端部がかご室床面の周縁部に取付けられた巾木台に係止された固定棒と、前記かご室の天井と前記回転壁の上部とを連結しているとともに回転壁を支持する変形可能な連結部材と、前記回転壁の上部に上方向に突出して設けられた手掛け部材とを備え、
前記固定棒は、上方向に移動することで前記巾木台からの係止が解除されるとともに、前記回転壁は、前記回転軸を中心に回転して前記連結部材で傾斜して支持されて、前記天井の上部との間で空間が生じるようになっている。
【発明の効果】
【0007】
この発明に係るエレベータのかご装置によれば、天井に救出口を設けなくても、かご上の保守員は、固定棒を上方向に移動することで巾木台からの係止を解除し、回転軸を中心に回転して回転壁を天井からかご室の外側方向に傾斜して生じた空間からかご室に脱出でき、天井に救出口を設けるという制約を受けることなく天井のデザインを設計することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】この発明の実施の形態1のエレベータのかご装置を示す側断面図である。
【図2】図1の回転壁を示す斜視図である。
【図3】図1のエレベータかごの天井を示す要部斜視図である。
【図4】図1のエレベータのかご装置の取り扱いを示す要部斜視図である。
【図5】図1のエレベータのかご装置の使用態様を示す要部斜視図である。
【図6】この発明の実施の形態2のエレベータのかご装置を示す要部斜視図である。
【図7】この発明の実施の形態3のエレベータのかご装置を示す側断面図である。
【図8】図7のエレベータのかご装置の使用態様を示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、この発明の各実施の形態について図に基づいて説明するが、各図において同一、または相当部材、部位については、同一符号を付して説明する。
実施の形態1.
図1はこの発明の実施の形態1のエレベータのかご装置を示す側断面図、図2は図1の回転壁を示す斜視図、図3は図1のエレベータかごの天井7を示す要部斜視図、図4は図1のエレベータのかご装置の取り扱いを示す要部斜視図である。
このエレベータのかご装置では、離間した一対の固定壁1の間に回転壁2が回転可能に設けられている。この回転壁2には、横方向に延びた回転軸3が貫通している。この回転軸3の両端部はそれぞれ固定壁1に回転可能に支持されている。
回転壁2の下面には、断面L字形状の横部材4が取付けられている。
回転壁2の上面には、手掛け用穴6が一対形成されている。この手掛け用穴6には、かご上の保守員が脱出する際に手掛け部材5が挿入される。
この手掛け用穴6の両側には、締結部品であるボルトを用いて天井7に回転壁2を固定するための締結用穴であるボルト穴8が形成されている。このボルト穴8は、固定壁1の上面にも同様に形成されている。
また、回転壁2の両側には、それぞれ縦方向に延びた固定棒10が貫通している。この固定棒10の上端部には、連結部材であるチェーン12が接続された金具11が取付けられている。固定棒10の下端部は、かご室床面13の周縁部に取付けられた巾木台14に形成された係止穴15に挿入されている。
【0010】
天井7は、図3に示すように、周縁部に、手掛け部材5の回転壁2からの着脱を可能にする手掛け用切り欠き20が形成されている。また、この手掛け用切り欠き20の両側には、固定棒10との干渉を避けるための固定棒用切り欠き21が形成されている。
また、天井7は、周縁部に、回転壁2及び固定壁1と締結する締結部品であるボルトが貫通する穴22が複数形成されている。
【0011】
次に、かご室16の天井7から保守員18が脱出する手順について説明する。
先ず、保守員18は、天井7に常備されている手掛け部材5を回転壁2の上面の手掛け用穴6に差し込む(図4参照)。
保守員18は、手掛け部材5に手を掛けることで、この後の脱出時の安全な移動を可能にする。
【0012】
次に、回転壁2のボルト穴8に螺着した締結部品であるボルト(図示せず)を外して、回転壁2の天井7からの固定を解除し、引き続き固定棒10を上方へ引き上げて、回転壁2の巾木台14からの固定を解除する。
この結果、回転壁2は、回転軸3を中心に回転可能となり、保守員18は、手掛け部材5を奥側に押して、回転壁2をかご室16の外側に傾斜させる。なお、回転壁2は、天井7とチェーン12で接続され、チェーン12で支持されているので、回転壁2は、所定の傾斜角度で定まる(図5参照)。
この後、保守員18は、天井7と回転壁2との間の空間Aを通じて、傾斜した回転壁2を滑り落ちて、かご室16内に脱出、移動する。
【0013】
この実施の形態によるエレベータのかご装置によれば、固定棒10を上方向に移動することで巾木台14からの係止を解除し、回転軸3を中心に回転して回転壁2を天井7からかご室16の外側方向に傾斜して生じた空間Aから保守員18は天井7から脱出している。
従って、天井7に救出口を設けなくても、保守員18がかご室16に脱出、移動でき、天井7に救出口を形成しなければならないという制約を受けることなく天井7のデザインを設計することができる。
【0014】
また、保守員18は、一人で天井7からかご室16内へ脱出が可能となり、保守員18が天井7に閉じ込められた場合に備えて予備の保守員18を待機する必要はない。
【0015】
また、天井7に常備された手掛け部材5は、回転壁2に対して着脱可能であるので、簡単に回転壁2に取付けることができ、脱出の時間が短縮化される。
【0016】
また、天井7は、周縁部に、固定棒10の先端部が通る固定棒用切り欠き21、手掛け部材5が通る手掛け用切り欠き20がそれぞれ形成され、また回転壁2と締結するボルトが貫通する穴22が形成されているので、天井7は、固定棒10及び手掛け部材5に干渉されることなく、固定壁1及び回転壁2に固定される。
【0017】
また、変形可能な連結部材はチェーン12であり、低コストで傾斜した回転壁2を支持することができる。
【0018】
実施の形態2.
図6はこの発明の実施の形態2のエレベータのかご装置を示す要部斜視図である。
この実施の形態では、実施の形態1の手掛け部材5及び固定棒10が一体化された手掛け兼用固定棒30を備えている。回転壁2の上面両側には、金具11が取付けられており、この金具11と天井7とは、チェーン12で接続されている。
また、天井に関しては、図示していないが、周縁部に、手掛け兼用固定棒30の先端部が通る切り欠きが形成されているとともに、固定壁1及び回転壁2と締結する締結部品であるボルトが貫通する穴が形成されている。
この他の構成は実施の形態1のエレベータのかご装置と同じである。
【0019】
このエレベータのかご装置では、手掛け兼用固定棒30を持ち上げることで、回転壁2の巾木台14からの固定を解除する。
保守員18が天井7から脱出する際のその他の手順は実施の形態1と同じである。
【0020】
この実施の形態のエレベータのかご装置によれば、手掛け部材5及び固定棒10が一体化されているので、別置きで手掛け部材5を天井7に常設する必要がないとともに、かご室16の天井7から保守員18が脱出する際に、実施の形態1のもののように、手掛け部材5を回転壁2の手掛け用穴6に差し込む必要性がない。
従って、実施の形態1のエレベータのかご装置と比較して脱出の時間が短縮化される。
【0021】
実施の形態3.
図7はこの発明の実施の形態3のエレベータのかご装置を示す側断面図である。
この実施の形態では、実施の形態1のチェーン12の代わりに、連結部材であるリンク40が用いられている。このリンク40は、複数のリンク部41がピン42により連結されて構成されている。
この他の構成は実施の形態1のエレベータのかご装置と同じである。
【0022】
この実施の形態のエレベータのかご装置によれば、リンク40を用いたことにより、チェーン12を用いたときと比較して傾斜した回転壁2は安定した状態が確保され、保守員18はより安全にかご室16内に脱出、移動することができる。
【0023】
なお、かご室16の天井7と回転壁2の上部とを連結しているとともに回転壁2を支持する連結部材である、チェーン12及びリンク40は一例であり、勿論これらに限定されない。
【符号の説明】
【0024】
1 固定壁、2 回転壁、3 回転軸、4 横部材、5 手掛け部材、6 手掛け用穴、7 天井、8 ボルト穴、10 固定棒、11 金具、12 チェーン(連結部材)、13 かご室床面、14 巾木台、15 係止穴、16 かご室、17 出入口、18 保守員、20 手掛け用切り欠き、21 固定棒用切り欠き、22 穴、30 手掛け兼用固定棒、40 リンク、41 リンク部、42 ピン、A 空間。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
かご室の天井と、
前記かご室の側面に設けられ横方向に延びた回転軸を中心に回転可能な回転壁と、
この回転壁に縦方向に貫通して設けられ、下端部がかご室床面の周縁部に取付けられた巾木台に係止された固定棒と、
前記かご室の天井と前記回転壁の上部とを連結しているとともに回転壁を支持する変形可能な連結部材と、前記回転壁の上部に上方向に突出して設けられた手掛け部材とを備え、
前記固定棒は、上方向に移動することで前記巾木台からの係止が解除されるとともに、前記回転壁は、前記回転軸を中心に回転して前記連結部材で傾斜して支持されて、前記天井の上部との間で空間が生じるようになっていることを特徴とするエレベータのかご装置。
【請求項2】
前記手掛け部材は、前記回転壁に対して着脱可能であることを特徴とする請求項1に記載のエレベータのかご装置。
【請求項3】
前記天井は、周縁部に、前記固定棒の先端部が通る固定棒用切り欠き、前記手掛け部材
が通る前記手掛け用切り欠きがそれぞれ形成されているとともに、前記回転壁と締結する締結部品が貫通する穴が形成されていることを特徴とする請求項1または2に記載のエレベータのかご装置。
【請求項4】
前記手掛け部材は、前記固定棒と一体化された手掛け兼用固定棒を備えていることを特徴とする請求項1または2に記載のエレベータのかご装置。
【請求項5】
前記天井は、周縁部に、前記手掛け兼用固定棒の先端部が通る切り欠きが形成されているとともに、前記回転壁と締結する締結部品が貫通する穴が形成されていることを特徴とする請求項4に記載のエレベータのかご装置。
【請求項6】
前記連結部材は、チェーンであることを特徴とする請求項1〜5の何れか1項に記載のエレベータのかご装置。
【請求項7】
前記連結部材は、複数のリンク部がピンにより連結されたリンクであることを特徴とする請求項1〜5の何れか1項に記載のエレベータのかご装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2012−131581(P2012−131581A)
【公開日】平成24年7月12日(2012.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−282839(P2010−282839)
【出願日】平成22年12月20日(2010.12.20)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【出願人】(000236056)三菱電機ビルテクノサービス株式会社 (1,792)
【Fターム(参考)】